説明

金属支持型固体酸化物型燃料電池

【課題】 頑強でありかつ先行技術の電池よりも高い腐食安定性およびCr被毒に対する高い耐性を有する固体酸化物型電池を提供する。
【解決手段】 金属支持体層を提供する工程と、
金属支持体層上にカソード前駆体層を形成する工程と、
カソード前駆体層上に電解質層を形成する工程と、
得られた多層構造体を焼結する工程と、
任意の順序で
カソード前駆体層を含浸することによりカソード層を形成する工程、および
電解質層上にアノード層を形成する工程
を行うことと、
を含み、特徴として、該カソード層を形成する前に、
バリヤ材料の前駆体溶液または前駆体懸濁液を金属支持体層中およびカソード前駆体層中に含浸させ、続いて、熱処理を行うこと
をさらに含む方法により製造可能な可逆性固体酸化物型燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アノード支持体または金属支持体を含みかつ燃料電池内に組み込まれたバリヤ材料で保護されている(可逆性)固体酸化物型燃料電池(SOFC)に関する。とくに、本発明は、金属支持体側にカソードを有して金属支持体と金属支持体層中およびカソード前駆体層中に含浸されたバリヤ材料とを含む(可逆性)固体酸化物型燃料電池(SOFC)に関する。本発明はまた、バリヤ材料がアノード前駆体層中にも含浸されてアノード側が保護されている金属支持型固体酸化物型燃料電池に関する。本発明はまた、電池のカソード前駆体層中に含浸されたバリヤ材料を有するアノード支持型固体酸化物型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物型燃料電池(SOFC)の従来の製造方法は、金属支持体の提供と、その上へのアノード層の形成と、それに続く電解質層の適用と、を含む。そのように形成された半電池は、乾燥された後、多くの場合、還元性雰囲気中で焼結される。最終的に、全電池が得られるようにその上にカソード層が形成される。しかしながら、半電池の焼結時、金属支持体とアノード材料との間に望ましくない反応が起こり、その結果、電池全体の性能が悪影響を受ける。
【0003】
特許文献1は、アノードの金属と通常はフェライト系ステンレス鋼である金属支持体との反応を防止する実質的に純粋な電子伝導性酸化物で終端する金属支持体を含む、金属支持体側にアノードを有する固体酸化物型燃料電池に関する。全電池は、金属支持体の上に、活性アノード層と、電解質層と、活性カソード層と、単一相LSMのカソード集電体への遷移層(transition layer)と、を含有する。カソード層から電解質層中への陽イオンの拡散を防止することによりカソード層の寿命を増大させるために、電解質層とカソード層との間に個別バリヤ層が提供される。
【0004】
特許文献2には、通常はフェライト系ステンレス鋼支持体である金属支持体上にカソード層を提供することにより頑強な電池の提供を可能にした燃料電池が開示されている。この電池では、それと同時に、逆に金属支持体側にアノード層を提供する設計にした場合に遭遇する金属支持体の劣化の問題が解消される。金属支持体上にカソード層を有することにより、Niのような活性アノード成分と支持体のフェライト系鋼との反応が回避される。カソードから電解質への陽イオンの拡散を防止するために、電解質とカソード層との間にドープセリアの個別バリヤ層が提供される。金属支持体側にカソードを提供することにより、より頑強な電池にすることが可能である。アノード材料の選択の自由度が増大すると同時に、レドックス安定性が向上する。しかしながら、依然として金属支持体の腐食を生じる可能性があるので、それ以外は魅力的なこの電池設計の適用可能性が極度に損なわれる可能性がある。さらに、多くの場合700℃〜900℃の間にあるSOFCの動作温度において、通常はフェライト系ステンレス鋼である金属支持体中に存在するクロムは、カソード中に移行して電池の劣化に基づく出力密度の有意な低下により電池の性能を極度に損なう傾向が強い。この現象は、Cr被毒として当該技術分野において公知である。
【0005】
非特許文献1には、カソードへの空気の流入を可能にするスロットパターンを有する集電体を形成するためにフェライト系ステンレス鋼の薄肉かつ緻密な金属シートを穿孔する燃料電池の作製法が記載されている。次に、穿孔された金属シートは、セリアでコーティングされ、続いて、ボタン電池のアノード側またはカソード側に装着される。ボタン電池は、電解質−カソード境界部に薄肉のGdドープセリア層を含有する。金属表面上にセリアコーティング(薄肉の酸化物層として)を提供することにより、Cr被毒に基づく電池の劣化が低減される。しかしながら、金属の外表面だけがセリアで覆われているにすぎない。
【特許文献1】国際公開第2005/122300(A2)号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2006/082057(A2)号パンフレット
【非特許文献1】D.E.アルマン(D.E.Alman)ら著、電源誌(Journal of Power Sources)、第168巻(2007年)、351−355頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
頑強でありかつ先行技術の電池よりも高い腐食安定性およびCr被毒に対する高い耐性を有する固体酸化物型電池を提供できるようにすることが望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このたび、電池の層全体にわたりバリヤ材料を提供することにより、金属支持体さらには構造体中に存在する他の金属部品例えばインターコネクトの腐食安定性を向上させうることを見いだした。電解質層上に堆積されるがカソード前駆体層中および金属支持体層中に浸透するバリヤ材料を提供することにより、空気電極(カソード)材料と電解質材料との間の界面反応が防止され、それと同時に金属支持体の腐食安定性が向上しかつカソードのCr被毒が回避される。
【0008】
本発明に従って、本発明者らは、
金属支持体層を提供する工程と、
金属支持体層上にカソード前駆体層を形成する工程と、
カソード前駆体層上に電解質層を形成する工程と、
得られた多層構造体を焼結する工程と、
任意の順序で
カソード前駆体層を含浸することによりカソード層を形成する工程、および
電解質層上にアノード層を形成する工程
を行うことと、
を含み、特徴として、該カソード層を形成する前に、
バリヤ材料の前駆体溶液または前駆体懸濁液を金属支持体層中およびカソード前駆体層中に含浸させ、続いて、熱処理を行うこと
をさらに含む方法により製造可能な可逆性固体酸化物型燃料電池を提供する。
【0009】
