説明

金属回収装置及び金属回収方法

【課題】低品位な金属含有物質から経済的に金属を回収できる金属回収装置及び金属回収方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る金属回収装置及び金属回収方法は、硫黄酸化菌を用いて硫黄を含む有機物から硫酸を発生させ、この硫酸で金属含有物から金属を溶出させて硫酸金属を生成し、これを電気分解して金属を精製することとした。金属回収装置301は、硫黄酸化菌が存在する槽11を有し、槽11に投入された硫黄成分を含む有機物31から硫黄酸化菌により発生した硫酸で槽11に投入された金属含有物33に含まれる金属を溶出させて槽11内に硫酸金属を生成する硫酸金属生成手段と、槽11内に配置されたアノード13及びカソード14で硫酸金属生成手段で生成された硫酸金属を電気分解する電気分解手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式精錬法を利用して金属を含む物質から金属を回収する金属回収装置及び金属回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属は一般的には鉱石より取り出される。しかし、人類の経済活動に伴う鉱石の採掘にともなって年々その品位は低下し鉱石中の金属元素成分は少なくなってきている。これに対応するため、ヒープリーチングといわれる金属工学的手法により低品位鉱石の金属成分の濃縮および製錬・精錬が行われるようになってきている(例えば、非特許文献1を参照。)。ヒープリーチングとは、金属の多くが通常の環境で硫酸により腐食し、化学的あるいは電気化学的にイオンとなって溶出することを利用し、硫酸に鉱石を浸し、溶出する金属イオンを回収し濃縮する湿式精錬法である。
【0003】
一方、社会資本や生産財として社会の中で利用された金属は、腐食その他の劣化現象により、化学的に酸化し、あるいは物理的に破損し、ごみ(無機ごみ)として廃棄される。このようにして廃棄されるごみには金属成分が一定量含まれるので「都市鉱山」などといわれることもある。文献によれば、不燃ごみに15%程度の鉄・非鉄金属が含まれているとの報告もある(例えば、非特許文献2を参照。)。このような都市鉱山の金属品位は極めて低いが、ごみの堆積場などにおいて放置される間に有効に金属成分の濃縮を行うことができれば、金属をふたたび抽出して利用することが可能になることから、金属の回収源として期待されていた。
【0004】
【非特許文献1】独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構、平成19年度(第5回)非鉄金属関連成果発表会資料「バイオリーチング等を活用した湿式製錬技術開発」、神谷太郎http://www.jogmec.go.jp/mric_web/koenkai/070823/breifing_07823_2.pdf(2008年8月18日検索)
【非特許文献2】北海道大学工学部 環境社会工学科、平成13年度卒業論文「粗大・不燃破砕ごみ熱分解残渣の金属分布に関する研究」 廃棄物処分工学分野 中嶋尚平http://wastegr2−er.eng.hokudai.ac.jp/home/study/2001/grthesis/nakajima.pdf(2008年8月18日検索)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、携帯電話のような電子回路に利用されていている金等の貴金属や、稀少価値がある電子材料の希土類金属は回収されているが、都市鉱山のごみに含有する低品位の金属を回収することは、ヒープリーチングでも経済的に実施が困難である。
【0006】
このため、経済的効果を上げる手段として、金属を硫酸に溶出させる速度を速くするバイオリーチングも知られている(例えば、非特許文献1を参照。)。バイオリーチングはヒープリーチングを発展させたもので、例えば、鉄を共存させた液体中で銅鉱石から銅を製錬できる。より詳細には、バイオリーチングは、微生物(鉄酸化細菌)を用いて鉄の酸化を促進させ、鉄よりもイオン化傾向が小さい銅のイオンで酸化した鉄を還元させて金属銅として回収する方法である。
【0007】
しかし、いずれの方法も、硫酸を購入し、一定の場所を確保してヒープと呼ばれる堆積場を作成し、そこに一定期間鉱石を放置をして金属の溶出をまち、金属を溶出した硫酸の液を回収することになるため、特別な薬品(硫酸)の確保、並びに、溶出した液の保管及び輸送に係る安全上の管理が必要という課題があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、安全且つ経済的に低品位な金属含有物質から金属を回収できる金属回収装置及び金属回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明に係る金属回収装置は、硫黄酸化菌を用いて硫黄を含む有機物から硫酸を発生させ、この硫酸で金属含有物から金属を溶出させて硫酸金属を生成し、これを電気分解して金属を精製することとした。
