説明

金属硫化物と金属酸化物の複合体の製造方法

【課題】リチウム二次電池用の高容量の正極活物質等として有用な金属硫化物について、硫黄成分の有機電解液への溶出を効果的に抑制して、サイクル特性が改善された優れた性能を有する新規な材料の製造方法を提供する。
【解決手段】硫化ニッケル、硫化銅、硫化鉄またはこれらの混合物からなる金属硫化物、及び該金属硫化物の表面を部分的に被覆した金属酸化物からなる金属硫化物と金属酸化物の複合体の製造方法であって、
硫化ニッケル、硫化銅、硫化鉄またはこれらの混合物からなる金属硫化物を、金属塩を含む水溶液中に分散させた後、該水溶液を乾燥させて金属塩を該金属硫化物に付着させ、その後、金属塩が付着した金属硫化物を硫黄含有雰囲気下において400〜900℃で熱処理することを特徴とする金属硫化物と金属酸化物の複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物と金属硫化物の複合体、その製造方法、およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の多様な機器やシステムの発展により、動力源としての電池(一次電池、二次電池、キャパシタ等)の高性能化の要求がますます高まっている。例えば、リチウム二次電池は、携帯通信機器、ノート型パソコン等の電子機器の電源を担う高エネルギー密度の二次電池として広く普及が進んでおり、また環境負荷低減の観点から自動車のモーター駆動用バッテリーとしても期待されている。このため、これら機器の高性能化に対応した高エネルギー密度のリチウム二次電池の開発が求められている。斯かる要求を実現するには、正極、負極それぞれの高容量化を図る必要がある。
【0003】
しかしながら、現行のリチウム二次電池においては、負極に比べると正極は高容量化が進んでいない。例えば、比較的高容量と言われているニッケル酸リチウム系材料の実効的な容量は190〜220mAh/g程度であり、式量当たりのリチウム量が比較的多いLi2MnO3系材料についても、全てのリチウムイオンが充放電に関与すると仮定した理論容量は460mAh/g程度に過ぎない。
【0004】
一方、硫黄は、作動電位が低いものの、理論容量が約1670mAh/gと非常に高い材料である。しかしながら、硫黄単体は導電性が低く、また、現行の有機電解液(例えば、エチレンカルボネートとジメチルカルボネートの1:1混合溶液に1M濃度のLiPF6を溶解させた電解液など)を用いた電池系においては放電時にリチウムイオンと反応して電解液中に溶解するという問題がある。これらの問題を克服する方法の一つとして、半導性以上の導電性を有し、硫黄単体に比べて電解液中への溶出が比較的少ない金属硫化物(MSx;Mはニッケル、鉄、銅などの金属成分)を用いる方法がある。金属硫化物の理論容量は硫黄単体に比べて低いものの、600〜900mAh/g程度あり、上記の現行酸化物系に比べて高容量が期待できる。
【0005】
しかしながら、金属硫化物正極はサイクル特性に問題があり、電池材料としての普及を促進させるためには、サイクル劣化を抑制する必要がある。サイクル劣化の主な原因としては、(1)硫黄成分の有機電解液への溶出、(2)活物質の電気化学的不可逆性、(3)活物質の集電体からの剥離、が指摘されている。この中で、(1)については、硫黄成分の溶出を効果的に抑制するためには、電解液側および活物質側の両方からのアプローチが必要と考えられるが、電解液側からのアプローチとして、溶出が抑制される有機電解液の探索が行われている例はあるものの、金属硫化物の改変など、活物質側からのアプローチはほとんど報告例がない。
【0006】
硫黄系固体電解質を用いた全固体電池において、酸化物系正極活物質(LiCoO2、LiNi0.5Mn1.5O4など)が固体電解質と直接接触することによる劣化を抑制するために、該活物質の表面を燐酸リチウム、酸化物系リチウムイオン導電体(Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3)、酸化ジルコニウムなどで被覆した例(下記非特許文献1〜4)が知られている。しかしながら、有機電解液を用いた電池系において、正極活物質として用いる金属硫化物の劣化、特に、有機電解液中への溶出を抑制するために有効な手段については、未だ見出されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Y. Kobayashi, H. Miyashiro, K. Takei, H. Shigemura, M. Tabuchi, H. Kageyama, and T. Iwahori, J. Electrochem. Soc., 150, A1577 (2003).
【非特許文献2】Y. Kobayashi, S. Seki, M. Tabuchi, H. Miyashiro, Y. Mita, and T. Iwahori, J. Electrochem. Soc., 152, A1985 (2005).
【非特許文献3】Y. Kobayashi, S. Seki, A. Yamanaka, H. Miyashiro, Y. Mita, and T. Iwahori, J. Power Sources, 146, 719 (2005).
