説明

金属錯体、発光素子、表示装置

【課題】良好な発光特性を有する金属錯体を提供する。
【解決手段】[(PtII(M(L)]の組成を有する金属錯体。Mは、H、Ag、Au又はCuを表し、Lは、下記式(1)で表される構造を表す。4個存在するMは、同一であっても異なっていてもよい。8個存在するLは、同一であっても異なっていてもよい。


(式中、R及びRは、相異なり、メチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、トリフルオロメチル基又はフェニル基を表し、Rは、水素原子、メチル基、エチル基又はi−プロピル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光特性を有する金属錯体に関する。また、本発明は、この金属錯体を含む発光層を有する発光素子に関する。また、本発明は、この発光素子を備えてなる表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、液晶に代わる発光ディスプレイ(表示装置)として、有機EL素子が注目を集めている。従来の有機EL素子では、一重項励起状態からの発光(蛍光)が利用されてきた。この場合には、有機EL現象の原理から25%の発光効率が最大となり、非常に発光効率が悪かった。
【0003】
発光効率を上げる方法として、最近特に注目されているのが三重項励起状態から生じるリン光である(例えば、非特許文献1参照)。
この場合、原理的には100%の発光効率が可能となる。
【0004】
ところで、PtIIイオンにジイミン類やターピリジン及びその誘導体が配位した錯体は、MLCT(metal−to−ligand charge transferの略。金属イオンから配位子への電荷移動)や、MMLCT(metal−metal−to−ligand charge transferの略。金属−金属間相互作用により生じたdσ軌道から配位子への電荷移動)に起因した発光を示すものが多く、これらの化合物の光物理性質に興味が持たれている(例えば、非特許文献2参照)。
さらに、複数のCuIイオンやAuIイオンをピラゾールやその誘導体が架橋した多核錯体が発光することも知られている(例えば、非特許文献3参照)。
従って、分子内にPtIIイオンとCuイオン、AgIイオン、あるいはAuIイオンを含み、これらの金属イオンをピラゾールやその誘導体で架橋すると、異種金属イオン間の協奏的効果による発光特性を兼ね備えた新たな分子の創出が期待できる。
【0005】
このような着想に基づいて新規な金属錯体を開発するにあたり、3,5-ジメチルピラゾラト配位子が2つのPdIIイオンと4つのAgIイオンを架橋した混合金属錯体[Pd2Ag4(μ-dmpz)8](非特許文献4参照)が知られているが、この化合物の発光特性については全く報告がない。
【0006】
また、本発明者らも置換基を持たないピラゾラト配位子を用いてPtIIイオンとAgIイオンを架橋した混合金属錯体[Pt2Ag4(μ-pz)8](非特許文献5参照)を既に合成しているが、この化合物は発光を示さない。
【0007】
【非特許文献1】M. A. Baldo, S. Lamansky, P. E. Burrows, M. E. Thompson, S. R. Forrest, Appl. Phys. Lett., 1999, 75, 4-6.
【非特許文献2】S.-W. Lai, C.-M. Che, Topics in Current Chemistry, 2004, 241(Transition Metal and Rare Earth Compounds III), 27-63.
【非特許文献3】H. V. R. Dias, H. V. K. Diyabalanage, M. G. Eldabaja, O. Elbjeirami, M. A. Rawashdeh-Omary, M. A. Omary, J. Am. Chem. Soc., 2005, 127, 7489-7501.
【非特許文献4】G. A. Ardizzoia, G. La Monica, S. Cenini, M. Moret, N. Masciocchi, J. Chem. Soc., Dalton Trans. 1996, 1351-1357.
【非特許文献5】K. Umakoshi, Y. Yamauchi, K. Nakamiya, T. Kojima, M. Yamasaki, H. Kawano, M. Onishi, Inorg. Chem. 2003, 42, 3907-3916.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、良好な発光特性を有する金属錯体を提供することを目的とする。
また、本発明は、この金属錯体を含む発光層を有する発光素子を提供することを目的とする。
また、本発明は、この発光素子を備えてなる表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の第1の金属錯体は、以下の組成を含んでいる。
組成は、[(PtII(M(L)]である。
は、H、Ag、Au又はCuを表し、Lは、下記式(1)で表される構造を表す。4個存在するMは、同一であっても異なっていてもよい。8個存在するLは、同一であっても異なっていてもよい。
【0010】
【化1】

【0011】
式中、R及びRは、相異なり、メチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、トリフルオロメチル基又はフェニル基を表し、Rは、水素原子、メチル基、エチル基又はi−プロピル基を表す。
【0012】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の第2の金属錯体は、以下の組成を含んでいる。
組成は、[(PtII(M’(X)(L)]である。
M’は、Ag、Au又はCuを表し、Xは、Cl、Br又はIを表し、Lは、下記式(1)で表される構造を表す。4個存在するM’は、同一であっても異なっていてもよい。2個存在するXは、同一であっても異なっていてもよい。6個存在するLは、同一であっても異なっていてもよい。
【0013】
【化2】

【0014】
式中、R及びRは、相異なり、メチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、トリフルオロメチル基又はフェニル基を表し、Rは、水素原子、メチル基、エチル基又はi−プロピル基を表す。
【0015】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の第3の金属錯体は、以下の組成を含んでいる。
組成は、[(PtII(M’(X)(L)(LH)]である。
M’は、Ag、Au又はCuを表し、Xは、Cl、Br又はIを表し、Lは、下記式(1)で表される構造を表し、LHは、下記式(1−1)で表される構造を表す。4個存在するM’は、同一であっても異なっていてもよい。2個存在するXは、同一であっても異なっていてもよい。6個存在するLは、同一であっても異なっていてもよい。2個存在するLHは、同一であっても異なっていてもよい。
【0016】
【化3】