【0010】
具体的には、本発明に係る金属回収装置は、硫黄酸化菌が存在する槽を有し、前記槽に投入された硫黄成分を含む有機物から前記硫黄酸化菌により発生した硫酸で前記槽に投入された金属含有物に含まれる金属を溶出させて前記槽内に硫酸金属を生成する硫酸金属生成手段と、前記槽内に配置された電極で前記硫酸金属生成手段が生成する硫酸金属を電気分解する電気分解手段と、を備える。
【0011】
また、本発明に係る金属回収方法は、硫黄成分を含む有機物、金属含有物及び硫黄酸化菌を混合する混合手順と、前記混合手順の後、前記金属含有物に含まれる金属を前記硫黄酸化菌が前記有機物から発生させた硫酸で溶出させて硫酸金属を生成する硫酸金属生成手順と、前記硫酸金属生成手順の後、前記硫酸金属生成手順で生成した硫酸金属を電気分解する電気分解手順と、を備える。
【0012】
金属含有物とともに槽に投入された有機物から硫酸を発生させるため、硫酸を確保する必要がない。また、同一の槽内で電気分解を行うため、硫酸金属の保管及び輸送の管理が不要である。さらに、金属イオンが電荷を運んで金属に還元される量は電気化学におけるファラデーの法則により通電量に比例するので、金属イオンの濃度の濃薄にかかわらず通電量は金属の析出量で決まる。このため、投入される金属含有物に含まれる金属の多少にかかわらず同一の析出量の金属を回収するのに要する費用(通電料金)は同じである。
【0013】
従って、本発明は、安全且つ経済的に低品位な金属含有物質から金属を回収できる金属回収装置及び金属回収方法を提供することができる。
【0014】
本発明に係る金属回収装置及び金属回収方法に用いられる前記硫黄酸化菌は、チオバチルス・チオオキシダンスとすることができる。
【0015】
本発明に係る金属回収装置の前記電気分解手段の前記電極は、少なくとも3つであり、それぞれがアノード、カソード及び前記カソードの電位を測定する参照電極であることが好ましい。すなわち、本発明に係る金属回収方法の前記電気分解手順は、参照電極でカソードの電位を測定しながら電気分解することが好ましい。カソードの電位を所望の回収金属の酸化還元電位に保つことができ、回収金属の品位を向上させることができる。また、カソードの電位を変更することで回収する金属の種類を容易に変更することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、安全且つ経済的に低品位な金属含有物質から金属を回収できる金属回収装置及び金属回収方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0018】
図1は、本実施形態の金属回収装置301の概略構成図である。金属回収装置301は、硫黄酸化菌が存在する槽11を有し、槽11に投入された硫黄成分を含む有機物31から硫黄酸化菌により発生した硫酸で槽11に投入された金属含有物33に含まれる金属を溶出させて槽11内に硫酸金属を生成する硫酸金属生成手段と、槽11内に配置されたアノード13及びカソード14で硫酸金属生成手段が生成した硫酸金属を電気分解する電気分解手段と、を備える。金属回収装置301は、硫黄酸化菌が存在する槽11が硫酸金属生成手段に含まれ、アノード13、カソード14及び直流電源20が電気分解手段に含まれる。
【0019】
図2は、金属回収装置301が行う金属回収方法のフローチャートである。金属回収装置301は、硫黄成分を含む有機物31、金属含有物33及び硫黄酸化菌を混合する混合手順S01と、混合手順S01の後、金属含有物33に含まれる金属を硫黄酸化菌が有機物31から発生させた硫酸で溶出させて硫酸金属を生成する硫酸金属生成手順S02と、硫酸金属生成手順S02の後、硫酸金属生成手順S02で生成した硫酸金属を電気分解する電気分解手順S03と、を備える金属回収方法で金属含有物33から金属を回収する。
【0020】
以下、都市鉱山のごみから金属を回収する例を用いて金属回収装置301を詳細に説明する。一般に、家庭や事業場から出されるごみは有機系のごみと無機系のごみに分類される。有機系のごみが硫黄成分を含む有機物31となる。有機系のごみには食品(肉、魚、植物等)の食べ残し、とくにたんぱく質に含まれる硫黄分が構成元素として存在するからである。有機系のごみとして下水道の水を利用してもよい。また、無機系のごみが金属含有物33となる。無機系のごみには金属イオンが存在するからである。無機ごみとしてはいわゆるスクラップなどの金属廃材を用いてもよいし、低品位高品位によらず鉱石を用いてもよい。
