金属管の圧縮曲げ加工方法とその装置
【課題】生産性が高く、安価に曲げ加工できる金属管の圧縮曲げ加工方法とその装置を提供する。
【解決手段】曲げ加工すべき金属管1に対し曲げ中心Oから引いた垂線の足を点Aとし、金属管1の先部を点Aより前方の位置に於いて曲げアーム4上に、所定の曲げ半径Rとなるようにクランプする。曲げアーム4に、半径が偏差eだけ大きいr=R+eである圧縮車輪14を固定する一方、テールクランプ装置7に金属管1後部をクランプし、伝導部材11を圧縮車輪14で支持した状態で、金属管1を適宜の駆動装置9を用いて移動すると共に、金属管1を点Aの近傍に於いて加熱装置19により加熱する。金属管1の中心から偏差e点の軸線の伸びを、伝導部材11を用いて抑えることにより、駆動装置9の推力P2と、伝導部材11に生じた反力P1を加えた圧縮力P(=P1+P2)を付与しながら曲げ加工する。
【解決手段】曲げ加工すべき金属管1に対し曲げ中心Oから引いた垂線の足を点Aとし、金属管1の先部を点Aより前方の位置に於いて曲げアーム4上に、所定の曲げ半径Rとなるようにクランプする。曲げアーム4に、半径が偏差eだけ大きいr=R+eである圧縮車輪14を固定する一方、テールクランプ装置7に金属管1後部をクランプし、伝導部材11を圧縮車輪14で支持した状態で、金属管1を適宜の駆動装置9を用いて移動すると共に、金属管1を点Aの近傍に於いて加熱装置19により加熱する。金属管1の中心から偏差e点の軸線の伸びを、伝導部材11を用いて抑えることにより、駆動装置9の推力P2と、伝導部材11に生じた反力P1を加えた圧縮力P(=P1+P2)を付与しながら曲げ加工する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属管の圧縮曲げ方法とその装置に関するもので、特に、金属管の減肉を抑制することができる圧縮曲げ方法とその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属管を曲げ加工すると、曲げ外側の肉厚が減少するので、それを防止するために種々の方法、装置が開発されている。
特許文献1(特開昭54−8154号公報)に記載された発明には、圧縮力を与えながら曲げ加工して減肉をゼロに出来ることが記載されている。
【0003】
また特許文献1には、駆動装置が1箇所の場合と2箇所の場合があることが示され、その各々の場合について、圧縮曲げの原理を示すダイヤグラム的な図が当該文献の第5図、第6図、第7図に示されている。
第5図は、駆動装置が1箇所の場合、第6、第7図は、駆動装置が2箇所の場合のダイヤグラム的な図である。
【0004】
特許文献1の発明は、駆動部が1箇所、2箇所、何れも優れた金属管の圧縮曲げ方法として用いられており、特に、駆動部が二箇所の圧縮ベンダーは適応範囲が広く、操作性が良いため最もよく用いられている。一方、駆動部が一箇所の圧縮ベンダーは、主に単機能の圧縮ベンダーとして用いられている。
【0005】
因みに特許文献1に記載された駆動装置が一箇所の圧縮ベンダーの基本原理を、図3を参照しながら説明する。
【0006】
図3は、駆動部が一箇所の圧縮ベンダーの従来技術の説明図で、特許文献1の第5図を説明用に書き換えたものである。
図3において、D点に油圧シリンダー9’(曲げシリンダー)が搭載されている。
駆動部が一箇所の圧縮ベンダーの基本的な原理は下記のようになる。
すなわち、曲げモーメントMは
M=(R−r)P (1)
一方、Mは加熱部Aに於いて管(1)を曲げるためのモーメントであって
M=SZ (2)
ここで、
Sは加熱温度における塑性変形抵抗、
Zは管(1)の塑性変形の断面係数となる。
式(1)、(2)より
P=SZ/(R−r) (3)
となる。
いま r=0即ちD点がF点の位置に移った時(通常曲げ)の、Pの値をP0とすると、
P0=SZ/R=M/R (4)
となり、
式(3)を式(4)で割れば、
P/P0=R/(R−r)=n (5)
となる。
従って、nの値を大きく、即ち、rをRに近づけるとPの値は大きくなる。
nの値は必要に応じて大きくできるが、曲げ半径が1.5Dr(曲げ半径Rが管径の1.5倍)の曲げで減肉率を0%に抑制するには、実用的には5〜6程度にすれば良いことが判っている。
【0007】
本方式の利点は駆動部が油圧シリンダー9’一箇所で済むため、構造が簡単になることである。
ここで、減肉率を0に設定するための圧縮車輪の半径rを、nの値を仮に6として求めてみる。
式(5)を変換してrを求めると、
r=(n−1)R/n=5R/6
となる。
圧縮車輪の半径rを、曲げ半径Rの5/6にすると、n=6となることが判る。
従って、図3に示す油圧シリンダー9’の引張力P1は、圧縮車輪の半径rを曲げ半径Rの5/6にすれば
P1=nP0=6P0
となる。
当然、このP1は金属管に付与される圧縮力Pに等しい。
このように本方法は、圧縮車輪の半径rを曲げ半径Rに近づけることで大きな圧縮力を発生させることができるので減肉防止には極めて効果的な方法である。
しかし、図に示すように駆動装置が一箇所の油圧シリンダー9’を用いているので、油圧シリンダー9’、伝導部材11および圧縮車輪14は圧縮力に耐えるものにしなければならず極めて大型となると言った欠点もある。尚、駆動装置が一箇所の場合の圧縮曲げ方法は、オーステナイト系ステンレス鋼管の曲げに用いられており、装置の構成は、特許文献2(特公昭58−927号公報)の第1図に示されている。
【0008】
駆動部が二箇所の圧縮ベンダーの基本原理を、図2を参照しながら説明する。
図2は、駆動部が二箇所の圧縮ベンダーの従来技術の説明図で、特許文献1の第6図、第7図を説明用に書き換えたものである。
【0009】
図2において、D点に油圧シリンダー9’(ブレーキシリンダー),F点に油圧シリンダー9(曲げシリンダー)が搭載されている。
減肉率αと加熱部A点に付与する圧縮力P=P1+P2の関係は公知であり、すでに理論的に整理され日常的に利用されているが、所望の減肉率αを設定するための圧縮力Pの計算は、複雑な数値演算と多少の補正係数等を用いて行うので、高度な演算機能が必要で、又、曲げ精度を確保する為にはミクロンオーダー(0.001mm単位)の位置決め精度を有するサーボ弁を備えた油圧シリンダー等を用いる必要があり、その為に従来装置では、制御装置及び駆動部が極めて高価となる欠点を有している。
【0010】
前記したように、従来の金属管曲げ加工方法は、駆動部が1箇所、2箇所、何れの方法も広く賞用されており、特に、駆動部が二箇所の圧縮ベンダーは、その適応範囲が広く、操作性が良いため最もよく用いられているが、少品種多量生産には、その構造および操作性の悪さから単位生産性が低く価格が割高となると言った問題があった。
たとえば近年、配管工事の効率化を図るため、市販のエルボの両端に短管部を付けた減肉を抑制した特殊エルボの需要が増加しているが、このような安価な量産品の製造にはコスト的に対応できない問題があった。
生産量を増やすには単純にベンダーの機数を増やして対応する方法もあるが、従来の駆動装置が一箇所の圧縮ベンダーと駆動装置が二箇所の圧縮ベンダーの何れにも以下のような問題点がある。
【0011】
駆動装置が一箇所の圧縮ベンダーの場合
図12に示すように、所望の減肉率を得るのに必要な金属管1に加える軸方向圧縮力をPとするために、圧縮車輪14に張力P1を加える駆動装置9’(曲げシリンダー)を装備するだけで、所望の減肉率を得るのに必要な圧縮力P(図からP−P1であることは明らか)が付与できる。
駆動装置が一箇所で済むことからシンプルであり操作も簡単なので安価な特殊エルボ等の生産に適した圧縮ベンダーと言える。しかし、必要な圧縮力Pを一箇所の駆動装置で発生させる為、駆動装置9’に繋がる伝導部材11、圧縮車輪14等が大径管の曲げでは極めて大形となる欠点があり、このことから駆動装置が一箇所の圧縮ベンダーであってもかなり高価なものとなり、量産のためにベンダーの機数を増やして対応することは経済的に困難な状況である。
【0012】
駆動装置が二箇所の圧縮ベンダーの場合
図13に示すように、所望の減肉率を得るのに必要な金属管1に加える軸方向圧縮力をPとするために、旋回軸6に張力P1を加える駆動装置9(曲げシリンダー)、圧縮車輪14に張力P2を加える駆動装置9’(ブレーキシリンダー)を装備する必要があり、又、所望の減肉率を得るのに必要な前記圧縮力P、張力P1、P2を内蔵の演算用ソフトを用いて求めて曲げ加工中にその演算結果に基づいて制御・調整する機能を持った高精度の演算機能付制御装置(図示せず)を必要とする等、高価な機器を装備する必要があった。
このことから駆動装置が二箇所の圧縮ベンダーは大変高価なものとなり、量産のためにベンダーの機数を増やして対応することは経済的に極めて困難な状況にある。
