説明

金属製の多孔質負極及びそれを用いたリチウム二次電池

【課題】 リチウム二次電池用の負極として有用なリチウムと合金化する金属または合金の多孔質構造を有する負極を提供するとともに、かかる多孔質負極を用いた、充放電サイクル安定性と高出力性に優れたリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】リチウム二次電池用のリチウムと合金化する金属製の多孔質負極であって、気孔率が10〜98%であり、孔径が0.05〜100μmであることを特徴とするリチウム二次電池用のリチウムと合金化する金属製の多孔質負極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池に関し、特にリチウム二次電池の負極として金属製の多孔質体のものを使用した長寿命、高出力のリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やラップトップコンピュータ、あるいはカメラ一体型VTRなどの携帯機器が大きな市場を形成している。
これら携帯機器に用いる電源として、軽量、小型、高エネルギー密度を有する二次電池の要望が強い。特に、リチウムイオン二次電池は、前記した要求特性の点で他の二次電池に比較して優位性があり、活発な研究開発が行われている。
【0003】
従来、金属リチウムを負極に使用した二次電池は、民生用として、一時期、通信機器用に開発されたことがある。しかしながら、前記金属リチウム製の負極は、充電時、負極表面に析出するデンドライト(樹脂状結晶)、あるいは活性な粒状のリチウムの生成などにより、電池の安全性と電池性能が損なわれるという重大な問題があった。
【0004】
このため、負極として黒船、コークス、石炭及び石油ピッチ焼成物等の炭素材料を使うなどの方策が取られてきた。
【0005】
前記した負極材料において、例えば黒鉛を負極に用いる場合、リチウムは黒鉛層間に吸蔵されることにより充放電がなされる。この場合、負極表面でのリチウム金属の析出が起きないため、内部短絡が電池の充電中におきることがなく、充電と放電を繰り返すことができる長寿命の電池を構成することが可能である。
しかしながら、黒鉛はリチウムイオンの黒鉛結晶中へのインターカレーションを充放電の原理としているため、最大リチウム導入化合物であるLiCから計算して、372mAh/g以上の充放電容量が得られないという欠点がある。
【0006】
一方、負極にリチウムと合金化する金属材料を使う研究も鋭意行われている。
このリチウムと合金を形成する金属材料を負極材料とするものにおいては、黒鉛の充放電容量372mAh/gよりも大きな容量が得られることが報告されている。これまで、スズ、シリコン、及びこれらを含む材料がリチウムと合金を形成し、372mAh/gよりも大きな容量が得られたことが報告され、大容量負極材料として注目を集めている。
しかしながら、これらの負極はリチウムと合金を形成する際に、大きな体積膨張を起こすため、充電と放電を繰り返すことにより合金が微粉化し、これにより集電が損なわれるため容量が減少してしまうという欠点がある。さらに、充電にともなう負極の体積膨張は電池の内圧を増加させるため、電池が破裂する危険性などがある。
【0007】
前記リチウムと合金化する金属材料をリチウムイオン二次電池用負極としたものにおいて、実使用に耐える電極およびその作製方法は難しく、未だに完成の域に到達していないのが現状である。
即ち、実用化を阻む最大の問題は、負極材料がリチウムと合金を形成する際の体積変化に起因するということができる。従って、前記問題点を解決したリチウムと合金化する金属材料を用いた負極の完成が熱望されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の第一の目的は、リチウム二次電池用の長寿命、高出力のリチウムと合金化する金属製の多孔質負極を提供することにある。
また、本発明の第二の目的は、かかる金属製の多孔質負極を用いて、充放電サイクルの安定性と高出力性に優れたリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は、リチウム二次電池用のリチウムと合金化する金属製の多孔質負極であって、気孔率が10〜98%であり、孔径が0.05〜100μmであることを特徴とするリチウム二次電池用のリチウムと合金化する金属製の多孔質負極に関する。
