説明

金属酸化物微粒子分散物

【課題】分散物中での微粒子凝集が少なく、透過型電子顕微鏡(TEM)観察によるサイズと、動的光散乱法によるサイズとの不一致が小さい金属酸化物微粒子分散物の提供。
【解決手段】動的光散乱法で求めた粒子サイズSを、透過型電子顕微鏡(TEM)法で求めた粒子サイズSで除した値(S/S)が4以下である金属酸化物微粒子分散物である。該金属酸化物微粒子を構成する金属が、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バリウム及び錫のいずれかを含有する態様、該金属酸化物微粒子が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタンとジルコニウムの複合酸化物、及びチタンと錫の複合酸化物のいずれかである態様などが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集が少なく、可視域において透明性が高いため、光学フィルタ、塗料、繊維、化粧品、レンズ等に幅広く用いることができる金属酸化物微粒子分散物に関する。
【背景技術】
【0002】
粒径が50nm以下である金属酸化物微粒子は、単位体積当たりの表面積が非常に大きいことから、粒径がそれ以上の粒子とは異なるいくつかの特徴を示すことが知られている。例えば、粒径を50nm以下にすることで融点が下がることが知られており、焼結温度の低温化が可能となる。また、粒径が50nm以下では光に対して透明性が高く、特にシングルナノ領域ではその分散物は、ほぼ透明といってよいレベルとなる。このような透明な分散物は光学フィルタ、塗料、繊維、化粧品、及びプラスチックレンズ等に幅広く使用でき、透明性を損なわずに従来とは異なる物性を発現させることができる。
このような透明性と物性制御の両立を実現するためには、金属酸化物微粒子が凝集せずに分散していることが必要である。しかし、粒径が50nm以下の粒子は単位体積あたりの表面積が大きいことから凝集しやすく、期待される物理的及び光学的な性能が得られないことが課題となっている。
【0003】
例えば特許文献1には、粒径が10nm〜100nmの無機酸化物微粒子に対し、数平均分子量20,000以上のポリマーを共有結合させた複合体により分散性及び分散安定性を付与することが開示されている。
また、特許文献2には、ナノ粒子をデンドロンでコーティングすることにより粒子を安定化することが開示されている。
また、特許文献3には、有機成分を含有する分散性及び安定性が改良された金属酸化物微粒子が開示されている。
【0004】
これら先行技術文献は、いずれも無機微粒子に加えて有機物を利用することで分散安定性を付与している。したがって無機微粒子の物性のみならず有機物の物性が付け加わるため、無機微粒子が本来持つ特性が有機物により損なわれてしまうという大きな問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2003−292826号公報
【特許文献2】特表2005−519836号公報
【特許文献3】特開2004−59407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、有機物による修飾がなくても、金属酸化物微粒子自体が溶媒に分散しており、可視域において透明性が高いため、光学フィルタ、塗料、繊維、化粧品、レンズ等に幅広く用いることができる金属酸化物微粒子分散物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 動的光散乱法で求めた粒子サイズSを、透過型電子顕微鏡(TEM)法で求めた粒子サイズSで除した値(S/S)が4以下であることを特徴とする金属酸化物微粒子分散物である。
<2> 金属酸化物微粒子を構成する金属が、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バリウム及び錫のいずれかを含有する前記<1>に記載の金属酸化物微粒子分散物である。
<3> 金属酸化物微粒子が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタンとジルコニウムの複合酸化物、及びチタンと錫の複合酸化物のいずれかである前記<1>から<2>のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散物である。
<4> 金属酸化物微粒子が結晶性を有する前記<1>から<3>のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散物である。
