説明

金属含有ポリアミック酸の架橋体、金属含有ポリイミドの架橋体、その製造方法及びそれを利用したポリイミドフィルム

【課題】光特性及び熱特性が改善された、ポリイミドの架橋体、その前駆体であるポリアミック酸の架橋体、その製造方法及びそれを利用したポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】金属と、下記化学式1の酸無水物とジアミン化合物との縮合反応生成物であるポリアミック酸の架橋体とを含む金属含有ポリアミック酸の架橋体。


前記式中、Cy環は、架橋可能な官能基を有するC5−C20の炭素環または架橋可能な官能基を有するC4−C20のヘテロ環である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
低温で架橋された金属含有ポリアミック酸の架橋体、金属含有ポリイミドの架橋体、その製造方法及びそれを利用したポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
情報化の深化及び大衆化につれて、多様な情報を視覚化して人間に伝達するディスプレイとして、場所、時間に拘らずに超軽量、低電力の、薄くて紙のように軽くて柔軟なフレキシブルディスプレイへの必要性が段々増大しつつある。フレキシブルディスプレイを具現するためには、フレキシブル基板、低温工程用の有機及び無機素材、フレキシブルエレクトロニクス、封止及びパッケージング技術が複合的に要求される。そのうち、フレキシブル基板は、フレキシブルディスプレイの性能、信頼性及び値段を決定する最も重要な部品である。
【0003】
フレキシブル基板としてプラスチック基板が有用であるが、この基板は加工の容易性、低重量並びに連続工程に適するためである。
【0004】
しかし、プラスチック基板は本質的に熱安定性が低くて実質的に適用するためには物性が改善されねばならず、さらに、優れた耐熱性を持つポリイミドの高分子開発への必要性が益々高まっている。
【0005】
ポリイミドは、一般的に高分子内の窒素原子が中心になる電子供与(doner)部分とカルボニル基が中心になる電子受容(acceptor)部分との高分子分子内、そして、高分子分子間の電荷移動錯体の形成で色を帯びるようになる。そして、これを基板材料として活用しようとする場合には、熱膨張係数(Coefficient of Thermal Expansion:CTE)を低め、透光性を高める必要がある。ポリイミド関連分野の先行技術文献としては、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第08/132960号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、光特性及び熱特性が改善されたポリイミドの架橋体、その前駆体であるポリアミック酸の架橋体、その製造方法及びそれを利用したポリイミドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によって、金属と、下記化学式1の酸無水物とジアミン化合物との縮合反応生成物であるポリアミック酸の架橋体とを含む金属含有ポリアミック酸の架橋体が提供される。
【0009】
【化1】

【0010】
前記式中、
【0011】
【化2】

【0012】
は、架橋可能な官能基を有するC5−C20の炭素環または架橋可能な官能基を有するC4−C20のヘテロ環である。ここで、C5−C20は、炭素数5〜20の略記号を表し、C4−C20は炭素数4〜20の略記号を表すものである(以下、同様とする)。
【0013】
本発明の他の側面によって、金属と、前記化学式1の酸無水物とジアミン化合物との縮合反応及びイミド化の生成物であるポリイミドの架橋体とを含む金属含有ポリイミドの架橋体が提供される。
【0014】
本発明のさらに他の側面によって、前記化学式1で表示される酸無水物とジアミン化合物との縮合反応を実施してポリアミック酸を形成する工程と、前記ポリアミック酸に対して有機金属触媒下で低温架橋反応を実施して、金属含有ポリアミック酸の架橋体を形成する工程と、前記金属含有ポリアミック酸の架橋体を200ないし350℃で熱処理してイミド化する工程とを含む、金属含有ポリイミドの架橋体を得る金属含有ポリイミドの架橋体の製造方法が提供される。
【0015】
本発明のさらに他の側面によって、前述した金属含有ポリイミドの架橋体を含むポリイミドフィルムが提供される。
【0016】
本発明のさらに他の側面によって、化学式1で表示される酸無水物、化学式2で表示されるジアミン化合物、及び化学式20で表示される有機金属触媒の反応生成物として、前記酸無水物とジアミン化合物からポリアミック酸が形成され、前記ポリアミック酸が前記有機金属触媒の存在下で架橋されて、金属含有ポリアミック酸の架橋体が形成され、前記金属含有ポリアミック酸の架橋体を熱処理及びイミド化して、金属含有ポリイミドの架橋体が形成されてなる反応生成物が提供される。
【0017】
【化3】

