説明

金属樹脂複合体の製造方法

【課題】金属部品および熱可塑性樹脂部品からなる金属樹脂複合体において、その接合強度を高める。
【解決手段】この金属樹脂複合体の製造方法には、金属部品2と熱可塑性樹脂部品3とを超音波溶着する溶着工程が含まれる。溶着工程の前に、金属部品2の接合面2aに粗化処理を施す粗化工程が、および/または、金属部品および熱可塑性樹脂部品の少なくとも一方を加熱する加熱工程が設けられている。これにより、金属部品2と熱可塑性樹脂部品3との接合強度を高めることができる。しかも、金属部品2の接合部に特殊な形状を付与する必要がなく、金属樹脂複合体1の製造工程を簡素化することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部品および熱可塑性樹脂部品からなる金属樹脂複合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の金属樹脂複合体は、家庭用機器(エアコンディショナー、テレビジョン受像機、パーソナルコンピューター、冷蔵庫、洗濯機その他の電気・電子機器など)、自動車(四輪自動車、三輪自動車、自動二輪車など)をはじめとする幅広い産業分野において、センサ部品、照明部品、インバータなどの制御回路部品、通信部品など様々な部品に使用されている。
【0003】
このような金属樹脂複合体を製造するには、接着剤を用いて金属部品と熱可塑性樹脂部品とを接着することが考えられるが、異種材料(金属と熱可塑性樹脂)同士の接合であるため、接着によっても十分な接合強度を確保することができない場合がある。
【0004】
そこで、超音波溶着によって金属部品と熱可塑性樹脂部品とを接合することが種々提案されている。例えば、特許文献1には、突起が形成された金属部材(金属部品)と熱可塑性合成樹脂部材(熱可塑性樹脂部品)とを超音波溶着することが開示されている。また、特許文献2には、壷状の条溝が形成された金属製ホイール(金属部品)と、V字状の突起が形成された樹脂製ホイールカバー(樹脂部品)とを超音波溶着することが開示されている。さらに、特許文献3には、折り曲げ部が形成された金属パネル(金属部品)と本体樹脂ケース(樹脂部品)とを超音波溶着することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭59−23975号公報(第1頁左欄第18〜29行の記載)
【特許文献2】特開平8−183302号公報(〔課題を解決する手段〕の欄、図5、6)
【特許文献3】特許第3132355号公報(段落〔0008〕〔0009〕の欄、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの特許文献1〜3に開示された技術では、金属樹脂複合体の製造に際して、金属部品および/または樹脂部品の接合部に特殊な形状(突起、壷状の条溝、折り曲げ部)を付与しなければならないため、金属樹脂複合体の製造工程が煩雑になるという不都合があった。
【0007】
そこで、本発明は、こうした不都合を伴うことなく、金属部品と熱可塑性樹脂部品との接合強度を高めることが可能な金属樹脂複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明者は、金属部品と熱可塑性樹脂部品との接合強度を高めるべく、両者の超音波溶着に際して、金属部品および/または樹脂部品の接合部に特殊な形状を付与しなくて済む手法に着目し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、請求項1に記載の発明は、金属部品と熱可塑性樹脂部品とを超音波溶着する溶着工程が含まれる金属樹脂複合体の製造方法であって、前記溶着工程の前に、前記金属部品の接合面に粗化処理を施す粗化工程が設けられている金属樹脂複合体の製造方法としたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、金属部品と熱可塑性樹脂部品とを超音波溶着する溶着工程が含まれる金属樹脂複合体の製造方法であって、前記溶着工程の前に、前記熱可塑性樹脂部品の形状が保持される範囲で前記金属部品および前記熱可塑性樹脂部品の少なくとも一方を加熱する加熱工程が設けられている金属樹脂複合体の製造方法としたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、金属部品と熱可塑性樹脂部品とを超音波溶着する溶着工程が含まれる金属樹脂複合体