また、本発明の第2の発明は、前記リチウムと合金化する金属製の多孔質負極を用いたリチウム二次電池に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムと合金化する金属製の多孔質負極は、リチウム二次電池に使用した場合、従来の黒鉛負極の理論充放電容量372mAh/g以上の充放電容量を有し、電子デバイスに搭載できる小型軽量化が可能な高出力リチウム二次電池を提供することができる。また、本発明のリチウムと合金化する金属製の多孔質負極は、繰り返し充放電を行っても安定に動作するため、それを使用したリチウム二次電池は、長寿命で高出力が実現できるという優れた効果を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の技術的構成及び実施態様について詳しく説明する。
なお、以下、本発明の技術的構成及び実施態様を参照図面及び実施例により説明するが、本発明はこれらのものに限定されるものではない。
【0012】
前記したように、リチウム二次電池の負極は、充放電サイクルにおいて負極を構成する材料とリチウムが合金を形成する際、大きな体積変化を起こし、これが高性能のリチウム二次電池の実現、実用化を阻んでいる。
本発明者らは、リチウム二次電極の負極側に生起する大きな体積変化(体積膨張)は、図1に示す多孔質構造体により図2に示されるように効果的に吸収・緩和されることを初めて見い出した。これが本発明のベースになっている。
【0013】
本発明は、前記知見をベースにしてリチウム二次電池用の負極を構成したものであり、本発明のリチウムと合金化する金属製多孔質負極はリチウム二次電池の負極として新規なものである。
今日、多孔質の負極材料としては、炭素材料系のものが知られているが、これと比較して本発明のものは大きな充放電容量を示すとともに、充放電サイクルの安定性においても、高い性能を示している。
【0014】
本発明の理解に資するため、まず、リチウムと合金化する金属製の多孔質負極の作製方法から説明する。
【0015】
本発明のリチウムと合金化する金属製の多孔質負極(以下、単に金属製の多孔質負極ということがある。)は、鍍金(メッキ)技術などにより作製すればよい。
導電性基板上にポリスチレンやPMMAなどの高分子の粒子を堆積し、これにリチウムと合金化する金属を鍍金により施した後、高分子の粒子を取り除くことにより金属の多孔体(多孔質体)を作製することができる。
前記導電性基板としては、電子導電性を有する材料であれば公知のものをすべて使用することができるが、特にリチウムと合金を形成しない材料が好ましい。このような材料としては銅、ニッケル、ステンレスなどが挙げられるが、銅が好適に使用される。導電性基板の形状は、板状あるいは箔状のものが実用的である。
【0016】
前記高分子の粒子としては、例えば0.05〜100μmのものを用いればよい。使用する高分子粒子の粒径によって、得られる多孔体(多孔質体)の孔径を制御することが可能である。
【0017】
前記高分子の粒子を導電性基板上に堆積する方法としては、電気泳動を用いることができる。また、粒子の懸濁液を導電性基板上で乾燥させることによっても堆積することができる。粒子を堆積する厚みは、例えば300ミクロン以下であり、好ましくは50〜100ミクロン程度に調節すればよい。また、粒子が導電性基板上で最密充填構造をとるようにすることが好ましい。
【0018】
前記のようにして高分子粒子を導電性基板上に堆積した後、80〜120℃程度で熱処理を行うことにより、高分子粒子の粒子間を融着してもよい。この熱処理を行うことにより、鍍金浴に基板を浸漬する際、および鍍金中も粒子が固定された状態になる。粒子が導電性基板上で規則配列構造をしている場合、最終的に得られる多孔構造も規則配列構造を持つことになる。
【0019】
前記のようにして導電性基板上に高分子粒子を堆積した後、リチウムと合金化する金属を鍍金などにより施す。鍍金による場合、鍍金浴には公知の鍍金浴を用いることができる。鍍金する金属としては、リチウムイオンを含む電解液中でリチウムと合金化することができる金属及びその合金が好適に用いられる。本発明において、リチウムと合金化する金属は、前記したように合金も含まれることに留意すべきである。
この種のリチウムと合金化する金属又は合金としては、所望のものを使用すればよく、例えば鍍金による場合、スズまたはスズを含む合金、鉛、銀などがあるが、材料コストを考えるとスズまたはSn−Niなどのスズ合金が実用的である。スズ合金の場合、スズの含有量は例えば5wt%〜99.995wt%の範囲内のものを使用すればよい。
