説明

金属部品の組立て装置および方法

【課題】エンジンのコンロッドのように、複数の部材が締結部材で締結されることで1つの環(リング)状の部品となり、その複数の部材にクラッキングによって分割されたものを用いることで、破断面の凹凸を利用して、簡単に接合面の面ずれを防止し、コストダウンや軽量化を実現するようにした金属部品の組立てにあたって、該金属部品がスチール等の延性を有する材料から成る場合でも、分離荷重の低下を抑え、疲労限界を大きくする。
【解決手段】分割されたロッド本体4とキャップ5とを、仕上げ加工にあたって仮組みする際に、超音波振動手段13によって超音波振動を与えつつ、ナットランナー12でナットの締付けを行う。したがって、ブラハ効果および部材間の摩擦の低減によって、僅かな押圧力で部材同士を押圧するだけで、接合面は発熱して軟化し、完全一致に近い状態で締結でき、部材間の接触面積の低下による分離荷重の低下を抑え、疲労限界を大きくできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部品の組立て装置および方法に関し、特に、前記金属部品が、エンジンのコネクティングロッドのように、延性を有する材料で環(リング)状に形成された状態から複数に分割後、相互に組合わせられて締結部材で締結されることで、前記環(リング)状部内に別部材を抱え込むような構成の場合に用いられ、たとえば仕上げ加工にあたって、仮組みするためのものに関する。
【背景技術】
【0002】
前記エンジンのコネクティングロッドのように、複数の部材が締結部材で締結されることで1つの環(リング)状の部品となり、前記複数の部材がそれぞれ別途に準備されたものではなく、元は一体に成型されたものが、いわゆるクラッキングによって前記複数に分割されたものを用いることで、破断面の凹凸を利用して、位置決めピン等を用いることなく、簡単に接合面の面ずれを防止し、コストダウンや軽量化を実現するようにした金属部品が従来から提案されている。
【0003】
そのような金属部品として、特許文献1には、スチールコンロッドの貫通孔に半割型マンドレルを嵌合し、この半割型マンドレルに楔を打ち込んで破断する方法において、上記マンドレルで拡張される貫通孔の拡張速度または拡張加速度を管理することで、経験によらず最適な破断状態を得られるようにしたものが示されている。
【特許文献1】特開2005−144560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1は、破断時に如何に正確に分割するかの管理方法を開示するものである。ところで、金属部品が、焼結材の場合は比較的綺麗に分割できるけれども、スチール等の延性を有する材料から成る場合、以下のような問題が生じる。先ず、図9で示すように前記破断面の変形で凹凸が完全に一致しないことである。図9は前記スチールコンロッドを示し、拡大して示す破断面では、面方向に対して、凹凸を10倍に拡大している。その拡大図で示すように、ロッド本体の凹部および凸部に対して、キャップの対応する凸部および凹部が、完全に嵌り込む形状となっていない。次に、バリや髭等の切粉様の余分な物が発生することである。さらに、図10で示すように、環(リング)状の真円度の低下で、ボルトなどの締結部材が挿通する孔の真直度にずれが生じることである。すなわち、破断時には、前記環(リング)の分割部分には、矢符A方向の引っ張りの力が生じ、前記環(リング)の径Dは収縮することになる。このためボルト孔はΔD、たとえば60μmも半径方向内方側に変位する。
【0005】
したがって、前記ロッド本体にキャップをボルト締結したときに、その締結力(前記ボルトの軸力)は、前記凹凸面の変形の修正、切粉の圧縮(押し潰す)、前記真直度の修正などに使用され、締結すべき部材間の分離荷重が低下し、疲労限界が小さくなるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、分割された環状の金属部品を組立てるにあたって、接合面(延性破断面)を一致させ、部材間の接触面積の低下による分離荷重の低下を抑えることができる金属部品の組立て装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の金属部品の組立て装置は、延性を有する材料で環(リング)状に形成された状態から複数に分割後、相互に組合わせられて締結部材で締結されることで、前記環(リング)状部内に別部材を抱え込むようにした金属部品を、たとえば仕上げ加工にあたって、仮組みするための組立て装置において、前記締結の際に、前記金属部品に超音波振動を与える超音波振動手段を含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の金属部品の組立て方法は、延性を有する材料で環(リング)状に形成された金属部品を複数に分割する破