説明

金属含有酸廃液の再生装置

【課題】 半導体製造工場などにおける金属エッチング工程などから発生する金属含有酸廃液から、金属を分離するとともに酸を高い収率で回収する。
【解決手段】 (A)拡散透析層で仕切られた拡散透析室1 (B)金属含有酸廃液を拡散透析層により隔てられた一方の側の拡散透析室に送るための供給手段3(C)拡散透析層により隔てられた他方の側の拡散透析室に水を補充するための水補充手段5(D)拡散透析室で処理された金属含有酸廃液を透析残液濃縮用蒸留塔に送るための供給手段7(E)拡散透析室における水を補充する側の底部から再生酸含有溶液を回収する手段11(F)透析残液濃縮用蒸留塔8(G)前記透析残液濃縮用蒸留塔から得られた蒸留水を水補充手段に供給するための供給手段9(H)前記透析残液濃縮用蒸留塔の底部から濃縮された金属を含む金属含有酸廃液を回収する手段10よりなることを特徴とする金属含有酸廃液の再生装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属含有酸廃液の再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工場におけるアルミニウムなどの金属のエッチング工程で使用されている酸溶液は、使用しているうちに酸の濃度が下がって能力が低下するが、一方、金属濃度は蓄積し濃くなるため、一部新液と交換することが必要となる。そこで、金属イオン(アルミニウムをエッチングする場合は主にアルミニウム)を取り除くとともに酸を高収率で回収するための処理手段の開発が望まれている。そして、このような金属含有酸廃液から金属を取り除くと同時に酸を高収率で回収できる処理装置や処理方法はこれまで存在していなかった。
【0003】
従来、溶剤から金属系不純物を除去するには、蒸留を使用することが広く行われている。しかし、この方法では溶剤を蒸発すると金属は塔の底(以下釜という)に残るが、主成分である酸、とくに燐酸は揮発性がないので釜に金属とともに残ってしまう。
【0004】
一般に溶液中に存在する成分から金属のみを除去する方法としては、以下のいくつかの方法が行われている。
(イ)イオン交換樹脂により金属をイオン交換する方法(非特許文献1)
この方法を実施するため、いろいろのイオン交換樹脂を検討したが、強酸性液中の金属イオンはイオン交換樹脂によりイオン交換することは困難であり、また樹脂の再生の効率が低いことがわかった。
(ロ)活性炭により金属を取り除く方法(非特許文献1)
この方法に用いるいろいろの活性炭について実験したところ、いずれの活性炭を用いても多量の金属を吸着することは困難であることが分かった。
(ハ)電気透析により金属を取り除く方法(非特許文献2)
イオン交換膜を用いて電気透析する方法は、金属エッチング廃液のように金属イオン濃度が非常に高いケースでは適用が困難であることが分かった。
一方、イオン交換膜を使用するもう一つの分離方法としては拡散透析がある。この方法では、濃度推進力により原料中の陰イオンおよび水素イオンはアニオン膜を透過し製品の側に移動するが、金属およびその他の陽イオンは膜を透過せずに原料の側に濃縮される。しかし、この方法では、結果的に得られる生成物は希釈されることになる。さらに、残りの透析残液の流量も多いという問題点がある。
【0005】
【非特許文献1】平成11年1月11日株式会社エヌ・ティー・エヌ発行、竹内ヨウ監修、「最新吸着技術便覧・プロセス・材料・設計」第396〜398頁、第488〜490頁
【非特許文献2】R.H.Perry and D.W.Green,“Perry’s Chemical Engineers Handbook,”McGraw−Hill(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、半導体製造工場などにおけるアルミニウムなどの金属エッチング工程などから発生する金属含有酸廃液から、金属を分離するとともに酸を高い収率で回収するための再生装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1は、
(A)拡散透析層で仕切られてなる拡散透析室、
(B)金属含有酸廃液を拡散透析層により隔てられた一方の側の拡散透析室に送るための供給手段、
(C)拡散透析層により隔てられた他方の側の拡散透析室に水を補充するための水補充手段、
(D)拡散透析室で処理された金属含有酸廃液を透析残液濃縮用蒸留塔に送るための供給手段、
