金属部品の製造方法、金属部品製造装置及び金属部品
【課題】高機械的強度を有する金属部品を高寸法精度かつ低コストで製造する方法及び製造装置並びにそれによって製造された金属部品を提供する。
【解決手段】被加工金属材11の表面に先端部に所定形状の開孔13bを有する加工治具13の先端部13aを押圧して、被加工金属材111と加工治具13を相対的に反対方向へ回転して摩擦熱を発生し、この摩擦熱によって開孔13b内への塑性流動を生じさせる点に特徴がある。
【解決手段】被加工金属材11の表面に先端部に所定形状の開孔13bを有する加工治具13の先端部13aを押圧して、被加工金属材111と加工治具13を相対的に反対方向へ回転して摩擦熱を発生し、この摩擦熱によって開孔13b内への塑性流動を生じさせる点に特徴がある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦攪拌プロセス技術を利用して小形の金属部品を製造する方法及び金属部品製造装置並びに摩擦攪拌プロセス技術を利用し製造された金属部品に関する。
【背景技術】
【0002】
第一の部材と第二の部材を固着、結合、係合、連結するために円柱状ピン、径大頭部を持つ円柱状ピン、径が異なる部分を持つ円柱状ピン、一部に中空部分を持つ円柱状ピン、円柱部にネジ溝が形成された円柱状ピンが広く使用されている。これら円柱状ピンは構造物を組み立てる場合に大量に使用される部品であり、正確な寸法精度を持ちかつ出来るだけ安価に製造することが要求されている。
【0003】
例えば、径大頭部を持つ円柱状ピンを製造する方法として、所定の外径及び長さを有する円柱金属部材を準備し、径大頭部となる部分は加工せずに残し、径小の支軸部分は旋盤を用いてバイトにより切削加工をすることで、加工精度が高くかつ加工工程の簡略化を図りコストダウンを達成する方法が開示されている(特許文献1)。この径大頭部を持つ円柱状ピンは、支軸部分を案内する中心孔を有するガイドピンと組み合わせて、磁気テープを収納するカートリッジを下ハーフと上ハーフを機械的に一体化するために使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−45032号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された径大頭部を持つ円柱状ピンを製造する方法は、旋盤を用いてバイト加工をして径小の支軸部分を形成しているため、寸法精度が作業者の技術力に左右され、常に高寸法精度を持つ円柱状ピンを得ることができないという問題がある。また、旋盤を用いる場合、切削と寸法測定を繰り返す必要があり、高い寸法精度を要求されるほど加工時間が長くなり、コスト高になるという問題がある。さらに切粉等の発生という問題もある。
【0006】
本発明の目的は寸法精度の高い金属部品を製造する方法及び金属部品製造装置を提供することにある。
本発明の他の目的は短時間で金属部品を製造する方法及び金属部品製造装置を提供することにある。
本発明の別の目的は機械的特性の優れた円柱または円筒部分を備える金属部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明金属部品の製造方法の特徴とするところは、被加工金属材表面に、先端部に所定深さ及び形状の開孔を有する加工手段の先端部を押圧して被加工金属材と加工手段の少なくとも一方を回転する工程、回転による摩擦熱で被加工金属材の変形抵抗を低下させて加工手段の開孔内に塑性流動させる工程、被加工金属材から加工手段の開孔内に塑性流動した被加工金属材部分を分離する工程を備える点にある。被加工金属材に加工手段を押し当てて加工手段を回転させると摩擦熱が発生し、この摩擦熱によって加工手段に当接する被加工金属材の部分の温度が上昇することにより低応力下で塑性流動が発現し、被加工金属材の塑性流動が発現していない周囲の領域がストッパーとなり加工手段の先端部に形成された開孔内へ被加工金属材が流れ込み、加工手段に形成された開孔を金型とする金属部品が形成される。回転している時間に比例して塑性流動が発現している時間が長くなり、塑性流動によって加工手段の開孔内に被加工金属材の流れ込む量が増え、金属部品が大きくなる。塑性流動は被加工金属材が固体の状態で発現するため被加工金属材の組織は粗大化せず、他方、加工手段の摩擦攪拌によって金属部品の表面領域が他の領域に比較して微細化されているため、加工中の高温状態(被加工金属材の融点を絶対温度で表した数値の1/2以上の温度をいう)では超塑性的流動が生じて、変形応力は小さく、塑性流動性は非常に大きい状態になる。一方、加工終了後室温に戻った時の金属部品の機械的強度を大きくすることができる。摩擦熱は被加工金属材と加工手段を圧接した状態で両者を相対的に反対方向に回転させることによって発生するので、被加工金属材を静止して加工手段を回転すること、加工手段を静止して被加工金属材を回転すること、被加工金属材と加工手段を反対方向または同じ方向に異なる速度で回転することがこれに相当する。
【0008】
本発明金属部品の製造方法に使用する被加工金属材としては、マグネシウム、マグネシウム合金、アルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。マグネシウム合金としては、アルミニウムAl、亜鉛Zn、ジルコニウムZr、マンガンMn、リチウムLi、鉄Fe、珪素Si、銅Cu、ニッケルNi、カルシウムCa,希土類元素を少なくとも1種類含むマグネシウム合金が挙げられる。また、アルミニウム合金としては、銅Cu、マンガンMn、珪素Si、マグネシウムMg、亜鉛Zn、ニッケルNi、クロムCr、チタンTiを少なくとも1種類含むアルミニウム合金が挙げられる。
【0009】
本発明金属部品の製造方法の他の特徴とするところは、被加工金属材の一方面に先端部に所定深さ及び形状の開孔を有する第1の加工手段の先端部を押圧し、被加工金属材の他方面に所定深さ及び形状の凹部を有する第2の加工手段を押圧し、第1の加工手段及び第2の加工手段の少なくとも一方を回転する工程、回転による摩擦熱で被加工金属材の変形抵抗を低下させて第1の加工手段の開孔内及び第2の加工手段の凹部内に塑性流動させる工程、第1の加工手段と第2の加工手段が接する直前に回転を停止する工程、被加工金属材から第1の加工手段の開孔内に塑性流動した被加工金属材部分及び第2の加工手段の凹部内に塑性流動した被加工金属材部分を分離する工程を備える点にある。被加工金属材の両側から第1の加工手段と第2の加工手段を押し当てて加工手段の一方または両方を回転させると摩擦熱が発生し、この摩擦熱によって回転している加工手段に当接する被加工金属材の部分の温度が上昇することにより低応力下で塑性流動が発現し、被加工金属材の塑性流動が発現していない周囲の領域がストッパーとなり第1の加工手段の開孔内及び第2の加工手段の凹部内へ被加工金属材が流れ込み、第1の加工手段の開孔及び第2の加工手段の凹部が合わさって形成される空間を金型とする金属部品が形成される。この金属部品の製造方法は次の利点を有している。第1の利点は長さ方向の中間に径の大きい部分を有する金属部品を製造する場合、金型となる第1の加工手段の開孔及び第2の加工手段の凹部を径の大きい部分で分割することにより、塑性流動を利用して長さ方向の中間に径の大きい部分を有する金属部品の製造が可能になる。第2の利点は一端側に長手方向と直角をなす断面が円形以外の形状を有する金属部品を製造する場合、第1の加工手段の開孔で長手方向と直角をなす断面が円形を有する部分を、第2の加工手段の凹部で長手方向と直角をなす断面が円形以外の形状を有する部分を、それぞれ分担すれば、一端側に長手方向と直角をなす断面が円形以外の形状を有する金属部品を製造することが可能になる。
【0010】
本発明金属部品の製造方法の別の特徴とするところは、先端部に所定深さ及び形状の開孔を有する加工手段の開孔内に棒状の被加工金属材を案内押圧し、加工手段と被加工金属材の少なくとも一方を回転する工程、回転による摩擦熱で被加工金属材の変形抵抗を低下させて加工手段の開孔内全体に塑性流動させる工程、被加工金属材から加工手段の開孔内に塑性流動した被加工金属材部分を分離する工程を備える点にある。
【0011】
本発明金属部品の製造方法の更に別の特徴とするところは、所定深さ及び形状の開孔を有する第1の加工手段と所定深さ及び形状の凹部を有する第2の加工手段とを、開孔及びに凹部に被加工金属材を案内して押圧対向して第1の加工手段及び第2の加工手段の少なくとも一方を回転する工程、回転による摩擦熱で被加工金属材の変形抵抗を低下させて第1の加工手段の開孔内全体及び第2の加工手段の凹部内全体に塑性流動させる工程を備える点にある。被加工金属材は第1の加工手段の開孔の容積と2の加工手段の凹部の容積の総和と略等しい体積とするのが好ましい。この製造方法によれば、被加工金属材から塑性流動によって形成した金属部品を分離する工程を必要としない利点がある。
【0012】
