説明

金属層の電解析出のための方法

【課題】銅からなる金属層の電解析出のための経済的で簡単な方法を見出す。
【解決手段】高い電流密度の箇所でも一様な光沢性、高い破断伸びと引っ張り強さ並びに一様な層厚分布を備えた微細結晶構造の金属層を、パルス電流乃至パルス電圧法を用いて、電解析出するための方法にして、a)陰極として複雑に形作られた被加工物上に、b)貴金属又は貴金属の酸化物で被覆され不活性で寸法安定な不溶解性陽極を使用して、c)c1)析出されるべき金属のイオン、c2)光沢性、破断伸び及び引っ張り強さの制御のための添加化合物、並びにc3)少なくとも1種の電気化学的に可逆な酸化還元系の化合物であって、その酸化形態によって析出されるべき金属のイオンを、対応する金属部分の分解によって形成するような酸化還元系の化合物、を含有する析出溶液から、上記金属層を電解析出し、c4)上記陽極は、穴を明けられているか、陽極メッシュであるか、エキスパンドメタルの形状である、電解析出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の物理機械的特性及び光学的特性を備え均一な層厚を有した金属層、特に銅層の電解析出のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気分解的に析出される金属層の所定の物理機械的特性を得るために、析出溶液に所定の添加化合物が少量加えられなければならない。この際、光沢形成、平坦化、大きな面での析出の均一化、所謂焦げ付きの回避、言い換えれば粗い結晶状の層の析出並びに高い破断の伸び(Bruchelongation) 及び引っ張り強さを備えた金属層をもたらす有機材料乃至物質が主に重要である。
【0003】
これに関して、これらの材料は析出の際に一般的に分解し、操作中に補充されなければならないことが欠点である。確かに製造において一定の状態を守ることは、当該材料自体が非常に僅かな濃度でのみ析出溶液中に含有するだけで、更にたいていの場合に多数のそのような材料の複雑な混合物が所定の層特性を達成するために必要とされ、最後には分解の際に同じく金属層特性に影響する分解生成物も形成されるので、たいてい非常に困難である。したがって、添加化合物の分析調査が非常に困難なだけでなく、一般的に析出槽の状態を完全に表すためにも十分でなく、その結果、当該槽を制御するための分析的方法が限定的にのみ使えるだけである。
【0004】
更に、複雑な形状の被加工物の、例えば非常に細かな孔を備えた導体プレート(プリント配線回路基板等)の被覆の際に、できるだけ均一な金属層の厚みを当該被加工物の全ての個所で達成することが要求される。最適化された組成物を有する適切な析出浴で、僅かな電流密度を有する場所ですら金属層の厚みを拡大することが可能である。しかしながら、挙げられた添加化合物は金属拡散に僅かにだけ影響し、その結果、問題はこれら最適化のやり方によって解決されなかった。
【0005】
特に、挙げられたやり方では複雑な形状の被加工物での、例えば非常に細かな孔を備えた導体プレートでの金属層の十分に均一な分配を達成することが可能でなかった。
それ故、文献に種々の解決可能性が提案されたが、これらのいずれも全体的に満足すべき解決には至っていない。
【0006】
被覆されるべき被加工物の表面上への金属分配の均一化のための解決策として、金属析出の際に不溶性の陽極を使用することが提案される。このような陽極は例えば特許文献1(DD 215 589 B5)と特許文献2(DD 261 613 A1)から公知である。更にこのような方法は特許文献3(DE 43 44 387 A1)にも記載されている。これらの刊行物にはまた、析出溶液に対する電気化学的に可逆な酸化還元系の化合物の添加が述べられている。当該酸化還元系で分離析出した金属イオンの補完のために金属塩の添加は回避されなければならない。
【0007】
被加工物上での層の厚みの均一化のための別の解決策として、電気分解の際に周期的な電流転換が提案される(非特許文献1「Pulse Plating - Elektolytische Metallabscheidung mit Pulsestrom」、編集 Jean-Claude Puippe と Frank Leaman、Eugen G. Leuze Verlag、Saulgau、ドイツ、1986年、26頁と非特許文献2「Pulse Plating of Copper for Printed Circuit Technology」、M.R.Kalantary、D.R.Gabe、Metal Finishing、1991年、21〜27頁)。しかしながら、これによって析出金属層の十分な均一化は大型で加えて複雑な形状の被加工物においては達成することができない。
【0008】
更に特許文献4(DE 27 39 427 C2)に、狭い窪みを有する被加工輪郭体の均一な被覆のための方法が記載されている。このために、被加工物の表面における当該窪みは非常に激しく電解溶液で処理され、同時に著しく大きな中断を介在し1μ秒から50μ秒続くパルスの電気サイクルが被加工物にもたらされる。しかしながら、この方法は被加工物表面における輪郭での目標とする噴射が少なくとも大量製造にとっては可能でなく、あるいは非常に高額な装置適合費用が必要なので、非常に費用がかかる。
【0009】
特許文献5(WO-89/07162 A1)に、被加工物、例えばプリント配線回路基板のような導体プレートの物理機械的特性を改善するために、有機添加化合物での金属の、好ましくは硫酸銅電解液からなる銅の析出のための電気化学的方法が記載されている。このために、様々な長さの陰極及び陽極パルスを備えた交流が用いられる。例えばプリント配線回路基板等の導体プレートのような複雑な形状の被加工物に層がより均一な層厚で析出することが達成された。電解セルでの幾何学的比率を変更することによる、例えば陽極を分解乃至溶解することによる様々な層厚を回避する問題を克服するための更なる指示は与えられていない。
