説明

金属板の曲げ加工方法

【課題】金属板の屈曲部における板厚を小さくすることなく、当該屈曲部の最小曲げ半径を小さくする。
【解決手段】この金属板の曲げ加工方法は、パンチ10と曲げ刃20とで金属板1の曲げ加工を行なう金属板の曲げ加工方法であって、曲げ刃20が金属板1に当接しながら移動することによって金属板1を曲げて屈曲部1aを成形する際に、曲げ刃20は、屈曲部1aの中央位置を通過する時点で、パンチ10と曲げ刃20との最小距離Lが、式(1)を満たすように移動する。
1.0≦L/t≦1.2・・・(1)
ただし、tを金属板の板厚[mm]とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の曲げ加工方法に関し、特に、自動車のボディ用材料などに使用されるハイテンと呼ばれる高強度冷延鋼板の曲げ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業では、COの排出削減のため、車体の軽量化が進められており、高強度冷延鋼板の適用が積極的に進められている。ところが、図9に示すように、高強度冷延鋼板のプレス成形においては、パンチ肩及びダイ肩の屈曲部において、割れ(破断)が発生するという問題がある。一般的に、高強度冷延鋼板(中でも、強度780MPaを超える超ハイテン(超高強度冷延鋼板))の最小曲げ半径Rminは、Rmin/tが2〜4程度であり(図10参照、図10は、スーパー鉄鋼「先進ハイテン」世界のクルマを軽く安全に(株式会社文芸春秋企画出版部発行)の図2.29に基づく)、Rmin/tを小さくできれば、低強度鋼板用の部品形状(金型)のまま高強度鋼板の成形が可能になる等、その適用範囲が広がる。なお、上記した「最小曲げ半径Rmin」は、曲げ成形において、割れ(破断)を発生させずに曲げることが可能な最小の曲率半径であって、「Rmin/t」は、前述した最小曲げ半径Rminを金属板の板厚tで割った値である。
【0003】
そこで、曲率半径の小さい曲げ加工において、パンチ肩及びダイ肩の屈曲部に割れ(破断)が生じないように、金属板を曲げる方法が種々提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。この特許文献1には、材料の屈曲部を局部的に厚さ方向に圧縮しながら金属板の曲げ加工を行う方法が開示されている(特許文献1の図1参照)。また、特許文献2には、プレスによって薄板の曲げ加工を行なう方法において、ポンチにより薄板の屈曲部を潰しながら薄板の曲げ加工を行う方法が開示されている(特許文献2の図2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭49−52164号公報
【特許文献2】特開昭57−1522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1及び2では、いずれも材料の屈曲部を厚さ方向に圧縮することにより材料表面の板面方向の応力が圧縮となり、当該材料表面の割れ(破断)の発生を防止している。しかしながら、これらの技術では、上記した屈曲部への圧縮により屈曲部が局所的に潰されるので(特許文献1の図3参照)、
1)強度や剛性など部材性能の劣化や、
2)逆圧として大きな面圧が必要になり、工具寿命の劣化や工具保守回数の増加が起こる、
といった問題が生じる。
【0006】
そこで、この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、金属板の屈曲部における板厚を小さくすることなく、屈曲部の最小曲げ半径を小さくすることが可能な金属板の曲げ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、金属板の曲げ加工を行なった製品の調査を行った結果、図11及び図12に示すように、割れが発生した製品では、屈曲部が曲げ内工具の形状に沿っておらず、図中の実成形品の各ライン(曲げ内ラインL1、曲げ中央ラインL2、曲げ外ラインL3)が、図中の一点差線で示した理想形状とは、異なるものになっていた。つまり、割れが発生した製品では、曲げ内工具(理想形状)と金属板(実成形品)との間に隙間Sが生じることによって、屈曲部内側の余った材料の影響により板厚中心(図11中の縞模様で示される中心偏析)が屈曲部外側に移動し、屈曲部外側に存在した材料が板面方向に追い出される。その結果として、屈曲部に割れが発生してしまうことを見出した。そこで、本願発明者らは、曲げ外工具の移動軌跡を制御して、屈曲部を曲げ内工具の形状に沿うように成形できれば、従来技術のように屈曲部を圧縮(潰し)までしなくても、屈曲部に割れを発生させず且つ最小曲げ半径を小さくできると考え、以下の金属板の曲げ加工方法を完成させた。