本発明金属部品製造装置の特徴とするところは、金属材料を保持する手段と、先端部に所定深さ及び形状の開孔を有する加工手段と、加工手段を回転駆動する手段と、保持手段及び加工手段の少なくとも一方を両手段を結ぶ線上に沿って移動させる手段と、加工手段を被加工金属部材表面に押圧する手段とを具備する点にある。この構成により、外部から熱エネルギーを付与することなく被加工金属部材の塑性流動を利用して金属部品を形成することが出来る。この加工装置は金属部品を形成する単機能装置であっても、また順送プレス装置の複数の工程の中の一工程を担う装置部分であってもよい。
【0013】
本発明金属部品製造装置に使用する加工手段の材料としては、耐熱性、耐摩耗性、濡れ性が低い(被加工金属材と接着しない)ことが要求され、具体的材料としてはステンレス(例えばSUS鋼)、工具鋼(例えばSK鋼)、超合金(Ni系、Fe系、Co系)、セラミックス(CBN(立方晶ボロンナイトライド)、ZrO2、SiC、Si3N4、SiALON、Al2O3、Y2O3及びこれらの複合材料)、金属とセラミックスの複合材(例えばサーメット)が使用できる。
【0014】
本発明金属部品製造装置の他の特徴とするところは、表面に所定形状で所定深さの凹部を有する金属材料を保持する保持手段と、先端部に所定深さの開孔を有する加工手段と、加工手段及び保持手段の少なくとも一方を回転駆動する手段と、保持手段及び加工手段の少なくとも一方を両手段を結ぶ線上に沿って移動させる手段と、加工手段を被加工金属部材表面に押圧する手段とを具備する点にある。この装置は金属部品を2個の金型を用い、塑性流動を利用して製造する場合に適した製造装置で、保持手段を静止し加工手段を回転する使い方と、保持手段及び加工手段を反対方向または同方向に速度を変えて回転する使い方がある。特に、一端側に長手方向と直角をなす断面が円形以外の形状を有する金属部品を製造する場合に適した製造装置である。
【0015】
本発明金属部品の特徴とするところは、所定の長さで断面円形の軸心部を有し、軸心部の表面に隣接する領域が他の領域より微細化された組織である点にある。金属部品の表面に隣接する領域が他の領域より微細化された領域にすることにより、機械的強度を高くでき利点がある。この金属部品は携帯型情報端末、家電製品、自動車部品、鉄道用車両等に使用される部材を固着、結合、係合、連結するピン、ボルト等の小物部品として使用するに適している。
【発明の効果】
【0016】
本発明金属部品の製造方法によれば、摩擦熱を利用して被加工金属材の塑性流動を発現して加工手段に形成した所定形状の開孔に流し込み、数秒という一瞬のうちに金属部品を形成出来、従来の機械加工技術を使用する場合に比較して製造時間を大幅に短縮でき低コスト化が図れる。また、加工手段に形成した開孔を金型として使用するため、常に同一寸法および寸法精度を持つ金属部品を製造することが出来る。また、本発明金属部品製造装置は、本発明金属部品を塑性流動を利用して形成する手段を提供するもので、外部から熱エネルギーを付与することなく被加工金属材の表面に加工手段を押圧して回転することにより塑性流動を発現して金属部品を製造することが可能になる。更に、本発明金属部品は、その外形表面に隣接する領域(表面領域)が他の領域より微細化された組織になっているため、機械的特性の優れた金属部品を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明金属部品の製造方法を説明する概略断面図である。
【図2】本発明金属部品の製造方法の工程を説明するブロック図である。
【図3】本発明金属部品の製造方法の作用を説明する概略拡大図である。
【図4】本発明方法によって製造した金属部品の機械的特性が優れている点を説明する概略断面度である。
【図5】本発明方法によって製造した金属部品の組織状態を示す顕微鏡写真である。
【図6】本発明方法によって製造した金属部品の機械的強度を測定した結果を示す図である。
【図7】径大頭部を有するピンを製造する本発明金属部品の製造方法の一例を示す概略図である。
【図8】図7で製造した径大頭部を有するピンの正面図、平面図及び底面図である。
【図9】径大頭部を有するピンの変形例を製造する本発明金属部品の製造方法の一例を示す概略図である。
【図10】図9で製造した径大頭部を有するピンの正面図、平面図及び底面図である。
【図11】中間に径大部を有するピン製造する本発明金属部品の製造方法の一例を示す概略図である。
【図12】図11で製造した中間に径大部を有するピンの正面図、平面図及び底面図である。
【図13】本発明金属部品の製造方法により軸方向に貫通孔を有する金属部品を製造する一実施例を示す概略図である。
【図14】図13の方法で製造した金属部品の正面図及び平面図である。
【図15】図15は棒状の被加工金属材111を用いて金属部品を製造する方法を本発明金属部品の製造方法の別の実施例を示す概略図である。
【図16】短小棒状の被加工金属材を用いた本発明金属部品の製造方法の異なる実施例を示す概略図である。
【図17】図16の方法で製造した金属部品の正面図及び平面図である。
【図18】本発明金属部品製造装置の概略正面図及び底面図である。
【図19】本発明金属部品製造装置の別の実施例を示す概略図である。
【図20】本発明金属部品製造装置の異なる実施例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明金属部品を形成する方法の実施形態は、マグネシウム合金を被加工金属材として、その表面に先端部に金属部品と同形状の開孔を有するステンレス製の加工手段による摩擦攪拌による塑性流動を利用して金属部品を形成するのが最も簡便な方法である。マグネシウム及びマグネシウム系合金は軽量金属材で携帯型情報端末、家電製品、自動車部品、鉄道用車両等の金属部品として広く使用される傾向にある反面、加工技術が確立されておらず、普及には解決する課題が残されている。本発明によりこの問題を解決することが出来る。
【実施例1】
【0019】
図1及び図2は本発明金属部品の製造方法の一実施例を示す工程図で、図1において、11は金属部品の材料になる板状の被加工金属材、12は被加工金属材11を載置固定する加工台、13は先端部13aに金属部品の形状をなす開孔13bを有する断面が円形の加工治具、14は加工治具13を回転可能に支承する保持治具である。加工治具13は回転駆動源で回転され、かつ先端部13a方向に所定圧力で押圧する手段を有している。被加工金属材11を用いて金属部品を製造する場合、被加工金属材11を加工台12上の所定位置に載置して機械的、静電的または真空吸着により固定する(図2の工程A)と共に、製造する金属部品と同じ外形形状の開孔13bを有する加工治具13を保持具14に装着し、加工治具13を回転しながら先端部13aを被加工金属材11の表面に所定の加工速度と圧力で押圧する(図2の工程B)。加工治具13の先端部13aを回転しながら被加工金属材11の表面に押圧すると、加工治具13の先端部13aに当接している被加工金属材11の表面領域が摩擦熱による温度上昇により被加工金属材が軟化し、押圧下での加工治具の回転により容易に攪拌され、強ひずみ加工状態になり、動的再結晶等により微細化する。これにより被加工金属材の変形抵抗が低下する。このように微細化された組織は高温で塑性変形が容易となる超塑性的現象を発現する。超塑性的現象の発現により、塑性流動が生じ、更に、微細化していない領域でも高温状態下で、軟化して塑性流動する(図2の工程C)。塑性流動は後述するように、加工治具13の開孔13bに向かって流れ、図1の(b)に示すように被加工金属材11を開孔13b全体を充填し、金属部品15を形成する。しかる後、加工治具13の押圧・回転を停止する(図2の工程D)。これによって、図1(c)に示す開孔13bの形状と同一の金属部品15が得られる。図1の(b)では被加工金属材11と金属部品15は加工治具13によって分離されているが、製造装置の長期使用を考えると加工治具13と加工台12が接触する直前で加工治具13の押圧を止めるのが好ましく、金属部品15と被加工金属材11は薄い被加工金属材で繋がった状態で塑性流動を利用した加工が終了する。従って、最後に金属部品15と被加工金属材11から分離する作業が必要になる(図2の工程E)。
【0020】
塑性流動によって開孔13bの形状に沿った金属部品が形成される理由を図3を用いて説明する。図3は図1(b)を説明の都合上誇張拡大して示したもので、被加工金属材11の加工治具13の先端部13aが当接している領域11aの表面付近が超塑性的現象を発現して塑性流動を黒矢印方向に生じている状態を示している。一方、攪拌が生じない領域11aの表面から離れた下方部分は摩擦熱による温度上昇により変形抵抗が低下しており、加工治具13による押圧力により塑性流動を白矢印方向に生じる(通常の熱間成形に近い)。超塑性的現象を発現している被加工金属材11の領域11aは、その側方が超塑性的現象を発現していない周囲領域11bによって包囲されて白矢印Y12方向に押圧され、上方は加工治具13の先端部13a及び保持治具14によって白矢印Y13及びY14方向に押圧されており、黒矢印Y11a及び白矢印Y12a方向に押され、黒矢印Y11b及び白矢印Y12bで示す加工治具13の開孔13b方向が唯一の流動方向になる。加工治具13による摩擦攪拌が継続されている時間に比例して開孔13bへの流動は続き、開孔13bが被加工金属材11で充填される。従って、開孔13bを金型とした塑性流動により金属部品が得られる。