それにより、バリヤ材料の前駆体溶液または前駆体懸濁液は金属支持体層中およびカソード前駆体層中に含浸される。そのほかに、固体酸化物型燃料電池の他の層中、例えば、以下に定義されるような遷移層中にバリヤ材料を含浸させることも可能である。プロセスの結果として、電解質もまた、バリヤ材料により覆われるであろう。電解質層は気密であり、したがって、バリヤ材料は、その中ではなくその上に適用される。その際、バリヤ材料は、前記カソード層の形成前、カソードに面する側で電解質層上に堆積される。これにより、カソード材料と電解質材料との間、特定的にはカソード中のLa酸化物および/またはSr酸化物と電解質中のZrOとの間の望ましくない反応が排除される。これらの材料は、反応して電池内に電気絶縁性境界層を形成することにより電池の電気化学的活性を低下させる傾向がある。
【0010】
本明細書中で用いられる場合、可逆性固体酸化物型燃料電池という用語は、電池内の電流を逆転させた場合に燃料電池の反応が逆転されて固体酸化物型電池(SOC)が電解装置(SOEC)として作用することを意味する。
【0011】
本明細書中で用いられる場合、多層構造体および半電池という用語は、同義的に用いられる。これらの用語は、金属支持体層と、場合により遷移層を1層以上と、カソード前駆体層と、電解質層と、を含有する層状構造体を包含する。金属支持体に電解質が直接装着された電池では、多層構造体という用語は、金属支持体層と、場合により遷移層を1層以上と、電解質層と、を含有する層状構造体を包含する。多層構造体という用語はまた、加えてアノード前駆体層を1層以上が提供された実施形態または支持体が金属以外である実施形態例えばアノード支持型構造体を包含しうる。
【0012】
バリヤ材料は、電池内に浸透可能であり、多孔性金属支持体と前駆体層とを含むカソード室内の粒子表面上および緻密な電解質の表面上に分配される。したがって、本発明は、燃料電池の層、好ましくはアノード層以外のすべての層全体にわたり分散されているがさらにカソード側に面する電解質表面上に堆積されている含浸されたバリヤ材料を有する金属支持型電池を包含する。バリヤ材料は、カソード(空気電極)材料と電解質材料との間の界面反応、例えば、カソード触媒から電解質層へのおよびカソード前駆体への陽イオンの拡散を防止することにより、電池の電気的性能および寿命を増大させる。バリヤ材料はまた、金属支持体からカソード中へのクロムの移行を防止する。バリヤ材料は、金属支持体さらには構造体中に存在する他の金属部品例えばインターコネクトの腐食安定性を、これらの層中への酸素の流入を妨害するかまたは少なくとも極度に制限することにより、向上させる。
【0013】
本発明はまた、金属支持体に電解質が直接装着された電池を包含する。したがって、本発明者らはまた、
・金属支持体層を提供する工程と、
・金属支持体層上に電解質層を形成する工程と、
・得られた多層構造体を焼結する工程と、
・任意の順序で
・金属支持体層を含浸することによりカソード層を形成する工程、および
・電解質層上にアノード層を形成する工程
を行うことと、
を含み、特徴として、該カソード層を形成する前に、
・バリヤ材料の前駆体溶液または前駆体懸濁液を金属支持体層中および電解質層中に含浸させ、続いて、熱処理を行うこと
をさらに含む方法により製造可能な可逆性固体酸化物型燃料電池を提供する。
【0014】
したがって、この場合、金属支持体はカソード前駆体層として作用する。
【0015】
本発明の他の実施形態では、金属支持型電池はアノード側も保護される。この目的では、アノードの前駆体層もまた提供され、アノードの形成または完成は、カソード層の形成または完成の前に行われる。
【0016】
したがって、電解質層上にアノード層を形成する工程は、カソード層を形成する工程(例えば、カソード前駆体層または金属支持体層を含浸することにより)の前に行われ、
得られた多層構造体を焼結する前に電解質層上にアノード前駆体層を形成することと、
得られた多層構造体を焼結した後、Ni、Ce、Gd、およびそれらの混合物からなる群から選択される化合物を含む前駆体溶液または前駆体懸濁液でアノード前駆体層を含浸することと、
を含み、本方法は、該カソード層および該アノード層を形成する前に、
バリヤ材料の前駆体溶液または前駆体懸濁液を金属支持体層中、カソード前駆体層中、およびアノード前駆体層中に含浸させ、続いて、熱処理を行うこと
をさらに含む。
【0017】
より特定的には、この実施形態に従って、
金属支持体層を提供する工程と、
金属支持体層上にカソード前駆体層を形成する工程と、
カソード前駆体層上に電解質層を形成する工程と、
電解質層上にアノード前駆体層を形成する工程と、
得られた多層構造体を焼結する工程と、
Ni、Ce、Gd、およびそれらの混合物からなる群から選択される化合物を含む前駆体溶液または前駆体懸濁液でアノード前駆体層を含浸することによりアノード層を形成する工程と、
・カソード前駆体層を含浸することによりカソード層を形成する工程と、
を含み、該カソード層および該アノード層を形成する前に、
・バリヤ材料の前駆体溶液または前駆体懸濁液を金属支持体層中、カソード前駆体層中、およびアノード前駆体層中に含浸させ、続いて、熱処理を行うこと
をさらに含む方法により、可逆性固体酸化物型燃料電池を製造可能である。
【0018】
例えば、金属支持体、カソード前駆体層、電解質層、およびアノード前駆体層を提供した後、サンプルを所望の寸法で打ち抜いて還元性条件下で焼結することが可能である。焼結後、金属支持体中、カソード中、およびアノード前駆体層中、ならびに電解質層上にバリヤ材料を含浸させる。バリヤ材料の含浸は、少なくとも1回行われ、含浸後、サンプルは、例えば400℃で1時間にわたり、熱処理される。金属支持体にマスクを施して、Ni、Ce、およびGdを含有する硝酸塩溶液を含浸させることによりアノード層を形成する。乾燥後、金属支持体マスクを除去し、アノード層にマスクを施す。次に、例えばLa、Sr、Fe、Co、Ce、およびGdを含む好適な硝酸塩溶液でカソード前駆体層を含浸することによりカソード層を形成する。他の選択肢として、それぞれ、(La1−xSr(CoFe1−y)O3−δ(LSCF)ならびにCe1−xGd2−δ(CGO)および/またはNiO+CGOのコロイド懸濁液を含浸させることが可能である。
【0019】
電解質を金属支持体に直接装着する場合、
金属支持体層を提供する工程と、
金属支持体層上に電解質層を形成する工程と、
電解質層上にアノード前駆体層を形成する工程と、
得られた多層構造体を焼結する工程と、
Ni、Ce、Gd、およびそれらの混合物からなる群から選択される化合物を含む前駆体溶液または前駆体懸濁液でアノード前駆体層を含浸することによりアノード層を形成する工程と、
金属支持体層を含浸することによりカソード層を形成する工程と、
を含み、該カソード層および該アノード層を形成する前に、
