説明

金属溶製用溶解炉

【課題】ハースを有する電子ビーム溶解炉に係るものであり、特に鋳肌の優れたチタンインゴットを溶製することができるような金属製造用電子ビーム溶解炉に係る装置構成を提供する。
【解決手段】原料を溶解して生成された溶湯を保持するハースと、溶湯を装入する鋳型と、鋳型下方に設けられ冷却固化したインゴットを下方に引き抜く引き抜き治具とから構成された金属溶製用溶解炉であって、鋳型壁の頂部から底部に向かって単調に減少する温度分布を有し、前記温度分布の中に少なくとも1個以上の変曲点を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属溶製用溶解炉に係り、特に、鋳肌の優れたインゴットを溶製することができる鋳型を有する金属溶製用溶解炉に関する。
【背景技術】
【0002】
金属溶製用溶解炉の中でも、電子ビーム溶解炉やプラズマアーク溶解炉は、純度の高い金属を製造する溶解炉として脚光を浴びており、特に、金属チタンインゴットやチタン合金インゴットを製造する場合に好適な溶解炉として注目されている。
【0003】
金属溶製用溶解炉の中でも電子ビーム溶解炉は、原料供給装置、前記原料を溶解精製するハース、ハースで精製された溶湯を冷却固化してインゴットを形成する鋳型および鋳型で生成されたインゴットを引き抜くための引き抜き装置から構成されている。原料供給装置は、原料を保持したホッパーおよび前記ホッパーより切り出された原料をハースに供給する原料フィーダから構成されている。
【0004】
原料フィーダより供給された原料は、ハースに投入されてから電子ビーム照射を受けて溶融し、ハース内を通過する間に原料中に含まれている不純物は溶湯中の沈降分離し、あるいは蒸気となって分離されて、精製された溶湯がハース下流に設けた鋳型内に供給される。鋳型内に供給された溶湯は、水冷された鋳型に対して抜熱されて固化してインゴットとなり、原料抜き出し装置により鋳型底部から抜き出されて、最終的に製品となる。
【0005】
電子ビーム溶解炉に使用される鋳型は、鉄鋼の連続鋳造と同様に水冷銅鋳型が使用されている。底部にスタブが装入された鋳型に注入された溶湯は、スタブ表面で冷却されて固化すると共に、その上には、溶融状態にある溶湯が連続的に供給される共に、鋳型底部のスタブの上に形成されたインゴットは、下方に向かって鋳型より連続的に引き抜かれる。
【0006】
このように、鋳型内に供給される溶湯量と、鋳型から抜き出されるインゴット量とをバランスさせることにより、鋳型内の溶湯レベルはほぼ一定に保持される。
【0007】
鋳型内に注入された溶湯の表面に対しても、電子ビームを照射することにより所定の深さの鋳型プールが形成されている。このような鋳型プールを生成保持することにより、鋳型内で生成されるインゴットの鋳肌を良好に保持することができると考えられている。
【0008】
鋳型内に生成されている鋳型プールと接する鋳型面には、凝固シェルと呼ばれている薄い固相が形成されている。凝固シェルは、鋳型プールの底部に向うほどその厚みが増加する傾向を示し、鋳型の底部付近で鋳型プールが消滅して、固体のインゴットのみが存在するようになる。これは、鋳型の底部に向かうに伴い、鋳型壁面への放熱に加えて、鋳型プール底部への抜熱量も増加することに起因しているもの考えられている。
【0009】
前記したような鋳型内で形成されている鋳型プールとインゴット固相の境界面は、従来、図6(a)に21bで示すように、鉛直方向の断面において所謂放物線状に形成されている場合が多く、この場合には、鋳型内壁面に形成される凝固シェルの厚みも鋳型プールの鉛直下方向に向かって増加する傾向を示す。これは、鋳型プール底部が狭くなり、鋳型プール内の対流による溶湯の攪拌効果が減少し、合金成分の偏析を招き好ましくないとされる。図6(b)に示すように、放物線よりも底部が両側に膨らんだ境界面であることが望ましいと考えられている。
【0010】
