説明

針状体の製造方法

【課題】任意の先端形状および長さを持ち、高い精度でアレイ状に一体成型することのできる微細な針状体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の針状体の製造方法は、基板に針状体の先端部の形状に相当する傾斜面を形成し、前記基板上に支持層を形成し、前記支持層の前記傾斜面に相当する位置に開口部を形成し、前記傾斜面および前記開口部に相当する位置に材料を充填することを特徴とする。このため、基板に傾斜面を形成する工程において、傾斜面の形状により、製造される針状体の先端部の形状を制御することができ、続く支持層を形成する工程において、支持層の厚みを制御することにより、製造される針状体の長さを任意に設計し、製造することが出来る。このとき、針状体の先端形状を決定する工程と、針状体の長さを決定する工程とを個別に行うことが出来るため、針状体の先端形状と長さを精度良く制御することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な針状体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療、創薬における分野での採血または薬剤注入用途において、被験者に痛みを与えない無痛針として微細な針状体の開発が進められている。この微細な針状体の製造方法としては、一般的にシリコンを加工する事により構造を形成する試みが行われている。シリコンは、MEMSデバイスや半導体製造用途に広く用いられている材料であり、安価で、且つ微細加工性に優れる。
【0003】
シリコン製の針状体の作製方法としては、シリコンウェハの両面にシリコン酸化膜を形成してパターニングを施し、その表面から結晶異方性エッチング加工を施し、裏面からドライエッチング加工を施す方法が提案されている。この方法により、例えば長さ500μm以上、幅200μm以下の針状体を作製することができ、またその針状体をアレイ状にすることによって採血の確実性を増すことができるというものである。(特許文献1参照)
【0004】
針状体を生体に対して用いる場合、皮膚を穿孔するための十分な細さと先端角、および皮下に薬液を浸透させるための十分な長さを有していることが必要とされ、ニードルの直径は数μmから100μm、ニードル長さは皮膚の最外層である角質層を貫通し、かつ神経層へ到達しない長さ、具体的には数十μmから数百μm程度のものであることが望ましいとされている。このとき、針状体が150μmよりも十分に長い場合、針状体が神経に十分到達するため、針状体を刺突する際に被験者が痛みを伴う場合がある。(特許文献2参照)
【0005】
また、針状体を構成する材料としては、仮に破損した針状体が体内に残留した場合でも、人体に悪影響を及ぼさない材料であることが必要であり、この材料としては医療用シリコン樹脂や、マルトース、ポリ乳酸、デキストラン等の生体適合樹脂が有望視されている。(特許文献3参照)
【特許文献1】特開2002−369816号公報
【特許文献2】特開2002−239014公報
【特許文献3】特開2005−21677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
薬剤を効率良く体内に供給するためには、針状体をアレイ状に配列して用いるのが一般的である。また、被験者が痛みを伴わないためには、針状体の長さは500μm未満であることが好ましい。しかしながら、前記特許文献1で開示されている技術では、ウェハを打ち抜くことによって個々の針状体を形成するため、500μm未満の長さのものを形成するのは難しい。また、アレイ状針を形成する際に、一度形成した個々の針状体を別の工程でアレイ状に配列する必要があるため、工程数が多くなり、歩留まりが悪くなるという課題がある。
【0007】
針状体を均一なテーパ角度で形成する場合、針状体は角錐または円錐形状となるので、針の長さと先端角度は、どちらか一方の値を決めると、他方の値も決定する。しかしながら、上述の通り薬剤供給の効率および被験者の痛みの観点から針状体の長さは決定されるべきであり、また針状体の先端角度は皮膚の貫通性や針状体の強度によって決定されなければならない。したがって、針状体は所望の先端角度を有し、先端角度によらず、所望の長さを有することが望ましい。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、任意の先端形状および長さを持ち、高い精度でアレイ状に一体成型することのできる微細な針状体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の本発明は、微細な針状体の製造方法において、基板上に傾斜面を形成する工程と、前記基板上に支持層を形成する工程と、前記支持層に前記傾斜面に相当する位置に開口部を形成する工程と、前記傾斜面および前記開口部に充填層を充填する工程と
