説明

鉄筋コンクリートへの取付具の固定構造及びその固定方法

【課題】コンクリート又はモルタルからなるとともにインサートが形成された鉄筋スペーサーと、そのインサートに簡易な構成で確実に固定することが可能な鉄筋コンクリートへの取付具の固定構造及びその固定方法を提供する。
【解決手段】鉄筋コンクリートへの取付具の固定構造は、コンクリート又はモルタルからなり、その底面に固定孔13を有する本体部12と、本体部12の上部に設けられ、鉄筋コンクリート構造物の内部に配筋するための鉄筋32を保持する鉄筋保持部14とを備える鉄筋スペーサー10と、固定孔13に挿入可能であるとともに、固定孔13に挿入された状態で、固定孔13の内壁面に押し付けるように固定孔13の径方向に変形可能な取付具100と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造物に、当該鉄筋コンクリートに部材を取り付けるための取付具を固定するための固定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄筋コンクリート構造物の鉄筋を型枠内に配筋するにあたり、鉄筋とコンクリート構造物の表面との間に所定のコンクリート被り厚を確保するための部材として、鉄筋スペーサーが用いられているが、昨今、かかる鉄筋スペーサーと、鉄筋コンクリート構造物に各種部材や機材を取り付けるためにその表面に設けられるインサートとを兼用する技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、型枠パネル上に立設され、型枠パネル側の下面中央から上方に吊下ボルトと螺合する雌ネジ孔が形成された支柱部と、型枠パネルからコンクリート被り厚に相当する高さ位置に鉄筋を支持する受支部とを備えるインサート兼用の鉄筋スペーサーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−34784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1には、インサート兼用の鉄筋スペーサーを構成する部材の材質として、プラスチックや金属等を使用する旨が記載されている。
【0006】
これに対し、屋外に設置されるトンネル、ダムや堤防等の鉄筋コンクリート構造物の内部に設けられる鉄筋スペーサーには、コンクリートやモルタル製のものを使用することが推奨されている。これは、特許文献1に記載されるような屋内に設置される鉄筋コンクリート構造物などでよく使われるプラスチックや金属等を用いると、コンクリート外部から雨水や地下水が鉄筋スペーサーとコンクリートとの界面を伝ってコンクリート内部に浸入し、鉄筋を腐食させるおそれがあるからである。
【0007】
一方、コンクリートやモルタル製の鉄筋スペーサーに、特許文献1に記載されるような雌ネジ孔を直接形成し、それをスペーサーとしてボルトを取り付けて固定した場合、その状態においてボルトに引き抜き力が作用した際に、鉄筋スペーサーの雌ネジ孔がプラスチックや金属等からなるものと比べて充分な抵抗力を保持できず、ボルトを確実に固定できないおそれがある。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、コンクリート又はモルタルからなるとともにインサートが形成された鉄筋スペーサーと、そのインサートに簡易な構成で確実に固定することが可能な鉄筋コンクリートへの取付具の固定構造及びその固定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、鉄筋コンクリート構造物に、当該鉄筋コンクリートに部材を取り付けるための取付具を固定するための固定構造であって、
コンクリート又はモルタルからなり、所定の高さを有するとともにその底面に開口する孔を有する本体部と、前記本体部の上部に設けられ、鉄筋コンクリート構造物の内部に配筋するための鉄筋を保持する鉄筋保持部とを備える鉄筋スペーサーと、
前記孔に挿入可能であるとともに、前記孔に挿入された状態で前記孔の内壁面に押し付けるように前記孔の径方向に変形可能な取付具と、を備え、
前記鉄筋スペーサーは、前記孔が前記鉄筋コンクリートの表面に露出するように前記鉄筋コンクリート構造物に埋設され、
前記鉄筋コンクリート構造物の表面に露出した孔に、前記取付具を挿入し前記孔の径方向に変形させることにより前記取付具を前記孔に固定させてなることを特徴とする。
