金属板の曲げ加工時の限界条件の決定方法及びプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法
【課題】精度に優れたプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法を提供する。
【解決手段】金属板3に張力を印加した状態で金属板3に先細り形状のパンチ2を押し込んで曲げ加工を実施する際、張力及びパンチ2の先端半径を適宜変更して曲げ加工を行い、金属板3の曲げ部にネッキング、割れまたは破断を発生させない限界条件を、張力とパンチ3の先端半径との関係で予め求めておき、プレス成形金型を用いて別の金属板に曲げ加工部を設けるプレス成形をする際に、曲げ加工部に加わる加工時の張力を予め予測し、加工時の張力に基づき、限界条件を参照して、曲げ加工部におけるネッキング、割れまたは破断の発生の有無を予測するプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法を採用する。
【解決手段】金属板3に張力を印加した状態で金属板3に先細り形状のパンチ2を押し込んで曲げ加工を実施する際、張力及びパンチ2の先端半径を適宜変更して曲げ加工を行い、金属板3の曲げ部にネッキング、割れまたは破断を発生させない限界条件を、張力とパンチ3の先端半径との関係で予め求めておき、プレス成形金型を用いて別の金属板に曲げ加工部を設けるプレス成形をする際に、曲げ加工部に加わる加工時の張力を予め予測し、加工時の張力に基づき、限界条件を参照して、曲げ加工部におけるネッキング、割れまたは破断の発生の有無を予測するプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法を採用する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の曲げ加工時の限界条件の決定方法及びプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所謂ハイテンと呼ばれる高強度鋼板は、優れた機械的強度を有する反面、曲げ加工等の成形加工において、形状凍結性が低下する傾向にあり、複雑な形状に加工する場合は加工そのものが困難になりつつある。また、軟鋼板や非鉄金属板においても、成形加工について高強度鋼板のように顕著ではないものの、曲げ加工部におけるネッキングや割れが起きる場合がある。
【0003】
従来、金型を用いて金属板を複雑な部品形状にプレス成形する際、プレス成形が可能か否かは、過去のデザインを参考にした経験則により判断していた。また、金属板の曲げ加工時の割れに対する限界条件を見極めるために、非特許文献1に記載のVブロック法を用いた曲げ試験を実施し、最小曲げ半径から限界条件を予測することが行われていた。
【0004】
図7に、Vブロック法を利用した最小曲げ半径の測定方法の一例を示す。一対の傾斜面101a、101aからなる断面V字状の溝部101bを有するダイ101と、先端部102aに先端半径Rを有するパンチ102を用意し、ダイ101の上面101cに試験片としての金属板103を置き、パンチ102を下降させて金属板103をパンチ102とダイ101で挟んで曲げ加工を行い、加工後の曲げ半径を測定する。そして、パンチ101の先端半径Rを適宜変更して曲げ加工を行い、曲げ加工部に割れが生じない最小曲げ半径を求めている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】鉄鋼便覧第4版(CDROM版),第4巻2編,8・2・3 h.,日本鉄鋼協会編
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、Vブロック法によって求めた最小曲げ半径を参考にして金型設計を行い、実際にプレス成形を実施すると、曲げ加工部においてネッキング、割れまたは破断といった不具合が発生する場合があった。このように、Vブロック法による評価と、実際のプレス成形の結果が一致しないため、金型設計を効率良く行うことが困難になっていた。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、精度に優れた金属板の曲げ加工時の限界条件の決定方法及びプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
Vブロック法による評価と、実際のプレス成形の結果とが一致しない点について、本発明者が鋭意検討したところ、実際のプレス成型では曲げ加工部の両側から張力が加わった状態で曲げ加工がされるため、試験片を何ら拘束しないVブロック法に比べて、金属板に負荷が加わった状況でプレス成形されていることが判明した。そこで本発明者らは、Vブロック法において金属板に張力を加えた状態で金属板を曲げ加工することで、曲げ加工時の限界条件を精度よく予測する以下の方法を見出した。
【0009】
[1] 金属板に張力を印加した状態で前記金属板に先細り形状のパンチを押し込んで曲げ加工を実施する際、前記張力及び前記パンチの先端半径を適宜変更して曲げ加工を行い、前記金属板の曲げ部にネッキング、割れまたは破断を発生させない限界条件を、前記張力と前記パンチの先端半径との関係で求めることを特徴とする金属板の曲げ加工時の限界条件の決定方法。
[2] 前記パンチの受けとして、一対の傾斜面に区画された溝部を有するダイを用いて、前記曲げ加工を行って前記限界条件を求めることを特徴とする[1]に記載の金属板の曲げ加工時の限界条件の決定方法。
[3] 金属板に張力を印加した状態で前記金属板に先細り形状のパンチを押し込んで曲げ加工を実施する際、前記張力及び前記パンチの先端半径を適宜変更して曲げ加工を行い、前記金属板の曲げ部にネッキング、割れまたは破断を発生させない限界条件を、前記張力と前記パンチの先端半径との関係で予め求めておき、プレス成形金型を用いて別の金属板に曲げ加工部を設けるプレス成形をする際に、前記曲げ加工部に加わる加工時の張力を予め予測し、前記加工時の張力に基づき、前記限界条件を参照して、前記曲げ加工部におけるネッキング、割れまたは破断の発生の有無を予測することを特徴とするプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法。