【0018】
前記式中、
【0019】
【化4】

【0020】
は、架橋可能な官能基を有するC5−C20の炭素環または架橋可能な官能基を有するC4−C20のヘテロ環である。
【0021】
【化5】

【0022】
前記式中、Aは、
【0023】
【化6】

【0024】
【化7】

【0025】
(前記式中、m、n、p、qは互いに独立的に0ないし18の整数であり、sは0ないし2の整数である。)、
【0026】
【化8】

【0027】
からなる群から選択される。
【0028】
【化9】

【0029】
前記式中、Mは遷移金属であり、Lはリガンドであり、nは1ないし5の整数であり、Rは水素原子または有機基である。
【発明の効果】
【0030】
金属含有ポリイミドの架橋体は、熱特性及び透過度などの光特性が改善され、寸法安定性に優れ、低い熱膨張係数を持って柔軟性に優れて加工しやすい。
【0031】
前述した金属含有ポリイミドの架橋体を利用すれば、熱安定性、電気的特性及び機械的特性が優秀なポリイミドフィルムを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】合成例1−1によるポリアミック酸の架橋体フィルムにおいて、温度別フィルムの吸収特性を示したグラフである。
【図2】合成例1−1の金属含有ポリイミドの架橋体、比較合成例2のポリイミドの架橋体及び、合成例1−1及び比較合成例2で架橋化される前のポリアミック酸のFT−IRスペクトルを示したグラフである。
【図3】合成例1−1ないし1−3の金属含有ポリイミドの架橋体の熱的挙動を示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimetry:DSC)で分析した結果を示したグラフである。
【図4】合成例1−1によって製造された金属含有ポリイミドの架橋体、及び比較合成例2によって製造されたポリイミドの架橋体において、UV−VIS透過度特性を示したグラフである。
【図5】合成例1−1によって製造される場合、ポリアミック酸が温度の上昇につれてポリイミドで反応したところを進行温度別に示したFT−IRグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の一実施形態による低温で架橋された金属含有ポリアミック酸の架橋体、金属含有ポリイミドの架橋体、その製造方法及びそれを利用したポリイミドフィルムについて詳細に説明する。
【0034】
本発明によれば、透光特性と熱的特性とがいずれも優秀なポリイミドを形成するために、二重結合を含有する酸無水物を使用し、これからポリアミック酸を形成する。
【0035】
前記ポリアミック酸が有する二重結合を(有機金属触媒下、)低温で架橋させて、これらを効率的に結合した後、(高温処理:80ないし250℃で)色相を帯びる触媒関連の不純物を除去してから、金属含有ポリアミック酸の架橋体を得て、これに対して比較的低温(200〜270℃)でイミド化(脱水・環化)反応を実施して、目的とする金属含有ポリイミドの架橋体を製造する。
【0036】
前記金属含有ポリアミック酸の架橋体及び金属含有ポリイミドの架橋体内に含まれる金属は、ルテニウム(Ru)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、オスミウム(Os)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)および金(Au)よりなる群から選択された一つ以上である。前記金属は、上記したポリアミック酸の低温架橋反応の際に用いられる有機金属触媒由来の金属であればよい。但し、これに制限されるものではなく、製造過程で適時適量の金属成分を添加して調整してもよい。
【0037】
前記金属含有ポリアミック酸の架橋体において、前記金属の含有量は、金属含有ポリアミック酸の架橋体の総重量を基準として0.0001ないし2.5wt%であり、好ましくは、0.001ないし2.0wt%、より好ましくは、0.005ないし1.0wt%である。
【0038】
前記金属含有ポリイミドの架橋体において、前記金属の含有量は、金属含有ポリイミドの架橋体を基準として0.0001ないし2.5wt%であり、好ましくは、0.001ないし2.0wt%、より好ましくは、0.005ないし1.0wt%である。
【0039】
前記金属含有ポリアミック酸の架橋体及び前記金属含有ポリイミドの架橋体で、金属の含有量が前記範囲である場合、未反応架橋官能基の発生なしに、前記金属含有ポリアミック酸の架橋体及び前記金属含有ポリイミドの架橋体の物性が優れている(優秀である)。
【0040】
前記金属含有ポリアミック酸の架橋体及び金属含有ポリイミドの架橋体内に含まれる金属の種類及びその含有量は、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)分析方法を通じて確認できる。
【0041】
また前記金属含有ポリアミック酸の架橋体及び金属含有ポリイミドの架橋体で、架橋度はIR(infrared)を通じて確認でき、それ以外に核磁気共鳴(NMR)スペクトルなどを通じて構造を確認することができる。
【0042】
前記金属含有ポリアミック酸の架橋体は、下記化学式1の酸無水物とジアミン化合物との縮合反応生成物であって、これは、下記化学式1の酸無水物とジアミン化合物との重縮合反応を通じてポリアミック酸を得て、これを(有機金属触媒下、低温;20〜150℃で)架橋化して得た生成物を意味する。
【0043】
前記金属含有ポリイミドの架橋体は、下記化学式1の酸無水物とジアミン化合物との縮合反応及びイミド化の生成物であって、これは、下記化学式1の酸無水物とジアミン化合物との重縮合反応を通じてポリアミック酸を得て、これを(有機金属触媒下、低温;20〜150℃で)架橋化、及び(熱処理;200〜270℃で)イミド化して得た生成物を意味する。
【0044】
以下、前記金属含有ポリアミック酸の架橋体及びこれを利用した金属含有ポリイミドの架橋体の製造過程を説明する。
【0045】
まず、下記化学式1で表示される酸無水物と、ジアミン化合物とを反応させてポリアミック酸を形成する。
【0046】
前記酸無水物とジアミン化合物とは、溶媒存在下で反応できる。
【0047】
【化10】

【0048】
前記式中、
【0049】
【化11】

【0050】
は、架橋可能な官能基を有するC5−C20の炭素環、または架橋可能な官能基を有するC4−C20のヘテロ環である。
【0051】
前記炭素環及びヘテロ環は、単一環、多重環または縮合環の形態を持つことができる。
【0052】
前記架橋可能な官能基を有するC5−C20の炭素環は、架橋反応に関与(参与)できる官能基、例えば、二重結合、三重結合などを有するシクロアルケン、シクロアルキン、ビシクロアルケン、トリシクロアルケンおよびそれらの混合物(組合物)などをいう。
【0053】
そして、前記架橋可能な官能基を有するC4−C20のヘテロ環は、架橋反応に関与(参与)できる官能基、例えば、二重結合、三重結合を有するヘテロシクロアルケン、ヘテロシクロアルキン、ビヘテロシクロアルケンなどをいう。
【0054】
前記
【0055】
【化12】

【0056】
で架橋可能な官能基は、例えば、二重結合、三重結合などの不飽和結合を持つモイエティ(部分;moiety)をいう。例えば、化学式1に含まれる酸無水物は、ポリイミドの架橋サイトの、不飽和の炭素−炭素結合を含む。
【0057】
前記化学式1で前記
【0058】
【化13】

【0059】
の一例は、下記化学式aで表示されるビシクロ[2.2.2]エンのグループ(基)であり、
【0060】
【化14】

【0061】
前記式中、Rは水素原子、C1−C10のアルキル基、C1−C10のアルキルオキシ基、C6−C10のアリール基またはハロゲン原子でありうる。
【0062】
例えば、前記無水物環は、それぞれビシクロ[2.2.2]エングループ(基)と共に[3.4.0]縮合環系システム(系)を形成する。他の例としては、前記無水物環は単一結合に結合されうる。
【0063】
一具現例によれば、酸無水物グループ(環)がビシクロ[2.2.2]エングループ(基)と縮合して前記化学式1の酸無水物は、下記化学式3で表示される化合物(後述する)でありうる。
【0064】
化学式1で表示される酸無水物と反応させてポリアミック酸を形成するジアミン化合物の一具現例によれば、下記化学式2で表されるジアミン化合物が挙げられる。
【0065】
【化15】