【0010】
本発明の鉄筋コンクリートへの取付具の固定構造によれば、鉄筋コンクリート構造物に埋設された鉄筋スペーサーに形成された孔に取付具を挿入し前記孔の径方向に変形させることにより、簡単に取付具を鉄筋コンクリート構造物に固定することができる。
また、鉄筋スペーサーはコンクリート又はモルタルからなるので、屋外に設置されるトンネル、ダムや堤防等の鉄筋コンクリート構造物の内部に設けられる鉄筋スペーサーとして用いることができる。
また、コンクリート構造物を構築するにあたり、その内部に埋設される鉄筋スペーサーの構成部品として、プラスチック製や金属製のものよりも材料費の安価なコンクリートやモルタルを使用しているので、材料コストを低減することができる。
また、本発明の鉄筋コンクリートへの取付具の固定構造は、取付具を鉄筋スペーサーの底面に開口する孔に挿入し孔の径方向に変形させて固定させる構成であるので、当該孔は、上記特許文献1のように、雌ネジ構造等の複雑な形状に加工する必要がなく、例えば、円筒状に形成されたものでよい。したがって、当該孔の加工も極めて簡単である。
【0011】
本発明において、前記孔に固定された取付具は、前記孔との固定を解除するように変形して前記孔から取り外しが可能であることとしてもよい。
この構成によれば、取付具が孔と着脱可能になるため、孔への固定が不要となった場合に取り外して、取付具を他の孔への固定の際に再利用することができる。
【0012】
本発明において、前記鉄筋スペーサーの本体部は、上底が下底より径が大きい略円錐台の形状を有することとしてもよい。
この構成によれば、例えば、取付具が固定された鉄筋スペーサーに、取付具を介して鉄筋コンクリート構造物から引き抜かれる力が作用した場合に、鉄筋スペーサーが鉄筋コンクリート構造物内に留まるよう有効に抵抗することができる。
【0013】
本発明において、前記孔を囲むように環状の補強部材を埋設したこととしてもよい。この構成によれば、取付具が孔内で変形して、孔の内面から孔が拡幅するような力が作用した場合でも、補強部材がその力に抵抗するので、鉄筋スペーサーの破壊を抑制することができる。かかる補強部材としては、例えば、孔の内寸と同径の通し孔を有するワッシャー等を用いることができる。
【0014】
本発明において、前記鉄筋コンクリート構造物は、シールドトンネルを構築するためのセグメントであり、前記鉄筋スペーサーの固定孔が前記セグメントの内周側の表面に露出するように前記鉄筋スペーサーを前記セグメントの内部に埋設してなることとしてもよい。この構成によれば、シールドトンネル施工の際に仮設設備(足場や配管・配線)を設置するために取付具を用いることにより、簡単に取り付け及び取り外しすることができるとともに、取付具は再利用できるので、コスト低減に寄与する。
【0015】
本発明において、前記孔の内寸よりも小さい外寸を有する筒体であるとともに、その先端に傾斜面を有する鞘管と、前記鞘管の先端側に設けられ、外寸が前記鞘管と同じ筒体又は柱体であるとともに、前記鞘管の端部に前記鞘管の前記傾斜面と同じ傾斜角を有する傾斜面を有する斜めウスと、前記鞘管の内側を基端から先端に向けて貫通し、その先端が前記斜めウスと連結された棒材と、前記棒材を前記鞘管の基端側に移動させるとともに、前記棒材を前記鞘管の基端側に移動させた状態で前記棒材を固定可能な棒材固定部材とを備えることとしてもよい。
この構成によれば、棒材を鞘管の先端側に移動させて、鞘管と斜めウスとを同軸上に配置した状態にすることにより、取付具の鞘管及び斜めウスを鉄筋スペーサーの孔に挿入することができ、鞘管及び斜めウスを孔に挿入した状態で、棒材を鞘管の基端側に移動させることにより、鞘管と斜めウスとが接合部分において互いに斜めに方向にスライドし、鞘管及び斜めウスの一部が孔壁の一部に押し付けられ、この状態で棒材固定部材により棒材を固定できることにより、取付具を孔に簡単に固定することができる。
【0016】
本発明において、前記取付具は、前記孔の内寸よりも小さい外寸を有する筒体であるとともに、その先端から基端へ筒軸方向に複数のスリットが形成されたスリット付き鞘管と、前記スリット付き鞘管の先端側に設けられ、基端側の外寸が前記スリット付き鞘管の内寸よりも小さいとともに、先端側の外寸が、前記孔の内寸よりも小さく、かつ前記スリット付き鞘管の内寸よりも大きい略円錐台形状又は略角錐台形状を有するテーパーウスと、前記スリット付き鞘管の内側を前記基端から先端に向けて貫通し、その先端が前記テーパーウスの基端部と連結する棒材と、前記棒材を前記スリット付き鞘管の基端側に移動させるとともに、前記棒材を前記鞘管の基端側に移動させた状態で前記棒材を固定可能な棒材固定部材とを備えることとしてもよい。
