説明

金属微粒子及びその製造方法並びにそれを含有した流動性組成物

【課題】金属微粒子の表面に均一な炭素含有被覆を形成させる。
【解決手段】ゼラチン等の高分子保護コロイドを被覆した金属微粒子を製造した後、それを酸素分圧が10Pa以下の低酸素分圧雰囲気で加熱し、高分子保護コロイドを熱分解して、金属微粒子の表面に炭素含有被覆を形成する。
このように炭素含有被覆を形成した金属微粒子は、耐酸化安定性を改善することができるため、触媒材料や着色剤等の高温度での使用に対応できる。また、金属微粒子の表面に形成された炭素含有被覆は焼付けにより除去でき、電気的導通を確保するための材料等として幅広く用いることができる。
また、前記の金属微粒子と溶媒とを少なくとも含む流動性組成物は、金属含有膜等を形成する材料として用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子の表面に、炭素含有被覆を形成してなる金属微粒子及びその製造方法に関する。更に、金属含有膜等を製造する際に用いる前記の金属微粒子を含有した流動性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子は、例えば導電剤、帯電防止剤、電磁波遮蔽剤、赤外線遮蔽剤、発色剤、着色剤、触媒等の種々の用途に用いられている。具体的には、金属微粒子の高い導電性を活用して、電気的導通を確保するための材料等として幅広く用いる技術が提案されている。また、ブラウン管、液晶ディスプレイ等の透明性部材の電磁波遮蔽や自動車の赤外線遮蔽に適用されている。更に、金属微粒子の金属光沢を活用した着色剤としても注目されている。
金属微粒子を種々の用途に用いるには、金属微粒子を溶媒に分散した金属コロイド液とし、必要に応じてバインダや分散剤、粘度調整剤などの添加剤を更に配合したコーティング剤、塗料、ペースト、インキなどの組成物として、それらをスクリーン印刷、インクジェット印刷等の印刷技術、スプレー塗装、スピンコーター等の塗布技術を用いて基材に設置し、必要に応じて加熱して、基材上に金属微粒子を担持したり、金属薄膜を形成したりしている。
【0003】
金属微粒子は、一般に大気・水・化学薬品・高温気体・土壌などと直接触れ合う環境下では、その表面から徐々に電気化学的な腐食が始まり、特に化学薬品や酸化による腐食は進行が著しい。このような腐食が進行すると、当然の結果として金属微粒子本来の特性も損なわれていく。そこで、このような化学薬品による腐食や酸化が問題となるような環境下に配置される金属微粒子に対しては、耐薬品性や耐酸化性を付与するための手段が講じられる。例えば、特許文献1には、金属酸化物の粒子と熱可塑性樹脂の粒子との混合物を不活性ガス雰囲気中で加熱処理し、前記熱可塑性樹脂を液相炭素化して、炭素被覆金属粒子を製造する方法が提案されている。
また、積層セラミックスコンデンサの内部電極用材料として使うために、特許文献2には、ニッケル金属粒子粉末とポリオールとを含む原料分散液を加熱し、ニッケル金属粒子に炭素コーティング層を形成させることにより、焼成時の収縮開始温度を800℃以上に高め、しかも約900℃以上の高温下の焼成過程で、炭素コーティング層はCO又はCOなどの形態に酸化されて除去され、ニッケル金属に固有の高い電気伝導性を有するニッケル内部電極を製造することを提案している。
【0004】
【特許文献1】特開平10−280003号公報
【特許文献2】特開2005−154904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の特許文献1の方法では、金属酸化物の粒子と熱可塑性樹脂の粒子との混合物を不活性ガス雰囲気中で加熱処理する方法であるために、10μm以上の大きな金属粒子しか得られず、また、大きさも形状も不揃いになるため、微細な金属微粒子が製造できない。また、炭素被覆も不均一になるため、十分な耐薬品性や耐酸化性が得られず、特に、高温度での耐酸化安定性が十分ではない。
特許文献2の方法では、炭素コーティング層の形成のためにジエチレングリコールの沸点付近の220℃程度まで原料分散液を加熱する必要があり、生産効率が低く、大量生産できない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、これらの問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、高分子保護コロイドを被覆した金属微粒子を製造した後、それを酸素分圧が10Pa以下の低酸素分圧雰囲気で加熱すると、高分子保護コロイドが熱分解して、金属微粒子の表面に均一な炭素含有被覆を形成させることができること、この炭素含有被覆により金属微粒子の耐酸化安定性を改善することができること、しかも、炭素含有被覆は必要に応じて焼付けにより除去できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)金属微粒子の表面に、高分子保護コロイドを熱分解して得られた炭素含有被覆を形成してなる金属微粒子、
