説明

金属被覆スチールストリップ

0.3〜10重量%のMgと0.005〜0.2重量%のVとを含有するAl−Zn−Si合金のコーティングを有するスチールストリップ。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明は、アルミニウムと、亜鉛と、ケイ素とを含有し、これに基づいて、以下「Al−Zn−Si合金」と呼ばれる合金の耐食性金属合金コーティングを有するストリップ、典型的にはスチールストリップに関する。
【0002】
本発明は、限定されるものではないが、特に、合金コーティング中の主要元素としてアルミニウムと、亜鉛と、ケイ素と、マグネシウムとを含有し、これに基づいて、以下「Al−Zn−Si−Mg合金」と呼ばれる耐食性金属合金コーティングに関する。この合金コーティングは、意図的なアロイング添加物または不可避の不純物として存在する他の元素を含有し得る。
【0003】
本発明は、限定されるものではないが、特に、上記Al−Zn−Si−Mg合金で被覆されており、ルーフィング製品などの最終使用製品に冷間成形され得る(例えば、ロール成形によって)スチールストリップに関する。
【0004】
典型的には、本発明のAl−Zn−Si−Mg合金は、重量%での以下の範囲の元素Alと、Znと、Siと、Mgと:
Al: 40から60%
Zn: 30から60%
Si: 0.3から3%
Mg: 0.3から10%
を含む。
【0005】
より典型的には、本発明のAl−Zn−Si−Mg合金は、重量%での以下の範囲の元素Alと、Znと、Siと、Mgと:
Al: 45から60%
Zn: 35から50%
Si: 1.2から2.5%
Mg: 1.0から3.0%
を含む。
【0006】
最終使用の用途に依存して、金属被覆スチールストリップは、ストリップの片面または両面上に、例えば、ポリマー性塗料を用いて塗装され得る。この点で、金属被覆ストリップは、それ自体最終製品として販売されてもよく、または片面もしくは両面に塗料コーティングを塗布し、塗装最終製品として販売されてもよい。
【0007】
本発明は、限定されるものではないが、特に、上記Al−Zn−Si−Mg合金で被覆され、塗料で場合によって被覆され、その後に最終使用製品、例えば、建築関連製品(例えば、異形壁(profiled wall)およびルーフィングシート)に冷間成形される(例えば、ロール成形によって)スチールストリップに関する。
【0008】
本発明は、限定されるものではないが、特に、上記Al−Zn−Si−Mg合金で被覆されており、場合によって塗料で被覆されているスチールストリップを含む冷間成形された(例えば、ロール成形された)最終使用製品(例えば、異形壁およびルーフィングシート)に関する。
【0009】
典型的には、耐食性金属合金コーティングは、溶融めっき法によってスチールストリップ上に形成される。
【0010】
従来の溶融金属めっき法では、スチールストリップは概して、1つまたは複数の熱処理炉を通過し、その後、コーティングポット中に保持された溶融金属合金の槽中へ入り、それを通過する。
【0011】
金属合金は通常、加熱用誘導子を使用することによって、コーティングポットにおいて溶融状態で維持される。ストリップは通常、槽中に浸かる細長い炉出口シュートまたはスナウトの形態の出口末端セクションを経て熱処理炉を出る。槽内で、ストリップは、1つまたは複数のシンクロールの周りを通り、槽から上方に取り出され、槽を通過するときに、金属合金で被覆される。
【0012】
コーティング槽を出た後、金属合金被覆ストリップは、コーティング厚さ制御ステーション、例えば、ガスナイフまたはガスワイピングステーション(gas wiping station)を通過し、そこで、その被覆面をワイピングガスの噴流にさらして、そのコーティングの厚さを制御する。
【0013】
次いで、金属合金被覆ストリップは、冷却セクションを通過し、強制冷却にさらされる。
【0014】
その後、冷却された金属合金被覆ストリップは、場合によって、被覆ストリップを逐次的にスキンパス圧延セクション(調質圧延セクションとしても知られている)およびテンションレベリングセクションに通過させることによって調整され得る。調整されたストリップは、巻取りステーション(coiling station)で巻き取られる。
【0015】
アルミニウムおよび亜鉛は、耐食性のためにスチールストリップ上のAl−Zn−Si合金コーティング中に与えられる。
【0016】
アルミニウム、亜鉛、およびマグネシウムは、耐食性のためにスチールストリップ上のAl−Zn−Si合金コーティング中に与えられる。
