説明

金属加工油剤

【課題】親水性表面を有する金属材料に対しても、表面の親水性を阻害することなく十分な潤滑性を保つことができ、金属材料の加工性能に優れる金属加工油剤を提供する。
【解決手段】下記の(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分を配合してなることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
(A)炭素数8以上18以下のカルボン酸
(B)トリアルカノールアミン
(C)質量平均分子量が200以上である水溶性ポリマー
(D)水

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料を成形加工する際に使用される金属加工油剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム板や鉄板などの金属板を成形加工する際には、揮発性のオイル系金属加工油剤が潤滑剤として使用されてきた。また、各種熱交換機等のフィン材として使用されるアルミニウム板には、親水性を向上させるために、水分散性シリカ化合物等を表面に塗布したものが広く使用されている。さらに、この表面層を保護するために、親水性であるポリエチレングリコールを塗布したアルミニウム板も提案されている(特許文献1参照)。
一方、オイル系金属加工油剤は、乾燥性が十分ではなく熱風による高温乾燥が必要であるため、火災防止への対応も必要である。また、VOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)による作業者や環境への負荷も問題となる。そこで、冷却性、浸潤性に優れ、火災の危険がなく、環境への負荷も低い水溶性金属加工油剤が多用されるようになってきた。そして、前記したような親水性表面を有するアルミニウム板に対しても水溶性金属加工油剤が用いられる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−014888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、オイル系金属加工油剤であれば、前記した親水性表面を侵すことはないが、水溶性金属加工油剤は水で希釈されて使用されるため、金属板表面の親水性物質を溶解してしまい、成形加工時の金属表面の滑り性を悪化させてしまうおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、親水性表面を有する金属材料に対しても、表面の親水性を阻害することなく十分な潤滑性を保つことができ、金属材料の加工性能に優れる金属加工油剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決すべく、本発明は、下記のような金属加工油剤を提供するものである。
(1)下記の(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分を配合してなることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
(A)炭素数8以上18以下のカルボン酸
(B)トリアルカノールアミン
(C)質量平均分子量が200以上である水溶性ポリマー
(D)水
(2)上述の(1)に記載の水溶性金属加工油剤において、前記各成分の配合量が該水溶性金属加工油剤全量基準で下記の通りであることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
(A)成分:20質量%以上、40質量%以下
(B)成分:20質量%以上、40質量%以下
(C)成分:1質量%以上、15質量%以下
(D)成分:10質量%以上、80質量%以下
(3)上述の(1)または(2)に記載の水溶性金属加工油剤において、前記(C)成分が非イオン系界面活性剤であることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
(4)上述の(3)に記載の水溶性金属加工油剤において、前記非イオン系界面活性剤がポリアルキレングリコール構造を有することを特徴とする水溶性金属加工油剤。
(5)上述の(1)から(4)までのいずれか1つに記載の水溶性金属加工油剤において、さらに、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステルおよび金属不活性化剤のうち少なくともいずれか1種を配合してなることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
(6)上述の(1)から(5)までのいずれか1つに記載の水溶性金属加工油剤に対し、容量比で2〜200倍の水で希釈したことを特徴とする金属加工油剤。