【非特許文献4】H. Miyashiro, A. Yamanaka, M. Tabuchi, S. Seki, M. Nakayama, Y. Ohno, Y. Kobayashi, Y. Mita, A. Usami, and M. Wakihara, J. Electrochem. Soc., 153, A348 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、リチウム二次電池用の高容量の正極活物質等として有用な金属硫化物について、硫黄成分の有機電解液への溶出を効果的に抑制して、サイクル特性が改善された優れた性能を有する新規な材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、金属塩を含有する水溶液中に金属硫化物を加えて混合した後、乾燥して金属硫化物の表面に金属塩を付着させた後、これを硫黄含有雰囲気下において熱処理する方法によれば、金属硫化物の表面が金属酸化物によって部分的に被覆された材料が得られることを見出した。特に、金属塩が付着した金属硫化物を硫黄と共に導電性容器に収容し、直流パルス電流を通電して熱処理する方法を採用する場合には、所望の材料を比較的短時間に効率よく作製できることを見出した。そして、この様な方法で得られた材料は、金属硫化物表面が部分的に金属酸化物によって被覆されていることにより、未被覆の材料と比較すると、硫黄成分の溶出が抑制されてサイクル特性が大きく向上することを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の金属酸化物と金属硫化物の複合体、その製造方法、およびその用途を提供するものである。
1.硫化ニッケル、硫化銅、硫化鉄またはこれらの混合物からなる金属硫化物、及び該金属硫化物の表面を部分的に被覆した金属酸化物からなる、金属硫化物と金属酸化物の複合体。
2.金属酸化物量が、金属硫化物1モルに対して0.01〜0.5モルである上記項1に記載の複合体。
3.金属酸化物が微粒子状の酸化チタンである上記項1又は2に記載の複合体。
4.硫化ニッケル、硫化銅、硫化鉄またはこれらの混合物からなる金属硫化物を、金属塩を含む水溶液中に分散させた後、該水溶液を乾燥させて金属塩を該金属硫化物に付着させ、その後、金属塩が付着した金属硫化物を硫黄含有雰囲気下において400〜900℃で熱処理することを特徴とする上記項1〜3のいずれかに記載された金属硫化物と金属酸化物の複合体の製造方法。
5.金属塩が付着した金属硫化物を硫黄含有雰囲気下で熱処理する方法が、金属塩が付着した金属硫化物を硫黄ともに導電性容器中に収容し、非酸化性雰囲気下において該容器に直流パルス電流を通電して熱処理する方法である上記項4に記載の製造方法。
6.上記項1〜3のいずれかに記載の複合体からなるリチウム二次電池正極材料。
7.上記項1〜3のいずれかに記載の複合体からなるリチウム二次電池正極材料を構成要素とするリチウム二次電池。
【0011】
本発明の複合体は、硫化ニッケル、硫化銅、硫化鉄またはこれらの混合物からなる金属硫化物、及び該金属硫化物の表面を部分的に被覆した金属酸化物からなるものである。
【0012】
以下、本発明の複合材料の製造方法及びこの方法によって得られる複合体について具体的に説明する。
【0013】
(I)金属硫化物と金属酸化物の複合体の製造方法:
本発明の複合体は、下記の工程(1)及び工程(2)を含む方法によって得ることができる:
(1)硫化ニッケル、硫化銅、硫化鉄またはこれらの混合物からなる金属硫化物を、金属塩を含む水溶液中に分散させた後、該水溶液を乾燥させて金属塩を該金属硫化物に付着させる工程、
(2)上記(1)工程で得られた、金属塩を付着させた金属硫化物を硫黄含有雰囲気下において400〜900℃で熱処理する工程。
【0014】
以下、まず、上記(1)工程で用いる原料について説明する。
【0015】
(i)金属硫化物
本発明では、金属硫化物としては、硫化ニッケル、硫化銅、硫化鉄またはこれらの混合物を用いる。これらの金属硫化物は、正極材料として高い理論容量と適度な導電性を有し、しかも電解液中への溶出が硫黄単体に比べて少ない材料であり、リチウム二次電池における正極活物質として優れた性能を有するものである。
【0016】
上記した各金属硫化物の具体的な組成物については特に限定はないが、特にM(式中、Mは、Ni、Cu及びFeからなる群から選ばれた少なくとも一種であり、0<x≦2である)で表される金属硫化物を用いることが好ましい。これらの金属硫化物の内で、1<x≦2である硫黄含有量の多い硫化物は、正極材料として高い理論容量と適度な導電性を有する点で好ましい材料である。また、後述する熱処理工程における硫黄の脱離を考慮すると、硫黄含有量の多い硫化物を原料とすることが好ましい。
【0017】
金属硫化物の形状については特に限定はないが、平均粒径0.1〜100μm程度の粉末状であることが好ましい。
【0018】
上記した金属硫化物を製造する方法については、特に限定はなく、各種の公知の方法によって得ることができる。特に、多孔性金属と硫黄を導電性容器中に収容し、非酸化性雰囲気下において該容器に直流パルス電流を通電して反応させる方法(通電焼結法)によって製造することが好ましい。この方法によれば、所望の金属硫化物を比較的短時間で効率良く製造できる。以下、この方法について具体的に説明する。
