説明

金属酸化物含有酸化チタン化合物の製造方法

【課題】可視光照射下で光触媒として用いたときに、殺菌速度と有害ガス分解速度に優れる金属酸化物含有酸化チタン化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】X線回折分析による(101)面の回折ピークの半値幅が1.40°以下である原料酸化チタンと、チタン以外の金属の酸化物とを混合し、得られた混合物を300℃〜600℃で焼成することを特徴とする金属酸化物含有酸化チタン化合物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物を含有する酸化チタン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは、白色顔料として古くから利用されており、近年は化粧品などの紫外線遮蔽材料、光触媒、コンデンサ、サーミスタの構成材料あるいはチタン酸バリウムの原料等電子材料に用いられる焼結材料に広く利用され、特にここ数年、光触媒としての利用が盛んに試みられ、光触媒反応の用途開発が盛んに行われるようになっている。
【0003】
この酸化チタン光触媒の用途は非常に多岐に亘っており、水の分解による水素の発生、酸化還元反応を利用した有機化合物の合成、排ガス処理、空気清浄、防臭、殺菌、抗菌、水処理、照明機器等の汚れ防止等、数多くの用途開発が行われている。
【0004】
しかしながら、酸化チタンは、可視光付近の波長領域において大きな屈折率を示すため、可視光領域では殆ど光吸収を生じない。屋内での蛍光灯などの下での利用を考えると、蛍光灯の光はスペクトルのほとんどが400nm以上の可視光波であり、光触媒として十分な特性を発現することができないことから、可視光領域での触媒活性を発現させることができる、より利用性の高い光触媒の開発が望まれている。
【0005】
特に、高齢化社会を迎えるにあたって、抵抗力の弱い高齢者を考慮した施設内での抗菌需要、または病院内における院内感染防止のための抗菌需要は大きくなってきている。また、地球環境保全の見地から、低毒性で安全性の高い、環境対応型の抗菌材料が求められるようになっている。加えて、建築物の気密性の向上が進むにつれて、換気性が低下する構造物が増加しているため、室内大気の汚染度上昇が問題になりつつあり、上述の高齢者施設・病院に加えてホテル・トイレなどの公共施設における空気清浄度の向上や悪臭の消去に対する需要も年々増加している。
【0006】
これらの需要に対して、従来の技術においては、殺菌力の強い有機系殺菌剤または無機系殺菌剤を配合した塗料を室内の壁等に塗布したり、あるいは、VOC(揮発性有機化合物)ガスや悪臭ガスの吸着能を持った担体へこれらの殺菌剤を担持したものを配合した塗料が使用される場合があった。
【0007】
しかし、有機系殺菌剤は、毒性が高く安全性に問題があり、また無機系殺菌剤は、殺菌成分に対する耐性菌の発生により効果がなくなるという問題がある。さらにこれらの従来型抗菌剤によって殺菌が行われた場合でも、その細菌の持つ毒素や細菌の死骸が残留する、という問題は解決できない。また、VOCガスに対する担体吸着能は、その効果に限度がある。
【0008】
一方、純粋な酸化チタンは、紫外光照射下における光触媒効果によって、抗菌作用や、空気清浄作用、消臭作用を発現するが、上記高齢者施設、病院、ホテル、トイレ等の高い需要が期待される使用環境は、そのほとんどが紫外光の少ない室内環境であるため、従来の酸化チタンでは期待する効果を発現することができない。
【0009】
そこで、本出願人は、室内の蛍光灯の光でも光触媒としての触媒活性を発現することができる、利用性の高い酸化チタン光触媒の開発を行ってきた。
【0010】
例えば、本出願人は、硫黄原子がチタンサイトに導入された 硫黄原子導入酸化チタンに鉄等の金属種を含有させた酸化チタン化合物を提案している(特許文献1参照)。
【0011】
この酸化チタン化合物を、室内建材や壁に塗布し、またはコーティングした場合には、蛍光灯照射下においても、抗菌作用、空気清浄作用、消臭作用を発現し、また細菌の持つ毒素や細菌の死骸をも分解することができ、かつその効果は物理的な剥離がないかぎり持続することが可能である。
【0012】
しかしながら、上述の抗菌、消臭、空気清浄化の需要においては、可能な限り早く効果が発現することが求められ、従来よりもさらに優れた殺菌速度、有害ガス分解速度を達成し得るものが求められるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開2008/081957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このような状況下、本発明は、可視光照射下で光触媒として用いたときに、殺菌速度と有害ガス分解速度に優れる金属酸化物含有酸化チタン化合物を簡便に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記技術課題を解決すべく、本発明者等が鋭意検討したところ、X線回折分析による(101)面の回折ピークの半値幅が1.40°以下である原料酸化チタンと、チタン以外の金属の酸化物とを混合し、得られた混合物を300℃〜600℃で焼成して、金属酸化物含有酸化チタン化合物を作製することにより、前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、
(1)X線回折分析による(101)面の回折ピークの半値幅が1.40°以下である原料酸化チタンと、チタン以外の金属の酸化物とを混合し、得られた混合物を300℃〜600℃で焼成することを特徴とする金属酸化物含有酸化チタン化合物の製造方法、
(2)前記チタン以外の金属の酸化物が、鉄酸化物および銅酸化物から選ばれる一種以上である上記(1)に記載の金属酸化物含有酸化チタン化合物の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、可視光照射下で光触媒として用いたときに、殺菌速度と有害ガス分解速度に優れる金属酸化物含有酸化チタン化合物を簡便に製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の金属酸化物含有酸化チタン化合物の製造方法は、X線回折分析による(101)面の回折ピークの半値幅が1.40°以下である原料酸化チタンと、チタン以外の金属の酸化物とを混合し、得られた混合物を300℃〜600℃で焼成することを特徴とするものである。
【0019】
本発明においては、原料酸化チタンとして、X線回折分析による(101)面の回折ピークの半値幅が1.40°以下であるものを用いる。
【0020】
本発明において、原料酸化チタンは、X線回折分析による(101)面の回折ピークの半値幅が1.40°以下であるものであり、X線回折分析による(101)面の回折ピークの半値幅が1.40°以下であることにより、得られる金属酸化物含有酸化チタン化合物の光触媒活性を向上することができる。また、原料酸化チタンの上記X線回折分析による(101)面の回折ピークの半値幅は0.30°以上であることが適当である。
【0021】
(原料酸化チタン)
本発明において、原料酸化チタンとしては、X線回折分析による(101)面の回折ピークの半値幅が1.40°以下である限り特に制限されないが、特に、X線回折分析による測定でアナターゼ型又はルチル型を示す酸化チタンが可視光照射下において高い光触媒活性を呈するため好ましく、アナターゼ型酸化チタンがより好ましい。また、原料酸化チタンとしては、酸化チタンとともにまたは酸化チタンに代えて酸化チタンに光触媒活性を示す原子を導入した化合物から選ばれる一種以上を挙げることができ、酸化チタンに光触媒活性を示す原子を導入した化合物としては、例えば、硫黄原子導入酸化チタン、窒素原子導入酸化チタン、炭素原子導入酸化チタン、リン原子導入酸化チタンなどが挙げられる。
【0022】
本発明において、原料酸化チタンを構成する酸化チタンとしては、チタン塩をアルカリ化合物と反応させまたはチタン塩を加水分解反応させて作製したものが好ましい。
【0023】
チタン塩としては、例えば、チタンアルコキシド等の有機金属化合物、あるいは、四塩化チタン、三塩化チタン等のチタン塩化物や、硫酸チタニル、硫酸チタン等の硫酸塩のような無機塩が挙げられる。これらのうち、取り扱い性や経済性を考慮すると、チタン塩としては、四塩化チタン、硫酸チタニル、硫酸チタンが好ましい。
【0024】
チタン塩をアルカリ化合物と反応させて酸化チタンを作製する場合、チタン塩のアルカリ反応を行う方法としては、チタン塩を水に溶解させた水溶液を調製し、この水溶液を撹拌しながら、アルカリを混合して、上記チタン塩とアルカリとを接触させる方法が挙げられ、更に具体的には、例えば、
(アルカリ反応法1)チタン塩の水溶液に対して、アルカリの水溶液を滴下し、両者を接触させる方法、
(アルカリ反応法2)アルカリの水溶液に対して、チタン塩の水溶液を滴下し、両者を接触させる方法、
(アルカリ反応法3)反応容器にpHを調整した水を入れておき、その中に、チタン塩の水溶液とアルカリの水溶液とを滴下し、両者を接触させる方法、
を挙げることができる。
