説明

金属積層型ガスケット

【課題】3枚以上の金属板から構成され、その内の2枚の第1の金属板と第2の金属板の接合を、局部的な接合部分で行う金属積層形ガスケットにおいて、この接合部分で局所的な面圧上昇が発生するのを回避できる金属積層形ガスケットを提供する。
【解決手段】3枚以上の金属板10、20、30から構成され、その内の2枚の第1の金属板10と第2の金属板20の接合を、局部的な接合部分で行う金属積層形ガスケット1において、前記接合部分を覆う第3の金属板30の前記接合部分に対向する部位に、開口部32を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダヘッドやシリンダブロック等の二つの部材の間に挟持してシールを行うシリンダヘッドガスケット等の金属積層型ガスケットに関し、より詳細には、3 枚以上の金属構成板からなり、その内の2枚を接合する金属積層型ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダヘッドガスケットは、自動車のエンジンのシリンダヘッドとシリンダブロック(シリンダボディ)の間に挟まれた状態で、ヘッドボルトにより締結され、燃焼ガス、オイル、冷却水等の流体をシールする役割を持っている。
【0003】
このシリンダヘッドガスケットにおいて、複数の金属板を積層した金属積層形ガスケットでは、2枚のプレートを局部的な接合部分で接合する方法として、一方の金属構成板に形成した爪部を他方の金属構成板の固定穴に挿入して爪部を固定穴の周縁部に係止する方法が提案されている。
【0004】
その一つとして、燃焼室穴を構成する複数の開口の回りに穴シール部を構成する縁取りを設けた金属板と、燃焼室穴を構成する複数の開口を部分的に重複させて配設することにより隣接する開口間に欠落部を設けた金属板とからなるスチールラミネートガスケットにおいて、欠落部を持たない金属板における隣接する開口間に切欠穴(固定穴)を形成し、欠落部を有する金属板の該欠落部を挟んで相対向する尖頭状部分(爪部)を前記切欠穴に嵌入、係止させたスチールラミネートガスケットが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、簡単な構造で2枚のプレートを接合でき、しかもその接合作業を容易に行うことを可能にする目的で、2枚の金属板からなるプレートを積層した金属積層形ガスケットにおいて、ガスケット内面の適宜位置で、一方のプレートに切り込みによる舌片(爪部)を設けると共に、他方のプレートに上記舌片を挿入する固定穴を穿設し、上記一方のプレートにおける舌片を他方のプレートにおける固定穴に通して反対側に突出させ、該固定穴の穴縁に係止させることにより、積層された2枚のプレートを相互に固定する金属積層形ガスケットが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
しかしながら、これらの接合方法を用いると、局部的な接合部分の厚みが、この固定穴の穴縁に係止した舌片の分だけ周辺部分よりも増加してしまう。
【0007】
また、最近では、複数の金属板を積層した金属積層形ガスケットでは、レーザーを使用したり、点溶接で2枚のプレートを局部的な接合部分で接合する場合もある。しかしながら、これらの方法においても、この局部的な接合部分が周囲の部分より厚みが増加する場合が生じる。
【0008】
この局部的な厚みがある状態で、金属積層形ガスケットの両側の部材間に接合力が加わると、この局部的に厚みが増加した部分に局所的に著しく高い面圧が発生する。
【0009】
そこで、第3の金属板でこの2枚の金属板の接合部分を覆って、この局所的に高くなる面圧を分散化することが考えられるが、エンジン部材間に強い接合力が加わると、この厚みが増加した部分が第3の金属板に当接し、この部分に局所的に著しく高い面圧が発生する。
【0010】
そのため、この局所的な接合部分の位置は、発生した高い面圧がシール性能に影響を及ぼさない部分、例えば、ガスケットの両端部のシールに関係しない部分や、ウオータージャケットの部分等に限定せざるを得ないという問題があった。
【特許文献1】実開平05−59050号公報