【0019】
通電焼結法による金属硫化物の製造法
原料としては多孔性金属と硫黄を用いる。該多孔性金属は、Ni、Cu、Feまたはこれらの合金からなるものであることが好ましい。該多孔性金属は、空隙率が80%程度以上の多孔質体であることが好ましい。この様な高空隙率の多孔質体を原料とすることによって、反応時に硫黄の蒸気と接する面積が広くなり、金属の硫化が進行しやすく、多くの硫黄原子を容易に取り込むことができるので、硫黄原子比の高い硫化物を簡単に製造できる。空隙率が80%を下回ると硫黄原子との反応が十分に進行せず、硫黄原子比の高い金属硫化物を簡単には製造できないので好ましくない。空隙率の上限値については特に限定的ではないが、通常、99%程度以下とすることが好ましい。
【0020】
該多孔性金属の形状については特に限定的ではないが、導電性容器内に収容された多孔性金属に導電ネットワークが形成されて均一に加熱されるように、各多孔性金属について、二カ所以上の部分において、導電性容器と電気的に接続ができる形状であることが好ましい。例えば、多孔性金属が粉体状、顆粒状などの形状であっても、各多孔性金属同士が十分に接触するように充填すれば、導電性容器内において導電性ネットワークを形成することが可能であるが、特に、多孔性金属の形状を導電性容器の断面形状とほぼ同一形状の板状とすれば、導電性容器と多孔性金属との接触を十分に確保することができる。この様な形状の多孔性金属を用いることによって、容器内に充填した多孔性金属について、十分な導電ネットワークが形成されて、容器内の温度分布を均一にすることができる。
【0021】
なお、鉄を原料とする場合には、スポンジ状の鉄などの多孔性鉄に限定されず、顆粒状の鉄、粉末状の鉄、繊維状の鉄などの任意の形状の金属鉄を原料とすることができる。
【0022】
原料とする硫黄の形状については特に限定はないが、通常、平均粒径1〜300μm程度の粉末状のものを用いることが好ましい。尚、本願明細書において、平均粒径とは、乾式のレーザー回折・散乱式による粒度分布測定で、累積度数分布が50%となる粒径である。
【0023】
多孔性金属と硫黄との割合については、特に限定的ではないが、通常、原料として用いた硫黄の全量を多孔性金属と完全に反応させることは難しいので、目的とする金属硫化物における硫黄のモル比を上回る比率の硫黄を用いることが好ましい。例えば、金属硫化物:MSを製造する場合には、多孔性金属1モルに対して硫黄2モル以上を原料として用いることが好ましい。硫黄の配合割合の上限については、特に限定はなく、例えば、多孔性金属1モルに対して100モル程度の硫黄を用いることも可能である。また、一回の反応では、得られる金属硫化物の硫黄含有量が少ない場合には、生成物に対して更に硫黄を追加して同様の反応を繰り返すことによって、硫黄原子比の高い金属硫化物を得ることができる。反応を繰り返す場合には、1回目の反応で得られた多孔性金属硫化物をその形状のまま使用しても良く、また多孔性金属硫化物を粉砕してから2回目以降の反応に使用しても良い。粉砕した場合は、金属硫化物のサイズが小さくなるので、一般に硫黄との反応性は更に良くなり、より少量の硫黄、より少ない繰り返し回数でMS2を作製できる。
【0024】
通電焼結法による製造方法では、多孔性金属と硫黄からなる出発原料を導電性容器に収容し、該容器に直流パルス電流を通電する。これによって、ジュール熱による導電性容器の加熱が起こり、容器内の原料が加熱されて多孔性金属と硫黄とが反応して、金属硫化物が形成される。
【0025】
導電性容器の材質については特に限定的ではないが、十分な導電性と、直流パルス電流を通電した際の加熱温度に対する耐熱性を有し、硫黄と反応して化合物を生成しない成分から成り、且つ、十分な強度を有するものであればよい。例えば、炭素(黒鉛等)、タングステンカーバイド等を好適に使用できる。
【0026】
多孔性金属と硫黄との反応は、非酸化性雰囲気下、例えば、Ar、Nなどの不活性ガス雰囲気下、Hなどの還元性雰囲気下等で行う。これにより、硫黄の発火の危険性を除くことができる。
【0027】
導電性容器として十分な密閉状態を確保できる容器を用いる場合には、該導電性容器内を非酸化性雰囲気とすればよい。
【0028】
また、導電性容器は完全な密閉状態でなくてもよく、硫黄の蒸散を防止できる程度の閉鎖状態を確保できれば、不活性ガスなど気体が多少透過してもよい。この様な不完全な密閉状態の導電性容器を用いる場合には、該導電性容器を反応室内に収容して、該反応室内を不活性ガス雰囲気、還元性雰囲気などの非酸化性雰囲気とすればよい。これにより、多孔性金属と硫黄との反応を非酸化性雰囲気下で行うことが可能となる。この場合、例えば、反応室内を0.1MPa程度以上の不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気などとすれば、導電性容器からの硫黄の蒸散を有効に抑制できる。
【0029】
上記した様に、多孔性金属と硫黄からなる原料を導電性容器中に収容して、該容器に直流パルス電流を通電する方法を採用することによって、溶融、気化した硫黄が該容器から漏出することを防止でき、これにより、硫黄の蒸散によるロスが少なくなり、硫黄原子比の高い金属硫化物を効率良く製造できる。
