説明

金属錯体の使用方法

金属錯体の存在下において標的分子を基質に暴露する段階を含み、標的分子が非改変標的分子であり、金属錯体が、標的分子と基質との間に安定な結合相互作用を提供するように選択される、標的分子を基質に固定化する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体を介して標的分子を基質に固定化するための方法、その方法における金属錯体の使用方法およびその方法で効果的である結合種に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物発見研究および診断における様々な用途に関して生体分子、たとえばペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド、オリゴ糖を固体支持体に固定化するための簡単なプロセスが必要とされている。従来技術には、Hermanson, et. al., Bioconjugate Techniques: Academic Press, 1996(非特許文献1)に記載されているもののような多数の手法があるが、うまく利用できる方法は数が限られている。たとえば、共有結合的カップリング法には以下のものがある:
【0003】
1. アミンと活性化カルボン酸との間のアミド形成。この場合、生体分子を特異的アフィニティータグで改変する必要がないため、重要な利点はその簡素さである。しかし、タンパク質表面には、選択性の課題および再現性の問題につながる数多くのアミンおよびカルボン酸基がある。タンパク質は、固体支持体に対してランダムな配向で結合する。一つまたは複数のアミンおよびカルボン酸基の改変が機能活性の損失につながるおそれがあり、このライゲーション法の効率はタンパク質依存性である。
【0004】
2. チオールをマレイミドもしくはブロモアセトアミド基とともに使用するチオエーテル形成またはピリジルジスルフィドのような試薬を使用するジスルフィド形成。選択的なチオエーテルまたはジスルフィド相互作用が可能であるが、タンパク質中のジスルフィドを減らす、またはチオールもしくはそれらの反応性対応物のいずれかを加える手順は大きな労力を要し、同じくタンパク質機能の損傷につながるおそれがある。
【0005】
3. アミンとカルボニル基との間のイミン形成。グルタルアルデヒドの使用から糖(糖タンパク質中)の制御された酸化およびより最近のものではヒドラゾンを形成するためのヒドラジンの使用(US6,800,728(特許文献1)および引用文献)まで、多数の種類が存在する。正確な方法に依存して、選択的結合は可能であるが、手順は大きな労力を要し、これらの架橋剤のタンパク質へのカップリングは、そのものが制限をかかえる他のカップリング方法(たとえばアミド形成)に依存する。
【0006】
または、公知の高アフィニティー結合相互作用を使用することもできる。もっとも一般的なアフィニティー対は、ビオチンとアビジン/ストレプトアビジンである。ビオチンは、非常に高い親和力でアビジンに結合するが、タンパク質内にすでに存在しない限り、関心対象のタンパク質にカップリングさせなければならないか、関心対象のタンパク質と共に組換え的に発現させなければならない。さらなるアミノ酸、ドメイン全体、さらにはタンパク質全体をも発現させることができ、これらの「融合タグ」は、精製および検出のための、タグ付きタンパク質の容易な操作を可能にする。もう一つの一般的な融合タグは、ニッケルおよびコバルトのような金属イオンと結合するヒスチジン残基の短い配列である。固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)は、タンパク質の再折りたたみ、バイオセンサおよびプレートベースのイムノアッセイ法のような他の用途に適用されてきた信頼性の高い精製法である(Ueda, E.K.M., Gout, P. W., and Morganti, L. J. Chromatography A, 988 (2003) 1-23(非特許文献2))。IMACでは、金属イオンは、タンパク質がポリ-Hisタグを介して結合することができる遊離配位部位を有する固体支持体に共有結合的に付着した金属キレート化基を介して固定化される。その後、結合したタンパク質を、イミダゾールおよび他のキレート化剤との競合により、解放することができる。ランダムな金属-タンパク質結合、予想不可能な結合強度および再現性の問題をなくすために、ポリHisタグがタンパク質に組み込まれなければならない。このようタグの付加なしには、IMACの実用化には問題がある。
【0007】
タンパク質表面の電子供与基への金属キレート化は、任意の選択性または配向効果を付与するいかなる機会もなくランダムであるとみなされたため、ポリHigタグの使用なしで、標的分子と強力に結合し、それを配向させるための金属錯体の使用が考慮されたことはなかった。その上、結合強度は大部分の用途における実用にとって比較的低いものであった。Hisタグを含有するタンパク質を組換え的に発現させることは困難ではないが、標的分子の任意の事前の改変を要しない固定化法を開発することが望ましい。標的分子の組換え的改変によって架橋複合体の安定性を改善するのではなく、他のすべての変数を最適化して、特定の標的分子の場合に同様な結果を達成する複合体を生じさせることが可能である。
【0008】
金属錯体を特定の標的分子に対して調整する可能性は、ある公知の塩化クロムの例から考慮することができる(Gold, E.R., Fudenberg, H.H. Chromic chloride: a coupling reagent for passive hemagglutination reactions. J. Immunol. 1967 Nov; 99(5), 859-66.(非特許文献3) Kofler, R., Wick, G. Some methodologic aspects of the chromium chloride method for coupling antigen to erythrocytes(非特許文献4)を参照されたい)。塩化クロムの使用が長い間知られているが、この手法は、多くの実用的な欠点/制限および不十分な再現性に関する周知の悪評をかかえている。たとえば、抗原または抗体を保存するためにアッセイ法で一般に使用される緩衝液、たとえばアジ化ナトリウムまたはホスフェートそのものが標的分子よりも優先して金属塩と相互作用し、それによって抗体および金属種のキレート化を無効化するおそれがある。また、使用される試薬の相対濃度が入念に制御されなければならず、小さな変化が不十分かつ可変性の高い結合効率を招くことがある。効率的かつより良好なライゲーションの再現性のためには、塩化クロム溶液を「熟成」させなければならない。従来技術および本発明者ら自身の研究によると、このライゲーション手法は有効性範囲が非常に狭く、標的分子のタイプを含むパラメータのいずれかにおけるわずかな変化が、最適でない結果をもたらす。このような理由により、このライゲーション手法は殆ど使用されていない。多重化イムノアッセイ法のような多くの固相用途の場合、標的分子が基質から脱離しないことが不可欠である。理由は、それが相互汚染を引き起こすおそれがあるからである。基質への標的分子の共有結合的付着は理想的であるが、多くの場合、標的分子の損傷につながりかねない。アフィニティータグを用いると、標的分子の損傷は減るが、使用条件下で結合相互作用が全く安定ではなくなる可能性がある。多くの場合、基質への標的分子のアフィニティー結合に依存するアッセイ法における界面活性剤または他の試薬の使用は、基質からの標的分子の漏出を招くおそれがある。結果として、すべての場合で有効である汎用的方法はなく、有用な結合相互作用のリストは比較的小さい。標的分子と金属錯体との間に存在する有益な相互作用に依存するが、上記の実用上の制約を受けない、標的分子を基質に結合する方法を提供することが望ましいと考えられる。また、以下のような利点を含む、標的分子を基質に結合する方法を提供することが望ましいと考えられる:
―高価な試薬の使用を避ける;
―多数の化学段階の使用を避ける;
―標的分子の予備改変または後処理、たとえば酸化が不要であり;
―代替法で使用される標的分子上の別々の官能基との相互作用、たとえば機能活性の損失を招くアミドカップリングに頼らない。
―使用条件に応じて結合強度を本質的に不可逆性の相互作用から所定のしきい値結合親和力まで調整可能であり;ならびに
―広範囲の条件下での効率または所定範囲の条件下での効果的な結合(有効結合の範囲)。
【0009】
【特許文献1】US6,800,728
【非特許文献1】Hermanson, et. al., Bioconjugate Techniques: Academic Press, 1996
【非特許文献2】Ueda, E.K.M., Gout, P. W., and Morganti, L. J. Chromatography A, 988 (2003) 1-23
【非特許文献3】Gold, E.R., Fudenberg, H.H. Chromic chloride: a coupling reagent for passive hemagglutination reactions. J. Immunol. 1967 Nov; 99(5), 859-66
【非特許文献4】Kofler, R., Wick, G. Some methodologic aspects of the chromium chloride method for coupling antigen to erythrocytes
【発明の開示】
【0010】
したがって、本発明は、金属錯体の存在下において標的分子を基質に暴露する段階を含み、標的分子が非改変標的分子であり、金属錯体が、標的分子と基質との間に安定な結合を提供するように選択される、標的分子を基質に固定化する方法を提供する。すなわち、標的分子は、金属錯体の金属イオンとの配位を介して基質に固定化される。作用すると考えられる機構は以下さらに詳細に説明する。本発明の態様では、標的分子は、ひとたび結合すると、相補的結合分子との続いて起こる相互作用に関して利用可能である。本発明の他の態様では、基質は、金属錯体との相互作用、ひいては金属の結合ならびにおそらくは標的分子および相補的結合分子を伴う続いて起こる結合事象に影響するコーティングを含む。
【0011】
本明細書中、断りのない限り、「基質」という用語は、関心対象の標的分子を固定化するのに適したプラットフォームである固相材料を意味することを意図する。一般に、使用される基質は、既存の固相用途で一般に使用されている形式の合成基質であると考えられる。基質は任意の形態をとることができる。生物学的用途では、基質は通常、ビーズ、膜、マルチウェルプレート、スライド、キャピラリーカラムまたは生物学的アッセイ法、アフィニティー分離、診断もしくは生物学的分子が不溶性材料(固体支持体)に固定化される他の用途に使用される他の形式の形態であると考えられる。記載するように、基質の表面特性に依存して、本明細書に記載する方法の効能または最適化を達成するために、基質の改変が必要になるかもしれない。
【0012】
断りのない限り、本発明に関しては、「標的分子」という用語は、基質に固定化することが望まれる分子をいう。この点において標的分子のタイプにかかわらず、本発明にしたがって、標的分子は「非改変」であることが重要である。すなわち、標的分子は、金属錯体の金属イオンとの配位の適切な有効性を保証するため、事前に考慮された構造的改変を受けていないことを意味する。典型的には、標的分子は、タンパク質のような生物学的分子であると考えられ、その場合、非改変という用語は、タンパク質を、結合を促進するための一つまたは複数のアフィニティータグ、たとえばビオチンまたは融合タグ、たとえばポリHisタグの包含によって改変されていないタンパク質と定義する。しかも、この語は、結合を促進するために酸化、還元または活性種もしくは活性化可能種、たとえばヒドラジンとの結合によって化学的に改変されていない生物学的分子を包含する。標的分子の事前の改変(たとえばアフィニティータグの包含など)を行う必要なく標的分子を基質に固定化する能力は、特定の従来技術に対する本発明の有意な利点である。本発明は、標的分子としての抗体に関して特に利用可能性を有する。すなわち、この「標的分子」という用語は、基質表面に固定化することが望まれる任意の分子を包含することができる。
【0013】
有利には、本発明の局面において、標的分子は、別の関心対象の分子と結合相互作用を起こすその能力に基づいて選択される。この能力は、標的分子そのものが基質に固定化されるとき、その標的分子を介してその別の関心対象の分子を基質に固定化することを可能にする。本明細書では、この別の関心対象の分子を「相補的結合分子」と呼ぶ。例として、生物学的アッセイ法に関しては、標的分子が抗体であり、相補的結合分子が抗原であってもよいし、その逆であってもよい。事実、標的分子は、相補的結合分子のための任意の捕捉剤であることができる。標的分子と相補的結合分子との間に適当な結合相互作用が存在するためには、これらの二つの分子が互いに対して特定の配向をとる必要があるかもしれず、本発明の態様は、相補的結合相互作用が効率よく起こるために必要とされるように、標的分子を固定化するのに有利であるということがわかった。標的分子と相補的結合分子との間で可能な相互作用は以下さらに詳細に論じる。概して、本発明にしたがって、標的分子および金属錯体の存在下において相補的結合分子を基質に暴露する段階を含み、標的分子が非改変標的分子であり、標的分子が、相補的結合分子と標的分子との間に適当な結合相互作用を提供するように選択され、金属錯体が、標的分子と基質との間に適当な結合を提供するように選択される、相補的結合分子を基質に固定化する方法が提供される。
【0014】
本明細書中、金属錯体は、溶液中の金属イオンが同じく溶液中に存在する電子供与体リガンドと配位共有結合(供与共有結合とも呼ばれる)を形成するとき形成される金属種である。このようなリガンドを、本明細書中において、配位子、金属リガンドまたは単にリガンドと呼ぶ。たとえば、水溶液中、クロム(III)は、6個の配位水分子が中心クロムイオンの周囲に並ぶ八面体錯体として存在することができる。任意の所与の金属の場合に形成される錯体の性質は、溶液中のリガンドならびにそのリガンドが金属イオンと適切に安定な会合を形成する能力に依存する。リガンドは、その構造および金属イオンと相互作用することによって錯体を形成する能力に依存して、単座、二座または多座であることができる。水和物および/またはアニオン(対イオンとも呼ばれる)は常に溶液中の金属錯体の構造の一部になる。
【0015】
金属錯体が標的分子、またはむしろ標的分子のある領域の結合を促進する機構は、金属錯体と会合した一つまたは複数の配位子を標的分子が置換することを伴うと考えられている。これが起こるためには、標的分子は、標的分子との相互作用の前に金属イオンと会合した状態ですでに存在する一つまたは複数の既存の配位子と比較した場合よりも優先的に金属錯体の金属イオンと会合を形成することができなければならない。本発明の態様にしたがって、所望の結合相互作用を達成するために、標的分子に関して金属イオンの結合特性を操作することが可能である。したがって、本発明の態様では、必要に応じて標的分子の結合を制御するために、金属イオンと会合した一つまたは複数の配位子が選択される。
【0016】
金属錯体は、標的分子に関連して上記したものと同様なリガンド置換機構によって基質への結合を促進してよく、基質に対する金属イオンの結合特性もまた、必要に応じて操作してもよい。
【0017】
標的分子は、結合すると、金属イオンと会合した配位子になるため、提案された機構をもってすると、金属イオンが標的分子と結合したとき形成される種を金属錯体とみなすこともできることが理解されると考えられる。金属イオンが基質に結合したとき形成される種に関しても同じことが言える。しかし、混乱を避けるため、本明細書中、「金属錯体」という用語は、そのような任意の結合事象が起こる前の金属イオンおよび会合配位子をいう場合に使用する。
【0018】
本明細書中、断りのない限り、配位すると結合するおよび配位と結合相互作用という用語は互換的に使用される。錯体構造および使用条件に依存して、配位結合の強さは、本質的に不可逆性の共有結合から弱い結合相互作用まで調整することができる。
【0019】
もっとも簡単な形態において、金属錯体は、多数の配位子によって取り囲まれる中心イオンからなる。しかし、金属錯体の構造は、2個またはそれ以上の金属イオンおよび多様な会合配位子を伴う、より複雑な構造であってもよい。金属イオンはまた、ヒドロキシルおよびヒドロニウムイオンならびに水と供与結合を形成することもできる。錯体の構造および会合リガンドの性質は、基質への標的分子の固定化を達成する、またはそれに寄与するために必要な結合相互作用、すなわち、標的分子および基質との必要な配位を金属錯体が達成する際の有効性に影響する可能性が高い。前記のように、活性金属錯体は、リガンド交換のプロセスを介して基質および標的分子にライゲーションすることができると考えられる。
【0020】
本発明は、所望の結合相互作用を達成するのに適した金属錯体を選択することにある。これを考慮すると、本発明は、一定範囲の金属錯体で利用可能性を有すると考えられ、金属錯体の変更が、本発明の実施の融通性を高めることを可能にする多様化の程度を表す。明かであるように、本発明の基礎となる方法は、それに関連する多数の他の多様化の程度を有し、これが、標的分子の固定化に関する制御および/または選択性の向上を可能にするであろう。
【0021】
本発明の方法は、一つもしくは複数のタイプの標的分子または一つもしくは複数のタイプの相補的結合分子を固体基質に固定化することが望まれる固相用途(いわゆる捕捉アッセイ法)で特定の利用可能性を有する可能性が高い。本発明はまた、アフィニティークロマトグラフィー、2Dゲル電気泳動、表面プラズモン共鳴および標的分子が基質に結合したとき有用になることが知られている任意の他の用途で利用してもよい。本発明は、これらの実用状況のいずれかにおける方法の適用にまで及ぶ。
【0022】
本発明は、ポリマー膜およびマイクロビーズへの抗体の固定化ならびにその抗原への結合効率の改善を特に参照しながら説明する。しかし、本発明の基礎となる概念は、他の固相用途および他の形式にも適用可能であることが理解されると考えられる。
【0023】
発明の詳細な説明
概して、本発明は、基質と標的分子との間で所望の結合相互作用を達成することができる金属錯体を特定することにある。意図するところは、金属、基質および標的分子の間で、これらの種が互いに対して暴露される条件下で、安定な(すなわち不可逆性)結合相互作用を達成することである。金属、基質および標的分子の間の結合相互作用はまた、本発明の実用化の条件下で、アッセイ法であれ他の固相用途であれ安定でなければならない。この結合相互作用は、アッセイ法または他の固相用途に関連して依拠することができる。
【0024】
本発明の態様では、標的分子は、標的分子の機能的立体配座および配向が維持されるようなやり方で金属に結合させ、それによって相補的結合分子に対するその効果的な結合を促進する。これに関して、金属は、基質と標的分子との結合を促進する架橋剤の形態にあるとみなすことができる。説明するように、適当な金属錯体の選択は多様な要因に依存する。
【0025】
前記から、本発明の実施で有用な金属錯体は、基質および標的分子との間で、これらの種が互いに対して暴露される条件(たとえばpH、温度、イオン強度など)および本発明の方法が用いられるアッセイ法または他の固相用途に関連する条件の下、熱力学的に安定なリガンド置換を起こし、それによって安定な結合相互作用(すなわち配位結合)を形成することができる金属錯体であることが理解されると考えられる。これに関して、基質/金属および金属標的分子結合相互作用は、所望の相互作用が、結合相互作用が起こる優勢な実施条件に依存して金属がさもなくば受けるかもしれない他の可能な(配位子)結合相互作用よりも優勢になるよう、熱力学的に安定である。このことは、金属と基質との間の相互作用の性質が、標的分子が金属を介して基質に結合したのち標的分子が基質から解離しないような性質であることを意味する。これらの必要な結合事象のために必要なリガンド置換を促進するのに適当な金属錯体を選択するための方法はこのことを考慮に入れなければならない。
【0026】
本発明の一つの態様では、基質を標的分子に暴露する前に金属イオンが基質に設けられる。ここで、本発明の方法は、基質上の金属錯体を、標的分子を含有する分析対象物に暴露することを含む。この場合、基質に結合したとき金属イオンと(まだ)会合している一つまたは複数の配位子の置換の結果として標的分子の結合が起こる。
【0027】
もう一つの態様では、金属イオンを標的分子に結合させて(標的分子への適当な暴露によって)(金属イオン)-(標的分子)接合体を形成する。次に、この接合体を基質に暴露することによって標的分子を基質に固定化すると、接合体の金属イオン部分が基質と結合相互作用を起こし、その結果、接合体、ひいては標的分子が基質に固定化される。
【0028】
いずれの場合にしても、反応混合物はまた、標的分子を安定化するため、典型的には分析対象物由来の緩衝液および/または保存剤を含有してもよい。本発明が所期のように作用するためには、任意の緩衝液または保存剤、またはむしろ緩衝液または保存剤由来のリガンド/イオンが、結合事象が発生する順序がどうであろうと、標的分子を基質に固定化するのに必要な結合相互作用に有害に干渉しないことが重要である。所与の系の場合、さもなくば必要な結合相互作用を損なうであろう相互作用よりも所望の相互作用が優勢になることを保証するため、リガンド化学を操作する必要があるかもしれない。
【0029】
用いられる正確な方法にかかわらず、所望の結合効果を達成するために基質と標的分子とが金属イオンを介して互いに相互作用することができることが重要である。これに関して、金属錯体は分子「接着剤」として機能する。金属イオンを介する基質と標的分子との優先的な結合は、主に、基質および標的分子が金属錯体の存在下において互いに対して暴露される際の優勢な条件に基づく熱力学的考察によって決まる。アッセイ法に関連して、これは明らかに、アッセイ法が実施される際の条件および標的分子を含有する分析対象物の特性に依存する。
【0030】
実際には、本発明における使用に適した金属錯体の特定は、種の様々な組み合わせのライブラリーを使用する発見プロセスを通じて行ってもよい。このプロセスにしたがって、ある特定の金属化合物が金属錯体を形成する能力およびその金属錯体がある特定の基質へのある特定の標的分子の結合を促進する能力を、使用される金属化合物、基質、標的分子および優勢な条件に基づく多様な異なる並べ替えの範囲で評価する。換言するならば、所望の結果を出す可変要素の組み合わせを特定するために、金属イオンを介するこれらの種両方の相互作用による基質への標的分子の親和力を評価することができると考えられる。この方法を進めることにより、実際に、所与の標的分子への観察された結合効能にしたがって可変要素の組み合わせを格付けすることが可能である。この発見プロセスは手法における大きな融通性を与える。たとえば、ある特定の基質に基づく作用結合系を生成することが望まれるかもしれない。ここで、発見プロセスにおいて、基質を終始一定に維持すると同時に他の可能な可変要素を操作して、その基質に特異的な潜在的に有用な組み合わせを特定する。この一般的手法の変形を発見プロセスで使用して、所与の標的分子または基質と標的分子との所望の組み合わせに特異的な潜在的に有用な系を特定することができる。この手法は、本発明の基礎となる一般的概念、すなわち、基質への標的分子の固定化を達成するための金属錯体の使用という概念から逸脱することなく、広い潜在能力および範囲を有するということが理解されると考えられる。
【0031】
特定の金属化合物が、記載した発見プロセスにおけるリードとして一般に有用である錯体を生じさせる(水溶液中)ということがわかった。使用することができる金属の例は、遷移金属、たとえばスカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、ルテニウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、モリブデンおよび亜鉛を含む。金属錯体だけを使用して標的分子と基質との間に安定な結合相互作用を達成することができる態様では、金属形成錯体、たとえばクロム、白金、ロジウムおよびルテニウム塩が好ましい。クロムおよびルテニウム塩が本発明のこの態様の実施に特に適するということがわかった。塩部分は、塩化物、酢酸塩、臭化物、硝酸塩、過塩素酸塩、ミョウバンおよび硫酸塩であることができる。pH調節された塩化クロム(III)も使用してよい。過塩素酸クロム、臭化クロムおよび塩化ルテニウムの使用が所望の結果を与えるということがわかった。これらのうち、クロムおよびルテニウム含有化合物の使用が特に陽性の結果を提供するということがわかった。この観察は、特定の基質を使用した実験に基づく。しかし、これらの金属は、発見プロセスにおける初期リードとして一般的に有用である可能性が高いと考えられる。これを述べたところで、使用される基質に依存して塩部分(アニオン)を操作する必要があるかもしれない。
【0032】
本発明の金属の有用性は、金属錯体の酸化状態に依存して異なってもよい。たとえば、クロム(III)およびルテニウム(III)化合物が本発明の態様で有用であるということがわかった。
【0033】
本発明の態様では、金属錯体は、過塩素酸クロム(III)、臭化クロム(III)、塩化ルテニウム(III)または臭化ルテニウム(III)から誘導され、基質は、カルボン酸官能化、アミド官能化、アミン官能化またはエステル官能化された基質である。この場合、基質表面の官能性が、金属錯体と会合した一つまたは複数の配位子の置換により、金属イオンの結合を促進するということが理解されると考えられる。
【0034】
本発明のこの態様に関連して有用である金属錯体を水溶液中で生じさせる特定のタイプの金属の効能は、金属錯体の配位子形成部分に依存して異なるということがわかった。これらの配位子は、金属錯体を形成するために使用される金属化合物の塩部分に対応することもできるし、それから誘導してもよい。代替的または追加的に、金属錯体と会合した一つまたは複数の配位子は、結合環境中に存在する種から誘導することもできるし、結合環境に加えられる種から誘導してもよい。この可能性は、以下、図2を参照しながら説明する。金属としてのクロムおよびルテニウムに関して、塩部分は、塩化物、酢酸塩、臭化物、硝酸塩、過塩素酸塩、ミョウバンおよび硫酸塩より選択してもよい。金属錯体と会合した一つまたは複数の配位子に影響を与えるために追加的リガンドを使用する場合、以下の追加的リガンドが一般に有用であるということがわかった:エチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、イミノ二酢酸、シュウ酸、1,10-フェナントロリン、8-ヒドロキシキノリンまたはサリチル酸。
【0035】
本明細書に記載する発見プロセスを使用して可変要素の効果を当然探求することができ、指定された(優勢な)条件下、標的分子と基質との間の安定な(不可逆性)結合相互作用を提供するための、金属錯体を使用した基質への標的分子の固定化を促進する作用的組み合わせを特定できる。
【0036】
ここで説明するように、所望の結果を達成するために本発明の基本原理とともに適用してもよいさらなる態様が数多くある。これらの態様は、個別に適用することもできるし、組み合わせて適用することもできる。
【0037】