【0008】
本発明の金属板の曲げ加工方法は、曲げ内工具と曲げ外工具とで金属板の曲げ加工を行なう金属板の曲げ加工方法であって、曲げ外工具が金属板に当接しながら移動することによって金属板を曲げて屈曲部を成形する際に、曲げ外工具は、屈曲部の中央位置を通過する時点で、曲げ内工具と曲げ外工具との最小距離Lが、式(1)を満たすように移動する。
1.0≦L/t≦1.2・・・(1)
ただし、tを金属板の板厚[mm]とする。
【0009】
上記方法では、曲げ外工具が屈曲部の中央位置を通過する時点で、最小距離Lが式(1)を満たすように移動することによって、屈曲部の内側面を曲げ内工具に沿って成形することができる。その結果、金属板の屈曲部における板厚を小さくすることなく、当該屈曲部の最小曲げ半径を小さくすることができる。
【0010】
上記した金属板の曲げ加工方法において、好ましくは、曲げ外工具は、屈曲部を成形する際に、直線的に移動する。
【0011】
この方法では、曲げ外工具を曲線的に移動させる場合と異なり、カム機構などの簡単な機構を利用して、曲げ外工具の移動を制御することができる。
【0012】
上記した金属板の曲げ加工方法において、好ましくは、曲げ外工具は、屈曲部の中央位置を通過する時点で、式(2)を満たす荷重Pで金属板側に付勢される。
0.16・TS・t≦P≦0.18・TS・t・・・(2)
ただし、TSを金属板の材料強度[MPa]とする。
【0013】
これによれば、金属板の曲げ工程において、屈曲部の反力に抗して荷重Pが屈曲部に加わるので、曲げ外工具を式(1)を満たすように移動させることができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明による金属板の曲げ加工方法では、金属板の屈曲部における板厚を小さくすることなく、当該屈曲部の最小曲げ半径を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る金属板の曲げ加工法での曲げ刃の移動軌跡を示した図である。
【図2】屈曲部及び屈曲部の中央位置を説明するための図である。
【図3】図1に示した曲げ刃の移動軌跡を実現するためのカム機構を示した図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る金属板の曲げ加工法での曲げ刃の移動軌跡を示した図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る金属板の曲げ加工法での曲げ刃の移動軌跡を示した図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係る金属板の曲げ加工法での曲げ刃の移動軌跡を示した図である。
【図7】本発明の第5実施形態に係る金属板の曲げ加工法を説明するための図である。
【図8】本発明の第6実施形態に係る金属板の曲げ加工法を説明するための図である。
【図9】金属板の屈曲部に発生した割れを示した写真。
【図10】各種の強度を有する鋼種とその鋼種のRmin/tとの関係を示したグラフである。
【図11】強度1270MPa、板厚1.4mmの金属板を通常成形法にて曲げた写真。
【図12】割れが発生した実成形品の形状と理想形状とを比較するための模式図である。
【図13】従来の通常成形法における曲げ刃の軌跡を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて、本発明に係る金属板の曲げ加工方法の実施形態について説明する。
【0017】
(第1実施形態)
本実施形態の金属板の曲げ加工方法は、超ハイテンと呼ばれる高強度冷延鋼板を対象としており、パンチ(曲げ内工具)10に固定された金属板1を曲げ刃(曲げ外工具)20により曲げることによって、金属板1を所定の方向に屈曲させる方法である。本実施形態では、(1)高強度冷延鋼板の適用範囲を広げるために、通常成形法(パンチに固定された金属板に対して垂直方向に曲げ刃を移動させて金属板を曲げる方法(図13参照))でのRmin/tの値を、約1.0下げつつ、(2)強度や剛性など部材性能の劣化、及び、工具寿命の劣化や工具保守回数の増加を防止するために、金属板の板厚の減少率が10%以下(自動車のプレス部品は一般的に板厚減少率20%以下で管理されることが多いので、その半分の10%未満とした)に抑える、ことを実現している(表1参照)。
【0018】
