説明

金属焼結体の製造方法および通電焼結装置

【課題】効率良く低コストで、高品質の金属焼結体を製出することが可能な金属焼結体の製造方法およびこの金属焼結体の製造方法に適した通電焼結装置を提供する。
【解決手段】装入口12及び製出口13を備えた焼結室11と、焼結室11内に配置され、前記シート状成形体を走行させるとともに前記シート状成形体に対して電気を供給する少なくとも一対の給電ロール20,30と、この一対の給電ロール20,30を介して前記シート状成形体に電気を供給する給電機構14と、を備えた通電焼結装置10を用いて、前記シート状成形体の焼結に伴う走行方向の収縮に応じて、装入口12側に配置された給電ロール20と、製出口13側に配置された給電ロール30との周速度を調整し、前記シート状成形体に引張応力を作用させた状態で、一対の給電ロール20,30を介して前記シート状成形体に通電することで、前記シート状成形体を自己発熱させて焼結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チタン、ステンレス鋼、Ni基合金等からなる金属焼結体の製造方法およびこの金属焼結体の製造方法に適した通電焼結装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前述の金属焼結体を製造する方法としては、例えば特許文献1に記載されているように、金属粉末を機械的に圧粉成形した成形体を加熱焼結するものが知られている。また、特許文献2に記載されているように、金属粉末に有機バインダー、可塑剤、水及び界面活性剤等を混合してスラリーとし、このスラリーを成形して成形体を成形し、この成形体を加熱焼結するものが提案されている。
【0003】
圧粉成形された成形体やスラリーからなる成形体を焼結する焼結工程においては、成形体を真空雰囲気又は還元雰囲気とされた焼結炉内に装入し、焼結炉内においてヒータ加熱又はバーナ加熱して焼結炉の雰囲気温度を上昇させ、成形体を加熱焼結することになる。特に、Ti、Cr等の酸化し易い活性な金属を含有する場合には、雰囲気制御を確実に行う必要がある。
また、焼結を効率的に行うために、特許文献3においては、高温状態の焼結炉内において成形体を走行させて連続的に焼結する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−080201号公報
【特許文献2】特開2007−046089号公報
【特許文献3】特開平09−291302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述のように、焼結炉内においてヒータ加熱又はバーナ加熱を行って雰囲気温度を上昇させ、この焼結炉内に装入した成形体を加熱焼結する場合には、焼結炉全体も加熱されることになり、熱効率が悪く、焼結に要するエネルギーコストが大幅に増加してしまうおそれがあった。
また、成形体自体を所定の温度にまで加熱するためには、比較的長時間にわたって高温に保持する必要があり、特にTiやCrなどの活性金属を含む成形体の場合は、成形体が、雰囲気ガスや成形体と接触した保持具等と反応してしまうおそれがあった。さらに、この焼結工程が律速となり、金属焼結体を効率良く製出することができないといった問題があった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、効率良く低コストで、高品質の金属焼結体を製出することが可能な金属焼結体の製造方法およびこの金属焼結体の製造方法に適した通電焼結装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の金属焼結体の製造方法は、金属粉末からなるシート状成形体を走行させながら加熱焼結し、シート状の金属焼結体を製出する金属焼結体の製造方法であって、前記シート状成形体が装入される装入口及び前記金属焼結体が製出される製出口を備えた焼結室と、この焼結室内において前記装入口側及び前記製出口に配置され、前記シート状成形体を走行させるとともに前記シート状成形体に対して電気を供給する少なくとも一対の給電ロールと、この一対の給電ロールを介して前記シート状成形体に電気を供給する給電機構と、を備えた通電焼結装置を用いて、前記シート状成形体の焼結に伴う走行方向の収縮に応じて、前記装入口側に配置された給電ロールと、前記製出口側に配置された給電ロールとの周速度を調整し、前記シート状成形体に引張応力を作用させた状態で、前記一対の給電ロールを介して前記シート状成形体に通電することで、前記シート状成形体を自己発熱させて焼結することを特徴としている。
【0008】
このような構成とされた本発明の金属焼結体の製造方法においては、金属粉末からなるシート状成形体を焼結する際に、前記シート状成形体が装入される装入口及び前記金属焼結体が製出される製出口を備えた焼結室と、この焼結室内において前記装入口側及び前記製出口に配置され、前記シート状成形体を走行させるとともに前記シート状成形体に対して電気を供給する少なくとも一対の給電ロールと、この一対の給電ロールを介して前記シート状成形体に電気を供給する給電機構と、を備えた通電焼結装置を用いており、前記装入口側及び前記製出口に配置された一対の給電ロールを介して、シート状成形体に電気を供給することによりシート状成形体自体を自己発熱させる構成とされているので、シート状成形体を短時間で高温にまで加熱することができる。
【0009】
すなわち、加熱対象であるシート状成形体自体を加熱することができるので、従来の焼結炉を用いた焼結方法に比べて、飛躍的に熱効率が向上し、エネルギーコストを大幅に削減することができる。また、短時間で高温に加熱されることから、高温状態に保持する時間を短くしてシート状成形体が雰囲気ガス等と反応することを抑制することができ、高品質の金属焼結体を製出することが可能となる。さらに、焼結が短時間で行われるとともに、シート状成形体を走行させながら焼結可能であるので、シート状成形体の焼結を連続して行うことができ、金属焼結体の製造効率を大幅に改善することができる。
【0010】