前記充填層を剥離する工程とを行うことを特徴とする針状体の製造方法である。
【0010】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の針状体の製造方法であって、基板に傾斜面を形成する工程に異方性エッチングを用いることを特徴とする針状体の製造方法である。
【0011】
請求項3に記載の本発明は、請求項1に記載の針状体の製造方法であって、基板に傾斜面を形成する工程に精密機械加工法、レーザー加工法、イオンビーム加工法、超音波加工法またはサンドブラスト加工法のいずれかを用いることを特徴とする針状体の製造方法である。
【0012】
請求項4に記載の本発明は、請求項1から3のいずれかに記載の針状体の製造方法であって、支持層に開口部を形成する工程にフォトリソグラフィ法を用いることを特徴とする針状体の製造方法である。
【0013】
請求項5に記載の本発明は、請求項1から3のいずれかに記載の針状体の製造方法であって、支持層に開口部を形成する工程に異方性エッチングを用いることを特徴とする針状体の製造方法である。
【0014】
請求項6に記載の本発明は、請求項1から5のいずれかに記載の針状体の製造方法であって、基板にV字型の段差を設けることで傾斜面を形成し、前記V字型の片側側面に対応する位置に開口部を設けることを特徴とする針状体の製造方法である。
【0015】
請求項7に記載の本発明は、請求項1から5のいずれかに記載の針状体の製造方法であって、基板にV字型の凸部を少なくとも一つ以上設けることで傾斜面を形成し、前記V字型の凸部の最先端部を少なくとも一つ以上含む位置に開口部を設けることを特徴とする針状体の製造方法である。
【0016】
請求項8に記載の本発明は、請求項1から7のいずれかに記載の針状体の製造方法であって、前記開口部の内壁を成す面と、前記支持層の表面を成す面とが角を成して直接交わらないように面取り加工を行うことを特徴とする針状体の製造方法である。
【0017】
請求項9に記載の本発明は、請求項1から8のいずれかに記載の針状体の製造方法で作製した針状体を母型とし、前記母型から複製版を作り、転写加工成形を行うことを特徴とする針状体の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の本発明の針状体の製造方法は、基板に針状体の先端部の形状に相当する傾斜面を形成し、前記基板上に支持層を形成し、前記支持層の前記傾斜面に相当する位置に開口部を形成し、前記傾斜面および前記開口部に相当する位置に材料を充填することを特徴とする。
このため、基板に傾斜面を形成する工程において、傾斜面の形状を制御することにより、製造される針状体の先端部の形状を制御することができ、続く支持層を形成する工程において、支持層の厚みを制御することにより、製造される針状体の長さを制御することが出来る。
このとき、針状体の先端形状を決定する工程と、針状体の長さを決定する工程とを個別に行うことが出来るため、針状体の先端形状と長さを精度良く制御することが出来る。このため、針状体の形状および寸法を任意に設計し、製造することが可能となる。これにより、所望の先端形状を有し、且つ所望の長さを有する針状体を、容易に作製することが出来る。
また、アレイ状に傾斜面または開口部を設け、充填層を充填することで、複数の針状体がアレイ状に並んだ構造体を形成することが出来る。このとき、充填層を支持層表面にまで形成することで、アレイ状に配列された針状体およびシート状の支持部を容易に一体成形し、製造することが出来る。
【0019】
請求項2に記載の本発明の針状体の製造方法は、基板に傾斜面を形成する工程に異方性エッチングを用いることを特徴とする。ここで、異方性エッチングとは、結晶異方性ウェットエッチングと異方性ドライエッチングを含む。エッチング条件により基板に形成する傾斜面を制御することが出来るため、複数の傾斜面を一様に精度よく形成することが出来る。このため、複数の針状体がアレイ状に並んだ構造体において、針状体を精度良く一様に製造することが可能となる。また、アレイ状に配列された針状体を製造する場合、エッチングに対する基板上のマスクのパターニングを行うことにより、アレイの間隔を制御することが出来る。
また、特に、基板にシリコンを用い結晶異方性ウェットエッチングを行った場合、シリコンは結晶異方性ウェットエッチング加工に対して、面方位によって大きくエッチング速度が違うため、シリコン基板の表面の面方位を選択することで、針の先端形状となる傾斜面を容易に形成することが出来る。
