説明

金属多孔体の製造方法及びアルミニウム多孔体、並びに金属多孔体又はアルミニウム多孔体を用いた電池用電極材料、電気二重層コンデンサ用電極材料

【課題】電池用電極およびキャパシタ用電極として好適に使用される、連通気孔を持つとともに表面酸素量の少ないアルミニウム多孔体、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】表面に金属層2が形成された連通気孔を有する発泡ウレタンからなる樹脂多孔体1を、溶融塩に浸漬した状態で該金属層2に負電位を印加しながら、該金属の融点以下の温度に加熱して前記樹脂多孔体1を分解する工程を含む金属多孔体3の製造方法であり、上記樹脂多孔体1を分解する工程において、金属層2の酸化を防止する手段を設けることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用電極、電気二重層コンデンサ用電極の集電体として好適に使用できる金属多孔体に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムは導電性に優れ、リチウムイオン電池等の電池の電極材料として使用されている。例えば、リチウムイオン電池の正極には、アルミニウム箔の表面にコバルト酸リチウム等の活物質を塗布したものが使用されている。
【0003】
正極の容量を向上するためには、アルミニウムを多孔体として表面積を大きくし、アルミニウム内部にも活物質を充填することが考えられる。そうすると電極を厚くしても活物質を利用でき、単位面積当たりの活物質利用率が向上するからである。
【0004】
多孔質のアルミニウムとしては、繊維状のアルミニウムを絡み合わせたアルミ不織布や、アルミニウムを発泡させたアルミ発泡体がある。特許文献1には、金属を溶融させた状態で発泡剤および増粘剤を加えて攪拌することによる、多数の独立気泡を含む発泡金属の製造方法が開示されている。
【0005】
一方、多孔質金属としては、セルメット(登録商標)という商品名で市販されているニッケル多孔体がある。セルメット(登録商標)は連通気孔を持つ金属多孔体であり、気孔率の高い(90%以上)ものである。これは発泡ウレタン等の連通気孔を有する樹脂多孔体の骨格表面にニッケル層を形成した後、熱処理して樹脂多孔体を分解し、さらにニッケルを還元処理することで得られる。ニッケル層の形成は、樹脂多孔体の骨格表面にカーボン粉末等を塗布して導電化処理した後、電気めっきによってニッケルを析出させることで行われる。
【0006】
また特許文献2には、セルメットの製造方法をアルミニウムに応用した金属多孔体の製造方法が開示されている。具体的には、三次元網目状構造を有する樹脂多孔体の骨格にアルミニウムの融点以下で共晶合金を形成する金属(銅等)による皮膜を形成した後、アルミニウムペーストを塗布し、非酸化性雰囲気下で550℃以上750℃以下の温度で熱処理をすることで有機成分(樹脂多孔体)の消失及びアルミニウム粉末の焼結を行い、金属多孔体を得る。アルミニウムは強固な酸化皮膜を有するため難焼結性であるが、アルミニウムと共晶合金を形成する金属皮膜状に塗布されたアルミニウム粉末は熱処理過程において下地金属皮膜との界面で共晶反応を起こし、アルミニウムの融点以下で液相面を出し、この部分的に生じた液相面がアルミニウムの酸化皮膜を破ることで三次元網目状の骨格構造を維持しつつアルミニウム粉末の焼結が進行する、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4176975号公報
【特許文献2】特開平8−170126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アルミ不織布やアルミ発泡体は、製造工程においてアルミニウムを融点以上の温度に加熱するため、冷却するまでの間に酸化が進みやすく表面に酸化皮膜ができやすい。アルミニウムは酸化しやすく、またいったん酸化すると融点以下の温度で還元するのは困難であるので、アルミ不織布やアルミ発泡体では酸素量の少ないものが得られない。また独立気泡(閉気泡)を有するアルミ発泡体は、発泡によって表面積が大きくなってもその表面全てを有効に利用することができない。そのため電池の電極材料(集電体)として使用した場合に活物質の利用効率を上げることが難しい。
【0009】