【0020】
前記のようにしてリチウムを合金化する金属を例えば鍍金により施した後、試料片をトルエン、アセトン、テトラヒドロフランなどの有機溶媒中に浸漬することにより、高分子粒子を溶解させて除去する。このようにして、多孔構造を有するSnまたはSn合金などの多孔質金属層を導電性基板上に作製することができる。
本発明において、リチウムと合金化する金属製の多孔質負極として、前記作製方法により、気孔率が10〜98%、孔径が0.05〜100μmのものを作製すればよい。なお、前記気孔率は、金属製多孔質電極の機械的強度などを考慮して所望に設定すればよく、例えば50〜80%に設定すればよい。また、前記孔径はリチウムとの合金化による体積変化の吸収、緩和能を考慮して所望に設定すればよく、例えば0.05〜5μmに設定すればよい。
前記金属製の多孔質負極の多孔構造は、図1に示すような構造のものである。
【0021】
次に、本発明の前記金属製の多孔質負極を用いたリチウム二次電池の作製方法について説明する。
本発明において、前記金属製の多孔質負極、例えばSn合金製の多孔質負極をそのまま利用してリチウム二次電池を構成すればよい。また、負極を電池の大きさに合わせて所望の大きさに切断して利用してもよい。
【0022】
前記したSn合金製多孔質負極板、及び以下に説明する電解液、正極板、その他の電池構成要素であるセパレータ、ガスケット、集電体、封口板、セルケース等を組合わせてリチウム二次電池を構成する。
作製可能な電池の形状は、筒型、角型、コイン型など特に限定されるものではないが、基本的にはセル床板上に負極板を乗せ、その上に電解液とセパレータを、さらに負極と対向するように正極を乗せ、ガスケット、封口板と共にかしめて二次電池とすればよい。
【0023】
電解液に使用できる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、γ−プチロラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、1,3−ジオキソラン等の有機溶媒の単独または二種類以上を混合したものを用いることができる。
【0024】
これらの溶媒に0.5〜2.0 M程度のLiClO,LiPF,LiBF,LiCFSO,LiA等の電解質を溶解して電解液とすればよい。
【0025】
本発明において、電解質としてリチウムイオンなどのアルカリ金属カチオンの導電体である高分子固体電解質を用いることもできる。
【0026】
正極体の材料としては、特に限定されないが、リチウムイオンなどのアルカリ金属カチオンを充放電時に吸蔵、放出できる金属カルコゲン化合物などが好ましい。
前記した金属カルコゲン化合物としては、バナジウムの酸化物、バナジウムの硫化物、モリブデンの酸化物、モリブデンの硫化物、マンガンの酸化物、クロムの酸化物、チタンの酸化物、チタンの硫化物及びこれらの複合酸化物、複合硫化物が挙げられる。好ましくは、Cr,V,V18,VO,Cr,MnO,TiO,MoV,TiSMoS,MoSVS,Cr0.250.75,Cr0.50.5等である。
また、LiMY(Mは、Co,Ni等の遷移金属、YはO,S等のカルコゲン化合物),LiM(MはMn、YはO),WO等の酸化物、CuS,Fe0.250.75,Na0.1CrS等の硫化物、NiPS,FePS等のリン、硫黄化合物、VSe, NbSe等のセレン化合物等を用いることもできる。
前記した正極材料を結着剤と混合して集電体の上に塗布し、正極板とすればよい。
【0027】
電解液を保持するセパレータは、一般的に保液性に優れた材料を使用すればよい。例えば、ポリオレフィン系樹脂の不織布や多孔性フィルムなどを使用すればよい。これらは前記電解液を含浸させることで機能を発現させることができる。
【実施例】
【0028】
次に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、実施例は本発明を詳しく説明するためのものであり、本発明がこれらの実施例によってなんらの制約も受けないことは断るまでもない。なお、以下にいう「部」は全て重量部である。
【0029】
(1).スズ−ニッケル合金系多孔質負極の調製
ポリスチレンの単分散球状粒子(直径1μm)をエタノールに分散させた懸濁液を調製した。これを用いてCu基板上に電気泳動法によってポリスチレン粒子を堆積させた。
電気泳動の条件として、対向電極にNi板を用い、電極間距離を1cm、印加電圧を5V、泳動時間を10分とした。
