説明

鉄基粉末組成物

本発明は、組成物の少なくとも80重量%の量の、重量平均粒径が20〜60μmの鉄基粉末と、組成物の0.15〜1.0重量%の量の黒鉛粉末と、組成物の0.05〜2.0重量%の量の結合剤と、組成物の0.001〜0.2重量%の量の流動化剤とを含む接合された冶金粉末組成物であって、黒鉛粉末が、結合剤によって鉄基粉末の粒子に結合されており、粉末組成物が、少なくとも3.10g/cmの見掛密度、及び多くても30秒/50gのホール流動度を有する、接合された冶金粉末組成物に関する。本発明は、強度が向上した焼結部品を本発明の組成物から製造するための方法、並びに、この方法に従って製造された熱処理化焼結部品にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄基組成物、その粉末組成物から焼結部品を作製する方法、及びその粉末組成物から作製された焼結部品に関するものである。この粉末組成物は、最適な粉体特性、例えば流動性及び見掛密度と併せ持ち、疲労強度が向上した焼結パーツが得られるように設計される。
【背景技術】
【0002】
産業界では、金属粉末組成物の圧縮成形及び焼結によって製作された金属製品の使用がますます普及しつつある。様々な形状及び厚さの、異なる幾つもの製品が製造されており、その品質要件は絶えず厳しくなり、同時にコストの削減が所望されている。最終形状に至るために必要な機械加工が最小限であるネットシェイプ部品又はニアネットシェイプ部品は、鉄粉末組成物のプレス成形及び焼結によって得られる。このため材料利用率が高くなることが示唆されるので、この技術技法は、鋳造又は棒材からの機械加工又は鍛造などの金属部品を成形するための従来技術よりも大きな利点を有する。
【0003】
しかし、プレス成形および焼結法に関する1つの問題は、焼結部品がある量の気孔を含み、それにより部品の強度が低減することである。基本的に、部品の気孔率によって引き起こされる、機械特性に及ぼす負の効果を克服する方法は2つある。すなわち、1)炭素、銅、ニッケル、モリブデンなどの合金元素を添加することによって、焼結部品の強度を増加させることができる。2)粉末組成物の圧縮率を増加させること、及び/若しくは圧粉密度を増加させるために成形圧を上げること、又は焼結中に部品の収縮率を増加させることにより、焼結部品の気孔率を減少させることができる。実際には、合金元素の添加による部品の強化と気孔率の最小化との併用が用いられる。
【0004】
鉄粉末を合金化する一般的な方法は3つある。すなわち、予合金化、混合、及び拡散合金化である。
【0005】
圧縮成形又はプレス成形された部品、すなわち未焼結部品の金属粉末粒子は、焼結中に固体中で共に拡散して焼結ネックと呼ばれる強力な結合を形成することとなろう。その結果得られるものは、低性能又は中性能の用途に適する、比較的高密度のネットシェイプ又はニアネットシェイプの部品である。典型的には、焼結品は、銅粉及び黒鉛粉を混合した鉄粉から製作される。提案される他の種類の材料には、安定な酸化物を生じることなく鉄の焼入れ性を増強するためにニッケル及びモリブデン並びに少量のマンガンが予合金化された鉄粉が含まれる。MnSなどの被削性向上剤も一般に添加される。
【0006】
米国特許出願公開第2002/0146341号に記載の通り、焼結部品の動的機械特性、例えば疲労強度などは、気孔の大きさに影響される。焼結構造体に存在する大きな気孔の量が少ないほど、動的機械特性は良くなる。米国特許出願公開第2002/0146341号は、動的特性を向上させるための潤滑剤微粒子の使用を記載している。
【0007】
焼結構造体中の気孔の大きさを減少させるために有効な方法は、圧縮成形する際に微細化した粉末を使用することである。しかし、微粉末組成物は易流動性ではなく、商業的に使用することができない。
【0008】
この方法において粒子の平均粒径を増大させることによって微粉末の流動性を向上させるために、凝集が提案されてきた(国際公開第98/25720号、米国特許第7163569号)。凝集の欠点は、接合した小粒子間だけでなく凝集粒子間にも気孔が形成され、それにより粉末組成物の見掛密度が減少すると見込まれ、結果的に充填深度がより大きい金型が必要とされることである。
【0009】
国際公開第2007/078232号は、粉末の偏析及び発塵を低減させ、粉末の流動性及び見掛密度を向上させると共に、圧縮成形粉末の未焼結部品の抜出力及び寸法差を低減させるために、脂肪アルコール、潤滑剤及び流動化剤を組合せて使用することを開示している。この文書は、微粉末には特に関係していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0146341号明細書