【0010】
ここに記載された実験を繰り返した場合、導体プレートの細かな穿孔における改善された金属分散は、我々自身の認識によれば、上記刊行物に記載された方法にしたがって析出した銅層の光学的外観が同時に悪くなる場合にだけ達成された。更にこれら層の延性は、穿孔を有し被覆された導体プレートが10秒間、288℃の高温鑞浴(はんだ浴、Lotbad)へただ一度浸漬された場合にすら、銅層における割れが特に導体プレート表面から穿孔壁への移行部に認められる程度にすぎず、僅かであった。
【0011】
非特許文献3(専門紙 Galvanotechnik 1988年2869頁から2871頁のC. Colombiniによる論評「Hartverchromung mittels eines Gleichrichters mit pulsierenden Wallen und periodischer Umkehr der Polaritaet」)に、金属層が直流でなく、むしろ脈動する交流によって析出する方法が同様に記載されている。著者の提案によれば、これは従来通りの層よりも腐食耐性のあるクロム層を作り出すのに用いられる。確かに、この方法によって形成されたクロム層は灰色で光沢がなく、その結果、光沢のある表面を生じるためにその後に研磨されなければならないことが、この文献に述べられている。この種の機械的後処理が非常に労力がかかり、したがって非常に高価であることは別として、多くの場合、例えば処理されるべき表面スポットが接近しにくい場合、この後処理は全く実施することができない。
【0012】
非特許文献4(American Electrochemical Society の会報、10th Plating in the Electronic Industry Symposium、カルフォルニア州サンフランシスコ、1983年2月での W.F.Hall 等による論評「Pulse Reverse Copper Plating For Printed Circuit Boards」)に、パルス電流法を用いて析出された銅層が、直流で析出される銅層のように、光沢形成物質(増白剤)を備えた析出溶液から導体プレート上により均一な層厚で形成可能であることが更に記載されている。
【0013】
銅層は無光沢で、文献における情報によれば、部分的に更に褐色又はオレンジで、それ故に純粋な銅から構成されない。この限りでは、著者のデータによれば、高い延性値、即ち、高い破断伸びの値(Bruchelongationswert) と高い引っ張り強さの値が記された方法で達成可能であるのは驚きである。しかしながら、例えば浴組成、当該浴の温度、使用された陽極等のような析出条件に関する十分に的確なデータが与えられていない。
【0014】
特許文献6(EP 0 356 516 A1)に、電気メッキコーティングを析出するための装置が開示されている。この装置で当該コーティングの物理機械的特性が改善可能である。このために析出中に電解浴を流れる電流の振幅、形状及び周波数が自動的に変更される。電気メッキコーティングの析出の間の電気メッキ浴の電流を測定し安定化することによって物理機械的特性が同じく改善されることも述べられている。
【0015】
特許文献7(EP 0 129 338 B1)に、グラファイト電極を用いた金属レールの表面の電解処理のための方法が記載されている。電解処理の間に非対称の正と負の半波を有した交流の使用によって、陽極として用いられたグラファイト電極の分解乃至溶解が回避でき、その結果、グラファイト電極における電極分布がもはや変わらず、それ故に一定の状況が電気分解の際に維持可能である。確かに、この刊行物にはどのように析出金属層の物理機械的特性の改善が達成でき、同時にまた長い操作時間にわたってできるだけ一様な層厚分布を達成できるのか、指示が与えられていない。
【0016】
導体プレートを経済的に且つ簡単に製造するために、非常に良好な機械物理的特性を、特に高い電流密度範囲でも高い破断伸びと一様な光沢を有した銅層を析出することが必要である。ますます増大して微細な穿孔が導体プレートに含まれるので、そして導体プレート上に構成要素がますます集積される故に、導体プレートの表面での層厚の均一さについて一層高い要求が出ても、銅についての電解析出法が上記要求を達成しながら見出されなければならない。しかしながら、公知の方法では、特に長い操作時間の後で、長く形状的にも複雑でありうるような表面サブストレート上においてすら高品質で一様な厚みの金属層の析出は、費用のかかるクリーニング処置のない析出浴で、又はさらに新たな準備でもはや確実に可能ではない。特に公知の方法で比較的高い電流密度の際にも上記要求を達成することは可能でない。この場合に普通一般にざらざらした結晶状の金属沈殿物が得られる(焦げ付き粒子)ので、このようにして製造された被覆の物理機械的特性並びに光学特性は満足すべきものでなく、その結果、それに起因して公知の方法の改善のための必要が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】DD 215 589 B5
【特許文献2】DD 261 613 A1
【特許文献3】DE 43 44 387 A1
【特許文献4】DE 27 39 427 C2
【特許文献5】WO-89/07162 A1
【特許文献6】EP 0 356 516 A1
【特許文献7】EP 0 129 338 B1