また、シート状成形体は、焼結が進行するにつれて幅方向、走行方向、厚さ方向に収縮することになる。また、シート状成形体の幅方向端部は、熱が放散されやすいため、幅方向中央部と比較して温度が低くなる傾向にある。このため、幅方向端部の収縮率が小さく、かつ、幅方向中央部の収縮率が大きくなり、シート状成形体の幅方向端部が波打つように変形してしまうことになる。このような変形が発生した場合には、金属焼結体に亀裂が生じたり、給電ロールが破損してしまうおそれがある。
そこで、本発明においては、前記シート状成形体の焼結に伴う走行方向の収縮に応じて、焼結室の装入口側に配置された給電ロールと、製出口側に配置された給電ロールとの周速度を調整し、前記シート状成形体に引張応力を作用させた状態で、前記一対の給電ロールを介して前記シート状成形体に通電する構成を採用している。このように、引張応力を作用させながら通電焼結することにより、焼結の進行に伴うシート状成形体の変形を矯正することができ、前述の変形に起因するトラブルの発生を未然に防止することができる。
なお、本発明の金属焼結体の製造方法においては、板厚が30μm以上3mm以下、好ましくは50μm以上500μm以下とされたシート状の金属焼結体を製造するのに、特に、適している。なお、成形体の板厚が薄くなるほど、焼結対象の成形体に対する炉体や治具の熱容量の比が大きくなり、単位重量あるいは単位体積当りのエネルギー効率が低下することになる。また、成形体が薄すぎると給電ロールによる搬送が困難となる。
【0011】
ここで、前記装入口側に配置された給電ロールの周速度をV1とし、前記製出口側に配置された給電ロールの周速度をV2とし、前記シート状成形体を焼結した際の幅方向の収縮率をX%とした場合において、V1×(100−X)/100<V2<V1×1.1の関係を有するように、前記装入口側に配置された給電ロールの周速度V1、前記製出口側に配置された給電ロールの周速度V2を調整することが好ましい。
【0012】
この場合、シート状成形体の幅方向の収縮率X及び前記装入口側に配置された給電ロールの周速度V1に対して、前記製出口側に配置された給電ロールの周速度V2が、V2>V1×(100−X)/100となるように調整されているので、確実にシート状成形体に引張応力を作用させた状態で、焼結を行うことが可能となる。また、前記製出口側に配置された給電ロールの周速度V2が、V2<V1×1.1とされているので、シート状成形体に必要以上の引張応力が作用することがなく、シート状成形体の破断等を防止することが可能となり、高品質の金属焼結体を製出することができる。
【0013】
また、前記通電焼結装置を用いて通電焼結を行う前に、前記シート状成形体の電気抵抗値Pを、10×10−6Ω・m≦P≦1500×10−6Ω・mの範囲内に調整することが好ましい。
通電焼結装置においては、給電ロールを介して通電することによってシート状成形体を自己発熱させる構成とされていることから、通電するための適度な導電性と、ジュール熱の発生を促進するための適度な電気抵抗と、が必要となる。そこで、前記シート状成形体の電気抵抗値Pを、10×10−6Ω・m≦P≦1500×10−6Ω・mの範囲内に調整することにより、給電ロールを介して確実に通電することができるとともに、自己発熱によって高温に加熱することができるのである。なお、前述の効果を確実に奏功せしめるためには、電気抵抗値Pを30×10−6Ω・m≦P≦500×10−6Ω・mの範囲内に調整することが好ましい。
【0014】
本発明の通電焼結装置は、金属粉末からなるシート状成形体に対して通電して自己発熱によって焼結させる通電焼結装置であって、前記シート状成形体が装入される装入口及び前記金属焼結体が製出される製出口を備えた焼結室と、この焼結室内において前記装入口側及び前記製出口に配置され、前記シート状成形体を走行させるとともに前記シート状成形体に対して電気を供給する少なくとも一対の給電ロールと、この一対の給電ロールを介して前記シート状成形体に電気を供給する給電機構と、を備え、前記装入口側に配置された給電ロールの周速度と、前記製出口側に配置された給電ロールの周速度と、をそれぞれ独立して制御する制御機構を備えていることを特徴としている。
【0015】
この構成の通電焼結装置によれば、前記シート状成形体を走行させるとともに前記シート状成形体に対して電気を供給する少なくとも一対の給電ロールと、前記装入口側の給電ロールの周速度と、前記製出口側の給電ロールの周速度と、をそれぞれ独立して制御する制御機構と、を備えているので、前記シート状成形体の焼結に伴う走行方向の収縮に応じて、前記製出口側に配置された給電ロールと、前記装入口側に配置された給電ロールとの周速度を調整することが可能となり、前記シート状成形体に引張応力を作用させた状態で、前記一対の給電ロールを介して前記シート状成形体に通電して焼結することができる。よって、焼結の進行に伴うシート状成形体の変形を抑制することができ、高品質の金属焼結体を効率良く製出することが可能となる。
【0016】
ここで、前記給電ロールには内部に冷却路が形成され、前記給電ロール内に冷媒を流通させて前記給電ロールを冷却する冷却機構が設けられていることが好ましい。
この場合、シート状成形体が自己発熱することにより、このシート状成形体に接触している給電ロールも高温となる。そこで、給電ロールに冷却機構を設けることによって、給電ロールの早期劣化を防止することができる。
【0017】
また、走行する前記シート状成形体を前記給電ロールとともに挟持する押さえロールを備えており、この押さえロールと前記給電ロールとによる挟持圧力を調整する圧力調整機構を有していることが好ましい。
この場合、押さえロールと給電ロールとによる挟持圧力を調整することにより、シート状成形体を確実に支持して搬送することができるとともに、給電ロールと確実に接触させて安定した電流を流すことができ、均一な焼結体を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、効率良く低コストで、高品質の金属焼結体を製出することが可能な金属焼結体の製造方法およびこの金属焼結体の製造方法に適した通電焼結装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態である金属焼結体の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図2に示す金属焼結体の製造方法において、シート状成形体を成形するシート成形機の概略説明図である。