【特許文献2】国際公開第98/25720号
【特許文献3】米国特許第7163569号明細書
【特許文献4】国際公開第2007/078232号
【特許文献5】米国特許第3,357,818号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の一目的は、疲労強度が向上した焼結部品を製造するのに適しており、流動性及び見掛密度などの粉体特性が良好である、鉄基粉末組成物を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、疲労強度が向上した焼結部品を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これらの目的のうちの少なくとも1つ、並びに以下の考察から明らかと思われる他の目的は本発明によって達成される。本発明の一態様によると、接合された冶金粉末組成物であって、冶金粉末組成物が、冶金粉末組成物の少なくとも80重量%の量の、重量平均粒径が20〜60μmである鉄基粉末と、冶金粉末組成物の0.15〜1.0重量%の黒鉛粉末と、組成物の0.05〜2.0重量%の結合剤と、冶金粉末組成物の0.001〜0.2重量%の流動化剤とを含み、黒鉛粉末が、鉄基粉末の粒子に結合剤によって結合されており、粉末組成物が、少なくとも3.10g/cmの見掛密度、及び多くても30秒/50gのホール流動度(hall flow rate)を有する。
【0014】
別の態様によると、本発明は、強度が向上した焼結部品を製造する方法に関する。この方法は、本発明の上記の態様による粉末組成物を得るステップと、粉末組成物に400〜2000MPaの圧縮成形を行なって未焼結部品を製造するステップと、未焼結部品を還元性雰囲気中で1000〜1400℃の温度で焼結するステップと、焼結部品び焼入れ及び/又は焼戻しなどの熱処理を行なうステップとを含む。或いは、焼結効果処理を使用することができる。
【0015】
別の態様によれば、本発明は、本発明の上記の方法によって製造された熱処理化焼結部品を提供する。
【0016】
驚いたことに、鉄基粉末粒子を凝集させることなく、良好な流動性及び見掛密度を有する微粉末組成物を得ることが可能であることを見出した。これは、本発明に従って、相対的に大きい鉄基微粒子に、例えば黒鉛及び他の合金元素などのより小さい粒子を結合させることによる、特殊な種類の接合粉末組成物を調製することにより実現される。特に、接合組成物の平均粒径は、基本粉末の粒径と比較するとわずかに増大するだけなので、これは驚くべきことである。更に驚くべきことに、接合微粉末組成物から製造された圧縮成形および焼成された部品は、より粗い粉末又は非接合粉末から製造された対応部品と比較すると、強度及び延性が向上していることを見出した。これまで、各部品全体に渡り均質な特性を有するだけではなく、他の部品と比較したときでも均質な特性を有する、高強度な部品を連続的に工業生産できるほど十分に速く均一な微粉末の流動性を得ることは不可能であると考えられてきた。したがって、例えばSympatec社機器などを用いてレーザー回折で測定した場合に、約60μm未満、更により好ましくは50μm未満の重量平均粒径を有し、連続的で工業的に有用なプロセスから得られる圧縮成形部品により小さい気孔を与える鉄基微粉末から製造される、良好な強度特性を有する部品を得ることが可能であることを見出した。
【0017】
しかし、微粉末組成物の特性の向上は、鉄基粉末が微細過ぎる組成物では保たれないことも見出した。重量平均粒径が小さ過ぎる場合、接合組成物であっても、ホール流動性(hall flow)の向上は保たれない。粒径が減少すると圧縮率も減少して、圧粉密度が低下する。驚くべきことに、粉末組成物の平均粒径が小さ過ぎる場合、粉末組成物から製造された焼結部品の引張強さ及び疲労強度が、これ以上向上しないことも見出した。実際に、平均粒径が小さ過ぎると、引張強さ及び疲労強度が減少することすらあり得るように見える。したがって、重量平均粒径は、約20μm超、更により好ましくは30μm超、例えば40μm超とすべきであることを見出した。
【0018】