(7)上述の(6)に記載の金属加工油剤がアルミニウム加工用であることを特徴とする金属加工油剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水溶性金属加工油剤は、水で希釈して用いることにより、各種の金属材料に対して優れた潤滑性および加工性能を発揮する。特にアルミニウムフィンの塑性加工用として優れている。また、アルミニウムフィンの表面に親水性樹脂が被覆されていても十分な潤滑性を維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の水溶性金属加工油剤(以下、単に「油剤」ともいう)は、水に希釈して各種の金属加工に用いるための原液であり、以下の(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分を配合してなるものである。
(A)炭素数8以上18以下のカルボン酸
(B)トリアルカノールアミン
(C)質量平均分子量が200以上である水溶性ポリマー
(D)水
【0009】
(A)成分は、炭素数8以上18以下、好ましくは炭素数10以上16以下のカルボン酸である。炭素数が7以下であると、摩擦低減効果が低下してしまい好ましくない。一方、炭素数を19以上としても、摩擦低減効果の向上は期待できず経済上も好ましくない。
カルボン酸としては、モノカルボン酸でもポリカルボン酸(二塩基酸等)でもよい。また、カルボン酸としては芳香族カルボン酸と脂肪酸があるが、水溶性および潤滑性の観点より脂肪酸(脂肪族カルボン酸)が好適である。カルボン酸としては、飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でもよい。
具体的には、飽和脂肪酸として、カプリル酸(オクタン酸)、ペラルゴン酸(ノナン酸)、カプリン酸(デカン酸)、ラウリン酸(ドデカン酸)、ミリスチン酸 (テトラデカン酸)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、マルガリン酸(ヘプタデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)などが挙げられる。また、これらの脂肪酸は、直鎖構造に限らずイソオクタン酸やネオデカン酸のようにすべての分岐型異性体を含む。不飽和脂肪酸としては、オクテン酸、デセン酸、ドコセン酸、オレイン酸などが挙げられる。直鎖構造に限らずすべての分岐型異性体を含むことは飽和脂肪酸と同様である。
【0010】
油剤を水で希釈して使用する際の消泡性および硬水安定性の観点からは、炭素原子数8〜12のラウリン酸、カプロン酸、ノナン酸、イソノナン酸、デカン酸、ネオデカン酸(オクタン酸、ノナン酸およびデカン酸の混合物)が、ジカルボン酸としては炭素原子数9〜12のノナン二酸、ウンデカン二酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。
特に上記したイソノナン酸は、油剤(原液)を水で希釈した時、固形物が液面にできるのを低減する効果(硬水安定性)に優れている。
また、脂肪酸の主鎖を構成するアルキル基としては耐腐敗性の点で分岐構造を有するものが好ましい。特に上記したイソノナン酸は、油剤(原液)を水で希釈した時、固形物が液面にできるのを低減する効果(硬水安定性)にも優れている。
脂肪酸としては二塩基酸を用いた方が塩として用いた場合に防錆性に優れるが、原液の安定性(不溶化しにくいこと)の観点からは、二塩基酸と一塩基酸とを混合して使用することも好ましい。
【0011】
(A)成分の配合量は、水溶性金属加工油剤全量基準で、20質量%以上、40質量%以下であることが好ましく、25質量%以上、35質量%以下であることがより好ましい。(A)成分の配合量が20質量%未満であると、後述する(B)成分との相乗効果(塩の形成)に乏しく、油剤を水で希釈した際に潤滑性が十分に発揮できないおそれがある。一方、(A)成分の配合量が40質量%を超えると、後述する(B)成分に対して配合量が多すぎ、やはり金属加工油剤としての潤滑性を十分に発揮できない。
【0012】
(B)成分は、トリアルカノールアミンであり、潤滑性の向上と臭気の低減に寄与する。ここで、3つのアルカノール基は同じでも異なっていてもよいが、各々の炭素数は1以上10以下であることが好ましい。炭素数が10を超えるアルカノール基があると、水溶性が低下してしまい好ましくない。また、3つのアルカノール基の総炭素数は3以上12以下であることが好ましい。3つのアルカノール基の総炭素数が3未満であると臭気の発生の恐れがあり好ましくない。一方、3つのアルカノール基の総炭素数が13以上であると、水溶性が低下してしまい好ましくない。
このようなアルカノールアミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリ−n−プロパノールアミン、トリ−i−プロパノールアミン、およびトリ−n−ブタノールアミンなどが挙げられるが、水溶性の点でトリエタノールアミンが好ましい。
【0013】