【0013】
以上の観点から両端に短管部(ネック)を有する特殊エルボ(金属管の曲げ加工品)を安価に量産するためには、構造が単純で、生産性が高く、かつ価格が安価な専用の曲げ加工装置の開発が急務であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭54−8154号公報
【特許文献2】特公昭58−927号号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本願発明はかかる状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、両端にネックを有する特殊エルボの減肉を抑制して安価に量産することを可能にする、構造が単純で、生産性が高く、かつ価格が安価な曲げ加工装置とその曲げ加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は前記課題に関して鋭意研究を行った結果、下記の知見を得た。
すなわち、減肉率αで金属管を曲げ加工するに際して、曲げ加工すべき金属管に対し曲げ中心から引いた垂線の足を点Aとし、該金属管の先部を点Aより前方の特定位置に於いて、曲げ中心の回りを回転自在の曲げアームに、その有効半径が所定の曲げ半径Rとなるようにクランプし、該曲げアームに、該曲げアームと回転の中心を共有する有効半径がrで、該曲げ半径Rより曲げ外側に、下記(1・1)式より計算される偏差eだけ大きいr=R+eである滑車、鎖車等の圧縮車輪を固定または嵌装する一方、該金属管の後方に位置した基台上のテールクランプ装置に該金属管後部をクランプしてなると共に、チェーン、鋼索等の伝導部材を該圧縮車輪で支持した状態で、該基台上に於いて該金属管の中心から曲げ外側に偏差eだけ離れた位置に設けた緩み調整装置と曲げアームに連結して、該伝導部材を該緩み調整装置を用いて一直線に張架して固定した後、該金属管を適宜の駆動装置を用いて移動すると、該駆動装置に力P2が発生して曲げ加工が始まり、これにより該伝導部材に反力P1が誘発されるので、該金属管には両者の和である圧縮力P=P1+P2の力が付与される。
この圧縮力Pを付与しながら基台と曲げ中心との距離を徐徐に縮めると共に点Aに於いて適宜の加熱装置により金属管を狭幅に加熱しながら曲げ加工しても、金属管中心から偏差eの位置の肉厚は伸びが抑えられているので素管肉厚に保持され曲げ加工中も変動しないことを見出した。
【0017】
因みに、前記緩み調整装置は、伝導部材を連結する節点12を片端とするスタットボルトを、該緩み調整装置に固定した軸受を貫通させてナットで締め付けるスクリュウジャッキ状の構成としたものである。勿論、スクリュウジャッキを油圧ジャッキに置き換えても良い。
【0018】
更に、前記緩み調整装置は偏差eを適宜に設定できるように金属管の直角方向に移動できる構成としてある。(図示せず)
【0019】
【数1】
【0020】
そして偏差eと減肉率の関係は、図8(a),(b)を利用して求めた式(1・1)により、幾何学的に極めて容易に求められるので、従来方式のように高度の演算や過去のデータに基づいて圧縮力Pを決定する必要もなく精度の高い圧縮曲げが容易に行なえることを見出した。
【0021】
また伝導部材に誘発される反力P1は必要な圧縮力Pから駆動装置の力P2を減じたものであるから伝導部材や圧縮車輪に加わる応力を低減でき、曲げ加工装置を小形化、単純化、低価格化できることを見出した。
【0022】
また曲げ加工中にチェーン、鋼索等の伝導部材が伸びると、反力が低減して希望の減肉率が得られなくなるが、曲げ加工中の伝導部材の伸びを見込んで偏差eを多めに設定することで解決できることも見出した。
本発明請求項1の発明は、以上の知見を基になされたものである。
【0023】
前記したように、伝導部材の伸びによる減肉率の低減を防ぐためには、伝導部材の伸びを見込んで偏差eを多めに設定すればよいが、繰返し使用により伝導部材に永久歪が発生した場合、偏差eを正確に設定できなくなる欠点がある。
伝導部材の永久歪による減肉率の低減を防ぐためには、伝導部材にロードセルをセットし、緩み調整装置を用いて曲げ加工中に生じる反力に相当する張力を伝導部材に加えて張架した後、曲げ加工することで解決できることが判明した。そしてロードセルは伝導部材のアームクランプ側、若しくは中間クランプ側の節点近傍に取付ければよいことが判明した。
請求項2の発明は以上の知見に基づいてなされたものである。
【0024】
前記請求項1および請求項2の発明を実施するための金属管の圧縮曲げ装置は下記の構成からなる。
すなわち、曲げ加工すべき金属管の長手方向の狭幅領域を加熱する加熱装置と、該加熱装置を移動する装置と、該金属管に対し曲げ中心から引いた垂線の足点Aより前方の該金属管の特定位置をクランプする回転自在な曲げアームと、該曲げアームと回転の中心を共有する圧縮車輪と、該金属管の後方に位置する基台と、該基台上に配置され該金属管の後部をクランプするテールクランプ装置と、該基台上において該金属管の中心から下記(1・1)式より計算される偏差eだけ離れた位置に設けた緩み調整装置と、該緩み調整装置を起点に該圧縮車輪で支持した状態で該曲げアームに連結した伝導部材と、該基台と曲げ中心との距離を可変する駆動装置を備えてなることを特徴とするものである。
【0025】
【数1】
【0026】
本発明の基本的な原理を説明する。
【0027】
本発明装置は、駆動装置が一箇所で、他に反力発生機構を有する構造からなる。
図1は、本発明の基本的原理を説明する図である。
図1は、図2の油圧シリンダー9’を取り外して駆動装置を一箇所にしてなると共に、他に反力発生機構を有する構造である。
【0028】
図1に示すように油圧シリンダー9’を取り外して伝導部材11をD点に固定して曲げ加工した場合について説明する。
図1に示すように、有効半径rが曲げ半径Rより曲げ外側に所望の偏差eだけ大きいr=R+eである圧縮車輪14に伝導部材11を金属管1に平行に一直線に張架して曲げ加工すると伝導部材11に反力(ブレーキ力)P1、油圧シリンダー9に引張力(曲げ推力)P2が発生する。
金属管に付与される圧縮力Pは、
P=P1+P2
この場合のP1、P2の値を求める。
【0029】
【数2】
【0030】
駆動装置が一箇所の従来発明と駆動装置が一箇所で反力発生機構を有する本願発明の作用効果の比較
以上の検討により明らかなように、駆動装置が一箇所の場合の曲げ推力は式(5)より
P1=nP0=P
一方、本発明の駆動装置が一箇所でも反力発生機構を有する場合の曲げ推力
P=P1+P2で、式(1・3)、(1・4)に示すように反力発生機構の反力P1と油圧シリンダーの引張力P2に分配されるので引張力P2は当然小さくなる。
【0031】
【数3】
【0032】
以上より、本発明では、駆動装置が一箇所であるにもかかわらず、圧縮負荷を二箇所に分割して、駆動装置にかかる負荷を大幅に軽減でき、駆動装置および駆動装置に繋がる伝導部材、圧縮車輪等を小さくできる著効がある。因みに、駆動装置が一箇所の従来装置の場合と比較して、n=6(減肉率0を実現する)と仮定した場合で、駆動装置にかかる圧縮負荷は、3/8まで軽減できることになる。
【0033】
ただし、図1は基本原理を説明するために線図を用い、金属管も単に1本の線で示してある。これは便宜上、金属管の曲げ中立軸が金属管の中心線上にあるとして描画したものだが、実際に圧縮曲げを行うと金属管の曲げの中立軸は圧縮力が増大する程金属管の背面側に移動するので、[数2][数3]に示す一連の計算式を用いて計算した本発明の曲げ推力P2と実測値とは異なってくる。
しかし、曲げの中立軸が金属管の背面側に移動するということは曲げRが拡大したことを示すもので、当然曲げ推力が低下する。これは本発明の有効性を更に高めるものである。
[数2][数3]に示す一連の計算式は基本原理を理解し易く説明するための目安の式であり、油圧シリンダーが一箇所の従来装置の曲げ推力Pと本発明の曲げ推力の比較は曲げ推力P2の実測値を用いて求めなければならない。
【0034】
曲げ推力の設定
従来方法では、減肉率に応じて曲げ推力の設定を予め演算または過去の曲げデータにより設定して行わなければならない。
本発明でも、式(1・4)に従って曲げ推力を予め設定しなければならないように思われるが、偏差eの位置を幾何学的に設定して曲げ加工すれば所望の減肉率が得られ、油圧シリンダーの引張力P2(曲げ推力)が必要なだけ自動的に発生するのでその必要はない。
【発明の効果】
【0035】
本発明(請求項1)によれば、