本発明のさらなる態様では、指定された条件下、全体的な結合強度を必要に応じて操作するために、金属錯体を作り出し、標的分子(または場合によっては基質)による置換に「利用可能」である種々の配位子の性質を制御することもできる。たとえば、錯体中の種の様々な組み合わせのライブラリーを使用する発見プロセスは、全く結合しない多くのものを含め、異なる結合親和力を有する多岐にわたる金属錯体を生成する。クロムのような1種の金属が選択される場合でさえ、金属錯体中に存在する配位子のタイプならびに他の可変要素、たとえばpH、イオン強度などを変えることにより、所与の標的分子に対する結合親和力の段階的変化を達成することができる。この手法は、以下、実施例3で説明する。したがって、特定の標的分子および基質に対する金属錯体の結合親和力を変化(強化または弱化)させることが可能である。このようにして、指定された条件下で基質および標的分子との安定な結合相互作用を提供することができる金属錯体を特定することが可能であるが、わずかに変化した条件の下では、結合相互作用は不安定、すなわち可逆性である。本発明のこの態様は、高い親和力および安定性の高い相互作用とは逆に、最小しきい値結合親和力を与えるために指定された条件の下で安定な結合相互作用を達成するように適用してもよい。
【0038】
本発明のこの態様の有用性は、従来のライゲーション技術を参照して理解できると考えられる。具体的には、塩化クロムをライゲーションに使用すると、再現性が不十分になることが知られている(以下、実施例1も参照されたい)。本質的に、1つのタイプの金属錯体構造の使用への限定および結合を調整するための前記(および本明細書の実施例2)のような発見プロセスの欠如は、この従来技術ライゲーション法が、多くの緩衝液および保存剤(たとえばアジ化ナトリウム)、pHならびに塩化クロム、標的分子および基質の相対濃度および絶対濃度に対して非常に敏感であるという結果をもたらした。さらには、塩化クロム溶液を「熟成」させない限り、結合の効率は時間経過とともに大きく変化する。その結果、この従来のライゲーション法は、再現性を欠くだけでなく、効果的な結合の範囲が非常に狭い。この効果的な結合の範囲の外では、従来技術の手法は、全く成功しないか、アッセイシグナルの時間的減衰によって実証されるような不安定な(可逆性)結合を生じさせる。
【0039】
本発明にしたがって、標的分子および基質への金属イオンの結合は、効果的な結合の範囲が必要に応じた狭さまたは広さになることができるように調整することができる。このようにして結合を調整する能力を使用すると、たとえば、抗体のような一般的な種類の標的分子の安定な結合を達成したり、および/または広い範囲の条件下で効果的である簡単かつ強固なライゲーション法を創造したりすることができる。さらには、標的分子と基質との特定の組み合わせの場合の金属錯体の形成における可変要素の適切な選択は、金属錯体の熟成を要さず、時間を経ても再現性であるライゲーション法を生じさせることができる。好ましい態様では、効果的な結合の範囲の制御および調整は、特定の標的分子が分析対象物中の別の分子よりも優先的に結合して選択的な結合を達成する状況で適用することができる。これは、いわゆる「支援的結合相互作用」の使用に関連して以下さらに詳細に論じる。
【0040】
本発明のもう一つの態様では、標的分子と基質とが安定な会合を形成する(金属錯体を伴うリガンド置換を介して)際の当初の(優勢な)条件が変更されるならば、標的分子は基質から解離することができる。この効果を実施において有効に適用して、優勢な環境条件の意図的な操作に基づき、結合した標的分子を基質から脱離させることができる。これは、基質への標的分子の当初の結合の役割を担う結合相互作用の性質に依存しながら、多様な方法で達成することができる。たとえば、IMACでは、イミダゾールを使用して、金属と、組換えタンパク質上のHisタグとの結合を断つこともできる。本発明では、効果的な結合は適切なリガンド組み合わせによって達成され、したがって、優勢な条件、たとえばイオン強度および/またはpHを変更したり、および/または金属イオンとの代替的な優先的配位子会合の形成によって標的分子を置換する効果を有する一つまたは複数の試薬/リガンドを導入したりすることにより、標的分子を基質に固定化したのち、標的分子を解放することが可能である。これらの会合は、上記のものと同様なリガンド置換機構によって形成されるものと考えられる。たとえば、効果的な結合の範囲は通常、リガンドの選択に大きく依存する(以下の実施例4で実証するとおり。図8も参照されたい)。リガンドの選択は、結合効率ならびに基質からの標的分子の解放の効率を決定することができる。同様に、pH変化により(以下の実施例4で実証するとおり。図9も参照されたい)基質に対する標的分子の結合を操作することも可能である。この態様が、本発明によって提供される制御を高めるということが理解されると考えられる。
【0041】
さらなる態様では、標的分子は、金属イオンを伴う結合相互作用とともに作用する支援的結合相互作用を意図的に断つことによって解放することもできる。このような支援的結合相互作用は、本明細書中、後でさらに詳細に論じる。
【0042】
本発明の態様では、金属錯体は、標的分子が相補的結合分子に結合し、結合した状態でありつづける能力を有するよう、標的分子の結合を促進するその能力に基づいて選択される。この態様では、相補的結合分子は、それと適当な金属錯体を伴う結合相互作用を介して基質に固定化されているその標的分子との間の結合相互作用により、基質に固定化される。実際には、相補的結合分子、またはむしろ相補的結合分子を含有する分析対象物が、本明細書に記載するように、金属錯体の使用によって基質表面に固定化された標的分子を含む事前に用意された基質に暴露されると考えられる。
【0043】
相補的結合分子の結合が起こるためには、相補的結合分子に呈示される結合環境が結合に適しているということが重要である可能性が高い。理論によって拘束されることを望まないが、これは、その機能的立体配座に対する損傷なしに、特定の配向では、相補的結合分子の続いて起こる結合に必要な相互作用を達成するために、標的分子が基質に結合することを要するかもしれない。
【0044】
本発明のこの局面に関連して、分析対象タンパク質を固定化し、検出するためのタンパク質捕捉剤としての抗体の使用は、研究および診断用途で使用されるアッセイ生成物にとって普遍的であるということに注意することが適切である。典型的には、従来技術では、抗体は、固体支持体、たとえばポリスチレンプレート、ポリスチレンビーズ、ガラス顕微鏡スライドまたはポリマー膜に固定化される。これらの基質は、共有結合的または非共有結合的に抗体を結合し、抗体の配向および機能的立体配座に対してほとんどまたは全く制御を加えない。しかし、抗原結合の特異性は抗体の可変(Fab)領域に依存するため、抗体の配向および機能はかなり重要である。この領域が立体構造的または電子的に遮断されるならば、結果として、抗原結合は起こらないか、不十分に(不均一に)しか起こらない。同様に、Fab領域の機能的立体配座に対する任意の変更は、抗原結合効率の不均一性を生じさせる。一般に、イムノアッセイ法は、高い程度の抗体負荷を示すが、抗原結合を検出する場合には比較的低いシグナル出力を示す。これは、結合した抗体の有意な割合が抗体Fab領域で遮断または変性されることによる。
【0045】
本発明のこの局面にしたがって、基質に固定化された標的分子を介した相補的結合分子の結合の増大をもたらす系を特定することが可能である。たとえば、本発明にしたがって、金属錯体に依存して標的分子の結合を促進して、標的分子が、その後、劇的に増大した結合効率で相補的結合分子と結合することができるようにすることを含む、結合面を特定することが可能である。抗原と結合する状況では、本発明は、ひとたび結合すると、抗体が抗原にとって適した結合環境を提供するような方法で基質への抗体の固定化を促進することができる。これは、抗体の可変領域が抗原との相互作用に利用可能になるような配向で抗体が基質に結合するという事実による可能性が高い。加えて、基質への抗体の結合が関連する抗体可変領域に対する損傷を招かないということが重要である可能性が高い。
【0046】
本発明にしたがって、使用される基質は、本来、金属錯体または場合によっては(金属イオン)-(標的分子)接合体との適切な相互作用を促進するのに適切な表面官能性を有することができる。しかし、本発明の態様では、基質は、本発明に関連して必要な結合事象を促進するコーティングをその上に設けることによって改変される。
【0047】
この態様にしたがって、本発明は、そのもっとも簡単な形態で、金属錯体の存在下において標的分子を基質に暴露する段階を含み、標的分子が非改変標的分子であり、金属錯体が、標的分子と基質との間に適当な結合相互作用を提供するように選択され、基質がコーティングを含み、このコーティングが、金属錯体がコーティングを介して基質に結合しているとき、金属錯体の結合を促進し、標的分子への金属錯体の結合を制御するために選択される、標的分子を基質に固定化する方法を提供する。本発明のこの態様を使用すると、金属錯体を伴う結合相互作用に関してさもなくば不適当な基質を有用にすることにより、用いることができる基質の範囲を増すことができる。先の開示内容から、この特定の文脈においては「金属錯体」という用語を「(金属イオン)-(標的分子)を含む接合体」と言い換えることができることが理解されると考えられる。これに関連して、コーティングは、金属錯体と所定の結合相互作用を起こす基質の能力を制御および/または変化させて、結合すると、金属イオン(および残留配位子)そのものが標的分子に対する所期の結合親和力を示すようにする意図をもって選択される。以下、開示を簡素化するため、一般には金属錯体そのものを参照する。しかし、文脈上許容または必要とされない限り、金属錯体を組み込んだ接合体の可能な使用が同じく包含されるものとみなす。
【0048】
この態様の第一の局面では、金属イオンを基質表面に固定化するためにコーティングが基質に設けられる。コーティングは、その後、金属錯体が標的分子に暴露されたとき標的分子と結合する能力を制御する意図をもって選択される。
【0049】
説明したように、標的分子、またはむしろ標的分子の領域が金属錯体に結合する機構は、金属錯体がコーティングを介して基質に結合するとき、金属錯体と会合した一つまたは複数の配位子の標的分子による置換を伴うものと考えられる。これが起こるためには、標的分子は、金属錯体-基質コーティング相互作用を害することなく、錯体の金属原子と優先的な会合を形成することができなければならない。これは、本発明にしたがって、標的分子の結合に利用可能な金属錯体の配位部位の数および/もしくはタイプならびに/または標的分子に呈示される金属錯体の周囲の立体構造的および/もしくは電子的環境を制御するコーティングの使用によって達成することができる。これらの可変要素の一つまたは複数の操作により、金属錯体を基質に固定化して、標的分子へのその後の結合のために「下塗り」しておくことが可能である。
【0050】
有利には、標的分子は、金属錯体との相互作用を介して基質に結合すると、所定の相補的結合分子との続いて起こる結合にも利用可能になるはずである。これが起こるためには、単に標的分子を基質に結合させるだけでは不十分であるかもしれない。むしろ、標的分子は、その機能的立体配座が維持された状態で、標的分子と相補的結合分子との結合相互作用を成功させる好ましい配向で基質に結合させる必要があるかもしれない。基質への金属錯体の結合のし方がその後に結合される標的分子の機能的立体配座および配向に影響する程度に、本発明で使用されるコーティングは、金属錯体/コーティングの組み合わせが機能的立体配座および好ましい配向で標的分子の結合を生じさせることを保証するように選択されるべきである。
【0051】
前記のように、基質の領域に結合して標的分子の適当な固定化を促進する金属錯体の数は、金属錯体と標的分子との間の相互作用の強さおよび/または立体構造的考察のようなものに応じて異なってもよい。一つの金属錯体が一つまたは複数の標的分子に結合することも可能であるが、実際には、相互作用の性質が特に強く、標的分子が小さくない限り、それが起こる可能性は低い。または、金属錯体と標的分子との間の結合相互作用が比較的弱い場合、必要に応じて二つまたはそれ以上の金属錯体が基質表面の標的分子に結合する必要があるかもしれない。いずれにしても、本発明にしたがって使用されるコーティングは、金属錯体と標的分子との間の所望の結合相互作用を達成するのに適した金属錯体の空間的分布を基質表面に提供するように設計されるべきである。
【0052】
金属錯体と標的分子とが、標的分子を含有する分析対象物中に存在するかもしれない他の種と結合するのではなく、むしろ安定な会合を形成するということが重要である。分析対象物が緩衝液、またはむしろ緩衝液からのリガンド/イオンまたは標的分子を保存する添加剤を含む場合、これらの種が、本発明にしたがって基質に提供されたコーティングへの金属錯体の結合を妨害しないということが重要である。当然、任意の所与の系の場合、必要な結合会合を損なうであろう相互作用よりも所望の相互作用が優勢になることを保証するために、金属錯体と会合したリガンド化学を操作する必要があるかもしれない。この態様では、コーティングは、金属錯体と標的分子との結合親和力を損なうことなく金属錯体部分との相互作用を介して標的分子を固定化する意図をもって設計される。換言するならば、コーティングは、金属錯体と標的分子との間の結合相互作用を妨害することなく固定化を促進する。
【0053】
さらなる可能性として、本発明にしたがってコートされた基質と接触した標的分子を含有する溶液に適当な金属化合物を導入することが可能である。溶液中、金属化合物が錯体を形成したのち、その錯体が、コートされた基質への標的分子の結合を促進する。最終的な結果が所期のとおりであるならば、これを達成するための結合の正確な順序は重要ではない。
【0054】
前記から、本発明のこの態様の性能に影響し得る要因が数多くあるということが理解されると考えられる。これらの要因は、結合特異性および/または性能を操作するために本発明の方法を適合させることを可能にする多様化の程度とみなされるべきである。これらの多様化の程度は、運用の融通性を提供する点で有利である。
【0055】
本発明のこの態様で実際に使用されるコーティングは、その所期の機能が保有される限り、多様な形態をとることができる。コーティングが所与の金属錯体と相互作用する機構は、本発明の限定的な特徴ではなく、コーティングおよび金属錯体の間で異なることができる。しかし、必要に応じてコーティングが金属錯体に結合する能力に影響する相互作用の理解は、本発明における使用に適したコーティングを設計する際に有用であるかもしれない。
【0056】
この特定の態様の好ましい局面では、コーティングは、本発明の実行が成功するために必要とされるような、金属錯体またはその部分と相互作用し、それと結合するのに適した官能性を含む反復単位を含むポリマーの形態をとる。反復単位の特性は、そのポリマーを形成するモノマーから誘導されてもよく、ポリマーを形成したのち、金属錯体に対して所望の結合特性を付与するペンダント官能基を含むように改変してもよい。金属錯体の結合の役割を担う官能基は、ポリマー鎖中の異なる反復単位の成分であってもよいが、官能基は、一つの反復単位内に存在することも可能である。ポリマーはまた、異なる官能性を付与するために、他の構造成分を含むこともできる。これは以下さらに詳細に論じる。
【0057】
有用であるかもしれないあるタイプのポリマーは、参照として本明細書に組み入れられる本出願人の公開国際特許出願第WO03/095494号に記載されている、第一のモノマーと第二のモノマーとのコポリマーである。ここで、第一のモノマーの例として、スチレン(置換されていてもよい)、ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、N,N-ジメチル(またはジエチル)エチルメタクリレート、2-メタクリロイルオキシ-エチル-ジメチル-3-スルホプロピル-水酸化アンモニウムおよびメトキシPEGメタクリレートが挙げられる。第二のモノマーは通常、所望の官能性を提供するために多数の化学的転換を受けてもよい官能基を含む。第二のモノマーの例として、ヒドロキシエチルメタクリレート、無水マレイン酸、N-ヒドロキシスクシンイミドメタクリレートエステル、メタクリル酸、ジアセトンアクリルアミド、グリシジルメタクリレート、PEGメタクリレートおよびフマレートが挙げられる。
【0058】
2種より多い異なるモノマーから反復単位を誘導して、結合能力に関してより多数の多様化の程度を有し、ならびに金属錯体と結合するための官能基が並ぶ反復単位鋳型のより大きな多様性を有するポリマーを提供することもできる。
【0059】
必要に応じて、ポリマーはまた、コポリマー部分と、金属錯体の結合の役割を担う官能基との間へのスペーサーの組込みによって改変してもよい。スペーサーは、官能基の付着を促進し、異なる官能基の間の空間分布をさらに増すために使用してもよい。したがって、スペーサーは、コポリマーに対して反応性である化学基と、官能基を含む分子に対して反応性である別個の化学基とを含む。したがって、スペーサーは、式X-Q-Yによって示すことができる(式中、XおよびYは、それぞれ、コポリマーおよび官能基含有分子に対して反応性である化学基である)。
【0060】
典型的には、XおよびYは、XおよびYが互いにまたはQに対して反応性ではないという条件で、アミノ、ヒドロキシル、チオール、カルボン酸、無水物、イソシアネート、塩化スルホニル、スルホン酸無水物、クロロホルメート、ケトンまたはアルデヒドの残基であることができる。Qは典型的には、直鎖状または分岐鎖状の二価有機基である。好ましくは、Qは、C1〜C20アルキレンおよびC2〜C20アルケニレンより選択され、一つまたは複数の炭素原子がO、SまたはNより選択されるヘテロ原子によって置換されていてもよい。
【0061】
または、スペーサー基は、多数の官能基を分枝の末端に付けることができるような分岐構造を有するものでもよい。スペーサー基は、コポリマーに取り付けたのち、関心対象の官能基を含む分子と反応させてもよい。または、スペーサー基を分子と反応させたのち、そのアセンブリをコポリマーと反応させてもよい。スペーサーは、一つより多い固着部位結合リガンドで改変されていてもよい。
【0062】
前記のように、金属錯体の結合を促進または強化するためには、さらなるペンダント官能性をポリマー構造に導入することが適切であるかもしれない。以下、特定のポリマー系を参照しながらこれを説明するが、他のポリマー系を用いてもよいことが理解されると考えられる。したがって、この態様の好ましい局面では、ポリマーは、スチレンのような他のモノマーと共重合した無水マレイン酸モノマーを含む。ポリマーは、モノマーの同時グラフト重合によって、または予備合成および当技術分野で公知の方法、たとえば浸漬およびスピンコーティングによるコーティングによって基質に適用される。前者の例として、基質はPVDF膜であってもよい。ポリマーコーティングを形成したのち、コーティングを別の分子で官能化して、金属錯体の結合を促進および/または抑制してもよい。この合成法は図1に模式的に示されている。
【0063】
記載した系では、ポリマーコーティングは、アミン、好ましくは第二級アミンとの反応によって無水物部分を開環して、混合フェニル-アミドカルボン酸サブユニットをポリマー内に生じさせることによって官能化することができる。第二級アミンの使用が、閉環反応を受けることができない第三級アミドを形成させるため、好ましい。この点に関しては役立ち得るアミンの例は、下記を含む:ジメチルアミン、N-メチルホモベラトリアミン、N-エチルメチルアミン、ジプロピルアミン、N-メチルプロパルギルアミン、ジエチルアミン、N-メチルアリルアミン、ジブチルアミン、ピロリジン、3,5-ジメチルピペリジン、ピペリジン、2-メトキシエチルアミン、モルホリン、N-メチル-2-アミノ-(2-メトキシエトキシ)エタン-HCI、N-メチルブチルアミン、N-メチル-3-(アミノエチル)インドール-HCI、1-メチルピペラジン、4-ピペリドン一水和物塩化水素、N,N,N'-トリメチルエチレンジアミン、ジエタノールアミン、チオモルホリン、4-ピペリジンエタノール、N-メチルフルフリルアミン、N-メチル-β-アラニンニトリル、ベンジルメチルアミン、N-メチルフェネチルアミン、3,3'-イミノジプロピオニトリル、2-(メチルアミノ)エタノール、1-アセチルピペラジン、1-ピペロニリペラジン、N-ペクトアミド、N-ω-メチルトリプタミン、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン、チアゾリジン、ビス(2-メトキシエチル)アミン、2-(2-メチルアミノエチル)ピリジン、N-メチルオクチルアミン、l-(2-ヒドロキシエチル)-ピペラジン、l-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)、エチルピペラジンおよびピペラジン。
【0064】
金属化合物を含有する溶液によるポリマーの処理は、その官能基との金属イオンの配位により、ポリマー主鎖を有する金属錯体を生成する。アミンとの反応によって無水物部分を官能化することによって形成されるアミドは、ポリマー構造に関連する立体構造的および電子的効果によって改変された多数の立体配座で金属中心を支持し、キレート化するということがわかった。
【0065】
金属錯体の結合を制御する役割を担うポリマーの性質に加えて、追加的リガンドを含めて、錯体の金属中心との受動的または動的な相互作用によって結合事象を変化させてもよい。コートされた基質の使用を参照して説明したが、そのような追加的リガンドの有用性は本発明のこの特定の態様に限定されない。追加的リガンドとしては、電子に富む供与体、たとえばアミン含有分子が挙げられるが、それに限定されない。そのようなものの例としては、金属イオンと二つまたはそれ以上の供与共有結合を形成する多座リガンドであるエチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、イミノ二酢酸およびシュウ酸が挙げられる。金属および当初の配位子に依存して、種々の追加的リガンドが好ましい。すると、結果として形成される、ヒドロキシルおよびヒドロニウムイオンならびに水との供与結合を同じく含有することができる金属錯体が、次にリガンド交換のプロセスを介してポリマー表面および標的分子にライゲーションすることができると考えられる。これは図2に模式的に示されている。
【0066】
所与の用途で使用されるコーティングは、金属錯体に対するコーティングの結合性能および金属錯体がコーティングに結合しているときの標的分子に対する金属錯体の結合性能に基づいて作成されたコーティングのライブラリーより選択することができる。同様にして、有用な金属錯体のライブラリーを作成することができる。この種の手法はまた、標的分子に対して特定の結合親和力を有するポリマーコーティングのライブラリーを生成するために国際公開公報第03/095494号でも論じられている。本発明のこの局面にしたがって、コーティングは、金属錯体の結合活性がポリマーコーティングの構造によって制御される、金属錯体結合ポリマーコーティングのコンビナトリアルライブラリー生成のための特権的足場として使用することができる。
【0067】
概して、固相標的分子-相補的結合分子の相互作用の動態は、同じ試薬を溶液中に含む液相相互作用とは有意に異なるということが知られている(例えばKabat, E. A., Basic principles of antigen-antibody reactions, Methods of Enzymology, Vol. 70, Colowick, S.P., and Kaplan, N.O., Eds., Academic Press., New York, 1980, P3; Karush, F., The affinity of antibody: range, variability and the role of multivalence, in Comprehensive Immunology, Vol 5, Litman, G.W. and Good R.A., Eds., Plenum Press, New York, 1978, P85; Franz B. and Stegemann, M., The kinetics of solid phase microtiter immunoassays, CRC, 1991, Ch.18, P277を参照されたい)。これらの違いの理由は、基質、固定化された標的分子および具体的な実験プロトコルに依存して、相対的重要性において異なるが、基礎となる原理は周知である。したがって、基質は、基質表面に固定化された標的分子を変性または他のやり方で損傷して、標的分子と相補的結合分子との間に予想よりも不十分な結合相互作用を生じさせるおそれがあるということが一般に容認されている。
【0068】
逆に、抗原、抗体および固相の三元複合体により、相補的結合分子と弱い相互作用または不適切な相互作用を示す標的分子(液相相互作用に関して)に強い相互作用を示させることができることも知られている(Stevens, F.J., 「Considerations of the interpretation of the specificity of monoclonal antibodies determined in solid phase immunoassays」 (Chapter 13, P239, last paragraph in CRC Immunochemistry of Solid Phase Immunoassays, 1991)。場合によっては、基質そのものが結合相互作用の増大において役割を演じるということが知られているが、この具体的な理由は十分には理解されておらず、この現象が、標的分子に対する基質の特異性および/または結合強度を制御するために適用されたこともない。非改変基質に固有の表面特性だけに頼ることとは対照的に、本発明の態様は、他の支援的(および相補的)結合相互作用との金属錯体結合相互作用を使用して標的分子への選択された基質の結合効率を操作(調整)し、結合事象の観点で所定の結果を達成するために使用することができる。この結果は、一般的な種類としての標的分子の最適化結合であることもできるし、または標的分子結合の増強された選択性および特異性であることもできる。
【0069】
本発明のさらなる態様では、金属錯体を基質表面に結合するために使用されるコーティングは、標的分子と直接相互作用して結合を促進することができるさらなる官能性を含むことができる。標的分子は通常、高分子であり、寸法的に金属錯体よりもはるかに大きいため、金属錯体を介する標的分子と基質との間の結合相互作用は、必然的に、標的分子を基質上のポリマーコーティングと近接させる。したがって、基質表面における、標的分子と相互作用し、それと結合することができる官能基の供給は、標的分子の結合に影響するのに有用な機構である。
【0070】
基質と標的分子との間の結合相互作用への依存は、金属錯体と標的分子との間の所望の結合相互作用(以下「金属錯体結合相互作用」)が、標的分子を望みどおり固定化するのに不十分である状況で有用である。その場合、標的分子の固定化は、結合相互作用の組み合わせ、すなわち、金属錯体、基質および標的分子を伴う結合相互作用ならびに基質と標的分子との間の結合(直接)相互作用によって達成することができるであろう。本明細書中、これらの一つまたは複数のさらなる相互作用を支援的結合相互作用と呼ぶ。
【0071】
この態様では、支援的結合相互作用は、標的分子と結合相互作用することができる、基質表面に存在する官能基または成分に起因してもよい。官能基または成分は、基質に本来備わっているものでもよいし、または基質に設けられるコーティングによって提供されるものでもよい。コーティングは、特性的にはポリマーであることができるが、コーティングが標的分子の結合を促進するのに必要な官能性を提供するならば、非ポリマーコーティングもまた有用である。