特許文献2の金属多孔体は連通気孔を有し、電池の電極材料として使用可能であるが、得られるものはアルミニウム単体ではなくアルミニウム以外の金属元素を含むため、耐食性等が悪くなる可能性がある。また非酸化性雰囲気下ではあるが、アルミニウムを焼結させるためにアルミニウムの融点に近い温度で熱処理する必要があり、アルミニウムの表面に酸化膜が生成する可能性がある。
【0010】
アルミニウム以外の金属を用いる場合であっても、例えばニッケル多孔体の製造では熱処理して樹脂多孔体を分解する工程でニッケルの表面が酸化するため、その後還元処理を行う必要がある。
【0011】
そこで本発明は、連通気孔を持つとともに表面の酸化物の量が少ない(酸化物層の厚さが薄い)金属多孔体、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、表面に金属層が形成された連通気孔を有する樹脂多孔体を、第1の溶融塩に浸漬した状態で、該金属層に負電位を印加しながら該金属の融点以下の温度に加熱して前記樹脂多孔体を分解する工程を有する、金属多孔体の製造方法である(請求項1)。
【0013】
図1は本発明の製造方法を示す模式図である。図1(a)は連通気孔を有する樹脂多孔体の断面の一部を示す拡大模式図である。樹脂多孔体1を骨格として気孔が形成されている様子を示す。連通気孔を有する樹脂多孔体1を準備し、その表面にアルミニウム等の金属層2を形成して金属被覆樹脂多孔体を得る(図1(b))。その後樹脂多孔体1を分解して消失させると金属層のみが残った金属多孔体3が得られる(図1(c))。
【0014】
樹脂多孔体の分解は溶融塩中で行う。図2に示すように表面に金属層を形成した樹脂多孔体11と正極12を第1の溶融塩13に浸漬し、金属層に負電位を印加する。溶融塩中に浸漬して金属層に負電位を印加することで該金属の酸化を抑制できる。この状態で樹脂多孔体の分解温度以上に表面に金属層を形成した樹脂多孔体11を加熱すると樹脂多孔体が分解し、金属のみが残った金属多孔体が得られる。金属の溶融を防ぐため加熱温度は金属の融点以下とする。金属としてアルミニウムを選択した場合には、アルミニウムの融点(660℃)以下で加熱する。このような方法により、表面の酸化層(酸素量)が少ない(薄い)金属多孔体を得ることができる。
【0015】
第1の溶融塩としては、金属層の電極電位が卑となるようなアルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物の塩または硝酸塩が使用できる。具体的には塩化リチウム(LiCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化アルミニウム(AlCl)硝酸リチウム(LiNO)、亜硝酸リチウム(LiNO)、硝酸カリウム(KNO)、亜硝酸カリウム(KNO)、硝酸ナトリウム(NaNO)、及び亜硝酸ナトリウム(NaNO)からなる群より選択される1種以上を含むと好ましい(請求項2)。溶融塩の温度を金属の融点以下の温度とするため、2種以上を混合して融点を下げた共晶塩とすることが好ましい。具体的な加熱温度としては、380℃以上600℃以下が好ましい(請求項9)。特に表面が酸化しやすく還元処理が難しいアルミニウムを使用する場合、この方法は有効である(請求項3)。」
【0016】
前記樹脂多孔体を分解する工程において、金属層の酸化を防止するための酸化防止手段を設けると好ましい(請求項4)。処理対象である、表面に金属層を形成した樹脂多孔体11は、第1の溶融塩に浸漬された状態では負電位が印加されていることで金属層の酸化を抑制できるが、溶融塩に浸漬される直前においては負電位をかけることができない。一方第1の溶融塩は上記のように高温であるため、第1の溶融塩浴の近辺、例えば溶融塩浴の上部空間は高温雰囲気となっており、第1の溶融塩に浸漬する直前や第1の溶融塩に浸漬した直後で金属層が酸化するおそれがある。特に処理対象である、表面に金属層を形成した樹脂多孔体の面積が大きくなるとこのような問題が起こりやすいため、酸化防止手段を設けることが好ましい。
【0017】
前記酸化防止手段は、前記第1の溶融塩中に不活性ガスを流す手段であると好ましい(請求項5)。第1の溶融塩中に不活性ガスを流してバブリングすることで、第1の溶融塩中に発生した不活性ガスの気泡は第1の溶融塩中に充満し、さらに第1の溶融塩の液面から上部空間に抜けることで第1の溶融塩の上部空間も不活性ガスで満たされる。従って第1の溶融塩に浸漬する前後での金属層の酸化を防ぐことができる。また前記第1の溶融塩中で樹脂多孔体を分解する工程において、分解された有機物(樹脂多孔体)由来の酸素が発生し、この酸素が金属多孔体の内部に残留していると金属が酸化する可能性がある。第1の溶融塩中に不活性ガスを流して、不活性ガスの気泡を処理対象物(金属層を形成した樹脂多孔体又は金属多孔体)に当てることで、発生した酸素を追い出す効果がある。さらに、第1の溶融塩中に不活性ガスを流すと、不活性ガスの気泡によって第1の溶融塩が攪拌されて多孔体の内部空間に均一に第1の溶融塩を接触させることが可能となり、樹脂多孔体を効率よく分解することができる。
