説明

金属材の製造方法、ガイドワイヤ、およびバルーンカテーテル

【課題】ガイドワイヤやバルーンカテーテルのような医療用器具に用いられる金属材1において、曲げ部が生じてもトルク伝達性を良好に保つ。
【解決手段】金属材1の部材として、略円筒状の中空4を有する金属管3を採用し、金属管3に張力および捻り力を付与して剛性を高めるとともに加熱により残留応力を除去する。これにより、金属材1の軸方向に垂直な断面において、外周表面および内周表面に近いほど結晶粒径が微細化されて硬化し、金属材1の耐キンク性が高くなる。このため、金属材1に曲げ部が発生しても、曲げ部において応力集中が発生しにくくなる。したがって、金属材1を部材として製造した医療用器具によれば、曲げ部が生じてもトルク伝達性を良好に保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、略円筒状の中空を有する金属管を用いて金属材を製造する金属材の製造方法に係わり、特に、ガイドワイヤやバルーンカテーテルのような医療用器具の部材となる金属材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガイドワイヤやバルーンカテーテルのような医療用器具の金属材には、棒状体や、中空を有する撚線コイル体が利用されている。
ところで、ガイドワイヤやバルーンカテーテルのような医療用器具は、例えば、先端部が手技者により人体内の血管等を通じて病変部に導かれるとともに後端部が人体外に留められる。そして、手技者は、例えば、後端部を手元で回動操作して先端部を人体内で回転させ、病変部に対する手技を行う。
【0003】
このため、ガイドワイヤやバルーンカテーテルの部材となる金属製の棒状体や撚線コイル体には、高度のトルク伝達性が要求されており、トルク伝達性を向上させるために真直性を高める等の様々な技術的改善が行われている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
例えば、特許文献1によれば、医療用器具の部材として棒状の金属線が用いられている。そして、棒状の金属線の軸方向に張力を付与するとともに周方向に捻り力を付与して剛性を高めるとともに、張力および捻り力を付与した状態で金属線を加熱することで剛性付与に伴う残留応力を除去する。これにより、真直性が高くトルク伝達性が向上した棒状の金属線を得ることができ、この棒状の金属線を部材として医療用器具を製造している。
【0005】
また、特許文献2、3によれば、医療用器具の部材として複数の金属細線を撚合した撚線コイル体が用いられ、特許文献1と同様の剛性付与および残留応力除去が施され、医療用器具の部材として利用されている。
しかし、ガイドワイヤやバルーンカテーテルのような医療用器具の金属材は、病変部に対する手技という厳しい用途に用いられることから、トルク伝達性の向上に対する要求が高まる一方である。
【0006】
例えば、ガイドワイヤやバルーンカテーテルは、人体内に配されると、血管等の形状に応じて局所的に曲がる。そして、このような曲がりの発生部位(以下、曲げ部と呼ぶ)では、応力集中が起こりやすいため、手技者が手元の回動操作により後端部にトルクを与えても、曲げ部における応力集中により、曲げ部から先端部へのトルクの伝達が妨げられる虞がある。また、このような事態が発生すると、先端部の円滑な回転が阻害されてしまい、手技が困難になってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−014040号公報
【特許文献2】特開2004−190167号公報
【特許文献3】特開2004−242973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、例えば、ガイドワイヤやバルーンカテーテルのような医療用器具に用いられる金属材において、曲げ部が生じてもトルク伝達性を良好に保つことにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔請求項1の手段〕
請求項1に記載の金属材の製造方法によれば、略円筒状の中空を有する金属管の軸方向に張力を付与するとともに金属管の周方向に捻り力を付与した状態で、金属管を加熱する。
このように、略円筒状の中空を有する金属管に剛性付与および残留応力除去を行って金属材を製造するとともに、この金属材を部材として医療用器具等を製造することで、医療用器具等に曲げ部が生じてもトルク伝達性を良好に保つことができる。
【0010】