【0072】
支援的結合相互作用だけでは、すなわち金属錯体結合相互作用なしでは、アッセイ法または他の固相用途における形成およびその使用の条件下で、標的分子の効果的な結合を達成するのに不十分であるかもしれず、金属錯体結合相互作用と支援的結合相互作用との複合効果こそが、指定条件下、基質への標的分子の安定な固定化を生じさせる。標的分子を使用して相補的結合分子を捕捉する場合、それは、これらの相互作用の複合効果が、基質への標的分子の改良された固定化により、相補的分子の優れた結合をもたらす(間接的に)ということに続く。
【0073】
支援的結合相互作用は、標的分子の特定領域または混合物中の特定の標的分子に特異的であってもよいし、特異的でなくてもよい。支援的結合相互作用が非特異的である(たとえば疎水効果および/または長期静電相互作用)ならば、標的分子を固定化する能力は、金属錯体および支援的結合相互作用が、他の領域ではなく標的分子の該当領域に結合する、または混合物中の他の分子ではなく所要の標的分子に結合する、複合的傾向しだいである。対照的に、支援的結合相互作用が特異的である場合、領域特異的または標的分子特異的相互作用による関心対象の標的分子の固定化は、金属錯体結合相互作用が非特異的である場合でも達成することができる。結合の特異性および結合の強さは、それぞれ、特異的支援的結合相互作用および金属錯体結合相互作用に起因することができる。標的分子の結合は、高度に制御された配向および結合親和力を達成して標的分子および相補的結合分子に関して所望の結合相互作用を達成するように調整することができる。
【0074】
この態様は、当然、根本的に異なる他の種を含有する分析対象物からの特定のタイプの標的分子を固定化することが望まれる特定の用途で有用であろう。本発明の実際の使用に適した金属錯体および支援的結合相互作用の特定は、種の様々な組み合わせのライブラリーを使用する発見プロセスを通じて行うことができる。このプロセスにしたがって、ある特定の組み合わせが特定の標的分子を特定の基質に結合させる能力を、使用される金属化合物、支援的結合官能性、基質、標的分子および優勢な条件に基づく多様な異なる並べ替えの範囲で評価する。金属錯体および支援的結合相互作用を介するこれらの種の両方の相互作用によって基質に対する標的分子の親和力を評価すると、所望の結果を出す可変要素の組み合わせを特定することができる。この方法で進めることにより、実際に、所与の標的分子への観察された結合効率にしたがって可変要素の組み合わせを格付けすることが可能である。この発見プロセスは手法における大きな融通性を与える。たとえば、ある特定の基質に基づく作用結合系を生成することが望まれるかもしれない。ここで、発見プロセスにおいて、基質を終始一定に維持すると同時に他の可能な可変要素を操作して、その基質に特異的な潜在的に有用な組み合わせを特定する。この変形は、発見プロセスを使用して、所与の標的分子に特異的な潜在的に有用な系を特定することである。この手法は、本発明の基礎となる一般的概念、すなわち、基質と標的分子との結合を達成するための、支援的結合相互作用と組み合わせた金属錯体の使用という一般的概念から逸脱することなく、広い潜在能力および範囲を有するということが理解されると考えられる。
【0075】
この特定の態様の好ましい局面では、コーティングは、本発明の実施が成功するために必要とされるような、金属錯体と相互作用し、それと結合するのに適した官能性を含む反復単位ならびに関心対象の標的分子またはその領域と(特異的または非特異的)支援的結合相互作用することができる反復単位を含むポリマーの形態をとることができる。反復単位の特性は、そのポリマーを形成するモノマーから誘導されてもよく、ポリマーを形成したのち、金属錯体および支援的結合相互作用に対して所望の結合特性を付与するペンダント官能基を含むように改変してもよい。結合の役割を担う官能基は、ポリマー鎖中の異なる反復単位の成分であってもよいが、官能基は、一つの反復単位内に存在することも可能である。
【0076】
一つのそのようなポリマーコーティングは、本出願人の公開国際特許出願第WO03/095494号に記載されている、第一のモノマーと第二のモノマーとのコポリマーであってもよい。ここで、第一のモノマーの例として、スチレン、ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、N,N-ジメチル(またはジエチル)エチルメタクリレート、2-メタクリロイルオキシ-エチル-ジメチル-3-スルホプロピル-水酸化アンモニウムおよびメトキシPEGメタクリレートが挙げられる。第二のモノマーは通常、所望の官能性を提供するために多数の化学的転換を受けてもよい官能基を含む。第二のモノマーの例として、ヒドロキシエチルメタクリレート、無水マレイン酸、N-ヒドロキシスクシンイミドメタクリレートエステル、メタクリル酸、ジアセトンアクリルアミド、グリシジルメタクリレート、PEGメタクリレートおよびフマレートが挙げられる。
【0077】
2種より多い異なるモノマーから反復単位を誘導して、結合能力に関してより多数の多様化の程度を有し、ならびに金属錯体および支援的結合相互作用と結合するための官能基が並ぶ反復単位鋳型のより大きな多様性を有するポリマーを提供することもできる。
【0078】
必要に応じて、ポリマーはまた、コポリマー部分と、金属錯体の結合および支援的結合相互作用の役割を担う官能基との間へのスペーサーの組込みによって改変してもよい。スペーサーは、官能基の付着を促進し、異なる官能基の間の空間分布をさらに増すために使用してもよい。したがって、スペーサーは、コポリマーに対して反応性である化学基と、官能基を含む分子に対して反応性である別個の化学基とを含む。したがって、スペーサーは、式X-Q-Yによって示すことができる(式中、XおよびYは、それぞれ、コポリマーおよび官能基含有分子に対して反応性である化学基である)。
【0079】
典型的には、XおよびYは、XおよびYが互いにまたはQに対して反応性ではないという条件で、アミノ、ヒドロキシル、チオール、カルボン酸、無水物、イソシアネート、塩化スルホニル、スルホン酸無水物、クロロホルメート、ケトンまたはアルデヒドの残基であることができる。Qは典型的には、直鎖状または分岐鎖状の二価有機基である。好ましくは、Qは、C1〜C20より選択され、一つまたは複数の炭素原子がO、SまたはNより選択されるヘテロ原子によって置換されていてもよい。または、スペーサー基は、多数の官能基を分枝の末端に付けることができるような分岐構造を有するものでもよい。スペーサー基は、コポリマーに取り付けたのち、関心対象の官能基を含む分子と反応させてもよい。または、スペーサー基を分子と反応させたのち、そのアセンブリをコポリマーと反応させてもよい。スペーサーは、一つより多い固着部位結合リガンドで改変されていてもよい。
【0080】
または、支援的結合相互作用は、ポリマーコーティングの一つまたは複数の成分を含んでもよい。たとえば、非特異的支援的結合相互作用の場合、国際公開公報第03/095494号に記載されているタイプの発見プロセスを適用して、抗体が、単独で、またはポリマーコーティングの一部として基質に結合する可能性を増す可能性を特定してもよい。
【0081】
支援的結合相互作用はまた、金属錯体に起因してもよく、この場合、結合は、基質と標的分子の様々な領域との間に必要な相互作用を形成することができる二つまたはそれ以上の異なる金属錯体によって達成してもよい。この場合、基質表面における金属錯体の密度は、一つの標的分子への多数の異なる金属錯体の結合を達成して基質への標的分子の固定化を促進するのに十分である可能性が高い。
【0082】
標的分子を固定化する能力は、金属錯体および支援的結合相互作用が、他の領域ではなく標的分子の該当領域に結合する、または混合物中の他の分子ではなく所要の標的分子に結合する複合的傾向しだいである。先に記載したように、標的分子との相互作用が起こったとき、より置換しやすい一つまたは複数のリガンドを金属錯体に含めること、またはその逆により、結合親和力を高めることが可能である。この方法で、金属錯体中に存在する配位子のタイプを変えて、標的分子がしきい結合親和力をもって結合するか、または結合しないいずれかの条件を制御することにより、所与の標的分子への結合親和力の段階的変化を提供することが可能である。さらには、標的分子および基質への金属錯体の結合は、有効結合の範囲を必要に応じて狭めたり拡げたりすることができるよう調整することができる。同様に、種々の支援的結合相互作用の組み合わせを意図的に使用して、金属錯体結合相互作用を補足して、組み合わせ結合親和力の調整または調節ならびに特定の標的分子の有効結合の範囲に関してさらなる融通性を加えることもできる。たとえば、国際公開公報第03/095494号に記載されているような発見プロセスでは、所与の標的分子に対する結合親和力の段階的変化を提供する表面コーティングを特定することができる。表面コーティングのライブラリーの結合親和力の段階的変化は標的分子に関して異なる。好ましい態様では、有効結合の範囲の制御および調整は、特定の標的分子が分析対象物中の別の分子よりも優先的に結合して選択的な結合を達成する状況で適用することができる。この場合、支援的結合相互作用は、基質上の標的分子の機能的立体配座を維持するのを助け、また、相補的結合分子との所期の続いて起こる相互作用に基づいて標的分子の好ましい配向を達成する際に直接的な役割を演じるのに役立つような方法で標的分子の固定化をもたらすために必要である。
【0083】
支援的結合相互作用が特異的である場合、基質は、特定の標的分子に対する全体的な結合強度および特異性をさらに調整するためのさらなる特徴を有してもよい。この場合、固定化される標的分子に関してより識別的であることが可能である。本発明の目的に関して、タンパク質、ペプチド、オリゴ糖、核酸ならびに薬物発見研究で使用される従来のリード発見法によって同定することができる任意の小分子化合物をはじめとする標的分子に対していくらかの(弱〜中〜強)結合親和力を有することができる分子から特定の結合相互作用が生じるかもしれない。本発明の態様では、特定の性質の支援的結合相互作用は、基質表面における、特別に選択された(小)分子、たとえば本出願人自身の同時係属中の国際特許出願第PCT/AU2004/001747号に記載のファルマコフォア法にしたがって設計された分子の包含によるものかもしれない。この出願の内容は、参照として本明細書に組み入れられ、以下に説明される。ファルマコフォア法は、標的分子がタンパク質である場合、その特定領域への結合を可能にするため、特に有用である。ひとたび同定すると、その小分子を、おそらくは上記の種のコーティング法を介して、基質表面に設けてもよい。この態様では、任意の弱く結合する小分子はさらなる配向性相互作用を提供するが、金属錯体は基質との固定相互作用として働く。様々な組み合わせにおける金属錯体の非特異的および特異的結合相互作用は、有効結合の範囲を調整して、抗体のような一般的な種類の標的分子に強く結合させたり、および/または広い範囲の条件下で有効である簡単かつ強固なライゲーション法を作成したりするいずれかを可能にする。または、特定の標的分子が分析対象物中の別の分子よりも優先的に結合する状況に適用することもできる。有効結合という用語は、適用に必要なすべての要件、たとえばアッセイ法における良好なシグナル、一貫した再現性ならびに所要のアッセイ法および貯蔵条件下での安定性を達成することを意味する。
【0084】
上記態様では、本発明にしたがって必要とされるようにコーティングが金属錯体および支援的結合相互作用を固定化することを可能にする構造的特徴を含むようにコーティングを設計するためにコンピュータベースの方法を使用してもよい。国際特許出願第PCT/AU2004/001747号は、標的分子を対象とした続いて起こる結合事象に基づく好ましい配向で標的分子と結合する能力を有する結合面を設計する方法を記載している。方法は、基質への結合を可能にする標的分子上の適当な固着部位を特定しながらも、その相補的結合分子との続いて起こる結合相互作用のために必要とされる標的分子上の他の結合部位の利用可能性を保有することを含む。そして、固着部位に関してファルマコフォアモデルを作成し、これは、結合が生じ得る相互作用の任意の形態に関連する分子的特徴を含む。その後、このモデルを使用して、固着部位に対して相補的であり、ひいてはその固着部位と相互作用し、結合する潜在能力を有するリガンドを特定する。そして、そのリガンドを、コーティングを介して基質表面に設けて、標的分子を好ましい配向で結合させることができるようにする。同様な方法を、金属錯体と支援的結合相互作用とが組み合わされる本発明で用いることができる。ここでは、好ましい配向で標的分子を結合するために適するかもしれない金属錯体および支援的結合相互作用を特定するため、配位子モデルを使用してコーティングに必要とされる官能性を特定することができる。
【0085】
説明するように、本発明のこの局面は、分子と結合してそのような分子の所定の配向を最大限にする潜在能力を有する基質表面を設計するために分子モデル化技術を使用する。このような分子の配向を制御する能力は、その分子の、配向依存的である続いて起こる分子の結合相互作用をたとえば別の関心対象の分子との結合に利用するために表面を後で使用するとき、感度および分解能に関して利点を提供することができる。説明したように、分子を基質上に設けるための従来技術は、これに関して多少なりとも運まかせである。そのような技術と比較すると、本発明にしたがって設計された表面は、より高い割合の標的分子と結合する能力を有することができ、標的分子はより効果的にそれらの相補的結合分子と結合する。これは、分子がその相補的結合分子との続いて起こる結合相互作用に適した配向になるよう、表面設計によって基質表面上の分子の配向を制御する能力に至る。
【0086】
本発明の目的に関して、基質表面に固定化されることを目的としている標的分子は、本明細書では固着部位および機能的結合部位と呼ぶ二つの別個のタイプの結合部位を有することができる。これらの部位の機能および相対位置が本発明で根本的に重要である。固着部位は、基質表面への分子の付着を促進し、それにより、分子を固定化することを可能にする。機能的結合部位は、分子が基質に固定化された状態でその相補的結合分子と結合相互作用を起こすことを可能にすることにより、分子が所望の官能性を有するようにする役割を担う。本発明の目的に関して、二つまたはそれ以上の異なるまたは類似した機能的結合部位が存在することができ、また、ある状況における固着部位が別の状況では機能的結合部位であることも可能である。
【0087】
本発明のこの局面は、結合される分子と、機能的結合部位に特異的であるその相補的結合分子との間の相互作用に依存し、これは、分子が基質に結合するとき、機能的結合部位が、その相補的結合分子との続いて起こる相互作用に利用可能であるような方法で配向されなければならないことを意味する。これは、結合される分子上の固着部位および機能的結合部位の相対位置に関する密接な関係を有し、本明細書中、「遠隔」という用語は、分子内のこれらの部位の空間的配置が、固着部位を介して分子が基質に固定化されたとき機能的結合部位が望みどおりに相互作用する能力が主に保存されるような空間的配置であることを意味する。「遠隔」という用語は、固着部位と機能的結合部位とが結合される分子の「対立する側」に配置されていることを意味するものではないが、ただし、それが可能であることも明らかである。機能的結合部位に望まれる結合能力が完全な状態のままである限り、固着部位および機能的結合部位は互いに対していかなる位置を占めてもよい。例として、抗体が標的分子である状況では、Fvフラグメントが機能的結合部位に相当する。固着部位は抗体のFcフラグメント上に位置することができる。
【0088】
本発明の方法の第一の段階は、分子を基質表面に付着させることを可能にするため、結合される分子内で固着部位を特定することを含む。分子が基質表面に結合する程度は、本発明にしたがって設計され、製造された表面の実用化の間に分子が偶発的に置換されることがないような十分さでなければならない。原則として、必要な結合の程度は一つの固着部位によって達成することが可能である。しかし、一般に、固着部位を介する基質への分子の結合を促進する相互作用の性質は比較的弱いこともあり、これは、分子の適切な固定化を達成するために、一つまたは多数の固着部位を介する一つまたは多数の異なるリガンドの結合が必要になるかもしれないことを意味する。したがって、当然ながら文脈に応じて、本明細書中、一つのリガンドまたは一つの固着部位への言及は、少なくとも二つのそのようなリガンドまたは部位をも意味するものと読まれるべきである。
【0089】
適当な固着部位の位置は、結合される分子内の、機能的結合部位の位置によって予測され、この位置そのものは関心対象の分子に関して知られる。事実、分子は、この部位の性質、より具体的には、機能的結合部位が結合特異性を有する相手の相補的結合分子に基づいて選択される。機能的結合部位の位置に基づいて、分子が基質表面に固定化されるとき適当な配向で機能的結合部位を提供する、可能な固着部位を決定することが可能である。実際には、潜在的な固着部位は、いずれも所与の分子に関して十分に立証されているかもしれない、分子構造の理解および機能的結合部位の結合特性に基づいて特定してもよい。
【0090】
X線回折またはNMR分光分析技術によって得られる分子の実験的3D構造が、おそらくは、モデル化のこの段階に最良の情報源である。公開されているデータベースおよび専用データベースの両方をこれに関して使用してもよい。たとえば、Protein Data Bank (PDB)は、タンパク質のような大きな分子の3D構造データの処理および配布のための最大の全世界的保管所である。このような実験構造がない場合は、ホモロジーモデル化により標的分子のソフトウェアベースの3Dモデルを作成することもできる。たとえば、標的タンパク質の場合、これは、そのアミノ酸配列を使用し、それを既知のタンパク質の構造に関連させることによって実施してもよい。
【0091】
また、潜在的な固着部位の存在を検索するための適切なデータベースのバイオインフォマティック検索を行うことが適切であるかもしれない。たとえば、公開または専用は、どの領域が関心対象の分子内に存在するのかを特定して、どの固着部位が標的分子内に存在するかに関する情報を提供するためのデータおよびツールを提供することができる。
【0092】
可能な固着部位はまた、所与の分子の3D構造のコンピュータモデル化によって特定することもできる。当業者は、そのような情報源および用いることができるコンピュータハードウェア/ソフトウェアの種類を熟知している。リガンド活性部位は、たとえば、Dockコンピュータプログラム統合ソフトからのGrid、MCSS、superstar、Q-fitプログラムまたはSphgenモジュールの使用によって特定することができる。
【0093】
この段階で特定されたすべての可能な固着部位が最終的に分子を基質表面に結合させるのに有用であるわけではなく、したがって、通常は、分子上の様々な位置における多数の異なる固着部位を特定する必要がある。これもまた設計の融通性を提供する。
【0094】
本発明の方法は、結合される分子上に適切に配置された固着部位を特定したのち、その固着部位のファルマコフォアモデルを作成することを含む。本発明に関連して、ファルマコフォアモデルは、結合部位(この場合、固着部位)が何らかの形態の結合相互作用を起こす能力を担う可能性が高い、空間的に分布した性質または中心のセットである。ファルマコフォアモデルは、結合部位がそれを介して結合能力を有する任意の形態の相互作用、たとえば疎水、静電および水素結合相互作用に関連する分子的特徴を含む。ファルマコフォアモデルは、そのような分子的特徴を参照することにより、特定の結合部位を特徴づける。
【0095】
ファルマコフォアモデルは、分子的特徴の3D表示であり、そのようなものとして、少なくとも四つの中心(空間的に分布した性質)を参照することによって規定されなければならない。これは、必要に応じて固着部位と相互作用することができる候補固着部位結合リガンドをより多く生じさせるため、四つより多い中心によって特徴付けられるファルマコフォアモデルを使用する場合の設計の融通性を支援してもよい。
【0096】
ファルマコフォアモデルは、結合部位そのものの分子的特徴の照合および/または関心対象の固着部位に結合することがすでに知られている一つまたは複数のリガンドのセットの分子的特徴の参照によって生成することができる。当業者は、関心対象の分子の所与の固着部位のための相補的リガンドに関する情報源を認識していると考えられる。
【0097】
ファルマコフォアモデルを生成するための多数の技術が当技術分野で公知であり、本発明は、いかなる特定の技術の選択にも属しない。例として、以下の方法および/またはソフトウェアシステムを挙げることができる:Catalyst;Ludi;DISCO;HipHop;GASP、Chem-X、ThinkおよびHypoGen。当業者は、公知の技術のいずれかを本発明に関して難なく使用するであろう。
【0098】
固着部位に関してひとたびファルマコフォアモデルが生成されたならば、本発明の方法は、そのファルマコフォアモデルを使用して固着部位結合リガンドを特定することを含む。ここでの意図は、ファルマコフォアモデルをある程度までマッピングまたはフィッティングし、ひいては固着部位に結合する潜在能力を有するリガンドを特定することである。仮想スクリーニングを実行するためには、先に引用したプログラムおよび当技術分野で利用可能な他のプログラムを使用することができる。本発明の重要な局面は、完全なファルマコフォアモデルが多数の中心の参照によって規定されるならば、リガンドが、「ヒット」とみなされる完全なファルマコフォアモデルと正確に合致しなくともよいということである。最低でも、モデルによって特徴付けされた固着部位と結合する潜在能力を有するためには、リガンドは、その少なくとも四つの中心に関してファルマコフォアモデルと合致しなければならない。したがって、ファルマコフォアモデルが多数の中心の参照によって規定されたものならば、モデルに対して特定することができる潜在的に有用なリガンドの数が増すということが理解されると考えられる。また、ファルマコフォアモデルが多数の中心の参照によって規定されるならば、リガンドが合致する中心の数に基づいてリガンドが必要な結合相互作用を示す尤度を格付けすることが可能であると理解されると考えられる。多数の中心に関してファルマコフォアモデルと合致するリガンドは、より限られた方法でモデルと合致するリガンドよりも適している可能性が高い。
【0099】
本発明の方法のこの段階に関して、企業の物理的に使用可能な化合物の収集物または化合物供給元から外部的に利用可能な化合物に一般に対応する化合物データベースを利用することが有用であるかもしれない。後者の場合、二つのタイプのライブラリーを使用することができる。第一のタイプは、一度に一つずつのベースで購入することができる分子から生じる。個々の供給元の化合物カタログを使用することができるか、MDLのACD(Available Chemicals Directory)またはCambridgeSoftのChemACXのような編纂物がより包括的な供給源であるかもしれない。たとえば、ACDは、市販されている化合物の構造検索可能なデータベースであり、全世界600社を超える供給元からの25万を超える研究用および量産薬品の価格および供給元情報が添付されている。第二のタイプのライブラリーは、ライブラリー全体またはその一部を取得することができる、スクリーニング化合物収集物供給元からのスクリーニングライブラリーである。また、MDL Screening Compounds DirectoryまたはCambridgeSoftのChemACX-SCのようなスクリーニングライブラリーの編纂物が利用可能である。もう一つの情報源は、コンピュータソフトウェア(CombiLibMaker、Legion)によって試薬のリストおよび所与の化学から生成された化合物に対応する仮想ライブラリーであるかもしれない。
【0100】
また、当技術分野で公知の分子モデル化ソフトウェアおよび技術を使用して特定のファルマコフォアモデルを適当なリガンド構造に変換することもできる。Ludiは、フレキシブル分子のより大きなデータベースと稼動するように最近拡張された新たな技術を提供するプログラムの一例である。この特定の段階を実行するための当技術分野で公知の技術が比較的小さなリガンド(分子)の設計に十分に適し、それらの技術は、表面バイオミメティックスの設計には容易に拡張することはできない。この主な理由は、所与の結合部位の結合事象に伴う結合相互作用の性質である。たとえば、タンパク質の場合、少なくとも、平均接触面積は800Å2であり、そのような大きな表面積を補完することができる分子は一般にまれである。たとえば、7,595種の市販のモノカルボン酸のセットによってタンパク質表面に提供される平均接触面積は約130Å2であり、標準偏差は55Å2である。さらには、高い表面積範囲の分子は一般に大きな数(15を超える)の回動可能な結合を有し(末端基を除く)、それがもたらす可能な立体配置の膨大なアレイを処理するために現在のファルマコフォア法を使用することは可能でもないし現実的でもない。したがって、この段階で生成される固着部位結合リガンドは比較的小さく単純な分子である。
【0101】
現実には、本発明にしたがって特定された固着部位結合リガンドが望みどおり固着部位に結合するという保証はない。たとえば、リガンドの一部が固着部位の残基と衝突することもあるし、候補リガンド中の一つまたは複数の構造的特徴が固着部位の一つまたは複数の官能基と適合しないこともある。採用される技術は候補リガンドを生成し、本発明の方法はまた、好ましくは、固着部位/リガンド対の結合効能を保証するためのドッキング段階をも含む。これはまた、固着部位のへ結合親和力にしたがってリガンドを格付けすることを可能にする。
【0102】
ドッキングは、当技術分野で公知の種々の技術、たとえばDock、FlexX、Slide、Fred、Gold、Glide、AutoDock、LigandFit、ICM、QXPによって実施することができる。本発明においては、候補リガンドを固着部位に配置するために、ファルマコフォアモデルの少なくとも四つの中心が使用される。そして、広範な立体配座検索を使用して、立体構造上の制約に関して受け入れられるすべての潜在的な立体配置を生成することができる。得られる生成された錯体のスコアリングは、物理ベース、経験的または知識ベースのスコアリング関数のいずれかを使用して実施することができる。物理ベースのスコアリング関数は、原子間力場、たとえばAmber MMFF94またはCHARMMに基づく。経験的スコアリング関数、たとえばScoreまたはChemscoreは、水素結合カウントのような物理化学的性質に基づき、たとえば水素結合、疎水相互作用およびエントロピー変化を近似して結合自由エネルギーを推定するいくつかのエネルギー項を使用する。各項で使用される係数は、多様な異なるタンパク質-リガンド錯体に関する既知の実験的結合エネルギーへのフィッティングから誘導される。知識ベースのスコアリング関数、たとえばPMFまたはDrugscoreは、タンパク質-リガンド錯体の統計的解析に基づく。原子間接触に関連する個々の自由エネルギー項は、データベース中のその頻度から決定することができる。合計結合自由エネルギーは、原子間接触の個々の自由エネルギーの和によって計算される。種々のタイプのスコアリング関数を使用して錯体構造のエネルギー最小化を実施することができる。ミニマイザは、固着部位内のリガンドの位置、配向および正確な立体配座を調節する。結合される分子またはその固着部位の自由度を考慮に入れてもよい。第一のタイプのスコアリング関数を用いると、明示的溶媒を用いる分子動的シミュレーションを実施でき、自由エネルギー摂動(FEP)または熱力学的集積(TI)法が一般に結合自由エネルギーの良好な推定を与える。最適化された錯体は、リガンドを配置するために当初に使用されたファルマコフォア中心にもはやフィットしないかもしれないことに注意するべきである。結果は、固着部位に結合すると予想される固着部位結合リガンドである。