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】「Pulse Plating - Elektolytische Metallabscheidung mit Pulsestrom」、編集 Jean-Claude Puippe と Frank Leaman、Eugen G. Leuze Verlag、Saulgau、ドイツ、1986年、26頁
【非特許文献2】「Pulse Plating of Copper for Printed Circuit Technology」、M.R.Kalantary、D.R.Gabe、Metal Finishing、1991年、21〜27頁
【非特許文献3】専門紙 Galvanotechnik 1988年2869頁から2871頁のC. Colombiniによる論評「Hartverchromung mittels eines Gleichrichters mit pulsierenden Wallen und periodischer Umkehr der Polaritaet」
【非特許文献4】American Electrochemical Society の会報、10th Plating in the Electronic Industry Symposium、カルフォルニア州サンフランシスコ、1983年2月での W.F.Hall 等による論評「Pulse Reverse Copper Plating For Printed Circuit Boards」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
それ故に本発明の基礎をなす問題は、従来技術に係る方法の欠点を回避して、特に銅からなる金属層の電解析出のための経済的で簡単な方法を見出すことにあり、その際、当該方法にしたがって析出される金属層は非常に良好な物理機械的及び光学的特性を、例えば高い電流密度で金属が析出する被加工物表面上での個所でも光沢を、また析出浴でのかなり長い操作時間後でも高い破断伸びを有する。しかも存在する細かな孔も含めて処理対象物の表面での全ての個所で金属層厚が殆ど同じである。更にコーティング(薄皮)の物理機械的特性は被覆されるべき表面について高い電流密度、例えば少なくとも6A/dmの電流密度を用いる場合にも最大の要求に対応しうるものである(なかんずく破断伸びと引っ張り強さに関して)。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記問題は請求の範囲の請求項1によって解決される。本発明の好適な実施形態は従属の請求項に列挙されている。
複雑に形成された被加工物の表面上及び当該被加工物での孔内での析出した金属層の、特に銅層の改善された層厚分布がパルス電流乃至パルス電圧法を用いて可能であり、それによって析出金属層の物理機械的特性、特に一様な光沢性と高い破断伸びが影響を受けないことが示された。陽極として寸法安定な不溶性の陽極が用いられる場合、そのうえ被加工物外側での金属分布は著しく一様に維持されうる。析出溶液が析出金属のイオンと物理機械的特性の制御のための添加化合物の他に、その酸化形状で更に析出金属のイオンが対応する金属部分を溶解することで形成可能である電気化学的に可逆な酸化還元系の化合物を最終的に含有するならば、高めの電流密度(例えば6A/dm以上)を用いて欠点のない乃至完全な層が光学的に且つ物理機械的特性において達成可能である。
【0021】
特に、一様に高光沢性の銅層が、当該銅層に亀裂を形成することなく、ハンダ浴での度重なる熱衝撃処理(それぞれ288℃の熱い浴での10秒間浸漬と引き続いての室温への冷却)にも耐える微細な孔を備えた導体プレート上に析出可能である。その際、導体プレートの表面と孔内での達成可能な金属層分布は非常に良好である。これによって、孔における必要な層厚が速やかに達成されるので、公知の方法でのものよりも導体プレートに少ない量の金属を析出することが可能である。
【0022】
不溶性の陽極を用い直流を適用する公知の方法の場合、析出浴がかなり長い時間にわたって運転され、それによって古くなると、析出された金属層の物理機械的特性並びに被加工物上の金属層分布が劣化することが観察された。この不利な作用は請求された方法を用いる場合には同様に測定されない。
【0023】
本発明に係る措置によって、所定の特性を備えた金属層を当該特性をさほど低下させることなく生じるために有機添加化合物を析出溶液中に用いることが可能であることが達成される。特別な添加混合物は必要ない。更に高い陰極の電流密度が達成される。これによって、所定の厚みの金属層で被覆されるために、処理されるべき被加工物が設備内に比較的短い時間、滞留しなければならないだけなので、経済的な方法が可能となる。アグレッシブな反応生成物のごく僅かな量が陽極に生じるので、寸法的に安定な不溶性の陽極の長い寿命が達成される。
【0024】
パルス電流法の場合、電流が陰極として極性を与えられた被加工物と陽極との間でガルヴァーノ平衡に調整され適切な手段によって一時的に変調される。パルス電圧法の場合、電圧が被加工物と陽極との間でポテンシオ平衡に調整され当該電圧が一時的に変調されて、その結果、時間的に変化する電流が調整され或いは生じる。
【0025】
パルス電流又はパルス電圧法によって、変化する電圧が被加工物に加えられるか、変化する電流が被加工物と寸法的に安定な不溶性対抗電極との間で調整される。例えば、陽極電流パルスと陰極電流パルスを有した一連のパルス電流乃至パルス電流サイクルが被加工物に周期的に繰り返され、場合によってはそれらの間にある電流強さゼロの停止時間が周期的に繰り返される。一連の電圧パルスの対応する調整の場合、上記一連の電流パルスが生じる。