【0030】
図1は、上記した通電焼結法に用いる通電処理装置の一例の模式図である。
【0031】
図1に示される通電処理装置1は、原料2を装填するダイ(導電性容器)3と上下一対のスペーサ(該容器の蓋材)4及び5とを有する。スペーサ(蓋材)4及び5は、それぞれパンチ電極6及び7に支持されており、パンチ電極6及び7によって、例えば、1MPa程度の圧力で加圧されてダイ3に押し付けられている。これにより、ダイ3とスペーサ4及び5からなる導電性容器は、密閉状態となり、加熱反応時に硫黄の蒸散を防止できる。
【0032】
スペーサ(蓋材)4、5は導電性部材で構成されており、パルス電源11により発生した直流パルス電流がパンチ電極6及び7を介して、スペーサ(蓋材)4、5及びダイ(導電性容器)3に供給される。ダイ3,スペーサ4、5及びパンチ電極6及び7からなる通電部は、水冷真空チャンバー8に収容されており、チャンバー内部は雰囲気制御機構15により所定の非酸化性雰囲気に制御される。これにより、非酸化性雰囲気下における反応が可能となる。図1の装置では、試料近傍が加熱されると硫黄が揮発するが、型材(導電性容器)3の上下がスペーサ(蓋材)4,5で囲われているため、型材外への硫黄の蒸散によるロスは少なく、反応の効率は高い。
【0033】
制御装置12は、加圧機構13、パルス電源11、雰囲気制御機構15、水冷却機構16、10、及び温度計測装置17を駆動制御するものである。制御装置12は加圧機構13を駆動し、パンチ電極6、7が所定の圧力でスペーサ4,5を圧縮するよう構成されている。
【0034】
多孔性金属と硫黄からなる原料を導電性容器に充填する方法については、特に限定的ではないが、多孔性金属に導電ネットワークが形成されるように、すべての多孔性金属が導電性容器との間で導電性を確保できるように充填することが好ましい。硫黄の充填方法については任意であるが、均一に反応が進行し易いように、できるだけ均一に充填することが好ましい。
【0035】
上記した方法では、多孔性金属及び硫黄を収容した導電性容器に直流パルス電流を通電することによって、ジュール熱による導電性容器の加熱が起こり、これにより原料が加熱される。その結果、出発原料の硫黄(融点約120℃)の一部が気化して金属試料表面に付着し、そこで反応が生じて金属硫化物が生成し、更に気化した硫黄が付着して反応が進行し、これらが連続して起こることで所望の金属硫化物が生成する。
【0036】
直流パルス電流を通電することによって加熱される導電性容器の温度は、原料である金属の種類や形状及び生成物の種類などに応じて適宜選択することができるが、通常300〜800℃程度とすればよい。300℃未満では原料の金属と硫黄の反応が不十分となる場合があり、また、800℃以上では生成物からの硫黄脱離による分解が起こり得るため好ましくない。特に、400〜700℃程度の加熱が好適である。
【0037】
加熱のために印加するパルス電流は、例えばパルス幅2〜3ミリ秒程度で、周期は3Hz〜300Hz程度のパルス状ON−OFF直流電流を用いればよい。電流値は導電性容器の種類及び大きさにより異なるが、例えば内径15mm、外径30mmの黒鉛容器を用いた場合には300〜1000A程度が好適である。処理時は、導電性容器の温度をモニターしながら電流値を増減させ、所定の温度を管理できるように電流値を制御するか、もしくは投入電気エネルギー量(Wh値)を制御すればよい。
【0038】
通電処理による加熱時間については、使用する試料の量、処理温度などによって異なるので、一概に規定できないが、通常、上記した加熱温度範囲に1分〜2時間程度保持すればよい。
【0039】
所定の温度で通電処理を行った試料は冷却後、導電性容器から取り出すことによって多孔性金属硫化物を回収することができる。更に得られた金属硫化物を乳鉢等で軽く粉砕すれば粉末状の金属硫化物を回収することができる。反応が十分に進行していない場合や、生成物中の硫黄分が不足している場合には、得られた試料に硫黄を追加するなどして再度上記の通電処理を行えば良い。
【0040】
得られる金属硫化物は、多孔性金属を出発原料とした場合には、その形状を維持した状態であり、空隙率80%程度以上の多孔性の金属硫化物となる。
【0041】
(ii)金属塩
本発明の複合体の製造方法では、原料とする金属塩については特に限定的ではないが、水溶性の金属塩であって、その水溶液が金属硫化物と反応しないこと、400〜900℃程度、好ましくは500〜800℃の熱処理により金属酸化物になること、更にその金属酸化物が電解液と接触した際に液を劣化させないこと等の条件を満足するものであることが好ましい。
【0042】
この様な金属塩としては、例えば、Ti、Si,Ca、Mg等の塩を例示できる。これらの塩は、非酸化性雰囲気下において分解して酸化物を形成するように、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等の酸素を含有する塩であることが好ましい。
【0043】
(iii)上記(1)工程の具体的内容