バリヤ材料の前駆体溶液または前駆体懸濁液を少なくとも金属支持体層中およびアノード前駆体層中に含浸させ、続いて、熱処理を行うこと
をさらに含む方法により、可逆性固体酸化物型燃料電池を製造可能である。
【0020】
両側に電極前駆体層(カソード前駆体層およびアノード前駆体層)を有することにより、依然として金属支持体側にカソードを有する状態でアノード側の金属の腐食防止が達成される。
【0021】
選択される実施形態のいかんを問わず、バリヤ材料は、好ましくは、多層構造体の焼結後に真空浸潤により提供される。これにより、多層構造体全体すなわち半電池全体にわたる含浸が達成される。
【0022】
好ましくは、バリヤ材料は、セリア、より好ましくはドープセリア、例えば、(Ce0.9Gd0.1)O2−δ(すなわちCGO10)または(Ce0.9Sm0.1)O2−δ(すなわちCSO10)を含む。
【0023】
バリヤ材料の前駆体溶液または前駆体懸濁液は、好ましくは、ドープセリアの硝酸塩溶液、例えばGdドープセリア((Ce0.9Gd0.1)O2−δ)の硝酸塩溶液、または2〜100nm、好ましくは30〜100nm、より好ましくは30〜80nmの平均直径を有するドープセリア粒子のコロイド懸濁液である。
【0024】
金属支持型の実施形態では、金属支持体層とカソード前駆体と電解質とからなる半電池を焼結した後でそのような半電池の多孔性構造体中にバリヤ材料が含浸されることは理解されよう。電解質層は非常に緻密であり、したがって、この層はこの多孔性構造体の一部ではない。バリヤ材料は、多孔性半電池内の表面さらには電解質上の表面を覆う。バリヤ材料の含浸後、活性カソードは、純粋な触媒(例えば、(La1−xSrCoO3−δ、LSC)または複合材(例えば、LSCF+CGO)の形態で含浸される。電解質の反対側は、任意の好適なアノードでコーティング可能である。
【0025】
通常、アノードガスは、金属支持体の深刻な腐食問題を引き起こす可能性のある50体積%超の水を含有する。したがって、金属支持体側にカソードおよびバリヤ材料を提供することにより、アノードの選肢の自由度を高くすることも可能であり、レドックス安定性Ni系アノードを有することさえも可能である。
【0026】
二工程含浸、すなわち、最初にバリヤ材料の前駆体の含浸、次にカソード層を形成するために活性カソード材料の含浸を行うと、金属支持体の二重保護効果を生じる。それにより、より良好な性能およびより長い寿命を有する機械的に頑強な燃料電池が得られる。
【0027】
さらに他の実施形態では、可逆性固体酸化物型燃料電池の作製方法は、前記金属支持体層と前記カソード前駆体層との間に中間遷移層を1層以上備えることをさらに含む。遷移層は、金属材料とセラミック材料とからなる結合層を構成し、金属支持体とカソードとの熱膨張係数(TEC)の差に起因する熱応力を低減する。遷移層は、好ましくは、金属と酸化物材料との混合物からなる。
【0028】
好ましくは、例えば約2時間にわたる200℃の熱処理は、バリヤ材料の前駆体溶液または前駆体懸濁液の提供後かつカソード層の形成前に行われる。約1、2、もしくは3時間にわたり300℃、400℃、500℃、600℃、700℃で熱処理を行うことも可能である。この熱処理を行うと、バリヤ材料の前駆体溶液または前駆体懸濁液の分解、例えば、ドープセリア((Gd0.1Ce0.9)O2−δ)の硝酸塩溶液の硝酸塩の分解が確実に行われ、それにより、バリヤ材料が燃料電池の層内に固定される。緻密なバリヤ層を得るのに必要な程度にバリヤ材料が電池内に確実に浸透するように、含浸手順を複数回、好ましくは2〜5回反復することが可能である。各含浸の後で熱処理を行うことが可能である。
【0029】
金属支持体層は、70体積%未満、多くの場合10〜60体積%の範囲内の細孔体積、および1〜50μm、好ましくは2〜10μmの平均細孔径を有する。多孔性金属支持体層は、ガスの輸送を可能にし、好ましくは、FeCrMx合金〔式中、Mxは、Ni、Ti、Ce、Mn、Mo、W、Co、La、Y、Al、およびそれらの混合物からなる群から選択される〕と、約0〜約50体積%の金属酸化物〔ここで、金属酸化物は、ドープジルコニア、ドープセリア、Mg/Ca/SrO、CoO、MnO、B、CuO、ZnO、VO、Cr、FeO、MoO、W0、Ga、A1、TiO、およびそれらの混合物からなる群から選択される〕と、を含む。該酸化物を一種以上加えることにより、電極層と金属支持体と間の化学結合が促進され、それと同時に、それぞれの層のTEC(熱膨張係数)が調整されてそれらのTEC差が低減される。また、該酸化物を用いて層の焼結性および粒子成長を制御することが可能である。例えば、MgOまたはCoOの場合、TEC差は増大することになるし、例えば、Cr、Al、TiO、ジルコニア、およびおそらくセリアの場合、TECは減少することになる。したがって、それぞれの酸化物の添加を利用して所望に応じてTEC差を制御することが可能である。
【0030】
さらなる好ましい実施形態では、FeCrM多孔性支持体層は、すべての内表面上および外表面上に酸化物層を含む。好適な雰囲気中でFeCrM合金自体を酸化することにより、該酸化物層を形成することが可能である。他の選択肢として、酸化物層を合金上にコーティングすることが可能である。酸化物層は、金属の腐食を有利に阻止する。好適な酸化物層は、例えば、Cr、CeO、LaCrO、SrTiO、およびそれらの混合物を含む。好ましくは、酸化物層はさらに、例えばアルカリ土類酸化物で好適にドープ可能である。
【0031】
特定の実施形態では、金属支持体は、Zr0.940.06Zr2−δと混合されたFeCrMx合金、好ましくはFe22CrTi0.04の粉末懸濁液として提供される。
【0032】
本発明に係る金属支持体層の厚さは、約100μm〜約2000μmの範囲内であるのが好ましく、約250μm〜約1000μmの範囲内であるのがより好ましい。
【0033】
以上で述べたように、カソード層は、LSCのような純粋な触媒またはLSCF/CGO複合材のような複合材の形態の活性カソードで前記カソード前駆体層を含浸することにより形成される。カソード前駆体層の含浸は、活性カソードの溶液または懸濁液、例えば、活性カソードの硝酸塩溶液または平均粒子径30〜100nmを有する活性カソードのコロイド懸濁液を用いて実施可能である。
【0034】
最終的に形成されるカソード層は、ドープジルコニアおよび/またはドープセリアおよび/またはFeCrM合金、例えば、スカンジアおよびイットリアで安定化されたジルコニア(ScYSZ)と、(La1−xSrMnO3−δおよび(A1−x(Fe1−yCo)O3−δ〔式中、A=La、Gd、Y、Sm、Ln、またはそれらの混合物、かつB=Ba、Sr、Ca、またはそれらの混合物、かつLn=ランタニド〕、例えば、ランタンストロンチウムマンガネート(LSM)、ランタニドストロンチウムマンガネート((Ln1−xSrMnO、ランタニドストロンチウム鉄コバルト酸化物(Ln1−xSr(Fe1−yCo)O〔好ましくはLa〕、(Y1−xCa(Fe1−yCo)O、(Gd1−xSr)(Fe1−yCo)O、(Gd1−xCax)(Fe1−yCo)O、およびそれらの混合物からなる群から選択されるさらなる少なくとも1種の材料と、を含みうる。
