説明

金属回収方法及び金属回収装置

【課題】
煩雑な工程を使用せず、かつ、比較的簡便な設備によって、リチウムイオン電池から金属を回収する有価金属回収方法を提供する。
【解決手段】
リチウムと遷移金属元素との複合酸化物を含む正極材を、酸性溶液で溶解させ、リチウムイオン及び遷移金属イオンとを含む酸性溶液を塩基陰イオン交換樹脂に通液し、初めの期間Dにイオン交換樹脂から溶出した遷移金属イオンの濃度比が高い溶液を第一の容器に回収し、その後の期間Eに溶出したLiイオンの濃度比が高い溶液を第二の容器に回収することで、金属イオンの分離を行う金属回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池から金属を簡便に回収する金属回収技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の携帯化が進むにつれて2次電池の使用量が急激に増大している。携帯電話や携帯型音楽プレイヤーなどの比較的小電力の機器に限らず、電動工具、電動自転車、電気自動車などの高出力を要する機器へも2次電池の適用が広がるに至り、高エネルギー密度が得られるリチウムイオン電池に注目が集まっている。高出力機器への適用が増えたことにより、使用済み電池からの有価物回収の必要性が高まっており、リチウムイオン電池からの有価金属を回収するためのさまざまな技術が提案されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、リチウムイオン電池のリサイクル技術が特集されており、リチウムイオン電池を構成する有価金属類を回収する方法が系統的に説明されている。非特許文献1に掲載された典型的なリサイクル方法によると、例えば、使用済みリチウムイオン電池は開封・解体・粉砕などの機械的な処理の後に、酸滲出によって有価金属を溶解させ、そこから、所望成分毎の溶解特性の差を利用して、成分毎に分別して沈殿形成させる、あるいは所望成分を優先的に溶媒抽出するなどの処理によって所望成分毎に分別回収される。
【0004】
また、特許文献1には、酸滲出によって得られる有価金属を溶解した液を陰極液とし、陽イオン交換膜を隔膜とする隔膜電解法を用いてCuおよびCoを回収する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3675392号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jinqiu Xu et al.,“A review of processes and technologies for the recycling of lithium‐ion secondary batteries”,Journal of Power Sources,vol.177,pp.512‐527(2008)
【非特許文献2】Acid Retardation.Simple Physical Method for Separation of Strong Acids from Their Salts、M.J.Hatch、J.A.Dillon、Ind. Eng.Chem.Process Des.Dev., 1963,2 (4),pp 253-263
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1においては、さまざまな工夫により有価物の回収率向上と回収物の高純度化の両立を目指しているが、工程が煩雑であるうえ、多量の廃電池を処理するには莫大な設備投資が必要という点で改善の余地が大きい。
【0008】
また、特許文献1は、具体的には、陽イオン交換膜が有するイオン選択特性を利用した設備(特許文献1の図2に示す隔膜電解槽)と陰イオン選択膜の陰イオン選択性を利用した拡散透析設備(説明図なし)を用いる。より具体的に説明すると、隔膜電解によるCuの電析回収→pH調整→隔膜電解によるCoの電析回収→pH調整→Fe(OH)およびAl(OH)の沈殿回収→炭酸塩添加によるLiCO回収という一連の処理により主要有価金属を回収できる。この技術によると、Cu(2価イオン)およびCo(3価イオン)を電気化学的に還元して回収するので高純度な金属を得ることができるが、多量の廃電池を処理する場合には莫大な電気量の印加が必要という点で改善の余地がある。
【0009】