【0018】
金属層の形成は蒸着、スパッタ、プラズマCVD等の気相法、金属ペーストの塗布、めっき法等任意の方法で行うことができる。金属としてアルミニウムを選択した場合、水溶液中でのアルミニウムのめっきは実用上ほとんど不可能であるため、溶融塩中でアルミニウムをめっきする溶融塩電解めっきを行うことが好ましい。この好ましい態様として、前記樹脂多孔体の表面を導電化処理した後、第2の溶融塩中で金属をめっきすることにより金属層を形成するとよい(請求項6)。第2の溶融塩としては、塩化アルミニウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム等を使用できる。2成分以上の塩を使用し、共晶塩として使用すると溶融温度が低下して好ましい。第2の溶融塩中には、少なくとも1成分、付着させたい金属のイオンが含まれている必要がある。
【0019】
また、前記樹脂多孔体の表面に金属ペーストを塗布して金属層を形成してもよい(請求項7)。金属ペーストは、金属粉末と結着剤(バインダー樹脂)及び有機溶剤を混合したものである。金属ペーストを樹脂多孔体の表面に塗布した後、加熱して有機溶剤及びバインダー樹脂を消失させるとともに金属ペーストを焼結させる。加熱は一段階で行っても複数回に分けて行っても良い。例えば、金属ペーストを塗布した後低温で加熱して有機溶剤を消失させた後、第1の溶融塩中に浸漬して加熱し、樹脂多孔体の分解と同時に金属ペーストの焼結を行っても良い。このような方法により簡便に金属層を形成できる。
【0020】
樹脂多孔体の素材は、金属の融点以下の温度で分解可能なものであれば任意の樹脂を選択できる。ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレン等が樹脂多孔体の素材として例示できる。発泡ウレタンは気孔率が高く、また熱分解しやすい素材であるため樹脂多孔体として好ましい(請求項8)。なお樹脂多孔体の気孔率は80%〜98%、気孔径は50μm〜500μm程度のものが好ましい。
【0021】
請求項10に記載の発明は、連通気孔を有するアルミニウム多孔体であって、15kVの加速電圧でのEDX分析により定量した表面の酸素量が3.1質量%以下であるアルミニウム多孔体である。連通気孔を有するとともに表面の酸化物の量が少ない(酸化物層の厚さが薄い)ため、電池用電極材料や電気二重層コンデンサ用電極材料として使用した場合に、活物質の担持量を多くでき、また活物質とアルミニウム多孔体との接触抵抗を低くできるので活物質の利用効率を上げることができる。
【0022】
請求項11に記載の発明は、前述の製造方法によって得られる金属多孔体又はアルミニウム多孔体に活物質が担持された電池用電極材料である。図3は電池用電極材料の断面を示す拡大模式図である。電池用電極材料5は、アルミニウム多孔体のアルミ骨格部(アルミ層)2の表面に、活物質4が担持されている。アルミニウム多孔体は気孔率が高く表面積を大きくできるので、活物質の担持量を増やすことができる。また活物質を薄く塗布しても多量に活物質を担持することが可能となるため、活物質と集電体(アルミニウム多孔体)との距離を短くできることから、活物質の利用率を向上できる。
【0023】
請求項12に記載の発明は、上記の電池用電極材料を、正極、負極の一方又は両方に用いた電池である。上記の電池用電極材料を使用することで、電池の高容量化が可能となる。
【0024】
請求項13に記載の発明は、上記の製造方法によって得られる金属多孔体又はアルミニウム多孔体に、活性炭を主成分とする電極活物質が担持された電気二重層コンデンサ用電極材料である。電気二重層コンデンサ用電極材料は電池用電極材料と同様に、アルミニウム多孔体のアルミ骨格部(アルミ層)の表面に電極活物質が担持されている。電池用電極材料と同様に、電極活物質の担持量を増やすことが可能となると共に電極活物質の利用率を向上できる。
【0025】
