説明

金属滓からの金属回収装置およびそれを用いた回収操業方法

【課題】ポット内に収容したアルミドロス等の金属滓を回転撹拌体により撹拌して、金属滓中の単体金属を溶融、分離、沈降させてポットから出湯させ、回収する装置において、撹拌位置を上下に任意に変更できるようにするとともに、回転撹拌体の長寿命化を図る。またその装置を用いて効率良く回収する方法を提供する。
【解決手段】回収装置として、回転撹拌体12をポット1底部から離れた状態で回転・上下動可能に構成し、ポット底部の出湯口3に、回転撹拌体から独立して開閉可能な開閉栓14を配設した。回収操業方法として、溶融単体金属の出湯後、ポット内に残った金属滓を排出させる際に、金属滓の全量を排出させずに一部をポット内に残しておき、次の回収作業において前回の金属滓が残ったポット内へ新たな金属滓を装入するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルミニウム溶解炉等の金属溶解炉において発生した金属滓、例えばアルミドロスから、金属アルミニウム等の単体金属を回収するための装置、およびその装置を用いて金属滓からの金属回収操業を行なう方法に関し、特にポット内に収容した金属滓を回転撹拌体により撹拌することにより、金属滓中のアルミニウム等の単体金属を溶融・分離・沈降させて回収する装置、およびその装置を用いた回収操業方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように各種金属の溶解炉、例えばアルミニウム溶解炉においては、溶解材料として多量のアルミニウムスクラップを使用するのが通常である。そのため溶解操業時には、スクラップの表面に存在しているアルミニウム酸化物や、混入している各種挟雑物、さらには溶解作業中におけるアルミニウムの酸化によるアルミニウム酸化物、あるいは溶解炉の耐火物に由来するケイ素化合物などによって、酸化物やケイ素化合物などの複合物質からなるアルミドロスが多量に生成される。このアルミドロスは、一般的には滓、あるいは金属滓と称されるものであって、アルミニウム以外の金属溶解炉の溶解操業時においても発生するのが通常である。
【0003】
ところで上述のような金属溶解炉で生じた金属滓には、本来の単体金属成分、例えば金属アルミニウムも多量に含まれているのが通常である。そこで資源再利用のため、溶解炉で発生した金属滓から単体金属を回収することが広く行なわれている。
【0004】
このような金属滓からの金属回収装置、例えばアルミドロスからの金属アルミニウム回収装置としては、従来からいくつかのタイプのものがあるが、例えば特許文献1、特許文献2に示され、また特許文献3の第1図に示されるような、回転撹拌−底部出湯タイプのものが代表的である。
【0005】
このような従来の回転撹拌−底部出湯タイプの回収装置の基本的な構成を図3に示す。
【0006】
図3に示す回収装置では、上面を開放したポット1の底部中央に出湯口3を形成するとともに、側面側に排滓口4を形成しておき、さらに撹拌羽根部5Aを周囲に形成しかつ下端に開閉栓部5Bを形成した回転撹拌体5を、ポット1内に上方から挿入して、その下端の開閉栓部5Bによりポット底部の出湯口3を閉じ(閉栓し)、ポット1内に金属滓としてのアルミドロス7を装入するとともに、Na、F、Cl等を主体とする発熱剤(フラックス)を投入し、回転撹拌体5を回転させることによりアルミドロス7および発熱剤を撹拌・混合させて、適度に温度上昇させて単体金属成分のアルミニウムを溶融させ、さらに滓成分と溶融金属アルミニウムとの比重差によってアルミドロス中から溶融金属アルミニウムをポット1の底部側に分離・沈降させ、充分に溶融金属アルミニウムが分離・沈降された時点で回転撹拌体5を上昇させることにより、開閉栓部5Bを出湯口3から離隔させて出湯口3を開栓し、溶融金属アルミニウムを出湯口3から排出(出湯)させるように構成されている。
【0007】