(2)高分子保護コロイドを被覆した金属微粒子を、酸素分圧が10Pa以下の低酸素分圧雰囲気で加熱して高分子保護コロイドを熱分解することを特徴とする炭素含有被覆を形成してなる金属微粒子の製造方法、
(3)前記の金属微粒子と溶媒とを少なくとも含む金属微粒子含有組成物、などである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の金属微粒子は、耐酸化安定性を改善することができるため、触媒材料や着色剤等の高温度での使用に対応できる。また、焼付けにより金属微粒子の表面に形成された炭素含有被覆を除去でき、電気的導通を確保するための材料等として幅広く用いることができる。
また、本発明の金属微粒子と溶媒とを少なくとも含む流動性組成物は、金属含有膜等を形成する材料として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の金属微粒子は、その構成成分、粒子径等には特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができる。構成成分としては、1種の金属であっても、合金にしたり積層するなどして2種以上の金属で構成されていても良い。また、1種の金属微粒子であっても良いし、2種以上の金属微粒子を混合した状態であっても良く、例えば平均粒子径が異なる2種以上の金属微粒子、構成成分が異なる2種以上の金属微粒子を混合した状態であっても良い。その金属成分としては周期表VIII族(鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金)及びIB族(銅、銀、金)からなる群より選ばれる少なくとも1種であれば、導電性が高いので好ましく、中でも銀、金、白金、パラジウム、銅は特に導電性が高くより好ましく、導電性とコストのバランスから銀又は銅が特に好ましい。また、着色剤、装飾用途に用いるには、銀、金、銅等が好ましく、発色剤としては金等が好ましい。特に耐酸化安定性の改善が求められている銅、ニッケル、コバルト及び鉄から選ばれる少なくとも一種で構成される金属微粒子が好ましく用いられる。金属微粒子の粒子径は適宜設定することができるが、電子顕微鏡で測定した平均粒子径で表して0.001〜1.0μmの範囲が好ましく、多方面の用途に用いることができることから1〜500nm程度の平均粒子径を有する金属微粒子が更に好ましく、5〜400nmの範囲の平均粒子径を有する金属微粒子が更に好ましい。なお、金属微粒子には、製法上不可避の酸素、異種金属等の不純物を含有していても良く、あるいは、金属微粒子の急激な酸化防止のために必要に応じて予め酸素、金属酸化物や、金属微粒子製造の際に用いる原材料などが含まれていても良い。
【0010】
本発明の金属微粒子は、その表面に炭素含有被覆を形成している。炭素含有被覆は、カーボン、グラファイト等の炭素、あるいは炭素とその他の元素が結合した炭化物を主成分とするものであり、そのほかに未分解の高分子保護コロイドや金属微粒子製造の際の原材料、不純物等が含まれていても良い。前記の炭素含有被覆は、金属微粒子の表面に付着していても良く、金属微粒子の表面に層を形成していても良い。また、金属微粒子の表面近傍に炭素が入って金属成分と結合した炭化物の状態を形成しても良い。炭素含有被覆は、金属微粒子の表面に均一に分散されているのが好ましく、金属微粒子の表面に均一な層を形成しているのがより好ましい。炭素含有被覆の厚さは適宜設定することができるが、耐酸化安定性向上等の観点から約0.5〜約100nm程度が好ましく、より好ましくは約1〜約50nm程度である。炭素含有被覆の含有量は適宜設定することができるが、金属微粒子の金属成分に対する炭素の含有量として、耐酸化安定性向上等の観点から約0.1〜約10重量%程度が好ましく、より好ましくは約0.5〜約7重量%程度である。
【0011】