曲げ加工中に、金属管の中心から偏差eの位置に発生する金属管の伸びを、チェーン、鋼索等の伝導部材で単に抑えることで、減肉率を容易に調整することが出来る(簡便な手段で減肉率を容易に調整することが出来る)。
駆動装置が一箇所の従来型の曲げ装置に比較して駆動装置に繋がる伝導部材、圧縮車輪等を小さくできるので、装置を軽量化できる。
また駆動装置が二箇所の従来型の曲げ装置に比較して高精度の駆動装置を用いる必要もなく、また、演算機能付制御装置を取付ける必要もないので、装置の構造を単純化、軽量化できるので、軽量で操作性が良く生産性の高い圧縮曲げ加工装置を安価に製造できる。
従って、この装置を使用することでネック付エルボの様なベンド管(金属管曲げ加工品)を安価に量産することが出来る。
また、本発明(請求項2)によれば、曲げ加工中に生じるチェーン、鋼索等の伝導部材の伸びの影響を除外できるので、減肉率の安定したベンド管の生産を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
実施の形態1
図4は、金属管を固定して、アームと加熱装置を移動させて金属管を曲げ加工する金属管圧縮曲げ装置を使用して請求項1の発明を実施する時の説明図である。なお本例は垂直曲げ加工の場合である。
図4の(A)は曲げ加工する直前の状態を説明する図であり、(B)は曲げ加工途中の状態を説明する図である。
【0037】
図4(A)において、金属管1を、加熱部を挟んだ両端側に設けたクランプ3、7にクランプする。
クランプ3、7は、伝導部材11と連結されている。
なお伝導部材11はチェーン、鋼索等の力の伝導部材を意味し、本図はチェーンの場合である。
伝導部材11は、クランプ3、7に設けた節点12、13に連結されており、伝導部材11および節点12、13が、金属管1の曲げ半径Rより曲げ外側に偏差eだけ大きい軸線上に位置し、かつ一直線になるように、緩み調整装置18で調節して張架、固定し、かつ、曲げアーム4の旋回軸6と同心の圧縮車輪14で伝導部材11を支持した状態で、基台8に配設した油圧シリンダー9を駆動して移動台15を引き寄せながら、加熱装置19で金属管1を加熱冷却しながら、加熱装置19を相対的に移動させながら金属管1に曲げ推力を加えて曲げ加工すると、シリンダーロット10に張力P2、伝導部材11に反力P1が発生し、金属管1の加熱部(曲げ点A)には曲げ推力P2と反力P1の和である圧縮力Pが付与される。
この圧縮力Pの付与によって、金属管1は減肉を高精度に抑制され、高精度の曲管が形成される。
【0038】
偏差eは下記(1・1)式で求めることができる。
【数1】
【0039】
予め減肉率αを所定の値に設定することで、αに対応するeを求めることが出来る。
【0040】
なお偏差eと減肉率αの関係式は図8より以下のようにして求められる。
図8の(a)は、垂直曲げを行った場合の金属管の断面図、(b)は金属管の横断面図であり、所望の減肉率を確保する曲げ中立軸と金属管中心からの偏差eの関係を示す図である。
EEが肉厚の変動しない中立軸位置である。ハッチング部に引張応力、他の部分に圧縮応力が作用する。
【0041】
金属素管の肉厚t0、曲げ管のT側の肉厚tt、金属管の平均半径をρとした時、減肉率αは下記の式から導くことが出来る。
【0042】
【数4】
【0043】
【数5】
【0044】
実施例1
減肉率、偏差の計算例と実際の圧縮曲げ加工の実施例について述べる。
金属管1の平均半径をρ、曲げ半径Rをρのν倍、偏差eをρのχ倍として
R=3ρ、α=0にするには、式(1・5)より
χ=1−α(ν+1)=1
e=ρ
金属管の平均半径ρの位置にeを設定すれば良い。
【0045】
図4の装置を使用して、金属管の平均半径ρの位置にeを設定して、鉄鋼材料のSTPG38、寸法は、外径165.2mm、肉厚9.3mm、曲げ半径Rは234mm、曲げ角度90°、曲げ部の加熱温度は950℃で圧縮曲げ加工したときの金属管背面の肉厚のバラツキは下記の通りであった。
加工後の金属管の肉厚の測定は、曲げ始めの直管と曲管の境界部から10°、45°、80°の3箇所の背面肉厚を超音波肉厚計で測定した。
三箇所の肉厚の測定値は、いずれも9.3mm±2%の範囲内の値であり、この値は、油圧シリンダーが一箇所の従来装置で曲げ加工した時の金属管の肉厚のバラツキ範囲内であった。
【0046】
結果
以上の結果より、計算値と実際の曲げ加工データが整合することを確認することが出来た。
なお油圧シリンダーに負荷される曲げ推力を測定したところ、油圧シリンダーが一箇所の従来装置の概ね30%に低減できた。
【0047】
更に、図4の装置を使用して、金属管の平均半径ρの位置にeを設定して、鉄鋼材料のSTPG38、寸法は、外径139.8mm、肉厚8.1mm、曲げ半径Rは198mm、曲げ角度90°、曲げ部の加熱温度は950℃で圧縮曲げ加工したときの金属管背面の肉厚のバラツキは下記の通りであった。
加工後の金属管の肉厚の測定は、実施例1と同じ。
肉厚のバラツキは、8.1mm±2%であった。
この値は、油圧シリンダーが一箇所の従来装置で曲げ加工した時の肉厚のバラツキ範囲内であった。
【0048】
結果
以上の結果より、計算値と実際の曲げ加工データが整合することを確認することが出来た。
なお油圧シリンダーに負荷される曲げ推力を測定したところ、計算値と良く整合し、油圧シリンダーが一箇所の従来装置の概ね30%に低減できた。
【0049】
実施例2
実施例1と同じ手順で計算した別の圧縮曲げ加工の実施例について述べる。
金属管1の平均半径をρ、曲げ半径Rをρのν倍、偏差eをρのχ倍として
R=3ρ、α=0.05にするには、式(1・5)より
χ=1−α(ν+1)=1−0.05(3+1)=0.8
e=0.8ρ
金属管の平均半径ρの0.8倍の位置にeを設定すれば良い。
【0050】
図4の装置を使用して、金属管の平均半径ρの0.8倍の位置にeを設定して、鉄鋼材料の鋼種STPG38、金属管の外径138.9mm、肉厚8.1mmを使用して、曲げ半径Rは198mm、曲げ角度90°、曲げ部の加熱条件は950℃で圧縮曲げ加工したときの金属管背面の肉厚のバラツキは下記の通りであった。
加工後の金属管の肉厚の測定は、実施例1と同じ。
肉厚のバラツキは、7.7mm±2%であった。
この値は、前記実施例1と同じく、油圧シリンダーが一箇所の従来装置で曲げ加工した時の肉厚のバラツキ範囲内であった。なお油圧シリンダーに負荷される曲げ推力を測定したところ、計算値と良く整合し、油圧シリンダーが一箇所の従来装置の概ね40%に低減できた。
【0051】
結果
以上の結果より、計算値と実際の曲げ加工データが整合することを確認することが出来た。
【0052】
実施例3
実施例1と同じ手順で計算した別の圧縮曲げ加工の実施例について述べる。
金属管1の平均半径をρ、曲げ半径Rをρのν倍、偏差eをρのχ倍として
R=3ρ、α=0.1にするには、式(1・5)より
χ=1−α(ν+1)=1−0.1(3+1)=0.6
e=0.6ρ
金属管の平均半径ρの0.6倍の位置にeを設定すれば良い。
【0053】
図4の装置を使用して、金属管の平均半径ρの0.6倍の位置にeを設定して、鉄鋼材料の鋼種SGP、金属管の外径114.3mm、肉厚4,5mmを使用して、曲げ半径Rは161mm、曲げ角度90°、曲げ部の加熱条件は950℃で圧縮曲げ加工したときの金属管背面の肉厚のバラツキは下記の通りであった。
加工後の金属管の肉厚の測定は、実施例1と同じ。
肉厚のバラツキは、4.1mm±2%であった。
この値は、前記実施例1と同じく、油圧シリンダーが一箇所の従来装置で曲げ加工した時の肉厚のバラツキ範囲内であった。なお油圧シリンダーに負荷される曲げ推力を測定したところ、計算値と良く整合し、油圧シリンダーが一箇所の従来装置の概ね45%に低減できた。
【結果】
【0054】
以上実施例1〜3の結果より、金属管の鋼種、肉厚、外径、曲げ半径、減肉率の設定値が変わっても、計算値と実際の加工データが高精度で整合することを確認することが出来た。
また油圧シリンダーに負荷される曲げ推力も、計算値と良く整合し、油圧シリンダーが一箇所の従来装置より低減することを確認することが出来た。
【0055】
本発明において曲げ加工すべき金属材料としては、丸型鋼管、角型鋼管等の管、H型鋼、I型鋼、L型鋼、C型鋼等の各種形材、各種断面の棒材、板材等、熱間曲げ加工可能な任意の条材を対象とすることが出来る。
【0056】
本発明の曲げ加工すべき金属条材の長手方向狭幅領域を急速に加熱する装置として、火炎加熱装置、高周波誘導加熱装置等を適宜用いることが出来るが、高周波誘導加熱装置が最も好適である。
高周波誘導加熱装置の使用周波数は、1〜20KHzが好適である。また金属条材が鉄鋼材料の場合、加熱温度は850〜1100℃の範囲が好適である。