【0021】
被加工金属材表面に塑性流動によって突起を形成する場合、突起の裏面側にヒケと称する窪みが形成されるが、金属部品を製造する場合は加工治具13を加工台12に出来る限り接近させて被加工金属材と金属部品を分離可能にするためヒケの発生はなくなる。
【0022】
本発明金属部品の製造方法において重要な事項は、加工条件の設定である。マグネシウム、マグネシウム系合金、アルミニウム、アルミニウム系合金を被加工金属材とし室温で加工する場合、加工治具の回転数は200〜20000rpm、好ましくは500〜5000rpm、押し込み圧力は50kg/cm2以上が好ましい。
【0023】
図4を用いて本発明金属部品の製造方法によって製造した金属部品の機械的特性が優れている点を説明する。被加工金属材11の加工治具13によって摩擦攪拌された領域は微細化(動的再結晶等の発現)される。微細化された領域は高温で変形抵抗が低下するなどにより塑性変形が容易となり、超塑性的現象を発現して塑性流動が生じ、加工治具13の開孔13b内に流れ込み金属部品15を形成する。図4の表面近傍領域15aは摩擦攪拌によって微細化された組織を有する領域となっている。本発明の方法で金属部品を製造すると、微細化された組織が金属部品の略全周にわたって存在しているため、機械的強度の向上が図れる。
【0024】
図5は本発明金属部品の製造方法で製造した金属部品の組織状態を示す顕微鏡写真で、図4の○印の部分を示している。写真から明らかなように表面近傍領域の組織が他に比較して微細化されていることが判る。
【0025】
図6に本発明金属部品の製造方法によって製造した金属部品の機械的強度を計測した結果を示す。試験機はテスター産業株式会社のアイゾット型衝撃試験装置(WR=3kg・m)を用い、室温(20℃)にて同一条件で金属部品を形成した試料を各3個づつ準備して計測した。図の縦軸は衝撃値、横軸はマグネシウム合金の種類を示す。図中の点線及び一点鎖線はAZ31及びZK60Aの各素材の衝撃値を示す。試験片は板厚2mmのAZ31板材(AZ31t2)及び板厚3mmのAZ31板材(AZ31t3)並びに板厚3.1mmのZK60A板材に本発明方法により径小部の直径3mm、高さ約4mm、径大分の直径6mm、高さ4mmの図4に示す金属部品を形成している。図6から解るように、本発明方法によって形成した金属部品の衝撃値はいずれも素材より大きい値を示している。これは、金属部品の表面近傍領域の略全面にわたって微細組織が形成されていること、及び表面近傍領域以外の領域が摩擦熱により結晶成長していることに起因している。
【実施例2】
【0026】
図7は本発明金属部品の製造方法により径大頭部を有する金属部品を製造する一実施例を示す概略図である。図7において、11は金属部品の材料になる板状の被加工金属材、12は被加工金属材11を載置固定する加工台、13は先端部13aに金属部品の外形形状をなす開孔13bを有する断面が円形の加工治具で、図1と同じ部分には同じ符号を付してある。加工台12には開孔13bに対向する位置に開孔13bの径より大きい径を有する円形の凹部12aが形成されている。ピンを製造する際には、加工台12上に被加工金属材11を載置固定し、その表面に加工治具13を押圧しながら回転させればよい。これによって、被加工金属材11が超塑性的現象を発現又は摩擦熱による温度上昇により変形抵抗が低下して加工治具13の開孔13b内及び加工台12の凹部12a内へ塑性流動して、開孔13b及び凹部12aを金型とする図8に示す径大頭部を有するピン151が形成される。図8の(a)は金属部品に正面図、(b)は平面図、(c)は底面図である。ピン151は加工治具13の開孔13bで形成される径小の支軸部151aと加工台12の凹部12aで形成される径大頭部151bからなり、図では径大頭部151bの球面部に+形状の溝151b1を形成している。溝形状は+に限らず、必要に応じて−形状、円形状にしてもよし、溝を形成しなくてもよい。
【実施例3】
【0027】
図9は本発明金属部品の製造方法により径大頭部を有する金属部品を製造する一実施例を示す概略図である。図9において、図7と相違する点は加工治具13の開孔13b及び加工台12の凹部12aの形状である。即ち、加工治具13の開孔13bは開口部に位置する径大部13b1と奥に位置する径小部13b2からなっており、加工台12の凹部12aは加工治具13の径大部13b1の径と同じ長さの辺を持つ正方形断面を有し、底面に円形突起12a1を有している。このような加工治具13及び加工台12の間に被加工金属材11を挟み、加工治具13を被加工金属材11側に押圧しながら回転して加工すると図10に示す径大頭部を有するピン152が形成される。図10の(a)は金属部品に正面図、(b)は平面図、(c)は底面図である。ピン152は加工治具13の開孔13bの径小部13b2で形成される径小の支軸部152aと、径大部13b1で形成される断面円形を有する頭部152b及び加工台12の凹部12aで形成される頭部152b断面の円形が内接する正方形断面を有する径大頭部からなっている。152dは径大頭部152cの頭部平面に設けられた円形凹部で、図8で述べたようにこの形状に限定するものでない。
【実施例4】
【0028】
図11は本発明金属部品の製造方法により中間に径大部を有する金属部品を製造する一実施例を示す概略図である。図11において、加工治具13の開孔13bは開口端から奥に向かって順次径が小さくなる3個の断面円形孔部13b3、13b4、13b5を有し、加工台12の凹部12aは開口側に加工治具13の開孔13bは開口端と同じ径の略半球状部12a1と奥にそれより径小の断面円形孔部12a2を有している。このような加工治具13及び加工台12の間に被加工金属材11を挟み、被加工金属材11側に押圧しながら互いに反対方向に回転することにより図12に示す中間に径大部を有するピン153が形成される。図12の(a)は金属部品に正面図、(b)は平面図、(c)は底面図である。ピン153は両端に径小の支軸部153a、153dの間に径大部153b、153cを有している。
【実施例5】
【0029】
図13は本発明金属部品の製造方法により軸方向に貫通孔を有する金属部品を製造する一実施例を示す概略図である。図13において、加工治具13の開孔13b内に底部から開口端に達するピン13cが形成されている点が特徴である。開孔13bの形状は図示したもので、これに限定されるものではない。このような加工治具13及び加工台12の間に被加工金属材11を挟み、被加工金属材11側に押圧しながら互いに反対方向に回転することにより図14に示す軸方向に貫通孔154aを有するピン154を形成することができる。図14の(a)は金属部品の正面図、(b)は平面図である。この実施例において、ピン13cの長さを開口端に達しないように短くすれば、貫通孔でなく有底の孔を有する金属部品を形成することができる。
【実施例6】
【0030】
図15は棒状の被加工金属材111を用いて金属部品を製造する方法を本発明金属部品の製造方法の別の実施例を示す概略図である。図15に示すように、加工治具13の開孔13bの開口端より径小の直径を有する棒状の被加工金属材111を準備し、これを加工治具13の開孔13bの方向(黒矢印)に押圧しながら回転して、発生する摩擦熱を利用して被加工金属材111を塑性流動により開孔13bを充填することを特徴としている。開孔13bが被加工金属材111を充填した時点で被加工金属材111の回転を止め、白矢印の位置で例えばバイトにより被加工金属材111を開孔13b内に位置する部分とそれ以外の部分を切り離す。この場合、加工治具13を被加工金属材111と反対方向に回転してもよい。図15では棒状の被加工金属材111の軸を水平にした状態を示しているが、これに限定されることなく、棒状の被加工金属材111の軸を垂直にしてもよい。棒状の被加工金属材111の軸を垂直にする場合、加工治具13を下方に配置して押圧方向を上から下方向きにするのが被加工金属材111の塑性流動をスムーズに出来るので好ましい。
【実施例7】
【0031】
