金属溶解用ルツボ及びその表面処理方法
【課題】既存の酸化カルシウムを主成分とする金属溶解用ルツボの表面を改質して、溶損が少なくさらに強度が向上して寿命が延びる金属溶解用ルツボ及びその表面処理方法を提供する。
【解決手段】真空溶解炉で使用される酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボにおいて、前記ルツボの焼成後内表面または外表面に有機溶媒に分散されたジルコニア(ZrO2)を、または液状のジルコニウムキレートを塗布して焼成することにより、前記ルツボ内表面、または外表面をCaO−ZrO2共晶を含む混合物とする。
【解決手段】真空溶解炉で使用される酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボにおいて、前記ルツボの焼成後内表面または外表面に有機溶媒に分散されたジルコニア(ZrO2)を、または液状のジルコニウムキレートを塗布して焼成することにより、前記ルツボ内表面、または外表面をCaO−ZrO2共晶を含む混合物とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物含量の少ない高純度合金を製造する真空溶解の技術に関するものであり、特に、真空溶解に用いる金属溶解用のルツボの改質および強度向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
材料に含まれる不純物元素であるC、N、O、S等は、合金の加工性、靱性、耐食性等を低下させるという問題を生じるとともに、また、材質が均一化されにくく製造工程において歩留まりを低下させ材料の特性を最大限に発揮できないという問題を起こしていた。そのため、これらの不純物を低減させて、金属を超高純度化し、材料の特性を最大限に発揮する方法が種々検討されており、その1つの方法として真空誘導溶解炉(VIM)を用いて高真空下で溶解・精錬する方法が知られている。
【0003】
この真空溶解に用いられる溶解用ルツボの概略図を図12に示す。
真空溶解法の概要は、まず、ルツボ1に溶解する金属材料2を入れ、その後、ルツボ内を排気し、アルゴン(Ar)ガスで置換することによってルツボ1内の酸素量を低いレベルにする。そしてArガス雰囲気下で金属材料2が溶け液体になる(溶落)。その後、溶融温度が目標温度に達した後、脱酸剤であるアルミニウム(Al)を添加して、出鋼する。
金属材料の特性は酸化物を作る酸素が材質に影響し、真空溶解は、酸素量を極限まで減らすことができるため、材料特性を飛躍的に向上させることができるが、微量の酸素は残る。そこで脱酸効果の高い脱酸剤であるAlを添加することで、微量酸素も取り除いている。
また、金属中のSやOを効果的に低減させるため、真空溶解では、溶鋼を清浄にする効果のあるカルシア(CaO)ルツボが使われている。
【0004】
しかしながら、このように真空溶解で用いるCaOルツボは、激しい溶損減肉により3〜5回の使用で、交換せねばならず、ルツボの寿命が短いという問題があり、特に、図12に示した溶鋼界面に近い側面3や、ルツボ底に近い側面4では溶損が激しい。
図13に寿命に達したルツボの図12におけるA部拡大図を示す。図13に示すように、本来白色であるCaOルツボ1の金属材料2との界面から一部が変色しており、この変色部5をX線回折で確認したところ、CaO−Al2O3共晶が検出された。
このことは、CaOルツボの損傷は、溶鋼の脱酸に用いられるAlとの反応による低融点化合物の生成によるところが大きく影響していることが判明した。そして、このCaO−Al2O3共晶の融点は状態図から調べると、約1400℃であることが分かり、また、真空溶解においては、例えば金属材料として鉄を溶解する際には溶解温度を約1560〜1600℃にする必要がある。
【0005】
以上のことから、真空溶解で用いるCaOルツボが、激しい溶損減肉によって寿命が短くなる原因は、脱酸剤であるAlがルツボの主成分であるCaOと反応してCaO−Al2O3共晶が生成し、該CaO−Al2O3共晶の融点が鉄(Fe)材料の溶解温度よりも低いため、鉄(Fe)材料溶解時にCaO−Al2O3共晶も鉄材料と共に溶解され溶損が進展するという、化学的侵食であることが判明した。
【0006】
真空溶解に用いるルツボの化学的侵食を防ぐ対策として、例えば特許文献1には、無機質耐火物よりなるルツボの内周面を含む器壁の表面にジルコニア(ZrO2)を残留させた金属溶解用ルツボが示されている。
【0007】
しかし、特許文献1に開示されたルツボの器壁の表面に残留させるジルコニアは、ジルコニア化合物液を焼成面に塗布したのみである。この方法では、極微量のジルコニアが焼成されたカルシア表面に付着するだけであり、劇的な効果は得られ難い。塩から析出する単斜晶ジルコニアは、量的に少ないことと安定な焼成面ではCaOが安定で反応しにくい。従って、本発明の様に研磨されたCaOルツボの器壁の表面でCaOとの反応による安定化ジルコニア層は、生成しないと考えられる。従って、室温では単斜晶系晶であるが、温度を上げると単斜晶から正方晶へ、さらに温度を上げると立方晶へ構造相転移することが知られており、この構造相転移は体積変化を伴うため、ルツボ表面から簡単に剥離してしまいCaOルツボの改質に寄与しないものである。そのため、ジルコニアをルツボに残留させる特許文献1に開示されたルツボは残留ジルコニアが破壊に至り、その後は化学的侵食を防げないという問題がある。
【0008】
さらに、特許文献1に開示された方法は、塩化ジルコニウム等の化合物の水溶液をルツボ内面に減圧含浸して、加熱することで空孔内に残留したジルコニウム化合物をジルコニアに転化しているが、CaOは水和性が高く、この方法を用いるとCaOが水により膨張するため、CaOルツボの基材を損傷してしまい適しないものである。
【0009】
また、真空溶解に用いるCaOルツボは、前記したような化学的侵食による減肉によって割れが生じて破損に至ることがあるが、CaOルツボ自体は他の材質のルツボに比べて低強度であるため、機械的強度不足、内部熱応力によって亀裂が発生しやすく、これらの原因で数回の溶鋼によって亀裂が発生し使用できなくなることもある。
【0010】
この機械的強度不足による亀裂は、出湯時にルツボを傾動した際にルツボ内部の溶鋼によってルツボ側面に作用する荷重に耐え切れずに割れを生じる場合がある。すなわち、図14に示すように、溶解試験後の割れの状況を調べたところ、亀裂11の位置が、溶鋼線12より下で且つ出湯口14側に生じていることが分かった。ルツボ1は図15(A)に示すように、加熱用の高周波コイル16とルツボ1との間にはラミング材18が介在されているが、このラミング材18は、アルミナ、カルシア等からなる粒子であり、空隙が粒子間に存在するため、図15(B)に示すように出湯の際にルツボ1を矢印R方向に傾動すると溶鋼20の重力Fによってルツボ1の側面はラミング材18を押しのけて変形し、ルツボ1の外面に引っ張り荷重が作用して亀裂が発生する。
【0011】
また、ルツボの内面と外面との熱落差による熱応力によって亀裂が発生する場合もある。
すなわち、ルツボは粗粒CaOと微粒CaOとを配合して成形・焼成したものであり、緻密な構造となっているため割れが生じやすく、さらに溶鋼の場合にはルツボ内面が約1600℃となるのに対してルツボ外面が800℃〜1000℃となっているため、内面と外面との間の熱落差が大きく熱応力の発生によって亀裂が発生する。
【0012】
【特許文献1】特開昭61−116284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明はかかる従来技術の問題点に鑑み、既存の酸化カルシウムを主成分とする金属溶解用ルツボの表面を改質して、溶損が少なくさらに強度が向上して寿命が延びる金属溶解用ルツボ及びその表面処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するため、本第1発明は、真空溶解炉で使用される酸化カルシウム(CaO)(以下カルシアという)を主成分とする金属溶解用ルツボにおいて、前記ルツボの焼成後内表面を研磨除去後に有機溶媒に分散されたジルコニア(ZrO2)を塗布して焼成することにより、前記ルツボ内周面にCaO−ZrO2共晶を含む混合物からなることを特徴とする。
【0015】
かかる発明によれば、前記ルツボ内周面にCaO−ZrO2共晶を析出させたことによって、融点が約2260℃となり、鉄の溶解温度の約1560〜1600℃以上となることによって、鉄材料と共に溶解され溶損が進展するという、化学的侵食を防止することができる。
すなわち、図11に示すCaO−ZrO2の状態図からわかるように、共晶融点は約2260℃を示している。この図11の状態図は、縦軸に温度、横軸にCaO−ZrO2中のZrO2のモル比(%)を表している。
【0016】
ここで、ルツボの内周面に塗布して焼成するジルコニア(ZrO2)について説明する。
ジルコニア(二酸化ジルコニウム、ZrO2)は、ジルコニウムの酸化物である。そしてジルコニアは室温で単斜晶系晶であり、温度を上げていくと正方晶、立法晶へと構造相が転移する。この相転移は体積変化を伴うため、焼結体は昇降温を繰り返すことによって破壊に至るが、ジルコニアのジルコニウムイオンの位置にカルシウムイオンやマグネシウムイオン、イットリウムイオンなどの元素を置換固溶させると、立方晶や準安定正方晶が生成し温度変化による構造相転移が起こらなくなるため、昇降温による破壊を抑制することができる。
【0017】
従って、本願発明ではジルコニウムイオンの位置にカルシウムイオンを置換固溶させて安定化させるために、焼成済みの既存CaOルツボ表面を研磨除去する。この状態をミクロ的に説明すると、焼成によって緻密になり表面積が小さく安定になったCaO表面を研磨することにより、CaOルツボ表面が粗くなり微粉のCaOも付着した状態である。この状態でCaOに対して安定なエタノールを塗布した後に、ZrO2微粉を分散させたスラリー液を塗布する。これにより、ZrO2粉とCaO粉が極めて近い位置に混在するため、これを乾燥後、1500℃以上の高温で焼成することにより、ルツボ内表面には、酸化カルシウム(CaO)で安定化させたCSZ(カルシア安定化ジルコニア)層が形成される。CSZは、温度変化による構造相転移が起こらなくなり、昇降温による破壊を抑制することができ、安定化したコーティング層を得ることができる。そして、前記のCaO−ZrO2共晶を析出させることによる溶損防止効果を安定的に得ることができる。
【0018】
また、第1発明において好ましくは、前記塗布するジルコニアが、ジルコニア(ZrO2)単体、またはジルコニア(ZrO2)にカルシウム、イットリウム、マグネシウム、ハフニウムが添加された部分安定化、または完全安定化ジルコニアのいずれかであることが望ましい。すなわち、塗布するジルコニアが、ジルコニア(ZrO2)の場合には前記したように焼成済みの既存CaOルツボ表面を研磨除去後に、塗布して焼成することでCSZ(カルシア安定化ジルコニア)層が形成されるので、ジルコニア(ZrO2)単体であってもよく、また、はじめから塗布するジルコニアをカルシウム(Ca)、イットリウム(Y)、マグネシウム(Mg)、ハフニウム(Hf)が添加された安定化ジルコニアの場合であってもよく、いずれの場合でもルツボ内周面にCaO−ZrO2共晶を析出させることによる溶損防止効果を安定的に得ることができる。