請求項14に記載の発明は、上記の電気二重層コンデンサ用電極材料を用いた電気二重層コンデンサである。上記の電気二重層コンデンサ用電極材料を用いることで、コンデンサの高出力化、高容量化が可能となる。
【0026】
請求項15に記載の発明は、表面に金属層が形成された連通気孔を有する樹脂多孔体を、超臨界水中に浸漬して前記樹脂多孔体を分解する、金属多孔体の製造方法である。水の臨界点(臨界温度374℃、臨界圧力22.1MPa)を超え、高温高圧状態の超臨界水は有機物の分解性に優れており、金属を酸化させることなく樹脂多孔体を分解することが可能である。このような製法により表面の酸化層が少ない(薄い)金属多孔体を得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、連通気孔を持つとともに表面の酸化膜(酸素量)が少ない(薄い)金属多孔体を得ることができる。またこの金属多孔体を用いることで、活物質の利用効率を高めて電池の容量を大きくできる電極材料、及びそれを用いた電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】金属多孔体の製造工程を示した模式図であり、(a)は連通気孔を有する樹脂多孔体の断面の一部を示すもの、(b)はその表面に金属層を形成した状態を示すもの、(c)は樹脂多孔体が消失した後の金属多孔体を示すものである。
【図2】溶融塩中での樹脂多孔体の分解工程を説明するための模式図である。
【図3】電池用電極材料の断面の一部を拡大した模式図である。
【図4】本発明の溶融塩電池の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の電気二重層コンデンサの一例を示す模式図である。
【図6】アルミニウム多孔体の断面SEM写真である。
【図7】アルミニウム多孔体のEDX分析結果を示す図である。
【図8】溶融塩中での樹脂多孔体の分解装置を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお本発明は以下の記載に限定されるものではない。
アルミニウム多孔体の製造方法を説明する。まず連通気孔を有する樹脂多孔体を準備する。樹脂多孔体の素材はアルミニウムの融点以下の温度で分解可能なものであれば任意の樹脂を選択できる。ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレン等が樹脂多孔体の素材として例示できる。なお樹脂多孔体と表記したが、連通気孔を有するものであれば任意の形状の樹脂を選択できる。例えば繊維状の樹脂を絡めて不織布のような形状を有するものも樹脂多孔体に代えて使用可能である。樹脂多孔体の気孔率は80%〜98%、気孔径は50μm〜500μmとするのが好ましい。発泡ウレタンは気孔率が高く、また気孔の連通性、孔径の均一性があるとともに熱分解性にも優れているため樹脂多孔体として好ましく使用できる。
【0030】
樹脂多孔体の表面にアルミニウム層を形成する。アルミニウム層の形成は蒸着、スパッタ、プラズマCVD等の気相法、アルミニウムペーストの塗布、めっき法等任意の方法で行うことができる。水溶液中でのアルミニウムのめっきは実用上ほとんど不可能であるため、溶融塩中でアルミニウムをめっきする溶融塩電解めっきを行うことが好ましい。溶融塩電解めっきは、例えばAlCl−XCl(X:アルカリ金属)の2成分系あるいは多成分系の塩を使用し、溶融させたもののなかに樹脂多孔体を浸漬し、アルミニウム層に電位を印加して電解めっきをおこなう。溶融塩として有機系ハロゲン化物とアルミニウムハロゲン化物の共晶塩を使用しても良い。有機系ハロゲン化物としてはイミダゾリウム塩、ピリジニウム塩等が使用できる。なかでも1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(EMIC)、ブチルピリジニウムクロライド(BPC)が好ましい。電解めっきを行うために、樹脂多孔体の表面をあらかじめ導電化処理する。導電化処理は、ニッケル等の導電性金属の無電解めっき、アルミニウム等の蒸着及びスパッタ、又はカーボン等の導電性粒子を含有した導電性塗料の塗布等任意の方法を選択できる。
【0031】
アルミニウム層の形成は、アルミニウムペーストの塗布によって行うこともできる。アルミニウムペーストは、アルミニウム粉末と結着剤(バインダー樹脂)及び有機溶剤を混合したものである。またアルミニウムペーストの焼結は非酸化性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0032】