図16は短小棒状の被加工金属材112(ビレット)を用いて金属部品を製造する方法を本発明金属部品の製造方法の異なる実施例を示す概略図である。図16に示すように、金属部品即ち加工治具13の開孔13bの容積と加工台12の凹部12aの容積の総和と略同一体積を有し、加工治具13の開孔13bの開口端より径小の直径を有する短小棒状の被加工金属材112を準備し、これを加工治具13の開孔13b及び加工台12の凹部12aに装着して押圧しながら回転することを特徴としている。初期状態ではを加工治具13と加工台12は離れているが、摩擦熱を利用して被加工金属材112の塑性流動が進むに従って両者の間隔は小さくなり、最終的には接する直前になり、図17に示す金属部品155が得られる。図17の(a)は金属部品の正面図、(b)は平面図である。この方法によれば、バイトによる切り離し作業が不要になる。
【実施例8】
【0032】
図18は本発明金属部品製造装置の一実施例を示す概略図である。図18の(a)は正面図、(b)は側面図である。図18において、51は装置を設置する基台、52は基台51に固定されたフレーム、53はフレーム52に水平面でXY方向に移動可能に支持されたワーク保持ヘッド、531はワーク保持ヘッド53の表面付近に埋設された温度・圧力センサー、54はワーク保持ヘッド53を上下方向に移動する駆動軸で図示せぬ駆動モータで駆動される。55はワーク保持ヘッド53に支持された必要に応じて凹部を形成したワークホルダー、56は図1に示す加工治具13と保持具14からなる回転ツール、57は回転ツール56を保持するツールホルダー、58はツールホルダー57を支持すると共にツールホルダー57を上下方向に移動するツールホルダー駆動モータ、581はツールホルダー駆動モータに支持された定速度・低荷重制御装置、59はフレーム52に支持され、ツールホルダー駆動モータ58を支持し、回転ツール56を回転駆動するツール回転モータである。回転ツール56は図1の加工治具13のみであってもよい。ワークホルダー57を回転可能にしてもよい。
【0033】
かかる構成の金属部品製造装置を用いて金属部品を製造する場合には、ワークホルダー55上に被加工金属材を載置固定し、ワーク保持ヘッド53をXY方向に移動して被加工金属材の表面の決められた位置を回転ツール56に対向させる。次にツール回転モータ59によって回転ツール56を回転しながらツールホルダー駆動モータ58によってツールホルダー57を下方に移動して、回転ツール56を金属部材表面に所定圧力で接触させる。これによって摩擦熱により金属部材の表面に塑性流動を生じさせて回転ツールに形成された開孔を金型とする金属部品が形成される。金属部品が形成されるとツールホルダー駆動モータ58によってツールホルダー57を上方に移動させて回転ツール56をワークホルダーから離間し、ツール回転モータ59を停止して回転ツール56を停止する。
【0034】
回転ツール56を所定圧力で金属部材表面に接触させるための制御方法として圧力制御と位置制御が利用できる。圧力制御は一定荷重負荷により安定したピンの寸法制御が可能になる利点があるが、システム構成が複雑になる欠点がある。具体的には、ひずみゲージ及びロードセルをステージ及び回転軸に装着することによって実現する。また、熱影響により金属部品成形時の負荷荷重の変化が考えられ、この対策が必要である。位置制御はステージ及び回転軸をサーボモーター等で制御することで実現でき、制御が比較的容易である利点を持っている。しかし、提供される被加工材の板厚が均一でないと、金属部品寸法精度が低下する欠点がある。その解決策としては、レーザー変位計により常に板厚管理を行って、部品製造ごとに調整する方法がある。
【実施例9】
【0035】
図19は本発明金属部品製造装置の別の実施例を示す概略図である。図19の(a)は加工治具13の先端部13aの周辺部に突起13a1及び加工台12の表面の突起13a1に対向する個所に突起13a1を受け入れる凹部12b1を形成した例を、(b)は加工治具13の先端部13aの面が中心部から周辺部に向かって保持台14側に傾斜する形状にし、保持具14表面には加工治具13の先端部13aの面に対向する個所に中心部から周辺に向かって深さが大きくなる凹部12b2を形成した例を示している。これらの形状にすることにより、加工治具13の先端部13aの押圧・回転によって変形抵抗が低下した被加工金属材が塑性流動の方向が突起13a1によって開孔13bに向かう方向に制限され、開孔13bの充填をスムーズに行うことが出来る。
【実施例10】
【0036】
図20は本発明金属部品製造装置の異なる実施例を示す概略図である。図20の(a)は加工治具13の開孔13bの底部付近にガス抜き通路13dを形成した例を、図20の(b)は加工治具13の開孔13bに存在する角部にR(湾曲)部13b1を形成した例を、図20の(c)は加工治具13の開孔13bに存在する角部に角落とし部13b2を形成した例をそれぞれ示している。被加工金属材の塑性流動は加工治具13の開孔13bの壁面に沿って進行するので、壁面に角部が存在すると塑性流動が妨げられ、金属部品の製造に時間を要するか又は開孔13b形状に沿った形状の金属部品が得られないおそれがあるが、これら実施例によりこのようなおそれはなくなる。
【0037】
本発明金属部品の製造方法及び金属部品製造装置並びにそれによって製造された金属部品は、実施例で説明された方法及び構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0038】
15…金属部品、11…被加工金属材、12…加工台、13…加工治具、12a…凹部、13b…開孔。
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦攪拌プロセス技術を利用して小形の金属部品を製造する方法及び金属部品製造装置並びに摩擦攪拌プロセス技術を利用し製造された金属部品に関する。
【背景技術】
【0002】
第一の部材と第二の部材を固着、結合、係合、連結するために円柱状ピン、径大頭部を持つ円柱状ピン、径が異なる部分を持つ円柱状ピン、一部に中空部分を持つ円柱状ピン、円柱部にネジ溝が形成された円柱状ピンが広く使用されている。これら円柱状ピンは構造物を組み立てる場合に大量に使用される部品であり、正確な寸法精度を持ちかつ出来るだけ安価に製造することが要求されている。
【0003】
例えば、径大頭部を持つ円柱状ピンを製造する方法として、所定の外径及び長さを有する円柱金属部材を準備し、径大頭部となる部分は加工せずに残し、径小の支軸部分は旋盤を用いてバイトにより切削加工をすることで、加工精度が高くかつ加工工程の簡略化を図りコストダウンを達成する方法が開示されている(特許文献1)。この径大頭部を持つ円柱状ピンは、支軸部分を案内する中心孔を有するガイドピンと組み合わせて、磁気テープを収納するカートリッジを下ハーフと上ハーフを機械的に一体化するために使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−45032号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された径大頭部を持つ円柱状ピンを製造する方法は、旋盤を用いてバイト加工をして径小の支軸部分を形成しているため、寸法精度が作業者の技術力に左右され、常に高寸法精度を持つ円柱状ピンを得ることができないという問題がある。また、旋盤を用いる場合、切削と寸法測定を繰り返す必要があり、高い寸法精度を要求されるほど加工時間が長くなり、コスト高になるという問題がある。さらに切粉等の発生という問題もある。
【0006】
本発明の目的は寸法精度の高い金属部品を製造する方法及び金属部品製造装置を提供することにある。
本発明の他の目的は短時間で金属部品を製造する方法及び金属部品製造装置を提供することにある。
本発明の別の目的は機械的特性の優れた円柱または円筒部分を備える金属部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明金属部品の製造方法の特徴とするところは、被加工金属材表面に、先端部に所定深さ及び形状の開孔を有する加工手段の先端部を押圧して被加工金属材と加工手段の少なくとも一方を回転する工程、回転による摩擦熱で被加工金属材の変形抵抗を低下させて加工手段の開孔内に塑性流動させる工程、被加工金属材から加工手段の開孔内に塑性流動した被加工金属材部分を分離する工程を備える点にある。被加工金属材に加工手段を押し当てて加工手段を回転させると摩擦熱が発生し、この摩擦熱によって加工手段に当接する被加工金属材の部分の温度が上昇することにより低応力下で塑性流動が発現し、被加工金属材の塑性流動が発現していない周囲の領域がストッパーとなり加工手段の先端部に形成された開孔内へ被加工金属材が流れ込み、加工手段に形成された開孔を金型とする金属部品が形成される。回転している時間に比例して塑性流動が発現している時間が長くなり、塑性流動によって加工手段の開孔内に被加工金属材の流れ込む量が増え、金属部品が大きくなる。塑性流動は被加工金属材が固体の状態で発現するため被加工金属材の組織は粗大化せず、他方、加工手段の摩擦攪拌によって金属部品の表面領域が他の領域に比較して微細化されているため、加工中の高温状態(被加工金属材の融点を絶対温度で表した数値の1/2以上の温度をいう)では超塑性的流動が生じて、変形応力は小さく、塑性流動性は非常に大きい状態になる。一方、加工終了後室温に戻った時の金属部品の機械的強度を大きくすることができる。摩擦熱は被加工金属材と加工手段を圧接した状態で両者を相対的に反対方向に回転させることによって発生するので、被加工金属材を静止して加工手段を回転すること、加工手段を静止して被加工金属材を回転すること、被加工金属材と加工手段を反対方向または同じ方向に異なる速度で回転することがこれに相当する。
