説明

金属調装飾部品の製造方法、樹脂成形品の製造方法、及び、金属調装飾部品成形金型

【課題】 金属調成形シートを金属調装飾部品に成形しても、金属調の光沢を良好に保持することが可能な金属調装飾部品の製造方法、樹脂成形品の製造方法、及び、金属調装飾部品成形金型を提供する。
【解決手段】 本発明によれば、シート密着工程前に成形補助型71により金属調成形シート10の一部がシート成形型72に向けて押圧されることで、金属調成形シート10全体或いは金属調成形シート10の弛んだ部分が引っ張られて、金属調成形シート10がシート成形型72の凹凸形状に概ね倣って変形した状態になる。この状態で、シート密着工程を行うので、シート成形型72のうち凹凸の高低差が急激に変化する部分において、金属調成形シート10の肉厚が従来のように局所的に薄くなることが防がれる。これにより、金属調成形シート10を金属調装飾部品29に成形しても、金属調の光沢を良好に保持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の熱可塑性樹脂層と金属層とを積層して備えた金属調成形シートを、加熱したシート成形型に密着させて3次元構造の金属調装飾部品に成形する金属調装飾部品の製造方法、及び、その金属調装飾部品を用いた樹脂成形品の製造方法、及び、それら製造方法に用いられる金属調装飾部品成形金型に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂成形品を金属調に装飾する場合には、メッキを施す代わりに金属調成形シートが用いられるようになってきている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、図18に示した樹脂成形品1の上面を金属調に装飾するためには、図19に示すように、その樹脂成形品1の上面に対応した凹凸形状を有するシート成形型2を加熱し、その上に金属調成形シート3を敷設してから、図20に示すように、シート成形型2の上面を密閉型5で覆う。そして、シート成形型2に形成されたガス排出孔2Aを通して、金属調成形シート3とシート成形型2との間のガスを吸引しつつ、密閉型5に形成されたガスチャージ孔5Aを通して、密閉型5とシート成形型2との間のガス充填空間5Bに圧縮ガスを充填する。これにより金属調成形シート3がシート成形型2に密着し、金属調成形シート3から3次元構造の金属調装飾部品4が成形される。そして、金属調成形シート3から金属調装飾部品4を切り出し、その金属調装飾部品4を用いて樹脂成形品1をインサート形成する。これにより、図18に示すように樹脂成形品1の上面が金属調装飾部品4によって覆われ、金属調に装飾される。
【特許文献1】特開2002−370311号公報(請求項1、段落[0001]〜[0003])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した従来の金属調装飾部品の製造方法では、図19に示すように金属調成形シート3の一部がシート成形型2の凹凸形状の凸部の間に張られた状態で、前記したガスの吸引とチャージとを行って金属調成形シート3全体を略同時にシート成形型2に密着させるので、シート成形型2のうち凹凸の高低が急激に変化する部分において、金属調成形シート3が局所的に塑性変形し(深絞りされ)、肉厚が薄くなる。このため、図18に示すように金属調装飾部品4の一部に金属調の光沢が損なわれた光沢低下部4Aが発生する場合があった。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、金属調成形シートを金属調装飾部品に成形しても、金属調の光沢を良好に保持することが可能な金属調装飾部品の製造方法、樹脂成形品の製造方法、及び、金属調装飾部品成形金型の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る金属調装飾部品(29)の製造方法は、複数の熱可塑性樹脂層(11,14)と金属層(13)とを積層して備えた金属調成形シート(10)を、加熱したシート成形型(72)に密着させて、3次元構造の金属調装飾部品(29)に成形する金属調装飾部品(29)の製造方法において、シート成形型(72)に金属調成形シート(10)を対向配置するシート配置工程と、成形補助型(71)により金属調成形シート(10)の一部をシート成形型(72)に向けて押圧し、金属調成形シート(10)をシート成形型(72)の凹凸形状に概ね倣って変形させるシート押圧工程と、金属調成形シート(10)をシート成形型(72)の凹凸形状に概ね倣って変形させた状態で、それら金属調成形シート(10)とシート成形型(72)との間のガスを吸引して金属調成形シート(10)をシート成形型(72)に密着させるシート密着工程とを行うところに特徴を有する。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載の金属調装飾部品(29)の製造方法において、成形補助型(71)に複数の押圧部(80X,80Y)を設けておき、それら押圧部(80X,80Y)によって金属調成形シート(10)を押圧するタイミングを異ならせたところに特徴を有する。
【0007】
請求項3の発明は、請求項2に記載の金属調装飾部品(29)の製造方法において、複数の押圧部(80X,80Y)は、金属調成形シート(10)のうち金属調装飾部品(29)の中央部になる部分を先に押圧してから、その中央部になる部分の外側部分を押圧するところに特徴を有する。
【0008】
請求項4の発明は、請求項2又は3に記載の金属調装飾部品(29)の製造方法において、成形補助型(71)のうち押圧部(80X,80Y)の横隣にガイド部(80A)を設けておき、シート押圧工程では、ガイド部(80A)を、シート成形型(72)に備えた凸部(73A)に対して、金属調成形シート(10)の厚さより大きなクリアランス(C)を介する位置に配置してから、押圧部(80X,80Y)にて金属調成形シート(10)を押圧するところに特徴を有する。
【0009】
請求項5の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の金属調装飾部品(29)の製造方法において、成形補助型(71)とシート成形型(72)とを最も接近させたときに、それら成形補助型(71)及びシート成形型(72)における金属調装飾部品(29)を成形する部分の間に、金属調成形シート(10)の厚さより大きなクリアランス(C)を介在させるところに特徴を有する。
【0010】
請求項6の発明は、請求項5に記載の金属調装飾部品(29)の製造方法において、金属調成形シート(10)の厚さをtとし、クリアランスをCとすると、t+0.2[mm]≦C≦t+1.0[mm]、であるところに特徴を有する。
【0011】
請求項7の発明は、請求項1乃至6の何れかに記載の金属調装飾部品(29)の製造方法において、成形補助型(71)のうち少なくとも金属調成形シート(10)に当接する部分を、オレフィン系又はウレタン系の合成ゴムで形成したところに特徴を有する。