【0020】
請求項3に記載の本発明の針状体の製造方法は、基板に傾斜面を形成する工程に精密機械加工法、レーザー加工法、イオンビーム加工法、超音波加工法またはサンドブラスト加工法のいずれかを用いることを特徴とする。
これにより、前記加工法の精度の範囲で多様な形状の傾斜面を基板上に形成することが出来る。このため、多様な先端部形状を持つ針状体を設計し、製造することが可能となる。
【0021】
請求項4に記載の本発明の針状体の製造方法は、開口部を形成する工程にフォトリソグラフィ法を用いることを特徴とする。
これにより、露光および現像工程を実施することで、針状体の支持層に垂直な側壁を有する開口部を、傾斜面に対応する位置に精度良く、一括で形成することが出来る。
【0022】
請求項5に記載の本発明の針状体の製造方法は、支持層に開口部を形成する工程に異方性エッチングを用いることを特徴とする。
これにより、レジストのように感光性を持たない材料を支持層に用いた場合に対しても、針状体の支持層に垂直な側壁を有する開口部を、傾斜面に対応する位置に精度良く、一括で形成することが出来る。
【0023】
請求項6に記載の本発明の針状体の製造方法は、基板にV字型の段差を設けることで傾斜面を形成し、前記V字型の溝の片側側面に対応する位置に開口部を設けることを特徴とする。
これにより、先端部が非対称に尖った形状の針状体を製造することが出来る。このため、先端部が鋭い形状の針状体を製造することが可能となる。
【0024】
請求項7に記載の本発明の針状体の製造方法は、基板にV字型の凸部を少なくとも一つ以上設けることで傾斜面を形成し、前記V字型の凸部の最先端部を少なくとも一つ以上含む位置に開口部を設けることを特徴とする。
これにより、先端部に少なくとも一つ以上の凹部を有する形状の針状体を製造することが出来る。このため、塗布した薬液や、採取した体液を保持するのに適した凹部を先端部に有した針状体を製造することが可能となる。
【0025】
請求項8に記載の本発明の針状体の製造方法は、前記開口部の内壁を成す面と、前記支持層の表面を成す面とが角を成して直接交わらないように面取り加工を行うことを特徴とする。
これにより、針状体の側面と、針状体の直立する地面とが角を成して交わらず、針状体の基底部に、針状体の側面と、針状体の直立する地面を接続する裾を持った形状の針状体を製造することが出来る。よって、刺突の際に大きな応力のかかる基底部において、応力を分散することの出来る形状を成した針状体を製造することが出来る。このため、刺突の際に大きな応力がかかる基底部が補強された形状の針状体を製造することができ、刺突の際に折れにくいという効果を奏する針状体を製造することが可能となる。
また、続く転写加工成形の工程において、充填層を離型する際に、製造される針状体の基底部にかかる大きな応力が分散されるため、転写された針状体の離型性が向上するという効果を奏する。
【0026】
請求項9に記載の本発明の針状体の製造方法は、作製した針状体を母型とし、前記母型から複製版を作り、転写加工成形を行うことを特徴とする。
これにより、様々な材料に製造された針状体の形状を転写することが出来る。このため、例えば、生体適合樹脂(医療用シリコン樹脂や、マルトース、ポリ乳酸、デキストラン等)に転写することで、生体に低負荷の材料を用いた針状体を製造することが可能となる。
また、一体成形された機械的強度の高い複製版を作成することにより、同一の複製版で多量の針状体を製造することが出来るため、生産コストを低くし、生産性を高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の針状体の製造方法の一例として、図1を用いて説明を行う。
【0028】
<基板上に傾斜面を形成する工程>
まず、基板上に傾斜面を形成する。
図1(a)に示す通り、所定の基板1に、本発明によって製造される針状体の先端部の形状に相当する傾斜面2を形成する。本発明によって製造される針状体の先端形状は、最終的に傾斜面2の形状を反転した形で形成される。
なお、図1(a)では傾斜面2が単一のV字型溝である例を示したが、図2に示す通り、傾斜面2の形状が複数のV字溝(図2(a))や凸の錐形状(図2(b))でもよい。また傾斜面2は平面に限定されず、図2(c)に示すように曲面でも良い。
また、基板1の表面上方から見た場合の傾斜面2の形状は特に制限されない。円形、楕円形、任意の多角形を含む、任意の形状を用いることが出来る。基板1の表面上方から見た場合の傾斜面2の形状は、最終的に形成する針状体の機械的強度および穿刺性を考慮して選択することが望ましい。
【0029】
このとき、基板1および傾斜面2の形成方法は特に制限されず、傾斜面2を加工する際の加工適正や、材料の入手容易性などから基板1を選択することが望ましい。