この構成によれば、棒材をスリット付き鞘管の先端側に移動させて、スリット付き鞘管とテーパーウスとを非接触状態にすることにより、取付具のスリット付き鞘管及びテーパーウスを鉄筋スペーサーの孔に挿入することができ、スリット付き鞘管及びテーパーウスを孔に挿入した状態で、棒材をスリット付き鞘管の基端側に移動させることにより、テーパーウスの基端部がスリット付き鞘管内に貫入していき、スリット付き鞘管の先端部を押し広げてスリット付き鞘管の先端部の外周側を孔壁の一部に押し付けるとともに、この状態にて棒材固定部材により棒材を固定できるので、取付具を孔に簡単に固定することができる。
【0017】
本発明において、前記取付具は、膨縮自在な素材からなり、収縮時には前記孔の内寸よりも小さな外寸となり、膨張時には前記孔の内寸よりも大きな外寸となる筒状の袋部と、前記袋部の基端に前記袋部の内部に充填物を充填するための充填口とを備えることとしてもよい。
この構成によれば、袋部の内部に充填物を充填しないときには、袋部が収縮した状態であるので袋部を鉄筋スペーサーの孔に挿入することができ、取付具を孔に挿入した状態で、充填口から充填物を袋部の内部に充填することにより、孔の内部で袋部が膨張して孔壁面に押し付けられるので、取付具を孔に簡単に固定することができる。
【0018】
また、本発明は、鉄筋コンクリート構造物に、当該鉄筋コンクリートに部材を取り付けるための取付具を固定するための固定方法であって、コンクリート又はモルタルからなり、所定の高さを有するとともにその底面に開口する孔を有する本体部と、前記本体部の上部に設けられ、鉄筋コンクリート構造物の内部に配筋するための鉄筋を保持する鉄筋保持部とを備える鉄筋スペーサーと、前記孔に挿入可能であるとともに、前記孔に挿入された状態で前記孔の内壁面に押し付けるように前記孔の径方向に変形可能な取付具と、を用い、前記鉄筋スペーサーを、前記孔が表面に露出するように前記鉄筋コンクリート構造物を構築し、前記鉄筋コンクリート構造物の表面に露出した固定孔に、前記取付具を挿入し前記孔の径方向に変形させることにより前記取付具を前記孔に固定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、コンクリート又はモルタルからなるとともにインサートが形成された鉄筋スペーサーと、そのインサートに簡易な構成で確実に固定することが可能な鉄筋コンクリートへの取付具の固定構造及びその固定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態に係る鉄筋スペーサー10の斜視図である。
【図2】鉄筋スペーサー10を用いた鉄筋コンクリート構造物の構築方法を説明するための図であり、同図(a)は、コンクリートの打設前の状態を示す断面図、同図(b)は、コンクリートの打設後の状態を示す断面図である。
【図3】本実施形態に係る取付具100の断面図である。
【図4】取付具100の固定孔13への取り付け手順を説明するための図であり、同図(a)は取付具100の固定孔13への挿入時、同図(b)は取付具100の固定孔13への固定時を示している。
【図5】本実施形態に係る取付具200の断面図である。
【図6】取付具200の固定孔13への取り付け手順を説明するための図であり、同図(a)は取付具200の固定孔13への挿入時、同図(b)は取付具200の固定孔13への固定時を示している。
【図7】本実施形態に係る取付具300の断面図である。
【図8】取付具300の固定孔13への取り付け手順を説明するための図であり、同図(a)は取付具300の固定孔13への挿入時、同図(b)は取付具300の固定孔13への固定時を示している。
【図9】固定孔13の周囲に補強部材16を埋設した鉄筋スペーサー10の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る鉄筋スペーサー10の斜視図である。
図1に示すように、鉄筋スペーサー10は、本体部12と、本体部12の上部に固定された鉄筋保持部14とを備える。
【0022】
本体部12は、コンクリート又はモルタルを用いて作製された二次製品であり、例えば、上底が下底より径が大きい略円錐台の形状を有し、その底面には固定孔13が形成されている。