【0012】
請求項8の発明は、請求項1乃至6の何れかに記載の金属調装飾部品(29)の製造方法において、成形補助型(71)を、アルミ又は鉄で形成すると共に少なくとも金属調成形シート(10)に当接する部分に表面磨きを施しておき、さらに、成形補助型(71)の温度を50〜90度に設定するところに特徴を有する。
【0013】
請求項9の発明は、請求項1乃至8の何れかに記載の金属調装飾部品(29)の製造方法において、金属調装飾部品(29)の表面に剥離可能なマスキングフィルム(23)を積層しておくところに特徴を有する。
【0014】
請求項10の発明は、請求項1乃至9の何れかに記載の金属調装飾部品(29)の製造方法において、シート配置工程の前に、金属調成形シート(10)を加熱して軟化させるシート軟化工程を行うところに特徴を有する。
【0015】
請求項11の発明は、請求項1乃至10の何れかに記載の金属調装飾部品(29)の製造方法において、シート密着工程では、金属調成形シート(10)とシート成形型(72)との間のガスを吸引し、かつ、金属調成形シート(10)に対してシート成形型(72)と反対側に圧縮ガスによる圧力を付与して、金属調成形シート(10)をシート成形型(72)に密着させるところに特徴を有する。
【0016】
請求項12の発明に係る樹脂成形品(50)の製造方法は、請求項1乃至11の何れかに記載の金属調装飾部品(29)の製造方法にて製造した金属調装飾部品(29)を用いて、樹脂成形品(50)をインサート成形するところに特徴を有する。
【0017】
請求項13の発明に係る金属調装飾部品成形金型(70)は、複数の熱可塑性樹脂層(11,14)と金属層(13)とを積層して備えた金属調成形シート(10)を、3次元構造の金属調装飾部品(29)に成形するための金属調装飾部品成形金型(70)において、金属調装飾部品(29)を形取ったシート成形型(72)と、シート成形型(72)に敷設された状態の金属調成形シート(10)の一部をシート成形型(72)に向けて押圧し、金属調成形シート(10)をシート成形型(72)の凹凸形状に概ね倣って変形させるための成形補助型(71)と、金属調成形シート(10)をシート成形型(72)の凹凸形状に概ね倣って変形させた状態で、それら金属調成形シート(10)とシート成形型(72)との間のガスを吸引するガス吸引部(73C,74C,78,78P)とを備えたところに特徴を有する。
【0018】
請求項14の発明は、請求項13に記載の金属調装飾部品成形金型(70)において、成形補助型(71)には、互いに異なるタイミングで金属調成形シート(10)を押圧する複数の押圧部(80X,80Y)が備えられたところに特徴を有する。
【0019】
請求項15の発明は、請求項14に記載の金属調装飾部品成形金型(70)において、複数の押圧部(80X,80Y)は、金属調成形シート(10)のうち金属調装飾部品(29)の中央部になる部分を押圧してから、その中央部になる部分の外側部分を押圧するように構成されたところに特徴を有する。
【0020】
請求項16の発明は、請求項14又は15に記載の金属調装飾部品成形金型(70)において、成形補助型(71)のうち押圧部(80X,80Y)の横隣に設けられ、押圧部(80X,80Y)が金属調成形シート(10)を押圧する前に、シート成形型(72)に備えた凸部(73A)の先端との間に金属調成形シート(10)の厚さより大きなクリアランス(C)を介して対向配置されるガイド部(80A)を備えたところに特徴を有する。
【0021】
請求項17の発明は、請求項13乃至16の何れかに記載の金属調装飾部品成形金型(70)において、成形補助型(71)とシート成形型(72)とを最も接近させたときに、それら成形補助型(71)及びシート成形型(72)における金属調装飾部品(29)を成形する部分の間に、金属調成形シート(10)の厚さより大きなクリアランス(C)が介在するように構成したところに特徴を有する。
【0022】
請求項18の発明は、請求項17に記載の金属調装飾部品成形金型(70)において、金属調成形シート(10)の厚さをtとし、クリアランスをCとすると、t+0.2[mm]≦C≦t+1.0[mm]、であるところに特徴を有する。
【0023】
請求項19の発明は、請求項13乃至18の何れかに記載の金属調装飾部品成形金型(70)において、成形補助型(71)のうち少なくとも金属調成形シート(10)に当接する部分を、オレフィン系又はウレタン系の合成ゴムで形成したところに特徴を有する。
【0024】
請求項20の発明は、請求項13乃至18の何れかに記載の金属調装飾部品成形金型(70)において、成形補助型(71)をアルミ又は鉄で形成しかつ成形補助型(71)の少なくとも金属調成形シート(10)に当接する部分に表面磨きを施したところに特徴を有する。
【0025】
請求項21の発明は、請求項13乃至20の何れかに記載の金属調装飾部品成形金型(70)において、成形補助型(71)及びシート成形型(72)における金属調装飾部品(29)を成形する部分を囲みかつ成形補助型(71)とシート成形型(72)との間に密閉された圧縮ガス充填空間(70L)を形成するための囲壁(75A)と、ガス吸引部(73C,74C,78,78P)がガスを吸引したときに、圧縮ガス充填空間(70L)に圧縮ガスを供給するためのガス供給部(75C)とを備えたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0026】
[請求項1,12及び13の発明]
請求項1の金属調装飾部品(29)の製造方法及び請求項13の金属調装飾部品成形金型(70)によれば、金属調成形シート(10)を全体的にシート成形型(72)に密着させる前に、成形補助型(71)により金属調成形シート(10)の一部を押圧して、金属調成形シート(10)をシート成形型(72)の凹凸形状に概ね倣って変形させる。このとき、シート成形型(72)のうち凹凸の高低が急激に変化する部分に向けて金属調成形シート(10)が押圧されても、金属調成形シート(10)が全体的にシート成形型(72)に密着させる前であるから、金属調成形シート(10)の全体或いは金属調成形シート(10)の弛んだ部分がシート成形型(72)における凹凸の高低が急激に変化する部分に押し込まれ、金属調成形シート(10)の局所的な塑性変形が緩和される。そして、金属調成形シート(10)が凹凸形状に概ね倣って変形した状態で、金属調成形シート(10)とシート成形型(72)との間のガスが吸引され、金属調成形シート(10)が全体的にシート成形型(72)に密着するので、金属調成形シート(10)の肉厚が従来のように局所的に薄くなることが防がれる。これにより、金属調成形シート(10)を金属調装飾部品(29)に成形しても金属調の光沢を良好に保持することが可能になる。
【0027】
