説明

金属製ガスケット

【課題】二つの部材の間に挟持してシールを行う金属製ガスケットにおいて、金属構成板の誤組み立てを容易に発見できて、誤組み立てを防止すると共にシール性能の確実な確保を図ることができる金属製ガスケットを提供する。
【解決手段】2枚以上の金属構成板10,20,30を積層する金属製ガスケット1において、金属構成板10,20,30の周辺部の一部12,32,32に、シール対象穴2の周縁部に施したシール手段11,21,31と同じ形状、又は、このシール手段11,21,31を模した形状のシール手段表示部13,23,33を設けて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの部材の間に挟持してシールを行う金属製ガスケットに関し、より詳細には、金属構成板の誤組み立てを容易に発見できて、誤組み立てを防止できる金属製ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのシリンダヘッドガスケットやマニホールドガスケット等の金属製ガスケットは、自動車のエンジンのシリンダヘッド、シリンダブロック(シリンダボディ)、排気管、吸気管等の2つの部材の間に挟まれた状態で、ボルトにより締結され、燃焼ガス、オイル、冷却水等の流体をシールする役割を持っている。
【0003】
この金属製ガスケットは、略同じ形状の金属構成板を積層しているため、これらの金属構成板が、表裏、平面内における方向、積層順序等が、正しく組み立てられているかを判別して、不良品は除去している。つまり、これらの一部分が誤って組み立てられていると、シール手段の組み合わせが設計どおりにならず、目標としたシール性能を得ることができない。そのため、誤組み立ての発見を容易に行える金属製ガスケットは、不良品の減少のみならず、シール性能の確実な確保のためにも重要となっている。
【0004】
このような金属製ガスケットの一つとして、複数個の構成板を互いに重ね合わせてなる積層型ガスケットにおいて、少なくとも構成板の枚数に等しい数の検出部から成り、各検出部において各検出部それぞれに異なる検出対象板以外の各構成板に光を通過させる透孔を設けた誤組み立て検出部を備えた積層型ガスケットが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
この積層型金属ガスケットでは、透孔の組み合わせで、誤組み立てがあることは分かるものの、どの構成板がどのように誤組み立てされているかを、透孔の重なり具合とその一覧表との照合によらずに、直感的、言い換えれば、一見しただけで、発見するのは難しいと思われる。
【特許文献1】実開平03−255275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、二つの部材の間に挟持してシールを行う金属製ガスケットにおいて、金属構成板の誤組み立てを容易に発見できて、誤組み立てを防止すると共にシール性能の確実な確保を図ることができる金属製ガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明に係る金属製ガスケットは、2枚以上の金属構成板を積層する金属製ガスケットにおいて、金属構成板の周辺部の一部に、シール対象穴の周縁部に施したシール手段と同じ形状、又は、このシール手段を模した形状のシール手段表示部を設けて構成する。
【0008】
この構成によれば、この周辺部の一部に設けたシール手段表示部を横方向から見ることにより、シール手段の積層状態が一目瞭然に分かるので、一見しただけで、容易に組み立て状態を把握できる。そのため、誤組み立ての発見とその防止を容易に行うことができる。特に、識別記号ではなく、シール手段そのものの形状又はシール手段を模した形状であるので、一々、識別記号とシール手段の対応表を参照する必要がなく、一見して組み立てたガスケットの状態を把握することができる。
【0009】
このシール手段としては、フルビード、ハーフビード、折り返し部、シム等があり、その形状はこれらと同じ又はこれらを模した形状とし、一見して元のシール手段を想起できる形状とする。例えば、フルビード、ハーフビード等ではそのビード形状に対応した凹凸が形成され、シムなどでは、同じようなシム片が接合される。また、その大きさは、一見して分かる大きさとすることが好ましく、大きくする場合は相似形状で大きくすると理解し易くなる。なお、いくつかのシール手段が組み合わさっている場合には、そのうちの代表的なシール手段を選択して、このシール手段に対するシール手段表示のみを行ってもよい。また、このシール手段表示部はシール手段の形成工程と同じ工程で形成するのが、工程数の増加を招かず、また、誤工作を防ぐ面からも好ましい。
【0010】
上記の金属製ガスケットにおいて、前記金属構成板に形成する前記シール手段表示部の形状の向きを、このシール手段表示部が模したシール手段の形状の向きと同じ向きに設けて構成される。この構成によれば、シール手段表示部の凹凸がシール手段の凹凸と同じ向きに設けられているので、容易にガスケットの金属構成板のシール手段の積層状態を確認でき、誤組み立てを発見できる。なお、シール手段表示部の位置や、ガスケットの形状などから、金属構成板の表裏の間違いが一目で分かるような場合には、必ずしもシール手段の形状と同じ向きにシール手段表示部を形成する必要はなく、シール手段の種別(フルビード、ハーフビード等)が識別し易い向きに設けてもよい。
【0011】
上記の金属製ガスケットにおいて、前記各金属構成板間で、前記シール手段と前記各シール手段表示部の相対位置が同じになるように設けて構成される。この構成によれば、金属構成板同士のシール手段表示部の重なり具合を見ることにより、シール対象穴の周縁部におけるシール手段の平面内での相対的なずれや、組み立て方向の間違いを容易に発見できるようになる。
【0012】