【0025】
上記アルカリは特に制限されず、例えば、アンモニア、アンモニア水等を挙げることができる。これらのうち、アンモニア又はアンモニア水は、金属成分を含有しないものであることから、得られる酸化チタンの可視光領域における光触媒活性を制御する上で好ましい。
【0026】
上記アルカリ反応法1〜アルカリ反応法3において、反応温度は、10〜80℃が好ましく、30〜80℃がより好ましい。反応温度が10℃未満だと反応が起こり難くなり、また、80℃を超えると、平均粒径が小さく且つ比表面積が大きいアルカリ反応物を得難くなる。
【0027】
次いで、アルカリ反応法1〜アルカリ反応法3でチタン塩とアルカリとを接触させて得られたスラリーから、ろ過、遠心分離等の方法により生成した反応物を分離することにより、あるいは、溶媒を蒸発除去することにより、固形状の反応物を得ることができ、得られた反応物を必要に応じ洗浄、乾燥または加熱処理することにより、酸化チタンを得ることができる。
【0028】
上記乾燥または加熱処理の際、処理温度は、通常100〜450℃であり、乾燥雰囲気は、空気、酸素ガスのような酸化性雰囲気や、窒素ガス、アルゴンガスのような不活性ガス雰囲気や、真空雰囲気等が挙げられる。また、乾燥または加熱処理時間は、処理温度により適宜調整されるが、1時間〜24時間が好ましい。乾燥または加熱処理温度が上記範囲内にあることにより、比表面積が100〜250m2/gであり、X線回折分析したときの酸化チタンの(101)面のピークの半値幅が2θ=1.40°以下、特に0.70〜1.40°である乾燥または加熱処理物を得易くなる。
【0029】
酸化チタンの製造方法の一例としては、例えば、反応容器にpHを3.0〜4.5に調整した水を入れておき、その中に四塩化チタン水溶液とアルカリ水溶液とを、pH4.0〜4.4、温度20℃〜80℃を維持するように1.5〜7.5時間かけて滴下、反応させたのち、得られたスラリーをデカンテーション法等によって導電率が30mS/m以下になるまで純水で洗浄し、これを乾燥または加熱処理することによって製造することができる。上記乾燥または加熱処理は、通常、空気、酸素ガスのような酸化性ガスの雰囲気下や、窒素ガス、アルゴンガスのような不活性ガスの雰囲気下で、100〜450℃の温度下、1時間〜24時間処理することにより行うことができる。
【0030】
このように、本発明において、原料酸化チタンを構成する酸化チタンとして、チタン塩をアルカリ化合物と反応させてなるものを用いる場合、酸化チタンの作製時に、チタン塩の反応条件(pH、温度、アルカリ化合物の添加速度など)や反応物の加熱処理条件(加熱処理温度、加熱処理時間等)を適宜選択することにより、所望の酸化チタンを得ることができる。
【0031】
また、原料酸化チタンを構成する酸化チタンとして、チタン塩を加水分解反応させてなるものを用いる場合、酸化チタンは、上記のチタン塩の溶液、例えば、チタンアルコキシド等の有機金属化合物や、四塩化チタン、三塩化チタン等のチタン塩化物や、硫酸チタニル、硫酸チタン等の硫酸塩をはじめとする無機塩の溶液に、水を加え、必要に応じ加温する方法を挙げることができる。例えば、チタンアルコキシド等の有機金属化合物の有機溶媒の溶液に、水を加え、チタン有機金属化合物を加水分解する方法や、四塩化チタン、三塩化チタン等のチタン塩化物や、硫酸チタニル、硫酸チタン等の硫酸塩のような無機塩の水溶液を加温または加圧することにより作製することができる。
【0032】
このように、本発明において、原料酸化チタンを構成する酸化チタンとして、チタン塩を加水分解反応させてなるものを用いる場合、酸化チタンの作製時に、チタン塩の加水分解条件(pH、加水分解速度、加水分解温度など)、スラリーからの固形物の分離、あるいは、固形物を得るために必要に応じて実施する洗浄、乾燥などの処理条件、反応物の加熱処理条件(加熱処理温度、加熱処理時間等)を適宜選択することにより、所望の原料酸化チタンを得ることができる。
【0033】
このようにして、比表面積が100〜250m2/gで、X線回折分析による酸化チタンを構成するアナターゼ型結晶の(101)面の回折ピークの半値幅が1.40°以下、特に0.70〜1.40°であり、かつ結晶構造がアナターゼ型である酸化チタンを得ることができる。
【0034】
本明細書において、結晶構造がアナターゼ型であるとは、ASTM D 3720−84に準拠する方法により、下記の式で定義されるルチル化率を算出した場合に、20質量%以下であることを意味する。
【0035】
ルチル化率(質量%)=100−100/(1+1.2×Ir/Id)
(但し、Ir:X線回折パターンにおける酸化チタンを構成するルチル型結晶酸化チタンの最強干渉線(面指数110)のピーク面積、Id:X線回折パターンにおける酸化チタンを構成するアナターゼ型酸化チタン粉末の最強干渉線(面指数101)のピーク面積である。)
【0036】
本発明において、原料酸化チタンを構成する酸化チタンはブルッカイト型結晶を含んでいても構わない。この場合、原料酸化チタンのX線回折パターンにおける「アナターゼ型結晶酸化チタンの面指数101のピーク面積、ブルッカイト型結晶酸化チタンの面指数120及び面指数111のピーク面積の合計」に対する「ブルッカイト型結晶酸化チタンの面指数121のピーク面積」の比が、10%以下であることが好ましい。
【0037】
(硫黄原子導入酸化チタン)
本発明において、原料酸化チタンは、硫黄原子導入酸化チタンであってもよい。原料として硫黄原子導入酸化チタンを用いる場合、硫黄原子導入酸化チタンとしては、X線回折分析による(101)面の回折ピークの半値幅が1.40°以下であるものであれば特に制限されないが、X線回折分析による(101)面の回折ピークの半値幅が1.40°以下である、酸化チタンのチタンサイトの一部に硫黄原子が導入されてなるものであることが好ましい。
【0038】
硫黄原子導入酸化チタンは、種々の方法により作製することができ、具体的には、
(1)酸化チタンと硫黄化合物との混合物を焼成する方法、
(2)チタンアルコキシドなどのチタン塩とチオ尿素類などの硫黄化合物とを混合焼成する方法(例えば、特開2004−143032公報に記載の方法)、
(3)硫酸チタンアンモニウムを焼成する方法、
(4)チオ尿素類などの硫黄化合物を含むチタン塩水溶液を、中和または加水分解し、次いで、得られた中和物または加水分解物を焼成する方法、
(5)物理的気相蒸着法、スパッタリング法、化学的気相蒸着法などにより作製する方法
などを挙げることができる。
【0039】
上記硫黄原子導入酸化チタンの製法(1)〜(5)のうち、製法(1)について詳述する。
【0040】
上記製法(1)においては、先ず、酸化チタンと硫黄化合物との混合物を作製する。
【0041】
酸化チタンとしては、上述した種々の酸化チタンを挙げることができ、上記チタン塩とアルカリ化合物との中和反応により得られる酸化チタンや、チタン塩の加水分解により得られる酸化チタンを、更に加熱処理して得られる酸化チタンが好ましく、比表面積が100〜250m2/gで、X線回折分析によるアナターゼの(101)面の回折ピークの半値幅が2θ=1.40°以下、好ましくは0.20〜0.90°であり、かつ結晶構造がアナターゼ型である酸化チタンが好ましい。
【0042】
酸化チタンと混合する硫黄化合物としては、有機硫黄化合物が好ましく、特にチオ尿素類が好ましい。
【0043】
例えば、1‐アセチル−2−チオ尿素(CHCONHCSNH)、アミジノチオ尿素(CS)、チオ尿素(HNCSNH)、1‐(1‐ナフチル)−2−チオ尿素(C1110S)、フェニルエチルチオ尿素(C12S)、マロニルチオ尿素(CS)、N−メチルチオ尿素(CS)、二酸化チオ尿素(HNC(NH)SOH)などを用いることができる。
【0044】
硫黄原子を酸化チタンのチタンサイトへ導入してなる硫黄原子導入酸化チタンを作製するためには、酸化チタンと反応させる硫黄化合物として、熱により分解しその分解過程でSOガスやSOガスを生じ得る、分子中に硫黄原子を有する硫黄化合物が好ましく、常温で固体または液体である硫黄化合物がより好ましく、これらの硫黄化合物として、例えば、含硫黄有機化合物、含硫黄無機化合物、金属硫化物、硫黄などを挙げることができ、具体的には、チオ尿素、チオ尿素の誘導体、硫酸塩などを挙げることができる。これらのうち、特に、環状、非環状のチオ尿素類、中でもチオ尿素が、400〜500℃で完全に分解し、得られる酸化チタン化合物中に残存しないため好ましい。
【0045】
酸化チタンと硫黄化合物とを混合する方法としては、特に制限されず、例えば、
(硫黄化合物の混合法1)酸化チタン粉末に対して、硫黄化合物粉末を撹拌混合法などによって乾式で混合する方法、
(硫黄化合物の混合法2)硫黄化合物粉末が溶解した液中に酸化チタンを分散させた後、溶媒除去する方法、
(硫黄化合物の混合法3)酸化チタンを水に分散させたスラリーに、硫黄化合物粉末が溶解した水溶液を添加撹拌し、これをデカンテーション法などによって水で洗浄した後溶媒除去を行う方法、
(硫黄化合物の混合法4)酸化チタンの流動層中に、硫黄化合物粉末が溶解したスラリーを噴霧した後、乾燥する方法、