【化4】

【0017】
式中、R及びRは、相異なり、メチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、トリフルオロメチル基又はフェニル基を表し、Rは、水素原子、メチル基、エチル基又はi−プロピル基を表す。
【0018】
本発明の発光素子は、第1の金属錯体、第2の金属錯体、第3の金属錯体の1種以上を含む発光層を有することを特徴とする。
本発明の表示装置は、前記発光素子を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の金属錯体、第2の金属錯体、第3の金属錯体によれば、良好な発光特性を有する金属錯体を提供することができる。
【0020】
本発明の発光素子によれば、発光層が本発明の第1の金属錯体、第2の金属錯体、第3の金属錯体の1種以上を含むことにより、発光素子において、発光特性の向上を図ることが可能になる。
本発明の表示装置によれば、上記発光素子を備えて成ることにより、良好な画質で画像表示を行うことができ、信頼性の高い表示装置を実現することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0022】
まず、本発明の第1〜第3の金属錯体について説明する。
本発明の第1の金属錯体は、以下に示す組成を含んでいる。
組成は、[(PtII(M(L)]である。
は、H、Ag、Au又はCuを表し、Lは、前記式(1)で表される構造を表す。4個存在するMは、同一であっても異なっていてもよい。8個存在するLは、同一であっても異なっていてもよい。
そして、R及びRは、相異なり、メチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、トリフルオロメチル基又はフェニル基を表し、Rは、水素原子、メチル基、エチル基又はi−プロピル基を表す。
【0023】
本発明の第2の金属錯体は、以下に示す組成を含んでいる。
組成は、[(PtII(M’(X)(L)]である。
M’は、Ag、Au又はCuを表し、Xは、Cl、Br又はIを表し、Lは、前記式(1)で表される構造を表す。4個存在するM’は、同一であっても異なっていてもよい。2個存在するXは、同一であっても異なっていてもよい。6個存在するLは、同一であっても異なっていてもよい。
そして、R及びRは、相異なり、メチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、トリフルオロメチル基又はフェニル基を表し、Rは、水素原子、メチル基、エチル基又はi−プロピル基を表す。
【0024】
即ち、本発明の第1及び第2の金属錯体は、配位子Lを用いて構成され、PtIIイオンと、Mイオン(H,Ag,Au,Cuのいずれか)又はM’イオン(Ag,Au,Cuのいずれか)とを有する多核錯体である。また、本発明の第2の金属錯体は、さらにハロゲン化物イオン(X=Cl,Br,Iのいずれか)を有している。
【0025】
ピラゾール化合物LHは、基本的に、下記式(1−1)で表される構造であり、R及びRが相異なる(R≠R)構成であり、かつ、これらR及びRがメチル基(−Me)、エチル基(−Et)、i−プロピル基(−Pr)、t−ブチル基(−Bu)、トリフルオロメチル基(−CF)、又はフェニル基(−Ph)である。また、Rは、水素原子、メチル基、エチル基又はi−プロピル基である。
なお、下記式(1−1)は、前記式(1)とは、5員環部分の標記が異なっているが、実質的な構成は同等である。また、ここでは、電荷を持たないピラゾール化合物をLHと表し、ピラゾール化合物から水素イオンが解離した一価の陰イオンをLと表すものとする。
【0026】
【化5】

【0027】
このようなピラゾール化合物LHの構造としては、例えば、下記構造が挙げられる。
【0028】
【化6】

【0029】
なお、これら15個の構造では、炭素数がR≦Rとなっているが、炭素数をR≧Rとした構造も可能である。
【0030】
本発明の第3の金属錯体は、以下の組成を含んでいる。
組成は、[(PtII(M’(X)(L)(LH)]である。
M’は、Ag、Au又はCuを表し、Xは、Cl、Br又はIを表し、Lは、前記式(1)で表される構造を表し、LHは、前記式(1−1)で表される構造(ピラゾール化合物)を表す。4個存在するM’は、同一であっても異なっていてもよい。2個存在するXは、同一であっても異なっていてもよい。6個存在するLは、同一であっても異なっていてもよい。2個存在するLHは、同一であっても異なっていてもよい。
そして、R及びRは、相異なり、メチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、トリフルオロメチル基又はフェニル基を表し、Rは、水素原子、メチル基、エチル基又はi−プロピル基を表す。
【0031】
即ち、本発明の第3の金属錯体は、配位子L及びピラゾール化合物LHを用いて構成され、PtIIイオンと、M’イオン(Ag,Au,Cuのいずれか1種以上)と、ハロゲン化物イオン(X=Cl,Br,Iのいずれか1種以上)とを有する多核錯体である。
ピラゾール化合物LHは、基本的に、前記式(1−1)の構造であり、R及びRが相異なる(R≠R)構成であり、かつ、これらR及びRがメチル基(−Me)、エチル基(−Et)、i−プロピル基(−Pr)、t−ブチル基(−Bu)、トリフルオロメチル基(−CF)、又はフェニル基(−Ph)である。また、Rは、水素原子、メチル基、エチル基又はi−プロピル基である。
このようなピラゾール化合物LHの構造としては、例えば、前記の15個の構造が挙げられる。なお、前記15個の構造では、炭素数がR≦Rとなっていたが、炭素数をR≧Rとした構造も可能である。
【0032】
好ましくは、上記本発明の第1の金属錯体、第2の金属錯体、第3の金属錯体において、R及びRを、相異なり、かつ、メチル基、エチル基、i−プロピル基及びt−ブチル基からそれぞれ選定した構成とする。
さらに好ましくは、Rを水素原子とする。
好ましくは、上記本発明の第1の金属錯体、第2の金属錯体、第3の金属錯体において、Rで表される基の炭素数を、前記Rで表される基の炭素数よりも大きい構成とする。
好ましくは、上記本発明の第1の金属錯体、第2の金属錯体、第3の金属錯体において、Rがメチル基である構成とする。
強発光性錯体を得るためには、白金原子の配位平面の上部(dz軌道が張り出している空間)を、適した大きさの基Rで覆うことが、混合金属錯体の分子設計上有用である。
【0033】
次に、本発明の金属錯体の合成方法について説明する。
本発明の第1の金属錯体、第2の金属錯体、第3の金属錯体は、ピラゾール化合物(LH)を原料として使用して、合成することができる。その他の原料としては、例えば、白金錯体[PtCl2(C2H5CN)2]を使用することができる。
【0034】
まず、本発明の第1の金属錯体、第2の金属錯体、第3の金属錯体の合成に用いられるピラゾール化合物(LH)の合成について説明する。
このピラゾール化合物は、市販の化合物として購入し、使用することができる。また、既知の方法を用いて、又は、既知の方法を組み合わせることによって、合成することができる。
例えば、以下の方法により、ピラゾール化合物を合成することができる。
まず、J.Am.Chem.Soc.,72,1352−1356(1950)に記載の方法により、中間体であるジケトン化合物を得る。
次に、このジケトン化合物と、ヒドラジン又はヒドラジン一水和物とを、Bull.Soc.Chim.,45,877−884(1929)、Chem.Abstr.,24,7541(1930)、Tetrahedron,42,15,4253−4257(1986)、Heterocycles,53,1285(2000)に記載の方法等により、反応させることによって、前記式(1−1)で表されるピラゾール化合物を合成することができる。
【0035】
所望のジケトン化合物の合成法は、上述の合成法に限らず合成することができる。例えば、β−不飽和ケトンの酸化反応や、ケトカルボン酸と、アルキルブロマイドのGrignard試薬との反応によっても合成できる。
【0036】
また、ピラゾール化合物は、ジケトン化合物を原料とする上述の方法に限らず、J.Heterocyclic Chem.,35,1377(1998)に記載の方法に準じても、合成することができる。
【0037】
ピラゾール化合物の合成例として、ジケトン化合物(A)から、ピラゾール化合物(B)を合成する方法について、以下、詳細に説明する。
このときの化学反応は、下記化学反応式の通りである。
【0038】
【化7】