すなわち、略円筒状の中空を有する金属管に張力および捻り力を付与して剛性を高めるとともに加熱により残留応力を除去すると、金属材の軸方向に垂直な断面(横断面)において、外周表面に近いほど結晶粒径が微細化されて硬化する。また、内周表面に近いほど、加熱後の冷却が遅くなることから時効硬化が促進される。このため、外周側および内周側の両側で硬化が顕著になることから、金属材の耐キンク性が高くなり、金属材に曲げ部が発生しても応力集中が発生しにくくなる。
【0011】
したがって、このような金属材を部材として製造した医療用器具によれば、曲げ部が生じてもトルク伝達性を良好に保つことができる。すなわち、手技者が手元の回動操作により後端部にトルクを与えた場合、曲げ部においてもトルクの伝達が円滑に行われて先端部へ確実にトルクが伝達される。この結果、手技者は、手元で後端部を回動操作することで円滑に先端部を回転させて手技を行うことができる。
【0012】
〔請求項2の手段〕
請求項2に記載の金属材の製造方法によれば、金属管は、引抜き加工により設けられている。
引抜き加工により設けられた金属管は、引抜き加工に伴う応力が内周表面および外周表面の両側の表面近傍に集中する。これにより、金属管の内周表面近傍および外周表面近傍は、両方とも引抜き加工による加工硬化によって結晶粒径が微細化されて硬化し、剛性が高まっている。このため、さらに金属材の耐キンク性が向上するとともに、曲げ部における応力集中がさらに発生しにくくなるため、更なるトルク伝達性の向上を達成することができる。
【0013】
〔請求項3の手段〕
請求項3に記載の金属材の製造方法によれば、金属管の周方向に捻り力を付与する際に、捻回密度が0.1〜3.0回/cmとなるように捻り力を付与する。
捻回密度を0.1回/cm以上にすることで、捻りに対する剛性が著しく高まってトルク伝達性の向上が顕著になる。また、捻回密度が3.0回/cmよりも大きくなると、捻りによる破断が発生しやすくなって金属材の収率が低下する。よって、捻回密度を0.1〜3.0回/cmとすることで、収率の低下を抑えながらトルク伝達性を顕著に向上させることができる。
【0014】
〔請求項4の手段〕
請求項4に記載の金属材の製造方法によれば、張力を2段階に分けて付与する。そして、捻り力を付与する前に、第1段階で付与する第1張力を金属管に付与し、第1張力を付与した状態で金属管に捻り力を付与する。また、第1張力および捻り力を付与された金属管に、第2段階で追加的に付与する第2張力を付与し、第1張力、第2張力および捻り力を付与した状態で金属管を加熱する。
この手段は、剛性付与方法および残留応力除去方法の一態様を示すものである。
【0015】
〔請求項5の手段〕
請求項5に記載の金属材の製造方法によれば、第1張力は、金属管の破断荷重の5〜10%の強さである。
第1張力を破断荷重の5%よりも小さくすると、加熱を終えて張力付与を停止した加工途中の金属材には波状の変形(以下、「うねり」と呼ぶ)が生じる虞がある。また、第1張力を破断荷重の10%よりも大きくすると、張力の負荷が過大となって引張りによる破断が発生しやすくなり、金属材の収率が低下する。よって、第1張力を金属管の破断荷重の5〜10%の強さとすることで、うねりの発生および収率の低下を抑えながらトルク伝達性を顕著に向上させることができる。
【0016】
〔請求項6の手段〕
請求項6に記載の金属材の製造方法によれば、第1張力と第2張力との和は、金属管の破断荷重の30〜50%の強さである。
第1張力と第2張力との和を破断荷重の30%以上にすることで、真直性が著しく高まってトルク伝達性の向上が顕著になる。また、第1張力と第2張力との和を破断荷重の50%よりも大きくすると、加工終了後の金属材の内、外径寸法がバルーンカテーテルやガイドワイヤの規格以下になるものが多くなり、金属材の収率が低下する。よって、第1張力と第2張力との和を金属管の破断荷重の30〜50%の強さとすることで、収率の低下を抑えながら真直性を高めてトルク伝達性を顕著に向上させることができる。
【0017】
〔請求項7の手段〕
請求項7に記載のガイドワイヤは、請求項1ないし請求項6の内のいずれか1つに記載の金属材の製造方法により製造された金属材を部材とする。
この手段は、請求項1〜6の手段により製造された金属材の一用途を示すものである。
【0018】
〔請求項8の手段〕
請求項8に記載のガイドワイヤは、自身の先端部に、手技者により病変部の近傍に導かれて病変部の近傍における物理量に感知するとともに、物理量に応じた電気的出力を発生するセンサを備える。
この手段は、金属材の一用途としてのガイドワイヤが、いわゆる「センサ付ガイドワイヤ」であることを示すものである。