また、本発明に係る金属調装飾部品(29)の製造方法にて製造した金属調装飾部品(29)を用いて樹脂成形品(50)をインサート成形するので、金属調装飾部品(29)の表面の金属調の光沢を良好に保持することが可能になる(請求項12の発明)。
【0028】
[請求項2,3,14及び15の発明]
請求項2の金属調装飾部品(29)の製造方法及び請求項14の金属調装飾部品成形金型(70)によれば、成形補助型(71)に設けた複数の押圧部(80X,80Y)が、それぞれ金属調成形シート(10)を押圧するタイミングを異ならせたことで、金属調成形シート(10)のうち比較的変形させ難い部分を先に押圧してから比較的変形させ易い部分を押圧することが可能になり、シート成形型(72)に備えた複数の凹凸部分に略均等に金属調成形シート(10)を分配することができる。
【0029】
また、金属調成形シート(10)のうち金属調装飾部品(29)になる部分より外側は最終的に除去されるので、請求項3の金属調装飾部品(29)の製造方法及び請求項15の金属調装飾部品成形金型(70)を使用した場合のように、金属調装飾部品(29)の形状に応じて、金属調装飾部品(29)の中央部になる部分を押圧してからその外側部分を押圧することにより、金属調成形シート(10)のうち最終的に除去される部分が金属調装飾部品(29)になる側に効率よく引き込まれ、シート成形型(72)に備えた複数の凹凸部分に略均等に金属調成形シート(10)を分配することができる。
【0030】
[請求項4及び16の発明]
請求項4の金属調装飾部品(29)の製造方法及び請求項16の金属調装飾部品成形金型(70)によれば、ガイド部(80A)とシート成形型(72)における凸部(73A)との間のクリアランス(C)内に金属調成形シート(10)が収まり、押圧部(80X,80Y)が金属調成形シート(10)を押圧したときに、金属調成形シート(10)が凸部(73A)から浮き上がることを防止することが可能になる。これにより、金属調成形シート(10)を凸部(73A)及びその近傍の形状に概ね倣わせて変形させることができる。
【0031】
[請求項5,6,17及び18の発明]
請求項5の金属調装飾部品(29)の製造方法及び請求項17の金属調装飾部品成形金型(70)によれば、成形補助型(71)とシート成形型(72)との間にクリアランス(C)を設けたことにより、成形補助型(71)とシート成形型(72)との間で金属調成形シート(10)が押し潰されることが防がれる。また、クリアランス(C)を設けたことで、成形補助型(71)とシート成形型(72)との間に、金属調成形シート(10)が挟持されなくなるので、シート成形型(72)と金属調成形シート(10)との間のガスを吸引した際に、金属調成形シート(10)全体を変形させることができる。ここでクリアランス(C)は、請求項6及び請求項18の発明のように、金属調成形シート(10)の厚さをtとし、クリアランスをCとすると、t+0.2[mm]≦C≦t+1.0[mm]、であることが好ましい。
【0032】
[請求項7及び19の発明]
請求項7の金属調装飾部品(29)の製造方法及び請求項19の金属調装飾部品成形金型(70)のように、成形補助型(71)のうち少なくとも金属調成形シート(10)に当接する部分を、オレフィン系又はウレタン系の合成ゴムで形成することで、成形補助型(71)が金属調成形シート(10)に当接したときに金属調成形シート(10)に傷が発生することを防ぐことができる。また、オレフィン系又はウレタン系の合成ゴムは断熱性に優れるので、金属調成形シート(10)から成形補助型(71)に熱が逃げることも防がれる。
【0033】
[請求項8及び20の発明]
請求項8の金属調装飾部品(29)の製造方法及び請求項20の金属調装飾部品成形金型(70)のように、成形補助型(71)を、アルミ又は鉄で形成すると共に表面磨きを施すことで、成形補助型(71)が金属調成形シート(10)に当接したときに金属調成形シート(10)に傷が発生することを防ぐことができる。また、成形補助型(71)の温度を50〜90度に設定することで、金属調成形シート(10)から成形補助型(71)に熱が逃げることを防ぐこともできる。
【0034】
[請求項9の発明]
請求項9の金属調装飾部品(29)の製造方法によれば、金属調成形シート(10)の表面にマスキングフィルム(23)を備えているので、最終的にマスキングフィルム(23)を剥離することで、安定した表面装飾美を有する金属調装飾部品(29)を提供することができる。
【0035】
[請求項10の発明]
請求項10の金属調装飾部品(29)の製造方法によれば、予め金属調成形シート(10)を加熱して軟化させておいてから、シート成形型(72)に金属調成形シート(10)を対向配置するので、金属調成形シート(10)を容易かつ迅速にシート成形型(72)の凹凸形状に概ね倣った形状に変形させることができる。
【0036】
[請求項11及び21の発明]
請求項11の金属調装飾部品(29)の製造方法及び請求項20の金属調装飾部品成形金型(70)によれば、金属調成形シート(10)とシート成形型(72)との間のガスを吸引し、かつ、金属調成形シート(10)に対してシート成形型(72)と反対側に圧縮ガスによる圧力を付与することにより、ガスの吸引のみを行う場合より確実に金属調成形シート(10)をシート成形型(72)に密着させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
[第1実施形態]
以下、本発明の一実施形態を図1〜図11に基づいて説明する。本実施形態の金属調成形シート10は、図1に示すように、例えば、熱可塑性樹脂層11と、接着剤層12と、金属層13と、透明な熱可塑性樹脂層14と、プライマー層18と、青色顔料インク層15と、透明な耐候性インク層16と、剥離層22と、マスキングフィルム23を順番に積層して構成されている。
【0038】
熱可塑性樹脂層11は、例えばABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂)製のフィルムで構成されている。この熱可塑性樹脂層11の厚さは、例えば、50〜1500μmになっている。そして、この熱可塑性樹脂層11の一面にウレタン系又はアクリル系の接着剤を、例えば1〜20μmの厚さとなるように塗布して接着剤層12が形成されている。
【0039】
なお、熱可塑性樹脂層11は、ABS以外に、ポリ塩化ビニル系、ポリオレフィン系、ポリスチレン系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリカーボネート系等の熱可塑性樹脂に適宜変更してもよい。
【0040】