断工程と、前記分割された部材を相互に組合わせ、少なくとも1つの部材に超音波を与えつつ、接合面を押圧し、締結部材で締結する締結工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、エンジンのコネクティングロッドのように、複数の部材が締結部材で締結されることで1つの環(リング)状の部品となり、前記複数の部材がそれぞれ別途に準備されたものではなく、元は一体に成型されたものが、いわゆるクラッキングによって前記複数に分割されたものを用いることで、破断面の凹凸を利用して、位置決めピン等を用いることなく、簡単に接合面の面ずれを防止し、コストダウンや軽量化を実現するようにした金属部品において、該金属部品が、焼結材の場合は比較的綺麗に分割できるが、スチール等の延性を有する材料から成る場合、前記破断面の変形で凹凸が完全に一致せず、また切粉様の余分な物が発生し、さらに環(リング)状の真円度の低下で、ボルトなどの締結部材が挿通する孔の真直度にずれが生じる。このため、前記締結部材による締結時に、その締結力(前記ボルトの軸力等)が、前記凹凸面の変形の修正、切粉の圧縮、前記真直度の修正などに使用され、締結すべき部材間の分離荷重が低下し、疲労限界が小さくなる。そこで本発明では、分割された部材を、たとえば仕上げ加工にあたって仮組みする際に、超音波振動手段によって超音波振動を与える。前記仮組みから仕上げ加工の後は、前記部材は再度分割され、前記環(リング)状部内に別部材を抱え込むようにして、本組立てが行われる(前記コネクティングロッドの場合、エンジンの組立て工程でクランクシャフトに取付けられる)。
【0010】
したがって、前記超音波振動によるブラハ効果および部材間の摩擦の低減によって、僅かな押圧力で部材同士を押圧するだけで、接合面(延性破断面)は発熱して軟化し、良く馴染んで互いに密着することになる。これによって、前記接合面(延性破断面)を完全一致に近い状態で締結でき、部材間の接触面積の低下による前記分離荷重の低下を抑え、疲労限界を大きくすることができる。
【0011】
さらにまた、本発明の金属部品の組立て装置では、前記超音波振動手段は、前記環(リング)状の外径方向から超音波を伝播する第1の超音波振動手段と、前記環(リング)状の軸方向から超音波を伝播する第2の超音波振動手段とを備えて構成されることを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、第1の超音波振動手段は前記接合面の押圧方向(締結方向)に超音波を伝播し、第2の超音波振動手段は前記接合面の側方から超音波を伝播する。
【0013】
したがって、前記接合面(延性破断面)はより良く馴染み、該接合面(延性破断面)をより完全一致に近い状態で締結でき、部材間の接触面積の低下による前記分離荷重の低下を一層抑えることができる。
【0014】
また、本発明の金属部品の組立て装置では、前記金属部品は、互いに半割れ状に2分割され、前記第1の超音波振動手段は、前記半割れ(180°)の中央位置(90°位置)からずれて配置されることを特徴とする。
【0015】
上記の構成によれば、前記金属部品が互いに半割れ状に2分割される場合、前記環(リング)状の外径方向から超音波を伝播する第1の超音波振動手段を、前記半割れ(180°)の中央位置(90°位置)からオフセット配置すると、前記接合面(延性破断面)には捻れ振動が発生する。
【0016】
したがって、前記接合面(延性破断面)はより良く軟化し、該接合面(延性破断面)をより完全一致に近い状態で締結でき、部材間の接触面積の低下による前記分離荷重の低下をより一層抑えることができる。
【0017】
さらにまた、本発明の金属部品の組立て装置は、前記超音波よりも低い振動を与える音波振動手段をさらに備え、前記締結の前に、前記音波振動手段によって、前記分割された少なくとも一方の部材に前記音波振動を与えることで、切粉除去を行うことを特徴とする。
【0018】
上記の構成によれば、前記金属部品が前記クラッキングによって分割される際に前記延性によって生じた切粉を、音波振動手段で除去することができる。
【0019】
したがって、前記接合面(延性破断面)をより完全一致に近い状態で締結でき、部材間の接触面積の低下による前記分離荷重の低下を一層抑えることができる。
【0020】
また、本発明の金属部品の組立て装置では、前記音波振動手段は、前記超音波振動手段と共通の超音波伝播部材に取付けられることを特徴とする。
【0021】
上記の構成によれば、超音波伝播用の超音波伝播部材と、切粉除去用の振動板とを共用することができる。
【0022】
さらにまた、本発明の金属部品の組立て装置では、前記金属部品は、エンジンのコネクティングロッドであることを特徴とする。
【0023】
