説明

金属板ラミネート用ポリエステルフィルム

【課題】金属板との熱ラミネート性に優れるほか、金属板と熱ラミネートした後の高次加工性にも優れ、切断部のヘア発生を抑制する成形缶の耐衝撃性を低下させることのない金属板の腐食を防止する熱ラミネートフィルムを提供する。
【解決手段】二軸延伸ポリエステルフィルムにて構成され、前記ポリエステルが、酸成分中に3価以上のカルボン酸成分を0.15〜0.40mol%含む共重合ポリエステルであり、かつフィルムの融点が210〜235℃、極限粘度が0.70〜0.85dl/gであることを特徴とする金属板ラミネート用ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板ラミネート用ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品、飲料等を包装するために金属板を成形加工した金属缶が使用されている。ところが、金属板は加工性に優れる反面、腐食しやすいため、従来は金属板の腐食を防止するために、金属板の表面に熱硬化性樹脂を主成分とする溶剤型塗料を塗布していた。
【0003】
ところが、溶剤型塗料を塗布する方法は、金属板へ溶剤型塗料を塗布した後に塗料中の溶剤を高温下で揮発させる必要があるため、作業面、環境面での安全性に問題があった。そこで、溶剤を用いない金属板の腐食防止法として、例えば金属板に熱可塑性樹脂をラミネートする方法が提案されている。熱可塑性樹脂の中でも特にポリエステル樹脂は、耐熱性、金属板への加工性等に優れていることから、ポリエステル樹脂を原料とした金属板ラミネート用ポリエステルフィルムの開発が検討されている。
【0004】
フィルムを金属板にラミネートする方法としては、例えば熱可塑性樹脂を溶融させて直接金属板上に押出す方法、熱可塑性樹脂フィルムを直接、またはフィルムと金属板との間に接着剤を介して金属板と熱圧着する方法がある。中でも、熱可塑性樹脂フィルムを用いる方法は、樹脂の取り扱いが容易で作業性に優れ、かつ、金属板にラミネートした時の樹脂膜厚の均一性にも優れるため有効な手法とされている。また、フィルムと金属板との間に接着剤を介する方法は、環境面やコストの問題があるために、フィルムを直接熱圧着する方法が有利であり注目されている。
【0005】
熱可塑性樹脂フィルムを被覆した金属缶は、鋼板、アルミ板等の金属板(メッキ等の表面処理を施したものを含む)に熱可塑性樹脂フィルムをラミネートした、ラミネート金属板を成形加工して製造される。
【0006】
このような用途に用いられる熱可塑性樹脂フィルムには、(1)金属板との熱ラミネート性がよいこと、(2)缶成形時の加工性に優れていること、具体的には、缶成形時に金属板と熱ラミネートしたフィルムの剥離、クラック(亀裂)、スリキズが生じず、また熱ラミネートした金属板にピンホール等が発生しないこと、(3)缶成形後の加工性、安定性に優れていること、具体的には、熱ラミネートした金属板を用いて缶成形した後のフィルム面への印刷性に優れ、加熱殺菌処理時に缶の内外面フィルムが脆化しないこと、(4)缶に充填した内容物の保味保香性や長期保存性に優れること等の特性が要求される。
【0007】
このような金属板ラミネート用ポリエステルフィルムとしては、熱ラミネート性を付与し、缶の成形性を向上させる目的で、他の成分を混合したり、共重合する等、いくつかの方法が提案されている。
【0008】
例えば特許文献1〜3に、ポリエチレンテレフタレート(PET)と他の成分とを共重合して得られるポリエステルフィルムが開示されている。
【0009】
また、特許文献4〜6に、融点が210〜245℃のPET99〜60重量%とポリブチレンテレフタレート(PBT)もしくはその共重合体1〜40重量%とを配合したポリエステルフィルムが開示されている。
【0010】
また、特許文献7、8に、缶の成形性や缶に充填した内容物の保味保香性を重視したPETを主成分とするポリエステルフィルムが開示されている。
【0011】
また、特許文献9に、ポリエステルフィルムをラミネートした金属板の端部のフィルムが糸状のヘアとなるヘアリング現象を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公平8−19245号公報
【特許文献2】特公平8−19246号公報
【特許文献3】特許第2528204号公報
【特許文献4】特許第2851468号公報
【特許文献5】特開平5−186612号公報
【特許文献6】特開平5−186613号公報
【特許文献7】特開平10−128935号公報
【特許文献8】特開2000−186161号公報
【特許文献9】特開2000−211083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1〜3は、PETを他成分と共重合化して低融点化、低結晶化することにより熱ラミネート時の金属板とフィルムとの密着性を高めて加工性を改良する方法であるが、缶成形後の熱処理時および加熱殺菌処理時に熱ラミネートフィルム表面が脆化するほか、成形缶の耐衝撃性が低下する問題があった。
【0014】
特許文献4〜6の方法は、融点が210〜245℃のPETとPBTとを配合したフィルムもしくは融点が210〜245℃のPETにPBTと他成分との共重合体を配合したフィルムを用いるため、熱ラミネートしたフィルムの脆化が抑制され、成形缶の耐衝撃性が向上するが、金属板とフィルムとの熱ラミネート性や接着性が不充分となるため、特に絞り成形やしごき成形等の高次加工成形性が充分とならない問題があった。
【0015】