【0026】
好ましい実施形態において、陽極の電流パルスの電流は被加工物での陰極の電流パルスの電流と少なくとも同じ値に、好ましくは陰極の電流パルスの値の2〜3倍高い値に調整される。
【0027】
被加工物での陽極の電流パルスの寿命は例えば0.1ミリ秒(msec)と1秒(sec)の間で調整される。好ましくは陽極パルス長さは0.3〜10ミリ秒である。全部で金属の析出のための電荷量は被加工物からの金属の陽極的戻り溶解乃至再溶解となる量よりも大きくなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】典型的なパルスサイクルを示す図である。
【図2】典型的なパルスサイクルの改善された例を示す図である。
【図3】好ましい電流/電圧パルスサイクルを示す図である。
【図4】浸漬法における被加工物の処理に適した典型的な構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
典型的なパルスサイクルが図1及び2に示される。図1において先ず9.5ミリ秒の寿命を備えた陰極電流パルスが被加工物にもたらされる。これに直ちに約2〜3倍高いピーク値を有する陽極電流パスルが続く。この二重パルスは100ヘルツの周波数で周期的に繰り返される。
【0030】
図2において改善された結果をもたらすパルスサイクルが示される。第1陰極相は5ミリ秒の長さの電流がゼロである停止相に続く。引き続いての陰極電流パルスは5ミリ秒継続する。その後、再び5ミリ秒の長さの停止相と引き続きもう一度5ミリ秒持続する陰極電流パルスが続く。やっとその後に1ミリ秒の長さの陽極電流パルスが従う。その高さ乃至ピークレベルは陰極電流パルスのものよりも僅かに高いだけである。
【0031】
好ましい電流/電圧パルスサイクルが図3に示される。このサイクルで金属分布の別の著しい改善が達成される。特に狭い窪み、例えば導体プレートの薄い穿孔と残りの表面領域の間での層厚分布は、これによって明らかに改善される。個々の電流/電圧相のために次の典型的な値が調整される:
1.陰極パルス :約14m秒、 約6A/dm
2.停止相乃時間:約1m秒、 ≒0A/dm
3.陽極パルス :約0.7ミリ秒、約15/dm
【0032】
記載されたパルスサイクルを生じるために使用可能な器具で、異なる電流ピークを有する多数の陰極の及び/又は陽極の電流パルスが同様に調整可能である。
個別的な実施形態において、被加工物での2つの陰極電流パルスの間で交互に陽極電流パルスか電流強さゼロを有する停止中断のいずれかが生じる。
【0033】
陽極として析出すべき金属からなる溶解性陽極が用いられるのではなく、寸法安定で不溶性の陽極が用いられる。寸法安定で不溶性の陽極の使用によって、陽極と被加工物の間で一定の間隔が一時的に調整可能である。陽極はその幾何学的形状において電気メッキ製品に問題なしに適合可能であり、溶解性陽極に比べて、その幾何学的寸法を実際に変えない。これによって電気メッキ製品の表面での層厚分布に影響を及ぼす陽極と陰極との間隔は一定に維持される。
【0034】
不溶性陽極の製造のために、電解液に対し且つ電解析出の際に不活性の材料、例えば特殊鋼や鉛が用いられる。しかし、好ましくはチタン又は貴金属や貴金属酸化物で被覆されたタンタルを基礎材料として含有する陽極が用いられる。コーティング乃至皮膜として、例えばプラチナ、イリジウム又はルチニウム並びにこれら金属の酸化物又は混合酸化物が使用可能である。コーティングのために、プラチナ、イリジウム及びルチニウムの他に、原則的にロジウム、パラジウム、オスミウム、銀及び金又はそれらの酸化物及び混合酸化物も用いられうる。電解条件に対して特に高い抵抗能が、例えば微細粒子、例えば球状体で照射されてそれで孔なしに衝撃を与えられたイリジウム酸化物表面を備えたチタン陽極で観察可能である。
【0035】
陽極電流密度によって、陽極に生じる攻撃的な反応生成物の量が影響を受ける。その形成率は2A/dm以下の陽極電流密度で非常に小さいことが確かめられた。それ故に電気化学的に有効な陽極表面はできるだけ大きく選択されなければならない。小さな空間的制限にも拘わらずにできるだけ大きな有効陽極表面を達成するために、孔を開けられた陽極、陽極メッシュ又は相応するコーティングを備えたエキスパンドメタルが使用される。これによって、孔を打ち抜かれた陽極材料の激しい貫流によって陽極表面が強く流されることが追加的に保証される。これによって一方で陽極での拡散層厚は減り、その結果、陽極での僅かな過電圧のみが起こり、他方で発生する反応生成物は陽極表面から素早く取り除かれる。メッシュとエキスパンドメタルは補助的に多層に使用されてもよく、その結果、陽極面がなお更に増加し、陽極電流密度がこれによって更に減少可能である。陽極表面は更に、基礎材料にまで達する孔がない。
【0036】
析出溶液から析出の際に消費された金属イオンが陽極で分解乃至溶解によってその後に直接供給されえないので、相応する金属部分の化学分解によって当該金属イオンが補足される。このために析出溶液に電気化学的に可逆な酸化還元系の化合物が添加され、当該系の酸化された形状は金属部分から酸化還元反応において金属イオンを形成する。
【0037】
それ故に、析出によって消費される金属イオンの補充のために、析出すべき金属からなる部分を含有する金属イオン生成元が使用される。金属イオンの消費によって消耗した析出溶液の再生のために、この溶液は陽極の付近を通り過ぎ、その際に酸化還元系の酸化化合物が還元された形状から形成される。続いて当該溶液は金属イオン生成元を通って導かれ、その際に酸化化合物は金属部分と反応して、金属イオンを形成する。同時に酸化還元系の酸化化合物が還元された形状に変えられる。金属イオンの形成によって、析出溶液に含有される金属イオンの全濃度は一定に維持される。金属イオン生成元から、析出溶液は再び陰極と陽極とに接触している電解液室に戻される。