の製造方法であって、前記溶着工程の前に、前記金属部品の接合面に粗化処理を施す粗化工程と、前記熱可塑性樹脂部品の形状が保持される範囲で前記金属部品および前記熱可塑性樹脂部品の少なくとも一方を加熱する加熱工程とが設けられている金属樹脂複合体の製造方法としたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1または3に記載の構成に加え、前記粗化処理が、ケミカルエッチング、陽極酸化、サンドブラスト、液体ホーニングから選ばれる少なくとも一つの処理であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、請求項2または3に記載の構成に加え、前記加熱工程において、前記熱可塑性樹脂部品を構成する熱可塑性樹脂の流動開始温度より100℃低い下限温度から同流動開始温度より100℃高い上限温度までの温度範囲内で前記金属部品を加熱することを特徴とする。
【0014】
また、請求項6に記載の発明は、請求項2または3に記載の構成に加え、前記加熱工程において、前記熱可塑性樹脂部品を構成する熱可塑性樹脂の流動開始温度より100℃低い下限温度から同流動開始温度より10℃高い上限温度までの温度範囲内で前記熱可塑性樹脂部品を加熱することを特徴とする。
【0015】
さらに、請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の構成に加え、前記熱可塑性樹脂部品が、液晶ポリエステルから構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属部品と熱可塑性樹脂部品との超音波溶着に際して、予め金属部品の接合面が粗されたり、予め一方または双方の部品が加熱されたりすることから、金属部品と熱可塑性樹脂部品との接合強度を高めることができる。
【0017】
しかも、接合部の形状による拘束を受けず、また、金属部品および/または樹脂部品の接合部に特殊な形状を付与する必要がなく、従来の溶着工程に粗化工程や加熱工程を加えるだけで済むので、金属樹脂複合体の製造工程を簡素化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態1に係る金属樹脂複合体の製造方法を示す工程図であって、(a)は粗化工程を示す正面図、(b)は加熱工程を示す正面図、(c)は溶着工程を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0020】
図1には、本発明の実施の形態1を示す。
【0021】
以下、金属樹脂複合体の構成およびその製造方法を順に説明する。
<金属樹脂複合体の構成>
【0022】
この実施の形態1に係る金属樹脂複合体1は、図1(c)に示すように、金属部品2と熱可塑性樹脂部品3とが超音波溶着で一体に接合されて構成されている。
【0023】
この金属部品2は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、金、クロムなどの金属からなる部品である。これらの中でも、端子用途に必要な導電性に優れることから、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金からなる部品が特に好ましい。
【0024】
他方、熱可塑性樹脂部品3は、ポリエチレン樹脂、芳香族ポリサルホン、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶ポリエステル、ポリイミド樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂からなる群の中から選ばれた1種以上を主成分とする熱可塑性樹脂からなる部品である。好ましくは、成形加工が容易で、かつ電気的・機械的特性や耐熱性に優れるポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂、液晶ポリエステル、ポリイミド樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂からなる群の中から選ばれた1種以上を主成分とする熱可塑性樹脂からなる部品である。さらに好ましくは、液晶ポリエステルを主成分とする熱可塑性樹脂からなる部品である。
【0025】
この液晶ポリエステルは、サーモトロピック液晶ポリマーとも呼ばれるポリエステルであり、450℃以下で光学的に異方性を示す溶融体を形成するものである。その典型的な例としては、下記(1)〜(4)のものが挙げられる。