<5> TEM法で求めた粒子サイズが0.5nm以上50nm以下である前記<1>から<4>のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散物である。
<6> TEM法で求めた粒子サイズが0.5nm以上10nm以下である前記<1>から<5>のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、分散物中での微粒子凝集が少なく、透過型電子顕微鏡(TEM)観察によるサイズと、動的光散乱法によるサイズとの不一致が小さく、可視域において透明性が高いため、光学フィルタ、塗料、繊維、化粧品、レンズ等に幅広く用いることができる金属酸化物微粒子分散物を提供することができる。
【0009】
(金属酸化物微粒子分散物)
本発明の金属酸化物微粒子分散物は、動的光散乱法で求めた粒子サイズSを、透過型電子顕微鏡(TEM)法で求めた粒子サイズSで除した値(S/S)が4以下であり、3以下がより好ましく、2以下が更に好ましい。前記値(S/S)が4を超えると、微粒子凝集により、金属酸化物微粒子本来の性質が発現されにくくなることがある。
【0010】
−動的光散乱法による粒子サイズの測定−
溶液中に分散した微粒子は、通常、溶媒分子運動の影響を受けてブラウン運動をしている。その動きは、大きな粒子では遅く、小さな粒子になるほど小さくなる。これらのブラウン運動をしている粒子へレーザー光を照射すると粒子のブラウン運動の速度に応じた位相の違う光の散乱が生じる。この散乱光を検出することで粒子サイズを求めることができる。
具体的には、金属酸化物微粒子分散液を動的光散乱法を用いた粒度分析計にてそのまま測定することにより、動的光散乱法による粒子サイズが得られる。粒子サイズは、数平均粒子サイズ及び体積加重平均サイズが一般的に得られるが、本発明では、数平均粒子サイズを動的光散乱法により得られた粒子サイズと定義する。また、分散液の濃度は5質量%で測定することとする。具体的には、日機装株式会社製のナノトラック粒度分布測定装置を用いて、金属酸化物微粒子の5質量%水溶液をそのまま測定することにより動的散乱法による数平均粒子サイズを求めることができる。
前記金属酸化物微粒子の動的光散乱法による粒子サイズは、0.5nm〜200nmが好ましく、0.5nm〜40nmがより好ましい。
【0011】
−透過型電子顕微鏡(TEM)法による粒子サイズの測定−
前記TEM法による粒子サイズは、分散物をカーボン蒸着した銅メッシュ(マイクログリッド)上に滴下し、乾燥させたものを透過型電子顕微鏡で観察することで粒子サイズを測定することができる。具体的には、透過型電子顕微鏡による観察像を写真ネガに露光する、デジタル画像として取り込むなどを行ったのち、充分粒径を観察できる大きさのプリントを作成する。このプリントから粒子径を求めることができる。TEM画像は二次元画像なので、特に不定形の粒子の場合は、正確な粒子径を求めることが困難であるが、本発明では、二次元画像として得られる粒子の投影面積に等しい円の直径(円相当径)を粒子サイズと定義する。本発明では、このようにして300個以上の粒子の円相当径を測定し、その平均値をTEM法による粒子サイズと定義する。
前記金属酸化物微粒子のTEM法による粒子サイズは、0.5nm以上50nm以下が好ましく、0.5nm以上20nmがより好ましく、0.5nm以上10nm以下が更に好ましい。前記粒子サイズが50nmを超えると、レイリー散乱が大きいこと、表面積/体積比が小さくなることから、微粒子の特徴を発現しにくいことがある。
【0012】
本発明の金属酸化物微粒子分散物は、上記粒子サイズの要件を満たせは特に制限はなく、金属酸化物微粒子を含むものを全て含むが、少なくとも金属酸化物微粒子と、強酸とを、アルコールを含む水溶液中で分散させてなり、カルボン酸化合物、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0013】
<金属酸化物微粒子>
前記金属酸化物微粒子を構成する金属としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、金属は単独でもよいし、2種以上の金属が複合されていてもよい。また、コア部分とシェル部分で、構成金属が異なるような、層状構造を構成していてもよい。またこの層状構造は、3層以上でもよい。
前記「金属酸化物微粒子を主として構成する」とは、金属酸化物微粒子中の金属原子の30%以上を占められていることを言う。
【0014】