例えば、精密機械加工法、レーザー加工法、イオンビーム加工法、超音波加工法またはサンドブラスト加工法のいずれかによって傾斜面2を形成する場合、基板1はステンレス、アルミ、銅などの金属、ポリカーボネート、アクリル、フッ素樹脂などの有機化合物、シリコン、石英、アルミナなどの無機化合物を好適に用いることが出来る。
また、ドライエッチング法によって傾斜面2を加工する場合、加工性の観点からシリコン、石英、およびガラスを好適に用いることが出来る。
また、結晶異方性のウェットエッチング法で傾斜面2を形成する場合は、単結晶シリコン基板を好適に用いることが出来る。
【0030】
精密機械加工法、レーザー加工法、イオンビーム加工法、超音波加工法またはサンドブラスト加工法のいずれかによって傾斜面2を形成する場合、前記加工法の精度の範囲で多様な形状の傾斜面を基板上に形成することが出来る。このため、多様な先端部形状を持つ針状体を設計し、製造することが可能となる。
【0031】
基板1として単結晶シリコン基板を用意し、基板1に傾斜面2を形成する工程に異方性エッチングを用いる場合、シリコンは結晶異方性エッチング加工に対して、面方位によって大きくエッチング速度が違うため、シリコン基板の表面の面方位を選択することで、針の先端形状となる傾斜面を容易に形成することが出来る。
特に、アレイ状に配列された針状体を製造する場合、エッチングに対する基板上のマスクのパターニングを行うことにより、アレイの間隔を制御することが出来る。また、このとき、複数の傾斜面を一様に精度よく形成することが出来る。このため、複数の針状体がアレイ状に並んだ構造体において、針状体を精度良く一様に製造することが可能となる。
【0032】
<基板上に支持層を形成する工程>
次に、傾斜面2を形成した基板1上に、支持層3を形成する。このとき、支持層3の厚みを制御することにより、製造される針状体の先端部を除いた部分の長さを制御することが出来る。
【0033】
このとき、支持層3の材質としては特に制限されず、ステンレス、アルミ、ニッケル、銅などの金属、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリイミド、アクリル、フッ素樹脂などの有機化合物、シリコン、石英、アルミナなどの無機化合物を用いることが出来る。また、支持層3は後述する開口部4の形成において、フォトリソグラフィ法を用いることが出来るため、レジスト材料であることが望ましい。
【0034】
また、支持層3の形成方法としては、スピンコート法、スリットコート法、ディップコート法、スプレーコート法、CVD法、PVD法、メッキ法などが挙げられる。特に、前記各種コート法は短時間で厚さの均一な膜を容易に形成することができるため、好適に支持層3を形成することが出来る。
【0035】
<開口部を形成する工程>
次に、基板1上に形成した支持層3に対して、傾斜面2に対応する位置に開口部4を形成し、第一の凹型版10を得る(図1(c))。
このとき、傾斜面2に対応する位置とは、図1(c)に示すように、傾斜面2の開口幅に一致する場合に限定されず、傾斜面2の開口幅よりも大きく(図3(a))、或いは小さく(図2(b))形成しても良い。
【0036】
支持層3に開口部4を形成する方法としては、精密機械加工法、レーザー加工法、イオンビーム加工法、超音波加工法、サンドブラスト加工法、ドライエッチング法およびウェットエッチング法を用いることが出来る。
【0037】
また、支持層3にレジストを用いる場合は、フォトリソグラフィ法、電子ビームリソグラフィ法、イオンビームリソグラフィ法およびX線リソグラフィ法によって、開口部4を形成することが出来る。上記方法を用いることで、精度よくパターンを支持層3に描写することが出来る。このため、位置および寸法が高い精度で制御された開口部4を形成することが出来る。また、上記パターンを制御することで開口部4の形状を任意に制御することが出来る。
【0038】
基板1にV字型の段差を設けることで傾斜面2を形成し、前記V字型の溝の片側側面に対応する位置に開口部を設けた場合、先端部が非対称に尖った形状の針状体を製造することが出来る(図3(c))。このため、先端部が鋭い形状の針状体を製造することが可能となる。ここでV字型の段差とはV字の凹部に限定されず、V字が反転された凸部の形状も含むものとする。
【0039】
また、基板1にV字型の凸部を少なくとも一つ以上設けることで傾斜面を形成し、前記V字型の凸部の最先端部を少なくとも一つ以上含む位置に開口部を設けた場合、先端部に少なくとも一つ以上の凹部を有する形状の針状体を製造することが出来る(図3(b))。このため、塗布した薬液や、採取した体液を保持するのに適した凹部を先端部に有した針状体を製造することが可能となる。ここで、V字型の凸部とは、V字を反転した錘状の凸部の形状を示す。
