金属錯体及びそれからなる分離材
【課題】優れたガス分離性能を有する金属錯体を提供すること。
【解決手段】5−メトキシイソフタル酸、イソフタル酸などの5位に電子供与性基を有してもよいイソフタル酸誘導体から選ばれるジカルボン酸化合物(I−1)1〜30モル%と、5−ニトロイソフタル酸、5−ホルミルイソフタル酸、5−フルオロイソフタル酸、5−クロロイソフタル酸、5−ブロモイソフタル酸、5−ヨードイソフタル酸などの5位に電子吸引性基を有するイソフタル酸誘導体または3,5−ピリジンジカルボン酸誘導体から選ばれるジカルボン酸化合物(I−2)99〜70モル%とからなるジカルボン酸化合物(I);周期表6〜12族の第4〜6周期に属する金属、マグネシウム及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属;及び該金属に二座配位可能な有機配位子;からなる金属錯体。
【解決手段】5−メトキシイソフタル酸、イソフタル酸などの5位に電子供与性基を有してもよいイソフタル酸誘導体から選ばれるジカルボン酸化合物(I−1)1〜30モル%と、5−ニトロイソフタル酸、5−ホルミルイソフタル酸、5−フルオロイソフタル酸、5−クロロイソフタル酸、5−ブロモイソフタル酸、5−ヨードイソフタル酸などの5位に電子吸引性基を有するイソフタル酸誘導体または3,5−ピリジンジカルボン酸誘導体から選ばれるジカルボン酸化合物(I−2)99〜70モル%とからなるジカルボン酸化合物(I);周期表6〜12族の第4〜6周期に属する金属、マグネシウム及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属;及び該金属に二座配位可能な有機配位子;からなる金属錯体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体及びその製造方法、並びに該金属錯体からなる分離材に関する。さらに詳しくは、特定のジカルボン酸化合物から選択される2種類のジカルボン酸化合物と、少なくとも1種の金属と、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体に関する。本発明の金属錯体は、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材として好ましく、特に、メタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素または空気とメタンなどの分離材として好ましい。
【背景技術】
【0002】
これまで、脱臭、排ガス処理などの分野で種々の吸着材が開発されている。活性炭はその代表例であり、活性炭の優れた吸着性能を利用して、空気浄化、脱硫、脱硝、有害物質除去など各種工業において広く使用されている。近年は半導体製造プロセスなどへ窒素の需要が増大しており、かかる窒素を製造する方法として、分子ふるい炭を使用して圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により空気から窒素を製造する方法が使用されている。また、分子ふるい炭は、メタノール分解ガスからの水素精製など各種ガス分離精製にも応用されている。
【0003】
圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により混合ガスを分離する際には、一般に、分離吸着材として分子ふるい炭やゼオライトなどを使用し、その平衡吸着量または吸着速度の差により分離を行っている。しかしながら、平衡吸着量の差によって混合ガスを分離する場合、これまでの吸着材では除去したいガスのみを選択的に吸着することができないため分離係数が小さくなり、装置の大型化は不可避であった。また、吸着速度の差によって混合ガスを分離する場合、ガスの種類によっては除去したいガスのみを吸着できるが、吸着と脱着を交互に行う必要があり、この場合も装置は依然として大型にならざるを得なかった。
【0004】
一方、より優れた吸着性能を与える吸着材として、外部刺激により動的構造変化を生じる高分子金属錯体が開発されている(非特許文献1、非特許文献2参照)。この新規な動的構造変化高分子金属錯体をガス吸着材として使用した場合、ある一定の圧力まではガスを吸着しないが、ある一定圧を越えるとガス吸着が始まるという特異な現象が観測されている。また、ガスの種類によって吸着開始圧が異なる現象が観測されている。
【0005】
この現象を、例えば圧力スイング吸着方式のガス分離装置における吸着材に応用した場合、非常に効率良いガス分離が可能となる。また、圧力のスイング幅を狭くすることができ、省エネルギーにも寄与する。さらに、ガス分離装置の小型化にも寄与し得るため、高純度ガスを製品として販売する際のコスト競争力を高めることができることは勿論、自社工場内部で高純度ガスを用いる場合であっても、高純度ガスを必要とする設備に要するコストを削減できるため、結局最終製品の製造コストを削減する効果を有する。
【0006】
動的構造変化高分子金属錯体を吸蔵材や分離材に適用した例として、(1)インターデジテイト型の集積構造を有する金属錯体(特許文献1参照)、(2)二次元格子積層型の集積構造を有する金属錯体(特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7参照)、(3)相互貫入型の集積構造を有する金属錯体(特許文献8参照)などが知られている。
【0007】
しかしながら、いずれの高分子金属錯体もある一定圧を超えないとガスを吸着しないので、混合ガス中の吸着除去したいガスの分圧が一定圧を下回ると吸着できず、高純度を達成するためには使用量の増加は避けられず、装置の小型化は困難な状況であった。
【0008】
2,7−ナフタレンジカルボン酸と亜鉛と4,4’−ビピリジルからなる高分子金属錯体は、IUPACの分類におけるI型の吸着プロファイルを示すが、二酸化炭素、窒素、酸素の混合気体の吸着試験において、二酸化炭素を選択的に吸着することが知られている(非特許文献3参照)。しかしながら、混合ガスの分離において、ジカルボン酸化合物が分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0009】
また、イソフタル酸誘導体、2,7−ナフタレンジカルボン酸誘導体または4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸誘導体と金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子から構成される高分子金属錯体は、不飽和有機分子と親和性を有しており、不飽和有機分子の分離に有効であることが知られている(特許文献9参照)。しかしながら、混合ガスの分離において、ジカルボン酸化合物が分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−161675公報
【特許文献2】特開2003−275531公報
【特許文献3】特開2003−278997公報
【特許文献4】特開2005−232222公報
【特許文献5】特開2004−74026公報
【特許文献6】特開2005−232033公報
【特許文献7】特開2005−232034公報
【特許文献8】特開2003−342260公報
【特許文献9】特開2008−247884公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】植村一広、北川進、未来材料、第2巻、44〜51頁(2002年)
【非特許文献2】松田亮太郎、北川進、ペトロテック、第26巻、97〜104頁(2003年)
【非特許文献3】中川啓史、田中大輔、下村悟、北川進、第61回コロイドおよび界 面化学討論会講演要旨集、172頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、従来よりも高い混合ガス分離能を示し、かつ吸着除去したいガスの分圧が低い時の吸着量が多いガス分離材として使用できる金属錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討し、特定のジカルボン酸化合物から選択される2種類のジカルボン酸化合物と、少なくとも1種の金属と、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体により、上記目的を達成することができることを見出し、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
(1)下記一般式(I)で表されるジカルボン酸化合物(I)から選択され、互いに異なる2種類のジカルボン酸化合物(I−1)及び(I−2)
【0015】
【化1】
【0016】
(式中、Xは炭素原子または窒素原子であり、Xが炭素原子の場合にYは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、アミノ基、アミド基またはハロゲン原子であり、Xが窒素原子の場合にYは存在しない。R1、R2及びR3はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基またはハロゲン原子である。ジカルボン酸化合物(I−1)のXは炭素原子であり、Yは電子供与性基であり、ジカルボン酸化合物(I−2)のXは炭素原子または窒素原子であり、Xが炭素原子の場合にYは電子吸引性基である。)と;
周期表6〜12族の第4〜6周期に属する金属、マグネシウム及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属と;
該金属に二座配位可能な有機配位子と;
からなる金属錯体であって、ジカルボン酸化合物(I−1)とジカルボン酸化合物(I−2)とのモル比率が、1:99〜30:70の範囲内である;
ことを特徴とする金属錯体。
(2)ジカルボン酸化合物(I−1)とジカルボン酸化合物(I−2)との組み合わせが、5−メトキシイソフタル酸と5−ニトロイソフタル酸、5−メトキシイソフタル酸と5−ホルミルイソフタル酸、イソフタル酸と5−フルオロイソフタル酸、イソフタル酸と5−クロロイソフタル酸、イソフタル酸と5−ブロモイソフタル酸、イソフタル酸と5−ヨードイソフタル酸またはイソフタル酸と3,5−ピリジンジカルボン酸である(1)に記載の金属錯体。
(3)該二座配位可能な有機配位子が1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピラジン、2,5−ジメチルピラジン、4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エチン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタジイン、1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン、3,6−ジ(4−ピリジル)−1,2,4,5−テトラジン、2,2’−ビ−1,6−ナフチリジン、フェナジン、ジアザピレン、トランス−1,2−ビス(4−ピリジル)エテン、4,4’−アゾピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,2−ビス(4−ピリジル)−グリコール及びN−(4−ピリジル)イソニコチンアミドから選択される少なくとも1種である(1)または(2)に記載の金属錯体。
(4)該金属が亜鉛である(1)〜(3)いずれかに記載の金属錯体。
(5)(1)〜(4)いずれかに記載の金属錯体からなる分離材。
(6)該分離材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材である(5)に記載の分離材。
(7)該分離材が、メタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素または空気とメタンを分離するための分離材である(5)に記載の分離材。