【図3】本発明の実施形態である通電焼結装置の概要を示す説明図である。
【図4】図3に示す通電焼結装置のシート状成形体の走行方向に直交する方向から見た説明図である。
【図5】図3及び図4に示す通電焼結装置の給電ロールの支持構造の説明図である。
【図6】本発明の第2の実施形態である金属焼結体の製造方法を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第3の実施形態である金属焼結体の製造方法を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第4の実施形態である金属焼結体の製造方法を示すフローチャートである。
【図9】図8に示す金属焼結体の製造方法において、シート状成形体を成形する粉末圧延機の概略説明図である。
【図10】本発明の他の実施形態である通電焼結装置の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。図1から図5に、本発明の第1の実施形態である金属焼結体の製造方法及びこの金属焼結体の製造方法に用いられる通電焼結装置を示す。
本実施形態である金属焼結体の製造方法は、例えばフィルター等として用いられる多孔質チタンの焼結体を製出するものである。
【0021】
まず、本実施形態である金属焼結体(多孔質チタン焼結体)の製造方法について図1に示すフローチャートを参照して各工程ごとに説明する。
【0022】
(スラリー作製工程S1)
スラリー作製工程S1では、チタン粉末、水素化チタン粉末、またはこれらの混合粉末に、有機バインダー、発泡剤、可塑剤、水及び必要に応じて界面活性剤を混合して発泡性のスラリーSを作製する。
本実施形態では、原料粉末として、平均粒径5〜30μmの水素化チタン粉末と、水素化チタン粉末を脱水素処理することにより得られた平均粒径10〜30μmの純チタン粉末の混合粉末を使用した。
【0023】
上記の混合粉末を結合させる有機バインダーとして、水溶性のメチルセルロースまたはポリビニルアルコールを使用した。発泡剤として、ネオペンタン、ヘキサンおよびペプタンを使用した。可塑剤として、グリセリンを使用した。界面活性剤として、アルキルベンゼンスルホン酸塩を使用した。
これらの原料を、混合粉末:5〜80質量%、有機バインダー:0.05〜10質量%、発泡剤:0.05〜10質量%、可塑剤:0.1〜15質量%、界面活性剤:0.05〜5質量%、水:残部、の比率で混合して、スラリーSを作製した。
【0024】
次に、このスラリーSから発泡性のシート状成形体Fを成形する。ここで、成形工程S2、発泡工程S3は、図2に示すシート成形機80を用いて実施される。このシート成形機80は、搬送ローラ81によって駆動されるキャリアシート82と、スラリーSが貯留されるスラリー貯留部83と、キャリアシート82上に配設されたドクターブレード84と、発泡槽85と、乾燥室86と、を備えている。
【0025】
(成形工程S2)
成形工程S2では、図2に示すシート成形機80を用いて、スラリー貯留部83からキャリアシート82上にスラリーSが供給され、ドクターブレード84によってキャリアシート82上のスラリーSの厚さを所定値に調整して、幅110mm、長さ200mm、厚さ1.5mmのシート状スラリーを製出する。
【0026】
(発泡工程S3)
発泡工程S3では、シート状スラリーをキャリアシート82ごと発泡槽85内に装入し、温度70℃、湿度90%で1時間保持し、乾燥室86内で80℃の温風を1時間送風して温風乾燥させる。この発泡工程S3によって、シート状スラリー中の発泡剤が発泡して、3次元網目構造を有するとともにこの網目構造の骨格部分にチタン粉末が位置した発泡成形体が作製される。
【0027】
(脱脂工程S4)
前述の発泡成形体は、キャリアシート82から分離されるとともにジルコニア製の支持プレートの上に載置され、脱脂炉内に装入されて、5×10−2Paの真空雰囲気中に550℃で5時間保持される。これにより、発泡成形体に含まれる脂分(有機バインダー等)が揮発除去される。この状態の発泡成形体においては、チタン粉末同士は結合しておらず、導電性を有していない。なお、ジルコニア製の支持プレートを使用することによって発泡成形体中のチタンと支持プレートとの反応を防止している。
【0028】
(プレ焼結工程S5)
脱脂された発泡成形体は、支持プレートとともにプレ焼結炉内に装入される。プレ焼結炉においては、脱脂された発泡成形体を、5×10−3Paの真空雰囲気中で800〜1000℃で1〜30分保持する。これにより、3次元網目構造の骨格部分に位置するチタン粉末同士が結合することによって、導電性を有するシート状成形体Fが作製される。ここで、シート状成形体Fの電気抵抗値Pは、20×10−6Ω・m≦P≦1500×10−6Ω・mの範囲内に調整され、本実施形態では、P=100×10−6Ω・mに設定されている。
【0029】
(切断工程S6)
切断工程S6においては、プレ焼結炉で加熱焼結されて作製したシート状成形体Fの幅端部を長手方向に沿って切断し、その幅を所定長さ(本実施形態では100mm)に調整する。
ここで、導電性を有する程度にまで焼結されたシート状成形体Fにおいては、チタン粉末同士が一定の強度で結合しているので、支持プレートから分離しても崩壊することがなく、取り扱うことが可能となる。
【0030】
(通電焼結工程S7)
支持プレートから分離されたシート状成形体Fは、図3から図5に示す通電焼結装置10を用いて通電焼結される。具体的には、シート状成形体Fに電気が供給され、ジュール熱によってシート状成形体Fを自己発熱させ、Arガス雰囲気中で1300℃、1〜5分保持する。
【0031】
次に、通電焼結工程S7にて使用される通電焼結装置10について図3から図5を参照して説明する。
この通電焼結装置10は、図3に示すように、装入口12及び製出口13を備えた焼結室11と、この焼結室内11において装入口12側に配置された第1給電ロール20と、この第1給電ロール20の上部に対向配置される第1押さえロール40と、焼結室11内において製出口13側に配置された第2給電ロール30と、この第2給電ロール30の上部に対向配置される第2押さえロール50と、第1給電ロール20及び第2給電ロール30を介してシート状成形体Fに電気を供給する給電機構14と、を備えている。