特許文献7,8の方法は、ポリエステルフィルムの結晶性を制御することにより、加工性を付与しようとするものであるが、缶成形時の絞り成形やしごき成形等の高次加工成形性が十分ではなく、特に熱ラミネート性についてはフィルムの融点以上の温度が必要であったり、接着剤を塗布する必要があった。
【0016】
更に最近では、製缶速度の増大、缶サイズの大容量化、缶の薄肉化の要求が進みつつあり、絞り加工やしごき成形時の金属の変形加工比がさらに増大しつつあること、また加工治具との摩擦が更に大きくなることから、特に厳しい変形を伴う缶の胴部において上記フィルムを使用しても、ラミネート金属板の製造条件、最終缶の成形加工条件の微妙な揺らぎによってはフィルムが白化したりミクロクラックが発生したりする問題が新たに生じていた。
【0017】
また、加工比の増大のために、フィルムを融点以上の温度で熱処理し、アモルファスの状態にした後に加工に供するリメルト法の場合、フィルムの変形追随性は高くなるものの、フィルム表面の平滑化に伴って治具との滑り性が低下してフィルムに傷が入ったり、さらには破断する場合があった。
【0018】
また、しごき成型が打ち抜き型の場合には、ラミネート金属板の不要部をトリミングして除去する際、トリミング端面のフィルム部が綺麗に切断できず、剥離したフィルムの残片がヘア状に残ってしまう現象が起きる場合があり、著しい場合はヘア状にちぎれたフィルム屑が工程に飛散し、操業トラブルが発生する場合があった。
【0019】
このようなフィルムのヘアの発生を改良する方法が特許文献9にて提案されている。ここには、金属と接する側のポリエステルを低結晶化して金属との密着性を上げることによりヘアリングを良化させ、さらにリメルト法により成形性を付与するものであるが、高次加工性が不十分であったり、特に低結晶性のポリエステルをリメルト処理することで密着性は上がるもののヘアリング性が低下する問題があった。
【0020】
本発明は、金属板との熱ラミネート性に優れるほか、熱ラミネート後に缶成形を行う際の高次加工性にも優れ、さらに熱ラミネート板の切断部におけるフィルムによるヘア発生および成形缶の耐衝撃性低下を抑制する金属板ラミネート用ポリエステルフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、酸成分中に3価以上のカルボン酸成分を特定量含む共重合ポリエステルをフィルム化した二軸延伸ポリエステルフィルムを用い、このポリエステルフィルムの融点および極限粘度を特定の範囲とすることにより、金属板との熱ラミネート性に優れるほか、熱ラミネート後に缶成形を行う際の高次加工性にも優れ、さらに熱ラミネートした金属板の切断部におけるヘアの発生が抑制され、しかも成形缶の耐衝撃性を低下させることのない金属ラミネート用ポリエステルフィルムが得られることを見出し、本発明に到達した。
【0022】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
二軸延伸ポリエステルフィルムにて構成され、前記ポリエステルが、酸成分中に3価以上のカルボン酸成分を0.15〜0.40mol%含む共重合ポリエステルであり、かつフィルムの融点が210〜235℃、極限粘度が0.70〜0.85dl/gであることを特徴とする金属板ラミネート用ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0023】
本発明の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムは、リメルト処理に適しているため金属板との熱ラミネート性が高く、また適度な極限粘度を有していることから成形時における変形度合いの高い高次加工性に優れている。また、当該金属板ラミネート用ポリエステルフィルムは、3価以上のカルボン酸成分を用いた共重合ポリエステルにより構成されているため適度な硬さと腰を有することから、熱ラミネート板の切断面が鋭利な断面となるためフィルムのヘア発生が抑制される。さらに、当該金属板ラミネート用ポリエステルフィルムは、適度な融点を有することから高温でリメルト処理する必要がないため金属板の強度を低下させることがない。本発明の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムは、上記特徴を有していることから、金属板の腐食を防止するための熱ラミネートフィルムとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムは、二軸延伸ポリエステルフィルムにて構成され、前記ポリエステルが、酸成分中に3価以上のカルボン酸成分を0.15〜0.40mol%含む共重合ポリエステルであり、かつフィルムの融点が210〜235℃、極限粘度が0.70〜0.85dl/gであることが必要である。
【0025】
共重合ポリエステルの合成時に用いる酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸成分、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトン、乳酸等が挙げられる。このほかに、本発明では、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の3価以上のカルボン酸成分が、必須の酸成分である。
【0026】
酸成分であるジカルボン酸成分は、アルコール成分と重縮合して共重合ポリエステルを合成する際の主原料または副原料として用いられる。ジカルボン酸成分の中でもテレフタル酸は、ガラス転移点の低下が少ないため共重合ポリエステルを合成する際の主原料として好ましく用いられる。一方、ジカルボン酸成分の中でもイソフタル酸は、テレフタル酸を主原料とする共重合ポリエステルの融点等を調整するための副原料として好適に用いられる。