例えば、約100kgのCoを回収するためには、1アンペアの電流を約100時間流し続ける必要があるが、その前にCuの電析でもほぼ同等の電気量を印加するのであるから、隔膜電解だけで全ての金属を回収することは案外な手間を要する。さらに、多段のpH調整を経るごとに液量が増大するために一連の処理の最終段階でLiCOを回収する際にはLiの濃度が低下しており、炭酸塩を添加してもLiの回収率は必ずしも高くならないと考えられる。これは、炭酸リチウムの飽和溶解度は20℃で1.3wt%もあるので液量が多くなるほど未回収成分が増えるためである。これを避けるためには濃縮工程を追加するなどの処理が必要である。さらに、Fe(OH)やAl(OH)は弱酸性〜中性の水溶液中でゲル状化しやすい傾向があるため、上記特許文献1の技術に基づいてFe(OH)やAl(OH)を濾別回収する工程の操作は容易ではなく、一方、濾別操作を容易化するために液を希釈するとLiの回収率が低下する。また、Fe(OH)やAl(OH)のゲル状沈殿の表面はLiイオンを吸着する特性もあるので、この観点でもLi回収率を大幅に改善することは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、リチウム及び遷移金属元素を含むリチウムイオン電池の正極材から金属を回収する金属回収方法において、前記正極材を、酸性溶液に溶解させ、リチウムイオンと遷移金属イオンとを前記酸性溶液内に滲出させる酸滲出工程と、前記リチウムイオン及び遷移金属イオンとを含む酸性溶液を塩基性陰イオン交換樹脂に通液し、前記イオン交換樹脂から溶出した溶液を第一の容器に回収し、その後に前記イオン交換樹脂から溶出した前記溶液を第二の容器に回収する金属分離工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リチウムイオン電池から有価金属を簡便に他の元素の混入を抑えて、高純度でかつ高効率に回収する有価金属回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例に係る有価金属を回収するための工程フロー概略である。
【図2】アシッドリターデーション装置の構成図である。
【図3(a)】アシッドリターデーション処理のフロー図である。
【図3(b)】アシッドリターデーション処理のフロー図である。
【図3(c)】アシッドリターデーション処理のフロー図である。
【図4】アシッドリターデーションによる時間と濃度の相関図の一例である。
【図5】本発明の実施例に係るアシッドリターデーション処理時のLi/Co濃度比である。
【図6】本発明の実施例に係る透析装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。なお、図を用いて説明する場合には図面を構成する各部品にはそれぞれ符号を付して説明を施すが、同一機能の場合には符号や説明を省略する場合がある。また、図中に示した各部品の寸法は実際の部品寸法を反映した縮尺には必ずしも一致していない場合がある。
【実施例1】
【0014】
本実施例に係る有価金属回収方法について、図1を用いて説明する。まず、放電処理を行った廃リチウムイオン電池を解体して粉砕する(ステップ101)。そして、粉砕物を篩い分け処理を施して、筐体、パッキン・安全弁、回路素子類、セパレータ、集電体などに分別する(ステップ102)。分別した粉砕物のうち、リチウムイオン電池の活物質(正極材、負極材、電解質)を鉱酸中に投入し、活物質に含まれる有価金属類を溶解(酸滲出)させ、酸溶解液を得る(ステップ103)。溶解させる溶液としては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸など鉱酸の1種類でも複数混合しても良い。
【0015】
次に、得られた酸滲出液からリチウムイオンを回収する(ステップ104)。本実施例では、この酸滲出液をリターデーション装置(図4)でリターデーション処理することにより、Liを多く含むA液、Coを多く含むB液、酸を多く含むC液に十分に分離される。この回収液から酸とLiの分別は、いわゆるアシッドリターデーション法を用い、すなわち陰イオン交換樹脂カラムのドナン膜効果を利用して分離する。アシッドリターデーション法については、非特許文献2に記載がある。
【0016】
以下、図1に示す工程に従って有価金属回収フローを詳しく説明する。
【0017】
廃電池から有価金属を回収するためには、まず電池を解体する必要があるが、解体に先立ち、電池内には電荷が残っている可能性があるので、放電する。本発明では、電解質を含有する導電性液体中に電池を浸漬することによって電池内に残っている電荷を放電させる。
【0018】
本実施形態においては、電解質を含有する導電性液体として硫酸/γブチロラクトン混合溶液を用いた。この混合溶液中では硫酸が電解質として作用するので硫酸濃度を調節することによって導電率(抵抗値の逆数)を調整することができる。本実施例では、放電槽の右端〜左端までの溶液の電気抵抗を実測したところ100kΩであった。溶液の抵抗値が小さすぎると放電が急速に進みすぎて危険であるし、逆に、抵抗値が大きすぎると放電に時間がかかりすぎて実用性が低下する。本実施例では、溶液抵抗が1kΩ〜1000kΩ程度の範囲にあることが望ましく、この抵抗値範囲に入るように電解質濃度を調整すると良い。