表面にアルミニウム層を形成した樹脂多孔体を第1の溶融塩に浸漬し、該アルミニウム層に負電位を印加しながら加熱して樹脂多孔体を分解する。溶融塩に浸漬した状態で負電位を印加すると、アルミニウムの酸化反応を防止できる。このような状態で加熱することでアルミニウムを酸化させることなく樹脂多孔体を分解することができる。加熱温度は樹脂多孔体の種類に合わせて適宜選択できるが、アルミニウムを溶融させないためにはアルミニウムの融点(660℃)以下の温度で処理する必要があり、600℃以下とすることが好ましい。樹脂多孔体としてウレタンを選択する場合、溶融塩中でウレタンは380℃以上で分解するため、加熱温度は380℃以上とすることが好ましい。さらに好ましい温度範囲は500℃以上600℃以下である。また印加する負電位の量は、アルミニウムの還元電位よりマイナス側で、かつ溶融塩中のカチオンの還元電位よりプラス側とする。このような方法によって、連通気孔を有し、表面の酸化層が薄く酸素量の少ないアルミニウム多孔体を得ることができる。
【0033】
第1の溶融塩を構成する塩としては、塩化リチウム(LiCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化アルミニウム(AlCl)硝酸リチウム(LiNO)、亜硝酸リチウム(LiNO)、硝酸カリウム(KNO)、亜硝酸カリウム(KNO)、硝酸ナトリウム(NaNO)、及び亜硝酸ナトリウム(NaNO)等を使用できる。融点を下げるためこれらの塩を2種以上混合して共晶塩とすることが好ましい。またアルミニウム等の金属層の電極電位が貴となる、すなわちイオン化傾向が低い金属イオンが溶融塩中に含まれていると金属層中に析出して不純物となるため好ましくない。樹脂多孔体として発泡ウレタンを使用する場合、第1の溶融塩の加熱温度は380℃以上とすることが好ましい。380℃以上の温度であれば良好にウレタンを熱分解可能である。380℃以上で融解する共晶塩としては、LiCl−KCl、CaCl−LiCl、CaCl−NaCl、LiNO−NaNO、Ca(NO)2−NaNO、NaNO−KNO等が例示できる。
【0034】
図8は溶融塩中での樹脂多孔体の分解工程をさらに詳細に説明するための模式図である。溶融塩漕31の中に溶融塩35を入れて加熱する。溶融塩を高温に保つため、溶融塩漕31は筐体32の内部に入っている。処理対象物33(表面に金属層を形成した樹脂多孔体)は図の左側から筐体32内に入り、ガイドローラー36に沿わせて溶融塩35中に浸漬される。処理対象物33を溶融塩中に浸漬させるために、処理対象物33の上部に押さえ板等(図示しない)を設ける。溶融塩35中で樹脂多孔体が分解された処理対象物33(金属多孔体)は溶融塩35から引き上げられる。図示していないが、溶融塩漕31中には陽極が設けられている。
【0035】
処理サンプル33には電極(図示しない)から負電位が印加され、溶融塩35に浸漬された状態では金属層の酸化を防止できる。しかし溶融塩の加熱温度は380℃〜600℃と非常に高温であるため、筐体32の上部空間38も高温雰囲気となる。この上部空間38に酸素があると溶融塩に浸漬される前の処理対象物33の金属層が酸化する可能性があるため、金属層の酸化を防止するための酸化防止手段を設けることが好ましい。酸化防止手段としては、溶融塩漕31中に不活性ガスバブリング手段34を設けて溶融塩中に不活性ガスを流すことが考えられる。不活性ガスバブリング手段34から発生した不活性ガスの気泡39は溶融塩35中に充満し、処理対象物33の隙間(多孔部分)を通って溶融塩の上部空間38に充満する。そのため筐体33内全体が不活性ガス雰囲気となり金属層の酸化を防止できる。また既に記載したように、分解された樹脂由来の酸素を溶融塩35中から追い出す効果や、不活性ガスの気泡39によって溶融塩を充分に攪拌可能であるという効果がある。
【0036】
酸化防止手段としてはこの他に、筐体32の外部に不活性ガス流出手段37を設け、筐体32に入る前の処理サンプル33に不活性ガスを吹き付けて処理サンプル33の多孔体内部に残留している酸素を除去することが考えられる。不活性ガス流出手段は筐体32の内部に設けても良い。また、単に筐体32の内部が不活性ガス雰囲気となるように不活性ガスを流す手段を設けても良い。
【0037】
(電池)