【0023】
固定孔13は、本体部12の底面から上面に向けて伸びる所定深さを有する細長状、例えば円筒状の孔である。
かかる固定孔13は、本体部12を、コンクリートやモルタルを型枠に打設して形成する時に固定孔13の部分に円柱状の棒を配置し、型枠に打設されたコンクリートやモルタルを硬化させて本体部12を型枠から脱型させるとともに、円柱状の棒も本体部12から取り外すことにより形成することができる。あるいは、型枠にコンクリートやモルタルを打設し硬化させた本体部12を、ドリル等により削孔することにより形成してもよい。
【0024】
鉄筋保持部14は、例えば、金属製の金具であり、コンクリート構造物内に配設される鉄筋を挟持可能な形状を有している。この鉄筋保持部14は、例えば、その一部が本体部12に埋設されて本体部12に固定されている。
【0025】
図2は、鉄筋スペーサー10を用いた鉄筋コンクリート構造物の構築方法を説明するための図であり、同図(a)は、コンクリートの打設前の状態を示す断面図、同図(b)は、コンクリートの打設後の状態を示す断面図である。なお、同図には、鉄筋コンクリート構造物としてシールドトンネルの覆工に用いられるセグメント30を構築する際に、本実施形態の鉄筋スペーサー10を使用する例を示しているが、本発明における鉄筋コンクリート構造物はセグメントに限定されるものではない。
【0026】
まず、図2(a)に示すように、コンクリートの打設前に、鉄筋保持部14に鉄筋32を挟持させた鉄筋スペーサー10を、セグメント30の型枠20内の所定の位置に、型枠20側に固定孔13の孔口13aが向くように配置する。
ここで、鉄筋スペーサー10の固定孔13の孔口13aには、打設するコンクリートが固定孔13の内部に進入しないようにテープ22を貼る等の処置を施しておく。
そして、図2(b)に示すように、コンクリートを型枠20内に打設後、コンクリートを十分に養生させてセグメント30を型枠20から取り外し、鉄筋スペーサー10の固定孔13の孔口13aに貼ったテープ22を取り除き、固定孔13をセグメント30の表面に露出させる。
このようにして、内面に固定孔13が開口したセグメント30が形成される。
【0027】
次に、上記鉄筋コンクリートの表面に露出した固定孔13に固定するための取付具について説明する。
【0028】
図3は、本実施形態に係る取付具100の断面図である。
図3に示すように、取付具100は、鞘管110と、斜めウス120と、棒材130と、ワッシャー140及びナット150とを備える。
【0029】
鞘管110は、固定孔13の内径よりも小さい外径を有する筒体であるとともに、その先端に傾斜面を有する。
斜めウス120は、鞘管110の先端側に設けられ、外径が鞘管110と同じ筒体又は柱体であるとともに、鞘管110の端部に鞘管110の傾斜面と同じ傾斜角を有する傾斜面を有する。
【0030】
棒材130は、鞘管110の内側を基端から先端に向けて貫通し、その先端が斜めウス120と連結されている。
また棒材130は、その基端部に、外周にネジ山が形成された頭部132を有している。
【0031】
ワッシャー140は、固定孔13の内径よりも外径が大きい略円盤状の板材であり、中央に、棒材130の軸部131の外径よりも大きく、棒材130の頭部132及び鞘管110の外径よりも小さい通し孔142を有する。そして、ワッシャー140は、通し孔142が棒材130の軸部131に挿通されて、鞘管110と棒材130との間に挟まれるように設けられている。
ナット150は、棒材130の頭部132の外周のネジ山と螺合して設けられている。
【0032】
図4は、取付具100の固定孔13への取り付け手順を説明するための図であり、同図(a)は取付具100の固定孔13への挿入時、同図(b)は取付具100の固定孔13への固定時を示している。
【0033】
図4(a)に示すように、取付具100の棒材130の頭部132とナット150とを弛めて、鞘管110と斜めウス120とを同軸上に配置した状態にすることにより、鞘管110及び斜めウス120を鉄筋スペーサー10の固定孔13に挿入することができる。
【0034】
そして、図4(b)に示すように、鞘管110及び斜めウス120を固定孔13に挿入した状態で、棒材130の頭部132とナット150とを締めて棒材130を鞘管110の基端側に移動させることにより、鞘管110と斜めウス120とが接合部分において互いに斜め方向にスライドし、鞘管110及び斜めウス120の一部が固定孔13の孔壁の一部に押し付けられ、この状態で棒材130の頭部132とナット150とが弛むことなく保持することができる。これにより、取付具100を固定孔13に簡単に固定することができる。