【特許文献2】実開平06−20955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、3枚以上の金属板から構成され、その内の2枚の第1の金属板と第2の金属板の接合を、局部的な接合部分で行う金属積層形ガスケットにおいて、この接合部分で局所的な面圧上昇が発生するのを回避できる金属積層形ガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するための本発明に係る金属積層形ガスケットは、3枚以上の金属板から構成され、その内の2枚の第1の金属板と第2の金属板の接合を、局部的な接合部分で行う金属積層形ガスケットにおいて、前記接合部分を覆う第3の金属板の前記接合部分に対向する部位に、開口部を設けて構成する。
【0013】
この開口部により、エンジン部材間に強い接合力が加わっても、接合により厚みが増した局部的な接合部分が、開口部によって第3の金属板に当接しなくなるので、この部分に局所的に高い面圧が発生することを回避できる。また、この開口部から接合部分を確認できるので、接合部分の検査が容易となる。
【0014】
また、上記の金属積層形ガスケットにおいて、前記第1の金属板と前記第2の金属板との局部的な接合を、前記第1の金属板に設けた爪部を、前記第2の金属板に開口した固定穴の周縁部、又は、前記第2の金属板の縁部に係止させることにより行うように構成すると、簡単な構造で2枚のプレートを接合でき、しかもその接合作業を容易に行うことができる。
【0015】
そして、上記の金属積層形ガスケットの構成を、シリンダヘッドガスケットに適用すると、上記の効果が大きい。特に、ボアシールプレートを持つシリンダヘッドガスケットに適用し、前記第1の金属板又は前記第2の金属板が、シリンダボア用穴、水穴、オイル穴の一つ以上をシールするためのシールプレートであるように構成すると、シール用のビード等の近傍にも接合部分を配置できるようになる。その結果、接合部分をビードから離す必要が無くなるので、シールプレートをシールに必要な小径で形成することができる。
【0016】
従って、上記の構成の金属積層形ガスケットでは、ガスケットの各種穴や接合部分の配置等のレイアウト構成が容易となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係わる金属積層形ガスケットによれば、3枚以上の金属板から構成され、その内の2枚の第1の金属板と第2の金属板の接合を、局部的な接合部分で行う金属積層形ガスケットにおいて、接合部分を覆う第3の金属板の接合部分に対向する部位に、開口部を設けているので、この接合部分における局所的な面圧上昇を回避できる。
【0018】
従って、シール性能を要求されるビード近傍などにおいても、接合部分を配置することができるので、ガスケットの各種穴や接合部分等のレイアウト構成が容易となる。
【0019】
また、第1の金属板に設けた爪部を、第2の金属板に開口した固定穴の周縁部、又は、第2の金属板の縁部に係止させて行うと、簡単な構造で2枚の金属板を接合でき、しかもその接合作業を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、図面を参照して本発明に係る実施の形態の金属積層形ガスケットについて、エンジンに用いるシリンダヘッドガスケットを例にして説明する。なお、図1〜図8は、模式的な説明図であり、構成をより理解し易いように図示しているため、シリンダボア用穴、固定穴の大きさ、ビードの大きさ、うねりビード等の寸法は実際のものとは異なっている。
【0021】
この金属積層形ガスケットは、エンジンのシリンダヘッドとシリンダブロック(シリンダボディ)のエンジン部材の間に挟持されるシリンダヘッドガスケットであって、シリンダボアの高温・高圧の燃焼ガス、及び、冷却水通路や潤滑オイル通路等の冷却水やオイル等の流体をシールする。
【0022】
図1〜図4に示す用に、このシリンダヘッドガスケット1は、下層プレート(第1の金属板)10、ボアシールプレート(シールプレート:第2の金属板)20、上層プレート(第3の金属板)30の3枚の金属板からなる。
【0023】
このシリンダヘッドガスケット1は、多気筒エンジン用のシリンダヘッドガスケットであり、シリンダブロック等のエンジン部材の形状に合わせて製造され、図1に示すようなシリンダボア用穴(燃焼室用穴)2、冷却水の循環のための水穴3、エンジンオイルの循環のためのオイル穴4、締結ヘッドボルト用のヘッドボルト穴5等が形成される。また、シリンダボア用穴2の周囲にフルビード21、31等のシール手段が設けられる。
【0024】