【表1】

【0019】
具体的には、強度が1270MPa、板厚が1.4mmの金属板について、通常成形法では、Rminが3.0及びRmin/tが2.1であったものを、本実施形態に係る加工方法では、Rminを1.5及びRmin/tを1.1にまでに改善し、
強度が1470MPa、板厚が1.4mmの金属板について、通常成形法では、Rminが3.5及びRmin/tが2.5であったものを、本実施形態に係る加工方法では、Rminを2.0及びRmin/tを1.4にまで改善し、
強度が1470MPa、板厚が2.0mmの金属板について、通常成形法では、Rminが4.5及びRmin/tが2.3であったものを、本実施形態に係る加工法では、Rminを3.0及びRmin/tを1.5にまで改善し、且つ、
いずれの鋼種についても、板厚の減少率を10%以下に抑える、ことを実現している。
【0020】
以下、本実施形態の金属板の曲げ加工方法の詳細について説明する。図1に示すように、パンチ10には、曲率半径rpのパンチ肩11が設けられると共に、曲げ刃20には、曲率半径rdの曲げ刃肩21が設けられている。曲げ刃20の曲げ刃肩21が金属板1に当接しながら移動することで、金属板1がパンチ10のパンチ肩11に沿って曲げられて、屈曲部1a(図1中の斜線領域で示す)が成形される。
【0021】
ここで、本実施形態では、屈曲部1aをウェブ側(パッド12で押さえている側)から順次曲げる加工方法において、金属板1を曲げて屈曲部1aを成形する際に、曲げ刃20は、屈曲部1aの中央位置を通過する時点で、曲げ刃20とパンチ10との最小距離Lが、式(1)を満たすように移動する。
1.0≦L/t≦1.2・・・(1)
なお、この屈曲部1aとは、金属板1の曲げに係る部分であって、屈曲部1aの中央位置とは、図2に示すように、金属板1を角度αで曲げる場合における角度α/2の位置を指す。従って、本実施形態のように、金属板1をL字状(角度90°)に曲げる場合、屈曲部1aの中央位置は、角度45°の位置になる(図2(a)参照)。
また、曲げ刃20の曲げ刃肩21が、金属板1に当接しながら移動して屈曲部1aを成形する間において、曲げ刃20とパンチ10との最小距離は、金属板1の板厚tより小さくなることはない。
【0022】
この第1実施形態では、図3に示すように、以下の工程に沿って、金属板の曲げ加工を行なう。
工程1(成形前):金属板1を準備して、パンチ10に金属板1を固定する。
工程2(成形開始):ウェブ側(パッド12により固定される側)から徐々に金属板1に近づくように曲げ刃20を移動させて、曲げ刃20と金属板1とを接触させる。
工程3(成形途中):曲げ刃20を金属板1に当接させながら直線的(斜め下方)に移動させて、金属板1を曲げる。この際、曲げ刃20を、屈曲部1aの中央位置(角度45°の位置)を通過する時点で、パンチ10と曲げ刃20との最小距離Lが、上記式(1)を満たすように移動させる。
工程4(成形完了):加工前の金属板1に対して、垂直をなすように(垂直下方に)曲げ刃20を移動させて、金属板1をさらに曲げる。
【0023】
[カム機構50の構成]
ここで、図3を参照して、曲げ刃20を上記したように移動させる機構について説明する。すなわち、金属板1を曲げる曲げ刃20を直線的(加工前の金属板1に対して鋭角をなす直線と、加工前の金属板1に対して垂直をなす直線との折れ線)に移動させるカム機構50は、曲げ刃20が設けられる第1カム部材51と、金属板1を固定するパンチ10と、第1カム部材51を水平方向に付勢するバネ52と、第1カム部材51を斜め下向に移動するように案内する第2カム部材53と、上下方向に移動可能な第3カム部材54と、第3カム部材54を上方に付勢するバネ55と、第3カム部材54の上下方向の移動をガイドするガイド56とを備えている。なお、バネ55は、ウレタン等の弾性体や、ガスシリンダー等の反力発生装置等に変更することもできる。
【0024】
第1カム部材51は、上下方向及び水平方向に移動可能に構成されている。この第1カム部材51は、金属板1を曲げる曲げ刃20と、第2カム部材53が入り込むカム溝51aと、第3カム部材54を押し込むカム凸部51bとを有している。曲げ刃20の角部には、金属板1に接触する曲率半径rdの曲げ刃肩21が設けられている。また、カム凸部51bには、第2カム部材53の斜面53aに沿ってスライドする斜面51cが形成されている。
【0025】
