説明

金属多孔体とその製造方法、および溶融塩電池

【課題】溶融塩電池の電極として用いることに適した金属多孔体として三次元網目構造を有しアルミニウムからなる金属多孔体およびその製造方法、さらにそれを用いた溶融塩電池を提供することを目的とする。
【解決手段】中空骨格により三次元網目構造をなす金属多孔体であって、該中空骨格は1μm〜100μmの厚さのアルミニウム層で形成され、前記アルミニウム層の内側表面および外側表面に錫層を備えた金属多孔体とした。かかる金属多孔体は三次元網目構造を有する樹脂成形体の表面に錫層を形成する内側錫層形成工程と、前記内側錫層の表面にアルミニウム層を形成するアルミニウム骨格形成工程と、前記アルミニウム骨格の表面に錫層を形成する外側錫層形成工程と、前記アルミニウム骨格形成工程の後または前記外側錫層形成工程の後に、前記樹脂成形体を除去する樹脂除去工程とにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムを骨格とする金属多孔体およびその製造方法に関し、さらに当該金属多孔体を用いた溶融塩電池に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元網目構造を有する金属多孔体は、各種フィルタ、触媒担体、電池用電極など多方面に用いられている。例えばニッケルからなるセルメット(住友電気工業(株)製:登録商標)がニッケル水素電池やニッケルカドミウム電池等の電池の電極材料として使用されている。セルメットは連通気孔を有する金属多孔体であり、金属不織布など他の多孔体に比べて気孔率が高い(90%以上)という特徴がある。これは発泡ウレタン等の連通気孔を有する多孔体樹脂の骨格表面にニッケル層を形成した後、熱処理して発泡樹脂成形体を分解し、さらにニッケルを還元処理することで得られる。ニッケル層の形成は、発泡樹脂成形体の骨格表面にカーボン粉末等を塗布して導電化処理した後、電気めっきによってニッケルを析出させることで行われる。
【0003】
一方、電池用途においてアルミニウムは、例えばリチウムイオン電池の正極として用いられており、アルミニウム箔の表面にコバルト酸リチウム等の活物質を塗布したものが使用されている。正極の容量を向上するためには、アルミニウムを多孔体にして表面積を大きくし、アルミニウム内部にも活物質を充填することが考えられる。電極を厚くしても活物質を利用でき、単位面積当たりの活物質利用率が向上するからである。
【0004】
多孔質のアルミニウムとしては、繊維状のアルミニウムを絡み合わせたアルミ不織布や、アルミニウムを発泡させたアルミ発泡体がある。特許文献1には、金属を溶融させた状態で発泡剤および増粘剤を加えて攪拌することによる、多数の独立気泡を含む発泡金属の製造方法が開示されている。また、特許文献2にはセルメットの製造方法をアルミニウムに応用した金属多孔体の製造方法として、三次元網目状構造を有する発泡樹脂成形体の骨格にアルミニウムの融点以下で共晶合金を形成する金属(銅等)による皮膜を形成した後、アルミニウムペーストを塗布し、非酸化性雰囲気下で550℃以上750℃以下の温度で熱処理をすることで有機成分(発泡樹脂)の消失及びアルミニウム粉末の焼結を行い、金属多孔体を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4176975号公報
【特許文献2】特開平8−170126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アルミ不織布やアルミ発泡体は、製造工程においてアルミニウムを融点以上の温度に加熱するため、冷却するまでの間に酸化が進みやすく表面に酸化皮膜ができやすい。アルミニウムは酸化しやすく、またいったん酸化すると融点以下の温度で還元するのは困難であるので、アルミ不織布やアルミ発泡体では酸化皮膜の少ないものが得られない。また独立気泡(閉気泡)を有するアルミ発泡体は、発泡によって表面積が大きくなってもその表面全てを有効に利用することができない。そのため電池の電極材料(集電体)として使用した場合に活物質の利用効率を上げることが難しい。
【0007】
特許文献2の方法によればアルミニウムと共晶合金を形成する層が出来てしまい、純度の高いアルミニウム層が形成できない。また非酸化性雰囲気下ではあるが、アルミニウムを焼結させるためにアルミニウムの融点に近い温度で熱処理する必要があり、アルミニウムの表面に酸化膜が生成する可能性がある。