上記(1)工程では、まず、金属塩を含む水溶液中に金属硫化物を分散させる。水溶液中における金属塩の濃度については、特に限定はなく、使用する金属塩の種類に応じて金属塩が完全に溶解する濃度とすればよい。例えば、金属塩濃度が、0.01〜50重量%程度の水溶液を用いることができる。
【0044】
金属塩を含む水溶液中に添加する金属硫化物の量については、特に限定はなく、該水溶液中に均一に分散できる量であればよいが、後述する(2)工程で形成される金属酸化物量が多すぎると、金属酸化物が金属硫化物表面を広く被覆し過ぎることにより、電池の充放電時にLiの挿入・脱離が阻害され、また絶縁性の高い金属酸化物では活物質の導電性が低下する。このため、金属塩と金属硫化物の割合は、該水溶液中に添加する金属硫化物1モルに対して、金属塩から形成される金属酸化物の量として0.5モル程度以下となる量であることが好ましく、0.01〜0.5モル程度となる量であることがより好ましい。
【0045】
金属塩を含む水溶液に金属硫化物を添加した後、該水溶液を十分に撹拌し、その後、該水溶液を乾燥させて、金属硫化物の表面に金属塩を付着させる。
【0046】
混合する際の水溶液の温度については特に限定はなく室温で攪拌すればよい。撹拌時間についても限定はなく、添加した金属硫化物が均一に分散されるまで撹拌すればよい。
【0047】
該水溶液を乾燥させる際の液温については特に限定はなく、常温〜加熱下の任意の液温とすることができる。乾燥の効率を考慮すると、通常、70〜120℃程度に加熱することが好ましい。
【0048】
上記した工程は、通常、大気中で行うことができる。
【0049】
(iv)上記(2)工程の具体的内容
上記した(1)工程で得られた、金属塩が表面に付着した金属硫化物を硫黄含有雰囲気下において400〜900℃で熱処理する。この工程によって、金属塩が酸化されて、金属酸化物となり、形成された金属酸化物によって金属硫化物の表面が部分的に被覆される。
【0050】
この工程の具体的な処理方法については特に限定はなく、例えば、金属塩が表面に付着した金属硫化物を硫黄粉末と共に耐熱性の密閉容器に充填し、該容器内を不活性ガス雰囲気、還元性雰囲気などの非酸化性雰囲気として、加熱炉中で加熱する方法を適用できる。これにより、加熱炉内が硫黄含有雰囲気となり、金属硫化物からの硫黄原子の脱離を抑制して、優れた性能の複合体を得ることができる。
【0051】
本発明では、(2)工程については、特に、金属塩が付着した金属硫化物を硫黄ともに導電性容器中に収容し、非酸化性雰囲気下において該容器に直流パルス電流を通電して熱処理する方法を採用することが好ましい。これによって、ジュール熱による導電性容器の加熱が起こり、容器内の原料が加熱され、硫黄含有雰囲気中において、金属塩が分解して金属酸化物となり、金属硫化物の表面が金属酸化物によって部分的に被覆された複合体を得ることができる。この方法によれば、通電焼結という比較的簡単な方法によって、目的とする複合体を効率良く製造することができる。
【0052】
上記した通電焼結方法では、使用する硫黄の形状については特に限定はないが、通常、平均粒径1〜300μm程度の粉末状のものを用いることが好ましい。
【0053】
また、金属塩が付着した金属硫化物と硫黄との割合については特に限定的ではないが、例えば、金属硫化物のモル数に対して、硫黄の量を1〜20倍モル程度とすることが好ましい。
【0054】
上記した通電焼結法に用いる導電性容器の種類や、導電性容器内を非酸化性雰囲気とする方法については、前述した通電焼結法による金属硫化物の製造方法と同様とすればよい。また、通電焼結に用いる通電処理装置としても、金属硫化物の製造と同様に、例えば、図1に示す構造の装置を用いることができる。
【0055】
金属塩が付着した金属硫化物、および硫黄からなる原料を導電性容器に充填する方法については、特に限定的ではないが、均一に反応が進行し易いように、できるだけ均一に充填することが好ましい。
【0056】
通電焼結法によれば、金属塩が付着した金属硫化物、および硫黄を収容した導電性容器に直流パルス電流を通電することによって、ジュール熱による導電性容器の加熱が起こり、これにより原料が加熱される。その結果、出発原料の硫黄(融点約120℃)の一部が気化して該容器内が硫黄雰囲気となり金属硫化物からの硫黄脱離を抑制しつつ、金属硫化物表面に付着している金属塩が熱分解して金属酸化物となり、金属酸化物が表面に接合した金属硫化物が生成される。
【0057】
直流パルス電流を通電することによって加熱される導電性容器の温度は、原料である金属塩の種類、その分解温度、金属硫化物の種類などに応じて適宜選択することができるが、通常、400〜900℃程度とすれば良い。400℃未満では、原料の金属塩の熱分解が不十分となり、金属酸化物が生成しない場合があり、また、900℃以上では金属硫化物からの硫黄脱離による分解が起こり易くなるため好ましくない。特に500〜800℃程度の加熱が好適である。
【0058】
加熱のために印加するパルス電流は、例えばパルス幅2〜3ミリ秒程度で、周期は3Hz〜300Hz程度のパルス状ON−OFF直流電流を用いればよい。電流値は導電性容器の種類および大きさにより異なるが、例えば内径15mm、外径30mmの黒鉛容器を用いた場合には300〜1500A程度が好適である。処理時は、導電性容器の温度をモニターしながら電流値を増減させ、所定の温度を管理できるように電流値を制御するか、もしくは投入電気エネルギー量(Wh値)を制御すればよい。