上記の金属製ガスケットにおいて、前前記シール手段表示部の少なくとも一部をスポットクリンチで形成して構成される。この構成によれば、ガスケットの穴あけやビード形成の工程中に、スポットクリンチにより、凹凸のあるシール手段と同じ形状又はシール手段を模した凹凸部を簡単に形成できる。なお、このスポットクリンチでは、金属構成板の一部分をプレス加工等により押し込んで塑性変形させて、独立した切断線(切れ目)と折曲部分とで囲まれた部分を金属構成板の表裏方向に膨出させて凹凸部を形成する。この凹部深さは0.5mm以上0.8mm以下とするのが好ましい。0.5mmより小さいと見分けにくく、0.8mmより大きいとこの部位の厚みが他の部位よりも厚くなり、金属構成板の積層状態に影響を与えるようになるからである。
【0013】
上記の金属製ガスケットにおいて、前記シール手段表示部を設ける部位を、このガスケットを挟む部材のフランジ面よりも、平面視で突出させて設けて構成する。言い換えれば、この凹凸部を設ける部位として、フランジ面外の面圧が作用しない部位を設けて構成する。この構成によれば、シール面圧に影響しない部位にシール手段表示部を設けることになるので、シール性能への影響が殆どなくなる。また、シール手段表示部のある所が一目で分かり、この突出部の状態を見るだけで、金属構成板の組み立ての誤りを一見して発見できる。特に、この突出させた部位を、金属構成板の表裏に関して、対称位置にならないように配置すると、誤組み立てした時には重ならなくなるので、金属構成板の表裏に関しても誤組み立てを一見して発見できるようになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の金属製ガスケットによれば、二つの部材の間に挟持してシールを行う金属製ガスケットにおいて、シール手段表示部の形状をシール手段を模した形状にすることにより、製品時のシール手段の状況をガスケットの周辺部位に設けたシール手段表示部で一見して確認できるので、金属構成板の誤組み立てを容易に発見できて、誤組み立てを防止すると共にシール性能の確実な確保を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、図面を参照して本発明に係る金属製ガスケットの実施の形態について、マニホールドガスケットを例にして説明する。しかしながら、本発明はこのマニホールドガスケットに限定されるものでなく、これ以外にも、例えば、シリンダヘッドガスケット等の金属製ガスケットにも適用できる。なお、図1〜図8は、模式的な説明図であり、構成をより理解し易いように、シール手段表示部の凹凸部の板厚、凹凸の大きさ、形状等の寸法を実際のものとは異ならせて、誇張して示している。
【0016】
本発明に係る実施の形態の金属製ガスケット1,1Aは、エンジンのシリンダブロック(シリンダボディ)と排気管や吸気管の間に挟持されるマニホールドガスケットであって、排気ガスや吸気等の流体をシールする。
【0017】
このマニホールドガスケット1,1Aは、軟鋼板、ステンレス焼鈍材(アニール材)、ステンレス調質材(バネ鋼板)等で形成される金属構成板(金属基板)10,20,30を2枚以上有して構成される。また、その平面視形状は、エンジンのマニホールドの形状に略合わせて製造され、燃焼ガス又は吸気が通過するシール対象穴2と締結ボルト用のボルト穴3が形成される。
【0018】
図1〜図8に示すように、本発明の実施の形態のマニホールドガスケット1は、2枚以上(図1〜図3では3枚、図5〜図8では2枚)の金属構成板10,20,30からなり、この金属構成板10,20,30は、例えば、ステンレス焼鈍材で形成される。このシール対象用穴2の周縁部において、金属構成板10,20,30にシール手段であるフルビード11,21,31を設ける。
【0019】
そして、平面視で、それぞれの金属構成板10,20,30において、周辺部の一部、即ち、周囲の端部の一部分に、このマニホールドガスケット1を挟む部材のフランジ面よりも、平面視で突出させて、突出部12,22,32を設ける。この突出部12,22,32に、シール対象穴2の周縁部に施したフルビード11,21,31と同じ形状、又は、このシール手段を模した形状のシール手段表示部13,23,33を設ける。この突出部12,22,32はシール面からはみ出るので、シール性能への影響が少ない。その上に、ボルト締結時にも面圧が直接加わらず、面圧が弱いので、シール手段表示部13,23,33の変形が少なく、見易いままとなる。
【0020】
このシール手段表示部13,23,33としては、フルビード11,21,31の形状と同じ又はこれらを模した形状とし、一見して元のフルビード11,21,31を想起できる形状とする。図2では、台形形状の段差で、フルビード11,21,31を模し、図3では楕円形状の凹凸でフルビード11,21,31を模している。また、その大きさは、一見して分かる大きさとすることが好ましく、大きくする場合は相似形状で大きくすると理解し易くなる。
【0021】
この図2の形状は、スポットクリンチで形成する。この構成によれば、ガスケット1の穴あけやビード形成の工程中に、スポットクリンチにより、フルビード11,21,31と同じ形状又はこれらを模した凹凸部13,23,33を簡単に形成できる。なお、このスポットクリンチでは、金属構成板10,20,30の一部分をプレス加工等により押し込んで塑性変形させて、独立した切断線(切れ目)と折曲部分とで囲まれた部分を金属構成板10,20,30の表裏方向に膨出させてシール手段表示部となる凹凸部13,23,33を形成する。
【0022】