【0103】
固着部位と相補的固着部位結合リガンドとの間の相互作用は比較的弱く、これは、標的分子を基質表面に固定化するためには数多くのそのような相互作用が必要であることを意味する。したがって、実際には、一つの分子に関して多数の固着部位および相補的固着部位結合リガンドを特定することが通常必要である。または、金属錯体を一つまたは複数の支援的結合相互作用と組み合わせて使用することができる。必要とされる固着部位/リガンド結合対の数は、所与の対に適切な相互作用の正確な性質および関与するすべての結合対のためのそのような相互作用の和に依存する。実際には、所与の分子に関する適切な数およびタイプの固着部位/リガンド結合対を特定したかどうかは、捕捉分子が選択された基質に適切に固定化されているかどうかを評価することによって判断することができる。
【0104】
本発明の方法の次の段階は、基質表面に固着部位結合リガンドを提供することを含む。リガンドは、分子そのものが固定化されるよう、表面に固定化されなければならない。さらには、多数のリガンドが関与する場合(実際にはよくあることかもしれない)、リガンドは、標的分子の各固着部位への結合を促進するのに適した位置に配置されるよう、基質表面に適当な空間的分布で設けられなければならない。したがって、分子上の個々の固着部位の空間的分布は、基質表面で必要とされる各固着部位結合リガンドの相対位置を指示するものであるため、これもまた、重要な考慮事項である。これを実施する一つの方法は、固着部位結合リガンドを、基質表面に結合した主鎖分子上に適当に配置されたペンダント基として含めることによる方法である。ここで、主鎖分子は、各リガンドのその相補的固着部位への続いて起こる結合を可能にする配向で固着部位結合リガンドを基質に(間接的に)取り付けるように働く。この場合もまた、分子モデル化技術を使用して、適当な主鎖分子を設計してもよい。その場合、当技術分野で公知の技術によってどのような設計構造を実際に構築することができるかを考慮することが必要であると考えられる。または、入ってくる標的分子のサイズに対して小さい分子実体、たとえば金属錯体、小さな分子リガンドおよび他の特異的または非特異的結合相互作用の密度は、個々の結合実体のいくらかの割合が必要な空間分布の中に入るような密度である。当然、ペンダント固着部位結合リガンドは、主鎖上に設けられたとき、関心対象の固着部位に結合する能力を保持しなければならない。これは、本明細書で述べる技術を使用するスクリーニングによって立証することができる。
【0105】
さらなる態様で、標的分子は、金属錯体結合相互作用および/または連係して作用する支援的結合相互作用の一つを意図的に断つことによって遊離することができる。先に論じたように、支援的結合相互作用は、金属錯体結合相互作用なしでは、標的分子の安定な結合を達成するには不十分であるかもしれない。同様に、標的分子の安定な結合を達成するのに不十分である金属錯体が存在し、金属錯体結合相互作用と支援的結合相互作用との組み合わせ効果こそが、指定条件下での基質への標的分子の安定な固定化を生じさせるものである。その結果、結合相互作用の一つまたは複数の断絶は、指定条件下で基質から標的分子を解離させることができる。
【0106】
本発明にしたがって使用されるポリマーコーティングはまた、基質が、金属錯体および/または標的分子および/または金属錯体を介して基質に結合される相補的結合分子に呈示する環境を変化させる効果を有してもよい。本発明のこの局面は、基礎となる基質が、結合した標的タンパク質の立体配座における望ましくない変化または変性を生じさせるおそれがある生物学的アッセイ法の状況で特に有用である。種々の基質がその表面でタンパク質を異なる程度に吸着する傾向があり、相補的結合分子との続いて起こる相互作用のための異なる程度のタンパク質の利用可能性または非利用可能性を生じさせる。ここで、本発明は、基質材料と標的分子との間の有害な様々の相互作用を克服するために適用することができる。したがって、本発明にしたがって、一つのアッセイ形式で有用であることが知られている標的分子を、さもなくば標的分子と適合しないことが知られている別のアッセイ形式で用いることが可能である。
【0107】
この態様では、コーティングはさらなる官能性を有してもよい。本発明の先の態様で記載した官能性は、支援的結合相互作用のあるなしにかかわらず、結合した金属錯体を介して標的分子を基質表面に固定化することを可能にする。コーティングのさらなる官能性は、基質を遮蔽して、後者が金属錯体を介して基質に結合しているとき標的分子に対する基質の影響を変化させるために含めることもできる。本明細書において、これを安定化官能性と呼ぶ。本発明のこの局面は、これらの官能性を有するコーティングを具体的に参照して説明するが、これは、異なる官能性を有するコーティングが本発明では有用ではないかもしれないことを意味するものではない。
【0108】
結合および安定化官能性を示す材料(典型的にはポリマー)を合成することができるならば、その材料を一つの層として基質上に設けることが可能である(基質の性質およびコーティングを適用する方法に従う)。ここで、この一つの層がすべての必要条件を示す。しかし、通常、コーティングは、結合官能性を示す層(結合層)および安定化官能性を示す層(安定化層)で構成されている。各層そのものが、コーティングの全体的官能性に寄与する多数の層で構成されていてもよい。したがって、コーティングは、そのもっとも簡単な形態で、基質の表面特性を遮蔽する第一の安定化層および標的分子の結合を促進する第二の結合層を含むことができる。一つの層を使用してコーティングを形成するのか多数の層を使用してコーティングを形成するのかは、コーティングを形成する材料、コーティングが適用される基質およびコーティングを適用するために使用する方法に依存する。
【0109】
安定化層は、相補的結合分子と後で結合する標的分子の能力および/または利用可能性に関して有害である、基質と標的分子(金属錯体を介して基質に結合している)との間の相互作用を一斉に減少または防止する意図をもって使用することができる。本発明のこの態様にしたがって、一部のアッセイ形式で有用であることが知られている標的分子を、基質と標的分子との間の有害な相互作用のせいで以前には不適当であった別のアッセイ形式で用いてアッセイ法を実施することが可能である。上記のように必要とされる官能性を示すならば、使用されるコーティングの正確な性質は重要ではない。意図は、単に、以前は有用ではなかった基質を有用にすることである。
【0110】
コーティングは、それを構成する層の数にかかわらず、本発明にしたがって結合面の実用化の間に置換されないという意味で基質に固定されなければならない。上述のようにコーティングが別々の安定化層および結合層を含む場合、何らかの適当な相互作用により、安定化層が基質表面に結合し、結合層が安定化層に結合する。
【0111】
本発明のこの局面は、生物学的アッセイ法で使用するための固相基質を製造するのに特に利用可能性を有することができ、本発明は、任意の固相アッセイ法のための基質のそのような使用に関するが、アフィニティークロマトグラフィー、2Dゲル電気泳動、表面プラズモン共鳴および標的分子が、ある基質に結合している場合には有用であるが、別の基質に結合している場合には有用ではないことが知られるその他の用途のための基質のそのような使用にも関する。コートされる基質は、既存の固相アッセイ基質であってもよいが、本発明の効果は、コートされた基質と標的分子との間の所望の相互作用に基づいて基質の表面特性を所定の方法で変化させることである。
【0112】
この態様を適用することができるもう一つの実際的状況は、ポリスチレンラテックスビーズおよびガラススライド上で実施されるアッセイ法に関する。ライゲーションの方法を含むこのような基質の表面特性は非常に異なり、その結果、基質表面および/またはライゲーション法の結果として同じ標的分子が同じ相補的結合分子と異なるように反応する。場合によっては、一部の標的分子は、その相補的結合分子を捕捉するのにもはや有用ではなくなる。本発明のこの局面にしたがって、均一かつ安定な表面特性を提供し、基礎となる基質を問わず特定の標的分子の場合に同じ結果を達成することができるよう、そのような基質上にコーティングを設けることもできる。標的分子(たとえばタンパク質)に関して問題を呈することが知られているこれら表面特性を取り扱うことにより、以前には最適ではなかったアッセイ法を有用にし、ならびに新たなアッセイ法を開発することが可能である。このような新たな形式が本発明の一部を形成する。本明細書では、タグ付けされたポリスチレンラテックスビーズを特に挙げるが、本発明のこの局面の基礎となる概念は、他の基質および形式にも容易に適用可能であることが理解されると考えられる。
【0113】
基質を遮蔽するために使用することができる可能な材料を特定するための指針として、標的タンパク質が基質との有害な相互作用を示さないと思われる基質の表面特性を考慮してもよい。原則として同一または密接に関連した材料が一見したところ有用なはずであるため、実際、「適合性」の基質材料の知識は有用な遮蔽材料のための直接的なリードを提供することができる。したがって、原則として、そのもっとも簡単な形態で、同じ標的分子と適合しないことが知られている基質上の標的分子と適合性であることが知られている材料を単に用いようとするかもしれない。たとえば、上記例を使用すると、標的分子が、ガラス基質とは適合性であるが、タグ付けされたポリスチレンラテックスビーズとは適合しないことを知っているならば、同一または近い関係にあるガラス材料を組み込んでいるコーティングを使用することによってビーズを標的分子と適合性にすることが可能である。
【0114】
本発明のもう一つの態様で、基質に適用されるコーティングは、安定化官能性を有し、下にある基質を遮蔽して、基質が、コートされたとき、異なる基質と標的分子との、その基質に結合した金属錯体を介する相互作用に関して異なる基質を模倣するようにする。したがって、この態様は、コーティング官能性のこの局面に関して選択/設計のさらなる段階を含む。例として、ポリスチレンラテックスビーズで使用するための第一の遮蔽層は、無機ケイ素含有コーティング層(ガラス基質を模倣する)、金のような金属(表面プラズモン共鳴(SPR)に使用される表面を模倣する)または注入成形マイクロタイタートレーを製造するために使用されるタイプのポリマーであるかもしれない。しかし、この遮蔽層そのものは最適なタンパク質結合には十分でなく、最適な標的分子結合の最終的な結果を達成するためにはさらなるコーティング層(結合層)が必要である。
【0115】
概して、本発明のこの局面は、ある基質/形式で十分に作用することが見いだされているアッセイ法からのデータを、いずれにせよ他の基質/形式が関心対象の標的分子と適合性である他の基質/形式に翻訳し、相関させることが望まれる場合に特に有用である。アッセイデータを統合するためには、両形式の基質に結合層をコートして、結合層が受けるかもしれない任意の影響を打ち消す必要があるかもしれない。本発明のこの局面の実用化は抗体の調製に関する。これは、モノクロナール抗体の場合には、タンパク質(抗原)調製、動物免疫化およびハイブリドーマ技術をはじめとする多数の段階を伴う。生成された抗体の有用性は、指定のアッセイ形式では固定化抗原に対して評価されたり、および/またはアフィニティークロマトグラフィーによって精製されたりする。しかし、マイクロタイタートレーのような一つの形式上の指定の抗原に対する高アフィニティー抗体の同定および単離は、その抗体が、ビーズのような異なる形式上に固定化された場合にも有用であることを意味するわけではない。事実、多くの抗体はまったく作用しない。有利には、本発明のこの局面は、ある形式上で抗体の同定を速やかに実施したのち、抗体の望ましい特性を損なうことなく、その抗体を別の形式(たとえばマイクロタイタートレー、アフィニティーカラム、ビーズまたはガラススライド)に移すことを可能にする。したがって、本発明にしたがって、一定範囲の形式で抗体の官能性を保持することが可能である。これは、アッセイ設計および融通性における大きな可能性ならびに異なる形式で得られたデータを統合する機会をもたらす。
【0116】
この態様では、必要な遮蔽官能性を付与するために使用される材料は、アッセイ法が作用することが知られている基質の物理化学的表面性質に基づいて選択される可能性が高い(必ずしもそうではない)。可能な候補遮蔽材料(安定化層のための)を特定する意図をもって、当技術分野で公知の分析ツールを使用してその基質の適切な表面特性を特定してもよい。この場合もまた、特定のアッセイ法が一つの基質材料上で作用可能であることが知られているならば、その遮蔽材料に関して同一または類似した化学を単に採用することが簡便であるかもしれない。本発明のこの態様にとって有意なことは、固相基質としてアッセイ法ですでに使用されている異なる材料の特性を模倣するためのコーティングの意図的な設計である。
【0117】
本発明のこの態様はまた、標的分子に対して呈示される環境に関して、一つの基質の表面を、むしろ別の基質のように「挙動」させるように改変することにより、様々な基質上でアッセイ法を実施した場合の結果におけるばらつきを最小化するのにも有用であるかもしれない。たとえば、上記で使用した例では、ラテックスビーズは、ガラスの表面特性を有するように改変することもできる。または、多数の基質を、それぞれが別の基質のように「挙動」するように改変することが望ましいかもしれない。たとえば、ガラス基質およびポリマー基質を、それぞれが金などの表面特性を有するように改変することが適切であるかもしれない。この態様は、標的分子に関して類似した結合環境の基礎を形成するために一つまたは多数の基質表面を「正規化」するものとみなすこともできる。
【0118】
一般に、ポリマーコーティングは、当技術分野で公知の表面改変法の任意の膨大な組み合わせ(たとえば浸漬およびスピンコーティング、プラズマ重合、物理吸着、蒸着、スタンプ印刷、γ線照射、電子ビーム露光、熱および光化学物質照射)を使用して、基質に適用してもよい。
【0119】
一つの態様で、ポリマーコーティングは、当技術分野で周知の化学を使用して基質上の成分モノマーからグラフト重合される。当技術分野に存在する広い範囲の重合法を使用してもよい。たとえば、カチオン、アニオン、ラジカル(たとえばNMP、ATRP、RAFT、Iniferter)、縮合および置換(たとえばROMPおよびADMET)の制御および/またはリビング重合の技術をすべて使用することができる。また、当技術分野で周知の非制御重合法を本発明とともに用いてもよい。
【0120】
ポリマーが官能基および任意でスペーサー基を含む場合、基質の表面にコポリマーをグラフト重合したのちこれらの基を導入してもよい。または、ポリマーは、基質表面への相補的化学による係着を許す、または基質表面との溶液中のポリマーの絡み合いを促進するマクロマーを含むポリマー溶液として基質に適用してもよい。マクロマー溶液の場合、マクロマーの反応単位は、末端基に存在してもよいし、ポリマー全体を通じてランダム、ブロック状または勾配状に間隔をあけるいずれかでよい。
【0121】
また、ポリマーを、基質上の簡単なコーティングとして、基質表面への共有結合なしに適用することも可能である。従来技術、たとえば浸漬コーティングを使用してもよい。基質への固定のためにポリマーの架橋が必要とされるかもしれず、それによって使用中に洗い落とされることを防ぐ。ポリマーは、すぐに使用できる形態で膜上に設けられることもできるし、たとえば、上記のようなさらなる官能基の導入によってさらに官能化することもできる。
【0122】
本発明はまた、本発明の方法における使用に適した、金属錯体を含む基質にまで及ぶ。金属錯体は、接合体、たとえば(金属錯体)-(標的分子)接合体の一部分として存在することもできる。本発明のこの局面は、本明細書に記載する態様にしたがって標的分子との相補的結合相互作用を可能にするために適当な表面コーティングおよび/または構造的特徴の包含によって改変または操作されている基質を含む。本発明はまた、生物学的分子を固定化するためのアッセイ法における、そのような基質、すなわち、金属錯体をおそらくは前記のような他の態様と組み合わせて含む基質の使用にまで及ぶ。さらには、本発明は、本明細書に記載する本発明の方法したがって標的分子が基質に結合したとき形成される種を含む。
【0123】
本発明のもう一つの態様では、基質と非改変標的分子との間で所望の結合相互作用を達成することができる金属錯体を特定することを含む、固相アッセイ法を設計する方法が提供される。
【0124】
本発明のもう一つの態様では、基質および金属錯体を含み、少なくとも一部には、金属錯体に起因し得る、基質と標的分子との間の結合相互作用のおかげで、金属錯体の存在下における基質への標的分子の暴露により標的分子を基質に固定化する、非改変標的分子を固定化するための固相アッセイ法が提供される。基質は、本明細書に記載するようなコーティングを含むことができる。この態様は、本発明の基礎となる原理の実用化を表すということが理解されると考えられる。標的分子の固定化は、金属錯体を伴う結合相互作用によることもできるが、むしろ、この結合相互作用および本明細書に記載する他の支援的結合相互作用に起因しうるものである可能性が高い。
【0125】
この変形において、固相アッセイ法は、相補的結合分子を固定化するための、標的分子を伴う結合相互作用に依存する。先に記したように、このようなアッセイ法は、抗体を標的分子として使用する抗原の固定化に有用であるかもしれない。
【0126】
以下、非限定的な実施例で本発明の態様を説明する。
【0127】
実施例1:Luminexビーズにおける塩化クロムライゲーション
標準塩化クロムライゲーション溶液を溶液ライゲーションにおけるその効率に関して試験した。ここで、コートされていないLuminexビーズにTSH抗体をカップリングすることにより、ライゲーションに重要であると見なした変数を試験した(J. W. Goding, J. Immunol. Methods, 10 1976, 61-66, The chromic chloride method of coupling antigens to erythrocytes: Definition of some important parametersを参照されたい)。
【0128】
a. 塩化クロムライゲーション剤の調製
塩化クロム(5.0g)を0.15M生理食塩水500mLに溶解し、終夜放置する。pHが4.9で安定するまで4週間にわたり週3回、1M NaOHでpHを5.0に調節した。使用前に、原液を0.15M生理食塩水で1:10に希釈する。
【0129】
また、熟成の重要性を試験するため、調製したばかりの塩化クロム溶液を使用した。
【0130】
b. 塩化クロムを介する接合
抗体を脱塩するため、Amersham PD-10カラムに少なくとも25mLの0.15M生理食塩水を通すことによってこのカラムを予備平衡させる。この予備平衡したPD-10カラムに、≧1mg/mLである抗体溶液250uLを加える。2×200uLの0.15M生理食塩水で洗浄する。カラムを0.15M生理食塩水で稼動させ、10×0.5mL画分を収集する。アリコートをUV分光法によって試験することにより、タンパク質を含有する画分を決定する。濃度(mg/mL)=280nm/1.4でのAbs。最高タンパク質含有画分(一般にアリコート3〜6)を貯留し、0.15M生理食塩水を使用して100ug/mLに希釈する。
【0131】
ビーズを下処理するために、ビーズを室温に到達させ、20秒間ボルテックスしたのち、さらに20秒間音波処理する。注!ビーズは、一つの単分散粒子として懸濁させなければならない。何らかのビーズ凝集塊が認められるならば、凝集塊が認められなくなるまでボルテックスおよび音波処理を繰り返す。ビーズ濃縮物100uLを1.7mLマイクロチューブ中に分散させる。ビーズ溶液を14,000rpmで3分間遠心処理したのち、チューブを取り出し、軽く叩いてチューブ側面からビーズを剥離させ、次いで、さらに5分間遠心処理する。ビーズペレットから上澄み液を注意深く取り除き、捨てる。
【0132】
100ug/mL抗TSHモノクロナール抗体(OEM Concepts抗体、クローン#057-11003)溶液200uLに対し、使用塩化クロム溶液2uLを加える。すぐに5秒間ボルテックスし、10分ごとにボルテックスしながら30分間放置する。上記抗体/クロム溶液100uLをビーズペレットに加える。ビーズを20秒間ボルテックスしたのち、さらに20秒間音波処理して均一な懸濁液を形成する。ときおりボルテックスして混合しながら30分間放置する。PBS 100uLを加える。懸濁液を14,000rpmで3分間遠心処理したのち、チューブを取り出し、軽く叩いてチューブ側面からビーズを剥離させ、次いで、さらに5分間遠心処理する。ビーズペレットから上澄み液を注意深く取り除き、捨てる。洗浄工程を2回繰り返す。最後に、10mM PBS100uLを1% BSAおよび0.05%アジ化物とともに加える。
【0133】
c. アミドカップリングによる接合(対照)
抗TSHモノクロナール抗体(OEM Concepts抗体、クローン#057-11003)を、Luminexウェブサイト(http://www.luminexcorp.com/01 xMAPTechnology/06 Publications/03 Tech Bull/LMNX TSH%20 TBl.pdf)に記載されているLuminex推奨法を使用して、Luminex xMAP微小球にカップリングした。
【0134】
ビーズを下処理するために、ビーズを室温に到達させ、20秒間ボルテックスしたのち、さらに20秒間音波処理する。注!ビーズは、一つの単分散粒子として懸濁させなければならない。何らかのビーズ凝集塊が認められるならば、凝集塊が認められなくなるまでボルテックスおよび音波処理を繰り返す。ビーズ濃縮物100uLを1.7mLマイクロチューブ中に分散させる。ビーズ溶液を14,000rpmで3分間遠心処理したのち、チューブを取り出し、軽く叩いてチューブ側面からビーズを剥離させ、次いで、さらに5分間遠心処理する。ビーズペレットから上澄み液を注意深く取り除き、捨てる。0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液pH6.3を用いて洗浄手順を繰り返す。
【0135】
前記のように遠心処理したビーズ濃縮物(1.25×106個) 100uLごとに、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液pH6.3中の1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)およびN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(S-NHS)の50mg/mL溶液50uLを加え、室温の暗所でときおりボルテックスしながら20分間放置する。そして、ビーズを0.05M 2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液pH5.0 200uLで2回洗浄した。
【0136】
音波処理およびボルテックスによってビーズをMES緩衝液200uL中に再懸濁したのち、抗体(MES緩衝液中200ug/mL)75uLを加え、室温で、低速シェーカに載せて2時間インキュベートした。次いで、ビーズを、0.05% Tweenを含む2×200uL 10mM PBSで洗浄する。最後に、ビーズを、1% BSAおよび0.05%アジ化物を含む10mM PBS (pH7.4) 100uL中に貯蔵する。
【0137】
d. TSHアッセイ法
Luminex法にしたがって、多重化ビーズに対してTSHアッセイ法を実施した。簡潔にいうと、材料および方法は記載のとおりである。
【0138】
アッセイ成分:
抗体カップリングしたビーズ:濃縮物10uLをアッセイ緩衝液590uLに加える。
検出抗体:EZ-Link-Sulfo-NHS-LC-Biotin (Pierce)を使用して検出抗TSHモノクロナール抗体(Medix Biochemica抗体、クローン#5403)をビオチン化した。使用溶液は、1% BSAを含有する10mM PBS中20ug/mLであった。
TSH標準は、1% BSAを含有する10mM PBS中で調製した。
ストレプトアビジン-R-フィコエリトリン:1% BSAを含有する10mM PBS中20ug/mL
洗浄緩衝液:1% BSAを含有する10mM PBS
アッセイ緩衝液:4% BSAを含有する10mM PBS
【0139】
アッセイプロトコル:
洗浄緩衝液100uLを各ウェルに入れ、ウェルをゆっくりと空にするのに十分な真空を加えることによってフィルタプレートを予備湿潤する。TSH標準20uLを適切なマイクロタイタウェルに加える。アッセイ緩衝液をゼロ(0uIU/mL)ウェルに加える。希釈ビーズ混合物10uLを適切なマイクロタイタウェルに加える。フィルタプレートを室温の暗所で500rpmで1時間振とうしたのち、次に抗TSH検出抗体溶液20uLを適切なマイクロタイタウェルに加える。フィルタプレートを室温の暗所で500rpmで30分間振とうしたのち、次に希釈ストレプトアビジン-R-フィコエリトリン溶液20uLを適切なマイクロタイタウェルに加える。フィルタプレートを室温の暗所で500rpmで15分間振とうする。ウェルをゆっくりと空にするのに十分な真空を加えることによって溶液をウェルから取り出す。洗浄緩衝液100uLを各ウェルに加え、ウェルをゆっくりと空にするのに十分な真空を加える。洗浄手順を繰り返したのち、洗浄緩衝液100uLを各ウェルに加え、60秒間振とうする。プレートをLuminex XYP(商標)プラットフォームに装填し、読み取りを実施する。
【0140】
e. 結果の例
従来技術で記載されているように、良好なライゲーションを達成するためには塩化クロム溶液を「熟成」させることが不可欠であると考えられる。しかし、反復試験により、同じ原液が熟成にかかわらず異なる結果を出し、アッセイ結果はライゲーション条件に対して非常に敏感であり、再現性の問題を招いた。表1は、非熟成塩化クロムをpH調節した場合とpH調節しなかった場合と比較する、Luminexビーズに対して実施されたTSHアッセイ法の代表的なデータを示す。pH調節された非熟成溶液は、熟成溶液の結果と類似した結果を出したが、非熟成溶液は、毎日の反復試験で絶えず変化し、アッセイシグナルにおいて、熟成溶液から得られたばらつきよりもはるかに大きなばらつきを示した。対照的に、標準アミド対照は、時間を経ても一貫して同じ結果を出した。熟成溶液はより良好な再現性を有したが、カップリングののち数日のうちに20%のシグナル減衰が認められた。同じく、37℃および4℃で貯蔵した両ビーズに関してもアッセイシグナルの減衰が進行していた。また、貯蔵とともに、アッセイシグナルの減衰におけるばらつきがあり、時間とともに再現性を達成するのに困難が生じることを確認させた。実験データは、非常に狭い最適範囲を有するライゲーションシステムと合致している。最適条件からのわずかな逸脱でさえ、アッセイシグナルおよび貯蔵性能における有意なばらつきを生じさせる。
【0141】
(表1)塩化クロムライゲーション:反復試験におけるばらつき
塩化クロムライゲーションによるTSHアッセイ法におけるばらつきの代表例;pHの効果