下層プレート10は、シリンダヘッドガスケット1の下側の平坦部(フラット部)を構成する金属板であり、冷却水、潤滑オイルをシールするために、軟鋼板、ステンレス焼鈍材(アニール材)、ステンレス調質材(バネ鋼板)等で形成される。この下層プレート10には、シリンダボア用穴2の部分にボアシールプレート20を配置するために、嵌合穴11が設けられている。
【0025】
また、ボアシールプレート20は、シリンダボア用穴2の周囲をシールする第1フルビード21を有するリング状のプレートであり、 燃焼ガス、冷却水をシールするために、軟鋼板、ステンレス焼鈍材(アニール材)、ステンレス調質材(バネ鋼板)等で形成される。このリング状のボアシールプレート20は、下層プレート10の嵌合穴11に配置され、シリンダボア用穴2の周囲のシールを行う。このボアシールプレート20の材質は他のプレート10、30の材質と異ならせるケースが多く、また、同材質であっても板厚を厚くすることにより段差を設けるために設けられる場合もある。
【0026】
また、上層プレート30は、ガスケット1の上側を構成する金属板であり、燃焼ガス、冷却水、潤滑オイルをシールするために、軟鋼板、ステンレス焼鈍材(アニール材)、ステンレス調質材(バネ鋼板)等で形成される。この上層プレート30のシリンダボア用穴2の周囲には第2フルビード31が設けられる。
【0027】
なお、図1〜図8のシリンダヘッドガスケットの構成においては、第1フルビード21と第2フルビード31はガスケット1の内部方向に凸に形成され、互いに凸部が対向するように配置されているが、本発明はこの構成のシール手段に限定されるものではない。
【0028】
そして、本発明においては、図2に示すように、この下層プレート10に爪部12を設ける。この爪部12の形成は、嵌合穴11の周縁部において舌片状に突出部を形成して行ったり、嵌合穴11の周縁部において舌片状(U字形状)に切り込んで形成する。図2では、爪部12の先端側の一部が嵌合穴11の周縁部より内側に突出して形成されている。
【0029】
なお、爪部12を切り込んで形成する場合は、下層プレート10とボアシールプレート20を接合した後に、固定穴22への爪部12の挿入部分に圧力が加わっても、爪部12の基部付近に大きな剪断力が作用するの回避して、この剪断力による下層プレート10の破損を防止できるように、切り込み部分に幅を持たせて、爪部12の周囲に隙間Sを持たせることが好ましい。
【0030】
また、図3に示すように、ボアシールプレート20に固定穴22を外周縁部よりも外側に突出した部23に設ける。この固定穴22は、ボアシールプレート20の下側から下層プレート10の爪部12を挿通させて、反対側(図5の上側)に突出させて、爪部12の突出部分をクランク状に折り曲げることにより、爪部12をその縁部で係止するための穴である。
【0031】
更に、図4に示すように、爪部12と固定穴22の局部的な接合部分、即ち、上層プレート30の爪部12の上部となる部位に、開口部32を設けて構成する。この開口部32は、折り曲げた爪部12をこの開口部分に収容することにより、この固定穴22の穴縁に係止した爪部12が、言い換えれば、接合部分が、上層プレート30に当接することを回避し、この部分に局所的に著しく高い面圧が発生するのを防止する役割を有している。
【0032】
これらの爪部12と固定穴22と開口部32は、各爪部12を固定穴22に挿入した状態で、下層プレート10とボアシールプレート20とが相対的にずれを生じて、爪部12が固定穴22から外れないように、ボアシールプレート20の周囲に対をなして設け、しかも爪部11の向きが反対向きに対向するように設けることが好ましい。また、この対も一方向だけでなく、交差する2方向以上に設けることが好ましい。
【0033】
そして、図5に示すように、下層プレート10とボアシールプレート20との接合に際しては、下層プレート10の爪部12を直立に近い状態に起こして、ボアシールプレート20の固定穴22に挿入して、反対側に突出した爪部12の先端部分をクランク状に折り曲げて、下層プレート10とボアシールプレート20を接合する。
【0034】
この接合した2枚のプレートの上側に上層プレート30を配置する。この上層プレート30は、エンジン外周側にてクリンチ、リベット、折り返し、溶接等により、2枚のプレートと一体化される。
【0035】