【0008】
本発明金属部品の製造方法に使用する被加工金属材としては、マグネシウム、マグネシウム合金、アルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。マグネシウム合金としては、アルミニウムAl、亜鉛Zn、ジルコニウムZr、マンガンMn、リチウムLi、鉄Fe、珪素Si、銅Cu、ニッケルNi、カルシウムCa,希土類元素を少なくとも1種類含むマグネシウム合金が挙げられる。また、アルミニウム合金としては、銅Cu、マンガンMn、珪素Si、マグネシウムMg、亜鉛Zn、ニッケルNi、クロムCr、チタンTiを少なくとも1種類含むアルミニウム合金が挙げられる。
【0009】
本発明金属部品の製造方法の他の特徴とするところは、被加工金属材の一方面に先端部に所定深さ及び形状の開孔を有する第1の加工手段の先端部を押圧し、被加工金属材の他方面に所定深さ及び形状の凹部を有する第2の加工手段を押圧し、第1の加工手段及び第2の加工手段の少なくとも一方を回転する工程、回転による摩擦熱で被加工金属材の変形抵抗を低下させて第1の加工手段の開孔内及び第2の加工手段の凹部内に塑性流動させる工程、第1の加工手段と第2の加工手段が接する直前に回転を停止する工程、被加工金属材から第1の加工手段の開孔内に塑性流動した被加工金属材部分及び第2の加工手段の凹部内に塑性流動した被加工金属材部分を分離する工程を備える点にある。被加工金属材の両側から第1の加工手段と第2の加工手段を押し当てて加工手段の一方または両方を回転させると摩擦熱が発生し、この摩擦熱によって回転している加工手段に当接する被加工金属材の部分の温度が上昇することにより低応力下で塑性流動が発現し、被加工金属材の塑性流動が発現していない周囲の領域がストッパーとなり第1の加工手段の開孔内及び第2の加工手段の凹部内へ被加工金属材が流れ込み、第1の加工手段の開孔及び第2の加工手段の凹部が合わさって形成される空間を金型とする金属部品が形成される。この金属部品の製造方法は次の利点を有している。第1の利点は長さ方向の中間に径の大きい部分を有する金属部品を製造する場合、金型となる第1の加工手段の開孔及び第2の加工手段の凹部を径の大きい部分で分割することにより、塑性流動を利用して長さ方向の中間に径の大きい部分を有する金属部品の製造が可能になる。第2の利点は一端側に長手方向と直角をなす断面が円形以外の形状を有する金属部品を製造する場合、第1の加工手段の開孔で長手方向と直角をなす断面が円形を有する部分を、第2の加工手段の凹部で長手方向と直角をなす断面が円形以外の形状を有する部分を、それぞれ分担すれば、一端側に長手方向と直角をなす断面が円形以外の形状を有する金属部品を製造することが可能になる。
【0010】
本発明金属部品の製造方法の別の特徴とするところは、先端部に所定深さ及び形状の開孔を有する加工手段の開孔内に棒状の被加工金属材を案内押圧し、加工手段と被加工金属材の少なくとも一方を回転する工程、回転による摩擦熱で被加工金属材の変形抵抗を低下させて加工手段の開孔内全体に塑性流動させる工程、被加工金属材から加工手段の開孔内に塑性流動した被加工金属材部分を分離する工程を備える点にある。
【0011】
本発明金属部品の製造方法の更に別の特徴とするところは、所定深さ及び形状の開孔を有する第1の加工手段と所定深さ及び形状の凹部を有する第2の加工手段とを、開孔及びに凹部に被加工金属材を案内して押圧対向して第1の加工手段及び第2の加工手段の少なくとも一方を回転する工程、回転による摩擦熱で被加工金属材の変形抵抗を低下させて第1の加工手段の開孔内全体及び第2の加工手段の凹部内全体に塑性流動させる工程を備える点にある。被加工金属材は第1の加工手段の開孔の容積と2の加工手段の凹部の容積の総和と略等しい体積とするのが好ましい。この製造方法によれば、被加工金属材から塑性流動によって形成した金属部品を分離する工程を必要としない利点がある。
【0012】
本発明金属部品製造装置の特徴とするところは、金属材料を保持する手段と、先端部に所定深さ及び形状の開孔を有する加工手段と、加工手段を回転駆動する手段と、保持手段及び加工手段の少なくとも一方を両手段を結ぶ線上に沿って移動させる手段と、加工手段を被加工金属部材表面に押圧する手段とを具備する点にある。この構成により、外部から熱エネルギーを付与することなく被加工金属部材の塑性流動を利用して金属部品を形成することが出来る。この加工装置は金属部品を形成する単機能装置であっても、また順送プレス装置の複数の工程の中の一工程を担う装置部分であってもよい。
【0013】
本発明金属部品製造装置に使用する加工手段の材料としては、耐熱性、耐摩耗性、濡れ性が低い(被加工金属材と接着しない)ことが要求され、具体的材料としてはステンレス(例えばSUS鋼)、工具鋼(例えばSK鋼)、超合金(Ni系、Fe系、Co系)、セラミックス(CBN(立方晶ボロンナイトライド)、ZrO2、SiC、Si3N4、SiALON、Al2O3、Y2O3及びこれらの複合材料)、金属とセラミックスの複合材(例えばサーメット)が使用できる。
【0014】
本発明金属部品製造装置の他の特徴とするところは、表面に所定形状で所定深さの凹部を有する金属材料を保持する保持手段と、先端部に所定深さの開孔を有する加工手段と、加工手段及び保持手段の少なくとも一方を回転駆動する手段と、保持手段及び加工手段の少なくとも一方を両手段を結ぶ線上に沿って移動させる手段と、加工手段を被加工金属部材表面に押圧する手段とを具備する点にある。この装置は金属部品を2個の金型を用い、塑性流動を利用して製造する場合に適した製造装置で、保持手段を静止し加工手段を回転する使い方と、保持手段及び加工手段を反対方向または同方向に速度を変えて回転する使い方がある。特に、一端側に長手方向と直角をなす断面が円形以外の形状を有する金属部品を製造する場合に適した製造装置である。
【0015】
本発明金属部品の特徴とするところは、所定の長さで断面円形の軸心部を有し、軸心部の表面に隣接する領域が他の領域より微細化された組織である点にある。金属部品の表面に隣接する領域が他の領域より微細化された領域にすることにより、機械的強度を高くでき利点がある。この金属部品は携帯型情報端末、家電製品、自動車部品、鉄道用車両等に使用される部材を固着、結合、係合、連結するピン、ボルト等の小物部品として使用するに適している。
【発明の効果】
【0016】
本発明金属部品の製造方法によれば、摩擦熱を利用して被加工金属材の塑性流動を発現して加工手段に形成した所定形状の開孔に流し込み、数秒という一瞬のうちに金属部品を形成出来、従来の機械加工技術を使用する場合に比較して製造時間を大幅に短縮でき低コスト化が図れる。また、加工手段に形成した開孔を金型として使用するため、常に同一寸法および寸法精度を持つ金属部品を製造することが出来る。また、本発明金属部品製造装置は、本発明金属部品を塑性流動を利用して形成する手段を提供するもので、外部から熱エネルギーを付与することなく被加工金属材の表面に加工手段を押圧して回転することにより塑性流動を発現して金属部品を製造することが可能になる。更に、本発明金属部品は、その外形表面に隣接する領域(表面領域)が他の領域より微細化された組織になっているため、機械的特性の優れた金属部品を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明金属部品の製造方法を説明する概略断面図である。
【図2】本発明金属部品の製造方法の工程を説明するブロック図である。
【図3】本発明金属部品の製造方法の作用を説明する概略拡大図である。
【図4】本発明方法によって製造した金属部品の機械的特性が優れている点を説明する概略断面度である。
【図5】本発明方法によって製造した金属部品の組織状態を示す顕微鏡写真である。
【図6】本発明方法によって製造した金属部品の機械的強度を測定した結果を示す図である。
【図7】径大頭部を有するピンを製造する本発明金属部品の製造方法の一例を示す概略図である。
【図8】図7で製造した径大頭部を有するピンの正面図、平面図及び底面図である。
【図9】径大頭部を有するピンの変形例を製造する本発明金属部品の製造方法の一例を示す概略図である。
【図10】図9で製造した径大頭部を有するピンの正面図、平面図及び底面図である。
【図11】中間に径大部を有するピン製造する本発明金属部品の製造方法の一例を示す概略図である。