【0035】
前記複合材料を含むカソード層は、当該技術分野で公知の他のカソード材料と比較してより良好なカソード性能を呈することが判明した。カソード層の厚さは、約10μm〜約100μmの範囲内であるのが好ましく、約15μm〜約40μmの範囲内であるのがより好ましい。
【0036】
電極前駆体層は、焼結後に活性材料で含浸、好ましくは真空浸潤することにより、それぞれの電極(アノード、カソード)層に変換される。加圧下で、すなわち加圧含浸により、電極前駆体層中への活性材料の含浸を行うことも可能である。ナノサイズ懸濁液の含浸により電極層を形成する場合、例えば、平均粒子サイズ30〜80nmの範囲内を有するフェライトおよび/またはコバルタイトのナノサイズ懸濁液の含浸によりカソード層を形成する場合、加圧含浸はとくに好適である。含浸は、少なくとも1回、好ましくは5回もしくは7回まで実施可能である。前駆体層をアノードに変換する場合、含浸は、例えば、ドープセリアを併用してもしくは併用せずにNiを用いてまたはドープジルコニアを併用してもしくは併用せずにNiを用いて行われる。好ましくは、アノード前駆体層の含浸は、Ni、Ce、Gd、およびそれらの混合物からなる群から選択される化合物を含む溶液または懸濁液を用いて、例えば、Ni、Ce、Gd、またはそれらの混合物の硝酸塩を含む溶液を用いて行われる。好ましい方法は、Ni(O)およびCGOの懸濁液の含浸である。
【0037】
アノード前駆体層は、場合によりFe22Crと混合されたZr0.78Sc0.200.022−δの組成物から形成されるのが好ましくまたは場合によりFe22Crと混合されたCe0.9Gd0.1の組成物から形成されるのが好ましい。
【0038】
前駆体層をカソード層に変換する場合、含浸は、フェライトまたはコバルタイトを用いて実施可能である。本明細書中で用いられる場合、フェライトおよび/またはコバルタイトは、一般式(Ln1−xSr(Fe1−yCo)O〔Ln=ランタニド、好ましくはLa〕を有する結晶性化合物である。他の選択肢として、他の化合物、例えば、(Ln1−xSrMnO、Y1−xCa(Fe1−yCo)O、(Gd1−xSr)(Fe1−yCoy)O、(Gd1−xCa)(Fe1−yCo)O、およびそれらの混合物を利用することが可能である。
【0039】
したがって、カソード層は、ドープジルコニアおよび/またはドープセリアおよび/またはFeCrMx合金と、ランタンストロンチウムマンガネート(LSM)、ランタニドストロンチウムマンガネート((Ln1−xSrMnO、ランタニドストロンチウム鉄コバルト酸化物(Ln1−xSr(Fe1−yCo)O、〔Ln=ランタニド、好ましくはLa〕、(Y1−xCa(Fe1−yCo)O、(Gd1−xSr)(Fe1−yCo)O、(Gd1−xCa)(Fe1−yCo)O、およびそれらの混合物からなる群から選択されるさらなる少なくとも1種の材料と、を含む。
【0040】
カソード前駆体層は、ドーパントがSc、Y、Ga、Ce、Sm、Gd、Ca、および/または任意のLn元素であるドープジルコニアおよび/またはドープセリア、例えば、Zr0.78Sc0.200.022−δから形成可能である。また場合により、金属および金属合金例えばFeCrMxなどを添加することが可能である。ここで、Mxは、Ni、Ti、Ce、Mn、Mo、W、Co、La、Y、Al、およびそれらの混合物からなる群から選択される。金属または金属合金を添加した場合、層は、ドープジルコニア/セリアを含む層に起因する酸素イオン伝導性さらには金属に起因する電子伝導性を有することになる。層がドープセリアを含むのであれば、層はまた、いくつかの電極触媒的性質を呈することになる。
【0041】
さらなる好ましい実施形態では、カソード前駆体層は、以上に挙げたような酸化物材料と金属合金との混合物を含む1枚以上の薄肉シートから作製される傾斜含浸層でありうる。各シートは、さまざまな粒子径および細孔径ならびに厚さ約5μm〜50μmを有しうる。傾斜は、例えば、金属支持体層と、異なる粒子径および細孔径を有する種々のシート、好ましくは1〜4枚のシートとを、ロール処理またはプレス処理によりラミネートすることにより達成される。得られる傾斜層は、例えば、金属支持体層に最も近いシートでは平均粒子径約5〜10μmの範囲内および電解質層に最も近いシートでは平均粒子径約1μmを有しうる。
【0042】
電解質層は、好ましくは、ドープジルコニアまたはドープセリアを含む。より好ましくは、電解質層は、共ドープジルコニア系酸素イオン伝導体を含む。該電解質層は、純粋なYSZを含む層よりも高い酸素イオン伝導性および純粋なScSZを含む層よりも良好な長期安定性を有する。他の選択肢としてドープセリアを使用することが可能である。電解質層を形成するための他の好適な材料としては、電極前駆体層に関連して以上に挙げたイオン伝導性材料さらにはガレートおよびプロトン伝導性電解質が挙げられる。電解質層の厚さは、約5μm〜約50μmの範囲内であるのが好ましく、約10〜約25μmの範囲内であるのがより好ましい。
【0043】
特定の実施形態では、本発明は、金属支持体層とカソード層と電解質層とを含む焼結多層構造体上にアノード層を直接形成することを包含する。電解質層上にアノード層を形成する工程は、カソード前駆体層の含浸によるカソード層の形成の前にそれにより行われる。形成されるアノード層は、好ましくは、NiOとドープジルコニアまたはドープセリアとを含む多孔性層である。他の選択肢として、レドックス安定性アノードを多層構造体上に堆積させることが可能である。したがって、さらに他の実施形態では、形成されるアノード層は、Ni−ジルコニア、Ni−セリア、または酸素イオン伝導性もしくはプロトン伝導性を有する任意の他の金属酸化物、例えば、これまでに知られているアノードよりも良好にレドックスサイクルに耐えうる性質を有するLa(Sr)Ga(Mg)O3−δ、SrCe(Yb)O3−δ、BaZr(Y)O3−δ、およびそれらの混合物からなる群から選択される材料を含むレドックス安定性アノードである。
【0044】
レドックス安定性アノードのNi表面の表面パッシベーションは、SOFCのアノードおよびカソードの両条件下で安定な少なくとも1種の追加の酸化物、例えば、Al、TiO、Cr、Sc、VO、TaO、MnO、NbO、CaO、Bi、LnO、MgCr、MgTiO、CaAl、LaAlO、YbCrO、ErCrO、NiTiO、NiCr、およびそれらの混合物を含む組成物により達成される。好ましい酸化物は、TiOおよびCrである。