なお上述のようにして分離・沈降された溶融金属アルミニウムを出湯口3から出湯させた後には、再び回転撹拌体5を下降させてその下端の開閉栓部5Bにより出湯口3を閉じる(閉栓する)とともに、ポット1内に冷却灰を投入してアルミドロスの温度をある程度低下させ、ポット1の全体を傾倒させるとともに排滓口4を開放して、ポット1内に残っているアルミドロス(残滓)をその排滓口4から排出させるのが通常である。
【0008】
ここで、金属アルミニウム回収後、冷却灰を投入してアルミドロスを排滓口4から排出させるにあたっては、ポット1内のアルミドロスはその全量を排出させるのが通常である。すなわち、アルミドロスの一部を残したままでは、残ったアルミドロスが高温の場合には撹拌羽根部5Aが溶けてしまうことがあり、一方残ったアルミドロスが低温の場合には逆にそのアルミドロスが撹拌羽根部5Aに固着して凝固してしまい、いずれの場合も回転撹拌体5が使用不能となってしまうから、金属アルミニウム回収後には、ポット1内のアルミドロスは全て排出する必要があったのである。
【0009】
【特許文献1】特開昭50−141507号公報
【特許文献2】特開平9−87764号公報
【特許文献3】特開平11−36021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図3に示されるような従来のアルミドロスからの金属アルミニウム回収装置においては、次のような問題があった。
【0011】
すなわち回転撹拌体5は、撹拌羽根部5Aによりポット1内のアルミドロスを撹拌する機能を有するだけではなく、下端の開閉栓部5Bによってポット1の底部の出湯口3を開閉する機能をも併せ持っている。そのため、ポット1内にアルミドロスが存在している間は、回転撹拌体5を最下降位置に保持して開閉栓部5Bが出湯口3を閉栓している状態を常に保っている必要がある。このことは、ポット1内のアルミドロスを撹拌している間は、回転撹拌体5はその上下方向の位置を常に一定に保ち、その一定位置で回転撹拌体5を回転させざるを得ないことを意味する。
【0012】
しかしながら上述のようにポット1内のアルミドロスを一定位置でしか撹拌し得ない従来の回収装置では、アルミドロスから金属アルミニウムを効率良く分離・沈降させることができず、回収能率が低くならざるを得なかった。すなわち、アルミドロスから金属アルミニウムを回収するにあたって、その回収効率を向上させるためには、過度な温度上昇および湯面付近での過剰な撹拌による大気との接触面性増大によるアルミニウムの酸化を回避しつつ、アルミドロスを適切な所定の温度に均一に昇温させて、アルミドロス中の金属アルミニウムを早期に溶融させ、その溶融した金属アルミニウムを早期に分離・沈降させる必要があるが、その際にはポット1内のアルミドロスの量や性状、温度、さらには撹拌中におけるアルミドロスの温度分布等に応じて撹拌状況を適切に設定、変更することが望まれる。しかしながら従来の回収装置では回転撹拌体による撹拌位置を変えることができないため、必ずしも最適な撹拌状況が得られるとは限らず、そのため金属アルミニウム回収効率を向上させるにも限界があったのである。
【0013】
さらに前述のような従来の回収装置では、回転撹拌体5における撹拌羽根部5Aと開閉栓部5Bとのうち、いずれか一方の部位だけが破損あるいは変形してその機能が損なわれただけでも、回転撹拌体5は使用不能となってしまい、新規のものと交換せざるを得ない問題もある。すなわち、撹拌羽根部5Aは、回転撹拌時におけるアルミドロスによる機械的な抵抗や衝撃あるいは高熱等によって変形したり破損したりしやすい部位であり、このように変形、破損すれば撹拌機能が損なわれてしまう。一方開閉栓部5Bは、出湯口3に摺動接触しながら回転するため、摺動抵抗により損耗が進みやすい部位であるが、この部位が大きく損耗すれば、閉栓機能が失われてしまう。そしてこれらの機能のうちの一方の機能が未だ有効であっても、他方の機能が損なわれれば、回転撹拌体全体の交換の必要が生じるため、回転撹拌体の使用可能寿命が短くならざるを得ず、そのため高価な回転撹拌体の交換頻度が高くなってコスト高を招くとともに、交換に要する時間も無視できず、設備の稼働率も低くならざるを得なかったのである。
【0014】