(硫黄化合物の混合法5)酸化チタンの流動層に、硫黄化合物粉末を気相蒸着法により担持する方法、
などを挙げることができる。
【0046】
これらの混合方法のうち、酸化チタンと硫黄化合物とを乾式で混合する方法が、操作性の点から好ましい。
【0047】
硫黄化合物の混合量は、酸化チタンに含まれる全チタン原子の量を100質量部とした場合に、硫黄原子換算量で0.5〜120質量部であることが好ましく、2〜80質量部であることがより好ましく、3〜50質量部であることがさらに好ましい。
【0048】
硫黄化合物の混合量が、酸化チタン中に含まれる全チタン原子の量を100質量部とした場合に、硫黄原子換算量で0.5〜120質量部であることにより、可視光領域での光触媒活性が良好な鉄酸化物含有酸化チタン化合物を得易くなる。特に、硫黄化合物の混合量を上記範囲とすることにより、酸化チタン中に含まれる全チタン原子の量を100質量部とした場合に、酸化チタンのチタンサイトの一部が、0.03〜0.35質量部の硫黄原子で置換されてなる、可視光領域での光触媒活性が良好な鉄酸化物含有酸化チタン化合物を得易くなる。
【0049】
酸化チタンと硫黄化合物との混合物の焼成は、焼成用容器に、酸化チタンと硫黄化合物との混合物を投入し、蓋をした状態で行うことが好ましい。上記混合物の焼成は、完全開放だと、硫黄化合物から発生するガスの滞留が起こらないため、若干蓋をずらして隙間を開けた上体で行うことが好ましい。上記混合物が焼成され、発生する熱によって硫黄化合物が分解されると、分解過程でSOガスが発生し、SOガス中の硫黄原子が、酸化チタン中に取り込まれ、酸化チタンのチタン原子の一部と置換されると考えられる。そのため、硫黄化合物の分解により生じるSOガスを雰囲気に滞留させつつ、混合物を焼成することが好ましい。
【0050】
上記焼成は、空気等の酸素含有ガスの存在下で行うことが好ましい。上記酸素含有ガスの供給流量を適宜調節することによって、硫黄化合物の完全分解を促すとともに、酸化チタン中に含まれる全チタン原子の量を100質量部とした場合に、酸化チタンのチタンサイトの一部が、0.03〜0.35質量部の硫黄原子で置換されてなる酸化チタン化合物(原料酸化チタン)を得ることができる。
【0051】
上記混合物の焼成温度は、300〜600℃であることが好ましく、400〜500℃であることがより好ましい。酸化チタンと硫黄化合物との混合物を焼成する際の焼成温度が300〜600℃の範囲内にあると、得られる金属酸化物含有酸化チタン化合物の可視光領域での光触媒活性が向上する。上記混合物の焼成時間は、0.5〜10時間であることが好ましく、1〜5時間であることがより好ましい。
【0052】
また、焼成後、水酸化ナトリウム、アンモニア水などのアルカリを用いて焼成物の表面を洗浄すると、さらに高い活性が得られる場合があるため、必要に応じて処理することが好ましい。
【0053】
得られる硫黄原子導入酸化チタンは、酸化チタンに含まれる全チタン原子の量を100質量部とした場合に、酸化チタンのチタンサイトの一部が0.03〜0.35質量部の硫黄原子で置換されてなるものであることが好ましく、酸化チタンのチタンサイトの一部が0.05〜0.30質量部の硫黄原子で置換されてなるものであることがより好ましい。酸化チタンのチタンサイトに対する硫黄原子の導入量が上記範囲内にあることにより、得られる鉄酸化物含有酸化チタン化合物の可視光領域における光触媒活性を高めることができる。
【0054】
酸化チタンのチタンサイトの一部が硫黄原子に置換されていることの確認は、X線光電子分光法(XPS)分析により行うことができる。原料酸化チタンのチタンサイトの一部が硫黄原子に置換されている場合、S4+に由来する169eV付近の特性ピークが確認される。
【0055】
硫黄原子導入酸化チタンは、比表面積が好ましくは50〜120m2/g、より好ましくは65〜95m2/gで、X線回折分析による硫黄原子導入酸化チタンを構成するアナターゼ型結晶の(101)面の回折ピークの半値幅が1.40°以下、好ましくは0.20〜0.90°であり、かつ結晶構造がアナターゼ型であることが好ましい。比表面積および半値幅が上記範囲内にあることにより、得られる金属酸化物含有酸化チタン化合物の可視光領域における光触媒活性を高めることができる。
【0056】
(窒素原子導入酸化チタン)
本発明において、原料酸化チタンは、窒素原子導入酸化チタンであってもよい。原料として、窒素原子導入酸化チタンを用いる場合、窒素原子導入酸化チタンとしては、X線回折分析による(101)面の回折ピークの半値幅が1.40°以下であるものであれば特に制限されないが、X線回折分析による(101)面の回折ピークの半値幅が1.40°以下である、酸化チタンの酸素サイトの一部に窒素原子が導入されてなるものが好ましい。この窒素原子導入酸化チタンも種々の方法で作製することができ、具体的には、上記硫黄原子導入酸化チタンの製法(1)と同様に、酸化チタンと窒素化合物との混合物を焼成する方法により作製することが好ましい。
【0057】
窒素化合物と混合する酸化チタンとしては、上記硫黄化合物と混合する酸化チタンと同様のものを挙げることができる。また、酸化チタンに代えて、酸化チタンの前駆体を用いてもよく、酸化チタンの前駆体としては、例えば、硫酸チタニル、硫酸チタン、塩化チタン、有機チタン化合物等を挙げることができる。
【0058】
有機チタン化合物としては、チタンのアルコキシドやアセチルアセトネート等を挙げることができ、例えば、テトライソプロポキシチタン、チタニウムブトキシド、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネート、テトラオクチルチタネート、チタンキレート、チタンアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンエチルアセトアセテート、チタンアシレート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネートテトラ−i−プロポキシチタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセテート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトン)チタニウム等が挙げられる。
【0059】
酸化チタンと混合する窒素化合物としては、尿素、二酸化尿素、二酸化チオ尿素、メラミン、グアニジン、シアヌル酸、ビウレット、ウラシル等を挙げることができる。
【0060】
酸化チタンと窒素化合物とを混合する方法としては、特に制限されず、例えば、上記硫黄化合物の混合法1〜5と同様の方法を挙げることができ、酸化チタンと窒素化合物とを乾式で混合する方法が、操作性の点から好ましい。
【0061】
窒素化合物の混合量は、酸化チタンに含まれる全チタン原子の量を100質量部とした場合に、窒素原子換算量で0.5〜120質量部であることが好ましく、1〜100質量部であることがより好ましい。
【0062】
酸化チタンと窒素化合物との混合物を焼成する方法としては、上記酸化チタンと硫黄化合物との混合物を焼成する方法と同様の方法を挙げることができ、その焼成温度は、200〜500℃であることが好ましい。上記焼成温度が200〜500℃の範囲内にあると、得られる鉄酸化物含有酸化チタン化合物の可視光領域での光触媒活性を向上させることができる。また上記混合物の焼成時間は、0.5〜10時間であることが好ましい。
【0063】
また、加熱処理後、硫酸、塩酸、硝酸など酸や水酸化ナトリウム、アンモニア水などのアルカリや高温水蒸気を用いて表面の反応残留物を洗浄すると、さらに高い活性が得られる場合があるため必要に応じて処理することが好ましい。
【0064】
原料酸化チタンが窒素原子導入酸化チタンである場合、X線光電子分光法(XPS)による測定スペクトルにおいて400eV付近にピークが確認できるものが可視光照射下において高い光触媒活性を呈し、特に、396eV〜397eV付近にピークが確認できるものがより高い光触媒活性を呈するため、好適である。このとき、酸化チタンのチタン原子と含有される窒素原子とが化学的な結合を有していると考えられ、酸化チタンの酸素原子の一部が窒素原子に置換された構造を有していると考えられる。
【0065】
(炭素原子導入酸化チタン)
本発明において、原料酸化チタンは、炭素原子導入酸化チタンであってもよい。原料酸化チタンとして炭素原子導入酸化チタンを用いる場合、炭素原子導入酸化チタンとしては、X線回折分析による(101)面の回折ピークの半値幅が1.40°以下であるものであれば特に制限されない。この炭素原子導入酸化チタンは、例えば炭化チタンを酸化雰囲気中で加熱処理することにより得ることができる。この場合、加熱処理温度は、300℃〜700℃が好ましく、450℃〜600℃がより好ましい。
【0066】
また、上述した酸化チタンまたは酸化チタンの前駆体を反応容器に入れ、真空度を大気圧より低くした状態でメタンなど炭素含有ガスを封入し電磁波を照射することによって、炭素原子を導入した酸化チタンを作製することもできる。このとき、反応容器内の圧力としては、0.1−10Torrの範囲が好ましく、0.5−5Torrの範囲がより好ましい。また、電磁波の周波数は、例えば2.45GHzを使用すると取り扱いが比較的容易である。また反応容器内には、水素やアンモニアガスなどの還元性のガスを同時に封入すると、この割合によって製作時間が調整できる。