【0045】
例えば、TiOまたはCrを使用した場合、該レドックス安定性アノード層の堆積に関連して行われる追加の焼結工程時にNiTiおよびNiCrがレドックス安定性アノード層の形態で形成される。堆積は、好ましくは、NiO−Zr0.78Sc0.200.02Zr2−δ−TiOの懸濁液のスプレー塗装それに続く空気中約1000℃での焼結により行われる。アノード組成物の初期還元時、レドックス安定性マイクロ構造体が形成され、ランダムに分布した微細なTiO粒子(平均約1マイクロメートル)を有する浸透性Ni構造体が残る。ニッケル表面の被覆度を制御するために、レドックス安定性アノードの組成物は、処理前、予備反応されたNiTiOもしくはNiCrまたは両者の混合物を含みうる。この場合、アノード堆積後の焼結を約750℃で行うことが可能である。
【0046】
酸化物の添加により、さらに、レドックス安定性アノード層の熱膨張係数が低減され、結果的に、層の全体的機械的安定性および得られる電池の頑強性が強化される。したがって、好ましい酸化物は、Cr、TiO、Al、およびScである。
【0047】
アノード組成物中のNiOの量は、組成物の全重量を基準にして、約45重量%〜75重量%の範囲内の範囲内であるのが好ましく、約50重量%〜65重量%の範囲内であるのがより好ましい。組成物中の酸素イオン伝導性またはプロトン伝導性を有するドープジルコニア、ドープセリア、および/または金属酸化物の量は、組成物の全重量を基準にして、約25重量%〜55重量%の範囲内であるのが好ましく、40重量%〜45重量%の範囲内であるのがより好ましい。好ましい材料として、Zr1−x2−δを使用することが可能である。ここで、M=Sc、Ce、Ga、またはそれらの組合せであり、Yが含まれていてもよく、Xは、約0.05〜約0.3の範囲内である。同様に適用可能なのは、Ce1−x2−δである。ここで、M=Ca、Sm、Gd、Y、および/もしくは任意のLn元素、またはそれらの組合せであり、Xは、約0.05〜約0.3の範囲内である。
【0048】
組成物中の少なくとも1種の酸化物の量は、組成物の全重量を基準にして、約1〜25重量%の範囲内であるのが好ましく、約2重量%〜10重量%の範囲内であるあるのがより好ましい。
【0049】
さらなる好ましい実施形態では、アノード組成物は、Al、Co、Mn、B、CuO、ZnO、Fe、MoO、WO、Ga、およびそれらの混合物からなる群から選択される酸化物を追加的に含む。組成物中のそれらの量は、組成物の全重量を基準にして、約0.1〜5重量%の範囲内であるのが好ましく、0.2重量%〜2重量%の範囲内であるあるのがより好ましい。追加の酸化物は、焼結工程時に反応を促進する焼結助剤として使用される。
【0050】
焼結時の収縮を抑制するために、Al、Co、Mn、B、CuO、ZnO、Fe、MoO、WO、Ga、およびそれらの混合物からなる上記の酸化物をカソード前駆体層に添加することが可能である。
【0051】
金属支持体層、電極前駆体層、電解質層、ならびにアノード層およびカソード層の他の好適な材料は、本発明者らの特許文献1に開示されている材料から選択可能である。
【0052】
個別層をテープキャストし、続いてラミネートして一体化することが可能である。他の選択肢として、例えば、ペーストなどから個別層をロール処理することが可能である。それぞれの層の他の適用方法としては、溶射、スプレー塗装、スクリーン印刷、電気泳動堆積(EPD)、およびパルスレーザー堆積(PLD)が挙げられる。
【0053】
金属支持型電池の焼結は、還元性条件で行うのが好ましく、かつ温度は、約900℃〜1500℃の範囲内であるのが好ましく、約1000℃〜1300℃の範囲内であるのがより好ましい。
【0054】
バリヤ材料は、任意の他の種類のSOC、例えばアノード支持型電池にも適用可能である。
【0055】
したがって、本発明者らはまた、
アノード支持体層を提供する工程と、
アノード支持体層上にアノード前駆体層を形成する工程と、
アノード前駆体層上に電解質層を形成する工程と、
電解質上にカソード前駆体層を形成する工程と、
得られた多層構造体を焼結する工程と、
任意の順序で
アノード前駆体層を含浸することによりアノード層を形成する工程、および
カソード前駆体層を含浸することによりカソード層を形成する工程
を行うことと、
を含み、特徴として、該カソード層および該アノード層を形成する前に、
バリヤ材料の前駆体溶液または前駆体懸濁液を少なくともカソード前駆体層中に含浸させ、続いて、熱処理を行うこと
をさらに含む方法により製造可能な可逆性固体酸化物型燃料電池を提供する。
【0056】
金属支持体は存在しない。この実施形態では、支持体はアノードにより提供され、したがって、バリヤ材料は、以上に記載したカソード材料と電解質材料との間の界面反応を防止するためにのみ必要とされるにすぎない。
【0057】
アノード支持型電池の他の実施形態では、本発明者らはまた、
アノード支持体層を提供する工程と、
アノード支持体層上にアノード層を形成する工程と、
アノード層上に電解質層を形成する工程と、
電解質上にカソード前駆体層を形成する工程と、
得られた多層構造体を焼結する工程と、
カソード前駆体層を含浸することにより電解質層上にカソード層を形成する工程と、
を含み、特徴として、該カソード層を形成する前に、
バリヤ材料の前駆体溶液または前駆体懸濁液をカソード前駆体層中に含浸させ、続いて、熱処理を行うこと
をさらに含む方法により製造可能な可逆性固体酸化物型燃料電池を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
図中、得られるSOFCは、金属支持体1と、カソード含浸用前駆体層2と、電解質層3と、アノード層4と、金属支持体全体およびカソード層全体にわたる表面上ならびにカソードに面する電解質表面上に分配されたバリヤ材料5(図中、ドットにより表される)と、を含む。電解質層は緻密であり(多孔性でない)、したがって、バリヤ材料は、カソード側に面する表面上にのみ見いだされるにすぎない。
【0059】
金属支持体とオプションの中間層とカソード前駆体と電解質とを含む半電池を焼結した後、バリヤ材料を半電池の多孔性構造体中に含浸させる。バリヤ材料、好ましくはドープセリアは、浸透して多孔性半電池内のすべての外表面および内表面を覆う。それに続く半電池の熱処理により半電池内全体にわたりバリヤ材料を固定する。バリヤ材料の該第1の含浸の後、今度は、酸素還元触媒活性を有するLSCのような純粋な触媒の形態の活性カソードを含浸させることにより第2の含浸を行う。電解質の上に、すなわちその反対側に、アノード層を形成する。二工程含浸によりもたらされる金属支持体の二重保護効果は、それにより達成される。
【実施例】
【0060】
実施例1
多孔性カソード含浸層を有する可逆性SOFCの作製