(B)成分の配合量は、水溶性金属加工油剤全量基準で、20質量%以上、40質量%以下であることが好ましく、25質量%以上、35質量%以下であることがより好ましい。(B)成分の配合量が20質量%未満であると、(A)成分との相乗効果(塩の形成)に乏しく、油剤を水で希釈した際に潤滑性が十分に発揮できないおそれがある。一方、(B)成分の配合量が40質量%を超えると、(A)成分に対して配合量が多すぎ、やはり金属加工油剤としての潤滑性を十分に発揮できない。
【0014】
(C)成分は、水溶性ポリマーであり、油剤が水で希釈されて金属加工油剤として金属加工に使用される際に、金属表面に潤滑性を付与する。さらに、親水性物質がコーティングされた金属板に対して本発明の金属加工油剤が適用された際には、親水性物質の溶解性を制御する働きをする。
(C)成分として使用可能な水溶性ポリマーは質量平均分子量が200以上であれば特に制限されない。従って、本発明における水溶性ポリマーには、一般に高分子として認識されていない分子量のものも含まれる。本発明における水溶性ポリマーの好ましい質量平均分子量は、200以上70,000以下であり、250以上70,000以下であることがより好ましい。質量平均分子量が200未満であると、前記した効果を十分に奏することができない。なお、このような質量平均分子量は、例えばゲルクロマトグラフィーによって測定することができる。
【0015】
前記した水溶性ポリマーとしては、例えば、合成系高分子として、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルアミン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、およびポリアクリルアミドなどが挙げられる。また、天然系の水溶性ポリマーとしては、寒天、アルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩)、カラギナン、キサンタンガム、ネイティブ型ジェランガム、脱アシル型ジェランガム、マクロホモプシスガム、カードラン、プルラン、ガラクトマンナン(グァーガム、ローカストビーンガム、タラガム、カシアガム等)、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、グルコマンナン、トラガントガム、カラヤガム、アラビアガム、ガティガム、ペクチン、水溶性ヘミセルロース、大豆多糖類、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等のセルロース誘導体、加工でん粉、未加工でん粉(生でん粉)、デキストリン、およびゼラチンなどが挙げられる。
【0016】
前記した水溶性ポリマーの中では、容易に分子量や水への溶解性を制御できる点でポリアルキレングリコールが好ましい。ポリアルキレングリコールとしては、種々の構造のものが使用可能である。例えば、下記式(1)で示される化合物が挙げられる。
−[(ORm1−ORn1 (1)
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜10のヒドロカルビル基、炭素数2〜10の含酸素ヒドロカルビル基、炭素数2〜10のアシル基および結合部2〜6個を有する炭素数1〜10のヒドロカルビル基のいずれかである。Rは炭素数2〜4のアルキレン基、Rは水素原子、炭素数1〜10のヒドロカルビル基、炭素数2〜10の含酸素ヒドロカルビル基、および炭素数2〜10のアシル基のいずれかである。n1は1〜6の整数、m1はm1×n1の平均値が6〜80となる数を示す。)
【0017】
上記式(1)において、R、Rにおけるヒドロカルビル基は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。該ヒドロカルビル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのアルキル基を挙げることができる。このヒドロカルビル基の炭素数が10を超えると冷媒との相溶性が低下し、相分離を生じる場合がある。好ましいヒドロカルビル基の炭素数は1〜6である。含酸素ヒドロカルビル基としては、例えば、テトラヒドロフルフリル基が挙げられる。
また、R、Rにおける該アシル基のアルキル基部分は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。該アシル基のアルキル基部分の具体例としては、上記アルキル基の具体例として挙げた炭素数1〜9の種々の基を同様に挙げることができる。
およびRが、いずれもヒドロカルビル基、含酸素ヒドロカルビル基、またはアシル基である場合には、RとRは同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
さらにn1が2以上の場合には、1分子中の複数のRは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0018】
