説明

金属酸化物微粒子分散液の製造法

【課題】 実質的に不純物を含まない金属酸化物微粒子分散液を、ポリマーコンポジットを容易に作製可能な溶媒を用いて製造する方法を提供すること、および金属酸化物微粒子が均一分散したポリマーコンポジット材料を提供すること。
【解決手段】 アルコールおよび水以外の溶媒中において、金属塩と塩基性イオン交換樹脂とを接触させることにより、金属酸化物微粒子分散液を製造する。得られた分散液は各種樹脂を容易に溶解させることができるため、金属酸化物微粒子を含有するポリマーコンポジット材料を簡便に得ることができる。こうして得られるポリマーコンポジット材料は金属酸化物微粒子同士の凝集が抑制されるため透明性が高く、金属酸化物微粒子の量子効果発現を妨げない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物微粒子分散液の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子径20nm以下の金属酸化物微粒子は、その表面積の大きさや量子特性を利用して、触媒、紫外線遮蔽材料、紫外線吸収材料、蛍光材料、発光材料、塗料、磁性材料など多くの用途への展開が検討されている。ところが、このような金属酸化物超粒子は、表面積が広く表面活性が高いため凝集しやすく、安定した分散状態の微粒子を製造することは難しい。また、分散した微粒子であっても不純物を大量に含有すると材料の物性を損なうため、不純物を含まずかつ分散した金属酸化物微粒子分散液が望まれている。
【0003】
金属酸化物微粒子の製造法として、1μm以上の粗大粒子を機械的に粉砕する製造法(トップダウン法)があるが、得られる粒子の粒子径はふつう100nm以上であり、十分な量子効果を示すものが得られない。これに対してボトムアップ法の例として気相法が知られている。気相法は、原料となる金属を高温で気化させた後、冷却することによって、金属微粒子が空気酸化されながら捕集される方法であり、粒子径100nm以下の金属酸化物微粒子を製造することができる。しかしながら、粒子同士の凝集を防ぐことは難しく、さらに金属を気化させる為に大量のエネルギーを必要とするため大量生産には向いていない。また粒子径を均一に保つことが困難であるという欠点もある。
【0004】
上記欠点を克服する方法として液相法が知られている。液相法による金属酸化物微粒子の製造法は、溶媒を用いて金属塩と水酸化物イオンと反応させる方法である。液相法では、粒子径100nm以下の微粒子を製造することができ、微粒子同士の凝集を防ぐことも容易である(非特許文献1)。水酸化物イオンの原料として、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物を用いるのが一般的であるが、4級アンモニウム水酸化物塩やアンモニアも用いることができる(特許文献1、非特許文献2)。しかしながら既知の液相法においては塩などの合成に伴う副生物の除去が必要であり、経済的ではなかった。このような除去の操作としては例えば遠心分離と洗浄の組合せ、ろ過などが挙げられる。このような操作は時間がかかりロスも大きいため、生産性を高めることが難しかった。
【0005】
実質的に副生物を含まない金属酸化物微粒子分散液を製造する方法として、特許文献2にあるような、金属塩のアルコール溶液を塩基性イオン交換樹脂と接触させる方法が知られている。
【特許文献1】特開平10−120419号公報
【特許文献2】特開2003−286028号公報
【非特許文献1】R.Hoffmannら、J.Phys.Chem 1987,91,3789
【非特許文献2】P.Mulvaneyら、Aust.J.Chem.2003,56,1051
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、実質的に不純物を含まない金属酸化物微粒子分散液を、ポリマーコンポジットを容易に作製可能な溶媒を用いて製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段として、本発明者は以下の方法を発明した。

すなわち本願発明は、アルコールおよび水以外の溶媒中において、金属塩と塩基性イオン交換樹脂とを接触させることを特徴とする、金属酸化物微粒子分散液の製造方法(請求項1)。
【0008】
塩基性イオン交換樹脂がブレンステッド型(OH型)であることを特徴とする、請求項1に記載の金属酸化物微粒子分散液の製造方法(請求項2)。
【0009】
溶媒がジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチルからなる群より選ばれる1種以上の溶媒であることを特徴とする、請求項1または2に記載の金属酸化物微粒子分散液の製造方法(請求項3)。
【0010】
金属塩における金属元素が亜鉛またはチタンであることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液の製造方法(請求項4)。
【0011】
金属塩がカルボン酸の塩であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液の製造方法(請求項5)。
【0012】