前記金属酸化物微粒子を構成する金属酸化物としては、例えば酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタンとジルコニウムの複合酸化物、チタンとジルコニアとハフニウムの複合酸化物、チタンとバリウムの複合酸化物、チタンとアルミニウムの複合酸化物、チタンとケイ素の複合酸化物、チタンとケイ素とアルミニウムの複合酸化物、チタンとジルコニウムとアルミニウムの複合酸化物、チタンとジルコニウムとケイ素の複合酸化物、チタンとジルコニウムとアルミニウムとケイ素の複合酸化物、チタンと錫の複合酸化物、チタンとジルコニアと錫の複合酸化物などが挙げられる。これらの中でも、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタンとジルコニウムの複合酸化物、チタンと錫の複合酸化物が特に好ましい。
また、前記金属酸化物は、ドーパントとして他の金属元素を含有することができる。添加される金属元素の種類、添加量は目的により適宜選択することができる。例えばFe、Co、Ni、Cu、Zn、Nb、Y、Rh、Pb、Ag、Ta、Pt、及びAuから選択される少なくとも1種の金属元素をドープすることができる。これら金属元素の含有率は、0.1原子%〜20原子%が好ましく、0.1原子%〜10原子%がより好ましく、0.1原子%〜5原子%が更に好ましい。
【0015】
前記金属酸化物微粒子は、結晶性を持つことが好ましい。ここで結晶性を持つとは、前前記金属酸化物微粒子分散物から溶媒を蒸発させ固形分を取り出し後、粉末を作製し、この粉末に対しX線回折測定を行った場合に、結晶ピークが観測されることを言う。X線源としては銅Kα線、波長1.5418Åを用いる。結晶ピークが観測されるとは、半値幅10°以内のピークが得られることを言い、この場合は結晶性を持つと定義する。半値幅10°を超えるブロードなピークの場合は、結晶性を持たないと定義する。
【0016】
前記金属酸化物微粒子分散物は、その凝集を抑える点から金属酸化物微粒子の含有量が0.1質量%未満の希薄溶液であることが好ましいが、ゾル中や基材中に金属酸化物微粒子を分散させる点から、希薄すぎる溶液ではその後の濃厚化工程に負荷がかかるため、分散物中に含有される金属酸化物微粒子の含有量は0.1質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0017】
<分散溶媒>
前記分散溶媒としては、アルコール及び水が用いられる。該アルコールは金属酸化物前駆体としての金属アルコキシドの加水分解開始時に特に重要である。前記水は加水分解開始後の反応と、金属酸化物の分散媒としての働きをする。
前記アルコールの分散物における含有量は、6体積%〜60体積%が好ましく、10体積%〜50体積%がより好ましい。この範囲外では分散物の調製条件にもよるが、分散物がゲル状になってしまったり、粒子同士が凝集して分散物として成り立たなくなることがある。
【0018】
前記アルコールとしては、水と相溶性がある低級アルコールが好ましく、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、メトキシプロパノール、エトキシプロパノールであり、用途によりブタノールの使用も可能である。前記アルコールは金属アルコキシドの加水分解時に共存していることが好ましく、加水分解開始後、水中に分散される前に共存させることが好ましい。
前記水としては、無機イオンを含まない脱イオン水が好ましい。最終的な分散物中の含有量は、生成する金属酸化物微粒子の種類やサイズにより異なり一概には規定できないが、最終的な分散物の体積に占める水は40%以上であることが好ましい。
【0019】
<強酸>
前記強酸とは、HClのように水溶液中でほとんど完全に電離するような酸を意味し、酢酸のように水溶液中でわずかしか電離しない酸は含まれない。
前記強酸としては、金属酸化物前駆体としての金属アルコキシドの加水分解反応を促進するものとして使用するのが好ましく、例えば、硝酸、過塩素酸、塩酸、HBr水、HI水、HPF、HClO、HIOなどが挙げられる。
前記強酸としては、解離したときのアニオンが構造上、嵩高いものである方が最終的なゾルの透明性が高くする効果が大きいので好ましい。
【0020】
−嵩高いアニオンを含む強酸−
前記嵩高いアニオンは水和している水分子が少なく、金属酸化物微粒子分散物の粘性を低下させて、金属酸化物微粒子の凝集を抑制することができると考えられる。機構的に、嵩高い構造を有する強酸による凝集抑制効果は、溶媒中のアルコール含量が多くなると効果が低くなる。