透明な熱可塑性樹脂層14は、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)製のフィルムで構成されており、その厚さは、例えば25〜300μmになっている。また、透明な熱可塑性樹脂層14の表裏の一方の面に、例えば、インジウムを5〜300nmの厚さとなるように蒸着させて金属層13が形成され、これら透明な熱可塑性樹脂層14と金属層13とにより金属蒸着フィルム21が構成されている。そして、金属蒸着フィルム21のうち金属層13側を前記した接着剤層12に密着させ、これにより金属層13が1対の熱可塑性樹脂層11,14に挟まれた所謂ラミネート構造になっている。また、透明な熱可塑性樹脂層14のうち金属層13と反対側の面には、塗料の固着強度を高めるための下塗り剤が塗布されてプライマー層18が形成されている。
【0041】
青色顔料インク層15は、一般に使用されている工業用の青色顔料を含んだウレタン系又はアクリル系のインクを、透明な熱可塑性樹脂層14のうちプライマー層18を備えた面にスクリーン印刷することで形成されている。また、耐候性インク層16は、一般に使用されているウレタン系又はアクリル系の耐候性インクを、青色顔料インク層15に重ねてスクリーン印刷することで形成されている。
【0042】
ここで、青色顔料インク層15及び耐候性インク層16の各厚さは、5〜8μmとなっており、従って、青色顔料インク層15と耐候性インク層16とを合わせた厚さは、10〜16μmとなっている。青色顔料インク層15及び耐候性インク層16の各厚さは、スクリーン印刷に用いるスクリーンのメッシュ数により調節することができる。具体的には、150〜350メッシュのスクリーンを用いることで、1回のスクリーン印刷で厚さ5〜8μmの青色顔料インク層15及び耐候性インク層16を形成することができる。
【0043】
なお、目的の厚さに応じて、150〜350メッシュのスクリーンを使い分けてスクリーン印刷を行うことが好ましい。また、スクリーン印刷を複数回行って、青色顔料インク層15及び耐候性インク層16の厚さを調節してもよい。
【0044】
マスキングフィルム23は、例えばポリエステル系の樹脂を厚さ25〜300μmのフィルム状に形成してなる。また、マスキングフィルム23の一方の面には例えばエッチング処理が施され、そこにアクリル系粘着剤を塗布することで剥離層22が形成されている。そして、この剥離層22が耐候性インク層16に密着している。これにより、耐候性インク層16から、剥離層22と共にマスキングフィルム23が剥離可能となっている。
【0045】
このように構成された金属調成形シート10を用いて製造された樹脂成形品として、例えば図2に示した自動車のホイール部品50が挙げられる。このホイール部品50は、円形基部51に複数の係止爪53を一体形成してなる。詳細には、図3に示すように円形基部51は、全体として周縁部から中心部に向かって徐々に図3の上方側に膨らむように湾曲しており、円形基部51の周縁部からは図3の下方側に向かって周壁52が突出している。そして、その周壁52の下端から前記した複数の係止爪53が張り出し、これら係止爪53が図示しないアルミホイールの中央に形成された孔に挿入されて固定される。
【0046】
ホイール部品50の表面50Aには、その周縁部からリング部54が上方に隆起している。また、表面50Aの中央には、文字「P」(図2参照)を形取ったエンブレム部55が上方に隆起している。そして、ホイール部品50は、全体として熱可塑性樹脂(例えば、ABS、変性PPE、PC、PC+ABS、PP、PA等)で構成されており、円形基部51の表面全体に金属調成形シート10を用いた装飾が施されている。
【0047】
このホイール部品50を製造するためには、金属調成形シート10から3次元構造の金属調装飾部品29(図3参照)を成形し、この金属調装飾部品29を用いてホイール部品50をインサート成形する。図4〜図9には、金属調成形シート10から金属調装飾部品29を成形するための金属調装飾部品成形金型70が示されている。金属調装飾部品成形金型70は、成形補助型71とシート成形型72とを上下方向に対向配置して備え、シート成形型72に対して成形補助型71が上下動することで、金属調装飾部品成形金型70の型開き及び型閉じが行われる。
【0048】
シート成形型72は、下側基部74と複数の成形凹凸部73(図4〜図7には、1つの成形凹凸部73のみが示されている)とを備えてなり、下側基部74の平坦な上面から成形凹凸部73が扁平円台状をなして突出している。成形凹凸部73のうち下側基部74の上面からの突出部分は、ホイール部品50の円形基部51に対応している。具体的には、成形凹凸部73の上面周縁部からは、ホイール部品50のリング部54を成形するためのリング成形凸部73Bが突出している。また、成形凹凸部73の上面中央には、ホイール部品50のエンブレム部55に対応して文字「P」(図2参照)を形取ったエンブレム成形凸部73Aが突出している。そして、図4〜図7には、文字「P」における上側の環状部に囲まれた部分が、第1の成形凹部73Xとして示されると共に、エンブレム成形凸部73Aとリング成形凸部73Bとの間が、第2の成形凹部73Yとして示されている。
【0049】
また、成形凹凸部73には、所定複数箇所にガス排出孔73Cが形成され、これらガス排出孔73Cが下側基部74に形成されたガス排出孔74Cに連通し、そのガス排出孔74Cが例えばパイプ78Pを介して吸引ポンプ78に接続されている。
【0050】
成形補助型71は、上側基台75と複数の押圧凹凸部76(図4〜図7には1つの押圧凹凸部76のみが示されている)とからなる。上側基台75には、下面が開放しかつ成形凹凸部73を受容可能な下向凹所75Lが形成されている。その下向凹所75Lを囲む囲壁75Aは、下側基部74の上面周縁に接合可能となっている。また、囲壁75Aの下面には、全周に亘ってOリング溝75Mが形成され、そこにOリング75Dが装着されている。
【0051】
成形補助型71の押圧凹凸部76は、下向凹所75Lの奥側上面に配置されて、シート成形型72の成形凹凸部73に対向している。押圧凹凸部76は、例えば、JIS A硬度30〜90度のオレフィン系又はウレタン系の合成ゴムで構成され、成形凹凸部73の凹凸を概ね反転させた形状になっている。具体的には、成形凹凸部73の第1の成形凹部73Xに向かって突出した第1の押圧部76Xと、成形凹凸部73の第2の成形凹部73Yに向かって突出した第2の押圧部76Yとを備えると共に、成形凹凸部73のエンブレム成形凸部73Aと対応した部分を陥没させた凸部受容部76Aが形成されている。
【0052】
そして、図6に示したように成形補助型71の上側基台75がシート成形型72の下側基部74に金属調成形シート10を介して接合され、金属調装飾部品成形金型70が閉じた状態になると、押圧凹凸部76の第1及び第2の押圧部76X,76Yが、成形凹凸部73の第1及び第2の成形凹部73X,73Yに突入し、かつ、押圧凹凸部76の凸部受容部76Aに、成形凹凸部73のエンブレム成形凸部73Aが受容される。このとき、成形凹凸部73と押圧凹凸部76との間には、図8に示すように、金属調成形シート10の厚さよりも大きなクリアランスCが形成されるようになっている。より具体的には、成形凹凸部73と押圧凹凸部76との間のクリアランスCは、マスキングフィルム23を含めた金属調成形シート10の全体の厚さをtとすると、金属調装飾部品成形金型70の型閉じ方向(図8の上下方向)におけるクリアランスCの寸法Cは、