【0008】
さて、本発明者らはカチオンとしてNa(ナトリウム)イオンを主として含み、90℃以下で溶融する溶融塩を備えた溶融塩電池の開発を進めている。この溶融塩電池では、負極の活物質として金属Naを用いることも考えられるが、Naのデンドライト成長による充放電サイクル効率の低下や、Naの温度上昇に従う軟化の問題がある。そこで、Naを錫(錫)と合金化して硬度を高くすることが考えられ、先に集電体上に錫層を形成しておき、充電によりNaを供給することでNa−錫合金とすることができる。集電体としては軽量であり、集電性が良好であるという観点からアルミニウムを用いるのが好ましい。
【0009】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、溶融塩電池の電極として用いることに適した金属多孔体として三次元網目構造を有しアルミニウムからなる金属多孔体およびその製造方法、さらにそれを用いた溶融塩電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、中空骨格により三次元網目構造をなす金属多孔体であって、該中空骨格は1μm〜100μmの厚さのアルミニウム層で形成され、前記アルミニウム層の内側表面および外側表面に錫層を備えたことを特徴とする金属多孔体である(請求項1)。
【0011】
このような網目構造を備え、表面積の大きな金属多孔体を電池用電極に用いることにより、集電体表面に活物質を効率よく担持することができ、電池容量および充放電効率の向上に寄与することができる。特に、本発明では活物質として機能する錫層を集電体となるアルミニウム骨格の外側表面のみならず内側表面にも備えることから、骨格内側空間にも活物質を担持し、電池としての動作をさせることが可能となり、活物質量、電極面積の増大により容量の向上を図ることが可能となる。
【0012】
錫層の厚さは0.5μm以上10μm未満が好ましい(請求項2)。0.5μm未満では電池用電極として用いた場合に活物質としての容量が十分に得られず、10μm以上ではNaが錫層の深くまで合金化することにより、充放電性能の低下を招く。
【0013】
このような金属多孔体は、三次元網目構造を有する樹脂成形体の表面に錫層を形成する内側錫層形成工程と、前記内側錫層の表面にアルミニウム層を形成するアルミニウム骨格形成工程と、前記アルミニウム骨格の表面に錫層を形成する外側錫層形成工程と、前記アルミニウム骨格形成工程の後または前記外側錫層形成工程の後に、前記樹脂成形体を除去する樹脂除去工程とを備える金属多孔体の製造方法により得ることができる(請求項3)。
【0014】
本願発明者らは電池用電極に適したアルミニウム多孔体の開発に取り組む中で、多孔体外側表面のみならず中空骨格である内側表面をも電池作用に寄与させるという発想に及んだ。そして、アルミニウム骨格を形成する前に予め活物質となる金属層を樹脂成形体表面に形成し、アルミニウムめっきの導電層を兼ねるという本発明に想到した。このような製造方法により、アルミニウム多孔体の製造工程における樹脂表面への導電層形成がそのまま活物質層の形成となり、効率の良い製造が可能とできる。
【0015】
ここで、前記樹脂除去工程は、金属層が表面に形成された樹脂成形体を濃度62%以上の濃硝酸に接触させて前記樹脂成形体を分解する硝酸処理工程とすることが好ましい(請求項4)。
【0016】
樹脂成形体の樹脂としては一般にウレタン(ポリウレタン)が用いられる。ウレタンは有機溶剤には溶解しにくいが、濃硝酸中で分解されて除去可能となることを本願発明者らは見いだした。アルミニウムは酸やアルカリに溶解する性質を持つ。しかし酸化性の濃硝酸中では、アルミニウムの表面にごく薄い酸化皮膜(不動態膜)が形成されてそれ以上アルミニウムが溶解しない。本願発明は、ウレタンを分解して除去可能とすることと、アルミニウムを溶解させないことを両立するために最適な濃硝酸の濃度を見いだした。また、錫も濃硝酸に溶解するが、ウレタンの分解の方が早く進むために、適当な処理時間で処理を止めることにより、錫を残した状態で樹脂除去工程を終えることが可能である。
【0017】