【0019】
〔請求項9の手段〕
請求項9に記載のバルーンカテーテルは、請求項1ないし請求項6の内のいずれか1つに記載の金属材の製造方法により製造された金属材を部材とする。
この手段は、請求項1〜6の手段により製造された金属材の一用途を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は金属材の側面図であり、(b)は(a)のA−A断面図であり、(c)は金属材の製造方法に用いられる加工装置の説明図であり、(d)は(c)のB−B断面図である。
【図2】(a)は金属材の評価装置の説明図であり、(b)は評価装置による回転角検出結果の一例を示す散布図である。
【図3】金属管の破壊頻度評価の結果を示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施形態の製造方法は、略円筒状の中空を有する金属材の製造方法であり、略円筒状の中空を有する金属管の軸方向に張力を付与するとともに金属管の周方向に捻り力を付与した状態で、金属管を加熱する。また、金属管は、引抜き加工により設けられている。
【0022】
また、実施形態の製造方法によれば、張力を2段階に分けて付与する。そして、捻り力を付与する前に、第1段階で付与する第1張力を金属管に付与し、第1張力を付与した状態で金属管に捻り力を付与する。また、第1張力および捻り力を付与された金属管に、第2段階で付与する第2張力を追加的に付与し、第1張力、第2張力および捻り力を付与した状態で金属管を加熱する。
【0023】
なお、金属材をバルーンカテーテル、ガイドワイヤ、およびセンサ付ガイドワイヤ等の医療用器具の部材として利用する場合、捻り力の付与に関して捻回密度を0.05〜3.0回/cmとするのが好ましく、より好ましくは0.1〜3.0回/cmとするのが好ましい。また、第1張力を金属管の破断荷重の3〜10%の強さとするのが好ましく、より好ましくは5〜10%の強さとするのが好ましい。さらに、第1張力と第2張力との和を金属管の破断荷重の20〜55%の強さとするのが好ましく、より好ましくは30〜50%の強さとするのが好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、本願発明を実施例および比較例に基づいて説明する。
実施例および比較例の金属材1は、図1(a)、(b)に示すように、略円筒状の中空2を有するものであり、例えば、バルーンカテーテル、ガイドワイヤ、およびセンサ付ガイドワイヤ等の医療用器具の部材として利用されるものである。そして、金属材1の部材となる金属管3も略円筒状の中空4を有している(図1(c)、(d)参照)。
【0025】
〔加工装置〕
実施例および比較例の金属材1の製造方法に用いられる加工装置6を、図1(c)、(d)に基づいて説明する。
加工装置6は、例えば、金属管3の一端を保持するとともにモータ等のアクチュエータにより回転駆動される回転チャック7と、金属管3の他端を保持するとともに荷重8の質量に応じて金属管3の軸方向に移動するスライド式固定チャック9と、回転チャック7とスライド式固定チャック9との間に保持された金属管3に電力を供給して加熱する電力供給装置10とを備える。
【0026】
すなわち、加工装置6によれば、回転チャック7、スライド式固定チャック9に金属管3の一端、他端をそれぞれ保持させて金属管3を直線状に保った状態で、金属管3を荷重8により軸方向に引っ張ることで、金属管3の軸方向に張力を付与することができる。また、金属管3を直線状に保った状態で、回転チャック7を回転駆動することで、金属管3の周方向に捻り力を付与することができる。さらに、回転チャック7とスライド式固定チャック9との間に金属管3を保持した状態で、電力供給装置10を作動させることで金属管3を加熱することができる。
【0027】
〔製造方法〕
実施例および比較例の金属材1の製造方法を説明する。
金属材1の製造方法は、加工装置6を利用するものであり、金属管3の軸方向に張力を付与するとともに金属管3の周方向に捻り力を付与した状態で金属管3を加熱する。
【0028】
また、金属材1の製造方法によれば、張力を2段階に分けて付与する。そして、捻り力を付与する前に、第1段階で付与する第1張力を金属管3に付与し、第1張力を付与した状態で金属管3に捻り力を付与する。また、第1張力および捻り力を付与された金属管3に、第2段階で付与する第2張力を追加的に付与し、第1張力、第2張力および捻り力を付与した状態で金属管3を加熱する。
【0029】