【0019】
ここで、本実施例の廃電池としては、所定の充放電回数の限界に達して充電容量が低下してしまったいわゆる使用済み電池の他に、電池製造工程内での不具合などで発生する半製品、製品仕様変更に伴って発生する旧型式在庫整理品なども含む。
【0020】
ステップ101にて放電処理後の廃電池を解体する。適当な方法を用いて筐体、パッキン・安全弁、回路素子類、スペーサ、集電体、セパレータ、正極および負極の電極活物質などの放電処理後の廃電池の電池構成部材をそれぞれ部材毎に解体分別する。
【0021】
なお、廃リチウムイオン電池は内部にガスが充満して加圧状態になっていることが多いので、作業安全上の配慮が必要であることは言うまでも無い。本実施例では、上記の電解質を含有する導電性液体に浸漬した状態で冷却しながら湿式粉砕した。冷却下での湿式粉砕を採用したことにより、電池内部に充満しているガスを大気中に飛散させることなく安全に破砕することができた。
【0022】
また、集電体表面に塗工・成形された正極活物質および負極活物質をそれぞれの集電体表面からの剥離を促進するために、電解質を溶解する上記電解質を含有する導電性液体の組成を調整することは差し支えない。尚、放電工程に使用する導電性液体では導電性が留意すべき特性であり、湿式粉砕工程に使用する導電性液体では粘度や誘電率が留意すべき特性である。
【0023】
放電工程と湿式粉砕工程では要求仕様が異なるので、工程毎に使用する導電性液体の組成を換えても良いが、その場合には2種類以上の導電性液体を準備する必要がある。本実施例では、簡便化や手間・コストの抑制の観点から、同一の組成とした。
【0024】
本実施例で使用可能な湿式粉砕法としては、例えばボールミルなどの方法があるが、必ずしもこれに限るわけではない。筐体、パッキン・安全弁、回路素子類、スペーサ、集電体、セパレータ、電極活物質などの構成部材のうち、正極の電極活物質(以下正極活物質)と負極の電極活物質(負極活物質)が優先的に破砕する条件で破砕した後に、篩い分け処理を施す。これにより、正極活物質と負極活物質は篩い下、それ以外の部材は篩い上に分別回収される(ステップ102)。
【0025】
本実施例においては篩い分けを用いたが、もともと湿式にて粉砕しているのであるから、湿式粉砕によって得られたスラリーをそのまま比較的目の粗いフィルターを用いて濾別処理にて分別しても良い。湿式粉砕〜濾別の連続処理を導入することにより、回収率が向上する可能性もある。尚、筐体、パッキン・安全弁、集電体(アルミ箔、銅箔)などは、正極活物質(典型的にはLiCoO)や負極活物質(典型的にはグラファイト)よりも延展性が大きく、従って破断強度も大きい。この特性のために、電極活物質の破砕物はそれ以外の部材から得られる破砕物よりもサイズが小さくなり、その結果として、篩い分けあるいは濾別によって容易に分別回収することができる。
【0026】
上記処理によって得られた篩い下物を溶解(酸滲出;ステップ103)する。酸滲出溶液には、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸を単独で用いてもよく、また、メタノール、過酸化水素などを混合してもよい。ただし、滲出の効率の点では、過酸化水素が最も好ましいが、後述する分離・回収の点では硫酸が最も好ましい。本実施例では、過酸化水素と硫酸の等量混合物を用いた。
【0027】
本実施例で使用した廃電池の正極活物質はLiCoOを主成分とするリチウム化合物であるが、リン酸鉄やニッケル、マンガンなど他組成の正極活物質を含んでいても構わない。なお、塩酸を含有する処理液は、塩素ガスが発生する危険性があるので、塩酸を含有しないことが望ましいが、塩酸を含有する処理液を使用してもよい。その場合、塩酸を含有する処理液をゆっくり滴下するのではなく一気に混合する場合には、リチウム化合物が激しく反応して溶解すると共に塩素ガスを副生しやすい傾向があるが、γブチロラクトンなどの溶媒に更にメチルアルコールやジメチルスルホンなどをあらかじめ混合してから塩酸に添加して得られる処理液を用いるか、あるいはCuO、CuCl、SnCl、シリカゲルなどを篩い下物にあらかじめ添加しておいてから酸滲出処理すると、塩素ガス副生が少なくなりやすく、あるいは副生した塩素ガスの放出量が少なくなりやすい傾向があった。また、硝酸を含有する処理液は、イオン交換樹脂と接触して爆発する恐れがあるので、低濃度に希釈するなど取り扱いに注意を要する。
【0028】