[4] 前記パンチの受けとして、一対の傾斜面に区画された溝部を有するダイを用いて、前記曲げ加工を行って前記限界条件を求めることを特徴とする[3]に記載のプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法。
[5] 前記曲げ加工部に加わる加工時の張力の予測を、有限要素法によって求めることを特徴とする[3]または[4]に記載のプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金属板の曲げ加工時の限界条件の決定方法によれば、金属板に印加する張力及びパンチの先端半径を適宜変更して曲げ加工を行い、金属板の曲げ部にネッキング、割れまたは破断を発生させない限界条件を求めるので、実際のプレス成形時の加工条件に近似した条件下で曲げ加工部に不具合が生じない限界条件を求めることができ、精度の高い限界条件を得ることができる。
【0011】
また、本発明のプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法によれば、実際のプレス成形時の加工条件に近似した条件下で求められた限界条件に加えて、実際のプレス成形時の曲げ加工部に加わる加工時の張力を予め予測し、これらを参照して実際の曲げ加工部における不具合の発生を予測するので、プレス成形時の不具合を高い精度で予測できる。
また、実際のプレス成形時の曲げ加工部に加わる加工時の張力を有限要素法によって求めるので、プレス成形時の不具合をより高い精度で予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】図1Aは、本発明の実施形態である金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法に用いられるプレス機の一例を説明する模式図である。
【図1B】図1Bは、本発明の実施形態である金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法に用いられるプレス機の一例を説明する模式図である。
【図2A】図2Aは、本発明の実施形態である金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法に用いられるプレス機の別の例を説明する模式図である。
【図2B】図2Bは、本発明の実施形態である金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法に用いられるプレス機の別の例を説明する模式図である。
【図3】図3は、図1A及び図1Bに示すプレス機によって測定された限界条件を先端Rと張力との関係で示すグラフである。
【図4】図4は、図2A及び図2Bに示すプレス機によって測定された限界条件を先端Rと張力との関係で示すグラフである。
【図5】図5は、プレス成形によって製造する部品の一例を示す斜視図である。
【図6A】図6Aは、図5に示す部品をプレス成形する際の有限要素法による解析結果を示す模式図である。
【図6B】図6Bは、図5に示す部品をプレス成形する際の有限要素法による解析結果を示す模式図である。
【図6C】図6Cは、図5に示す部品をプレス成形する際の有限要素法による解析結果を示す模式図である。
【図6D】図6Dは、図5に示す部品をプレス成形する際の有限要素法による解析結果を示す模式図である。
【図7】図7は、Vブロック法による金属板の曲げ試験方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
本発明の金属板の曲げ加工時の限界条件の決定方法(以下、決定方法という)は、金属板に張力を印加した状態で金属板に先細り形状のパンチを押し込んで曲げ加工を実施する際に、張力及びパンチの先端半径を適宜変更して曲げ加工を行い、金属板の曲げ部に不具合を発生させない限界条件を、張力とパンチの先端半径との関係で求めるというものである。
【0015】
また、プレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法(以下、予測方法という)は、上記決定方法により限界条件を求めた後、プレス成形金型を用いて別の金属板に曲げ加工部を設けるプレス成形をする際の曲げ加工部に加わる加工時の張力を予め予測し、この加工時の張力に基づき、既に得られた限界条件を参照して、曲げ加工部における不具合の発生の有無を予測するというものである。
【0016】
以下、本発明の決定方法及び予測方法を順次説明する。
【0017】
「決定方法」
図1Aに、本発明の決定方法において使用するプレス機を示す。図1Aに示すプレス機10は、一対の傾斜面1a、1aからなる断面V字状の溝部1bを有するダイ1と、先端部2aに先端半径R1の曲面を有するパンチ2と、金属板3に張力を印加する張力制御部4と、から概略構成されている。
【0018】
ダイ1にはその上面1cに一対の傾斜面1a、1aで区画された溝部1bが設けられており、ダイ1は金属板3の下方に設置されている。
また、パンチ2は、先端部の形状が溝部1bの形状に対応するようにくさび型の形状をしており、先端部2aに先端半径R1の曲面が設けられている。先端半径R1の大きさは、例えば0.2〜2.0mmの範囲である。また、パンチ幅とダイ肩幅とは一致させることが好ましい。なお、ダイ肩幅は一対の傾斜面1a、1aと上面1cの各交点間の幅寸法である。
【0019】
また、ダイ1の両側に、金属板3に張力を印加する張力制御部4がダイ1に離間して備えられている。張力制御部4は、下部治具4aと上部治具4bとから構成されており、上部治具4bによって金属板3を押圧することで、下部治具4aと上部治具4bの間において金属板3を挟んで保持している。そして、金属板3に曲げ加工が施される際に、下部治具4a及び上部治具4bに対して金属板3が摺動するように上部治具4bの押圧力が調整されている。また、下部治具4aのうち金属板3が載置される上面4cは、ダイ1の上面1cより常に高い位置にある。また、上面4cのダイ1寄りのコーナー部は、曲面コーナー4dとされており、曲げ加工時に金属板3が容易に摺動できるようになっている。
【0020】