つまり、金属材1の製造方法は、金属管3に第1張力を付与した状態で捻り力を付与する捻り工程と、金属管3に第1張力と第2張力との和を付与した状態で金属管3を加熱する加熱工程とを有する。
【0030】
〔評価方法〕
実施例および比較例の金属材1の評価方法を説明する。ここで、金属材1の評価項目はトルク伝達性である。トルク伝達性は、例えば、図2(a)に示す評価装置12により評価される。
評価装置12は、金属材1を曲げて保持するとともに金属材1の一端および他端を自身から突出させる配策13と、金属材1の一端を保持して金属材1に回転力を付与する回転手段14と、金属材1の他端近傍に配されて回転手段14による金属材1の回転角を検出する検出手段15とを有する。
【0031】
ここで、配策13は、例えば、金属材1の曲がり径が130mmとなるように設けられている。また、回転手段14は、例えば、モータの出力軸にピンバイスを装着することで設けられており、ピンバイスにより金属材1の一端を保持するとともに、モータの出力により金属材1に回転力を付与する。なお、検出手段15は、周知のエンコーダである。
【0032】
そして、トルク伝達性は、配策13により曲げられた金属材1の一端を所定の回転角だけ回転させたときに、他端の回転角がどの程度ばらつくのかを求めることで評価する。具体的には、図2(b)に示すように、回転手段14による一端の回転角が720°になるまで、回転手段14により一端を36°づつ回転させ、各々の36°間隔における他端の回転角の増加幅を検出手段15により計測する。
【0033】
そして、得られた全ての増加幅の数値の標準偏差を算出し、この標準偏差の数値に基づきトルク伝達性を評価する(以下、このトルク伝達性に関して求めた標準偏差をトルク伝達σと呼ぶ)。
なお、金属材1のガイドワイヤ等への適用を考慮すると、トルク伝達σは、5°以下の数値が好ましいので、トルク伝達σの基準値を5°とする。そして、以下の説明では、トルク伝達σの数値が5°以下となった金属材1を実施例とし、トルク伝達σの数値が5°よりも大きくなった金属材1を比較例とする。
【0034】
〔実施例および比較例の製造条件および評価結果〕
実施例および比較例の金属材1の製造条件および評価結果を表1〜表10に示す。
なお、金属材1の部材となる金属管3は、例えば、引抜き加工により設けられたシームレスパイプであり、SUS304を素材とするものである。
【0035】
ここで、表1〜表10では、製造条件として「金属管」、「捻り工程」、および「加熱工程」の3項目を設け、「金属管」の項目に、「外径」、「内径」および「破断荷重」の3項目を設け、各々の項目に金属管3の外径、内径および破断荷重を表示している。
また、「捻り工程」の項目に、「第1張力」および「捻回密度」の2項目を設け、「第1張力」の項目の上段に第1張力の強さを表示するとともに、下段に第1張力の破断荷重に対する百分率を表示し、「捻回密度」の項目に捻回密度を表示している。
【0036】
さらに、「加熱工程」の項目に、「第1張力+第2張力」および「加熱条件」の2項目を設け、「第1張力+第2張力」の項目の上段に第1張力と第2張力との和の強さを表示するとともに、下段に第1張力と第2張力との和の破断荷重に対する百分率を表示し、「加熱条件」の項目の上段に電力供給装置10から金属管3に与えられる通電量を表示するとともに、下段に電力供給装置10から金属管3に通電する通電時間を表示している。
なお、表1〜表10に示された通電量および通電時間により、金属管3は400〜600℃に加熱される。
【0037】
また、表1〜表10では、評価結果として「トルク伝達σ」の項目を設け、トルク伝達σの算出値を表示している。
【0038】
表1に示す実施例1〜5は、金属管3の外径が0.30mm、内径が0.05mm、破断荷重が13.9Kgであり、捻り工程における第1張力の破断荷重に対する百分率が3.6%であり、加熱工程における第1張力と第2張力との和の破断荷重に対する百分率が28.8%である場合に、捻回密度を0.00〜0.20回/cmの範囲で異ならせてトルク伝達σの変化を調べたものである。
【表1】

【0039】
表1によれば、実施例1〜5の全ての捻回密度において、トルク伝達σが5°以下の数値となってガイドワイヤ等への適用が可能である。
【0040】
表2に示す実施例6〜9および比較例1、2は、金属管3の外径が0.30mm、内径が0.07mm、破断荷重が13.0Kgであり、捻り工程における第1張力の破断荷重に対する百分率が3.8%であり、加熱工程における第1張力と第2張力との和の破断荷重に対する百分率が30.8%である場合に、捻回密度を0.00〜0.28回/cmの範囲で異ならせてトルク伝達σの変化を調べたものである。