t+0.2[mm]≦C≦t+1.0[mm]
、となるように設定されている。
【0053】
金属調装飾部品成形金型70の構成は以上であり、この金属調装飾部品成形金型70を用いて以下のようにして金属調成形シート10から金属調装飾部品29が成形される。金属調成形シート10のうちマスキングフィルム23を備えた側を上側に向けて、その金属調成形シート10の縁部をクランプ77(図4参照)にて把持して略水平状態に保持する。この状態において、本発明に係るシート軟化工程を行う。即ち、ヒーター(図示せず)で金属調成形シート10の両面を加熱して軟化させる。
【0054】
次いで、本発明に係るシート配置工程を行う。即ち、図4に示すように、金属調装飾部品成形金型70を型開き状態にして成形補助型71とシート成形型72との間に金属調成形シート10を配置する。なお、クランプ77は、成形補助型71とシート成形型72との間から側方に外れた位置に配置する。そして、シート成形型72を加熱した状態にして、クランプ77,77を下方に移動し、図5に示すようにシート成形型72の上面に金属調成形シート10を押し付ける。これにより、金属調成形シート10は、シート成形型72のエンブレム成形凸部73A及びリング成形凸部73Bの上端部に部分的に当接して、それらエンブレム成形凸部73A及びリング成形凸部73Bの間で張られ、第1及び第2の成形凹部73X,73Yの底面から浮いた状態になる、
【0055】
この状態で、本発明に係るシート押圧工程を行う。そのために、成形補助型71をシート成形型72に向けて降下させていく。すると、その過程で成形補助型71における押圧凹凸部76の第1と第2の押圧部76X,76Yとが金属調成形シート10に当接する。そして、成形補助型71をさらに降下すると、第1の押圧部76Xが金属調成形シート10を成形凹凸部73の第1の成形凹部73X内に押し込み、第2の押圧部76Yが金属調成形シート10を成形凹凸部73の第2の成形凹部73Y内に押し込む。このとき、未だ金属調成形シート10全体はシート成形型72に密着していないので、金属調成形シート10全体が略均等に引っ張られる。特に、金属調成形シート10のうちリング成形凸部73Bに当接した部分とクランプ77との間で弛んでいる部分が引っ張られる。これにより、金属調成形シート10のうち第1と第2の押圧部76X,76Yが当接した部分が局所的に変形することが防がれる。
【0056】
成形補助型71がさらに降下すると、金属調成形シート10のうち金属調装飾部品29になる部分の外側部分が、成形補助型71の囲壁75Aとシート成形型72の上面周縁部との間に挟まれ、金属調装飾部品成形金型70が型閉じ状態になる。このとき、成形補助型71の押圧凹凸部76とシート成形型72の成形凹凸部73とは、図8に示すように金属調成形シート10の厚さより大きなクリアランスCを介して離れているので、金属調成形シート10が、押圧凹凸部76と成形凹凸部73との間で押し潰されて局所的に金属調成形シート10が圧延されることもない。また、押圧凹凸部76は合成ゴム製であるので、金属製とした場合に比べて弾性が高く、金属調成形シート10に傷が付くことが防止される。その上、金属調成形シート10の表面はマスキングフィルム23にて覆われているので、仮に金属調成形シート10に傷が付いたとしても、金属調装飾部品29が完成した後にマスキングフィルム23を剥離することで、その傷がマスキングフィルム23と共に除去される。また、オレフィン系又はウレタン系の合成ゴムは断熱性に優れているので、金属調成形シート10から成形補助型71に熱が逃げることも防がれる。
【0057】
金属調装飾部品成形金型70が型閉じ状態になると、図6に示すように、成形補助型71の下向凹所75Lがシート成形型72によって塞がれて、成形補助型71とシート成形型72との間に圧縮ガス充填空間70Lが形成される。この状態で本発明に係るシート密着工程を行う。そのためには、吸引ポンプ78を起動して成形補助型71と金属調成形シート10との間のガスを吸引すると共に、上側基台75に形成されたガスチャージ孔75Cから圧縮ガス充填空間70L内に圧縮ガスをチャージする。これにより、図7に示すように、金属調成形シート10がシート成形型72の上面に密着する。このとき、金属調成形シート10は、予めシート押圧工程においてシート成形型72の凹凸に概ね倣った形状に変形させてあるので、シート密着工程における金属調成形シート10の変形量は僅かである。具体的には、シート成形型72において凹凸の高低が急激に変化する部分である、エンブレム成形凸部73A及び第1の成形凹部73Xにおいては、シート密着工程を行う前は、図8に示すように、金属調成形シート10はエンブレム成形凸部73Aの上面に当接しかつ第1の成形凹部73Xの内側面及び底面から浮いた状態になっている。そして、シート密着工程を行うと、図9に示すように、金属調成形シート10が僅かに変形して、第1の成形凹部73Xの内側面及び底面に密着する。ここで、金属調成形シート10は、成形補助型71とシート成形型72との間にクリアランスCを設けたことで、成形補助型71とシート成形型72との間で比較的自由に伸びる。即ち、金属調成形シート10の広範囲が伸び代となり、シート密着高低においても金属調成形シート10の肉厚が局所的に薄くなることが防がれる。
【0058】
シート密着工程が終了したら、シート成形型72を冷却し、金属調成形シート10が硬化したところで金属調成形シート10を金属調装飾部品成形金型70から取り外す。金属調装飾部品成形金型70から取り出された金属調成形シート10は、図10に示すように、平坦部10Aから金属調装飾部品29に相当する複数のドーム部10Bを隆起させた構造をなしている。そして、各ドーム部10Bを平坦部10Aから切り離すことで、ドーム部10Bが金属調装飾部品29となる。以上で金属調装飾部品29の製造工程が終了する。
【0059】
このようにして製造された金属調装飾部品29を用いて、ホイール部品50をインサート成形する。図11には、インサート成形を行うための射出成形金型60が示されている。射出成形金型60は、例えば、上型61と下型62と、スライド金型66,67とを備えてなる。上型61の下面には、金属調装飾部品29の形状に対応して窪んだ上型凹所63が形成されている。また、下型62にはその上型凹所63に向かって突出した丘陵部64が形成されると共に、丘陵部64を側方から挟むようにして1対のスライド金型66,67が対向配置されている。
【0060】