さらに従来の回転装置を用いた操業では、既に述べたように金属アルミニウム回収後にポット内に残ったアルミドロスの全量を排出させる必要があったが、このように1回の回収作業終了ごとにアルミドロスを全量排出させる操業方法では、次のような問題があった。
【0015】
すなわち、1回の金属アルミニウム回収作業が終了してから次の回収作業を開始するまでの時間(アイドルタイム)が長い場合には、そのアイドルタイムの間にポット1の温度が低下してしまい、次の回収作業においてアルミドロスを金属アルミニウムの分離に必要な温度まで上昇させるために長い時間が必要となり、その結果作業能率を低下させてしまう。特に次の回収作業において投入するアルミドロスの温度が低い場合には、金属アルミニウムの分離に必要な温度までの温度上昇時間が長くなって、著しく作業能率を低下させてしまうのである。
【0016】
この発明は以上の事情を背景としてなされたもので、アルミドロスからの金属アルミニウムの回収など、金属滓から単体金属を分離・回収するための装置として、金属滓を撹拌させるための回転撹拌体の撹拌位置(上下方向の位置)を撹拌中でも任意に変更できるようにし、これにより金属滓の性状や量、温度、温度分布等に応じた最適な撹拌位置に変更し得るようにして、単体金属の回収効率を向上させ、併せて高価な回転撹拌体の寿命を従来よりも長くしてコスト低減を図るとともに、回転撹拌体の交換頻度の減少による装置稼働率の向上を図ることを課題とするものである。
【0017】
またこの発明は、1回の回収作業が終了してから次の回収作業が開始されるまでのアイドルタイムが長いと予想される場合や、次の回収作業においてポット内に投入される金属滓の温度が低いと予想される場合でも、次の回収作業でポット内に投入される金属滓の温度を速やかに適切な温度まで上昇させ、これによって回収作業効率を向上させることをも課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前述のような課題を解決するため、この発明の金属滓からの金属回収装置では、基本的には、従来の回収装置における回転撹拌体が兼ね備えていた二つの機能、すなわち撹拌機能と閉栓機能とを分離して、回転撹拌体には撹拌機能のみを持たせる一方、回転撹拌体とは別に開閉栓を設け、これにより撹拌中でも回転撹拌体の位置を任意に変え得るようになし、併せて回転撹拌体の長寿命化を図ることとした。
【0019】
具体的には、請求項1の発明の金属回収装置は、金属滓をポット内に収容し、ポット内へ上方から挿入された回転撹拌体により金属滓を回転流動させて撹拌し、金属滓中に含まれる単体金属を溶融・分離・沈降させて、ポット底部に形成された出湯口から出湯させて回収するようにした金属滓からの金属回収装置において、前記回転撹拌体は、ポットの底部から離れた状態で回転および上下動可能に構成され、かつポットの底部の出湯口には、回転撹拌体から独立して開閉可能な開閉栓が配設されていることを特徴とするものである。
【0020】
また請求項2の発明は、請求項1に記載の金属滓からの金属回収装置において、ポットの下側には、ポットの出湯口から出湯された溶融単体金属を受けてこれを移送するための移送樋が上下動可能に設けられており、かつ前記開閉栓の下部が移送樋に係合されており、移送樋を上下動させることにより前記開閉栓を開閉させるように構成されていることを特徴とするものである。
【0021】
さらに請求項3の発明は、請求項1に記載の金属滓からの金属回収装置において、前記回転撹拌体は、その回転撹拌体の回転中心軸線位置を基準とする円周に対して直交もしくは斜行する棒状の羽根部を有しており、かつその羽根部は、断面かまぼこ状に作られており、このかまぼこ状断面の湾曲面の側が上方に向くように構成されていることを特徴とするものである。
【0022】
そしてまた請求項4の発明は、請求項1に記載の金属滓からの金属回収装置において、前記ポットにおける上下方向の中間部の外周上に、保温材を収納した保温帯をポットの円周方向に沿って形成したことを特徴とするものである。
【0023】
