説明

金属捕集システム及び方法

【課題】金属捕集材を海中に係留して海水に含まれる金属を捕集する際に、常に高い金属捕集効率を維持する金属捕集システム及び方法を提供する。
【解決手段】海水及び金属捕集材maを流動床3に収容し、海水中で金属捕集材を流動させることにより、海水に含まれる金属を前記金属捕集材に吸着させる。海水を濃縮し、金属濃度の高い海水を前記流動床へ供給する海水濃縮装置を具備し、さらに流動床内での微生物の増殖を抑制可能なように、流動床の内部へ光が入射しないように配置された遮光板を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属捕集システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、モール状に成形された金属捕集材(ポリエチレンにアミドキシム基をグラフト重合させたもの)をアンカーに接続して海中に係留することで、海水に含まれる極微量のウランやバナジウム等の希少金属を効率良く捕集する技術が開示されている。
また、下記特許文献2には、海上に浮かぶ人工陸地や、橋の橋脚間、海中に張ったロープ、或いは浮体のプールなどから、アミドキシム基を有する捕集材で構成された捕集材ユニットを吊り下げて海中に係留することにより、海水に含まれる金属を捕集する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−280615号公報
【特許文献2】特開2000−212655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術のように、金属捕集材を海中に係留して海水に含まれる金属を捕集する場合、海流の速度が速い程、海水と金属捕集材との接触効率が高くなるため、金属の捕集効率は高くなる。従って、海流速度の速い海域に金属捕集材を係留することが望ましいが、地理的或いは経済的な問題から必ずしもそのような海域だけに金属捕集材を係留できるとは限らない。また、海流速度の速い海域に金属捕集材を係留できたとしても、海流の変化によって海流速度が変化した場合に金属捕集効率の低下を招く虞がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、常に高い金属捕集効率を維持可能な金属捕集システム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、金属捕集システムに係る第1の解決手段として、海水及び金属捕集材を収容し、前記海水中で前記金属捕集材を流動させる流動床を具備することを特徴とする。
【0007】
また、本発明では、金属捕集システムに係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記海水を濃縮し、濃縮後の海水を前記流動床へ供給する海水濃縮装置を具備することを特徴とする。
【0008】
また、本発明では、金属捕集システムに係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、前記流動床の内部へ光が入射しないように配置された遮光板を具備することを特徴とする。
【0009】
また、本発明では、金属捕集システムに係る第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれか1つの解決手段において、前記流動床には、球状或いは円筒形状に成形された前記金属捕集材が収容されることを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明では、金属捕集方法に係る解決手段として、海水及び金属捕集材を流動床に収容し、前記海水中で前記金属捕集材を流動させることにより、前記海水に含まれる金属を前記金属捕集材に吸着させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、流動床内において海水中で金属捕集材を流動させることにより、擬似的に海流速度が速い海域に金属捕集材を係留した状況を生み出すことができる。すなわち、本発明によれば、常に海水と金属捕集材との接触効率を高く維持でき、その結果、常に高い金属捕集効率を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態における金属捕集システムの構成概略図である。
【図2】第2実施形態における金属捕集システムの構成概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態における金属捕集システムの構成概略図である。この図1に示すように、第1実施形態における金属捕集システムは、海水ポンプ1、海水貯留タンク2及び流動床3から構成されている。
【0014】
海水ポンプ1は、海から海水を汲み上げて海水貯留タンク2に供給するものである。海水貯留タンク2は、海水ポンプ1から供給される海水を貯留するタンクであり、一定量海水が貯まった時点で海水を流動床3に供給するものである。流動床3は、海水貯留タンク2から供給されて槽内に貯まった海水中で金属捕集材maを流動させるものである。