炭素含有被覆は高分子保護コロイドを熱分解して得られる。高分子保護コロイドとしては公知のものを用いることができ、例えば、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン、カゼイン酸ソーダ、カゼイン酸アンモニウム等のタンパク質系、デンプン、デキストリン、寒天、アルギン酸ソーダ等の天然高分子や、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース系又は変性セルロース系、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等のビニル系、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸アンモニウム等のアクリル酸又はアクリル酸塩、ポリエチレングリコール等の合成高分子等が挙げられ、これらを1種又は2種以上を用いても良い。特にゼラチン、アラビアゴム、変性セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン及びポリアクリル酸類から選ばれる少なくとも一種が好ましい。このような高分子保護コロイドを後述する方法で金属微粒子の表面に被覆させた後、熱分解して、炭素含有被覆を形成する。熱分解の条件は、高分子保護コロイドが炭化する条件であれば適宜設定することができるが、高分子保護コロイドの全部が二酸化炭素、一酸化炭素等に分解されない条件で行う必要がある。そのため、高分子保護コロイドを熱分解する際の雰囲気、特に酸素分圧を調整しながら適当な温度で加熱する。例えば、酸素分圧が10Pa以下の低酸素分圧雰囲気であれば所望の炭素含有被覆を形成することができ、酸素分圧が1×10−4〜1×10−1Paであれば微量の酸素を含む微酸素雰囲気であるためより好ましく、酸素分圧1×10−4Pa以下であれば酸素をほとんど含まない無酸素雰囲気であり、どのような温度で加熱しても所望の炭素含有被覆を形成することができるため更に好ましい。前記の酸素分圧に調整するには、高純度の窒素、アルゴン等の不活性ガス、水素等の還元性ガスを用いたり、所定の酸素分圧になるように加熱装置内を真空又は減圧する。一般に供給される工業用低純度窒素ガスは純度99.5%であって、それには0.5%の酸素が含まれ、1.34×1020個/L以下の酸素分子を有しており、そのときの酸素分圧は5.0×10Paである。このため、酸素分圧を10Pa以下にするには高純度の不活性ガス、還元性ガスを用いる。一方、真空又は減圧するには、通常の真空装置や減圧装置を用いることができるため、この方法がより好ましい。前記の加熱温度は適宜設定することができるが、150〜800℃程度が好ましく、150〜500℃程度がより好ましい。加熱時間は約1分〜約10時間程度が適当である。
【0012】
高分子保護コロイドを予め金属微粒子の表面に被覆させるには、(1)予め公知の方法で調製した金属微粒子を溶媒に分散させ、次いで、高分子保護コロイドを混合し、必要に応じて加熱して、高分子保護コロイドを金属微粒子の表面に被覆させる方法、(2)高分子保護コロイドの存在下、金属化合物溶液と還元剤を混合し還元して、高分子保護コロイドを被覆した金属微粒子を製造する方法等を用いることができるが、(2)の方法では還元反応の際に高分子保護コロイドが存在しており、微細な金属微粒子が分散した状態で得られるため好ましい方法である。
【0013】
前記の(2)の方法について以下に詳述する。金属微粒子を製造するための原料である金属化合物は、例えば、前記金属の塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、酸化物、水酸化物等を用いることができる。金属化合物を溶解あるいは懸濁する溶媒は、水溶媒、アルコール等の有機溶媒又は水溶媒とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒を用いることができ、取り扱い易さや経済性の点で水溶媒を用いるのが好ましい。金属化合物の溶媒中の濃度は、特に制約はないが、工業的には5ミリモル/リットル以上とすることが好ましい。
【0014】
(2)の方法において用いる、還元剤としては、公知のものを用いることができ、例えば、ヒドラジンや、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、抱水ヒドラジン等のヒドラジン化合物等のヒドラジン系還元剤、水素化ホウ素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、次亜硝酸ナトリウム、亜リン酸及び亜リン酸ナトリウム等のその塩、次亜リン酸及び次亜リン酸ナトリウム等のその塩等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いても良い。特に、ヒドラジン系還元剤は還元力が強く好ましい。還元剤の使用量は、金属化合物から金属微粒子を生成できる量であれば適宜設定することができ、金属化合物中に含まれる金属1モルに対し0.2〜5モルの範囲にあるのが好ましい。還元剤が前記範囲より少ないと反応が進み難く、金属微粒子が十分に生成せず、前記範囲より多いと反応が進みすぎ、所望の金属微粒子が得られ難いため好ましくない。更に好ましい還元剤の使用量は、0.3〜2モルの範囲である。
【0015】