一方、前述のように開閉栓部を回転撹拌体から独立させた金属回収装置を用いれば、金属滓からの金属回収操業方法として、1回の回収作業終了時にポット内に残った金属滓の全量を排出させず、一部の金属滓を残した状況とし、これによって1回の回収作業終了後もポット内を高温に保つことが可能となり、そのため次の回収作業開始時において、ポット内に新たに投入した金属滓を速やかに所定の温度まで温度上昇させることが可能となる。これを規定したのが、請求項5の発明の方法である。
【0024】
具体的には、請求項5の発明は、請求項1〜請求項4のいずれかの回収装置を用いて金属滓からの金属回収操業を実施する方法であって、金属滓をポット内に装入して、回転撹拌体により金属滓を回転流動させて金属滓中の単体金属を溶融・分離・沈降させ、次いでその金属滓を出湯口から出湯させ、さらにポット内に残った金属滓を排出させる迄の一連の工程からなる回収作業を複数回繰返すにあたり、ポット内で分離・沈降された溶融単体金属を出湯口から出湯させた後、ポット内に残った金属滓を排出させる際に、その金属滓の全量を排出させずに一部をポット内に残しておき、次の回収作業において前回の金属滓が残ったポット内へ新たな金属滓を装入することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
請求項1の発明の金属回収装置によれば、回転撹拌体は、ポット底部の出湯口の開閉を行なうための開閉栓部から独立しているため、回転撹拌中、すなわち閉栓状態を保つ必要がある期間においても、回転撹拌体の上下位置を任意に変えることができ、そのため撹拌位置を、ポット内の金属滓の状況に応じた最適な位置に任意に変更することができるから、ポット内の金属滓を適切な温度に速やかに上昇させて単体金属成分を短時間で溶融させるとともに、これを速やかに分離・沈降させることができ、その結果金属回収効率を従来よりも大幅に向上させることが可能となる。また、開閉栓部が回転撹拌体から独立していることから、開閉栓部自体は撹拌中でも回転せず、そのため開閉栓部の損耗が生じにくくなって開閉栓部自体の寿命が従来よりも格段に長寿命化されるばかりでなく、回転撹拌体の使用寿命が開閉栓部の損耗により制約されてしまうことがなく、したがって回転撹拌体自体の寿命も長寿命化し、高価な回転撹拌体の交換頻度を少なくして低コスト化を図るとともに、回転撹拌体の交換作業による稼働率の低下を防止することができる。
【0026】
また請求項2の発明の回収装置によれば、ポット下方の移送樋を上下動させることにより開閉栓を開閉操作させることができるため、開閉作業を容易に自動化することができ、そのため省力化を図れるとともに、ポット近傍の高温かつ危険な箇所での人力作業を不要として安全性の向上を図ることができる。
【0027】
さらに請求項3の発明の回収装置によれば、回転撹拌体の羽根部が断面かまぼこ状に作られているため、回転撹拌体の回転により金属滓に対して水平面内での対流のみならず、上下方向への対流も与えることができ、そのためポット内の金属滓をより効率良く撹拌することができるから、金属滓からの単体金属の分離回収効率を、より一層高めることができる。
【0028】
そしてまた請求項4の発明の回収装置によれば、ポットの外周部分が保温材によって保温されるため、1回の回収作業が終了してから次の回収作業を開始するまでの間にポットの温度が低下してしまうことを防止でき、そのため次回の回収作業開始時において装入した金属滓を最適な温度まで速やかに温度上昇させることが可能となる。特に請求項5で規定しているように、1回の回収作業終了時にポット内に残った金属滓の全量を排出させずに一部をポット内に残しておいてその熱を次回の回収作業に利用する場合には、ポット内に残った金属滓の温度低下を防止して、次回の回収作業時の熱利用効率を高めることができる。
【0029】