【0015】
上記のように構成された第1実施形態の金属捕集システムにおいて、海水ポンプ1によって海から汲み上げられた海水は、海水貯留タンク2に貯留された後、流動床3に供給される。このように海水が収容された流動床3に、球状或いは円筒形状に成形された金属捕集材maを投入し、海水中で金属捕集材maを流動させて積極的に海水と金属捕集材maとを接触させることにより、効率良く海水に含まれる金属を金属捕集材maに吸着させる。
【0016】
例えば、流動床3のサイズが容量50m、高さ16〜63m、塔径1〜2mとすると、海水滞留時間30分〜1時間、海水流量50〜100m/hで、金属捕集材maがφ5〜20mm、d=1.2〜1.5の球状またはφ5〜10mm、長さ5〜10mmの円筒状である場合は、海流速0.004〜0.04m/sの運転条件下で金属捕集を行うことができる。ただし、用いる金属捕集材maの比重、大きさ、材質によって、海流速を調整するか、逆に設定する海流速によって比重等を調整して、金属捕集材maが流出することなく、流動する状態を保つようにする。
【0017】
金属捕集材maとしては、材質がポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン等で、アミドキシム基やリン酸基等のウラン吸着基が修飾された繊維状の捕集材を用いることができる。また、金属捕集材maの形状は、球状或いは円筒形状に限らず、海水との接触面積が大きい形状とすれば良い。このような金属捕集材maは、海水からウランやバナジウム等の希少金属を捕集(吸着)するのに好適である。
【0018】
このような第1実施形態によれば、流動床3内において海水中で金属捕集材maを流動させることにより、擬似的に海流速度が速い海域に金属捕集材maを係留した状況を生み出すことができる。すなわち、本実施形態によれば、常に海水と金属捕集材maとの接触効率を高く維持でき、その結果、常に高い金属捕集効率を維持することが可能となる。
【0019】
本願発明者は、上記実施形態に記載の流動床3による金属捕集を模擬した実験を行った。この実験は、模擬流動床内での金属捕集材の浸漬日数を7日間、模擬流動床への海水の供給速度を15L/minとし、模擬流動床内において金属捕集材に対して海水を線速50(cm/sec)で直角に衝突させた場合の、金属捕集材の単位乾燥重量当りのウラン吸着量を調査したものである。なお、比較対象として、金属捕集材に対して海水を線速0.013(cm/sec)で平行且つ緩やかに流した場合の、金属捕集材の単位乾燥重量当りのウラン吸着量も調査した。
【0020】
その結果、金属捕集材に対して海水を平行且つ緩やかに流した場合、金属捕集材の単位乾燥重量当りのウラン吸着量は9(μg−U/g−dry)であったのに対し、金属捕集材に対して海水を直角に衝突させた場合、金属捕集材の単位乾燥重量当りのウラン吸着量は290(μg−U/g−dry)であった。つまり、上記実施形態のように、流動床3内において海水中で金属捕集材maを流動させて積極的に海水と金属捕集材maとを接触させることにより、高い効率で海水に含まれる金属を捕集できることが実証された。
【0021】
なお、上記実施形態において、流動床3の内部へ光が入射しないように遮光板を配置しても良い。このように、流動床3の内部への光の入射を遮ることにより、流動床3内での微生物の増殖を抑制することができる。金属捕集材maに微生物が付着すると、海水との接触面積が減少して金属捕集効率が低下するため、上記のように微生物の増殖を抑制することで金属捕集効率の低下を防止することができる。
【0022】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図2は、第2実施形態における金属捕集システムの構成概略図である。この図2に示すように、第2実施形態における金属捕集システムは、海水ポンプ11、海水淡水化装置12、濃縮海水ポンプ13、集熱器14、高温濃縮海水ポンプ15、海水貯留槽16及び流動床17から構成されている。なお、上記の構成要素の内、海水淡水化装置12、濃縮海水ポンプ13、集熱器14、高温濃縮海水ポンプ15及び海水貯留槽16は、本発明における海水濃縮装置を構成するものである。
【0023】
海水ポンプ11は、海から海水を汲み上げて海水淡水化装置12に供給するものである。海水淡水化装置12は、逆浸透膜(RO膜:Reverse Osmosis Membrane)によって塩分や金属等を含む不純物が濃縮された濃縮海水と水質の良い淡水とに海水を分離するものである。濃縮海水ポンプ13は、海水淡水化装置12によって海水から分離された濃縮海水を集熱器14へ圧送するものである。
【0024】