第2カム部材53は、第1カム部材51の移動を規制するために設けられている。この第2カム部材53は、第1カム部材51の斜面51cに当接して第1カム部材51が斜め下方に移動するのを案内する斜面53aと、曲げ刃20が図中の右方向に行き過ぎるのを規制する左側面53bと、ガイド56と共に第3カム部材54が上下方向に移動するのをガイドする右側面53cとを有している。
【0026】
第3カム部材54は、上下方向に移動可能に構成されている。この第3カム部材54は、第2カム部材53の斜面53aの延長線上に配置されており、当該斜面53aと略同じ傾斜の斜面54aを有している。なお、本実施形態では、第1カム部材51の斜面51cと第2カム部材53の斜面53aとが、上記した工程2、工程3の段階で非常に狭い領域のみで接触し、第1カム部材51及び第2カム部材53の工具に作用する面圧が上昇し、工具が破損する状況を回避するために、第3カム部材54、バネ55及びガイド56の工具を用いて説明したが、上記の工具が破損する状況が回避できる場合は、第3カム部材54、バネ55及びガイド56の工具は用いなくてもよい。
【0027】
[カム機構50の動作]
上記した工程1(成形前)において、第1カム部材51は、バネ52に付勢されて図中の左方向に配置されている。この際、第1カム部材51の斜面51cは、第2カム部材53の斜面53aに当接している。そして、工程2(成形開始)において、曲げ刃20が金属板1に接触するまで、第1カム部材51の斜面51cが第2カム部材53の斜面53aに沿って移動することによって、曲げ刃20が斜め下方に直線的に移動する。そして、工程3(成形途中)において、曲げ刃20が金属板1に当接したまま、第1カム部材51の斜面51cが第2カム部材53の斜面53aに沿って移動する。このとき、第2カム部材53が第1カム部材51のカム溝51aに入り込み、曲げ刃20は、第2カム部材53の左側面53bに接触して、図中の右方向への移動が規制される。この曲げ刃20が当該左側面53bに接触するとき、曲げ刃20とパンチ10との間隔が金属板1の板厚と同等程度であることが望ましい。なお、曲げ刃20が左側面53bに接触するときには、第1カム部材51のカム凸部51bは、第2カム部材53の斜面53aを超えて、第3カム部材54の斜面54aに到達している。そして、工程4(成形完了)において、第1カム部材51は、第3カム部材54を押圧しながら垂直下方に移動する。これにより、曲げ刃20が垂直下方に移動して、金属板1をさらに曲げて、曲げ加工が完了する。
【実施例】
【0028】
(成形可否及び板厚減少率評価試験)
次に、上記したカム機構50において、高強度冷延鋼板である金属板の板厚を減少させずに所定の曲率半径で割れやヘアークラック(鋼材の仕上げ面に現れる毛状の微細な割れ)が無く金属板を屈曲させることが出来るか否かを評価する試験を行なった。本試験では、強度(1470MPa,1270MPa)及び板厚(1.4mm,2.0mm)が異なる3種の金属板を準備し、上記カム機構50を用いて金属板の曲げ加工を行なった。試験条件及び試験結果を表2〜表4に示す。表2〜表4では、成形可否の評価として、金属板に割れ(明確に口が開いた割れ)がある場合を×、金属板にヘアークラック(口が開いていない割れ)がある場合を△、金属板に割れ及びヘアークラックが無い場合を○で示している。
【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
強度が1270MPa、板厚が1.4mmの金属板の曲げ加工では、表2に示すように、屈曲部の中央位置を通過する時点で曲げ刃とパンチの最小距離Lが1.4mm〜2.2mmになるように通過させた。表2に示すように、曲げ刃の進入角θ(図1参照)が45°の場合では(曲げ刃肩の曲率半径rd(2.0mm、1.0mm)に関わらず)、最小距離Lが1.4mm〜1.8mmのときに金属板に割れ及びヘアークラックが無く(成形可否:○)、且つ、板厚減少率を4%〜6%に抑えることができた。これに対して、最小距離Lが2.0mm〜2.2mmになると、金属板に割れ若しくはヘアークラックが発生することが分かった。
また、表2に示すように、曲げ刃の進入角θ(図1参照)が55°の場合では、最小距離Lが1.4mm〜1.6mmのときに金属板に割れが無く、且つ、板厚減少率を5%に抑えることができた。
まとめると、強度が1270MPa、板厚が1.4mmの金属板の曲げ加工では、最小距離Lが1.4mm〜1.6mmの場合(最小距離Lを板厚tで割った指標L/tが1.00〜1.20の場合)に、曲率半径1.5mm(通常成形法でのRminは、3.0mm(図12参照))で曲げ加工を行なっても、金属板に割れ及びヘアークラックが無く、且つ、板厚減少率を4%〜6%に抑えることができた。