次にアルミニウム多孔体を用いた電池用電極材料及び電池について説明する。例えばリチウムイオン電池の正極に使用する場合は、活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)等を使用する。活物質は導電助剤及びバインダーと組み合わせて使用する。従来のリチウムイオン電池用正極材料は、アルミニウム箔の表面に活物質を塗布している。単位面積当たりの電池容量を向上するために、活物質の塗布厚みを厚くしている。また活物質を有効に利用するためにはアルミニウム箔と活物質とが電気的に接触している必要があるので活物質は導電助剤と混合して用いられている。これに対し、本発明のアルミニウム多孔体は気孔率が高く単位面積当たりの表面積が大きい。よって多孔体の表面に薄く活物質を担持させても活物質を有効に利用でき、電池の容量を向上できるとともに、導電助剤の混合量を少なくすることができる。
【0038】
リチウムイオン電池は、上記の正極材料を正極とし、負極には黒鉛、電解質には有機電解液を使用する。このようなリチウムイオン電池は、小さい電極面積でも容量を向上できるため、従来のリチウムイオン電池よりも電池のエネルギー密度を高くすることができる。
【0039】
アルミニウム多孔体は、溶融塩電池用の電極材料として使用することもできる。アルミニウム多孔体を正極材料として使用する場合は、活物質としてクロム酸ナトリウム(NaCrO)、二硫化チタン(TiO)等、電解質となる溶融塩のカチオンをインターカレーションすることができる金属化合物を使用する。活物質は導電助剤及びバインダーと組み合わせて使用する。導電助剤としてはアセチレンブラック等が使用できる。またバインダーとしてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を使用できる。活物質としてクロム酸ナトリウムを使用し、導電助剤としてアセチレンブラックを使用する場合には、PTFEはこの両者をより強固に固着することができ好ましい。
【0040】
アルミニウム多孔体は、溶融塩電池用の負極材料として用いることもできる。アルミニウム多孔体を負極材料として使用する場合は、活物質としてナトリウム単体やナトリウムと他の金属との合金、カーボン等を使用できる。ナトリウムの融点は約98℃であり、また温度が上がるにつれて金属が軟化するため、ナトリウムと他の金属(Si、Sn、In等)とを合金化すると好ましい。このなかでも特にナトリウムとSnとを合金化したものは扱いやすいため好ましい。ナトリウム又はナトリウム合金は、アルミニウム多孔体の表面に電解メッキ、溶融メッキ等の方法で担持させることができる。また、アルミニウム多孔体にナトリウムと合金化させる金属(Si等)をメッキ等の方法で付着させた後、溶融塩電池中で充電することでナトリウム合金とすることもできる。
【0041】
図4は上記の電池用電極材料を用いた溶融塩電池の一例を示す断面模式図である。溶融塩電池は、アルミニウム多孔体のアルミ骨格部の表面に正極用活物質を担持した正極21と、アルミニウム多孔体のアルミ骨格部の表面に負極用活物質を担持した負極22と、電解質である溶融塩を含浸させたセパレータ23とをケース27内に収納したものである。ケース27の上面と負極との間には、押え板24と押え板を押圧するバネ25とからなる押圧部材26が配置されている。押圧部材を設けることで、正極21、負極22、セパレータ23の体積変化があった場合でも均等押圧してそれぞれの部材を接触させることができる。正極21の集電体(アルミニウム多孔体)、負極22の集電体(アルミニウム多孔体)はそれぞれ、正極端子28、負極端子29に、リード線30で接続されている。
【0042】
電解質としての溶融塩としては、動作温度で溶融する各種の無機塩を使用することができる。例えば下記式(1)で表されるアニオンや下記式(2)で表されるアニオンと、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくとも1種の金属カチオンを含む溶融塩が好ましく使用される。
【0043】
【化1】

【0044】
式(1)において、R及びRはそれぞれ独立にフッ素原子またはフルオロアルキル基である。特に、R及びRがそれぞれFであるビスフルオロスルフォニルアミドイオン(以下、FSAイオン)、及びR及びRがそれぞれCFであるビストリフルオロメチルスルフォニルアミドイオン(以下、TFSAイオン)を用いると、溶融塩の融点を低くし、電池の動作温度を低くすることができるため好ましい。
【0045】