【0057】
本発明において、伝導部材11を緩み調整装置18により一直線に張架して固定することで、従来二本必要であった油圧シリンダーを一本省略することが出来るので、圧縮曲げ加工装置の構造を単純化でき、装置の製造コストを大幅に低減できる。
また更に必要圧縮力を伝導部材11に分担させることで伝導部材11に付与される張力及び油圧シリンダー9の推力を低減できるので、装置の小型化および駆動装置や油圧シリンダーを小型化でき、このことも装置の製造コストの低減に寄与する。なお曲げ加工中に伝導部材11が伸びると、反力P1が低減して希望の減肉率が得られなくなるので、この場合、予め曲げ加工中の伝導部材11の伸びを見込んで偏差eを多めに設定すればよい。
【0058】
油圧シリンダーを2本必要とする従来発明装置と油圧シリンダー1本の本願発明装置を使用して同じ金属管を曲げ加工したときの比較データを下記表1に示す。
使用した金属管の材質は、鉄鋼材料のSTPG38、寸法は、外径165.2mm、肉厚9.3mm、曲げ角度90°、曲げ部の加熱温度は950℃である。減肉率は0%に設定した。
【0059】
【表1】
【0060】
表1の結果より、本願発明は、従来装置に比較して、曲げ品質(減肉部肉厚のバラツキ)は同等で、その装置の製造コストを大幅に低減でき、それによって製品の曲げコストを大幅に低減できることを確認できた。
【0061】
実施の形態2
前記したように、伝導部材の伸びによる減肉率の低減を防ぐためには、伝導部材の伸びを見込んで偏差eを多めに設定すればよいが、繰返し使用により伝導部材に永久歪が発生した場合、偏差eを正確に設定できなくなる欠点がある。
図5は、伝導部材の永久歪による減肉率の低減を防ぐための手段(請求項2の発明)を実施する時の説明図である。なお本図は垂直曲げ加工の場合である。
図5において、伝導部材11の中間クランプ側にロードセル20をセットして、予め、テスト曲げで伝導部材に掛る反力P1を測定しておき、スタート時に、緩み調整装置で伝導部材に測定した反力P1と同じ荷重を加えて曲げ加工を開始すると、曲げ加工中の伝導部材の伸びによる減肉率の低減を抑えることができる。
【0062】
実施の形態3
図6は、圧縮車輪を車輪とした場合の説明図である。
鎖車の径(P.C.D=ピッチサークルダイヤメーター)は、鎖車の歯数で決まり任意の値に調整できないので、半径の微調整が必要な場合は車輪を用いる。
【0063】
実施の形態4
図7は、本発明請求項1を実施するための別の実施形態の説明図である。
図4、図5は、基台8と金属管1は固定するが、本実施形態では、基台8がレール17の上を移動し、金属管1が移動する方式である。
図面は垂直曲げの場合であり、金属管が移動するので加熱装置19は移動しなくても良い。
【0064】
実施形態5
図9は、金属管中心からの偏差eの位置に伝導部材11を設定した曲げ待機中の金属管断面図である。ただし金属管1と伝導部材11の関係を明らかにするためにアームクランプ3、曲げアーム4等を図4(A)の正面図からはずして要部のみ作図したものである。
(a)は、伝導部材11および圧縮車輪14を左右に配設した図。
(b)は、伝導部材11および圧縮車輪14を左方に配設した図。
機械強度および作業性を勘案して何れかを選択すればよい。特に水平曲げの場合、伝導部材11および圧縮車輪14を下に配設すると上部が開放されて作業性がより好適になる。
【0065】
実施態様6
図10は、本願発明において、所望の減肉率をαとするため偏差eで垂直曲げを行った場合の金属管の断面図と曲げ半径を示す図である。ただし金属管1と伝導部材11の関係を明らかにするためにアームクランプ3、曲げアーム4等を図4(B)の正面図からはずして要部のみ作図したものである。
【0066】
実施態様7
図11は、金属管中心から任意の偏差eの位置に伝導部材11を設定するときの圧縮車輪14との関係を示す説明図である。
EEを偏差e1に設定した場合と、偏差e2に設定した場合を図示したものである。
偏差e1に設定した場合よりも偏差e2に設定した場合が減肉率は小となる。
ただし金属管1と伝導部材11の関係を明らかにするために不要な部品は図4(A)の正面図から外して要部のみ作画したものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、本発明の基本的原理を説明する図である。
【図2】図2は、駆動部が2箇所の圧縮ベンダーの従来技術の説明図である。
【図3】図3は、駆動部が一箇所の圧縮ベンダーの従来技術の説明図である。
【図4】請求項1の発明を実施する時の説明図。(A)は曲げ加工する直前の状態を説明する図、(B)は曲げ加工途中の状態を説明する図である。
【図5】本発明実施の形態2の説明図である。
【図6】圧縮車輪を車輪とした構造の説明図である。
【図7】本発明実施形態1の別の形態例(金属管移動方式)を示すである。
【図8】(a)は垂直曲げを行った場合の金属管断面図、(b)は金属管の横断面図である。
【図9】金属管中心からの偏差eの位置に伝導部材11を設定した曲げ待機中の金属管断面図である。
【図10】所望の減肉率をαとするため偏差eで垂直曲げを行った場合の金属管の断面図と曲げ半径を示す図。
【図11】金属管中心から任意の偏差eの位置に伝導部材11を設定するときの圧縮車輪14との関係を示す説明図である。
【図12】駆動装置が一箇所の場合の従来装置の説明図である。
【図13】駆動装置が二箇所の場合の従来装置の説明図である。
【符号の説明】
【0068】
1 金属管、 2 金属管の曲げられた部分、 3 アームクランプ、
4 曲げアーム、 5 ブラケット、 6 旋回軸、 7 テールクランプ、
8 基台、 9、9’ 曲げシリンダー、 10、10’ シリンダーロッド、
11 伝導部材(チェーン、鋼索等)、 12、13 節点、 14 圧縮車輪、
15 主軸台、 16 車輪、 17 レール、 18 緩み調整装置、
19 加熱装置、 20 ロードセル、 21 熱源、 22 台車、
23 レール、 24 ねじ
A 曲げ点、 P 軸方向圧縮力、 P1 伝動部材に掛る反力、
P2 曲げシリンダー9の発生張力(曲げシリンダー)、 M 曲げモーメント、
θ 曲げ角度、 α 減肉率、 E−E′ 肉厚の変動しない中立軸位置、
N−N′ 金属管中心、 C−C′ 曲げ内側、 T−T′ 曲げ外側、 e 金属管中心からE−E′までの距離、 o 旋回中心、 ρ 金属管の平均半径、 r 圧縮車輪の半径、 θe 中立軸角度、 R 曲げ半径、 t0 金属管の素管肉厚、tt 金属管のテンション側肉厚、 tc 金属管のコンプレッション側肉厚
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属管の圧縮曲げ方法とその装置に関するもので、特に、金属管の減肉を抑制することができる圧縮曲げ方法とその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属管を曲げ加工すると、曲げ外側の肉厚が減少するので、それを防止するために種々の方法、装置が開発されている。
特許文献1(特開昭54−8154号公報)に記載された発明には、圧縮力を与えながら曲げ加工して減肉をゼロに出来ることが記載されている。
【0003】
また特許文献1には、駆動装置が1箇所の場合と2箇所の場合があることが示され、その各々の場合について、圧縮曲げの原理を示すダイヤグラム的な図が当該文献の第5図、第6図、第7図に示されている。
第5図は、駆動装置が1箇所の場合、第6、第7図は、駆動装置が2箇所の場合のダイヤグラム的な図である。
【0004】
特許文献1の発明は、駆動部が1箇所、2箇所、何れも優れた金属管の圧縮曲げ方法として用いられており、特に、駆動部が二箇所の圧縮ベンダーは適応範囲が広く、操作性が良いため最もよく用いられている。一方、駆動部が一箇所の圧縮ベンダーは、主に単機能の圧縮ベンダーとして用いられている。
【0005】
因みに特許文献1に記載された駆動装置が一箇所の圧縮ベンダーの基本原理を、図3を参照しながら説明する。
【0006】
図3は、駆動部が一箇所の圧縮ベンダーの従来技術の説明図で、特許文献1の第5図を説明用に書き換えたものである。
図3において、D点に油圧シリンダー9’(曲げシリンダー)が搭載されている。
駆動部が一箇所の圧縮ベンダーの基本的な原理は下記のようになる。
すなわち、曲げモーメントMは
M=(R−r)P (1)
一方、Mは加熱部Aに於いて管(1)を曲げるためのモーメントであって
M=SZ (2)
ここで、
Sは加熱温度における塑性変形抵抗、
Zは管(1)の塑性変形の断面係数となる。
式(1)、(2)より