また、鋳型プールの底面に至るまでの鋳型内壁面に形成される凝固シェルの厚みは、できる限り一定である方が、生成されるインゴットの鋳肌が健全に保持されることも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0011】
一方、例えば鋳型内面にセラミック層を設けて鋳型プールから鋳型壁への伝熱抵抗を増加させる方法(例えば、特許文献2参照)や、鋳型壁内面下端部にスリットを設けて、その外部に対応した部位に油圧シリンダーを装着し、前記シリンダーにより鋳型のスリット部に応力を印加することにより、鋳型の内径を調節して、凝固シェルの厚みを制御する方法(例えば、特許文献3参照)が検討されている。
【0012】
しかしながら、特許文献2に記載のセラミック層を鋳型内面に設ける技術は、鉄鋼の場合であり、この技術をチタンのような活性金属の製造に採用した場合には、金属チタンは鉄鋼とは異なりセラミックとの反応性が高いため、セラミック層をライニングした鋳型を用いたとしても、溶融チタンがセラミックと接触すると直ちに溶融チタンと反応してセラミック層が消失し、その結果セラミックライニングによる断熱効果も喪失される。
【0013】
また特許文献3では、底部にスリットを入れた鋳型の外面に油圧シリンダーを係合し、同シリンダーのストロークを調整して、鋳型内で生成されるインゴットと鋳型の内面を連続的に調整しつつ、鋳型する技術が開示されている。しかしながら、前記のような鋳型の内径を連続的に変化させる方法では、鋳型に対して繰り返し応力が印加され、これは鋳型の疲労破壊を生起することが懸念され、長期間の操業にこの技術を用いることは困難である。
【0014】
また、特許文献1においては、鋳型のメニスカス部(各図において21aで示す鋳型プールと鋳型が接している部分)に設けたスリット部を通して、外部よりレーザー光線を照射することにより、メニスカス部に形成される凝固シェルの厚みを一定に保持するという技術も開示されている。
【0015】
しかしながら、当該方法においては凝固シェルの厚みを精度よく検出する技術が必要であり、金属チタンの電子ビーム溶解に対して、直ぐに応用することは難しいものと考えられる。
【0016】
このように、金属チタンの電子ビーム溶解炉において、鋳型プールと接する鋳型壁の内面に形成される凝固シェルの厚みがなるべく薄い状態に維持され、メニスカス部が長く、かつ、鋳型プールの底部が広く形成されるような鋳型を有する電子ビーム溶解炉の装置構成が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平11−156489号公報
【特許文献2】特開平05−309452号公報
【特許文献3】特開平08−025010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、ハースを有する金属溶製用溶解炉に係るものであり、特に、鋳肌の優れたチタンインゴットを溶製することができるような金属溶製用溶解炉に係る装置構成の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
かかる実情に鑑みて前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねてきたところ、金属溶製用溶解炉において、前記溶解炉に用いる鋳型壁の構造と、同鋳型を用いて溶製されるインゴットの鋳肌との関係について調査したところ、前記鋳型壁内の温度分布に少なくとも1個以上の変曲点を設けることにより(本願においては、「変曲点」とは、温度勾配の符号がその前後で変化する点のみならず、上または下に膨らみを有する弓状の曲線部を含むものとする。)溶製されるインゴットの鋳肌を優れた状態に維持できることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0020】
即ち、本願発明に係る金属溶製用溶解炉は、底部が開放された鋳型を有する溶解炉であって、前記鋳型壁の頂部から底部に向かって単調に減少する温度分布を有し、前記温度分布の中に少なくとも1個以上の変曲点を有することを特徴とするものである。