【表2】

【0041】
表2によれば、捻回密度が0.08回/cm以上である実施例6〜9において、トルク伝達σが5°以下の数値となってガイドワイヤ等への適用が可能である。
【0042】
表3に示す実施例10〜12および比較例3、4は、金属管3の外径が0.30mm、内径が0.20mm、破断荷重が6.5Kgであり、捻り工程における第1張力の破断荷重に対する百分率が7.7%であり、加熱工程における第1張力と第2張力との和の破断荷重に対する百分率が30.8%である場合に、捻回密度を0.00〜0.12回/cmの範囲で異ならせてトルク伝達σの変化を調べたものである。
【表3】

【0043】
表3によれば、捻回密度が0.04回/cm以上である実施例10〜12において、トルク伝達σが5°以下の数値となってガイドワイヤ等への適用が可能である。
【0044】
表4に示す実施例13〜17および比較例5は、金属管3の外径が0.40mm、内径が0.10mm、破断荷重が20.4Kgであり、捻り工程における第1張力の破断荷重に対する百分率が4.9%であり、加熱工程における第1張力と第2張力との和の破断荷重に対する百分率が34.3%である場合に、捻回密度を0.00〜0.20回/cmの範囲で異ならせてトルク伝達σの変化を調べたものである。
【表4】

【0045】
表4によれば、捻回密度が0.00回/cmである実施例13と捻回密度が0.08回/cm以上である実施例14〜17において、トルク伝達σが5°以下の数値となってガイドワイヤ等への適用が可能である。
【0046】
表5に示す実施例18〜21および比較例6は、金属管3の外径が0.40mm、内径が0.15mm、破断荷重が18.4Kgであり、捻り工程における第1張力の破断荷重に対する百分率が5.4%であり、加熱工程における第1張力と第2張力との和の破断荷重に対する百分率が32.6%である場合に、捻回密度を0.00〜0.20回/cmの範囲で異ならせてトルク伝達σの変化を調べたものである。
【表5】

【0047】
表5によれば、捻回密度が0.05回/cm以上である実施例18〜21において、トルク伝達σが5°以下の数値となってガイドワイヤ等への適用が可能である。
【0048】
表6に示す実施例22、23および比較例7、8は、金属管3の外径が0.40mm、内径が0.30mm、破断荷重が7.9Kgであり、捻り工程における第1張力の破断荷重に対する百分率が6.3%であり、加熱工程における第1張力と第2張力との和の破断荷重に対する百分率が50.6%である場合に、捻回密度を0.00〜0.12回/cmの範囲で異ならせてトルク伝達σの変化を調べたものである。
【表6】

【0049】
表6によれば、捻回密度が0.04回/cm以上である実施例22、23において、トルク伝達σが5°以下の数値となってガイドワイヤ等への適用が可能である。
【0050】
表7に示す実施例24および比較例9〜11は、金属管3の外径が0.60mm、内径が0.36mm、破断荷重が28.7Kgであり、捻り工程における第1張力の破断荷重に対する百分率が7.0%であり、加熱工程における第1張力と第2張力との和の破断荷重に対する百分率が24.4%である場合に、捻回密度を0.00〜0.12回/cmの範囲で異ならせてトルク伝達σの変化を調べたものである。
【表7】

【0051】
表7によれば、捻回密度が0.12回/cmである実施例24において、トルク伝達σが5°以下の数値となってガイドワイヤ等への適用が可能である。
【0052】
表8に示す実施例25〜27および比較例12、13は、金属管3の外径が0.60mm、内径が0.48mm、破断荷重が17.3Kgであり、捻り工程における第1張力の破断荷重に対する百分率が5.8%であり、加熱工程における第1張力と第2張力との和の破断荷重に対する百分率が34.7%である場合に、捻回密度を0.00〜0.12回/cmの範囲で異ならせてトルク伝達σの変化を調べたものである。
【表8】

【0053】
表8によれば、捻回密度が0.04回/cm以上である実施例25〜27において、トルク伝達σが5°以下の数値となってガイドワイヤ等への適用が可能である。
【0054】
表9に示す実施例28〜30および比較例14は、金属管3の外径が0.40mm、内径が0.15mm、破断荷重が15.2Kgであり、捻り工程における第1張力の破断荷重に対する百分率が6.6%である場合に、捻回密度を0.00または1.00回/cmとし、さらに捻回密度1.00回/cmのときに、加熱工程における第1張力と第2張力との和の破断荷重に対する百分率を6.6〜52.6%の範囲で異ならせてトルク伝達σの変化を調べたものである。