集熱器14は、例えばソーラーパネルであり、太陽光を集光して得られる熱エネルギーによって内部を流通する液体を加熱するものである。つまり、集熱器14に導入された濃縮海水は、集熱器14の内部を流通する過程で加熱されて高温の濃縮海水となる。高温濃縮海水ポンプ15は、集熱器14によって加熱された高温濃縮海水を海水貯留槽16へ圧送するものである。
【0025】
海水貯留槽16は、高温濃縮海水ポンプ15から供給される高温濃縮海水を貯留する槽であり、高温濃縮海水を一定期間静置することで得られる、より濃縮度(不純物濃度)が高い高濃縮海水を流動床17に供給するものである。流動床17は、海水貯留槽16から供給されて槽内に貯まった高濃縮海水中で金属捕集材maを流動させるものである。
【0026】
上記のように構成された第2実施形態の金属捕集システムにおいて、海水ポンプ11によって海から汲み上げられた海水は海水淡水化装置12に供給され、逆浸透膜を通過する過程で濃縮海水と淡水とに分離される。このように海水淡水化装置12において生成された濃縮海水と淡水の内、淡水は外部に廃棄(排水)される一方、濃縮海水は濃縮海水ポンプ13によって集熱器14へ供給され、集熱器14の内部を流通する過程で加熱されて高温濃縮海水となり、高温濃縮海水ポンプ15によって海水貯留槽16へ供給される。
【0027】
高温濃縮海水は、海水貯留槽16に貯留された状態で一定時間静置される。この間、高温濃縮海水から水分が蒸発して、より濃縮度(不純物濃度)が高い高濃縮海水が得られる。一定時間が経過すると、海水貯留槽16に貯留されていた高濃縮海水は流動床17に供給される。このように高濃縮海水が収容された流動床17に、第1実施形態と同様の球状或いは円筒形状に成形された金属捕集材maを投入し、高濃縮海水中で金属捕集材maを流動させることにより、海水に含まれる金属を金属捕集材maに吸着させる。なお、流動床17のサイズと運転条件との関係は第1実施形態と同様である。
【0028】
このような第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に、常に海水と金属捕集材maとの接触効率を高く維持でき、その結果、常に高い金属捕集効率を維持することが可能となる。また、第2実施形態では、海水を濃縮して不純物濃度(金属濃度)を高くすることにより、第1実施形態と比べて高い金属捕集効率を得ることができる。なお、本実施形態においても、流動床17内での微生物の増殖を抑制するために、流動床17の内部へ光が入射しないように遮光板を配置しても良い。
【0029】
以上、本発明の第1及び第2実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
例えば、上記第2実施形態では、海水淡水化装置12(RO膜による濃縮)と海水貯留槽16(水分蒸発による濃縮)との2つの手段を用いて海水を濃縮する場合を例示したが、いずれか一方の手段のみを用いて海水を濃縮しても良い。また、海水を濃縮する手段(海水濃縮装置)は、これらに限定されない。
また、上記第1及び第2実施形態では、1つの流動床3(17)が設置されている金属捕集システムを例示したが、例えば、複数の流動床を直列に配置して、前段の流動床で使用した海水を順次後段の流動床に移送するような構成を採用しても良い。
【符号の説明】
【0030】
1、11…海水ポンプ、2…海水貯留タンク、3、17…流動床、12…海水淡水化装置(海水濃縮装置)、13…濃縮海水ポンプ(海水濃縮装置)、14…集熱器(海水濃縮装置)、15…高温濃縮海水ポンプ(海水濃縮装置)、16…海水貯留槽(海水濃縮装置)、ma…金属捕集材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水及び金属捕集材を収容し、前記海水中で前記金属捕集材を流動させる流動床を具備することを特徴とする金属捕集システム。
【請求項2】
前記海水を濃縮し、濃縮後の海水を前記流動床へ供給する海水濃縮装置を具備することを特徴とする請求項1に記載の金属捕集システム。
【請求項3】
前記流動床の内部へ光が入射しないように配置された遮光板を具備することを特徴とする請求項1または2に記載の金属捕集システム。
【請求項4】
前記流動床には、球状或いは円筒形状に成形された前記金属捕集材が収容されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属捕集システム。
【請求項5】
海水及び金属捕集材を流動床に収容し、前記海水中で前記金属捕集材を流動させることにより、前記海水に含まれる金属を前記金属捕集材に吸着させることを特徴とする金属捕集方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−132076(P2012−132076A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286585(P2010−286585)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】