(8)ジカルボン酸化合物(I)から選択され、互いに異なる2種類のジカルボン酸化合物(I−1)及び(I−2)と、周期表6〜12族の第4〜6周期に属する金属、マグネシウム及びアルミニウムの塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属に二座配位可能な有機配位子とを溶媒中で反応させ、析出させる、(1)に記載の金属錯体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、特定のジカルボン酸化合物から選択される2種類のジカルボン酸化合物と、少なくとも1種の金属と、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体を提供することができる。
【0018】
本発明の金属錯体は、混合ガスの分離において、高い混合ガス分離能を維持し、かつ吸着除去したいガスの分圧が低い時の吸着量が多い分離材として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図2】合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図3】合成例2で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図4】合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図5】比較合成例1で得た金属錯体の結晶構造である。
【図6】比較合成例1で得た金属錯体の二次元シート中の亜鉛の配位環境である。
【図7】比較合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図8】比較合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図9】比較合成例2で得た金属錯体の結晶構造である。
【図10】比較合成例2で得た金属錯体の二次元シート中の亜鉛の配位環境である。
【図11】比較合成例2で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図12】比較合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図13】比較合成例3で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図14】比較合成例3で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図15】比較合成例4で得た金属錯体の結晶構造である。
【図16】比較合成例4で得た金属錯体の二次元シート中の亜鉛の配位環境である。
【図17】比較合成例5で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図18】比較合成例5で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図19】比較合成例6で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図20】比較合成例6で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図21】比較合成例7で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図22】比較合成例7で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の金属錯体は、5位に電子供与性基を有してもよいイソフタル酸誘導体から選ばれるジカルボン酸化合物(I−1)、及び5位に電子吸引性基を有するイソフタル酸誘導体または3,5−ピリジンジカルボン酸誘導体から選ばれるジカルボン酸化合物(I−2)からなる2種類のジカルボン酸化合物(I)と、周期表6〜12族の第4〜6周期に属する金属、マグネシウム及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属と、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる。
【0021】
金属錯体は、ジカルボン酸化合物(I)から選択され、互いに異なる2種類のジカルボン酸化合物(I−1)及び(I−2)と、周期表6〜12族の第4〜6周期に属する金属、マグネシウム及びアルミニウムの塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属に二座配位可能な有機配位子とを、常圧下、溶媒中で数時間から数日間反応させ、析出させて製造することができる。例えば、金属塩の水溶液または有機溶媒溶液と、ジカルボン酸化合物(I)から選択される2種類のジカルボン酸化合物及び二座配位可能な有機配位子を含有する有機溶媒溶液とを、常圧下で混合して反応させることにより得ることができる。
【0022】
本発明に用いられ、互いに異なるジカルボン酸化合物(I−1)及び(I−2)は、共に下記一般式(I);
【0023】
【化2】
【0024】
で表される。式中、Xは炭素原子または窒素原子であり、Xが炭素原子の場合にYは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、アミノ基、アミド基またはハロゲン原子であり、Xが窒素原子の場合にYは存在しない。R1、R2及びR3はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基またはハロゲン原子である。ジカルボン酸化合物(I−1)のXは常に炭素原子であり、Yは上記で挙げた基から選ばれる電子供与性の置換基または原子、具体的には、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、アシロキシ基、アミノ基などが挙げられる。ここで、電気陰性度は、炭素(2.55)、水素(2.20)であるので、本明細書では、水素原子は電子供与性の原子と定義する。ジカルボン酸化合物(I−2)のXは炭素原子または窒素原子であり、Xが炭素原子の場合にYは上記で挙げた基または原子から選ばれる電子吸引性の置換基または原子、具体的には、ホルミル基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、アミド基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0025】
上記Yを構成することのできる基の内、アルキル基の炭素原子数は1〜5が好ましい。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖または分岐を有するアルキル基が、アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基が、アシロキシ基の例としては、アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基が、アルコキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基が、アミノ基の例としては、N,N−ジメチルアミノ基が、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が、それぞれ挙げられる。また、該アルキル基が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。アルキル基の置換基の数は、1〜3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0026】
上記R1、R2及びR3を構成することのできる置換基を有していてもよいアルキル基及びハロゲン原子の例としては、上記のYで挙げたものと同様である。
【0027】
Xとして炭素原子を有するジカルボン酸化合物(I−1)のYを構成する電子供与性の置換基としては、アルコキシ基が好ましい。ジカルボン酸化合物(I−2)のXが炭素原子の場合にYを構成する電子吸引性の置換基または原子としては、ホルミル基、ニトロ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましい。
【0028】
ジカルボン酸化合物(I−1)とジカルボン酸化合物(I−2)との組み合わせとしては、5−メトキシイソフタル酸と5−ニトロイソフタル酸、5−メトキシイソフタル酸と5−ホルミルイソフタル酸、イソフタル酸と5−フルオロイソフタル酸、イソフタル酸と5−クロロイソフタル酸、イソフタル酸と5−ブロモイソフタル酸、イソフタル酸と5−ヨードイソフタル酸またはイソフタル酸と3,5−ピリジンジカルボン酸が好ましい。
【0029】
本発明の金属錯体は、2種類のジカルボン酸化合物(I−1)及び(I−2)を有する。ここで、ジカルボン酸化合物(I−1)は、Yが電子供与性基である限り2種以上のジカルボン酸化合物(I−1)を含んでいてもよい。また、ジカルボン酸化合物(I−2)は、Yが電子吸引性基であるか、XがNである限り2種以上のジカルボン酸化合物(I−2)を含んでいてもよい。
【0030】
ジカルボン酸化合物(I)から選択される2種類のジカルボン酸化合物の混合比率は、ジカルボン酸化合物(I−1)とジカルボン酸化合物(I−2)とのモル比で、ジカルボン酸化合物(I−1):ジカルボン酸化合物(I−2)=1:99〜30:70の範囲内が好ましく、5:95〜30:70の範囲内がより好ましい。この範囲外では混合ガスの分離能が低下する。
なお、ジカルボン酸化合物(I−1)が2種以上含まれる場合には、その合計のモル数が上記の範囲に含まれていればよい。同様に、ジカルボン酸化合物(I−2)が2種以上含まれる場合には、その合計のモル数が上記の範囲に含まれていればよい。
【0031】
周期表6〜12族の第4〜6周期に属する金属としては、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、銅、亜鉛、カドミウムを使用することができ、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウムが好ましく、亜鉛がより好ましい。
【0032】
金属錯体の製造に用いる周期表6〜12族の第4〜6周期に属する金属の塩としては、クロム塩、モリブデン塩、タングステン塩、マンガン塩、鉄塩、ルテニウム塩、コバルト塩、ロジウム塩、ニッケル塩、パラジウム塩、銅塩、亜鉛塩及びカドミウム塩を使用することができ、マンガン塩、ニッケル塩、銅塩、亜鉛塩、カドミウム塩が好ましく、亜鉛塩がより好ましい。また、これらの金属塩としては、酢酸塩、ギ酸塩などの有機酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩などの無機酸塩を使用することができる。金属塩のモル濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では未反応の金属塩が残留し、得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0033】
二座配位可能な有機配位子は、例えば、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピラジン、2,5−ジメチルピラジン、4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エチン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタジイン、1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン、3,6−ジ(4−ピリジル)−1,2,4,5−テトラジン、2,2’−ビ−1,6−ナフチリジン、フェナジン、ジアザピレン、トランス−1,2−ビス(4−ピリジル)エテン、4,4’−アゾピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,2−ビス(4−ピリジル)−グリコール及びN−(4−ピリジル)イソニコチンアミドを挙げることができ、中でも4,4’−ビピリジルが好ましい。ここで、二座配位可能な有機配位子とは非共有電子対で金属に対して配位する部位を2箇所持つ中性配位子を意味する。
【0034】