【0059】
通電処理による加熱時間については、使用する試料の量、処理温度などによって異なるので、一概に規定できないが、通常、上記した加熱温度範囲に1分〜2時間程度保持すればよい。
【0060】
所定の温度で通電処理を行い、冷却した後、導電性容器内の試料を取り出すことによって、金属硫化物の表面が部分的に金属酸化物で被覆され、金属硫化物と金属酸化物の複合体を回収することができる。多量の反応処理を行う場合には、大きな導電性容器を用い、上記のプロセスをスケールアップすればよい。
【0061】
(II)金属硫化物と金属酸化物の複合体
上記した方法によれば、金属硫化物と、該金属硫化物の表面を部分的に被覆した金属酸化物とからなる、金属硫化物と金属酸化物の複合体が得られる。該複合体では、金属硫化物の表面は、金属酸化物によって部分的に被覆された状態である。この様に、金属硫化物の表面が金属酸化物によって部分的に被覆された状態であることによって、電池の充放電時にLiの挿入・脱離が大きく阻害されることなく、十分な充放電容量を有するものとなる。また、導電性が良好な金属硫化物の一部が露出していることによって、十分な導電性を確保できる。また、金属硫化物の一部が金属酸化物によって被覆されていることによって、硫黄成分の溶出が抑制されて、良好なサイクル特性を発揮できる。
【0062】
上記した方法では、硫黄含有雰囲気下において熱処理を行っており、金属硫化物からの硫黄の脱離は抑制されているが、処理条件に応じて、原料とする金属硫化物から多少の硫黄原子の脱離が生じる場合がある。得られた複合体を構成する金属硫化物は、通常、原料とする金属硫化物と比較すると、硫黄含有量が30〜100%程度の範囲となる。
【0063】
上記方法で形成される複合体を構成する金属硫化物としては、例えば、式:Mにおいて、0<x≦1.5程度の範囲内のもの、特に、0<x≦1.0程度の範囲内のものを好適に用いることができる。
【0064】
金属硫化物の表面を被覆する金属酸化物の量については、正極材料として優れた性能を発揮するためには、金属硫化物1モルに対して、0.01〜0.5モル程度であることが好ましく、0.02〜0.4モル程度であることがより好ましい。
【0065】
また、金属酸化物による金属硫化物の表面の被覆率については、特に限定的ではないが、例えば、1〜50%程度とすることができ、3〜40%程度とすることが好ましい。
【0066】
金属硫化物の表面を被覆している金属酸化物の状態については、例えば、平均粒径50〜300nm程度の微粒子状態であることができるが、この様な状態に限定されるものではない。
【0067】
本発明方法によって得られる金属硫化物と金属酸化物の複合体は、リチウム二次電池用正極活物質として有効に利用できる。該複合体を用いるリチウム二次電池は、公知の手法により製造することができる。すなわち、正極材料として、本発明の複合体を使用する他は、負極材料として、公知の金属リチウム、炭素系材料(活性炭、黒鉛)などを使用し、電解液として、公知のエチレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの溶媒に過塩素酸リチウム、LiPF6などのリチウム塩を溶解させた溶液を使用し、さらにその他の公知の電池構成要素を使用して、常法に従って、リチウム二次電池を組立てればよい。なお、負極に炭素系材料などLiを含有しない材料を用いる場合には、プレドープなどの方法によりあらかじめLiを挿入したものを使用する必要がある。
【発明の効果】
【0068】
本発明の金属硫化物と金属酸化物の複合体は、金属硫化物の有する高い充放電容量と良好な導電性を維持した上で、サイクル特性が改善されたものである。
【0069】
従って、本発明の複合体は、例えば、リチウム二次電池の正極材料として使用する場合に、高い理論容量と良好なサイクル性能を有する材料となる。
【0070】
また、本発明の製造方法によれば、この様な優れた性能を有する正極材料を、比較的簡単な方法によって効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明方法で使用する通電処理装置の一例の概略図である。
【図2】実施例1、実施例2および比較例1で作製した試料のX線回折パターンを示す図面である。
【図3】実施例1で作製した試料の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を示す図面である。
【図4】実施例1で作製した試料の図3の部分におけるエネルギー分散型X線分析結果を示す図面である。
【図5】実施例1、実施例2および比較例1で作製した試料のリチウム二次電池の放電特性を示すグラフである。
【図6】実施例1、実施例2および比較例1で作製した試料のリチウム二次電池の初期放電容量に対する容量維持率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0073】
実施例1