樹脂除去工程をアルミニウム骨格形成工程の後で外側錫層形成工程の前に行えば、内側に適当な厚さの錫層を残し、外側表面がアルミニウムの状態で次に外側錫層形成工程を行うことで、錫層を形成することができる。また、外側錫層形成工程の後に樹脂除去工程を行えば、外側錫層も樹脂除去の過程で一部溶解することになるが、予め錫層の厚さを十分に形成しておき、樹脂除去の時間を適切に選択することにより、必要な厚さの錫層を残すことが可能である。
【0018】
また本発明は、前述の金属多孔体を負極電極体として用いた溶融塩電池を提供する(請求項6,7)。集電体としてのアルミニウムを多孔体とすること、および多孔体骨格としてのアルミニウムの外側表面のみならず内側表面にも活物質となる錫層が設けられていることにより、かかる金属多孔体を負極電極体として用い、それを組み込んだ電極とすることによって容量の大きな高性能の電池を実現することが可能とできる。
【0019】
さらに硝酸処理工程の後、さらに有機溶剤に接触させて樹脂成形体の分解物を除去する溶剤処理工程を備えるとウレタンの除去率を上げることができ好ましい(請求項5)。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、溶融塩電池の電極として用いることに適した金属多孔体として三次元網目構造を有しアルミニウムからなる金属多孔体およびその製造方法、さらにそれを用いた溶融塩電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による金属多孔体の製造工程を示すフロー図である。
【図2】本発明による金属多孔体の製造工程を説明する断面模式図である。
【図3】多孔質樹脂成形体の一例としての発泡ウレタン樹脂の構造を示す表面拡大写真である。
【図4】金属多孔体を溶融塩電池に適用した構造例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を説明する。以下で参照する図面で同じ番号が付されている部分は同一またはそれに相当する部分である。なお本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0023】
(金属多孔体の製造工程)
図1は、本発明による金属多孔体の製造工程を示すフロー図である。また図2は、フロー図に対応して樹脂成形体を芯材として金属多孔体を形成する様子を模式的に示したものである。両図を参照して製造工程全体の流れを説明する。まず基体樹脂成形体の準備101を行う。図2(a)は、基体樹脂成形体の例として、連通気孔を有する発泡樹脂成形体の表面を拡大視した樹脂の断面の一部を示す拡大模式図である。発泡樹脂成形体1を骨格として気孔が形成されている。次に樹脂成形体表面の導電化を兼ねて内側錫層となる錫層の形成102を行う。この工程により、図2(b)に示すように樹脂成形体1の表面には薄く錫層2が形成される。続いて溶融塩中でのアルミニウムめっき103を行い、錫層が形成された樹脂成形体の表面にアルミニウムめっき層3を形成する(図2(c))。これで、樹脂成形体を基材として表面にアルミニウムめっき層3が形成されたアルミニウム被覆樹脂成形体が得られる。次に、アルミニウムめっき層の表面への錫層の形成104を行う(図2(d))。これで、基体樹脂成形体の表面に、錫層−アルミニウム層−錫層が形成されるが、後述のようにこの3層に限定されるものではない。例えば錫層の形成のために一旦亜鉛層を形成させる場合には、間に亜鉛層を挟む場合もある。その後、基体樹脂成形体の除去105を行う。例えば、アルミニウム被覆樹脂成形体を濃度62%以上の濃硝酸に接触させて発泡樹脂成形体1を分解して除去することにより金属層のみが残った中空骨格を有する金属多孔体(多孔体)を得ることができる(図2(e))。なお、基体樹脂の除去105は、図1では外側錫層の形成104の前に行っても良い。その場合は外側錫層が基体除去工程によって影響されることなく所望の厚さの錫層を形成しやすい。以下各工程について順を追って説明する。
【0024】
(多孔質樹脂成形体の準備)
三次元網目構造を有し連通気孔を有する樹脂成形体、例えばウレタンからなる発泡樹脂成形体を準備する。連続した気孔(連通気孔)を有するものであれば任意の形状の樹脂成形体を選択できる。例えば繊維状の樹脂を絡めて不織布のような形状を有するものも発泡樹脂成形体に代えて使用可能である。発泡樹脂成形体の気孔率は80%〜98%、気孔径は50μm〜500μmとするのが好ましい。発泡ウレタンは気孔率が高く、また気孔の連通性があるとともに気孔の均一性にも優れているため発泡樹脂成形体として好ましく使用できる。