一方請求項5の発明の回収操業方法によれば、1回の回収作業の終了時において、単体溶融金属を出湯口から出湯させた後、ポット内に残った金属滓を排出させるにあたり、その全量を排出させずに一部をポット内に残しているため、残った金属滓の熱を次の回収作業開始時に有効利用することができ、そのため1回の回収作業終了から次の回収作業開始までの時間(アイドルタイム)が長い場合や、次の回収作業で新たに装入される金属滓の温度が低い場合でも、次の回収作業開始時における新たな装入金属滓を最適温度まで速やかに温度上昇させることができ、その結果、作業効率を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1にこの発明による金属滓からの金属回収装置、例えばアルミドロスからの金属アルミニウム回収装置の一例を示す。
【0031】
図1において、ポット1自体は、図3に示す従来の回収装置と同様に、上面を開放した断面U字形状に作られており、その底部中央には出湯口3が形成され、また下部側方には排滓口4が形成されている。ここで出湯口3には、後に詳細に説明するように開閉栓14が設けられており、また排滓口4には後述するような蓋体4Aが設けられている。一方ポット1の上面側には、上下動可能な開閉蓋10が設けられており、アルミドロス(金属滓)投入時等は開閉蓋10を上昇させてポット1の上面を開放する一方、撹拌時等には開閉蓋10を下降させてポット1の上面を閉じる構成とされている。
【0032】
またポット1内には、上方から回転撹拌体12が挿入されている。この回転撹拌体12には、垂直な軸部12Aから放射状に突出する適宜の本数の棒状の羽根部12Bが設けられている。これらの羽根部12Bは、回転撹拌体12の回転中心軸線を基準とする円周に対して直交もしくは斜行し(図示の例では直交)、かつ若干下方に傾斜した状態で軸体12Aに取付けられている。またその羽根部12Bの断面は、図2に詳細に示すようにその断面形状が平面13Aと湾曲面(円弧面)13Bとを組合せた形状、すなわちいわゆるかまぼこ状に作られており、その湾曲面13Bの頂部が上方、すなわち回転撹拌体12の回転方向(円周方向)に対して90°上方に向くように構成されている。
【0033】
このような回転撹拌体12は、その全体が図示しないエアシリンダや電動モータ等の昇降駆動装置により上下動せしめられるように構成され、また電動モータ等の回転駆動装置により軸中心に回転せしめられるように構成されている。なお回転撹拌体12の回転可能な方向は、一方向のみであっても良いが、両方向、すなわち正方向、逆方向の両方向に回転し得るようにしておくことが望ましい。
【0034】
さらにポット1の底部の出湯口3には、開閉栓14が配設されている。この開閉栓14は、回転撹拌体12とは全く別体に作られたものであり、その上面は回転撹拌体12の下端から離れており、したがって開閉栓14は、回転撹拌体12の回転および上下動とは無関係に出湯口3を開閉することができる。一方、ポット1の下側には、ポット1の出湯口3から出湯された溶融金属アルミニウム15を受けてこれを移送するための移送樋16が配設されており、前記開閉栓14は、その下部が移送樋16に係合されて、移送樋16の上下動に伴って上昇(開栓)、下降(閉栓)し得るように構成されている。具体的には、開閉栓14は、出湯口3の開口部分の内径よりも大きい外径を有する栓体部14Aの下面側に、出湯口3の内径より小さい外径の軸部14Bを一体に形成したものであり、その軸部14Bが出湯口3内を貫通してポット1の下方に伸長され、軸部14Bの下端が移送樋16の先端近くの部分の底面に当接している。一方移送樋16は、少なくともその先端部側が上下動(昇降)可能となるように支持されており、図示しないエアシリンダ等の駆動装置によって、少なくともその先端部側が昇降せしめられる構成とされている。そしてこの移送樋16の先端部側の上昇時には開閉栓14が押し上げられて出湯口3が開栓され、一方移送樋16の先端部側の下降時には開閉栓14の自重やポット1内に収容された金属滓の重量により開閉栓14が下降し、出湯口3を閉栓するように構成されている。
【0035】
一方、ポット1の排滓口4には、前述のように蓋体4Aが設けられており、この蓋体4Aは図示しないエアシリンダ等の駆動装置によって支軸4Bを中心として回動せしめられて、排滓口4を開閉するように構成されている。
【0036】