【0027】
従来、共重合ポリエステルを合成する際の酸成分には、主として前記テレフタル酸またはイソフタル酸を用いていたが、本発明の酸成分には前記酸成分に加えて副原料として3価以上のカルボン酸成分を用いる。3価以上のカルボン酸成分は、共重合ポリエステルを合成する際の架橋剤として用いるため、3価以上のカルボン酸成分が合成時の共重合物と三次元架橋することによって得られた共重合ポリエステルからなるポリエステルフィルムは、フィルムとしての柔軟性を有するとともに適度な硬さと腰を有するようになる。その結果、前記フィルムと金属板とを熱ラミネートした熱ラミネート板のトリミング時のヘアの抑制効果が充分となるため、フィルムによるヘアの発生が抑制される。3価以上のカルボン酸成分の中でも、トリメリット酸が、共重合ポリエステルを合成する際の重合安定性、フィルムの成形性、熱ラミネートして得られる熱ラミネート板の加工性の点から特に好ましく用いられる。
【0028】
3価以上のカルボン酸成分は、酸成分中に0.15〜0.40mol%含まれることが必要である。酸成分中の3価以上のカルボン酸成分量が0.15mol%未満の場合は、熱ラミネート板を切断して形状を整えるトリミング工程時のヘアの抑制効果が不充分となる。
【0029】
一方、3価以上のカルボン酸成分量が0.40mol%を超えると、合成時に共重合ポリエステルがゲル化しやすくなり、操業トラブルの要因となる。また、ゲル化を抑制して合成する場合は、重合化が充分に進行しないため、極限粘度の高い共重合ポリエステルを得ることができなくなる。
【0030】
共重合ポリエステルの合成時に酸成分と重縮合反応させるために用いるアルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1−4ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールAやビスフェノールSのエチレンオキシド付加体等のポリオールが挙げられる。
【0031】
本発明の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムは、二軸延伸フィルムである。二軸延伸によりフィルムにすべり性が付与され、また延伸後の熱処理の程度により、金属板のラミネート性や缶の成形加工性を制御することができる。延伸方法としては、逐次二軸延伸、同時二軸延伸、それらを組み合わせた延伸方法が用いられる。延伸倍率は、膜厚の均一性や生産性から面倍率で9倍以上とすることが好ましい。
【0032】
本発明の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムの融点は210〜235℃であることが必要であり、220〜230℃の範囲であることが好ましい。
【0033】
融点が210℃未満であると、金属板ラミネート用ポリエステルフィルムの結晶性が低下し、絞りしごき加工する際に治具との滑り性の低下によるフィルム傷や破断等のトラブルが生じやすく、また、成形加工後の加熱処理によりポリエステルフィルムに白化や白斑が発生したり、耐衝撃性が低下したりする。
【0034】
一方、融点が235℃を超えると、金属板ラミネート用ポリエステルフィルムと金属板との熱ラミネート性が低下したり、その後リメルト処理を行う場合、金属板を高温で処理する必要が生じるため、ラミネートする相手がアルミ板の場合、アルミ強度が低下し、成形後の缶に衝撃が加わった際、ピンホールが生じやすくなる。
【0035】
所望の融点の共重合ポリエステルは、公知の原料、公知の合成法を用いて、通常の合成条件(反応温度、時間、圧力等)により、合成時に生じる重合物の分子量制御を適宜行いながら合成することができる。
【0036】
本発明の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムの極限粘度は0.70〜0.85dl/gであることが必要であり、0.70〜0.80dl/gの範囲であることが好ましい。
【0037】
極限粘度が0.70dl/g未満の場合は、成形缶の高次加工時に金属板と熱ラミネートしたポリエステルフィルムが破断したり、スリキズが発生しやすくなるため生産性が極端に悪化する。特に缶の容量が大きくなり、ラミネート金属板から缶に絞りしごき加工してゆく過程でフィルムの変形加工度が大きくなる場合は、変形加工度に追随できなくなり、金属板と熱ラミネートしたポリエステルフィルムにボイドやクラックが発生し外部からのわずかな衝撃によってすらフィルム層の剥離やクラックの成長が助長されることになる。その結果、熱ラミネートしたフィルム面が成形缶の内側に用いられる場合には、ポリエステルフィルムの剥離した熱ラミネート板またはフィルム表面にボイドやクラックの発生した熱ラミネート板が内容物と直接接触してしまうため、内容物の保味保香性が低下したり、フレーバー性に問題が生じる。また、熱ラミネートしたフィルム面が成形缶の外側に用いられる場合には、熱ラミネートしたフィルム表面にボイドやスリキズが生じやすくなるため印刷外観が低下するほか、長期保存時には熱ラミネートしたフィルム表面のボイドやスリキズ箇所から、金属板が腐食してくる問題の恐れが生じる。
【0038】
一方、極限粘度が0.85dl/gを超える場合にはポリエステルフィルムを生産する際、押出機にかかる負荷が大きくなるため生産速度を犠牲にせざるを得なかったり、フィルムの厚み制御も難しくなる等、フィルムの生産性が低下する。また、共重合ポリエステルの重合時間や重合プロセスが長くなるとともに、前記ゲルの生成による操業トラブルや収率の悪化等でコストを押し上げる要因となる。