【0025】
発泡樹脂成形体には発泡体製造過程での製泡剤や未反応モノマーなどの残留物があることが多く、洗浄処理を行うことが後の工程のために好ましい。発泡樹脂成形体の例として、発泡ウレタンを洗浄処理したものを図3に示す。樹脂成形体が骨格として三次元的に網目を構成することで、全体として連続した気孔を構成している。発泡ウレタンの骨格はその延在方向に垂直な断面において略三角形状をなしている。ここで気孔率は、次式で定義される。
気孔率=(1−(多孔質材の重量[g]/(多孔質材の体積[cm]×素材密度)))×100[%]
また、気孔径は、樹脂成形体表面を顕微鏡写真等で拡大し、1インチ(25.4mm)あたりのセル数を計数して、平均孔径=25.4mm/セル数として平均的な値を求める。
【0026】
(樹脂成形体表面への錫層の形成:気相法)
まず発泡樹脂成形体の表面に導電層として機能する内側錫層を形成する。錫層の形成は蒸着、スパッタ、プラズマCVD等の気相法、錫塗料の塗布等任意の方法で行うことができる。薄い膜を均一に形成できるため蒸着法が好ましい。内側錫層の厚みは0.5μm〜10μm、好ましくは1.5μm〜5μmとすることが好ましい。層の厚みは0.1μmもあればアルミニウムめっきのための導電化としては充分であるが、内側錫層として溶融塩電池負極として利用する場合には、0.5μmよりも薄いと活物質の量としては不十分で効果が少なく、10μmより厚いと骨格中空の空隙が狭くなりすぎて活物質として効果的に機能しない。
【0027】
(めっき前処理:アノード電解)
上記工程で形成された錫層の上に、溶融塩めっきによりアルミニウムをめっきしてアルミニウムめっき層を形成する。このとき導電層の表面に酸化膜が存在すると、次のめっき工程においてアルミニウムの付着性が悪くなり、島状にアルミニウムが付着したり、アルミニウムめっき層の厚みにばらつきが生じる可能性がある。従ってめっき工程の前に陽極電解処理を行い、錫層の表面に生成した酸化皮膜を溶解して除去することが好ましい。具体的には、錫層が形成された樹脂成形体とアルミ板等の対極を溶融塩中に浸漬し、樹脂成形体(導電層)を陽極側に、対極を陰極として直流電流を印加する。溶融塩は、次の工程の溶融塩めっきと同じ物を使用しても良いし、別の物であっても良い。
【0028】
(めっき前処理:非酸化雰囲気)
錫層の酸化を防ぐ別の手法として、錫層を形成した後、樹脂成形体を酸化雰囲気中に曝すことなく次の工程であるめっき工程に移動することが考えられる。例えばアルゴン雰囲気中に蒸着装置と溶融塩めっき装置を入れておき、アルゴン雰囲気中で蒸着による導電化工程を行った後、アルゴン雰囲気中でサンプルを次の工程に移送し、溶融塩めっきを行うことができる。このような手法により前工程で形成された錫層の表面を酸化させることなくめっきを行うことができる。
【0029】
(アルミニウム層の形成:溶融塩めっき)
次に溶融塩中で電解めっきを行い、樹脂成形体表面にアルミニウムめっき層を形成する。表面が錫層で導電化された樹脂成形体を陰極、純度99.99%のアルミニウム板を陽極として溶融塩中で直流電流を印加する。アルミニウムめっき層の厚みは1μm〜100μm、好ましくは5μm〜20μmである。溶融塩としては、有機系ハロゲン化物とアルミニウムハロゲン化物の共晶塩である有機溶融塩、アルカリ金属のハロゲン化物とアルミニウムハロゲン化物の共晶塩である無機溶融塩を使用することができる。比較的低温で溶融する有機溶融塩浴を使用すると、基材である樹脂成形体を分解することなくめっきができ好ましい。有機系ハロゲン化物としてはイミダゾリウム塩、ピリジニウム塩等が使用できる。なかでも1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(EMIC)、ブチルピリジニウムクロライド(BPC)が好ましい。イミダゾリウム塩として、1,3位にアルキル基を持つイミダゾリウムカチオンを含む塩が好ましく用いられ、特に塩化アルミニウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(AlCl−EMIC)系溶融塩が、安定性が高く分解し難いことから最も好ましく用いられる。
【0030】