さらに前記ポット1の上下方向中間位置の外周上には、そのポット1を取巻くように保温帯18が設けられており、この保温帯18には、粉体状耐火物等の保温材20が収納されている。
【0037】
以上のような図1、図2に示す金属回収装置の動作、機能を、その金属回収装置を用いた回収操業方法とともに説明する。なお以下では、金属滓としてアルミドロスを用いて、そのアルミドロスから単体金属としての金属アルミニウムを回収するものとして説明する。
【0038】
回収作業を開始するにあたっては、予めポット1の上面側の開閉蓋10を上昇させてポット1の上方の空間を開放させるとともに、回転撹拌体12をその後のアルミドロスの投入の妨げとならにように、ポット1内の最下降位置(図1に示す状態の位置)まで下降させておく。またポット1の出湯口3は開閉栓14により閉じ、また排滓口4は蓋体4Aによって閉じておく。なおポット1が室温付近まで冷却されている状態で回収作業を開始する場合には、バーナ等により予めポット1内を予熱しておくことが望ましいが、後述するように前回の回収作業においてポット1内に高温のアルミドロスを一部残しておいた場合には、ポット1内はある程度高温に保たれているから、バーナ等による予熱は不要である。
【0039】
以上のような状態で、図示しないアルミニウム溶解炉から取出された所定量のアルミドロス7をポット1内に装入し、回転撹拌体12を回転させて、ポット1内のアルミドロス7を回転流動させ、撹拌する。ここで、アルミドロスの装入と同時、あるいは装入後の撹拌中においては、アルミドロスを所定の高温域まで温度上昇させるために、Na、F、Clを主成分とする発熱剤(フラックス)や、後に改めて説明するような“練り灰”を適量投入する。そして撹拌中には、ポット1内のアルミドロスの温度やその分布、そのほか撹拌状況等に応じて、発熱剤や“練り灰”を適時追加投入するばかりでなく、回転撹拌体12を適宜上昇・下降させて撹拌位置を変化させたり、回転方向を変えたりすることによって、最適な撹拌状態とし、ポット1内のアルミドロスを短時間で均一に温度上昇させ、アルミドロス中の金属アルミニウムを急速に溶融させるとともにその溶融金属アルミニウムをアルミドロスから急速に分離・沈降させる。
【0040】
ここで、ポット1の出湯口3を開閉するための開閉栓14は、回転撹拌体12とは別体に作られていて、回転撹拌体12の下端から離れているから、回転撹拌体の回転中すなわち撹拌中でも、開閉栓14は回転せず、そのため図3に示した装置の場合と比較して開閉栓14の損耗は極めて少なくなる。また、回転撹拌体12を上下動させても開閉栓14による閉栓状態は保たれるから、前述のように撹拌中において回転撹拌体12の上下位置を変化させることが可能となるのである。
【0041】
さらに、回転撹拌体12の羽根部12Bは前述のように断面かまぼこ状に作られているため、回転撹拌体12はアルミドロスに対して水平面内での対流のみならず、上下方向の対流をも生起させることができ、そのためより均一な撹拌効果を得て、アルミドロスをより均一かつ速やかに所定の温度まで上昇させることが可能となる。
【0042】
前述のようにしてアルミドロスから分離・沈降した溶融金属アルミニウムは、ポット1内の底部に溜まる。そして分離・沈降がほぼ終了した段階で、回転撹拌体12を若干引上げ、その状態で移送樋16の先端側を上昇させる。これにより開閉栓14が押し上げられて出湯口3が開栓され、ポット1の底部に溜まった溶融金属アルミニウムが出湯口3から排出(出湯)され、移送樋16に流れ落ち、その移送樋16により図示しない鋳造機等に導かれて、再生地金等に利用される。
【0043】
そしてポット1内の底部に溜まった溶融金属アルミニウムのほぼ全量が出湯された時点で、移送樋16の先端側を下降させ、これによって開閉栓14を下降させて出湯口3を閉栓する。その後、必要に応じて冷却灰を投入してポット1内に残っている金属アルミニウム分離済みのアルミドロスの温度を若干低下させてから、ポット1を傾倒させてアルミドロスを排滓口4から排出させ、冷却キルン等に収容する。
【0044】