P=SZ/(R−r) (3)
となる。
いま r=0即ちD点がF点の位置に移った時(通常曲げ)の、Pの値をP0とすると、
P0=SZ/R=M/R (4)
となり、
式(3)を式(4)で割れば、
P/P0=R/(R−r)=n (5)
となる。
従って、nの値を大きく、即ち、rをRに近づけるとPの値は大きくなる。
nの値は必要に応じて大きくできるが、曲げ半径が1.5Dr(曲げ半径Rが管径の1.5倍)の曲げで減肉率を0%に抑制するには、実用的には5〜6程度にすれば良いことが判っている。
【0007】
本方式の利点は駆動部が油圧シリンダー9’一箇所で済むため、構造が簡単になることである。
ここで、減肉率を0に設定するための圧縮車輪の半径rを、nの値を仮に6として求めてみる。
式(5)を変換してrを求めると、
r=(n−1)R/n=5R/6
となる。
圧縮車輪の半径rを、曲げ半径Rの5/6にすると、n=6となることが判る。
従って、図3に示す油圧シリンダー9’の引張力P1は、圧縮車輪の半径rを曲げ半径Rの5/6にすれば
P1=nP0=6P0
となる。
当然、このP1は金属管に付与される圧縮力Pに等しい。
このように本方法は、圧縮車輪の半径rを曲げ半径Rに近づけることで大きな圧縮力を発生させることができるので減肉防止には極めて効果的な方法である。
しかし、図に示すように駆動装置が一箇所の油圧シリンダー9’を用いているので、油圧シリンダー9’、伝導部材11および圧縮車輪14は圧縮力に耐えるものにしなければならず極めて大型となると言った欠点もある。尚、駆動装置が一箇所の場合の圧縮曲げ方法は、オーステナイト系ステンレス鋼管の曲げに用いられており、装置の構成は、特許文献2(特公昭58−927号公報)の第1図に示されている。
【0008】
駆動部が二箇所の圧縮ベンダーの基本原理を、図2を参照しながら説明する。
図2は、駆動部が二箇所の圧縮ベンダーの従来技術の説明図で、特許文献1の第6図、第7図を説明用に書き換えたものである。
【0009】
図2において、D点に油圧シリンダー9’(ブレーキシリンダー),F点に油圧シリンダー9(曲げシリンダー)が搭載されている。
減肉率αと加熱部A点に付与する圧縮力P=P1+P2の関係は公知であり、すでに理論的に整理され日常的に利用されているが、所望の減肉率αを設定するための圧縮力Pの計算は、複雑な数値演算と多少の補正係数等を用いて行うので、高度な演算機能が必要で、又、曲げ精度を確保する為にはミクロンオーダー(0.001mm単位)の位置決め精度を有するサーボ弁を備えた油圧シリンダー等を用いる必要があり、その為に従来装置では、制御装置及び駆動部が極めて高価となる欠点を有している。
【0010】
前記したように、従来の金属管曲げ加工方法は、駆動部が1箇所、2箇所、何れの方法も広く賞用されており、特に、駆動部が二箇所の圧縮ベンダーは、その適応範囲が広く、操作性が良いため最もよく用いられているが、少品種多量生産には、その構造および操作性の悪さから単位生産性が低く価格が割高となると言った問題があった。
たとえば近年、配管工事の効率化を図るため、市販のエルボの両端に短管部を付けた減肉を抑制した特殊エルボの需要が増加しているが、このような安価な量産品の製造にはコスト的に対応できない問題があった。
生産量を増やすには単純にベンダーの機数を増やして対応する方法もあるが、従来の駆動装置が一箇所の圧縮ベンダーと駆動装置が二箇所の圧縮ベンダーの何れにも以下のような問題点がある。
【0011】
駆動装置が一箇所の圧縮ベンダーの場合
図12に示すように、所望の減肉率を得るのに必要な金属管1に加える軸方向圧縮力をPとするために、圧縮車輪14に張力P1を加える駆動装置9’(曲げシリンダー)を装備するだけで、所望の減肉率を得るのに必要な圧縮力P(図からP−P1であることは明らか)が付与できる。
駆動装置が一箇所で済むことからシンプルであり操作も簡単なので安価な特殊エルボ等の生産に適した圧縮ベンダーと言える。しかし、必要な圧縮力Pを一箇所の駆動装置で発生させる為、駆動装置9’に繋がる伝導部材11、圧縮車輪14等が大径管の曲げでは極めて大形となる欠点があり、このことから駆動装置が一箇所の圧縮ベンダーであってもかなり高価なものとなり、量産のためにベンダーの機数を増やして対応することは経済的に困難な状況である。
【0012】
駆動装置が二箇所の圧縮ベンダーの場合
図13に示すように、所望の減肉率を得るのに必要な金属管1に加える軸方向圧縮力をPとするために、旋回軸6に張力P1を加える駆動装置9(曲げシリンダー)、圧縮車輪14に張力P2を加える駆動装置9’(ブレーキシリンダー)を装備する必要があり、又、所望の減肉率を得るのに必要な前記圧縮力P、張力P1、P2を内蔵の演算用ソフトを用いて求めて曲げ加工中にその演算結果に基づいて制御・調整する機能を持った高精度の演算機能付制御装置(図示せず)を必要とする等、高価な機器を装備する必要があった。
このことから駆動装置が二箇所の圧縮ベンダーは大変高価なものとなり、量産のためにベンダーの機数を増やして対応することは経済的に極めて困難な状況にある。
【0013】
以上の観点から両端に短管部(ネック)を有する特殊エルボ(金属管の曲げ加工品)を安価に量産するためには、構造が単純で、生産性が高く、かつ価格が安価な専用の曲げ加工装置の開発が急務であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭54−8154号公報
【特許文献2】特公昭58−927号号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本願発明はかかる状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、両端にネックを有する特殊エルボの減肉を抑制して安価に量産することを可能にする、構造が単純で、生産性が高く、かつ価格が安価な曲げ加工装置とその曲げ加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は前記課題に関して鋭意研究を行った結果、下記の知見を得た。
すなわち、減肉率αで金属管を曲げ加工するに際して、曲げ加工すべき金属管に対し曲げ中心から引いた垂線の足を点Aとし、該金属管の先部を点Aより前方の特定位置に於いて、曲げ中心の回りを回転自在の曲げアームに、その有効半径が所定の曲げ半径Rとなるようにクランプし、該曲げアームに、該曲げアームと回転の中心を共有する有効半径がrで、該曲げ半径Rより曲げ外側に、下記(1・1)式より計算される偏差eだけ大きいr=R+eである滑車、鎖車等の圧縮車輪を固定または嵌装する一方、該金属管の後方に位置した基台上のテールクランプ装置に該金属管後部をクランプしてなると共に、チェーン、鋼索等の伝導部材を該圧縮車輪で支持した状態で、該基台上に於いて該金属管の中心から曲げ外側に偏差eだけ離れた位置に設けた緩み調整装置と曲げアームに連結して、該伝導部材を該緩み調整装置を用いて一直線に張架して固定した後、該金属管を適宜の駆動装置を用いて移動すると、該駆動装置に力P2が発生して曲げ加工が始まり、これにより該伝導部材に反力P1が誘発されるので、該金属管には両者の和である圧縮力P=P1+P2の力が付与される。
この圧縮力Pを付与しながら基台と曲げ中心との距離を徐徐に縮めると共に点Aに於いて適宜の加熱装置により金属管を狭幅に加熱しながら曲げ加工しても、金属管中心から偏差eの位置の肉厚は伸びが抑えられているので素管肉厚に保持され曲げ加工中も変動しないことを見出した。
【0017】
因みに、前記緩み調整装置は、伝導部材を連結する節点12を片端とするスタットボルトを、該緩み調整装置に固定した軸受を貫通させてナットで締め付けるスクリュウジャッキ状の構成としたものである。勿論、スクリュウジャッキを油圧ジャッキに置き換えても良い。
【0018】
更に、前記緩み調整装置は偏差eを適宜に設定できるように金属管の直角方向に移動できる構成としてある。(図示せず)
【0019】
【数1】
【0020】
そして偏差eと減肉率の関係は、図8(a),(b)を利用して求めた式(1・1)により、幾何学的に極めて容易に求められるので、従来方式のように高度の演算や過去のデータに基づいて圧縮力Pを決定する必要もなく精度の高い圧縮曲げが容易に行なえることを見出した。
【0021】
また伝導部材に誘発される反力P1は必要な圧縮力Pから駆動装置の力P2を減じたものであるから伝導部材や圧縮車輪に加わる応力を低減でき、曲げ加工装置を小形化、単純化、低価格化できることを見出した。
【0022】
また曲げ加工中にチェーン、鋼索等の伝導部材が伸びると、反力が低減して希望の減肉率が得られなくなるが、曲げ加工中の伝導部材の伸びを見込んで偏差eを多めに設定することで解決できることも見出した。