【0066】
前記式中、Aは、
【0067】
【化16】

【0068】
【化17】

【0069】
(前記式中、m、n、p、qは互いに独立的に0ないし18の整数であり、sは0ないし2の整数である。)、
【0070】
【化18】

【0071】
からなる群から選択される。
【0072】
前記C1−C10のアルキル基の例には、メチル基、エチル基などがあり、前記C1−C10のアルキルオキシ基の例には、メチルオキシ基、エチルオキシ基などがあり、前記C6−C10のアリール基の例にはフェニル基などがある。前記ハロゲン原子には、臭素原子、フッ素原子、塩素原子などがある。
【0073】
前記化学式1の酸無水物以外に、架橋可能な官能基を有しない化学式21の付加的な二無水物がさらに含まれてコポリマーを形成できる。
【0074】
【化19】

【0075】
前記式中、
【0076】
【化20】

【0077】
は、置換または非置換のC4−C20の炭素環基、置換または非置換のC6−C20の単環式芳香族基、置換または非置換のC2−C20の縮合多環式芳香族基、置換または非置換の芳香族基によって互いに連結された(interconnected;相互接続ないし相互連結した)C2−C20の非縮合多環式芳香族基よりなる群から選択された3価または4価の有機基である。
【0078】
芳香族基によって互いに連結された(interconnected;相互接続ないし相互連結した)C2−C20の非縮合多環式芳香族基は、いくつかのサイクル(環)が芳香族基によって、またはリンカー(二つのもの(官能基など)を結合させるもの;架橋剤など)によって互いに連結された芳香族環システム(系)をいう。
【0079】
前記化学式21の酸無水物の例としては、BPDA(4,4−biphthalic dianhydride;下式に示す)、DSDA(3,3”、4,4”−diphenylsulfonetetracarboxylic dianhydride;下式に示)、BTDA(3,3”、4,4”−benzophenonetetracarboxylic dianhydride;下式に示す)、6FDA(4,4”−(hexafluoroisopropylidene)diphthalic anhydride)、ODPA(4,4”−oxydiphthalic anhydride;下式に示す)、PMDA(pyromellitic dianhydride;下式に示す)、DTDA(4−(2,5−dioxotetrahydrofuran−3−yl)−1,2,3,4−tetrahydronaphthalene−1,2−dicarboxylic anhydride;下式に示す)またはその調合物がある。
【0080】
【化21】

【0081】
【化22】

【0082】
【化23】

【0083】
【化24】

【0084】
【化25】

【0085】
前記化学式1の二無水物が、目的とする特性を持つポリイミドの架橋体を提供できるほどの含有量で使われるならば、化学式1の二無水物と化学式21の二無水物とは、1:99ないし99:1(モル比)と共に使われうる。
【0086】
前記化学式2で表示されるジアミン化合物、すなわち、脂肪族または芳香族ジアミンの含有量は、化学式1の酸無水物1モルを基準として0.5ないし1.5モル、好ましくは、0.6ないし1.4モルを、より好ましくは、0.75ないし1.25モルである。化学式2のジアミン化合物の含有量が前記範囲であるとき、最終的に得る金属含有ポリアミック酸の架橋体または金属含有ポリイミドの架橋体の物性に優れる。
【0087】
前記化学式1の酸無水物の例には、下記化学式3の化合物がある。
【0088】
【化26】

【0089】
前記化学式2のジアミン化合物の例には、下記化学式4のBAPS{Bis[4−(3−aminophenoxy)phenyl]sulfone}または下記化学式5のBAPP{2,2−Bis[4−(4−aminophenoxy)phenyl]propane}がある。
【0090】
【化27】

【0091】
【化28】

【0092】
前記化学式1の酸無水物とジアミン化合物とは、溶媒存在下で反応する。
【0093】
前記溶媒としては、ジメチルアセトアミド(N,N’−Dimethyl Aceteamide:DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの非陽子性極性溶媒を利用し、これを利用した溶液の濃度は、化学式1の酸無水物が前記溶媒100重量部を基準として5ないし50重量部になるように調節する。溶媒の含有量が前記範囲である場合、フィルム形成工程が容易に行われる。
【0094】
前記ポリアミック酸を形成するための反応温度は0ないし200℃である。反応温度が前記範囲である場合、逆反応による分子量低下なしにポリアミック酸形成反応の反応性に優れている(優秀である)。
【0095】
次いで、前記ポリアミック酸を有機金属触媒下で低温架橋反応を実施して、金属含有ポリアミック酸の架橋体を形成する。
【0096】
架橋剤として使用するのに適した前記有機金属触媒は、メタセシス触媒としても有用である。これらの触媒は、下記の化学式20で表示される。
【0097】
【化29】