【0039】
ジケトン化合物(A)は、市販の化合物を購入し、使用することができる。また、J.Am.Chem.Soc.,72,1352−1356(1950)記載の方法に準じて、水素化ナトリウム等の強塩基存在下、3−メチル−2−ブタノンと酢酸エチルとの縮合反応によって得ることができる。
【0040】
まず、本発明の第1の金属錯体の一例として、[Pt2Ag4(μ-iPrMepz)8]の合成方法について説明する。この金属錯体は、本発明の第1の金属錯体において、Mを銀イオンとした構成である。
この金属錯体は、例えば次のようにして、合成することができる。
最初に、白金錯体[PtCl2(C2H5CN)2]とピラゾール化合物(LH)のiPrMepzHとを反応させて、中間生成物である単核錯体[Pt(iPrMepzH)4]Cl2を合成する。
次に、単核錯体[Pt(iPrMepzH)4]Cl2をKOHの存在下で反応させて、中間原料である金属錯体[Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2]を合成する。この金属錯体も単核錯体である。
次に、この中間原料の金属錯体[Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2]とAgBFを、トリエチルアミンの存在下で反応させて、金属錯体[Pt2Ag4(μ-iPrMepz)8]を合成する。
なお、単核錯体[Pt(iPrMepzH)4]Cl2の合成方法、金属錯体[Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2]の合成方法、金属錯体[Pt2Ag4(μ-iPrMepz)8]の合成方法は、それぞれ上述した方法に限定されるものではなく、その他の方法で合成してもよい。
【0041】
本発明の第2の金属錯体は、本発明の第1の金属錯体の合成方法に準じた方法によって、合成することができる。
例えば、白金錯体[PtX2(C2H5CN)2](X=Cl,Br,I)とピラゾール化合物LH(iPrMepzH等)とを反応させる。そして、この反応により得られる、白金(II)イオン、ハロゲン化物イオンX及び配位子Lを含有する金属錯体と、AgBFとを反応させれば、第2の金属錯体(例えば、[Pt2Ag4(μ-Cl)2(μ-iPrMepz)6])を合成することができる。
【0042】
次に、本発明の第3の金属錯体の一例として、[Pt2Au4Cl2(iPrMepz)6(iPrMepzH)2]の合成方法について説明する。この金属錯体は、本発明の第3の金属錯体において、M’を金イオンとして、XをCl(塩素)としたものである。
この金属錯体は、例えば次のようにして、合成することができる。
前述した第1の金属錯体の合成方法と同様に、中間原料として、金属錯体[Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2]を合成する。
次に、この中間原料の金属錯体[Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2]とAuCl(tht)を、トリエチルアミンの存在下で反応させて、金属錯体[Pt2Au4Cl2(iPrMepz)6(iPrMepzH)2]を合成する。
なお、金属錯体[Pt2Au4Cl2(iPrMepz)6(iPrMepzH)2]の合成方法は、上述した方法に限定されるものではなく、その他の方法で合成してもよい。
【0043】
次に、本発明の金属錯体の用途について説明する。
上述の金属錯体は、有機EL素子等の発光素子の発光層に含有させる発光剤としての用途がある。
なお、上述の金属錯体の用途は、発光剤に限定されない。この他、有機分子やガス分子等のセンサーや制癌剤、或いは、普段は無色透明であるが紫外光照射時のみ発光する塗料等の用途がある。
【0044】
次に、上述の金属錯体を発光層に含有する発光素子について説明する。
本発明の発光素子の一例の断面図を、図1に示す。
図1に示す発光素子は、ガラス等の透明な基板1の上に、陽極2が形成され、この陽極2の上に、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、及び電子注入層7が積層形成され、さらに電子注入層7の上に陰極8が形成された構成である。
即ち、陽極2と陰極8との間に、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7の5層が積層形成された、5層型の発光素子となっている。
【0045】
本発明の発光素子は、上述の5層型の発光素子に限定されない。
この他、5層型の発光素子から電子輸送層を省略した4層型の発光素子であってもよい。また、5層型の発光素子から正孔注入層と電子注入層を省略した3層型の発光素子であってもよい。また、3層型の発光素子の発光層と電子輸送層を兼用して1つの層とする2層型の発光素子であってもよい。また、陽極と陰極の間に発光層のみが形成される単層型であってもよい。
【0046】
本発明の第1の金属錯体、第2の金属錯体、第3の金属錯体を有利に適用し得る発光素子は、本質的に、発光能を有する金属錯体を含んでなる発光素子であって、通常、正電圧を印加する陽極と、負電圧を印加する陰極と、陽極から正孔を注入して輸送する正孔注入/輸送層と、陰極から電子を注入して輸送する電子注入/輸送層と、正孔と電子を再結合させ発光を取り出す発光層とを含んでなる積層型発光素子である。
【0047】
本発明の第1の金属錯体、第2の金属錯体、第3の金属錯体は、顕著な発光能を有するので、発光素子におけるホスト発光剤として極めて有用である。