前記嵩高いアニオンを含む酸化合物としては、JonesとDoleらによる下記式(1)中のB値が−0.01以下であるアニオンを含む。
η=η(1+A√c+Bc) ・・・ 式(1)
ただし、前記式(1)中、ηは溶液の粘度、ηは溶媒の粘度、A及びBは酸固有の定数、cは溶液の濃度をそれぞれ表す。
ここで、前記B値はアニオンの立体的な嵩高さに関連し、B値の負の値が大きいほどアニオンが立体的に嵩高いことを意味する(G.Jones and M.Dole J.Am.Chem.Soc., 51 2950(1929))。また、HSAB理論的によれば、立体的に嵩高くなることによりソフトになることを意味する。
【0021】
前記B値が−0.01以下である嵩高いアニオンとしては、例えば、Br(−0.042)、I(−0.068)、PF(−0.021)、ClO(−0.024)、NO(−0.046)、ClO(−0.056)、IO(−0.065)、などが挙げられる。これに対し、B値が−0.01を超えるCl(−0.007)、F(+0.096)は嵩高いアニオンには含まれない。
前記嵩高いアニオンを含む酸化合物としては、例えば、HBr、HI、HPF、HClO、HClO、HNO、HIO、又はこれらの塩、などが挙げられる。前記塩としては、例えば、Li、Na、K、NH、NHCHCHOH、NH(CHCHOH)、NH(CHCHOH)などが挙げられる。
【0022】
前記強酸の前記金属酸化物微粒子分散物における含有量は、生成する金属酸化物微粒子の種類やサイズにより異なり一概には規定できないが、金属1mol当り0.1mol〜1molが好ましく、0.2mol〜0.9molがより好ましい。
【0023】
<カルボン酸化合物>
本発明の金属酸化物微粒子分散物は、粒子の分散性を高める目的からカルボン酸化合物を含有することが好ましい。前記カルボン酸化合物としては、カルボン酸、カルボン酸の塩、及びカルボン酸無水物から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0024】
−カルボン酸−
前記カルボン酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸等の飽和脂肪族カルボン酸;アクリル酸、プロピオール酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和脂肪族カルボン酸;乳酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸等のヒドロキシカルボン酸、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記カルボン酸の前記金属酸化物微粒子分散物における含有量は、生成する金属酸化物微粒子の種類やサイズにより異なり一概には規定できないが、金属1mol当り0.15mol〜3molが好ましい。
【0025】
−カルボン酸の塩−
前記カルボン酸の塩も解離することによって、実質上対応するカルボン酸を用いた場合と同じ効果が認められる。
前記カルボン酸の塩におけるカルボン酸としては、上記カルボン酸と同じものが挙げられる。
前記カルボン酸の塩における塩としては、例えば、Li、Na、K、NH、NHCHCHOH、NH(CHCHOH)、NH(CHCHOH)などが挙げられる。
前記カルボン酸の塩の前記金属酸化物微粒子分散物における含有量は、生成する金属酸化物微粒子の種類やサイズにより異なり一概には規定できないが、金属1mol当り0.15mol〜3molが好ましい。
【0026】
−カルボン酸無水物−
前記カルボン酸無水物は、カルボン酸2分子が水1分子を失って縮合したカルボン酸無水物も水溶液中においては対応するカルボン酸と同じ効果が得られる。
前記カルボン酸無水物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記カルボン酸無水物の前記金属酸化物微粒子分散物における含有量は、生成する金属酸化物微粒子の種類やサイズにより異なり一概には規定できないが、金属1mol当り0.075mol〜1.5molが好ましい。
【0027】
<金属酸化物微粒子分散物の製造方法>
前記金属酸化物微粒子分散物の製造方法は、金属酸化物微粒子形成工程を含み、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
【0028】
−金属酸化物微粒子形成工程−
前記金属酸化物微粒子形成工程は、少なくとも金属酸化物前駆体と、強酸と、必要に応じてカルボン酸化合物とを、アルコールを含む水溶液中で混合して金属酸化物微粒子を形成する工程である。