以上のようにして1回の回収作業が終了した後には、ある程度の時間を置いてから次の回収作業を開始するのが通常である。ここで、次の回収作業開始までの時間(アイドルタイム)が長いと予測される場合や、次の回収作業において投入されるアルミドロスの温度が低いと予測される場合には、前回の回収作業における溶融金属アルミニウム出湯後のアルミドロス排出時において、ポット1内に残ったアルミドロスはその全量を排出させず、一部をポット内に残した状態でアルミドロスの排出を中止させる。すなわち、ポット1内のアルミドロスの全量が排出される以前の時点で、ポット1を元の垂直な姿勢に戻してアルミドロスの排出を停止させる。このように前回の回収作業終了時において高温のアルミドロスの一部をポット1内に残しておくことにより、次の回収作業開始時までポット1の温度をある程度の高温に保ち、次の回収作業開始時において新たに投入されたアルミドロスの温度を、金属アルミニウムの分離・沈降に必要な所定の高温まで速やかに上昇させることが可能となり、その結果回収作業の能率および回収効率が大幅に向上する。
【0045】
ここで、図1に示される回収装置では、ポット1の外周上に保温帯18が設けられているため、前述のように前回の回収作業終了時にポット1内のアルミドロスの一部を残しておいた場合でも、ポット1内が保温されて、急速に温度が下降してしまうことを防止できるから、ポット1内に残したアルミドロスの熱を次回の回収作業において有効に利用することができるのである。なお、上述のような回収作業終了時においてアルミドロスの一部をポット内に残さない従来の一般的な操業方法の場合は、保温帯18を設けておくことは無意味であり、アルミドロスの一部を残す操業方法であるからこそ保温帯の存在が有効となるのである。
【0046】
また前述のような回収作業において、ポット1内に装入されたアルミドロスを温度上昇させて、アルミドロス中の金属アルミニウムの溶融と分離を促進するために添加・投入される発熱剤としては、通常使用されているNa、F、Clを主体とするフラックスの代りに、あるいはフラックスの補助として、アルミドロスから金属アルミニウムを回収する過程で発生する細目ドロスに水を加えて撹拌したヘドロ状の“練り灰”を適量添加しても良い。このような“練り灰”を使用することによって、アルミドロスのテルミット反応を促進させて、ポット1内のアルミドロスをより急速に温度上昇させることが可能となり、アルミドロスからの金属アルミニウムの分離をより効率良く行なうことが可能となる。
【0047】
さらに、フラックスや“練り灰”などの発熱剤のポット1内への添加は、特に回転撹拌体12の回転中においては、その羽根部12Bの通過直後にアルミドロス表面に形成される凹部内に投入することによって行なうことが望ましい。このように羽根部12Bの通過直後に形成されるアルミドロス表面凹部内に投入することにより、アルミドロスに対して発熱剤を急速に混合させることが可能となり、その結果アルミドロスの急速な温度上昇を促進して、回収能率をより向上させることが可能となる。
【0048】
なお以上の説明では、アルミドロスから金属アルミニウムを分離・回収する場合について説明したが、アルミドロス以外の種々の金属滓からその金属滓に含まれる主要単体金属成分を分離・回収する場合にも適用できることはもちろんである。
【0049】
次に請求項5の発明に係る操業方法の実施例を記す。
【実施例】
【0050】
アルミニウム溶解炉で発生したアルミドロスから金属アルミニウムを回収するにあたり、図1、図2に示されるような装置を用いて回収作業を行なった。ここで、ポット1としては容量1000kgのものを用い、ポット1内を予めバーナにおいて予熱しておき、約700℃のアルミドロス7をポット1内に700kg装入して、回転撹拌体12を回転させてアルミドロスを撹拌するとともに、発熱剤としてNa、F、Clを主体とするフラックス500gおよび“練り灰”3000gを適時添加し、約10分経過後、撹拌を停止してポット底部に分離・沈降した溶融金属アルミニウム約400kgを排出(出湯)させ、その後冷灰を300kg添加してから、ポット1内に残ったアルミドロス約600kgのうち、約200kgをポット1内に残すようにアルミドロスを排出させた。