本実施例で使用できる鉱酸としては、硫酸(29%〜98%)、塩酸(36%)のほか、リン酸、硝酸あるいはこれらの混合酸である。また、還元剤としてメタノール、過酸化水素水などと鉱酸を混合してもよい。リチウムとの分離が困難なリチウム以外のアルカリ金属類(ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム)を含有する鉱酸は使わないものとする。リチウム化合物の種類や組成、処理量、処理時間、コストなどを考慮して、これらの中から適宜選択できる。上記の酸滲出処理が終了した後、溶け残っている負極活物質(炭素材)は滲出液をろ過することによって除去できる。
【0029】
次に、酸滲出液からCoイオン、Liイオン、酸性溶液を分離回収するための工程を行う。具体的には、アシッドリターデーション(Acid Retardation)とよばれる技術を用いて分離を行う。アシッドリターデーションとは、陰イオン交換樹脂を満たした容器中に酸とその塩を通液した場合、酸の塩、酸の順で溶出する現象である。これを利用すれば、酸とその塩を分離回収することができる。ここで、本発明者は、酸の塩として複数の塩を含んだ酸性溶液を陰イオン交換樹脂に通液した場合、遷移金属イオンが先に溶出し、次にリチウムイオンが溶出し、その後に酸が溶出することを見出した。原因としてはイオン半径差、静電相互作用(分子間力)の影響が考えられるが、詳細のところは不明である。
【0030】
LiイオンとCoイオンを塩として含む酸性溶液のアシッドリターデーションではCoはLiよりも先に溶出することを利用すれば、回収液中に含まれるCoを除去してLiを回収することができる。また、正極材から酸滲出後、中和工程を経ずに直接リターデーション処理を実施するので、Liとの分離が困難なNaやKを加えずにLiを回収できる。アシッドリターデーションでは、イオン交換樹脂を管状または筒状などの中空容器に充填して、酸滲出液を注入すると、溶出時間の差により分離され、Co、Li、酸の順で分離された液を回収する。
【0031】
図2に、アシッドリターデーション装置7を示す。酸金属分離槽1は、酸滲出液槽2と溶液経路3a及び3bで結ばれている。さらに、酸金属分離槽1には、純水を導入するための溶液経路3cが接続されて、また、溶液経路3d〜fとバルブ4を介して第1の回収容器5及び第二の回収容器6と接続されている。
【0032】
酸滲出液槽2内には、酸性溶液が貯留されており、この中に電極活物質を浸漬されることで、ステップ103の酸滲出処理を行う。溶液経路3a〜fはパイプ、チューブなどで構成され、その内部に溶液を通し各槽・回収容器を接続している。バルブ4は溶液経路3dからの溶液の経路を、溶液経路3eと溶液経路3fに切り替える。本実施例では、バルブにより経路を切り替えているが、これに代えて回収容器5,6への溶液経路3がそれぞれ別に酸金属分離槽1に接続されていてもよい。
【0033】
酸金属分離槽1内には、イオン交換樹脂が充填されている。本実施例では、イオン交換樹脂に、強塩基性陰イオン交換樹脂、ダイヤイオンMA03SS(日本錬水製、「ダイヤイオン」は登録商標)を用いたが、これに限定されず塩基性陰イオン交換樹脂ならば強塩基性I (トリメチルアンモニウム)型陰イオン交換樹脂、強塩基性II型(ジメチルエタノールアンモニウム)陰イオン交換樹脂などを用いることができる。強塩基性陰イオン交換樹脂ならば、イオン吸着の効果が高い。I型、II型の差としては、メンテナンスの点では、I型は再生し難く再生剤が多量に必要であるが、II型は再生容易で再生剤が少量ですむ。大容量を処理したり、高濃度金属イオンを処理したりして再生処理の必要頻度が高いときはII型を用いる。一方、I型はII型と比較して、漏洩が少ないことと、化学(温度)的安定性に優れている利点がある。高純度精製したいときにII型を使用する。本実施例ではI型のゲル型を用いたが、ポーラス型でもよい。回収Liイオンの純度は、イオン交換容量、架橋密度、樹脂の粒径、などによって調整される。
【0034】
なお、Coイオンがイオン交換樹脂に吸着することで吸着状態をモニタリングするために、イオン交換樹脂に発色機能を持たせることもできる。強塩基性I型陰イオン交換樹脂の場合は、Coが吸着することで、発色するようなイミノジ酢酸型官能基などのキレート剤を修飾することもできる。吸着状態がモニタリングできれば、溶液経路切り替えのタイミングを図ることができる。
【0035】
また、キレート樹脂をイオン吸着手段として用いれば、Liイオンを先に溶出させ、Coイオンを後に溶出させることができる。キレート樹脂は、たとえば、2価金属イオンを選択的に捕捉し、1価金属イオンは捕捉しないからである。この場合、金属回収の順番は上記と逆になる。強塩基性II型陰イオン交換樹脂の場合は、エタノール由来のヒドロキシル基を有しているので、これにカルボキシル基など付加すればキレート官能基として用いることができる。
【0036】