【0021】
本発明においては、鋳型は、第1冷却部と第2冷却部から構成されており、前記第1冷却部は、厚みが鋳型の上方向に向かって増厚される増厚部であり、第2冷却部は、厚さが一定に構成された平行部であることを好ましい態様とするものである。
【0022】
本発明においては、第1冷却部と第2冷却部に供給される冷媒が共通しており、前記第1冷却部は、厚みが鋳型の上方向に向かって増厚される増厚部であり、第2冷却部は、厚さが一定に構成された平行部であることを好ましい態様とするものである。
【0023】
本発明においては、鋳型に流通させる冷却媒体は、第1冷却部を抜熱する第1冷却媒体と、第2冷却部を抜熱する第2冷却媒体からなり、それぞれが独立して供給されるものであり、第1冷却媒体の温度は、第2冷却媒体の温度よりも高いことを好ましい態様とするものである。
【0024】
本発明においては、鋳型に流通させる冷却媒体は、第1冷却部と第2冷却部とに共通して供給されるものであり、冷却媒体は、第1冷却部に相対的に疎に巻き付けられたコイル内と、第2冷却部に相対的に密に巻き付けられたコイル内を連続して流通させるものであることを好ましい態様とするものである。
【0025】
本発明においては、鋳型に流通させる冷却媒体は、第1冷却部を抜熱する第1冷却媒体と、第2冷却部を抜熱する第2冷却媒体からなり、それぞれが独立して供給されるものであり、第1冷却媒体は、第1冷却部に巻き付けられたコイル内を流通させるものであり、第2冷却媒体は、第2冷却部に巻き付けられたコイル内を流通させるものであり、第1冷却媒体の温度は、第2冷却媒体の温度よりも高いことを好ましい態様とするものである。
【0026】
本発明においては、第2冷却部の下方に、鋳型の下方向に向かって鋳型内面が縮径するようなテーパ部が形成されていることを好ましい態様とするものである。
【0027】
本発明においては、テーパ部を構成するテーパ角は、鉛直方向に対して1°〜5°の範囲とすることを好ましい態様とするものである。
【0028】
本発明においては、溶製される金属が、金属チタンインゴットまたはチタン合金インゴットであることを好ましい態様とするものである。
【0029】
本発明においては、金属溶製用溶解炉が、電子ビーム溶解炉またはプラズマアーク溶解炉であることを好ましい態様とするものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る金属溶製用溶解炉を用いることにより、メニスカス部が長く、かつ、鋳型プールの底部が広く形成されるような鋳型プールが形成されるので、インゴットの鋳肌が優れているのみならず、溶製されるインゴットのマクロ組織も優れているという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る電子ビーム溶解炉を示す模式断面図である。
【図2】図2(a)は、本発明の一実施形態に係る鋳型部分を示す模式断面図であり、(b)は、テーパ部を設けた例を示す模式断面図である。
【図3】図3(a)は、本発明の他の実施形態に係る鋳型部分を示す模式断面図であり、(b)は、テーパ部を設けた例を示す模式断面図である。
【図4】図4(a)は、本発明の他の実施形態に係る鋳型部分を示す模式断面図であり、(b)は、テーパ部を設けた例を示す模式断面図である。
【図5】図5(a)は、本発明の他の実施形態に係る鋳型部分を示す模式断面図であり、(b)は、テーパ部を設けた例を示す模式断面図である。
【図6】図6は、従来の鋳型(a)と本発明の鋳型(b)における鋳型プールの形成状態と抜熱の様子を示す模式図である。