さらに、これらの第1の金属錯体、第2の金属錯体及び第3の金属錯体は、正孔注入/輸送層用剤、電子注入/輸送層用剤、さらには、トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム等の、8−キノリノール類を配位子とする金属錯体を始めとする他のホスト発光剤に微量ドープしてその発光効率や発光スペクトルを改善するためのゲスト発光剤としても機能する。
従って、本発明の第1の金属錯体、第2の金属錯体及び第3の金属錯体は、これらの材料の単独又は複数が不可欠の要素となる発光素子において、単独で、或いは、ジシアノメチレン(DCM)類、クマリン類、ペリレン類、ルブレン類等の他の発光剤や正孔注入/輸送層用剤及び/又は電子注入/輸送層用剤と組み合わせて、極めて有利に用いることができる。
【0048】
なお、積層型発光素子において、発光剤が正孔注入/輸送能又は電子注入/輸送能を兼備する場合には、それぞれ、正孔注入/輸送層又は電子注入/輸送層を省略することがあり、また、正孔注入/輸送層用剤及び電子注入/輸送層用剤の一方が他方を兼備する場合には、それぞれ、電子注入/輸送層又は正孔注入/輸送層を省略することがある。
【0049】
本発明の第1の金属錯体、第2の金属錯体、第3の金属錯体は、単層型発光素子及び積層型発光素子のいずれにも適用可能である。
発光素子の動作は、本質的に、電子及び正孔を電極から注入する過程、電子及び正孔が固体中を移動する過程、電子及び正孔が再結合し、三重項励起子を生成する過程、そして、その励起子が発光する過程からなり、これらの過程は単層型発光素子及び積層型発光素子のいずれにおいても本質的に異なるところがない。
ただし、単層型発光素子においては、発光剤の分子構造を変えることによってのみ上記4過程の特性を改良し得るのに対して、積層型発光素子においては、各過程において要求される機能を複数の材料に分担させると共に、それぞれの材料を独立して最適化することができることから、一般的には、単層型に構成するより積層型に構成する方が所期の性能を達成し易い。
【0050】
上述の発光素子は、表示装置に用いることができる。即ち、発光素子を構成要素とする表示装置においては、この発光素子の発光層に上述の第1の金属錯体、第2の金属錯体、第3の金属錯体を含有させることができる。
【0051】
なお、本発明は、上述の発明を実施するための最良の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、その他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0052】
次に、本発明に係る実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0053】
(合成例)
まず、ナスフラスコに、窒素雰囲気下、5−メチル−2,4−ヘキサンジオン(34.46g,0.269mol)、ジクロロメタン(207ml)を仕込み、室温で溶解した。
次いで、水浴で10℃に冷却し、この状況下で、ヒドラジン一水和物NHNH・HO(14.12g,0.282mol)を徐々に滴下した。その後、10℃で16時間保温した。
TLC(薄層クロマトグラフィー)によって、原料のジケトン化合物が消失したのを確認した後に、ジクロロメタン(500ml)を加え、水(300ml)で2回洗浄し、分液した。
無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮し、淡黄緑色の粗結晶36.46gを得た。
さらに、減圧蒸留を2回行い、透明な結晶(3−イソプロピル−5−メチルピラゾール)19.52gを得た。収率は58.4%であった。
【0054】
得られた結晶について、1H NMRスペクトルにより同定を試みた。結果は、以下の通りであった。
1H NMR(400MHz/CDCl3):δ1.26(d、6H)、2.27(s、3H)、2.96(hept、1H)、5.85(s、1H)、9.50(bs、1H)
【0055】
また、得られた結晶について、LC/MSにより質量分析を行った。結果は、次の通りであった。
LC/MS:APPI法(posi) [M+H]=125
【0056】
続いて、ピラゾール化合物(LH)を使用した、第1の金属錯体、第2の金属錯体、第3の金属錯体の合成方法を説明する。
ただし、以下では、iPrMepzHは3−イソプロピル−5−メチルピラゾールを表し、iPrMepzは3−イソプロピル−5−メチルピラゾールから水素イオンが解離した一価の陰イオンを表すものとする。
【0057】
(実施例1)
中間原料として、金属錯体[Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2]を合成し、この中間原料を用いて本発明の第1の金属錯体の一種である[Pt2Ag4(μ-iPrMepz)8]を合成した。この金属錯体は、本発明の第1の金属錯体において、Mを銀イオンとした構成である。
以下、この金属錯体の合成方法の詳細について説明する。
【0058】
まず、中間原料である金属錯体[Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2]を合成するための中間生成物である単核錯体[Pt(iPrMepzH)4]Cl2を合成した。
具体的には、[PtCl2(C2H5CN)2](500mg,1.329mmol)を含むトルエン溶液(10ml)と、iPrMepzH(660.3mg,5.317mmol)とを混合し、Ar雰囲気下で2時間還流した。さらに、溶液を冷却して、析出した白色固体を濾別し、ヘキサン、エーテルの順で洗浄した後、減圧乾燥した。収量は353mg(収率35%)であった。
この化学反応は、下記化学反応式の通りである。
【0059】
【化8】