【0032】
第1給電ロール20及び第2給電ロール30は、図4及び図5に示すように、シート状成形体Fの走行方向に対して直交する方向に延在させられており、その一方側(図4及び図5において左側)端部が絶縁板21、31を介して焼結室11の内壁部に軸支されるとともに、他方側(図4及び図5において右側)部分が焼結室11の外部に突出させられている。
第1給電ロール20及び第2給電ロール30のうち焼結室11から外部に突出された部分には、給電機構14から電気を供給する給電コネクタ22,32と、第1給電ロール20及び第2給電ロール30の内部に設けられた水冷配管23,33に冷却水を供給する冷却水供給部24、34と、絶縁部材28、38と、この第1給電ロール20及び第2給電ロール30を回転駆動する駆動モータ29,39と、が設けられている。
【0033】
ここで、第1給電ロール20及び第2給電ロール30は、図5に示すように、内部に水冷配管23,33が配設された2重管構造とされている。冷却水供給部24、34には、供給管25、35と排出管26、36とが設けられており、供給管25,35から水冷配管23,33に対して冷却水が供給される。水冷配管23、33を通じて第1給電ロール20及び第2給電ロール30の一方側(図4及び図5において左側)に向けて供給された冷却水は、水冷配管23、33の外側の環状空間を通じて第1給電ロール20及び第2給電ロール30の他端側(図4及び図5において右側)に向けて流通され、排出管26,36を介して外部へと排出される構成とされている。
【0034】
給電コネクタ22、32は、回転する第1給電ロール20及び第2給電ロール30の外周面に設けられた円筒状の部材であり、この給電コネクタ22、32に、電極15を介して給電機構14から電気が供給される構成とされている。なお、本実施形態においては、給電機構14は直流電源とされている。
絶縁部材28,38は、第1給電ロール20及び第2給電ロール30を回転駆動させる駆動モータ29,39と、給電コネクタ22、32との間の通電を防止するために設けられており、本実施形態では、絶縁樹脂製のカップリングとされている。
【0035】
第1押さえロール40及び第2押さえロール50は、図3及び図4に示すように、焼結室11の天井部を貫通するように配設された一対の軸支アーム41、51によって軸支される構成とされている。なお、この軸支アーム41,51には、絶縁碍子42,52が介装されている。
一対の軸支アーム41,51は、第1押さえロール40及び第2押さえロール50の延在方向と平行に延びる支持部43、53に支持されている。また、この支持部43、53は、焼結室11の天井部上部に設置された昇降装置44,54に支持されており、第1押さえロール40及び第2押さえロール50の上下方向位置を調整可能な構成とされており、この昇降装置44,54によって、第1給電ロール20と第1押さえロール40との挟持圧力、第2給電ロール30と第2押さえロール50との挟持圧力が調整される構成とされている。
また、この第1押さえロール40及び第2押さえロール50は、前述の第1給電ロール20及び第2給電ロール30と同様に、内部に水冷配管が配設された2重管構造とされており、図示しない冷却水供給手段によって冷却水を流通させることで冷却される構成とされている。
【0036】
また、第1押さえロール40と第2押さえロール50の設置間隔、第1給電ロール20と第2給電ロール30の設置間隔は、本実施形態では100mmとされている。なお、ロール間隔は、製品に必要な加熱時間(材質及び用途により異なる)と生産速度を考慮して決定されることになる。
さらに、これら第1給電ロール20及び第2給電ロール30、第1押さえロール40及び第2押さえロール50は、例えばタングステン合金等の熱膨張係数の小さな材料で構成されている。
【0037】
そして、図3に示すように、第1給電ロール20、第2給電ロール30、第1押さえロール40、第2押さえロール50は、それぞれの周速度を独立して制御する制御部(第1給電ロール制御部61、第2給電ロール制御部62、第1押さえロール制御部63、第2押さえロール制御部64)を備えている。
【0038】
このような通電焼結装置10を用いてシート状成形体Fを通電焼結する際には、まず、シート状成形体Fを、第1給電ロール20及び第1押さえロール40とで挟持するとともに第2給電ロール30及び第2押さえロール50とで挟持し、第1給電ロール20及び第1押さえロール40、第2給電ロール30及び第2押さえロール50を回転駆動させて、シート状成形体Fを搬送する。このとき、給電機構14から第1給電ロール20と第2給電ロール30とを介してシート状成形体Fに通電する。すると、シート状成形体Fがジュール熱によって自己発熱し、1300℃程度まで昇温されて焼結が進行することになる。
【0039】
このとき、第1給電ロール制御部61及び第2給電ロール制御部62によって、第1給電ロール20と第2給電ロール30との周速度を調整し、シート状成形体Fに引張応力を作用させた状態で通電し、焼結を進行させていく。
ここで、第1給電ロール20の周速度をV1とし、第2給電ロール30の周速度をV2とし、シート状成形体Fを焼結した際の幅方向の収縮率をX%とした場合に、V1×(100−X)/100<V2<V1×1.1の関係を有するように、第1給電ロール20の周速度V1、第2給電ロール30の周速度V2が調整される。
【0040】
本実施形態では、シート状成形体Fの幅方向の収縮率が6%とされているので、第1給電ロール20の周速度V1を100mm/min、第2給電ロール30の周速度V2を95mm/minに設定している。
また、第1給電ロール20と第2給電ロール30との間の電圧を12V、電流を300Aに設定している。
このように、シート状成形体Fに通電焼結を行うことによって、3次元網目構造の骨格部分に位置するチタン粉末同士が強固に結合し、多孔質チタン焼結体が製出されるのである。なお、得られた多孔質チタン焼結体の厚さは1mmとされている。
【0041】