【0142】
実施例2:PVDF膜上でのクロム錯体のライブラリーの生成
PVDF膜の表面に対して無水マレイン酸およびスチレンを同時グラフト重合したのち、ポリマーをアミンおよびクロム構成単位で化学改変することにより、PVDF膜にグラフトされたクロム含有ポリマーをアセンブルすることができる。一次スクリーンとして、PVDF膜をビオチン化抗体で直接処理したのち、HRP接合ストレプトアビジンで処理することができる。酵素を基質で活性化したのち、化学発光イメージングを実施すると、抗体結合を検出し、定量化することができる。または、捕捉抗体、続いてサンドイッチELISAで抗原および検出抗体による膜の処理を使用して、抗体の配向を問うこともできる。蛍光、UV、化学発光および近赤外を含むが、これらに限定されない多数の異なるレポータシステムおよび検出法を使用することができる。
【0143】
BioTrace(商標)PVDF膜をアルゴンプラズマ処理したのち、酸素アフターグローによって処理して表面結合過酸化物を形成することにより、無水マレイン酸/スチレンコポリマーコートされたPVDF膜を調製する。過酸化物の熱分解が表面ラジカルを生成する。無水マレイン酸およびスチレンの存在下で、重合が起こって、膜表面に直接グラフトされた無水マレイン酸/スチレン交互コポリマーを生じさせる。ATR分析は、1858および1778cm-1における非対称二重項の存在および強さによって示されるように(図3)、かなりのコポリマーコーティングの存在を示す。グラフトされたポリマーの相対量は、MAn1818cm-1/PVDF764cm-1のピーク面積の比によって、様々なグラフト反応条件と比較することによって推定することができる。本発明者らの実験は、7.52のMAn1818cm-1/PVDF764cm-1を示す。物理的に、膜は、構造結着性に関する「折りたたみ引き延ばし」試験に合格する。プラズマ法は、γ線照射によって生成された以前の試料と比較してかなり多くのグラフトポリマー(>9×)を示したため(比=0.83)、この観測は注目に値する。
【0144】
THF(またはEtOAc)中の2°アミンによるPVDF膜にグラフトされたMAn/Styの処理は、開環した混合フェニル-アミド-カルボン酸系を与えた。ATR-IRによる膜の解析は、2°アミンに依存して、非対称無水物シグナルの消滅および1750〜1500cm-1の幅広いピークの出現を示す。等モル量のエチレンジアミンまたは他の添加剤を含むCr(III)の水溶液で膜を洗浄すると、ポリマー結合クロムが得られる。これは図2に模式的に示されている。
【0145】
PVDF膜上の1600種の新規なポリマーコーティングの平行ライブラリーを作成し、抗体結合に関してスクリーニングした。入力項目は、40種の異なる2°アミン(表2)および40種の異なるCr(III)調製物(表3)を含む。
【0146】
(表2)2°アミン
番号
アミン
1
ジメチルアミン
21
N-メチルホモベラトリ-アミン
2
N-エチルメチルアミン
22
ジプロピルアミン
3
N-メチルプロパルギルアミン
23
ジエチルアミン
4
N-メチルアリルアミン
24
ジブチルアミン
5
ピロリジン
25
3,5-ジメチルピペリジン
6
ピペリジン
26
2-メトキシエチルアミン
7
モルホリン
27
N-メチル-2-アミノ-(2-メトキシエトキシ)エタンHCl
8
N-メチルブチルアミン
28
N-メチル-3-(アミノエチル)インドール-HCl
9
1-メチルピペラジン
29
4-ピペリドン一水和物塩化水素
10
N,N,N′-トリメチルエチレンジアミン
30
ジエタノールアミン
11
チオモルホリン
31
4-ピペリジンエタノール
12
N-メチルフルフリルアミン
32
N-メチル-B-アラニンニトリル
13
ベンジルメチルアミン
33
N-メチルフェネチルアミン
14
3,3′-イミノジプロピオニトリル
34
2-(メチルアミノ)エタノール
15
1-アセチルピペラジン
35
1-ピペロニルピペラジン
16
N-ペクトアミド
36
N-ω-メチルトリプタミン
17
1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン
37
チアゾリジン
18
ビス(2-メチルオキシエチル)アミン
38
2-(2-メチルアミノエチル)ピリジン
19
N-メチルオクチルアミン
39
1-(2-ヒドロキシエチル)-ピペラジン
20
1-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチルピペリジン
40
ピペラジン
【0147】
(表3)Cr(III)調製物
番号
クロム錯体
濃度(mM)
添加剤
濃度(mM)
1
塩化クロム(III)
100
なし
100
2
塩化クロム(III)
100
HCl
100
3
塩化クロム(III)
100
エチレンジアミン
100
4
塩化クロム(III)
100
テトラメチルエチレンジアミン
100
5
酢酸クロム(III)
100
なし
100
6
酢酸クロム(III)
100
HCl
100
7
酢酸クロム(III)
100
エチレンジアミン
100
8
酢酸クロム(III)
100
テトラメチルエチレンジアミン
100
9
臭化クロム(III)
100
なし
100
10
臭化クロム(III)
100
HCl
100
11
臭化クロム(III)
100
エチレンジアミン
100
12
臭化クロム(III)
100
テトラメチルエチレンジアミン
100
13
硝酸クロム(III)
100
なし
100
14
硝酸クロム(III)
100
HCl
100
15
硝酸クロム(III)
100
エチレンジアミン
100
16
硝酸クロム(III)
100
テトラメチルエチレンジアミン
100
17
過塩素酸クロム(III)
100
なし
100
18
過塩素酸クロム(III)
100
HCl
100
19
過塩素酸クロム(III)
100
エチレンジアミン
100
20
過塩素酸クロム(III)
100
テトラメチルエチレンジアミン
100
21
クロムミョウバン
100
なし
100
22
クロムミョウバン
100
HCl
100
23
クロムミョウバン
100
エチレンジアミン
100
24
クロムミョウバン
100
テトラメチルエチレンジアミン
100
25
硫酸クロム
100
なし
100
26
硫酸クロム
100
HCl
100
27
硫酸クロム
100
エチレンジアミン
100
28
硫酸クロム
100
テトラメチルエチレンジアミン
100
29
Cr(III)AAICP1
100
なし
100
1Cr(III)AAICPは、塩化クロム(III)の原子吸収標準である。
30
Cr(III)AAICP
100
HCl
100
31
Cr(III)AAICP
100
エチレンジアミン
100
32
Cr(III)AAICP
100
テトラメチルエチレンジアミン
100
33
酸性化塩化クロム(III)2
4
なし
4
2(a)Goding, J.W. J. Immun. Methods, 10 (1976), 61;(b)Kofler, R.; Wick, G. J. Immun. Methods, 16 (1977), 201;(c)Gold, E. R.; Fudenberg, H.H. J. Immun., 99 (1967), 859に詳述されている方法によって製造。
34
酸性化塩化クロム(III)2
4
HCl
4
35
酸性化塩化クロム(III)2
4
エチレンジアミン
4
36
酸性化塩化クロム(III)2
4
テトラメチルエチレンジアミン
4
37
酸性化塩化クロム(III)2
0.4
なし
0.4
38
酸性化塩化クロム(III)2
0.4
HCl
0.4
39
酸性化塩化クロム(III)2
0.4
エチレンジアミン
0.4
40
酸性化塩化クロム(III)2
0.4
テトラメチルエチレンジアミン
0.4
【0148】
このライブラリーは、95×105mm2のBioTrace(商標)PVDF膜50枚を使用して、プラズマ処理およびMAn/Styの同時グラフト重合によってアセンブルした。グラフトされたPVDF膜シートを(46×26mm2)サイズの200枚の顕微鏡スライド片にカットした。200個を、それぞれ5個からなる40セットに分割し、各セットを表2の異なるアミンで処理した。表3からのCr(III)調製物を各セットからの一つの膜上に6重冗長でロボット配列した(240スポット)。配列された各スポットは直径約300μmであった。
【0149】
一つの抗体による全ライブラリーの処理は、すべてのコーティングに関するタンパク質結合の比較分析を可能にする。具体例では、配列されたポリマーコートされた膜のライブラリーをメタノールで予備湿潤し、次いで精製水(Sartorius)と交換したのち、ビオチン化マウス抗ラットIL-2(Biosource Kit #)で1時間処理した。HRP標識ストレプトアビジン(Biosource Kit、ロット0901)を含有する溶液を前記希釈度(100×)まで希釈し、カバースリップを使用して300uLを膜上で1時間インキュベートした。次いで、膜をPBS中で1時間洗浄した。次いで、膜を過酸化水素(SuperSignal(登録商標)West Pico Stable Peroxide Solution, Pierce)とルミノール(SuperSignal(登録商標)West Pico Luminol Enhancer Solution, Pierce)との混合物に暴露したのち、化学発光イメージングした。シグナルの出現が、図4に示すような抗体結合を示す。ライブラリーは空間的にエンコードされているため、構造のデコンボリューションを簡単に実施することができる。表4は、先に記載したアッセイ法から抗体結合を生じさせるポリマーコーティングの成分を示す。各「ヒット」は6重冗長の積である(信頼度>99.999%)。注意すべきことは、緩衝液および保存剤塩を含む市販の抗体が抗体結合を生じさせるという事実である。
【0150】
(表4)抗体結合面
番号
アミン
クロム錯体
添加剤
1
ピペリジン
硫酸クロム(III)
エチレンジアミン
2
ピペリジン
過塩素酸クロム(III)
エチレンジアミン
3
ピペリジン
過塩素酸クロム(III)
HCl
4
3,5 ジメチルピペリジン
硫酸クロム(III)
エチレンジアミン
5
2-(2-メチルアミノエチル)ピリジン
臭化クロム(III)
エチレンジアミン
6
ピペラジン
臭化クロム(III)
エチレンジアミン
7
2-(メチルアミノ)エタノール
過塩素酸クロム(III)
テトラメチルエチレンジアミン
8
2-(メチルアミノ)エタノール
臭化クロム(III)
テトラメチルエチレンジアミン
9
2-(メチルアミノ)エタノール
硫酸クロム(III)
テトラメチルエチレンジアミン
10
n-メチルブチルアミン
臭化クロム(III)
テトラメチルエチレンジアミン
11
n-メチルブチルアミン
硫酸クロム(III)
なし
【0151】
1600種のポリマーコーティングを調製したが、この方法を使用すると、はるかに大きな数を簡単にアセンブルし、スクリーニングすることができる。2°アミン、金属塩、pH、溶媒、添加剤、基質材料、主鎖ポリマー構造(厚さなど)および主鎖ポリマー組成(モノマー)の拡張および/または変更は、すべて、金属中心の周囲の立体構造的および電子的効果を改善するために加えることができる妥当な変更である。
【0152】
具体的は変更の例は以下を含むが、これらに限定されない:2°アミン成分をアルコール、1°アミンまたはチオールに交換することができる。アミンは、アリール、アルキル、ビニルであることができ、ヒドロキシル、チオール、アミノなどをはじめとする多様な官能基を含むことができる。第二級アミンは、合成ポリマー鎖、ペプチドまたは他の生体分子、小分子またはタイプI-IVライブラリーサブタイプもしくは変種のいずれかを含むこともできる。逆に、閉環(マレイミド)変種を調製することもできる。
【0153】
本明細書に記載するポリマーは、ガラス、自己集合単層、フルオロポリマー(PFA、PTFEなど)、ポリスチレン、ポリプロピレンおよびポリエチレンをはじめとするポリマーおよびコポリマーを含むが、それらに限定されない多様な基質材料にコートすることができる。加えて、ビーズ、膜、スライドおよびマイクロタイタプレートを含むが、それらに限定されない多様な形式がポリマーコーティングを受け入れることができる。ポリマーコーティングは、共有結合的または非共有結合的に基質に結合させることができ、クロムポリマーは、基質結合の前に生成し、表面ポリマーアセンブリの一部として順次にアセンブリすることができる。
【0154】
実施例3:PVDFスライド上のCr(III)以外の金属錯体のライブラリーの生成
また、実施例2に記載した手法と同様な手法にしたがって、種々の金属含有面のライブラリーを生成した。前記のようにPVDFスライドの表面に無水マレイン酸およびスチレンを同時グラフト重合ののち、グラフトポリマーを2-メチルアミノエタノール(一例として)で化学的に改変し、次いで一定範囲の金属構成単位で改変する。PVDFスライドは、ビオチン化抗体で直接処理したのち、前記のようにHRP接合ストレプトアビジンで処理することができる。
【0155】
PVDF膜をアルゴンプラズマ処理したのち、酸素アフターグローによって処理して表面結合過酸化物を形成することにより、無水マレイン酸/スチレンコポリマーコートされたPVDFスライドを調製する。過酸化物の熱分解が表面ラジカルを生成する。実施例2に記載したように、無水マレイン酸およびスチレンの存在下で、重合が起こって、膜表面に直接グラフトされた無水マレイン酸/スチレン交互コポリマーを生じさせる。EtOAc中の2-メチルアミノエタノール(実施例2で特定した2°アミンの1種)によるPFAスライドにグラフトされたMAn/Styの処理が、開環した混合フェニル-アミド-カルボン酸系を与える。等モル量の種々のリガンドの範囲を含む種々の金属の水溶液でスライドをマイクロアレイスポッティングすると、金属結合面コーティングのライブラリーを得る。入力項目は、14種の異なる金属溶液(表5)および9種の異なるリガンド(表6)を含むものであった。以前のライブラリーから既知のヒットである、エチレンジアミンとの過塩素酸クロム(III)六水和物を正対照として使用した。
【0156】
(表5)金属調製物
過塩素酸クロム(III)六水和物
過塩素酸コバルト(III)六水和物
臭化チタン(IV)
ヨウ化チタン(IV)
過塩素酸ニッケル(II)六水和物
臭化ニッケル(II)水和物
過塩素酸銅(II)六水和物
過塩素酸マンガン(II)水和物
臭化ルテニウム(III)
塩化ルテニウム(III)
ヨウ化白金(II)
臭化モリブデン(III)
臭化鉄(III)
塩化鉄(III)
過塩素酸亜鉛(II)六水和物
【0157】
(表6)リガンド