塩基性イオン交換樹脂を管状反応器に充填し、金属塩の溶液を流通させることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液の製造方法(請求項6)。
【0013】
金属酸化物微粒子の数平均粒子径が1〜20nmであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液の製造方法(請求項7)。
【0014】
請求項1から7のいずれかの方法によって製造される金属酸化物微粒子分散液に樹脂を溶解させ、次いで溶媒を除去することにより得られる金属酸化物微粒子含有樹脂組成物の製造方法(請求項8)。
【0015】
樹脂がアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、熱可塑性エラストマーからなる群より選ばれる1種以上の樹脂であることを特徴とする、請求項8に記載の金属酸化物微粒子含有樹脂組成物の製造方法(請求項9)。である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法では、原料として塩基性化合物の溶液を使用しないため不純物となる副生物が実質的に生成しない。したがって煩雑な精製操作の必要がなく、経済的に工業生産が可能である。さらに金属酸化物微粒子を含有するポリマーコンポジット材料を製造する場合、金属酸化物微粒子分散液に直接樹脂を溶解させることができるため、従来のようにアルコールを溶媒とする製造方法と比較して操作が簡便であり、生産性に優れる。またこのような数平均粒子径20nm以下の金属酸化物微粒子は非常に凝集しやすいため、透明なポリマーコンポジットを得ることは困難であるが、本発明の方法によれば金属酸化物微粒子を単離することなく樹脂中に分散させることが可能であるため凝集を防ぐことができ、透明性の高いポリマーコンポジットを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の金属酸化物微粒子分散液の製造方法は、アルコールおよび水以外の溶媒中において、金属塩と塩基性イオン交換樹脂とを接触させることを特徴とする。本発明で使用する溶媒としては、アルコールおよび水以外の溶媒であれば特に限定されないが、入手性および価格の点でジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチルが好ましく、金属塩の溶解度の点でDMF、DMAc、DMSO、HMPA、アセトン、酢酸エチルがより好ましい。また、後述する樹脂の溶解性の面でもこれら溶媒が好ましい。
【0018】
本発明で使用する塩基性イオン交換樹脂としては特に限定されないが、金属酸化物微粒子の収率が高い点でブレンステッド型(OH型)の塩基性イオン交換樹脂が好ましい。ブレンステッド型(OH型)の塩基性イオン交換樹脂とは、例えばアンモニウムイオンを有するイオン交換樹脂のように、金属イオンを捕捉して水酸化物イオンを放出できるようなイオン交換樹脂である。このようなブレンステッド型(OH型)の塩基性イオン交換樹脂としては例えば、Amberlyst A26 hydroxide form(シグマ・アルドリッチ・ジャパン(株)製)、ダウエックス モノスフィア 550A、ダウエックス マラソン MSA(ダウケミカル社製)などを挙げることができる。
【0019】
また塩素イオンを放出可能なCl型イオン交換樹脂を、アルカリ金属水酸化物などで処理してOH型に変換して使用することも可能である。このようなCl型塩基性イオン交換樹脂としては例えば、ダイヤイオン SA10A、ダイヤイオン SA12A、ダイヤイオン SA20A、ダイヤイオン PA316、ダイヤイオン PA418、ダイヤイオン HPA25(三菱化学(株)製)、ダウエックス マラソン A、ダウエックス マラソン A2(ダウケミカル社製)、デュオライト A113、デュオライト A109D、デュオライト A116(住化ケムテックス(株)製)、アンバーライト IRA400J CL、アンバーライト IRA400T CL、アンバーライト 4400 CL、アンバーライト IRA402J CL、アンバーライト IRA402BL CL、アンバーライト IRA458RF CL、アンバーライト IRA900J CL、アンバーライト IRA410J CL(オルガノ(株)製)、Amberjet 4200 chloride form(シグマ・アルドリッチ・ジャパン(株)製)などを挙げることができる。
【0020】
これらは単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。これらイオン交換樹脂の基体としては特に限定されず、ポリスチレン系、ポリアクリル酸系などが代表的であるが、繰り返して使う場合の耐久性に優れる点でポリスチレン系が好ましい。イオン交換樹脂の形態としては特に限定されず、ゲル型、ポーラス型のいずれも使用可能であるが、反応性が高い点でポーラス型が好ましい。一般的に塩基性イオン交換樹脂は水分を多く含んでいるものが多いため、使用前に脱水処理を施すことが好ましい。
【0021】
本発明において使用する塩基性イオン交換樹脂の使用量は特に限定されないが、金属酸化物微粒子の収率が高くなる点で、金属塩1モルに対する塩基量として1モル以上が好ましく、2モル以上がより好ましい。
【0022】