上記で考察した通りに、粉末組成物はホール流動度が良好であることが重要である。よって、本発明の組成物は、多くても30秒/50gのホール流動度を有する。多くても28秒/50g、例えば多くても26秒/50g又は多くても24秒/50gなどの、更により向上したホール流動度を有することが好都合であることがある。
【0019】
同様に上記で考察した通りに、粉末組成物は見掛密度が高いことが重要である。よって、本発明の組成物は、少なくとも3.10g/cmの見掛密度を有する。少なくとも3.15g/cm、例えば3.20g/cmなどの、更により高い見掛密度を有することが好都合であることがある。
【0020】
粉末冶金組成物は、少なくとも80重量%、例えば少なくとも90重量%の鉄又は鉄基粉末を含有する。鉄基粉末は、水アトマイズ鉄粉、還元鉄粉、予合金鉄基粉末又は拡散合金鉄基粉末などの、いかなる種類の鉄基粉末であってもよい。
【0021】
黒鉛は、合金元素として鉄基粉末に接合される。他の合金元素も、任意選択により粉末組成物に含まれ、鉄基粉末に接合されていてもよい。鉄又は鉄基粒子に接合される合金元素の例は、黒鉛、Cu、Ni、Cr、Mn、Si、V、Mo、P、W、S及びNbからなる群から選択できる。これらの添加物は、一般に基本の鉄粉よりも小さい粒径を有する粉末であり、大抵の合金元素は約20μmよりも小さい平均粒径を有する。粉末冶金組成物中の合金元素の量は、特定の合金元素及び焼結部品の所望の最終特性に応じて決まる。具体的には、合金元素として銅及び/又はニッケルを含むと好都合であることがある。例えば、組成物は、3.0wt%までの銅、及び/又は3.0wt%までのニッケルを含むことができる。
【0022】
合金元素のうち少なくとも1種は、熱拡散接合プロセスにより鉄基粉末粒子に接合されていてもよい。
【0023】
存在可能であり、且つ鉄基粉末の粒子に接合されていてもよい他の粉末状添加物は、硬質相材料、液相形成材料及び被削性向上剤である。
【0024】
接合後に、粒子は、鉄基粉末の粒子だけではなく結合した合金元素及び/又は他の添加物も含んでいる可能性があるので、平均粒径は増加する可能性がある。しかし、結合しない添加物粒子もあり得るので、平均粒径は減少する。単独の基本の鉄基粉末と比べて約20%を超える程平均粒径は変化しないであろう。よって、結合された組成物も、60μm未満、好都合には50μm未満であり、且つ20μm超、好都合には30μm超、例えば40μm超の平均粒径を有することができる。
【0025】
結合剤は、例えば、分子量が500〜3000g/molのポリエチレンワックス、ステアリン酸、第1級又は第2級の飽和又は不飽和脂肪酸アミド、脂肪酸ビスアミドなどの任意の適切な結合剤であってもよいが、結合剤として脂肪アルコールを使用することが好都合であることがある。合金元素及び/又は任意選択の添加物を結合させるために使用する脂肪アルコールは、飽和、直鎖であり、且つ14〜30個の炭素原子を含有することが好ましい。その理由は、合金元素及び/又は他の任意選択の添加物を結合させるために使用する溶融接合法に有利な溶融点を、こうした脂肪アルコールが有するからである。脂肪アルコールは、好ましくは、セチルアルコール、ステアリルアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコール及びリグノセリルアルコールからなる群から選択され、最も好ましくは、ステアリルアルコール、アラキジルアルコール及びベヘニルアルコールからなる群から選択される。使用する脂肪アルコールの量は、冶金組成物の、0.05〜2重量%、好ましくは0.1〜1重量%、最も好ましくは0.1〜0.8重量%であってもよい。脂肪アルコールの組合せもバインダーとして使用することができる。バインダーという表現、又は結合剤という同等な表現は、潤滑性を有してもよく、その場合、バインダーは潤滑バインダーであると見なすことができる。
【0026】
満足な流動性を新規粉末組成物に与えるために流動化剤が添加される。その作用剤は、例えば、米国特許第3,357,818号及び米国特許第5,782,954号により知られており、それらは、金属、金属酸化物、又は酸化ケイ素を流動化剤として使用できることを開示している。カーボンブラックを流動化剤として使用すると、特に良好な結果が得られる。流動化剤としてのカーボンブラックの使用は、スウェーデン特許出願第0401778−6号に開示される。カーボンブラックなどの流動化剤の量は、0.001〜0.2重量%とすべきであり、好ましくは0.01〜0.1%であることを見出した。更に、カーボンブラックの1次粒径は、好都合には200nm未満、より好ましくは100nm未満、最も好ましくは50nm未満であってもよいことを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】予混合組成物及び基本の粉末と比較した、本発明による組成物のホール流動性と重量平均粒径(×50)との相関を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