また、この時に、それぞれの金属構成板10,20,30に形成するシール手段表示部13,23,33の形状の向きを、このシール手段表示部13,23,33が模した元のフルビード11,21,31の形状の向きと同じ向きに設ける。更に、各金属構成板間で、シール手段表示部13,23,33のフルビード11,21,31に対する相対位置が同じになるように設ける。つまり、どの金属構成板においても、フルビード11,21,31とシール手段表示部13,23,33との相対的な位置関係が同じになるように構成する。これにより、フルビード11,21,31の重なり具合と、シール手段表示部13,23,33とが同じとなる。なお、シール対象穴2が複数個あり、シール手段が異なる場合には、必要に応じて、それぞれのシール手段を模したシール表示部を設けてもよく、代表的なシール手段を模したシール手段表示部のみを設けてもよい。
【0023】
図4〜図8に示す本発明の第2の実施の形態のマニホールドガスケット1Aは、第1第1の実施の形態において3枚の金属構成板10,20,30の代わりに、2枚の金属構成板10,20を積層して構成される。更に、ここでは、シール手段11,21,11A,21Aの断面と略同じ形状で、シール手段表示部13,23,13A,23Aが形成される。つまり、図5と図6ではシール手段はフルビード11,21で形成され、シール手段表示部13,23も端部で見た時にその形状が分かり易い向きで同様な形状に形成される。つまり、シール手段表示部13,23,13A,23Aを設けた突出部12,22の端面が、シール手段11,21,11A,21Aの断面部を模しているように形成する。なお、図7と図8ではシール手段はフルビード11A,21Aで形成される。
【0024】
上記の構成の金属製ガスケット(マニホールドガスケット)1,1Aによれば、このガスケット1,1Aの周辺部の一部12,22,32に設けたシール手段表示部13,23,33,13A,23Aを見ることにより、シール手段11,21,31,11A,21Aの積層状態が一目瞭然に分かるので、組み立て状態を容易に把握できる。そのため、誤組み立ての発見とその防止を容易に行うことができる。特に、識別記号ではなく、シール手段11,21,31,11A,21Aそのものの形状又はシール手段11,21,31,11A,21Aを模した形状であるので、識別記号に比較して、一々、記号とシール手段との対応表を参照する必要がなく、一見して組み立てたガスケット1,1Aの積層状態を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施の形態のマニホールドガスケットを示す平面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態のマニホールドガスケットのシール手段表示部を示す部分斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態のマニホールドガスケットの他のシール手段表示部を示す部分斜視図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態のマニホールドガスケットを示す平面図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態のマニホールドガスケットのシール手段を示す図4のA−A断面を含む部分斜視図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態のマニホールドガスケットのシール手段表示部を示す図4のB−B断面を含む部分斜視図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態のマニホールドガスケットの他のシール手段を示す図4のA−A断面を含む部分斜視図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態のマニホールドガスケットの他のシール手段表示部を示す図4のB−B断面を含む部分斜視図である。
【符号の説明】
【0026】
1,1A マニホールドガスケット(金属製ガスケット)
2 シール対象穴
3 ボルト穴
10,20,30 金属構成板
11,21,31 フルビード(シール手段)
11A,21A ハーフビード(シール手段)
12,22,32 突出部
13,23,33,13A,23A シール手段表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚以上の金属構成板を積層する金属製ガスケットにおいて、金属構成板の周辺部の一部に、シール対象穴の周縁部に施したシール手段と同じ形状、又は、このシール手段を模した形状のシール手段表示部を設けたことを特徴とする金属製ガスケット。
【請求項2】
前記金属構成板に形成する前記シール手段表示部の形状の向きを、このシール手段表示部が模したシール手段の形状の向きと同じ向きに設けたことを特徴とする請求項1記載の金属製ガスケット。
【請求項3】
前記各金属構成板間で、前記シール手段と前記各シール手段表示部の相対位置が同じになるように設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の金属製ガスケット。
【請求項4】
前記シール手段表示部の少なくとも一部をスポットクリンチで形成することを特徴とする請求項1、2又は3記載の金属製ガスケット。
【請求項5】
前記シール手段表示部を設ける部位を、このガスケットを挟む部材のフランジ面よりも、平面視で突出させて設けたことを特徴とする請求項1、2,3又は4記載の金属製ガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−156400(P2009−156400A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337202(P2007−337202)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000198237)石川ガスケット株式会社 (57)
【Fターム(参考)】