溶融塩のカチオンとしては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)等のアルカリ金属、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)等のアルカリ土類金属から選択した1種以上を用いることができる。
【0046】
溶融塩の融点を低下させるために、2種以上の塩を混合して使用することが好ましい。例えばKFSAとNaFSAとを組み合わせて使用すると、電池の動作温度を90℃以下とすることができる。
【0047】
溶融塩はセパレータに含浸させて使用する。セパレータは正極と負極とが接触するのを防ぐためのものであり、ガラス不織布や、多孔質樹脂等を使用できる。上記の正極、負極、溶融塩を含浸させたセパレータを積層してケース内に収納し、電池として使用する。
【0048】
(電気二重層コンデンサ)
アルミニウム多孔体は、電気二重層コンデンサ用の電極材料として使用することもできる。アルミニウム多孔体を電気二重層コンデンサ用の電極材料として使用する場合は、電極活物質として活性炭等を使用する。活性炭は導電助剤やバインダーと組み合わせて使用する。導電助剤としては黒鉛、カーボンナノチューブ等が使用できる。またバインダーとしてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム等を使用できる。
【0049】
図5は上記の電気二重層コンデンサ用電極材料を用いた電気二重層コンデンサの一例を示す断面模式図である。セパレータ42で仕切られた有機電解液43中に、アルミニウム多孔体に電極活物質を担持した電極材料を分極性電極41として配置している。電極材料41はリード線44に接続しており、これら全体がケース45中に収納されている。アルミニウム多孔体を集電体として使用することで、集電体の表面積が大きくなり、活物質としての活性炭を薄く塗布しても高出力、高容量化可能な電気二重層コンデンサを得ることができる。
【0050】
以上、金属としてアルミニウムを使用する場合について説明したが、本発明はアルミニウムに限定されず、表面の酸化を抑制した(酸素量の少ない)金属多孔体の製造方法として有用である。具体的にはニッケル、銅、銀等を使用できる。
【0051】
(実施例1)
(アルミニウム多孔体の製造:蒸着法によるアルミニウム層の形成)
以下、アルミニウム多孔体の製造例を具体的に説明する。樹脂多孔体として、気孔率97%、気孔径約300μmのポリウレタンフォーム(厚み1mm)を準備し、20mm角に切断した。ポリウレタンフォームの表面にアルミニウムを蒸着し、厚み15μmのアルミニウム層を形成した。
【0052】
(アルミニウム多孔体の製造:樹脂多孔体の分解)
アルミニウム層を形成した樹脂多孔体を温度500℃のLiCl−KCl共晶溶融塩に浸漬し、−1Vの負電位を30分間印加した。溶融塩中に気泡が発生し、ポリウレタンの分解反応が起こっていると推定された。その後大気中で室温まで冷却した後、水洗して溶融塩を除去し、アルミニウム多孔体を得た。得られたアルミニウム多孔体のSEM写真を図6に示す。図6より、得られたアルミニウム多孔体は連通気孔を有し、気孔率が高いことがわかる。また得られたアルミニウム多孔体の表面を15kVの加速電圧でEDX分析した結果を図7に示す。酸素のピークはほとんど観測されず、アルミニウム多孔体の酸素量はEDXの検出限界(3.1質量%)以下であることがわかる。さらに得られたアルミニウム多孔体を用いて電池としての評価を行ったところ、良好に作動することが確認できた。
【0053】
(実施例2)
樹脂多孔体として、気孔率97%、気孔径約300μmのポリウレタンフォーム(厚み1mm)を準備し、幅100mm、長さ200mmに切断した。ポリウレタンフォームの表面にアルミニウムを蒸着し、厚み15μmのアルミニウム層を形成した。幅160mm、長さ430mm、深さ80mmで厚みが10mmのアルミニウム漕にLiCl−KCl共晶溶融塩を入れて温度500℃に加熱した。LiCl−KCl共晶溶融塩中に窒素ガスを流量3×10−4/秒で流しながら、アルミニウム層を形成した樹脂多孔体を溶融塩中に5分間浸漬した。アルミニウム層には−1.1Vの負電位を印加した。溶融塩中に気泡が発生し、ポリウレタンの分解反応が起こっていると推定された。その後大気中で室温まで冷却した後、水洗して溶融塩を除去し、アルミニウム多孔体を得た。得られたアルミニウム多孔体の表面を15kVの加速電圧でEDX分析したところ、酸素量は2.9質量%、炭素量は1.54質量%であった。
【0054】
(実施例3)