が結合部位2〜6個を有する炭素数1〜10のヒドロカルビル基である場合、このヒドロカルビル基は鎖状のものであってもよいし、環状のものであってもよい。結合部位2個を有するヒドロカルビル基としては、例えばエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基などのアルキレン基が挙げられる。また、結合部位3〜6個を有するヒドロカルビル基としては、例えばトリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール;1,2,3−トリヒドロキシシクロヘキサン;1,3,5−トリヒドロキシシクロヘキサンなどの多価アルコールから水酸基を除いた残基を挙げることができる。
【0019】
前記式(1)中のRは炭素数2〜4のアルキレン基であり、繰り返し単位のオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。1分子中のオキシアルキレン基は同一であってもよいし、2種以上のオキシアルキレン基が含まれていてもよいが、1分子中に少なくともオキシプロピレン単位を含むものが好ましく、特にオキシアルキレン単位中に50モル%以上のオキシプロピレン単位を含むものが好適である。
前記式(1)中のn1は1〜6の整数で、Rの結合部位の数に応じて定められる。例えばRがアルキル基やアシル基の場合、n1は1であり、Rが結合部位2、3、4、5および6個を有する脂肪族炭化水素基である場合、n1はそれぞれ2、3、4、5および6となる。また、m1はm1×n1の平均値が6〜80となる数である。
【0020】
前記式(1)で示されるポリアルキレングリコールは、末端に水酸基を有するポリアルキレングリコールを包含するものである。ポリアルキレングリコールの具体例としては、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールのペンタエリスリトールエーテル、およびポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン共重合体などが挙げられる。なお、ポリオキシプロピレン(PO)単位とポリオキシエチレン(EO)単位とからなる共重合体の場合、ランダム重合体あるいはブロック重合体のいずれでもよい。
上述したポリアルキレングリコールとしては、非イオン型(ノニオン型)界面活性剤として知られているもののうち、質量平均分子量が200以上のものを好適に使用することができる。
【0021】
本発明において、(C)成分である水溶性ポリマーの配合量は、油剤全量基準で1〜15質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜10質量%である。配合量が1質量%未満であると、摩擦低減効果が期待できなくなり好ましくない。一方、配合量が15質量%を超えると配合量の割には効果が期待できず経済上も好ましくない。
【0022】
(D)成分は、本油剤(原液)調製用の水であり、水道水でもよいが、蒸留水あるいはイオン交換水を用いることが好ましい。原液調製用の水の割合は10〜80質量%が好ましい。水の割合が10質量%未満であると、(A)〜(C)成分の溶解が困難となり、原液の調製が煩雑となる。また、原液調製用の水の割合が80質量%を超えると、原液としての保管量や輸送量が過大となりハンドリング性が低下する。それ故、原液における、水の配合量は、20〜60質量%であることが好ましい。
なお、本発明の水溶性金属加工油剤(原液)は、水で2〜200倍(容量比)、好ましくは5〜100倍に希釈されて使用される。
【0023】
本発明の水溶性金属加工油剤には、潤滑性向上の観点より、さらに酸性リン酸エステルや亜リン酸エステルを配合してもよい。
酸性リン酸エステルとしては、例えば、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート,テトラコシルアシッドホスフェート,イソデシルアシッドホスフェート,ラウリルアシッドホスフェート,トリデシルアシッドホスフェート,ステアリルアシッドホスフェート,イソステアリルアシッドホスフェートなどを挙げることができる。
【0024】
亜リン酸エステルとしては、例えばトリエチルホスファイト,トリブチルホスファイト,トリフェニルホスファイト,トリクレジルホスファイト,トリ(ノニルフェニル)ホスファイト,トリ(2−エチルヘキシル)ホスファイト,トリデシルホスファイト,トリラウリルホスファイト,トリイソオクチルホスファイト,ジフェニルイソデシルホスファイト,トリステアリルホスファイト,トリオレイルホスファイトなどを挙げることができる。
これらの酸性リン酸エステルや亜リン酸エステルは、各々単独でも両者を混ぜて配合してもよいが、本油剤への配合量は、合計量で1〜15質量%程度が好ましい。
【0025】
また、本発明の水溶性金属加工油剤には、本発明の目的を阻害しない範囲でさらに金属不活性化剤(耐腐食剤)、酸化防止剤、油性剤および消泡剤を配合することができる。
金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、チアジアゾール、およびチアジアゾール等が挙げられる。これらの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。油剤への配合量は油剤全量基準で0.01〜1質量%程度が好ましい。