また、図2(a)に示すように、溝を複数隣接して設けることで複数の凸部を形成し、複数の凸部を含む位置に開口部を設けることで、製造される針状体の先端部に複数の凹部を設けることが出来る。
【0040】
<第一の充填層を充填する工程>
次に、凹型版10に第一の充填層5を充填する(図1(d))。
【0041】
このとき、第一の充填層5の材質および形成法は特に制限されず、選択した材料に対して好適な方法を適宜選択することが出来る、
【0042】
例えば、第一の充填層5の材質として、ニッケルや銅などの金属または合金を用いる場合、第一の充填層5の形成方法としては、めっき法、PVD法、CVD法などを好適に適用することが出来る。
また、第一の充填層5の材質として、シリコン、石英、アルミナ等の無機化合物を用いる場合、第一の充填層5の形成方法としてはPVD法、CVD法、焼結法を好適に用いることが出来る。
また、第一の充填層5の材質として、ポリエチレン、ポリカーボネート、PET等の有機化合物を用いる場合、第一の充填層5の形成方法としてインプリント法、ホットエンボス法、射出成形法およびキャスティング法が好適に用いることが出来る。
ここで、第一の充填層5の材質として医療用シリコン樹脂や、マルトース、ポリ乳酸、デキストラン等の生体適合性材料を選択すれば、生体用途に適用可能な針状体を製造することが出来る。
【0043】
また、後述する第一の充填層5を基板1から剥離する工程において、第一の充填層5の剥離性を向上させるために、第一の充填層5の形成前に、凹型版10の表面上に離型効果を増すための離型層を形成してもよい(図示せず)。
離型層としては、例えば広く知られているフッ素系の樹脂を用いることが出来る。
また、離型層の形成方法としては、PVD法、CVD法、スピンコート法、ディップコート法等の薄膜形成手法を好適に用いることができる。
【0044】
また、後述する第一の充填層5を凹型版10から剥離する工程において、第一の充填層5の剥離性を向上させるために、第一の充填層5の形成前に、前記開口部の内壁を成す面と、前記支持層の表面を成す面とが角を成して直接交わらないように面取り加工してもよい(図4(c))。
図4(c)に示すように、開口部4上部の角部を面取りして、面取りした角部9を形成することで、図4(d)のように最終的に形成される基底部に、針状体の側面と、針状体の直立する地面を接続する裾を持った形状にすることが出来るため、刺突時の針状体基底部への応力の集中を緩和でき、針状体の強度を補強することができる。また、充填層を離型する際に、製造される針状体の基底部にかかる大きな応力が分散されるため、転写された針状体の離型性が向上するという効果を奏する。
【0045】
このとき、支持層3に形成した開口部4上部の角部の面取り方法としては、精密機械加工法、レーザー加工法、イオンビーム加工法、超音波加工法、サンドブラスト加工法、ドライエッチング法およびウェットエッチング法を用いることが出来る。
また、支持層3にレジストなどの有機高分子材料を適用した場合は、熱によるリフロー法によって、開口部4上部の面取り加工を行っても良い。
熱によるリフロー法を用いた場合、開口上部の角部の変形は、加熱温度を高くするほど大きくなる傾向がある。
また、凹型版10を酸素ガスによるRIE法によってエッチングした場合、バイアス電力を大きくした場合、またはエッチング量を大きくした場合に開口上部の角部の変形が大きくなる傾向がある。
【0046】
<充填層を凹型版から剥離する工程>
次に、第一の充填層5と凹型版10を分離する工程を実施する。
第一の充填層5と凹型版10に物理的な剥離力を加えて剥離し、針状体11を得る(図1(e))。
【0047】
第一の充填層5と凹型版10の密着性が強いために、物理的な剥離力による両者の分離が困難な場合は、第一の充填層5と凹型版10のエッチング選択性の違いを利用したエッチング法によって、凹型版10のみを選択的に除去してもよい。
例えば、基板1が単結晶シリコン、支持層3がポリシリコン、第一の充填層5がニッケルの場合、KOHやTMAH等のアルカリ溶液を90℃程度まで加熱した溶液によるウェットエッチング法で、単結晶シリコンからなる基板1およびポリシリコンからなる支持層3のみを選択的にエッチングして除去することが出来る。
また、例えば、基板1がポリカーボネート、支持層3がフォトレジスト、第一の充填層5がポリシリコンの場合、酸素プラズマによるドライエッチングによってポリカーボネートからなる基板1とフォトレジストからなる支持層3のみを選択的にエッチングして除去することが出来る。
【0048】
