説明

金属細線の溶断電流測定治具

【課題】金属細線の溶断電流を測定するための治具、特に半導体素子と基板との接合に使用される所定長さのAu細線の溶断電流を測定するための治具を提供する。
【解決手段】基台1と、基台に固定して取付けられている平面9を有する固定具2と、前記固定具2に対して近づけたり遠ざけたり摺動させることのできる平面10を有する摺動具3とからなり、固定具2の平面9には金属線固定ボルト4および押さえ平板11を設け、一方、摺動具3の平面10には金属線固定ボルト5および押さえ平板12を設け、前記固定具2の平面9の端部および摺動具3の平面10の端部にそれぞれ金属細線6に通電するための端子17、18が設けられている金属細線の溶断電流測定治具であって、固定具2の平面9は摺動具側に向かって上るように傾斜しており、一方、摺動具3の平面10は固定具に向かって上るように傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属細線の溶断電流を測定するための治具に関するものであり、特に半導体素子と基板との接合に使用される所定の長さのAu細線の溶断電流を測定するための治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、線材などの溶断電流を測定する装置として線材の両端を固定し、この固定した線材に電流を流し、線材が溶断した電流値を溶断電流として測定する装置が知られている(特許文献1など参照)。しかし、溶断電流測定装置は溶接ワイヤなどの太い径の線材の溶断電流を測定する装置に関するものであり、半導体装置のボンディングワイヤなどAu細線の溶断電流を測定する装置は知られていない。
【特許文献1】特開2000−61687
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
半導体素子と基板との接合に使用されるAu細線などのボンディングワイヤは半導体装置の小型化とコスト低減のためにますます細径となり、一方で半導体装置の性能を高めるためにAu細線に流される電流値が増加する傾向にある。さらに、前記半導体素子と基板との接合に使用されるAu細線はその使用環境が多様化していることからそれに対応するためにAu細線の成分組成が変化しており、Au細線の線径も変化している。そのために、半導体装置の製造に使用されるAu細線の溶断電流は一定ではなく、このAu細線はどの程度の電流が流れると溶断するかという問い合わせが頻繁に来るようになってきた。また、半導体装置に何らかの理由により過剰な電流が流れることがあり、この過剰な電流が流れると半導体素子と基板とを接合するAu細線が発熱して溶断することがある。したがって、Au細線の線径や種類ごとに溶断電流値を知っておく必要がある。
この発明は、半導体素子と基板との接合に使用されるAu細線などボンディングワイヤが溶断する電流値を簡単に測定できる治具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、かかる目的に沿うべく所定の長さを有するAu細線が溶断する電流値を簡単に測定できる溶断電流測定治具を開発した。図1および図2はこの発明の溶断電流測定治具の側面図である。図3は図2に示されるこの発明の溶断電流測定治具20の斜視図である。図1〜3において、1は基台であり、基台1に固定して固定具2が取付けられている。さらに、基台1に取付けられている固定具2に対して近づけたり遠ざけたりスライドすることのできる摺動具3が設けられている。この摺動具3の裏側に突起(図示せず)が設けられており、この突起が基台1の表面に形成されている摺動溝19に摺動可能に嵌合させておき、固定具2に対して摺動具3を近づけたり遠ざけたりスライドすることのできるようになっている。さらに基台1に設けられた摺動具3の横に該摺動具3に平行にスケール13が取付けられている。このスケール13は基台1にボルトまたはねじにより固定しても良く、また接着剤材で基体1に貼り付けても良い。このスケール13により固定具2の先端エッジ14と摺動具3の先端エッジ15との間の距離を測定するためのものである。
【0005】
前記固定具2の平面9にはAu細線6を固定するためのワッシャー付き金属線固定ボルト4が設けられており、さらに前記摺動具3の平面10にもAu細線6を固定するためのワッシャー付き金属線固定ボルト5が設けられている。摺動具3には摺動具3のスライド方向に貫通細長溝7が設けられており、この貫通細長溝7に固定ねじ8が挿入されており、固定ねじ8の一端は基台1に螺入して設けられている。この固定ねじ8を緩めて摺動具3を貫通細長溝7方向に移動し、所望の位置に到達した時点で先に緩めてある固定ねじ8を締めることにより摺動具3が基台1に固定される。さらに固定具2の平面9にはリード線を電源Eに接続するためのターミナル17が設けられており、摺動具3にもリード線を電源Eに接続するためのターミナル18が設けられている。
【0006】
固定具2および摺動具3に取付けられたAu細線6に軽いねじれなどの癖などがあると、図4に示されるようにAu細線6が浮き上がって、固定具2のワッシャー付き金属線固定ボルト4で固定されたAu細線6は固定具2の先端エッジ14よりもワッシャー付き金属線固定ボルト4またはワッシャー付き金属線固定ボルト4に近い部分の平面に接触することがあり、一方、摺動具3のワッシャー付き金属線固定ボルト5で固定されたAu細線6は摺動具3の先端エッジ15よりもワッシャー付き金属線固定ボルト5またはワッシャー付き金属線固定ボルト5に近い部分の平面に接触することがある。かかる状態でAu細線6が固定具2および摺動具3に接触すると、溶断電流を測定するためのAu細線6の長さにばらつきが生じ、そのためにAu細線6の正確な長さと溶断電流値を測定することができない。
【0007】
これを防止するために、この発明では、ワッシャー付き金属線固定ボルト4の下に押さえ平板11の先端エッジ21と固定具2の先端エッジ14を一致させることができる押さえ平板11を設け、さらにワッシャー付き金属線固定ボルト5の下に押さえ平板12の先端エッジ22と摺動具3の先端エッジ15を一致させることができる押さえ平板12を設け、押さえ平板11と固定具2の平面9とによりAu細線6の一端を挟みワッシャー付き金属線固定ボルト4を締めることによりAu細線6を固定具2に固定し、一方、押さえ平板12と摺動具3の平面10とによりAu細線6の他端を挟みワッシャー付き金属線固定ボルト5を締めることによりAu細線6を固定具2に固定し、浮き上がったAu細線6を押さえ平板11により押し付けて先端エッジ14に接触させ、一方、浮き上がったAu細線6を押さえ平板12により押し付けて先端エッジ15に接触させ、Au細線6の長さを正確にスケール13により読み取ることができるようにしている。