上記の構成によれば、エンジンのコネクティングロッドの場合、前記コストダウンや軽量化の要求が厳しく、スチールクラッキングが好適であるが、精度や分離荷重にも厳しい値が要求されるので、本発明を特に好適に実施することができる。
【0024】
また、本発明の金属部品の組立て方法は、前記破断工程の後に、分割部分における前記環(リング)の収縮した径を計測する計測工程と、その計測結果に応答して、前記分割部分を拡径させて前記収縮分を矯正する矯正工程とをさらに備えることを特徴とする。
【0025】
上記の構成によれば、破断工程で前記環(リング)の分割部分には引っ張りの力が生じ、前記環(リング)の径は収縮するので、その収縮した径を計測し、その計測結果に応じて拡径するように矯正しておくことで、接合面(延性破断面)の傾きを無くすことができるとともに、ボルトなどの締結部材が挿通する孔の真直度を高めることができる。これによって、前記接合面(延性破断面)をより完全一致に近い状態で締結することができる。
【0026】
さらにまた、本発明の金属部品の組立て方法は、前記締結工程の前に、分割部分の破断面をブラッシングして切粉を除去するブラッシング工程をさらに備えることを特徴とする。
【0027】
上記の構成によれば、延性を有する材料で環(リング)状に形成された金属部品を互いに引き離しで分割すると前記延性によって分割部分には切粉が生じるので、ブラッシングによってそれを除去しておくことで、前記接合面(延性破断面)をより完全一致に近い状態で締結できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の金属部品の組立て装置および方法は、エンジンのコネクティングロッドのように、複数の部材が締結部材で締結されることで1つの環(リング)状の部品となり、前記複数の部材が元は一体に成型されたものが、いわゆるクラッキングによって前記複数に分割されたものを用いることで、破断面の凹凸を利用して、簡単に接合面の面ずれを防止し、コストダウンや軽量化を実現するようにした金属部品において、該金属部品がスチール等の延性を有する材料から成る場合、分割された部材を組立てる際に、超音波振動手段によって超音波振動を与える。
【0029】
それゆえ、ブラハ効果および部材間の摩擦の低減によって、僅かな押圧力で部材同士を押圧するだけで、接合面(延性破断面)は発熱して軟化し、良く馴染んで互いに密着することになる。これによって、前記接合面(延性破断面)を完全一致に近い状態で締結でき、部材間の接触面積の低下による分離荷重の低下を抑え、疲労限界を大きくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の第1の形態に係る組立て装置1の構造を示す断面図である。この組立て装置1は、延性を有する材料で環(リング)状に形成された金属部品であるエンジンのコネクティングロッド2を、仮組みするための組立て装置である。図2は前記コネクティングロッド2の正面図であり、図3は図2の切断面線III−IIIから見た、すなわち軸線方向断面図である。
【0031】
前記コネクティングロッド2は、スチールによって一体物として鍛造され、切欠3の部分で、いわゆるクラッキングによって、ロッド本体4とキャップ5とに一旦分割された後、ボルト6およびナット7で締結されることによって、破断面の凹凸を利用して、位置決めピン等を用いることなく、簡単に接合面の面ずれを防止し、コストダウンや軽量化を実現するようにしたものである。前記の破断工程には、前述の特許文献1の手法を用いることができ、貫通孔8に半割型マンドレルを嵌合し、その半割型マンドレルに楔を打ち込むことで破断を行うことができる。
【0032】
そして、このコネクティングロッド2は、前記環(リング)状部である貫通孔8内に別部材であるクランクシャフトを挿通した(抱え込ませた)状態で前記ロッド本体4とキャップ5とを締結し、さらにもう1つの貫通孔9に、ピストンピンが挿通されるエンジンの本組立ての前に、前記貫通孔8内の仕上げ加工にあたって、前記組立て装置1によって、前述のように仮組立てが行われるものである。その仮組立てによって後述するように調整が行われ、前記仕上げ加工が行われた後、再び分解されて、仮組立てに使用されたボルト6およびナット7と合わせて前記本組立ての工程に送られる。
【0033】
図1を参照して、注目すべきは、本実施の形態の組立て装置1では、前記ロッド本体4とキャップ5とに分割されたコネクティングロッド2は、基台11上に搭載され、一対のナットランナー12によって、前記ナット7をボルト6に締結することで前記仮組立てを行うにあたって、前記貫通孔8の部分に超音波振動を与える超音波振動手段13が設けられていることである。この超音波振動手段13は、前記超音波振動を発生する超音波振動子14に、発生された超音波を前記貫通孔8の内周側から前記ロッド本体4およびキャップ5に伝播するプレート15とを備えて構成される。プレート15は、前記貫通孔8内に嵌り込み、また締結による内径変化に対応可能なように、円錐台状に形成される。