【0026】
酸化防止剤としては、従来公知のフェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤を用いることができる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール;2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシメチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチルフェノール;2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール;2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール;2,6−ジ−tert−アミル−4−メチルフェノール;n−オクタデシル3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオネートなどの単環フェノール類、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール);2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール);4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)などの多環フェノール類などが挙げられる。
【0027】
アミン系酸化防止剤としては、例えばジフェニルアミン系のもの、具体的にはジフェニルアミンやモノオクチルジフェニルアミン;モノノニルジフェニルアミン;4,4’−ジブチルジフェニルアミン;4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン;4,4’−ジオクチルジフェニルアミン;4,4’−ジノニルジフェニルアミン;テトラブチルジフェニルアミン;テトラヘキシルジフェニルアミン;テトラオクチルジフェニルアミン:テトラノニルジフェニルアミンなどの炭素数3〜20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミンなど、及びナフチルアミン系のもの、具体的にはα−ナフチルアミン;フェニル−α−ナフチルアミン、さらにはブチルフェニル−α−ナフチルアミン;ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン;オクチルフェニル−α−ナフチルアミン;ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどの炭素数3〜20のアルキル置換フェニル−α−ナフチルアミンなどが挙げられる。これらの中で、ナフチルアミン系よりジフェニルアミン系の方が、効果の点から好ましく、特に炭素数3〜20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミン、とりわけ4,4’−ジ(C3〜C20アルキル)ジフェニルアミンが好適である。
本発明においては、酸化防止剤として、前記フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤の中から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。また、その配合量は、酸化防止効果および経済性のバランスなどの面から、組成物全量基準で、0.01〜5質量%程度である。
【0028】
油性剤としては、脂肪族アルコール、脂肪酸や脂肪酸金属塩などの脂肪酸化合物、ポリオールエステル、ソルビタンエステル、グリセライドなどのエステル化合物、脂肪族アミンなどのアミン化合物などを挙げることができる。消泡剤としては、メチルシリコーン油、フルオロシリコーン油、ポリアクリレートなどを挙げることができる。
【0029】
本発明の水溶性金属加工油剤は、前記したようにその使用目的に応じて適当な濃度になるよう適宜水に希釈して、打抜き加工、切削加工、研削加工をはじめ、研磨、絞り、抽伸、圧延等の各種の金属加工分野に好適に利用することができる。そして、本発明の水溶性金属加工油剤は、希釈濃度によらず、潤滑性に優れるため、アルミフィン材のような柔らかいアルミニウム板はもちろん、炭素鋼のような硬い鉄板(S45C薄板等)に対しても好適である。さらに、アルミフィン材等の表面に親水性物質がコーティングされていても潤滑性を損なうことがない。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
〔実施例1〜2、比較例1〜3、参考例〕
表1に示す配合処方により水溶性金属加工油剤(原液)を調製した。各成分の詳細は以下の通りである。
【0031】
【表1】

1)ポリアルキレングリコールA