金属板3は、鋼板やステンレス鋼板でもよく、また、銅やニッケル等の非鉄金属板でもよい。鋼板としては、軟鋼板、高強度鋼板のいずれでもよい。
【0021】
次に、本発明の決定方法について説明する。
図1Aに示すようにプレス機10に金属板3をセットする。次いで、図1Bに示すように、ポンチ2を溝部1bに向けて押し込んで金属板3の曲げ加工を行う。ポンチ2を押し込むことにより、金属板3が溝部1bに押し込まれ、金属板3に曲げ部3aが設けられる。このとき張力制御部4は、金属板3に一定の張力が加わるように金属板3を摺動自在に保持しており、金属板3に常に一定の張力が印加された状態で曲げ加工が施される。張力制御部4によって金属板3が一定の張力下で摺動することで、曲げ加工時に金属板3が破断するおそれが少なくなる。
【0022】
ダイ1とパンチ2の間に挟まれた金属板3は、図1Bに示すように、曲げ加工部3aにおいて上面3bがポンチ2の先端部2aに接する。また、曲げ加工部3aの左右両側において下面3cがダイ1の傾斜面1aに接し、更にその外側において上面3bがパンチ2に接し、更にその外側において張力制御部4に保持された状態になっている。このようにして、ダイ1とパンチ2の間で金属板3が撓んだ状態になっている。
【0023】
曲げ加工終了後、金属板3の曲げ部3aを観察して、ネッキング、割れまたは破断といった不具合の有無を観察する。ここでネッキングとは、曲げ部3aにおいて金属板3の板厚が部分的に薄くなる現象をいう。また、割れとは、曲げ部3aの外面(図1Bでは下面3c)においてクラックが生じる現象をいう。更に、破断とは、金属板3が曲げ部3a近傍において完全に2つに割れる現象をいう。
【0024】
不具合の有無の確認後、張力制御部4における上部治具4bの押圧力を変更するか、先端部2aの先端半径R1が異なるポンチ2を用意して、次の金属板3の曲げ加工を行い、不具合の有無の確認をする。
この作業を更に繰り返すことによって、張力及び先端半径R1毎に、曲げ部3aの不具合の発生の有無を確認する。
【0025】
曲げ部3aの不具合の発生状況を調査した結果の一例を図3に示す。
図3は、幅30mm、長さ200mm、厚み1.4mmのSPC980鋼板を金属板として使用し、パンチ3の先端半径R1を1.2、0.5、1.0、1.5、2.0mmとし、ダイ肩幅を12mmとし、金属板3に印加する張力を0、5、15、20kNとする条件で曲げ加工を行った結果である。図3は、横軸を張力とし、縦軸をパンチの先端半径R1とする散布図であり、張力及び先端半径R1毎の不具合の発生状況を○、□、△、×で示している。ここで、○は良好であり、□はネッキングが発生したものであり、△は金属板3の下面3cに割れが発生したものであり、×は破断したものである。
【0026】
また、図3には、張力及び先端半径R1毎の不具合の発生状況に基づき、ネッキング限界線、割れ限界線、破断限界線をそれぞれ示している。図3に示すように、ネッキング限界線より上側の領域が、曲げ部3aに不具合を生じさせない限界条件になる。
【0027】
図3に示す限界条件は、ダイ1を用いた曲げ加工における金属板3の曲げ部3aの限界条件であるが、以下に説明するように、ダイ1を用いない曲げ加工における金属板3の曲げ部3aの限界条件を決定することもできる。
【0028】
すなわち、図2A及び図2Bに示すように、ダイ1を省略した以外は、図1A及び図1Bと同様のプレス装置20を用意する。すなわち、図2A及び図2Bに示すプレス装置20は、ポンチ2と張力制御部4とから構成されている。そして、このプレス装置20を用いて金属板3の曲げ加工を行う。
【0029】
図2Aに示すようにプレス機20に金属板3をセットし、次いで、図2Bに示すように、ポンチ2を金属板3に向けて押し込んで金属板3の曲げ加工を行う。ポンチ2を押し込むことにより、金属板3が変形して曲げ部3aが設けられる。このとき、張力制御部4が金属板3を一定の張力が加わるように摺動自在に保持しており、金属板3に常に一定の張力が印加された状態で曲げ加工が施される。張力制御部4によって金属板3が一定の張力下で摺動することで、曲げ加工時に金属板3が破断するおそれが少なくなる。
【0030】
パンチ2に押し込まれた金属板3は、図2Bに示すように、曲げ加工部3aにおいて上面3bがポンチ2の先端部2aに接し、曲げ加工部3aの左右両側が張力制御部4によって引っ張られた状態になる。図2Bに示す例では、図1Bの場合に比べて、金属板3の下面3cがダイ1に拘束されずに撓みが少なくなるため、金属板3の歪みが曲げ部3aに集中した形になる。
【0031】
図2A及び図2Bに示すプレス装置20によって金属板3の曲げ部3aの不具合の発生状況の調査結果の一例を図4に示す。
図4は、図3と同様に、幅30mm、長さ200mm、厚み1.4mmのSPC980鋼板を金属板として使用し、パンチ2の先端半径R1を1.2、0.5、1.0、1.5、2.0mmとし、金属板3に印加する張力を0、5、15、20kNとする条件で曲げ加工を行った結果である。
また、図4には、図3と同様に、張力及び先端半径R1毎の不具合の発生状況に基づき、ネッキング限界線、割れ限界線、破断限界線をそれぞれ示している。図4に示すように、ネッキング限界線より上側の領域が、曲げ部3aに不具合を生じさせない限界条件になる。
【0032】
図4に示す限界条件は、図3の限界条件と同様に張力の増加に従って不具合が生じやすくなるが、図4の限界条件は図3の限界条件に比べて、先端半径R1が約1.5mm以下の範囲において、限界条件が高張力寄りに広がっている。一方、図4の限界条件は図3の限界条件に比べて、先端半径R1が約1.5mmより大きい範囲において、限界条件が低張力寄りに狭まっている。
【0033】
図3に示す限界条件は、ダイ1とパンチ2を有するプレス装置10によって得られた条件である。従って、図3に示す限界条件は、金属板3に張力が印加された箇所に対して、プレス成形用の上型と下型の両方が接した状態での、不具合の発生の予測に用いることが好適な限界条件である。
【0034】
一方、図4に示す限界条件は、パンチのみを有するプレス装置によって得られた条件である。従って、図4に示す限界条件は、金属板3に張力が印加された箇所に対して、プレス成形用の上型または下型の一方のみが接した状態での、不具合の発生の予測に用いることが好適な限界条件である。