【0034】
前記コネクティングロッド2の交換時には、前記超音波振動手段13は、仮想線で示すように前記基台11上から退避しており、作業者によって、図示しない治具などに位置決めされて前記ロッド本体4が基台11上に搭載され、さらに接合面(延性破断面)が一致するようにキャップ5が基台11上に搭載され、ボルト6がボルト孔に挿通され、ナット7が仮締めされた状態で、前記超音波振動手段13は基台11上に移動され、該超音波振動手段13が連結されている押え部材16によって前記ロッド本体4が押さえ込まれた後、該超音波振動手段13が前記ロッド本体4およびキャップ5に接触する。その後、該超音波振動手段13によって前記超音波振動を与えながら、前記ナットランナー12によってナット7の締結が行われる。
【0035】
このように構成することで、延性を有する材料から成るコネクティングロッド2において、破断工程で相互に分割されたロッド本体4とキャップ5とをボルト6とナット7とで一体に組立てる(締結する)にあたって、超音波振動を与えることで、ブラハ効果および部材間の摩擦の低減によって、僅かな押圧力でロッド本体4とキャップ5とを押圧するだけで、接合面(延性破断面)は発熱して軟化し、良く馴染んで互いに密着することになる。これによって、前記破断工程で生じた破断面(接合面)における凹凸面の変形の修正や切粉の圧縮、およびボルト孔の真直度の修正などを行い、前記接合面(延性破断面)を完全一致に近い状態で締結できるようになる。また、そのような破断面(接合面)の修正等にボルト6の軸力(締結力)は殆ど使用されない。こうして、ロッド本体4とキャップ5との間の接触面積の低下による分離荷重の低下を抑え、疲労限界を大きくすることができる。
【0036】
特に、エンジンのコネクティングロッド2の場合、前記コストダウンや軽量化の要求が厳しく、スチールクラッキングが好適であるが、精度や分離荷重にも厳しい値が要求されるので、本発明を特に好適に実施することができる。
【0037】
図4は、上述のように構成される組立て装置1を用いる本発明の実施の一形態の組立て工程を説明するための図である。ステップS1の破断工程では、一体物として鍛造されたコネクティングロッド2が、前述の特許文献1のスチールクラッキングの手法を用いて、前記ロッド本体4とキャップ5とに一旦分割される。続いてステップS2の計測工程では、前記破断工程によって、分割部分に生じた径Dの収縮ΔD(図10参照)が計測される。その計測には、ノギスや三次元測定装置などを用いることができる。
【0038】
その計測結果を用いて、ステップS3の矯正工程では、図5で示すような矯正治具21を用いて、前記収縮ΔD分の矯正が行われる。この矯正治具21は、図示しない基台上に立設したガイドピン22によって前記ロッド本体4およびキャップ5を前記貫通孔8の外方側から保持固定し、前記貫通孔8内に挿入した固定ピース23によって分割部分の一方を固定し、他方を前記固定ピース23と離反変位することができる移動ピース24で拡径させて前記収縮ΔD分を矯正するものである。このように破断工程で生じた貫通孔8の径Dの収縮ΔD分を計測し、その計測結果に応じて拡径するように矯正しておくことで、接合面(延性破断面)25の傾きを無くすことができるとともに、ボルト孔26の真直度を高めることができる。これによって、前記接合面(延性破断面)25をより完全一致に近い状態で締結することができる。
【0039】
続いて、ステップS4のブラッシング工程では、前記破断面(接合面)25がブラッシングされて切粉が除去される。このブラッシング工程を行うことで、前記接合面(延性破断面)25を、より完全一致に近い状態で締結できる。
【0040】
その後、ステップS5の仮組立てによる締結工程では、前述のように超音波振動を与えながらロッド本体4とキャップ5とが締結され、ステップS6の仕上げ工程において、前記貫通孔8内の仕上げ加工が行われる。その後、ステップS7の再分解工程において、前記ロッド本体4とキャップ5との締結が解除され、ボルト6とナット7とを合わせてステップS8の前記本組立ての工程に送られ、クランクシャフトに組付けられる。
【0041】
[実施の形態2]
図6は、本発明の実施の第2の形態に係る組立て装置31の構造を示す側面図である。この組立て装置31は、前述の組立て装置1に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。組立てられるコネクティングロッド2についても、同様である。注目すべきは、この組立て装置31では、超音波振動手段として、コネクティングロッド2の前記環(リング)状部である貫通孔8の外径方向から超音波を伝播する第1の超音波振動手段32と、前記貫通孔8の軸方向(第1の超音波振動手段32とは直角方向)から超音波を伝播する第2の超音波振動手段33とを備えて構成されることである。
