説明

金属板の接合構造及びシールドケース

【課題】 金属板の接合部の強度、特に、板面の垂直方向から加わる力に対する強度を向上させる。
【解決手段】 接合する金属板の一方の先端断面を板面に対して所定の角度をつけた傾斜断面に形成し、接合する金属板の他方の先端断面を同角度で、且つ、板面に対して逆向きとなる傾斜断面に形成し、傾斜断面が形成された金属板の先端部と板面に対して逆向きとなる傾斜断面が形成された金属板の先端部とを嵌め合せて接合し、接合部付近の板面の片面又は両面を圧潰する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の接合構造及びシールドケースに関するものである。詳細は、金属板の接合部の強度、特に、板面の垂直方向から加わる力に対する強度を向上させるための金属板の接合構造及びシールドケースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気コネクタの構造として、導電性を持った金属で形成された接続端子が取り付けられているハウジングを電気的ノイズから保護するために金属製のシールドケースなどで包囲することが知られている。
【0003】
このシールドケースは、金属板を所定の展開形状に打ち抜き加工し、この抜き打ち加工した金属板を折り曲げて両先端部を接合して上述したハウジングを包囲するように成形するため、金属板の一方の先端部に凹部(又は凸部)、他方の先端部にはこれに適合する凸部(又は凹部)が形成してあり、両先端部を接合したときに外れたり、がたついたりしないように双方が入り込むような形状となっている。
【0004】
このようなシールドケース付電気コネクタとして、例えば、図9に示すように、金属板を所定の展開形状に打ち抜き加工によって形状づけられ、この金属板を屈曲成形して作られており、屈曲部103にて弾性ロック片104を内方へ折り曲げることにより設けた後に角筒状に成形され、角筒状に成形する際、接合部102は金属板の接合側端縁(先端部)101aと101bが互いに入り込む略角波状をなして密着しており、特にケース上面において接合部102が上面の中央位置を迂回するように大きな角波状をなしている角筒ケース100をシールドケースとして電気コネクタのハウジングを包囲保持している角筒付き電気コネクタなどがある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−192834号公報(第5頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、接合する金属板の先端部は、先端の断面が板面に対して直角であるため、嵌め合わせて接合した場合、板面の垂直方向から加わる力に対して接合強度が弱いという問題がある。
【0006】
例えば、図10(a)に示す金属板10のように、それぞれの先端部には嵌合したときに双方が入り込む形状になるように、一方の先端部1aには凹部2(図10(b))、他方の先端部1bには凸部3(図10(c))が形成され、図11(a)のように、金属板10の先端部1aと先端部1bを対面するように折り曲げて、図11(b)のように、先端部1aの凹部2と先端部1bの凸部3を嵌め合わせて接合することによって、電気コネクタを包囲するシールドケースなどを形成する。
【0007】
このとき、金属板10の先端部1a/1bの先端断面は、図12(a)に示すように、板面に対して直角であるため、図12(b)に示すように、先端部1aの凹部2と先端部1bの凸部3を嵌め合わせて接合した接合部11においても、両方の先端断面が板面に対して直角に当接された状態となり、板面の垂直方向(板厚d方向)から加わる力に対しては強度をほとんど持たないことになる。
【0008】
例えば、上述した特開2004−192834号公報(図9参照)では、接合部の一部を圧潰又は曲げ接合を施したり、両先端部を重ね合わせることで接合するという方法などによって接合部の強度を向上させることが示されているが、これらの方法によって接合部の強度を向上させる場合、接合工程が複雑になったり、接合部に厚みがでてしまうという問題が生じる。
【0009】