【図7】図7は、従来の電子ビーム溶解炉における鋳型部分を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の最良の実施形態について、図面を用いて以下に詳細に説明する。以下の説明においては、金属溶製用溶解炉が電子ビーム溶解炉、原料がスポンジチタン、製造するインゴットが金属チタン、製造するインゴットの断面が矩形である場合を例に説明する。しかしながら、本発明は、この態様に限定されず、プラズマアーク溶解炉にも適用することができ、また、インゴットについても、ジルコニウムやハフニウム、タングステンあるいはタンタル等の高融点金属やこれらの合金の場合にも、さらに形状についても、円形や多角形や不定形等の場合にも、同様に適用することができる。
【0033】
第1実施形態(1種類の冷却媒体+増厚部+平行部を備えた鋳型)
図1は、本発明の金属あるいは合金インゴットを製造するための、電子ビーム溶解炉を示す模式断面図であり、図2(a)は、図1において鋳型16部分の拡大図である。図1に示す電子ビーム溶解炉は、原料を溶解する溶解部40と、その下流で製造されたインゴットの引き抜き部50とから構成されている。
【0034】
溶解部壁41で大気と画成された溶解部40内には、スポンジチタンあるいはチタンスクラップで構成されたチタン原料12を供給するためのアルキメデス缶等の原料供給装置10と、原料12を移送する振動フィーダ等の原料移送装置11と、供給された原料を溶解するハース13と、ハース13に供給された原料12を溶解して溶湯20とする電子ビーム照射機14と、溶湯20を冷却固化してインゴットを形成させる水冷銅等で構成された鋳型16と、鋳型16内に溶融プール21を形成させるための電子ビームを放出する電子銃15とが設けられている。
【0035】
溶解部40の鋳型16の下方には、引き抜き部外筒51で画成された引き抜き部50が設置されており、引き抜き部50内には、鋳型16で形成されたインゴット22を下方に引き抜き治具30が設けられている。なお、溶解部40および引き抜き部50内は、減圧雰囲気が保持されるように構成されている。
【0036】
本実施形態における鋳型16は、鋳型上部の第1冷却部(増厚部)16aと、鋳型下部の第2冷却部(平行部)16bとから構成されている。第1冷却部(増厚部)16aは、鋳型16に保持されている溶湯の鋳型プール21のうち、液相が直接鋳型16に接しているメニスカス部21aに対応した部分からそれより上方までに設けられており、上方へ向かうほど鋳型壁の厚さが増加するように構成されている。
【0037】
第2冷却部(平行部)16bは、鋳型プール21が固相を介して接している部分およびそれより下方に設けられており、鋳型壁の厚さは一定である。
【0038】
また、鋳型16の外側には、増厚部16aおよび平行部16bに共通してこれらを冷却する冷却媒体16dが供給されている。
【0039】
まず原料供給機10から供給された原料12は、ハース13内で電子銃14によって溶解されて溶湯20を形成する。溶湯20は、ハース13の下流から鋳型16内に供給される。鋳型内16には、原料12の溶解に先立って図示しないスタブが配置されており、このスタブが鋳型16の底部を構成している。前記スタブは原料12と同じ金属で構成されており、鋳型16内に供給された溶湯20と一体化してインゴット22を形成する。
【0040】
鋳型16内のスタブ上に連続的に供給された溶湯20の表面は、電子銃15によって加熱されて溶融プール21を形成すると共に、溶融プール21の底部は、鋳型16によって冷却されて固化して前記スタブと一体化してインゴット22を形成する。鋳型16内で生成したインゴット22は、溶融プール21のレベルが一定になるようにスタブに係合された引き抜き治具30の引抜速度を調節しつつ引き抜き部50内に抜き出される。
【0041】
本実施形態においては、図6(b)に示すように鋳型壁の頂部から底部に向かって単調に減少する温度分布を有し、前記温度分布の中に少なくとも1個以上の変曲点を有することを特徴とするものである。 前記したような温度分布を形成させることにより、第2冷却部に示したような壁が第1冷却部まで平行に形成された従来の鋳型に比べて、抜熱量を抑制することができ、その結果、溶製されるインゴットの鋳肌を改善することができるという効果を奏するものである。
【0042】