【0060】
クロロホルム/アセトニトリルから、白色固体の再結晶を行った。
この白色固体は、クロロホルム、塩化メチレン、トルエン、ベンゼン、アセトンに可溶であった。
【0061】
この中間生成物の白色固体について、元素分析、IRスペクトル及びH NMRスペクトルにより、生成物の同定を行った。
生成物の元素分析を行った結果を、計算値と比較して、表1に示す。なお、この白色固体を構成する金属錯体(単核錯体[Pt(iPrMepzH)4]Cl2)の組成は、C28H48Cl2N8Ptである。
【0062】
【表1】

【0063】
IRスペクトルの同定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3432(br),3127(w),3065(w),2965(s),2803(w),2679(w),2646(w),2609(w),2528(w),1579(m),1489(w),1370(w),1345(w),1286(m),1173(w),1145(w),1072(w),1002(w),850(w),808(m)
また、H NMRスペクトルの同定結果は、下記の表2の通りである。
【0064】
【表2】

【0065】
さらにまた、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=690.4[M-H]+(ここでは、Mは錯陽イオン[Pt(iPrMepzH)4]2+を表す)
【0066】
なお、濾液を濃縮すると、さらに白色固体が得られた。
この白色固体に対して、H NMRスペクトルにより同定を試みたところ、複雑なスペクトルを示した。このことから、溶解度が高い白色固体は、幾つかの異性体の混合物であると考えられる。
【0067】
次に、得られた中間生成物[Pt(iPrMepzH)4]Cl2(単核錯体)の構造について説明する。
この中間生成物[Pt(iPrMepzH)4]Cl2の白色固体について、単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データを表3に示す。
【0068】
【表3】

ここで、表中の各項目は、上から、組成、式量、測定温度、測定波長(MoKα線=0.7107Å)、晶系、空間群、格子定数(a,b,c,α,β,γ)、格子体積、Z値、密度、線吸収係数、独立な反射の数、データ数とパラメータ数、最終R値、全反射を用いた場合のR値、GOF値である。
【0069】
この単核錯体[Pt(iPrMepzH)4]Cl2の分子構造は、図2のORTEP図に示すように、iPrMepzH配位子が4つ、メチル基に近い方のN原子でPt原子に配位した錯陽イオンと2つの塩化物イオンからなっており、塩化物イオンはiPrMepzH配位子のNHプロトンと水素結合を形成している。Pt原子は結晶学的な対称中心上に位置し、分子内の半分の原子が独立である。Pt−N距離は、2.008(3)Å及び2.013(2)Åであり、Cl…N距離は3.078(3)Å及び3.092(3)Åである。
【0070】
次に、中間生成物である単核錯体[Pt(iPrMepzH)4]Cl2から、金属錯体[Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2]を合成した。
具体的には、Ar雰囲気下で、単核錯体[Pt(iPrMepzH)4]Cl2(100mg,0.13mmol)を含むメタノール溶液(30ml)と、KOH(14.6mg,0.26mmol)を含むメタノール溶液(10ml)とを混合し、3時間室温で撹拌した。
その後、生じた白色沈殿を濾別し、メタノール、水で洗浄した後、減圧乾燥した。収量は67mg(収率75%)であった。
この化学反応は、下記化学反応式の通りである。
【0071】
【化9】

【0072】
クロロホルム/アセトニトリルから、再結晶を行った。
得られた生成物は、クロロホルム、塩化メチレン、トルエン、ベンゼン、アセトンに可溶であった。
【0073】
さらに、元素分析、IRスペクトル及びH NMRスペクトルにより、生成物の同定を行った。
生成物の元素分析を行った結果を、計算値と比較して、表4に示す。なお、金属錯体[Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2]の組成は、C28H46N8Ptである。
【0074】
【表4】

【0075】
IRスペクトルの同定結果は、次の通りである。
IR(KBr):2962(s),2923(w),2868(w),2605(br),1572(m),1492(w),1420(w),1341(w),1317(w),1284(m),1203(w),1173(w),1067(w),1013(m),889(w),830(w),768(w),724(w),665(w),506(w)
また、H NMRスペクトルの同定結果は、下記の表5の通りである。
【0076】
【表5】

【0077】
さらにまた、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=690.4[M+H]+
【0078】
得られた金属錯体の構造について説明する。
得られた金属錯体について、単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データを表6に示す。
【0079】
【表6】

【0080】
この金属錯体の分子構造は、図3のORTEP図に示すように、iPrMepz配位子2つとiPrMepzH配位子2つがPt原子に配位した無電荷の単核錯体であり、[Pt(iPrMepzH)4]Cl2と同様に全ての配位子はメチル基に近い方のN原子でPt原子に配位している。Pt−N距離は、2.013(4)Å〜2.019(3)Åであり、分子内水素結合に関連したN…N距離は2.685(5)Å及び2.694(5)Åである。
【0081】
次に、中間原料の金属錯体[Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2]から、本発明の第1の金属錯体の1つである[Pt2Ag4(μ-iPrMepz)8]を合成した。
具体的には、Ar雰囲気下で、金属錯体[Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2](50mg,0.072mmol)を含むアセトニトリル溶液(30ml)とAgBF4(28.2mg,0.145mmol)及びEt3N(20.16μl,0.145mmol)を混合し、室温で3時間撹拌した。
その後、生じた白色沈殿を濾別し、アセトニトリルで洗浄した後、減圧乾燥した。収量は56mg(収率83%)であった。
この化学反応は、下記化学反応式の通りである。
【0082】
【化10】

【0083】
この得られた化合物は、UV光照射下、固体状態で水色に強く発光した。
【0084】
クロロホルム/アセトニトリルから、再結晶を行った。X線構造解析に適した単結晶は、塩化メチレン/ヘキサンからの再結晶により得られた。
この化合物は、クロロホルム、塩化メチレン、トルエン、ベンゼン、アセトンに可溶であった。
【0085】
さらに、元素分析、IRスペクトル及びH NMRスペクトルにより、生成物の同定を行った。
生成物の元素分析を行った結果を、計算値と比較して、表7に示す。なお、金属錯体[Pt2Ag4(μ-iPrMepz)8]の組成は、C56H88N16Pt2Ag4である。
【0086】
【表7】