【0038】
電気化学的に可逆な酸化還元系として鉄(II)及び鉄(III)化合物が使用される。同様に次の元素の酸化還元系も適切である:チタン、セリウム、バナジウム、マンガン及びクロム。これらは例えば硫酸チタニル、硫酸セリウム(IV)、メタバナジウム酸ナトリウム、硫酸マンガン(II)又はクロム酸ナトリウムの形状において銅析出溶液に添加可能である。組み合わされた系は特別な適用のために有利でありうる。
【0039】
析出溶液に加えられる硫酸鉄(II)-七水和物から、短時間で有効なFe2+/Fe3+酸化還元系が形成される。当該系は水性の酸性銅浴に際立って適する。他の水溶性鉄塩、特に硫酸鉄(III)九水和物も、汚水処理において問題をもたらす生物学的に非分解性の(硬質の)錯化剤(例えば明礬鉄アンモニウム)を含有しない限り、使用可能である。銅析出溶液で望ましからざる副次反応を起こすアニオン(陰イオン)を有する鉄化合物、例えば、塩化物や硝酸塩の使用は同様に採用されてはならない。
【0040】
酸化還元系の化合物の濃度は、金属部分の分解乃至溶解によって析出溶液中で金属イオンの一定濃度が維持可能であるように、調整されなければならない。好ましくは、少なくとも10g鉄イオン/リットル析出溶液(析出溶液1リットル当たり鉄イオン10g)の濃度が調整される。これで貴金属や当該貴金属の酸化物で被覆される不溶性陽極が損傷を受けないことが保証される。更に、析出溶液での銅イオン濃度を一定に維持するために、陽極の不活性担体材料から剥げ落ちる貴金属又はその酸化物が、場合によっては使用される独立した容器内にあり鉄(III)イオンの作用下に分解する銅部片に沈積しない問題も回避される。更にこれから粗結晶の金属層の形成も高い電流密度範囲において回避される(焦げ付き、焦げ付き粒子)。
【0041】
銅浴の基礎組成は本発明に係る方法の使用に際して比較的広い制限範囲内で変動可能である。一般に次の組成の水溶液が用いられる(全ての値は析出溶液1リットル当たりのグラム数である)。
硫酸銅(CuSO・5HO) 20〜250
好ましくは 80〜140又は
180〜220
硫酸、濃縮物 50〜350
好ましくは 180〜280又は
50〜90
硫酸鉄(II)(FeSO・7HO) 1〜120
好ましくは 20〜80
塩化物イオン 0.01〜0.18
(例えばNaClとして添加される)
好ましくは 0.03〜0.10
【0042】
硫酸銅の代わりに少なくとも部分的に他の銅塩も使用可能である。また硫酸も部分的に又はまるごとフルオロホウ酸、スルホン酸メタン又は他の酸によって代替可能である。塩化物イオンはアルカリ塩化物、例えば、塩化ナトリウムとして、又は分析的に純粋な塩酸の形状で添加される。塩化ナトリウムの添加は、ハロゲン化物イオンが既に添加剤に含有されているならば、全く又は部分的に省略してもよい。
【0043】
銅の他、原則的に例えばニッケルやその合金のような他の金属も本発明に係るやり方を用いて沈殿させることが可能である。
更に、析出溶液に例えば普通一般の光沢剤乃至増白剤、平坦化剤、湿潤剤及び他の添加剤を添加してもよい。所定の物理機械的特性を備えた光沢のある銅沈殿物を得るために、少なくとも1種の水溶性硫黄化合物と酸素含有高分子化合物が添加される。窒素含有硫黄化合物、ポリマー窒素化合物及び/又はポリマーフェナゾニウム化合物のような添加化合物も同じく適用可能である。
【0044】
上記添加化合物は次の濃度範囲内で析出溶液に含有される(全ての値は再び析出溶液1リットル当たりのグラム数である):
普通一般の酸素含有高分子化合物 0.005 〜20
好ましくは 0.01 〜 5
普通一般の水溶性有機硫黄化合物 0.0005〜 0.4
好ましくは 0.001 〜 0.15
【0045】
表1に幾つかの酸素含有高分子化合物を挙げる。
表1(酸素含有高分子化合物)
カルボキシメチルセルロース
ノニルフェノール-ポリグリコールエーテル
オクタンジオール-ビス-(ポリアルキレングリコールエーテル)
オクタノールポリアルキレングリコールエーテル
オレイン酸-ポリグリコールエステル
ポリエチレン-プロピレングリコール
ポリエチレングリコール
ポリエチレングリコール-ジメチルエーテル
ポリオキシプロピレングリコール
ポリプロピレングリコール
ポリビニルアルコール
ステアリン酸-ポリグリコールエステル
ステアリルアルコール-ポリグリコールエーテル
β-ナフトール-ポリグリコールエーテル
【0046】
表2に水溶性を生じるための適切な機能群を備えた様々な硫黄化合物を列挙する。
表2(硫黄化合物)
3-(ベンズチアゾリル-2-チオ)-プロピルスルフォン酸、
ナトリウム塩
3-メルカプトンプロパン-1-スルフォン酸、ナトリウム塩
エチレンジチオジプロピルスルフォン酸、ナトリウム塩
ビス-(p-スルフォフェニル)-二硫化物、二ナトリウム塩
ビス-(ω-スルフォブチル)-二硫化物、二ナトリウム塩
ビス-(ω-スルフォヒドロキシプロピル)-二硫化物、
二ナトリウム塩
ビス-(ω-スルフォプロピル)-二硫化物、二ナトリウム塩
ビス-(ω-スルフォプロピル)-硫化物、二ナトリウム塩
メチル-(ω-スルフォプロピル)-二硫化物、二ナトリウム塩
メチル-(ω-スルフォプロピル)-三硫化物、二ナトリウム塩
O-エチル-ジチオ炭酸-S-(ω-スルフォプロピル)-エステル、
カリウム塩
チオグリコール酸
チオ燐酸-O-エチル-ビス-(ω-スルフォプロピル)-エステル、
二ナトリウム塩
チオ燐酸-トリス-(ω-スルフォプロピル)-エステル、
三ナトリウム塩
【0047】