(E)拡散透析室における水を補充する側の底部から再生酸含有溶液を回収する手段、
(F)透析残液濃縮用蒸留塔、
(G)前記透析残液濃縮用蒸留塔から得られた蒸留水を水補充手段に供給するための供給手段、
(H)前記透析残液濃縮用蒸留塔の底部から濃縮された金属を含む廃液を回収する手段、
よりなることを特徴とする金属含有酸廃液の再生装置に関する。
本発明の第2は、
(A)拡散透析層で仕切られてなる拡散透析室、
(B)金属含有酸廃液を拡散透析層により隔てられた一方の側の拡散透析室に送るための供給手段、
(C)拡散透析層により隔てられた他方の側の拡散透析室に水を補充するための水補充手段、
(D)拡散透析室で処理された金属含有酸廃液を透析残液濃縮用蒸留塔に送るための供給手段、
(E′)拡散透析室における水を補充する側の底部から再生酸含有溶液を酸濃度調整手段に配送する手段、
(F)透析残液濃縮用蒸留塔、
(G)前記透析残液濃縮用蒸留塔から得られた蒸留水を水補充手段に供給するための供給手段、
(H)前記透析残液濃縮用蒸留塔の底部から濃縮された金属を含む廃液を回収する手段、
(J)酸濃度調整手段、
よりなることを特徴とする金属含有酸廃液の再生装置に関する。
本発明の第3は、
(A)拡散透析層で仕切られてなる拡散透析室、
(B)金属含有酸廃液を拡散透析層により隔てられた一方の側の拡散透析室に送るための供給手段、
(C)拡散透析層により隔てられた他方の側の拡散透析室に水を補充するための水補充手段、
(D)拡散透析室で処理された金属含有酸廃液を透析残液濃縮用蒸留塔に送るための供給手段、
(E″)拡散透析室における水を補充する側の底部から再生酸含有溶液を再生酸含有溶液濃縮手段に配送する手段、
(F)透析残液濃縮用蒸留塔、
(G)前記透析残液濃縮用蒸留塔から得られた蒸留水を水補充手段に供給するための供給手段、
(H)前記透析残液濃縮用蒸留塔の底部から濃縮された金属を含む廃液を回収する手段、
(K)再生酸含有溶液濃縮手段、
よりなることを特徴とする金属含有酸廃液の再生装置に関する。
本発明の第4は、
(1)拡散透析層で仕切られてなる拡散透析室、
(2)金属含有酸廃液を拡散透析層により隔てられた一方の側の拡散透析室に送るための供給手段、
(3)拡散透析層により隔てられた他方の側の拡散透析室に水を補充するための水補充手段、
(4)拡散透析室で処理された金属含有酸廃液を透析残液濃縮用蒸留塔に送るための供給手段、
(5)拡散透析室における水を補充する側の底部から再生酸含有溶液を再生酸含有溶液濃縮手段に送るための供給手段、
(6)透析残液濃縮用蒸留塔、
(7)前記透析残液濃縮用蒸留塔から得られた蒸留水を水補充手段に供給するための供給手段、
(8)前記透析残液濃縮用蒸留塔から濃縮された金属を含む廃液を回収する手段、
(9)前記再生酸含有溶液濃縮手段から得られた蒸留水を前記水補充手段に配送するための配送手段、
(10)前記再生酸含有溶液濃縮手段から得られた酸含有留出分を酸濃度調整手段に配送する手段、
(11)前記再生酸含有溶液濃縮手段の底部から濃縮された再生酸含有溶液を酸濃度調整手段に送るための供給手段、
(12)再生酸含有溶液濃縮手段、
(13)酸濃度調整手段、
よりなることを特徴とする金属含有酸廃液の再生装置に関する。
本発明の第5は、
(I)金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔、
(II)前記金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔に金属含有酸廃液を供給する供給手段、
(III)拡散透析層で仕切られてなる拡散透析室、
(IV)前記金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔の底部から濃縮された金属含有酸廃液を拡散透析層により隔てられた一方の側の拡散透析室に送るための供給手段、
(V)拡散透析層により隔てられた他方の側の拡散透析室に水を補充するための水補充手段、
(VI)拡散透析室でさらに処理された金属含有酸廃液を透析残液濃縮用蒸留塔に送るための供給手段、
(VII)拡散透析室における水を補充する側の底部から再生酸含有溶液を酸濃度調整手段に配送する手段、
(VIII)前記金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔から得られた蒸留水を水補充手段に供給するための供給手段、