NiS2粉末(平均粒径約9.2μm)を濃度0.5%のTi(SO4)2水溶液に、Ni:Ti(原子比)=95:5となるよう加えて約3時間混合・撹拌し、その後、混合液を100℃で乾燥させた。得られた粉末に、更に硫黄粉末(平均粒径約20μm)をNi:S(原子比)=1:10となるよう混合し、これを内径15mmの円筒状の黒鉛型材(導電性容器)内に充填した。これを、図1に示す通電処理装置の真空チャンバー8内にセットし、該チャンバー8内を約20Paまで減圧後、アルゴンガスを大気圧になるまで導入した。
【0074】
次いで、黒鉛型材(導電性容器)3の上下を該型材の蓋となるスペーサ4,5で挟み、上下のパンチ電極6,7によって、約1.5MPaの圧力でスペーサ4,5を黒鉛型材3に押しつけた。これにより、黒鉛型材(導電性容器)3を密閉状態とすると共に、電極6,7と黒鉛型材(導電性容器)3との間の導電性を確保した。
【0075】
次いで、電極6,7より、最大約1500Aのパルス電流(パルス幅2.5ミリ秒のON−OFF直流電流、周期29Hz)を黒鉛型材(導電性容器)3に通電した。
【0076】
黒鉛型材は約10℃/分の昇温速度で加熱され、パルス電流の通電開始約1時間後に800℃に到達した。この温度で約10分間保持した後、電流の通電と加圧を停止し、自然放冷させた。室温に冷却した後、試料を型材から取り出し、黒灰色の粉末を得た。
【0077】
得られた試料は、図2(a)の粉末X線回折図に示す通り、NiSとTiO2(rutileおよびanatase)から成ることが分かり、熱処理によりSが一部脱離してNiSとなり、TiO2と共存した試料となることが分かった。NiSのピーク位置から見積もった格子定数(空間群P63/mmc)はa = 3.43689(6)Å, c = 5.35382(7)Åであり、これはNiSについての既報値(a = 3.4395(2)Å, c = 5.3514(7)Å)(J. Trahan, R. G. Goodrich, and S. F. Watkins, Phys. Rev. B, 2, 2859 (1970).)と良い一致を示した。また、リートベルト解析用ブログラム(RIETAN-2000:F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, 321-324, pp.198-203 (2000))を用いてリートベルト解析を行った結果、NiSとTiO2の存在比は、重量比で96:4であった。これを原子比に換算するとNi:Ti=95:5となり、出発原料における原子比を保持したままの試料が得られたことが分かった。
【0078】
この試料の透過型電子顕微鏡写真を図3に、そのエネルギー分散型X線分析結果を図4に示す。両図から、粒径数ミクロン程度のNiS粒子表面に、粒径100〜200nm程度のTiO2粒子が離散的に付着していることが認められる。従って、本方法により作製した複合体は、TiO2がNiS表面に離散的に付着した複合体であることが分かった。
【0079】
この試料粉末をリチウム二次電池の正極材料として用い、負極にリチウム金属、集電体にアルミニウムメッシュ、電解液としてLiPF6をエチレンカルボネート/ジメチルカルボネート混合液に溶解させたものを用いて、電流密度177mA/g(0.3C)において、カットオフ1.0−3.0Vにおける定電流測定で充放電試験を行った。
【0080】
図5(a)に、0.3Cにおけるリチウム二次電池の放電曲線を示す。初期放電容量は約540mAh/gと、未被覆のもの(比較例1;約530mAh/g)とほぼ同程度であったが、20サイクル後の放電容量は約220mAh/gと、未被覆のもの(約110mAh/g)に比べて高かった。初期放電容量に対する容量維持率は図6に示す通り、20サイクル後で約41%と、未被覆のもの(約21%)に比べて著しく改善されていた。
【0081】
以上から、本発明の製造方法により得られた、金属硫化物の表面を部分的に金属酸化物で被覆した複合体は、未被覆のものに比べてサイクル特性が向上し、高容量を示すリチウム二次電池の正極材料として好適に使用できることが分かる。
【0082】
実施例2
NiS2粉末(平均粒径約9.2μm)を濃度2%のTi(SO4)2水溶液に、Ni:Ti(原子比)=85:15となるよう加えて約3時間混合・撹拌した。その後、実施例1に示した方法と全く同様にして硫黄粉末(平均粒径約20μm)をNi:S(原子比)=1:10となるよう混合した後、通電処理による加熱反応を行い、黒灰色の粉末を得た。
【0083】
得られた試料は、図2(b)に示す通り、NiSとTiO2(rutileおよびanatase)の混合物であり、NiSのピーク位置から見積もった格子定数(空間群P63/mmc)はa = 3.43694(8)Å, c = 5.35476(10)Åであり、これはNiSについての既報値(a = 3.4395(2)Å, c = 5.3514(7)Å)(J. Trahan, R. G. Goodrich, and S. F. Watkins, Phys. Rev. B, 2, 2859 (1970).)と良い一致を示した。また、リートベルト解析用ブログラム(RIETAN-2000:F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, 321-324, pp.198-203 (2000))を用いてリートベルト解析を行った結果、NiSとTiO2の存在比は、重量比で87:13であった。これを原子比に換算するとNi:Ti=85:15となり、実施例1と同様、出発原料における原子比を保持したままの試料が得られたことが分かった。