【0008】
前記固定具2および摺動具3にそれぞれ設けられている平面9、10は、図1の側面図に示されるように、水平面であっても良いが、図2の側面図に示されるように、この固定具2に設けられている平面9は摺動具3の方向に向かって上りの傾斜を有しており、一方、摺動具3に設けられている平面10は固定具3の方向に向かって上りの傾斜を有していることが一層好ましい。この場合、前記固定具2は摺動具3に相対する面部分が最も厚くなっており、さらに摺動具3は固定具2に相対する面部分の厚さが最も厚くなるようになっている。
固定具2および摺動具3の平面を傾斜平面とすると、Au細線6は確実に固定具2および摺動具3の先端エッジ14、15に接触するようになることから、先端エッジ14と先端エッジ15の間のAu細線の長さを正確にスケール13により読み取ることができるようになり、それによって正確な溶断電流値を測定することができる。固定具2の平面9の傾斜角度および摺動具3の平面10の傾斜角度は20°以下の範囲内にあることが好ましい。
【0009】
この発明は主としてAu細線の溶断電流を測定する治具に関するものであるが、Au細線に限定されるものではなく、その他の金属の細線の溶断電流を測定することができる。したがって、この発明は、
(1)基台と、基台に固定して取付けられている平面を有する固定具と、前記固定具に対して近づけたり遠ざけたり摺動させることのできる平面を有する摺動具とからなり、固定具の平面には金属線固定ボルトおよび押さえ平板を設け、一方、摺動具の平面には金属線固定ボルトおよび押さえ平板を設け、前記固定具の平面の端部および摺動具の平面の端部にそれぞれ金属細線に通電するための端子が設けられている金属細線の溶断電流測定治具、
(2)前記固定具の平面は摺動具側に向かって上るように傾斜している傾斜平面であり、一方、摺動具の平面は固定具に向かって上るように傾斜している傾斜平面である前記(1)記載の金属細線の溶断電流測定治具、
(3)前記摺動具の横に、摺動具の摺動方向に平行にスケールが取付けられている前記(1)または(2)記載の金属細線の溶断電流測定治具、に特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明の金属細線の溶断電流測定治具によると、金属細線の溶断電流を簡単にかつ正確の測定することができ、半導体装置産業に優れた効果をもたらすものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明のAu細線の溶断電流測定治具10を用いて所定の長さを有するAu細線6の溶断電流を測定するには、まず、この固定ねじ8を緩めて摺動具3を貫通細長溝7方向にスケール13を見ながら摺動具3の先端エッジ15が固定具2の先端エッジ14に対して所定の距離となるように移動し、所望の距離に到達したのち固定ねじ8を締めることにより摺動具3を基台1に固定する。次に、Au細線6の一端をワッシャー付き金属線固定ボルト5の下に設けられている押さえ平板12と固定具2の平面9の間に挟み、ワッシャー付き金属線固定ボルト4を締めることによりAu細線6を固定具2に固定し、さらに押さえ平板12と摺動具3の平面10の間にAu細線6の他端を挟みワッシャー付き金属線固定ボルト5を締めることによりAu細線6を摺動具3に固定する。
次に、ターミナル17、18を電源Eに接続し、溶断電流測定治具20に固定されたAu細線に電流計16を見ながら溶断するまで電流を流し、Au細線6が溶断したときの電流値を測定してそのAu細線の溶断電流値を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の金属細線の溶断電流測定治具の側面図である。
【図2】この発明の金属細線の溶断電流測定治具の側面図である。
【図3】図2のこの発明の金属細線の溶断電流測定治具の斜視図である。
【図4】固定具および摺動具に押さえ板を設けた理由を説明するための側面説明図である。
【符号の説明】
【0013】
1:基台、2:固定具、3:摺動具、4:ワッシャー付き金属線固定ボルト、5:ワッシャー付き金属線固定ボルト、6:Au細線、7:貫通細長溝、8:固定ねじ、9:平面、10:平面、11:押さえ平板、12:押さえ平板、13:スケール、14:先端エッジ、15:先端エッジ、16:電流計、17:ターミナル、18:ターミナル、19:摺動溝、20:溶断電流測定治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、基台に固定して取付けられている平面を有する固定具と、前記固定具に対して近づけたり遠ざけたり摺動させることのできる平面を有する摺動具とからなり、固定具の平面には金属線固定ボルトおよび押さえ平板を設け、一方、摺動具の平面には金属線固定ボルトおよび押さえ平板を設け、前記固定具の平面の端部および摺動具の平面の端部にそれぞれ金属細線に通電するための端子が設けられていることを特徴とする金属細線の溶断電流測定治具。
【請求項2】
前記固定具の平面は摺動具側に向かって上るように傾斜している傾斜平面であり、一方、摺動具の平面は固定具に向かって上るように傾斜している傾斜平面であることを特徴とする請求項1記載の金属細線の溶断電流測定治具。
【請求項3】
前記摺動具の横に、摺動具の摺動方向に平行にスケールが取付けられていることを特徴とする請求項1または2記載の金属細線の溶断電流測定治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−209191(P2008−209191A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45247(P2007−45247)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000217332)田中電子工業株式会社 (51)
【Fターム(参考)】