【0098】
前記式中、Mは安定したカルビン錯体を形成できる遷移金属であり、Lはリガンドであり、nはヘテロ原子またはカルボン系リガンドの数を表す整数であって、1ないし5であり、Rは水素原子、C1−C20のアルキル基またはC6−C20の芳香族基のような有機基(グループ)である。
【0099】
前記化学式20で、Mは、ルテニウム(Ru)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、オスミウム(Os)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及び金(Au)である。
【0100】
リガンドLは、非制限的な例であって、
Cl及びBrなどのハロゲン原子;
メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基などのC1−C20のアルキル基;
置換または非置換のフェニル基、トリル基、メシチル基などのC6−C20の芳香族基;
アンモニア、モノ−、ジ−、トリアルキルアミンなどのアミン系、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどのポリアミン系物質を含むヘテロ原子含有リガンド;
ピリジン系、ピペリジン系、イミダ系、ピロリジン系、ピペリジン系、ピラジン系、N,N’−二置換のイミダゾリジンなどのイミダゾリジン、N,N’−ジメシチルイミダゾリジンなどのイミダゾリジニリデン系、オキサゾール系、チアゾール系;
アルコキシド、ハロアルコキシドなどの酸素含有リガンド、
メタンチオール、エタンチオール、硫化ジメチルなどの硫黄化合物;
トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、置換または非置換のアミノアルキルジシクロヘキシルホスフィンまたは第4級アンモニウム塩を含むヘテロシクロアルキルジシクロヘキシルホスフィンなどのリン含有リガンド、
サリチル酸、サリチルイミド、ビピリジル、エチレン(ビスジフェニルホスフィン)、ジホスフィンビナフチルを含むビナフチルなどのジホスフィン系、フェナントロリン系、ビス(ジベンジリデン)アセトンなどのビ−またはマルチデンテートリガンド;などを挙げることができる。
【0101】
前記有機金属触媒は、ルテニウムカルベン触媒であるルテニウム系錯体、タングステン系錯体、モリブデン系錯体、オスミウム系錯体、チタン系錯体、ニッケル系錯体、タンタル系錯体、ジルコニウム系錯体、白金系錯体、パラジウム系錯体、金系錯体よりなる群から選択された一つ以上を使用しうる。
【0102】
前記有機金属触媒の具体的な例として、下記化学式6ないし17で表示される物質、ベンジリデン[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]ジクロロ(トリシクロホスフィン)ルテニウムなどがある。
【0103】
【化30】

【0104】
前記式中、Rは水素原子またはC1−C10のアルキル基であり、Rは水素原子またはハロゲン原子であり、PCyはトリシクロヘキシルホスフィン基であり、Phはフェニル基を表す。
【0105】
【化31】

【0106】
前記式中、Lは1,3−ビス−(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン基である。
【0107】
【化32】

【0108】
前記式中、RないしRはそれぞれ水素原子またはハロゲン原子であり、Pi−Prはトリイソプロピルホスフィン基を表す。
【0109】
【化33】

【0110】
前記式中、Phはフェニル基を表す。
【0111】
【化34】

【0112】
前記式中、Meはメチル基を表す。
【0113】
【化35】

【0114】
前記式中、iPrはイソプロピル基、Phはフェニル基を表す。
【0115】
【化36】

【0116】
前記式中、Phはフェニル基を表す。
【0117】
【化37】

【0118】
前記式中、Phはフェニル基を、Meはメチル基を表す。
【0119】
【化38】

【0120】
前記式中、PCyはトリシクロヘキシルホスフィン基を表す。
【0121】
【化39】

【0122】
前記式中、Rはメシチレン基を表し、Phはフェニル基を表す。
【0123】
【化40】

【0124】
前記式中、Rはメシチレン基であり、PCyはトリシクロヘキシルホスフィン基であり、Phはフェニル基を表し、
【0125】
【化41】

【0126】
前記式中、PR’はトリアルキルホスフィン基であり、Rはメシチレン基を表し、Phはフェニル基を表す。
【0127】
前記有機金属触媒の含有量は、ポリアミック酸と有機金属触媒との総重量を基準として、0.001ないし5wt%、好ましくは、0.01ないし5wt%、より好ましくは、0.1〜4wt%である。有機金属触媒の含有量が前記範囲である場合、未反応架橋官能基が発生せず、金属含有ポリアミック酸の架橋体の物性に優れている(優秀である)。
【0128】
前記低温架橋反応の反応温度は20ないし150℃、好ましくは、25ないし125℃、より好ましくは、30ないし100℃で実施する。
【0129】
前記低温架橋反応で、前記ポリアミック酸が有する架橋結合可能な官能基、例えば、二重結合間の架橋結合が形成されてポリアミック酸の架橋体が形成される。
【0130】
次いで、前記結果物を高温(80ないし250℃、好ましくは、90〜225℃、より好ましくは、100ないし200℃)処理して有機金属触媒の含有量を低減させ、金属成分を除外した残りの成分を分離、除去する。この時、高温で減圧下(1.0×10−6ないし0.1atm)(0.1Paないし10.0kPa)で処理することもできる。これにより、金属を含有しているポリアミック酸の架橋体が得られる。
【0131】
次いで、前記結果物(架橋されたポリアミック酸)を200ないし270℃、好ましくは、210〜260℃で熱処理してイミド化を実施して、金属を含有しているポリイミドの架橋体を形成する。
【0132】
前記熱処理温度は、より好ましくは、230ないし250℃であり、前記熱処理温度が前記範囲である時、イミド化反応の反応性低下なしに、透光性の優秀な(優れた)金属含有ポリイミドの架橋体を形成できる。
【0133】
前述した製造方法によれば、化学式1の酸無水物、化学式2のジアミン化合物、化学式20の有機金属触媒を用いることにより所望の反応生成物が形成されうる。反応生成物を形成する時、化学式1の酸無水物と化学式2のジアミン化合物とからポリアミック酸が先ず形成され、前記ポリアミック酸を化学式20の有機金属触媒の存在下で架橋して、金属含有ポリアミック酸の架橋体が形成される。前記金属含有ポリアミック酸の架橋体を熱処理及びイミド化することによって、金属含有ポリイミドの架橋体が形成される。
【0134】
本発明の一具現例(一実施形態)によるポリアミック酸の架橋体及びポリイミドの架橋体の合成過程を表せば、下記の反応式1の通りである。
【0135】
【化42】

【0136】
前記反応式1中、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基、ハロゲン原子、メチルオキシ基またはエチルオキシ基であり、
Aは、
【0137】
【化43】