このような構成とされた本発明の第1の実施形態である金属焼結体(多孔質チタン焼結体)の製造方法及び通電焼結装置10によれば、第1給電ロール20及び第2給電ロール30を介して、シート状成形体Fに電気が供給され、シート状成形体F自体が自己発熱することによって焼結される構成とされているので、シート状成形体Fを短時間で高温にまで加熱することができる。よって、従来の焼結炉を用いた焼結方法に比べて飛躍的に熱効率が向上し、エネルギーコストを大幅に削減することができる。
また、短時間で高温に加熱されることから、高温状態に保持する時間を短くすることができ、チタンのように活性な金属からなるシート状成形体Fであっても、雰囲気ガス等と反応することを抑制することができ、高品質の金属焼結体(多孔質チタン焼結体)を製出することができる。
【0042】
さらに、本実施形態では、第1給電ロール20の周速度V1、第2給電ロール30の周速度V2を、シート状成形体Fを焼結した際の幅方向の収縮率をX%とした場合において、V1×(100−X)/100<V2<V1×1.1の関係を有するように制御しており、具体的には、シート状成形体Fの幅方向の収縮率6%に対して、第1給電ロール20の周速度V1を100mm/min、第2給電ロール30の周速度V2を95mm/minに設定しているので、シート状成形体Fに適度な引張応力を作用させた状態で焼結を進行させることができ、焼結の進行に伴うシート状成形体Fの変形を矯正して、この変形に起因するトラブルの発生を未然に防止することができる。また、シート状成形体Fに必要以上の引張応力が作用することがなく、シート状成形体Fの破断等の発生を防止することができる。
【0043】
また、本実施形態では、チタン粉末、水素化チタン粉末、またはこれらの混合粉末に、有機バインダー、発泡剤、可塑剤、水及び必要に応じて界面活性剤を混合したスラリーSを用いているため、単に成形したのみでは導電性が確保されないことになる。そこで、シート状スラリーをプレ焼結炉において800℃から1000℃に加熱してプレ焼結することによって、3次元網目構造の骨格部分に位置するチタン粉末同士を結合して導電性を有するシート状成形体Fを製出しているので、その後の通電加熱装置10によってシート状成形体Fに通電することが可能となる。すなわち、プレ焼結工程によって、シート状成形体Fの電気抵抗値Pを、20×10−6Ω・m≦P≦1500×10−6Ω・mの範囲内、より具体的には100×10−6Ω・mに調整することで、通電するための適度な導電性と、ジュール熱の発生を促進するための電気抵抗とを確保しているのである。
【0044】
また、本実施形態である通電焼結装置10においては、第1給電ロール20、第2給電ロール30、第1押さえロール40、第2押さえロール50が、それぞれの周速度を独立して制御する制御部(第1給電ロール制御部61、第2給電ロール制御部62、第1押さえロール制御部63、第2押さえロール制御部64)を備えているので、シート状成形体Fの収縮率に応じて、第1給電ロール20及び第2給電ロール30の周速度を制御することができる。
【0045】
さらに、第1押さえロール40と第2押さえロール50とを備えており、これら第1押さえロール40及び第2押さえロール50の高さ位置が昇降装置44,54によって調整可能な構成とされているので、第1押さえロール40と第1給電ロール20及び第2押さえロール50と第2給電ロール30による挟持圧力を調整することが可能となり、シート状成形体Fを確実に支持して搬送することができるとともに、第1給電ロール20及び第2給電ロール30と確実に接触させて通電焼結することができる。よって、シート状成形体Fを第1給電ロール20及び第2給電ロール30に確実に接触させて安定した電流を流すことができ、均一な金属焼結体を得ることができる。
【0046】
また、第1給電ロール20及び第2給電ロール30の内部に水冷配管23、33が配設され、この水冷配管23,33に冷却水を流通させる冷却水供給部24、34を備えているので、これら第1給電ロール20及び第2給電ロール30が高温状態に維持されることを防止でき、第1給電ロール20及び第2給電ロール30の早期劣化を防止することができる。また、第1押さえロール40及び第2押さえロール50にも、内部に冷却水を流通させる冷却機構が配設されているので、これら第1押さえロール40及び第2押さえロール50についても早期劣化を防止することができる。
【0047】
さらに、本実施形態では、第1給電ロール20、第2給電ロール30、第1押さえロール40、第2押さえロール50が、タングステン合金等の熱膨張率の小さな材質で構成されているので、自己発熱したシート状成形体Fに接触させられている第1給電ロール20、第2給電ロール30、第1押さえロール40、第2押さえロール50の温度が上昇しても、これら第1給電ロール20、第2給電ロール30、第1押さえロール40、第2押さえロール50の変形を抑制することができ、通電焼結を良好に行うことができる。
【0048】
次に、本発明の第2の実施形態である金属焼結体の製造方法として、前述の通電焼結装置を用いて、緻密シート状のチタン焼結体を製造する方法を、図6のフロー図を用いて説明する。
【0049】
(スラリー作製工程S11)
スラリー作製工程S11では、チタン粉末、水素化チタン粉末、またはこれらの混合粉末に、有機バインダー、可塑剤、水及び必要に応じてアルコール等の消泡剤を混合してスラリーSを作製する。
本実施形態では、原料粉末として、平均粒径5〜15μmの水素化チタン粉末と、水素化チタン粉末を脱水素処理することにより得られた平均粒径5〜15μmの純チタン粉末の混合粉末を使用した。
【0050】
上記の混合粉末を結合させる有機バインダーとして、水溶性のメチルセルロースまたはポリビニルアルコールを使用した。可塑剤として、グリセリンを使用した。
これらの原料を、混合粉末:5〜80質量%、有機バインダー:0.05〜10質量%、可塑剤:10〜40質量%、水:残部、の比率で混合して、スラリーSを作製した。
【0051】
(成形工程S12)
成形工程S12では、ドクターブレードを備えた塗布装置等により、キャリアシート上にスラリーSを塗布し、幅110mm、長さ200mm、厚さ0.07mmのシート状スラリーを成形した。
【0052】
(脱脂工程S14)