チオ尿素誘導体及び/又はポリマーフェナゾニウム化合物及び/又はポリマー窒素化合物が添加化合物として次の濃度で適用される(全ての値は再び析出溶液1リットル当たりのグラム数である):
0.0001〜0.50
好ましくは 0.0005〜0.04
【0048】
析出溶液の構成のために、ここで示された基礎組成に添加化合物が付け加えられる。銅析出の際の条件を以下に挙げる:
pH値: <1
温度: 15℃〜50℃
好ましくは 25℃〜40℃
陰極電流密度:0.5〜12A/dm
好ましくは 3 〜 7A/dm
【0049】
電解液室に空気を吹き込むことによって、析出溶液は動かされる。陽極及び/又は陰極の空気の追加噴射によって、それぞれの表面の範囲において対流が高まる。これによって陰極乃至陽極の近傍での物質搬送が最適化され、その結果、大きめの電流密度が達成可能である。場合によっては、少量生じる例えば酸素や塩素のようなアグレッシブな酸化剤はそれ故に陽極から取り除かれる。陽極と陰極の動きもそれぞれの表面での改善された物質搬送をもたらす。これによって一定の拡散制御された析出が達成される。上記動きは水平に、垂直に、一様な側方の動きにおいて及び/又は振動によって実現可能である。空気注入との組み合わせが特に有効である。
【0050】
本発明に係る方法の実施に適する金属析出溶液を備えた配列設備において、
a.金属析出溶液を収容するための少なくとも1つの第1容器を備え、
b.更に金属で電解的に被覆されるべき、析出溶液と接触される金属製被加工物を備え、
c.加えて、上記被加工物に間隔をおいて配置され金属析出の際に陽極反応によって分解しない材料からなる陽極として析出溶液と接触可能である電極を備え、
d.加えて、上記電極と被加工物とに電気的に接続可能で電極と被加工物とが交流電圧乃至交番電圧又は交流を備えうるように形成された電圧又は電流供給ユニットを備え、
e.加えて、被加工物に析出する金属からなる部片を収容するための少なくとも1つの第2容器(銅イオン生成元)にして、流体を搬送するために上記第1容器と連結して析出溶液が第1容器から送られ、そしてそこで再び第1容器に送り戻されるようになった第2容器を備え、
f.最後に析出溶液を第1容器から第2容器へ送り、そこから第1容器に送り戻すための装置、例えば、ポンプを備える。
【0051】
この際、金属析出溶液は第1容器に含まれ、被加工物に析出すべき金属のイオンと電気化学的に可逆な酸化還元系の化合物とを含有する。
第1実施形態(浸漬法)において、被加工物は選択的に第1容器内に配置される。第2実施形態において、被加工物と陽極とはまた上記容器外に配置可能である。この場合、被加工物と陽極とを析出溶液と連続的に接触するために、第1容器から被加工物に析出溶液を送るための装置、例えば、ポンプが備えられる。この配置は、導体プレートの処理に用いられうるような水平コンベア装備の設備において適用される。
【0052】
普通、導体プレートが垂直姿勢で析出溶液を含んだ容器に沈められこの姿勢で両側に配置された寸法安定な不溶性陽極に対向されるような被覆設備が適用される。陽極は隔膜によって導体プレートが位置する陰極室から分離可能である。隔膜として例えばポリプロピレン生地又は例えばNafion-膜(DuPont de Nemours Inc.、米国デラウェア州 Wilmington)のような金属イオンと陰イオンの透過性を有する膜が適する。この配置で、析出容器は先ず陰極として極性を与えられた導体プレートに圧送され、そこから陽極に導かれる。陰極表面及び陽極表面は噴射ノズル組立品によって射出される。この設備は容器を備えた電解セルの他に、析出溶液が陽極から到達する銅イオン生成元を有する。そこで析出溶液は再び銅イオンが高まる。
【0053】
浸漬法において被加工物の処理に適する典型的な配置は図4に概略的に示される。容器1に、電気化学的に可逆な酸化還元系の化合物、例えば、鉄(II)イオンや鉄(III)イオンを含有する析出溶液2が存在する。当該析出溶液は例えば銅メッキに使用され得、先に記載した成分を含有する。
【0054】
析出溶液に被加工物3、例えばプリント配線回路基板のような導体プレートと陽極4、例えば酸化イリジウムで被覆されたチタン陽極とが浸漬される。被加工物と陽極とが電源5と接続される。電源での電流の調整の代わりに、被加工物と陽極の間の電圧を調整する電圧配置を備えることも可能である。析出溶液を不図示の搬送器具、例えばポンプによって第2容器6に連続的に導かれる。
【0055】
この分離した容器において、即ち、析出溶液が流れ過ぎる金属イオン生成元にて、析出溶液における金属が再び補充される。金属イオン生成元において、銅析出の場合、例えば部片、ボール又はペレットの形状で金属銅部分が存在する。当該銅部分は酸化還元化合物の酸化形状の作用下で銅イオンに分解する。銅部分の分解によって酸化還元系の酸化形状が還元形状に転換される。銅イオンと還元形状を豊富化された溶液は不図示のポンプで第1容器に再び戻される。再生のために用いられる金属銅は燐を含有する必要はないが、燐は邪魔ではない。溶解性銅陽極の従来通りの適用の場合、陽極材料の組成は逆に非常に重要であり;この場合、銅陽極は約0.05重量%の燐を含有しなければならない。このような材料は高価で、燐の追加は電解セルに、追加的なろ過によって除去されなければならない残留物を生ぜしめる。
【0056】
析出溶液の循環において、更に機械的及び/又は化学的残留物の分離のためにフィルターが加えられうる。しかしながら、燐混合によって陽極に生じる陽極スラッジ(沈降物)が生じないので、溶解性陽極を備えた電解セルに比べて、要求が小さい。
【0057】