従って、先端部に設けた凹部と凸部を嵌め合わせて金属板を接合するとき、接合工程が複雑になったり、接合部に厚みを持たせずに強度を向上させること、特に、板面の垂直方向から加わる力に対する強度を向上させることに解決しなければならない課題を有する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明に係る金属板の接合構造及びシールドケースは次のような構成にすることである。
【0011】
(1)接合する金属板の一方の先端部に成形した凸部と他方の先端部に成形した凹部を嵌め合せて接合する金属板の接合構造であって、前記接合する金属板の一方の先端断面を、板面に対して所定の角度をつけた傾斜断面に形成し、前記接合する金属板の他方の先端断面を、前記傾斜断面と同角度で、且つ、前記板面に対して逆向きとなる傾斜断面に形成し、前記傾斜断面が形成された金属板の先端部と、該傾斜断面と同角度で、且つ、前記板面に対して逆向きとなる傾斜断面が形成された金属板の先端部とを嵌め合せて接合し、該接合した接合部付近の板面を圧潰することを特徴とする金属板の接合構造。
(2)前記接合部付近の板面の片面を圧潰することを特徴とする(1)に記載の金属板の接合構造。
(3)前記接合部付近の板面の両面を圧潰することを特徴とする(1)に記載の金属板の接合構造。
【0012】
(4)金属板を屈曲して一方の先端部に形成した凸部と他方の先端部に形成した凹部を嵌め合わせて接合するコネクタのシールドケースであって、前記金属板の一方の先端断面を、板面に対して所定の角度をつけた傾斜断面に形成し、前記接合する金属板の他方の先端断面を、前記傾斜断面と同角度で、且つ、前記板面に対して逆向きとなる傾斜断面に形成し、前記傾斜断面が形成された金属板の先端部と、該傾斜断面と同角度で、且つ、前記板面に対して逆向きとなる傾斜断面が形成された金属板の先端部とを嵌め合せて接合し、該接合した接合部付近の板面を圧潰することを特徴とするシールドケース。
【0013】
上記構成のように、接合する金属板の一方の先端断面を板面に対して所定の角度をつけた傾斜断面に形成し、他方の先端断面を同角度で、且つ、板面に対して逆向きとなる傾斜断面に形成し、傾斜断面が形成された金属板の先端部と板面に対して逆向きとなる傾斜断面が形成された金属板の先端部とを嵌め合せて接合し、接合した接合部付近の板面を圧潰することによって板面の垂直方向から加わる力を相手の先端部が支持する接合構造となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、接合する金属板の一方の先端部に所定角度つけた傾斜断面を形成し、他方の先端部に同角度で、且つ、板面に対して逆向きの傾斜断面を形成して、この先端部同士を嵌め合せて接合することにより、互いの先端部の傾斜断面同士が重合して接合されるので、板面の垂直方向から加わる力が接合した相手側の先端部で支持され、板面の垂直方向に対する接合強度を向上させた接合が可能となるという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の金属板の接合構造及びシールドケースによる実施の形態について図面を参照して説明する。但し、図面は専ら解説のためのものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0016】
本発明の金属板の接合構造を用いて形成されたコネクタのシールドケースを例にして説明する。シールドケースは、金属板を所定の展開形状に打ち抜き加工し、先端部を嵌め合わせてコネクタなどを包囲するようにして屈曲成形される。なお、理解を容易にするため、従来の金属板の接合構造及びシールドケース(図10〜12)と同等となる部分には同一の符号を付して説明する。
【0017】
まず、シールドケースとなる金属板は、先端部を嵌め合わせたときに外れないように互いに入り込むような形状とするため、図1に示すように、金属板10の一方の先端部1aには嵌合凹部2、他方の先端部1bには嵌合凸部3が形成される。
【0018】
例えば、図2に示すように、嵌合凸部3は、先端方向に向かって広がりを持ち、根元付近に括れを持った凸形状(図2(a))に形成され、嵌合凹部2は、嵌合凸部3の形状に適合する凹形状(図2(b))に形成され、この嵌合凹部2及び嵌合凸部3が形成された金属板10の先端部1a/1bの先端断面を板面に対して所定角度を持った傾斜断面とする。
【0019】