【0035】
「予測方法」
次に、上記の限界条件を利用した不具合の予測方法について、図5〜図6を参照して説明する。
【0036】
先ず、プレス成形金型を用いて金属板に曲げ加工部を設ける際に、曲げ加工部に加わる加工時の張力を予め予測する。
具体的には、図5に示す部品31のプレス成形を想定する。図5に示す部品31は、自動車用の部品であって、図5の仮想面Aにおける断面が略ハット形状になるように薄鋼板をプレス成形して製造される部品である。
【0037】
図6Aは、部品31の製造に用いられるプレス成型用の金型と、薄鋼板とを示す断面図であり、図5に示す仮想面Aに対応する断面図である。
図6Aに示すように、プレス成形用の金型32は、下型32aと、上型32bと、押さえ金型32cとから構成されている。上型32bには貫通部32b1が設けられ、貫通部32b1内に押さえ金型32cが進退自在に設置されている。また、下型32aには台部32a1及び台部32a1から突出する凸部32a2が設けられており、凸部32a2が上型32bの貫通部32b1に挿入可能とされている。
図6Aでは、下型32aと、上型32b及び押さえ金型32cとの間に、薄鋼板33を挿入した状態を示している。
また、図6Aに示す金型32においては、下型32aの谷部32a3と、上型32bの稜部32b2とによって加工される箇所が、部品31のうち最も高い張力が加わる箇所と予測されている。なお、上型32bの稜部32b2は先端半径R2の曲面になっている。
【0038】
そこで、図6Aに示す金型を用いた場合の、薄鋼板33の当該箇所に印加される張力を、有限要素法によって求める。
【0039】
有限要素法の前提条件となる成型金型32の動作は、図6B〜図6Dに示すとおりである。まず、図6Bに示すように、上型32b及び押さえ金型32cに対して下型32aを相対的に上昇させて、下型32aの凸部32a2と押さえ金型32cによって薄鋼板33を挟んで保持する。この段階では、薄鋼板33に張力は印加されていない。
【0040】
次に、図6Cに示すように、上型32bに対して、押さえ金型32c及び下型32aを相対的に上昇させて、下型32aの凸部32a2を貫通部32b1に挿入させ、凸部32a2、貫通部32b1及び押さえ金型32cによって薄鋼板33をU曲げ加工する。
このとき、薄鋼板33は、凸部32a2と貫通部32b1と押さえ金型32cとに拘束される。また薄鋼板33は、下型32aの台部32a1と上型32bに挟まれて拘束される。これにより、薄鋼板33は、図6Cの矢印D及びEに示す方向に引っ張られ、張力が印加された状態になる。
【0041】
更に図6Dに示すように、上型32bに対して、押さえ金型32c及び下型32aを相対的に更に上昇させる。これにより、下型32aの谷部32a3と、上型32bの稜部32b2とによって薄鋼板33を加工して曲げ加工部33aを形成する。
【0042】
以上の成形金型32の動作を前提として、図6Cに示す段階において薄鋼板33に印加される加工時の張力を、有限要素法によって求める。
【0043】
そして、有限要素法によって算出された加工時の張力と、上型32bの稜部32b2の先端半径R2との関係が、例えば図3に示す限界条件の範囲内に含まれるかどうかを検討する。これにより、実際に製品30をプレス成形によって製造する際に、曲げ加工部33aにおいてネッキング、割れ、若しくは破断といった不具合を発生させるかどうかを高い精度で予測可能になる。
【0044】
本実施形態の金属板の曲げ加工時の限界条件の決定方法によれば、金属板3に印加する張力及びパンチの先端半径R1を適宜変更して曲げ加工を行い、金属板3の曲げ部3aにネッキング、割れまたは破断を発生させない限界条件を求めるので、実際のプレス成形時の加工条件に近似した条件下で曲げ部に不具合が生じない限界条件を求めることができ、精度の高い限界条件を得ることができる。
【0045】
また、本実施形態のプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法によれば、実際のプレス成形時の加工条件に近似した条件下で求められた限界条件に加えて、実際のプレス成形時の曲げ加工部33aに加わる加工時の張力を予め予測し、これらを参照して実際の曲げ加工部33aにおける不具合の発生を予測するので、プレス成形時の不具合を高い精度で予測できる。
また、実際のプレス成形時の曲げ加工部33aに加わる加工時の張力を有限要素法によって求めるので、プレス成形時の不具合をより高い精度で予測できる。
【符号の説明】
【0046】
1…ダイ、1a…傾斜面、1b…溝部、2…パンチ、3…金属板、3a…金属板の曲げ部、32…金型(プレス成形金型)、33…薄鋼板(別の金属板)、33a…曲げ加工部、R1…パンチの先端半径。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の曲げ加工時の限界条件の決定方法及びプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所謂ハイテンと呼ばれる高強度鋼板は、優れた機械的強度を有する反面、曲げ加工等の成形加工において、形状凍結性が低下する傾向にあり、複雑な形状に加工する場合は加工そのものが困難になりつつある。また、軟鋼板や非鉄金属板においても、成形加工について高強度鋼板のように顕著ではないものの、曲げ加工部におけるネッキングや割れが起きる場合がある。
【0003】
従来、金型を用いて金属板を複雑な部品形状にプレス成形する際、プレス成形が可能か否かは、過去のデザインを参考にした経験則により判断していた。また、金属板の曲げ加工時の割れに対する限界条件を見極めるために、非特許文献1に記載のVブロック法を用いた曲げ試験を実施し、最小曲げ半径から限界条件を予測することが行われていた。
【0004】