即ち、前記したような温度分布を設けることにより、第1冷却部16aにおいては比較的冷却が穏やかであり、鋳型プールが高温に保たれるため、メニスカス部21aを長く形成することができ、一方、第2冷却部16bにおいては冷却が比較的急速になるので、凝固が進行し、鋳型プールの底部の固液境界面21bは、放物線形状と比較して広がる形状、すなわち鋳型プールを浅くすることができる。これにより、鋳型プール21内の底部近傍でも溶湯成分の混合が促進され、かつ抜き出されるインゴットに対して溶融部である鋳型プールの底部が影響を及ぼすことが抑制され、その結果、鋳肌が優れたインゴットを製造することができる。
【0043】
本発明と、従来の鋳型の比較を図6に示す。図6(a)が従来例、(b)が本発明例である。(a)に示すように、従来では固液境界面21bが放物線形状であるので、底部近傍で溶湯成分の混合が阻害されるばかりか、仮に溶解エネルギーを上昇させてメニスカス部21aを長く形成しようとすると、底部の放物線凸部の位置が下方に下がってしまい、抜き出されるインゴットに影響を及ぼす。しかしながら、本発明では、メニスカス部21aを長く形成しても、鋳型プール21の底部は放物線ほど下方に突出しないため、上述した諸効果が得られるのである。
【0044】
また、図6には、鋳型内の位置(座標L)における温度状況を模式的にグラフとして併記する。図に示すように、従来例(a)では冷却が単調なため、温度曲線は、最高温度Tから自然対数を用いた単一の減衰曲線で近似されるが、本発明例(b)では、冷却が第1冷却部と第2冷却部の2段階で行われるため、最高温度TからTまで緩やかに温度が低下する減衰曲線と、Tからの急激な温度低下を表す減衰曲線によって近似される。
【0045】
なお、本発明例(b)では、下に膨らみを有している曲線を表しているが、これ以外にも上に膨らみを有している曲線を有する温度分布も本願発明に係る好ましい態様に含まれる。更には、変曲点も、1個のみならず2個あるいはそれ以上含んでいる態様も含むものとする。
【0046】
第2実施形態(2種類の冷却媒体を備えた鋳型)
以降、第2〜第4実施形態に係る金属溶製用溶解炉を説明するが、以下の実施形態では、第1実施形態と共通の構成要素の説明は省略し、変更が加えられた鋳型部分についてのみ説明する。
【0047】
図3(a)は、本実施形態に係る鋳型17の拡大図である。鋳型17は、鋳型上部の第1冷却部17aと、鋳型下部の第2冷却部17bとから構成されている。第1冷却部17aは、鋳型17に保持されている溶湯の鋳型プール21のうち、液相が直接鋳型17に接しているメニスカス部21aに対応した部分からそれより上方までに設けられており、第2冷却部17bは、鋳型プール21が固相を介して接している部分およびそれより下方に設けられており、これら鋳型壁の厚さは第1実施形態とは異なり、一定である。
【0048】
鋳型17の外側には、それぞれ独立した領域に分割された流路に、鋳型17の第1冷却部17aを冷却する第1冷却媒体17dと、第2冷却部17bを冷却する第2冷却媒体17eが供給されている。これら冷却媒体は、第1冷却媒体17dの方が、第2冷却媒体17eと比較して温度が高くなるよう構成されており、第1冷却部17aの抜熱量が小さく、第2冷却部17bの抜熱量が大きい。
【0049】
これにより、第1冷却部17aにおいては比較的冷却が穏やかであり、鋳型プールが高温に保たれるため、メニスカス部21aを長く形成することができ、一方、第2冷却部17bにおいては冷却が比較的急速になるので、凝固が進行し、鋳型プールの底部の固液境界面21bは、放物線形状と比較して広がる形状、すなわち鋳型プールを浅くすることができる。これにより、鋳型プール21内の底部近傍でも溶湯成分の混合が促進され、かつ抜き出されるインゴットに対して溶融部である鋳型プールの底部が影響を及ぼすことが抑制され、その結果、鋳肌が優れたインゴットを製造することができる。
【0050】
第3実施形態(1種類の冷却媒体+単一のコイルを備えた鋳型)