【0138】
の中から選択されたものであり、
nは、10ないし500の数である。
【0139】
前記反応式1で化学式3の架橋可能な酸無水物は、化学式2のジアミン化合物と縮合されてポリアミック酸Aを形成する。次いで、前記ポリアミック酸Aはポリアミック酸の架橋体を形成する。
【0140】
前記架橋された生成物は、例えば、反応式1に示すように、架橋されたサブ構造体B1及びB2を含むことができる。サブ構造体B1は、化学式3のオレフィン基(グループ)の二量体2+2環化付加生成物であり、サブ構造体B2は、サブ構造体のオレフィン付加生成物である。または有機金属触媒の種類によって、ポリアミック酸の架橋体は、二量体メタセシス生成物である開環メタセシス架橋構造体B3または高分子開環メタセシスサブ構造体B4を含む。前記サブ構造体B1−B4は、化学式3のオレフィン基(グループ)と有機金属触媒との反応結果で得ることができる。
【0141】
次いで、ポリアミック酸の架橋体は、ポリアミック酸のサブ構造体B1−B4によって、架橋されたイミドサブ構造体C1−C4をそれぞれ形成する。
【0142】
前記ハロゲン原子の例として、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などがある。
【0143】
前記金属含有ポリアミック酸の架橋体は、下記化学式18で表示されるモイエティ(部分;moiety)を含有できる。
【0144】
【化44】

【0145】
前記式中、Rは、それぞれ水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基、ハロゲン原子、メチルオキシ基、またはエチルオキシ基であり、
Aは、
【0146】
【化45】

【0147】
の中から選択される。
【0148】
前記金属含有ポリイミドの架橋体は、下記化学式19で表示されるモイエティ(部分;moiety)を含有できる。
【0149】
【化46】

【0150】
前記式中、Rは、それぞれ水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基、ハロゲン原子、メチルオキシ基またはエチルオキシ基であり、
Aは、
【0151】
【化47】