【0087】
IRスペクトルの同定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3117(w),2959(s),2922(w),2867(w),1525(s),1427(s),1380(w),1354(s),1296(w),1175(w),1142(m),1104(w),1026(w),981(w),921(w),769(s),710(w),659(w),518(w),398(w)
また、H NMRスペクトルの同定結果は、下記の表8の通りである。
【0088】
【表8】

【0089】
さらにまた、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=1806.3[M+]
【0090】
得られた金属錯体の構造について説明する。
得られた金属錯体について、単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データを表9に示す。
【0091】
【表9】

【0092】
この金属錯体[Pt2Ag4(μ-iPrMepz)8]の分子構造を、図4のORTEP図に示す。
[Pt2Ag4(μ-iPrMepz)8]は、Pt(μ-iPrMepz)4ユニット2つとAgイオン4つからなる無電荷の六核錯体である。
本錯体においても、[Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2]と同様に、全ての配位子はメチル基に近い方のN原子でPt原子に配位している。また、[Pt2Ag4(μ-iPrMepz)8]は、2つのPt原子を通る擬似的な4回回転軸とそれに垂直な2つの擬似的な2回回転軸を有している。[Pt2Ag4(μ-iPrMepz)8]におけるPt…Pt距離は5.1196(6)Å、Pt…Ag距離は3.415(1)〜3.578(1)Åであり、Ag…Ag距離は3.267(1)〜4.857(1)Åの範囲にある。また、Pt−N距離は、2.003(9)〜2.030(9)Åであり、Ag−N距離は、2.086(10)〜2.110(9)Åの範囲にある。
【0093】
一方、[Pt(iPrMepzH)4]Cl2の合成時に、溶解度が高い成分として得られる白色固体を、KOHで処理すると、固体状態で黄色の発光を示す白色固体が中間錯体として得られる。
この化合物100mgを含むアセトニトリル溶液(10ml)とAgBF4(56.4mg,0.145mmol)及びEt3N(40.3μl,0.29mmol)とを混合し、室温で2時間撹拌した。
その後、生じた白色沈殿を濾別し、アセトニトリルで洗浄した後、減圧乾燥した。収量は101mgであった。
この得られた化合物は、UV光照射下、固体状態で緑色に強く発光した。
【0094】
クロロホルム/アセトニトリルから、再結晶を行った。
この化合物は、クロロホルム、塩化メチレン、トルエン、ベンゼン、アセトンに可溶であった。
【0095】
また、H NMRスペクトル測定を行ったところ、複雑なスペクトルが得られた。
【0096】
[Pt2Ag4(μ-iPrMepz)8]は、固体状態では499nmに発光極大を持つ水色の発光を示し、ジクロロメタン中では539nmに発光極大を持つ黄緑色の発光を示す。
また、[Pt(iPrMepzH)4]Cl2を合成する際に副生成物として得られる溶解度の高い成分を原料として合成したPt−Ag錯体(以下、「異性体」とする)は、固体状態では512nmに発光極大を持つ緑色の発光を示し、ジクロロメタン中では539nmに発光極大を持つ黄緑色の発光を示す。
【0097】
これらの錯体について、固体状態とジクロロメタン中で、発光スペクトル及び発光減衰曲線の測定を行った。そして、測定して得られた発光減衰曲線を、二成分指数関数(I(t)=A1exp(-t/τ1)+A2exp(-t/τ2))で解析した。
ここで、I(t)は、ある時間tにおける発光強度、tは、時間、τは、発光寿命、Aは、それぞれの寿命(τ又はτ)をもった成分(1又は2)の寄与の割合(A1+A2=1.0)を表す。
この解析結果を、表10に示す。また、各錯体の固体状態及びジクロロメタン中における発光スペクトルを、図5に示す。
なお、表中のφは、発光量子収率を表す。
【0098】
【表10】

【0099】
表10より、これらの錯体の発光は、他の類似の錯体と同様に、発光寿命が比較的長いことから、励起三重項状態からの発光であると考えられる。
【0100】
さらに、実施例1の金属錯体を使用してEL素子を作製し、このEL素子の発光について調べた。
実施例1の金属錯体[Pt2Ag4(μ-iPrMepz)8]をCBP(4,4'-N,N'-dicarbazole-biphenyl)に5wt%の割合で添加した混合物の、0.8wt%クロロホルム溶液を調製した。
次に、スパッタ法により150nmの厚みでITO膜を付けたガラス基板に、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸の溶液(バイエル社、BaytronP)を用いて、スピンコートにより50nmの厚みでこの溶液の成膜を行い、ホットプレート上において200℃で10分間乾燥した。
次に、先に調製したクロロホルム溶液を使用して、スピンコートにより3500rpmの回転速度で成膜した。膜厚は約100nmであった。
さらに、これを窒素雰囲気中、60℃で10分間乾燥した後に、陰極バッファー層としてバリウムを約5nm、アルミニウムを約150nm蒸着して、EL素子を作製した。なお、この金属の蒸着の際には、真空度が1×10−4Pa以下に到達した後に、蒸着を開始した。
得られたEL素子に電圧を印加したところ、波長515nmにピークを有するEL発光が得られた。
【0101】
上述の実施例では、金属イオンMをAgとし、ピラゾール化合物LHを3−イソプロピル−5−メチルピラゾール(iPrMepzH)として、本発明の第1の金属錯体を合成した場合であったが、本発明の第1の金属錯体、第2の金属錯体及び第3の金属錯体の範囲内であれば、その他の金属錯体であっても、良好な発光特性が得られる。
【0102】
(実施例2)
実施例1でも用いた金属錯体[Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2]を中間原料として用いて、本発明の第3の金属錯体の一種である[Pt2Au4Cl2(iPrMepz)6(iPrMepzH)2]を合成した。この金属錯体は、本発明の第3の金属錯体において、M’を金イオンとして、XをCl(塩素)としたものである。
以下、この金属錯体の合成方法の詳細について説明する。
【0103】
まず、実施例1と同様に、中間原料として、金属錯体[Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2]、即ち、4つの配位子が全てメチル基の隣のN原子で配位した単核錯体を合成した。
次に、この中間原料の金属錯体[Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2]から、本発明の第3の金属錯体の1つである[Pt2Au4Cl2(iPrMepz)6(iPrMepzH)2]を合成した。
具体的には、金属錯体[Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2](50mg,0.072mmol)を、アセトニトリル(10ml)に懸濁させた。この懸濁液に、AuCl(tht)(46.5mg,0.145mmol)のアセトニトリル溶液(10ml)とEt3N(20.16μl,0.145mmol)を加え、Ar雰囲気下で、室温で4時間撹拌した。
その後、生成した白色固体を濾別し、アセトニトリルで洗浄した後、減圧乾燥した。収量は60.5mgであった。
この化学反応は、下記化学反応式の通りである。
【0104】
【化11】