なお、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)の場合には、ジルコニア(ZrO2)に対して酸化カルシウムを略15モル%含む部分安定化ジルコニアであることが望ましい。
酸化カルシウムを略15モル%より多く含むと、変態を完全抑制した完全安定化ジルコニアになるため、添加剤の量を減らして、わずかに変態できるようにした部分安定化ジルコニアとすることで、機械的特性に優れるコーティング層を得ることができる。
【0019】
また、第1発明において好ましく、前記ルツボの焼成後外表面を研磨除去後に酸化アルミニウム(Al2O3)をあるいは酸化アルミニウム(Al2O3)を析出する材料を塗布して焼成することにより、前記ルツボ外表面がCaO−Al2O3共晶を含む混合物からなるとよい。
かかる発明によれば、ルツボ外表面にCaO−Al2O3共晶を析出させることによって引っ張り荷重が作用する外表面が高強度となり、ルツボの傾動時に外表面に亀裂が発生することを防止でき、ルツボの寿命を延長できる。
なお、このCaO−Al2O3共晶は、融点が約1400℃と鉄の溶解温度の約1560〜1600℃に比べて低いが、ルツボの内面でないため溶湯に触れることがなく溶損にいたることはない。
【0020】
また、好ましくは、前記酸化アルミニウム(Al2O3)を析出する材料がアルミキレート剤のアルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート(Al(OC3H7)2(C6H9O3))であるとよい。
かかる発明によれば、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート(Al(OC3H7)2(C6H9O3))(具体的には川研ファインケミカル(株)製の商品名ALCH(アルミアルコキシド))を塗布して焼成することによって、Al2O3が析出し、その結果、強度向上効果を得ることができる。
【0021】
また、第1発明において好ましく、前記ルツボを構成する0.1〜0.3mmの細粒のCaOの一部を酸化アルミニウム(Al2O3)と酸化ケイ素(SiO2)とを主成分とする中空セラミックスで構成するとよい。
かかる発明によれば、細粒の一部に中空セラミックス(具体的には宇部興産(株)製の商品名E−SPHERES)を混入することで、熱変形を中空セラミックスの中空部で吸収することによって、熱応力による亀裂の発生を回避でき、熱応力に強いルツボを形成することができる。
【0022】
次に、本第2発明は、真空溶解炉で使用される酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボにおいて、前記ルツボの焼成後内表面または外表面に液状のジルコニウムキレートを塗布して焼成することにより、内面または外面がCaO−ZrO2共晶を含む混合物からなることを特徴とする。
かかる発明によれば、内表面または外表面に液状のジルコニウムキレートを塗布すると、表面から浸透したジルコニウムキレートの液体中のジルコニア(ZrO2)は、液状のためジルコニア(ZrO2)粉末スラリーを表面に塗布する場合に比べて、表面から深くまで浸透可能であるので、表面から深くまでCaO−ZrO2共晶を析出することができ、表層の内部まで強度を向上することができる。
【0023】
次に、本第3発明、および第4発明は金属溶解用ルツボの表面処理方法に係る発明であり、第3発明によれば、真空溶解炉で使用する酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボの表面処理方法において、前記酸化カルシウム(CaO)を主成分とするルツボの内表面を研磨して、エタノールを塗布した後、該内表面にジルコニア(ZrO2)及び分散剤のエタノールスラリーを塗布し、前記エタノールが揮発した後に焼成することにより、前記ルツボの内表面にCaO−ZrO2共晶を析出させることを特徴とする。
【0024】
かかる発明によれば、前記酸化カルシウム(CaO)を主成分とするルツボの内表面を研磨するため、表面が平滑化されると共にコート面に研磨によって発生したCaO粉が残るため塗布したジルコニア粉と混在した状態になる。
また、エタノールを塗布することで、ジルコニア(ZrO2)を均一の厚さに塗布することができる。すなわち、このエタノールの塗布を省略すると、ジルコニア溶媒のエタノールがルツボに吸収され、ジルコニア層の厚さが不均一になるため、前もってエタノールを塗布したルツボにスラリーを塗布することにより、ジルコニアの含浸および表面層の厚さを均一にすることができる。
【0025】
第3発明において好ましくは、前記カルシアルツボに塗布するジルコニアが、ジルコニア(ZrO2)単体、またはジルコニア(ZrO2)にカルシウム、イットリウム、マグネシウム、ハフニウムが添加された部分安定化、または完全安定化ジルコニアのいずれかであることが望ましい。
【0026】
また、第3発明において好ましくは、金属溶解用ルツボの表面処理方法において、前記ルツボの外表面を研磨して、酸化アルミニウム(Al2O3)あるいは酸化アルミニウム(Al2O3)を析出する材料を塗布した後、焼成することにより、前記ルツボ外表面にCaO−Al2O3ZrO2共晶を含む混合物を形成するとよい。
かかる発明によれば、ルツボ外表面をCaO−Al2O3共晶を含む混合物とすることによって引っ張り荷重が作用する外表面が高強度となり、ルツボの傾動時に外表面に亀裂が発生することを防止でき、ルツボの寿命を延長できる。
【0027】
さらに、本第4発明によれば、真空溶解炉で使用する酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボの表面処理方法において、前記酸化カルシウム(CaO)を主成分とするルツボの内表面または外表面に、液状のジルコニウムキレートを塗布して焼成することにより、前記ルツボの内表面または外表面にCaO−ZrO2共晶を含む混合物を形成することを特徴とする。
かかる発明によれば、内表面または外表面に液状のジルコニウムキレートを塗布すると、表面から浸透したジルコニウムキレートの液体中のジルコニア(ZrO2)は、液状のためジルコニア(ZrO2)粉末スラリーを表面に塗布する場合に比べて、表面から深くまで浸透可能であるので、表面から深くまでCaO−ZrO2共晶を析出することができ、表層の内部まで強度を向上することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の酸化カルシウムを主成分とする金属溶解用ルツボ及びその表面処理方法によれば、既存の酸化カルシウムを主成分とする金属溶解用ルツボの表面を改質することで、溶損が少なくさらに強度が向上して寿命が延びる金属溶解用ルツボを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0030】
まず、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
参照する図面において、図1は、実施例1及び実施例2のフロー図である。図2は、図1の手順で製作した実施例1に係る金属溶解用ルツボおよび既存の金属溶解用ルツボを用いての溶解実験の手順を示すフロー図である。図3は、その実験結果を示す本発明に係る金属溶解ルツボの破断面を示す説明図であり、図10の従来技術に対応する説明図である。図4は、実施例1に係る金属溶解用ルツボと既存の金属溶解用ルツボとの実験結果を示す比較図であり、(A)はルツボ内の酸素量(O)の比較図であり、(B)はアルミ量(Al)の比較図であり、(C)は硫黄量(S)の比較図である。図5は、実施例2の曲げ試験の試験片の形状を示す説明図であり(A)は側面図、(B)は正面図を示す概略図である。
【0031】
図6は、実施例2のCaO粒子の模式図であり、(A)は改質を行わない従来の状態を示し、(B)は外面側にCaO−Al2O3の共晶を析出させた状態を示す説明図である。図7は、実施例3のCaO粒子の模式図であり、(A)は改質を行わない従来の状態を示し、(B)は中空セラミックスを含めた説明図である。
【0032】
図8は、実施例4の液体のジルコニウムキレートを塗布する手順を示すフロー図である。図9は、実施例4における比較試験をした成分を示す図表である。図10は、比較試験の結果を示す説明図である。
【0033】
酸化カルシウムを主成分とする金属溶解用ルツボの内面にカルシア安定化ジルコニア(CSZ)を塗布してCaO−ZrO2共晶を析出させる手順、およびルツボの外面に酸化アルミニウム(Al2O3)をあるいは酸化アルミニウム(Al2O3)を析出する材料を塗布してCaO−Al2O3を析出させる手順について説明するが、その前に、酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボ1について説明する。
金属溶解用ルツボ1は、真空溶解炉用の真空誘導溶解炉(VIM)を用いる。ルツボは予め焼成したものでも、炉内でスタンプしたものでも、あるいはレンガで内張りされたものでもよい。より高純度の材料を溶製する場合には、精錬時にルツボ中の不純物成分が溶湯中にピックアップされることがあるため、90質量%以上の純度のカルシアルツボを用いると不純物の混入は最小に抑えられる。
【0034】
また、CaOルツボは合金中のSやOを効果的に低減させるために、CaOクリンカーを予め焼成したCaOルツボあるいはCaOクリンカーをスタンプしたルツボを用いる。また、焼成したCaOルツボはバイダーからのCによって汚染されることが多いため、より高純度の材料を溶解する場合には、前もって洗い、溶解を行ない、Cなどの汚染物質を除去する。さらに、CaOルツボは吸湿しやすいのでベーキングにより溶解前に付着水分、吸着物の除去を十分に行なうことが好ましい。
【実施例1】
【0035】
次に、図1を参照して、前記のように製作された既存のCaO金属溶解用ルツボの内面に、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)を塗布してCaO−ZrO2共晶を析出させる手順について説明する。
まず、塗布すべき材料を準備する(S1)。この材料は、下記表1に示す材料を混合して作成する。分散材は、CSZ粉末の分散を良くするもので不可欠であり、エタノールを溶媒としてスラリーを作る。
【0036】
【表1】
【0037】
CSZは、ジルコニアに酸化カルシウム(CaO)を添加して安定化させたCSZ(カルシア安定化ジルコニア)を用いる。安定化させたCSZ(カルシア安定化ジルコニア)を用いることで、温度変化による構造相転移が起こらなくなるため、昇降温による破壊を抑制することができ、安定化したコーティング層を得ることができる。塗布する粉末は、CaOを含まないZrO2でもよく、この場合にはルツボの表面の研磨によって発生したCaO粉と焼成後反応してCSZになるためであるが、相の均一性の面で最初から固溶されたCSZ粉の方が望ましい。