ジカルボン酸化合物(I)[ジカルボン酸化合物(I−1)及び(I−2)のモル数の合計]と二座配位可能な有機配位子との混合比率は、ジカルボン酸化合物(I):二座配位可能な有機配位子=1:5〜8:1のモル比の範囲内が好ましく、1:3〜6:1のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、副反応も増えるために好ましくない。
【0035】
金属塩と二座配位可能な有機配位子の混合比率は、金属塩:二座配位可能な有機配位子=3:1〜1:3のモル比の範囲内が好ましく、2:1〜1:2のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲では目的とする金属錯体の収率が低下し、また、未反応の原料が残留して得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0036】
ジカルボン酸化合物(I)のモル濃度[ジカルボン酸化合物(I−1)及び(I−2)のモル濃度の合計]は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0037】
二座配位可能な有機配位子のモル濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0038】
金属錯体の製造に用いる溶媒としては、有機溶媒、水またはそれらの混合溶媒を使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、水またはこれらの混合溶媒を使用することができる。反応温度としては、253〜423Kが好ましい。
【0039】
結晶性の良い金属錯体は、純度が高くて吸着性能が良い。反応が終了したことはガスクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーにより原料の残存量を定量することにより確認することができる。反応終了後、得られた混合液を吸引濾過に付して沈殿物を集め、有機溶媒による洗浄後、373K程度で数時間真空乾燥することにより、本発明の金属錯体を得ることができる。
【0040】
以上のようにして得られる本発明の金属錯体からなる分離材は、ジカルボン酸化合物(I)と金属イオン(例えば、亜鉛イオン)からなる一次元鎖が、二座配位子により連結された二次元シートが形成されている。そして、これらの二次元シートが集積することにより、細孔(一次元チャンネル)を有する三次元構造をとる。
【0041】
金属錯体における三次元構造は、合成後の結晶においても変化できるため、その変化に伴って、細孔の構造や大きさも変化する。この構造が変化する条件は、吸着される物質の種類、吸着圧力、吸着温度に依存する。すなわち、細孔表面と物質の相互作用の差に加え(相互作用の強さは物質のLennard−Jonesポテンシャルの大きさに比例)、吸着する物質により構造変化の程度が異なるため、高い選択性が発現する。本発明では、それぞれ単独で用いた場合に異なる吸着挙動を示す金属錯体を構築するジカルボン酸化合物を混合して用いることで、それぞれの特徴を併せ持たせることができる。例えば、混合ガスの分離能は低いが吸着除去したいガスの分圧が低い時の吸着量が多い金属錯体を構築するジカルボン酸化合物と、混合ガスの分離能は高いが吸着除去したいガスの分圧が低い時の吸着量が少ない金属錯体を構築するジカルボン酸化合物を混合して用いることで、高い混合ガスの分離能と吸着量を両立することができる。従って、吸着平衡型と速度分離型のいずれの方法においても優れたガス分離性能が発現する。吸着された物質が脱着した後は、元の構造に戻るので、細孔の大きさも元に戻る。
【0042】
前記の選択吸着メカニズムは推定ではあるが、例え前記メカニズムに従っていない場合でも、本発明で規定する要件を満足するのであれば、本発明の技術的範囲に包含される。
【0043】
本発明の金属錯体は、各種ガスを選択的に吸着することができるので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン(ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなど)、水蒸気または有機蒸気などを分離するための分離材として好ましく、特に、メタン中の二酸化炭素、水素中の二酸化炭素、窒素中の二酸化炭素または空気中のメタンなどを、圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により分離するのに適している。有機蒸気とは、常温、常圧で液体状の有機物質の気化ガスを意味する。このような有機物質としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;トリメチルアミンなどのアミン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類;炭素数5〜16の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;塩化メチル、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
【0045】
(1)粉末X線回折パターンの測定
X線回折装置を用いて、回折角(2θ)=5〜50°の範囲を走査速度1°/分で走査し、対称反射法で測定した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社リガク製RINT2400
X線源:CuKα(λ=1.5418Å) 40kV 200mA
ゴニオメーター:縦型ゴニオメーター
検出器:シンチレーションカウンター
ステップ幅:0.02°
スリット:発散スリット=0.5°
受光スリット=0.15mm
散乱スリット=0.5°
【0046】
(2)単結晶X線結晶構造解析
得られた単結晶をゴニオヘッドにマウントし、単結晶X線回折装置を用いて測定した。
分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社リガク製MERCURY
X線源:MoKα(λ=0.71073Å) 50kV 100mA
検出器:CCD
コリメータ:Φ0.8mm
解析ソフト:SHELXS−97
【0047】
(3)吸脱着等温線の測定
高圧ガス吸着装置を用いて容量法で測定を行った。このとき、測定に先立って試料を373K、50Paで10時間乾燥し、吸着水などを除去した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:日本ベル株式会社製BELSORP−HP
平衡待ち時間:500秒
【0048】
(4)混合ガス分離性能の測定
三方コックとセプタムを装着したガラス製10mL二口フラスコを用意し、三方コックの一方の口に別の三方コックを介して100mLのシリンジをチューブで接続した。測定は、二口フラスコに試料を入れ、373K、4.0x10−3Paで3時間乾燥し、吸着水などを除去した後に、フラスコに装着している三方コックを閉じ、続いてシリンジ側の三方コックを通じてシリンジに100mLの混合ガスを導入し、最後にフラスコに装着している三方コックを開き、試料に混合ガスを吸着させた。このとき、吸着量はシリンジの目盛りの減少分から算出し(死容積はあらかじめヘリウムを用いて測定)、ガス組成はガスクロマトグラフィーで分析して算出した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社島津製作所製GC−14B
カラム:ジーエルサイエンス株式会社製WG−100
INJ温度:100℃
DET温度:50℃
カラム温度:50℃
キャリアガス:ヘリウム
注入量:1mL
検出器:TCD
【0049】
(5)0.1MPaにおけるガス吸着速度の測定
三方コックとセプタムを装着したガラス製10mL二口フラスコを用意し、三方コックの一方の口に別の三方コックを介して100mLのシリンジをチューブで接続した。測定は、二口フラスコに試料を入れ、373K、4.0x10−3Paで3時間乾燥し、吸着水などを除去した後に、フラスコに装着している三方コックを閉じ、続いてシリンジ側の三方コックを通じてシリンジに100mLの混合ガスを導入し、最後にフラスコに装着している三方コックを開き、試料に混合ガスを吸着させた。このとき、吸着量はシリンジの目盛りの減少分から算出した(死容積はあらかじめヘリウムを用いて測定)。
【0050】
<合成例1>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物5.00g(17mmol)、5−メトキシイソフタル酸0.318g(1.6mmol)、5−ニトロイソフタル酸3.08g(15mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。吸引濾過の後、エタノールで3回洗浄し、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体5.74g(収率80%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図1に示す。また、得られた金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図2に示す。
【0051】
<合成例2>
窒素雰囲気下、硝酸マンガン六水和物3.56g(12mmol)、イソフタル酸0.207g(1.2mmol)、3,5−ピリジンジカルボン酸1.87g(11mmol)及び4,4’−ビピリジル1.95g(12mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。吸引濾過の後、エタノールで3回洗浄し、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体3.55g(収率76%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図3に示す。また、得られた金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図4に示す。
【0052】
<比較合成例1>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物5.00g(17mmol)、5−メトキシイソフタル酸3.18g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。得られた結晶について、単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。また、結晶構造を図5に、二次元シート中の亜鉛の配位環境を図6に示す。
Triclinic(P−1)
a=10.073(3)Å
b=10.202(4)Å
c=10.526(5)Å
α=66.53(4)°
β=75.03(2)°
γ=77.06(2)°
V=949.48(6)Å3
Z=2
R=0.0792
Rw=0.2712
吸引濾過の後、エタノールで3回洗浄し、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体6.14g(収率87%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図7に示す。また、得られた金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図8に示す。図8より、本錯体がIUPACの分類におけるI型の吸着プロファイルを示すことが分かる。
【0053】
<比較合成例2>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物5.00g(17mmol)、5−ニトロイソフタル酸3.59g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。得られた結晶について、単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。また、結晶構造を図9に、二次元シート中の亜鉛の配位環境を図10に示す。
Triclinic(P−1)
a=10.112(3)Å
b=10.349(1)Å
c=10.730(1)Å
α=65.20(2)°
β=77.28(2)°
γ=79.33(2)°
V=989.04(3)Å3
Z=2
R=0.0624
Rw=0.1750