【0029】
前記金属酸化物前駆体としての金属アルコキシドと強酸を作用させることで加水分解反応が開始されるが、アルコールは予め金属アルコキシドと混合させていても、強酸と混合させてもよく、加水分解が開始された直後に混合してもよく、金属アルコキシドを加水分解させる系に共存させることが好ましい。また強酸は、解離したときのアニオンが、構造上嵩高いものである方が好ましい。
前記アルコール、前記強酸、前記カルボン酸化合物としては、上述したものの中から適宜選択して用いることができる。
【0030】
前記金属酸化物前駆体としては、例えば有機金属化合物、金属塩、及び金属水酸化物のいずれかを含有することが好ましい。
前記金属酸化物前駆体の状態としては固体であっても、液体であってもよいが、水に溶解し水溶液として扱えるものが好ましい。
前記金属塩の金属成分としては、対応する金属酸化物の金属成分が該当する。
前記金属塩としては、例えば、所望の金属の塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩などが挙げられる。前記有機酸塩としては、例えば酢酸塩、プロピオン酸塩ナフテン酸塩、オクチル酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩などが挙げられる。
前記金属水酸化物としては、例えば、四塩化チタン水溶液をアルカリ溶液で中和した非晶質水酸化チタン、水酸化ジルコニウム、チタンとジルコニウムの複合水酸化物などを用いることもできる。
【0031】
前記有機金属化合物としては、例えば、金属アルコキシド化合物、金属のアセチルアセトネート化合物などが挙げられる。
前記金属アルコキシド化合物としては、テトラアルコキシチタニウム、アルコキシジルコニウムなどが挙げられる。
前記テトラアルコキシチタニウムとしては、例えばテトラメトキシチタニウム、テトラエトキシチタニウム、テトラプロポキシチタニウム、テトライソプロポキシチタニウム、テトラブトキシチタニウム、テトライソブトキシチタニウム、テトラキス(2−メチルプロポキシ)チタニウム、テトラキスペントキシチタニウム、テトラキス(2−エチルブトキシ)チタニウム、テトラキス(オクトキシ)チタニウム、テトラキス(2−エチルヘキソキシ)チタニウムなどが挙げられる。テトラアルコキシチタニウムに含まれるアルコキシル基の炭素数が大き過ぎると、加水分解が不十分となることがあり、アルコキシル基の炭素数が小さ過ぎると、反応性が高くなって反応制御が難しくなることがあるため、テトラプロポキシチタニウム及びテトライソプロポキシチタニウムが特に好ましい。
前記アルコキシジルコニウムとしては、例えばメトキシジルコニウム、エトキシジルコニウム、プロポキシジルコニウム、ブトキシジルコニウム、イソブトキシジルコニウム、キス(2−メチルプロポキシ)ジルコニウムなどが挙げられる。これらの中でも、ブトキシジルコニウムが特に好ましい。
チタン、ジルコニウム以外の金属アルコキシド化合物としては、金属がハフニウム、アルミニウム、ケイ素、バリウム、錫、マグネシウム、カルシウム、鉄、ビスマス、ガリウム、ゲルマニウム、インジューム、モリブデン、ニオブ、鉛、アンチモン、ストロンチウム、タングステン、イットリアなどが好ましい。それら金属のアルコキシドは必要により、カリウムアルコキシド、ナトリウムアルコキシドなどの金属アルコキシドと所望の金属を作用させて生成させることができる。
【0032】
前記金属塩としては、例えば所望の金属の塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩などが挙げられる。有機酸塩としては、例えば酢酸塩、プロピオン酸塩ナフテン酸塩、オクチル酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩などが挙げられる。
前記金属水酸化物としては、例えば四塩化チタン水溶液をアルカリ溶液で中和した非晶質水酸化チタン、水酸化ジルコニウム、チタンとジルコニウムの複合水酸化物などを用いることもできる。
【0033】
前記金属酸化物微粒子分散物の製造方法としては、具体的には、以下の態様が挙げられる。
(1)室温で、アルコールに金属アルコキシド化合物を混合し、10分間攪拌した。その後、強酸を添加し、10分間攪拌した後、多量の水を作用させ、適宜加熱処理することにより、金属酸化物微粒子分散物を作製することができる。
また、前記(1)において、強酸の添加時期を変えた下記(1’)の製造方法も好適である。