(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせを重合して得られるもの。
(2)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合して得られるもの。
(3)芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせを重合して得られるもの。
(4)ポリエチレンテレフタレート等の結晶性ポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させて得られるもの。
【0026】
なお、液晶ポリエステルの製造に関し、上記の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸または芳香族ジオールの代わりに、それらのエステル形成性誘導体を使用することも可能であり、このエステル形成性誘導体を用いた液晶ポリエステルの製造は公知技術が適用され、これに関しては後述する。
【0027】
以下、好適な液晶ポリエステルである上記(1)の液晶ポリエステルに関して詳述する。この液晶ポリエステルは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジオールから誘導される構造単位を含むものであり、以下に具体例を挙げる。
【0028】
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位の例としては、化1に示すものが挙げられる。
【0029】
【化1】

【0030】
上記の構造単位は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基を置換基として有していてもよい。
【0031】
芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位の例としては、化2に示すものが挙げられる。
【0032】
【化2】

【0033】
上記の構造単位は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基を置換基として有していてもよい。
【0034】
芳香族ジオールに由来する構造単位の例としては、化3に示すものが挙げられる。
【0035】
【化3】

【0036】
上記の構造単位は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基を置換基として有していてもよい。
【0037】
好適な液晶ポリエステルとして、その構造単位の組み合わせが下記(a)〜(h)であるものを挙げることができる。
(a):(A1 )、(B1 )、および(C1 )からなる組み合わせ、または、(A1 )、(B1 )、(B2 )、および(C1 )からなる組み合わせ。
(b):(A2 )、(B3 )、および(C2 )からなる組み合わせ、または、(A2 )、(B1 )、(B3 )、および(C2 )からなる組み合わせ。
(c):(A1 )および(A2 )からなる組み合わせ。
(d):(a)の構造単位の組み合わせのそれぞれにおいて、(A1 )の一部または全部を(A2 )で置きかえたもの。
(e):(a)の構造単位の組み合わせのそれぞれにおいて、(B1 )の一部または全部を(B3 )で置きかえたもの。
(f):(a)の構造単位の組み合わせのそれぞれにおいて、(C1 )の一部または全部を(C3 )で置きかえたもの。
(g):(b)の構造単位の組み合わせのそれぞれにおいて、(A2 )の一部または全部を(A1 )で置きかえたもの。
(h):(c)の構造単位の組み合わせに、(B1 )と(C2 )を加えたもの。
【0038】
上記の(a)〜(h)のように、液晶ポリエステルとしては、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位として(A1 )および/または(A2 )、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位として、(B1 )、(B2 )および(B3 )からなる群より選ばれる1つ以上、芳香族ジオールに由来する構造単位として、(C1 )、(C2 )および(C3 )からなる群より選ばれる1つ以上を有するものが好ましい。なお、上述のように、これらの構造単位は、その芳香環に置換基を有していてもよいが、液晶ポリエステルの成形体が、より高度の耐熱性を必要とする場合には、置換基を有していないことが望ましい。