基本の鉄基粉末の調製
純鉄粉又は鉄基粉末を、モリブデン、クロム、ニッケル又はマンガンなどの合金元素を任意選択で含む溶鉄の水アトマイズ法により製造することができる。アトマイズ粉は、還元焼鈍プロセスに更にかけることができ、任意選択により、拡散合金プロセスを使用することにより合金化することができる。或いは、以降で考察するように、鉄基粉末を合金元素と粉末の形態で混合することができる。本発明による鉄基粉末の粒径は、少なくとも98wt%の粉末が、75μmの篩、好ましくは63μmの篩を確実に通過するように十分に小さくすることができる。しかし、粒径を小さくし過ぎると不都合であることもある。このため、粉末の最大15重量%、例えば最大10重量%が、15μmの篩を通過することができるか、又は15μm未満とすべきである。よって、重量平均粒径が20〜60μm、好ましくは30〜50μmの範囲内である粉末を使用することが好都合であることもある。
【0029】
粉末組成物
圧縮成形する前に、鉄基粉末に、黒鉛、並びに任意選択で銅粉及び/又は潤滑剤、並びに、場合により硬質相材料及び/又は被削性向上剤を混合することができる。
【0030】
焼結部品の強度及び硬度を高めるために、炭素をマトリックスに導入することができる。炭素、すなわちCは、組成物の0.35〜1.0重量%の量で黒鉛として添加することができる。Cの量が0.35wt%未満であると、強度が低くなり過ぎる可能性があり、Cの量が1.0wt%を超えると、カーバイドが過剰に形成されることになり、それにより硬度が高くなり過ぎて、被削性が悪化する可能性がある。焼結部品の熱処理が浸炭を含む場合は、添加する黒鉛の量を0.35wt%未満、例えば0.15wt%超とすることができる。
【0031】
銅、すなわちCuは、粉末冶金分野で汎用される合金元素である。Cuは、固溶体硬化を通して強度及び硬度を高めることとなる。Cuは、焼結温度に達するまでに溶融して、いわゆる液相焼結をもたらすので、焼結中に焼結ネックの形成も促進する。鉄基粉末は、任意選択により、好ましくは粉末組成物の0〜3wt%の量のCuと混合することができる。
【0032】
ニッケル、すなわちNiは、粉末冶金分野で汎用される合金元素である。鉄基粉末は、任意選択により、好ましくは粉末組成物の0〜3wt%の量のNiと混合することができる。
【0033】
粉末組成物は、組成物の最大3.0重量パーセントまでの量のモリブデンを合金元素として更に含むことができる。
【0034】
モリブデンは、予合金された形態で存在することができる。
【0035】
モリブデン、すなわちMoは、焼入れ性の向上を通してPM鋼の強度を向上させる。鉄基粉末に予合金されたモリブデンは、粉末の硬度及び圧縮率に穏やかな影響を与える。
【0036】
硬質相材料及び被削性向上剤などの他の物質、例えば、MnS、MoS、CaF、様々な種類の無機物などを添加することができる。
【0037】
粉末組成物の圧縮率を高めるために、且つ未焼結部品の抜出しを容易にするために、有機潤滑剤又は様々な有機潤滑剤の組合せを粉末冶金組成物に添加することができる。潤滑剤は、遊離の粒子状粉末として存在しても、又は鉄基粉末表面に接合されていてもよい。
【0038】
バインダーとして使用される脂肪アルコールは潤滑性も有するが、更なる潤滑剤を使用すると好都合であることもある。本発明の固体有機潤滑剤の種類は決定的に重要ではないが、金属有機潤滑剤には不利な点(焼結中に金属酸化物の残留物を生ずる)があるために、有機潤滑剤は金属を含まないことが好ましい。ステアリン酸亜鉛は汎用される潤滑剤で、良好な流動特性及び高ADが得られる。しかし、焼結中に酸化亜鉛の残留物を生ずる他に、この材料は焼結部品の表面に汚れを生ずることがあるという別の欠点がある。よって、有機潤滑剤は、潤滑性を有する多種多様な有機物質から選択することができる。この物質の例は、脂肪酸、ワックス、ポリマー、又はそれらの誘導体及び混合物である。好ましい潤滑剤は、ステアリン酸アミド、アラキン酸アミド、及びベヘン酸アミドなどの第1級アミド、ステアリルステアリン酸アミドなどの第2級アミド、並びにエチレンビスステアルアミドなどのビスアミドである。