本発明で用いる金属塩の金属元素としては特に限定されず、製造したい金属酸化物に応じて選択すればよい。得られる金属酸化物微粒子の有用性の点で、第II族、第III族、第IV族、第V族金属が好ましく、亜鉛、チタン、ガリウム、ジルコニウム、カドミウム、インジウムがより好ましく、亜鉛、チタンが最も好ましい。金属塩の形態としては特に限定されないが、入手性および溶解性の点で、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩が好ましく、カルボン酸塩がより好ましく、なかでも酢酸塩、プロピオン酸塩、ラウリル酸塩、オレイン酸塩、アジピン酸塩、ヒドロキシ酢酸塩などがさらに好ましい。金属塩は無水物でも水和物でも使用できる。本発明において金属塩は単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
本発明において溶媒中金属塩と塩基性イオン交換樹脂とを接触させる方法としては特に限定されず、反応容器に任意の順序で溶媒、金属塩、塩基性イオン交換樹脂を入れ、攪拌する回分法や、塩基性イオン交換樹脂を管状反応器に充填し、金属塩の溶液を流通させる連続法が挙げられる。中でも反応効率が高く生産性が高い点で連続法が好ましい。本発明において塩基性イオン交換樹脂は反応後、アルカリ金属水酸化物などの溶液と接触させることによりOH型へと再生することが可能である。連続法の場合、金属塩溶液とアルカリ金属水酸化物溶液を切り替えるだけで再生できるため、簡便で生産性が高い。再生後は脱水溶媒を用いて過剰のアルカリ金属水酸化物などを除去することが好ましい。
【0024】
本発明の製造方法によって得られる金属酸化物微粒子の数平均粒子径は通常100nm以下であるが、量子的なサイズ効果が顕著に現れる点で1〜20nmが好ましく、1〜10nmがより好ましい。数平均粒子径を制御するためのパラメーターとしては金属塩とイオン交換樹脂とを接触させる際の温度、金属塩とイオン交換樹脂とを接触させる際の金属塩の濃度、接触させる反応時間が代表的である。一般的に温度を高く、濃度を大きく、反応時間を長くすると数平均粒子径は大きくなる傾向にある。したがって金属酸化物微粒子の数平均粒子径を小さくするためにはなるべく反応温度を低く保ち、濃度を小さくし、反応時間も短くすることが有効である。
【0025】
ただしこれらは原料の金属塩や塩基性イオン交換樹脂の種類、製造しようとする金属酸化物の種類によって条件が異なり、また生産性や収率との兼ね合いもあるため目的に応じて適宜その条件を選択すればよい。なお、それらの条件を例示すれば、金属塩とイオン交換樹脂とを接触させる際の温度としては10〜80℃が、金属塩とイオン交換樹脂とを接触させる際の金属塩の濃度としては0.005〜0.5モル/Lが、接触させる反応時間としては5〜100分が好ましい例として例示でき、これらの条件を1つあるいは複数適宜組み合わせて行うことができる。
【0026】
本発明で得られる金属酸化物微粒子分散液は、アルコールおよび水以外の溶媒を使用するためにこれら溶媒を用いた場合に比べて汎用樹脂を容易に溶解させることができ、したがって金属酸化物微粒子含有樹脂を簡便に得ることができる。すなわち金属酸化物微粒子分散液に所望の樹脂を溶解させ、溶媒を除去することでポリマーコンポジット材料が得られる。溶媒を除去する方法としては特に限定されず、例えば蒸留による除去、樹脂に対する貧溶媒添加により樹脂を析出させる方法、キャスト法やスピンコーティングなどにより溶媒を除去してフィルムを得る方法などが挙げられる。また溶媒を除去せずにそのままコーティング液、塗料などの用途に供しても良い。
【0027】
本発明の金属酸化物微粒子含有樹脂において、使用できる樹脂としては特に限定されず、合成樹脂であっても、天然物を原料とした高分子化物であってもよく、目的に応じて溶媒に溶解するものを使用可能である。
【0028】
得られるコンポジット材料の有用性と汎用性の点で、ポリメタクリル酸メチル(PMMAまたはアクリル樹脂)、メタクリル酸メチルと他の(メタ)アクリル酸エステルあるいは(メタ)アクリル酸との共重合体、メタクリル酸メチルとスチレンの共重合体(MS樹脂)、メタクリル酸メチルとアクリロニトリルの共重合体などのアクリル系樹脂;ポリスチレン(PS)、スチレンとα−メチルスチレンの共重合体、スチレンとp−スチレンスルフォン酸との共重合体、スチレンとアクリロニトリルの共重合体(SAN)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)などのスチレン系樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、マレイン酸変性ポリプロピレン、ポリオレフィン系ワックスなどのオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、塩素化ポリ塩化ビニル(CPVC)、塩素化ポリエチレン、塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体などの塩化ビニル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシブタン酸(PHB)、ヒドロキシブタン酸とヒドロキシヘキサン酸の共重合体(PHBH)などのポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;スチレン系熱可塑性エラストマー(SBC)、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ニトリル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)などの熱可塑性エラストマーが好ましい。これらは単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