Fe22Cr合金を含む粉末懸濁液から金属支持体層をテープキャストし、続いて、乾燥工程を行った。支持体層は、300μmの厚さを有していた。
【0061】
その上に、後でカソードを含浸させるためのZr0.78Sc0.200.022−δを含む多孔性層をスプレー塗装により形成した。層は、厚さ50μmおよび約40%の多孔度を有し、平均細孔径が約1〜3μmであった。次に、その上に、Zr0.78Sc0.200.022−δを含む電解質層を同様にスプレー塗装により形成した。電解質層は、約10μmの厚さを有していた。
【0062】
得られた多層構造体を乾燥させ、続いて、還元性条件下、約1300℃で焼結した。焼結後、ガドリニウムドープセリア(Gd0.1Ce0.9)O2−δ(バリヤ材料)の硝酸塩溶液を金属支持体中およびカソード前駆体層中に2回真空含浸すなわち真空浸潤させる。含浸後、サンプルを400℃で1時間熱処理した。
【0063】
続いて、(Gd0.1Ce0.9)O2−δおよび(La0.6Sr0.40.98(Co0.2Fe0.8)O3−δ(CGOおよびLSCF)の硝酸塩溶液を真空浸潤によりカソード前駆体層中に含浸させた。続いて、硝酸塩を400℃で2時間分解させた。含浸手順を5回反復した。
【0064】
その後、NiO−(Gd0.1Ce0.9)O2−δアノードを多層構造体の電解質表面上に溶射堆積させた。得られたアノードは、約45%のNiおよび約55%の(Gd0.1Ce0.9)O2−δの体積濃度を有していた。
【0065】
実施例2
実施例1と同様であるが、ただし、30〜80nmの平均粒子径を有する(Gd0.1Ce0.9)O2−δ粒子のコロイド懸濁液の形態でバリヤ材料を2〜4〜回含浸させた。カソードの含浸前に、サンプルを700℃で1時間熱処理した。
【0066】
実施例1に記載したように電池を完成させた。
【0067】
実施例3
含浸されるカソードが(La0.6Sr0.40.98(Co0.2Fe0.8)O3−δ(CGOなし)のみを含み、かつ平均粒子径30〜100nmを有するコロイド懸濁液の形態で含浸されること以外は、実施例1と同様であった。
【0068】
実施例1に記載したように電池を完成させた。
【0069】
実施例4
金属支持体中へのカソード含浸を含む可逆性SOFCの作製
Fe22Cr合金を含む粉末懸濁液から金属支持体層をテープキャストし、続いて、乾燥工程を行った。支持体層は、300μmの厚さを有していた。
【0070】
次に、その上に、Zr0.78Sc0.200.022−δを含む電解質層を同様にスプレー塗装により形成した。電解質層は、約10μmの厚さを有していた。
【0071】
得られた多層構造体を乾燥させ、続いて、還元性条件下、約1300℃で焼結した。
【0072】
焼結後、バリヤ材料(Gd0.1Ce0.9)O2−δの硝酸塩溶液を金属支持体中および電解質層上に2回真空含浸させる。含浸後、サンプルを400℃で1時間熱処理した。
【0073】
続いて、(Gd0.1Ce0.9)O2−δおよび(La0.6Sr0.40.98(Co0.2Fe0.8)O3−δ(CGOおよびLSCF)の懸濁液を真空浸潤により金属支持体中に含浸させた。含浸手順を5回反復した。
【0074】
その後、NiO−Zr0.78Sc0.200.02Zr2−δアノードを多層構造体の電解質表面上にスクリーン印刷した。得られたアノードは、約45%のNiおよび55%のZr0.78Sc0.200.02Zr2−δの体積濃度を有していた。
【0075】
実施例5
FeCrMn0.01合金を含む粉末懸濁液から金属支持体層をテープキャストし、続いて、乾燥工程を行った。支持体層は、400μmの厚さを有していた。
【0076】
支持体層を乾燥させた後、Zr0.78Sc0.200.02Zr2−δとFe24CrMn0.01との体積比1:1の混合物を含むインクをスクリーン印刷することにより、後で電極を含浸させるための層(約50マイクロメートルのカソード前駆体層)を堆積させた。層は、厚さ50μmを有していた。最後に、Zr0.78Sc0.200.022−δを含む電解質層をスプレー塗装により堆積させた。
【0077】
得られた多層構造体を焼結した後、30〜80nmの平均粒子径を有する(Gd0.1Ce0.9)O2−δ粒子のコロイド懸濁液の形態でバリヤ材料を2〜4回含浸させた。
【0078】
NiO−Zr0.78Sc0.200.02Zr2−δ−TiO(それぞれ52:43:5重量%)の懸濁液をスプレー塗装することにより、レドックス安定性アノードを堆積させ、続いて、空気中、約1000℃で追加の焼結工程を行った。アノードの焼結時、NiTiがアノード構造体中に形成された。アノードの初期還元時、レドックス安定性マイクロ構造体が形成され、ランダムに分布した微細なTiO粒子(約1μm)を有する浸透性Ni構造体が残った。
【0079】
実施例1に記載したようにカソードを含浸させた。
【0080】
実施例6
実施例5のときと同一の方法であるが、ただし、レドックス安定性アノード用の組成物は、処理前、予備反応したNiTiOを含む。アノード堆積後の焼結を約750℃で行った。
【0081】
実施例7
実施例6のときと同一の方法であるが、ただし、レドックス安定性アノード用の組成物は、処理前、NiCrを含んでいた。
【0082】
実施例8
実施例6のときと同一の方法であるが、ただし、レドックス安定性アノード用の組成物は、ニッケル表面の被覆度を制御するために、予備反応したNiTiOとNiCrとの混合物を含んでいた。
【0083】
実施例9
実施例6のときと同一の方法であるが、ただし、レドックス安定性アノード用の組成物は、追加の酸化物としてScを含んでいた。
【0084】
実施例10
実施例5のときと同一の方法であるが、ただし、レドックス安定性アノード用の組成物は、ジルコニアの代わりにドープセリアを含んでいた。
【0085】
実施例11
実施例1と同一であったが、ここでは、5体積%のZr0.940.062−δと混合されたFe22CrTi0.04合金の粉末懸濁液をテープキャストすることにより金属支持体シートを得た。
【0086】
実施例5に記載したように電池を完成させた。
【0087】
実施例12
Fe22Cr合金を含む粉末懸濁液から金属支持体層をテープキャストし、続いて、乾燥工程を行った。支持体層は、400μmの厚さを有していた。
【0088】
その上に、Zr0.78Sc0.200.02Zr2−δとFe22Cr合金とを含む3枚の薄肉シートから傾斜カソード前駆体層を形成した。それぞれの粉末懸濁液をテープキャストすることにより、さまざまな粒子径、さまざまな細孔径、および厚さ約20μmを有するシートを作製した。ロール処理およびプレス処理により金属支持体シートと3枚の含浸前駆体層シートとをラミネートすることにより電池構造体を作製した。得られた含浸層は、金属支持体層のすぐ上の層で10μmから始まる細孔径および電解質層が上に形成された層で2μmの細孔径を有する傾斜構造体を有していた。