(1’)室温で、アルコールに強酸を添加し、10分間攪拌した。更に金属アルコキシド化合物を添加して10分間攪拌した後、多量の水を作用させ、適宜加熱処理することにより、金属酸化物微粒子分散物を作製することができる。
また、前記(1)において、はじめはアルコールを共存させない下記(1”)の製造方法も好ましい。
(1”)室温で、金属アルコキシド化合物に強酸を添加し、10分間攪拌した。その後、アルコールを添加し10分間攪拌した後、多量の水を作用させ、適宜加熱処理することにより、金属酸化物微粒子分散物を作製することができる。
【0034】
前記(1)、(1’)、及び(1”)において、金属アルコキシドとして、例えば酸化チタンとしては、例えばチタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブドキシド、チタンテトラプロキシドなどが挙げられる。酸化ジルコニウムとしては、例えばジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラターシャルブトキシド、ジルコニウムジエトキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシドなどが挙げられる。
アルコール及び強酸は、上述したものの中から適宜選択して用いることができ、前記アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エトキシメタノール、エトキシエタノール、エトキシプロパノールなどが挙げられる。是前記強酸としては、硝酸、過塩素酸、塩酸、硫酸、リン酸などが挙げられるが、解離したときのアニオンが構造上嵩高いものである、硝酸、過塩素酸が特に好ましい。
【0035】
前記洗浄方法としては、余分なイオンを除去することができれば特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができ、例えば限外濾過膜法、濾過分離法、遠心分離濾過法、イオン交換樹脂法などが挙げられる。
【0036】
<用途>
本発明の金属酸化物微粒子分散物は、そのまま或いは濃縮して分散体として使用することができる以外にも、バインダー成分(樹脂成分)などを加えて成膜用組成物(塗料組成物)とし、これを基材に塗布して微粒子分散膜を形成したり、あるいは、同様にバインダー成分(樹脂成分)などに含有させて成形用樹脂組成物などとすることができる。また、濃縮乾固や遠心分離で溶媒を除去した後、加熱や乾燥をして微粒子粉体として取り扱うこともできる。
【0037】
前記バインダー成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シリコーンアルコキシド系バインダー、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂など、熱可塑性又は熱硬化性(熱硬化性、紫外線硬化性、電子線硬化性、湿気硬化性、これらの併用等も含む)の各種合成樹脂や天然樹脂等の有機系バインダーなどが挙げられる。前記合成樹脂としては、例えば、アルキド樹脂、アミノ樹脂、ビニル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、熱硬化性不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、キシレン樹脂、石油樹脂、ケトン樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、液状ポリブタジエン、クマロン樹脂などが挙げられる。前記天然樹脂としては、例えばセラック、ロジン(松脂)、エステルガム、硬化ロジン、脱色セラック、白セラックなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
前記金属酸化物微粒子を樹脂組成物中に分散させる際には、必要に応じて、例えば分散剤、油性成分、界面活性剤、顔料、防腐剤、アルコール、水、増粘剤、保湿剤と配合し、希薄溶液、タブレット状、ローション状、クリーム状、ペースト状、スティック状などの各種の形態で用いることができる。前記分散剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えばリン酸基を有する化合物、リン酸基を有するポリマー、シランカップリング剤、チタンカップリング剤などが挙げられる。
【0039】
本発明の金属酸化物微粒子分散物は、優れた分散安定性を有し、可視域や特定波長域において極めて透明性が高いため、光学フィルタ、塗料、繊維、化粧品、レンズに好適に使用することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