本発明請求項1の発明は、以上の知見を基になされたものである。
【0023】
前記したように、伝導部材の伸びによる減肉率の低減を防ぐためには、伝導部材の伸びを見込んで偏差eを多めに設定すればよいが、繰返し使用により伝導部材に永久歪が発生した場合、偏差eを正確に設定できなくなる欠点がある。
伝導部材の永久歪による減肉率の低減を防ぐためには、伝導部材にロードセルをセットし、緩み調整装置を用いて曲げ加工中に生じる反力に相当する張力を伝導部材に加えて張架した後、曲げ加工することで解決できることが判明した。そしてロードセルは伝導部材のアームクランプ側、若しくは中間クランプ側の節点近傍に取付ければよいことが判明した。
請求項2の発明は以上の知見に基づいてなされたものである。
【0024】
前記請求項1および請求項2の発明を実施するための金属管の圧縮曲げ装置は下記の構成からなる。
すなわち、曲げ加工すべき金属管の長手方向の狭幅領域を加熱する加熱装置と、該加熱装置を移動する装置と、該金属管に対し曲げ中心から引いた垂線の足点Aより前方の該金属管の特定位置をクランプする回転自在な曲げアームと、該曲げアームと回転の中心を共有する圧縮車輪と、該金属管の後方に位置する基台と、該基台上に配置され該金属管の後部をクランプするテールクランプ装置と、該基台上において該金属管の中心から下記(1・1)式より計算される偏差eだけ離れた位置に設けた緩み調整装置と、該緩み調整装置を起点に該圧縮車輪で支持した状態で該曲げアームに連結した伝導部材と、該基台と曲げ中心との距離を可変する駆動装置を備えてなることを特徴とするものである。
【0025】
【数1】
【0026】
本発明の基本的な原理を説明する。
【0027】
本発明装置は、駆動装置が一箇所で、他に反力発生機構を有する構造からなる。
図1は、本発明の基本的原理を説明する図である。
図1は、図2の油圧シリンダー9’を取り外して駆動装置を一箇所にしてなると共に、他に反力発生機構を有する構造である。
【0028】
図1に示すように油圧シリンダー9’を取り外して伝導部材11をD点に固定して曲げ加工した場合について説明する。
図1に示すように、有効半径rが曲げ半径Rより曲げ外側に所望の偏差eだけ大きいr=R+eである圧縮車輪14に伝導部材11を金属管1に平行に一直線に張架して曲げ加工すると伝導部材11に反力(ブレーキ力)P1、油圧シリンダー9に引張力(曲げ推力)P2が発生する。
金属管に付与される圧縮力Pは、
P=P1+P2
この場合のP1、P2の値を求める。
【0029】
【数2】
【0030】
駆動装置が一箇所の従来発明と駆動装置が一箇所で反力発生機構を有する本願発明の作用効果の比較
以上の検討により明らかなように、駆動装置が一箇所の場合の曲げ推力は式(5)より
P1=nP0=P
一方、本発明の駆動装置が一箇所でも反力発生機構を有する場合の曲げ推力
P=P1+P2で、式(1・3)、(1・4)に示すように反力発生機構の反力P1と油圧シリンダーの引張力P2に分配されるので引張力P2は当然小さくなる。
【0031】
【数3】
【0032】
以上より、本発明では、駆動装置が一箇所であるにもかかわらず、圧縮負荷を二箇所に分割して、駆動装置にかかる負荷を大幅に軽減でき、駆動装置および駆動装置に繋がる伝導部材、圧縮車輪等を小さくできる著効がある。因みに、駆動装置が一箇所の従来装置の場合と比較して、n=6(減肉率0を実現する)と仮定した場合で、駆動装置にかかる圧縮負荷は、3/8まで軽減できることになる。
【0033】
ただし、図1は基本原理を説明するために線図を用い、金属管も単に1本の線で示してある。これは便宜上、金属管の曲げ中立軸が金属管の中心線上にあるとして描画したものだが、実際に圧縮曲げを行うと金属管の曲げの中立軸は圧縮力が増大する程金属管の背面側に移動するので、[数2][数3]に示す一連の計算式を用いて計算した本発明の曲げ推力P2と実測値とは異なってくる。
しかし、曲げの中立軸が金属管の背面側に移動するということは曲げRが拡大したことを示すもので、当然曲げ推力が低下する。これは本発明の有効性を更に高めるものである。
[数2][数3]に示す一連の計算式は基本原理を理解し易く説明するための目安の式であり、油圧シリンダーが一箇所の従来装置の曲げ推力Pと本発明の曲げ推力の比較は曲げ推力P2の実測値を用いて求めなければならない。
【0034】
曲げ推力の設定
従来方法では、減肉率に応じて曲げ推力の設定を予め演算または過去の曲げデータにより設定して行わなければならない。
本発明でも、式(1・4)に従って曲げ推力を予め設定しなければならないように思われるが、偏差eの位置を幾何学的に設定して曲げ加工すれば所望の減肉率が得られ、油圧シリンダーの引張力P2(曲げ推力)が必要なだけ自動的に発生するのでその必要はない。
【発明の効果】
【0035】
本発明(請求項1)によれば、
曲げ加工中に、金属管の中心から偏差eの位置に発生する金属管の伸びを、チェーン、鋼索等の伝導部材で単に抑えることで、減肉率を容易に調整することが出来る(簡便な手段で減肉率を容易に調整することが出来る)。
駆動装置が一箇所の従来型の曲げ装置に比較して駆動装置に繋がる伝導部材、圧縮車輪等を小さくできるので、装置を軽量化できる。
また駆動装置が二箇所の従来型の曲げ装置に比較して高精度の駆動装置を用いる必要もなく、また、演算機能付制御装置を取付ける必要もないので、装置の構造を単純化、軽量化できるので、軽量で操作性が良く生産性の高い圧縮曲げ加工装置を安価に製造できる。
従って、この装置を使用することでネック付エルボの様なベンド管(金属管曲げ加工品)を安価に量産することが出来る。
また、本発明(請求項2)によれば、曲げ加工中に生じるチェーン、鋼索等の伝導部材の伸びの影響を除外できるので、減肉率の安定したベンド管の生産を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
実施の形態1
図4は、金属管を固定して、アームと加熱装置を移動させて金属管を曲げ加工する金属管圧縮曲げ装置を使用して請求項1の発明を実施する時の説明図である。なお本例は垂直曲げ加工の場合である。
図4の(A)は曲げ加工する直前の状態を説明する図であり、(B)は曲げ加工途中の状態を説明する図である。
【0037】
図4(A)において、金属管1を、加熱部を挟んだ両端側に設けたクランプ3、7にクランプする。
クランプ3、7は、伝導部材11と連結されている。
なお伝導部材11はチェーン、鋼索等の力の伝導部材を意味し、本図はチェーンの場合である。
伝導部材11は、クランプ3、7に設けた節点12、13に連結されており、伝導部材11および節点12、13が、金属管1の曲げ半径Rより曲げ外側に偏差eだけ大きい軸線上に位置し、かつ一直線になるように、緩み調整装置18で調節して張架、固定し、かつ、曲げアーム4の旋回軸6と同心の圧縮車輪14で伝導部材11を支持した状態で、基台8に配設した油圧シリンダー9を駆動して移動台15を引き寄せながら、加熱装置19で金属管1を加熱冷却しながら、加熱装置19を相対的に移動させながら金属管1に曲げ推力を加えて曲げ加工すると、シリンダーロット10に張力P2、伝導部材11に反力P1が発生し、金属管1の加熱部(曲げ点A)には曲げ推力P2と反力P1の和である圧縮力Pが付与される。
この圧縮力Pの付与によって、金属管1は減肉を高精度に抑制され、高精度の曲管が形成される。
【0038】
偏差eは下記(1・1)式で求めることができる。
【数1】
【0039】
予め減肉率αを所定の値に設定することで、αに対応するeを求めることが出来る。
【0040】
なお偏差eと減肉率αの関係式は図8より以下のようにして求められる。
図8の(a)は、垂直曲げを行った場合の金属管の断面図、(b)は金属管の横断面図であり、所望の減肉率を確保する曲げ中立軸と金属管中心からの偏差eの関係を示す図である。
EEが肉厚の変動しない中立軸位置である。ハッチング部に引張応力、他の部分に圧縮応力が作用する。
【0041】
金属素管の肉厚t0、曲げ管のT側の肉厚tt、金属管の平均半径をρとした時、減肉率αは下記の式から導くことが出来る。
【0042】
【数4】
【0043】
【数5】
【0044】
実施例1
減肉率、偏差の計算例と実際の圧縮曲げ加工の実施例について述べる。
金属管1の平均半径をρ、曲げ半径Rをρのν倍、偏差eをρのχ倍として
R=3ρ、α=0にするには、式(1・5)より
χ=1−α(ν+1)=1
e=ρ
金属管の平均半径ρの位置にeを設定すれば良い。
【0045】