【0089】
実施例4に記載したように電池を完成させた。
【0090】
実施例13
実施例1と同様であったが、ただし、焼結工程時の収縮を抑制するために、焼結添加剤としてAlをカソード前駆体層に添加した。
【0091】
実施例1に記載したように電池を完成させた。
【0092】
実施例14
Fe22CrNd0.02Ti0.03合金ペーストをロール処理することにより金属支持体層を形成し、続いて、乾燥工程を行った。支持体層は、厚さ800μmを有していた。
【0093】
厚さ30μmを有するカソード含浸用の層(カソード前駆体層)および厚さ10μmを有する電解質層をスプレー塗装により堆積させた。両方の層を(Gd0.1Ce0.9)O2−δの組成物から形成した。焼結した後に、実施例1に記載したようにバリヤ層を含浸させた。この後、カソード層を形成するために、La、Sr、Co、およびFeの硝酸塩溶液を真空浸潤により多孔性セリア層中に含浸させた。電解質表面の乾燥および洗浄を行った後に、NiO−(Sm0.1Ce0.9)O2−δアノードをスクリーン印刷により堆積させた。
【0094】
実施例15
実施例1で説明したように支持体を作製した。支持体を乾燥させた後に、厚さ70μmを有するカソード含浸用の層、厚さ10μmを有するZr0.78Sc0.200.022−δ電解質層、および最後に厚さ30μmを有するアノード含浸用の他の層(アノード前駆体層)をスプレー塗装により堆積させた。両方の含浸層(カソード前駆体層およびアノード前駆体層)をZr0.78Sc0.200.022−δと40体積%のFe22Cr粉末との組成物から40体積%の近似多孔度で形成した。
【0095】
続いて、サンプルを所望の寸法で打ち抜き、そしてサンプルを制御された還元性条件下で焼結した。
【0096】
焼結後、金属支持体中ならびにカソード前駆体層中およびアノード前駆体層中さらには電解質層上にバリヤ材料(Gd0.1Ce0.9)O2−δの懸濁液を3回真空含浸させる。含浸後、サンプルを400℃で1時間熱処理する。
【0097】
金属支持体層にマスクを施して、Ni、Ce、Gdの硝酸塩の溶液を真空浸潤によりアノード含浸前駆体層中に含浸させた。得られたアノードは、40%のNiおよび60%の(Gd0.1Ce0.9)O2−δの体積濃度を有していた。乾燥後、マスクを除去し、アノード層にマスクを施し、そして得られるカソード組成物が(Gd0.6Sr0.40.99(Co0.2Fe0.8)O3−δになるように硝酸塩溶液を用いて真空浸潤によりカソード前駆体層を含浸した。
【0098】
実施例16
実施例1に記載したように電池構造体を作製した。平均粒子径30〜80nmの範囲内を有する(La0.6Sr0.40.99(Co0.2Fe0.8)O3−δのナノサイズ懸濁液を加圧含浸させることにより、カソード層を形成した。
【0099】
実施例17
多孔性カソード含浸層を有するアノード支持型SOFCの作製
NiOとYSZとを含む粉末懸濁液からNiO−YSZアノード支持体層をテープキャストし、続いて、乾燥工程を行った。支持体層は、厚さ400μmを有していた。
【0100】
その上に、NiOとZr0.78Sc0.200.022−δとを含むアノード層をスクリーン印刷により形成した。層は、厚さ25μmおよび約20%の多孔度を有し、平均細孔径が約1〜3μmであった。次に、その上に、Zr0.78Sc0.200.022−δを含む電解質層を同様にスクリーン印刷により形成した。電解質層は、約10μmの厚さを有していた。
【0101】
後でカソードを含浸させるためのZr0.78Sc0.200.022−δを含む多孔性層(カソード前駆体層)を電解質層上にスクリーン印刷により形成した。層は、厚さ50μmおよび約40%の多孔度を有し、平均細孔径が約1〜3μmであった。
【0102】
得られた多層構造体を乾燥させ、続いて、約1300℃で焼結した。
【0103】
焼結後、ガドリニウムドープセリア(Gd0.1Ce0.9)O2−δ(バリヤ材料)の硝酸塩溶液をカソード前駆体層中に2回真空含浸すなわち真空浸潤させる。含浸後、サンプルを400℃で1時間熱処理した。
【0104】
続いて、カソード層を形成するために、(Gd0.1Ce0.9)O2−δおよび(La0.6Sr0.40.98(Co0.2Fe0.8)O3−δ(CGOおよびLSCF)の硝酸塩溶液を真空浸潤によりカソード前駆体層中に含浸させた。続いて、硝酸塩を400℃で2時間分解させた。含浸手順を5回反復した。
【0105】
実施例18
多孔性カソード含浸層と多孔性アノード含浸層とを有する可逆性SOFCの作製
NiOとYSZとを含む粉末懸濁液からNiO−YSZアノード支持体層をテープキャストし、続いて、乾燥工程を行った。支持体層は、400μmの厚さを有していた。
【0106】
その上に、Zr0.78Sc0.200.022−δを含むアノード含浸用の多孔性層(アノード前駆体層)をスプレー塗装により形成した。層は、25μmの厚さおよび約40%の多孔度を有し、平均細孔径が約2〜4μmであった。次に、その上に、Zr0.78Sc0.200.022−δを含む電解質層を同様にスプレー塗装により形成した。電解質層は、約10μmの厚さを有していた。
【0107】
後でカソードを含浸させるためのZr0.78Sc0.200.022−δを含む多孔性層(カソード前駆体層)を電解質層上にスプレー塗装により形成した。層は、厚さ50μmおよび約40%の多孔度を有し、平均細孔径が約1〜3μmであった。
【0108】
得られた多層構造体を乾燥させ、続いて、約1300℃で焼結した。
【0109】
焼結後、ガドリニウムドープセリア(Gd0.1Ce0.9)O2−δ(バリヤ材料)の硝酸塩溶液をカソード前駆体層中に2回真空含浸すなわち真空浸潤させる。含浸後、サンプルを400℃で1時間熱処理した。
【0110】
アノード支持体層にマスクを施して、Ni、Ce、Gdの硝酸塩の溶液を真空浸潤によりアノード含浸前駆体層中に含浸させた。得られたアノードは、40%のNiおよび60%の(Gd0.1Ce0.9)O2−δの体積濃度を有していた。乾燥後、マスクを除去し、アノード層にマスクを施し、そして得られるカソード組成物が(La0.6Sr0.40.99(Co0.2Fe0.8)O3−δになるように硝酸塩溶液を用いて真空浸潤によりカソード前駆体層を含浸した。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】金属支持体とカソード層と電解質層とそれらに組み込まれたバリヤ材料とを有するSOFCの概略図である。
【符号の説明】
【0112】
1 金属支持体
2 カソード含浸用前駆体層
3 電解質層
4 アノード層
5 バリヤ材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属支持体層を提供する工程と、