【図12】図11で製造した中間に径大部を有するピンの正面図、平面図及び底面図である。
【図13】本発明金属部品の製造方法により軸方向に貫通孔を有する金属部品を製造する一実施例を示す概略図である。
【図14】図13の方法で製造した金属部品の正面図及び平面図である。
【図15】図15は棒状の被加工金属材111を用いて金属部品を製造する方法を本発明金属部品の製造方法の別の実施例を示す概略図である。
【図16】短小棒状の被加工金属材を用いた本発明金属部品の製造方法の異なる実施例を示す概略図である。
【図17】図16の方法で製造した金属部品の正面図及び平面図である。
【図18】本発明金属部品製造装置の概略正面図及び底面図である。
【図19】本発明金属部品製造装置の別の実施例を示す概略図である。
【図20】本発明金属部品製造装置の異なる実施例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明金属部品を形成する方法の実施形態は、マグネシウム合金を被加工金属材として、その表面に先端部に金属部品と同形状の開孔を有するステンレス製の加工手段による摩擦攪拌による塑性流動を利用して金属部品を形成するのが最も簡便な方法である。マグネシウム及びマグネシウム系合金は軽量金属材で携帯型情報端末、家電製品、自動車部品、鉄道用車両等の金属部品として広く使用される傾向にある反面、加工技術が確立されておらず、普及には解決する課題が残されている。本発明によりこの問題を解決することが出来る。
【実施例1】
【0019】
図1及び図2は本発明金属部品の製造方法の一実施例を示す工程図で、図1において、11は金属部品の材料になる板状の被加工金属材、12は被加工金属材11を載置固定する加工台、13は先端部13aに金属部品の形状をなす開孔13bを有する断面が円形の加工治具、14は加工治具13を回転可能に支承する保持治具である。加工治具13は回転駆動源で回転され、かつ先端部13a方向に所定圧力で押圧する手段を有している。被加工金属材11を用いて金属部品を製造する場合、被加工金属材11を加工台12上の所定位置に載置して機械的、静電的または真空吸着により固定する(図2の工程A)と共に、製造する金属部品と同じ外形形状の開孔13bを有する加工治具13を保持具14に装着し、加工治具13を回転しながら先端部13aを被加工金属材11の表面に所定の加工速度と圧力で押圧する(図2の工程B)。加工治具13の先端部13aを回転しながら被加工金属材11の表面に押圧すると、加工治具13の先端部13aに当接している被加工金属材11の表面領域が摩擦熱による温度上昇により被加工金属材が軟化し、押圧下での加工治具の回転により容易に攪拌され、強ひずみ加工状態になり、動的再結晶等により微細化する。これにより被加工金属材の変形抵抗が低下する。このように微細化された組織は高温で塑性変形が容易となる超塑性的現象を発現する。超塑性的現象の発現により、塑性流動が生じ、更に、微細化していない領域でも高温状態下で、軟化して塑性流動する(図2の工程C)。塑性流動は後述するように、加工治具13の開孔13bに向かって流れ、図1の(b)に示すように被加工金属材11を開孔13b全体を充填し、金属部品15を形成する。しかる後、加工治具13の押圧・回転を停止する(図2の工程D)。これによって、図1(c)に示す開孔13bの形状と同一の金属部品15が得られる。図1の(b)では被加工金属材11と金属部品15は加工治具13によって分離されているが、製造装置の長期使用を考えると加工治具13と加工台12が接触する直前で加工治具13の押圧を止めるのが好ましく、金属部品15と被加工金属材11は薄い被加工金属材で繋がった状態で塑性流動を利用した加工が終了する。従って、最後に金属部品15と被加工金属材11から分離する作業が必要になる(図2の工程E)。
【0020】
塑性流動によって開孔13bの形状に沿った金属部品が形成される理由を図3を用いて説明する。図3は図1(b)を説明の都合上誇張拡大して示したもので、被加工金属材11の加工治具13の先端部13aが当接している領域11aの表面付近が超塑性的現象を発現して塑性流動を黒矢印方向に生じている状態を示している。一方、攪拌が生じない領域11aの表面から離れた下方部分は摩擦熱による温度上昇により変形抵抗が低下しており、加工治具13による押圧力により塑性流動を白矢印方向に生じる(通常の熱間成形に近い)。超塑性的現象を発現している被加工金属材11の領域11aは、その側方が超塑性的現象を発現していない周囲領域11bによって包囲されて白矢印Y12方向に押圧され、上方は加工治具13の先端部13a及び保持治具14によって白矢印Y13及びY14方向に押圧されており、黒矢印Y11a及び白矢印Y12a方向に押され、黒矢印Y11b及び白矢印Y12bで示す加工治具13の開孔13b方向が唯一の流動方向になる。加工治具13による摩擦攪拌が継続されている時間に比例して開孔13bへの流動は続き、開孔13bが被加工金属材11で充填される。従って、開孔13bを金型とした塑性流動により金属部品が得られる。
【0021】
被加工金属材表面に塑性流動によって突起を形成する場合、突起の裏面側にヒケと称する窪みが形成されるが、金属部品を製造する場合は加工治具13を加工台12に出来る限り接近させて被加工金属材と金属部品を分離可能にするためヒケの発生はなくなる。
【0022】
本発明金属部品の製造方法において重要な事項は、加工条件の設定である。マグネシウム、マグネシウム系合金、アルミニウム、アルミニウム系合金を被加工金属材とし室温で加工する場合、加工治具の回転数は200〜20000rpm、好ましくは500〜5000rpm、押し込み圧力は50kg/cm2以上が好ましい。
【0023】
図4を用いて本発明金属部品の製造方法によって製造した金属部品の機械的特性が優れている点を説明する。被加工金属材11の加工治具13によって摩擦攪拌された領域は微細化(動的再結晶等の発現)される。微細化された領域は高温で変形抵抗が低下するなどにより塑性変形が容易となり、超塑性的現象を発現して塑性流動が生じ、加工治具13の開孔13b内に流れ込み金属部品15を形成する。図4の表面近傍領域15aは摩擦攪拌によって微細化された組織を有する領域となっている。本発明の方法で金属部品を製造すると、微細化された組織が金属部品の略全周にわたって存在しているため、機械的強度の向上が図れる。
【0024】
図5は本発明金属部品の製造方法で製造した金属部品の組織状態を示す顕微鏡写真で、図4の○印の部分を示している。写真から明らかなように表面近傍領域の組織が他に比較して微細化されていることが判る。
【0025】
図6に本発明金属部品の製造方法によって製造した金属部品の機械的強度を計測した結果を示す。試験機はテスター産業株式会社のアイゾット型衝撃試験装置(WR=3kg・m)を用い、室温(20℃)にて同一条件で金属部品を形成した試料を各3個づつ準備して計測した。図の縦軸は衝撃値、横軸はマグネシウム合金の種類を示す。図中の点線及び一点鎖線はAZ31及びZK60Aの各素材の衝撃値を示す。試験片は板厚2mmのAZ31板材(AZ31t2)及び板厚3mmのAZ31板材(AZ31t3)並びに板厚3.1mmのZK60A板材に本発明方法により径小部の直径3mm、高さ約4mm、径大分の直径6mm、高さ4mmの図4に示す金属部品を形成している。図6から解るように、本発明方法によって形成した金属部品の衝撃値はいずれも素材より大きい値を示している。これは、金属部品の表面近傍領域の略全面にわたって微細組織が形成されていること、及び表面近傍領域以外の領域が摩擦熱により結晶成長していることに起因している。
【実施例2】
【0026】
図7は本発明金属部品の製造方法により径大頭部を有する金属部品を製造する一実施例を示す概略図である。図7において、11は金属部品の材料になる板状の被加工金属材、12は被加工金属材11を載置固定する加工台、13は先端部13aに金属部品の外形形状をなす開孔13bを有する断面が円形の加工治具で、図1と同じ部分には同じ符号を付してある。加工台12には開孔13bに対向する位置に開孔13bの径より大きい径を有する円形の凹部12aが形成されている。ピンを製造する際には、加工台12上に被加工金属材11を載置固定し、その表面に加工治具13を押圧しながら回転させればよい。これによって、被加工金属材11が超塑性的現象を発現又は摩擦熱による温度上昇により変形抵抗が低下して加工治具13の開孔13b内及び加工台12の凹部12a内へ塑性流動して、開孔13b及び凹部12aを金型とする図8に示す径大頭部を有するピン151が形成される。図8の(a)は金属部品に正面図、(b)は平面図、(c)は底面図である。ピン151は加工治具13の開孔13bで形成される径小の支軸部151aと加工台12の凹部12aで形成される径大頭部151bからなり、図では径大頭部151bの球面部に+形状の溝151b1を形成している。溝形状は+に限らず、必要に応じて−形状、円形状にしてもよし、溝を形成しなくてもよい。