吸引濾過の後、エタノールで3回洗浄し、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体5.34g(収率73%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図11に示す。また、得られた金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図12に示す。図12より、本錯体がある一定圧を超えると急激にガスを吸着する吸着プロファイルを示すことが分かる。
【0054】
<比較合成例3>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物5.00g(17mmol)、5−メトキシイソフタル酸1.27g(6.5mmol)、5−ニトロイソフタル酸2.05g(9.7mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。吸引濾過の後、エタノールで3回洗浄し、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体4.55g(収率64%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図13に示す。また、得られた金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図14に示す。
【0055】
<比較合成例4>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物297mg(1.0mmol)、5−メトキシイソフタル酸98.0mg(0.50mmol)及び5−ニトロイソフタル酸105mg(0.50mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド20mLに298Kで溶解させた(A液)。
次に、窒素雰囲気下、4,4’−ビピリジル156mg(1.0mmol)をメタノール20mLに298Kで溶解させた(B液)。
窒素雰囲気下、A液の上部にB液を298Kで静かに加えて二層を形成させ、343Kで二日間静置した。生成した結晶を濾別し、単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。また、結晶構造を図15に、二次元シート中の亜鉛の配位環境を図16に示す。図16より、5−メトキシイソフタル酸部位と5−ニトロイソフタル酸部位がディスオーダーしていることが分かる。
Triclinic(P−1)
a=10.046(12)Å
b=10.455(9)Å
c=10.519(10)Å
α=65.32(5)°
β=76.24(5)°
γ=76.53(5)°
V=963.9(16)Å3
Z=2
R=0.1122
Rw=0.3256
【0056】
<比較合成例5>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物5.00g(17mmol)、2,7−ナフタレンジカルボン酸3.68g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。吸引濾過の後、エタノールで3回洗浄を行い、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体7.02g(収率95%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図17に示す。また、得られた金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図18に示す。
【0057】
<比較合成例6>
窒素雰囲気下、硝酸マンガン六水和物4.82g(17mmol)、イソフタル酸2.80g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。吸引濾過の後、エタノールで3回洗浄を行い、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体5.67g(収率90%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図19に示す。また、得られた金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図20に示す。
【0058】
<比較合成例7>
窒素雰囲気下、硝酸マンガン六水和物4.82g(17mmol)、3,5−ピリジンジカルボン酸2.80g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。吸引濾過の後、エタノールで3回洗浄を行い、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体4.86g(収率76%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図21に示す。また、得られた金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図22に示す。
【0059】
図1、図7、図11及び図13より、合成例1及び比較合成例3で得られた金属錯体は比較合成例1及び比較合成例2で得られた金属錯体の混合物ではないことが分かる。
【0060】
図6、図10及び図16より、5−メトキシイソフタル酸と5−ニトロイソフタル酸を混合して得られる金属錯体は、その結晶構造内に5−メトキシイソフタル酸に由来する部位と5−ニトロイソフタル酸に由来する部位が連続的にランダムに存在することが分かる。
【0061】
図3、図19及び図21より、合成例2で得られた金属錯体は比較合成例6及び比較合成例7で得られた金属錯体の混合物ではないことが分かる。
【0062】
<実施例1>
合成例1で得た金属錯体について、容量比で二酸化炭素:メタン=50:50からなる二酸化炭素とメタンの混合ガスを用い、273K、0.1MPaにおける分離性能を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
<比較例1>
比較合成例1で得た金属錯体について、容量比で二酸化炭素:メタン=50:50からなる二酸化炭素とメタンの混合ガスを用い、273K、0.1MPaにおける分離性能を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
<比較例2>
比較合成例2で得た金属錯体について、容量比で二酸化炭素:メタン=50:50からなる二酸化炭素とメタンの混合ガスを用い、273K、0.1MPaにおける分離性能を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
<比較例3>
比較合成例3で得た金属錯体について、容量比で二酸化炭素:メタン=50:50からなる二酸化炭素とメタンの混合ガスを用い、273K、0.1MPaにおける分離性能を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
<比較例4>
比較合成例5で得た金属錯体について、容量比で二酸化炭素:メタン=50:50からなる二酸化炭素とメタンの混合ガスを用い、273K、0.1MPaにおける分離性能を測定した。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1より、本発明の金属錯体は二酸化炭素選択率を100%に維持しつつ、かつ二酸化炭素の吸着量が大きいので、メタンと二酸化炭素の分離材として優れていることは明らかである。ここで、「CO2選択率」は、吸着された全ガス中に占める二酸化炭素の割合と定義する。
【0069】
<実施例2>
合成例2で得た金属錯体について、273K、0.1MPaにおける二酸化炭素とメタンの吸着速度を測定した。吸着開始3分後の二酸化炭素とメタンの吸着量を表2に示す。
【0070】
<比較例5>
比較合成例6で得た金属錯体について、273K、0.1MPaにおける二酸化炭素とメタンの吸着速度を測定した。吸着開始3分後の二酸化炭素とメタンの吸着量を表2に示す。
【0071】
<比較例6>
比較合成例7で得た金属錯体について、273K、0.1MPaにおける二酸化炭素とメタンの吸着速度を測定した。吸着開始3分後の二酸化炭素とメタンの吸着量を表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2より、本発明の金属錯体は高い二酸化炭素選択吸着能を有し、かつ二酸化炭素の吸着量が大きいので、メタンと二酸化炭素の分離材として優れていることは明らかである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体及びその製造方法、並びに該金属錯体からなる分離材に関する。さらに詳しくは、特定のジカルボン酸化合物から選択される2種類のジカルボン酸化合物と、少なくとも1種の金属と、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体に関する。本発明の金属錯体は、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材として好ましく、特に、メタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素または空気とメタンなどの分離材として好ましい。
【背景技術】
【0002】
これまで、脱臭、排ガス処理などの分野で種々の吸着材が開発されている。活性炭はその代表例であり、活性炭の優れた吸着性能を利用して、空気浄化、脱硫、脱硝、有害物質除去など各種工業において広く使用されている。近年は半導体製造プロセスなどへ窒素の需要が増大しており、かかる窒素を製造する方法として、分子ふるい炭を使用して圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により空気から窒素を製造する方法が使用されている。また、分子ふるい炭は、メタノール分解ガスからの水素精製など各種ガス分離精製にも応用されている。
【0003】
圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により混合ガスを分離する際には、一般に、分離吸着材として分子ふるい炭やゼオライトなどを使用し、その平衡吸着量または吸着速度の差により分離を行っている。しかしながら、平衡吸着量の差によって混合ガスを分離する場合、これまでの吸着材では除去したいガスのみを選択的に吸着することができないため分離係数が小さくなり、装置の大型化は不可避であった。また、吸着速度の差によって混合ガスを分離する場合、ガスの種類によっては除去したいガスのみを吸着できるが、吸着と脱着を交互に行う必要があり、この場合も装置は依然として大型にならざるを得なかった。
【0004】
一方、より優れた吸着性能を与える吸着材として、外部刺激により動的構造変化を生じる高分子金属錯体が開発されている(非特許文献1、非特許文献2参照)。この新規な動的構造変化高分子金属錯体をガス吸着材として使用した場合、ある一定の圧力まではガスを吸着しないが、ある一定圧を越えるとガス吸着が始まるという特異な現象が観測されている。また、ガスの種類によって吸着開始圧が異なる現象が観測されている。
【0005】
この現象を、例えば圧力スイング吸着方式のガス分離装置における吸着材に応用した場合、非常に効率良いガス分離が可能となる。また、圧力のスイング幅を狭くすることができ、省エネルギーにも寄与する。さらに、ガス分離装置の小型化にも寄与し得るため、高純度ガスを製品として販売する際のコスト競争力を高めることができることは勿論、自社工場内部で高純度ガスを用いる場合であっても、高純度ガスを必要とする設備に要するコストを削減できるため、結局最終製品の製造コストを削減する効果を有する。
【0006】
動的構造変化高分子金属錯体を吸蔵材や分離材に適用した例として、(1)インターデジテイト型の集積構造を有する金属錯体(特許文献1参照)、(2)二次元格子積層型の集積構造を有する金属錯体(特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7参照)、(3)相互貫入型の集積構造を有する金属錯体(特許文献8参照)などが知られている。