【0105】
この得られた化合物は、UV光を照射すると、黄色の発光を示した。
【0106】
この化合物にCHCl3またはCH2Cl2を加えると、一旦懸濁するが、5分程度放置すると、薄い紫色の透明な溶液となる。CHCl3またはCH2Cl2から再結晶を行った化合物は、UV光照射下、弱い白橙色の発光を示した。
この化合物の溶媒への溶解性は、クロロホルム、塩化メチレンに可溶であり、トルエン、ベンゼン、アセトン、エーテル、メタノール、アセトニトリル、ヘキサンに難溶であった。
【0107】
生成物の白色固体について、IRスペクトル、元素分析、H NMRスペクトル及びFAB−MSにより、生成物の同定を行った。
【0108】
IRスペクトルの同定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3424(br),3114(w),2961(s),2925(m),2868(m),2364(w),1569(m),1531(s),1459(m),1428(s),1362(s),1300(w),1274(w),1147(m),1106(w),1063(m),1036(w),773(m),711(w),661(w),500(w),425(w)
生成物の元素分析を行った結果を、計算値と比較して、表11に示す。なお、金属錯体[Pt2Au4Cl2(iPrMepz)6(iPrMepzH)2]の組成は、C56H90Au4Cl2N16Pt2である。
【0109】
【表11】

【0110】
また、H NMRスペクトルの同定結果は、下記の表12の通りである。
【0111】
【表12】

【0112】
さらにまた、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=2236.04[M+]
【0113】
得られた金属錯体の構造について説明する。
得られた金属錯体について、単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データを表13に示す。
【0114】
【表13】

ここで、表中の各項目は、上から、組成、式量、測定温度、測定波長(MoKα線=0.7107Å)、晶系、空間群、格子定数(a,b,c,α,β,γ)、格子体積、Z値、密度、線吸収係数、独立な反射の数、データ数とパラメータ数、最終R値、全反射を用いた場合のR値、GOF値である。
【0115】
この金属錯体[Pt2Au4Cl2(iPrMepz)6(iPrMepzH)2]の分子構造を、図6のORTEP図に示す。
[Pt2Au4Cl2(iPrMepz)6(iPrMepzH)2]は、2つのPtIIイオン、4つのAuIイオン、2つの塩化物イオン、6つのiPrMepz、及び2つのiPrMepzHからなる六核錯体である。
各々のPt原子には、すべての配位子がメチル基の隣のN原子で配位している。
各Pt原子に配位した3つのiPrMepzのうち、それぞれ2つのiPrMepzがPt原子とAu原子を架橋して二量体構造を形成しており、残りの1つのiPrMepzはPt原子とAuClユニットを架橋している。
また、各々のPt原子の残りの配位座には、iPrMepzHが配位している。
Pt…Pt軸に垂直に、Au…Au軸の中点を通る結晶学的な2回回転軸が存在し、Pt…Pt距離は5.455(1)Å、Au…Au距離は3.226(1)Åであり、Pt…Au距離は3.480(1)〜3.7103(9)Åの範囲にある。また、Au−Cl距離は2.221(5)Åであり、Pt−N距離は1.99(1)〜2.08(1)Å、Au−N距離は、2.01(1)〜2.02(1)Åの範囲にある。
【0116】
(実施例3)
中間原料として、単核錯体である金属錯体[Pt(iPrMepzH)4]Cl2を用いて、本発明の第1の金属錯体の一種である[{Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2}2]を合成した。この金属錯体は、本発明の第1の金属錯体において、Mを水素イオンとした構成である。
以下、この金属錯体の合成方法の詳細について説明する。
【0117】
まず、実施例1と同様にして、単核錯体[Pt(iPrMepzH)4]Cl2を合成した。
この単核錯体[Pt(iPrMepzH)4]Cl2の合成において、全てのiPrMepzHがメチル基の隣のN原子でPt原子に配位した構造を有する金属錯体を濾別した後、その濾液をさらに濃縮すると、溶解度の異なる幾何異性体が得られる。
この幾何異性体[Pt(iPrMepzH)4]Cl2(1000mg,1.3mmol)を含むメタノール溶液5mlとKOH(146mg,2.6mmol)を含むメタノール溶液(10ml)を混合し、Ar雰囲気下で、室温で24時間撹拌した。
その後、生成した白色沈殿を濾別し、メタノール、水で洗浄した後、減圧乾燥した。収量は、225mg(収率22.5%)であった。
この化学反応は、下記化学反応式の通りである。
【0118】
【化12】

【0119】
クロロホルム/アセトニトリルから、再結晶を行った。
得られた化合物の溶媒への溶解性は、クロロホルム、塩化メチレン、トルエン、ベンゼンに可溶であり、エーテル、ヘキサンに微溶であり、メタノール、アセトニトリル、アセトンに難溶であった。
【0120】
さらに、得られた生成物について、IRスペクトル、元素分析、H NMRスペクトル及びFAB−MSにより、生成物の同定を行った。
【0121】
IRスペクトルの同定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3108(w),2960(s),2925(s),2867(m),2476(br),1874(br),1576(w),1528(w),1430(w),1380(m),1359(w),1288(w),1143(w),1104(m),1057(w),1035(w),984(w),924(w),891(w),773(w),713(w),660(w),501(w),415(w)
生成物の元素分析を行った結果を、計算値と比較して、表14に示す。なお、金属錯体[{Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2}2]の組成は、C56H92N16Pt2である。
【0122】
【表14】