別の好適な実施形態において、導体プレートは水平姿勢で水平の動作方向にコンベア装備の設備を通って搬送される。その際、析出溶液は連続的に下から及び/又は上からスウェルノズル又はフラッド管によって導体プレートに噴射される。陽極は導体プレートに対し間隔をおいて配置され、導体プレートと同じように適切な装置によって析出溶液と接触させられる。導体プレートは側方で電気的に接触し、陽極面の間に配置された平面上を設備を通って動く。場合によっては析出溶液は導体プレートでの孔に入り込んだ後に、ノズルに対向した導体プレートの側に配置された装置によって再び吸い出されうる。導体プレートは大抵の場合、クランプを介して電気的に接触される。設備での搬送速度は0.01〜2.5cm/秒、好ましくは0.2〜1.7cm/秒になる。導体プレートはローラや円板によって搬送される。
【0058】
本発明に係る方法で、とりわけ銅被覆を備えた導体プレートは表面上に、及び既に銅で薄く金属化された孔の外被面上に電解的に被覆可能である。
【実施例】
【0059】
次の例は本発明の更なる説明に供される:
例1(比較例):
燐含有の溶解性銅陽極を備えた電解セルにおいて、水性の銅浴が次の組成:
硫酸銅(CuSO・5HO) 80g/リットル
硫酸、濃縮物 180g/リットル
硫酸鉄(II)(FeSO・7HO) 35g/リットル
塩化ナトリウム 0.08g/リットル
及び次の光沢形成の添加化合物:
ポリプロピレングリコール 1.5g/リットル
3-メルカプトンプロパン-1-スルフォン酸、
ナトリウム塩 0.006g/リットル
N-アセトルチオ尿素 0.001g/リットル
で用いられた。
【0060】
30℃の電解温度で、表面に銅ラミネートを備え孔に薄い銅層を備えた1.6mmの厚みの導体プレート及び0.4mmの径を有した孔に銅が4A/dmの電流密度で析出された。これは析出された銅層の平坦化の判定のために引っ掻きによって銅ラミネートに筋目を備えていた。
【0061】
高い光沢性の銅層が得られた。しかしながら金属拡散(孔での層厚×100/導体プレート表面での層厚)は55%だけであった。溶液から析出した銅箔の破断伸びは(Jahrbuch der Oberflaechentechnik(表面技術の年刊)、1992年46頁以下、R.Schulz、D.Nische、N.Kananiに記載されたDIN-ISO法 8401による Ductensiomat での湾曲試験法(Woelbungstestmethode)で測定して)21%であった。
【0062】
例2(比較例):
例1で用いられた電解溶液で、銅層がパルス電流法を用いて析出された。図1にしたがうパルス電流サイクルは次の電流パルスを含んだ:
電流、陰極:電流密度:4A/dm 持続時間10ミリ秒
電流、陽極:電流密度:8A/dm 持続時間0.5ミリ秒
【0063】
例1からの結果に対して、金属拡散は55%から75%に改善された。しかしながら、使用可能な銅層はその外観が容認できないので得られなかった。銅層は単に無光沢であった。更にこれら条件下で析出された銅箔の破断伸びは21%から14%に悪化した。
【0064】
例3(比較例):
例1が直流で繰り返された。溶解性の燐含有銅陽極の代わりに、混合酸化物で被覆されたチタンエキスパンドメタルが寸法安定な不溶性陽極として用いられた。
【0065】
析出された銅層は先ず一様に光沢を有した。物理機械的特性もまた満足すべきものであった。しかしながら、例1で与えられた値よりも低い金属拡散値が測定された。析出浴のかなり長い稼動の後、層の外観と破断伸びとが悪化した。同時にチタン陽極の混合酸化物被覆が剥げ落ちたことが確認された。これによって陽極での過電圧が大きく増大した。
【0066】
例4:
例1で与えられた電解溶液で、再び、銅ラミネートを備えた導体プレートが電解的に銅メッキされた。しかしながら、溶解性の銅陽極が使用されず、寸法安定で不溶性の陽極が用いられた。陽極として、混合酸化物で被覆されたチタンエキスパンドメタルが用いられた。更に析出溶液において75g/リットルの硫酸鉄(II)(FeSO・7HO)の濃度が調整された。銅イオンを再生するために、析出溶液が処理容器から銅部片で満たされた別の容器に圧送された。鉄(II)イオンの酸化で陽極に連続的に形成され酸化剤として作用する鉄(III)イオンで銅を酸化することによって、銅部片が逐次分解され、銅イオンが形成された。銅イオンを添加豊富化した析出溶液が、この容器から再び処理溶液に達する。
【0067】
例2で与えられたパルス電流サイクルの使用下で、一様に高光沢性の銅層が導体プレート上に得ることができた。金属分散はこの例に対して悪化せず、したがって例1にしたがうよりも明らかに良好な値を有した。
【0068】
長い時間後に銅が溶液から析出した後(溶液体積当たりの流れた電荷量:10Ah/リットル)、湾曲試験法に従い算定されこの古くなった溶液からなり先に記載した条件下で析出した銅箔の破断伸びは20%になり、例1に従い算出された値の範囲内であった。不溶性陽極は損傷の兆候を示していない。
【0069】
導体プレート表面上及び孔内に析出した銅層は、当該銅層に、特に導体プレート表面から孔にかけての移行部においても亀裂が生じることなしに、熱衝撃試験をもちこたえた。このために、導体プレートは288℃の熱い鑞付け浴(ゾンダリングバス)に二度浸漬され、その間で室温に冷却された。
【0070】
例5(比較例):
導体プレートの水平処理に用いられる搬送式設備において、銅張りされ孔に薄い銅層を備えた導体プレートは電解溶液内で直流を用いて銅メッキされた。陽極として燐含有の銅陽極が用いられた。電解溶液は次の組成:
硫酸銅(CuSO・5HO) 80g/リットル
硫酸、濃縮物 200g/リットル
硫酸鉄(III)(Fe(SO)・9HO) 35g/リットル
塩化ナトリウム 0.06g/リットル