ホイール部品50をインサート成形するには、射出成形金型60を型開きして、金属調装飾部品29を上型凹所63に嵌合固定する。そして、射出成形金型60を閉じて、下型62の丘陵部64を金属調装飾部品29の内側に突入させ、金属調装飾部品29と丘陵部64との間に略均一な厚さの成形空間(図示せず)を形成すると共に、丘陵部64の側面に、1対のスライド金型66,67を突き合わせて係止爪成形空間68を形成する。この状態で下型62に備えたゲート部69からそれら成形空間に溶融樹脂を充填する。そして、射出成形金型60を冷却して溶融樹脂が固化してから射出成形金型60の型開きを行う。これにより、図2及び図3に示すように、ホイール部品50における表面50Aが、金属調成形シート10によって覆われることで、金属調の装飾が施された状態になり、ホイール部品50の製造工程が終了する。
【0061】
ホイール部品50は、図示しないホイールに組み付けられ、例えば、そのホイールを備えた車両が購入者に渡される前にマスキングフィルム23を金属調成形シート10から剥離する。なお、金属調成形シート10からマスキングフィルム23を剥がすためには、例えば、粘着シートをホイール部品50の表面50Aに押し付けた後に引き離せばよい。
【0062】
このように本実施形態の金属調装飾部品29の製造方法及び金属調装飾部品成形金型70によれば、金属調成形シート10を全体的にシート成形型72に密着させる前に、成形補助型71により金属調成形シート10の一部を押圧して、金属調成形シート10をシート成形型72の凹凸形状に概ね倣って変形させるので、このとき、シート成形型72のうち凹凸の高低が急激に変化する部分に向けて金属調成形シート10が押圧されても、金属調成形シート10の全体或いは金属調成形シート10の弛んだ部分が、シート成形型72における凹凸の高低が急激に変化する部分に押し込まれ、金属調成形シート10の局所的な塑性変形が緩和される。そして、金属調成形シート10が凹凸形状に概ね倣って変形した状態で、金属調成形シート10とシート成形型72との間のガスが吸引され、金属調成形シート10が全体的にシート成形型72に密着するので、金属調成形シート10の肉厚が従来のように局所的に薄くなることが防がれる。これにより、金属調成形シート10を金属調装飾部品29に成形しても金属調の光沢を良好に保持することが可能になる。また、このようにして製造された金属調装飾部品29を用いてホイール部品50をインサート成形するので、ホイール部品50の金属調の光沢を良好に保持することが可能になる。さらに、金属調成形シート10の表面にマスキングフィルム23を備えているので、最終的にマスキングフィルム23を剥離することで、安定した表面装飾美を有する金属調装飾部品29を提供することができる。
【0063】
[第2実施形態]
本実施形態は、図12〜図17に示されており、成形補助型71に備えた押圧凹凸部80の構成が、第1実施形態の成形補助型71に備えた押圧凹凸部76とは異なる。以下、第1実施形態と異なる構成に関してのみ説明し、第1実施形態と同じ構成に関しては、同一符号を付して重複した説明は省略する。
【0064】
図12に示すように、本実施形態の成形補助型71に備えた押圧凹凸部80は、上側基台75に固定された固定部80Zとその固定部80Zに対して上下方向に直動する第1及び第2の押圧部80X,80Yとを備えてなる。第1の押圧部80Xの下端部は、第1実施形態の第1の押圧部76Xと同じ形状をなし、シート成形型72に備えた第1の成形凹部73Xに対向している。この第1の押圧部80Xの上端部には、例えば、第1の油圧シリンダ81の直動ロッドが連結されている。
【0065】
また、第2の押圧部80Yの下端部は、第1実施形態の第2の押圧部76Yと同じ形状をなし、シート成形型72に備えた第2の成形凹部73Yに対向している。この第2の押圧部80Yの上端部には、例えば、第2の油圧シリンダ82の直動ロッドが連結されている。これら第1と第2の油圧シリンダ81,82は、別々のタイミングで駆動されるようになっている。そして、第1及び第2の油圧シリンダ81,82の駆動により、図16に示すように、第1及び第2の押圧部80X,80Yが下端位置まで移動すると、押圧凹凸部80の下面全体が、シート成形型72の凹凸形状を概ね反転させた凹凸形状になる。また、本実施形態では、固定部80Zのうちシート成形型72のエンブレム成形凸部73Aと対向する部分が、本発明に係るガイド部80Aになっている。
【0066】
本実施形態の金属調装飾部品成形金型70の構成は以上である。この金属調装飾部品成形金型70を用いて金属調成形シート10から金属調装飾部品29を成形する金属調装飾部品29の製造方法について以下説明する。
【0067】
第1実施形態の場合と同様にシート配置工程を行う(図12及び図13参照)。そして押圧凹凸部80のうち第1及び第2の押圧部80X,80Yを固定部80Zより上方に引き上げた状態にして、成形補助型71を降下させ、成形補助型71の囲壁75Aを金属調成形シート10を介してシート成形型72の上面周縁部に当接させる。すると、図14に示すようにガイド部80Aがエンブレム成形凸部73Aとの間にクリアランスCを介した位置に配置される。
【0068】
この状態でシート押圧工程を行う。本実施形態のシード押圧工程では、先ずは第1の押圧部80Xを降下させる。そして、図15に示すように、第1の押圧部80Xが第1の成形凹部73Xの底面との間にクリアランスCを介して対向する位置まで移動したら第1の押圧部80Xを停止し、次いで、第2の押圧部80Yを降下させる。そして、図16に示すように、第2の押圧部80Yが第2の成形凹部73Yの底面との間にクリアランスCを介して対向する位置まで移動したら第2の押圧部80Yを停止する。
【0069】
このように第2の押圧部80Yにより第2の押圧部80Yが先に金属調成形シート10を押圧することで、金属調装飾部品29の中央部になる部分が先に押圧されてからその外側部分が押圧されることになる。これにより、金属調成形シート10のうち金属調装飾部品29になる部分より外側の最終的に除去される部分が、金属調装飾部品29になる側に効率よく引っ張られて、シート成形型72に備えた複数の凹凸部分に略均等に金属調成形シート10を分配することができる。
【0070】
また、ガイド部80Aとシート成形型72におけるエンブレム成形凸部73Aとの間のクリアランスC内に金属調成形シート10が収まっているので、第1及び第2の押圧部80X,80Yが金属調成形シート10を押圧したときに、金属調成形シート10がエンブレム成形凸部73Aから浮き上がることを防止することが可能になる。しかも、金属調成形シート10が伸ばされる際には、クリアランスC内で金属調成形シート10が比較的自由に伸ばされる。これにより、金属調成形シート10をエンブレム成形凸部73A及びその近傍の形状に概ね倣わせて変形させることができる。このようにしてシート押圧工程が終了したら、第1実施形態と同様にシート密着工程を行う(図17参照)。
【0071】