なお、本実施例においては最初から固溶されたCSZを塗布する場合について説明しているが、安定化させるために酸化カルシウム(CaO)でなく、酸化イットリウム(Y203)を添加して安定化させイットリア安定化ジルコニア(YSZ)を用いてもよい。さらに酸化マグネシウム、酸化ハフニウムであってもよい。
【0038】
前記カルシア安定化ジルコニア(CSZ)は、ジルコニア(ZrO2)に対して酸化カルシウムを略15モル%含む部分安定化ジルコニアとすることが望ましい。
酸化カルシウムを略15モル%より多く含むと、変態を完全抑制した完全安定化ジルコニアになるため、添加剤の量を減らして、わずかに変態できるようにした部分安定化ジルコニアとすることができ、機械的特性に優れるコーティング層を得ることができる。
【0039】
次に、前記混合材料のエタノールと分散剤とを混合し10分後にCSZ粉末を少量づつ添加し攪拌機(マグネットスターラー)によって3時間攪拌する(S2)。その後、ルツボの前処理を行なう(S3)。この前処理は、ダイヤモンドペーパーで表面を平滑にすることと、焼成によって安定化したCaO層を取り除くことにある。これによって、表面に凹凸が発生すると共に活性な微粒CaOが残留するため、ZrO2粉が定着しやすくなる。次に、エタノールの塗布、およびスラリーの塗布を行なう(S4)。エタノールを塗布することで、CSZを均一の厚さに塗布することができる。すなわち、このエタノールを塗布を省略すると、CSZ溶媒のエタノールがルツボに吸収され、CSZ層の厚さが不均一になるため、前もってエタノールを塗布したルツボにスラリーを塗布することにより、CSZの含浸および表面層の厚さが均一化する。
なお、エタノールの塗布は刷毛での塗布でも、ルツボに流し込んで排出する方法でもよい。ルツボに流し込んで排出する方法では、より均一な厚みを得ることができる。但し、これまでの実験結果では前述の刷毛や流し込んで排出することによるコート厚さより薄いコート厚さでも安定な効果が得られることから、スプレーでも十分である。
なお、CSZのコート厚さは、ルツボ厚み(例えば15mm)に対して特に限定されるものではないが、安定的な効果が得られるだけの含浸方向に対する厚みが必要であることは言うまでもない。
【0040】
次に、コートしたルツボは、自然乾燥或いは熱風乾燥炉で50℃、2時間の乾燥を行なう(S5)。CaOは吸湿すると水和物を作り体積膨張により崩壊する。これを防止するため、エタノール揮発後に、速やかに乾燥するのが望ましい。
次に、1600℃を保持して1時間焼成する(S6)。焼成によって、CSZの粉体は、CaOと反応して高融点のCaO−ZrO2の共晶を作る。
そして最後に、ビニール袋で密閉するとともに乾燥剤のシリカゲルを入れて保管する(S7)。
【0041】
次に、前記のカルシア安定化ジルコニア(CSZ)でコーティングされた金属溶解用ルツボを用意し、金属材料としてFeを対象に確認実験を行った。そのときの真空溶解手順について図2を参照して説明する。
まず、ルツボに付着した水分等を十分に気化除去するための加熱処理をし、すなわちベーキング処理をするとともに、0.4Torrの真空下で真空引きをおこなう(S1)。ルツボの水分が十分除去できて、真空度が安定する時点まですることが好ましい。
【0042】
その後、ドライなArガス雰囲気としてエアリークを抑え高真空状態に保つために、Arガスを導入する(S2)。なお、Arガス導入の際は、その直前に真空引きを停止するため、真空度低下がおこりやすいので、それを避けるため可能な限り速やかにArガスを導入し、大気から真空タンク内へのN2の侵入を防止するためにArガスは、1atm、20リッター/分で10分間導入し炉内に封じる。
【0043】
その後加熱を続け(S3)、Arガスの雰囲気下で溶解原料のFeが溶け落ち(S4)、さらに溶湯温度を測温し(S5)、目標温度に達した後、脱酸剤のアルミニウム(Al)を添加し、脱酸精錬する(S6)。そして3分経過後に出鋼して(S7)、10分間放置してルツボを開放する。
【0044】
以上の実験手順によって溶解を3回行い、その後ルツボの内面への溶鋼の差込み状況を破断面から確認したところ、図3に示すように、従来のCSZを塗布していないルツボにおいては図6に示すように変色部5が確認されたが、図3に示すように、CSZ塗布部10からCaOルツボ内方へは変色部5に相当する部分はなく、溶損による減肉がされていないことが確認された。
【0045】
比較例として、次の3ケースのルツボについて実験を行った。第1のルツボは、CSZを塗布していない多孔質のCaOルツボの場合。第2のルツボは、第1のルツボと同様であるがAl脱酸処理を行わなかった場合。第3のルツボは、CSZを塗布していない緻密なCaOルツボの場合。第4のルツボは、本実施例に係るCSZを塗布したルツボの場合である。
【0046】
なお、比較実験条件は、第2のルツボのAl脱酸処理を行わなかった以外は、前記実施例の確認実験の条件と同一で行なった。
比較実験結果を、図4を参照して説明する。
各グラフの線Wは第1のルツボを示し、線Xは第2のルツボを示し、線Yは第3のルツボを示し、線Z線は第4のルツボを示す。
【0047】
図4(A)は、溶解回数(チャージ回数)に対する、溶解ルツボ内の酸素(O)量の変化を示す。本実施例に係るルツボを示す線Zは、酸素濃度が殆ど変化していないことが分かる。すなわち、酸素源としてのCaOルツボの溶損が生じていないことが分かる。また、線Yの第3のルツボも酸素量の変動が少ないことが分かる。これは、第1、第2のルツボに比較して緻密なため、溶損しにくいためである。また当然に脱酸しない第2のルツボは酸素量が多いことが分かる。
【0048】
図4(B)は、溶解回数(チャージ回数)に対する、溶解ルツボ内のアルミニウム(Al)量の変化を示す。本実施例に係るルツボを示す線Zは、Alの残留量が多いことが分かる。すなわち、ルツボのCaOと脱酸剤のAlが反応してCaO−Al2O3共晶が析出されることによってAlが消費されてなく、ルツボの溶損が生じていないことが分かる。
【0049】
図4(C)は、溶解回数(チャージ回数)に対する、溶解ルツボ内の硫黄(S)量の変化を示す。本実施例に係るルツボを示す線Zは、他のルツボに対してS濃度が低いことが分かる。これは、CaOルツボは、本来的に脱S効果が高いことであるが、CaOルツボにCSZを塗布しても、依然を高い脱S効果が維持されていることが確認された。
【0050】
以上のように、本実験によって、CSZを塗布したCaOルツボは、既存のCaOルツボの特徴を活かしながら、溶損を抑えることが確認された。すなわち、CaOルツボの内周面にCaO−ZrO2共晶を析出させたことによって、融点が約2260℃となり、鉄の溶解温度の約1560〜1600℃以上となることで、鉄材料の溶解と共にCaOルツボの溶損が進展されるという、化学的侵食を防止できたことが確認された。
【0051】
なお、上記実施例においては、新品のCaOルツボを作成してその内面にカルシア安定化ジルコニア(CSZ)を塗布することを説明したが、このCaOルツボは、既に何回か溶解作業をしたものであっても、その内面の腐食層を研磨して新生面を形成して、その後、図1のダイヤモンドペーパーで表面を平滑にするルツボ前処理(S3)を行なってからスラリー塗布をすることで、溶損が少なく耐久性を向上した金属溶解用ルツボを得ることができことは勿論である。
【0052】
さらに、上記実施例においては、CaOルツボの表面にカルシア安定化ジルコニア(CSZ)を塗布することを説明したが、塗布せずに、CaOルツボを構成する粗粒CaOと微粒CaO自体を、CSZとCaOとが混合された状態の粗粒、微粒を用いて、ルツボを焼結することで、ルツボの原料自体からCSZを混入するように構成しても同様の効果を奏することは勿論である。
【実施例2】
【0053】
次に、ルツボの外表面に酸化アルミニウム(Al2O3)を、あるいは酸化アルミニウム(Al2O3)を析出する材料を塗布してCaO−Al2O3を析出させる手順について説明する。
手順は図1の前記したCaO−ZrO2共晶を析出させる手順と同様であるため、図1のフローに基づいて、説明をする。
【0054】
まず、塗布すべき材料であるアルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート(Al(OC3H7)2(C6H9O3))(具体的には川研ファインケミカル(株)製の商品名ALCH(アルミアルコキシド))を準備する(S1)。分子式からの析出量は16.4%だが、Al2O3が9.8%析出する希釈液を作る(S2)。そして次にルツボの前処理を行う(S3)。ダイヤモンドペーパーで表面を平滑にすることと、焼成によって安定化したCaO層を取り除くことにある。これによって、表面に凹凸が発生すると共に活性な微粒CaOが残留するため、Al2O3粉が定着しやすくなる。次に、エタノールの塗布、および前記希釈液をルツボの外面に刷毛塗りして塗布を行なう(S4)。次に、コートしたルツボを、自然乾燥或いは熱風乾燥炉で50℃、2時間の乾燥を行なう(S5)。CaOは吸湿すると水和物を作り体積膨張により崩壊する。これを防止するため、エタノール揮発後に、速やかに乾燥するのが望ましい。
次に、1600℃を保持して1時間焼成する(S6)。焼成によって、Al2O3の粉体は、CaOと反応してCaO−Al2O3の共晶を作る。
最後に、ビニール袋で密閉するとともに乾燥剤のシリカゲルを入れて保管する(S7)。
【0055】
次に、前記のCaO−Al2O3の共晶で外面がコーティングされた金属溶解用ルツボを用意し、曲げ強度試験を行い、ルツボの外面をCaO−Al2O3の共晶でコーティングされていないものとの対比を行った。
試験片30の形状は図5(A)、(B)に示すような例えば6×8×45mm長さの矩形断面の棒状材を用いて、引張り面側をCaO−Al2O3の共晶のコーティング層36によってコートさせ、中央部に荷重Pを作用させたときの曲げ強さを比較した。 その結果、具体的な試験結果によれば改質前には118(Kgf/cm2)であった曲げ強さが、改質後には136(Kgf/ cm2)に向上して約15%の強度向上が得られたことが確認された。
【0056】
本実施例による改質のCaO粒子の模式図を図6(A)、(B)に示す。図6(A)は改質を行わない場合の粒子状態であり、粒度1mm〜3mmの粗粒32が重量比率で約40%と粒度0.1mm以下の微粒34とを含んで構成されていることを示し、図6(B)は外表面側UをCaO−Al2O3の共晶のコーティング層36によってコートされていることを示している。
【0057】
以上の実施例によれば、ルツボ外表面にCaO−Al2O3共晶を析出させることによって引っ張り荷重が作用する外表面が高強度となり、ルツボの傾動時に外表面に亀裂が発生することが防止され、ルツボの寿命を延長できる。
実施例1によるルツボ内面の改質と実施例2のルツボ外面の改質との両方を施すことによって、溶鋼による侵食の防止とルツボ傾動時の亀裂発生の防止とが相俟って寿命の長いルツボを形成することができる。
【実施例3】
【0058】
次に、ルツボ1の本体を構成するCaOの細粒の一部を中空セラミックスによって構成する実施例3について説明する。