該金属支持体層上にカソード前駆体層を形成する工程と、
該カソード前駆体層上に電解質層を形成する工程と、
得られた多層構造体を焼結する工程と、
任意の順序で
該カソード前駆体層を含浸することによりカソード層を形成する工程、および
該電解質層上にアノード層を形成する工程
を行うことと、
を含み、特徴として、該カソード層を形成する前に、
バリヤ材料の前駆体溶液または前駆体懸濁液を該金属支持体層中および該カソード前駆体層中に含浸させ、続いて、熱処理を行うこと
をさらに含む方法により製造可能な可逆性固体酸化物型燃料電池。
【請求項2】
金属支持体層を提供する工程と、
該金属支持体層上に電解質層を形成する工程と、
得られた多層構造体を焼結する工程と、
任意の順序で
該金属支持体層を含浸することによりカソード層を形成する工程、および
該電解質層上にアノード層を形成する工程
を行うことと、
を含み、特徴として、該カソード層を形成する前に、
バリヤ材料の前駆体溶液または前駆体懸濁液を該金属支持体層中および該電解質層中に含浸させ、続いて、熱処理を行うこと
をさらに含む方法により製造可能な可逆性固体酸化物型燃料電池。
【請求項3】
前記電解質層上にアノード層を形成する工程が、カソード層を形成する工程の前に行われ、かつ
得られた多層構造体を焼結する前に前記電解質層上にアノード前駆体層を形成することと、
得られた多層構造体を焼結した後に、Ni、Ce、Gd、およびそれらの混合物からなる群から選択される化合物を含む前駆体溶液または前駆体懸濁液で該アノード前駆体層を含浸することと、
を含み、前記方法が、該カソード層および該アノード層を形成する前に、
バリヤ材料の前駆体溶液または前駆体懸濁液を前記金属支持体層中、前記カソード前駆体層中、および該アノード前駆体層中に含浸させ、続いて、熱処理を行うこと
をさらに含む、請求項1または2に記載の可逆性固体酸化物型燃料電池。
【請求項4】
前記バリヤ材料の含浸工程が真空浸潤により行われる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の可逆性固体酸化物型燃料電池。
【請求項5】
前記バリヤ材料がドープセリアを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の可逆性固体酸化物型燃料電池。
【請求項6】
前記バリヤ材料の前駆体溶液または前駆体懸濁液が、ドープセリアの硝酸塩溶液または平均直径2〜100nmを有するドープセリア粒子のコロイド懸濁液である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の可逆性固体酸化物型燃料電池。
【請求項7】
前記金属支持体層と前記カソード前駆体層との間に中間遷移層を1層以上備えることをさらに含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の可逆性固体酸化物型燃料電池。
【請求項8】
前記金属支持体層が、FeCrMx合金〔式中、Mxは、Ni、Ti、Ce、Mn、Mo、W、Co、La、Y、Al、およびそれらの混合物からなる群から選択される〕と、約0〜約50体積%の金属酸化物〔ここで、該金属酸化物は、ドープジルコニア、ドープセリア、Mg/Ca/SrO、CoOx、MnOx、B、CuO、ZnO、VO、Cr、FeO、MoO、WO、Ga、A1、TiO、およびそれらの混合物からなる群から選択される〕と、を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の可逆性固体酸化物型燃料電池。
【請求項9】
前記カソード層が、ドープジルコニアおよび/またはドープセリアおよび/またはFeCrMx合金と、(La1−xSrMnO3−δおよび(A1−xFe1−yCo3−δ〔式中、A=La、Gd、Y、Sm、Ln、またはそれらの混合物、かつB=Ba、Sr、Ca、またはそれらの混合物、かつLn=ランタニド〕からなる群から選択されるさらなる少なくとも1種の材料と、を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の可逆性固体酸化物型燃料電池。
【請求項10】
前記電解質層がドープジルコニアまたはドープセリアを含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の可逆性固体酸化物型燃料電池。
【請求項11】
形成される前記アノード層が、Ni−ジルコニア、またはNi−セリア、またはLa(Sr)Ga(Mg)O3−δ、SrCe(Yb)O3−δ、BaZr(Y)O3−δ、およびそれらの混合物からなる群から選択される材料、を含むレドックス安定性アノードである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の可逆性固体酸化物型燃料電池。
【請求項12】
アノード支持体層を提供する工程と、
該アノード支持体層上にアノード前駆体層を形成する工程と、
該アノード前駆体層上に電解質層を形成する工程と、
該電解質上にカソード前駆体層を形成する工程と、
得られた多層構造体を焼結する工程と、
任意の順序で
該アノード前駆体層を含浸することによりアノード層を形成する工程、および
該カソード前駆体層を含浸することによりカソード層を形成する工程
を行うことと、
を含み、特徴として、該カソード層および該アノード層を形成する前に、
バリヤ材料の前駆体溶液または前駆体懸濁液を少なくとも該カソード前駆体層中に含浸させ、続いて、熱処理を行うこと
をさらに含む方法により製造可能な可逆性固体酸化物型燃料電池。
【請求項13】
アノード支持体層を提供する工程と、
該アノード支持体層上にアノード層を形成する工程と、
該アノード層上に電解質層を形成する工程と、
該電解質上にカソード前駆体層を形成する工程と、
得られた多層構造体を焼結する工程と、
該カソード前駆体層を含浸することにより該電解質上にカソード層を形成する工程と、
を含み、特徴として、該カソード層を形成する前に、
バリヤ材料の前駆体溶液または前駆体懸濁液を該カソード前駆体層中に含浸させ、続いて、熱処理を行うこと
をさらに含む方法により製造可能な可逆性固体酸化物型燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2009−59697(P2009−59697A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−219433(P2008−219433)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(507018838)テクニカル ユニヴァーシティー オブ デンマーク (11)
【Fターム(参考)】