【0084】
この試料粉末を、リチウム二次電池の正極材料として用い、実施例1と全く同様にして充放電試験を行った。図5(b)に、0.3Cにおけるリチウム二次電池の放電曲線を示す。初期放電容量は約540mAh/gと、未被覆のもの(比較例1;約530mAh/g)とほぼ同程度であったが、20サイクル後の放電容量は約190mAh/gと、未被覆のもの(約110mAh/g)に比べて高かった。初期放電容量に対する容量維持率は図6に示す通り、20サイクル後で約36%と、未被覆のもの(約21%)に比べて著しく改善されていた。
【0085】
以上から、本発明の製造方法により得られた金属硫化物の表面を部分的に金属酸化物で被覆した複合体は、未被覆のものに比べてサイクル特性が向上し、高容量を示すリチウム二次電池の正極材料として好適に使用できることが分かる。
【0086】
比較例1
NiS2粉末(平均粒径約9.2μm)に、硫黄粉末(平均粒径約20μm)をNi:S(原子比)=1:10となるよう混合し、その後、実施例1に示した方法と全く同様にして通電処理による加熱反応を行い、黒灰色の粉末を得た。
【0087】
得られた試料は、図2(c)に示す通り、NiSのみから成り、ピーク位置から見積もった格子定数(空間群P63/mmc)はa = 3.43713(8)Å, c= 5.34272(10)Åであり、これはNiSについての既報値(a = 3.4395(2)Å, c= 5.3514(7)Å)(J. Trahan, R. G. Goodrich, and S. F. Watkins, Phys. Rev. B, 2, 2859 (1970).)と良い一致を示した。
【0088】
この試料粉末を、リチウム二次電池の正極材料として用い、実施例1と全く同様にして充放電試験を行った。図5(c)に、0.3Cにおけるリチウム二次電池の放電曲線を示す。初期放電容量は約530mAh/gであり、実施例1及び2で得られた金属硫化物と金属酸化物の複合体とほぼ同程度であったが、20サイクル後の放電容量は約110mAh/gとなり、実施例1及び2で得られた複合体に比べて低かった。初期放電容量に対する容量維持率は図6に示す通り、20サイクル後で約21%であり、実施例1及び2で得られた複合体に比べて著しく低かった。
【0089】
以上の結果から、金属硫化物のみからなる試料は、電解液との接触面積が大きく、硫黄成分の溶出が抑制されず、サイクル劣化が大きいことが分かった。
【符号の説明】
【0090】
1 通電処理装置
2 試料
3 ダイ(導電性容器)
4、5 スペーサ(該容器の蓋材)
6,7 パンチ電極
8 水冷真空チャンバー
9 冷却水路
10、16 水冷却機構
11 パルス電源
12 制御装置
13 加圧機構
14 位置計測機構
15 雰囲気制御機構
17 温度計測装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化ニッケル、硫化銅、硫化鉄またはこれらの混合物からなる金属硫化物、及び該金属硫化物の表面を部分的に被覆した金属酸化物からなる金属硫化物と金属酸化物の複合体の製造方法であって、
硫化ニッケル、硫化銅、硫化鉄またはこれらの混合物からなる金属硫化物を、金属塩を含む水溶液中に分散させた後、該水溶液を乾燥させて金属塩を該金属硫化物に付着させ、その後、金属塩が付着した金属硫化物を硫黄含有雰囲気下において400〜900℃で熱処理することを特徴とする金属硫化物と金属酸化物の複合体の製造方法。
【請求項2】
金属塩が付着した金属硫化物を硫黄含有雰囲気下で熱処理する方法が、金属塩が付着した金属硫化物を硫黄と共に導電性容器中に収容し、非酸化性雰囲気下において該容器に直流パルス電流を通電して熱処理する方法である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
金属酸化物が微粒子状の酸化チタンである請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
金属酸化物量が、金属硫化物1モルに対して0.01〜0.5モルである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−40096(P2013−40096A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−212015(P2012−212015)
【出願日】平成24年9月26日(2012.9.26)
【分割の表示】特願2008−62154(P2008−62154)の分割
【原出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発/次世代技術開発/還元雰囲気通電焼結プロセスを用いた高容量含硫黄複合正極材料の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】