図7に、Vブロック法を利用した最小曲げ半径の測定方法の一例を示す。一対の傾斜面101a、101aからなる断面V字状の溝部101bを有するダイ101と、先端部102aに先端半径Rを有するパンチ102を用意し、ダイ101の上面101cに試験片としての金属板103を置き、パンチ102を下降させて金属板103をパンチ102とダイ101で挟んで曲げ加工を行い、加工後の曲げ半径を測定する。そして、パンチ101の先端半径Rを適宜変更して曲げ加工を行い、曲げ加工部に割れが生じない最小曲げ半径を求めている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】鉄鋼便覧第4版(CDROM版),第4巻2編,8・2・3 h.,日本鉄鋼協会編
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、Vブロック法によって求めた最小曲げ半径を参考にして金型設計を行い、実際にプレス成形を実施すると、曲げ加工部においてネッキング、割れまたは破断といった不具合が発生する場合があった。このように、Vブロック法による評価と、実際のプレス成形の結果が一致しないため、金型設計を効率良く行うことが困難になっていた。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、精度に優れた金属板の曲げ加工時の限界条件の決定方法及びプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
Vブロック法による評価と、実際のプレス成形の結果とが一致しない点について、本発明者が鋭意検討したところ、実際のプレス成型では曲げ加工部の両側から張力が加わった状態で曲げ加工がされるため、試験片を何ら拘束しないVブロック法に比べて、金属板に負荷が加わった状況でプレス成形されていることが判明した。そこで本発明者らは、Vブロック法において金属板に張力を加えた状態で金属板を曲げ加工することで、曲げ加工時の限界条件を精度よく予測する以下の方法を見出した。
【0009】
[1] 金属板に張力を印加した状態で前記金属板に先細り形状のパンチを押し込んで曲げ加工を実施する際、前記張力及び前記パンチの先端半径を適宜変更して曲げ加工を行い、前記金属板の曲げ部にネッキング、割れまたは破断を発生させない限界条件を、前記張力と前記パンチの先端半径との関係で求めることを特徴とする金属板の曲げ加工時の限界条件の決定方法。
[2] 前記パンチの受けとして、一対の傾斜面に区画された溝部を有するダイを用いて、前記曲げ加工を行って前記限界条件を求めることを特徴とする[1]に記載の金属板の曲げ加工時の限界条件の決定方法。
[3] 金属板に張力を印加した状態で前記金属板に先細り形状のパンチを押し込んで曲げ加工を実施する際、前記張力及び前記パンチの先端半径を適宜変更して曲げ加工を行い、前記金属板の曲げ部にネッキング、割れまたは破断を発生させない限界条件を、前記張力と前記パンチの先端半径との関係で予め求めておき、プレス成形金型を用いて別の金属板に曲げ加工部を設けるプレス成形をする際に、前記曲げ加工部に加わる加工時の張力を予め予測し、前記加工時の張力に基づき、前記限界条件を参照して、前記曲げ加工部におけるネッキング、割れまたは破断の発生の有無を予測することを特徴とするプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法。
[4] 前記パンチの受けとして、一対の傾斜面に区画された溝部を有するダイを用いて、前記曲げ加工を行って前記限界条件を求めることを特徴とする[3]に記載のプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法。
[5] 前記曲げ加工部に加わる加工時の張力の予測を、有限要素法によって求めることを特徴とする[3]または[4]に記載のプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金属板の曲げ加工時の限界条件の決定方法によれば、金属板に印加する張力及びパンチの先端半径を適宜変更して曲げ加工を行い、金属板の曲げ部にネッキング、割れまたは破断を発生させない限界条件を求めるので、実際のプレス成形時の加工条件に近似した条件下で曲げ加工部に不具合が生じない限界条件を求めることができ、精度の高い限界条件を得ることができる。
【0011】
また、本発明のプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法によれば、実際のプレス成形時の加工条件に近似した条件下で求められた限界条件に加えて、実際のプレス成形時の曲げ加工部に加わる加工時の張力を予め予測し、これらを参照して実際の曲げ加工部における不具合の発生を予測するので、プレス成形時の不具合を高い精度で予測できる。
また、実際のプレス成形時の曲げ加工部に加わる加工時の張力を有限要素法によって求めるので、プレス成形時の不具合をより高い精度で予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】図1Aは、本発明の実施形態である金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法に用いられるプレス機の一例を説明する模式図である。
【図1B】図1Bは、本発明の実施形態である金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法に用いられるプレス機の一例を説明する模式図である。
【図2A】図2Aは、本発明の実施形態である金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法に用いられるプレス機の別の例を説明する模式図である。
【図2B】図2Bは、本発明の実施形態である金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法に用いられるプレス機の別の例を説明する模式図である。
【図3】図3は、図1A及び図1Bに示すプレス機によって測定された限界条件を先端Rと張力との関係で示すグラフである。
【図4】図4は、図2A及び図2Bに示すプレス機によって測定された限界条件を先端Rと張力との関係で示すグラフである。
【図5】図5は、プレス成形によって製造する部品の一例を示す斜視図である。
【図6A】図6Aは、図5に示す部品をプレス成形する際の有限要素法による解析結果を示す模式図である。
【図6B】図6Bは、図5に示す部品をプレス成形する際の有限要素法による解析結果を示す模式図である。