【0033】
強度が1470MPa、板厚が1.4mmの金属板の曲げ加工でも、表3に示すように、屈曲部の中央位置を通過する時点で曲げ刃20とパンチ10との最小距離Lが1.4mm〜2.2mmになるように通過させた。表3に示すように、最小距離Lが1.4mm〜1.6mmのときに金属板に割れ及びヘアークラックが無く、且つ、板厚減少率を5%〜6%に抑えることができた。これに対して、最小距離Lが1.8mm〜2.2mmになると、金属板に割れ若しくはヘアークラックが発生することが分かった。
まとめると、強度が1470MPa、板厚が1.4mmの金属板の曲げ加工では、最小距離Lが1.4mm〜1.6mmの場合(最小距離Lを板厚tで割った指標L/tが1.00〜1.20の場合)に、曲率半径2.0mm(通常成形法でのRminは、3.5mm(図12参照))で曲げ加工を行なっても、金属板に割れ及びヘアークラックが無く、且つ、板厚減少率を5%〜6%に抑えることができた。
【0034】
強度が1470MPa、板厚が2.0mmの金属板の曲げ加工では、表4に示すように、屈曲部の中央位置を通過する時点で曲げ刃20とパンチ10との最小距離Lが2.0mm〜3.0mmになるように通過させた。表4に示すように、最小距離Lが2.0mm〜2.4mmのときに金属板に割れ及びヘアークラックが無く、且つ、板厚減少率を4%に抑えることができた。これに対して、最小距離Lが2.8mm〜3.0mmになると、金属板に割れ若しくはヘアークラックが発生することが分かった。
まとめると、強度が1470MPa、板厚が2.0mmの金属板の曲げ加工では、最小距離Lが2.0mm〜2.4mmの場合(最小距離Lを板厚tで割った指標L/tが1.00〜1.20の場合)に、曲率半径3.0mm(通常成形法でのRminは、4.5mm(図12参照))で曲げ加工を行なっても、金属板に割れ及びヘアークラックが無く、且つ、板厚減少率を4%に抑えることができた。
【0035】
すなわち、上記した3種の金属板のいずれの場合でも、最小距離Lを板厚tで割った指標L/tが1.00〜1.20の場合に、金属板に割れ及びヘアークラックが無く、且つ、板厚減少率を4%〜6%に抑えることができることが分かった。
【0036】
ここで、図13に示した通常成形法を用いて金属板を曲げた比較例について説明する。強度(1470MPa,1270MPa)及び板厚(1.4mm,2.0mm)が異なる3種の金属板を準備し、通常成形法を用いて当該金属板の曲げ加工を行なった。試験条件及び試験結果を表5に示す。
【0037】
【表5】

【0038】
強度が1270MPa、板厚が1.4mmの金属板の曲げ加工では、表5に示すように、パンチ肩の曲率半径が3.0以上の場合に、金属板に割れやヘアークラックが無く成形できたが、曲率半径が2.5以下の場合には、割れ若しくはヘアークラックが発生した。また、強度が1470MPa、板厚が1.4mmの金属板の曲げ加工では、パンチ肩の曲率半径が3.5以上の場合に、金属板に割れやヘアークラックが無く成形できたが、曲率半径が3.0以下の場合には、割れ若しくはヘアークラックが発生した。また、強度が1470MPa、板厚が2.0mmの金属板の曲げ加工では、パンチ肩の曲率半径が4.5以上の場合に、金属板に割れやヘアークラックが無く成形できたが、曲率半径が4.0以下の場合には、割れ若しくはヘアークラックが発生した。
【0039】
表5に示した比較例と、表2〜表4の最小距離Lを板厚tで割った指標L/tが1.00〜1.20の実施例と、を比較すると、実施例では、小さな曲率半径で割れ及びヘアークラック無く曲げ加工を行なうことができることが分かった。
【0040】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、曲げ刃20がウェブ側(パッド12により固定される側)から徐々に金属板1に近づくように直線的に移動した後、加工前の金属板1に対して垂直をなすように移動する(斜め下方⇒垂直下方)例について説明したが、この第2実施形態では、金属板1に接触する前において、曲げ刃20が加工前の金属板1に対して垂直をなすように移動する。
【0041】
すなわち、この第2実施形態に係る金属板の曲げ加工方法では、図4に示すように、
1)曲げ刃20は、金属板1に接触する前に、加工前の金属板1に対して垂直をなすように下方に移動し、
2)そして、ウェブ側(パッド12により固定される側)から徐々に金属板1に近づくように曲げ刃20が直線的に移動する。金属板1に接触した後、屈曲部1aの中央位置を通過するまで、その進行方向を維持したまま、曲げ刃20は直線的に移動し、