図4の装置を使用して、金属管の平均半径ρの位置にeを設定して、鉄鋼材料のSTPG38、寸法は、外径165.2mm、肉厚9.3mm、曲げ半径Rは234mm、曲げ角度90°、曲げ部の加熱温度は950℃で圧縮曲げ加工したときの金属管背面の肉厚のバラツキは下記の通りであった。
加工後の金属管の肉厚の測定は、曲げ始めの直管と曲管の境界部から10°、45°、80°の3箇所の背面肉厚を超音波肉厚計で測定した。
三箇所の肉厚の測定値は、いずれも9.3mm±2%の範囲内の値であり、この値は、油圧シリンダーが一箇所の従来装置で曲げ加工した時の金属管の肉厚のバラツキ範囲内であった。
【0046】
結果
以上の結果より、計算値と実際の曲げ加工データが整合することを確認することが出来た。
なお油圧シリンダーに負荷される曲げ推力を測定したところ、油圧シリンダーが一箇所の従来装置の概ね30%に低減できた。
【0047】
更に、図4の装置を使用して、金属管の平均半径ρの位置にeを設定して、鉄鋼材料のSTPG38、寸法は、外径139.8mm、肉厚8.1mm、曲げ半径Rは198mm、曲げ角度90°、曲げ部の加熱温度は950℃で圧縮曲げ加工したときの金属管背面の肉厚のバラツキは下記の通りであった。
加工後の金属管の肉厚の測定は、実施例1と同じ。
肉厚のバラツキは、8.1mm±2%であった。
この値は、油圧シリンダーが一箇所の従来装置で曲げ加工した時の肉厚のバラツキ範囲内であった。
【0048】
結果
以上の結果より、計算値と実際の曲げ加工データが整合することを確認することが出来た。
なお油圧シリンダーに負荷される曲げ推力を測定したところ、計算値と良く整合し、油圧シリンダーが一箇所の従来装置の概ね30%に低減できた。
【0049】
実施例2
実施例1と同じ手順で計算した別の圧縮曲げ加工の実施例について述べる。
金属管1の平均半径をρ、曲げ半径Rをρのν倍、偏差eをρのχ倍として
R=3ρ、α=0.05にするには、式(1・5)より
χ=1−α(ν+1)=1−0.05(3+1)=0.8
e=0.8ρ
金属管の平均半径ρの0.8倍の位置にeを設定すれば良い。
【0050】
図4の装置を使用して、金属管の平均半径ρの0.8倍の位置にeを設定して、鉄鋼材料の鋼種STPG38、金属管の外径138.9mm、肉厚8.1mmを使用して、曲げ半径Rは198mm、曲げ角度90°、曲げ部の加熱条件は950℃で圧縮曲げ加工したときの金属管背面の肉厚のバラツキは下記の通りであった。
加工後の金属管の肉厚の測定は、実施例1と同じ。
肉厚のバラツキは、7.7mm±2%であった。
この値は、前記実施例1と同じく、油圧シリンダーが一箇所の従来装置で曲げ加工した時の肉厚のバラツキ範囲内であった。なお油圧シリンダーに負荷される曲げ推力を測定したところ、計算値と良く整合し、油圧シリンダーが一箇所の従来装置の概ね40%に低減できた。
【0051】
結果
以上の結果より、計算値と実際の曲げ加工データが整合することを確認することが出来た。
【0052】
実施例3
実施例1と同じ手順で計算した別の圧縮曲げ加工の実施例について述べる。
金属管1の平均半径をρ、曲げ半径Rをρのν倍、偏差eをρのχ倍として
R=3ρ、α=0.1にするには、式(1・5)より
χ=1−α(ν+1)=1−0.1(3+1)=0.6
e=0.6ρ
金属管の平均半径ρの0.6倍の位置にeを設定すれば良い。
【0053】
図4の装置を使用して、金属管の平均半径ρの0.6倍の位置にeを設定して、鉄鋼材料の鋼種SGP、金属管の外径114.3mm、肉厚4,5mmを使用して、曲げ半径Rは161mm、曲げ角度90°、曲げ部の加熱条件は950℃で圧縮曲げ加工したときの金属管背面の肉厚のバラツキは下記の通りであった。
加工後の金属管の肉厚の測定は、実施例1と同じ。
肉厚のバラツキは、4.1mm±2%であった。
この値は、前記実施例1と同じく、油圧シリンダーが一箇所の従来装置で曲げ加工した時の肉厚のバラツキ範囲内であった。なお油圧シリンダーに負荷される曲げ推力を測定したところ、計算値と良く整合し、油圧シリンダーが一箇所の従来装置の概ね45%に低減できた。
【結果】
【0054】
以上実施例1〜3の結果より、金属管の鋼種、肉厚、外径、曲げ半径、減肉率の設定値が変わっても、計算値と実際の加工データが高精度で整合することを確認することが出来た。
また油圧シリンダーに負荷される曲げ推力も、計算値と良く整合し、油圧シリンダーが一箇所の従来装置より低減することを確認することが出来た。
【0055】
本発明において曲げ加工すべき金属材料としては、丸型鋼管、角型鋼管等の管、H型鋼、I型鋼、L型鋼、C型鋼等の各種形材、各種断面の棒材、板材等、熱間曲げ加工可能な任意の条材を対象とすることが出来る。
【0056】
本発明の曲げ加工すべき金属条材の長手方向狭幅領域を急速に加熱する装置として、火炎加熱装置、高周波誘導加熱装置等を適宜用いることが出来るが、高周波誘導加熱装置が最も好適である。
高周波誘導加熱装置の使用周波数は、1〜20KHzが好適である。また金属条材が鉄鋼材料の場合、加熱温度は850〜1100℃の範囲が好適である。
【0057】
本発明において、伝導部材11を緩み調整装置18により一直線に張架して固定することで、従来二本必要であった油圧シリンダーを一本省略することが出来るので、圧縮曲げ加工装置の構造を単純化でき、装置の製造コストを大幅に低減できる。
また更に必要圧縮力を伝導部材11に分担させることで伝導部材11に付与される張力及び油圧シリンダー9の推力を低減できるので、装置の小型化および駆動装置や油圧シリンダーを小型化でき、このことも装置の製造コストの低減に寄与する。なお曲げ加工中に伝導部材11が伸びると、反力P1が低減して希望の減肉率が得られなくなるので、この場合、予め曲げ加工中の伝導部材11の伸びを見込んで偏差eを多めに設定すればよい。
【0058】
油圧シリンダーを2本必要とする従来発明装置と油圧シリンダー1本の本願発明装置を使用して同じ金属管を曲げ加工したときの比較データを下記表1に示す。
使用した金属管の材質は、鉄鋼材料のSTPG38、寸法は、外径165.2mm、肉厚9.3mm、曲げ角度90°、曲げ部の加熱温度は950℃である。減肉率は0%に設定した。
【0059】
【表1】
【0060】
表1の結果より、本願発明は、従来装置に比較して、曲げ品質(減肉部肉厚のバラツキ)は同等で、その装置の製造コストを大幅に低減でき、それによって製品の曲げコストを大幅に低減できることを確認できた。
【0061】
実施の形態2
前記したように、伝導部材の伸びによる減肉率の低減を防ぐためには、伝導部材の伸びを見込んで偏差eを多めに設定すればよいが、繰返し使用により伝導部材に永久歪が発生した場合、偏差eを正確に設定できなくなる欠点がある。
図5は、伝導部材の永久歪による減肉率の低減を防ぐための手段(請求項2の発明)を実施する時の説明図である。なお本図は垂直曲げ加工の場合である。
図5において、伝導部材11の中間クランプ側にロードセル20をセットして、予め、テスト曲げで伝導部材に掛る反力P1を測定しておき、スタート時に、緩み調整装置で伝導部材に測定した反力P1と同じ荷重を加えて曲げ加工を開始すると、曲げ加工中の伝導部材の伸びによる減肉率の低減を抑えることができる。
【0062】
実施の形態3
図6は、圧縮車輪を車輪とした場合の説明図である。
鎖車の径(P.C.D=ピッチサークルダイヤメーター)は、鎖車の歯数で決まり任意の値に調整できないので、半径の微調整が必要な場合は車輪を用いる。
【0063】
実施の形態4
図7は、本発明請求項1を実施するための別の実施形態の説明図である。
図4、図5は、基台8と金属管1は固定するが、本実施形態では、基台8がレール17の上を移動し、金属管1が移動する方式である。
図面は垂直曲げの場合であり、金属管が移動するので加熱装置19は移動しなくても良い。
【0064】
実施形態5
図9は、金属管中心からの偏差eの位置に伝導部材11を設定した曲げ待機中の金属管断面図である。ただし金属管1と伝導部材11の関係を明らかにするためにアームクランプ3、曲げアーム4等を図4(A)の正面図からはずして要部のみ作図したものである。
(a)は、伝導部材11および圧縮車輪14を左右に配設した図。
(b)は、伝導部材11および圧縮車輪14を左方に配設した図。
機械強度および作業性を勘案して何れかを選択すればよい。特に水平曲げの場合、伝導部材11および圧縮車輪14を下に配設すると上部が開放されて作業性がより好適になる。
【0065】
実施態様6
図10は、本願発明において、所望の減肉率をαとするため偏差eで垂直曲げを行った場合の金属管の断面図と曲げ半径を示す図である。ただし金属管1と伝導部材11の関係を明らかにするためにアームクランプ3、曲げアーム4等を図4(B)の正面図からはずして要部のみ作図したものである。