【図6C】図6Cは、図5に示す部品をプレス成形する際の有限要素法による解析結果を示す模式図である。
【図6D】図6Dは、図5に示す部品をプレス成形する際の有限要素法による解析結果を示す模式図である。
【図7】図7は、Vブロック法による金属板の曲げ試験方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
本発明の金属板の曲げ加工時の限界条件の決定方法(以下、決定方法という)は、金属板に張力を印加した状態で金属板に先細り形状のパンチを押し込んで曲げ加工を実施する際に、張力及びパンチの先端半径を適宜変更して曲げ加工を行い、金属板の曲げ部に不具合を発生させない限界条件を、張力とパンチの先端半径との関係で求めるというものである。
【0015】
また、プレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法(以下、予測方法という)は、上記決定方法により限界条件を求めた後、プレス成形金型を用いて別の金属板に曲げ加工部を設けるプレス成形をする際の曲げ加工部に加わる加工時の張力を予め予測し、この加工時の張力に基づき、既に得られた限界条件を参照して、曲げ加工部における不具合の発生の有無を予測するというものである。
【0016】
以下、本発明の決定方法及び予測方法を順次説明する。
【0017】
「決定方法」
図1Aに、本発明の決定方法において使用するプレス機を示す。図1Aに示すプレス機10は、一対の傾斜面1a、1aからなる断面V字状の溝部1bを有するダイ1と、先端部2aに先端半径R1の曲面を有するパンチ2と、金属板3に張力を印加する張力制御部4と、から概略構成されている。
【0018】
ダイ1にはその上面1cに一対の傾斜面1a、1aで区画された溝部1bが設けられており、ダイ1は金属板3の下方に設置されている。
また、パンチ2は、先端部の形状が溝部1bの形状に対応するようにくさび型の形状をしており、先端部2aに先端半径R1の曲面が設けられている。先端半径R1の大きさは、例えば0.2〜2.0mmの範囲である。また、パンチ幅とダイ肩幅とは一致させることが好ましい。なお、ダイ肩幅は一対の傾斜面1a、1aと上面1cの各交点間の幅寸法である。
【0019】
また、ダイ1の両側に、金属板3に張力を印加する張力制御部4がダイ1に離間して備えられている。張力制御部4は、下部治具4aと上部治具4bとから構成されており、上部治具4bによって金属板3を押圧することで、下部治具4aと上部治具4bの間において金属板3を挟んで保持している。そして、金属板3に曲げ加工が施される際に、下部治具4a及び上部治具4bに対して金属板3が摺動するように上部治具4bの押圧力が調整されている。また、下部治具4aのうち金属板3が載置される上面4cは、ダイ1の上面1cより常に高い位置にある。また、上面4cのダイ1寄りのコーナー部は、曲面コーナー4dとされており、曲げ加工時に金属板3が容易に摺動できるようになっている。
【0020】
金属板3は、鋼板やステンレス鋼板でもよく、また、銅やニッケル等の非鉄金属板でもよい。鋼板としては、軟鋼板、高強度鋼板のいずれでもよい。
【0021】
次に、本発明の決定方法について説明する。
図1Aに示すようにプレス機10に金属板3をセットする。次いで、図1Bに示すように、ポンチ2を溝部1bに向けて押し込んで金属板3の曲げ加工を行う。ポンチ2を押し込むことにより、金属板3が溝部1bに押し込まれ、金属板3に曲げ部3aが設けられる。このとき張力制御部4は、金属板3に一定の張力が加わるように金属板3を摺動自在に保持しており、金属板3に常に一定の張力が印加された状態で曲げ加工が施される。張力制御部4によって金属板3が一定の張力下で摺動することで、曲げ加工時に金属板3が破断するおそれが少なくなる。
【0022】
ダイ1とパンチ2の間に挟まれた金属板3は、図1Bに示すように、曲げ加工部3aにおいて上面3bがポンチ2の先端部2aに接する。また、曲げ加工部3aの左右両側において下面3cがダイ1の傾斜面1aに接し、更にその外側において上面3bがパンチ2に接し、更にその外側において張力制御部4に保持された状態になっている。このようにして、ダイ1とパンチ2の間で金属板3が撓んだ状態になっている。
【0023】
曲げ加工終了後、金属板3の曲げ部3aを観察して、ネッキング、割れまたは破断といった不具合の有無を観察する。ここでネッキングとは、曲げ部3aにおいて金属板3の板厚が部分的に薄くなる現象をいう。また、割れとは、曲げ部3aの外面(図1Bでは下面3c)においてクラックが生じる現象をいう。更に、破断とは、金属板3が曲げ部3a近傍において完全に2つに割れる現象をいう。
【0024】
不具合の有無の確認後、張力制御部4における上部治具4bの押圧力を変更するか、先端部2aの先端半径R1が異なるポンチ2を用意して、次の金属板3の曲げ加工を行い、不具合の有無の確認をする。
この作業を更に繰り返すことによって、張力及び先端半径R1毎に、曲げ部3aの不具合の発生の有無を確認する。
【0025】
曲げ部3aの不具合の発生状況を調査した結果の一例を図3に示す。
図3は、幅30mm、長さ200mm、厚み1.4mmのSPC980鋼板を金属板として使用し、パンチ3の先端半径R1を1.2、0.5、1.0、1.5、2.0mmとし、ダイ肩幅を12mmとし、金属板3に印加する張力を0、5、15、20kNとする条件で曲げ加工を行った結果である。図3は、横軸を張力とし、縦軸をパンチの先端半径R1とする散布図であり、張力及び先端半径R1毎の不具合の発生状況を○、□、△、×で示している。ここで、○は良好であり、□はネッキングが発生したものであり、△は金属板3の下面3cに割れが発生したものであり、×は破断したものである。
【0026】
また、図3には、張力及び先端半径R1毎の不具合の発生状況に基づき、ネッキング限界線、割れ限界線、破断限界線をそれぞれ示している。図3に示すように、ネッキング限界線より上側の領域が、曲げ部3aに不具合を生じさせない限界条件になる。
【0027】
図3に示す限界条件は、ダイ1を用いた曲げ加工における金属板3の曲げ部3aの限界条件であるが、以下に説明するように、ダイ1を用いない曲げ加工における金属板3の曲げ部3aの限界条件を決定することもできる。