溶融塩中に水分や酸素が混入すると溶融塩が劣化するため、めっきは窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、かつ密閉した環境下で行うことが好ましい。有機溶融塩浴としてEMIC浴を用いた場合、めっき浴の温度は10℃から60℃、好ましくは25℃から45℃である。
【0031】
溶融塩浴としてイミダゾリウム塩浴を用いる場合、溶融塩浴に有機溶媒を添加することが好ましい。有機溶媒としてはキシレンが特に好ましく用いられる。有機溶媒、中でもキシレンの添加によりアルミニウム多孔体の形成に特有の効果が得られる。すなわち、多孔体を形成するアルミニウム骨格が折れにくいという第1の特徴と、多孔体の表面部と内部とのめっき厚さの差が小さい均一なめっきが可能であるという第2の特徴が得られる。第1の特徴は、有機溶媒の添加によって骨格表面のめっきが粒状(凹凸が大きく表面観察で粒のように見える)から平坦な形状に改善されることにより、厚さが薄く細い骨格が強固になるものである。第2の特徴は溶融塩浴に有機溶媒を添加することにより、溶融塩浴の粘度が下がり、細かい網目構造の内部へめっき浴が流通しやすくなることによるものである。すなわち、粘度が高いと多孔体表面には新たなめっき浴が供給されやすく、逆に内部には供給されにくいところ、粘度を下げることによって内部にもめっき浴が供給されやすくなることにより、均一な厚さのめっきを行うことが可能となる。めっき浴への有機溶媒の添加量は、25〜57mol%が好ましい。25mol%以下では表層と内部の厚み差を小さくする効果が得られ難い。また57mol%以上ではめっき浴が不安定となり部分的にめっき液とキシレンが分離してしまう。
【0032】
さらに、前記の有機溶媒を添加した溶融塩浴によりめっきする工程に次いで、前記有機溶媒を洗浄液として用いる洗浄工程をさらに有することが好ましい。めっきされた樹脂の表面はめっき浴を洗い流すために洗浄が必要となる。このようなめっき後の洗浄は通常は水で行われる。しかし、イミダゾリウム塩浴は水分を避けることが必須であるところ、洗浄を水で行うと水蒸気の形などでめっき液に水が持ち込まれることになる。よって、めっきへの悪影響を防ぐために水での洗浄は避けたい。そこで、有機溶媒による洗浄が効果的である。さらに上記のようにめっき浴に有機溶媒を添加する場合、めっき浴に添加した有機溶媒で洗浄を行うことによりさらなる有利な効果が得られる。すなわち、洗浄されためっき液の回収、再利用を比較的容易に行うことができ、コスト低減が可能となる。たとえば、溶融塩AlCl−EMICにキシレンを添加した浴が付着しためっき体をキシレンで洗浄する場合を考える。洗浄された液体は、使用しためっき浴に比較してキシレンが多く含まれた液体となる。ここで溶融塩AlCl−EMICはキシレン中に一定量以上は混ざり合わず、上側にキシレン、下側に約57mol%のキシレンを含む溶融塩AlCl−EMICと分離するため、分離した下側の液を汲み取ることで溶融液を回収することができる。さらにキシレンの沸点は144℃と低いので、熱を加えることで回収溶融塩中のキシレン濃度をめっき液中濃度にまで調整し、再利用することが可能となるのである。なお、有機溶媒での洗浄の後に、めっき浴とは離れた別の場所において水でさらに洗浄することも好ましく用いられる。
【0033】
(アルミニウム表面への錫層の形成)
アルミニウム層の表面に錫層をめっき等の方法で形成する。めっきは、Al製の集電体に錫を電気化学的に析出させる電気めっき、又は錫を化学的に還元析出させる無電解めっきにより行うことができる。ここで、アルミニウムの表面には酸化膜が形成されやすく、酸化膜を有する表面に錫層を直接形成した場合、錫層が剥離し易い。そこで、好ましい態様として、アルミニウム上に亜鉛置換めっきを行った後に錫めっきにて被膜を形成すると良い。亜鉛置換めっきは酸化膜を除去しながらめっきが進行するので、酸化膜が突き破られた状態で亜鉛皮膜が形成され、亜鉛皮膜上に密着性良好に錫めっき皮膜を形成することができる。すなわち、亜鉛置換めっき液は強アルカリ性であるため、酸化膜の溶解が進行し、下地のアルミニウムが露出した時点で亜鉛イオンはアルミニウムから電子を奪って析出し、アルミニウムが溶解して錫めっき皮膜が良好に形成され得る。従って、密着性が良好であるので、めっきにより成膜されることと相まって、薄膜化することが可能である。
【0034】