【0067】
その他、TiC化合物と酸化チタン前駆体との混合物を100〜1000℃で加熱結晶化するによっても、炭素原子を導入した酸化チタンを得ることができる。
【0068】
(リン原子導入酸化チタン)
本発明において、原料酸化チタンはリン原子導入酸化チタンであってもよい。原料酸化チタンとしてリン原子導入酸化チタンを用いる場合、リン原子導入酸化チタンとしては、X線回折分析による(101)面の回折ピークの半値幅が1.40°以下であるものであれば特に制限されない。このリン原子導入酸化チタンは、例えば、リン化合物ガスを含む雰囲気下、上述した酸化チタンあるいは酸化チタンの前駆体を熱処理する方法、TiP化合物と上述した酸化チタンの前駆体との混合物を100〜1000℃で加熱結晶化する方法、リンを含む酸化チタン前駆体を中和、加水分解または熱分解する方法により作製することができる。
【0069】
[金属の酸化物]
本発明においては、上記原料酸化チタンと、チタン以外の金属の酸化物との混合物を焼成する。
【0070】
上記チタン以外の金属の酸化物としては、遷移金属元素、第12族元素から選ばれる金属元素の酸化物を挙げることができ、例えば、FeやFe等の鉄酸化物、CuOやCuO等の銅酸化物、AgO、WO、V、Bi、Nb、ZnO、ZrO、PtO、PdOなどが挙げられる。その他、In、PbO、FeTiO、SrTiO、BaTiO、CaTiO、KTaO、SnO、MnO、Cr、Co、Y、Moなども挙げられる。本発明の方法においては、上記金属の酸化物から選ばれる一種以上を用いることが好ましい。上記金属の酸化物の混合量は、得ようとする金属酸化物含有酸化チタンの光触媒活性や、抗菌性能により調整することができる。
【0071】
上記金属の酸化物が鉄酸化物である場合、鉄酸化物の混合量は、原料酸化チタンを構成する酸化チタンに含まれる全チタン原子の量を100質量部とした場合に、鉄原子換算で0.02〜0.8質量部であることが好ましく、0.03〜0.6質量部であることがより好ましく、0.05〜0.5質量部であることがさらに好ましい。鉄酸化物の混合量が、原料酸化チタンを構成する酸化チタンに含まれる全チタン原子の量を100質量部とした場合に、鉄原子換算で0.02〜0.8質量部であることにより、得られる鉄酸化物含有酸化チタン化合物の可視光領域における光触媒活性を向上させることができる。
【0072】
また、上記金属の酸化物が銅酸化物である場合、銅酸化物の混合量は、原料酸化チタンを構成する酸化チタンに含まれる全チタン原子の量を100質量部とした場合に、銅原子換算で0.5〜10質量部であることが好ましく、0.5〜7質量部であることがより好ましい。
【0073】
銅酸化物の混合量が、酸化チタンに含まれる全チタン原子の量を100質量部とした場合に、銅原子換算で0.5〜10質量部であることにより、得られる銅酸化物含有酸化チタン化合物の抗菌性、抗カビ性を向上させることができる。また、銅酸化物と鉄酸化物とを併用し、鉄酸化物・銅酸化物含有酸化チタン化合物とすることにより、さらに抗菌性、抗カビ性を向上させることができる。
【0074】
本発明において、鉄酸化物、銅酸化物その他の金属の酸化物は、その粒径が、混合相手となる、原料酸化チタンの粒径の1/5以下であることが好ましい。上記金属の酸化物の粒径が原料酸化チタンの粒径の1/5以下であることにより、原料酸化チタンの表面に、鉄酸化物や銅酸化物等の金属の酸化物を含有させることができる。
【0075】
原料酸化チタンと、鉄酸化物や銅酸化物等の金属の酸化物とを混合する方法は特に制限されず、例えば、
(金属酸化物添加法1)原料酸化チタン粉末と上記金属の酸化物粉末を撹拌混合法などによって乾式で混合する方法、
(金属酸化物添加法2)上記金属の酸化物が溶解した液中に原料酸化チタンを分散させた後、溶媒を除去する方法、
(金属酸化物添加法3)原料酸化チタンの流動層に、上記金属の酸化物が分散したスラリーを噴霧する方法、
(金属酸化物添加法4)原料酸化チタンの流動層に、上記金属の酸化物を気相蒸着法などにより担持する方法、
(金属酸化物添加法5)原料酸化チタンを構成する酸化チタンを作製する際の、酸化チタン前駆体溶液中に、上記金属の酸化物を分散させ、その後、中和、加水分解または熱分解を行うことにより、酸化チタンを析出させ、上記金属の酸化物との混合物を得る方法(なお、この場合、上記金属の酸化物は酸化チタン前駆体溶液に溶解しないものに限定される)、
などが挙げられる。
【0076】
上記金属の酸化物は、それぞれ個別に酸化チタン化合物に混合してもよいし、同時に混合してもよい。上記混合方法のうち、金属酸化物添加法1による混合が、操作性の点で好ましい。
【0077】
[焼成処理]
本発明においては、上記原料酸化チタンとチタン以外の金属の酸化物との混合物を300℃〜600℃で焼成する。
【0078】
上記焼成温度は、400〜500℃であることが好ましい。上記焼成温度が300〜600℃であることにより、得られる金属酸化物含有酸化チタン化合物の可視光領域での光触媒活性が向上する。焼成時間は、0.5〜10時間が好ましく、1〜5時間がより好ましい。焼成雰囲気は、大気雰囲気、不活性雰囲気、酸化雰囲気、還元性雰囲気などが好ましい。
【0079】
上記金属の酸化物と窒素原子導入酸化チタンとの混合物を焼成する場合は、大気中で酸窒化物の再酸化が進むため、窒素ガス雰囲気またはアンモニア雰囲気が好ましい。
【0080】
また、原料酸化チタンと上記金属の酸化物との混合物を焼成する場合、混合物中にさらに上記硫黄化合物や窒素化合物を添加してもよく、この場合、得られた金属酸化物含有酸化チタン化合物において、酸化チタン骨格中に硫黄原子や窒素原子を導入することができる。
【0081】
また、原料酸化チタンと上記金属の酸化物との混合物を焼成した後、焼成物に上記硫黄化合物や窒素化合物を添加して、焼成してもよく、この場合も、得られた金属酸化物含有酸化チタン化合物において、酸化チタン骨格中に硫黄原子や窒素原子を導入することができる。
【0082】
さらに、上記加熱処理後、得られた焼成物を、水酸化ナトリウムやアンモニア水などのアルカリを用いて表面洗浄すると、さらに高い活性が得られる場合があるため必要に応じて処理することが好ましい。
【0083】
本発明においては、上記混合物に焼成処理を施すことにより、得られる金属酸化物含有酸化チタン化合物は、その表面に金属酸化物を含有すると考えられる。
【0084】
本発明においては、上記焼成処理によって得られた焼成物を、さらに解砕することが好ましい。
【0085】
上記解砕は、衝撃作用、せん断作用や摩砕作用を利用した解砕装置を用いて行うことが好ましい。衝撃作用、せん断作用や摩砕作用を利用した解砕装置としては、具体的には、高速回転粉砕機、ジェットミル、ビーズミル、ハンマーミル、振動ミル、流星型ボールミルや、ホモジナイザー等の乳化・分散機等からなる解砕装置を挙げることができる。
【0086】
高速回転粉砕機は、ピン、ブレードなどを高速回転させ、衝撃又はせん断作用により、粉体の粉砕を行う装置である。高速回転粉砕機としては、例えば、ピンミルなどが挙げられる。
【0087】
解砕機として高速回転粉砕機を用いる場合、ピンやブレードの回転時における周速は100〜200m/秒であることが好ましく、150〜200m/秒であることが好ましい。また、高速回転粉砕機に対する被処理物(焼成物)の供給量は、200kg/h以下であることが好ましく、30〜200kg/hであることがより好ましく、30〜100kg/hであることがさらに好ましい。高速回転粉砕機に対する被処理物の供給量が200kg/hを超えると、十分な解砕処理が困難となる。また、同供給量が30kg/h未満であると、効率的な粉砕処理を行い難くなる。なお、被処理物が高速回転粉砕機内を循環するタイプの粉砕機では、解砕機内で処理される時間(粉砕時間)は1分以上であることが好ましい。
【0088】
また、ジェットミルは、高圧でノズルから噴射する空気などの気体に粉体を巻き込み、粒子相互又は粒子と衝撃板との衝突により、粉体の粉砕を行う装置である。
【0089】
解砕機としてジェットミルを用いる場合、処理圧力(ノズルから噴射するガス圧力)は、0.5〜1.0MPaであることが好ましい。ジェットミルに対する被処理物の供給量は、300kg/h以下であることが好ましく、10〜300kg/hであることがより好ましく、10〜100kg/hであることがさらに好ましい。ジェットミルに対するに被処理物の供給量が300kg/hを超えると、十分な解砕処理が困難となる。また、同供給量が10kg/h未満であると、効率的な粉砕処理を行い難くなる。
【0090】
解砕機としてビーズミルを用いる場合、回転部の周速度は4〜10m/sであることが好ましく、5〜8m/sであることがより好ましい。また、解砕機内で処理される時間(粉砕時間)は30〜300分であることが好ましく、60〜240分であることがより好ましい。
【0091】