高分子保護コロイドの存在下、金属化合物溶液と還元剤を混合し還元すると、高分子保護コロイドが被覆された金属微粒子が生成する。還元反応温度は、10℃〜用いた溶媒の沸点の範囲であれば反応が進み易いので好ましく、40〜95℃の範囲であれば微細な金属微粒子が得られるためより好ましく、60〜95℃の範囲が更に好ましく、80〜95℃の範囲が特に好ましい。反応液のpHを酸又はアルカリで3〜12の範囲に予め調整すると、均一に反応させることができるので好ましい。反応時間は、還元剤等の原材料の添加時間などで制御して設定することができ、例えば、10分〜6時間程度が適当である。前記の還元反応の際に、錯化剤を存在させると金属微粒子の大きさを適宜制御することができるため好ましい。錯化剤としては、硫黄、窒素、酸素から選ばれる少なくとも1種をドナー原子として含む錯化剤が好ましく、メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、メルカプトエタノール、システインなどの硫黄を含む錯化剤がより好ましい。還元終了後、生成した金属微粒子を固液分離し、必要に応じて洗浄した後、通常の方法により乾燥しても良い。金属微粒子は酸化され易いので、酸化を抑制するために、乾燥は窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で行うのが好ましい。乾燥後は、必要に応じて粉砕を行っても良い。
【0016】
前記の炭素含有被覆を形成してなる金属微粒子は、溶媒に分散させて用いることができる。この金属微粒子含有組成物は、一般に分散体、コーティング剤、塗料、ペースト、インキ、インクなどと称される流動性組成物を包含し、前記の金属微粒子と溶媒を少なくとも含有する。金属微粒子を分散させる溶媒は特に制限はなく、水溶媒、アルコール、トルエン等の有機溶媒又は水溶媒とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒を用いることができ、用途に応じて適宜選択することができる。具体的には、アルコール類としては例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール、α−テルピネオールが挙げられ、ケトン類としては例えばシクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン、アセトンが挙げられる。更に有機溶媒としてトルエン、ミネラルスピリットなども好適に用いることができる。金属含有組成物に含まれる金属微粒子の配合量は特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、電気的導通を確保するための材料等の用途における金属微粒子の配合量の上限値は、90重量%程度が可能であり、85重量%が好ましく、80重量%がより好ましく、その下限値は10重量%程度である。装飾用途においてはコストの面から、より低濃度の金属微粒子を用いて鏡面を呈する塗膜が得られることが望ましく、その配合量の上限値は50重量%であれば良く、20重量%であればより好ましく、15重量%であれば更に好ましく、その下限値は1重量%程度である。
【0017】
前記の金属微粒子含有組成物には、前記の金属微粒子、溶媒の他に、界面活性剤、バインダ(硬化性樹脂)、増粘剤、可塑剤、防カビ剤、分散剤等を必要に応じて適宜配合することもできる。界面活性剤は、金属微粒子の分散安定性を更に良くすることができ、4級アンモニウム塩等のカチオン系界面活性剤等を制限なく用いることができる。バインダは、塗布物と基材との密着性を一層向上させることができ、溶媒に対する溶解型、エマルジョン型、コロイダルディスパージョン型等のバインダを制限なく用いることができ、公知のタンパク質系高分子、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エチルセルロース等のセルロース樹脂などを用いることができる。バインダの配合量は、金属微粒子100重量部に対し0.01〜10重量部程度の範囲が好ましく、より好ましい範囲は0.01〜8重量部程度であり、0.01〜5重量部程度であれば更に好ましい。また、金属微粒子の分散性を更に向上させるために、アルカノールアミン等の分散剤を添加しても良い。溶媒への金属微粒子の分散方法は特に制限されないが、例えば、ディスパー等の撹拌機を用いた撹拌混合、サンドミル、コロイドミル等の湿式粉砕混合、超音波分散などの方法を用いることができる。
【0018】