粒度が0.1〜0.3mmの細粒38の一部を酸化アルミニウム(Al2O3)と酸化ケイ素(SiO2)とを主成分とする中空セラミックスで構成する。この中空セラミックスは具体的には、宇部興産(株)製の商品名E−SPHERESを混入する。
【0059】
本実施例によるCaO粒子の模式図を図7(A)、(B)に示す。図7(A)は従来のルツボで粒度1mm〜3mmの粗粒32が重量比率で約40%と粒度0.1mm以下の微粒34を含んで構成されていることを示し、図7(B)には中空セラミックス46を含む構成が示されている。
なお、溶鋼側には、実施例1で説明したカルシア安定化ジルコニア(CSZ)もしくはジルコニア(ZrO2)をコート44させた状態を示している。
【0060】
以上の実施例によれば、熱変形を中空セラミックス46の中空部で吸収するため、熱応力による亀裂の発生を回避でき、熱応力に強いルツボを得ることができる。
なお、実施例3で説明したCaOの粒度比率の調整や中空セラミックスについては実施例1、2の構成に追加して構成してもよいことは勿論である。
【実施例4】
【0061】
次に、ルツボ1の焼成後に、内表面または外表面に液状のジルコニウムキレートを塗布して焼成することにより、表層の内部にまでCaO−ZrO2共晶を析出させる実施例4について図8〜図10を参照して説明する。
【0062】
図8に、液状のジルコニウムキレートを表面に塗布して焼成する手順を示す。
まず、液状のジルコニウムキレートを準備する(S11)。次に、ルツボ1の内表面、外表面の前処理を行ない、ダイヤモンドペーパーで表面を平滑にする(S12)。その後表面に塗布する(S13)。塗布は刷毛、スプレー等によって行う。その後、200℃×1Hrで乾燥し(S14)、さらに、1600℃×4Hrで焼成する(S15)。液体の有機ジルコニウム化合物は、エタノールと同程度の浸透性を有することから、粉末スラリーを表面に塗布する場合に比べて、内部まで浸透し浸透後に1600℃で加熱することによりCaO−ZrO2共晶を析出させて良好な成形体となる。
【0063】
液状の有機ジルコニウム化合物には、Zrに化合物のついたジルコニウムアシレートと、Zrの周囲をO、Rで修飾したジルコニウムキレートとの2種類の形態がある。
製品形態としては共に同じ液体でありながら化合形態の異なる2種類を比較してジルコニウムキレートの方が機械的強度に優れている。このことを、サンプルを作成して確認した。
【0064】
サンプル50は、図9の図表に示すようにAlキレートと、Zrアシレートと、Zrキレートを使用し、φ30mm、高さ50mmの円柱状の試験体を形成して行った。
配合成分は図9の図表に示す配合とし、円柱体の製造は前記図8に示した手順で作成した。
【0065】
図9において、比較例1は、CaOの骨材に対して、PVP粉末の樹脂バインダと、アルミナ(Al2O3)キレートの有機バインダ(アルミニウムエチレンアセトアセテート・ジイソプロピレート)と、エタノールを混合したものである。
比較例2は、CaOの骨材に対して、PVP粉末の樹脂バインダと、ジルコニア(ZrO2)アシレートの有機バインダ(ジルコニウムトリブトキシステアレート)と、エタノールを混合したものである。
比較例3は、CaOの骨材に対して、PVP粉末の樹脂バインダと、エタノールだけを混合したものである。
【0066】
これに対して、実施例4−1は、CaOの骨材に対して、PVP粉末の樹脂バインダと、ZrO2キレートの有機バインダ(ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート)と、エタノールを混合したものであり、ZrO2キレートをCaO100に対して0.83重量比含む。
また、実施例4−2は、CaOの骨材に対して、PVP粉末の樹脂バインダと、ZrO2キレートの有機バインダ(ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート))と、エタノールを混合したものであり、ZrO2キレートをCaO100に対して0.65重量比含むものである。
【0067】
1600℃で焼成してサンプル50にした段階で試験片の表面を観察した結果、図10(a)の比較例1のAlキレートでは、AlキレートをCaOに添加すると発熱し、脱型しやすく扱いやすいが、発熱により割れが生じやすく側部に微細なクラック(亀裂)の発生があった。図10(b)の比較例2では側部に微細なクラックの発生と、頂部の割れも見られた。図10(c)の比較例3においては、膨れて側壁に微細なクラックの発生が見られた。
一方、図10(d)(e)の実施例4−1、4−2のそれぞれにおいては、ジルコニア(ZrO2)を液体のジルコニウムキレートの形態では、表面にはクラック、亀裂の発生も見られず良好であった。
【0068】
以上の結果より、実施例4−1、4−2が加熱後にも良好な焼結体が得られることを確認した。この効果をルツボに塗布して、溶解試験を行い、溶損が生じないこと、粉体と異なりキレートが浸透した内部まで改質されるため、ルツボ内表面に付着して固まった溶鋼を剥がすときに一緒に改質した表面が剥がれてしまいジルコニア(ZrO2)による改質効果が薄れることがないことを確認した。この粉末スラリーを表面に塗布する場合に比べて、ルツボ寿命を延長することができ実用的である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の金属溶解用ルツボ及びその表面処理方法によれば、既存の酸化カルシウムを主成分とする金属溶解用ルツボの表面を改質することで、溶損が少なくさらに強度が向上して寿命が延びる金属溶解用ルツボを得ることができるので、酸化カルシウムを主成分とする金属溶解用ルツボへの適用に際して有益である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施例1及び実施例2のフロー図である。
【図2】実施例1に係る金属溶解用ルツボおよび既存の金属溶解用ルツボを用いての溶解実験の手順を示すフロー図である。
【図3】実施例1の実験結果を示すルツボの拡大破断面であり、図10と対応する説明図である。
【図4】実施例1に係るルツボと既存のルツボとの実験結果を示す比較図であり、(A)図はルツボ内の酸素量(O)の比較図であり、(B)図はアルミ量(Al)の比較図であり、(C)図は硫黄量(S)の比較図ある。
【図5】実施例2の曲げ試験の試験片の形状を示す説明図であり(A)は側面図、(B)は正面図を示す概略図である。
【図6】実施例2のCaO粒子の模式図であり、(A)は改質を行わない従来の状態を示し、(B)は外面側にCaO−Al2O3の共晶を析出させた状態を示す説明図である。
【図7】実施例3のCaO粒子の模式図であり、(A)は改質を行わない従来の状態を示し、(B)は中空セラミックスを含めた説明図である。
【図8】実施例4の液状のジルコニウムキレートを表面に塗布して焼成する手順を示す。
【図9】実施例4の比較試験の成分を示す説明図表である。
【図10】比較試験結果を示すサンプルの概要外観図である。
【図11】CaO−ZrO2の状態図である。
【図12】真空溶解用ルツボの概略図である。
【図13】図9のA部拡大断面図である。
【図14】ルツボの出湯時の傾動によって発生した亀裂の状態を示す説明図である。
【図15】(A)はルツボの加熱装置を含めた直立時の説明図、(B)は傾動時の説明図である。
【符号の説明】
【0071】
1 CaOルツボ
2 金属材料
5 変色部
10 CSZ塗布部
16 高周波コイル
18 ラミング材
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物含量の少ない高純度合金を製造する真空溶解の技術に関するものであり、特に、真空溶解に用いる金属溶解用のルツボの改質および強度向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
材料に含まれる不純物元素であるC、N、O、S等は、合金の加工性、靱性、耐食性等を低下させるという問題を生じるとともに、また、材質が均一化されにくく製造工程において歩留まりを低下させ材料の特性を最大限に発揮できないという問題を起こしていた。そのため、これらの不純物を低減させて、金属を超高純度化し、材料の特性を最大限に発揮する方法が種々検討されており、その1つの方法として真空誘導溶解炉(VIM)を用いて高真空下で溶解・精錬する方法が知られている。
【0003】
この真空溶解に用いられる溶解用ルツボの概略図を図12に示す。
真空溶解法の概要は、まず、ルツボ1に溶解する金属材料2を入れ、その後、ルツボ内を排気し、アルゴン(Ar)ガスで置換することによってルツボ1内の酸素量を低いレベルにする。そしてArガス雰囲気下で金属材料2が溶け液体になる(溶落)。その後、溶融温度が目標温度に達した後、脱酸剤であるアルミニウム(Al)を添加して、出鋼する。
金属材料の特性は酸化物を作る酸素が材質に影響し、真空溶解は、酸素量を極限まで減らすことができるため、材料特性を飛躍的に向上させることができるが、微量の酸素は残る。そこで脱酸効果の高い脱酸剤であるAlを添加することで、微量酸素も取り除いている。
また、金属中のSやOを効果的に低減させるため、真空溶解では、溶鋼を清浄にする効果のあるカルシア(CaO)ルツボが使われている。
【0004】
しかしながら、このように真空溶解で用いるCaOルツボは、激しい溶損減肉により3〜5回の使用で、交換せねばならず、ルツボの寿命が短いという問題があり、特に、図12に示した溶鋼界面に近い側面3や、ルツボ底に近い側面4では溶損が激しい。
図13に寿命に達したルツボの図12におけるA部拡大図を示す。図13に示すように、本来白色であるCaOルツボ1の金属材料2との界面から一部が変色しており、この変色部5をX線回折で確認したところ、CaO−Al2O3共晶が検出された。
このことは、CaOルツボの損傷は、溶鋼の脱酸に用いられるAlとの反応による低融点化合物の生成によるところが大きく影響していることが判明した。そして、このCaO−Al2O3共晶の融点は状態図から調べると、約1400℃であることが分かり、また、真空溶解においては、例えば金属材料として鉄を溶解する際には溶解温度を約1560〜1600℃にする必要がある。
【0005】
以上のことから、真空溶解で用いるCaOルツボが、激しい溶損減肉によって寿命が短くなる原因は、脱酸剤であるAlがルツボの主成分であるCaOと反応してCaO−Al2O3共晶が生成し、該CaO−Al2O3共晶の融点が鉄(Fe)材料の溶解温度よりも低いため、鉄(Fe)材料溶解時にCaO−Al2O3共晶も鉄材料と共に溶解され溶損が進展するという、化学的侵食であることが判明した。
【0006】
真空溶解に用いるルツボの化学的侵食を防ぐ対策として、例えば特許文献1には、無機質耐火物よりなるルツボの内周面を含む器壁の表面にジルコニア(ZrO2)を残留させた金属溶解用ルツボが示されている。
【0007】