−酸化チタン分散物の作製−
室温(22℃)において、HPF(60質量%)14.1mlにイソプロピルアルコール141mlを加え、10分間攪拌した。その後、攪拌しながらチタンテトライソプロポキシド(和光純薬工業株式会社製)88mLをゆっくりと加え、更に30分間攪拌した。この溶液を60℃に加熱した後、240分間保持し、酸化チタンの分散物(TiO:5質量%)を作製した。
【0042】
<動的光散乱法による粒子サイズの測定>
得られた分散物を日機装株式会社製のナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX−150を用いてサイズ測定を行った。得られた数平均粒子サイズは8nmであった。
【0043】
<透過型電子顕微鏡(TEM)法による粒子サイズの測定>
得られた分散物をカーボン蒸着した銅メッシュ(マイクログリッド)上に滴下し、乾燥させ、透過型電子顕微鏡で観察し、その像を写真ネガに焼き付けを行った。視野を変えてトータル300個の粒子写真を得た。カール ツァイス株式会社 KS300システムを用いて、これらの写真ネガの画像を取り込み、各粒子の円相当径を画像処理により求めた。これらの円相当径の平均は3.5nmであった。
したがって、動的光散乱法で求めた粒子サイズSを、透過型電子顕微鏡(TEM)法で求めた粒子サイズSで除した値(S/S)は2.8であった。
【0044】
<X線回折の測定>
株式会社リガク社製 RINT1500(X線源 銅Kα線、波長1.5418Å)を用いて、X線回折スペクトル測定を行った。2θ=47.9°を中心として、半値幅3.5°のピークが観察され、結晶性であることが確認できた。
【0045】
(実施例2)
−酸化チタン分散物の作製−
15℃において、HClO(60質量%)14.1mlにイソプロピルアルコール141mlを加え、10分間攪拌した。その後、攪拌しながらチタンテトライソプロポキシド(和光純薬工業株式会社製)88mLをゆっくりと加え、更に30分間攪拌した。この溶液を60℃に加熱後、240分間保持し、酸化チタンの分散物(TiO:5質量%)を作製した。
得られた酸化チタン分散物について、実施例1と同様にして、粒子サイズ、及び結晶性を評価した。
動的光散乱法で求めた粒子サイズSは6.5nmであり、透過型電子顕微鏡(TEM)法で求めた粒子サイズSは3.1nmであり、動的光散乱法で求めた粒子サイズSを、透過型電子顕微鏡(TEM)法で求めた粒子サイズSで除した値(S/S)は2.1であり、X線回折プロファイルからは2θ=47.8°を中心として半値幅4°のピークが観測され、結晶性であることが確認できた。
【0046】
(実施例3)
−酸化チタン分散物の作製−
20℃において、イソプロピルアルコール141mlに攪拌しながらチタンテトライソプロポキシド(和光純薬工業株式会社製)88mLをゆっくりと加え、30分間攪拌した。その後、攪拌しながらHNO(60質量%)14.1mlを加え、更に10分間攪拌した。この溶液を80℃に加熱後、30分間保持し、酸化チタンの分散物(TiO:5質量%)を作製した。
得られた酸化チタン分散物について、実施例1と同様にして、粒子サイズ、及び結晶性を評価した。
動的光散乱法で求めた粒子サイズSは17nmであり、透過型電子顕微鏡(TEM)法で求めた粒子サイズSは7.1nmであり、動的光散乱法で求めた粒子サイズSを、透過型電子顕微鏡(TEM)法で求めた粒子サイズSで除した値(S/S)は2.4であり、X線回折プロファイルからは2θ=48.0°を中心として半値幅3.2°のピークが観測され、結晶性であることが確認できた。
【0047】
(実施例4)
−酸化チタン分散物の作製−
25℃において、HClO(60質量%)16mlにイソプロピルアルコール150mlを加え、10分間攪拌した。この後、攪拌しながらチタンテトライソプロポキシド(和光純薬工業株式会社製)75mLをゆっくりと加え、更に120分間攪拌し、酸化チタンの分散物(TiO:5質量%)を得た。
得られた酸化チタン分散物について、実施例1と同様にして、粒子サイズ、及び結晶性を評価した。
動的光散乱法で求めた粒子サイズSは2.8nmであり、透過型電子顕微鏡(TEM)法で求めた粒子サイズSは、1.9nmであり、動的光散乱法で求めた粒子サイズSを、透過型電子顕微鏡(TEM)法で求めた粒子サイズSで除した値(S/S)は1.5であり、X線回折プロファイルからは2θ=48.0°を中心として半値幅3.3°のピークが観測され、結晶性であることが確認できた。
【0048】
(比較例1)
−酸化チタン分散物の作製−