以上より、先端形状および長さの制御が容易な微細な針状体を製造することが出来る。本発明の針状体の製造方法は針状体の先端形状を決定する工程と、針状体の長さを決定する工程とを個別に行うことが出来るため、針状体の先端形状と長さを精度良く制御することが出来る。このため、針状体の形状および寸法を任意に設計し、製造することが可能となる。これにより、所望の先端形状を有し、且つ所望の長さを有する針状体を、容易に作製することが出来る。
【0049】
<針状体の転写加工成形>
前記製造した針状体11を母型とし、鋳型層6を形成し、複製版12を形成する。一体成形された機械的強度の高い複製版12を作成し、転写加工成形を行うことで、同一の複製版で多量の針状体を製造することが出来るため、生産コストを低くし、生産性を高めることが可能となる。
【0050】
まず、針状体11が形成された面に、複製版12を形成するための鋳型層6を形成する(図1(f))。
このとき、凹型版10を形成する際は、形状の加工方法によって材質の制限があったが、複製版12を形成する場合の材質の制限は大きく緩和されるという利点がある。
このため、鋳型層6の材質については、特に制限されず、複製版として機能するだけの形状追従性、後述する転写加工成形における転写製、耐久性および離型性を考慮した材質を選択することが出来る。
例えば、鋳型層6の材質としてニッケルを用いても良い。この場合、ニッケル膜の形成方法としては、メッキ法、PVD法、CVD法などが挙げられる。
【0051】
次に、針状体11と鋳型層6を分離し、複製版12を得る(図1(g))。
【0052】
針状体11と鋳型層6を分離する方法としては、前述した凹型版10と針状体11を分離する場合と同様に、物理的な剥離力による分離または選択性エッチング法を用いることが出来る。
【0053】
次に、複製版12に第二の充填層7を形成する(図1(h))。
第二の充填層7の材質は特に制限されないが、生体適合性材料である医療用シリコン樹脂や、マルトース、ポリ乳酸、デキストラン等を用いることで、生体に適用可能な針状体を形成出来る。
第二の充填層7の形成方法についての制限は無いが、生産性の観点から、インプリント法、ホットエンボス法、射出成形法、押し出し成形法およびキャスティング法を好適に用いることが出来る。
【0054】
次に、第二の充填層7を複製版12から離型し、転写成形された針状体13を得る(図1(i))。
【0055】
このとき、複製版12の剥離性を向上させるために、第二の充填層7の形成前に、複製版12の表面上に離型効果を増すための離型層を形成してもよい(図示せず)。
離型層としては、例えば広く知られているフッ素系の樹脂を用いることが出来る。
また、離型層の形成方法としては、PVD法、CVD法、スピンコート法、ディップコート法等の薄膜形成手法を好適に用いることができる。
【実施例1】
【0056】
以下に、具体的実施例を示し、本発明を詳細に説明する。図1は本発明の実施形態の一例を示す部分断面図である。
【0057】
まず、図1(a)に示す通り、ポリカーボネート基板1の一方の面上に、レーザー加工法によって、幅30μm、深さ70μmの逆円錐状の傾斜面2を所定の位置にアレイ状に形成した。また、位置合わせのためのマークをポリカーボネート基板1の同一面上に、レーザー加工法によって形成した。
【0058】
次に、図1(b)に示すように、ポリカーボネート基板1の傾斜面2を形成した面の上に、スピンコート法によってフォトレジスト3を120μmの厚さに形成した。
次に、前記傾斜面2の位置に対応するパターンを有するフォトマスクを用い、前記位置合わせのためのマークを用いてアライメントを行い、位置合わせフォトリソグラフィ法で、図1(c)に示すようにフォトレジスト3に所定の開口部4を形成した。これにより、凹型版10が得られた。凹型版10に形成された針状体の凹型パターンの深さは、傾斜面2の深さ70μmと、フォトレジスト3に形成した開口部4の深さ120μmの和である190μmとなった。
【0059】
次に、図1(d)に示すように、凹型版10のパターンが形成された面上に、メッキ法によってニッケル層を400μmの厚さに形成した。
次に、ニッケル層5を凹型版10から物理的に剥離し、図1(e)に示すように、本発明による針状体11を得た。個々の針状体の高さは、第一の凹型版10に形成された針状体の凹型パターンの深さである190μmとなった。
【実施例2】
【0060】
図1は本発明の実施形態の一例を示す部分断面図である。
【0061】
まず、表面が(100)面からなる単結晶シリコン基板1を準備し、図1(a)に示す通り、異方性ウェットエッチング法によってシリコン基板上に逆四角錐状の傾斜面2と、位置合わせマークを形成した。位置合わせマークは、アレイ状に配置された逆四角錐状の傾斜面パターンが形成された領域とくらべて基板外周に近い領域に形成した。