【0039】
流動性向上プロセス
本発明による粒径を有する粉末組成物は、通常は適切に流動しないので、圧縮成形の前に流動度を向上させることが重要である。これを実現するために、バインダー、流動化剤、及び任意選択で潤滑剤を施すことを含む、流動性向上プロセスを使用する。凝集プロセスとは異なり、見掛密度及び平均粒径を同様のレベルに維持しながら、流動性をこのようにして向上させることができる。また、見掛密度を向上させることもできる。
【0040】
焼結
鉄基粉末組成物を、金型に移し、約400〜2000MPaの成形圧をかけて、約6.70g/cm超、好ましくは6.80g/cm超、より好ましくは6.90g/cm超、更により好ましくは7.00g/cm超の圧粉密度とすることができる。得られた未焼結部品を、更に還元性雰囲気中で約1000〜1400℃の温度で焼結させる。この部品を定常的な焼結温度で焼結すべきであれば、焼結は通常、1000〜1200℃、好ましくは1050〜1180℃、最も好ましくは1080〜1160℃で行う。この部品を高温で焼結すべきであれば、焼結は通常、1200〜1400℃、好ましくは1200〜1300℃、最も好ましくは1220〜1280℃で行う。
【0041】
焼結後処理
焼結部品は、所望の微細構造を得るために、硬化プロセスなどの熱処理プロセスにかけることができる。硬化プロセスは、焼入れ及び焼戻し、肌焼き、窒化、浸炭、ニトロ浸炭、浸炭窒化、高周波焼入れなどの既知のプロセスを含むことができる。或いは、高冷却速度での焼結硬化処理を利用できる。熱処理が浸炭を含む場合、添加する黒鉛の量を、0.35%未満、例えば0.15wt%超にすることができる。
【0042】
疲労強度を高める圧縮残留応力を導入する、ローラー仕上又はショットピーニングなどの他の種類の焼結後処理を利用できる。
【0043】
完成部品の特性
本発明による部品は、標準粒径の非接合鉄粉、すなわち250μmの篩を通過した粉末から製造された部品と比較すると、20%前後の疲労強度の向上を示す。
【0044】
「実施例1」
様々な分級物を、Hoganas AB社から入手可能な粉末Astaloy(登録商標)Moから篩い分けた。
1.篩い分けされていない基本の粉末(すなわち、250μmの篩を通過した粒子)
2.−106μm
3.−75μm
4.−63μm
5.−45μm
【0045】
分級物の粒径分布をレーザー回折(Sympatec)により分析し、ホール流動性及び見掛密度を、ISO規格ISO4490及び3923−1に従って、混合体の調製から24時間後に測定した。
【0046】
以下の組成を有する、各粉末分級物から混合体を作製した。
予混合体(参照材):Astaloy(商標)Mo+0.2%黒鉛+0.8% AmideWax PM
接合混合体:Astaloy(商標)Mo+0.2%黒鉛+0.8%潤滑バインダー+0.03%流動化剤
【0047】
Kropfmuhlから入手可能な黒鉛(C−UF4)、及びClariantから入手可能なAmidewax PM潤滑剤を使用した。使用した潤滑バインダーは、ベヘニルアルコールであり、流動化剤は、平均粒径が50nm未満のカーボンブラックであった。
【0048】
混合物の以下の分析を行った。
・黒鉛及び潤滑剤/バインダー含有量の化学分析
・24時間後のホール流動性及び見掛密度
・ISO3927による400MPa、600MPa、及び800MPaでの圧縮率
【0049】
各混合体について、以下の試験片を700MPaでプレス成形した。
・ISO2740に従う引張強さ(TS)用試験片
・ISO5754に従う衝撃エネルギー(IE)用試験片
・面取りした縁を有する、ISO3928による疲労強度(FS)用試験片
【0050】
圧粉密度(GD)試験片を含む試験片を、90/10vol%のN/H雰囲気中で1250℃で30分間焼結した。焼結後、該試験片を肌焼きした。920℃、カーボンポテンシャル0.8%、浸炭時間30分間でオーステナイト化を行い、その後油中で焼入れた。この試験片を、180℃で60分間空気中で焼鈍した。
【0051】
TS試験片の焼結密度及び炭素含有量を評価した。衝撃IE試験片のエネルギーを測定した。
【0052】
疲労強度を、R=−1の平面曲げで試験した。各材料について、25個の試験片を試験した。試験を行う前に、試験片の縁を丁寧に研磨してバリを取った。評価するために、MPIF規格56に従ったステアケース法を使用した。引張強さは、ISO6802−1に従って測定した。
【0053】