【0035】
なお、固定孔13に固定された取付具100は、棒材130の頭部132とナット150とを弛めることにより、固定孔13から取り外すことができる。
【0036】
図5は、本実施形態に係る取付具200の断面図である。
図5に示すように、取付具200は、スリット付き鞘管210と、テーパーウス220と、棒材130と、ワッシャー140及びナット150とを備える。なお、取付具100と共通の構成部分である棒材130、ワッシャー140及びナット150については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0037】
スリット付き鞘管210は、固定孔13の内径よりも小さい外径を有する筒体であるとともに、その先端から基端へ筒軸方向に複数のスリットが形成されている。
テーパーウス220は、スリット付き鞘管210の先端側に設けられ、基端側の外径がスリット付き鞘管210の内径よりも小さいとともに、先端側の外径が、固定孔13の内径よりも小さく、かつスリット付き鞘管210の内径よりも大きい略円錐台形状又は略角錐台形状を有する。
【0038】
図6は、取付具200の固定孔13への取り付け手順を説明するための図であり、同図(a)は取付具200の固定孔13への挿入時、同図(b)は取付具200の固定孔13への固定時を示している。
【0039】
図6(a)に示すように、取付具200の棒材130の頭部132とナット150とを弛めて、スリット付き鞘管210とテーパーウス220とを非接触状態にすることにより、スリット付き鞘管210及びテーパーウス220を鉄筋スペーサー10の固定孔13に挿入することができる。
【0040】
そして、図6(b)に示すように、スリット付き鞘管210及びテーパーウス220を固定孔13に挿入した状態で、取付具200の棒材130の頭部132とナット150とを締めて棒材130をスリット付き鞘管210の基端側に移動させることにより、テーパーウス220の基端部がスリット付き鞘管210内に貫入していき、スリット付き鞘管210の先端部を押し広げてスリット付き鞘管210の先端部の外周側を固定孔13の孔壁の一部に押し付けるとともに、この状態にて棒材130の頭部132とナット150とが弛むことなく保持することができるので、取付具200を固定孔13に簡単に固定することができる。
【0041】
なお、固定孔13に固定された取付具200は、棒材130の頭部132とナット150とを弛めることにより、固定孔13から取り外すことができる。
【0042】
図7は、本実施形態に係る取付具300の断面図である。
図7に示すように、取付具300は、ゴム等の膨縮自在な素材からなる筒状の袋部310と、袋部310の基端に袋部310の内部に充填物を充填するための充填口320とを備える。
袋部310は、収縮時には固定孔13の内径よりも小さな外径となり、膨張時には固定孔13の内径よりも大きな外径となる。
充填口320は、その外周に、例えば、ワッシャー140の通し孔142に挿通可能な外径を有するネジ山を形成してもよい。これにより、当該ネジ山にナット150を螺着することにより、ワッシャー140を鉄筋コンクリート構造物に固定することができる。
【0043】
図8は、取付具300の固定孔13への取り付け手順を説明するための図であり、同図(a)は取付具300の固定孔13への挿入時、同図(b)は取付具300の固定孔13への固定時を示している。
【0044】
図8(a)に示すように、袋部310の内部に充填物を充填しないときには、袋部310が収縮した状態であるので袋部310を鉄筋スペーサー10の固定孔13に挿入することができる。
また、図8(b)に示すように、取付具300を固定孔13に挿入した状態で、充填口320から充填物(例えば、空気)を袋部310の内部に充填することにより、固定孔13の内部で袋部310が膨張して固定孔13の内壁面に押し付けられるので、取付具300を固定孔13に簡単に固定することができる。
【0045】
なお、固定孔13に固定された取付具300は、袋部310の内部に充填された充填物を充填口320から吸い出すことにより、固定孔13から取り外すことができる。
【0046】