一般的に数平均粒子径が20nm未満の金属酸化物微粒子は非常に凝集しやすく、樹脂中に均一分散させることが困難であり、したがって透明なポリマーコンポジット材料を得ることが困難である。本発明の金属酸化物微粒子含有樹脂は、金属酸化物微粒子が凝集しない状態で樹脂中に分散されるため透明性が高く、またナノサイズに由来する量子効果が失われることもない。したがって本発明の金属酸化物微粒子含有樹脂は、耐熱性・耐候性・耐UV性・耐傷付性・機械的強度に優れ、さらに金属酸化物微粒子の量子効果により紫外線照射による発光現象も認められる。このような特性から各種表面保護フィルムおよびコーティング、ディスプレイ用材料、発光材料、防虫フィルム、UV吸収材料、合わせガラス用中間膜、塗料などの用途に用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明確にする。
樹脂組成物中の金属酸化物微粒子の数平均粒径測定:得られた樹脂組成物から、ウルトラミクロトーム(ライカ製ウルトラカットUCT)を用いて超薄切片を作成した後、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子JEM−1200EX)を用いて、倍率1万倍〜40万倍で金属酸化物微粒子の分散状態を複数箇所で写真撮影した。得られたTEM写真において少なくとも100個以上の粒子で粒径を測定することにより、粒子の数平均粒径を算出した。
【0031】
(実施例1)
還流冷却管、窒素ガス導入管、温度計、磁気撹拌子を備えた反応器に、イオン交換樹脂Amberlyst A26 hydroxide form(シグマアルドリッチジャパン株式会社製、6.3mL、6.0mmol)を入れた。溶媒としてモレキュラーシーブス3A(和光純薬株式会社製、5g)で一終夜以上乾燥させたDMF(和光純薬株式会社製、100mL)を加え、水酸化カリウム(和光純薬株式会社製、5.6g,0.1mol)を加え1時間攪拌した後に系中のDMF溶液をキャニュラーとシリンジを用いて取り除いてイオン交換樹脂を再生した。新たに乾燥DMF(100mL)を加え、30分攪拌後にDMF溶液を取り除くという洗浄操作を、3回行った。その後、新たに乾燥DMF(100mL)を加えて30分放置してイオン交換樹脂のDMF分散液を得た。上澄みのDMF溶液(約0.1mL)をシリンジでとり、カールフィッシャー水分計(京都電子工業株式会社製、MKC−610)で水分量を分析したところ380ppmであった。
【0032】
得られたイオン交換樹脂のDMF分散液をウォーターバスで40℃に加熱した後、Zn(OAc)2・2H2O(ナカライテスク株式会社製、0.44g、2mmol)を加え、45分間攪拌を行った。放冷後、分散溶液をデカンテーションでZnO微粒子を含む上澄み液を別のガラス容器に移してイオン交換樹脂と分離した。この分散溶液は無色透明であり、2ヶ月保存(密封して0℃)後もZnO微粒子は凝集などの変化は認められなかった。
【0033】
このZnO微粒子のDMF分散液は、分光蛍光光度計(日本分光株式会社製、FP−6500型)で314nmの励起光に対して510nmの発光スペクトルを示した。このZnO微粒子のDMF分散液(4.9mL)にポリメタクリル酸メチル(スミペックスMH、住友化学株式会社製、0.8g)を加え30分攪拌して溶解させた後に、ガラスシャーレ(直径8.8cm)に移し、減圧乾燥器(減圧度:約1.0Torr)で120分乾燥し透明フィルムを得た。このフィルムは膜厚87μmで、COH300A(日本電色工業株式会社製)を用いてヘイズ測定を行ったところ、0.83%であった。フィルムの透過型電子顕微鏡による観察によって、ZnO微粒子は樹脂中に均一に分散しており、微粒子の数平均粒子径は7nmであることが分かった。なおこのフィルムを燃焼させて灰分を測定することによりZnO微粒子の含有量を見積もったところ、1.0wt%であった。
【0034】
(比較例1)
イオン交換樹脂 Amberlyst A26 hydroxide formの代わりに、陽イオン交換樹脂 Amberlyst 15 hydrogen form(シグマアルドリッチジャパン株式会社製,3.3mL、6.0mmol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてZnO微粒子のDMF分散液の合成を試みた。しかしながら得られたDMF分散液は、分光蛍光光度計で314nmの励起光に対して発光スペクトルを示さないことからZnO微粒子が生成していないことを確認した。
【0035】
(比較例2)