溶融塩中に窒素ガスを流さなかったこと以外は実施例2と同様の操作を行ってアルミニウム多孔体を作製し、評価した。酸素量は7.61質量%、炭素量は1.74質量%であった。溶融塩中に窒素ガスを流しながら樹脂の分解を行った実施例2と比較すると酸素量、炭素量共に若干多くなっている。
【符号の説明】
【0055】
1 樹脂多孔体 2 金属層
3 金属多孔体 4 活物質 5 電池用電極材料
11 表面に金属層を形成した樹脂多孔体
12 正極 13 第1の溶融塩 21 正極
22 負極 23セパレータ 24 押え板
25 バネ 26 押圧部材 27 ケース
28 正極端子 29 負極端子 30 リード線
31 溶融塩漕 32 筐体
33 処理対象物 34 不活性ガスバブリング手段
35 溶融塩 36 ガイドローラー
37 不活性ガス流出手段
38 上部空間 39 気泡
41 分極性電極 42 セパレータ 43 有機電解液
44 リード線 45 ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に金属層が形成された、連通気孔を有する樹脂多孔体を、第1の溶融塩に浸漬した状態で該金属層に負電位を印加しながら該金属の融点以下の温度に加熱して前記樹脂多孔体を分解する工程を有する、金属多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の溶融塩は、LiCl、KCl、NaCl、AlCl 、LiNO、LiNO、KNO、KNO、NaNO、及びNaNOからなる群より選択される1種以上を含む、請求項1に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記金属はアルミニウムである、請求項1又は2に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂多孔体を分解する工程において、金属層の酸化を防止するための酸化防止手段を設ける請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項5】
前記酸化防止手段は、前記第1の溶融塩中に不活性ガスを流す手段である、請求項4に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂多孔体の表面を導電化処理した後、第2の溶融塩中で金属をめっきすることにより金属層を形成する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂多孔体の表面に金属ペーストを塗布して金属層を形成する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂多孔体は発泡ウレタンである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項9】
前記加熱の温度が380℃以上600℃以下である、請求項8に記載の金属多孔体の製造方法。
【請求項10】
連通気孔を有するアルミニウム多孔体であって、15kVの加速電圧でのEDX分析により定量した表面の酸素量が3.1質量%以下である、アルミニウム多孔体。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法によって得られる金属多孔体又は請求項9に記載のアルミニウム多孔体に活物質が担持された電池用電極材料。
【請求項12】
請求項11に記載の電池用電極材料を、正極、負極の一方又は両方に用いた電池。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法によって得られる金属多孔体又は請求項10に記載のアルミニウム多孔体に、活性炭を主成分とする電極活物質が担持された電気二重層コンデンサ用電極材料。
【請求項14】
請求項11に記載の電気二重層コンデンサ用電極材料を用いた、電気二重層コンデンサ。
【請求項15】
表面に金属層が形成された連通気孔を有する樹脂多孔体を、超臨界水中に浸漬して前記樹脂多孔体を分解する、金属多孔体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−222483(P2011−222483A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281938(P2010−281938)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】