【表9】

【0055】
表9によれば、実施例28〜30および比較例14の内、捻回密度が0.00回/cmではない実施例28〜30において、トルク伝達σが5°以下の数値となってガイドワイヤ等への適用が可能である。
【0056】
表10に示す実施例31〜34および比較例15は、金属管3の外径が0.40mm、内径が0.15mm、破断荷重が18.7Kgであり、捻り工程における第1張力の破断荷重に対する百分率が5.3%であり、加熱工程における第1張力と第2張力との和の破断荷重に対する百分率が32.1%である場合に、捻回密度を0.00〜1.00回/cmの範囲で異ならせてトルク伝達σの変化を調べたものである。
【表10】

【0057】
表10によれば、捻回密度が0.10回/cm以上である実施例31〜34において、トルク伝達σがガイドワイヤ等への適用の基準値である5°以下の数値となっている。
【0058】
〔破壊頻度評価〕
次に、捻回による金属管3の破壊頻度評価を説明する。
破壊頻度評価は、実施例および比較例の金属材1の製造とは別に複数本の金属管3を準備して行うものであり、複数の金属管3に第1張力を付与するとともに捻り力を付与して捻回密度を増加していくことで実施する。すなわち、破壊頻度評価は、金属材1の製造方法の各工程の内、捻り工程のみを行うものであり、金属管3に第1張力を付与した状態で捻回密度を増加していくことにより実施する。
【0059】
破壊頻度評価の実施条件は、次のとおりである。
すなわち、評価に用いる金属管3は、実施例および比較例と同様に、引抜き加工により設けられたシームレスパイプであり、SUS304を素材とするものである。また、金属管3の外径は0.40mm、内径は0.15mm、破断荷重は18.3Kgであり、第1張力の破断荷重に対する百分率は5.5%である。さらに、評価に用いた金属管3の本数は27本である。
【0060】
捻回による破壊頻度評価の結果を、図3のヒストグラムに示す。
図3のヒストグラムによれば、捻回密度が3.0回/cmを超えると破断本数が急激に増加している。
【0061】
〔実施例の効果〕
実施例の金属材1の製造方法によれば、略円筒状の中空4を有する金属管3の軸方向に張力を付与するとともに金属管3の周方向に捻り力を付与した状態で、金属管3を加熱する。
このように、略円筒状の中空4を有する金属管3に剛性付与および残留応力除去を行って金属材1を製造するとともに、金属材1を部材として医療用器具を製造することで、医療用器具に曲げ部が生じてもトルク伝達性を良好に保つことができる。
【0062】
すなわち、略円筒状の中空4を有する金属管3に張力および捻り力を付与して剛性を高めるとともに加熱により残留応力を除去すると、金属材1の軸方向に垂直な断面(横断面)において、外周表面に近いほど結晶粒径が微細化されて硬化する。また、内周表面に近いほど、加熱後の冷却が遅くなることから時効硬化が促進される。このため、外周側および内周側の両側で硬化が顕著になることから、金属材1の耐キンク性が高くなり、金属材1に曲げ部が発生しても応力集中が発生しにくくなる。
【0063】
したがって、金属材1を部材として製造した医療用器具によれば、曲げ部が生じてもトルク伝達性を良好に保つことができる。すなわち、手技者が手元の回動操作により後端部にトルクを与えた場合、曲げ部においてもトルクの伝達が円滑に行われて先端部へ確実にトルクが伝達される。この結果、手技者は、手元で後端部を回動操作することで円滑に先端部を回転させて手技を行うことができる。
【0064】
また、金属材1の部材となる金属管3は、引抜き加工により設けられている。
引抜き加工により設けられた金属管3は、引抜き加工に伴う応力が内周表面および外周表面の両側の表面近傍に集中する。これにより、金属管3の内周表面近傍および外周表面近傍は、両方とも引抜き加工による加工硬化によって結晶粒径が微細化されて硬化し、剛性が高まっている。このため、さらに金属材1の耐キンク性が向上するとともに、曲げ部における応力集中がさらに発生しにくくなるため、更なるトルク伝達性の向上を達成することができる。
【0065】
また、引抜き加工により設けられた金属管3の内周表面には微小な凹凸が形成されているため、金属材1の内周表面は、耐摩耗性および摺動性に優れたものとなる。このため、金属材1の内部を通じて物を移動させ易くなるので、金属材1を医療用器具の部材とした場合に、手技者の手元側から人体内の病変部に向けて手技に必要な器具等を移動させ易くなる。
【0066】