【0017】
ケイ素は、溶融めっき法でのスチールストリップと溶融コーティングとの間の過剰なアロイングを防止するために、両方の合金タイプ中に与えられる。ケイ素の一部は、四元合金層形成に関与するが、ケイ素の大部分は、固化の間に針状純ケイ素粒子として沈殿する。これらの針状ケイ素粒子は、コーティングの樹枝状晶間領域にも存在する。
【0018】
建築関連製品、特に異形壁およびルーフィングシート用にオーストラリアおよび他所で相当な年数の間広く使用されてきた耐食性金属コーティング組成物の1つは、55%のAlを含むAl−Zn−Si合金組成物である。異形シートは通常、塗装された金属合金被覆ストリップを冷間成形することによって製作される。典型的には、異形シートは、塗装ストリップをロール成形することによって製作される。
【0019】
この公知の組成物である55%Al−Zn−Siコーティング組成物へのMgの添加が、多年にわたり特許文献で提案されており、例えば、Nippon Steel Corporationの名称の米国特許第6,635,359号明細書を参照されたい。しかし、スチールストリップ上のAl−Zn−Si−Mg合金コーティングは、オーストラリア国で市販されていない。
【0020】
上記説明は、オーストリア国または他所での共通の一般的な知識の是認と取られるべきでない。
【0021】
マグネシウムおよびバナジウムが、55%Al−Zn−Si合金金属被覆スチールストリップの腐食性能の特定の側面を向上させることが、本出願人によって見出された。
【0022】
特に、Mgが55%Al−Zn−Siコーティング組成物中に含まれる場合、Mgは海洋環境と酸性雨環境の両方で形成される腐食生成物の性質を変えることによって、カットエッジ保護の改善などの製品性能に対する特定の有益な効果をもたらすことが、本出願人によって見出された。腐食性能におけるこの改善は、本出願人によって行われた総合的な促進腐食試験および屋外曝露試験を含む、本出願人によって行われた研究によって実証された。マグネシウムの添加について、塗料コーティングを有する金属被覆スチールのエッジアンダカッティング(edge undercutting)のレベルの改善は、海洋環境における金属コーティングの素地面腐食の改善よりも顕著である。
【0023】
VがAl−Zn−Si合金コーティング組成物中に含まれる場合、Vは、製品性能に対する特定の有益な効果をもたらすことも、本出願人によって見出された。本出願人は、屋外曝露で試験した素地の(未塗装の)金属被覆スチールストリップ面からの質量損失のレベルが、一連の環境について平均33%減少することを見出した。マグネシウムとは異なるものとして、素地(未塗装)面からのコーティング損失の改善は、塗料コーティングを有する金属被覆スチールストリップのエッジアンダカッティングのレベルの改善よりも非常に大きい。
【0024】
本発明は、コーティングの腐食性能の上記補足的な側面を利用するために、0.3〜10重量%のMgと0.005〜0.2重量%のVとを含有するAl−Zn−Si合金のコーティングを有する金属ストリップ、典型的には、スチールストリップである。
【0025】
より詳細には、MgおよびVの添加は、それぞれ個別の元素単独のより大きい別個の添加によって得ることができるものよりも大きいレベルに、ストリップの素地質量損失と塗装金属被覆ストリップのエッジアンダカッティングの両方を改善する。
【0026】
コーティング合金は、重量%での以下の範囲の元素Alと、Znと、Siと、Mgと:
Al: 40から60%
Zn: 30から60%
Si: 0.3から3%
Mg: 0.3から10%
を含むAl−Zn−Si−Mg合金であり得る。
【0027】
コーティング合金は、重量%での以下の範囲の元素Alと、Znと、Siと、Mgと:
Al: 45から60%
Zn: 35から50%
Si: 1.2から2.5%
Mg: 1.0から3.0%
を含むAl−Zn−Si−Mg合金であり得る。
【0028】
コーティング合金は、0.15重量%未満のVを含有し得る。
【0029】
コーティング合金は、0.1重量%未満のVを含有し得る。
【0030】
コーティング合金は、少なくとも0.01重量%のVを含有し得る。
【0031】
コーティング合金は、少なくとも0.03重量%のVを含有し得る。
【0032】
コーティング合金は、他の元素を含有し得る。
【0033】
他の元素は、不可避不純物としておよび/または意図的な合金添加物として存在し得る。
【0034】