以上説明した実施形態に係る鉄筋コンクリートへの取付具100、200、300の固定構造によれば、鉄筋コンクリート構造物に埋設された鉄筋スペーサー10に形成された固定孔13に取付具100、200、300を挿入し、取付具100、200、300が固定孔13の孔壁面に押し付けるように変形させることにより、取付具100、200、300を鉄筋コンクリート構造物に簡単に固定することができる。
【0047】
また、固定孔13に固定された取付具100、200、300は、固定孔13との固定を解除するように変形して固定孔13から取り外しが可能であることにより、取付具100、200、300の固定孔13への固定が不要となった場合に取り外して、取付具100、200、300を他の固定孔13への固定の際に再利用することができる。
特に、上記実施形態のように固定構造をセグメント30の構築に適用した場合には、トンネル施工の際に仮設設備(足場や配管・配線)を設置するために取付具100を用いることにより、簡単に取り付け及び取り外しすることができるとともに、取付具100は再利用できるので、コスト低減に寄与する。
【0048】
また、鉄筋スペーサー10はコンクリート又はやモルタルからなるので、屋外に設置されるトンネル、ダムや堤防等の鉄筋コンクリート構造物の内部に設けられる鉄筋スペーサー10として用いることができる。
また、コンクリート構造物を構築するにあたり、その内部に埋設される鉄筋スペーサー10の構成部品として、プラスチック製や金属製のものよりも材料費の安価なコンクリートやモルタルを使用しているので、材料コストを低減することができる。
また、本実施形態に係る固定構造は、取付具100、200、300を鉄筋スペーサー10の固定孔13に挿入し孔の径方向に変形させて固定させる構成であるので、当該固定孔13は、上記特許文献1のように、雌ネジ構造等の複雑な形状に加工する必要がなく、例えば、円筒状に形成されたものでよい。したがって、固定孔13の加工も極めて簡単である。
【0049】
また、鉄筋スペーサー10の本体部12は、上底が下底より径が大きい略円錐台の形状を有することにより、例えば、取付具が固定された鉄筋スペーサー10に、取付具を介して鉄筋コンクリート構造物から引き抜かれる力が作用した場合に、鉄筋スペーサー10が鉄筋コンクリート構造物内に留まるよう有効に抵抗することができる。
【0050】
なお、図9に示すように、第1〜3の取付具が変形したときに固定孔13の周囲が破壊されないように、本実施形態の鉄筋スペーサー10を構築の際に、本体部12における固定孔13の周囲に補強部材16を埋設し、固定孔13が拡幅するように作用する力に抵抗させてもよい。
かかる補強部材16としては、例えば、固定孔13の内径と同径の通し孔を有するワッシャーを用いることができる。
なお、固定孔13は円筒状に限らず角筒状など他の形状でもよく、その場合は取付具100、200、300の固定孔13に挿入する部分の形状も固定孔13の形状に合わせればよい。
【符号の説明】
【0051】
10 鉄筋スペーサー
12 本体部
13 固定孔
13a 孔口
14 鉄筋保持部
16 補強部材
20 型枠
22 テープ
30 セグメント
32 鉄筋
100,200,300 取付具
110 鞘管
120 斜めウス
130 棒材
131 軸部
132 頭部
140 ワッシャー
142 通し孔
150 ナット
210 スリット付き鞘管
220 テーパーウス
310 袋部
320 充填口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物に、当該鉄筋コンクリートに部材を取り付けるための取付具を固定するための固定構造であって、
コンクリート又はモルタルからなり、所定の高さを有するとともにその底面に開口する孔を有する本体部と、前記本体部の上部に設けられ、鉄筋コンクリート構造物の内部に配筋するための鉄筋を保持する鉄筋保持部とを備える鉄筋スペーサーと、
前記孔に挿入可能であるとともに、前記孔に挿入された状態で前記孔の内壁面に押し付けるように前記孔の径方向に変形可能な取付具と、を備え、
前記鉄筋スペーサーは、前記孔が前記鉄筋コンクリートの表面に露出するように前記鉄筋コンクリート構造物に埋設され、
前記鉄筋コンクリート構造物の表面に露出した孔に、前記取付具を挿入し前記孔の径方向に変形させることにより前記取付具を前記孔に固定させてなることを特徴とする鉄筋コンクリートへの取付具の固定構造。
【請求項2】