イミノ二酢酸
ニトリロ三酢酸
シュウ酸
エチレンジアミン
N,N,N',N;-テトラメチル-エチレンジアミン
1,10-フェナントロリン
トリフェニルホスフィン
8-ヒドロキシキノリン
【0158】
一つの抗体による全ライブラリーの処理は、すべてのコーティングに関するタンパク質結合の比較分析を可能にする。配列されたポリマーコートされたスライドのライブラリーを、0.1M生理食塩水中20ug/mL HRP標識検出抗体とともに1時間インキュベートした。次いで、スライドをPBS緩衝液で15分間洗浄した。次いで、スライドを過酸化水素(SuperSignal(登録商標)West Pico Stable Peroxide Solution, Pierce)とルミノール(SuperSignal(登録商標)West Pico Luminol Enhancer Solution, Pierce)との混合物に暴露したのち、化学発光イメージングした。シグナルの出現が、図5に示すような抗体結合を示す。ライブラリーは空間的にエンコードされているため、構造のデコンボリューションを簡単に実施することができる。表7は、先に記載したアッセイ法から抗体結合を生じさせるポリマーコーティングの成分を示す。各「ヒット」は6重冗長の積である(信頼度>99.999%)。
【0159】
(表7)抗体結合面
番号
アミン
金属錯体
リガンド
1
2メチルアミノエタノール
過塩素酸クロム(III)六水和物
イミノ二酢酸
2
2メチルアミノエタノール
過塩素酸クロム(III)六水和物
シュウ酸
3
2メチルアミノエタノール
過塩素酸亜鉛(II)六水和物
イミノ二酢酸
4
2メチルアミノエタノール
過塩素酸亜鉛(II)六水和物
シュウ酸
5
2メチルアミノエタノール
過塩素酸亜鉛(II)六水和物
エチレンジアミン
6
2メチルアミノエタノール
過塩素酸亜鉛(II)六水和物
テトラメチル-エチレンジアミン
7
2メチルアミノエタノール
過塩素酸コバルト(III)六水和物
シュウ酸
8
2メチルアミノエタノール
過塩素酸コバルト(III)六水和物
テトラメチル-エチレンジアミン
9
2メチルアミノエタノール
塩化鉄(III)
シュウ酸
10
2メチルアミノエタノール
塩化鉄(III)
エチレンジアミン
11
2メチルアミノエタノール
臭化ルテニウム(III)
イミノ二酢酸
12
2メチルアミノエタノール
ヨウ化チタン(IV)