しかし、特許文献1に開示されたルツボの器壁の表面に残留させるジルコニアは、ジルコニア化合物液を焼成面に塗布したのみである。この方法では、極微量のジルコニアが焼成されたカルシア表面に付着するだけであり、劇的な効果は得られ難い。塩から析出する単斜晶ジルコニアは、量的に少ないことと安定な焼成面ではCaOが安定で反応しにくい。従って、本発明の様に研磨されたCaOルツボの器壁の表面でCaOとの反応による安定化ジルコニア層は、生成しないと考えられる。従って、室温では単斜晶系晶であるが、温度を上げると単斜晶から正方晶へ、さらに温度を上げると立方晶へ構造相転移することが知られており、この構造相転移は体積変化を伴うため、ルツボ表面から簡単に剥離してしまいCaOルツボの改質に寄与しないものである。そのため、ジルコニアをルツボに残留させる特許文献1に開示されたルツボは残留ジルコニアが破壊に至り、その後は化学的侵食を防げないという問題がある。
【0008】
さらに、特許文献1に開示された方法は、塩化ジルコニウム等の化合物の水溶液をルツボ内面に減圧含浸して、加熱することで空孔内に残留したジルコニウム化合物をジルコニアに転化しているが、CaOは水和性が高く、この方法を用いるとCaOが水により膨張するため、CaOルツボの基材を損傷してしまい適しないものである。
【0009】
また、真空溶解に用いるCaOルツボは、前記したような化学的侵食による減肉によって割れが生じて破損に至ることがあるが、CaOルツボ自体は他の材質のルツボに比べて低強度であるため、機械的強度不足、内部熱応力によって亀裂が発生しやすく、これらの原因で数回の溶鋼によって亀裂が発生し使用できなくなることもある。
【0010】
この機械的強度不足による亀裂は、出湯時にルツボを傾動した際にルツボ内部の溶鋼によってルツボ側面に作用する荷重に耐え切れずに割れを生じる場合がある。すなわち、図14に示すように、溶解試験後の割れの状況を調べたところ、亀裂11の位置が、溶鋼線12より下で且つ出湯口14側に生じていることが分かった。ルツボ1は図15(A)に示すように、加熱用の高周波コイル16とルツボ1との間にはラミング材18が介在されているが、このラミング材18は、アルミナ、カルシア等からなる粒子であり、空隙が粒子間に存在するため、図15(B)に示すように出湯の際にルツボ1を矢印R方向に傾動すると溶鋼20の重力Fによってルツボ1の側面はラミング材18を押しのけて変形し、ルツボ1の外面に引っ張り荷重が作用して亀裂が発生する。
【0011】
また、ルツボの内面と外面との熱落差による熱応力によって亀裂が発生する場合もある。
すなわち、ルツボは粗粒CaOと微粒CaOとを配合して成形・焼成したものであり、緻密な構造となっているため割れが生じやすく、さらに溶鋼の場合にはルツボ内面が約1600℃となるのに対してルツボ外面が800℃〜1000℃となっているため、内面と外面との間の熱落差が大きく熱応力の発生によって亀裂が発生する。
【0012】
【特許文献1】特開昭61−116284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明はかかる従来技術の問題点に鑑み、既存の酸化カルシウムを主成分とする金属溶解用ルツボの表面を改質して、溶損が少なくさらに強度が向上して寿命が延びる金属溶解用ルツボ及びその表面処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するため、本第1発明は、真空溶解炉で使用される酸化カルシウム(CaO)(以下カルシアという)を主成分とする金属溶解用ルツボにおいて、前記ルツボの焼成後内表面を研磨除去後に有機溶媒に分散されたジルコニア(ZrO2)を塗布して焼成することにより、前記ルツボ内周面にCaO−ZrO2共晶を含む混合物からなることを特徴とする。
【0015】
かかる発明によれば、前記ルツボ内周面にCaO−ZrO2共晶を析出させたことによって、融点が約2260℃となり、鉄の溶解温度の約1560〜1600℃以上となることによって、鉄材料と共に溶解され溶損が進展するという、化学的侵食を防止することができる。
すなわち、図11に示すCaO−ZrO2の状態図からわかるように、共晶融点は約2260℃を示している。この図11の状態図は、縦軸に温度、横軸にCaO−ZrO2中のZrO2のモル比(%)を表している。
【0016】
ここで、ルツボの内周面に塗布して焼成するジルコニア(ZrO2)について説明する。
ジルコニア(二酸化ジルコニウム、ZrO2)は、ジルコニウムの酸化物である。そしてジルコニアは室温で単斜晶系晶であり、温度を上げていくと正方晶、立法晶へと構造相が転移する。この相転移は体積変化を伴うため、焼結体は昇降温を繰り返すことによって破壊に至るが、ジルコニアのジルコニウムイオンの位置にカルシウムイオンやマグネシウムイオン、イットリウムイオンなどの元素を置換固溶させると、立方晶や準安定正方晶が生成し温度変化による構造相転移が起こらなくなるため、昇降温による破壊を抑制することができる。
【0017】
従って、本願発明ではジルコニウムイオンの位置にカルシウムイオンを置換固溶させて安定化させるために、焼成済みの既存CaOルツボ表面を研磨除去する。この状態をミクロ的に説明すると、焼成によって緻密になり表面積が小さく安定になったCaO表面を研磨することにより、CaOルツボ表面が粗くなり微粉のCaOも付着した状態である。この状態でCaOに対して安定なエタノールを塗布した後に、ZrO2微粉を分散させたスラリー液を塗布する。これにより、ZrO2粉とCaO粉が極めて近い位置に混在するため、これを乾燥後、1500℃以上の高温で焼成することにより、ルツボ内表面には、酸化カルシウム(CaO)で安定化させたCSZ(カルシア安定化ジルコニア)層が形成される。CSZは、温度変化による構造相転移が起こらなくなり、昇降温による破壊を抑制することができ、安定化したコーティング層を得ることができる。そして、前記のCaO−ZrO2共晶を析出させることによる溶損防止効果を安定的に得ることができる。
【0018】
また、第1発明において好ましくは、前記塗布するジルコニアが、ジルコニア(ZrO2)単体、またはジルコニア(ZrO2)にカルシウム、イットリウム、マグネシウム、ハフニウムが添加された部分安定化、または完全安定化ジルコニアのいずれかであることが望ましい。すなわち、塗布するジルコニアが、ジルコニア(ZrO2)の場合には前記したように焼成済みの既存CaOルツボ表面を研磨除去後に、塗布して焼成することでCSZ(カルシア安定化ジルコニア)層が形成されるので、ジルコニア(ZrO2)単体であってもよく、また、はじめから塗布するジルコニアをカルシウム(Ca)、イットリウム(Y)、マグネシウム(Mg)、ハフニウム(Hf)が添加された安定化ジルコニアの場合であってもよく、いずれの場合でもルツボ内周面にCaO−ZrO2共晶を析出させることによる溶損防止効果を安定的に得ることができる。
なお、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)の場合には、ジルコニア(ZrO2)に対して酸化カルシウムを略15モル%含む部分安定化ジルコニアであることが望ましい。
酸化カルシウムを略15モル%より多く含むと、変態を完全抑制した完全安定化ジルコニアになるため、添加剤の量を減らして、わずかに変態できるようにした部分安定化ジルコニアとすることで、機械的特性に優れるコーティング層を得ることができる。
【0019】
また、第1発明において好ましく、前記ルツボの焼成後外表面を研磨除去後に酸化アルミニウム(Al2O3)をあるいは酸化アルミニウム(Al2O3)を析出する材料を塗布して焼成することにより、前記ルツボ外表面がCaO−Al2O3共晶を含む混合物からなるとよい。
かかる発明によれば、ルツボ外表面にCaO−Al2O3共晶を析出させることによって引っ張り荷重が作用する外表面が高強度となり、ルツボの傾動時に外表面に亀裂が発生することを防止でき、ルツボの寿命を延長できる。
なお、このCaO−Al2O3共晶は、融点が約1400℃と鉄の溶解温度の約1560〜1600℃に比べて低いが、ルツボの内面でないため溶湯に触れることがなく溶損にいたることはない。
【0020】
また、好ましくは、前記酸化アルミニウム(Al2O3)を析出する材料がアルミキレート剤のアルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート(Al(OC3H7)2(C6H9O3))であるとよい。
かかる発明によれば、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート(Al(OC3H7)2(C6H9O3))(具体的には川研ファインケミカル(株)製の商品名ALCH(アルミアルコキシド))を塗布して焼成することによって、Al2O3が析出し、その結果、強度向上効果を得ることができる。
【0021】
また、第1発明において好ましく、前記ルツボを構成する0.1〜0.3mmの細粒のCaOの一部を酸化アルミニウム(Al2O3)と酸化ケイ素(SiO2)とを主成分とする中空セラミックスで構成するとよい。
かかる発明によれば、細粒の一部に中空セラミックス(具体的には宇部興産(株)製の商品名E−SPHERES)を混入することで、熱変形を中空セラミックスの中空部で吸収することによって、熱応力による亀裂の発生を回避でき、熱応力に強いルツボを形成することができる。
【0022】
次に、本第2発明は、真空溶解炉で使用される酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボにおいて、前記ルツボの焼成後内表面または外表面に液状のジルコニウムキレートを塗布して焼成することにより、内面または外面がCaO−ZrO2共晶を含む混合物からなることを特徴とする。
かかる発明によれば、内表面または外表面に液状のジルコニウムキレートを塗布すると、表面から浸透したジルコニウムキレートの液体中のジルコニア(ZrO2)は、液状のためジルコニア(ZrO2)粉末スラリーを表面に塗布する場合に比べて、表面から深くまで浸透可能であるので、表面から深くまでCaO−ZrO2共晶を析出することができ、表層の内部まで強度を向上することができる。
【0023】
次に、本第3発明、および第4発明は金属溶解用ルツボの表面処理方法に係る発明であり、第3発明によれば、真空溶解炉で使用する酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボの表面処理方法において、前記酸化カルシウム(CaO)を主成分とするルツボの内表面を研磨して、エタノールを塗布した後、該内表面にジルコニア(ZrO2)及び分散剤のエタノールスラリーを塗布し、前記エタノールが揮発した後に焼成することにより、前記ルツボの内表面にCaO−ZrO2共晶を析出させることを特徴とする。
【0024】
かかる発明によれば、前記酸化カルシウム(CaO)を主成分とするルツボの内表面を研磨するため、表面が平滑化されると共にコート面に研磨によって発生したCaO粉が残るため塗布したジルコニア粉と混在した状態になる。
また、エタノールを塗布することで、ジルコニア(ZrO2)を均一の厚さに塗布することができる。すなわち、このエタノールの塗布を省略すると、ジルコニア溶媒のエタノールがルツボに吸収され、ジルコニア層の厚さが不均一になるため、前もってエタノールを塗布したルツボにスラリーを塗布することにより、ジルコニアの含浸および表面層の厚さを均一にすることができる。