【0039】
なお、本発明で規定する極限粘度0.70〜0.85dl/gは、本発明の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムを構成する共重合ポリエステルの極限粘度によりほぼ定まる。また、共重合ポリエステルの極限粘度は、概ね分子量を反映していることから、公知の分子量制御技術(合成時に用いる原料の共重合比、触媒量等、また合成時の反応時間、温度、圧力等)を適宜用いることにより所望の極限粘度を有する共重合ポリエステルを得ることが可能となる。
【0040】
本発明の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムのガラス転移温度は60〜85℃であることが好ましく、特に70〜80℃であることが好ましい。
【0041】
ガラス転移温度が60℃未満であると、絞りしごき加工時に熱ラミネートしたフィルム表面が傷つきやすくなるため、成形缶に内容物を充填して保存した場合に、熱ラミネートした金属板の耐食性が低下するほか内容物のフレーバー性が低下する。さらに、打ち抜き型を用いたしごき成形の場合には、成形上部の切断面でフィルムの伸びが生じるため、ヘアが発生し易くなる。一方、ガラス転移温度が85℃を超えると缶成形時の加工追随性が劣る場合がある。
【0042】
また、本発明の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムの厚さは6〜50μmが好ましく、8〜25μmであればさらに好ましい。
【0043】
フィルムの厚さが6μm未満では熱ラミネートした金属板を加工する際にフィルム破れ等が発生しやすくなる。
【0044】
一方、フィルムの厚さが50μmを超えると必要量以上を金属板に熱ラミネートすることになるため、過剰品質で不経済となる。
【0045】
共重合ポリエステルには、必要に応じて添加剤、例えば酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を添加することができる。酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物等を、熱安定剤としては、例えばリン系化合物等を、紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系の化合物等を挙げることができる。
【0046】
特に金属板にラミネートしたフィルムを融点以上の温度で熱処理し、アモルファスの状態にした後に加工に供するリメルト法の場合は、フィルム表面の平滑化に伴って治具との滑り性が低下してフィルムに傷が入ったり、さらには破断する場合があるが、酸化防止剤を添加し、リメルト後の極限粘度の低下を抑制することで、これら傷や破断などのスクラッチ性を改善することができる。
【0047】
本発明の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムの生産性または製缶時の工程通過性をよくするためには、共重合ポリエステルにシリカ、アルミナ、カオリン等の無機滑剤を少量添加してフィルム表面にスリップ性を付与することが望ましい。
【0048】
フィルムにおけるかかる無機滑剤の含有量は0.001〜0.5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.08〜0.3質量%である。リメルト処理によるフィルム平滑化をカバーするためには添加量を増やすのが有効であるが、無機滑剤の添加量が0.5質量%を超える場合、フィルム表面のスリップ性が向上するが、多量に添加しすぎると成形時のクラックの原因となりうる。
【0049】
一方、無機滑剤の添加量が0.001質量%未満の場合、フィルムのスリップ性が悪くなるため缶成形時の加工性が上がらなくなる。
【0050】
また、フィルム化の際、さらにフィルム表面のスリップ性を向上させるために、共重合ポリエステルに対して非相溶の低分子量ポリマーを含有させる方法も有効である。低分子量ポリマーの種類としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド等が挙げられるが、共重合ポリエステルに配合した時の安定性および相溶性の点からポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂が望ましい。共重合ポリエステルに対する低分子量ポリマーの配合量は0.01〜1.0質量%が好ましい。
【0051】
本発明の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムは、鋼板、アルミ板等の金属板に熱ラミネートされるが、ラミネートする金属板としては、クロム酸処理、リン酸処理、電解クロム酸処理、クロメート処理等の化成処理や、ニッケル、スズ、亜鉛、アルミ、砲金、真鍮、その他の各種メッキ処理などを施した金属板を用いることができる。
【0052】
本発明の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムと金属板とをラミネートする方法としては、例えば金属板を予め200〜250℃まで予熱しておき、予熱した金属板とフィルムとを金属板より30℃、更には50℃以上低く温度制御されたロールによって金属板とフィルムとを圧接して熱ラミネートさせた後、室温まで冷却することにより連続的に製造する方法が挙げられる。
【0053】