シート状スラリーは、キャリアシートから分離されるとともにジルコニア製の支持プレートの上に載置され、脱脂炉内に装入されて、5×10−2Paの真空雰囲気中に550℃で5時間保持される。これにより、シート状スラリーに含まれる脂分(有機バインダー等)が揮発除去される。この状態のシート状スラリーにおいては、チタン粉末同士は結合しておらず、導電性を有していない。なお、ジルコニア製の支持プレートを使用することによってシート状スラリー中のチタンと支持プレートとの反応を防止している。
【0053】
(プレ焼結工程S15)
脱脂されたシート状スラリーは、支持プレートとともにプレ焼結炉内に装入される。プレ焼結炉においては、脱脂されたシート状スラリーを、5×10−3Paの真空雰囲気中で800〜1000℃で1〜30分保持する。これにより、チタン粉末同士が結合することによって導電性を有するシート状成形体Fが作製される。ここで、シート状成形体Fの電気抵抗値Pは、10×10−6Ω・m≦P≦1000×10−6Ω・mの範囲内に調整され、本実施形態では、P=200×10−6Ω・mに設定されている。
【0054】
(切断工程S16)
切断工程S16においては、プレ焼結炉で加熱焼結されて作製したシート状成形体Fの幅端部を長手方向に沿って切断し、その幅を所定長さ(本実施形態では100mm)に調整する。
ここで、導電性を有する程度にまで焼結されたシート状成形体Fにおいては、チタン粉末同士が一定の強度で結合しているので、支持プレートから分離しても崩壊することがなく、取り扱うことが可能となる。
【0055】
(通電焼結工程S17)
支持プレートから分離されたシート状成形体Fは、図3から図5に示す通電焼結装置を用いて通電焼結される。具体的には、シート状成形体Fに電気が供給され、ジュール熱によってシート状成形体Fを自己発熱させて加熱し、Arガス雰囲気中で1300℃、1〜5分保持する。
【0056】
このとき、第1給電ロール制御部61及び第2給電ロール制御部62によって、第1給電ロール20と第2給電ロール30との周速度を調整し、シート状成形体Fに引張応力を作用させた状態で通電し、焼結を進行させていく。
ここで、第1給電ロール20の周速度をV1とし、第2給電ロール30の周速度をV2とし、シート状成形体Fを焼結した際の幅方向の収縮率をX%とした場合に、V1×(100−X)/100<V2<V1×1.1の関係を有するように、第1給電ロール20の周速度V1、第2給電ロール30の周速度V2が調整される。
【0057】
本実施形態では、シート状成形体Fの幅方向の収縮率が5%とされているので、第1給電ロール20の周速度V1を100mm/min、第2給電ロール30の周速度V2を100mm/minに設定している。
また、第1給電ロール20と第2給電ロール30との間の電圧を28V、電流を250Aに設定している。
【0058】
このようにして、シート状成形体F中のチタン粉末同士が強固に結合し、緻密シート状のチタン焼結体(金属焼結体)が製出されるのである。なお、得られたチタン焼結体(金属焼結体)の厚さは0.05mmとされる。
【0059】
この構成の金属焼結体の製造方法によれば、緻密構造のシート状成形体Fの幅方向の収縮率(5%)に応じて、通電焼結装置10の第1給電ロール20及び第2給電ロール30の周速度V1、V2を設定し、シート状成形体Fに引張応力を作用させた状態で通電焼結を行うので、焼結に伴う変形を抑制でき、高品質の金属焼結体(緻密シート状のチタン焼結体)を製出することが可能となる。
【0060】
次に、本発明の第3の実施形態である金属焼結体の製造方法として、前述の通電焼結装置10を用いて多孔質のステンレス鋼焼結体を製造する方法を、図7のフロー図を用いて説明する。
【0061】
(スラリー作製工程S21)
スラリー作製工程S21では、ステンレス鋼の一種であるSUS316の水アトマイズ粉末に、有機バインダー、発泡剤、可塑剤、水及び必要に応じて界面活性剤を混合して発泡性のスラリーSを作製する。
本実施形態では、原料粉末として、平均粒径10〜20μmのSUS316の水アトマイズ粉末を使用した。
【0062】
上記の混合粉末を結合させる有機バインダーとして、水溶性のメチルセルロースまたはポリビニルアルコールを使用した。発泡剤として、ネオペンタン、ヘキサンおよびペプタンを使用した。可塑剤として、グリセリンを使用した。界面活性剤として、アルキルベンゼンスルホン酸塩を使用した。
これらの原料を、水アトマイズ粉末:5〜80質量%、有機バインダー:0.05〜10質量%、発泡剤:0.05〜10質量%、可塑剤:0.1〜15質量%、界面活性剤:0.05〜5質量%、水:残部、の比率で混合して、スラリーSを作製した。
【0063】
(成形工程S22)
成形工程S22では、図2に示すシート成形機80を用いて、スラリー貯留部83からキャリアシート82上にスラリーSを供給し、ドクターブレード84によってキャリアシート82上のスラリーSの厚さを所定値に調整して、幅110mm、長さ200mm、厚さ3.5mmのシート状スラリーを製出した。
【0064】
(発泡工程S23)
発泡工程S23では、シート状スラリーをキャリアシート82ごと温度70℃、湿度90%で1時間保持し、80℃の温風を1時間送風して温風乾燥させる。この発泡工程S23によって、シート状スラリー中の発泡剤が発泡して、3次元網目構造を有するとともにこの網目構造の骨格部分にSUS316粉末が位置した発泡成形体が作製される。
【0065】
(脱脂工程S24)
前述の発泡成形体は、キャリアシート82から分離されるとともにジルコニア製の支持プレートの上に載置され、脱脂炉内に装入されて、5×10−2Paの真空雰囲気中に550℃で5時間保持される。これにより、発泡成形体に含まれる脂分(有機バインダー等)が揮発除去される。この状態の発泡成形体においては、SUS316粉末同士は結合しておらず、導電性を有していない。なお、ジルコニア製の支持プレートを使用することによって発泡成形体中のSUS316と支持プレートとの反応を防止している。
【0066】
(プレ焼結工程S25)