【0039】
液晶ポリエステルの製造方法としては、種々公知の方法を採用することができるが、本願出願人が、特開2004−256673号公報で提案したような液晶ポリエステルの製造方法が好ましい。
【0040】
以上、好適な液晶ポリエステルに関して説明したが、液晶ポリエステルの成形体の作製には、この液晶ポリエステルの成形体に所望される特性により、液晶ポリエステル以外に、強度向上を目的とした充填剤や種々の添加剤などが必要に応じて含有されていてもよい。
【0041】
そして、熱可塑性樹脂部品3は、これらの熱可塑性樹脂から公知の方法(例えば、射出成形法など)によって製造することができる。
<金属樹脂複合体の製造方法>
【0042】
次に、本発明に係る金属樹脂複合体の製造方法を適用して、金属部品2および熱可塑性樹脂部品3からなる金属樹脂複合体1を製造する方法について説明する。
【0043】
まず、粗化工程で、金属部品2の接合面2aを粗すため、図1(a)に示すように、金属部品2の接合面2aに薬液処理などの粗化処理を施し、この接合面2aの粗さ(算術平均粗さ)Raを通常0.3〜10μm(好ましくは、0.5〜3μm)とする。
【0044】
このとき、金属部品2の接合面2aの粗化処理の方法としては、ケミカルエッチング、陽極酸化、サンドブラスト、液体ホーニングなどが好ましい。ケミカルエッチングを用いて粗化処理を施す場合、エッチャント(エッチング液)としては、無機酸、無機アルカリ、有機酸、有機アルカリなど、金属のエッチングに適する液を選択することが好ましい。例えば、アルミニウム製の金属部品2の場合、燐酸、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸からなる群の中から選ばれた1種以上を主成分とするエッチャントや、水酸化カリウムなどのアルカリを主成分とするエッチャントが好ましい。
【0045】
こうして金属部品2の接合面2aに粗化処理が施されたところで、加熱工程に移行し、図1(b)に示すように、この金属部品2を電熱プレート4上に載置し、電熱プレート4に通電して金属部品2を所定の温度に達するまで加熱する。ただし、金属部品2をあまり高温にすると、後述する溶着工程において、熱可塑性樹脂部品3を金属部品2に加圧接触させたときに、熱可塑性樹脂部品3が部分的に溶けて変形する恐れがある。したがって、金属部品2の温度は、熱可塑性樹脂部品3がその形状を保持できる範囲にとどめる。
【0046】
このとき、金属部品2の温度は、50〜450℃が好ましい。金属部品2の温度が50℃未満では、金属部品2と熱可塑性樹脂部品3とが溶着せず、逆に、金属部品2の温度が450℃を超えると、後述する溶着工程において、熱可塑性樹脂部品3を金属部品2に加圧接触させたときに、熱可塑性樹脂部品3を構成する熱可塑性樹脂が分解する恐れがある。
【0047】
さらに好ましくは、熱可塑性樹脂部品3を構成する熱可塑性樹脂の流動開始温度より100℃低い下限温度から同流動開始温度より100℃高い上限温度までの温度範囲内から、金属部品2の温度を選択する。例えば、この熱可塑性樹脂の流動開始温度が300℃であれば、金属部品2を200〜400℃に達するまで加熱する。こうすることにより、後述する溶着工程において、金属部品2と熱可塑性樹脂部品3との超音波溶着を無駄なく効率的に行うと同時に、熱可塑性樹脂が過度に溶解して熱可塑性樹脂部品3が形状を保持できなくなる事態を回避することができる。
【0048】
なお、熱可塑性樹脂の流動開始温度は、例えば次のようにして求めることができる。すなわち、(株)島津製作所製のフローテスター「CFT−500型」を用いて、昇温速度4℃/分で被測定サンプル(熱可塑性樹脂)を加熱する。そして、加熱により溶融体を形成した熱可塑性樹脂を荷重9.8MPaで内径1mm、長さ10mmのノズルから押し出すときに、その溶融粘度が4800Pa・sを示す温度を測定する。この温度が熱可塑性樹脂の流動開始温度となる。
【0049】
こうして金属部品2が所定の温度に達したところで、溶着工程に移行し、図1(c)に示すように、この金属部品2に熱可塑性樹脂部品3を超音波溶着する。それには、金属部品2の接合面2aに熱可塑性樹脂部品3を所定の圧力で加圧接触させた状態で、超音波溶着機を用いて、所定の条件(超音波振動の周波数、溶着時間)で熱可塑性樹脂部品3を超音波振動(摩擦振動)させる。
【0050】