金属板の予熱方法としては、ヒーターロール伝熱方式、誘導加熱方式、抵抗加熱方式、熱風伝達方式等が挙げられ、特に、設備費及び設備の簡素化を考慮した場合、ヒーターロール伝熱方式を用いることが好ましい。
【0054】
金属板とポリエステルフィルムとを熱ラミネートした後の冷却方法としては、熱ラミネートした金属板を水等の冷媒中に浸漬する方法や熱ラミネート板を冷却ロールと接触させる方法を用いることができる。
【0055】
フィルムを熱ラミネートした金属板は、そのまま加工処理してもよいが、リメルト処理を行うことで、さらに高い加工性を付与することができる。すなわち、得られたフィルムをフィルムの融点よりも2〜30℃高い温度で予熱した金属板と貼り合わせたあと後急冷することにより、金属板と熱ラミネートしたフィルムがアモルファス状態となる。これにより、熱ラミネートしたフィルムと金属板との密着性が高くなるためさらに高い加工性を付与することができる。特に、本発明の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムは、アモルファス状態にした際に大きな効果を発揮する。
【0056】
金属板との熱ラミネート性およびその後の密着性を更に向上させる目的で、共押出法やラミネート加工、あるいはコーティング加工により、金属板と金属板ラミネート用ポリエステルフィルムとの間に接着層を設けることができる。接着層の厚さは、乾燥膜厚で1μm以下であることが好ましい。接着層に用いる樹脂は特に限定されないが、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂や、これらの各種変性樹脂からなる熱硬化性樹脂層であることが好ましい。
【0057】
また、熱ラミネートする金属板の反対面には、金属缶体の外観や印刷性を向上させたり、フィルムの耐熱性や耐レトルト性等を向上させるために1種もしくは2種以上の樹脂層を設けることができる。これらの樹脂層は、共押出法やラミネートあるいはコーティング加工により金属板上に設けることができる。
【0058】
熱ラミネートした金属板は、例えば飲食料を充填して使用に供することができ得るまで充分に加工処理が施された金属容器及びその一部分として用いることができる。そのような金属容器としては、飲食料を充填して使用に供することができ得る形態にまで加工処理が施された金属容器及びその一部分、例えば巻き締め加工が可能な形状に成形された缶蓋も含まれるが、特に、厳しいネックイン加工が施される3ピース缶(3P缶)の缶胴部材や、絞りしごき加工によって製造される2ピース缶(2P缶)の缶胴部材として用いる場合に、本発明のフィルムの優れた加工性が発揮される。
【0059】
本発明のフィルムを用いた金属容器は、その優れた耐レトルト性、フレーバー性、耐食性から、コーヒー、緑茶、紅茶、ウーロン茶、ビール、特に腐食性の高い酸性飲料(果汁飲料)や乳性飲料といった各種加工食品等の内容物を充填する場合に適している。
【0060】
本発明の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムを構成する共重合ポリエステルの合成方法は特に限定されず、例えば、エステル交換法、直接重合法が挙げられる。エステル交換に用いられる触媒としては、Mg、Mn、Zn、Ca、Li、Tiの酸化物や酢酸塩等が挙げられ、直接重合に用いられる触媒としては、Sb、Ti、Ge酸化物、酢酸塩等の化合物が挙げられる。
【0061】
共重合ポリエステル合成時の合成物には、酸成分、アルコール成分、また酸成分、アルコール成分との反応により生じたオリゴマーやアセトアルデヒドまたはテトラヒドロフラン等の副生成物が含まれるため、これらを除去するために減圧もしくは不活性ガス流通下、200℃以上の温度で固相重合することが好ましい。
【0062】
本発明の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムの製造方法を以下に記す。本発明の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムは、酸成分中に3価以上のカルボン酸成分を0.15〜0.40mol%含む共重合ポリエステルを押出機にて溶融混合した後、Tダイを通じてシート状に押出し、冷却ドラム上に密着させて冷却しながら巻き取ったあと、得られた未延伸フィルムを二軸延伸、熱固定を行うことにより製造される。例えば、逐次二軸延伸法においては、Tダイを通じてシート状に押出した未延伸フィルムを冷却しながら巻き取ったあと、まず縦方向に2.5〜3.6倍、次いで横方向に2.7〜4.0倍の延伸倍率となるよう二軸延伸する。二軸延伸した後連続的に130〜170℃で数秒間延伸フィルムに熱固定処理を施し、延伸フィルムの熱収縮特性を調整するため数%の弛緩処理を施す。その後、弛緩処理を施した延伸フィルムをフィルムのTg以下の温度に冷却することにより二軸延伸フィルムを得る。
【実施例】
【0063】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0064】
以下の実施例、比較例における特性の評価法を以下に示す。
【0065】
A.極限粘度(IV)
フェノール/四塩化エタンの等質量混合溶媒を用いて、温度20℃、濃度0.5g/dlで測定した溶液粘度から求めた。
【0066】
B.融点(Tm)
Perkin Elmer社製DSCを用い、20℃/minで昇温時の融点を測定した。測定サンプルはフィルムを溶融後、100℃/min以上の速度で急冷して非晶状態としたものを用いた。
【0067】
C.熱ラミネート性