なお、ここに示したアシッドリターデーション装置は詳細が省略されているが、各溶液経路3の流入口・流出口にはそれぞれ圧力計、流量計が設けられている。また、導電率計、pH計、イオン濃度計などのセンサ類のほか、液の流れを整流するための整流機構、処理液を加圧送液する為の加圧機構、全体を制御するための制御機構などの機能を実現するために必要な機器・装備は過不足なく備え付けられている。
【0037】
次にアシッドリターデーション分離フローを説明する。図3(a)〜(c)に示すようなフローでアシッドリターデーション分離を行う。このときの分離操作時の時間に対する酸金属分離槽1から流出する金属イオン濃度のチャートの模式図を図4に示す。
【0038】
まず、図3(a)に示すように、上記までの工程で得られたLiイオン、Coイオンを含む酸滲出液を酸浸出液槽5に貯めた状態から、酸滲出液を溶液経路3bを介して金属分離槽1へ、一回で処理する酸滲出液の全量を供給する。一回の処理で処理する酸滲出液の量は、イオン交換樹脂で十分に吸着してアシッドリターデーション処理の効果を奏することができる量とする。そして、酸滲出液はイオン交換樹脂に通液される(実際にはイオン交換樹脂の粒内を通液せず粒の表面を流れるが、集合したイオン交換樹脂の粒の間を通液する場合もこのように表現する)。Liイオン及び酸(水素イオン)はイオン交換樹脂に吸着されるため、酸金属分離槽1からの流出液は、図4に示す期間Dのように、Coイオン濃度が高くなっている。この流出液を、溶液経路3d、バルブ4及び溶液経路3cを経由して第一の回収容器5に回収する。回収は、酸滲出液の供給中に開始してもよいし、供給終了後に開始してもよい。容器5には、Coを高濃度で含む(Coイオンに対するLiイオンの濃度比が低い)溶液が回収される。
【0039】
酸滲出液の供給を停止した状態で溶出を行い、さらに時間が進むと、図4の期間Eのように、流出液のCoイオン濃度が減少しLiイオン濃度が増加する。酸金属分離槽1内のCoイオンの大部分が流出済みであり、次に流出しやすいLiイオンが流出し始めるからである。このときは、図3(b)に示すように、バルブ4を切り替え、溶液経路3d、バルブ4及び溶液経路3fを経由し、第二の回収容器6に回収する。回収は、Coイオン濃度を低く抑えるため、酸浸出液の供給を止めた状態で行う。また、後述の酸の遊離を起こさないように、pHが高まる原因となる液体(純水など)や他の溶液も供給しない。容器6には、Liイオンを高濃度で含み(Coイオンに対するLiイオンの濃度比が高い)、Coイオンや酸の濃度が低い溶液が回収される。
【0040】
第二の回収容器への回収が終わると、図3(c)のように溶液操作を行う。第二の回収容器6への回収は、イオン交換樹脂への液体供給を止めた状態で行っているので、期間Fの開始時点では酸金属分離槽1内の溶液量は少なくなっている。ここでイオン交換樹脂を再生し酸を回収するために、溶液経路3cより金属分離槽1に純水(再生水)を供給する。酸金属分離槽1を純水(酸滲出液よりも酸性弱い液体)が通液すると、pHが高くなることによりイオン交換樹脂が吸着していた酸が遊離する。また、このときの溶出液では、図4の期間Fに示すように、CoイオンとLiイオンはすでに溶出した後なので低濃度となっている。この遊離した酸を含む溶出液を溶液経路3aより回収し、酸滲出液槽5に貯める。酸滲出液槽5に回収された酸は、繰り返しステップ103の酸滲出処理に使用することができる。回収した酸に新たに正極活物質を溶解させて酸滲出液とし、またアシッドリターデーション処理を行う。LiイオンやCoイオンが回収液に混じっていても、次の酸滲出処理後の酸滲出液に含まれるので、再度酸金属分離を行い、回収容器5,6に回収することができる。また、酸が遊離したイオン交換樹脂は、アシッドリターデーション処理前の状態に戻っているので、処理なしで次のアシッドリターデーションに用いることができる。
【0041】
期間D〜Fの切り替えタイミングとしては、時間によって行ってもよい。また、計測器によって酸金属分離槽1内を計測し、計測結果に基づいて切り替えてもよい。計測器としては、イオン導電率計(溶液の導電率を測定)、pHメーター(溶液のpHを測定)、吸光度計(イオンを補足すると着色したときに発色するイオン交換樹脂を使用した場合に使用可能)などを用いることができる。
【0042】
また、実施例の説明では、期間DとEの切り替え(溶液の流れの切り替え)は溶出液のCoイオン濃度が十分に低くなったとき、期間EとFの切り替えは、Liイオン濃度が十分に低くなったときに行うようになっているが、これに限らず、Liイオン濃度が十分に上昇した場合に期間DからEに切り替えてもよい。この場合、Liイオンを回収するための容器6内のCoイオン濃度が高くなってしまうが、後述の実施例のように、さらにイオン分離処理を行うことで解決できる。また、図4では期間D〜Fを瞬時に切り替えているが、各期間に重なりをもたせたり、期間D〜Fの間に溶液の流出を休止する休止期間を設けてもよい。
【0043】