3)その後、加工前の金属板1に対して垂直をなすように下方に移動する。
【0042】
そして、本実施形態では、上記2)工程の屈曲部1aの中央位置を通過する前後において、曲げ刃20は、屈曲部1aの中央位置を通過する時点で、曲げ刃20とパンチ10との最小距離Lが、上記式(1)を満たすように移動する。
【0043】
(第3実施形態)
上記第1及び第2実施形態では、曲げ刃20が金属板1の屈曲部1aの中央位置を通過する前から、ウェブ側(パッド12により固定される側)から徐々に金属板1に近づくように移動させたが、この第3実施形態では、屈曲部1aの中央位置に向かって曲げ刃20を垂直下方に移動させている。
【0044】
すなわち、この第3実施形態に係る金属板の曲げ加工方法では、図5に示すように、
1)曲げ刃20は、金属板1に接触する前から加工前の金属板1に対して垂直をなすように下方に移動する。そして、金属板1に接触した後も、同様に加工前の金属板1に対して垂直をなすように移動して、屈曲部1aの中央位置に到達する。
2)そして、屈曲部1aの中央位置に到達した曲げ刃は、ウェブ側(パッド12により固定される側)から徐々に金属板1に近づくように直線的に移動し、
3)その後、加工前の金属板1に対して垂直をなすように再び下方に移動する。
【0045】
上記1)工程の曲げ刃20を屈曲部1aの中央位置に向かって垂直下方に移動させる場合、本実施形態では、屈曲部1aの中央位置を通過する時点で、曲げ刃20とパンチ10との最小距離Lが、上記式(1)を満たすように移動する。
【0046】
(第4実施形態)
上記第1〜第3実施形態では、曲げ刃20を直線(折れ線)的に移動させる例について説明したが、この第4実施形態では、曲げ刃20をパンチ10のパンチ肩11に沿って曲線的に移動させる。
【0047】
すなわち、この第4実施形態に係る金属板の曲げ加工方法では、図6に示すように、曲げ刃20は、金属板1を曲げ始めて(屈曲部1aの始点)から曲げ終わる(屈曲部1aの終点)まで、パンチ肩11に沿って曲線的に移動し、曲げ刃20が屈曲部1aの中央位置を通過する時点では、曲げ刃20とパンチ10との最小距離Lが、上記式(1)を満たすように移動する。すなわち、本実施形態では、パンチ10のパンチ肩11の曲率半径がrp、金属板1の板厚がtの場合、曲げ刃20は、屈曲部1aを形成する際に、パンチ肩11の円弧の中心Cを中心として、曲率半径が(rp+t)から(rp+1.2t)の範囲で円弧状に移動することになる。
【0048】
(第5実施形態)
上記した第1実施形態では、カム機構50を用いて曲げ刃20を2方向(加工前の金属板1に対して鋭角をなす方向、加工前の金属板1に対して垂直をなす方向)に移動させる例について説明したが、曲げ刃20が1方向のみしか移動しない場合であっても、曲げ刃20を上記式(1)を満たすように移動させることができる。
【0049】
すなわち、第5実施形態では、図7に示すように、曲げ刃20が一方向(ここでは、鉛直下方)にのみ移動する構成において、以下の工程に沿って、金属板の曲げ加工を行う。
工程1:金属板1を準備して、パンチ10に金属板1を固定する。この際、金属板1を、曲げ刃20の進行方向(鉛直下方)に対して鋭角(図7中のθが鋭角)になるように固定する。そして、本実施形態では、屈曲部1aの中央位置を通過する時点で、曲げ刃20とパンチ10との最小距離Lが、上記式(1)を満たすように曲げ刃20を移動させて、金属板1を曲げる。
工程2:工程1において曲げられた金属板1を、上記したパンチ10とは異なるパンチ10Aに固定する。この際、金属板1のウェブ1bが水平方向(曲げ刃20の進行方向に対して垂直)になるように、金属板1を固定する。そして、曲げ刃20を鉛直下方に移動させて、金属板1をさらに曲げる。
【0050】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態では、曲げ刃20が金属板1に加える荷重Pを制御することによって、曲げ刃20が通過する位置が上記式(1)を満たすようにして、金属板1の曲げ加工を行なう。
【0051】
すなわち、第6実施形態では、図8に示すように、曲げ刃20は、曲げ加工前の金属板1に対して垂直及び平行に移動可能であって、水平方向に対して所定の荷重Pで付勢されている。そして、本実施形態では、曲げ刃20は、金属板1の屈曲部1aの中央位置を通過する時点で、下記式(2)を満たす荷重Pで金属板1に付勢される。
0.16・TS・t≦P≦0.18・TS・t・・・(2)
ただし、TSを金属板の材料強度[MPa]とする。
【0052】