【0123】
また、H NMRスペクトルの同定結果は、下記の表15の通りである。
【0124】
【表15】

【0125】
さらにまた、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=1377.7[M+]
【0126】
得られた金属錯体の構造について説明する。
得られた金属錯体について、単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データを表16に示す。
【0127】
【表16】

ここで、表中の各項目は、上から、組成、式量、測定温度、測定波長(MoKα線=0.7107Å)、晶系、空間群、格子定数(a,b,c,α,β,γ)、格子体積、Z値、密度、線吸収係数、独立な反射の数、データ数とパラメータ数、最終R値、全反射を用いた場合のR値、GOF値である。
【0128】
この金属錯体[{Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2}2]の分子構造を、図7のORTEP図に示す。
[{Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2}2]は、Pt原子にiPrMepzとiPrMepzHがそれぞれ2つずつ配位した単核錯体{Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2}2分子が、互いの分子のiPrMepzとiPrMepzHの間でN−H…N水素結合を形成することにより、2量化した構造をとっている。
各々のPt原子には、メチル基の隣のN原子で配位しているiPrMepzHと、イソプロピル基の隣のN原子で配位したiPrMepzHが、それぞれcis配置を取っている。Pt…Pt軸に垂直に結晶学的な2回回転軸が存在し、二量体内のPt…Pt距離は3.7306(3)Åである。
【0129】
また、この金属錯体[{Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2}2]の固体状態の発光スペクトルを、図8に示す。
図8に示すように、金属錯体[{Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2}2]は、固体状態では、567nmに発光極大をもつ、黄色の発光を示した。
また、固体状態の発光量子収率は、Φ=0.06であった。
【産業上の利用可能性】
【0130】
以上の通り、本発明に係る金属錯体は、発光素子、表示装置等の製造に有用な材料として、産業上の利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】本発明の発光素子の一例を示す断面図である。
【図2】[Pt(iPrMepzH)4]Cl2の分子構造を示すORTEP図である。
【図3】[Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2]の分子構造を示すORTEP図である。
【図4】[Pt2Ag4(μ-iPrMepz)8]の分子構造を示すORTEP図である。
【図5】[Pt2Ag4(μ-iPrMepz)8]及び異性体の発光スペクトルである。
【図6】[Pt2Au4Cl2(iPrMepz)6(iPrMepzH)2]の分子構造を示すORTEP図である。
【図7】[{Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2}2]の分子構造を示すORTEP図である。
【図8】[{Pt(iPrMepz)2(iPrMepzH)2}2]の固体状態の発光スペクトルである。
【符号の説明】
【0132】
1 基板、2 陽極、3 正孔注入層、4 正孔輸送層、5 発光層、6 電子輸送層、7 電子注入層、8 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の組成を含む金属錯体。
[(PtII(M(L)
(式中、Mは、H、Ag、Au又はCuを表し、Lは、下記式(1)で表される構造を表す。4個存在するMは、同一であっても異なっていてもよい。8個存在するLは、同一であっても異なっていてもよい。)
【化1】

(式中、R及びRは、相異なり、メチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、トリフルオロメチル基又はフェニル基を表し、Rは、水素原子、メチル基、エチル基又はi−プロピル基を表す。)
【請求項2】
前記R及びRは、相異なり、メチル基、エチル基、i−プロピル基又はt−ブチル基である請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
前記Rが水素原子である請求項1又は請求項2に記載の金属錯体。
【請求項4】
前記Rで表される基の炭素数が、前記Rで表される基の炭素数より大きい請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項5】
前記Rがメチル基である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項6】
以下の組成を含む金属錯体。
[(PtII(M’(X)(L)
(式中、M’は、Ag、Au又はCuを表し、Xは、Cl、Br又はIを表し、Lは、下記式(1)で表される構造を表す。4個存在するM’は、同一であっても異なっていてもよい。2個存在するXは、同一であっても異なっていてもよい。6個存在するLは、同一であっても異なっていてもよい。)
【化2】

(式中、R及びRは、相異なり、メチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、トリフルオロメチル基又はフェニル基を表し、Rは、水素原子、メチル基、エチル基又はi−プロピル基を表す。)
【請求項7】
前記R及びRは、相異なり、メチル基、エチル基、i−プロピル基又はt−ブチル基である請求項6に記載の金属錯体。
【請求項8】
前記Rが水素原子である請求項6又は請求項7に記載の金属錯体。
【請求項9】
前記Rで表される基の炭素数が、前記Rで表される基の炭素数より大きい請求項6〜請求項8のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項10】
前記Rがメチル基である請求項6〜請求項9のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項11】
以下の組成を含む金属錯体。
[(PtII(M’(X)(L)(LH)
(式中、M’は、Ag、Au又はCuを表し、Xは、Cl、Br又はIを表し、Lは、下記式(1)で表される構造を表し、LHは、下記式(1−1)で表される構造を表す。4個存在するM’は、同一であっても異なっていてもよい。2個存在するXは、同一であっても異なっていてもよい。6個存在するLは、同一であっても異なっていてもよい。2個存在するLHは、同一であっても異なっていてもよい。)
【化3】

【化4】

(式中、R及びRは、相異なり、メチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、トリフルオロメチル基又はフェニル基を表し、Rは、水素原子、メチル基、エチル基又はi−プロピル基を表す。)
【請求項12】
前記R及びRは、相異なり、メチル基、エチル基、i−プロピル基又はt−ブチル基である請求項11に記載の金属錯体。
【請求項13】
前記Rが水素原子である請求項11又は請求項12に記載の金属錯体。
【請求項14】
前記Rで表される基の炭素数が、前記Rで表される基の炭素数より大きい請求項11〜請求項13のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項15】
前記Rがメチル基である請求項11〜請求項14のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項16】
請求項1〜請求項15のいずれか1項に記載の金属錯体を含む発光層を有する発光素子。
【請求項17】
請求項16に記載の発光素子を備えてなる表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−235056(P2009−235056A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218766(P2008−218766)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】