このとき、加圧接触の圧力は0.5〜10MPaが好ましく、超音波振動の周波数は10〜40kHzが好ましく、溶着時間は0.05〜1秒が好ましい。
【0051】
このようにして金属部品2に熱可塑性樹脂部品3を超音波溶着すると、金属部品2と熱可塑性樹脂部品3との接合面に摩擦熱が発生し、この摩擦熱によって両者が溶着され、金属樹脂複合体1が得られる。
【0052】
ここで、金属樹脂複合体の製造方法が終了する。
【0053】
このように、この金属樹脂複合体の製造方法では、金属部品2と熱可塑性樹脂部品3との超音波溶着に際して、予め金属部品2の接合面2aが粗化処理によって粗されることから、この接合面2aの表面積が大きくなり、金属部品2と熱可塑性樹脂部品3との接触面積が増大する。その結果、金属樹脂複合体1において、金属部品2と熱可塑性樹脂部品3との接合強度を高め、両者を強固に接合することができる。
【0054】
また、金属部品2と熱可塑性樹脂部品3との超音波溶着に際して、予め一方または双方の部品が加熱されることから、熱可塑性樹脂部品3のうち溶融した部分の流動性を向上させることが可能となる。その結果、金属樹脂複合体1において、金属部品2と熱可塑性樹脂部品3との接合強度を高め、両者を強固に接合することができる。また、熱可塑性樹脂が過度に溶解する事態を回避することができるため、熱可塑性樹脂部品3の寸法が変動したり、バリが多量に生じたりすることはなく、金属樹脂複合体1の寸法精度を高めることが可能となる。
【0055】
しかも、この金属樹脂複合体1を得るには、超音波溶着に先立って金属部品2の接合部に特殊な形状を付与する必要がなく、また、従来の溶着工程に粗化工程および加熱工程を加えるだけで済む。したがって、金属樹脂複合体1の製造工程を簡素化することが可能となる。
【0056】
また、金属部品2と熱可塑性樹脂部品3とが直接、すなわち接着剤などの第3の成分を介さずに接合されているため、金属樹脂複合体1が中空構造を有する場合であっても、接合部の気密性を十分に高めることができ、また、不純物コンタミネーションを低減することが可能となる。
【0057】
さらに、一般に金属は熱可塑性樹脂より熱伝導率が高いため、熱可塑性樹脂部品3を加熱する場合に比べて、金属部品2を加熱する方が短時間で昇温することができる。その結果、加熱工程に要する時間を短縮し、ひいては金属樹脂複合体1の生産性を高めることが可能となる。
[発明のその他の実施の形態]
【0058】
なお、上述した実施の形態1では、金属樹脂複合体1の製造に際して、加熱工程で電熱プレート4を用いて金属部品2を加熱する場合について説明した。しかし、電熱プレート4以外の加熱手段(例えば、ホットプレート、加熱用ヒーター、赤外線照射装置など)を代用することも可能である。
【0059】
また、上述した実施の形態1では、金属樹脂複合体1の製造に際して、加熱工程で金属部品2を加熱する場合について説明した。しかし、金属部品2に代えて熱可塑性樹脂部品3を加熱してもよく、また、金属部品2と熱可塑性樹脂部品3の両方を加熱しても構わない。熱可塑性樹脂部品3を加熱する場合、熱可塑性樹脂部品3を構成する熱可塑性樹脂の流動開始温度より100℃低い下限温度から同流動開始温度より10℃高い上限温度までの温度範囲内で行うのが好ましい。例えば、この熱可塑性樹脂の流動開始温度が300℃であれば、熱可塑性樹脂部品3を200〜310℃に達するまで加熱するのが好ましい。こうすることにより、溶着工程において、金属部品2と熱可塑性樹脂部品3との超音波溶着を無駄なく効率的に行うと同時に、熱可塑性樹脂が過度に溶解して熱可塑性樹脂部品3が形状を保持できなくなる事態を回避することができる。
【0060】
さらに、上述した実施の形態1では、粗化工程と加熱工程の両方を含む製造方法について説明したが、いずれか一方の工程(粗化工程または加熱工程)を省くことも可能である。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
【0062】
超音波溶着に先立ち、平井精密工業(株)製のアルミニウム板「A5052」(10mm×70mm×1mm)を60℃、2規定の塩酸に10分浸漬し、純水にて洗浄した後、60℃にて1時間乾燥することにより、アルミニウム板の表面(接合面)に粗化処理を施した。このアルミニウム板を金属板として用い、保持具に取り付けた後、保持具との隙間を減圧することにより、金属板を保持具に固定した。
【0063】