例えば、図3(a)に示すように、嵌合凹部2が形成されている先端部1aの先端断面は、板面に対して所定の角度で上向きの傾斜断面1axを形成し、嵌合凸部3が形成されている先端部1bの先端断面は、先端部1aの傾斜断面1axと同じ角度で、且つ、板面に対して傾斜断面1axと逆向き(図中の下方向)となるように傾斜断面1bxを形成する。
【0020】
なお、図3(b)のように、図3(a)の向きと逆(板面に対して反対向き)となるように、嵌合凹部2が形成されている先端部1aの先端断面を板面に対して下向きの傾斜断面1axとし、嵌合凸部3が形成されている先端部1bの先端断面を同角度で、且つ、板面に対して上向きとなる傾斜断面1bxとなるようにしてもよい。
【0021】
このように傾斜断面1axが形成された先端部1aと、傾斜断面1bxが形成された先端部1bを持つ金属板10は、更に、所定の展開形状に基づいて打ち抜き加工される。
【0022】
例えば、図4、5に示すシールドケース10Aの場合、金属板10は、コネクタ20を嵌着するコネクタ装着口13を形成するための切欠部4、回路基板に半田付けするための脚片部5、挿入されるプラグをガイドするための屈曲部6、嵌着されるコネクタ20のハウジングを左右から拘止するため拘止屈曲部7、回路基板との位置合わせをするための矩形凸部8、嵌着されたコネクタ20のハウジングを拘止するため拘止屈曲部9などが形成されるように、所定の展開形状に基づいて打ち抜き加工される。
【0023】
そして、この打ち抜き加工した金属板10を角筒状に屈曲して成形すると、図4、5に示すようなシールドケース10Aとなる。図4、5に示すシールドケース10Aは、絶縁材などから形成されたハウジングに導電性を持った金属で形成した複数の端子21が所定のピッチで配設されているコネクタ20(図中の点線)を嵌着するシールドケースである。なお、図4(A)はシールドケースの平面図、図4(B)は正面図、図5は外観図である。
【0024】
金属板10の切欠部4は、回路基板(図示せず)に対面する接合面a側の一方の開口部の中央部に、コネクタ20を嵌着するためのコネクタ装着口13として形成され、脚片部5は、回路基板(図示せず)に対面する接合面a側の左右両端の略中央部に位置し、外側方向に折り曲げられる。
【0025】
また、屈曲部6は、コネクタ装着口13の反対側の開口部となるプラグ挿入口12側の左右両縁部に位置し、プラグ挿入口12の内側方向に折り曲げられ、矩形凸部8は、角筒上に形成したときにそれぞれ回路基板の接合面aの左右の略中央部の位置する。
【0026】
また、拘止屈曲部7は、左右両側壁となる側面b、cのコネクタ装着口13側の縁部に位置し、コネクタ20を嵌着したときにコネクタ装着口13の内側方向に折り曲げて、コネクタ20のハウジングを左右から拘止し、拘止屈曲部9は、回路基板の接合面aの反対面となる面dで、コネクタ装着口13側の先端部中央付近に位置し、コネクタ20を嵌着したときにコネクタ装着口13の内側方向に折り曲げて、コネクタ20のハウジングを拘止する。
【0027】
このように金属板10にコネクタ20を嵌着して包囲するように屈曲形成して角筒状にすると、図6(a)に示すように、金属板10の先端部1aと先端部1bが対面した状態となるので、図6(b)に示すように、先端部1aの嵌合凹部2と先端部1bの嵌合凸部3を嵌め合わせて接合する。
【0028】
そして、図7に示すように、接合部11付近をプレスなどよって圧潰して接合強度を増加させる。このとき、接合部11付近を板面の上面又は下面の何れか一方の面を圧潰してもよいし、接合強度を更に増すために上下両面から圧潰してもよい。
【0029】
このようにして金属板10の先端部1aと先端部1bの接合部11は、先端部1aに形成された嵌合凹部2と先端部1bに形成された嵌合凸部3が互いに入り込んで繋止された状態となり、左右方向に引っ張る力に対して接合強度を持つことになる。
【0030】
また、図8に示すように、先端部1aに形成された傾斜断面1axと先端部1bに形成された傾斜断面1bxは、同じ角度で、板面に対して互いに反対向き(上下方向)の断面となっており、嵌め合せたときに傾斜断面同士が重合し、板面の垂直方向から加わる力を互いの先端部で支持する状態で接合されるため、板面の垂直方向(上下方向)に対する接合強度も備えた接合構造となる。