13
2メチルアミノエタノール
ヨウ化チタン(IV)
1,10-フェナントロリン
14
2メチルアミノエタノール
ヨウ化チタン(IV)
8-ヒドロキシキノリン
15
2メチルアミノエタノール
過塩素酸ニッケル(II)六水和物
シュウ酸
16
2メチルアミノエタノール
過塩素酸ニッケル(II)六水和物
テトラメチル-エチレンジアミン
17
2メチルアミノエタノール
過塩素酸銅(II)六水和物

18
2メチルアミノエタノール
過塩素酸銅(II)六水和物
シュウ酸
19
2メチルアミノエタノール
過塩素酸銅(II)六水和物
テトラメチル-エチレンジアミン
20
2メチルアミノエタノール
塩化ルテニウム(III)

21
2メチルアミノエタノール
塩化ルテニウム(III)
サリチル酸
【0160】
2°アミン、金属塩、pH、溶媒、添加剤、基質材料、主鎖ポリマー構造(厚さなど)および主鎖ポリマー組成(モノマー)の拡張および/または変更は、すべて、金属中心の周囲の立体構造的および電子的効果をさらに改善するために加えることができる妥当な変更である。
【0161】
実施例4:過塩素酸クロムコートされたビーズ:同定されたリードのPVDFスライドからビーズ形式への移動
PVDFスライド上で同定されたリードが、ポリスチレンマイクロビーズのような代替基質にコートされた場合にもリードであることを実証するため、過塩素酸クロム錯体を使用してTSH抗体をLuminexマイクロビーズに固定化した。
【0162】
a. LuminexビーズのPEIによるコーティング
ビーズ(1.25×107個/mL)を室温に到達させ、20秒間ボルテックスしたのち、さらに20秒間音波処理する。ビーズ凝集塊が認められるならば、ボルテックスおよび音波処理を繰り返す。ビーズ濃縮物500〜1000uLを別々の1.7mLマイクロチューブ(Axygen MCT-175-L-C)に等分する。ビーズを14,000rpmで3分間遠心処理したのち、チューブを取り出し、軽く叩いてチューブ側面からビーズを剥離させ、次いで、再び5分間遠心処理した。各管中のビーズペレットから上澄み液を注意深く取り除き、捨てる。
【0163】
脱イオン水500uLとともにビーズを20秒間ボルテックスによって洗浄したのち、さらに20秒間音波処理した。ビーズを14,000rpmで3分間遠心処理したのち、チューブを取り出し、軽く叩いてチューブ側面からビーズを剥離させる。次いで、チューブを再び5分間遠心処理し、その後、洗液を注意深く取り除き、捨てる。
【0164】
ビーズプラグを、製造したばかりの1重量%PEI溶液(脱イオン水200ml中ポリエチレンイミン2g、MW-1800)の500uLアリコート中に激しくボルテックスしながら再懸濁し、ビーズが目視的に十分に分散するまで音波処理した。コーティングを30分間進行させた。こののち、試料を14,000rpmで遠心処理して上記洗浄工程を繰り返した。脱イオン水の500uLアリコートを用いて遠心処理および水交換手順を4回繰り返した。最後の洗浄ののち、脱イオン水を加えて試料を500uLにした。
【0165】
b. 第二級アミン反応無水マレイン酸コポリマーのPEIコートされたビーズへのコーティング
二つの異なる手法を試みた:
(i)溶液中で第二級アミン/無水マレイン酸コポリマーを合成したのちコーティング、および
(ii)加水分解無水マレイン酸コポリマーをビーズにコートしたのち第二級アミンをカップリング。
(iii)同様に、コートされていないビーズ上のカルボキシル基に第二級アミンを直接カップリングした。
【0166】
(i)いっしょに反応させる無水物ポリマー(多数のポリ(X/無水マレイン酸コポリマーを試験した)および第二級アミンを選択する。特定のポリマーに適切な溶媒を見つけた。注:DMFおよびTHFは、大部分の酸無水物ポリマーを溶解させると思われる。丸底フラスコの中で適切な溶媒50〜100ml中0.2重量%ポリマー溶液を調製する。通常は0.25Mの濃度が適当である、過剰量の第二級アミンを加える。反応を室温で終夜進行させたのち、溶媒を回転留去する。脱イオン水を加えてポリマーの最終濃度を0.2重量%にした。ポリマーは、第二級アミンのいずれかとの反応ののち、水溶性になるはずである(実施例2を参照されたい)。アミン反応ポリマーを使用する前に、溶液をビーズストックに加える前に1mlアリコートを遠心処理する。
【0167】
(ii)インキュベータ中70℃で3日間、スコットボトルの中で必要な無水マレイン酸コポリマー溶液(多数のポリ(X/無水マレイン酸コポリマーを試験した)を脱イオン水中1重量%の濃度にする。または、ポリマー溶液を、溶液に加えた0.1M HCl一滴とともに、沸騰するまで30分間加熱する。ポリマー溶液を遠心処理したのち、5分間ビーズストックにカップリングさせ、脱イオン水中で0.2重量%の加水分解ポリマーにする。PEIコートされたビーズストックを順次に50uLアリコートに加える。加えるごとに試料をボルテックスし、音波処理する。30分後、前記のように試料を遠心処理し、ビーズプラグを脱イオン水500〜1000mLで3回洗浄する。
【0168】
必要な第二級アミンをカップリングするため、水1ml中60mMの溶液を調製し、5分間遠心処理した。マレイン酸コポリマーコートされたビーズ500uLのビーズプラグを含有し、上澄み液を含有しないチューブに、S-NHS (50mg/mL)の250uLアリコートおよびEDC (50mg/mL)の250uLアリコートを加えた。それぞれを順に加えたのち溶液をボルテックスした。これにより、各チューブ中に、25mg/mLの最終濃度を得た。適切な第二級アミン溶液(H2O中60mM)の50uLアリコートを加え、溶液を混合し、2時間かけて30分ごとにボルテックスした。アミンカップリングした試料を14,000rpmで遠心処理し、脱イオン水500uLを用いて洗浄工程を3回繰り返した。ビーズプラグを脱イオン水500uL中に再懸濁させた。
【0169】
(iii)必要な第二級アミンをカップリングするため、水1ml中60mMの溶液を調製し、5分間遠心処理した。改変されていないビーズ500uLのビーズプラグを含有し、上澄み液を含有しないチューブに、S-NHS (50mg/ml)の250uLアリコートおよびEDC (50mg/ml)の250uLアリコートを加えた。それぞれを順に加えたのち溶液を十分ボルテックスした。これにより、各チューブ中に、25mg/mlの最終濃度を得た。適切な第二級アミン溶液(H2O中60mM)の50uLアリコートを加え、溶液を混合し、2時間かけて30分ごとにボルテックスした。アミンカップリングした試料を14,000rpmで遠心処理し、脱イオン水500uLを用いて洗浄工程を3回繰り返した。ビーズプラグを脱イオン水500uL中に再懸濁させた。
【0170】
c. コートされたビーズへの過塩素酸クロムの添加
効果的なクロムリガンドを調製するため、過塩素酸クロムの脱イオン水中0.2Mの原液を調製し、平行して、効果的なアミンリガンド(エチレンジアミンまたはテトラメチルエチレンジアミン)の脱イオン水中0.2Mの溶液を調製する。二つの溶液の当量を混合し、終夜激しく撹拌した。まずアミンリガンドを添加すると沈殿物が形成し、終夜反応させたのち、沈殿物は再び溶解し、二座リガンドでライゲーションされたクロム化合物を含有する溶液が形成される。
【0171】
コートされたビーズ250uLの懸濁液に対し、40mMの使用過塩素酸クロム/エチレンジアミン溶液の当量をゆっくり加えて20mMの最終濃度を得た。添加、音波処理およびボルテックスののち、懸濁液をときおり混合しながら60分間放置する。こののち、先に記載した洗浄プロトコルにしたがってビーズを脱イオン水中で3回洗浄する。
【0172】
d. クロムライゲーションされたビーズ表面へのTSH捕捉抗体のカップリング
150mM生理食塩水中TSH捕捉抗体の50ug/mLの濃度を使用した。上澄み液なしの、プラグにまで遠心処理されたクロムコートされたビーズ500uLに抗体溶液250uLを加えた。溶液をボルテックスし、音波処理し、ときおりボルテックスしながら1時間放置した。溶液を100mM PBS緩衝液で一度洗浄した。アッセイ法を実施するまで、抗体カップリングしたビーズを、1% BSAおよび0.05%アジ化物を含有するPBS緩衝液中4℃で貯蔵した。完全なコーティング法を示す図が図6に示されている。
【0173】
e. TSHアッセイ法
種々のコーティングの性能を研究するため、実施例1に記載した多重化TSHビーズアッセイ法を実施した。
【0174】
f. 結果の例
金属、第二級アミンおよび支持リガンド(添加剤)に依存して、異なるアッセイ結果が得られる。図7は、第二級アミンとしてピペリジンを用いて過塩素酸クロムおよびエチレンジアミンと反応したビーズに実施されたTSHアッセイ法の結果を示す。
【0175】
実施例1で実証した塩化クロムライゲーションとは対照的に、この手法は、時間を経ても安定であり(凝集しない)リン酸緩衝液中で効果的である表面を生じさせた。また、表面コーティングの強靱さを試験するため、捕捉抗体を、10および100mM PBS中でカップリングした。以下の表8に示すように、アッセイ法は、100mM PBSの存在でさえ、より低い程度ではあるが作用する。
【0176】
(表8)捕捉抗体溶液の効果

【0177】
(表9)10mM酢酸緩衝生理食塩水中のpHの効果

【0178】
図8に示すように、添加剤もまた、アッセイシグナルならびに37および4℃における貯蔵安定性を改善するのに決定的な役割を演じた。同様に、表9に示すように、pH条件もまた、アッセイシグナル結果に劇的な影響を及ぼすことができる。過塩素酸クロム/添加剤コートされたビーズ(Mix&Go)のこの特定の研究からの結論は次のとおりであった;
・ライゲーション系中の金属以外の他の変数にしたがって、全アッセイシグナル、貯蔵寿命および緩衝液汚染物質のような小さな実験ばらつきに対するより大きな公差を調整することができた。
・第二級アミンは、ピペラジン、ピペリジンおよび2-メチルアミノエタノールでの結果に強く影響して、この特定の系において良好な結果を提供する。
・この系でもっとも効果的なクロム溶液は、エチレンジアミンとの、臭化クロムおよび過塩素酸クロムであった。
・ビーズポリマーコーティングが結果に強く影響する。アセンブリ法、たとえば第二級アミンを、ビーズコーティングの前に無水マレイン酸コポリマーにカップリングするのか、加水分解された無水マレイン酸コポリマーでコートされたビーズにカップリングするのかで、異なる結果が出た。同様に、スチレン/無水マレイン酸コポリマーは、試用した他のX/無水マレイン酸コポリマーよりも良好な結果を出した。PEIコートされた表面も作用したが、最適ではなかった。これは、表面の他の成分が抗体の全体的結合に影響することを示す。実施例8および9を参照されたい。
【0179】
実施例5:塩化ルテニウムコートされたビーズ:もう一つの同定されたリードのPVDFスライドからビーズ形式への移動
この実施例は、PVDFスライド上で同定されたもう一つのリードを例示するため、塩化ルテニウムがTSH抗体をPEIコートされたLuminexマイクロビーズ上に固定化する有効性を実証する。
【0180】
a. LuminexビーズのPEIによるコーティング
ビーズは、実施例4aに記載の手順によってコートした。
【0181】
b. PEIコートされたビーズへの塩化ルテニウムの添加
効果的な溶液を調製するため、塩化ルテニウム(RuCl3) 519mgを脱イオン水25mLに溶解して0.1M溶液を得た。溶液をボルテックスしたのち、プラットフォームミキサに載せて30分間徹底的に混合した。
【0182】
遠心処理され、上澄みを除去された、PEIコートされたビーズ原料の250〜500uLアリコートに対し、調製した塩化ルテニウム溶液の当量アリコートをゆっくりと加えた。ルテニウム溶液の添加ののち、ときおりボルテックスし、音波処理しながら2時間放置する。こののち、先の例で記載したようにしてビーズを脱イオン水中で3回洗浄する。
【0183】
c. ルテニウムライゲーションされたビーズ表面へのTSH捕捉抗体のカップリング
150mM生理食塩水中20.0ug/mLのTSH捕捉抗体溶液を使用した。ルテニウムライゲーションされたビーズプラグ250〜500uLに当量の抗体溶液を加えた。ボルテックスし、音波処理し、ときおりボルテックスしながら2時間放置する。100mM PBS緩衝液で一度洗浄する。アッセイ法を実施するまで、抗体カップリングしたビーズプラグを貯蔵緩衝液中4℃で貯蔵する。
【0184】
d. TSHアッセイ法
このルテニウムコートした表面の性能を研究するため、実施例1に記載した多重化TSHビーズアッセイ法を実施した。
【0185】
e. 結果の例
表10は、塩化ルテニウムコートされたビーズに対して実施されたTSHアッセイ法の結果を、アミドカップリングした対照と比較して示す。ルテニウムライゲーションのデータは、過塩素酸クロム/エチレンジアミンコートされた表面で得られたデータに匹敵しうるものであった。表11は、4および37℃のそれぞれで放置された塩化ルテニウムコートされたビーズ溶液に対するTSHアッセイ性能の結果を示す。これらの温度で1週間貯蔵したのち、TSH抗体をビーズに固定化し、アッセイ法を実施する。4℃で1週間貯蔵したのち、塩化ルテニウムコートされたビーズのライゲーション効率は、製造後すぐに使用されたものと比較して差はなかった。しかし、37℃で貯蔵したビーズは、アッセイ性能における小さな低下を示した。従来技術で使用されるライゲーション法はそのような安定性を有しない。
【0186】
PEIコーティングなしで塩化ルテニウムコートされたビーズに対しても同様なアッセイ結果が得られた。
【0187】
(表10)RuCl3ライゲーションとアミド対照との比較

【0188】
(表11)4および37℃で1週間貯蔵した後のRuCl3コートされたビーズは、製造後すぐに使用されたビーズと同様な性能を示す。

【0189】
実施例6:過塩素酸クロムコートされたビーズ:TNFアッセイ法
この実施例は、過塩素酸クロム錯体の性能を例示するため、PEIコートされたLuminexマイクロビーズにTNF抗体を固定化するその有効性を実証する。
【0190】
a. LuminexビーズのPEIによるコーティング
ビーズは、実施例4aに記載の手順によってコートした。
【0191】
b. コートされたビーズへの過塩素酸クロムの添加
効果的なクロムリガンドを調製するため、過塩素酸クロムの脱イオン水中0.2Mの原液を調製し、平行して、効果的なアミンリガンド(エチレンジアミンまたはテトラメチルエチレンジアミン)の脱イオン水中0.2Mの溶液を調製する。二つの溶液の当量を混合し、終夜激しく撹拌した。まずアミンリガンドを添加すると沈殿物が形成するが、終夜反応させたのち、沈殿物は再び溶解し、二座リガンドでライゲーションされたクロム化合物を含有する溶液が形成する。
【0192】
コートされたビーズ250uLの懸濁液に対し、40mMの使用過塩素酸クロム/エチレンジアミン溶液の当量をゆっくりと加えて20mMの最終濃度を得た。添加、音波処理およびボルテックスののち、懸濁液をときおり混合しながら60分間放置する。こののち、先に記載した洗浄プロトコルにしたがってビーズを脱イオン水中で3回洗浄する。
【0193】
c. ルテニウムライゲーションされたビーズ表面へのTNF捕捉抗体のカップリング
150mM生理食塩水中20.0ug/mLのTNF捕捉抗体(Becton Dickinson、Cat No. 551225)溶液を使用した。ルテニウムライゲーションされたビーズプラグ250〜500uLに当量の抗体溶液を加えた。ボルテックスし、音波処理し、ときおりボルテックスしながら2時間放置する。100mM PBS緩衝液で一度洗浄した。アッセイ法を実施するまで、抗体カップリングしたビーズプラグを貯蔵緩衝液中4℃で貯蔵する。
【0194】
d. TNFアッセイ法
このルテニウムコートした表面の性能を研究するため、実施例1に記載したTSHアッセイ法と同様な方法で多重化TNFビーズアッセイ法を実施した。マウスTNF-α組換え抗原標準(Pierce RM TNFA10)を使用し、抗体の検出のために、ラット抗マウスTNF-αBIOT(Southern Biotech 10230-08)を使用した。
【0195】
e. 結果の例
図9は、過塩素酸クロムコートされたビーズに対して実施されたTNFアッセイ法のアッセイ感度における、アミドカップリングした対照と比較したときの劇的な増大(約70倍)を示す。中間のPEIコーティングなしで過塩素酸クロムコートされたビーズに対しても同様なアッセイ結果が得られた。
【0196】
実施例7:過塩素酸クロム:溶液ライゲーション
実施例3、4、5および6で実施したような実験から同定された過塩素酸クロムリードを、実施例1に示すような溶液ライゲーションにおけるその効率に関して試験した。ここでは、0.2M過塩素酸クロム-エチレンジアミン溶液の効率をコートされていないLuminexビーズ上で試験する。
【0197】
a. 過塩素酸クロムライゲーション剤の調製
過塩素酸クロム六水和物(4.58g)を精製水25mLに溶解し、固形分がすべて溶解するまで徹底的に振とうする。別のバイアルで、エチレンジアミン608uLを精製水25mLに溶解し、バイアルを振とうして混合させる。エチレンジアミン溶液をクロム溶液に加える。添加すると、沈殿物が形成する。得られた溶液をプラットフォームミキサに載せて48時間振とうする。沈殿物は見られなくなる。残留沈殿物があるならば、溶液を遠心処理し、上澄み液を保持することによって除去する。
【0198】
使用の直前に、上記原液25uLを精製水100uLで希釈し、ボルテックスする。この溶液50uLを精製水950uLで希釈し、ボルテックスし混合する。
【0199】
b. 接合
抗体を脱塩するため、Amersham PD-10カラムに少なくとも25mLの0.15M生理食塩水を通すことによってこのカラムを予備平衡させる。この予備平衡したPD-10カラムに、≧1mg/mLである抗体溶液250uLを加える。2×200uLの0.15M生理食塩水で洗浄する。0.15M生理食塩水でカラムを作動させ、10×0.5mL画分を収集する。アリコートをUV分光法によって試験することにより、タンパク質を含有する画分を決定する。濃度(mg/mL)=280nm/1.4におけるAbs。最高量のタンパク質を含有する画分(一般にアリコート3〜6)を貯留し、0.15M生理食塩水を使用して100ug/mLまで希釈する。
【0200】
ビーズを下処理するために、ビーズを室温に到達させ、20秒間ボルテックスしたのち、さらに20秒間音波処理する。注!ビーズは、一つの単分散粒子として懸濁させなければならない。何らかのビーズ凝集塊が認められるならば、凝集塊が認められなくなるまでボルテックスおよび音波処理を繰り返す。ビーズ濃縮物100uLを1.7mLマイクロチューブ中に分散させる。ビーズ溶液を14,000rpmで3分間遠心処理したのち、チューブを取り出し、軽く叩いてチューブ側面からビーズを剥離させ、次いで、さらに5分間遠心処理する。ビーズペレットから上澄み液を注意深く取り除き、捨てる。
【0201】
100ug/mL抗体溶液200uLに対し、使用過塩素酸クロム溶液4uLを加える。すぐに5秒間ボルテックスし、10分ごとにボルテックスしながら60分間放置する。上記抗体/クロム溶液100uLをビーズペレットに加える。ビーズを20秒間ボルテックスしたのち、さらに20秒間音波処理して均一な懸濁液を形成した。ときおりボルテックスし混合しながら30分間放置する。PBS 100uLを加える。懸濁液を14,000rpmを3分間遠心処理したのち、チューブを取り出し、軽く叩いてチューブ側面からビーズを剥離させ、次いで、さらに5分間遠心処理する。ビーズペレットから上澄み液を注意深く取り除き、捨てる。洗浄工程を2回繰り返す。最後に、貯蔵緩衝液(10mM PBS 100mL中BSA 0.1gおよびProClin 300 20uL) 100uLを加え、少なくとも30分間放置したのち、アッセイ法を実施する。
【0202】
c. アッセイ法および結果の例
実施例1に記載のようにしてTSHアッセイ法を実施した。過塩素酸クロムライゲーション法の結果を、実施例1に記載したような標準アミドカップリング法と比較する。図10に示すように、この手法は、TSHアッセイシグナルにおける80%の改善をもたらした。他の実験では、種々のコートされたビーズが、記載されたものに匹敵する、またはそれよりも良好な結果を出した。
【0203】
実施例8:過塩素酸クロム:TNFアッセイ法の場合の溶液ライゲーション
ここでは、別のアッセイ法(TNF)の場合で0.2M過塩素酸クロム-エチレンジアミン溶液の効率をコートされていないLuminexビーズ上で試験する。
【0204】
a. 過塩素酸クロムライゲーション剤の調製
過塩素酸クロム六水和物(4.58g)を精製水25mLに溶解し、固形分がすべて溶解するまで徹底的に振とうする。別のバイアルで、エチレンジアミン608uLを精製水25mLに溶解し、バイアルを振とうして混合させる。エチレンジアミン溶液をクロム溶液に加える。添加すると、沈殿物が形成する。得られた溶液をプラットフォームミキサに載せて48時間振とうする。沈殿物は見られなくなる。残留沈殿物があるならば、溶液を遠心処理し、上澄み液を保持することによって除去する。
【0205】
使用の直前に、上記原液25uLを精製水100uLで希釈し、ボルテックスする。この溶液50uLを精製水950uLで希釈し、ボルテックスし混合する。
【0206】
b. 接合
抗体(Becton Dickinson、Cat No. 551225)を脱塩するため、Amersham PD-10カラムに少なくとも25mLの0.15M生理食塩水を通すことによってこのカラムを予備平衡させる。この予備平衡したPD-10カラムに、≧1mg/mLである抗体溶液250uLを加える。2×200uLの0.15M生理食塩水で洗浄する。0.15M生理食塩水でカラムを作動させ、10×0.5mL画分を収集する。アリコートをUV分光法によって試験することにより、タンパク質を含有する画分を決定する。濃度(mg/mL)=280nm/1.4におけるAbs。最高量のタンパク質を含有する画分(一般にアリコート3〜6)を貯留し、0.15M生理食塩水を使用して100ug/mLまで希釈した。
【0207】
ビーズを下処理するために、ビーズを室温に到達させ、20秒間ボルテックスしたのち、さらに20秒間音波処理する。注!ビーズは、一つの単分散粒子として懸濁させなければならない。何らかのビーズ凝集塊が認められるならば、凝集塊が認められなくなるまでボルテックスおよび音波処理を繰り返す。ビーズ濃縮物100uLを1.7mLマイクロチューブ中に分散させる。ビーズ溶液を14,000rpmで3分間遠心処理したのち、チューブを取り出し、軽く叩いてチューブ側面からビーズを剥離させ、次いで、さらに5分間遠心処理する。ビーズペレットから上澄み液を注意深く取り除き、捨てる。
【0208】
100ug/mL抗体溶液200uLに対し、使用過塩素酸クロム溶液4uLを加える。すぐに5秒間ボルテックスし、10分ごとにボルテックスしながら60分間放置する。上記抗体/クロム溶液100uLをビーズペレットに加える。ビーズを20秒間ボルテックスしたのち、さらに20秒間音波処理して均一な懸濁液を形成する。ときおりボルテックスし混合しながら30分間放置する。PBS 100uLを加える。懸濁液を14,000rpmで3分間遠心処理したのち、チューブを取り出し、軽く叩いてチューブ側面からビーズを剥離させ、次いで、さらに5分間遠心処理する。ビーズペレットから上澄み液を注意深く取り除き、捨てる。洗浄工程を2回繰り返す。最後に、貯蔵緩衝液(10mM PBS100mL中BSA 0.1gおよびProClin 300 20uL)100uLを加え、少なくとも30分間放置したのち、アッセイ法を実施する。
【0209】
c. アッセイ法および結果の例
実施例6に記載のようにしてTNFアッセイ法を実施した。過塩素酸クロムライゲーション法の結果を、実施例1に記載したような標準アミドカップリング法と比較する。図9に示すように、この手法は、アミド対照と比較して、TNFアッセイシグナルにおける70倍の改善をもたらした。溶液ライゲーション結果は、実施例6に記載した固定化金属法に匹敵しうるものであった。
【0210】
実施例9:過塩素酸クロム:塩化クロム溶液との比較
ここでは、実施例7に記載した過塩素酸クロム/エチレンジアミン溶液ライゲーションを塩化クロムライゲーションと比較した。すべての実験条件は実施例7に記載したとおりであった。
【0211】
a. 結果の例
実施例7で得られたアッセイシグナルでは、過塩素酸クロム溶液ライゲーション試薬は、塩化クロムライゲーション試薬よりも良好またはそれと同様なアッセイシグナルを与えた(表12)。しかし、より有意な違いが数多くある。
・過酸化クロム溶液は、熟成させる必要がなく、すぐに使用することができ、日々のアッセイデータにおけるばらつきがない(表13を参照されたい)。
・過塩素酸クロム溶液ライゲーション法は汚染性緩衝液の存在に対してより敏感であるが(金属固定化表面コーティングに比較して)、従来技術(塩化クロム)に比較すると、そのような汚染物質に対してより大きな許容度を有する。表14は、抗体(貯蔵緩衝液中1mg/mL)を脱塩せず、0.15M生理食塩水で使用抗体濃度まで希釈した場合のアッセイシグナルに対する影響を示す。
・金属/抗体濃度比および他の変数に対する溶液ライゲーション法の性能の依存性はほとんどなく、この場合、抗体のタイプによって影響されにくいロバストなカップリング技術を提供した(表15)。これは従来技術(塩化クロムライゲーション)には当てはまらなかった。
・4℃で1週間貯蔵したビーズの場合、アッセイ性能における減衰はなかった。促進老化実験(37℃で7日間)では、ライゲーションは、アミド対照と同様な安定性を示した(表16)。別の場合では、これらの手法によって固定化され抗体で、溶液中の抗体の場合に予想されるものを大きく超える温度安定性の増大が見られた(図11を参照されたい)。これは従来技術には当てはまらなかった。
【0212】
(表12)過塩素酸クロム/エチレンジアミンライゲーションと塩化クロム(熟成)ライゲーションとの比較;TSHアッセイシグナル