上記のステップ103、ステップ104のように、リチウムイオン電池の正極活物質を酸性溶液に滲出させ、酸滲出液のアシッドリターデーション処理を行った。処理したリチウムイオン電池の正極活物質は、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム等のリチウムと遷移金属と含む複合酸化物である。マンガン、ニッケルもコバルトと同様に遷移金属であり、2価のイオンになりやすいことが共通しており、またイオン半径が近く、コバルトと同様の効果が期待できる。
【0044】
アシッドリターデーション処理した後の溶出液の分析結果を図5に示す。処理前の酸滲出液は、Coイオンによって桃色に呈色しており、そのLi/Co濃度比は0.2である。アシッドリターデーション処理の初期にイオン交換樹脂から溶出する溶液は、処理前の酸滲出液よりも濃い桃色を呈している。これは、Coイオンを高濃度で含んでいることを示している。その後、図5のG点で、溶出液をサンプリングし、そのLi/Co濃度比を測定したところ、その値は4.2となった。これは、G点では既にLiの溶出が始まっていることが示している。さらに、H点での溶出液をサンプリングしたところ、Li/Co濃度比は289となっていた。これは、Coイオンの溶出がほぼ終了し、主にLiイオンが溶出していることを示している。この時点での溶出液を用いれば、リチウム高濃縮が可能であることがわかる。
【0045】
また、Coイオンのほかの主な有価金属成分として、マンガンイオン、ニッケルイオンが検出されたが、これらのイオンはG点では検出されたがH点ではほとんど検出されなかった。従って、LiCoO以外の正極材料にも使用できることがわかった。例えば、LiNiO、LiMnO、Li(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O、LiCoPO、LiFePO、LiCoPO、LiFePO等のオリビン系正極材などの場合も、液のpH調整によってLiとそれ以外のCo、Ni、Mn、Feを水酸化物として沈殿回収できる。この透析処理後の酸滲出液からのコバルト、ニッケル、マンガンの分別回収には、pH調整によって水酸化物として沈殿回収法や溶媒抽出などの方法が使用できる。
【0046】
以上、本実施例によれば、Liと遷移金属を含むリチウムイオン電池から、Liと遷移金属を分離して、再利用しやすい形態で回収することができる。
【実施例2】
【0047】
本実施例においては、まず、電池の解体、正極材の取り出し、正極材の酸滲出、1回目のアシッドリターデーション処理を実施例1と同様に行う。本実施例では、その後、回収液に対して、アシッドリターデーション処理を再度行い、アシッドリターデーション処理を多段階で実施することにより、Li、Co、酸の分離率をほぼ累乗の関係で高めることができる。
【0048】
処理対象とする回収液については、遷移金属イオンを多く含む第一の回収容器5内の溶液でも、Liイオンを多く含む第二の回収容器6内の溶液でも、どちらも対象となる。
対象の溶液を酸滲出液槽2内に注入し、酸金属分離槽1内でアシッドリターデーション処理を行い、溶出した液をまず第一の回収容器に、次に第二の回収容器6内に回収することにより、さらに遷移金属イオンに対するLiイオンの濃度比が低い溶液を第一の回収容器5内に回収し、または、さらに遷移金属イオンに対するLiイオンの濃度比が高い溶液を第二の回収容器6内に回収することができる。このように同じ溶液について繰り返し多段階で分離処理を行うことにより、さらにLiイオンと遷移金属イオンが分離した溶液を回収することができる。
【0049】
使用する装置としては、実施例1と同一の装置でよい。純水による酸回収により酸金属分離槽1内のイオンを一掃し使用前の状態に戻すため、特別な洗浄なしで同一のアシッドリターデーション装置を繰り返し使用することができる。なお、繰り返し処理を行うことにより、Li、Co、酸いずれも濃度が希釈される傾向がある。そのため、ある一定の濃度に希釈された溶液は、濃縮工程を経ることで、それぞれ高純度のLi、Co、酸を回収することができる。
【実施例3】
【0050】
本実施例においては、電池の解体、正極材の取り出し、正極材の酸滲出、アシッドリターデーション処理は、実施例1と同様に行う。本実施例では、酸滲出後、アシッドリターデーションの原理を用いてLi、Co、酸の分離を行う前に、イオン交換膜の設置されている透析装置(図6)を用いて透析処理を行う点が、実施例1との相違である。
【0051】
透析処理では、イオン交換膜をLiが選択的に透過することにより、Liを高純度回収する。アシッドリターデーション処理では、ドナン膜効果により、Liと遷移金属とを分離する。この2つの作用によりLiを高純度に回収することができる。
【0052】