(IX)前記金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔から得られた酸含有留出分を酸濃度調整手段に配送するための配送手段、
(X)酸濃度調整手段、
(XI)透析残液濃縮用蒸留塔、
(XII)前記透析残液濃縮用蒸留塔から得られた蒸留水を水補充手段に供給するための供給手段、
(XIII)前記透析残液濃縮用蒸留塔の底部から濃縮された金属を含む廃液を回収する手段、
よりなることを特徴とする金属含有酸廃液の再生装置に関する。
【0008】
前記(A)、(1)および(III)の「拡散透析層で仕切られてなる拡散透析室」は、一般に断面四角形の耐食性容器を使用し、通常そのほぼ中央部を拡散透析層で左右に仕切ったものであり、この拡散透析層は一般に陰イオン膜を数枚重ねて一体化したものを使用する。また、耐食性材料としては、通常、非金属材料、たとえばポリ四フッ化エチレンなどのフッ素系樹脂で代表される耐酸性(耐食性)樹脂を使用することが好ましい。
【0009】
前記(B)および(2)の「金属含有酸廃液を拡散透析層により隔てられた一方の側の拡散透析室に送るための供給手段」、あるいは前記(IV)の「金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔の底部から濃縮された金属含有酸廃液を拡散透析層により隔てられた一方の側の拡散透析室に送るための供給手段」としては、通常、耐酸性(耐食性)樹脂製たとえばポリ四フッ化エチレンなどのフッ素系樹脂製の配管と定量ポンプ(液と接触する部分は耐酸性樹脂製とする必要がある)との組み合せを使用する。
【0010】
前記(C)、(3)および(V)の「拡散透析層により隔てられた他方の側の拡散透析室に水を補充するための水補充手段」としては、通常、一般的な配管と定量ポンプとの組み合せを使用する。
【0011】
前記(D)および(4)の「拡散透析室で処理された金属含有酸廃液を透析残液濃縮用蒸留塔に送るための供給手段」あるいは前記(VI)の「拡散透析室でさらに処理された金属含有酸廃液を透析残液濃縮用蒸留塔に送るための供給手段」としては、通常、耐酸性(耐食性)樹脂製たとえばポリ四フッ化エチレンなどのフッ素系樹脂製の配管と遠心ポンプ(液と接触する部分は耐酸性樹脂製とする必要がある)との組み合せを使用する。なお、配管さえ設ければ高さの差により自重で流れ落ちるような場合にはポンプが不要であることは当然である。以下の遠心ポンプの存否についても同様である。
【0012】
前記(E)の「拡散透析室における水を補充する側の底部から再生酸含有溶液を回収する手段」、前記(E′)および(VII)の「拡散透析室における水を補充する側の底部から再生酸含有溶液を酸濃度調整手段に配送するための手段」、前記(E″)および(5)の「拡散透析室における水を補充する側の底部から再生酸含有溶液を再生酸含有溶液濃縮手段に送るための供給手段」あるいは前記(11)の「前記再生酸含有溶液濃縮手段の底部から濃縮された再生酸含有溶液を酸濃度調整手段に送るための供給手段」としては、通常、耐酸性(耐食性)樹脂製たとえばポリ四フッ化エチレンなどのフッ素系樹脂製の配管と遠心ポンプ(液と接触する部分は耐酸性樹脂製とする必要がある)との組み合せを使用する。
【0013】
前記(G)および(7)の「前記透析残液濃縮用蒸留塔から得られた蒸留水を水補充手段に供給するための供給手段」としては、通常、一般的な配管と遠心ポンプとの組み合せを使用する。
【0014】
前記(VIII)の「前記金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔から得られた蒸留水を水補充手段に供給するための供給手段」、前記(IX)の「前記金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔から得られた酸含有留出分を酸濃度調整手段に配送するための配送手段」、前記(XII)の「前記透析残液濃縮用蒸留塔から得られた蒸留水を水補充手段に供給するための供給手段」としては、通常、一般的な配管と遠心ポンプとの組み合せを使用する。
【0015】
前記(9)の「前記再生酸含有溶液濃縮手段から得られた蒸留水を前記水補充手段に配送するための配送手段」、前記(10)の「前記再生酸含有溶液濃縮手段から得られた酸含有留出分を酸濃度調整手段に配送する手段」としては、通常、耐酸性(耐食性)樹脂製たとえばポリ四フッ化エチレンなどのフッ素系樹脂製の配管と遠心ポンプ(液と接触する部分は耐酸性樹脂製とする必要がある)との組み合せを使用する。
【0016】