一例として、コーティング合金は、Feと、Crと、Mnと、Srと、Caとの任意の1種または複数を含有し得る。
【0035】
コーティングは、多層とは対照的に単層であり得る。
【0036】
コーティングは、非平衡相を含まないコーティングであり得る。
【0037】
コーティングは、非晶相を含まないコーティングであり得る。
【0038】
被覆金属ストリップは、合金コーティングの外面上に塗料コーティングを有し得る。
【0039】
本発明はまた、上記コーティングアロイで被覆されており、塗料で場合によって被覆されているスチールストリップを含む、冷間成形された(例えば、ロール成形された)最終使用製品(例えば、異形壁およびルーフィングシート)である。
【0040】
本発明は、添付の図面を参照して実施例によってさらに説明される。
【0041】
図1は、本発明の方法によるAl−Zn−Si−Mg合金で被覆されたスチールストリップを製造する連続製造ラインの一実施形態の概略図である。
【0042】
図2は、本発明による合金コーティングの実施形態を含む、コーティング合金の比較を示す陽極ターフェルプロット(Anodic Tafel plot)である。
【0043】
図1を参照すると、使用時に、冷間圧延スチールストリップのコイルは、巻戻しステーション(uncoiling station)1で巻き戻され、ストリップの逐次巻戻し長は、溶接機2で端と端とをくっつけて溶接され、ストリップの連続長を形成する。
【0044】
次いで、ストリップは、アキュームレータ3と、ストリップクリーニングセクション4と、炉アセンブリ5とを逐次的に通過する。炉アセンブリ5は、予熱器と、予熱還元炉と、還元炉とを含む。
【0045】
ストリップは炉アセンブリ5内で、(i)炉内の温度プロファイルと、(ii)炉内の還元ガス濃度と、(iii)炉を通るガス流量と、(iv)炉内のストリップ滞留時間(すなわち、ライン速度)とを含むプロセス変量の注意深い制御によって熱処理される。
【0046】
炉アセンブリ5のプロセス変量は、ストリップの面からの酸化鉄残渣の除去、およびストリップの面からの残存油と鉄微粉との除去がされるように制御される。
【0047】
次いで、熱処理されたストリップは、出口スナウトを経て下方の、コーティングポット6に保持されたAl−Zn−Si−Mg合金が入っている溶融槽中へ入りそれを通過し、Al−Zn−Si−Mg合金で被覆される。Al−Zn−Si−Mg合金は、加熱用誘導子(図示せず)を使用することによって、コーティングポットにおいて溶融状態で維持される。槽内で、ストリップは、シンクロールの周りを通り、槽から上方に取り出される。ストリップの両面は、それが槽を通過するときに、Al−Zn−Si−Mg合金で被覆される。
【0048】
コーティング槽6を出た後、ストリップは、ガスワイピングステーション(図示せず)を垂直に通過し、そこで、その被覆面をワイピングガスの噴流にさらして、コーティングの厚さを制御する。
【0049】
次いで、被覆ストリップは、冷却セクション7を通過し、強制冷却にさらされる。
【0050】
次いで、冷却された被覆ストリップは、被覆ストリップの面を調整するロールセクション8を通過する。
【0051】
その後、被覆ストリップは、巻取りステーション10で巻き取られる。
【0052】
上に示されるように、本発明は、スチールストリップ上の公知の55%Al−Zn−Si合金コーティングにおいて本出願人によって行われた研究であって、マグネシウムおよびバナジウムが、被覆スチールストリップの腐食性能の特定の側面を向上させることが見出された研究に基づく。
【0053】
研究は、促進腐食試験と、長期間の酸性環境および海洋環境における屋外曝露試験とを含んだ。
【0054】
図2における陽極ターフェルプロットは、この研究の一部の結果を例証する。プロットは、3種の合金組成物についての電極電位(ボルト単位)に対する電流密度(「J」−A/cm単位)の対数を示す。プロットは、(a)公知の55%Al−Zn−Si合金(「AZ」)、(b)Caを含有するAl−Zn−Si−Zn合金(「AM(Ca)」)、および(c)本発明の一実施形態による、Vを含有するAl−Zn−Si−Zn合金(「AM(V)」)のコーティングについての研究の結果を示す。
【0055】
図2のプロットは、合金コーティング(a)、(b)、および(c)の腐食性能を比較する。本出願人によって得られたプロットおよびその他の結果は、以下を示す:
(a)本発明のAM(V)合金コーティングは、他の合金コーティングよりも所与の腐食電位で低い腐食電流を有したこと(AM(Ca)に対するAM(V)の1.5〜2倍の改善);