本実施例における有価金属回収装置に用いる透析槽8の概略構造を図6に示す。図6に示した透析槽8には、ろ過処理後の酸滲出液を供給するための酸滲出液流入口9および透析を受けた酸滲出液が流出する酸滲出液流出口10を備えた透析用加圧タンク13と、酸およびリチウムを透析回収するための回収液を供給するための回収液流入口11および透析膜15を透過して出てきた酸およびリチウムを溶かし込んでいる回収液が流出する回収液流出口12を備えた回収液タンク14が備え付けられている。また、透析用加圧タンク13と回収液タンク14とは透析膜15を介して接続された構造となっている。
【0053】
本実施例では透析膜15として旭硝子製の拡散透析用の陰イオン交換膜であるセレミオンDSV(「セレミオン」は登録商標)を加工して、透析用加圧タンク13と回収液タンク14との間にはめ込んで使用した。本発明では他の陰イオン交換膜を使用することもできるが、その場合、イオン輸率や耐酸化性を考慮して選定することが望ましい。
【0054】
酸滲出液槽1(図2)からの、Liイオン及び遷移金属イオンを含む酸浸出液は、酸滲出液流入口9から加圧タンク13に流入する。また、回収液流入口11からは、回収液(純水)が供給される。透析膜15のLiイオンの輸率はCoイオンの輸率よりも著しく大きい。透析膜15の透析前の酸滲出液中に溶解しているLi/Co濃度比は約0.1であったが、1段の透析によって回収された回収液中に溶解しているLi/Co濃度比は約0.7となっており、リチウムが濃縮回収されていることが判った。従って、本実施例で使用した透析膜(旭硝子製セレミオンDSV)中のリチウムイオンの輸率はコバルトイオンの輸率の約7倍ということである。透析によりLiイオン濃度が低下した酸滲出液は、酸滲出液流出口10から回収される。この回収液をさらに酸金属分離槽1(図2)でアシッドリターデーション処理を行い、Liと遷移金属に分離してもよい。また、高濃度のLiイオンと低濃度の遷移金属イオンが溶解した回収液は、回収液が流出する回収液流出口12を経て酸金属分離槽1(図2)に導入され、アシッドリターデーション処理が行われ、さらにLiイオンと遷移金属イオンの分離が行われる。
【0055】
なお、本実施例では、圧力透析を用いたが、透析の原理を活用する方法であれば、推進力(駆動源)は圧力に関わらず電気透析など他の方法も使用できる。
【0056】
以上、透析処理とアシッドリターデ−ション処理を併用することで、正極材からLi、Co、酸を分離・回収することができる。
【実施例4】
【0057】
本実施例においては、電池の解体、正極材の取り出し、正極材の酸滲出は、実施例1と同様に行った。硫酸と過酸化水素の混合溶液などを用いて正極活性物質の中からLiを選択的に、あるいは非選択的に酸滲出後、アシッドリターデーションの原理を用いてLi、Co、酸の分離を行う。アシッドリターデーションは、ドナン膜効果により、Liと遷移金属とを分離する。その次に、イオン交換膜の設置されている透析装置(図6)を用いて透析処理を行った。
【0058】
透析は、イオン交換膜をLiが選択的に透過することにより、Liを高純度回収する。この透析とアシッドリターデーションの2つの作用によりLiを高純度に回収することができる。
【0059】
本実施例における有価金属回収装置に用いる透析槽8の概略構造を図6に示す。透析槽としては、実施例3と同じである。酸滲出液流入口9からは、アシッドリターデーション処理を行った回収液を流入させる。対象となる回収液としては、遷移金属を多く含む第一の回収容器5内の回収液でも、Liを多く含む第二の回収容器6内の回収液でも、Liと遷移金属を含んでいればどちらでもよい。透析によりLiイオン濃度が低下した(遷移金属イオンの濃度比が高まった)酸滲出液は、酸滲出液流出口10から回収される。また、Liイオンが溶解した回収液は、回収液流出口12から回収される。この回収液は、元のアシッドリターデーション処理直後の回収液に比べて、Liイオンの遷移金属イオンに対する濃度比が高くなっており、Liが回収しやすくなっている。
【0060】
以上、透析処理とアシッドリターデ−ション処理を併用することで、正極材からLi、Co、酸を高純度に分離・回収することができた。
【符号の説明】
【0061】
1…酸金属分離槽、2…酸滲出液槽、3a〜3f・・・溶液経路、5,6・・・回収容器、67…アシッドリターデーション装置、8…透析装置、9…酸滲出液流入口、10…酸滲出液流出口、11…酸およびリチウムを透析回収するための回収液流入口、12…回収液流出口、13…透析用加圧タンク、14…回収液タンク、15…透析膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム及び遷移金属元素を含むリチウムイオン電池の正極材から金属を回収する金属回収方法において、