220℃に加熱した金属ロールとシリコンゴムロールとの間に、試料フィルムと厚みが0.3mmのアルミ板とを重ね合わせて供給し、速度20m/min、線圧4.9×104N/mで加熱接着し、2秒後に氷水中に浸漬し、冷却してラミネートアルミ板を得た。得られたラミネートアルミ板から、幅18mmの短冊状の試験片(端部はラミネートせず、ラミネートされた部分がMD方向(流れ方向)に8cm以上確保されるようにする)をTD方向(横幅方向)に11枚切り出した。次に、この試験片のフィルム面に、JIS Z−1522に規定された粘着テープを貼り付け、島津製作所社製オートグラフで、10mm/minの速度で180度剥離試験を行い、その剥離強力を測定することにより、次の基準にしたがって接着性を評価した。
◎:10枚以上の試験片の剥離強力が2.9N以上であるか、又は2.9N以上でフィルムが破断。
○:5〜9枚の試験片の剥離強力が2.9N以上であるか、又は2.9N以上でフィルムが破断。
×:7枚以上の試験片の剥離強度が2.9N未満。
【0068】
D.成形性
上記Cに記載の方法で得られたラミネートアルミ板のフィルム側を缶胴外面として、表2に示した温度でリメルト処理後、200缶/分の速度で絞りしごき成形を行い、500ml相当の2ピース缶を各100缶成形した。得られた缶の外面を目視で観察し、次の基準に従って成形性を評価した。
(イ)スクラッチ性
○:フィルム表面に傷が認められる缶が5缶未満。
△:フィルム表面に傷が認められる缶が5缶以上10缶未満。
×:フィルム表面に傷が認められる缶が10缶以上。
(ロ)ヘア発生
○:成形缶上部の切断面での幅3mm以上のフィルム伸びが認められない。
△:成形缶上部の切断面での幅3mm以上のフィルム伸びが認められる缶が1缶以上10缶未満。
×:成形缶上部の切断面での幅3mm以上のフィルム伸びが認められる缶が10缶以上。
【0069】
E.耐ピンホール性
上記Dに記載の方法で得られた缶に水を充填し、タブのついた蓋を巻き締め接合後、500ml相当の2ピース飲料缶を各10缶作成した。この飲料缶を65℃で20分、温水による加熱処理後、20℃の雰囲気下において缶胴中央部に撃芯(先端R1/16インチ)をセットし、300gの重りを10cmの高さから撃芯に落下させ衝撃を加えた後、アルミのピンホールの有無を目視で調べ、次の基準に従って耐ピンホール性を評価した。
○:ピンホール発生なし
×:ピンホール発生1缶以上
【0070】
共重合ポリエステル(I)の作成方法
ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート及びその低重合体の存在するエステル化反応缶に、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)とのスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力50hPaGの条件で反応させ、エステル化反応率95%のPETオリゴマーを連続的に得た。一方、これとは別のエステル化反応缶に、イソフタル酸(IPA)とEGとからなるスラリーを仕込み、温度200℃でエステル化反応を行い、IPAとEGの反応溶液を得た。PETオリゴマーを重合反応器に仕込み、続いてIPAとEGの反応溶液、トリメリット酸、さらに滑剤として平均粒径2.5μmの二酸化ケイ素を理論ポリマー量の0.1質量%、酸化防止剤としてヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバスペシャリティー社製 イルガノックス1010)を理論ポリマー量の0.02質量%、触媒として二酸化ゲルマニウムを理論ポリマー量の0.01質量%添加し、重合反応器中を減圧にして、最終的に温度280℃、圧力0.9hPaGで重縮合反応を行った。テレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸の共重合比率を表1に示した数値となるように調整し、融点、極限粘度も表1に示した数値になるように調整して、表1の共重合ポリエステル(I)A1〜A14を得た。
【0071】
【表1】

【0072】
低分子量ポリマー含有マスタバッチ(II)の作成
副原料として、表1の共重合ポリエステル(I)A1 98.6質量%と低分子量ポリマーである下記ポリエチレン1.4質量%とを二軸ベント式押出機を用いて260℃で溶融混練し、低分子量ポリマー含有マスタバッチ(II)を得た。
低分子量ポリマー:ポリエチレン(クラリアント社製 リコワックスPE190)
数平均分子量Mn5500 融点128℃
【0073】
実施例1〜6、比較例1および4〜8
表1の共重合ポリエステル(I)A1〜A7、A10〜A14を96.43質量%と低分子量ポリマー含有マスタバッチ(II)3.57質量%とを混合し、各々255〜280℃の範囲で押出機による溶融混練後、Tダイより押出したフィルムを急冷固化して未延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0074】
得られた未延伸ポリエステルフィルムを、70℃の予熱ロール、90℃の延伸ロールにより、MD方向に3.4倍延伸し、次いでテンター内のクリップに把持し、80℃の予熱ゾーンを走行させた後、100℃でTD方向に3.7倍延伸した。その後TD方向の弛緩率を3%として、155℃で4秒間の熱処理を施した後、室温まで冷却して巻き取り、厚さが12μmの表2の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB1〜B7,B10〜B14を得た。
【0075】
【表2】

【0076】