前記(F)、(6)および(XI)の「透析残液濃縮用蒸留塔」としては、通常、充填蒸留塔を使用することができる。充填蒸留塔の使用は、イニシャルコストおよび運転上から、腐食性が高い酸含有溶液に対して適当であり、充填材や塔の材質は、耐酸性(耐食性)樹脂たとえばポリ四フッ化エチレンなどのフッ素系樹脂を使用する。
【0017】
前記(H)、(8)および(XIII)の「前記透析残液濃縮用蒸留塔の底部から濃縮された金属を含む廃液を回収する手段」としては、有害金属以外の金属の場合は、廃液の酸性をアルカリで中和してからそのまま放流することができる。有害金属を含む場合には、中和工程の前および/または後で有害金属を回収、除去する。
【0018】
前記(K)や前記(12)の再生酸含有溶液濃縮手段、例えば再生酸含有溶液蒸留塔としては、通常、充填蒸留塔を使用することができる。充填蒸留塔の使用は、イニシャルコストおよび運転上から、腐食性が高い酸含有溶液に対して適当であり、充填材や塔の材質は、耐酸性(耐食性)樹脂たとえばポリ四フッ化エチレンなどのフッ素系樹脂を使用する。
【0019】
前記(13)、(J)および(X)の「酸濃度調整手段」は、再生した酸成分に加えて、消耗した酸成分を補充して所定の酸濃度に調整するための手段である。金属のエッチングや表面処理などに用いられる酸は、通常、燐酸−硝酸,酢酸よりなる混酸、フッ酸、硝酸、酢酸よりなる混酸、あるいは硫酸−塩酸よりなる混酸などのような混酸の形で使用される場合がほとんどである。このような場合には、前記(E′)、(11)や(VII)、(IX)における再生酸含有溶液のそれぞれの各酸の濃度を任意のチェック手段によりチェックし、それぞれの酸が所望の割合で、かつ所望の濃度となるようにそれぞれの酸の不足分を添加する手段を採用すればよく、そのためには好ましくは滴定分析自動濃度調整器を用いることができる。滴定分析自動濃度調整器は、溶液に含まれている酸をそれぞれ滴定方法により自動的に分析し、分析結果に基づき不足する分のそれぞれの酸を溶液に添加する装置である。本発明は、不揮発性のリン酸含有混酸とくにリン酸、硝酸、酢酸よりなる混酸を用いている場合に極めて有効である。
【0020】
前記(I)の「金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔」としては、前記(K)や前記(12)の再生酸含有溶液濃縮手段と同じように、充填蒸留塔を用いることができる。充填蒸留塔の使用は、イニシャルコストおよび運転上から、腐食性が高い酸含有溶液に対して適当であり、充填材や塔の材質は、耐酸性(耐食性)樹脂たとえばポリ四フッ化エチレンなどのフッ素系樹脂を使用する。
【0021】
前記(II)の「前記金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔に金属含有酸廃液を供給する供給手段」としては、通常、耐酸性樹脂製たとえばポリ四フッ化エチレンなどのフッ素系樹脂製の配管と遠心ポンプ(液と接触する部分は耐酸性樹脂製とする必要がある)との組み合せを使用する。
【0022】
本発明における金属としては、例えばアルミニウム、銅、鉄、亜鉛、鉛、銀、チタン、クロム、モリブデン、ジルコニウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、ホウ素、ネオジムなどを挙げることができるが、これらに限定するものではない。とくに本発明は、アルミニウム、モリブデン、銅、クロム、銀の場合に有用である。
【0023】
拡散透析層に用いる拡散透析膜は、市販の任意の拡散透析膜、例えば旭ガラス(株)の商品名「セレミオン」を使用することができる。また、拡散透析層を装備した拡散透析室も、例えば株式会社アストムの商品名「アシライザー」として市販されているものを使用することもできる。
【0024】
本発明の装置の概要を図面を用いて説明する。図1〜5はバッチ式の場合であり、図6〜8は連続式の場合である。
【0025】