【0028】
すなわち、図2A及び図2Bに示すように、ダイ1を省略した以外は、図1A及び図1Bと同様のプレス装置20を用意する。すなわち、図2A及び図2Bに示すプレス装置20は、ポンチ2と張力制御部4とから構成されている。そして、このプレス装置20を用いて金属板3の曲げ加工を行う。
【0029】
図2Aに示すようにプレス機20に金属板3をセットし、次いで、図2Bに示すように、ポンチ2を金属板3に向けて押し込んで金属板3の曲げ加工を行う。ポンチ2を押し込むことにより、金属板3が変形して曲げ部3aが設けられる。このとき、張力制御部4が金属板3を一定の張力が加わるように摺動自在に保持しており、金属板3に常に一定の張力が印加された状態で曲げ加工が施される。張力制御部4によって金属板3が一定の張力下で摺動することで、曲げ加工時に金属板3が破断するおそれが少なくなる。
【0030】
パンチ2に押し込まれた金属板3は、図2Bに示すように、曲げ加工部3aにおいて上面3bがポンチ2の先端部2aに接し、曲げ加工部3aの左右両側が張力制御部4によって引っ張られた状態になる。図2Bに示す例では、図1Bの場合に比べて、金属板3の下面3cがダイ1に拘束されずに撓みが少なくなるため、金属板3の歪みが曲げ部3aに集中した形になる。
【0031】
図2A及び図2Bに示すプレス装置20によって金属板3の曲げ部3aの不具合の発生状況の調査結果の一例を図4に示す。
図4は、図3と同様に、幅30mm、長さ200mm、厚み1.4mmのSPC980鋼板を金属板として使用し、パンチ2の先端半径R1を1.2、0.5、1.0、1.5、2.0mmとし、金属板3に印加する張力を0、5、15、20kNとする条件で曲げ加工を行った結果である。
また、図4には、図3と同様に、張力及び先端半径R1毎の不具合の発生状況に基づき、ネッキング限界線、割れ限界線、破断限界線をそれぞれ示している。図4に示すように、ネッキング限界線より上側の領域が、曲げ部3aに不具合を生じさせない限界条件になる。
【0032】
図4に示す限界条件は、図3の限界条件と同様に張力の増加に従って不具合が生じやすくなるが、図4の限界条件は図3の限界条件に比べて、先端半径R1が約1.5mm以下の範囲において、限界条件が高張力寄りに広がっている。一方、図4の限界条件は図3の限界条件に比べて、先端半径R1が約1.5mmより大きい範囲において、限界条件が低張力寄りに狭まっている。
【0033】
図3に示す限界条件は、ダイ1とパンチ2を有するプレス装置10によって得られた条件である。従って、図3に示す限界条件は、金属板3に張力が印加された箇所に対して、プレス成形用の上型と下型の両方が接した状態での、不具合の発生の予測に用いることが好適な限界条件である。
【0034】
一方、図4に示す限界条件は、パンチのみを有するプレス装置によって得られた条件である。従って、図4に示す限界条件は、金属板3に張力が印加された箇所に対して、プレス成形用の上型または下型の一方のみが接した状態での、不具合の発生の予測に用いることが好適な限界条件である。
【0035】
「予測方法」
次に、上記の限界条件を利用した不具合の予測方法について、図5〜図6を参照して説明する。
【0036】
先ず、プレス成形金型を用いて金属板に曲げ加工部を設ける際に、曲げ加工部に加わる加工時の張力を予め予測する。
具体的には、図5に示す部品31のプレス成形を想定する。図5に示す部品31は、自動車用の部品であって、図5の仮想面Aにおける断面が略ハット形状になるように薄鋼板をプレス成形して製造される部品である。
【0037】
図6Aは、部品31の製造に用いられるプレス成型用の金型と、薄鋼板とを示す断面図であり、図5に示す仮想面Aに対応する断面図である。
図6Aに示すように、プレス成形用の金型32は、下型32aと、上型32bと、押さえ金型32cとから構成されている。上型32bには貫通部32b1が設けられ、貫通部32b1内に押さえ金型32cが進退自在に設置されている。また、下型32aには台部32a1及び台部32a1から突出する凸部32a2が設けられており、凸部32a2が上型32bの貫通部32b1に挿入可能とされている。
図6Aでは、下型32aと、上型32b及び押さえ金型32cとの間に、薄鋼板33を挿入した状態を示している。
また、図6Aに示す金型32においては、下型32aの谷部32a3と、上型32bの稜部32b2とによって加工される箇所が、部品31のうち最も高い張力が加わる箇所と予測されている。なお、上型32bの稜部32b2は先端半径R2の曲面になっている。
【0038】
そこで、図6Aに示す金型を用いた場合の、薄鋼板33の当該箇所に印加される張力を、有限要素法によって求める。
【0039】
有限要素法の前提条件となる成型金型32の動作は、図6B〜図6Dに示すとおりである。まず、図6Bに示すように、上型32b及び押さえ金型32cに対して下型32aを相対的に上昇させて、下型32aの凸部32a2と押さえ金型32cによって薄鋼板33を挟んで保持する。この段階では、薄鋼板33に張力は印加されていない。
【0040】
次に、図6Cに示すように、上型32bに対して、押さえ金型32c及び下型32aを相対的に上昇させて、下型32aの凸部32a2を貫通部32b1に挿入させ、凸部32a2、貫通部32b1及び押さえ金型32cによって薄鋼板33をU曲げ加工する。
このとき、薄鋼板33は、凸部32a2と貫通部32b1と押さえ金型32cとに拘束される。また薄鋼板33は、下型32aの台部32a1と上型32bに挟まれて拘束される。これにより、薄鋼板33は、図6Cの矢印D及びEに示す方向に引っ張られ、張力が印加された状態になる。
【0041】
更に図6Dに示すように、上型32bに対して、押さえ金型32c及び下型32aを相対的に更に上昇させる。これにより、下型32aの谷部32a3と、上型32bの稜部32b2とによって薄鋼板33を加工して曲げ加工部33aを形成する。
【0042】
以上の成形金型32の動作を前提として、図6Cに示す段階において薄鋼板33に印加される加工時の張力を、有限要素法によって求める。
【0043】