得られた表2の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB1〜B7,B10〜B14を用いて上記Cに記載した方法でラミネートアルミ板を得、熱ラミネート性を評価した。
【0077】
上記Cに記載した方法により得られた表2の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB1〜B7,B10〜B14が熱ラミネートされたラミネートアルミ板の缶成形性を上記Dに記載した方法で評価した。
【0078】
上記Dに記載した方法で得られた表2の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB1〜B7,B10〜B14が熱ラミネートされたラミネートアルミ板を加工した成形缶に水を充填し、上記Eに記載した方法で耐ピンホール性を評価した。
【0079】
上記試験で得られた金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB1〜B7,B10〜B14の諸物性と各種評価結果を表2に示す。
【0080】
実施例1では、公知の合成法により適宜反応制御しながら合成した表1の共重合ポリエステル(I)A1を主原料に用い、融点が224℃、極限粘度が0.71dl/gとなる表2の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB1を作成した。得られた金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB1は、表2に示すように熱ラミネート時のアルミ板との密着性がよく、フィルム表面へのスリキズの発生および切断面でのヘアの発生が抑制されていた。更に、上記フィルムを熱ラミネートしたラミネートアルミ板を加工した成形缶は、耐ピンホール性に優れており、充分なアルミ強度を保持していた。
【0081】
実施例2では、実施例1で用いた表1の共重合ポリエステル(I)A1に比べて酸成分中のTPAの割合を少なくし、IPAの割合を多くした共重合ポリエステル(I)A2を用い、実施例1と同じフィルム化条件で表2の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB2を作成した。得られた金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB2の評価結果は、実施例1と同様となった。
【0082】
実施例3では、実施例1で用いた表1の共重合ポリエステル(I)A1に比べて酸成分中のトリメリット酸の割合を少なくし、TPAの割合を多くした共重合ポリエステル(I)A3を用い、実施例1と同じフィルム化条件で表2の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB3を作成した。得られた金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB3の評価結果は、実施例1と同様となった。
【0083】
実施例4では、実施例1で用いた表1の共重合ポリエステル(I)A1に比べて酸成分中のトリメリット酸の割合を多くし、TPAの割合を少なくした共重合ポリエステル(I)A4を用い、実施例1と同じフィルム化条件で表2の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB4を作成した。得られた金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB4の評価結果は、実施例1と同様となった。
【0084】
実施例5では、実施例1で用いた表1の共重合ポリエステル(I)A1に比べて酸成分中のTPAの割合を多くし、IPAの割合を少なくした共重合ポリエステル(I)A5を用い、実施例1と同じフィルム化条件で表2の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB5を作成した。得られた金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB5の評価結果は、実施例1と同様となった。
【0085】
実施例6では、実施例1で用いた表1の共重合ポリエステル(I)A1に比べて合成に要する時間を長くし、極限粘度を0.84dl/gまで上昇させた共重合ポリエステル(I)A6を用い、実施例1と同じフィルム化条件で表2の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB6を作成した。得られた金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB6の評価結果は、実施例1と同様となった。
【0086】
比較例1では、実施例1で用いた表1の共重合ポリエステル(I)A1に比べて合成に要する時間を短くした共重合ポリエステル(I)A7を用い、実施例1と同じフィルム化条件で表2の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB7を作成した。得られた金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB7は、極限粘度が0.62dl/gとなり、本発明で規定する極限粘度0.70〜0.85dl/gに比べて低くなった。そのため、アルミ板と熱ラミネートしたポリエステルフィルムは、実施例1に比べてフィルム表面にスリキズが発生しやすいものとなった。
【0087】