図1は、本請求項1をバッチ式で実施する場合の1例を示すフローである。例えば、アルミニウムのエッチング工程から生じた硝酸、酢酸、リン酸および金属(主としてAl)を含む混酸廃液を供給用配管3を通して拡散透析室1に送る。この場合、定量ポンプ4を用いることが好ましい。前記混酸廃液は拡散透析室1において、拡散透析層2を介して酸成分は図中の左室から右室に移動することができるが金属成分は移動できないので、ここで可成りの酸成分を回収することができる。回収された混酸成分は再生酸含有廃液回収用配管11を通して回収する。一方、左室において一部の酸を右室に移動させた透析残液(アルミニウムと残った混酸を含む水溶液)は処理された金属含有酸廃液供給用配管7を通って透析残液濃縮蒸留塔8に送られる。図1の場合は、バッチ式であるので、透析残液濃縮蒸留塔8は1塔のみである。蒸留は最初の段階は上部から水しか出てこない段階まで蒸留を行い、回収された蒸留水は蒸留液配送用配管9を通し、定量ポンプ6を介して拡散透析室1の右室に戻すものである。なお、透析残液濃縮蒸留塔8は1塔であるため、蒸留塔の温度がある一定の温度に上昇するまでは水のみが蒸発してくるが、ある一定温度以上になった段階でまたは一定量以上の水が留出した段階で水蒸気中に硝酸や酢酸が混入してくる。したがって水のみが蒸発している時点までは配管9は水を補充する手段に送るが、酸が混入する可能性がある段階からはコックで切り換えるなどの手段で再生酸を集めて濃度を調節している手段、例えば図2の滴定分析自動濃度調整器12の方に送ることが好ましい。なお、当析残液濃縮蒸留塔8の底部からは常時金属含有廃液を放出する。
【0026】
図2は、本請求項2をバッチ式で実施する場合の1例を示すフローである。例えばアルミニウムのエッチング工程から生じた硝酸、酢酸、リン酸および金属を含む混酸廃液を供給用配管3を通して拡散透析室1に送る。前記混酸廃液は拡散透析室1において、拡散透析層2を介してかなりの酸成分は図中の左室から右室に移動する。拡散透析室1で処理された金属含有酸廃液は配管7を通って透析残液濃縮用蒸留塔8に送られる。図2の場合はバッチ式であるので、透析残液濃縮用蒸留塔は1塔のみである。ここでは水しか蒸発してこない段階まで蒸留を行い、回収された蒸留水は配管9を通して回収、再利用し、残りの濃縮された金属含有酸廃液は放出用配管10を経て放出される。
なお、この方法の連続式に変更するためには、透析残液濃縮用蒸留塔を2塔とし、前段の蒸留塔の頂部からは蒸留水のみが回収されるようにし、濃縮された液を後段(第2)の蒸留塔に送り、ここでは頂部から、水と共に揮発性の酸、例えば硝酸や酢酸を水と共に1部回収し、不揮発性の酸、例えばリン酸と金属とを含む廃液は後段(第2)の蒸留塔下部から放出することになる。これがすなわち図6のフローに相当する。
図2における12は酸濃度調整手段、具体的には滴定分析自動濃度調整器であり、ここでそれぞれの酸の濃度を測定すると共に、それぞれの酸の不足分は第1の酸供給ライン〜第nの酸供給ライン(図では第1〜第3の酸供給ラインとして示す)より補給され、金属の処理加工に必要な酸濃度に自動的に調整される仕組みになっている。図4〜11の場合も同様である。
【0027】
図3は、本請求項3をバッチ式で実施する場合の1例を示すフローである。図1のフローに加えて、再生酸含有廃液濃縮用蒸留塔22とそれに関連する配管が付設されている点が図1と異なっている。また、この方法を連続式に変更する場合の対応は、図2の場合と同様である。
【0028】
図4は、本請求項4をバッチ式で実施する場合の1例を示すフローである。図3のフローに酸濃度調整手段である滴定分析自動濃度調整器12を統合したタイプである。連続式にするためには、透析残液濃縮用蒸留塔8と再生酸含有廃液濃縮用蒸留塔22をそれぞれ複数の蒸留塔にすればよく、その1例が図7のフローである。
【0029】
図5は本請求項5をバッチ式で実施する場合の1例を示すフローである。このケースは拡散透析を行う前の段階でまず金属含有酸廃液を濃縮する手段たとえば金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔26を用いた点が図2のフローと異なっている。このフローを連続式に変更する場合は、透析残液濃縮用蒸留塔8と金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔26をそれぞれ複数の蒸留塔にすればよく、その1例が図8のフローである。
【発明の効果】
【0030】
(1)拡散透析を利用することにより、蒸留では回収できない非揮発性のリン酸を効率よく回収することができた。
(2)拡散透析処理後の酸廃液を濃縮蒸留することにより第1段で純水を回収でき、第2段で揮発性の酸成分を回収できた。
(3)本発明は、蒸気圧を有する酸成分は回収して再利用が可能となるので、地球環境に優しい技術を提供できる。