【0152】
の中から選択される。
【0153】
前記金属含有ポリアミック酸の架橋体の重量平均分子量は、10,000ないし1,000,000g/mol、好ましくは、20,000ないし500,000g/molであり、重合度は、5ないし500の整数、好ましくは10ないし500の整数、より好ましくは、5(10)ないし400の整数である。
【0154】
また、前記金属含有ポリイミドの架橋体の重量平均分子量は、10,000ないし1,000,000であり、重合度は10ないし500の整数である。
【0155】
前記ポリイミドの架橋体で架橋度及びイミド化度は、フーリエ交換型赤外線分光計(Fourier Transform Infrared Spectroscopy:FT−IR)を利用して分析できる。
【0156】
前記ポリイミドの架橋体の架橋度及びイミド化度の測定方法を説明すれば、次の通りである。
【0157】
周波数694cm−1でC=Cアルケニルピーク(C=C alkenyl out of plan bend)観測如何によって架橋度を測定できるが、架橋が進めば、前記周波数でのC=Cアルケニルピークが観察されないので、このピークの存否によって架橋度を定めることができ、該当ピークの積分面積を比較することによって架橋度を相対定量で比較できる。
【0158】
また周波数1378cm−1でのC−N−Cピーク(C−N−C stretching of imide ring)、及び周波数1587cm−1でのC−N/N−Hピーク(C−N/N−H coupled deformation of amide)を観察すれば、イミド化度を把握できる。
【0159】
前記金属含有ポリイミドの架橋体は、架橋度が80%以上、好ましくは、80ないし99%でありうる。そして、前記金属含有ポリイミドの架橋体は、イミド化度が99%以上、好ましくは、99ないし100%である。
【0160】
前記金属含有ポリイミドの架橋体を利用して、これから形成されたポリイミドフィルムを製造できる。
【0161】
前記ポリイミドフィルムの厚さは10ないし200μmである。
【0162】
前記ポリイミドフィルムは、厚さ10ないし200μmを基準としてUV分光計で透過度の測定時、380ないし800nmでの平均透過度は80%以上である。
【0163】
前記ポリイミドフィルムは、厚さ10ないし200μmを基準として黄色指数(Yellow Index:YI)が10以下、好ましくは、5以下である。
【0164】
また前記ポリイミドフィルムは、厚さ10ないし200μmを基準として50ないし200℃での平均線膨脹係数が50ppm/℃以下である。
【0165】
また透過度の測定時、100%遮断波長が400nm以下、好ましくは、375nm以下、より好ましくは、350nm以下である。ここで、用語“100%遮断波長”は、光線透過率が0%であることを意味する。
【0166】
前記ポリイミドフィルムは、他の架橋方法によって製造されたポリイミドフィルムと比較して、熱安全性(熱安定性)、電気的特性及び引張強度などの機械的物性に優れ、かつ透明性を持っていて、光学フィルム、液晶表示装置及び有機発光素子の補償フィルム、液晶表示装置の配向膜、導波路材料、太陽電池用の保護被膜、RFID(Radio−Frequency IDentification)基板として使われ、その他のディバイスの保護膜としても使われうる。
【0167】
本明細書中の化学式で使われるアルキル基は、非置換の形態であり、または、アルキル基のうち、一つ以上の水素原子がハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されたC1−C20のアルキル基(例:CF、CHCF、CHF、CClなど)、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アミジノ基、ヒドラジン基、ヒドラゾン基、カルボキシル基やその塩、スルホン酸基やその塩、燐酸基やその塩、またはC1−C20のアルキル基、C2−C20のアルケニル基、C2−C20のアルキニル基、C1−C20のヘテロアルキル基、C6−C20のアリール基、C7−C20のアリールアルキル基、C2−C20のヘテロアリール基、またはC7−C20のヘテロアリールアルキル基で置換できる。
【0168】
本明細書中の化学式で使われるアリール基は、単独または組み合わせて使われて、一つ以上の環を含む芳香族系(aromatic system)を意味し、前記環はペンダント方法(pendent method)で共に縮合(付着)されるか、または結合(連結ないし融合)されうる。前記アリール基は非置換の形態であり、または、前記アリール基のうち一つ以上の水素原子は、前述したアルキル基の場合と同じ置換基で置換できる。
【0169】
本明細書中の化学式で使われるアルキルオキシ基は非置換の形態であり、または、前記アルキルオキシ基のうち一つ以上の水素原子は、アルキル基の場合と同じ置換基で置換できる。
【0170】
本明細書中の化学式で使われる炭素環基は非置換の形態であり、または、前記炭素環のうち一つ以上の水素原子は、アルキル基の場合と同じ置換基で置換できる。
【0171】
本明細書中の化学式で使われるヘテロ環基は、窒素、硫黄、リン、酸素などのヘテロ原子を含有している環基を称し、非置換の形態であり、またはこれらのヘテロ環基のうち一つ以上の水素原子は、前述したアルキル基の場合と同様に置換できる。
【実施例】
【0172】
以下、下記実施例を挙げて説明するが、下記実施例だけで限定されるものではない。
【0173】
<合成例1−1:金属含有ポリイミドの架橋体の製造>
化学式3の化合物0.6437g(2.593mmol)をDMAc 8.5mlに溶かし、これを、化学式4のBAPS 1.0656g(2.463mmol)をDMAc 8.5mlに溶かした溶液に添加及び混合して、これを常温で18時間反応させてポリアミック酸を得た。
【0174】
前記ポリアミック酸に有機金属触媒であるベンジリデン[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]ジクロロ(トリシクロホスフィン)ルテニウム0.001709gを添加し、これを利用して架橋反応を50℃で実施して金属含有ポリアミック酸の架橋体を形成した。前記金属触媒(有機金属触媒由来の金属)の含有量は、ポリアミック酸と触媒との総重量を基準として0.1wt%であった(前記金属触媒の含有量は、金属含有ポリアミック酸の架橋体を基準としても同様な値であった。以下、同様である)。
【0175】
前記架橋反応後に直ちにガラス基板にキャスティングして180℃まで温度を徐々に高めた後、0.001atm(101Pa)に1時間減圧した後、再び常圧に圧力を高めて、再び熱処理して250℃まで昇温させた。前述したように、180℃、0.001atm(101Pa)で1時間熱処理すれば、前記反応結果物の色相が除去された。
【0176】
前記結果物を250℃まで加熱し、この温度で30分間反応させ、これを真空条件下で溶媒を乾燥して、金属含有ポリイミドの架橋体を製造した。
【0177】
図1は、前記合成例1−1によって得たポリアミック酸の架橋体フィルムにおいて、熱処理温度別フィルムの吸収特性を示したものである。
【0178】
図1を参照して、熱処理温度が高くなるほど、前記ポリアミック酸の架橋体フィルムの吸光特性が徐々に消滅して色相が除去されることが分かる。
【0179】
<合成例1−2:金属含有ポリイミドの架橋体の製造>
金属含有ポリアミック酸の架橋体の製造時、有機金属触媒であるベンジリデン[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]ジクロロ(トリシクロホスフィン)ルテニウムの含量が0.00855gが使われて、金属触媒(有機金属触媒由来の金属)の含有量が、ポリアミック酸と触媒との総重量を基準として0.05wt%に変わったことを除いては、合成例1−1と同じ方法によって実施して、金属含有ポリイミドの架橋体を製造した。
【0180】
<合成例1−3:金属含有ポリイミドの架橋体の製造>
金属含有ポリアミック酸の架橋体の製造時、有機金属触媒であるベンジリデン[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]ジクロロ(トリシクロホスフィン)ルテニウムの含量が0.00171gが使われて、金属触媒(有機金属触媒由来の金属)の含有量が、ポリアミック酸と触媒との総重量を基準として0.01wt%に変わったことを除いては、合成例1−1と同じ方法によって実施して、金属含有ポリイミドの架橋体を製造した。
【0181】
<比較合成例1:金属触媒なしに合成例1と同じ熱条件によって実施してポリイミドを製造する場合>
化学式3の化合物0.6437g(2.593mmol)をDMAc 8.5mlに溶かし、これを、化学式4のBAPS 1.0656g(2.463mmol)をDMAc 8.5mlに溶かした溶液に添加及び混合し、これを常温で18時間反応してポリアミック酸を得た。
【0182】
前記結果物をガラス基板にキャスティングした後、窒素条件下で250℃まで加熱し、この温度で30分間反応させて、これを真空条件下で溶媒を乾燥して、ポリイミドを製造した。
【0183】
<比較合成例2:金属触媒を添加しない高温熱条件によるポリイミドの架橋体の製造>
化学式3の化合物0.6437g(2.593mmol)をDMAc 8.5mlに溶かし、これを、化学式4のBAPS 1.0656g(2.463mmol)をDMAc 8.5mlに溶かした溶液に添加及び混合し、これを常温で18時間反応してポリアミック酸を得た。
【0184】
前記ポリアミック酸を250℃に加熱してから、この温度で30分間反応させた後、これを350℃に加熱して30分間反応を実施して、ポリイミドの架橋体を製造した。
【0185】
図2は、前記合成例1−1によって製造された金属含有ポリイミドの架橋体、前記比較合成例2によって製造されたポリイミドの架橋体、前記合成例1−1及び比較合成例2で架橋化以前のポリアミック酸のFT−IRスペクトルを示したものである。
【0186】
図2で、Aは、前記合成例1−1によって製造された金属含有ポリイミドの架橋体についてのものであり、Bは、比較合成例2によって製造されたポリイミドの架橋体についてのものであり、Cは、架橋化が進む前のポリアミック酸についてのものである。
【0187】
図2を参照すれば、350℃まで高める高温反応をさせなくても少量の触媒によって同じ架橋効果を得ることができるということが分かる。
【0188】
前記合成例1−1ないし1−3によって製造された金属含有ポリイミドの架橋体において、金属成分の含有如何を、誘導結合プラズマ(ICP)分析方法を通じて調べた。
【0189】
その結果、合成例1−1ないし1−3の金属含有ポリイミドの架橋体は、Ruを含んでいることが分かる。
【0190】
前記合成例1−1ないし1−3によって製造された金属含有ポリイミドの架橋体及び、前記比較合成例1のポリイミド及び比較合成例2のポリイミドの架橋体の黄色指数(YI)を測定して、下記表1に表した。
【0191】
【表1】