【0007】
しかしながら、いずれの高分子金属錯体もある一定圧を超えないとガスを吸着しないので、混合ガス中の吸着除去したいガスの分圧が一定圧を下回ると吸着できず、高純度を達成するためには使用量の増加は避けられず、装置の小型化は困難な状況であった。
【0008】
2,7−ナフタレンジカルボン酸と亜鉛と4,4’−ビピリジルからなる高分子金属錯体は、IUPACの分類におけるI型の吸着プロファイルを示すが、二酸化炭素、窒素、酸素の混合気体の吸着試験において、二酸化炭素を選択的に吸着することが知られている(非特許文献3参照)。しかしながら、混合ガスの分離において、ジカルボン酸化合物が分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0009】
また、イソフタル酸誘導体、2,7−ナフタレンジカルボン酸誘導体または4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸誘導体と金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子から構成される高分子金属錯体は、不飽和有機分子と親和性を有しており、不飽和有機分子の分離に有効であることが知られている(特許文献9参照)。しかしながら、混合ガスの分離において、ジカルボン酸化合物が分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−161675公報
【特許文献2】特開2003−275531公報
【特許文献3】特開2003−278997公報
【特許文献4】特開2005−232222公報
【特許文献5】特開2004−74026公報
【特許文献6】特開2005−232033公報
【特許文献7】特開2005−232034公報
【特許文献8】特開2003−342260公報
【特許文献9】特開2008−247884公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】植村一広、北川進、未来材料、第2巻、44〜51頁(2002年)
【非特許文献2】松田亮太郎、北川進、ペトロテック、第26巻、97〜104頁(2003年)
【非特許文献3】中川啓史、田中大輔、下村悟、北川進、第61回コロイドおよび界 面化学討論会講演要旨集、172頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、従来よりも高い混合ガス分離能を示し、かつ吸着除去したいガスの分圧が低い時の吸着量が多いガス分離材として使用できる金属錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討し、特定のジカルボン酸化合物から選択される2種類のジカルボン酸化合物と、少なくとも1種の金属と、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体により、上記目的を達成することができることを見出し、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
(1)下記一般式(I)で表されるジカルボン酸化合物(I)から選択され、互いに異なる2種類のジカルボン酸化合物(I−1)及び(I−2)
【0015】
【化1】
【0016】
(式中、Xは炭素原子または窒素原子であり、Xが炭素原子の場合にYは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、アミノ基、アミド基またはハロゲン原子であり、Xが窒素原子の場合にYは存在しない。R1、R2及びR3はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基またはハロゲン原子である。ジカルボン酸化合物(I−1)のXは炭素原子であり、Yは電子供与性基であり、ジカルボン酸化合物(I−2)のXは炭素原子または窒素原子であり、Xが炭素原子の場合にYは電子吸引性基である。)と;
周期表6〜12族の第4〜6周期に属する金属、マグネシウム及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属と;
該金属に二座配位可能な有機配位子と;
からなる金属錯体であって、ジカルボン酸化合物(I−1)とジカルボン酸化合物(I−2)とのモル比率が、1:99〜30:70の範囲内である;
ことを特徴とする金属錯体。
(2)ジカルボン酸化合物(I−1)とジカルボン酸化合物(I−2)との組み合わせが、5−メトキシイソフタル酸と5−ニトロイソフタル酸、5−メトキシイソフタル酸と5−ホルミルイソフタル酸、イソフタル酸と5−フルオロイソフタル酸、イソフタル酸と5−クロロイソフタル酸、イソフタル酸と5−ブロモイソフタル酸、イソフタル酸と5−ヨードイソフタル酸またはイソフタル酸と3,5−ピリジンジカルボン酸である(1)に記載の金属錯体。
(3)該二座配位可能な有機配位子が1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピラジン、2,5−ジメチルピラジン、4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エチン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタジイン、1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン、3,6−ジ(4−ピリジル)−1,2,4,5−テトラジン、2,2’−ビ−1,6−ナフチリジン、フェナジン、ジアザピレン、トランス−1,2−ビス(4−ピリジル)エテン、4,4’−アゾピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,2−ビス(4−ピリジル)−グリコール及びN−(4−ピリジル)イソニコチンアミドから選択される少なくとも1種である(1)または(2)に記載の金属錯体。
(4)該金属が亜鉛である(1)〜(3)いずれかに記載の金属錯体。
(5)(1)〜(4)いずれかに記載の金属錯体からなる分離材。
(6)該分離材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材である(5)に記載の分離材。
(7)該分離材が、メタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素または空気とメタンを分離するための分離材である(5)に記載の分離材。
(8)ジカルボン酸化合物(I)から選択され、互いに異なる2種類のジカルボン酸化合物(I−1)及び(I−2)と、周期表6〜12族の第4〜6周期に属する金属、マグネシウム及びアルミニウムの塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属に二座配位可能な有機配位子とを溶媒中で反応させ、析出させる、(1)に記載の金属錯体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、特定のジカルボン酸化合物から選択される2種類のジカルボン酸化合物と、少なくとも1種の金属と、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体を提供することができる。
【0018】
本発明の金属錯体は、混合ガスの分離において、高い混合ガス分離能を維持し、かつ吸着除去したいガスの分圧が低い時の吸着量が多い分離材として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図2】合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図3】合成例2で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図4】合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図5】比較合成例1で得た金属錯体の結晶構造である。
【図6】比較合成例1で得た金属錯体の二次元シート中の亜鉛の配位環境である。
【図7】比較合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図8】比較合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図9】比較合成例2で得た金属錯体の結晶構造である。
【図10】比較合成例2で得た金属錯体の二次元シート中の亜鉛の配位環境である。
【図11】比較合成例2で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図12】比較合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図13】比較合成例3で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図14】比較合成例3で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図15】比較合成例4で得た金属錯体の結晶構造である。
【図16】比較合成例4で得た金属錯体の二次元シート中の亜鉛の配位環境である。
【図17】比較合成例5で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図18】比較合成例5で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図19】比較合成例6で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図20】比較合成例6で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図21】比較合成例7で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図22】比較合成例7で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の金属錯体は、5位に電子供与性基を有してもよいイソフタル酸誘導体から選ばれるジカルボン酸化合物(I−1)、及び5位に電子吸引性基を有するイソフタル酸誘導体または3,5−ピリジンジカルボン酸誘導体から選ばれるジカルボン酸化合物(I−2)からなる2種類のジカルボン酸化合物(I)と、周期表6〜12族の第4〜6周期に属する金属、マグネシウム及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属と、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる。
【0021】
金属錯体は、ジカルボン酸化合物(I)から選択され、互いに異なる2種類のジカルボン酸化合物(I−1)及び(I−2)と、周期表6〜12族の第4〜6周期に属する金属、マグネシウム及びアルミニウムの塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属に二座配位可能な有機配位子とを、常圧下、溶媒中で数時間から数日間反応させ、析出させて製造することができる。例えば、金属塩の水溶液または有機溶媒溶液と、ジカルボン酸化合物(I)から選択される2種類のジカルボン酸化合物及び二座配位可能な有機配位子を含有する有機溶媒溶液とを、常圧下で混合して反応させることにより得ることができる。
【0022】
本発明に用いられ、互いに異なるジカルボン酸化合物(I−1)及び(I−2)は、共に下記一般式(I);
【0023】
【化2】
【0024】