[曲げ加工機60の構成]
ここで、図8を参照して、上記した曲げ加工を行なうための機構について説明する。すなわち、金属板1の屈曲部1aの中央位置を通過する時点で、上記式(2)を満たす荷重Pで曲げ刃20を金属板1に付勢する曲げ加工機60は、曲げ加工前の金属板1に対して垂直方向に移動可能な支持台61と、支持台61に水平方向に移動可能に取り付けられる曲げ刃20と、曲げ刃20を金属板1側に付勢するバネ62と、金属板1を固定するパンチ10とを備えている。なお、バネ62は、ウレタン等の弾性体や、ガスシリンダー等の反力発生装置等に変更することもできる。
【0053】
[曲げ加工機60の動作]
(工程1)パンチ10に、金属板1が水平方向に延在するように固定しておき、曲げ刃20が取り付けられる支持台61を、加工前の金属板1に対して垂直下方に移動させて、金属板1と曲げ刃20とを接触させる。
(工程2)金属板1と曲げ刃20とを接触させたまま、支持台61を垂直下方に移動させることにより、金属板1を曲げる。この際、曲げ刃20には、金属板1からの反力が加わり、曲げ刃20は、バネ62を圧縮する方向(図中右方向)に移動する。これにより、曲げ刃20は、屈曲部1aの中央位置を通過する時点で、金属板1からの反力と、ばね62により曲げ刃20に加わる荷重Pとがつり合う位置を通過する。本実施形態では、曲げ刃20に加わる荷重Pが、上記式(2)を満たすことによって、曲げ刃20は、屈曲部1aの中央位置を通過する時点で、曲げ刃20とパンチ10との最小距離Lが、上記式(1)を満たすように移動する。その後、曲げ刃20が垂直下方に移動するようになり、金属板1の曲げ加工が完了する。
【0054】
(適正圧力評価試験)
次に、上記した曲げ加工機60において、曲げ刃20が上記式(1)を満たす位置を通過するために必要な荷重Pについて評価した試験について説明する。本試験では、強度が1470MPa、板厚2.0mmの金属板と、強度が1270MPa、板厚1.4mmの金属板とを準備して、上記曲げ加工機60を用いて金属板の曲げ加工を行なった。試験条件及び試験結果を表6に示す。
【0055】
【表6】

【0056】
強度が1470MPa、板厚が2.0mmの金属板の折り曲げ加工では、表6に示すように、曲げ刃20に加わる荷重Pが550[N/mm]のときに、最小距離Lを板厚tで割った指標L/tが0.84となっており、金属板を圧縮し過ぎていることが分かった。これとは反対に、荷重Pが450[N/mm]のときに、最小距離Lを板厚tで割った指標L/tが1.20以上になってしまった(荷重Pに比べて金属板からの反力が大きくて、曲げ刃がパンチから大きく離れてしまった)。
一方、荷重Pが500[N/mm]のときに、最小距離Lを板厚tで割った指標L/tが1.04となり、曲げ刃が上記式(1)を満たす範囲を通過していることが分かった。
【0057】
強度が1270MPa、板厚が1.4mmの金属板の曲げ加工では、曲げ刃20に加わる荷重Pが350[N/mm]のときに、最小距離Lを板厚tで割った指標L/tが0.91となっており、金属板を圧縮し過ぎていることが分かった。これとは反対に、荷重Pが250[N/mm]のときに、最小距離Lを板厚tで割った指標L/tが1.20以上になってしまった(荷重Pに比べて金属板からの反力が大きくて、曲げ刃がパンチから大きく離れてしまった)。
一方、荷重Pが300[N/mm]のときに、最小距離Lを板厚tで割った指標L/tが1.13となり、曲げ刃が上記式(1)を満たす範囲を通過していることが分かった。
【0058】
まとめると、上記した2種の金属板のいずれの場合でも、荷重Pを金属板の強度TSと板厚tとの積で割った指標P/(TS・t)が0.16〜0.18の範囲であれば、曲げ刃が上記式(1)を満たす範囲を通過していることが確認できた。
【0059】
[本実施形態の金属板の加工方法の効果]
上記した実施形態に係る金属板の加工方法を用いれば、以下のような効果を得ることができる。
【0060】
上記した第1〜第6実施形態では、曲げ刃20が屈曲部1aの中央位置を通過する時点で、最小距離Lが式(1)を満たすように移動することによって、屈曲部1aをパンチ肩11に沿って成形することができる。その結果、金属板1の屈曲部1aにおける板厚を小さくすることなく、当該屈曲部1aの最小曲げ半径を小さくすることができる。このように板厚減少率を抑えることができれば、成形品としての部材性能(強度、剛性)が劣化するのを防止できると共に、屈曲部1aに大きな面圧を必要とする従来技術(特許文献1及び2参照)と異なり、工具寿命が短くなったり工具保守回数が増加したりするなどの問題を解消できる。