【0192】
前記表1から、金属触媒なしに高温熱架橋反応させた比較合成例2は、250℃でイミド化反応を終えた後、架橋反応のためにさらに350℃の高温が必要であるということが分かり、これは、激しい色相発現を誘導して黄色指数が高い。
【0193】
一方、触媒を使用して低温架橋反応後250℃でイミド化を進める合成例1−1、1−2、1−3は、優れた無色透明な特性を得ることができるということが分かる。
【0194】
前記合成例1−1、1−2、1−3によって製造された金属含有ポリイミドの架橋体の熱的挙動を、示差走査熱量計(DSC)を利用して調べ、その結果は図3に示した。
【0195】
前記合成例1−1、1−2、1−3の金属含有ポリイミドの架橋体及び、比較合成例1のポリイミド及び比較合成例2のポリイミドの架橋体を利用してポリイミドフィルムを形成し、このフィルムに対して、DSCを利用して熱的特性を調べ、その結果を下記の表2に表した。前記DSC分析時、昇温速度は10℃/minである。
【0196】
【表2】

【0197】
前記表2及び図3から、金属触媒(有機金属触媒由来の金属)の含有量によってポリイミドの架橋体の架橋程度が調節されることが分かる。
【0198】
前記合成例1−1の金属含有ポリイミドの架橋体及び比較合成例2によって製造されたポリイミドの架橋体において、UV−VIS透過度特性を調べ、その結果を図4に示した。
【0199】
図4を参照すれば、比較合成例2によるポリイミドは、低波長で透過度特性が不良であって色相が現れた。これに対し、合成例1−1のポリイミドは、低波長領域で透過度特性に優れて無色透明であった。
【0200】
前記合成例1−1によって合成されたポリイミドの架橋体は、図5のFT−IRで前記ポリイミドの架橋体の構造を確認した。
【0201】
図5に示した合成例1−1の反応例のFT−IRグラフから、熱処理温度が高くなるにつれてポリアミック酸でイミド化反応が進み、ポリイミドの架橋体が合成されたことを確認した。イミド化反応温度が80ないし250℃に上昇すれば、イミド環のC−N−Cストレッチングに対応する1378cm−1バンドが増加し、アミドのC−N/N−H結合された変化(coupled deformation)に対応するバンドは、バイモダル(bimodal)で1587cm−1波長での単一ピークに変化し、かかる変化は、アミドからイミドが形成されることを表す。
【0202】
前記合成例1−1、1−2及び1−3の金属含有ポリイミドの架橋体及び、比較合成例1のポリイミド、及び比較合成例2のポリイミドとの架橋体によって製造されたポリイミドを利用してポリイミドフィルムを形成し、このフィルムの熱特性(線膨脹係数、CTE)を調べたが、前記CTEの温度範囲は50ないし150℃である。
【0203】
前記CTE測定結果を、下記の表3に表した。
【0204】
【表3】

【0205】
前記表3から、熱架橋によってもCTEが低くなるが、触媒による架橋後にイミド化反応を進めるのがさらに効果的であり、さらに優秀な方法であることが分かった。またこれを参照すれば、金属触媒量が増加するほど、金属触媒により架橋が効果的に行われ、その架橋効果により改善された低熱膨脹特性を得ることができるということが分かった。
【0206】
前記で望ましい製造例を参照して説明したが、当業者ならば、特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び領域を逸脱しない範囲内で、本発明を多様に修正及び変更させることができるということを理解できるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0207】
本発明は、フレキシブル基板関連の技術分野に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属と、
下記化学式1の酸無水物とジアミン化合物との縮合反応生成物であるポリアミック酸の架橋体とを含む金属含有ポリアミック酸の架橋体:
【化1】

前記式中、
【化2】

は、架橋可能な官能基を有するC5−C20の炭素環または架橋可能な官能基を有するC4−C20のヘテロ環である。
【請求項2】
前記
【化3】

は、
【化4】

であり、
前記式中、Rは、水素原子、C1−C10のアルキル基、C1−C10のアルキルオキシ基、C6−C10のアリール基またはハロゲン原子であることを特徴とする請求項1に記載の金属含有ポリアミック酸の架橋体。
【請求項3】
前記ジアミン化合物は、下記化学式2で表示されるジアミン化合物である請求項1または2に記載の金属含有ポリアミック酸の架橋体:
【化5】

前記式中、Aは、
【化6】

【化7】

(前記式中、m、n、p、qは互いに独立的に0ないし18の整数であり、sは0ないし2の整数である。)、
【化8】

からなる群から選択される。
【請求項4】
前記金属は、ルテニウム(Ru)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、オスミウム(Os)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)および金(Au)よりなる群から選択された一つ以上である請求項1〜3のいずれかに記載の金属含有ポリアミック酸の架橋体。
【請求項5】
前記金属の含有量は、金属含有ポリアミック酸の架橋体を基準として0.0001ないし2.5wt%である請求項1〜4のいずれかに記載の金属含有ポリアミック酸の架橋体。
【請求項6】
架橋可能な官能基を有していない化学式21の付加的な二無水物をさらに含む請求項1〜5のいずれかに記載の金属含有ポリアミック酸の架橋体:
【化9】

前記式中、
【化10】

は、置換または非置換のC4−C20の炭素環基、置換または非置換のC6−C20の単環式芳香族基、置換または非置換のC2−C20の縮合多環式芳香族基、置換または非置換の芳香族基によって互いに連結された(interconnected)C2−C20の非縮合多環式芳香族基よりなる群から選択された3価または4価の有機基である。
【請求項7】
金属と、
下記化学式1の酸無水物とジアミン化合物との縮合反応及びイミド化の生成物であるポリイミドの架橋体とを含む金属含有ポリイミドの架橋体:
【化11】

前記式中、
【化12】

は、架橋可能な官能基を有するC5−C20の炭素環または架橋可能な官能基を有するC4−C20のヘテロ環である。
【請求項8】
前記
【化13】

は、
【化14】

であり、
前記式中、Rは、水素原子、C1−C10のアルキル基、C1−C10のアルキルオキシ基、C6−C10のアリール基またはハロゲン原子である請求項7に記載の金属含有ポリイミドの架橋体。
【請求項9】
前記ジアミン化合物は、下記化学式2で表示されるジアミン化合物である請求項7または8に記載の金属含有ポリイミドの架橋体:
【化15】