で表される。式中、Xは炭素原子または窒素原子であり、Xが炭素原子の場合にYは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、アミノ基、アミド基またはハロゲン原子であり、Xが窒素原子の場合にYは存在しない。R1、R2及びR3はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基またはハロゲン原子である。ジカルボン酸化合物(I−1)のXは常に炭素原子であり、Yは上記で挙げた基から選ばれる電子供与性の置換基または原子、具体的には、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、アシロキシ基、アミノ基などが挙げられる。ここで、電気陰性度は、炭素(2.55)、水素(2.20)であるので、本明細書では、水素原子は電子供与性の原子と定義する。ジカルボン酸化合物(I−2)のXは炭素原子または窒素原子であり、Xが炭素原子の場合にYは上記で挙げた基または原子から選ばれる電子吸引性の置換基または原子、具体的には、ホルミル基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、アミド基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0025】
上記Yを構成することのできる基の内、アルキル基の炭素原子数は1〜5が好ましい。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖または分岐を有するアルキル基が、アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基が、アシロキシ基の例としては、アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基が、アルコキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基が、アミノ基の例としては、N,N−ジメチルアミノ基が、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が、それぞれ挙げられる。また、該アルキル基が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。アルキル基の置換基の数は、1〜3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0026】
上記R1、R2及びR3を構成することのできる置換基を有していてもよいアルキル基及びハロゲン原子の例としては、上記のYで挙げたものと同様である。
【0027】
Xとして炭素原子を有するジカルボン酸化合物(I−1)のYを構成する電子供与性の置換基としては、アルコキシ基が好ましい。ジカルボン酸化合物(I−2)のXが炭素原子の場合にYを構成する電子吸引性の置換基または原子としては、ホルミル基、ニトロ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましい。
【0028】
ジカルボン酸化合物(I−1)とジカルボン酸化合物(I−2)との組み合わせとしては、5−メトキシイソフタル酸と5−ニトロイソフタル酸、5−メトキシイソフタル酸と5−ホルミルイソフタル酸、イソフタル酸と5−フルオロイソフタル酸、イソフタル酸と5−クロロイソフタル酸、イソフタル酸と5−ブロモイソフタル酸、イソフタル酸と5−ヨードイソフタル酸またはイソフタル酸と3,5−ピリジンジカルボン酸が好ましい。
【0029】
本発明の金属錯体は、2種類のジカルボン酸化合物(I−1)及び(I−2)を有する。ここで、ジカルボン酸化合物(I−1)は、Yが電子供与性基である限り2種以上のジカルボン酸化合物(I−1)を含んでいてもよい。また、ジカルボン酸化合物(I−2)は、Yが電子吸引性基であるか、XがNである限り2種以上のジカルボン酸化合物(I−2)を含んでいてもよい。
【0030】
ジカルボン酸化合物(I)から選択される2種類のジカルボン酸化合物の混合比率は、ジカルボン酸化合物(I−1)とジカルボン酸化合物(I−2)とのモル比で、ジカルボン酸化合物(I−1):ジカルボン酸化合物(I−2)=1:99〜30:70の範囲内が好ましく、5:95〜30:70の範囲内がより好ましい。この範囲外では混合ガスの分離能が低下する。
なお、ジカルボン酸化合物(I−1)が2種以上含まれる場合には、その合計のモル数が上記の範囲に含まれていればよい。同様に、ジカルボン酸化合物(I−2)が2種以上含まれる場合には、その合計のモル数が上記の範囲に含まれていればよい。
【0031】
周期表6〜12族の第4〜6周期に属する金属としては、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、銅、亜鉛、カドミウムを使用することができ、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウムが好ましく、亜鉛がより好ましい。
【0032】
金属錯体の製造に用いる周期表6〜12族の第4〜6周期に属する金属の塩としては、クロム塩、モリブデン塩、タングステン塩、マンガン塩、鉄塩、ルテニウム塩、コバルト塩、ロジウム塩、ニッケル塩、パラジウム塩、銅塩、亜鉛塩及びカドミウム塩を使用することができ、マンガン塩、ニッケル塩、銅塩、亜鉛塩、カドミウム塩が好ましく、亜鉛塩がより好ましい。また、これらの金属塩としては、酢酸塩、ギ酸塩などの有機酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩などの無機酸塩を使用することができる。金属塩のモル濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では未反応の金属塩が残留し、得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0033】
二座配位可能な有機配位子は、例えば、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピラジン、2,5−ジメチルピラジン、4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エチン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタジイン、1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン、3,6−ジ(4−ピリジル)−1,2,4,5−テトラジン、2,2’−ビ−1,6−ナフチリジン、フェナジン、ジアザピレン、トランス−1,2−ビス(4−ピリジル)エテン、4,4’−アゾピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,2−ビス(4−ピリジル)−グリコール及びN−(4−ピリジル)イソニコチンアミドを挙げることができ、中でも4,4’−ビピリジルが好ましい。ここで、二座配位可能な有機配位子とは非共有電子対で金属に対して配位する部位を2箇所持つ中性配位子を意味する。
【0034】
ジカルボン酸化合物(I)[ジカルボン酸化合物(I−1)及び(I−2)のモル数の合計]と二座配位可能な有機配位子との混合比率は、ジカルボン酸化合物(I):二座配位可能な有機配位子=1:5〜8:1のモル比の範囲内が好ましく、1:3〜6:1のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、副反応も増えるために好ましくない。
【0035】
金属塩と二座配位可能な有機配位子の混合比率は、金属塩:二座配位可能な有機配位子=3:1〜1:3のモル比の範囲内が好ましく、2:1〜1:2のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲では目的とする金属錯体の収率が低下し、また、未反応の原料が残留して得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0036】
ジカルボン酸化合物(I)のモル濃度[ジカルボン酸化合物(I−1)及び(I−2)のモル濃度の合計]は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0037】
二座配位可能な有機配位子のモル濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0038】
金属錯体の製造に用いる溶媒としては、有機溶媒、水またはそれらの混合溶媒を使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、水またはこれらの混合溶媒を使用することができる。反応温度としては、253〜423Kが好ましい。
【0039】
結晶性の良い金属錯体は、純度が高くて吸着性能が良い。反応が終了したことはガスクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーにより原料の残存量を定量することにより確認することができる。反応終了後、得られた混合液を吸引濾過に付して沈殿物を集め、有機溶媒による洗浄後、373K程度で数時間真空乾燥することにより、本発明の金属錯体を得ることができる。
【0040】
以上のようにして得られる本発明の金属錯体からなる分離材は、ジカルボン酸化合物(I)と金属イオン(例えば、亜鉛イオン)からなる一次元鎖が、二座配位子により連結された二次元シートが形成されている。そして、これらの二次元シートが集積することにより、細孔(一次元チャンネル)を有する三次元構造をとる。
【0041】
金属錯体における三次元構造は、合成後の結晶においても変化できるため、その変化に伴って、細孔の構造や大きさも変化する。この構造が変化する条件は、吸着される物質の種類、吸着圧力、吸着温度に依存する。すなわち、細孔表面と物質の相互作用の差に加え(相互作用の強さは物質のLennard−Jonesポテンシャルの大きさに比例)、吸着する物質により構造変化の程度が異なるため、高い選択性が発現する。本発明では、それぞれ単独で用いた場合に異なる吸着挙動を示す金属錯体を構築するジカルボン酸化合物を混合して用いることで、それぞれの特徴を併せ持たせることができる。例えば、混合ガスの分離能は低いが吸着除去したいガスの分圧が低い時の吸着量が多い金属錯体を構築するジカルボン酸化合物と、混合ガスの分離能は高いが吸着除去したいガスの分圧が低い時の吸着量が少ない金属錯体を構築するジカルボン酸化合物を混合して用いることで、高い混合ガスの分離能と吸着量を両立することができる。従って、吸着平衡型と速度分離型のいずれの方法においても優れたガス分離性能が発現する。吸着された物質が脱着した後は、元の構造に戻るので、細孔の大きさも元に戻る。
【0042】
前記の選択吸着メカニズムは推定ではあるが、例え前記メカニズムに従っていない場合でも、本発明で規定する要件を満足するのであれば、本発明の技術的範囲に包含される。
【0043】
本発明の金属錯体は、各種ガスを選択的に吸着することができるので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン(ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなど)、水蒸気または有機蒸気などを分離するための分離材として好ましく、特に、メタン中の二酸化炭素、水素中の二酸化炭素、窒素中の二酸化炭素または空気中のメタンなどを、圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により分離するのに適している。有機蒸気とは、常温、常圧で液体状の有機物質の気化ガスを意味する。このような有機物質としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;トリメチルアミンなどのアミン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類;炭素数5〜16の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;塩化メチル、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
【0045】
(1)粉末X線回折パターンの測定
X線回折装置を用いて、回折角(2θ)=5〜50°の範囲を走査速度1°/分で走査し、対称反射法で測定した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社リガク製RINT2400