解砕機としてホモジナイザー等の乳化・分散機を用いる場合、回転部の回転数は3000〜10000min−1であることが好ましく、5000〜8000min−1であることがより好ましい。また、解砕機内で処理される時間(粉砕時間)は5〜60分であることが好ましく、15〜30分であることがより好ましい。
【0092】
上記解砕処理は、複数の解砕機を順次用いて行ってもよい。
【0093】
上記解砕処理は、被処理物を水や有機溶媒等の溶媒に分散した状態で行ってもよいし、被処理物を乾式(粉末状)のまま行ってもよい。被処理物を溶媒に分散した状態で解砕した場合、解砕後に、適宜溶媒を分離することが好ましい。
【0094】
上記解砕処理により、抗菌性や殺菌速度に優れた金属酸化物含有酸化チタン化合物の微粒子状物を得ることができる。
【0095】
本発明の方法で得られる金属酸化物含有酸化チタン化合物は、レーザー光散乱回折法粒度測定機を用いて測定したときの、平均粒子径D50(体積積算粒度分布における積算粒度で50%の粒径)が0.1〜5.0μmであるものが好ましく、0.5〜2.0μmであるものがさらに好ましい。
【0096】
また、本発明の方法で得られる金属酸化物含有酸化チタン化合物は、BET比表面積が、50〜120m/gであるものが好ましく、 65〜95m/gであるものがさらに好ましい。
【0097】
本発明の方法で得られる金属酸化物含有酸化チタン化合物は、X線回折分析による(101)面の回折ピークが特定の半値幅を有する原料酸化チタンと、チタン以外の金属の酸化物とを、特定温度で焼成してなるものであることから、可視光照射下で光触媒として用いたときに、優れた殺菌速度と有害ガス分解速度を示すことができる。
【実施例】
【0098】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の例により何ら制限されるものではない。
【0099】
なお、以下の実施例および比較例において、半値幅の測定、結晶型の特定、比表面積の測定、硫黄含有量の測定、窒素含有量の測定、平均粒径D50の測定、光触媒性能の評価、抗菌性能試験は、以下の方法により行った。
【0100】
<半値幅の測定方法および結晶型の特定方法>
下記の装置を用い、以下の条件にて、半値幅の測定を行うとともに、結晶型を特定した。
【0101】
X線回折装置 RINT/Ultima+(株式会社リガク製)
X線管球 Cu
管電圧・管電流 40kV、20mA
スリット DS-SS:1度、RS:0.3mm
スキャンスピード 5°/min.
測定範囲 20°〜40°
モノクロメータ グラファイト
測定間隔 0.02度
計数方法 定時計数法
【0102】
得られた原料酸化チタンまたは金属酸化物含有酸化チタン化合物の(101)面のX線回折ピークより、その半値幅(°)を求めた。
【0103】
また、得られた原料酸化チタンまたは金属酸化物含有酸化チタン化合物において、ルチル型結晶酸化チタンのX線回折パターンにおける最強干渉線(面指数110)のピーク面積(Ir)と、アナターゼ型酸化チタン粉末のX線回折パターンにおける最強干渉線(面指数101)のピーク面積(Id)とを求め、以下の式でルチル化率を算出し20質量%以下であるものをアナターゼ型とした。
ルチル化率(質量%)=100−100/(1+1.2×Ir/Id)
【0104】
<比表面積の測定>
BET法により測定した。前処理の脱気条件は110℃、30分とした。
【0105】
<硫黄含有量の測定>
硫黄分の含有量は、ICP発光分光法(測定装置:エスアイアイ・ナノテクノロジ−株式会社製 SPS−3100)で測定した。
【0106】
<窒素含有量の測定>
窒素分の含有量は、アンモニア蒸留分離アミド硫酸滴定法により測定した。
【0107】
<平均粒径の評価>
粒度分布(平均粒径D50(体積積算粒度分布における積算粒度で50%の粒径)は以下の条件により測定した。
【0108】
粒度分布測定装置 LA-920(株式会社堀場製作所製)
分散条件 ヘキサメタリン酸ナトリウム0.2%水溶液に粉末を投入し、LA-920内蔵の超音波分散装置(出力30W-レンジ5)にて、3分間分散処理
【0109】
<光触媒性能の評価方法>
各測定試料0.10gを直径100mmのシャーレ内に入れて分散し、これを容量約1Lのテドラーバッグに入れたのち、紫外線ライトを16時間照射して、粉末表面の初期付着有機物を分解する。このテドラーバッグ内のガスを排気した後、アセトアルデヒドガス濃度100ppmのガス1Lをテドラ−バッグに封入する。これを暗所に0.5時間静置し、粉末に対するガスの暗所吸着をさせたのち、テドラーバッグ内のアセトアルデヒド濃度と二酸化炭素濃度を測定し、初期濃度とする。その後テドラーバッグの外側から蛍光灯の照射を開始し、3時間後のアセトアルデヒド濃度と二酸化炭素濃度を測定した。
【0110】
蛍光灯の照射条件として、光源は18W蛍光管(パナソニック電工(株)製、FL20SS・ENW/18X)を用い、シャーレ上面における照度が4000Lxになるように蛍光管からの距離を調節した。また、アセトアルデヒドガス濃度および二酸化炭素ガス濃度の測定は、ガスモニタ装置(INNOVA社製、光音響ガスモニタ)を使用して行った。
【0111】
アセトアルデヒドを完全に分解すると二酸化炭素を発生するが、実際に光照射を3時間したのちに発生した二酸化炭素量を算出し、これを1時間あたりの発生量に換算した値(二酸化炭素の生成速度)をVOCガス分解性能の指標とした。
【0112】
<抗菌性能(試験菌(黄色ぶどう球菌)に対する抗菌力)試験方法>
試験菌(黄色ぶどう球菌)を普通寒天培地に接種し、35℃、24時間培養した後、生理食塩水を用いて、菌数が10個/mLとなるように作製したものを試験菌液とした。また、精製水を用いて、鉄酸化物含有酸化チタン化合物の濃度が10mg/mLになるように作製したものを試験試料液とした。
【0113】
上記試験試料液10mLをL字試験管にそれぞれ入れた後、上記試験菌液1mLを接種し、25℃、照度1700〜1800Lxの光照射下と遮光下で、振とう培養し、所定の培養時間の生菌数を、希釈培養法を用いて測定した。また、生理食塩水をブランク(コントロール)試料として、同様に試験を行った。
【0114】
(実施例1)(鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンの製造例)
(1)酸化チタンの調製
以下の方法により、酸化チタンを調製した。
【0115】
攪拌機を備えた貯槽中に、出発液として、四塩化チタン水溶液(チタン濃度:5.7質量%)を用いて、pH3.8±0.5に調整した容量1350mL、液温60℃の酸性水溶液を用意した。
【0116】
上記貯槽中に、撹拌機により撹拌しながら、四塩化チタン水溶液(チタン濃度:5.7質量%)とアンモニア水溶液(アンモニア濃度:5.8質量%)とを、それぞれ、添加流量が約6.3g/分および約5.7g/分となるように、連続して5時間をかけて添加し、反応させることにより、酸化チタン含有スラリーを生成した。このとき、四塩化チタン水溶液およびアンモニア水溶液を添加した反応液の温度が60℃を維持するようにヒーターを使って調整した。また5時間の添加中は、反応液のpHが4.2±0.2の範囲になるように、各液の流量を適宜調節した。
【0117】
添加終了後、1時間撹拌を続けたのち、アンモニア濃度5.8%のアンモニア水溶液を添加して、スラリーのpHが5になるように調整した。このスラリーを濾過して得られた濾過ケ−キを、酸化チタン量に対して8倍量の純水中に投入して分散し、これを濾過するという洗浄操作を、濾液の電導率が30mS/m以下になるまで繰り返した。上記洗浄後の酸化チタンケーキをテフロン(登録商標)製バットに入れ、卓上乾燥機にて110℃で24時間乾燥したのち、200℃で3.5時間加熱処理を行うことにより、酸化チタン粉末を得た。
【0118】
(2)硫黄原子の混合、焼成処理
上記酸化チタン粉末に、チオ尿素(特級)(関東化学(株)製)を添加、混合することにより、酸化チタンとチオ尿素との混合物を得た。このとき、チオ尿素の混合量は酸化チタン中に含まれる全チタン原子の量を100質量部としたときに、チオ尿素を構成する硫黄原子換算で、6.8質量部となるように調整した。
【0119】
具体的には、上記酸化チタン粉末50gとチオ尿素粉末4.92gとを秤量し、これらを乳鉢で乾式粉砕混合した。
【0120】
上記乾式粉砕混合物のうち55gをチタン製の容器に装入し、これを電気炉に装填して、300℃で2.5時間焼成した。焼成中は、電気炉内へ大気が300〜350mL/minの流量で流入するように炉の排気流量を調整した。
得られた焼成物から49gを分取し、この分取した焼成物に対して、さらにチオ尿素19.8gを乾式混合することにより、上記焼成物とチオ尿素の混合物を得た。このとき、チオ尿素の混合量は、焼成物中に含まれる全チタン原子の量を100質量部としたときに、チオ尿素を構成する硫黄原子換算で、27.8質量部となるように調整した。この混合物をチタン製の容器に装入した後、電気炉に装填し、該炉内へ590〜830mL/minの流量で大気が流入するように炉の排気流量を調整しながら430℃で2.2時間焼成して、硫黄原子導入酸化チタンを得た。
【0121】