【実施例3】
【0027】
図9は本発明金属部品の製造方法により径大頭部を有する金属部品を製造する一実施例を示す概略図である。図9において、図7と相違する点は加工治具13の開孔13b及び加工台12の凹部12aの形状である。即ち、加工治具13の開孔13bは開口部に位置する径大部13b1と奥に位置する径小部13b2からなっており、加工台12の凹部12aは加工治具13の径大部13b1の径と同じ長さの辺を持つ正方形断面を有し、底面に円形突起12a1を有している。このような加工治具13及び加工台12の間に被加工金属材11を挟み、加工治具13を被加工金属材11側に押圧しながら回転して加工すると図10に示す径大頭部を有するピン152が形成される。図10の(a)は金属部品に正面図、(b)は平面図、(c)は底面図である。ピン152は加工治具13の開孔13bの径小部13b2で形成される径小の支軸部152aと、径大部13b1で形成される断面円形を有する頭部152b及び加工台12の凹部12aで形成される頭部152b断面の円形が内接する正方形断面を有する径大頭部からなっている。152dは径大頭部152cの頭部平面に設けられた円形凹部で、図8で述べたようにこの形状に限定するものでない。
【実施例4】
【0028】
図11は本発明金属部品の製造方法により中間に径大部を有する金属部品を製造する一実施例を示す概略図である。図11において、加工治具13の開孔13bは開口端から奥に向かって順次径が小さくなる3個の断面円形孔部13b3、13b4、13b5を有し、加工台12の凹部12aは開口側に加工治具13の開孔13bは開口端と同じ径の略半球状部12a1と奥にそれより径小の断面円形孔部12a2を有している。このような加工治具13及び加工台12の間に被加工金属材11を挟み、被加工金属材11側に押圧しながら互いに反対方向に回転することにより図12に示す中間に径大部を有するピン153が形成される。図12の(a)は金属部品に正面図、(b)は平面図、(c)は底面図である。ピン153は両端に径小の支軸部153a、153dの間に径大部153b、153cを有している。
【実施例5】
【0029】
図13は本発明金属部品の製造方法により軸方向に貫通孔を有する金属部品を製造する一実施例を示す概略図である。図13において、加工治具13の開孔13b内に底部から開口端に達するピン13cが形成されている点が特徴である。開孔13bの形状は図示したもので、これに限定されるものではない。このような加工治具13及び加工台12の間に被加工金属材11を挟み、被加工金属材11側に押圧しながら互いに反対方向に回転することにより図14に示す軸方向に貫通孔154aを有するピン154を形成することができる。図14の(a)は金属部品の正面図、(b)は平面図である。この実施例において、ピン13cの長さを開口端に達しないように短くすれば、貫通孔でなく有底の孔を有する金属部品を形成することができる。
【実施例6】
【0030】
図15は棒状の被加工金属材111を用いて金属部品を製造する方法を本発明金属部品の製造方法の別の実施例を示す概略図である。図15に示すように、加工治具13の開孔13bの開口端より径小の直径を有する棒状の被加工金属材111を準備し、これを加工治具13の開孔13bの方向(黒矢印)に押圧しながら回転して、発生する摩擦熱を利用して被加工金属材111を塑性流動により開孔13bを充填することを特徴としている。開孔13bが被加工金属材111を充填した時点で被加工金属材111の回転を止め、白矢印の位置で例えばバイトにより被加工金属材111を開孔13b内に位置する部分とそれ以外の部分を切り離す。この場合、加工治具13を被加工金属材111と反対方向に回転してもよい。図15では棒状の被加工金属材111の軸を水平にした状態を示しているが、これに限定されることなく、棒状の被加工金属材111の軸を垂直にしてもよい。棒状の被加工金属材111の軸を垂直にする場合、加工治具13を下方に配置して押圧方向を上から下方向きにするのが被加工金属材111の塑性流動をスムーズに出来るので好ましい。
【実施例7】
【0031】
図16は短小棒状の被加工金属材112(ビレット)を用いて金属部品を製造する方法を本発明金属部品の製造方法の異なる実施例を示す概略図である。図16に示すように、金属部品即ち加工治具13の開孔13bの容積と加工台12の凹部12aの容積の総和と略同一体積を有し、加工治具13の開孔13bの開口端より径小の直径を有する短小棒状の被加工金属材112を準備し、これを加工治具13の開孔13b及び加工台12の凹部12aに装着して押圧しながら回転することを特徴としている。初期状態ではを加工治具13と加工台12は離れているが、摩擦熱を利用して被加工金属材112の塑性流動が進むに従って両者の間隔は小さくなり、最終的には接する直前になり、図17に示す金属部品155が得られる。図17の(a)は金属部品の正面図、(b)は平面図である。この方法によれば、バイトによる切り離し作業が不要になる。
【実施例8】
【0032】
図18は本発明金属部品製造装置の一実施例を示す概略図である。図18の(a)は正面図、(b)は側面図である。図18において、51は装置を設置する基台、52は基台51に固定されたフレーム、53はフレーム52に水平面でXY方向に移動可能に支持されたワーク保持ヘッド、531はワーク保持ヘッド53の表面付近に埋設された温度・圧力センサー、54はワーク保持ヘッド53を上下方向に移動する駆動軸で図示せぬ駆動モータで駆動される。55はワーク保持ヘッド53に支持された必要に応じて凹部を形成したワークホルダー、56は図1に示す加工治具13と保持具14からなる回転ツール、57は回転ツール56を保持するツールホルダー、58はツールホルダー57を支持すると共にツールホルダー57を上下方向に移動するツールホルダー駆動モータ、581はツールホルダー駆動モータに支持された定速度・低荷重制御装置、59はフレーム52に支持され、ツールホルダー駆動モータ58を支持し、回転ツール56を回転駆動するツール回転モータである。回転ツール56は図1の加工治具13のみであってもよい。ワークホルダー57を回転可能にしてもよい。
【0033】
かかる構成の金属部品製造装置を用いて金属部品を製造する場合には、ワークホルダー55上に被加工金属材を載置固定し、ワーク保持ヘッド53をXY方向に移動して被加工金属材の表面の決められた位置を回転ツール56に対向させる。次にツール回転モータ59によって回転ツール56を回転しながらツールホルダー駆動モータ58によってツールホルダー57を下方に移動して、回転ツール56を金属部材表面に所定圧力で接触させる。これによって摩擦熱により金属部材の表面に塑性流動を生じさせて回転ツールに形成された開孔を金型とする金属部品が形成される。金属部品が形成されるとツールホルダー駆動モータ58によってツールホルダー57を上方に移動させて回転ツール56をワークホルダーから離間し、ツール回転モータ59を停止して回転ツール56を停止する。
【0034】
回転ツール56を所定圧力で金属部材表面に接触させるための制御方法として圧力制御と位置制御が利用できる。圧力制御は一定荷重負荷により安定したピンの寸法制御が可能になる利点があるが、システム構成が複雑になる欠点がある。具体的には、ひずみゲージ及びロードセルをステージ及び回転軸に装着することによって実現する。また、熱影響により金属部品成形時の負荷荷重の変化が考えられ、この対策が必要である。位置制御はステージ及び回転軸をサーボモーター等で制御することで実現でき、制御が比較的容易である利点を持っている。しかし、提供される被加工材の板厚が均一でないと、金属部品寸法精度が低下する欠点がある。その解決策としては、レーザー変位計により常に板厚管理を行って、部品製造ごとに調整する方法がある。
【実施例9】
【0035】
図19は本発明金属部品製造装置の別の実施例を示す概略図である。図19の(a)は加工治具13の先端部13aの周辺部に突起13a1及び加工台12の表面の突起13a1に対向する個所に突起13a1を受け入れる凹部12b1を形成した例を、(b)は加工治具13の先端部13aの面が中心部から周辺部に向かって保持台14側に傾斜する形状にし、保持具14表面には加工治具13の先端部13aの面に対向する個所に中心部から周辺に向かって深さが大きくなる凹部12b2を形成した例を示している。これらの形状にすることにより、加工治具13の先端部13aの押圧・回転によって変形抵抗が低下した被加工金属材が塑性流動の方向が突起13a1によって開孔13bに向かう方向に制限され、開孔13bの充填をスムーズに行うことが出来る。
【実施例10】
【0036】