図4(a)は、本実施形態に係る鋳型18の拡大図である。鋳型18は、鋳型上部の第1冷却部18aと、鋳型下部の第2冷却部18bとから構成されている。第1冷却部18aは、鋳型18に保持されている溶湯の鋳型プール21のうち、液相が直接鋳型18に接しているメニスカス部21aに対応した部分からそれより上方までに設けられており、第2冷却部18bは、鋳型プール21が固相を介して接している部分およびそれより下方に設けられており、これら鋳型壁の厚さは、一定である。
【0051】
鋳型18の外側には、単一のコイルが巻きつけられており、第1冷却部18aに相当する部分では、コイルは相対的に疎に巻きつけられており、第2冷却部18bに相当する部分では、コイルは相対的に密に巻きつけられており、このコイル内に冷却媒体18dが供給されている。
【0052】
本実施形態では、第1冷却部18aにおいてはコイルの本数が少なく、第2冷却部18bにおいてはコイルの本数が多いので、抜熱量がこれらのコイル本数に比例し、第1冷却部18aの抜熱量が小さく、第2冷却部18bの抜熱量が大きい。
【0053】
これにより、第1冷却部18aにおいては比較的冷却が穏やかであり、鋳型プールが高温に保たれるため、メニスカス部21aを長く形成することができ、一方、第2冷却部18bにおいては冷却が比較的急速になるので、凝固が進行し、鋳型プールの底部の固液境界面21bは、放物線形状と比較して広がる形状、すなわち鋳型プールを浅くすることができる。これにより、鋳型プール21内の底部近傍でも溶湯成分の混合が促進され、かつ抜き出されるインゴットに対して溶融部である鋳型プールの底部が影響を及ぼすことが抑制され、その結果、鋳肌が優れたインゴットを製造することができる。
【0054】
第4実施形態(2種類の冷却媒体+2種類のコイルを備えた鋳型)
図5(a)は、本実施形態に係る鋳型19の拡大図である。鋳型19は、鋳型上部の第1冷却部19aと、鋳型下部の第2冷却部19bとから構成されている。第1冷却部19aは、鋳型19に保持されている溶湯の鋳型プール21のうち、液相が直接鋳型19に接しているメニスカス部21aに対応した部分からそれより上方までに設けられており、第2冷却部19bは、鋳型プール21が固相を介して接している部分およびそれより下方に設けられており、これら鋳型壁の厚さは、一定である。
【0055】
鋳型19の外側には、2種類の冷却媒体がそれぞれ独立して供給されるようにコイルが巻きつけられており、第3実施形態とは異なり、第1冷却部19aに相当する部分のコイルと、第2冷却部19bに相当する部分のコイルは互いに独立している。そして、第1冷却部19aのコイルには、相対的に温度の高い第1冷却媒体19dが供給されており、第2冷却部19bのコイルには、相対的に温度の低い第2冷却媒体19eが供給されている。
【0056】
本実施形態では、第1冷却部19aにおいては相対的に高温の冷却媒体が供給されており、第2冷却部19bにおいては相対的に低温の冷却媒体が供給されているので、第1冷却部19aの抜熱量が小さく、第2冷却部19bの抜熱量が大きい。
【0057】
これにより、第1冷却部19aにおいては比較的冷却が穏やかであり、鋳型プールが高温に保たれるため、メニスカス部21aを長く形成することができ、一方、第2冷却部19bにおいては冷却が比較的急速になるので、凝固が進行し、鋳型プールの底部の固液境界面21bは、放物線形状と比較して広がる形状、すなわち鋳型プールを浅くすることができる。これにより、鋳型プール21内の底部近傍でも溶湯成分の混合が促進され、かつ抜き出されるインゴットに対して溶融部である鋳型プールの底部が影響を及ぼすことが抑制され、その結果、鋳肌が優れたインゴットを製造することができる。
【0058】
変形例(テーパ部を備えた鋳型)
【0059】
以上説明した各実施形態における鋳型16〜19には、図2(b)、図3(b)。図4(b)、図5(b)に示すように、第2冷却部16b〜19bの下端部に、テーパ部16c〜19cを設けることができる。テーパ部16c〜19cは、下方向へ向かうほど鋳型内面が縮径して厚さが増加するように構成されている。