上記硫黄原子導入酸化チタンの比表面積は、84m/g、X線回折分析による(101)のピークの半値幅が0.37°であり、アナターゼ主体の結晶(ルチル化率:16%)であって、平均粒径D50が1.6μmであった。
【0122】
また、上記硫黄原子導入酸化チタンをX線光電子分光法(XPS)で分析したところ、S4+に由来する169eV付近の特性ピークが観察されたことから、酸化チタンを構成するチタンサイトの一部に硫黄原子が導入されていることが確認できた。
【0123】
(3)金属酸化物の混合、焼成処理
鉄酸化物として、酸化鉄(III)(関東化学(株)製、特級、平均粒径0.3μm)を用い、この酸化鉄(III)を、硫黄原子導入酸化チタンに含まれる全チタン原子の量を100質量部としたときに、鉄原子換算で、0.1質量部となるように調整して、(2)と同様にして、(2)で得た硫黄原子導入酸化チタンと乾式粉砕混合した。
【0124】
得られた混合物55gをチタン製の容器に装入し、これを電気炉に装填して、400℃で2時間焼成することにより、鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンを得た。焼成中は、電気炉内へ大気が300〜350mL/minの流量で流入するように炉内の排気流量を調整した。
【0125】
得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンにおいて、硫黄分含有量は0.09質量%であり、鉄酸化物の含有量は、鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタン中に含まれる全チタン原子の量を100質量部としたときに、鉄原子換算で、0.10質量部であった。
【0126】
また、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンをX線光電子分光法(XPS)で分析したところ、S4+に由来する169eV付近の特性ピークが観察されたことから、酸化チタンを構成するチタンサイトの一部に硫黄原子が導入されていることが確認できた。
【0127】
また、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンの比表面積は78m/g、結晶構造はアナターゼ型(ルチル化率:18%)、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンのXRD分析による(101)面の回折ピークの半値幅が2θ=0.36°であった。得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタン化合物において、酸化鉄(III)の結晶構造も確認できた。
【0128】
また、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンを用いて光触媒性能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0129】
(実施例2)(鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンの製造例)
実施例1(3)において、焼成温度を400℃から500℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンを得た。
得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンにおいて、硫黄分含有量は0.07質量%であり、鉄酸化物の含有量は、鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタン中に含まれる全チタン原子の量を100質量部としたときに、鉄原子換算で、0.10質量部である。
【0130】
また、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンをX線光電子分光法(XPS)で分析したところ、S4+に由来する169eV付近の特性ピークが観察されたことから、酸化チタンを構成するチタンサイトの一部に硫黄原子が導入されていることが確認できた。
【0131】
また、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタン化合物において、比表面積は58m/g、結晶構造はアナターゼ型(ルチル化率:20%)、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンのXRD分析による(101)面の回折ピークの半値幅が2θ=0.34°であった。得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンにおいて、酸化鉄(III)の結晶構造も確認できた。
【0132】
また、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンを用いて光触媒性能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0133】
(実施例3)(鉄酸化物を含有する窒素原子導入酸化チタンの製造例)
実施例1(2)において、チオ尿素に代えて尿素を用い、実施例1(3)において、焼成雰囲気を大気から窒素ガスに変更した以外は、実施例1と同様にして、鉄酸化物を含有する窒素原子導入酸化チタンを得た。
【0134】
得られた鉄酸化物を含有する窒素原子導入酸化チタンにおいて、X線回折分析による(101)面の回折ピークの半値幅は0.41°であり、平均粒径D50は1.6μmであった。
【0135】
また、得られた鉄酸化物を含有する窒素原子導入酸化チタンにおいて、窒素分含有量は0.24質量%であり、鉄酸化物の含有量は、鉄酸化物を含有する窒素原子導入酸化チタン中に含まれる全チタン原子の量を100質量部としたときに、鉄原子換算で、0.10質量部である。
【0136】
また、得られた鉄酸化物を含有する窒素原子導入酸化チタンをX線光電子分光法(XPS)で分析したところ、Ti−Nに由来する396eV付近の特性ピークが観察されたことから、酸化チタンを構成する酸素サイトの一部に窒素原子が導入されていることが確認できた。
【0137】
また、得られた鉄酸化物を含有する窒素原子導入酸化チタンの比表面積は81m/g、結晶構造はアナターゼ型(ルチル化率:15%)、得られた鉄酸化物を含有する窒素原子導入酸化チタンのXRD分析による(101)面の回折ピークの半値幅が2θ=0.40°であった。得られた鉄酸化物を含有する窒素原子導入酸化チタンにおいて、酸化鉄(III)の結晶構造も確認できた。
【0138】
また、得られた鉄酸化物を含有する窒素原子導入酸化チタンを用いて光触媒性能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0139】
(実施例4)(鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンの製造例)
(1)酸化チタンの調製
実施例1(1)と同様の方法で酸化チタン粉末を作製した。
(2)硫黄原子および金属酸化物の混合、焼成処理
上記(1)で得た酸化チタン粉末に、酸化鉄(III)(特級)(関東化学(株)製)とチオ尿素(特級)(関東化学(株)製)とを添加、混合することにより、酸化チタンと、酸化鉄(III)とチオ尿素との混合物を得た。このとき、酸化鉄(III)の混合量は、酸化チタン中に含まれる全チタン原子の量を100質量部としたときに、酸化鉄(III)を構成する鉄原子換算で、0.10質量部となるように、チオ尿素の混合量は、酸化チタンを構成する全チタン原子を100質量部としたときに、チオ尿素を構成する硫黄原子の質量が、6.8質量部となるように調整した。
【0140】
具体的には、上記酸化チタン粉末50gと、酸化鉄(III)粉末0.086gとチオ尿素粉末4.92gとを秤量し、これらを乳鉢で乾式粉砕混合した。
【0141】
上記混合処理によって得られた混合物のうち、55gをチタン製の容器に装入し、これを電気炉に装填して、300℃で2.5時間焼成した。焼成中は、電気炉内へ大気が300〜350mL/minの流量で流入するように炉内の排気流量を調整した。
【0142】
得られた焼成物から49gを分取し、この分取した焼成物に対して、さらにチオ尿素19.8gを乾式混合することにより、上記焼成物とチオ尿素の混合物を得た。このとき、チオ尿素の混合量は、焼成物中に含まれる全チタン原子の量を100質量部としたときに、チオ尿素を構成する硫黄原子換算で、27.8質量部となるように調整した。この混合物をチタン製の容器に装入した後、電気炉に装填し、該炉内へ590〜830mL/minの流量で大気が流入するように炉の排気流量を調整しながら430℃で2.2時間焼成し、鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンを得た。
【0143】
得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンにおいて、硫黄分含有量は0.09質量%であり、鉄酸化物の含有量は、鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタン中に含まれる全チタン原子の量を100質量部としたときに、鉄原子換算で、0.10質量部である。