前記の金属微粒子含有組成物は、金属含有膜の形成に用いることができる。例えば、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の方法、スピンコート、ロールコート、スプレーコート、刷毛塗り等の塗布方法により、基材に塗布又は印刷し、乾燥して金属含有膜を形成する。また、基板に塗布又は印刷した後、必要に応じて塗布物又は印刷物を雰囲気、特に酸素分圧を調整しながら適当な温度で焼付けする。焼付けして炭素含有被覆を除去する場合は、空気、酸素ガス等の酸化性ガスを含む雰囲気下、例えば酸素分圧が10Pa以上の雰囲気下で焼付けすれば炭素が酸化され気化して除去される。また、金属微粒子の酸化を防止する上から、10Pa以下の低酸素分圧雰囲気で行うのが好ましく、酸素分圧が1×10−4〜1×10−1Paの微酸素雰囲気であれば、金属微粒子の酸化を防止しながら焼結させることができるためより好ましい。炭素含有被覆を除去する場合の焼付け温度は、酸素分圧によって適宜設定することができるが、100〜1000℃程度の温度が好ましく、120〜700℃程度がより好ましく、150〜700℃程度がより一層好ましく、200〜700℃程度が更に好ましい。
一方、炭素含有被覆が存在しても差し支えなければ、雰囲気や酸素分圧を調整しながら適当な温度で焼付けを行うことができる。通常の焼付け温度としては、例えば、150〜500℃程度であるが、それ以上の温度であっても酸素分圧を調整すれば可能である。その際の雰囲気は、炭素含有被覆により金属の酸化等が防止されるため空気、酸素等の酸化性ガスでも良く、10Pa以下の低酸素分圧雰囲気が好ましく、酸素分圧が1×10−4〜1×10−1Paの微酸素雰囲気あるいは1×10−4Pa以下の無酸素雰囲気であれば、どのような温度で焼付けしても所望の金属含有膜を形成することができるため更に好ましい。いずれも場合でも、前記の酸素分圧に調整するには、高純度の窒素、アルゴン等の不活性ガス、水素等の還元性ガスを用いたり、所定の酸素分圧になるように加熱装置内を真空又は減圧する。焼付け時間は約1分〜約10時間程度が適当である。基材としては、金属、ガラス、セラミック、コンクリートなどの無機質材料、ゴム、プラスチック、紙、木、皮革、布、繊維などの有機質材料、前記の無機質材料と有機質材料とを併用あるいは複合した材料を用いることができる。
【0019】
また、本発明に関連した別の発明は、高分子保護コロイドを表面に有する金属微粒子と溶媒とを少なくとも含む金属微粒子含有組成物を基板に塗布又は印刷した後、焼付け工程の少なくとも一時期を酸素分圧が10Pa以下の低酸素分圧雰囲気で焼付けすることを特徴とする金属含有膜の製造方法である。この方法では、高分子保護コロイドを表面に有する金属微粒子を用い、それを基板上において焼付けする。高分子保護コロイドを表面に有する金属微粒子は前記のものを用いることができ、それと溶媒とを少なくとも含む金属微粒子含有組成物を用いる。この組成物は、前記の炭素含有被覆を形成してなる金属微粒子を含有した金属微粒子含有組成物において、金属微粒子として炭化する前の高分子保護コロイドを表面に有する金属微粒子に置き換えたものであり、溶媒やそのほかの添加剤等は同じものを用いることができ、塗布方法又は印刷方法も前記の方法を用いることができる。
高分子保護コロイドを表面に有する金属微粒子と溶媒とを少なくとも含む金属微粒子含有組成物を基板に塗布又は印刷した後、雰囲気や酸素分圧を調整しながら適当な温度で焼付けを行うが、焼付け工程を10Pa以下の低酸素分圧雰囲気で行うのが好ましく、酸素分圧が1×10−4〜1×10−1Paの微酸素雰囲気あるいは1×10−4Pa以下の無酸素雰囲気であれば、どのような温度で焼付けしても所望の金属含有膜を形成することができるためより好ましい。更に、焼付け工程の一部、例えば100〜400℃の間を酸素分圧が1×10−4Pa以下の無酸素雰囲気で行い、金属微粒子の表面に炭素含有被覆を形成した後、その後の焼付け工程、例えば400℃以上の温度を酸素分圧が1×10−4〜1×10−1Paの微酸素雰囲気で行うと炭素含有被覆を除去でき、金属微粒子の酸化を防止しながら焼結させることができるため、より好ましい方法である。また、焼付け工程の一部を酸素分圧が10Pa以上の雰囲気で行い、その後の焼付け工程を10Pa以下の低酸素分圧雰囲気で行っても良く、反対に、焼付け工程の一部を酸素分圧が10Pa以下の低酸素分圧雰囲気で行い、その後の焼付け工程を10Pa以上の雰囲気で行っても良い。前記の酸素分圧に調整するには、高純度の窒素、アルゴン等の不活性ガス、水素等の還元性ガスを用いたり、所定の酸素分圧になるように加熱装置内を真空又は減圧する。焼付け温度は、酸素分圧によって適宜設定することができるが、100〜1000℃程度の温度が好ましく、120〜700℃程度がより好ましく、150〜700℃程度がより一層好ましく、200〜700℃程度が更に好ましい。焼付け時間は約1分〜約10時間程度が適当である。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0021】