また、金属材1の内周表面の摺動性をさらに良好にするため、内周表面にポリテトラフルオロエチレンや二硫化モリブデン等の被膜を設けた場合、凹凸によるアンカー効果により被膜が剥離しにくくなって留まりやすくなる。さらに、金属材1の端部に樹脂や金属を固着する場合にも、接着剤、ロー材またははんだ等が内周表面に流れ込んで固化することで、アンカー効果により金属材1の端部における固着強度が向上する。
【0067】
また、捻回により内周表面の凹凸が螺旋状に変形するので、金属材1の内周表面は、ネジの効果により各種の部材を強力に保持することができる。このため、金属材1の内周側に各種の部材を挿通して保持することが容易になる。
【0068】
さらに、金属材1の内部に流体を流す場合、螺旋状の凹凸により、金属材1の内部の流れはスパイラル渦流となる。このため、金属材1の内部は軸心に近い内周側ほど低圧になるので、固体粒子を含むスラリーを流す場合、内周表面に固体粒子が滞留しにくくなって固体粒子の輸送が容易になる。そして、この作用効果は、血栓吸引カテーテルや肝動脈塞栓療法用のカテーテル等のシャフトに金属材1を用いる場合に顕著に得られる。
【0069】
なお、金属材1をバルーンカテーテル、ガイドワイヤ、およびセンサ付ガイドワイヤ等の医療用器具の部材として利用する場合、捻り力の付与に関して捻回密度を0.05〜3.0回/cmとするのが好ましく、より好ましくは0.1〜3.0回/cmとするのが好ましい。
【0070】
すなわち、捻回密度が0.05回/cm以上で0.1回/cm未満の範囲では、大部分の金属材1においてトルク伝達σが5°以下となってガイドワイヤ等への適用が可能であり、一部の金属材1においてトルク伝達σが5°よりも大きくなってガイドワイヤ等への適用が好ましくないものとなっている(実施例6、11、14、18、26および比較例11参照)。
【0071】
そして、捻回密度が0.1回/cm以上の範囲では、全ての金属材1においてトルク伝達σが5°以下となってガイドワイヤ等への適用が可能となっている(実施例3〜5、7〜9、12、15〜17、19〜21、23、24、27〜34参照)。つまり、捻回密度を0.1回/cm以上にすることで、捻りに対する剛性が著しく高まってトルク伝達性の向上が顕著になる。
【0072】
また、金属管3の破壊頻度評価の結果によれば(図3参照)、捻回密度が3.0回/cmよりも大きくなると、捻りによる破断が発生しやすくなって金属材1の収率が低下する。よって、捻回密度を0.05〜3.0回/cm、より好ましくは0.1〜3.0回/cmとすることで、収率の低下を抑えながらトルク伝達性を向上させることができる。
【0073】
また、第1張力を金属管3の破断荷重の3〜10%の強さとするのが好ましく、より好ましくは5〜10%の強さとするのが好ましい。
第1張力を破断荷重の5%よりも小さくすると、加熱を終えて張力付与を停止した加工途中の金属材1にはうねりが生じる虞がある。また、第1張力を破断荷重の10%よりも大きくすると、張力の負荷が過大となって引張りによる破断が発生しやすくなり、金属材1の収率が低下する。
【0074】
よって、第1張力を金属管3の破断荷重の5〜10%の強さとすることで、うねりの発生および収率の低下を抑えながらトルク伝達性を顕著に向上させることができる。
なお、実施例1〜9、13〜17の金属材1によれば、第1張力を金属管3の破断荷重の3〜5%の強さとしてもうねりが発生していないことから、第1張力を金属管3の破断荷重の3〜5%の強さにしてもよい。
【0075】
さらに、第1張力と第2張力との和を金属管3の破断荷重の20〜55%の強さとするのが好ましく、より好ましくは30〜50%の強さとするのが好ましい。
第1張力と第2張力との和を破断荷重の30%以上にすることで、真直性が著しく高まってトルク伝達性の向上が顕著になる。また、第1張力と第2張力との和を破断荷重の50%よりも大きくすると、加工終了後の金属材1の内、外径寸法がバルーンカテーテルやガイドワイヤの規格以下になるものが多くなり、金属材1の収率が低下する。
【0076】
よって、第1張力と第2張力との和を金属管3の破断荷重の30〜50%の強さとすることで、収率の低下を抑えながら真直性を高めてトルク伝達性を顕著に高めることができる。
なお、実施例1〜5、24の金属材1によれば、第1張力と第2張力との和を金属管3の破断荷重の20〜30%の強さとしてもトルク伝達σが5°以下になっていることから、第1張力と第2張力との和を金属管3の破断荷重の20〜30%の強さにしてもよい。
【0077】