前記正極材を、酸性溶液に溶解させ、リチウムイオンと遷移金属イオンとを前記酸性溶液内に滲出させる酸滲出工程と、
前記リチウムイオン及び遷移金属イオンを含む酸性溶液を塩基陰イオン交換樹脂に通液し、前記イオン交換樹脂から溶出した溶液を第一の容器に回収し、その後に前記イオン交換樹脂から溶出した溶液を第二の容器に回収する金属分離工程とを含むことを特徴とする金属回収方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第一の容器に回収した溶液と、前記第二の容器に回収した溶液では、リチウムイオンの遷移金属イオンに対する濃度比が異なっていることを特徴とする金属回収方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記第二の容器内の溶液における前記リチウムイオンの遷移金属イオンに対する濃度比は、前記第一の容器内に溶液における前記濃度比よりも高いことを特徴とする金属回収方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
金属分離工程では、前記イオン交換樹脂への液体供給を止めた状態で前記イオン交換樹脂から溶出した溶液を第二の容器に回収することを特徴とする金属回収方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記酸性溶液を通液した後の前記塩基性陰イオン交換樹脂に、前記酸性溶液よりも酸性の弱い溶液を通液し、回収する酸回収工程を含むことを特徴とする金属回収方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記回収した溶液を、前記酸滲出工程でイオンを滲出させる酸性溶液として用いることを特徴とする金属回収方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記第一の容器への回収から前記第二の容器への回収への切り替えを、時間によって行うことを特徴とする金属回収方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記イオン交換樹脂またはそれを通水している溶液を測定する測定手段を有し、当該測定手段の測定結果に基づいて、前記第一の容器への回収から前記第二の容器への回収への切り替えを行うことを特徴とする金属回収方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかにおいて、
前記金属分離工程を複数回行うことを特徴とする金属回収方法。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれかにおいて、
前記酸滲出工程後であり前記金属分離工程前、または前記金属分離工程後に、前記酸滲出液または前記溶液を浸透膜で処理する浸透工程を行うことを特徴とする金属回収方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかにおいて、
前記酸性溶液は、鉱酸であることを特徴とする金属回収方法。
【請求項12】
請求項11において、
前記鉱酸は、硫酸であることを特徴とする金属回収方法
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれかにおいて、
前記遷移金属イオンは、コバルトイオン、ニッケルイオン、マンガンイオンのいずれかを含むであることを特徴とする金属回収方法。
【請求項14】
金属回収装置において、
その内部で、リチウムイオン電池の正極材からリチウムイオンおよび遷移金属イオンを酸性溶液に滲出させて酸滲出液を生成する酸滲出液槽と、
内部に塩基性陰イオン交換樹脂を有し、前記酸滲出液槽からの酸滲出液を前記イオン交換樹脂に通液する酸金属分離槽と、
前記イオン交換樹脂から溶出した溶出液を回収する第一の回収手段と、
前記第一の回収手段に回収される溶液よりも遅く前記イオン交換樹脂から溶出する溶液を回収する第二の回収手段を備えた金属回収装置。
【請求項15】
請求項14において、
前記第二の回収手段の溶液における前記リチウムイオンの遷移金属イオンに対する濃度比は、前記第一の回収手段の溶液における前記濃度比よりも高いことを特徴とする金属回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図3(c)】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−46794(P2012−46794A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190252(P2010−190252)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】