【0021】
なお、硫黄は石油、石炭、鉄鋼業等の排煙脱硫により大量に発生、回収される安価な副産物であるから、ごみのなかに硫黄を添加してもよい。このようにすれば、硫黄酸化菌が硫酸を作りやすくなるのでより効果的である。
【0022】
槽11は、混合手順S01でごみが投入され、ごみと硫黄酸化菌とが混合する場所である。槽11は、例えば、ごみを堆積できる場所(ごみ堆積槽)である。槽11は、硫黄酸化菌が活動できるところであればどのような場所でもかまわないが、木製の樽や桶、陶磁器、あるいは耐食鋼製の釜などが好ましい。耐食性被覆をつけたコンクリート製プールなどでもよい。生成物の液成分が外部に漏れないことが望ましい。大きさについては特に制限がないが、硫黄酸化菌が呼吸を起こすことを考えるとごみのなかで通気がとれる程度、すなわち、攪拌などの特別な処理を行わないのであれば5m以下の厚さでごみを入れることができることが望ましい。
【0023】
硫黄酸化菌は、槽11内に生息していてもよいし、あとからごみと同時に投入してもよい。また、硫黄酸化菌としては有機物から硫酸を生成するものであればよいが、一例としてチオバチルス・チオオキシダンス(Thiobacillus thiooxidans)があげられる。硫黄酸化菌の濃度は任意であるが、ごみのなかの硫黄成分と反応することを考えると、含まれている硫黄成分の数量モル濃度と同じ数量モル濃度以上になるようにするのが好ましい。以下、混合手順S01でごみと硫黄酸化菌を混合した混合物をごみ微生物混合物と記載する。
【0024】
硫酸金属生成手順S02で、ごみ微生物混合物を放置するとごみ微生物混合物の中で硫黄酸化菌が繁殖して硫酸を発生し、金属含有物33の金属成分が溶出されて硫酸金属が生成することになる。この間の時間は外気の温度にもよるが、常温(25℃)でのチオバチルス・チオオキシダンスの増殖を考えると、好気的な条件で十分な硫黄成分が含まれていれば2、3日で硫酸が生成し金属が溶出しはじめる。
【0025】
次に、電気分解手順S03で、ごみ微生物混合物が入っている層11のなかに設置された電気分解手段の電極(アノード13、カソード14)を通じて電圧をかける。このとき、ごみ微生物混合物のなかに直接電極を差し込んでもよい。電極への電圧のかけ方は連続して一定電圧をかけてもよいし、電圧を変動させてもよい。電極については本数を問わないが、好ましくは電極を2本以上用いて電極間に電圧(電位差)を持たせることが望ましい。
【0026】
電気分解手段のカソード14としては、例えば銅の回収であるなら純銅を使用するというように、目的金属の純金属板を用いるが、カーボンなどの不溶性の電極でもよいし、ステンレス鋼などの不働態でもよい。電気分解手段のアノード13としては、不溶性の電極を用いるのが好ましいが、抽出を目的とする金属の粗金属や純金属、あるいは貴な金属との合金を用いてもよい。
【0027】
アノード13とカソード14との間に印加する電圧は目的の金属により異なるが、電気化学列が周知であるのでそれを参照して適宜決めればよい。このときのカソード14の電位を所定値に制御することによって槽11の液中に存在する特定の金属イオンをカソード14上に析出させることができる。一例として銅の場合には、常温(25℃)での希硫酸中での銅の酸化還元電位が標準水素電極を基準として+0.34Vであることから、この電位に保持して通電すればよい。効率を上げるには過電圧を加えてもよい。また、電圧については別途参照電極(不図示)を用いて測定しながら電気分解するのが望ましい。
【0028】
金属イオンはごみから硫黄酸化菌が発生させた硫酸により溶出して拡散し電極まで到達するので、ごみにあらかじめ水を含ませておくと、より効率が高くなる。水が存在するときには、金属イオンはイオン伝導によりカソードに移動するから、必ずしも金属イオンの濃度が高い必要はなく、電位差を駆動力としてカソードに金属が集めることができる。
【0029】
このときに、金属イオンが電荷を運んで金属に還元される量は電気化学におけるファラデーの法則により通電量に比例するので、金属イオンの濃度にかかわらず通電量は金属の析出量で決まる。したがって金属含有物33が高品位であっても低品位であっても同一の析出量の金属を回収するのに要する費用(通電料金)は同じである。
【0030】
本実施例の方法でカソード14に堆積した金属については、必要に応じて回収を行って電解精錬などの既存の方法で純度をあげることができる。
【0031】
なお、本実施例の方法で副次的に硫黄酸化菌は増殖を起こすことになるから、使用済みのごみ微生物混合物は硫黄酸化菌源として、次に本実施例で金属回収を行う際に再利用することも可能である。