前記式中、Aは、
【化16】

【化17】

(前記式中、m、n、p、qは互いに独立的に0ないし18の整数であり、sは0ないし2の整数である。)、
【化18】

からなる群から選択される。
【請求項10】
前記金属は、ルテニウム(Ru)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、オスミウム(Os)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)および金(Au)よりなる群から選択された一つ以上である請求項7〜9のいずれかに記載の金属含有ポリイミドの架橋体。
【請求項11】
前記金属の含有量は、金属含有ポリイミドの架橋体を基準として0.0001ないし2.5wt%であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の金属含有ポリイミドの架橋体。
【請求項12】
架橋可能な官能基を有していない化学式21の付加的な二無水物をさらに含む請求項7〜11のいずれかに記載の金属含有ポリイミドの架橋体:
【化19】

前記式中、
【化20】

は、置換または非置換のC4−C20の炭素環基、置換または非置換のC6−C20の単環式芳香族基、置換または非置換のC2−C20の縮合多環式芳香族基、置換または非置換の芳香族基によって互いに連結された(interconnected)C2−C20の非縮合多環式芳香族基よりなる群から選択された3価または4価の有機基である。
【請求項13】
下記化学式1で表示される酸無水物とジアミン化合物との縮合反応を実施してポリアミック酸を形成する工程と、
前記ポリアミック酸を有機金属触媒下で低温架橋反応を実施して、金属含有ポリアミック酸の架橋体を形成する工程と、
前記金属含有ポリアミック酸の架橋体を熱処理してイミド化する工程とを含む、金属含有ポリイミドの架橋体を得る金属含有ポリイミドの架橋体の製造方法:
【化21】

前記式中、
【化22】

は、架橋可能な官能基を有するC5−C20の炭素環または架橋可能な官能基を有するC4−C20のヘテロ環である。
【請求項14】
前記有機金属触媒が、ルテニウム系錯体、タングステン系錯体、モリブデン系錯体、オスミウム系錯体、ニッケル系錯体、チタン系錯体、タンタル系錯体、ジルコニウム系錯体、白金系錯体、パラジウム系錯体および金系錯体よりなる群から選択された一つ以上である請求項13に記載の金属含有ポリイミドの架橋体の製造方法。
【請求項15】
前記低温架橋反応が、20℃ないし150℃で行われる請求項13または14に記載の金属含有ポリイミドの架橋体の製造方法。
【請求項16】
前記イミド化工程以前に、80ないし250℃で熱処理する工程を経る請求項13〜15のいずれかに記載の金属含有ポリイミドの架橋体の製造方法。
【請求項17】
前記イミド化工程以前に、0.000001ないし0.1atm、80ないし250℃で熱処理する工程を経る請求項13〜16のいずれかに記載の金属含有ポリイミドの架橋体の製造方法。
【請求項18】
前記イミド化工程の熱処理が、200ないし270℃で行われる請求項13〜17のいずれかに記載の金属含有ポリイミドの架橋体の製造方法。
【請求項19】
前記ジアミン化合物が、下記化学式2で表示されるジアミン化合物である請求項13〜18のいずれかに記載の金属含有ポリイミドの架橋体の製造方法:
【化23】

前記式中、Aは、
【化24】

【化25】

(前記式中、m、n、p、qは互いに独立的に0ないし18の整数であり、sは0ないし2の整数である。)、
【化26】

からなる群から選択される。
【請求項20】
金属と、
下記化学式1の酸無水物とジアミン化合物との縮合反応及びイミド化の生成物であるポリイミドの架橋体とを含む金属含有ポリイミドの架橋体を含むポリイミドフィルム:
【化27】

前記式中、
【化28】

は、架橋可能な官能基を有するC5−C20の炭素環または架橋可能な官能基を有するC4−C20のヘテロ環である。
【請求項21】
前記
【化29】

は、
【化30】

であり、
前記式中、Rは、水素原子、C1−C10のアルキル基、C1−C10のアルキルオキシ基、C6−C10のアリール基またはハロゲン原子である請求項20に記載のポリイミドフィルム。
【請求項22】
前記ジアミン化合物が、下記化学式2で表示されるジアミン化合物である請求項20または21に記載のポリイミドフィルム:
【化31】

前記式中、Aは、
【化32】

【化33】

(前記式中、m、n、p、qは互いに独立的に0ないし18の整数であり、sは0ないし2の整数である。)、
【化34】

からなる群から選択される。
【請求項23】
前記金属は、ルテニウム(Ru)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、オスミウム(Os)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)および金(Au)よりなる群から選択された一つ以上である請求項20〜22のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項24】
前記金属の含有量は、金属含有ポリイミドの架橋体を基準として0.0001ないし2.5wt%であることを特徴とする請求項20〜23のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項25】
化学式1で表示される酸無水物、化学式2で表示されるジアミン化合物、及び化学式20で表示される有機金属触媒の反応生成物として、前記酸無水物とジアミン化合物からポリアミック酸が形成され、前記ポリアミック酸が前記有機金属触媒の存在下で架橋されて、金属含有ポリアミック酸の架橋体が形成され、前記金属含有ポリアミック酸の架橋体を熱処理及びイミド化して、金属含有ポリイミドの架橋体が形成されてなる反応生成物:
【化35】

前記式中、
【化36】

は、架橋可能な官能基を有するC5−C20の炭素環または架橋可能な官能基を有するC4−C20のヘテロ環であり、
【化37】

前記式中、Aは、
【化38】

【化39】

(前記式中、m、n、p、qは互いに独立的に0ないし18の整数であり、sは0ないし2の整数である。)、
【化40】

からなる群から選択され、
【化41】

前記式中、Mは遷移金属であり、
Lはリガンドであり、
nは1ないし5の整数であり、
Rは水素原子または有機基である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−209335(P2010−209335A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53868(P2010−53868)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG ELECTRONICS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do 442−742(KR)
【Fターム(参考)】