(4)本発明は、いずれかの工程で蒸留塔を用いている。したがって蒸留塔頂部から回収される水は、少なくとも系中に存在していては不都合なイオン性物質が含有されている心配はないので、前記回収された水は補充水として再利用することができる。そのため、系に高価な純水を補充する場合はほとんどないので、本発明の装置は非常に経済性が高い。
(5)本発明は、アルミニウムのエッチングに限らず、銅、モリブデン、クロム、銀などの各種金属あるいはその合金のエッチング、表面処理などの工程で、金属を酸処理した時に生じる金属含有酸廃液のすべてを対象とすることができる。
(6)本発明によりリン酸を高い収率、例えば約80%で回収できる。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0032】
実施例1
図9に示すフローは実施例1に相当し、図2の具体例に当る。
アルミニウムエッチング工程から1時間当たりに排出される廃液225kg中の
リン酸は225kg×0.60=135.00kg
硝酸は225kg×0.07=15.75kg
酢酸は225kg×0.03=6.75kg
水は225kg×0.30=67.50kg
であるが、実施例1で下水に捨てられる1時間当りの排水34.2kg中には、
リン酸が34.2kg×0.85=29.07kg
水が34.2kg×0.15=5.13kg
Alが75.8ppm
のみであり、これ以外はすべて回収、再利用されている。
水が系外から補給されている個所は、水補充手段からの水55.0kg/hのほかは濃度調整手段において補給されるリン酸水溶液に含まれる水(415.0kg/h×0.15=62.25kg/h)と硝酸水溶液に含まれる水(32.0kg/h×0.02=0.64kg/h)のみであり、最初に用いられた水が可成り再利用されているうえ、硝酸や酢酸はすべて回収して再利用されている。
フロー中「製品混酸」はアルミニウムのエッチングに用いる。
【0033】
実施例2
図10に示すフローは実施例2に相当し、図4の具体例である。
アルミニウムエッチング工程から1時間当たりに排出される廃液225kg中の
リン酸は225kg×0.60=135.00kg
硝酸は225kg×0.07=15.75kg
酢酸は225kg×0.03=6.75kg
水は225kg×0.30=67.50kg
であるが、実施例2で下水に捨てられる1時間当たりの排水48.8kg中には
リン酸が48.8kg×0.60=29.28kg
水が48.8kg×0.40=19.52kg
Alが532ppm
のみであり、これ以外はすべて回収、再利用されている。
また、水が系外から補充されている個所は、濃度調整手段において補給されるリン酸水溶液に含まれる水(50.6kg/h×0.15=7.59kg/h)と硝酸水溶液に含まれる水(6.4kg/h×0.02=0.128kg/h)のみであり、水も揮発性酸成分も可成りの量が再利用されていることがわかる。
製品混酸は、アルミニウムのエッチングに用いる。
【0034】
実施例3
図11に示すフローは、実施例3であり、図5の具体例に相当する。
アルミニウムエッチング工程から1時間当たりに排出される廃液225kg中の
リン酸は225kg×0.60=135.00kg
硝酸は225kg×0.07=15.75kg
酢酸は225kg×0.03=6.75kg
水は225kg×0.30=67.50kg
であるが、本実施例3では、この原液を金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔にかけて濃縮している。この蒸留塔の頂部からは、第1段階では水のみが30kg/hの割合で留出し、その後の第2段階では、硝酸43.5%と酢酸18.7%を含む混酸水溶液が留出する。一方、金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔の底部からリン酸85.0%とAl170ppmを含む金属含有酸廃液を回収し、これを拡散透析室で処理した後、透析残液濃縮用蒸留塔に送り、水と揮発性の硝酸と酢酸を回収し、この蒸留塔から排出される廃水79.4kg/h中には
リン酸79.4kg/h×0.85=67.49kg/h
水79.4kg/h×0.15=11.91kg/h
Al340ppm
のみであり、これ以外はすべて回収・再利用されている。
水が系外から補充されている個所は、水補充手段からの水29.4kg/hのほかは濃度調整手段において補給されるリン酸水溶液に含まれる水(350kg/h×0.15=52.5kg/h)と硝酸水溶液に含まれる水(30.0kg/h×0.02=0.6kg/h)のみであり、水も揮発性酸成分も可成り再利用されている。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】拡散透析室と透析残液濃縮用蒸留塔を中心とする請求項1の発明に対応するフローを示す。