【0025】
第3発明において好ましくは、前記カルシアルツボに塗布するジルコニアが、ジルコニア(ZrO2)単体、またはジルコニア(ZrO2)にカルシウム、イットリウム、マグネシウム、ハフニウムが添加された部分安定化、または完全安定化ジルコニアのいずれかであることが望ましい。
【0026】
また、第3発明において好ましくは、金属溶解用ルツボの表面処理方法において、前記ルツボの外表面を研磨して、酸化アルミニウム(Al2O3)あるいは酸化アルミニウム(Al2O3)を析出する材料を塗布した後、焼成することにより、前記ルツボ外表面にCaO−Al2O3ZrO2共晶を含む混合物を形成するとよい。
かかる発明によれば、ルツボ外表面をCaO−Al2O3共晶を含む混合物とすることによって引っ張り荷重が作用する外表面が高強度となり、ルツボの傾動時に外表面に亀裂が発生することを防止でき、ルツボの寿命を延長できる。
【0027】
さらに、本第4発明によれば、真空溶解炉で使用する酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボの表面処理方法において、前記酸化カルシウム(CaO)を主成分とするルツボの内表面または外表面に、液状のジルコニウムキレートを塗布して焼成することにより、前記ルツボの内表面または外表面にCaO−ZrO2共晶を含む混合物を形成することを特徴とする。
かかる発明によれば、内表面または外表面に液状のジルコニウムキレートを塗布すると、表面から浸透したジルコニウムキレートの液体中のジルコニア(ZrO2)は、液状のためジルコニア(ZrO2)粉末スラリーを表面に塗布する場合に比べて、表面から深くまで浸透可能であるので、表面から深くまでCaO−ZrO2共晶を析出することができ、表層の内部まで強度を向上することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の酸化カルシウムを主成分とする金属溶解用ルツボ及びその表面処理方法によれば、既存の酸化カルシウムを主成分とする金属溶解用ルツボの表面を改質することで、溶損が少なくさらに強度が向上して寿命が延びる金属溶解用ルツボを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0030】
まず、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
参照する図面において、図1は、実施例1及び実施例2のフロー図である。図2は、図1の手順で製作した実施例1に係る金属溶解用ルツボおよび既存の金属溶解用ルツボを用いての溶解実験の手順を示すフロー図である。図3は、その実験結果を示す本発明に係る金属溶解ルツボの破断面を示す説明図であり、図10の従来技術に対応する説明図である。図4は、実施例1に係る金属溶解用ルツボと既存の金属溶解用ルツボとの実験結果を示す比較図であり、(A)はルツボ内の酸素量(O)の比較図であり、(B)はアルミ量(Al)の比較図であり、(C)は硫黄量(S)の比較図である。図5は、実施例2の曲げ試験の試験片の形状を示す説明図であり(A)は側面図、(B)は正面図を示す概略図である。
【0031】
図6は、実施例2のCaO粒子の模式図であり、(A)は改質を行わない従来の状態を示し、(B)は外面側にCaO−Al2O3の共晶を析出させた状態を示す説明図である。図7は、実施例3のCaO粒子の模式図であり、(A)は改質を行わない従来の状態を示し、(B)は中空セラミックスを含めた説明図である。
【0032】
図8は、実施例4の液体のジルコニウムキレートを塗布する手順を示すフロー図である。図9は、実施例4における比較試験をした成分を示す図表である。図10は、比較試験の結果を示す説明図である。
【0033】
酸化カルシウムを主成分とする金属溶解用ルツボの内面にカルシア安定化ジルコニア(CSZ)を塗布してCaO−ZrO2共晶を析出させる手順、およびルツボの外面に酸化アルミニウム(Al2O3)をあるいは酸化アルミニウム(Al2O3)を析出する材料を塗布してCaO−Al2O3を析出させる手順について説明するが、その前に、酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボ1について説明する。
金属溶解用ルツボ1は、真空溶解炉用の真空誘導溶解炉(VIM)を用いる。ルツボは予め焼成したものでも、炉内でスタンプしたものでも、あるいはレンガで内張りされたものでもよい。より高純度の材料を溶製する場合には、精錬時にルツボ中の不純物成分が溶湯中にピックアップされることがあるため、90質量%以上の純度のカルシアルツボを用いると不純物の混入は最小に抑えられる。
【0034】
また、CaOルツボは合金中のSやOを効果的に低減させるために、CaOクリンカーを予め焼成したCaOルツボあるいはCaOクリンカーをスタンプしたルツボを用いる。また、焼成したCaOルツボはバイダーからのCによって汚染されることが多いため、より高純度の材料を溶解する場合には、前もって洗い、溶解を行ない、Cなどの汚染物質を除去する。さらに、CaOルツボは吸湿しやすいのでベーキングにより溶解前に付着水分、吸着物の除去を十分に行なうことが好ましい。
【実施例1】
【0035】
次に、図1を参照して、前記のように製作された既存のCaO金属溶解用ルツボの内面に、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)を塗布してCaO−ZrO2共晶を析出させる手順について説明する。
まず、塗布すべき材料を準備する(S1)。この材料は、下記表1に示す材料を混合して作成する。分散材は、CSZ粉末の分散を良くするもので不可欠であり、エタノールを溶媒としてスラリーを作る。
【0036】
【表1】
【0037】
CSZは、ジルコニアに酸化カルシウム(CaO)を添加して安定化させたCSZ(カルシア安定化ジルコニア)を用いる。安定化させたCSZ(カルシア安定化ジルコニア)を用いることで、温度変化による構造相転移が起こらなくなるため、昇降温による破壊を抑制することができ、安定化したコーティング層を得ることができる。塗布する粉末は、CaOを含まないZrO2でもよく、この場合にはルツボの表面の研磨によって発生したCaO粉と焼成後反応してCSZになるためであるが、相の均一性の面で最初から固溶されたCSZ粉の方が望ましい。
なお、本実施例においては最初から固溶されたCSZを塗布する場合について説明しているが、安定化させるために酸化カルシウム(CaO)でなく、酸化イットリウム(Y203)を添加して安定化させイットリア安定化ジルコニア(YSZ)を用いてもよい。さらに酸化マグネシウム、酸化ハフニウムであってもよい。
【0038】
前記カルシア安定化ジルコニア(CSZ)は、ジルコニア(ZrO2)に対して酸化カルシウムを略15モル%含む部分安定化ジルコニアとすることが望ましい。
酸化カルシウムを略15モル%より多く含むと、変態を完全抑制した完全安定化ジルコニアになるため、添加剤の量を減らして、わずかに変態できるようにした部分安定化ジルコニアとすることができ、機械的特性に優れるコーティング層を得ることができる。
【0039】
次に、前記混合材料のエタノールと分散剤とを混合し10分後にCSZ粉末を少量づつ添加し攪拌機(マグネットスターラー)によって3時間攪拌する(S2)。その後、ルツボの前処理を行なう(S3)。この前処理は、ダイヤモンドペーパーで表面を平滑にすることと、焼成によって安定化したCaO層を取り除くことにある。これによって、表面に凹凸が発生すると共に活性な微粒CaOが残留するため、ZrO2粉が定着しやすくなる。次に、エタノールの塗布、およびスラリーの塗布を行なう(S4)。エタノールを塗布することで、CSZを均一の厚さに塗布することができる。すなわち、このエタノールを塗布を省略すると、CSZ溶媒のエタノールがルツボに吸収され、CSZ層の厚さが不均一になるため、前もってエタノールを塗布したルツボにスラリーを塗布することにより、CSZの含浸および表面層の厚さが均一化する。
なお、エタノールの塗布は刷毛での塗布でも、ルツボに流し込んで排出する方法でもよい。ルツボに流し込んで排出する方法では、より均一な厚みを得ることができる。但し、これまでの実験結果では前述の刷毛や流し込んで排出することによるコート厚さより薄いコート厚さでも安定な効果が得られることから、スプレーでも十分である。
なお、CSZのコート厚さは、ルツボ厚み(例えば15mm)に対して特に限定されるものではないが、安定的な効果が得られるだけの含浸方向に対する厚みが必要であることは言うまでもない。
【0040】
次に、コートしたルツボは、自然乾燥或いは熱風乾燥炉で50℃、2時間の乾燥を行なう(S5)。CaOは吸湿すると水和物を作り体積膨張により崩壊する。これを防止するため、エタノール揮発後に、速やかに乾燥するのが望ましい。
次に、1600℃を保持して1時間焼成する(S6)。焼成によって、CSZの粉体は、CaOと反応して高融点のCaO−ZrO2の共晶を作る。
そして最後に、ビニール袋で密閉するとともに乾燥剤のシリカゲルを入れて保管する(S7)。
【0041】
次に、前記のカルシア安定化ジルコニア(CSZ)でコーティングされた金属溶解用ルツボを用意し、金属材料としてFeを対象に確認実験を行った。そのときの真空溶解手順について図2を参照して説明する。
まず、ルツボに付着した水分等を十分に気化除去するための加熱処理をし、すなわちベーキング処理をするとともに、0.4Torrの真空下で真空引きをおこなう(S1)。ルツボの水分が十分除去できて、真空度が安定する時点まですることが好ましい。
【0042】
その後、ドライなArガス雰囲気としてエアリークを抑え高真空状態に保つために、Arガスを導入する(S2)。なお、Arガス導入の際は、その直前に真空引きを停止するため、真空度低下がおこりやすいので、それを避けるため可能な限り速やかにArガスを導入し、大気から真空タンク内へのN2の侵入を防止するためにArガスは、1atm、20リッター/分で10分間導入し炉内に封じる。
【0043】
その後加熱を続け(S3)、Arガスの雰囲気下で溶解原料のFeが溶け落ち(S4)、さらに溶湯温度を測温し(S5)、目標温度に達した後、脱酸剤のアルミニウム(Al)を添加し、脱酸精錬する(S6)。そして3分経過後に出鋼して(S7)、10分間放置してルツボを開放する。
【0044】
以上の実験手順によって溶解を3回行い、その後ルツボの内面への溶鋼の差込み状況を破断面から確認したところ、図3に示すように、従来のCSZを塗布していないルツボにおいては図6に示すように変色部5が確認されたが、図3に示すように、CSZ塗布部10からCaOルツボ内方へは変色部5に相当する部分はなく、溶損による減肉がされていないことが確認された。
【0045】
比較例として、次の3ケースのルツボについて実験を行った。第1のルツボは、CSZを塗布していない多孔質のCaOルツボの場合。第2のルツボは、第1のルツボと同様であるがAl脱酸処理を行わなかった場合。第3のルツボは、CSZを塗布していない緻密なCaOルツボの場合。第4のルツボは、本実施例に係るCSZを塗布したルツボの場合である。
【0046】