(EO)−(PO)−(EO)で示されるブロック型共重合体を用いた。ここで、(EO)はエチレンオキサイドの重合体からなり、(PO)は、プロピレンオキサイドの重合体からなる。nは、約5であり、mは約35である。なお、両末端基とも水酸基である。
2)ポリアルキレングリコールB (株式会社日本乳化剤社製 PNT−40)
ポリエチレングリコールペンタエリスリトールエーテルを用いた。
【0032】
前記した配合処方の原液をもとに、以下の各特性について評価を行った。評価結果を表1に示す。
(1)潤滑性(摩擦係数)
参考例を除き、原液をイオン交換水で50倍(容量比)に希釈した後、試験片に塗布して、下記に示す往復動摩擦試験により動摩擦係数(μ)を求めた。なお、参考例として、イオン交換水だけを用いた試験も行った。
【0033】
<往復動摩擦試験>
試験機 :往復動摩擦試験機(株式会社オリエンテック社製)
試験片 :熱交換器用プレコートアルミニウムフィン材
(表面に親水性膜としてポリエチレングリコールが塗布)
試験条件:
液温:70℃
荷重:3kgf(29N)
摺動速度:20mm/s
振幅:50mm
この条件で、摺動1回目の最も高い摩擦係数を読み取った。なお、摩擦係数は、実施例、比較例および参考例とも各々3枚の試験片について測定したときの平均の値である。
【0034】
(2)原液安定性
ビーカー内に原液の各成分を入れ、スターラーで攪拌しながら混合させ均一な溶液とした。溶液を1晩静置した後、ビーカー中の溶液の様子を目視で観察し、以下の基準で原液安定性を評価した。
○:溶解している。
△:分散している(曇りがある)
×:固まっている。
【0035】
(3)希釈液安定性
ビーカー内に原液の各成分を入れ、スターラーで攪拌しながら混合させ均一な溶液とした(原液調製)。100mLメスシリンダーに98mLの水を入れ、次に原液2mLを加えて希釈した。メスシリンダーを3回上下に振った後、溶液を1晩静置した。メスシリンダー中の溶液の様子を目視で観察し、以下の基準で希釈液安定性を評価した。
○:溶解している。
△:分散している(曇りがある)
【0036】
〔評価結果〕
表1の結果より、本発明の金属加工油剤は、所定の水溶性金属加工油剤を水で希釈して使用しているので、アルミニウムフィン材に適用した場合、フィン材表面が親水性膜を有していても優れた潤滑性を発揮する。また、本発明の水溶性金属加工油剤は、原液安定性や、水で希釈後の希釈液安定性にも問題がない。
一方、本発明における必須の構成要素である(A)成分、(B)成分、(C)成分の少なくともいずれかを欠いている比較例1〜3の油剤は、水で希釈して使用した場合に、いずれも潤滑性を発揮できていない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の金属加工油剤は、アルミニウムや鉄などの金属板の成形加工用として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分を配合してなる
ことを特徴とする水溶性金属加工油剤。
(A)炭素数8以上18以下のカルボン酸
(B)トリアルカノールアミン
(C)質量平均分子量が200以上である水溶性ポリマー
(D)水
【請求項2】
請求項1に記載の水溶性金属加工油剤において、
前記各成分の配合量が該水溶性金属加工油剤全量基準で下記の通りである
ことを特徴とする水溶性金属加工油剤。
(A)成分:20質量%以上、40質量%以下
(B)成分:20質量%以上、40質量%以下
(C)成分:1質量%以上、15質量%以下
(D)成分:10質量%以上、80質量%以下
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の水溶性金属加工油剤において、
前記(C)成分が非イオン系界面活性剤である
ことを特徴とする水溶性金属加工油剤。
【請求項4】
請求項3に記載の水溶性金属加工油剤において、
前記非イオン系界面活性剤がポリアルキレングリコール構造を有する
ことを特徴とする水溶性金属加工油剤。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の水溶性金属加工油剤において、
さらに、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステルおよび金属不活性化剤のうち少なくともいずれか1種を配合してなる
ことを特徴とする水溶性金属加工油剤。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の水溶性金属加工油剤に対し、
容量比で2〜200倍の水で希釈した
ことを特徴とする金属加工油剤。
【請求項7】
請求項6に記載の金属加工油剤がアルミニウム加工用である
ことを特徴とする金属加工油剤。

【公開番号】特開2010−209246(P2010−209246A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58130(P2009−58130)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】