【0031】
なお、1枚の金属板を屈曲成形したシールドケースを例にして説明したが、別々の金属板同士を接合する場合にも、それぞれの金属板の接合させる先端部に、同じ角度で、嵌合したときに板面に対して互いに反対向きとなる傾斜断面を形成することで上述と同様の接合構造で接合することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る金属板の接合構造によって接合を行う金属板の一実施例を説明するための説明図である。
【図2】図1に示した金属板の先端部の状態を説明するための説明図である。
【図3】図1に示した金属板の先端部に形成した傾斜断面を説明するための断面図である。
【図4】本発明に係る金属板の接合構造における一実施例であるシールドケースの平面図及び正面図である。
【図5】図4に示したシールドケースの外観を示した斜視図である。
【図6】図1に示した金属板の先端部同士を嵌め合せて接合するときの状態を説明するための説明図である。
【図7】図6に示した金属板の接合部付近を圧潰するときの説明図である。
【図8】図6に示した先端部の接合状態を説明するための断面図である。
【図9】従来技術における金属板の接合構造を説明するために例示した電気コネクタのシールドケースの外観図である。
【図10】従来技術における金属板及びその先端部の先端断面について説明するための説明図である。
【図11】図10の金属板の先端部を嵌め合せて接合するときの状態を説明するための説明図である。
【図12】図10に示した金属板の先端部の接合状態を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0033】
10;金属板
1a/1b;先端部
1ax;傾斜断面
1bx;傾斜断面
2;嵌合凹部
3;嵌合凸部
4;切欠部
5;脚片部
6;屈曲部
7;拘止屈曲部
8;矩形凸部
9;拘止屈曲部
10A;シールドケース
11;接合部
12;プラグ挿入口
13;コネクタ装着口
20;コネクタ
21;端子
100;角筒ケース(シールドケース)
101a/101b;接合側端縁(先端部)
102;接合部
103;屈曲部
104;弾性ロック片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合する金属板の一方の先端部に成形した凸部と他方の先端部に成形した凹部を嵌め合せて接合する金属板の接合構造であって、
前記接合する金属板の一方の先端断面を、板面に対して所定の角度をつけた傾斜断面に形成し、
前記接合する金属板の他方の先端断面を、前記傾斜断面と同角度で、且つ、前記板面に対して逆向きとなる傾斜断面に形成し、
前記傾斜断面が形成された金属板の先端部と前記板面に対して逆向きとなる傾斜断面が形成された金属板の先端部とを嵌め合せて接合し、該接合した接合部付近の板面を圧潰すること
を特徴とする金属板の接合構造。
【請求項2】
前記接合部付近の板面の片面を圧潰すること
を特徴とする請求項1に記載の金属板の接合構造。
【請求項3】
前記接合部付近の板面の両面を圧潰すること
を特徴とする請求項1に記載の金属板の接合構造。
【請求項4】
金属板を屈曲して一方の先端部に形成した凸部と他方の先端部に形成した凹部を嵌め合わせて接合するコネクタのシールドケースであって、
前記金属板の一方の先端断面を、板面に対して所定の角度をつけた傾斜断面に形成し、
前記接合する金属板の他方の先端断面を、前記傾斜断面と同角度で、且つ、前記板面に対して逆向きとなる傾斜断面に形成し、
前記傾斜断面が形成された金属板の先端部と前記板面に対して逆向きとなる傾斜断面が形成された金属板の先端部とを嵌め合せて接合し、該接合した接合部付近の板面を圧潰すること
を特徴とするシールドケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−289472(P2006−289472A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116759(P2005−116759)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(000102500)SMK株式会社 (528)
【Fターム(参考)】