【0062】
以下、V字型の傾斜面2の形成方法の詳細を示す。
まず、熱酸化法によってシリコン基板1の表面に、結晶異方性ウェットエッチング加工でエッチングマスクとして用いる厚さ300nmのシリコン酸化膜層を形成した。
次に、前記シリコン酸化膜層をパターニングするために、フォトリソグラフィ法によって前記シリコン酸化膜上に一辺が50μmの正方形レジストパターンをアレイ状に形成した。
次に、前記レジストをエッチングマスクとして、フッ素系ガスを主体とした混合ガスによるRIE法によって、前記シリコン酸化膜マスクをシリコン基板1に到達するまでエッチングした。
次に、酸素プラズマによるレジストの除去を実施して、一辺が50μmの正方形がアレイ状に配置された開口を有するシリコン酸化膜マスクを得た。
次に、シリコン酸化膜マスクをエッチングマスクとして、90℃に加熱した重量パーセント濃度30%のKOH水溶液による結晶異方性エッチングを実施し、シリコン基板上にアレイ状に配置された逆四角錐状の傾斜面2を形成した。
次に、エッチングマスクとして用いたシリコン酸化膜マスクを、25℃に温度制御された重量パーセント濃度2.5%のフッ酸水溶液によるウェットエッチングで除去した。本実施例で形成した逆四角錐状の傾斜面2を形成する結晶面は(111)面となり、深さは約35μmとなった。
【0063】
次に、シリコン基板上に形成された位置合わせマークを耐熱テープで覆った後、図1(b)に示すように、シリコン基板1の傾斜面2を形成した側の面上に、支持層としてポリイミド層を厚さ150μm塗布した。
次に、ポリイミド層上に、PVD法によってポリシリコン層を厚さ3μm形成した。ここで位置合わせマークを覆った耐熱テープ剥がし、位置合わせマークを露出させた。
次に、位置合わせマークを基準位置としたフォトリソグラフィ法によって、傾斜面2に位置が合うようにしてポリシリコン層上に開口パターンを有するレジストを形成した。
次に、前記レジストパターンをエッチングマスクとして、塩素ガスによるRIE法によって、ポリシリコン層をパターニングした。
次に、前記パターニングされたポリシリコンをエッチングマスクとして、酸素ガスによるRIE法によって、シリコン基板1に到達するまでポリイミド層をエッチングし、図1(c)に示すように開口4を形成して凹型版10を得た。凹型版10に形成された針状体の凹型パターンの深さは、傾斜面2の深さ35μmと、ポリイミド層に形成した開口部4の深さ150μmの和である185μmとなった。
【0064】
次に、凹型版10への充填層の形成工程を実施した。図1(d)に示すように、第一の凹型版10のパターンが形成された面上に、メッキ法によってニッケル層5を厚さ300μmに形成した。
次に、ニッケル層5を第一の凹型版10から剥離し、図1(e)に示すように、本発明による針状体11を得た。個々の針状体の高さは、凹型版10に形成された針状体の凹型パターンの深さである185μmとなった。
【実施例3】
【0065】
実施例2で得られた針状体を母型とし、転写加工成形を行った。
【0066】
まず、ニッケルからなる針状体11を酸素プラズマ環境下で処理し、針状体11表面に酸化膜を形成した。
次に、図1(f)に示すように、針状体11表面にメッキ法によってニッケルからなる複製版12を形成するための鋳型層6を400μmの厚さに形成した。ここで、針状体11および複製版12を形成するための鋳型層6は共にニッケルであるが、前記針状体11表面に形成した酸化膜が両者の界面に存在するため、剥離力を加えることで離型ができた。これにより、図1(g)に示す、ニッケルからなる複製版12が形成された。
【0067】
次に、生分解性ならびに生体適合性を有する有機化合物材料による針状体の形成を実施した。
まず、図1(h)に示すように、複製版12を金型として熱インプリント法によってポリ乳酸7を金型に充填した。
次に、離型を実施し、図1(i)に示す本発明によるアレイ状に配列された針状体13を形成した。
【実施例4】
【0068】
以下、面取り加工による針状体の強度向上について説明する。図4は本発明における針状体の根元にテーパ形状を付与する方法の一例を示す部分概略断面図である。
【0069】
実施例1と同様にして、ポリカーボネート基板1にレーザー加工法によって傾斜面2を形成し、フォトレジスト3を形成してフォトリソグラフィ法によって開口4を形成し、図4(a)に示す凹型版10を作製した。
凹型版10の開口上部の角部8は概90°の角度で形成された。凹型版10を金型として、メッキ法によって形成した第一の針状体11の根元部も、概90°の角度で形成された。
【0070】