5種類全ての接合混合体を、引張強さ及び疲労強度について試験した。標準分級物の基本の粉末を基にする予混合体、及び−45μm分級物の基本の粉末を基にする予混合体を、引張強さ及び疲労度について試験した。
【0054】
【表1】

【0055】
×10値は、粒子の総量の10wt%が、提示した値よりも微細であることを示す。同様に、×50値は、粒子の総量の50wt%が、測定値よりも微細であることを示す。結果は、レーザー回折(Sympatec)で測定したものである。
【0056】
【表2】

【0057】
表2は、接合粉末組成物及び基本の粉末の平均粒径を比較している。接合プロセスに起因する平均粒径の変化は小さく、20%を遥かに下回ることが分かる。
【0058】
【表3】

【0059】
表3は、流動性及び見掛密度に関して、本発明による粉末組成物が非接合予混合体に性能的に優ることを示している。表で示すように、通常の予混合体は易流動性ではなく、粒径が減少するときには流動性を測定するためにホールフロー漏斗(Hall flow funnel)に幾つかの栓が必要とされる。
【0060】
図1は、本発明による組成物のホール流動性の挙動が、予混合体ではなく基本の粉末に類似していることを更に例示している。この図から、×50が減少するにつれて流動性が大幅に悪化することも分かる。
【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
【表6】

【0064】
表6は、試験片の静的機械特性を示している。本発明による組成物から作製した試験片は、参照材よりも低密度で高い衝撃エネルギーを有する。参照材よりも高い引張強さも実現する。
【0065】
【表7】

【0066】
表7は、本発明による組成物が、参照材よりも高い疲労強度レベルに達していることを明白に示している。σ50は、試験片の50%が2,000,000サイクルに耐える強度レベルに相当する。
【0067】
「実施例2」
微粒子状拡散接合粉末、すなわち、熱拡散プロセスを介して鉄粉の表面に付着した合金元素粒子(1wt% Mo及び1.9wt% Ni)を有する鉄粉を使用したことを除いて、実施例1を繰り返した。
【0068】
レーザー回折で拡散接合粉末の粒径測定を行った。測定結果は表8の通りである。
【0069】
【表8】

【0070】
更に、ベヘニルアルコールの代わりにベヘン酸アミドとベヘニルアルコールの混合物を使用したことを除いて実施例1の接合プロセスの記述に従い、拡散接合粉末から接合混合物を調製した。
【0071】
実施例1の記述に従って接合混合物のホール流動性及び見掛密度を測定した。試験結果は表9の通りである。
【0072】
【表9】

【0073】
引張強さ(TS)、衝撃エネルギー(IE)及び疲労強度(FS)用の試験片を、700MPaでプレス成形した。該試験片の半数を1120℃で焼結し、試験片の半数を1250℃で焼結したことを除き、実施例1に従って試験片を焼結し、肌焼きし、焼鈍した。引張強さ、衝撃エネルギー及び疲労強度の試験は、実施例1に従って行った。試験結果は表10及び表11の通りである。
【0074】
【表10】

【0075】
【表11】

【0076】
表10及び表11の結果は、拡散接合粉末を基にした本発明による接合粉末冶金組成物は、極めて良好な静的及び動的機械特性を有する部品を製造するために使用できることを明白に示す。
【0077】
本発明は、様々な例示的な実施例について記述してきたが、本発明の範囲を逸脱することなく、様々な変更を行うことができ、且つそれらの要素を等価物で置き換えることができることが当業者には理解されるであろう。加えて、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるために、その本質的な範囲を逸脱することなく多くの改変を行うことができる。したがって、本発明は開示した特定の実施例に限定されるのではなく、本発明は添付の特許請求の範囲内の全ての実施例を含むこととなることを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合された冶金粉末組成物であって、
前記冶金粉末組成物の少なくとも80重量%の、重量平均粒径が20〜60μmの鉄基粉末と、
前記冶金粉末組成物の0.15〜1.0重量%の量の黒鉛粉末と、
前記冶金粉末組成物の0.05〜2.0重量%の量の結合剤と、
前記冶金粉末組成物の0.001〜0.2重量%の量の流動化剤と
を含み、
前記黒鉛粉末が、前記結合剤によって前記鉄基粉末の粒子に結合しており、