次に、住友化学(株)製の液晶ポリエステル「スミカスーパーLCP E6006L MR」(流動開始温度326℃)を射出成形にて成形した成形体(10mm×50mm×1mm)の一部(10mm×10mmの表面部分)を上記金属板の上に重ね、日本エマソン(株)製の超音波溶着機「2000ea20」(出力1100W、加振周波数20kHz、最大振幅92μm)を用いて、圧力6.5MPa、振幅50%、溶着時間0.09秒、保持時間0.1秒の条件下、23℃にて超音波溶着を行った。その結果、アルミニウム板と液晶ポリエステルの成形体とが溶着し、金属樹脂複合体が得られた。
【0064】
なお、このアルミニウム板について、ケーエルエー・テンコール(株)製の段差・表面あらさ・微細形状測定装置「P−10」を用いて、走査速度50μm/秒、針圧1mgにて表面粗さ(算術平均粗さRa)を測定したところ、1.51μmであった。
<実施例2>
【0065】
金属板として「A5052」を処理せずに用い、加熱用ヒータにて250℃に加熱し、接触式表面温度計で設定温度に安定していることを確認した後に、液晶ポリエステルの成形体を1分間接触させた上で超音波溶着を実施したことを除き、実施例1と同様にして、アルミニウム板と液晶ポリエステルの成形体との超音波溶着を行った。その結果、アルミニウム板と液晶ポリエステルの成形体とが溶着し、金属樹脂複合体が得られた。また、このアルミニウム板の表面粗さは、0.11μmであった。
<実施例3>
【0066】
アルミニウム板を250℃に加熱したことを除き、上述した実施例1と同様にして、アルミニウム板と液晶ポリエステルの成形体との超音波溶着を行った。その結果、アルミニウム板と液晶ポリエステルの成形体とが溶着し、金属樹脂複合体が得られた。また、このアルミニウム板の表面粗さは、1.12μmであった。
<実施例4>
【0067】
アルミニウム板を300℃に加熱したことを除き、上述した実施例2と同様にして、アルミニウム板と液晶ポリエステルの成形体との超音波溶着を行った。その結果、アルミニウム板と液晶ポリエステルの成形体とが溶着し、金属樹脂複合体が得られた。また、このアルミニウム板の表面粗さは、0.14μmであった。
<実施例5>
【0068】
アルミニウム板を300℃に加熱したことを除き、上述した実施例1と同様にして、アルミニウム板と液晶ポリエステルの成形体との超音波溶着を行った。その結果、アルミニウム板と液晶ポリエステルの成形体とが溶着し、金属樹脂複合体が得られた。また、このアルミニウム板の表面粗さは、1.93μmであった。
<実施例6>
【0069】
サンドブラスト法により、平井精密工業(株)製の銅板「C1020−1」(10mm×70mm×1mm)の表面(接合面)に粗化処理を施した銅板を金属板として用いたことを除き、上述した実施例1と同様にして、銅板と液晶ポリエステルの成形体との超音波溶着を行った。その結果、銅板と液晶ポリエステルの成形体とが溶着し、金属樹脂複合体が得られた。また、この銅板の表面粗さは、実施例1と同様の方法で測定したところ、1.75μmであった。
<実施例7>
【0070】
金属板として「C1020−1」を処理せずに用いたことを除き、上述した実施例2と同様にして、銅板と液晶ポリエステルの成形体との超音波溶着を行った。その結果、銅板と液晶ポリエステルの成形体とが溶着し、金属樹脂複合体が得られた。また、この銅板の表面粗さは、実施例1と同様の方法で測定したところ、0.24μmであった。
<実施例8>
【0071】
銅板を250℃に加熱したことを除き、上述した実施例6と同様にして、銅板と液晶ポリエステルの成形体との超音波溶着を行った。その結果、銅板と液晶ポリエステルの成形体とが溶着し、金属樹脂複合体が得られた。また、この銅板の表面粗さは、1.85μmであった。
<実施例9>
【0072】
銅板を300℃に加熱したことを除き、上述した実施例6と同様にして、銅板と液晶ポリエステルの成形体との超音波溶着を行った。その結果、銅板と液晶ポリエステルの成形体とが溶着し、金属樹脂複合体が得られた。また、この銅板の表面粗さは、1.76μmであった。
<比較例1>
【0073】
アルミニウム板を加熱しなかったことを除き、上述した実施例2と同様にして、アルミニウム板と液晶ポリエステルの成形体との超音波溶着を行った。しかし、アルミニウム板と液晶ポリエステルの成形体とが溶着せず、金属樹脂複合体を得ることができなかった。また、このアルミニウム板の表面粗さは、0.09μmであった。
<比較例2>
【0074】