一方、第一の凹型版10を、ホットプレートを用いて145℃で5分間加熱した場合、図4(c)に示すように、開口上部が角部9のように丸く変形し、開口上部の角部を面取りした凹型版14が得られた。
【0071】
次に、開口上部の角部を面取りした第一の凹型版14を金型として、メッキ法によって形成した第一の針状体15の基底部は、図4(d)に示す通りのテーパ形状となった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の針状体の製造方法は、アレイ状に配列された微細な針状体およびシート状の支持部を一体成形するのに適しており、MEMSデバイス、医療、創薬、化粧品など様々な分野に用いることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態による針状体の製造工程を経時的に説明するための概略断面図である。
【図2】本発明における針状体の製造工程で加工する傾斜面形状の一例を示す部分概略断面図である。
【図3】本発明における針状体の製造工程で実施する支持層への開口部の形成位置の一例を示す部分概略断面図である。
【図4】本発明における針状体の基底部にテーパ形状を付与する方法の一例を示す部分概略断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1……基板、
2……傾斜面、
3……支持層、
4……開口部、
5……第一の充填層、
6……鋳型層、
7……第二の充填層、
8……凹型版の開口上部の角部、
9……凹型版の開口上部の面取り処理をした角部、
10……凹型版、
11、13……針状体、
12……複製版、
14……開口上部の角部を面取りした凹型版、
15……基底部にテーパ形状を有する針状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細な針状体の製造方法において、
基板上に傾斜面を形成する工程と、
前記基板上に支持層を形成する工程と、
前記支持層に前記傾斜面に相当する位置に開口部を形成する工程と、
前記傾斜面および前記開口部に充填層を充填する工程と
前記充填層を剥離する工程と
を行うことを特徴とする針状体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の針状体の製造方法であって、
基板に傾斜面を形成する工程に異方性エッチングを用いること
を特徴とする針状体の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の針状体の製造方法であって、
基板に傾斜面を形成する工程に精密機械加工法、レーザー加工法、イオンビーム加工法、超音波加工法またはサンドブラスト加工法のいずれかを用いること
を特徴とする針状体の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の針状体の製造方法であって、
支持層に開口部を形成する工程にフォトリソグラフィ法を用いること
を特徴とする針状体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の針状体の製造方法であって、
支持層に開口部を形成する工程に異方性エッチングを用いること
を特徴とする針状体の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の針状体の製造方法であって、
基板にV字型の段差を設けることで傾斜面を形成し、
前記V字型の片側側面に対応する位置に開口部を設けること
を特徴とする針状体の製造方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載の針状体の製造方法であって、
基板にV字型の凸部を少なくとも一つ以上設けることで傾斜面を形成し、
前記V字型の凸部の最先端部を少なくとも一つ以上含む位置に開口部を設けること
を特徴とする針状体の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の針状体の製造方法であって、
前記開口部の内壁を成す面と、前記支持層の表面を成す面とが角を成して直接交わらないように面取り加工を行うこと
を特徴とする針状体の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の針状体の製造方法で作製した針状体を母型とし、
前記母型から複製版を作り、
転写加工成形を行うこと
を特徴とする針状体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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