【0066】
実施態様7
図11は、金属管中心から任意の偏差eの位置に伝導部材11を設定するときの圧縮車輪14との関係を示す説明図である。
EEを偏差e1に設定した場合と、偏差e2に設定した場合を図示したものである。
偏差e1に設定した場合よりも偏差e2に設定した場合が減肉率は小となる。
ただし金属管1と伝導部材11の関係を明らかにするために不要な部品は図4(A)の正面図から外して要部のみ作画したものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、本発明の基本的原理を説明する図である。
【図2】図2は、駆動部が2箇所の圧縮ベンダーの従来技術の説明図である。
【図3】図3は、駆動部が一箇所の圧縮ベンダーの従来技術の説明図である。
【図4】請求項1の発明を実施する時の説明図。(A)は曲げ加工する直前の状態を説明する図、(B)は曲げ加工途中の状態を説明する図である。
【図5】本発明実施の形態2の説明図である。
【図6】圧縮車輪を車輪とした構造の説明図である。
【図7】本発明実施形態1の別の形態例(金属管移動方式)を示すである。
【図8】(a)は垂直曲げを行った場合の金属管断面図、(b)は金属管の横断面図である。
【図9】金属管中心からの偏差eの位置に伝導部材11を設定した曲げ待機中の金属管断面図である。
【図10】所望の減肉率をαとするため偏差eで垂直曲げを行った場合の金属管の断面図と曲げ半径を示す図。
【図11】金属管中心から任意の偏差eの位置に伝導部材11を設定するときの圧縮車輪14との関係を示す説明図である。
【図12】駆動装置が一箇所の場合の従来装置の説明図である。
【図13】駆動装置が二箇所の場合の従来装置の説明図である。
【符号の説明】
【0068】
1 金属管、 2 金属管の曲げられた部分、 3 アームクランプ、
4 曲げアーム、 5 ブラケット、 6 旋回軸、 7 テールクランプ、
8 基台、 9、9’ 曲げシリンダー、 10、10’ シリンダーロッド、
11 伝導部材(チェーン、鋼索等)、 12、13 節点、 14 圧縮車輪、
15 主軸台、 16 車輪、 17 レール、 18 緩み調整装置、
19 加熱装置、 20 ロードセル、 21 熱源、 22 台車、
23 レール、 24 ねじ
A 曲げ点、 P 軸方向圧縮力、 P1 伝動部材に掛る反力、
P2 曲げシリンダー9の発生張力(曲げシリンダー)、 M 曲げモーメント、
θ 曲げ角度、 α 減肉率、 E−E′ 肉厚の変動しない中立軸位置、
N−N′ 金属管中心、 C−C′ 曲げ内側、 T−T′ 曲げ外側、 e 金属管中心からE−E′までの距離、 o 旋回中心、 ρ 金属管の平均半径、 r 圧縮車輪の半径、 θe 中立軸角度、 R 曲げ半径、 t0 金属管の素管肉厚、tt 金属管のテンション側肉厚、 tc 金属管のコンプレッション側肉厚
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減肉率αで金属管を曲げ加工する方法であって、該曲げ加工すべき金属管に対し曲げ中心から引いた垂線の足を点Aとし、該金属管の先部を該点Aより前方の特定位置に於いて、曲げ中心の回りを回転自在の曲げアーム上に、その有効半径が所定の曲げ半径Rとなるようにクランプし、該曲げアームに、該曲げアームと回転の中心を共有する有効半径がrで、該曲げ半径Rより曲げ外側に、下記(1・1)式より計算される偏差eだけ大きいr=R+eである圧縮車輪を固定または嵌装する一方、該金属管の後方に位置する基台上のテールクランプ装置に該金属管後部をクランプしてなると共に、伝導部材を該圧縮車輪で支持した状態で、該基台上に於いて該金属管の中心から曲げ外側に偏差eだけ離れた位置に設けた緩み調整装置と曲げアームに連結して、該伝導部材を該緩み調整装置を用いて一直線に張架して固定した後、該金属管を適宜の駆動装置を用いて移動すると共に、該金属管を該点Aの近傍に於いて加熱装置により該金属管の長手方向の狭幅領域を加熱し、該基台と曲げ中心との距離を徐徐に縮めて、金属管の中心から偏差e点の軸線の伸びを、該伝導部材を用いて抑えることにより、該駆動装置の推力P2と、該伝導部材に生じた反力P1を加えた圧縮力P(=P1+P2)を付与しながら曲げ加工することを特徴とする金属管の圧縮曲げ加工方法。
【数1】
【請求項2】
前記伝導部材にロードセルをセットし、前記緩み調整装置を用いて曲げ加工中に生じる反力に相当する張力を該伝導部材に予め加えて張架した後、曲げ加工することを特徴とする請求項1に記載の金属管の圧縮曲げ加工方法。
【請求項3】
曲げ加工すべき金属管の長手方向の狭幅領域を加熱する加熱装置と、該加熱装置を移動する装置と、該金属管に対し曲げ中心から引いた垂線の足点Aより前方の該金属管の特定位置をクランプする回転自在な曲げアームと、該曲げアームと回転の中心を共有する圧縮車輪と、該金属管の後方に位置する基台と、該基台上に配置され該金属管の後部をクランプするテールクランプ装置と、該基台上において該金属管の中心から下記(1・1)式より計算される偏差eだけ離れた位置に設けた緩み調整装置と、該緩み調整装置を起点に該圧縮車輪で支持した状態で該曲げアームに連結した伝導部材と、該基台と曲げ中心との距離を可変する駆動装置を備えてなることを特徴とする金属管の圧縮曲げ装置。
【数1】
【請求項4】
前記伝導部材にロードセルを取付けた請求項3に記載の金属管の圧縮曲げ装置。
【請求項1】
減肉率αで金属管を曲げ加工する方法であって、該曲げ加工すべき金属管に対し曲げ中心から引いた垂線の足を点Aとし、該金属管の先部を該点Aより前方の特定位置に於いて、曲げ中心の回りを回転自在の曲げアーム上に、その有効半径が所定の曲げ半径Rとなるようにクランプし、該曲げアームに、該曲げアームと回転の中心を共有する有効半径がrで、該曲げ半径Rより曲げ外側に、下記(1・1)式より計算される偏差eだけ大きいr=R+eである圧縮車輪を固定または嵌装する一方、該金属管の後方に位置する基台上のテールクランプ装置に該金属管後部をクランプしてなると共に、伝導部材を該圧縮車輪で支持した状態で、該基台上に於いて該金属管の中心から曲げ外側に偏差eだけ離れた位置に設けた緩み調整装置と曲げアームに連結して、該伝導部材を該緩み調整装置を用いて一直線に張架して固定した後、該金属管を適宜の駆動装置を用いて移動すると共に、該金属管を該点Aの近傍に於いて加熱装置により該金属管の長手方向の狭幅領域を加熱し、該基台と曲げ中心との距離を徐徐に縮めて、金属管の中心から偏差e点の軸線の伸びを、該伝導部材を用いて抑えることにより、該駆動装置の推力P2と、該伝導部材に生じた反力P1を加えた圧縮力P(=P1+P2)を付与しながら曲げ加工することを特徴とする金属管の圧縮曲げ加工方法。
【数1】
【請求項2】
前記伝導部材にロードセルをセットし、前記緩み調整装置を用いて曲げ加工中に生じる反力に相当する張力を該伝導部材に予め加えて張架した後、曲げ加工することを特徴とする請求項1に記載の金属管の圧縮曲げ加工方法。
【請求項3】
曲げ加工すべき金属管の長手方向の狭幅領域を加熱する加熱装置と、該加熱装置を移動する装置と、該金属管に対し曲げ中心から引いた垂線の足点Aより前方の該金属管の特定位置をクランプする回転自在な曲げアームと、該曲げアームと回転の中心を共有する圧縮車輪と、該金属管の後方に位置する基台と、該基台上に配置され該金属管の後部をクランプするテールクランプ装置と、該基台上において該金属管の中心から下記(1・1)式より計算される偏差eだけ離れた位置に設けた緩み調整装置と、該緩み調整装置を起点に該圧縮車輪で支持した状態で該曲げアームに連結した伝導部材と、該基台と曲げ中心との距離を可変する駆動装置を備えてなることを特徴とする金属管の圧縮曲げ装置。
【数1】
【請求項4】
前記伝導部材にロードセルを取付けた請求項3に記載の金属管の圧縮曲げ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−111651(P2013−111651A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−272726(P2011−272726)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(311017614)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(311017614)
【Fターム(参考)】
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