比較例2では、実施例1で用いた表1の共重合ポリエステル(I)A1に比べて合成に要する時間を長くし、極限粘度を0.88dl/gまで上昇させた共重合ポリエステル(I)A8を用いたが、ゲル状物が多量に発生し、重合払出トラブルが生じた。そのため、金属板ラミネート用ポリエステルフィルムの作成ならびに評価を行わなかった。
【0088】
比較例3では、実施例1で用いた表1の共重合ポリエステル(I)A1に比べて酸成分中のトリメリット酸の割合を多くし、TPAの割合を少なくした共重合ポリエステル(I)A9を用いた。しかし、共重合ポリエステル(I)A9は、ゲル状物の生成が著しく、極限粘度を充分に上げることができないものであった。そのため、金属板ラミネート用ポリエステルフィルムの作成ならびに評価を行わなかった。
【0089】
比較例4では、実施例1で用いた表1の共重合ポリエステル(I)A1に比べて酸成分中のトリメリット酸の割合を少なくし、TPAの割合を多くした共重合ポリエステル(I)A10を用い、実施例1と同じフィルム化条件で表2の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB10を作成した。得られた金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB10は、適度な硬さと腰を持ち合わせていなかったため、切断面でのヘアの改善効果が不充分であった。
【0090】
比較例5では、実施例1で用いた表1の共重合ポリエステル(I)A1に比べて酸成分中のIPAの割合を少なくし、TPAの割合を多くした共重合ポリエステル(I)A11を用い、実施例1と同じフィルム化条件で表2の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB11を作成した。得られた金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB11は、その融点が本発明で規定する210〜235℃よりも高くなったため、高温でリメルト処理を行う必要が生じたため、アルミ板の強度が低下し、成形缶の耐ピンホール性が低下した。
【0091】
比較例6では、比較例5で用いた表1の共重合ポリエステル(I)A11に比べてIPAの割合を更に少なくし、TPAの割合を多くした共重合ポリエステル(I)A12を用い、実施例1と同じフィルム化条件で表2の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB12を作成した。得られた金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB12は、その融点が比較例5に比べて更に高くなり、本発明で規定する210〜235℃の範囲を大きく超えていた。そのため、いっそう高温でリメルト処理を行うことが必要になってアルミ板の強度が低下し、成形缶の耐ピンホール性が低下した。また、熱ラミネート性も低下した。
【0092】
比較例7では、実施例1で用いた表1の共重合ポリエステル(I)A1に比べて酸成分中のIPAの割合を多くし、TPAの割合を少なくした共重合ポリエステル(I)A13を用い、実施例1と同じフィルム化条件で金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB13を作成した。得られた金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB13は、本発明で規定する融点210℃〜235℃よりも低くなったため、スクラッチ性が悪化し、ヘアの改善効果も損なわれた。
【0093】
比較例8では、実施例1で用いた表1の共重合ポリエステル(I)A1に比べて酸成分中のトリメリット酸の割合を少なくし、TPAの割合を多くした共重合ポリエステル(I)A14を用い、実施例1と同じフィルム化条件で金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB14を作成した。表2に示すように、得られた金属板ラミネート用ポリエステルフィルムB14は、合成時のゲル化が抑制され、極限粘度を0.86dl/gまで上昇させることができたためスクラッチ性の良好なフィルムを得ることができたが、本発明の範囲よりも極限粘度を上げすぎたためヘアの発生状況が最も劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の金属板ラミネート用ポリエステルフィルムは、金属板との熱ラミネート性に優れるほか、金属板と熱ラミネートした後の高次加工性に優れ、さらに切断部におけるヘアの発生を抑制するとともに成形缶の耐衝撃性を低下させることがないため、金属板の腐食を防止するための熱ラミネートフィルムとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸延伸ポリエステルフィルムにて構成され、前記ポリエステルが、酸成分中に3価以上のカルボン酸成分を0.15〜0.40mol%含む共重合ポリエステルであり、かつフィルムの融点が210〜235℃、極限粘度が0.70〜0.85dl/gであることを特徴とする金属板ラミネート用ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2010−168432(P2010−168432A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10451(P2009−10451)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】