【0042】
基台34上には、ピン35および案内軸36によって、ピン35の軸回りに若干の揺動変位可能なフローティング基板37が支持されており、そのフローティング基板37上に設けられた治具38,39上に、前記コネクティングロッド2が搭載される。その一方の治具38は、前記コネクティングロッド2におけるロッド本体4の頭部4aを支持する載置部38aに、前記頭部4aが当接する当り片38bを備え、コネクティングロッド2の軸線方向断面で、L字型に形成される。そして、前記当り片38bの外方側から、前記第1の超音波振動手段32が超音波振動を与えると、前記ロッド本体4側からキャップ5側へ、それらの接合面の押圧方向(締結方向)に超音波が伝播し、前記ナットランナー12によるナット7の締付けによって、前記ロッド本体4とキャップ5とが容易に密着する。
【0043】
一方、前記案内軸36によって昇降基板42が昇降変位自在に支持されており、この昇降基板42の下面には、プレート40がばね41によって弾発的に支持されている。したがって、治具38,39上に搭載された前記コネクティングロッド2に対して、前記昇降基板42が下降すると前記プレート40が前記ばね41による一定の押圧力で、かつ前記ピン35およびばね41によって、フローティング基板37とプレート40とが相互に平行となって、前記プレート40がコネクティングロッド2に密着する。その状態で前記第2の超音波振動手段33によって超音波振動が発生されると、プレート40を介してコネクティングロッド2に、前記ロッド本体4とキャップ5との接合面の側方から超音波が伝播され、該ロッド本体4とキャップ5との密着を促進する。
【0044】
このように構成することで、前記接合面(延性破断面)はより良く馴染み(一層の軟化を図れ)、該接合面(延性破断面)をより完全一致に近い状態で締結でき、ロッド本体4とキャップ5との間の接触面積の低下による分離荷重の低下を一層抑えることができる。好ましくは、前記超音波振動手段32,33を交互に動作させることで、前記接合面(延性破断面)の軟化をより効果的に行うことができる。
【0045】
[実施の形態3]
図7は、本発明の実施の第3の形態に係る組立て装置51の構造を示す平面図である。この組立て装置51は、前述の組立て装置31に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。この図7では、図面の簡略化のために、前記フローティング基板37よりも下方の構成やプレート40よりも上方の構成は省略している。注目すべきは、この組立て装置51では、前記コネクティングロッド2において、ロッド本体4とキャップ5とが、貫通孔8の周囲で互いに半割れ状に2分割されているのに対して、前記第1の超音波振動手段32が、前記半割れ(180°)の中央位置(90°位置:直径線Dで示す)から、参照符号ΔDだけずれて(オフセット)配置されることである。
【0046】
このようにオフセット配置すると、前記接合面(延性破断面)には捻れ振動が発生することになり、前記接合面(延性破断面)はより良く軟化し、該接合面(延性破断面)をより完全一致に近い状態で締結でき、ロッド本体4とキャップ5との間の接触面積の低下による前記分離荷重の低下をより一層抑えることができる。
【0047】
[実施の形態4]
図8は、本発明の実施の第4の形態に係る組立て装置61の構造を示す側面図である。この組立て装置61も、前述の組立て装置31に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。注目すべきは、この組立て装置61では、前記第2の超音波振動手段33に代えて、超音波よりも低く、振幅の大きな振動を与える音波振動手段63が用いられることである。前記音波振動手段63は、重錘を回転させることで振動を発生するバイブレータなどで実現することができる。
【0048】
このように構成することで、前記ロッド本体4とキャップ5との締結の前に、前記音波振動手段63によって、分割されている前記ロッド本体4とキャップ5との少なくとも一方に前記音波振動を与えることで、切粉除去を行うことができる。これによって、前記ステップS4でのブラッシング工程を省略することができる。また好ましくは、前記第2の超音波振動手段33と音波振動手段63とがプレート40に取付けられることで、前記貫通孔8の軸方向(第1の超音波振動手段32とは直角方向)からの超音波の伝播も行われ、前記第2の超音波振動手段33と音波振動手段63とにプレート40を共用することができる。
【0049】