なお、比較実験条件は、第2のルツボのAl脱酸処理を行わなかった以外は、前記実施例の確認実験の条件と同一で行なった。
比較実験結果を、図4を参照して説明する。
各グラフの線Wは第1のルツボを示し、線Xは第2のルツボを示し、線Yは第3のルツボを示し、線Z線は第4のルツボを示す。
【0047】
図4(A)は、溶解回数(チャージ回数)に対する、溶解ルツボ内の酸素(O)量の変化を示す。本実施例に係るルツボを示す線Zは、酸素濃度が殆ど変化していないことが分かる。すなわち、酸素源としてのCaOルツボの溶損が生じていないことが分かる。また、線Yの第3のルツボも酸素量の変動が少ないことが分かる。これは、第1、第2のルツボに比較して緻密なため、溶損しにくいためである。また当然に脱酸しない第2のルツボは酸素量が多いことが分かる。
【0048】
図4(B)は、溶解回数(チャージ回数)に対する、溶解ルツボ内のアルミニウム(Al)量の変化を示す。本実施例に係るルツボを示す線Zは、Alの残留量が多いことが分かる。すなわち、ルツボのCaOと脱酸剤のAlが反応してCaO−Al2O3共晶が析出されることによってAlが消費されてなく、ルツボの溶損が生じていないことが分かる。
【0049】
図4(C)は、溶解回数(チャージ回数)に対する、溶解ルツボ内の硫黄(S)量の変化を示す。本実施例に係るルツボを示す線Zは、他のルツボに対してS濃度が低いことが分かる。これは、CaOルツボは、本来的に脱S効果が高いことであるが、CaOルツボにCSZを塗布しても、依然を高い脱S効果が維持されていることが確認された。
【0050】
以上のように、本実験によって、CSZを塗布したCaOルツボは、既存のCaOルツボの特徴を活かしながら、溶損を抑えることが確認された。すなわち、CaOルツボの内周面にCaO−ZrO2共晶を析出させたことによって、融点が約2260℃となり、鉄の溶解温度の約1560〜1600℃以上となることで、鉄材料の溶解と共にCaOルツボの溶損が進展されるという、化学的侵食を防止できたことが確認された。
【0051】
なお、上記実施例においては、新品のCaOルツボを作成してその内面にカルシア安定化ジルコニア(CSZ)を塗布することを説明したが、このCaOルツボは、既に何回か溶解作業をしたものであっても、その内面の腐食層を研磨して新生面を形成して、その後、図1のダイヤモンドペーパーで表面を平滑にするルツボ前処理(S3)を行なってからスラリー塗布をすることで、溶損が少なく耐久性を向上した金属溶解用ルツボを得ることができことは勿論である。
【0052】
さらに、上記実施例においては、CaOルツボの表面にカルシア安定化ジルコニア(CSZ)を塗布することを説明したが、塗布せずに、CaOルツボを構成する粗粒CaOと微粒CaO自体を、CSZとCaOとが混合された状態の粗粒、微粒を用いて、ルツボを焼結することで、ルツボの原料自体からCSZを混入するように構成しても同様の効果を奏することは勿論である。
【実施例2】
【0053】
次に、ルツボの外表面に酸化アルミニウム(Al2O3)を、あるいは酸化アルミニウム(Al2O3)を析出する材料を塗布してCaO−Al2O3を析出させる手順について説明する。
手順は図1の前記したCaO−ZrO2共晶を析出させる手順と同様であるため、図1のフローに基づいて、説明をする。
【0054】
まず、塗布すべき材料であるアルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート(Al(OC3H7)2(C6H9O3))(具体的には川研ファインケミカル(株)製の商品名ALCH(アルミアルコキシド))を準備する(S1)。分子式からの析出量は16.4%だが、Al2O3が9.8%析出する希釈液を作る(S2)。そして次にルツボの前処理を行う(S3)。ダイヤモンドペーパーで表面を平滑にすることと、焼成によって安定化したCaO層を取り除くことにある。これによって、表面に凹凸が発生すると共に活性な微粒CaOが残留するため、Al2O3粉が定着しやすくなる。次に、エタノールの塗布、および前記希釈液をルツボの外面に刷毛塗りして塗布を行なう(S4)。次に、コートしたルツボを、自然乾燥或いは熱風乾燥炉で50℃、2時間の乾燥を行なう(S5)。CaOは吸湿すると水和物を作り体積膨張により崩壊する。これを防止するため、エタノール揮発後に、速やかに乾燥するのが望ましい。
次に、1600℃を保持して1時間焼成する(S6)。焼成によって、Al2O3の粉体は、CaOと反応してCaO−Al2O3の共晶を作る。
最後に、ビニール袋で密閉するとともに乾燥剤のシリカゲルを入れて保管する(S7)。
【0055】
次に、前記のCaO−Al2O3の共晶で外面がコーティングされた金属溶解用ルツボを用意し、曲げ強度試験を行い、ルツボの外面をCaO−Al2O3の共晶でコーティングされていないものとの対比を行った。
試験片30の形状は図5(A)、(B)に示すような例えば6×8×45mm長さの矩形断面の棒状材を用いて、引張り面側をCaO−Al2O3の共晶のコーティング層36によってコートさせ、中央部に荷重Pを作用させたときの曲げ強さを比較した。 その結果、具体的な試験結果によれば改質前には118(Kgf/cm2)であった曲げ強さが、改質後には136(Kgf/ cm2)に向上して約15%の強度向上が得られたことが確認された。
【0056】
本実施例による改質のCaO粒子の模式図を図6(A)、(B)に示す。図6(A)は改質を行わない場合の粒子状態であり、粒度1mm〜3mmの粗粒32が重量比率で約40%と粒度0.1mm以下の微粒34とを含んで構成されていることを示し、図6(B)は外表面側UをCaO−Al2O3の共晶のコーティング層36によってコートされていることを示している。
【0057】
以上の実施例によれば、ルツボ外表面にCaO−Al2O3共晶を析出させることによって引っ張り荷重が作用する外表面が高強度となり、ルツボの傾動時に外表面に亀裂が発生することが防止され、ルツボの寿命を延長できる。
実施例1によるルツボ内面の改質と実施例2のルツボ外面の改質との両方を施すことによって、溶鋼による侵食の防止とルツボ傾動時の亀裂発生の防止とが相俟って寿命の長いルツボを形成することができる。
【実施例3】
【0058】
次に、ルツボ1の本体を構成するCaOの細粒の一部を中空セラミックスによって構成する実施例3について説明する。
粒度が0.1〜0.3mmの細粒38の一部を酸化アルミニウム(Al2O3)と酸化ケイ素(SiO2)とを主成分とする中空セラミックスで構成する。この中空セラミックスは具体的には、宇部興産(株)製の商品名E−SPHERESを混入する。
【0059】
本実施例によるCaO粒子の模式図を図7(A)、(B)に示す。図7(A)は従来のルツボで粒度1mm〜3mmの粗粒32が重量比率で約40%と粒度0.1mm以下の微粒34を含んで構成されていることを示し、図7(B)には中空セラミックス46を含む構成が示されている。
なお、溶鋼側には、実施例1で説明したカルシア安定化ジルコニア(CSZ)もしくはジルコニア(ZrO2)をコート44させた状態を示している。
【0060】
以上の実施例によれば、熱変形を中空セラミックス46の中空部で吸収するため、熱応力による亀裂の発生を回避でき、熱応力に強いルツボを得ることができる。
なお、実施例3で説明したCaOの粒度比率の調整や中空セラミックスについては実施例1、2の構成に追加して構成してもよいことは勿論である。
【実施例4】
【0061】
次に、ルツボ1の焼成後に、内表面または外表面に液状のジルコニウムキレートを塗布して焼成することにより、表層の内部にまでCaO−ZrO2共晶を析出させる実施例4について図8〜図10を参照して説明する。
【0062】
図8に、液状のジルコニウムキレートを表面に塗布して焼成する手順を示す。
まず、液状のジルコニウムキレートを準備する(S11)。次に、ルツボ1の内表面、外表面の前処理を行ない、ダイヤモンドペーパーで表面を平滑にする(S12)。その後表面に塗布する(S13)。塗布は刷毛、スプレー等によって行う。その後、200℃×1Hrで乾燥し(S14)、さらに、1600℃×4Hrで焼成する(S15)。液体の有機ジルコニウム化合物は、エタノールと同程度の浸透性を有することから、粉末スラリーを表面に塗布する場合に比べて、内部まで浸透し浸透後に1600℃で加熱することによりCaO−ZrO2共晶を析出させて良好な成形体となる。
【0063】
液状の有機ジルコニウム化合物には、Zrに化合物のついたジルコニウムアシレートと、Zrの周囲をO、Rで修飾したジルコニウムキレートとの2種類の形態がある。
製品形態としては共に同じ液体でありながら化合形態の異なる2種類を比較してジルコニウムキレートの方が機械的強度に優れている。このことを、サンプルを作成して確認した。
【0064】
サンプル50は、図9の図表に示すようにAlキレートと、Zrアシレートと、Zrキレートを使用し、φ30mm、高さ50mmの円柱状の試験体を形成して行った。
配合成分は図9の図表に示す配合とし、円柱体の製造は前記図8に示した手順で作成した。
【0065】
図9において、比較例1は、CaOの骨材に対して、PVP粉末の樹脂バインダと、アルミナ(Al2O3)キレートの有機バインダ(アルミニウムエチレンアセトアセテート・ジイソプロピレート)と、エタノールを混合したものである。
比較例2は、CaOの骨材に対して、PVP粉末の樹脂バインダと、ジルコニア(ZrO2)アシレートの有機バインダ(ジルコニウムトリブトキシステアレート)と、エタノールを混合したものである。
比較例3は、CaOの骨材に対して、PVP粉末の樹脂バインダと、エタノールだけを混合したものである。
【0066】
これに対して、実施例4−1は、CaOの骨材に対して、PVP粉末の樹脂バインダと、ZrO2キレートの有機バインダ(ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート)と、エタノールを混合したものであり、ZrO2キレートをCaO100に対して0.83重量比含む。
また、実施例4−2は、CaOの骨材に対して、PVP粉末の樹脂バインダと、ZrO2キレートの有機バインダ(ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート))と、エタノールを混合したものであり、ZrO2キレートをCaO100に対して0.65重量比含むものである。
【0067】
1600℃で焼成してサンプル50にした段階で試験片の表面を観察した結果、図10(a)の比較例1のAlキレートでは、AlキレートをCaOに添加すると発熱し、脱型しやすく扱いやすいが、発熱により割れが生じやすく側部に微細なクラック(亀裂)の発生があった。図10(b)の比較例2では側部に微細なクラックの発生と、頂部の割れも見られた。図10(c)の比較例3においては、膨れて側壁に微細なクラックの発生が見られた。
一方、図10(d)(e)の実施例4−1、4−2のそれぞれにおいては、ジルコニア(ZrO2)を液体のジルコニウムキレートの形態では、表面にはクラック、亀裂の発生も見られず良好であった。
【0068】