【0061】
また、上記した第1〜第3実施形態では、曲げ刃20の移動軌跡が直線(折れ線)のみで構成されることによって、カム機構などの簡単な機構を利用することができる。すなわち、曲げ刃20を移動させる設備が煩雑になるのを防止できると共に、安価に構成することができる。
【0062】
また、上記した第6実施形態では、曲げ刃20の曲げ加工前の金属板1に対して平行な方向への荷重Pを、屈曲部1aの中央位置を通過する時点で、式(2)を満たすように調整することによって、金属板1の曲げ工程において、金属板1の反力に抗して所定の荷重Pが屈曲部1aに加わるので、曲げ刃20が式(1)を満たすように移動する。
【0063】
また、上記した実施例では、強度1270MPa、板厚1.4mmの金属板において、通常成形法での最小曲率半径Rminが3.0mmであったものを、1.5mmにすることができ、且つ、板厚の減少率を10%以下にすることができた。また、強度1470MPa、板厚1.4mmの金属板において、通常成形法での最小曲率半径Rminが3.5mmであったものを、2.0mmにすることができ、且つ、板厚の減少率を10%以下にすることができた。また、強度1470MPa、板厚2.0mmの金属板において、通常成形法での最小曲率半径Rminが4.5mmであったものを、3.0mmにすることができ、且つ、板厚の減少率を10%以下にすることができた。つまり、本実施例では、Rmin/tを約1.0改善することによって、低強度鋼板用の部品形状(金型)のまま高強度鋼板の成形が可能になると共に、板厚減少率を10%以下にすることによって、強度や剛性など部材性能の劣化、及び、工具寿命の劣化や工具保守回数の増加を防止することが可能となる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態及び実施例に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態及び実施例の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0065】
例えば、上記実施形態では、金属板をL字状(略直角)に屈曲させる例について説明したが、本発明はこれに限らず、金属板の曲げ角度は略直角に限定されない。なお、金属板の曲げ角度が略直角以外の場合における屈曲部の中央位置は、図2(b)に示すとおりである。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明を利用すれば、金属板の屈曲部における板厚を小さくすることなく、当該屈曲部の最小曲げ半径を小さくすることが可能な金属板の曲げ加工方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 金属板
1a 屈曲部
10、10A パンチ(曲げ内工具)
11 パンチ肩
12 パッド
20 曲げ刃(曲げ外工具)
21 曲げ刃肩
50 カム機構
51 第1カム部材
52 バネ
53 第2カム部材
54 第3カム部材
55 バネ
56 ガイド
60 曲げ加工機
61 水平台
62 バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ内工具と曲げ外工具とで金属板の曲げ加工を行なう金属板の曲げ加工方法であって、
前記曲げ外工具が前記金属板に当接しながら移動することによって前記金属板を曲げて屈曲部を成形する際に、前記曲げ外工具は、前記屈曲部の中央位置を通過する時点で、前記曲げ内工具と前記曲げ外工具との最小距離Lが、式(1)を満たすように移動することを特徴とする、金属板の曲げ加工方法。
1.0≦L/t≦1.2・・・(1)
ただし、tを金属板の板厚[mm]とする。
【請求項2】
前記曲げ外工具は、前記屈曲部を成形する際に、直線的に移動することを特徴とする、請求項1に記載の金属板の曲げ加工方法。
【請求項3】
前記曲げ外工具は、前記屈曲部の中央位置を通過する時点で、式(2)を満たす荷重Pで前記金属板側に付勢されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の金属板の曲げ加工方法。
0.16・TS・t≦P≦0.18・TS・t・・・(2)
ただし、TSを金属板の材料強度[MPa]とする。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図10】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate