説明

金属製防水ワッシャ

【課題】 所定以上の水圧に耐え得る金属製防水ワッシャの提供。
【解決手段】 軟質な金属材からなり、中心に挿通孔を有すると共に、少なくとも一方の平面は中心から周縁に断面厚さが漸次小となるテーパ面4に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトとナットとの締結部品やリベット、ブラインドファスナーにおいて、その締結部の防水構造を提供する金属製防水ワッシャに関する。
【背景技術】
【0002】
防水性の金属製ワッシャとして、下記特許文献1に記載のものが存在する。これはアルミニウム等の柔らかい金属からなるワッシャをフランジ付きプラグのワッシャとして用いるものであり、そのワッシャの着座する座面の半径方向外周にテーパ状に傾斜する傾斜面を予め形成しておき、プラグの締結によりワッシャの外周をテーパ状に変形させたものである。
下記特許文献2に記載のシールワッシャは、金属材とゴム材とを接合したものである。このシールワッシャは、ゴムの弾性により防水性を確保するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭64−29210号公報
【特許文献2】実開昭58−50220号公報
【特許文献3】実開昭63−77114号公報
【特許文献4】特開2005−264998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の金属製防水ワッシャは、その平面が平坦な平板状であり、本発明者の実験によれば水圧状態においてそのシール性が極めて弱いことが明らかとなった。
これは、次の理由によると推測される。
通常のボルトやブランイドリベットは、その頭部が圧造成形により製造され、ネジ部は転造により成形される。その際に各部に変形が生じ、それが原因でシール性が悪くなる。 即ち、図11で説明すると、圧造の際に、同図(A)に示すごとく、軸部に対して頭部下面が直交せず、僅かに傾く。(B)に示す如く、頭部下面や軸部と頭部の付根に圧痕や傷が生じる。(C)に示す如く、頭部と軸部との付根に湾曲部が存在する。(D)(E)に示す如く、頭部の中心軸と軸部の中心軸が一致せず、偏芯する。
【0005】
精度が並の呼び径6mmの六角ボルトのJIS規格では、B1180にその許容範囲が次のように定められている。頭部の傾き角は2度以下、軸部と頭部との偏芯は0.5mm以下、頭部と軸部との付根の曲率半径は0.25以上である。
上記(A)〜(E)の変形のうち、特に頭部の傾きが最もシール性に影響を与えると共に、その他の変形との複合でさらにシール性、水密性が損なわれる。さらには、ボルトやナットで締結される母材自体にも部分的に変形部が存在する。例えば、(F)に示す如く、母材の孔をプレス加工で打ち抜くとき、のバリやダレ、(G)に示す如く、ドリル穿孔で生じるバリを形成した後の面取りが生じる。
次に、従来の比較的シール性の高いゴムパッキンと金属ワッシャとの組み合わせる提案は、永年使用によりゴムの劣化が生じるおそれがあった。
そこで本発明は、劣化に強くシール性の高い金属製防水ワッシャを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の本発明は、中心に挿通孔(1)が設けられ、締結される母材(2)および締結部品(3)の材料より軟質な金属材からなり、少なくとも一方の平面は、中心から周縁に断面厚さが漸次小となるテーパ面(4)に形成された偏平なワッシャ本体(5a)を有し、
締結部品(3)の軸部(3a)が前記挿通孔(1)に挿通されて、その頭部(3b)の平坦な押圧面(3c)により、前記ワッシャ本体(5a)が締結されるとき、中心部から周縁に向かって漸次塑性変形されて、前記テーパ面(4)が平坦な平面に変形し、それが前記押圧面(3c)に密着するように構成される金属製防水ワッシャである。
【0007】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の金属製防水ワッシャにおいて、
ワッシャ本体(5a)の中心部に筒部(5b)を有する金属製防水ワッシャである。
【0008】
請求項3に記載の本発明は、請求項1または請求項2に記載の金属製防水ワッシャにおいて、
それが、軟鋼、アルミニウム材、アルミニウム合金材、銅材、銅合金材のいずれかである金属製防水ワッシャである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の金属製防水ワッシャは、その少なくとも一方の平面に中心から周縁に断面厚さが漸次小となるテーパ面4が形成された軟質な金属材からなるので、締結の際中心から周縁に向って漸次塑性変形して、ワッシャの中心部の材料が周縁部に移動し締結面にそれらが、円滑に密着して防水効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の金属製防水ワッシャの断面図及び正面図。
【図2】同ワッシャの締結の前後における状態を示す説明図。
【図3】同ワッシャの変形の過渡的説明図。
【図4】本発明の金属製防水ワッシャの第2実施例の断面図及び正面図。
【図5】同ワッシャの第3実施例の断面図及び正面図。
【図6】同第1実施例の金属製防水ワッシャ5の他の使用状態を示す縦断面図。
【図7】同第2実施例の金属製防水ワッシャ5の締結の前後における状態を示す縦断面図。
【図8】同第2実施例の金属製防水ワッシャ5の他の使用状態を示す縦断面図。
【図9】図8の取付け前の説明図。
【図10】本発明の金属製防水ワッシャをブラインドワッシャに摘要した場合の防水試験の縦断面図(A)及びその底面図(B)、その締結部品3の要部断面図(C)、それに用いる金属製防水ワッシャ5の正面図(D)および平面図(E)、従来型金属製防水ワッシャの正面図(F)および平面図(G)を示す。
【図11】並のボルトの制作上の異常変形の説明図および母材の孔縁の変形状態の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図面に基づいて本発明の実施の形態につき説明する。
図1は、本発明の金属製防水ワッシャの正面図及びその断面図である。
この金属製防水ワッシャ5は、締結される母材2及び締結部品3の材質より軟質な金属材からなる。例えば、母材2及び締結部品3が通常鋼材である場合には、アルミニウム材,銅材,真鍮材あるいは焼きなましした軟鋼材が用いられる。この金属製防水ワッシャ5の中心には挿通孔1が設けられ、一方の平面は中心から周縁に向かって断面厚さが漸次小となるテーパ面4に形成されている。
なお、この例では上面側にテーパ面4を形成したが、下面側にそれを設けても、或は両面にテーパ面4を設けて良い。
この金属製防水ワッシャ5は、一例として図2に示す如く、締結部品3であるボルトの頭部3bと母材2との間に介装される。この例では、一対の母材2にボルト孔が穿設され、そこに締結部品3の軸部3aが挿通されナット6によって締結される。
【0012】
図2(A)はその挿通状態を示し、(B)はナット6を締結した状態を示す。
ナット6の締結に従って、図3(A)の如く、金属製防水ワッシャ5のテーパ面4は、その厚みの厚い軸近傍から塑性変形が始まり、その変形材料が先ず初めにボルトの軸側に移動し、軸部と接触しながら、それが軸部の先端側へ押し下げられる。ある程度、ワッシャ5とボルトの軸部との隙間が埋められると、ついで変形材料はワッシャ5の周縁側へと移動する。その移動により、頭部3bの押圧面3cと金属製防水ワッシャ5の平面とが密着する。それによって、隙間が完全に閉塞され防水性を得る。
なお、金属製防水ワッシャ5の下面側においても、テーパ部の材料が移動し、僅かの変形が生じ、塑性変形部材がそこに移動して母材2と金属製防水ワッシャ5との間も密着状態となる。
【0013】
テーパ面のテーパ角は、市販のボルトの頭部と軸部との許容最大傾き以上のテーパ角とする。そうすることで、ボルトの頭部の外周縁部がワッシャ5の面と最初に接触することなく、ボルトの頭部の軸部近傍より接触し、塑性変形して、その変形部材がワッシャ5と押圧面3cの隙間を埋めていく。例えば六角ボルトの並のものでは、JIS1180に記載のように、最大傾き角(座面の傾き)が2度としているから、テーパ部の傾斜は2度以上でなければならない。
上述したように、ボルトの軸部周縁の押圧面3cにより塑性変形した材料が、ボルトの軸部側に移動することは、締結部品3の軸部周縁に圧痕や傷がある場合、その部分を変形材料で埋めることが同時に行われる。また、ボルトの頭部から軸部に移行する付根に存在する湾曲部によって、押圧面3cとワッシャ5との間に隙間が生じても、その部分へ変形材料か移動して、隙間を埋め、水密性を確保することができる。
【0014】
次に、図4は本発明の金属製防水ワッシャ5の第2の実施の形態を示し、この例はフランジ状のワッシャ本体5aの中心部に筒部5bが突設されたものである。ワッシャ本体5aの上面にはテーパ面4が形成され、ワッシャ本体5aの厚みが中心から周縁に次第に薄くなっている。このような金属製防水ワッシャ5は、図7,図8に示す如く、その筒部5bが母材2の穿設孔に挿入される。この筒部5bを設けることにより、以下の点で有利になる。
例えば、母材2の孔はドリルまたはプレスの打ち抜きで穿たれる。このときドリル孔では孔縁周囲にはバリが発生し、通常は面取りが行われる(図11(G)参照)。また、プレス孔では孔縁周囲にはパンチ側にダレが、ダイ側にバリが生じる(図11(F)参照)。なお、このプレス加工により生じたダレやバリの面は、その後、締結具であるボルトやリベットの締結工程では任意の面が表面となり得る。
筒部5bは孔縁周囲にバリ、ダレまたは面取りがある場合にも本願は有効な解決手段をもたらす。
【0015】
次に、筒部5bの作用につき説明する。なお、下記以外の密着状態の作用は第一実施例と同様の効果を呈する。
図7(A)はその挿通状態を示し、(B)はナット6を締結した状態を示す。
ナット6の締結にしたがって、図7(A)の如く金属防水ワッシャ5のテーパ面4は、その厚みも厚い中心側から塑性変形が始まり、先ず初めに変形材料が締結部品3の軸部側に、続いて周縁側に移動する。締結部品3の押圧面3cにより塑性変形した材料は締結装置3の軸部に移動し、軸部と接触しながら軸部先端側へと押し下げられる。このときワッシャ5の筒部5b全体も下方へ材料の移動及び全体の変形を始める。ある程度ワッシャ5と締結部品3の軸部との隙間が埋められると、続いて変形材料はワッシャ5の周縁側へと移動する。するとワッシャ5の筒部5bの全体はさらに下方へ移動する。
【0016】
この移動はワッシャ本体5aと筒部5bで構成され、肩部付近筒部5b先端方向への力を作用させ、合わせて母材2の孔縁部付近にも力を伝達させることになる。この力は第1に、母材2の孔縁周囲にバリがあるときは、(図11(F)および(G)参照)バリを変形しワッシャ本体5aの前記肩部となじませたり、ワッシャ本体5aにバリを食い込ませることが可能となる。また第2に、母材2の孔縁周囲にダレや面取りがあるときは(図11(F)および(G)参照)、これらに沿ってワッシャ本体5a部分の肩部がたわみ、母材2の孔縁との密着性を良好にする。
【0017】
次に、図5は本発明の金属製防水ワッシャ5の第3実施の形態を示し、この例が図4のそれと異なる点は、筒部5bがより長くなっていることであり、その他は図4の実施例と同一である。
この筒部5bの長さは、ワッシャ5側の母材2の厚さとほぼ同じくらいまでとすることができる。このような形状とすることで、ワッシャ5を母材2の孔内に安定よく載置することができる。
【0018】
次に、図6及び図8の例は、本発明の金属製防水ワッシャ5をブラインドリベットに摘要したものである。
このブラインドリベット自体は公知のものであり、その取付けの準備段階は図9に示されている。これは締結部品3である筒状のリベット本体に、マンドレル7が挿通されるものである。マンドレル7はその下端部にスカート部8が設けられ、その下端からリベット本体の長さと略同一の長さの位置に、分離用のくびれ部9が形成されたものである。
【0019】
図9のように一対の母材2の挿通孔に金属製防水ワッシャ5を介して締結部品3であるブラインドリベット本体及びマンドレル7が挿通され、図示しないリベッティング機械により、図においてその頭部3bの上面を下方に圧着すると共に、マンドレル7の上端を上方に引っ張り上げる。それにより、図8の如くスカート部8が本体の軸部3aの中空部に入り込み、そこを拡開変形して一対の母材2間を締結する。それと共に、金属製防水ワッシャ5のテーパ面を平坦に塑性変形し、防水性を確保するものである。そしてその塑性変形後に、マンドレル7はくびれ部9の位置で分離される。
なお、図6は金属製防水ワッシャ5として第1実施例のものを採用したものである。
【0020】
〔防水実験〕
本発明者は図8のブラインドリベットにつき、その防水試験を行った。
アルミニウム材(A1050−O材)の金属製防水ワッシャ5として、図10(E)(D)の如く、そのワッシャ本体5aの直径が13.4mm、中心孔が6.8mm、筒部5bの外直径が8.4mm、ワッシャ本体5aの厚みが1mm、テーパ面4のテーパ角が5°(テーパ部高さ0.28mm)のものを用意する。
ブラインドリベットは、アブデル社製の商品名:モノボルト、品番:2771−0817で、頭部径13.4mm、頭部厚さ2.7mm、軸部径6.4mm、軸部首下長さ14.2mm、接合板厚可能範囲2.1〜9.5mmを用いる。
接合板は、鋼板のSPCC材で、板2.3mmを2枚重ね(計4.6mm)、リベット頭部側の孔径8.5mm、リベット軸端部側孔6.8mmを用いた。
ワッシャ5を介して、鋼材を締結部品3としてブラインドリベットで図10(C)の如く締結した。締結後それを図10(A)(B)の如く、Oリング12を介し、下端開放の試験治具10に複数のボルト11により液密に固定し、試験治具10の内部に予め着色水を封入する。そして試験治具10の内部にバルブ13を介して高圧気体を供給した。
【0021】
また、比較例として図10(F)(G)の如く、そのアルミニウム材(A1050−O材)からなり、ワッシャ本体5a,筒部5bが図10(E)(D)のものと同一で、その上面にはテーパがなく平坦なものを用いた。そして、共にエアーの圧力を0Mpa〜0.9Mpaまで、0.1Mpaづつ順次上昇させてみた。
結果は表1に示す如く、本発明のテーパ面4を有する金属製防水ワッシャ5は、何れの圧力においても水漏れが無かった。これに対し、比較例のものは圧力が0のときのみ水漏れがなく、0.1Mpa以上の全ての圧力で水漏れがあった。
なお、表1において○印は水漏れのないもの、×印は水漏れがあったものを示す。
試験後にブランドリベットの中心より切断し、その断面を観察した。金属製防水ワッシャ5の筒部5aの内外周軸方向領域においては一部僅かな隙間が見られたが、リベット頭部下面とワッシャ本体5aの上面およびワッシャ本体5aの下面と鋼板(母材)との接触領域においては密着した状態が得られていた。これにより金属製防水ワッシャ5の本体部5aの上下平面部において水密性が確保されていることが確認できた。
【0022】
【表1】

【0023】
また、本発明者はテーパ面4のテーパ角を3°〜7°において同様の実験を行ったが、結果は表1と同じであった。従って、テーパ面4のテーパ角度は2°〜10°程度において防水効果があると予測され、より好ましくは3°〜7°である。
なお、両面にテーパ面4を形成する場合には、その両テーパの合計が2°〜10°であり、より好ましくはその合計が3°〜7°である。
【符号の説明】
【0024】
1 挿通孔
2 母材
3 締結部品
3a 軸部
3b 頭部
3c 押圧面
【0025】
4 テーパ面
5 金属製防水ワッシャ
5a ワッシャ本体
5b 筒部
6 ナット
7 マンドレル
8 スカート部
【0026】
9 くびれ部
10 試験治具
11 ボルト
12 Oリング
13 バルブ
14 比較ワッシャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心に挿通孔(1)が設けられ、締結される母材(2)および締結部品(3)の材料より軟質な金属材からなり、少なくとも一方の平面は、中心から周縁に断面厚さが漸次小となるテーパ面(4)に形成された偏平なワッシャ本体(5a)を有し、
締結部品(3)の軸部(3a)が前記挿通孔(1)に挿通されて、その頭部(3b)の平坦な押圧面(3c)により、前記ワッシャ本体(5a)が締結されるとき、中心部から周縁に向かって漸次塑性変形されて、前記テーパ面(4)が平坦な平面に変形し、それが前記押圧面(3c)に密着するように構成される金属製防水ワッシャ。
【請求項2】
請求項1に記載の金属製防水ワッシャにおいて、
ワッシャ本体(5a)の中心部に筒部(5b)を有する金属製防水ワッシャ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の金属製防水ワッシャにおいて、
それが、軟鋼、アルミニウム材、アルミニウム合金材、銅材、銅合金材、のいずれかである金属製防水ワッシャ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−82897(P2012−82897A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229447(P2010−229447)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(391002052)日本ドライブイット株式会社 (15)
【Fターム(参考)】