【0213】
(表13)過塩素酸クロム/エチレンジアミンライゲーションと塩化クロム(新鮮)ライゲーションとの比較;TSHアッセイシグナル

【0214】
(表14)過塩素酸クロム/エチレンジアミンライゲーションと塩化クロムライゲーションとの比較;緩衝液汚染物質の影響

【0215】
(表15)TSHアッセイシグナルに対する金属/抗体濃度比の影響は、CrCl3対Cr(OCl4)3-EDAで非常に異なる結果を出す。

【0216】
(表16)一つの選択されたカップリングのライゲーション試薬の、1週間の貯蔵における安定性(4℃対37℃)

【0217】
実施例10:金属錯体+支援的結合相互作用(非特異的)
一般的な二つのタイプの基質表面を金属錯体と使用することができる。第一のタイプは、金属の結合寄与だけが重要である「防汚」面として知られる表面である。第二のタイプは、金属錯体との全体的な結合に寄与することができる何らかの非特異的結合相互作用を有する表面である。非特異的と記されてはいるが、国際公開公報第WO03/095494号で論じられている種類の手法にしたがって作成されたコーティングのライブラリーから種々の結合特性を有するコーティングを選択することができることが公知である。本発明のこの局面にしたがって、金属錯体を非特異的コーティング成分(支援的結合相互作用)と組み合わせて標的分子の結合を改善することができる。モデル系として、3-ヨード-4-メチル安息香酸を塩化クロム溶液ライゲーション法と組み合わせて使用して、PEIコートされたビーズに結合させた。使用条件下、いずれのリガンドも十分な結合強度で抗体と結合することはできない。
【0218】
a. ビーズの誘導体化
実施例4aに記載のようにしてポリエチレンイミンをLuminexビーズにコートした。これらのPEIコートされたビーズに3-ヨード-4-メチル安息香酸をカップリングした。簡潔にいうと、遠心処理してペレットにしておいたPEIコートされたビーズ500uLに対し、S-NHS (50mg/mL)およびEDC (50mg/mL)の250uLアリコートの溶液ならびにリガンド(1mg/ml) 50uLを順に加え、上澄みを除去した。この混合物を音波処理し、ボルテックスして懸濁液を形成し、ときおりボルテックスしながら2時間放置した。前記のように、コートされたビーズを水で2回洗浄した。
【0219】
b. 塩化クロムライゲーション剤の調製
実施例1aに記載の手法にしたがってライゲーション剤を調製した。
【0220】
c. 接合
実施例1bに記載の手法にしたがって抗体をコートされたビーズに接合した。
【0221】
d. アッセイ法および結果の例
実施例1に記載のようにしてTSHアッセイ法を実施した。支援的結合リガンドと組み合わせた過塩素酸クロムライゲーション法の結果を、実施例1に記載した標準アミドカップリング法と比較する(表17を参照されたい)。
【0222】
(表17)3-ヨード-4-メチル安息香酸カップリングしたPEIビーズとコートされていないLuminexビーズとの比較;塩化クロムライゲーション

【0223】
実施例11:金属錯体+支援的結合相互作用(特異的I)
モデル系として、Fcフラグメントで抗体と結合することが知られている二つの異なるファルマコフォアリガンドを過塩素酸クロム溶液ライゲーション法と組み合わせて使用して、PEIコートされたビーズに結合させた。一方のファルマコフォアは、抗体のタンパク質G結合領域に結合することが知られているペプチドAc-Cys-Ala-Ala-Thr-Ala-Glu-Lys-Val-Phe-Lys-Gln-Tyr-Ala-Asn-Asp-OHであった。Cys残基は、表面改変ビーズへのカップリングのためにペプチドに組み込まれた。他方のリガンドは、抗体のタンパク質A結合領域に結合することが知られている小分子2-(2-カルボキシエチルアミノ)-4-アニリノ-6-チラミノ-トリアジン(Apa-COOH)であった。(R. Li, V. Dowd, D.J. Stewart, S.J. Burton and C. R. Lowe, Nature Biotechnology, 16, 1998, 190-195 Design, synthesis and application of a Protein A mimetic)。使用条件下、いずれのリガンドも十分な結合強度で抗体と結合することはできない。
【0224】
実施例11A:Ac-Cys-Ala-Ala-Thr-Ala-Glu-Lys-Val-Phe-Lys-Gln-Tyr-Ala-Asn-Asp-OH(ペプチド)
a. ビーズの誘導体化
実施例4aに記載のようにしてポリエチレンイミンをLuminexビーズにコートした。これらのPEIコートされたビーズに対し、ペプチドとチオールエーテル結合を形成する公知の架橋剤としてのN-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スルホスクシンイミドエステル(S-GMBS)をカップリングした。簡潔にいうと、S-GMBS (10mM) 500uLの溶液をpH6.5の10mM PBS緩衝液中で製造し、遠心処理してペレットにしておいたPEIコートされたビーズ500uLに加えた。この混合物を音波処理し、ボルテックスして懸濁液を形成し、ときおり混合しながら60分間放置した。前記のように、S-GMBS-PEIコートされたビーズをPBS緩衝液で2回洗浄した。
【0225】
ペプチド-S-GMBS-PEIコートされたビーズは、pH6.5の10mM PBS緩衝液中5mMのペプチド溶液500uLを、S-GMBS-PEIコートされたビーズの遠心処理されたペレットに加えることによって製造した。この懸濁液をときおり混合しながら60分間放置し、水で2回洗浄した。
【0226】
実施例11B:2-(2-カルボキシエチルアミノ)-4-アニリノ-6-チラミノ-トリアジン(Apa-COOH)
実施例4aに記載のようにしてポリエチレンイミンをLuminexビーズにコートした。これらのPEIコートされたビーズにApa-COOHをカップリングした。簡潔にいうと、Apa-COOH、EDCおよびS-NHSの10mM溶液1mLを水中10% DMSO中で製造した。この懸濁液を音波処理し、10分間ボルテックスし、遠心処理して、不溶性物質がペレットを形成するようにした。上澄み(500uL)を、遠心処理してペレットにしておいたPEIコートされたビーズ500uLに加えた。この混合物を音波処理し、ボルテックスして懸濁液を形成し、ときおり混合しながら4時間放置した。前記のように、Apa-PEIコートされたビーズを10% DMSO/水で1回洗浄し、PBS緩衝液で2回洗浄した。
【0227】
b. 過塩素酸クロムライゲーション剤の調製
実施例7aに記載の手法にしたがってライゲーション剤を調製した。
【0228】
c. 接合
実施例7bに記載の手法にしたがって抗体をコートされたビーズに接合した。
【0229】
d. アッセイ法および結果の例
実施例1に記載のようにしてTSHアッセイ法を実施した。支援的結合リガンドと組み合わせた過塩素酸クロムライゲーション法の結果を、実施例1に記載した標準アミドカップリング法と比較した(図11を参照されたい)。
【0230】
実施例12:金属錯体+支援的結合相互作用(特異的II)
同様に、好ましい配向で標的分子と結合する能力を有する結合面を設計するための、国際特許第出願PCT/AU2004/001747号に記載されている手法によって同定された二つの「リガンド」も含めた。5-(4-ヒドロキシメチル-3-メトキシフェノキシ)バレリアン酸(PPh1)およびグリココール酸水和物(PPh2)を塩化クロム溶液ライゲーション法と組み合わせて使用して、PEIコートされたビーズに結合した。使用条件下、いずれのリガンドも十分な結合強度で抗体と結合することはできない。
【0231】
a. ビーズの誘導体化
実施例4aに記載のようにしてポリエチレンイミンをLuminexビーズにコートした。これらのPEIコートされたビーズに対し、PEIコートされたビーズの別個のバイアル中、5-(4-ヒドロキシメチル-3-メトキシフェノキシ)バレリアン酸(PPh1)およびグリココール酸水和物(PPh2)をカップリングした。簡潔にいうと、遠心処理してペレットにしておいたPEIコートされたビーズ500uLに対し、S-NHS (50mg/mL)およびEDC (50mg/mL)の250uLアリコートならびにリガンド(1mg/mL) 50uLの溶液を順に加え、上澄みを除去した。この混合物を音波処理し、ボルテックスして懸濁液を形成し、ときおり混合しながら2時間放置した。前記のように、PPh-PEIコートされたビーズを水で2回洗浄した。
【0232】
b. 過塩素酸クロムライゲーション剤の調製
実施例7aに記載の手法にしたがってライゲーション剤を調製した。
【0233】
c. 接合
実施例7bに記載の手法にしたがって抗体をコートされたビーズに接合した。
【0234】
d. アッセイ法および結果の例
実施例1に記載のようにしてTSHアッセイ法を実施した。支援的結合リガンドと組み合わせた過塩素酸クロムライゲーション法の結果を、実施例1に記載した標準アミドカップリング法と比較する(図12を参照されたい)。
【0235】
実施例13:下にある基質である、アッセイで使用されるラテックスビーズからガラスビーズまたはガラス顕微鏡スライドを模倣するビーズまでを遮蔽するためのコーティング。
金属錯体および結合相互作用を支援するための他の分子のための結合点を付与するための、ポリマーコーティング上の官能性は別として、コーティングのもう一つの機能は、標的分子が金属錯体を介して基質に結合するとき標的分子に対する基質の影響を変化させるために基質を遮蔽することであるかもしれない。この概念は、PVDF膜に関して実施例2および3で説明されている。この例では、ガラスビーズまたはガラス顕微鏡スライドを模倣するラテックスビーズ上のコーティングを具体的に参照しながら、本発明のこの局面を説明する。シリカを用いるコーティングの手法が、安定化層をコートするための数多くの方法の中でもっとも簡単な方法の一つである。
【0236】
a. ビーズの誘導体化
ビーズを下処理するために、ビーズを室温に到達させ、20秒間ボルテックスしたのち、さらに20秒間音波処理する。ビーズ濃縮物1mLを1.7mLマイクロチューブに小分けする。ビーズ溶液を14,000rpmで3分間遠心処理したのち、チューブを取り出し、軽く叩いてチューブ側面からビーズを剥離させ、次いでさらに5分間遠心処理する。ビーズペレットから上澄み液を注意深く取り除き、捨てる。上記手法を使用して、3×1mL脱イオン水でビーズを3回洗浄する。最後の洗浄段階ののち、ビーズをミリポア水1ml中に再懸濁させた。
【0237】
前記のように遠心処理したビーズ濃縮物1mLごとに、脱イオン中の50mg/ml 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC) 100uLおよびN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(S-NHS) 100uLを加え、室温の暗所で10分間、ときおりボルテックスしながら放置する。この活性化されたビーズ溶液にN'-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]ジエチレントリアミン100uLを加えた。混合物を短時間ボルテックスしたのち、室温で2時間反応させた。表面官能化されたビーズを脱イオン水で3回洗浄した。各洗浄段階は、30秒間のボルテックスおよび30秒間の超音波混合段階を含むものであった。
【0238】
上記のように調製した表面官能化ビーズをエタノールの1mlアリコートで3回洗浄した。各洗浄段階は、30秒間のボルテックスおよび30秒間の超音波混合段階を含むものであった。洗浄後、ビーズをエタノール2ml中に再懸濁させ、4ml試料バイアルに移した。この溶液に水酸化アンモニウム(25%溶液) 100uLを加え、電磁フリーを用いて溶液を2分間激しく撹拌した。激しく撹拌された溶液にテトラエチルオルトシリケートの1.5uLアリコートを1時間ごとに加えた。18時間後、27時間後および54時間後、ビーズの試料を取り出した。各ビーズ試料を取り出し、エタノールの1mlアリコートで4回洗浄し、次いで脱イオン水の1mlアリコートで4回洗浄した。ニートビーズおよびシリカビーズのXPS解析を実施した。結果を図14に示す。
【図面の簡単な説明】
【0239】
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属錯体の存在下において該標的分子を該基質に暴露する段階を含み、該標的分子が非改変標的分子であり、該金属錯体が、該標的分子と該基質との間に安定な結合相互作用を提供するように選択される、標的分子を基質に固定化する方法。
【請求項2】
標的分子が、相補的結合分子の効率的な結合を促進するような方法で基質に固定化される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
標的分子が、相補的結合分子との結合に対するその機能的立体配座が維持された状態で、該相補的結合分子の結合を促進するための配向で基質に固定化される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
金属錯体が、金属がクロム、ルテニウム、ロジウムおよび白金より選択される金属塩から誘導される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
金属がクロムおよびルテニウムより選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
必要に応じて標的分子の結合を制御するため、金属錯体と会合した一つまたは複数の配位子が選択される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
金属錯体が、金属の塩化物、酢酸塩、臭化物、硝酸塩、過塩素酸塩、ミョウバンおよび硫酸塩より選択される金属塩から誘導される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
一つまたは複数の配位子が、エチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、イミノ二酢酸、シュウ酸、1,10-フェナントロリン、8-ヒドロキシキノリンまたはサリチル酸から誘導される、請求項6記載の方法。
【請求項9】
金属錯体が、過塩素酸クロム(III)、臭化クロム(III)、塩化ルテニウム(III)または臭化ルテニウム(III)から誘導され、基質が、カルボン酸官能化、アミド官能化、アミン官能化またはエステル官能化された基質である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
基質および標的分子が互いに対して暴露される条件下で総結合親和力および有効結合の範囲を制御するため、金属錯体の金属および該金属と会合した一つまたは複数の配位子が選択される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
金属錯体を伴う結合相互作用および基質と標的分子との間の支援的結合作用の結果として基質への標的分子の固定化が起こる、請求項1記載の方法。
【請求項12】
基質および標的分子が互いに対して暴露される条件下で総結合親和力および有効結合の範囲を制御するため、金属錯体および該金属と会合した一つまたは複数の配位子が選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
金属錯体を伴う結合相互作用および支援的結合作用の少なくとも一方が標的分子の特定領域に対して特異性を有する、請求項11記載の方法。
【請求項14】
支援的結合相互作用が、標的分子と結合相互作用可能な、基質表面に存在する官能基または成分に起因することができる、請求項11記載の方法。
【請求項15】
基質がポリマーコーティングを含み、該ポリマーが、金属錯体と相互作用し、結合するのに適した官能性を含む反復単位と、標的分子と支援的結合相互作用可能な反復単位とを含む、請求項11記載の方法。
【請求項16】
支援的結合相互作用が、標的分子との支援的結合相互作用を提供するように選択された、基質表面に設けられた分子に起因することができる、請求項11記載の方法。
【請求項17】
金属錯体および/または該金属錯体を介して基質に結合される標的分子に対して該基質が呈示する環境を改変する効果を有するコーティングを該基質が含む、請求項1記載の方法。
【請求項18】
コーティングが、金属錯体を介した標的分子の固定化を可能にし、該標的分子が該金属錯体を介して基質に結合しているとき該標的分子に対する該基質の影響を改変するために該基質を遮蔽する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
コーティングが基質を遮蔽して、該基質が、コートされると、該基質に結合した金属錯体を介する標的分子との該基質の相互作用に関して異なる基質を模倣する、請求項17記載の方法。
【請求項20】
金属が、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、ルテニウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、モリブデンおよび亜鉛より選択される、請求項10記載の方法。
【請求項21】
標的分子および金属錯体の存在下において該相補的結合分子を該基質に暴露する段階を含み、該標的分子が非改変標的分子であり、該標的分子が、該相補的結合分子と該標的分子との間に適当な結合相互作用を提供するように選択され、該金属錯体が、該標的分子と該基質との間に安定な結合相互作用を提供するように選択される、相補的結合分子を基質に固定化する方法。
【請求項22】
基質にコーティングを設ける段階を含み、該コーティングが、金属錯体が該コーティングを介して該基質に結合しているとき、該金属錯体の結合を促進し、非改変標的分子への該金属錯体の結合を制御するために選択される、結合面を製造する方法。
【請求項23】
コーティングが、金属錯体に対する該コーティングの結合性能および該金属錯体が該コーティングに結合しているときの標的分子に対する該金属錯体の結合性能に基づいて作成されたコーティングのライブラリーより選択される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
コーティングが、金属錯体に対する該コーティングの結合性能および該金属錯体が該コーティングに結合しているときの標的分子に対する該金属錯体の結合性能ならびに該標的分子に対する該コーティングの結合性能に基づいて作成されたコーティングのライブラリーより選択される、請求項22記載の方法。
【請求項25】
基質および金属錯体を含み、該金属錯体の存在下における該基質への標的分子の暴露が該標的分子の該基質への固定化をもたらす、非改変標的分子を固定化するための固相アッセイ法。
【請求項26】
基質、金属錯体および非改変標的分子を含み、該非改変標的分子が相補的結合分子と結合相互作用可能であり、該金属錯体が該標的分子の該基質への固定化をもたらす、相補的結合分子を固定化するための固相アッセイ法。
【請求項27】
金属錯体が、標的分子と基質との間に安定な結合相互作用を提供するように選択され、該金属錯体の金属がクロムまたはルテニウムである、基質および該基質の表面に固定化された金属錯体を含む、非改変標的分子のための結合面。
【請求項28】
基質が、カルボン酸官能化、アミド官能化、アミン官能化またはエステル官能化された基質である、請求項27記載の結合面。
【請求項29】
基質がマイクロビーズである、請求項27または28記載の結合面。

【公表番号】特表2008−516189(P2008−516189A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519560(P2007−519560)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【国際出願番号】PCT/AU2005/000966
【国際公開番号】WO2006/002472
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(507004901)
【Fターム(参考)】