具体的には、まず、前処理として、集電体が有する酸化膜をアルカリ性のエッチング処理液により除去するソフトエッチング処理を行う。次に、硝酸を用いてデスマット[スマット(溶解残渣)除去]処理を行う。水洗した後、酸化膜が除去された集電体の表面に対し、ジンケート処理液を用いてジンケート処理(亜鉛置換めっき)を行い、亜鉛皮膜を形成する。ここで、一度亜鉛皮膜の剥離処理を行い、ジンケート処理を再度行うことにしてもよい。この場合、より緻密で薄い亜鉛皮膜を形成することができ、アルミニウム層との密着性が向上し、亜鉛の溶出を抑制することができる。
【0035】
次に、亜鉛皮膜が形成された集電体をめっき液が注入されためっき浴に浸漬して錫めっきを行い、錫めっき皮膜を形成する(錫めっき工程)。
以下に、電気めっきにより錫めっき皮膜を形成する場合のめっき条件の一例を示す。
・めっき液の組成
SnSO: 40 g/dm
SO: 100 g/dm
クレゾールスルホン酸: 50 g/dm
ホルムアルデヒド( 37 %): 5 ml/dm
光沢剤
・pH: 4.8
・温度: 20 〜 30 ℃
・電流密度: 2 A/dm
・アノード:錫
・処理時間: 600 秒(錫めっき皮膜の膜厚が略10μmの場合)
【0036】
錫めっき皮膜を形成する前に、亜鉛皮膜上にニッケルめっき皮膜を形成することにしてもよい。以下に、ニッケルめっき皮膜を形成する場合のめっき条件の一例を示す。
・めっき液の組成
硫酸ニッケル: 240 g/L
塩化ニッケル: 45 g/L
ホウ酸: 30 g/L
・pH: 4.5
・温度: 50 ℃
・電流密度: 3 A/dm
・処理時間: 330 秒(膜厚略3μmの場合)
このニッケルめっき皮膜を中間層として形成することにより、錫めっきを行うときに、酸性又はアルカリ性のめっき液を用いることができる。Niめっき皮膜を形成しない場合に酸性又はアルカリ性のめっき液を用いたとき、亜鉛がめっき液に溶出する。
【0037】
上述の錫めっき工程において、0.5μm以上200μm以下のいずれかの膜厚になるようにSnめっき皮膜を形成するのが好ましい。膜厚は、集電体のめっき液への浸漬時間等を制御することにより調製される。前記膜厚が0.5μm以上200μm以下である場合、溶融塩電池負極として用いた場合に所望の電極容量が得られ、体積変化による膨張によりSnめっき皮膜が破断して短絡すること等が抑制される。そして、ナトリウムイオンを吸蔵して合金化した場合にNa負極より表面硬度が高くなる。破断がより抑制されるので、膜厚は0.5μm以上100μm以下であるのがより好ましく、より充放電の容量維持率が向上するので膜厚は0.5μm以上50μm以下であるのがさらに好ましい。そして、放電電圧の低下が抑制できるので、膜厚は1μm以上20μm以下であるのが特に好ましく、さらに容量維持率が向上し、負極の表面硬度上昇効果がより良好であるので、膜厚は5μm以上10μm以下であるのが最も好ましい。
【0038】
さらに、亜鉛をアルミニウム層側に拡散させる亜鉛拡散工程を有するのが好ましい。この亜鉛拡散工程として、温度200℃以上230℃以下で30秒乃至5分程度、熱処理を行うものが挙げられる。なお、亜鉛皮膜の厚みに応じて、処理温度を400℃以上に上げてもよい。この亜鉛拡散工程は省略することにしてもよいが、熱処理を行った場合、亜鉛をアルミニウム側へ拡散させることができるので、溶融塩電池負極として使用した場合に、亜鉛に基づく充放電を抑制して電池の充放電サイクル特性を向上させ、デンドライトの発生を抑制して安全性を向上させることができる。
【0039】
(樹脂の分解:濃硝酸処理)
以上の工程により骨格の芯として樹脂成形体を有する金属被覆樹脂成形体が得られる。次に基体樹脂の除去を行う。金属被覆樹脂成形体を酸化性の酸である濃硝酸に接触させる。濃硝酸液中に金属被覆樹脂成形体を浸漬しても良いし、濃硝酸液を金属被覆樹脂成形体に噴霧しても良い。濃硝酸の濃度は62%以上とする。この工程でウレタンが分解され、低分子量化したウレタンが硝酸に溶解して除去可能となる。アルミニウムはほとんど溶解せず、発泡樹脂成形体由来の多孔質構造が維持される。錫は硝酸に溶解するが、処理時間を適切に選択することにより所望の厚さの錫層を残すことが可能である。すなわち、内側錫層については、ウレタンが先に分解した後に錫層の溶解が始まるので、錫層が充分分解する時間を把握して処理を終えることで対応可能である。また外側錫層はウレタンの分解と共に溶解するだけの厚さを予め見越してめっきしておくことで所望の厚さを残すことが可能である。