このように本実施形態の金属調装飾部品29の製造方法及び金属調装飾部品成形金型70によれば、成形補助型71の第1及び第2の押圧部80X,80Yが金属調成形シート10を押圧するタイミングを異ならせたことで、金属調成形シート10のうち比較的変形させ難い部分を先に押圧してから比較的変形させ易い部分を押圧することが可能になり、シート成形型72に備えた複数の凹凸部分に略均等に金属調成形シート10を分配することができる。
【0072】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0073】
(1)前記第1実施形態の金属調装飾部品成形金型70は、成形補助型71がシート成形型72に対して降下する構成になっていたが、シート成形型72が成形補助型71に対して上昇する構成としてもよい。この場合、金属調成形シート10を保持したクランプ77,77を一定位置に維持しておき、シート成形型72の上昇過程で、金属調成形シート10がシート成形型72の上面に押し付けられるようにしてもよい。
【0074】
(2)また、前記第1実施形態では、成形補助型71を上側、シート成形型72を下側に配置していたが、その逆に、成形補助型71を下側、シート成形型72を上側に配置してもよい。さらに、成形補助型71とシート成形型72とが水平方向で対向するように配置してもよい。
【0075】
(3)前記第1実施形態の成形補助型71における押圧凹凸部76は、オレフィン系又はウレタン系の合成ゴム製であったが、成形補助型71の押圧凹凸部76をアルミ又は鉄で形成し、その表面に例えば#1000以上の表面磨きを施した構成にしてもよい。この構成によっても、成形補助型71が金属調成形シート10に当接したときに金属調成形シート10に傷が発生することを防ぐことができる。また、押圧凹凸部76をアルミ又は鉄で形成した場合は、その押圧凹凸部76の温度は50〜90度に設定し、金属調成形シート10から押圧凹凸部76に熱が逃げることを防ぐことが好ましい。
【0076】
(4)前記第1及び第2実施形態の金属調成形シート10は、表面にマスキングフィルム23を備えていたが、マスキングフィルム23を有しない金属調成形シート10で金属調装飾部品29を成形してもよい。
【0077】
(5)前記第1及び第2実施形態の製造方法におけるシート密着工程では、金属調成形シート10とシート成形型72との間のガスを吸引しつつ、圧縮ガス充填空間70Lに圧縮ガスをチャージしていたが、圧縮ガスのチャージを行わずに、ガスの吸引だけで金属調成形シート10をシート成形型72に密着させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の第1実施形態に係る金属調成形シートの断面図
【図2】ホイール部品の斜視図
【図3】ホイール部品の断面図
【図4】シート配置工程における金属調装飾部品成形金型の断面図
【図5】シート成形型に金属調成形シートを押し付けた状態の金属調装飾部品成形金型の断面図
【図6】シート押圧工程における金属調装飾部品成形金型の断面図
【図7】シート密着工程における金属調装飾部品成形金型の断面図
【図8】シート押圧工程における金属調装飾部品成形金型の部分拡大断面図
【図9】シート密着工程における金属調装飾部品成形金型の部分拡大断面図
【図10】金属調成形シートに複数のドーム部が成形された状態の斜視図
【図11】金属調装飾部品を射出成形金型にインサートした状態の断面図
【図12】第2実施形態の金属調装飾部品成形金型の断面図
【図13】シート配置工程における金属調装飾部品成形金型の断面図
【図14】金属調成形シートにガイド部を宛がった状態の金属調装飾部品成形金型の断面図
【図15】シート押圧工程における金属調装飾部品成形金型の断面図
【図16】シート押圧工程における金属調装飾部品成形金型の断面図
【図17】シート押圧密着における金属調装飾部品成形金型の断面図
【図18】従来の樹脂成形品の斜視図
【図19】従来のシート成形金型の断面図
【図20】従来のシート成形金型の断面図
【符号の説明】
【0079】
10 金属調成形シート
11,14 熱可塑性樹脂層
13 金属層
29 金属調装飾部品
50 ホイール部品
70 金属調装飾部品成形金型
70L 圧縮ガス充填空間
71 成形補助型
72 シート成形型
73 成形凹凸部
73A エンブレム成形凸部
73B リング成形凸部
73C,74C ガス排出孔(ガス吸引部)
75A 囲壁
75C ガスチャージ孔(ガスチャージ部)
76X,80X 第1の押圧部
76Y,80Y 第2の押圧部
78 吸引ポンプ(ガス吸引部)
78P パイプ(ガス吸引部)
80A ガイド部
C クリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の熱可塑性樹脂層(11,14)と金属層(13)とを積層して備えた金属調成形シート(10)を、加熱したシート成形型(72)に密着させて、3次元構造の金属調装飾部品(29)に成形する金属調装飾部品(29)の製造方法において、
前記シート成形型(72)に前記金属調成形シート(10)を対向配置するシート配置工程と、
成形補助型(71)により前記金属調成形シート(10)の一部を前記シート成形型(72)に向けて押圧し、前記金属調成形シート(10)を前記シート成形型(72)の凹凸形状に概ね倣って変形させるシート押圧工程と、
前記金属調成形シート(10)を前記シート成形型(72)の凹凸形状に概ね倣って変形させた状態で、それら金属調成形シート(10)と前記シート成形型(72)との間のガスを吸引して前記金属調成形シート(10)を前記シート成形型(72)に密着させるシート密着工程とを行うことを特徴とする金属調装飾部品(29)の製造方法。
【請求項2】
前記成形補助型(71)に複数の押圧部(80X,80Y)を設けておき、それら押圧部(80X,80Y)によって前記金属調成形シート(10)を押圧するタイミングを異ならせたことを特徴とする請求項1に記載の金属調装飾部品(29)の製造方法。
【請求項3】
前記複数の押圧部(80X,80Y)は、前記金属調成形シート(10)のうち前記金属調装飾部品(29)の中央部になる部分を先に押圧してから、その中央部になる部分の外側部分を押圧することを特徴とする請求項2に記載の金属調装飾部品(29)の製造方法。
【請求項4】
前記成形補助型(71)のうち前記押圧部(80X,80Y)の横隣にガイド部(80A)を設けておき、前記シート押圧工程では、前記ガイド部(80A)を、前記シート成形型(72)に備えた凸部(73A)に対して、前記金属調成形シート(10)の厚さより大きなクリアランス(C)を介する位置に配置してから、前記押圧部(80X,80Y)にて前記金属調成形シート(10)を押圧することを特徴とする請求項2又は3に記載の金属調装飾部品(29)の製造方法。
【請求項5】
前記成形補助型(71)と前記シート成形型(72)とを最も接近させたときに、それら成形補助型(71)及びシート成形型(72)における前記金属調装飾部品(29)を成形する部分の間に、前記金属調成形シート(10)の厚さより大きなクリアランス(C)を介在させることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の金属調装飾部品(29)の製造方法。