このときのポット1内のアルミドロスの温度は約400℃であった。その後、約2〜3時間はポット1内の温度が300℃〜400℃程度に保たれることが判明した。そして前回の回収作業終了後、2〜3時間以内に次の回収作業を開始することにより、次回の回収作業において装入されるアルミドロスを金属アルミニウムの分離に最適な温度(約800℃)まで上昇させるに要する時間を、ポット1内にアルミドロスを全く残さない場合と比較して約70%短縮させ得ることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明の金属滓からの金属回収装置の一例を示す縦断面図である。
【図2】図1に示される装置における回転撹拌体の羽根部のII−II線における断面形状を示す断面図である。
【図3】従来の回収装置の一例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 ポット
3 出湯口
7 アルミドロス
12 回転撹拌体
12A 羽根部
14 開閉栓
15 溶融金属アルミニウム
16 移送樋
18 保温帯
20 保温材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属滓をポット内に収容し、ポット内へ上方から挿入された回転撹拌体により金属滓を回転流動させて撹拌し、金属滓中に含まれる単体金属を溶融・分離・沈降させて、ポット底部に形成された出湯口から出湯させて回収するようにした金属滓からの金属回収装置において、
前記回転撹拌体は、ポットの底部から離れた状態で回転および上下動可能に構成され、かつポットの底部の出湯口には、回転撹拌体から独立して開閉可能な開閉栓が配設されていることを特徴とする、金属滓からの金属回収装置。
【請求項2】
請求項1に記載の金属滓からの金属回収装置において、
ポットの下側には、ポットの出湯口から出湯された溶融単体金属を受けてこれを移送するための移送樋が上下動可能に設けられており、かつ前記開閉栓の下部が移送樋に係合されており、移送樋を上下動させることにより前記開閉栓を開閉させるように構成されていることを特徴とする、金属滓からの金属回収装置。
【請求項3】
請求項1に記載の金属滓からの金属回収装置において、
前記回転撹拌体は、その回転撹拌体の回転中心軸線位置を基準とする円周に対して直交もしくは斜行する棒状の羽根部を有しており、かつその羽根部は、断面かまぼこ状に作られており、このかまぼこ状断面の湾曲面の側が上方に向くように構成されていることを特徴とする、金属滓からの金属回収装置。
【請求項4】
請求項1に記載の金属滓からの金属回収装置において、
前記ポットにおける上下方向の中間部の外周上に、保温材を収納した保温帯をポットの円周方向に沿って形成したことを特徴とする、金属滓からの金属回収装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかの回収装置を用いて金属滓からの金属回収操業を実施するための操業方法であって、
金属滓をポット内に装入して、回転撹拌体により金属滓を回転流動させて金属滓中の単体金属を溶融・分離・沈降させ、次いでその金属滓を出湯口から出湯させ、さらにポット内に残った金属滓を排出させる迄の一連の工程からなる回収作業を複数回繰返すにあたり、
ポット内で分離・沈降された溶融単体金属を出湯口から出湯させた後、ポット内に残った金属滓を排出させる際に、その金属滓の全量を排出させずに一部をポット内に残しておき、次の回収作業において前回の金属滓が残ったポット内へ新たな金属滓を装入することを特徴とする、金属滓からの金属回収操業方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−206937(P2006−206937A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17740(P2005−17740)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】