【図2】拡散透析室と透析残液濃縮用蒸留塔に加えて、酸濃度調整手段を加えた請求項2の発明に対応するフローを示す。
【図3】拡散透析室と透析残液濃縮用蒸留塔に加えて、再生酸含有溶液濃縮用蒸留塔を加えた請求項3の発明に対応するフローを示す。
【図4】拡散透析室と透析残液濃縮用蒸留塔に加えて、再生酸含有溶液濃縮用蒸留塔と酸濃度調整手段を加えた請求項4の発明に対応するフローを示す。
【図5】拡散透析室と透析残液濃縮用蒸留塔に加えて、金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔と酸濃度調整手段を加えた請求項5の発明に対応するフローを示す。
【図6】図2のフローがバッチ式であるので、これを連続式にするため、透析残液濃縮用蒸留塔を2台とし、前段では水のみを蒸発させ、後段では揮発性酸成分を蒸発させるようにしたフローである。
【図7】図4のフローがバッチ式であるので、これを連続式にするため、透析残液濃縮用蒸留塔および再生酸含有溶液濃縮用蒸留塔をそれぞれ2台に分けたフローを示す。
【図8】図5のフローがバッチ式であるので、これを連続式にするため透析残液濃縮用蒸留塔および金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔をそれぞれ2台に分けたフローを示す。
【図9】実施例1に対応するフローである。
【図10】実施例2に対応するフローである。
【図11】実施例3に対応するフローである。
【符号の説明】
【0036】
1 拡散透析室
2 拡散透析層
3 (金属含有酸廃液)供給用配管
4 耐食性定量ポンプ
5 (拡散透析室への)水補充用配管
6 定量ポンプ
7 (処理された金属含有酸廃液)供給用配管
8 透析残液濃縮用蒸留塔
9 (透析残液濃縮用蒸留塔から得られた)蒸留液配送用配管
10 (濃縮された金属含有廃液)放出用配管
11 再生酸含有溶液回収用配管
12 複数の酸の成分割合を調整するための滴定分析自動濃度調整器
13 第1の酸(例えばバージン燐酸)供給ライン
14 第2の酸(例えばバージン硝酸)供給ライン
15 第3の酸(例えばバージン酢酸)供給ライン
16 所定濃度に調整された混酸供給ライン
17 アルミニウムエッチング工程
18 硝酸と酢酸を含有する水を自動濃度調整器に配送するためのライン
19 金属含有酸廃液濃縮蒸留塔より得られた濃縮された金属含有酸廃液を拡散透析層により隔てられた一方の側の拡散透析室に送るための供給ライン
22 再生酸含有溶液濃縮用蒸留塔
23 再生酸含有溶液濃縮用蒸留塔から得られた蒸留水配送用配管
24 酸含有留出分を酸濃度調整手段に配送するための配送手段
25 濃縮された再生酸含有溶液を酸濃度調整手段に送るための供給手段
26 金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔
27 水回収用配管
28 酸含有水用配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)拡散透析層で仕切られてなる拡散透析室、
(B)金属含有酸廃液を拡散透析層により隔てられた一方の側の拡散透析室に送るための供給手段、
(C)拡散透析層により隔てられた他方の側の拡散透析室に水を補充するための水補充手段、
(D)拡散透析室で処理された金属含有酸廃液を透析残液濃縮用蒸留塔に送るための供給手段、
(E)拡散透析室における水を補充する側の底部から再生酸含有溶液を回収する手段、
(F)透析残液濃縮用蒸留塔、
(G)前記透析残液濃縮用蒸留塔から得られた蒸留水を水補充手段に供給するための供給手段、
(H)前記透析残液濃縮用蒸留塔の底部から濃縮された金属を含む廃液を回収する手段、
よりなることを特徴とする金属含有酸廃液の再生装置。
【請求項2】
(A)拡散透析層で仕切られてなる拡散透析室、
(B)金属含有酸廃液を拡散透析層により隔てられた一方の側の拡散透析室に送るための供給手段、
(C)拡散透析層により隔てられた他方の側の拡散透析室に水を補充するための水補充手段、
(D)拡散透析室で処理された金属含有酸廃液を透析残液濃縮用蒸留塔に送るための供給手段、
(E′)拡散透析室における水を補充する側の底部から再生酸含有溶液を酸濃度調整手段に配送するための手段、