X線源:CuKα(λ=1.5418Å) 40kV 200mA
ゴニオメーター:縦型ゴニオメーター
検出器:シンチレーションカウンター
ステップ幅:0.02°
スリット:発散スリット=0.5°
受光スリット=0.15mm
散乱スリット=0.5°
【0046】
(2)単結晶X線結晶構造解析
得られた単結晶をゴニオヘッドにマウントし、単結晶X線回折装置を用いて測定した。
分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社リガク製MERCURY
X線源:MoKα(λ=0.71073Å) 50kV 100mA
検出器:CCD
コリメータ:Φ0.8mm
解析ソフト:SHELXS−97
【0047】
(3)吸脱着等温線の測定
高圧ガス吸着装置を用いて容量法で測定を行った。このとき、測定に先立って試料を373K、50Paで10時間乾燥し、吸着水などを除去した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:日本ベル株式会社製BELSORP−HP
平衡待ち時間:500秒
【0048】
(4)混合ガス分離性能の測定
三方コックとセプタムを装着したガラス製10mL二口フラスコを用意し、三方コックの一方の口に別の三方コックを介して100mLのシリンジをチューブで接続した。測定は、二口フラスコに試料を入れ、373K、4.0x10−3Paで3時間乾燥し、吸着水などを除去した後に、フラスコに装着している三方コックを閉じ、続いてシリンジ側の三方コックを通じてシリンジに100mLの混合ガスを導入し、最後にフラスコに装着している三方コックを開き、試料に混合ガスを吸着させた。このとき、吸着量はシリンジの目盛りの減少分から算出し(死容積はあらかじめヘリウムを用いて測定)、ガス組成はガスクロマトグラフィーで分析して算出した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社島津製作所製GC−14B
カラム:ジーエルサイエンス株式会社製WG−100
INJ温度:100℃
DET温度:50℃
カラム温度:50℃
キャリアガス:ヘリウム
注入量:1mL
検出器:TCD
【0049】
(5)0.1MPaにおけるガス吸着速度の測定
三方コックとセプタムを装着したガラス製10mL二口フラスコを用意し、三方コックの一方の口に別の三方コックを介して100mLのシリンジをチューブで接続した。測定は、二口フラスコに試料を入れ、373K、4.0x10−3Paで3時間乾燥し、吸着水などを除去した後に、フラスコに装着している三方コックを閉じ、続いてシリンジ側の三方コックを通じてシリンジに100mLの混合ガスを導入し、最後にフラスコに装着している三方コックを開き、試料に混合ガスを吸着させた。このとき、吸着量はシリンジの目盛りの減少分から算出した(死容積はあらかじめヘリウムを用いて測定)。
【0050】
<合成例1>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物5.00g(17mmol)、5−メトキシイソフタル酸0.318g(1.6mmol)、5−ニトロイソフタル酸3.08g(15mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。吸引濾過の後、エタノールで3回洗浄し、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体5.74g(収率80%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図1に示す。また、得られた金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図2に示す。
【0051】
<合成例2>
窒素雰囲気下、硝酸マンガン六水和物3.56g(12mmol)、イソフタル酸0.207g(1.2mmol)、3,5−ピリジンジカルボン酸1.87g(11mmol)及び4,4’−ビピリジル1.95g(12mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。吸引濾過の後、エタノールで3回洗浄し、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体3.55g(収率76%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図3に示す。また、得られた金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図4に示す。
【0052】
<比較合成例1>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物5.00g(17mmol)、5−メトキシイソフタル酸3.18g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。得られた結晶について、単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。また、結晶構造を図5に、二次元シート中の亜鉛の配位環境を図6に示す。
Triclinic(P−1)
a=10.073(3)Å
b=10.202(4)Å
c=10.526(5)Å
α=66.53(4)°
β=75.03(2)°
γ=77.06(2)°
V=949.48(6)Å3
Z=2
R=0.0792
Rw=0.2712
吸引濾過の後、エタノールで3回洗浄し、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体6.14g(収率87%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図7に示す。また、得られた金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図8に示す。図8より、本錯体がIUPACの分類におけるI型の吸着プロファイルを示すことが分かる。
【0053】
<比較合成例2>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物5.00g(17mmol)、5−ニトロイソフタル酸3.59g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。得られた結晶について、単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。また、結晶構造を図9に、二次元シート中の亜鉛の配位環境を図10に示す。
Triclinic(P−1)
a=10.112(3)Å
b=10.349(1)Å
c=10.730(1)Å
α=65.20(2)°
β=77.28(2)°
γ=79.33(2)°
V=989.04(3)Å3
Z=2
R=0.0624
Rw=0.1750
吸引濾過の後、エタノールで3回洗浄し、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体5.34g(収率73%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図11に示す。また、得られた金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図12に示す。図12より、本錯体がある一定圧を超えると急激にガスを吸着する吸着プロファイルを示すことが分かる。
【0054】
<比較合成例3>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物5.00g(17mmol)、5−メトキシイソフタル酸1.27g(6.5mmol)、5−ニトロイソフタル酸2.05g(9.7mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。吸引濾過の後、エタノールで3回洗浄し、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体4.55g(収率64%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図13に示す。また、得られた金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図14に示す。
【0055】
<比較合成例4>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物297mg(1.0mmol)、5−メトキシイソフタル酸98.0mg(0.50mmol)及び5−ニトロイソフタル酸105mg(0.50mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド20mLに298Kで溶解させた(A液)。
次に、窒素雰囲気下、4,4’−ビピリジル156mg(1.0mmol)をメタノール20mLに298Kで溶解させた(B液)。
窒素雰囲気下、A液の上部にB液を298Kで静かに加えて二層を形成させ、343Kで二日間静置した。生成した結晶を濾別し、単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。また、結晶構造を図15に、二次元シート中の亜鉛の配位環境を図16に示す。図16より、5−メトキシイソフタル酸部位と5−ニトロイソフタル酸部位がディスオーダーしていることが分かる。
Triclinic(P−1)
a=10.046(12)Å
b=10.455(9)Å
c=10.519(10)Å
α=65.32(5)°
β=76.24(5)°
γ=76.53(5)°
V=963.9(16)Å3
Z=2
R=0.1122
Rw=0.3256
【0056】
<比較合成例5>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物5.00g(17mmol)、2,7−ナフタレンジカルボン酸3.68g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。吸引濾過の後、エタノールで3回洗浄を行い、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体7.02g(収率95%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図17に示す。また、得られた金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図18に示す。
【0057】
<比較合成例6>
窒素雰囲気下、硝酸マンガン六水和物4.82g(17mmol)、イソフタル酸2.80g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。吸引濾過の後、エタノールで3回洗浄を行い、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体5.67g(収率90%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図19に示す。また、得られた金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図20に示す。
【0058】
<比較合成例7>
窒素雰囲気下、硝酸マンガン六水和物4.82g(17mmol)、3,5−ピリジンジカルボン酸2.80g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。吸引濾過の後、エタノールで3回洗浄を行い、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体4.86g(収率76%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図21に示す。また、得られた金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図22に示す。
【0059】
図1、図7、図11及び図13より、合成例1及び比較合成例3で得られた金属錯体は比較合成例1及び比較合成例2で得られた金属錯体の混合物ではないことが分かる。