【0144】
また、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンをX線光電子分光法(XPS)で分析したところ、S4+に由来する169eV付近の特性ピークが観察されたことから、酸化チタンを構成するチタンサイトの一部に硫黄原子が導入されていることが確認できた。
【0145】
また、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンの比表面積は75m/g、結晶構造はアナターゼ型(ルチル化率:16%)、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンのXRD分析による(101)面の回折ピークの半値幅が2θ=0.37°であった。得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンにおいて、酸化鉄(III)の結晶構造も確認できた。
【0146】
また、得られた鉄酸化物を含有する窒素原子導入酸化チタンを用いて光触媒性能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0147】
(実施例5)(鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンの製造例)
(1)鉄酸化物を混合した酸化チタンの調製
酸化鉄(III)を分散した四塩化チタン水溶液(チタン濃度:5.7質量%)を用いた以外は、実施例(1)と同様に処理して鉄酸化物を混合した酸化チタンを作製した。
【0148】
攪拌機を備えた貯槽中に、出発液として、四塩化チタン水溶液(チタン濃度:5.7質量%)でpH3.8±0.5に調整した1350mL、60℃の酸性水溶液を用意し、さらに上記貯槽中に、酸化鉄(III)(特級)(関東化学(株)製)0.31gを投入し、撹拌して懸濁させた。
【0149】
上記貯槽中に、撹拌機により撹拌しながら、四塩化チタン水溶液(チタン濃度:5.7質量%)とアンモニア水溶液(アンモニア濃度:5.8質量%)とを、それぞれ、添加流量が約6.3g/分および約5.7g/分となるように、連続して5時間をかけて添加し、反応させることにより、鉄酸化物が混合されてなる酸化チタン含有スラリーを生成した。このとき、四塩化チタン水溶液およびアンモニア水溶液を添加した反応液の温度が60℃を維持するようにヒータ−を使って調整した。また5時間の添加中は、反応液のpHが4.2±0.2の範囲になるように、各水溶液の流量を適宜調節した。
【0150】
添加終了後、1時間撹拌を続けたのち、アンモニア濃度5.8%のアンモニア水溶液を添加して、pHが5になるようにスラリ−のpHを調整した。このスラリーを濾過して得られた濾過ケ−キを、酸化チタン量に対して8倍量の純水中に投入して分散し、これを濾過するという洗浄操作を、濾液の電導率が30mS/m以下になるまで繰り返した。
【0151】
上記洗浄後の酸化チタンケーキをテフロン(登録商標)製バットに入れ、卓上乾燥機にて110℃で24時間乾燥したのち、200℃で3.5時間加熱処理を行うことにより、鉄酸化物が混合されてなる酸化チタン粉末を得た。鉄酸化物が混合されてなる酸化チタン粉末の比表面積は210m/g、酸化チタンの結晶構造はアナターゼ型(ルチル化率:0%)、平均粒径は1.6μm、X線回折による(101)面の回折ピークの半値幅は1.30°であった。
【0152】
(2)硫黄原子の混合、焼成処理
上記鉄酸化物が混合されてなる酸化チタン粉末に、チオ尿素(特級)(関東化学(株)製)を添加、混合することにより、鉄酸化物が混合されてなる酸化チタンとチオ尿素との混合物を得た。このとき、チオ尿素の混合量は、酸化チタンを構成する全チタン原子100質量部に対して、チオ尿素を構成する硫黄原子の質量が、6.8質量部となるように調整した。具体的には、上記酸化チタン粉末50gとチオ尿素粉末4.92gとを秤量し、これらを乳鉢で乾式粉砕混合した。
【0153】
上記混合物のうち54gをチタン製の容器に装入し、これを電気炉に装填して、300℃で2.5時間焼成した。焼成中は、電気炉内へ大気が300〜350mL/minの流量で流入するように炉の排気流量を調整した。得られた焼成物から49g分取し、この分取した焼成物に対して、さらにチオ尿素19.8gを乾式混合することにより、上記焼成物とチオ尿素の混合物を得た。このとき、チオ尿素の混合量は、焼成物中に含まれる全チタン原子の量を100質量部としたときに、チオ尿素を構成する硫黄原子換算で、27.8質量部となるように調整した。この混合物をチタン製の容器に装入した後、電気炉に装填し、該炉内へ590〜830mL/minの流量で大気が流入するように炉の排気流量を調整しながら430℃で2.2時間焼成し、鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンを得た。
【0154】
得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンにおいて、硫黄分含有量は0.09質量%であり、鉄酸化物の含有量は、鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンに含まれる全チタン原子の量を100質量部としたときに、鉄原子換算で、0.12質量部である。
【0155】
また、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンをX線光電子分光法(XPS)で分析したところ、S4+に由来する169eV付近の特性ピークが観察されたことから、酸化チタンを構成するチタンサイトの一部に硫黄原子が導入されていることが確認できた。
【0156】
また、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンにおいて、比表面積は80m/gで、結晶構造はアナターゼ型(ルチル化率:19%)、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンのXRD分析による(101)面の回折ピークの半値幅が2θ=0.42°であった。得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンにおいて、酸化鉄(III)の結晶構造も確認できた。
【0157】
また、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンを用いて光触媒性能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0158】
(実施例6)(鉄酸化物および銅酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンの製造例)
(1)酸化チタンの調製
実施例4(1)と同様の方法で酸化チタン粉末を作製した。
(2)硫黄原子および金属酸化物の混合、焼成処理
上記(1)で得た酸化チタン粉末に、実施例4(2)と同様にして、酸化鉄(III)(特級)(関東化学(株)製)とチオ尿素(特級)(関東化学(株)製)とを添加、混合するとともに、さらに、酸化銅(II)粉末(平均粒径0.3μm)0.375gを添加、混合し、実施例4(2)と同様に処理することにより、鉄酸化物および銅酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンを作製した。
【0159】
得られた鉄酸化物および銅酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンにおいて、硫黄分含有量は0.10質量%であり、鉄酸化物の含有量は、鉄酸化物および銅酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンに含まれる全チタン原子の量を100質量部としたときに、鉄原子換算で、0.10質量部であり、銅酸化物の含有量は、鉄酸化物および銅酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンに含まれる全チタン原子の量を100質量部としたときに、銅原子換算で、0.10質量部であった。
【0160】
また、得られた鉄酸化物および銅酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンをX線光電子分光法(XPS)で分析したところ、S4+に由来する169eV付近の特性ピークが観察されたことから、酸化チタンを構成するチタンサイトの一部に硫黄原子が導入されていることが確認できた。
【0161】
また、得られた鉄酸化物および銅酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンの比表面積は70m/g、結晶構造はアナターゼ型(ルチル化率:20%)、得られた鉄酸化物および銅酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンのXRD分析による(101)面の回折ピークの半値幅は2θ=0.39°であった。