(F)透析残液濃縮用蒸留塔、
(G)前記透析残液濃縮用蒸留塔から得られた蒸留水を水補充手段に供給するための供給手段、
(H)前記透析残液濃縮用蒸留塔の底部から濃縮された金属を含む廃液を回収する手段、
(J)酸濃度調整手段、
よりなることを特徴とする金属含有酸廃液の再生装置。
【請求項3】
(A)拡散透析層で仕切られてなる拡散透析室、
(B)金属含有酸廃液を拡散透析層により隔てられた一方の側の拡散透析室に送るための供給手段、
(C)拡散透析層により隔てられた他方の側の拡散透析室に水を補充するための水補充手段、
(D)拡散透析室で処理された金属含有酸廃液を透析残液濃縮用蒸留塔に送るための供給手段、
(E″)拡散透析室における水を補充する側の底部から再生酸含有溶液を再生酸含有溶液濃縮手段に配送するための手段、
(F)透析残液濃縮用蒸留塔、
(G)前記透析残液濃縮用蒸留塔から得られた蒸留水を水補充手段に供給するための供給手段、
(H)前記透析残液濃縮用蒸留塔の底部から濃縮された金属を含む廃液を回収する手段、
(K)再生酸含有溶液濃縮手段、
よりなることを特徴とする金属含有酸廃液の再生装置。
【請求項4】
(1)拡散透析層で仕切られてなる拡散透析室、
(2)金属含有酸廃液を拡散透析層により隔てられた一方の側の拡散透析室に送るための供給手段、
(3)拡散透析層により隔てられた他方の側の拡散透析室に水を補充するための水補充手段、
(4)拡散透析室で処理された金属含有酸廃液を透析残液濃縮用蒸留塔に送るための供給手段、
(5)拡散透析室における水を補充する側の底部から再生酸含有溶液を再生酸含有溶液濃縮手段に送るための供給手段、
(6)透析残液濃縮用蒸留塔、
(7)前記透析残液濃縮蒸留塔から得られた蒸留水を水補充手段に供給するための供給手段、
(8)前記透析残液濃縮用蒸留塔から濃縮された金属を含む廃液を回収する手段、
(9)前記再生酸含有溶液濃縮手段から得られた蒸留水を前記水補充手段に配送するための配送手段、
(10)前記再生酸含有溶液濃縮手段から得られた酸含有留出分を酸濃度調整手段に配送する手段、
(11)前記再生酸含有溶液濃縮手段の底部から濃縮された再生酸含有溶液を酸濃度調整手段に送るための供給手段、
(12)再生酸含有溶液濃縮手段、
(13)酸濃度調整手段、
よりなることを特徴とする金属含有酸廃液の再生装置。
【請求項5】
(I)金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔、
(II)前記金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔に金属含有酸廃液を供給する供給手段、
(III)拡散透析層で仕切られてなる拡散透析室、
(IV)前記金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔の底部から濃縮された金属含有酸廃液を拡散透析層により隔てられた一方の側の拡散透析室に送るための供給手段、
(V)拡散透析層により隔てられた他方の側の拡散透析室に水を補充するための水補充手段、
(VI)拡散透析室でさらに処理された金属含有酸廃液を透析残液濃縮用蒸留塔に送るための供給手段、
(VII)拡散透析室における水を補充する側の底部から再生酸含有溶液を酸濃度調整手段に配送する手段、
(VIII)前記金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔から得られた蒸留水を水補充手段に供給するための供給手段、
(IX)前記金属含有酸廃液濃縮用蒸留塔から得られた酸含有留出分を酸濃度調整手段に配送するための配送手段、
(X)酸濃度調整手段、
(XI)透析残液濃縮用蒸留塔、
(XII)前記透析残液濃縮用蒸留塔から得られた蒸留水を水補充手段に供給するための供給手段、
(XIII)前記透析残液濃縮用蒸留塔の底部から濃縮された金属を含む廃液を回収する手段、
よりなることを特徴とする金属含有酸廃液の再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−28556(P2006−28556A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206256(P2004−206256)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(593053335)日本リファイン株式会社 (15)
【Fターム(参考)】