脱脂された発泡成形体は、支持プレートとともにプレ焼結炉内に装入される。プレ焼結炉においては、脱脂された発泡成形体を、5×10−3Paの真空雰囲気中で800〜1000℃で1〜30分保持する。これにより、3次元網目構造の骨格部分に位置するSUS316粉末同士が結合することによって、導電性を有するシート状成形体Fが作製される。ここで、シート状成形体Fの電気抵抗値Pは、20×10−6Ω・m≦P≦1500×10−6Ω・mの範囲内に調整され、本実施形態では、P=100×10−6Ω・mに設定されている。
【0067】
(切断工程S26)
切断工程S26においては、プレ焼結炉で加熱焼結されて作製したシート状成形体Fの幅端部を長手方向に沿って切断し、その幅を所定長さ(本実施形態では100mm)に調整する。
ここで、導電性を有する程度にまで焼結されたシート状成形体Fにおいては、SUS316粉末同士が一定の強度で結合しているので、支持プレートから分離しても崩壊することがなく、取り扱うことが可能となる。
【0068】
(通電焼結工程S27)
支持プレートから分離されたシート状成形体Fは、図3から図5に示す通電焼結装置10を用いて通電焼結される。具体的には、シート状成形体Fに電気が供給され、ジュール熱によってシート状成形体Fを自己発熱させ、Arガス雰囲気中で1200℃、1〜5分保持する。
このとき、第1給電ロール制御部61及び第2給電ロール制御部62によって、第1給電ロール20及び第2給電ロール30の周速度V1、V2を調整し、シート状成形体Fに引張応力を作用させた状態で通電し、焼結を進行させていく。
具体的には、第1給電ロール20の周速度をV1とし、第2給電ロール30の周速度をV2とし、シート状成形体Fを焼結した際の幅方向の収縮率をX%とした場合に、V1×(100−X)/100<V2<V1×1.1の関係を有するように、第1給電ロール20の周速度V1、第2給電ロール30の周速度V2が調整される。
【0069】
本実施形態では、シート状成形体Fの幅方向の収縮率が15%とされているので、第1給電ロール20の周速度V1を100mm/min、第2給電ロール30の周速度V2を110mm/minに設定している。
また、第1給電ロール20と第2給電ロール30との間の電圧を5V、電流を680Aに設定している。
【0070】
このようにして、3次元網目構造の骨格部分に位置するSUS316粉末同士が強固に結合し、多孔質ステンレス鋼焼結体が製出されるのである。なお、得られた多孔質ステンレス鋼焼結体の厚さは3mmとされている。
【0071】
この構成の金属焼結体の製造方法によれば、多孔質構造のシート状成形体Fの幅方向の収縮率(15%)に応じて、通電焼結装置10の第1給電ロール20及び第2給電ロール30の周速度V1、V2を設定し、シート状成形体Fに引張応力を作用させた状態で通電焼結を行うので、焼結に伴う変形を抑制でき、高品質の金属焼結体(多孔質ステンレス鋼焼結体)を製出することが可能となる。
【0072】
次に、本発明の第4の実施形態である金属焼結体の製造方法として、前述の通電焼結装置10を用いて、多孔質ではなく中実のステンレス鋼焼結体を製造する方法を、図8のフロー図を用いて説明する。
【0073】
(粉末圧延工程S31)
粉末圧延工程では、平均粒径20〜40μmのSUS316の水アトマイズ粉末Dを準備し、図9に示すように、対向配置された一対の圧延ロール91と、粉体供給ホッパ92と、を備えた粉末圧延機90を用いてシート状成形体Fを製出する。これにより、幅30mm、長さ200mm、厚さ0.7mmのシート状成形体Fを成形した。
ここで、このシート状成形体Fは、ステンレス鋼からなる粉末Dを圧延したものであることから、導電性を備えている。
【0074】
(通電焼結工程S37)
成形されたシート状成形体Fは、図3から図5に示す通電焼結装置10を用いて通電焼結される。具体的には、シート状成形体Fに電気が供給され、ジュール熱によってシート状成形体Fを自己発熱させ、Arガス雰囲気中で1200℃、1〜5分保持する。
【0075】
このとき、第1給電ロール制御部61及び第2給電ロール制御部62によって、第1給電ロール20と第2給電ロール30との周速度V1、V2を調整し、シート状成形体Fに引張応力を作用させた状態で通電し、焼結を進行させていく。
ここで、第1給電ロール20の周速度をV1とし、第2給電ロール30の周速度をV2とし、シート状成形体Fを焼結した際の幅方向の収縮率をX%とした場合に、V1×(100−X)/100<V2<V1×1.1の関係を有するように、第1給電ロール20の周速度V1、第2給電ロール30の周速度V2が調整される。
【0076】
本実施形態では、シート状成形体Fの幅方向の収縮率が2%とされているので、第1給電ロール20の周速度V1を100mm/min、第2給電ロール30の周速度V2を105mm/minに設定している。
また、第1給電ロール20と第2給電ロール30との間の電圧を12V、電流を830Aに設定している。
【0077】
このようにして、シート状成形体Fに通電焼結を行うことにより、シート状成形体F中のSUS316粉末同士が強固に結合し、緻密シート状のステンレス鋼焼結体(金属焼結体)が製出されるのである。なお、得られたステンレス鋼焼結体(金属焼結体)の厚さは0.5mmとされる。
【0078】
この構成の金属焼結体の製造方法によれば、緻密構造のシート状成形体Fの幅方向の収縮率(2%)に応じて、通電焼結装置10の第1給電ロール20及び第2給電ロール30の周速度V1、V2を設定し、シート状成形体Fに引張応力を作用させた状態で通電焼結を行うので、焼結に伴う変形を抑制でき、高品質の金属焼結体(緻密シート状のステンレス鋼焼結体)を製出することが可能となる。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、第1〜3の実施形態においてスラリーを作製するものとして説明したが、このスラリーの配合、粉末の粒径等は、本実施形態に限定されることはなく、他の配合、粒径の原料を用いてスラリーを作製してもよい。
【0080】
また、製出される金属焼結体の厚さ、幅は、本実施形態に限定されることはなく、他のサイズの金属焼結体を製出するものであってもよい。
さらに、チタン、ステンレス鋼からなる金属焼結体を対象としたもので説明したが、これに限定されることはなく、Ni基合金等の他の金属焼結体を対象としてもよい。
また、給電機構を、直流電源として説明したが、これに限定されることはなく、交流電源やパルス電源であってもよい。