以上の結果より、実施例4−1、4−2が加熱後にも良好な焼結体が得られることを確認した。この効果をルツボに塗布して、溶解試験を行い、溶損が生じないこと、粉体と異なりキレートが浸透した内部まで改質されるため、ルツボ内表面に付着して固まった溶鋼を剥がすときに一緒に改質した表面が剥がれてしまいジルコニア(ZrO2)による改質効果が薄れることがないことを確認した。この粉末スラリーを表面に塗布する場合に比べて、ルツボ寿命を延長することができ実用的である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の金属溶解用ルツボ及びその表面処理方法によれば、既存の酸化カルシウムを主成分とする金属溶解用ルツボの表面を改質することで、溶損が少なくさらに強度が向上して寿命が延びる金属溶解用ルツボを得ることができるので、酸化カルシウムを主成分とする金属溶解用ルツボへの適用に際して有益である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施例1及び実施例2のフロー図である。
【図2】実施例1に係る金属溶解用ルツボおよび既存の金属溶解用ルツボを用いての溶解実験の手順を示すフロー図である。
【図3】実施例1の実験結果を示すルツボの拡大破断面であり、図10と対応する説明図である。
【図4】実施例1に係るルツボと既存のルツボとの実験結果を示す比較図であり、(A)図はルツボ内の酸素量(O)の比較図であり、(B)図はアルミ量(Al)の比較図であり、(C)図は硫黄量(S)の比較図ある。
【図5】実施例2の曲げ試験の試験片の形状を示す説明図であり(A)は側面図、(B)は正面図を示す概略図である。
【図6】実施例2のCaO粒子の模式図であり、(A)は改質を行わない従来の状態を示し、(B)は外面側にCaO−Al2O3の共晶を析出させた状態を示す説明図である。
【図7】実施例3のCaO粒子の模式図であり、(A)は改質を行わない従来の状態を示し、(B)は中空セラミックスを含めた説明図である。
【図8】実施例4の液状のジルコニウムキレートを表面に塗布して焼成する手順を示す。
【図9】実施例4の比較試験の成分を示す説明図表である。
【図10】比較試験結果を示すサンプルの概要外観図である。
【図11】CaO−ZrO2の状態図である。
【図12】真空溶解用ルツボの概略図である。
【図13】図9のA部拡大断面図である。
【図14】ルツボの出湯時の傾動によって発生した亀裂の状態を示す説明図である。
【図15】(A)はルツボの加熱装置を含めた直立時の説明図、(B)は傾動時の説明図である。
【符号の説明】
【0071】
1 CaOルツボ
2 金属材料
5 変色部
10 CSZ塗布部
16 高周波コイル
18 ラミング材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空溶解炉で使用される酸化カルシウム(CaO)(以下カルシアという)を主成分とする金属溶解用ルツボにおいて、
前記ルツボの焼成後内表面を研磨除去後に有機溶媒に分散されたジルコニア(ZrO2)を塗布して焼成することにより、前記ルツボ内周面がCaO−ZrO2共晶を含む混合物からなることを特徴とする金属溶解用ルツボ。
【請求項2】
前記塗布するジルコニアが、ジルコニア(ZrO2)単体、またはジルコニア(ZrO2)にカルシウム、イットリウム、マグネシウム、ハフニウムが添加された部分安定化、または完全安定化ジルコニアのいずれかであることを特徴とする請求項1記載の金属溶解用ルツボ。
【請求項3】
前記ルツボの焼成後外表面を研磨除去後に酸化アルミニウム(Al2O3)をあるいは酸化アルミニウム(Al2O3)を析出する材料を塗布して焼成することにより、前記ルツボ外表面がCaO−Al2O3共晶を含む混合物からなることを特徴とする請求項1記載の金属溶解用ルツボ。
【請求項4】
前記酸化アルミニウム(Al2O3)を析出する材料がアルミキレート剤のアルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート(Al(OC3H7)2(C6H9O3))であることを特徴とする請求項3記載の金属溶解用ルツボ。
【請求項5】
前記ルツボを構成する0.1〜0.3mmの細粒のCaOの一部を酸化アルミニウム(Al2O3)と酸化ケイ素(SiO2)とを主成分とする中空セラミックスで構成したことを特徴とする請求項1または3に記載の金属溶解用ルツボ。
【請求項6】
真空溶解炉で使用される酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボにおいて、
前記ルツボの焼成後内表面または外表面に液状のジルコニウムキレートを塗布して焼成することにより、内面または外面がCaO−ZrO2共晶を含む混合物からなることを特徴とする金属溶解用ルツボ。
【請求項7】
真空溶解炉で使用する酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボの表面処理方法において、
前記酸化カルシウム(CaO)を主成分とするルツボの内表面を研磨して、エタノールを塗布した後、該内表面にジルコニア(ZrO2)及び分散剤のエタノールスラリーを塗布し、前記エタノールが揮発した後に焼成することにより、前記ルツボの内表面にCaO−ZrO2共晶を含む混合物を形成することを特徴とする金属溶解用ルツボの表面処理方法。
【請求項8】
前記ルツボに塗布するジルコニアが、ジルコニア(ZrO2)単体、またはジルコニア(ZrO2)にカルシウム、イットリウム、マグネシウム、ハフニウムが添加された部分安定化、または完全安定化ジルコニアのいずれかであることを特徴とする請求項7記載の金属溶解用ルツボの表面処理方法。
【請求項9】
前記ルツボの外表面を研磨して、酸化アルミニウム(Al2O3)あるいは酸化アルミニウム(Al2O3)を析出する材料を塗布した後、焼成することにより、前記ルツボ外表面にCaO−Al2O3ZrO2共晶を含む混合物を形成することを特徴とする請求項7記載の金属溶解用ルツボの表面処理方法。
【請求項10】
真空溶解炉で使用する酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボの表面処理方法において、
前記酸化カルシウム(CaO)を主成分とするルツボの内表面または外表面に、液状のジルコニウムキレートを塗布して焼成することにより、前記ルツボの内表面または外表面にCaO−ZrO2共晶を含む混合物を形成することを特徴とする金属溶解用ルツボの表面処理方法。
【請求項1】
真空溶解炉で使用される酸化カルシウム(CaO)(以下カルシアという)を主成分とする金属溶解用ルツボにおいて、
前記ルツボの焼成後内表面を研磨除去後に有機溶媒に分散されたジルコニア(ZrO2)を塗布して焼成することにより、前記ルツボ内周面がCaO−ZrO2共晶を含む混合物からなることを特徴とする金属溶解用ルツボ。
【請求項2】
前記塗布するジルコニアが、ジルコニア(ZrO2)単体、またはジルコニア(ZrO2)にカルシウム、イットリウム、マグネシウム、ハフニウムが添加された部分安定化、または完全安定化ジルコニアのいずれかであることを特徴とする請求項1記載の金属溶解用ルツボ。
【請求項3】
前記ルツボの焼成後外表面を研磨除去後に酸化アルミニウム(Al2O3)をあるいは酸化アルミニウム(Al2O3)を析出する材料を塗布して焼成することにより、前記ルツボ外表面がCaO−Al2O3共晶を含む混合物からなることを特徴とする請求項1記載の金属溶解用ルツボ。
【請求項4】
前記酸化アルミニウム(Al2O3)を析出する材料がアルミキレート剤のアルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート(Al(OC3H7)2(C6H9O3))であることを特徴とする請求項3記載の金属溶解用ルツボ。
【請求項5】
前記ルツボを構成する0.1〜0.3mmの細粒のCaOの一部を酸化アルミニウム(Al2O3)と酸化ケイ素(SiO2)とを主成分とする中空セラミックスで構成したことを特徴とする請求項1または3に記載の金属溶解用ルツボ。
【請求項6】
真空溶解炉で使用される酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボにおいて、
前記ルツボの焼成後内表面または外表面に液状のジルコニウムキレートを塗布して焼成することにより、内面または外面がCaO−ZrO2共晶を含む混合物からなることを特徴とする金属溶解用ルツボ。
【請求項7】
真空溶解炉で使用する酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボの表面処理方法において、
前記酸化カルシウム(CaO)を主成分とするルツボの内表面を研磨して、エタノールを塗布した後、該内表面にジルコニア(ZrO2)及び分散剤のエタノールスラリーを塗布し、前記エタノールが揮発した後に焼成することにより、前記ルツボの内表面にCaO−ZrO2共晶を含む混合物を形成することを特徴とする金属溶解用ルツボの表面処理方法。
【請求項8】
前記ルツボに塗布するジルコニアが、ジルコニア(ZrO2)単体、またはジルコニア(ZrO2)にカルシウム、イットリウム、マグネシウム、ハフニウムが添加された部分安定化、または完全安定化ジルコニアのいずれかであることを特徴とする請求項7記載の金属溶解用ルツボの表面処理方法。
【請求項9】
前記ルツボの外表面を研磨して、酸化アルミニウム(Al2O3)あるいは酸化アルミニウム(Al2O3)を析出する材料を塗布した後、焼成することにより、前記ルツボ外表面にCaO−Al2O3ZrO2共晶を含む混合物を形成することを特徴とする請求項7記載の金属溶解用ルツボの表面処理方法。
【請求項10】
真空溶解炉で使用する酸化カルシウム(CaO)を主成分とする金属溶解用ルツボの表面処理方法において、
前記酸化カルシウム(CaO)を主成分とするルツボの内表面または外表面に、液状のジルコニウムキレートを塗布して焼成することにより、前記ルツボの内表面または外表面にCaO−ZrO2共晶を含む混合物を形成することを特徴とする金属溶解用ルツボの表面処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−267797(P2008−267797A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88809(P2008−88809)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギ・産業技術総合開発機構 超高純度金属材料の産業化委託研究,産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(594208536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギ・産業技術総合開発機構 超高純度金属材料の産業化委託研究,産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(594208536)
【Fターム(参考)】
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