を有し、次の光沢形成添加化合物:
ポリエチレングリコール 1.0g/リットル
3-(ベンゾチアゾリル-2-チオ)-プロピルスルフォン酸、
ナトリウム塩 0.01g/リットル
アセトアミド 0.05g/リットル
【0071】
34℃の電解液温度で、6A/dmの電流密度にて、光沢のある銅層が予め引っ掻きによって筋目を備えたラミネート上に得られた。導体プレートは5度、鑞付け浴内で熱衝撃試験を受けた。銅層に亀裂は認められなかった。0.6mmの径を有した孔での金属分散は62%であった。
【0072】
例6(比較例):
例5の試験が繰り返された。但し、直流の代わりに図1にしたがうパルス電流法が次のパラメータで使用された:
電流、陰極に関する:電流密度:6A/dm
持続時間:10ミリ秒
電流、陽極に関する:電流密度:10A/dm
持続時間:0.5ミリ秒
【0073】
例4に対して、かなり良好な金属分散が達成された。それは0.6mmの大きさの孔において85%になった。但し、析出された銅層の外観は明らかに悪化した:銅層は一様ではなく、光沢のない斑点を示された。上述した条件での熱衝撃試験の際、鑞付け浴への5度の浸漬の後、銅層に亀裂が現れた。
【0074】
例7:
例4で挙げられた条件下で、導体プレートが、溶解性銅陽極の代わりにプラチナで被覆されたチタンエキスパンドメタル陽極を使用して、銅で被覆された。直流の代わりに例6で挙げられたパラメータでのパルス電流法が用いられた。更に、析出溶液中の硫酸鉄(II)(FeSO・7HO)の含有量が80g/リットルに上げられた。
【0075】
析出された銅層は均一で、高い光沢性があり、したがって例5の方法にしたがって製造された導体プレートよりもかなり良好な外観を有した。導体プレートは更に浸漬とその間の室温による冷却とによって、288℃の熱い鑞付け浴で5度の熱衝撃試験を受けた。銅層に亀裂は認められなかった。更に金属分散値は例6に対して改善した。85%より上の値が測定された。不溶性陽極もまたかなり長い時間にわたって安定であった。
【符号の説明】
【0076】
1 容器
2 析出溶液
3 被加工物
4 陽極
5 電源
6 第2容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高い電流密度の箇所でも一様な光沢性、高い破断伸びと引っ張り強さ並びに一様な層厚分布を備えた微細結晶構造の金属層を、パルス電流乃至パルス電圧法を用いて、電解析出するための方法にして、
a)陰極として複雑に形作られた被加工物上に、
b)貴金属又は貴金属の酸化物で被覆され不活性で寸法安定な不溶解性陽極を使用して、
c)c1)析出されるべき金属のイオン、c2)光沢性、破断伸び及び引っ張り強さの制御のための添加化合物、並びにc3)少なくとも1種の電気化学的に可逆な酸化還元系の化合物であって、その酸化形態によって析出されるべき金属のイオンを、対応する金属部分の分解によって形成するような酸化還元系の化合物、を含有する析出溶液から、上記金属層を電解析出し、c4)上記陽極は、穴を明けられているか、陽極メッシュであるか、エキスパンドメタルの形状である、電解析出方法。
【請求項2】
陽極電流パルスと陰極電流パルスを備える調整された電流パルスサイクルが、場合によってはそれらの間に電流強さゼロの停止時間を備えて、被加工物に周期的に繰り返され、又は電圧の対応する調整によって調整されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
陽極電流パルスの電流が陰極電流パルスの電流の2倍〜3倍の高さに調整されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
被加工物での陽極電流パルスの寿命が0.3ミリ秒から10ミリ秒に調整されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
被加工物での2つの陰極電流パルスの間で、陽極電流パルスか電流強さゼロの停止時間が交替で制御され、さもなければ陽極電流パルスと停止時間の組み合わせが調整されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
陽極として、酸化イリジウムで被覆され微細な粒子で照射されたチタンエキスパンドメタルが用いられることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
電気化学的に可逆な酸化還元系として鉄(II)化合物及び鉄(III)化合物が用いられることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
析出溶液中で少なくとも10g/リットルの鉄イオン濃度が調整されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
プリント配線回路基板の表面上と孔の外被面とに銅層を電解的に析出するための請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−299195(P2009−299195A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230437(P2009−230437)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【分割の表示】特願平9−519399の分割
【原出願日】平成8年11月21日(1996.11.21)
【出願人】(597075328)アトーテヒ ドイッチュラント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (33)
【Fターム(参考)】