【0032】
本実施例の金属回収方法を用いれば、金属含有量の多いごみからはもちろんのこと、金属含有量の少ないごみからも含有量が多いごみの場合と同じ費用で、金属を回収することができる。また、特別な薬品(硫酸)を用意する必要がない。さらに、通常のごみ堆積場所においてその場で固体の金属を回収することができるから金属イオンを含む液体が外部に拡散して周囲に鉱毒被害を及ぼすことがない。
【0033】
上記実施の形態では有機物31と金属含有物33とを区別して記載したが、有機物31と金属含有物33とを区別せず、有機系と無機系を混合した有機無機混合ごみとしてもよい。例えば、電気ケーブルや電気通信ケーブルのようなメタルケーブルで銅線と被覆からなる場合には、銅線と被覆をはがして分離する必要はなく、銅線と被覆を混在で切り刻んで有機無機混合ごみとして層11に投入してもよい。従来、メタルケーブル廃棄の際に作業者が被覆を剥がし、銅を回収していた。金属回収装置301を利用すれば、細かく裁断してゴミ処理場で微生物混合物とし、電気分解で銅を回収することができるため、人的稼働が大きな負荷であった被覆をはがす工程を省略することができる。
【0034】
なお、上記実施の形態では電気分解を利用して金属を回収する方法を説明したが、槽に回収する金属よりイオン化傾向の大きい金属を投入することで電気分解を行わずに所望の金属を回収することもできる。例えば、銅イオンが溶解している場合に鉄を投入すると鉄の表面でイオンの交換が起こって銅が付着する。しかし、このような方法では、鉄と入れ替わる銅は表面のみであり、回収されるのは必ず鉄と銅の混合物となる。目的物である銅を純粋に回収するには、鉄と銅を熱化学的あるいは電気化学的に分離する後処理工程が別途必要になる。金属回収装置301は、前述のようにイオン化傾向の大きな金属が不要であり、後処理工程も不要であるため、前述の方法より経済的に金属を回収することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る金属回収装置及び金属回収方法は、ごみから金属を回収するだけでなく、鉱物から金属を精製する場合にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る金属回収装置の概略構成図である。
【図2】本発明に係る金属回収方法のフローチャートである。
【符号の説明】
【0037】
11:槽
13:アノード
14:カソード
20:直流電源
31:有機物
33:金属含有物
S01:混合手順
S02:硫酸金属生成手順
S03:電気分解手順

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄酸化菌が存在する槽を有し、前記槽に投入された硫黄成分を含む有機物から前記硫黄酸化菌により発生した硫酸で前記槽に投入された金属含有物に含まれる金属を溶出させて前記槽内に硫酸金属を生成する硫酸金属生成手段と、
前記槽内に配置された電極で前記硫酸金属生成手段が生成する硫酸金属を電気分解する電気分解手段と、
を備える金属回収装置。
【請求項2】
前記硫黄酸化菌は、チオバチルス・チオオキシダンスであることを特徴とする請求項1に記載の金属回収装置。
【請求項3】
前記電気分解手段の前記電極は、少なくとも3つであり、それぞれがアノード、カソード及び前記カソードの電位を測定する参照電極であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属回収装置。
【請求項4】
硫黄成分を含む有機物、金属含有物及び硫黄酸化菌を混合する混合手順と、
前記混合手順の後、前記金属含有物に含まれる金属を前記硫黄酸化菌が前記有機物から発生させた硫酸で溶出させて硫酸金属を生成する硫酸金属生成手順と、
前記硫酸金属生成手順の後、前記硫酸金属生成手順で生成した硫酸金属を電気分解する電気分解手順と、
を備える金属回収方法。
【請求項5】
前記硫黄酸化菌は、チオバチルス・チオオキシダンスであることを特徴とする請求項4に記載の金属回収方法。
【請求項6】
前記電気分解手順は、参照電極でカソードの電位を測定しながら電気分解することを特徴とする請求項4又は5に記載の金属回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−100865(P2010−100865A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270628(P2008−270628)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】