【0081】
また、第1給電ロール、第2給電ロール、第1押さえロール、第2押さえロールを、タングステン合金等の熱膨張率の小さな材料で構成したものとして説明したが、他の材質であってもよい。例えば、第1給電ロール及び第2給電ロールを、銅等の導電率に優れた材質で構成することで、給電を効率良く行うことができる。なお、銅の場合には、熱膨張係数が比較的大きいことから、熱変形を抑制するために十分に冷却する必要がある。また、押さえロールは、セラミックスロールであってもよい。
【0082】
さらに、2つの給電ロール(第1給電ロール及び第2給電ロール)を備えた通電焼結装置として説明したが、これに限定されることはなく、例えば図10に示すように、3つの給電ロール(第1給電ロール120、第2給電ロール130及び第3給電ロール140)を備えた通電焼結装置110であってもよい。この場合、第1給電ロール120の周速度V1、第2給電ロール130の周速度V2、第3給電ロール140の周速度V3、シート状成形体Fの幅方向の収縮率X、とした場合に、V1×(100−X)/100<V2<V1×1.1、及び、V2×(100−X)/100<V3<V2×1.1、の関係を有するように、制御部161、162、163によって、第1給電ロール120の周速度V1、第2給電ロール130の周速度V2、第3給電ロール140の周速度V3を設定することが好ましい。
【0083】
また、第1押さえロール及び第2押さえロールの周速度を制御する第1押さえロール制御部及び第2押さえロール制御部を備えたものとして説明したが、これに限定されることはなく、これらの押さえロールを従動ロールとしてもよい。
さらに、給電ロールを下側に配設し、押さえロールを上側に配置した構成で説明したが、これに限定されることはなく、給電ロールを上側に配置し、押さえロールを下側に配置してもよい。さらに、第1給電ロール及び第2給電ロールのうちの一方を上側に配置し、他方を下側に配置したものであってもよい。
【符号の説明】
【0084】
10 通電焼結装置
11 焼結室
12 装入口
13 製出口
14 給電機構
20 第1給電ロール(装入口側に配置された給電ロール)
30 第2給電ロール(製出口側に配置された給電ロール)
40 第1押さえロール(押さえロール)
50 第2押さえロール(押さえロール)
61 第1給電ロール制御部(制御機構)
62 第2給電ロール制御部(制御機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末からなるシート状成形体を走行させながら加熱焼結し、シート状の金属焼結体を製出する金属焼結体の製造方法であって、
前記シート状成形体が装入される装入口及び前記金属焼結体が製出される製出口を備えた焼結室と、この焼結室内において前記装入口側及び前記製出口に配置され、前記シート状成形体を走行させるとともに前記シート状成形体に対して電気を供給する少なくとも一対の給電ロールと、この一対の給電ロールを介して前記シート状成形体に電気を供給する給電機構と、を備えた通電焼結装置を用いて、
前記シート状成形体の焼結に伴う走行方向の収縮に応じて、前記装入口側に配置された給電ロールと、前記製出口側に配置された給電ロールとの周速度を調整し、前記シート状成形体に引張応力を作用させた状態で、前記一対の給電ロールを介して前記シート状成形体に通電することで、前記シート状成形体を自己発熱させて焼結することを特徴とする金属焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記装入口側に配置された給電ロールの周速度をV1とし、前記製出口側に配置された給電ロールの周速度をV2とし、前記シート状成形体を焼結した際の幅方向の収縮率をX%とした場合に、
V1×(100−X)/100<V2<V1×1.1
の関係を有するように、前記装入口側に配置された給電ロールの周速度V1、前記製出口側に配置された給電ロールの周速度V2を調整することを特徴とする請求項1に記載の金属焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記通電焼結装置を用いて通電焼結を行う前に、前記シート状成形体の電気抵抗率Pを、10×10−6Ω・m≦P≦1500×10−6Ω・mの範囲内に調整することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金属焼結体の製造方法。
【請求項4】
金属粉末からなるシート状成形体に対して通電して自己発熱によって焼結させる通電焼結装置であって、
前記シート状成形体が装入される装入口及び前記金属焼結体が製出される製出口を備えた焼結室と、
この焼結室内において前記装入口側及び前記製出口に配置され、前記シート状成形体を走行させるとともに前記シート状成形体に対して電気を供給する少なくとも一対の給電ロールと、
この一対の給電ロールを介して前記シート状成形体に電気を供給する給電機構と、を備え、
前記装入口側に配置された給電ロールの周速度と、前記製出口側に配置された給電ロールの周速度と、をそれぞれ独立して制御する制御機構を備えていることを特徴とする通電焼結装置。
【請求項5】
前記給電ロールには内部に冷却路が形成され、前記給電ロール内に冷媒を流通させて前記給電ロールを冷却する冷却機構が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の通電焼結装置。
【請求項6】
走行する前記シート状成形体を前記給電ロールとともに挟持する押さえロールを備えており、この押さえロールと前記給電ロールとによる挟持圧力を調整する圧力調整機構を有していることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の通電焼結装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−261073(P2010−261073A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112671(P2009−112671)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】