図20は本発明金属部品製造装置の異なる実施例を示す概略図である。図20の(a)は加工治具13の開孔13bの底部付近にガス抜き通路13dを形成した例を、図20の(b)は加工治具13の開孔13bに存在する角部にR(湾曲)部13b1を形成した例を、図20の(c)は加工治具13の開孔13bに存在する角部に角落とし部13b2を形成した例をそれぞれ示している。被加工金属材の塑性流動は加工治具13の開孔13bの壁面に沿って進行するので、壁面に角部が存在すると塑性流動が妨げられ、金属部品の製造に時間を要するか又は開孔13b形状に沿った形状の金属部品が得られないおそれがあるが、これら実施例によりこのようなおそれはなくなる。
【0037】
本発明金属部品の製造方法及び金属部品製造装置並びにそれによって製造された金属部品は、実施例で説明された方法及び構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0038】
15…金属部品、11…被加工金属材、12…加工台、13…加工治具、12a…凹部、13b…開孔。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工金属材表面に、先端部に所定深さ及び形状の開孔を有する加工手段の先端部を押圧して前記被加工金属材と前記加工手段の少なくとも一方を回転する工程、前記回転による摩擦熱で前記被加工金属材の変形抵抗を低下させて前記加工手段の開孔内に塑性流動させる工程、前記被加工金属材から前記加工手段の開孔内に塑性流動した前記被加工金属材部分を分離する工程を備えることを特徴とする金属部品の製造方法。
【請求項2】
被加工金属材の一方面に先端部に所定深さ及び形状の開孔を有する第1の加工手段の先端部を押圧し、被加工金属材の他方面に所定深さ及び形状の凹部を有する第2の加工手段を押圧し、前記第1の加工手段及び前記第2の加工手段の少なくとも一方を回転する工程、前記回転による摩擦熱で前記被加工金属材の変形抵抗を低下させて前記第1の加工手段の前記開孔内及び前記第2の加工手段の前記凹部内に塑性流動させる工程、前記第1の加工手段と前記第2の加工手段が接する直前に前記回転を停止する工程、前記被加工金属材から前記第1の加工手段の前記開孔内に塑性流動した前記被加工金属材部分及び前記第2の加工手段の前記凹部内に塑性流動した前記被加工金属材部分を分離する工程を備えることを特徴とする金属部品の製造方法。
【請求項3】
先端部に所定深さ及び形状の開孔を有する加工手段の前記開孔内に被加工金属材を案内押圧し、前記加工手段と前記被加工金属材の少なくとも一方を回転する工程、前記回転による摩擦熱で前記被加工金属材の変形抵抗を低下させて前記加工手段の前記開孔内全体に塑性流動させる工程、前記被加工金属材から前記加工手段の前記開孔内に塑性流動した前記被加工金属材部分を分離する工程を備えることを特徴とする金属部品の製造方法。
【請求項4】
所定深さ及び形状の開孔を有する第1の加工手段と所定深さ及び形状の凹部を有する第2の加工手段とを、前記開孔及びに前記凹部に被加工金属材を案内して押圧対向して前記第1の加工手段及び前記第2の加工手段の少なくとも一方を回転する工程、前記回転による摩擦熱で前記被加工金属材の変形抵抗を低下させて前記第1の加工手段の前記開孔内全体及び前記第2の加工手段の前記凹部内全体に塑性流動させる工程を備えることを特徴とする金属部品の製造方法。
【請求項5】
前記被加工金属材は前記第1の加工手段の前記開孔の容積と前記第2の加工手段の前記凹部の容積の総和と略等しい体積を有することを特徴とする請求項4記載の金属部品の製造方法。
【請求項6】
被加工金属材料を保持する手段と、先端部に所定深さ及び形状の開孔を有する加工手段と、前記加工手段を回転駆動する手段と、前記保持手段及び前記加工手段の少なくとも一方を両手段を結ぶ線上に沿って移動させる手段と、前記加工手段を被加工金属部材表面に押圧する手段とを具備することを特徴とする金属部品製造装置。
【請求項7】
表面に所定形状で所定深さ及び形状の凹部を有する金属材料を保持する保持手段と、先端部に所定深さ及び形状の開孔を有する加工手段と、前記加工手段及び前記保持手段の少なくとも一方を回転駆動する手段と、前記保持手段及び前記加工手段の少なくとも一方を両手段を結ぶ線上に沿って移動させる手段と、前記加工手段を被加工金属部材表面に押圧する手段とを具備することを特徴とする金属部品製造装置。
【請求項8】
所定の長さで断面円形の軸心部を有し、前記軸心部の表面に隣接する領域が他の領域より微細化された組織であることを特徴とする金属部品。
【請求項1】
被加工金属材表面に、先端部に所定深さ及び形状の開孔を有する加工手段の先端部を押圧して前記被加工金属材と前記加工手段の少なくとも一方を回転する工程、前記回転による摩擦熱で前記被加工金属材の変形抵抗を低下させて前記加工手段の開孔内に塑性流動させる工程、前記被加工金属材から前記加工手段の開孔内に塑性流動した前記被加工金属材部分を分離する工程を備えることを特徴とする金属部品の製造方法。
【請求項2】
被加工金属材の一方面に先端部に所定深さ及び形状の開孔を有する第1の加工手段の先端部を押圧し、被加工金属材の他方面に所定深さ及び形状の凹部を有する第2の加工手段を押圧し、前記第1の加工手段及び前記第2の加工手段の少なくとも一方を回転する工程、前記回転による摩擦熱で前記被加工金属材の変形抵抗を低下させて前記第1の加工手段の前記開孔内及び前記第2の加工手段の前記凹部内に塑性流動させる工程、前記第1の加工手段と前記第2の加工手段が接する直前に前記回転を停止する工程、前記被加工金属材から前記第1の加工手段の前記開孔内に塑性流動した前記被加工金属材部分及び前記第2の加工手段の前記凹部内に塑性流動した前記被加工金属材部分を分離する工程を備えることを特徴とする金属部品の製造方法。
【請求項3】
先端部に所定深さ及び形状の開孔を有する加工手段の前記開孔内に被加工金属材を案内押圧し、前記加工手段と前記被加工金属材の少なくとも一方を回転する工程、前記回転による摩擦熱で前記被加工金属材の変形抵抗を低下させて前記加工手段の前記開孔内全体に塑性流動させる工程、前記被加工金属材から前記加工手段の前記開孔内に塑性流動した前記被加工金属材部分を分離する工程を備えることを特徴とする金属部品の製造方法。
【請求項4】
所定深さ及び形状の開孔を有する第1の加工手段と所定深さ及び形状の凹部を有する第2の加工手段とを、前記開孔及びに前記凹部に被加工金属材を案内して押圧対向して前記第1の加工手段及び前記第2の加工手段の少なくとも一方を回転する工程、前記回転による摩擦熱で前記被加工金属材の変形抵抗を低下させて前記第1の加工手段の前記開孔内全体及び前記第2の加工手段の前記凹部内全体に塑性流動させる工程を備えることを特徴とする金属部品の製造方法。
【請求項5】
前記被加工金属材は前記第1の加工手段の前記開孔の容積と前記第2の加工手段の前記凹部の容積の総和と略等しい体積を有することを特徴とする請求項4記載の金属部品の製造方法。
【請求項6】
被加工金属材料を保持する手段と、先端部に所定深さ及び形状の開孔を有する加工手段と、前記加工手段を回転駆動する手段と、前記保持手段及び前記加工手段の少なくとも一方を両手段を結ぶ線上に沿って移動させる手段と、前記加工手段を被加工金属部材表面に押圧する手段とを具備することを特徴とする金属部品製造装置。
【請求項7】
表面に所定形状で所定深さ及び形状の凹部を有する金属材料を保持する保持手段と、先端部に所定深さ及び形状の開孔を有する加工手段と、前記加工手段及び前記保持手段の少なくとも一方を回転駆動する手段と、前記保持手段及び前記加工手段の少なくとも一方を両手段を結ぶ線上に沿って移動させる手段と、前記加工手段を被加工金属部材表面に押圧する手段とを具備することを特徴とする金属部品製造装置。
【請求項8】
所定の長さで断面円形の軸心部を有し、前記軸心部の表面に隣接する領域が他の領域より微細化された組織であることを特徴とする金属部品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2011−5508(P2011−5508A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149124(P2009−149124)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、関東経済産業局、戦略的基盤技術高度化支援事業の委託業務、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(390005485)山野井精機株式会社 (6)
【出願人】(591106462)茨城県 (45)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、関東経済産業局、戦略的基盤技術高度化支援事業の委託業務、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(390005485)山野井精機株式会社 (6)
【出願人】(591106462)茨城県 (45)
【Fターム(参考)】
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