実施例1
工業用酸化銅(N−120:エヌシーテック社製)64g、高分子保護コロイドとしてゼラチン5.1gを650ミリリットルの純水に添加、混合し、15%のアンモニア水を用いて混合液のpHを10に調整した後、20分かけて室温から90℃まで昇温した。昇温後、撹拌しながら、錯化剤として1%のメルカプト酢酸溶液7.7g(酸化銅1000重量部に対し1.2重量部)と、80%のヒドラジン一水和物75gを150ミリリットルの純水に混合した液を添加し、1時間かけて酸化銅と反応させ、銅微粒子を生成させた。その後は、濾過洗浄、乾燥し、平均一次粒子径0.1μmの銅微粒子(試料A)を得た。
試料Aを透過型電子顕微鏡で観察したところ、試料Aの表面は、厚さ約5.5nmのゼラチン層で被覆されていることが確認された(図1)。
試料Aを高真空雰囲気(約2.0×10−5Pa)下、250℃、20分間加熱することで、本発明の試料Bを作製した。試料Bを透過型電子顕微鏡で観察したところ、試料Bの表面は、厚さ約1.5nmの炭素含有層で被覆されていることが確認された(図2)。
また、この試料Bは、高真空雰囲気(約2.0×10−5Pa)下での500℃の焼成でも金属銅の酸化及び焼結が抑制されることが分かった。
【0022】
ペースト1の調製
試料Bを10g、バインダ樹脂としてエチルセルロースを0.5g、溶媒として、α−テルピネオール9.5gを三本ロールにて混練し、本発明のペースト1(試料C)を作製した。
試料Cをアルミナ基板上に塗布し、微酸素雰囲気(酸素分圧約6.0×10−3Pa)下、所定の温度で焼付けを行い、銅薄膜を作製した。得られた膜の体積抵抗率を表1に示す。この結果から、これらの銅薄膜は導電性材料として使用できることが分かった。
【0023】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の金属微粒子は、耐酸化安定性を改善することができるため、触媒材料や着色剤等の高温度での使用に対応できる。また、焼付けにより金属微粒子の表面に形成された炭素含有被覆を除去でき、電気的導通を確保するための材料等として幅広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1で得られた銅微粒子(試料A)の電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1で得られた銅微粒子(試料B)の電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属微粒子の表面に、高分子保護コロイドを熱分解して得られた炭素含有被覆を形成してなる金属微粒子。
【請求項2】
高分子保護コロイドがゼラチン、アラビアゴム、変性セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン及びポリアクリル酸類から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の金属微粒子。
【請求項3】
金属微粒子が銅、ニッケル、コバルト及び鉄から選ばれる少なくとも一種で構成される請求項1に記載の金属微粒子。
【請求項4】
電子顕微鏡で測定した金属微粒子の平均粒子径が0.001〜1.0μmの範囲である請求項1に記載の金属微粒子。
【請求項5】
高分子保護コロイドを被覆した金属微粒子を、酸素分圧が10Pa以下の低酸素分圧雰囲気で加熱して高分子保護コロイドを熱分解することを特徴とする炭素含有被覆を形成してなる金属微粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4に記載の金属微粒子と溶媒とを少なくとも含む金属微粒子含有組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の金属微粒子含有組成物を用いて形成されることを特徴とする金属含有膜。
【請求項8】
請求項6に記載の金属微粒子含有組成物を基板に塗布又は印刷した後、焼付けすることを特徴とする金属含有膜の製造方法。
【請求項9】
高分子保護コロイドを表面に有する金属微粒子と溶媒とを少なくとも含む金属微粒子含有組成物を基板に塗布又は印刷した後、酸素分圧が10Pa以下の低酸素分圧雰囲気で焼付けすることを特徴とする金属含有膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−285697(P2008−285697A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129333(P2007−129333)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】