前記孔に固定された取付具は、前記孔との固定を解除するように変形して前記孔から取り外しが可能であることを特徴とする請求項1に記載の鉄筋コンクリートへの取付具の固定構造。
【請求項3】
前記鉄筋スペーサーの本体部は、上底が下底より径が大きい略円錐台の形状を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄筋コンクリートへの取付具の固定構造。
【請求項4】
前記孔を囲むように環状の補強部材を埋設したことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の鉄筋コンクリートへの取付具の固定構造。
【請求項5】
前記鉄筋コンクリート構造物は、シールドトンネルを構築するためのセグメントであり、前記鉄筋スペーサーの固定孔が前記セグメントの内周側の表面に露出するように前記鉄筋スペーサーを前記セグメントの内部に埋設してなることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の鉄筋コンクリートへの取付具の固定構造。
【請求項6】
前記取付具は、前記孔の内寸よりも小さい外寸を有する筒体であるとともに、その先端に傾斜面を有する鞘管と、
前記鞘管の先端側に設けられ、外寸が前記鞘管と同じ筒体又は柱体であるとともに、前記鞘管の端部に前記鞘管の前記傾斜面と同じ傾斜角を有する傾斜面を有する斜めウスと、
前記鞘管の内側を基端から先端に向けて貫通し、その先端が前記斜めウスと連結された棒材と、
前記棒材を前記鞘管の基端側に移動させるとともに、前記棒材を前記鞘管の基端側に移動させた状態で前記棒材を固定可能な棒材固定部材とを備えることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の鉄筋コンクリートへの取付具の固定構造。
【請求項7】
前記取付具は、前記孔の内寸よりも小さい外寸を有する筒体であるとともに、その先端から基端へ筒軸方向に複数のスリットが形成されたスリット付き鞘管と、
前記スリット付き鞘管の先端側に設けられ、基端側の外寸が前記スリット付き鞘管の内寸よりも小さいとともに、先端側の外寸が、前記孔の内寸よりも小さく、かつ前記スリット付き鞘管の内寸よりも大きい略円錐台形状又は略角錐台形状を有するテーパーウスと、
前記スリット付き鞘管の内側を前記基端から先端に向けて貫通し、その先端が前記テーパーウスの基端部と連結する棒材と、
前記棒材を前記スリット付き鞘管の基端側に移動させるとともに、前記棒材を前記鞘管の基端側に移動させた状態で前記棒材を固定可能な棒材固定部材とを備えることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の鉄筋コンクリートへの取付具の固定構造。
【請求項8】
前記取付具は、膨縮自在な素材からなり、収縮時には前記孔の内寸よりも小さな外寸となり、膨張時には前記孔の内寸よりも大きな外寸となる筒状の袋部と、前記袋部の基端に前記袋部の内部に充填物を充填するための充填口とを備えることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の鉄筋コンクリートへの取付具の固定構造。
【請求項9】
鉄筋コンクリート構造物に、当該鉄筋コンクリートに部材を取り付けるための取付具を固定するための固定方法であって、
コンクリート又はモルタルからなり、所定の高さを有するとともにその底面に開口する孔を有する本体部と、前記本体部の上部に設けられ、鉄筋コンクリート構造物の内部に配筋するための鉄筋を保持する鉄筋保持部とを備える鉄筋スペーサーと、
前記孔に挿入可能であるとともに、前記孔に挿入された状態で前記孔の内壁面に押し付けるように前記孔の径方向に変形可能な取付具と、を用い、
前記鉄筋スペーサーを、前記孔が表面に露出するように前記鉄筋コンクリート構造物を構築し、
前記鉄筋コンクリート構造物の表面に露出した固定孔に、前記取付具を挿入し前記孔の径方向に変形させることにより前記取付具を前記孔に固定することを特徴とする鉄筋コンクリートへの取付具の固定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−189938(P2010−189938A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35705(P2009−35705)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】