【0060】
図6、図10及び図16より、5−メトキシイソフタル酸と5−ニトロイソフタル酸を混合して得られる金属錯体は、その結晶構造内に5−メトキシイソフタル酸に由来する部位と5−ニトロイソフタル酸に由来する部位が連続的にランダムに存在することが分かる。
【0061】
図3、図19及び図21より、合成例2で得られた金属錯体は比較合成例6及び比較合成例7で得られた金属錯体の混合物ではないことが分かる。
【0062】
<実施例1>
合成例1で得た金属錯体について、容量比で二酸化炭素:メタン=50:50からなる二酸化炭素とメタンの混合ガスを用い、273K、0.1MPaにおける分離性能を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
<比較例1>
比較合成例1で得た金属錯体について、容量比で二酸化炭素:メタン=50:50からなる二酸化炭素とメタンの混合ガスを用い、273K、0.1MPaにおける分離性能を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
<比較例2>
比較合成例2で得た金属錯体について、容量比で二酸化炭素:メタン=50:50からなる二酸化炭素とメタンの混合ガスを用い、273K、0.1MPaにおける分離性能を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
<比較例3>
比較合成例3で得た金属錯体について、容量比で二酸化炭素:メタン=50:50からなる二酸化炭素とメタンの混合ガスを用い、273K、0.1MPaにおける分離性能を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
<比較例4>
比較合成例5で得た金属錯体について、容量比で二酸化炭素:メタン=50:50からなる二酸化炭素とメタンの混合ガスを用い、273K、0.1MPaにおける分離性能を測定した。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1より、本発明の金属錯体は二酸化炭素選択率を100%に維持しつつ、かつ二酸化炭素の吸着量が大きいので、メタンと二酸化炭素の分離材として優れていることは明らかである。ここで、「CO2選択率」は、吸着された全ガス中に占める二酸化炭素の割合と定義する。
【0069】
<実施例2>
合成例2で得た金属錯体について、273K、0.1MPaにおける二酸化炭素とメタンの吸着速度を測定した。吸着開始3分後の二酸化炭素とメタンの吸着量を表2に示す。
【0070】
<比較例5>
比較合成例6で得た金属錯体について、273K、0.1MPaにおける二酸化炭素とメタンの吸着速度を測定した。吸着開始3分後の二酸化炭素とメタンの吸着量を表2に示す。
【0071】
<比較例6>
比較合成例7で得た金属錯体について、273K、0.1MPaにおける二酸化炭素とメタンの吸着速度を測定した。吸着開始3分後の二酸化炭素とメタンの吸着量を表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2より、本発明の金属錯体は高い二酸化炭素選択吸着能を有し、かつ二酸化炭素の吸着量が大きいので、メタンと二酸化炭素の分離材として優れていることは明らかである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるジカルボン酸化合物(I)から選択され、互いに異なる2種類のジカルボン酸化合物(I−1)及び(I−2)
【化1】
(式中、Xは炭素原子または窒素原子であり、Xが炭素原子の場合にYは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、アミノ基、アミド基またはハロゲン原子であり、Xが窒素原子の場合にYは存在しない。R1、R2及びR3はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基またはハロゲン原子である。ジカルボン酸化合物(I−1)のXは炭素原子であり、Yは電子供与性基であり、ジカルボン酸化合物(I−2)のXは炭素原子または窒素原子であり、Xが炭素原子の場合にYは電子吸引性基である。)と;
周期表6〜12族の第4〜6周期に属する金属、マグネシウム及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属と;
該金属に二座配位可能な有機配位子と;
からなる金属錯体であって、ジカルボン酸化合物(I−1)とジカルボン酸化合物(I−2)とのモル比率が、1:99〜30:70の範囲内である;
ことを特徴とする金属錯体。
【請求項2】
ジカルボン酸化合物(I−1)とジカルボン酸化合物(I−2)との組み合わせが、5−メトキシイソフタル酸と5−ニトロイソフタル酸、5−メトキシイソフタル酸と5−ホルミルイソフタル酸、イソフタル酸と5−フルオロイソフタル酸、イソフタル酸と5−クロロイソフタル酸、イソフタル酸と5−ブロモイソフタル酸、イソフタル酸と5−ヨードイソフタル酸またはイソフタル酸と3,5−ピリジンジカルボン酸である請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
該二座配位可能な有機配位子が1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピラジン、2,5−ジメチルピラジン、4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エチン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタジイン、1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン、3,6−ジ(4−ピリジル)−1,2,4,5−テトラジン、2,2’−ビ−1,6−ナフチリジン、フェナジン、ジアザピレン、トランス−1,2−ビス(4−ピリジル)エテン、4,4’−アゾピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,2−ビス(4−ピリジル)−グリコール及びN−(4−ピリジル)イソニコチンアミドから選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の金属錯体。
【請求項4】
該金属が亜鉛である請求項1〜3いずれかに記載の金属錯体。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の金属錯体からなる分離材。
【請求項6】
該分離材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材である請求項5に記載の分離材。
【請求項7】
該分離材が、メタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素または空気とメタンを分離するための分離材である請求項5に記載の分離材。
【請求項8】
ジカルボン酸化合物(I)から選択され、互いに異なる2種類のジカルボン酸化合物(I−1)及び(I−2)と、周期表6〜12族の第4〜6周期に属する金属、マグネシウム及びアルミニウムの塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属に二座配位可能な有機配位子とを溶媒中で反応させ、析出させる、請求項1に記載の金属錯体の製造方法。
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるジカルボン酸化合物(I)から選択され、互いに異なる2種類のジカルボン酸化合物(I−1)及び(I−2)
【化1】
(式中、Xは炭素原子または窒素原子であり、Xが炭素原子の場合にYは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、アミノ基、アミド基またはハロゲン原子であり、Xが窒素原子の場合にYは存在しない。R1、R2及びR3はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基またはハロゲン原子である。ジカルボン酸化合物(I−1)のXは炭素原子であり、Yは電子供与性基であり、ジカルボン酸化合物(I−2)のXは炭素原子または窒素原子であり、Xが炭素原子の場合にYは電子吸引性基である。)と;
周期表6〜12族の第4〜6周期に属する金属、マグネシウム及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の金属と;
該金属に二座配位可能な有機配位子と;
からなる金属錯体であって、ジカルボン酸化合物(I−1)とジカルボン酸化合物(I−2)とのモル比率が、1:99〜30:70の範囲内である;
ことを特徴とする金属錯体。
【請求項2】
ジカルボン酸化合物(I−1)とジカルボン酸化合物(I−2)との組み合わせが、5−メトキシイソフタル酸と5−ニトロイソフタル酸、5−メトキシイソフタル酸と5−ホルミルイソフタル酸、イソフタル酸と5−フルオロイソフタル酸、イソフタル酸と5−クロロイソフタル酸、イソフタル酸と5−ブロモイソフタル酸、イソフタル酸と5−ヨードイソフタル酸またはイソフタル酸と3,5−ピリジンジカルボン酸である請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
該二座配位可能な有機配位子が1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピラジン、2,5−ジメチルピラジン、4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エチン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタジイン、1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン、3,6−ジ(4−ピリジル)−1,2,4,5−テトラジン、2,2’−ビ−1,6−ナフチリジン、フェナジン、ジアザピレン、トランス−1,2−ビス(4−ピリジル)エテン、4,4’−アゾピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,2−ビス(4−ピリジル)−グリコール及びN−(4−ピリジル)イソニコチンアミドから選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の金属錯体。
【請求項4】
該金属が亜鉛である請求項1〜3いずれかに記載の金属錯体。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の金属錯体からなる分離材。
【請求項6】
該分離材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材である請求項5に記載の分離材。
【請求項7】
該分離材が、メタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素または空気とメタンを分離するための分離材である請求項5に記載の分離材。
【請求項8】
ジカルボン酸化合物(I)から選択され、互いに異なる2種類のジカルボン酸化合物(I−1)及び(I−2)と、周期表6〜12族の第4〜6周期に属する金属、マグネシウム及びアルミニウムの塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属に二座配位可能な有機配位子とを溶媒中で反応させ、析出させる、請求項1に記載の金属錯体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2011−68631(P2011−68631A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249618(P2009−249618)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
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