実施例1において、HPF(60質量%)の代わりにHSOを用いた以外は、実施例1と同様にして、酸化チタン微粒子分散物を作製した。
得られた酸化チタン分散物について、実施例1と同様にして、粒子サイズ、及び結晶性を評価した。
動的光散乱法で求めた粒子サイズSは20nmであり、透過型電子顕微鏡(TEM)法で求めた粒子サイズSは、3.8nmであり、動的光散乱法で求めた粒子サイズSを、透過型電子顕微鏡(TEM)法で求めた粒子サイズSで除した値(S/S)は5.3であり、X線回折プロファイルからは2θ=48.0°を中心として半値幅3.1°のピークが観測され、結晶性であることが確認できた。
【0049】
実施例1〜4及び比較例1の粒子サイズ、及び結晶性の結果を表1にまとめて示す。
【表1】

【0050】
(実施例5)
−熱可塑性樹脂の合成及び透明成形体の作製−
ユニケミカル株式会社製のホスマーPE(商品名)0.05gと、メタクリル酸メチル5.2gと、アゾビスイソブチロニトリル0.35gとをトルエン中に加え、窒素雰囲気下、80℃で重合を行い、熱可塑性樹脂を合成した。
得られた熱可塑性樹脂に前記実施例1で調製した酸化チタンを固形分の10体積%になるように加え、溶媒を濃縮留去した後、該濃縮残渣を140℃、圧力15MPa、2分間で加熱圧縮成型し、厚さ1mmの透明成形体を作製した。
得られた透明成形体について、以下のようにして光線透過率を測定したところ、70%であった。結果を表2に示す。
【0051】
<光線透過率の測定>
株式会社日立製作所製のU−3310型分光光度計で波長550nmの光線透過率を測定した。
【0052】
(実施例6〜8及び比較例2)
−透明成形体の作製−
実施例5において、実施例1で調製した酸化チタン微粒子に代えて、実施例2〜4及び比較例1で調製した酸化チタン微粒子を用いた以外は、実施例5と同様にして、透明成形体を作製し、実施例5と同様に光線透過率を測定した。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

表2の結果から、実施例1〜4の酸化チタン微粒子を用いた実施例5〜8の成形体は、比較例1の酸化チタン微粒子を用いた比較例2の成形体に比べて、光線透過率が高く、透明性が高いことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の金属酸化物微粒子分散物は、可視域において透明性が高いため、光学フィルタ、塗料、繊維、化粧品、レンズなどに広く活用できる。また凝集が少なく、体積当たりの表面積が高いため、触媒材料としても有用である。更に、凝集が少ない単一な粒子は、ドラッグデリバリーシステム用の微粒子としても非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動的光散乱法で求めた粒子サイズSを、透過型電子顕微鏡(TEM)法で求めた粒子サイズSで除した値(S/S)が4以下であることを特徴とする金属酸化物微粒子分散物。
【請求項2】
金属酸化物微粒子を構成する金属が、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バリウム及び錫のいずれかを含有する請求項1に記載の金属酸化物微粒子分散物。
【請求項3】
金属酸化物微粒子が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタンとジルコニウムの複合酸化物、及びチタンと錫の複合酸化物のいずれかである請求項1から2のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散物。
【請求項4】
金属酸化物微粒子が結晶性を有する請求項1から3のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散物。
【請求項5】
TEM法で求めた粒子サイズが0.5nm以上50nm以下である請求項1から4のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散物。
【請求項6】
TEM法で求めた粒子サイズが0.5nm以上10nm以下である請求項1から5のいずれかに記載の金属酸化物微粒子分散物。

【公開番号】特開2008−239463(P2008−239463A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86757(P2007−86757)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】