【0060】
前記テーパー部16c〜19cを設けることにより、鋳型16〜19に抜き出されたインゴットの表面に応力を絞りを加えることができ、その結果、鋳肌を改善することができるという効果を奏するものである。
【0061】
本発明におけるテーパ部のテーパ角θは、1°〜5°とすることが好ましい。テーパ角θが1°未満の場合には、鋳肌の改善効果が顕著に現れず、また、5°超では、鋳型からインゴットを抜き出すことができなくなってしまう。
【0062】
本発明の各実施形態におけるテーパ部を設けない場合の第1冷却部および第2冷却部の長さの関係は、第1冷却部:第2冷却部=45〜55:45〜55であることが好ましく、テーパ部を設ける場合は、第1冷却部:第2冷却部(テーパ部以外):テーパ部=(45〜55):(20〜25):(20〜25)であることが好ましい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例および比較例により本発明をより詳細に説明する。
下記の装置構成および条件にて、実施例および比較例のチタンインゴットを溶製した。
1.溶解原料
スポンジチタン(粒度範囲:1〜20mm)
2.装置構成
1)ハース:水冷銅ハース
2)鋳型:
タイプ1:図2に示す増厚部付き鋳型
上部テーパ角=10°
タイプ2:図3に示す増厚部+平行部+テーパ部付き鋳型
上部テーパ角=10°
下部テーパ角=1°
増厚部長さ:平行部長さ:テーパ部長さ=50:25:25
タイプ3:図5に示す内面セラミックライニング鋳型
【0064】
[実施例1]
上記タイプ1の増厚部付き鋳型を用いて、スポンジチタンの電子ビーム溶解を行い、500kgのインゴットを溶製した。溶製されたインゴットの表面の鋳肌を目視で観察し、これを評価し、表1に示した。
【0065】
[実施例2]
上記タイプ2の増厚部+平行部+下部テーパ付き鋳型を用いた以外は実施例1と同じ条件で、500kgのインゴットを溶製した。溶製されたインゴットの表面の鋳肌を目視で観察し、これを評価し、表1に示した。
【0066】
[比較例1]
上記タイプ3のセラミックライニング鋳型を用いた以外は実施例1と同じ条件で、500kgのインゴットを溶製した。溶製後、鋳型内面の状況を肉眼で観察したところ、内面に内張りしたセラミックライニングが消滅していた。
【0067】
【表1】

【0068】
[実施例3]
図2に示した鋳型のテーパ角を種々変更した以外は実施例2と同じ条件にて、鋳型から抜き出されたインゴットの鋳肌の状況とインゴットの抜き出し状況について調査した。その結果を表2に示す。
【0069】
テーパ角が0°のとき、即ち、図2に示すような増厚部のみを有しテーパ部を有さない鋳型の場合に比べて、テーパ角が1〜5°では、優れた鋳肌を示すことが確認された。しかしながらテーパ角が7°では、インゴットを抜き出す際に鋳型と競りが発生してしまい引き抜くことはできなかった。よって、本発明におけるテーパ角は、1°〜5°が好ましい範囲であることが確認された。
【0070】
【表2】

【0071】
[実施例4]
鋳型頂部壁の増厚部の壁厚みを2倍、3倍および4倍に変更した以外は実施例1と同じ条件にて、それぞれの場合に生成されたインゴットの鋳肌を調査した。その結果、前記増厚部の壁厚みが、2倍以上の場合には、生成インゴットの鋳肌の改善効果が認められたが、2倍未満の場合には、鋳肌の顕著な改善効果は認められなかった。よって、本願発明における鋳型増厚部の壁厚みは、鋳型壁平行部の壁厚みを2倍以上に構成することにより、鋳肌の改善効果が認められた。
【0072】
【表3】

【0073】
以上の実施例・比較例により、本願発明に係る鋳型を用いることにより、優れた鋳肌を有するインゴットを溶製できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、金属溶製用の電子ビーム溶解炉に関し、特に、鋳肌の優れたインゴットを溶製することができる金属溶製用溶解炉を提供するものである。