そして、有限要素法によって算出された加工時の張力と、上型32bの稜部32b2の先端半径R2との関係が、例えば図3に示す限界条件の範囲内に含まれるかどうかを検討する。これにより、実際に製品30をプレス成形によって製造する際に、曲げ加工部33aにおいてネッキング、割れ、若しくは破断といった不具合を発生させるかどうかを高い精度で予測可能になる。
【0044】
本実施形態の金属板の曲げ加工時の限界条件の決定方法によれば、金属板3に印加する張力及びパンチの先端半径R1を適宜変更して曲げ加工を行い、金属板3の曲げ部3aにネッキング、割れまたは破断を発生させない限界条件を求めるので、実際のプレス成形時の加工条件に近似した条件下で曲げ部に不具合が生じない限界条件を求めることができ、精度の高い限界条件を得ることができる。
【0045】
また、本実施形態のプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法によれば、実際のプレス成形時の加工条件に近似した条件下で求められた限界条件に加えて、実際のプレス成形時の曲げ加工部33aに加わる加工時の張力を予め予測し、これらを参照して実際の曲げ加工部33aにおける不具合の発生を予測するので、プレス成形時の不具合を高い精度で予測できる。
また、実際のプレス成形時の曲げ加工部33aに加わる加工時の張力を有限要素法によって求めるので、プレス成形時の不具合をより高い精度で予測できる。
【符号の説明】
【0046】
1…ダイ、1a…傾斜面、1b…溝部、2…パンチ、3…金属板、3a…金属板の曲げ部、32…金型(プレス成形金型)、33…薄鋼板(別の金属板)、33a…曲げ加工部、R1…パンチの先端半径。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板に張力を印加した状態で前記金属板に先細り形状のパンチを押し込んで曲げ加工を実施する際、前記張力及び前記パンチの先端半径を適宜変更して曲げ加工を行い、前記金属板の曲げ部にネッキング、割れまたは破断を発生させない限界条件を、前記張力と前記パンチの先端半径との関係で求めることを特徴とする金属板の曲げ加工時の限界条件の決定方法。
【請求項2】
前記パンチの受けとして、一対の傾斜面に区画された溝部を有するダイを用いて、前記曲げ加工を行って前記限界条件を求めることを特徴とする請求項1に記載の金属板の曲げ加工時の限界条件の決定方法。
【請求項3】
金属板に張力を印加した状態で前記金属板に先細り形状のパンチを押し込んで曲げ加工を実施する際、前記張力及び前記パンチの先端半径を適宜変更して曲げ加工を行い、前記金属板の曲げ部にネッキング、割れまたは破断を発生させない限界条件を、前記張力と前記パンチの先端半径との関係で予め求めておき、
プレス成形金型を用いて別の金属板に曲げ加工部を設けるプレス成形をする際に、前記曲げ加工部に加わる加工時の張力を予め予測し、
前記加工時の張力に基づき、前記限界条件を参照して、前記曲げ加工部におけるネッキング、割れまたは破断の発生の有無を予測することを特徴とするプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法。
【請求項4】
前記パンチの受けとして、一対の傾斜面に区画された溝部を有するダイを用いて、前記曲げ加工を行って前記限界条件を求めることを特徴とする請求項3に記載のプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法。
【請求項5】
前記曲げ加工部に加わる加工時の張力の予測を、有限要素法によって求めることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法。
【請求項1】
金属板に張力を印加した状態で前記金属板に先細り形状のパンチを押し込んで曲げ加工を実施する際、前記張力及び前記パンチの先端半径を適宜変更して曲げ加工を行い、前記金属板の曲げ部にネッキング、割れまたは破断を発生させない限界条件を、前記張力と前記パンチの先端半径との関係で求めることを特徴とする金属板の曲げ加工時の限界条件の決定方法。
【請求項2】
前記パンチの受けとして、一対の傾斜面に区画された溝部を有するダイを用いて、前記曲げ加工を行って前記限界条件を求めることを特徴とする請求項1に記載の金属板の曲げ加工時の限界条件の決定方法。
【請求項3】
金属板に張力を印加した状態で前記金属板に先細り形状のパンチを押し込んで曲げ加工を実施する際、前記張力及び前記パンチの先端半径を適宜変更して曲げ加工を行い、前記金属板の曲げ部にネッキング、割れまたは破断を発生させない限界条件を、前記張力と前記パンチの先端半径との関係で予め求めておき、
プレス成形金型を用いて別の金属板に曲げ加工部を設けるプレス成形をする際に、前記曲げ加工部に加わる加工時の張力を予め予測し、
前記加工時の張力に基づき、前記限界条件を参照して、前記曲げ加工部におけるネッキング、割れまたは破断の発生の有無を予測することを特徴とするプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法。
【請求項4】
前記パンチの受けとして、一対の傾斜面に区画された溝部を有するダイを用いて、前記曲げ加工を行って前記限界条件を求めることを特徴とする請求項3に記載のプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法。
【請求項5】
前記曲げ加工部に加わる加工時の張力の予測を、有限要素法によって求めることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のプレス成形時の金属板の曲げ加工部の不具合の予測方法。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7】
【公開番号】特開2011−235301(P2011−235301A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107457(P2010−107457)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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