【0040】
硝酸の濃度が62%よりも低い場合、ウレタンはある程度は低分子量化するが固形分が残留しウレタンを完全に除去できない。また濃度が62%よりも低くなると金属層のの溶解量が多くなり、良好な金属多孔体が得られない。濃硝酸の濃度の上限は特に制限されないが、実用的には70%程度である。濃硝酸は粘度が小さい液体であるので、多孔質の金属被覆樹脂成形体の細部にまで液が入り込みやすく、ムラなく均一にウレタンを分解可能である。
【0041】
(樹脂の分解:熱処理)
上記の工程によりウレタンが除去され、金属多孔体が得られる。しかし低分子量化したウレタンの分解物が微量残る可能性があるため、さらに後処理を行うことが好ましい。後処理方法としては、上記熱処理温度よりも低温での熱処理、有機溶剤との接触等が挙げられる。低温度の熱処理の場合、200℃以上230℃以下の温度で熱処理を行うことが好ましい。金属多孔体に残留しているウレタンは硝酸処理工程で低分子量化しているため、この程度の温度でも分解されて除去される。230℃以下とするのは錫の融点以下で処理するためである。この温度であれば金属層の酸化をほとんど進行させることなくウレタンを除去可能であるが、酸化を防ぐため、熱処理は不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。このような方法で樹脂を除去することで、表面の酸化層を薄く(酸素量を少なく)できる。ウレタン残渣をより効率良く除去するためには窒素ガスなどの気体を流しながら熱処理することが好ましい。
【0042】
(樹脂の分解:有機溶剤処理)
有機溶剤と接触させて後処理を行っても良い。濃硝酸処理を行った金属多孔体を有機溶剤に浸漬しても良いし、濃硝酸処理を行った金属多孔体に有機溶剤を噴霧しても良い。これらの後処理は単独で行ってもよいし、両方を組み合わせても良い。有機溶剤としてはアセトン、エタノール、トルエン等任意のものを使用できる。臭素系溶剤、塩素系溶剤、フッ素系溶剤等のハロゲン系有機溶剤は溶解性に優れるとともに不燃性であるため安全性の面で好ましい。
【0043】
以上、金属多孔体の形成工程を説明したが、前述の通り、基体樹脂の除去は、アルミニウムの溶融塩めっきの後に行って、その後に錫層を形成しても良い。
【0044】
(溶融塩電池)
本発明の金属多孔体は、カチオンとしてナトリウム(Na)イオンを主として含み、90℃以下で溶融する溶融塩を備えた溶融塩電池用の負極電極材料として好ましく使用することができる。かかる電池において負極活物質としてNaを使用した場合には、Naの融点が98℃と低く、温度上昇に伴って軟化し易いので、錫(Sn)と合金化して硬度を高くすることが考えられる。この場合、先に集電体上に錫層を形成しておき、充電によりNaを供給することでNa−Sn合金とすることができる。集電体としては軽量であり、集電性が良好であるという観点からアルミニウムが適している。本発明の金属多孔体は集電体となるアルミニウム骨格に錫層が密着しており、さらに中空骨格の内側と外側の両方に活物質層を備えることができることから、電池容量を大きくとることが可能となる。
【0045】
図4は上記の電池用電極材料として金属多孔体を用いた溶融塩電池の一例を示す断面模式図である。溶融塩電池は、たとえばアルミニウムを表面とする金属多孔体のアルミ骨格部の表面に正極用活物質を担持した正極121と、アルミニウムの表面に錫層を備えた金属多孔体である負極122と、電解質である溶融塩を含浸させたセパレータ123とをケース127内に収納したものである。ケース127の上面と負極との間には、押え板124と押え板を押圧するバネ125とからなる押圧部材126が配置されている。押圧部材を設けることで、正極121、負極122、セパレータ123の体積変化があった場合でも均等押圧してそれぞれの部材を接触させることができる。正極121の集電体(アルミニウム多孔体)、負極122の集電体(錫層を備えたアルミニウム多孔体)はそれぞれ、正極端子128、負極端子129に、リード線130で接続されている。
【0046】