電気泳動後に、Cu基板上のポリスチレンを乾燥させ、ポリスチレン粒子を堆積させた試料にスズ−ニッケル合金鍍金浴を用いて鍍金した。
鍍金浴の組成はSn2+イオンを含むものを用いた。即ち、塩化ニッケル、塩化スズ、グリシン、ピロリン酸カリウム、アンモニア水溶液それぞれ0.075molL−1、0.175molL−1、0.125molL−1、0.5molL−1,5mlL−1の濃度になるように蒸留水に溶解させたものを用いた。鍍金条件として、陰極電流密度を360μA/cm、鍍金浴の浴温度を50℃に設定した。鍍金を行った後、ポリスチレン粒子をトルエンで溶出した。
【0030】
前記のようにして得られたスズ−ニッケル合金多孔体の組成はNi73Sn27であり、面積1cm、厚さは3μm、重量は650μgであった。
また、前記のようにして得られた多孔体の電子顕微鏡写真を図3に示す。図3に示されるように、1μmの均一な孔が多数形成されており、かつ連通孔が形成されていることも分る。
【0031】
(2).スズ−ニッケル合金系多孔質負極の性能評価
前記のように得られた電極(負極)を2電極式電気化学測定に基づき、リチウムイオンの充放電性能を評価した。
なお、リチウムイオンを含む電解質として、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートを体積比1:1の比率で混合した溶媒に、LiCiOを1mol/Lの割合で溶解させたものを使用した。
測定は、ガラスセルを用いて、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、1気圧下で行った。
【0032】
電流密度を0.05mA/cmとして充放電試験を行った結果を、図4に示す。1V以下の電圧で電圧平坦部が観察される。図4の充放電曲線から450mAh/g程度の充放電容量を示すことがわかる。この充放電容量は、黒鉛の理論充放電容量372mAh/gよりも大きく本発明の負極が優れていることを示している。また、本発明の負極は、充電と放電を繰り返しても容量の顕著な減少は観察されず、かつ安定性と耐久性に優れている。
【0033】
充放電後の負極の電子顕微鏡写真を図5に示す。充放電後においても多孔構造が観察された。このことは、充放電にともなう負極の体積の膨張を多孔構造が効果的に吸収、緩和していることを意味するものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】金属製の多孔質負極の多孔構造を説明する図である。
【図2】金属製の多孔質負極がリチウムと合金化するときの体積膨張を多孔構造が吸収緩和できることを説明する図である。
【図3】本発明のスズ−ニッケル合金系多孔質負極の電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明のスズ−ニッケル合金系多孔質負極の充放電測定結果を示す図である。
【図5】本発明のスズ−ニッケル合金系多孔質負極の充放電測定後の電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池用のリチウムと合金化する金属製の多孔質負極であって、気孔率が10〜98%であり、孔径が0.05〜100μmであることを特徴とするリチウム二次電池用のリチウムと合金化する金属製の多孔質負極。
【請求項2】
リチウムと合金化する金属が、スズまたはスズ合金である請求項1に記載のリチウムと合金化する金属製の多孔質負極。
【請求項3】
リチウムと合金化する金属製の多孔質負極が、導電性基板上に鍍金により作製されたものである請求項1〜2のいずれか1項に記載のリチウムと合金化する金属製の多孔質負極。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムと合金化する金属製の多孔質負極を用いて成るリチウム二次電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−260886(P2006−260886A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74936(P2005−74936)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年11月27日 社団法人電気化学会電池技術委員会発行の「第45回 電池討論会 講演要旨集」に発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】