ここで、特開2007−185731号公報には、圧電アクチュエータの作用部にネジ部材を接触させ、超音波振動によって締結することで、ネジの頭部にドライバー等に対応した刻印を設けなくてよいようにして、美観の向上や不所望な緩め操作を防止するようにしたネジ締結方法が示されており、前記圧電アクチュエータの作用部には複数のネジ部材を同時に接触させることも示されている。しかしながら、この先行技術では、ネジ自体に超音波を当てて、超音波のエネルギーはネジを回すために消費されるのに対して、本願発明では、超音波のエネルギーは、接合面(延性破断面)25を一致させるために使用され、全く異なるものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の第1の形態に係る組立て装置の構造を示す断面図である。
【図2】コネクティングロッドの正面図である。
【図3】図2の切断面線III−IIIから見た断面図である。
【図4】前記の組立て装置を用いる本発明の実施の一形態の組立て工程を説明するための図である。
【図5】前記コネクティングロッドの破断による変形の矯正方法を説明するための図である。
【図6】本発明の実施の第2の形態に係る組立て装置の構造を示す側面図である。
【図7】本発明の実施の第3の形態に係る組立て装置の構造を示す平面図である。
【図8】本発明の実施の第4の形態に係る組立て装置の構造を示す側面図である。
【図9】前記コネクティングロッドの破断による破断面の変形の様子を説明するための図である。
【図10】前記コネクティングロッドの破断による締結用ボルト孔の真直度のずれの様子を説明するための図である。
【符号の説明】
【0051】
1,31,51,61 組立て装置
2 コネクティングロッド
4 ロッド本体
5 キャップ
6 ボルト
7 ナット
8,9 貫通孔
11 基台
12 ナットランナー
13 超音波振動手段
14 超音波振動子
15 プレート
16 押え部材
21 矯正治具
23 固定ピース
24 移動ピース
25 接合面(延性破断面)
26 ボルト孔
32 第1の超音波振動手段
33 第2の超音波振動手段
34 基台
37 フローティング基板
38,39 治具
40 プレート
41 ばね
42 昇降基板
63 音波振動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
延性を有する材料で環状に形成された状態から複数に分割後、相互に組合わせられて締結部材で締結されることで、前記環状部内に別部材を抱え込むようにした金属部品の組立て装置において、
前記締結の際に、前記金属部品に超音波振動を与える超音波振動手段を含むことを特徴とする金属部品の組立て装置。
【請求項2】
前記超音波振動手段は、前記環状の外径方向から超音波を伝播する第1の超音波振動手段と、前記環状の軸方向から超音波を伝播する第2の超音波振動手段とを備えて構成されることを特徴とする請求項1記載の金属部品の組立て装置。
【請求項3】
前記金属部品は、互いに半割れ状に2分割され、前記第1の超音波振動手段は、前記半割れの中央位置からずれて配置されることを特徴とする請求項2記載の金属部品の組立て装置。
【請求項4】
前記超音波よりも低い振動を与える音波振動手段をさらに備え、
前記締結の前に、前記音波振動手段によって、前記分割された少なくとも一方の部材に前記音波振動を与えることで、切粉除去を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属部品の組立て装置。
【請求項5】
前記音波振動手段は、前記超音波振動手段と共通の超音波伝播部材に取付けられることを特徴とする請求項4記載の金属部品の組立て装置。
【請求項6】
前記金属部品は、エンジンのコネクティングロッドであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属部品の組立て装置。
【請求項7】
延性を有する材料で環状に形成された金属部品を複数に分割する破断工程と、
前記分割された部材を相互に組合わせ、少なくとも1つの部材に超音波を与えつつ、接合面を押圧し、締結部材で締結する締結工程とを含むことを特徴とする金属部品の組立て方法。
【請求項8】
前記破断工程の後に、分割部分における前記環の収縮した径を計測する計測工程と、
その計測結果に応答して、前記分割部分を拡径させて前記収縮分を矯正する矯正工程とをさらに備えることを特徴とする請求項7記載の金属部品の組立て方法。
【請求項9】
前記締結工程の前に、分割部分の破断面をブラッシングして切粉を除去するブラッシング工程をさらに備えることを特徴とする請求項7または8記載の金属部品の組立て方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−131622(P2010−131622A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308922(P2008−308922)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】