電解質としての溶融塩としては、動作温度で溶融する各種の無機塩又は有機塩を使用することができる。溶融塩のカチオンとしては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)等のアルカリ金属、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)等のアルカリ土類金属から選択した1種以上を用いることができる。
【0047】
溶融塩の融点を低下させるために、2種以上の塩を混合して使用することが好ましい。例えばKFSAとNaFSAとを組み合わせて使用すると、電池の動作温度を90℃以下とすることができる。
【0048】
溶融塩はセパレータに含浸させて使用する。セパレータは正極と負極とが接触するのを防ぐためのものであり、ガラス不織布や、多孔質樹脂等を使用できる。上記の正極、負極、溶融塩を含浸させたセパレータを積層してケース内に収納し、電池として使用する。
【0049】
以上の説明は、以下の特徴を含む。
(付記1)
中空骨格により三次元網目構造をなす金属多孔体であって、
該中空骨格は1μm〜100μmの厚さのアルミニウム層で形成され、
前記アルミニウム層の内側表面および外側表面に錫層を備え、
前記アルミニウム層と前記外側表面の錫層との間には亜鉛層を有することを特徴とする金属多孔体。
(付記2)
三次元網目構造を有する樹脂成形体の表面に錫層を形成する内側錫層形成工程と、
前記内側錫層の表面にアルミニウム層を形成するアルミニウム骨格形成工程と、
前記アルミニウム骨格の表面に錫層を形成する外側錫層形成工程と、
前記アルミニウム骨格形成工程の後または前記外側錫層形成工程の後に、前記樹脂成形体を除去する樹脂除去工程とを備え、
前記外側錫層形成工程は、前記アルミニウム層の表面に亜鉛置換めっきにより亜鉛被膜を形成する工程と、
前記亜鉛被膜の表面に錫めっきを行う工程を有する、金属多孔体の製造方法。
【符号の説明】
【0050】
1 発泡樹脂
2 内側錫層
3 アルミニウムめっき層
4 外側錫層
121 正極 122 負極 123 セパレータ 124 押え板
125 バネ 126 押圧部材 127 ケース 128 正極端子
129 負極端子 130 リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空骨格により三次元網目構造をなす金属多孔体であって、
該中空骨格は1μm〜100μmの厚さのアルミニウム層で形成され、
前記アルミニウム層の内側表面および外側表面に錫層を備えたことを特徴とする金属多孔体。
【請求項2】
前記錫層の厚さが0.5μm以上10μm未満であることを特徴とする請求項1に記載の金属多孔体。
【請求項3】
三次元網目構造を有する樹脂成形体の表面に錫層を形成する内側錫層形成工程と、
前記内側錫層の表面にアルミニウム層を形成するアルミニウム骨格形成工程と、
前記アルミニウム骨格の表面に錫層を形成する外側錫層形成工程と、
前記アルミニウム骨格形成工程の後または前記外側錫層形成工程の後に、前記樹脂成形体を除去する樹脂除去工程とを備える金属多孔体の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂除去工程は、金属層が表面に形成された樹脂成形体を濃度62%以上の濃硝酸に接触させて前記樹脂成形体を分解する硝酸処理工程を有する、請求項3に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂除去工程は、前記硝酸処理工程の後、さらに有機溶剤に接触させて前記樹脂成形体の分解物を除去する溶剤処理工程を備える、請求項3又は4に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の金属多孔体、または請求項3〜5のいずれか1項に記載の製造方法により製造された金属多孔体からなる、溶融塩電池用の負極電極体。
【請求項7】
アルミニウム層からなる中空の骨格金属層と該骨格金属層の内側表面および外側表面を覆う錫層を有する三次元網目構造の金属多孔体を、負極電極として備える溶融塩電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−82483(P2012−82483A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230656(P2010−230656)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】