【0162】
また、得られた鉄酸化物および銅酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンを用いて光触媒性能の評価を行うとともに、抗菌試験を行った。結果を表1および表2に示す。なお、抗菌試験については、ブランクとして、鉄酸化物および銅酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンを含まない系についても試験を行った。結果を表2に示す。
【0163】
(比較例1)(X線回折による(101)面の回折ピークの半値幅が1.4°超である酸化チタンを用いた例)
(1)鉄酸化物含有酸化チタンの調製
攪拌機を備えた貯槽中に、四塩化チタン水溶液(チタン濃度:4質量%)900g添加するとともに、塩化鉄(II)・六水和物(特級)(和光純薬工業(株)製)の水溶液を、四塩化チタンに含まれる全チタン原子の量を100質量部としたときに、鉄原子換算で0.10質量部に相当する量を添加し、60℃に加熱した。次いで、アンモニア水を一気に添加し、反応系のpHを7.4に維持しつつ、60℃で1時間中和した。
【0164】
上記中和処理によって得られたスラリーを、110℃で48時間加熱して水分を蒸発除去し、固形物を得た。この固形物の純水洗浄およびろ過を2回繰り返し、ろ過後の粉末を110℃で24時間乾燥して、鉄化合物含有チタン塩アルカリ中和物を得た。
【0165】
この鉄含有チタン塩アルカリ中和物を250℃で、3時間加熱処理し、鉄化合物含有酸化チタン粉末を得た。
【0166】
得られた酸化チタン粉末の比表面積は290m/g、酸化チタンの結晶構造はアナターゼ型(ルチル化率:0%)、平均粒径は7.9μm、X線回折分析による(101)面の回折ピークの半値幅は1.52°であった。また、得られた酸化チタン粉末中に含まれる鉄化合物は、鉄濃度を高くした実験より、酸化鉄であることが確認された。
【0167】
(2)硫黄原子の混合、焼成処理
上記(1)で得られた鉄化合物含有酸化チタン粉末に、チオ尿素(特級)(関東化学(株)製)を添加、混合することにより、鉄化合物含有酸化チタン粉末とチオ尿素との混合物を得た。このとき、チオ尿素の混合量は、鉄化合物含有酸化チタン中に含まれる全チタン原子の量を100質量部としたときに、チオ尿素を構成する硫黄原子換算で、6.8質量部となるように調整した。
【0168】
具体的には、上記鉄化合物含有酸化チタン粉末50gとチオ尿素粉末4.92gとを秤量し、これらを乳鉢で乾式粉砕混合した。
【0169】
上記乾式粉砕混合物のうち55gをチタン製の容器に装入し、これを電気炉に装填して、300℃で2.5時間焼成した。焼成中は、電気炉内へ大気が300〜350mL/minの流量で流入するように炉の排気流量を調整した。
【0170】
得られた焼成物から49gを分取し、この分取した焼成物に対して、さらにチオ尿素19.8gを乾式混合することにより、上記焼成物とチオ尿素の混合物を得た。このとき、チオ尿素の混合量は、焼成物中に含まれる全チタン原子の量を100質量部としたときに、チオ尿素を構成する硫黄原子換算で、27.8質量部となるように調整した。この混合物をチタン製の容器に装入した後、電気炉に装填し、該炉内へ590〜830mL/minの流量で大気が流入するように炉の排気流量を調整しながら430℃で2.2時間焼成して、鉄酸化物および硫黄原子含有酸化チタンを得た。
【0171】
得られた鉄酸化物および硫黄原子含有酸化チタンにおいて、硫黄分含有量は0.21質量%であり、鉄酸化物の含有量は、鉄酸化物含有酸化チタン化合物中に含まれる全チタン原子の量を100質量部としたときに、鉄原子換算で、0.11質量部であった。
【0172】
また、得られた酸化チタン化合物の比表面積は79m/g、結晶構造はアナターゼ型(ルチル化率:15%)、得られた酸化チタン化合物のXRD分析による(101)面の回折ピークの半値幅が2θ=0.62°であった。
【0173】
また、得られた酸化チタン化合物を用いて光触媒性能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0174】
(比較例2)(実施例1における鉄酸化物の焼成温度を650℃とした例)
実施例1(3)において、焼成温度を400℃から650℃に変更した以外は実施例1と同様にして、鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンを得た。
【0175】
得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンにおいて、硫黄分含有量は0.03質量%であり、鉄酸化物の含有量は、鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンに含まれる全チタン原子の量を100質量部としたときに、鉄原子換算で、0.10質量部であった。
【0176】
また、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンの比表面積は31m/g、結晶構造はアナターゼ型(ルチル化率:42%)、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンのXRD分析による(101)面の回折ピークの半値幅が2θ=0.31°であった。
【0177】
また、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンを用いて光触媒性能の評価を行った。結果を表1に示す。

(比較例3)(実施例1における鉄酸化物の焼成温度を250℃とした例)
実施例1(3)において、焼成温度を400℃から250℃に変更した以外は実施例1と同様にして、鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンを得た。
【0178】
得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンにおいて、硫黄分含有量は0.09質量%であり、鉄酸化物の含有量は、鉄酸化物含有酸化チタン化合物中に含まれる全チタン原子の量を100質量部としたときに、鉄原子換算で、0.10質量部であった。
【0179】
また、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンの比表面積は82m/g、結晶構造はアナターゼ型(ルチル化率:16%)、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンのXRD分析による(101)面の回折ピークの半値幅が2θ=0.37°であった。
【0180】
また、得られた鉄酸化物を含有する硫黄原子導入酸化チタンを用いて光触媒性能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0181】
【表1】

【0182】
【表2】

【0183】
表1の結果より、比較例1〜比較例3で得られた化合物を用いた場合には、アセトアルデヒドの分解によるCO2の発生速度が小さく、また、比較例2および比較例3の化合物を用いた場合、3時間の光照射においてアセトアルデヒドガスを全て分解することができなかった。これに対して、実施例1〜実施例6で得られた鉄酸化物含有酸化チタン化合物においては、二酸化炭素の発生速度が、比較例に比べて1.4倍以上であり、また、3時間の光照射においてアセトアルデヒドガスを全て分解することができた。
【0184】
また、表2の結果から、実施例6で得られた金属酸化物含有酸化チタン化合物は、実用的な抗菌性能を発揮しうることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明によれば、可視光照射下で光触媒として用いたときに、殺菌速度と有害ガス分解速度に優れる金属酸化物含有酸化チタン化合物を簡便に製造する方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折分析による(101)面の回折ピークの半値幅が1.40°以下である原料酸化チタンと、チタン以外の金属の酸化物とを混合し、得られた混合物を300℃〜600℃で焼成することを特徴とする金属酸化物含有酸化チタン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記チタン以外の金属の酸化物が、鉄酸化物および銅酸化物から選ばれる一種以上である請求項1に記載の金属酸化物含有酸化チタン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2011−63473(P2011−63473A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214686(P2009−214686)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(390007227)東邦チタニウム株式会社 (191)
【Fターム(参考)】