銅板を加熱しなかったことを除き、上述した実施例7と同様にして、銅板と液晶ポリエステルの成形体との超音波溶着を行った。しかし、銅板と液晶ポリエステルの成形体とが溶着せず、金属樹脂複合体を得ることができなかった。また、この銅板の表面粗さは、0.28μmであった。
<溶着強度(接合強度)の測定>
【0075】
これらの実施例1〜9についてそれぞれ、(株)島津製作所製の万能材料試験機「オートグラフAG−50」を用いて、チャック間距離50mm、クロスヘッド速度1mm/分の条件で、金属樹脂複合体の引張せん断試験を実施した。そして、このときの最大点応力を溶着面積で除したものを溶着強度(単位:MPa)とした。ただし、実施例1、2、6、7については、金属樹脂複合体をチャックに装着したときに、金属板と液晶ポリエステルの成形体とが互いに剥離したため、溶着強度を測定することができなかった。その結果をまとめて表1に示す。
【表1】

【0076】
表1から明らかなように、比較例1、2では、上述したとおり、金属板と液晶ポリエステルの成形体とを超音波溶着しても、金属樹脂複合体を得ることができなかった。これに対して、実施例1〜9では、超音波溶着によって金属樹脂複合体を得ることができ、実施例3〜5および8、9では、その溶着強度が3.2〜10.4MPaであった。したがって、実施例1〜9においては、金属板と液晶ポリエステルの成形体との密着性に優れる結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、電気・電子部品、自動車部品その他の用途に用いられる金属樹脂複合体の製造に適用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1……金属樹脂複合体
2……金属部品
2a……接合面
3……熱可塑性樹脂部品
4……電熱プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部品と熱可塑性樹脂部品とを超音波溶着する溶着工程が含まれる金属樹脂複合体の製造方法であって、
前記溶着工程の前に、前記金属部品の接合面に粗化処理を施す粗化工程が設けられていることを特徴とする金属樹脂複合体の製造方法。
【請求項2】
金属部品と熱可塑性樹脂部品とを超音波溶着する溶着工程が含まれる金属樹脂複合体の製造方法であって、
前記溶着工程の前に、前記熱可塑性樹脂部品の形状が保持される範囲で前記金属部品および前記熱可塑性樹脂部品の少なくとも一方を加熱する加熱工程が設けられていることを特徴とする金属樹脂複合体の製造方法。
【請求項3】
金属部品と熱可塑性樹脂部品とを超音波溶着する溶着工程が含まれる金属樹脂複合体の製造方法であって、
前記溶着工程の前に、前記金属部品の接合面に粗化処理を施す粗化工程と、前記熱可塑性樹脂部品の形状が保持される範囲で前記金属部品および前記熱可塑性樹脂部品の少なくとも一方を加熱する加熱工程とが設けられていることを特徴とする金属樹脂複合体の製造方法。
【請求項4】
前記粗化処理が、ケミカルエッチング、陽極酸化、サンドブラスト、液体ホーニングから選ばれる少なくとも一つの処理であることを特徴とする請求項1または3に記載の金属樹脂複合体の製造方法。
【請求項5】
前記加熱工程において、前記熱可塑性樹脂部品を構成する熱可塑性樹脂の流動開始温度より100℃低い下限温度から同流動開始温度より100℃高い上限温度までの温度範囲内で前記金属部品を加熱することを特徴とする請求項2または3に記載の金属樹脂複合体の製造方法。
【請求項6】
前記加熱工程において、前記熱可塑性樹脂部品を構成する熱可塑性樹脂の流動開始温度より100℃低い下限温度から同流動開始温度より10℃高い上限温度までの温度範囲内で前記熱可塑性樹脂部品を加熱することを特徴とする請求項2または3に記載の金属樹脂複合体の製造方法。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂部品が、液晶ポリエステルから構成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の金属樹脂複合体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−224974(P2011−224974A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23536(P2011−23536)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】