【請求項6】
前記金属調成形シート(10)の厚さをtとし、前記クリアランスをCとすると、
t+0.2[mm]≦C≦t+1.0[mm]
、であることを特徴とする請求項5に記載の金属調装飾部品(29)の製造方法。
【請求項7】
前記成形補助型(71)のうち少なくとも前記金属調成形シート(10)に当接する部分を、オレフィン系又はウレタン系の合成ゴムで形成したことを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の金属調装飾部品(29)の製造方法。
【請求項8】
前記成形補助型(71)を、アルミ又は鉄で形成すると共に少なくとも前記金属調成形シート(10)に当接する部分に表面磨きを施しておき、さらに、前記成形補助型(71)の温度を50〜90度に設定することを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の金属調装飾部品(29)の製造方法。
【請求項9】
前記金属調装飾部品(29)の表面に剥離可能なマスキングフィルム(23)を積層しておくことを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の金属調装飾部品(29)の製造方法。
【請求項10】
前記シート配置工程の前に、前記金属調成形シート(10)を加熱して軟化させるシート軟化工程を行うことを特徴とする請求項1乃至9の何れかに記載の金属調装飾部品(29)の製造方法。
【請求項11】
前記シート密着工程では、前記金属調成形シート(10)と前記シート成形型(72)との間のガスを吸引し、かつ、前記金属調成形シート(10)に対して前記シート成形型(72)と反対側に圧縮ガスによる圧力を付与して、前記金属調成形シート(10)を前記シート成形型(72)に密着させることを特徴とする請求項1乃至10の何れかに記載の金属調装飾部品(29)の製造方法。
【請求項12】
前記請求項1乃至11の何れかに記載の金属調装飾部品(29)の製造方法にて製造した金属調装飾部品(29)を用いて、樹脂成形品(50)をインサート成形することを特徴とする樹脂成形品(50)の製造方法。
【請求項13】
複数の熱可塑性樹脂層(11,14)と金属層(13)とを積層して備えた金属調成形シート(10)を、3次元構造の金属調装飾部品(29)に成形するための金属調装飾部品成形金型(70)において、
前記金属調装飾部品(29)を形取ったシート成形型(72)と、
前記シート成形型(72)に敷設された状態の前記金属調成形シート(10)の一部を前記シート成形型(72)に向けて押圧し、前記金属調成形シート(10)を前記シート成形型(72)の凹凸形状に概ね倣って変形させるための成形補助型(71)と、
前記金属調成形シート(10)を前記シート成形型(72)の凹凸形状に概ね倣って変形させた状態で、それら金属調成形シート(10)とシート成形型(72)との間のガスを吸引するガス吸引部(73C,74C,78,78P)とを備えたことを特徴とする金属調装飾部品成形金型(70)。
【請求項14】
前記成形補助型(71)には、互いに異なるタイミングで前記金属調成形シート(10)を押圧する複数の押圧部(80X,80Y)が備えられたことを特徴とする請求項13に記載の金属調装飾部品成形金型(70)。
【請求項15】
前記複数の押圧部(80X,80Y)は、前記金属調成形シート(10)のうち前記金属調装飾部品(29)の中央部になる部分を押圧してから、その中央部になる部分の外側部分を押圧するように構成されたことを特徴とする請求項14に記載の金属調装飾部品成形金型(70)。
【請求項16】
前記成形補助型(71)のうち前記押圧部(80X,80Y)の横隣に設けられ、前記押圧部(80X,80Y)が前記金属調成形シート(10)を押圧する前に、前記シート成形型(72)に備えた凸部(73A)の先端との間に前記金属調成形シート(10)の厚さより大きなクリアランス(C)を介して対向配置されるガイド部(80A)を備えたことを特徴とする請求項14又は15に記載の金属調装飾部品成形金型(70)。
【請求項17】
前記成形補助型(71)と前記シート成形型(72)とを最も接近させたときに、それら成形補助型(71)及びシート成形型(72)における前記金属調装飾部品(29)を成形する部分の間に、前記金属調成形シート(10)の厚さより大きなクリアランス(C)が介在するように構成したことを特徴とする請求項13乃至16の何れかに記載の金属調装飾部品成形金型(70)。
【請求項18】
前記金属調成形シート(10)の厚さをtとし、前記クリアランスをCとすると、
t+0.2[mm]≦C≦t+1.0[mm]
、であることを特徴とする請求項17に記載の金属調装飾部品成形金型(70)。
【請求項19】
前記成形補助型(71)のうち少なくとも前記金属調成形シート(10)に当接する部分を、オレフィン系又はウレタン系の合成ゴムで形成したことを特徴とする請求項13乃至18の何れかに記載の金属調装飾部品成形金型(70)。
【請求項20】
前記成形補助型(71)をアルミ又は鉄で形成しかつ前記成形補助型(71)の少なくとも前記金属調成形シート(10)に当接する部分に表面磨きを施したことを特徴とする請求項13乃至18の何れかに記載の金属調装飾部品成形金型(70)。
【請求項21】
前記成形補助型(71)及び前記シート成形型(72)における前記金属調装飾部品(29)を成形する部分を囲みかつ前記成形補助型(71)と前記シート成形型(72)との間に密閉された圧縮ガス充填空間(70L)を形成するための囲壁(75A)と、
前記ガス吸引部(73C,74C,78,78P)がガスを吸引したときに、前記圧縮ガス充填空間(70L)に圧縮ガスを供給するためのガス供給部(75C)とを備えたことを特徴とする請求項13乃至20の何れかに記載の金属調装飾部品成形金型(70)。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図19】
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【図20】
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【図2】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−137066(P2006−137066A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327911(P2004−327911)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000204033)太平洋工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】