なお、図6では、爪部12を下層プレート10の嵌合穴11の内周縁より内側に突出させて設けると共に、固定穴22をボアシールプレート20の外周縁より内側に設けて、ボアシールプレート20側で接合した場合を示している。また、特に図示しないが、爪部12を下層プレート10の嵌合穴11の内周縁より内側に突出させることなく、内周縁より外側に切れ込みで設けると共に、固定穴22をボアシールプレート20の外周縁より大きく突出させて設けて、下層プレート10側で接合することもできる。これらの構成を適宜選択することにより、ボアシールプレート20の外径に対応して、適切な接合部位を選択できる。
【0036】
上記の構成のシリンダヘッドガスケット1によれば、簡単な作業で2枚の下層プレート10とボアシールプレート20を接合することができ、自動化も容易に実現できる。その上、爪部22の上部を覆う上層プレート30において、爪部22に対向する部位に開口部32を設けているので、爪部22が上層プレート30に当接するのを回避でき、接合部分での局所的な面圧上昇を回避できる。
【0037】
なお、上記の説明では、下層プレート10を爪部を設ける一方の金属構成板とし、ボアシールプレート20を固定穴を設ける他方の金属構成板としたが、ボアシールプレート20を爪部を設ける一方の金属構成板とし、下層プレート10を固定穴を設ける他方の金属構成板としてもよい。また、シリンダボア用穴2をシールするためのボアシールプレート20だけでなく、水穴3やオイル穴4をシールするためのシールプレート(図示しない)に対しても、ボアシールプレート20と同様に、上記の接合構造を採用することができる。
【0038】
他の実施の形態として、図7に下層プレート10の爪部12とボアシールプレート20を、溶接40によって接合を行う場合を示し、図8に下層プレート10とボアシールプレート20を、突き合わせの点溶接40によって接合を行う場合を示した。
【0039】
これらの場合でも、溶接40により厚みを増した接合部分が上層プレート30に当接するのを回避でき、接合部分での局所的な面圧上昇を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態のシリンダヘッドガスケットを示す平面図である。
【図2】下側プレートの図1のA部分を示す部分平面図である。
【図3】ボアシールプレートの図1のA部分を示す部分平面図である。
【図4】上側プレートの図1のA部分を示す部分平面図である。
【図5】シリンダヘッドガスケットの接合部分を示す部分断面図である。
【図6】シリンダヘッドガスケットの他の接合部分を示す部分断面図である。
【図7】シリンダヘッドガスケットの爪部の溶接による接合部分を示す部分断面図である。
【図8】シリンダヘッドガスケットの突き合わせ点溶接による接合部分を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 シリンダヘッドガスケット
2 シリンダボア
3 水穴
4 オイル穴
5 ボルト穴
10 下層プレート
11 嵌合穴
12 爪部
20 ボアシールプレート
21 第1ビード
22 固定穴
23 突出部
30 上層プレート
31 第2ビード
32 開口部
40 溶接

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3枚以上の金属板から構成され、その内の2枚の第1の金属板と第2の金属板の接合を、局部的な接合部分で行う金属積層形ガスケットにおいて、前記接合部分を覆う第3の金属板の前記接合部分に対向する部位に、開口部を設けたことを特徴とする金属積層形ガスケット。
【請求項2】
前記第1の金属板と前記第2の金属板との局部的な接合を、前記第1の金属板に設けた爪部を、前記第2の金属板に開口した固定穴の周縁部、又は、前記第2の金属板の縁部に係止させることにより行うことを特徴とする請求項1記載の金属積層形ガスケット。
【請求項3】
該金属積層形ガスケットがシリンダヘッドガスケットであることを特徴とする請求項1又は2記載の金属積層形ガスケット。
【請求項4】
前記第1の金属板又は前記第2の金属板が、シリンダボア用穴、水穴、オイル穴の一つ以上をシールするためのシールプレートであることを特徴とする請求項3記載の金属積層形ガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−113721(P2007−113721A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306894(P2005−306894)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000198237)石川ガスケット株式会社 (57)
【Fターム(参考)】