【符号の説明】
【0075】
10…原料供給装置
11…原料フィーダ
12…原料
13…ハース
14、15…電子銃
16〜19…鋳型
16a〜19a…第1冷却部
16b〜19b…第2冷却部
16c〜19c…テーパ部
16d〜19d…(第1)冷却媒体
17e、19e…第2冷却媒体
20…溶湯
21…鋳型プール
21a…メニスカス部
21b…固液境界線
22…インゴット
30…引き抜き治具
40…溶解部
41…溶解部外筒
50…引き抜き部
51…引き抜き部外筒
60…鋳型
61…セラミック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部が開放された鋳型を有する溶解炉であって、前記鋳型壁の頂部から底部に向かって単調に減少する温度分布を有し、前記温度分布の中に少なくとも1個以上の変曲点を有することを特徴とする金属溶製用溶解炉。
【請求項2】
前記鋳型は、第1冷却部と第2冷却部から構成されており、
前記第1冷却部は、鋳型壁の厚みが鋳型の上方向に向かって増厚される増厚部であり、
前記第2冷却部は、鋳型壁の厚さが一定に構成された平行部であることを特徴とする請求項1に記載の金属溶製用溶解炉。
【請求項3】
前記第1冷却部と第2冷却部に供給される冷媒が共通していることを特徴とする請求項2記載の金属溶製用溶解炉。
【請求項4】
前記鋳型に流通させる冷却媒体は、前記第1冷却部を抜熱する第1冷却媒体と、前記第2冷却部を抜熱する第2冷却媒体からなり、それぞれが独立して供給されるものであり、
前記第1冷却媒体の温度は、前記第2冷却媒体の温度よりも高いことを特徴とする請求項2に記載の金属溶製用溶解炉。
【請求項5】
前記鋳型に流通させる冷却媒体は、前記第1冷却部と第2冷却部とに共通して供給されるものであり、
前記冷却媒体は、前記第1冷却部に相対的に疎に巻き付けられたコイル内と、前記第2冷却部に相対的に密に巻き付けられたコイル内を連続して流通させるものであることを特徴とする請求項2に記載の金属溶製用溶解炉。
【請求項6】
前記鋳型の外部に流通させる冷却媒体は、前記第1冷却部を抜熱する第1冷却媒体と、前記第2冷却部を抜熱する第2冷却媒体からなり、それぞれが独立して供給されるものであり、
前記第1冷却媒体は、前記第1冷却部に巻き付けられたコイル内を流通させるものであり、
前記第2冷却媒体は、前記第2冷却部に巻き付けられたコイル内を流通させるものであり、
前記第1冷却媒体の温度は、前記第2冷却媒体の温度よりも高いことを特徴とする請求項2記載の金属溶製用溶解炉。
【請求項7】
前記第2冷却部の下方に、鋳型の下方向に向かって鋳型内面が縮径するようなテーパ部が形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の金属溶製用溶解炉。
【請求項8】
前記テーパ部を構成するテーパ角は、鉛直方向に対して1°〜5°の範囲とすることを特徴とする請求項7に記載の金属溶製用溶解炉。
【請求項9】
前記溶製される金属が、金属チタンインゴットまたはチタン合金インゴットであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の金属溶製用溶解炉。
【請求項10】
前記金属溶製用溶解炉が、電子ビーム溶解炉またはプラズマアーク溶解炉であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の金属溶製用溶解炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−228722(P2012−228722A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99402(P2011−99402)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(390007227)東邦チタニウム株式会社 (191)
【Fターム(参考)】