前記冶金粉末組成物が、少なくとも3.10g/cmの見掛密度、及び多くても30秒/50gのホール流動度を有する、冶金粉末組成物。
【請求項2】
前記鉄基粉末の重量平均粒径が30〜50μmである、請求項1に記載された冶金粉末組成物。
【請求項3】
少なくとも3.15g/cm、例えば少なくとも3.20g/cmの見掛密度を有する、請求項1又は請求項2に記載された冶金粉末組成物。
【請求項4】
多くても28秒/50g、例えば多くても26秒/50gのホール流動度を有する、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載された冶金粉末組成物。
【請求項5】
前記冶金粉末組成物の最大3.0重量%までの量の銅を合金元素として更に含み、前記合金元素が粉末の形態である、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載された冶金粉末組成物。
【請求項6】
前記冶金粉末組成物の最大3.0重量%までの量のニッケルを合金元素として更に含み、前記合金元素が粉末の形態である、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載された冶金粉末組成物。
【請求項7】
前記冶金粉末組成物の最大3.0重量%までの量のモリブデンを合金元素として更に含む、請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載された冶金粉末組成物。
【請求項8】
前記合金元素のうちの少なくとも1つが、前記結合剤によって前記鉄基粉末の粒子に結合している、請求項5から請求項7までのいずれか一項に記載された冶金粉末組成物。
【請求項9】
前記合金元素のうちの少なくとも1つが、熱拡散接合プロセスによって前記鉄基粉末の粒子に結合している、請求項5から請求項7までのいずれか一項に記載された冶金粉末組成物。
【請求項10】
モリブデンが予合金された形態で存在する、請求項7から請求項9までのいずれか一項に記載された冶金粉末組成物。
【請求項11】
前記結合剤によって前記鉄基粉末の粒子に粉末の形態で結合した、硬質相材料及び/又は被削性向上剤を更に含む、請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載された冶金粉末組成物。
【請求項12】
前記結合剤が、飽和又は不飽和の、直鎖又は分枝C14〜C30脂肪アルコールである、請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載された冶金粉末組成物。
【請求項13】
強度が向上した焼結部品を製造する方法であって、
請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載された冶金粉末組成物を得るステップと、
前記冶金粉末組成物に、400〜2000MPaの圧縮成形を行なって未焼結部品を製造するステップと、
前記未焼結部品を、還元性雰囲気中で1000〜1400℃の温度で焼結するステップと、
前記焼結部品に熱処理を施すステップと
を含む、焼結部品を製造する方法。
【請求項14】
前記熱処理が、焼入れ、焼結硬化処理及び/又は焼戻しを含む、請求項13に記載された焼結部品を製造する方法。
【請求項15】
請求項13又は請求項14に記載された焼結部品を製造する方法によって製造された熱処理化焼結部品。
【請求項16】
引張強さが少なくとも1180MPaである、請求項15に従って製造された熱処理化焼結部品。
【請求項17】
疲労強度すなわちσ50が、550MPaよりも大きい、請求項15又は請求項16に従って製造された熱処理化焼結部品。

【図1】
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【公表番号】特表2013−508558(P2013−508558A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535791(P2012−535791)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066182
【国際公開番号】WO2011/051293
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(595054486)ホガナス アクチボラゲット (66)
【Fターム(参考)】