(b)本発明のAM(V)合金コーティングは、AM(Ca)と比較してより貴の腐食電位を有したこと(それぞれ、+0.03Vおよび+0.11V);
(c)本発明のAM(V)合金コーティングは、AM(Ca)と比較してより貴の孔食電位を有した(それぞれ、+0.04Vおよび+0.18V)こと;および
(d)本発明のAM(V)合金コーティングは、陽極分極下でかなり低い酸化電流を有した−AM(Ca)と比較して、−0.25Vで酸化電流は、AM(V)について約20000倍少ないこと。
【0056】
合金層の陽極溶解についての耐性におけるこれらの改善は、本発明の合金コーティングの腐食物質(塩、酸、および溶存酸素)への曝露後に、金属学的相が遅い速度で腐食することになり、腐食の様式が、全般化され、局所的および孔食様式への傾向が少なくなることを意味する。これらの特性により、最終使用製品が赤錆染色、金属コーティング膨れおよび基材穿孔しにくくなりうるので、最終使用製品においてより長い寿命が与えられうる。
【0057】
多くの変更を、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、上記のとおりの本発明に対して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、本発明の方法によるAl−Zn−Si−Mg合金で被覆されたスチールストリップを製造する連続製造ラインの一実施形態の概略図。
【図2】図2は、本発明による合金コーティングの実施形態を含む、コーティング合金の比較を示す陽極ターフェルプロット(Anodic Tafel plot)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.3〜10重量%のMgと0.005〜0.2重量%のVとを含有するAl−Zn−Si合金のコーティングを有する金属ストリップ。
【請求項2】
前記コーティング合金が、重量%での以下の範囲の元素Alと、Znと、Siと、Mgと:
Al: 40から60%
Zn: 30から60%
Si: 0.3から3%
Mg: 0.3から10%
を含むAl−Zn−Si−Mg合金である、請求項1に記載の金属ストリップ。
【請求項3】
前記コーティング合金が、重量%での以下の範囲の元素Alと、Znと、Siと、Mgと:
Al: 45から60%
Zn: 35から50%
Si: 1.2から2.5%
Mg: 1.0から3.0%
を含むAl−Zn−Si−Mg合金である、請求項1または2に記載の金属ストリップ。
【請求項4】
前記合金コーティングが、0.15重量%未満のVを含有する、前記請求項のいずれか一項に記載の金属ストリップ。
【請求項5】
前記合金コーティングが、0.1重量%未満のVを含有する、前記請求項のいずれか一項に記載の金属ストリップ。
【請求項6】
前記合金コーティングが、少なくとも0.01重量%のVを含有する、前記請求項のいずれか一項に記載の金属ストリップ。
【請求項7】
前記合金コーティングが、少なくとも0.03重量%のVを含有する、前記請求項のいずれか一項に記載の金属ストリップ。
【請求項8】
前記合金コーティングが、不可避不純物としておよび/または意図的な合金添加物として存在する他の元素を含有する、前記請求項のいずれか一項に記載の金属ストリップ。
【請求項9】
前記合金コーティングが、単層である、前記請求項のいずれか一項に記載の金属ストリップ。
【請求項10】
前記請求項のいずれか一項に記載の金属ストリップを含む、冷間成形された最終使用製品。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−516549(P2013−516549A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547410(P2012−547410)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際出願番号】PCT/AU2011/000010
【国際公開番号】WO2011/082450
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(505132312)ブルースコープ・スティール・リミテッド (15)
【氏名又は名称原語表記】BLUESCOPE STEEL LIMITED
【住所又は居所原語表記】Level 11, 120 Collins Street, Melbourne, Victoria 3000, Australia
【Fターム(参考)】