また、実施例22、23、28の金属材1によれば、第1張力と第2張力との和を金属管3の破断荷重の50〜55%の強さとしてもトルク伝達σが5°以下になっていることから、第1張力と第2張力との和を金属管3の破断荷重の50〜55%の強さにしてもよい。
【0078】
〔変形例〕
実施例の金属材1によれば、部材となる金属管3は、引抜き加工により設けられたシームレスパイプであり、SUS304を素材とするものであったが、金属管3の態様は、このようなものに限定されない。例えば、金属管3をセミシームレスパイプとしてもよく、SUS316等の他のステンレス鋼を素材としてもよく、Cu、Ni−Ti等のステンレス鋼以外の金属を素材としてもよい。
【0079】
また、実施例の金属材1は、バルーンカテーテル、ガイドワイヤ、およびセンサ付ガイドワイヤ等の医療用器具の部材として利用されるものであったが、医療用器具以外の機器に金属材1を用いてもよい。
【0080】
さらに、金属材1の部材となる金属管3の外径、内径および破断荷重、捻り工程における第1張力の強さおよび捻回密度、ならびに、加熱工程における第1張力と第2張力との和および加熱条件は、実施例の態様に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0081】
1 金属材
2 中空
3 金属管
4 中空

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒状の中空を有する金属材の製造方法において、
略円筒状の中空を有する金属管の軸方向に張力を付与するとともに前記金属管の周方向に捻り力を付与した状態で、前記金属管を加熱することを特徴とする金属材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属材の製造方法において、
前記金属管は、引抜き加工により設けられていることを特徴とする金属材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の金属材の製造方法において、
前記金属管の周方向に捻り力を付与する際に、捻回密度が0.1〜3.0回/cmとなるように捻り力を付与することを特徴とする金属材の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の内のいずれか1つに記載の金属材の製造方法において、
前記張力を2段階に分けて付与し、
前記捻り力を付与する前に、第1段階で付与する第1張力を前記金属管に付与し、前記第1張力を付与した状態で前記金属管に前記捻り力を付与し、
前記第1張力および前記捻り力を付与された前記金属管に、第2段階で追加的に付与する第2張力を付与し、前記第1張力、前記第2張力および前記捻り力を付与した状態で前記金属管を加熱することを特徴とする金属材の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の金属材の製造方法において、
前記第1張力は、前記金属管の破断荷重の5〜10%の強さであることを特徴とする金属材の製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の金属材の製造方法において、
前記第1張力と前記第2張力との和は、前記金属管の破断荷重の30〜50%の強さであることを特徴とする金属材の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の内のいずれか1つに記載の金属材の製造方法により製造された金属材を部材とするガイドワイヤ。
【請求項8】
請求項7に記載のガイドワイヤにおいて、
自身の先端部に、手技者により病変部の近傍に導かれて前記病変部の近傍における物理量に感知するとともに、この物理量に応じた電気的出力を発生するセンサを備えることを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項9】
請求項1ないし請求項6の内のいずれか1つに記載の金属材の製造方法により製造された金属材を部材とするバルーンカテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−268974(P2010−268974A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123514(P2009−123514)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(390030731)朝日インテック株式会社 (140)
【Fターム(参考)】