実施例1のZnO微粒子のDMF分散液(4.9mL)の代わりに、L.Spanhelらの方法(L.Spanhelら;J.Am.Chem.Soc.、113、2826(1991))に従って調製されたZnO微粒子の0.02Mメタノール分散液(4.9mL)をDMF(20mL)と混合してDMF分散液とし、これを用いた以外は実施例1と同様にして、ZnO微粒子を含有したポリメタクリル酸メチルフィルムの作成を行った。しかしながら、フィルムは透明にならず白濁したフィルムになった(ヘイズ13.5%)。
【0036】
(実施例2)
内径1cm、長さ10cmのガラス管にイオン交換樹脂Amberlyst A26 hydroxide form(シグマアルドリッチジャパン株式会社製、6.3mL、6.0mmol)を充填し、送液チューブと出液チューブを取り付けた。温度測定用熱電対とリボンヒーターをガラス管に取り付け、室温で水酸化カリウム(10g)の乾燥DMF溶液(120mL)を送液ポンプを用いてガラス管内に導入した。ついで乾燥DMF(800mL)を送液ポンプを用いて導入し、ガラス管内の水酸化カリウム溶液を置換した。リボンヒーターによりガラス管の温度を50℃に保ち、Zn(OAc)2・2H2O(ナカライテスク株式会社製、0.44g,2mmol))を乾燥DMF(100mL)に溶解させた溶液を送液ポンプを用いてガラス管内に導入した。送液速度を0.25mL/分とすることにより、酢酸亜鉛とイオン交換樹脂の接触時間が25分となるように調節した。ガラス管より出た反応液を氷水で冷却した受器にとった。得られたZnO微粒子のDMF分散液は無色透明であり3ヶ月保存(密封して0℃)後もZnO微粒子の凝集などの変化は認められなかった。このDMF分散液は分光蛍光光度計(日本分光株式会社製、FP−6500型)で314nmの励起光に対して511nmの発光スペクトルを示した。
【0037】
このZnO微粒子のDMF分散液(5.5mL)にポリメタクリル酸メチル(スミペックスMH、住友化学株式会社製、1.0g)を加えて溶液とし、バーコーター(K303マルチコーター、RK Print Coat Instruments,LTD製)を用いて膜厚110μmのフィルムをキャスト法で作製した。得られたフィルムは透明性が高く、COH300A(日本電色工業株式会社製)を用いてヘイズ測定を行ったところ、0.75%であった。フィルムの透過型電子顕微鏡による観察によって、ZnO微粒子は樹脂中に凝集せずに均一に分散しており、微粒子の数平均粒子径は5.3nmであることが分かった。なおこのフィルムを燃焼させて灰分を測定することによりZnO微粒子の含有量を見積もったところ、0.9wt%であった。
【0038】
以上、本発明の方法によれば金属酸化物微粒子を単離することなく樹脂中に分散させることが可能であるり、透明性の高いポリマーコンポジットを得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールおよび水以外の溶媒中において、金属塩と塩基性イオン交換樹脂とを接触させることを特徴とする、金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
塩基性イオン交換樹脂がブレンステッド型(OH型)であることを特徴とする、請求項1に記載の金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
溶媒がジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチルからなる群より選ばれる1種以上の溶媒であることを特徴とする、請求項1または2に記載の金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
金属塩における金属元素が亜鉛またはチタンであることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
金属塩がカルボン酸の塩であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項6】
塩基性イオン交換樹脂を管状反応器に充填し、金属塩の溶液を流通させることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項7】
金属酸化物微粒子の数平均粒子径が1〜20nmであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかの方法によって製造される金属酸化物微粒子分散液に樹脂を溶解させ、次いで溶媒を除去することにより得られる金属酸化物微粒子含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
樹脂がアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、熱可塑性エラストマーからなる群より選ばれる1種以上の樹脂であることを特徴とする、請求項8に記載の金属酸化物微粒子含有樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−1578(P2008−1578A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175087(P2006−175087)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】