説明

鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具および測定方法

【課題】鉄道信号機器の信号に係る電圧測定に際して測定器や測定用電線の短絡異常が測定対象信号に異変を来さないようにする。
【解決手段】電圧測定箇所と測定器とを測定用電線23で結ぶ信号測定用導線に対し電圧測定用端子35と測定用電線23との間に補助具30を介挿させる。補助具30は、電圧測定用端子35に対応した測定用端子側コネクタ31と、測定用電線23の他端側の他端接続端子34に対応した測定用電線側コネクタ33と、それらを両端に保持する絶縁性の筒状保持体32と、筒状保持体32に内蔵されてコネクタ31,33に接続された介挿抵抗R30とを具備する。介挿抵抗R30には、抵抗値が測定器の入力抵抗より小さく且つ電圧測定箇所の二箇所間抵抗の何れよりも大きい抵抗を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道信号機器の電圧測定用の絶縁被覆電線に付加して用いる鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具およびその補助具を着けた絶縁被覆電線を用いて鉄道信号機器の信号電圧を測定する鉄道信号機器電圧測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道では、沿線設置機器など保全・保安管理対象の信号保安設備に各種センサを取り付けて遠隔自動計測を行うことにより管理対象機器や設備の稼働状態を監視する定常状態監視システムが実用化されている(例えば非特許文献1参照)。また、その他にも、駅間の信号を監視するものや(例えば特許文献1参照)、測定データ・検出データを駅に集約する鉄道用監視装置(例えば特許文献2参照)・駅装置(例えば特許文献3参照)、踏切警報を監視する装置(例えば特許文献4参照)などが実用に供されている。それらは、軌道回路や,信号機,転てつ機,踏切,電源ケーブル,ATS(自動列車停止装置),閉そく装置,警報スピーカ,警報灯といった各種の鉄道信号機器についてその信号状態を測定・検出するようになっている。
【0003】
このような鉄道信号機器の信号測定でも、鉄道信号機器の信号測定箇所と測定器の入力端子とが信号測定用導線にて接続されて測定信号が伝送される。そして、信号測定用導線の要部の電線部分である測定用電線には、撚電線に絶縁被覆を施した絶縁被覆電線が用いられ、その測定用電線の両端のうち一端側には、測定器に取り付けるために、電線端部を掴持する接続端子が装着されるが、接続端子にはネジ止め式のものや嵌合式・差込式のものが多用されている。ネジ止め式であれ(例えば特許文献5参照)、嵌合式・差込式であれ(例えば特許文献6参照)、挟持式であれ、接続端子は、電線が複数本・多数本であれば同数個が使用され、測定器の筐体外面の端子台や多極コネクタの各入力端子に分かれて取り付けられて(例えば特許文献7,8参照)、一列やマトリクス状に並ぶ。嵌合式・差込式のコネクタでは、電線側の接続端子がプラグになり、測定器側の端子がレセプタクルになることが多い。また、測定用電線の他端側には、鉄道信号機器側に取り付けるために、上記の接続端子の他、クリップ等の挟持式のものや、ピン等の非固定式のものも用いられている。
【0004】
一対の鉄道レールからなる軌道10に設置された軌道回路10〜14を鉄道信号機器の具体例として、その信号測定状況を、図面を引用して説明する。
図5は、(a)が固定設置型の測定器20の具体例である鉄道用の監視装置の現場装置にて軌道回路10〜14の列車検知信号を測定している状況を示す模式図、(b)が電流測定用非接触式の測定用端子24の具体例であるクランプ式電流センサの模式図、(c)が携帯用の測定器20の具体例であるマルチメータにて軌道回路10〜14の列車検知信号を測定している状況を示す模式図、(d)がマルチメータ用テストリード(信号測定用導線)の外観図、(e)がオシロスコープ用テストリード(信号測定用導線)の外観図、(f)が正常な測定回路の等価回路図、(g)が短絡異常発生時の測定回路の等価回路図である。
【0005】
軌道回路10〜14は(図5(a)参照)、軌道10の該当区間に対して一端側から送信線11,12(信号線)にて列車検知信号を送り込むとともに該当区間の他端側から受信線13,14(信号線)にて列車検知信号を取り出し、列車検知信号の受信有無に応じて該当区間に係る列車の非在・線在線を検知するようになっている。
測定対象信号が列車検知信号の電流値の場合、例えば上記信号線11,12,13,14それぞれに電流測定用端子24が装着される。電流測定用端子24には、CTと略して呼ばれる非接触式のクランプ式電流センサが多用されている(図5(b)参照)。
【0006】
測定器20が固定設置されて多数の信号を測定して収集する現場装置の場合(図5(a)参照)、測定器20の筐体外面に、測定対象信号の数と同じかそれより多い多数の入力端子21(測定器側コネクタ,レセプタクル,接栓座)が、例えばマトリクス配置で設けられている。
測定器20と軌道回路10〜14は別装置であり離れていることも多いので、両装置に亘る測定対象信号の伝送には、撚電線に絶縁被覆を施した測定用電線23が用いられる。測定用電線23も、測定対象信号の数以上が使用される。
【0007】
測定用電線23の一端側には、上記の入力端子21に対応した接続端子22(コネクタ,接栓)が装着されており、両端子21,22には嵌合式・差込式のコネクタであってロック機能の付いたものが多用されている(例えば特許文献6参照)。
また、測定用電線23の他端側には、上述した測定用端子24が装着されており、この測定用端子24と測定用電線23と接続端子22とが繋がって一本の信号測定用導線を成している。各信号測定用導線は個々に配線されていることもあれば(図5(a)参照)、複数の信号測定用導線が中間部分をケーブルに纏められて一緒に配線されていることもある(図示せず)。
【0008】
このような固定の測定器20にて継続的に信号測定を行う他、不定期や急に鉄道信号機器の信号を測定したいこともあり、そのような場合、携帯用のマルチメータや携帯可能なオシロスコープなどが測定器20として使用される(図5(c)参照)。
また、測定対象信号が電圧信号の場合、例えば信号線11,12間の電圧を測定する場合、測定用電線23の他端側には、上述した非接触式の電流測定用端子24でなく、接触式の電圧測定用端子25が装着される。電圧測定用端子25は、電圧信号を拾い上げることができる部材であれば良く、ネジ止め式の固定用接続端子や、嵌合式・差込式の着脱用コネクタ、一時固定用のクリップ、非固定のピンなど種々のものが用いられる。
【0009】
マルチメータのテストリード(信号測定用導線)の一例は(図5(d)参照)、測定用電線23の一端側の接続端子22にバナナプラグが採用され、測定用電線23の他端側の電圧測定用端子25にピンが採用されたものである。
オシロスコープのテストリード(信号測定用導線)の一例は(図5(e)参照)、測定用電線23の他端側の電圧測定用端子25にクリップが採用されるとともに、そのような測定用電線23を二本ほど束ねて一本のケーブルにしたうえで、測定用電線23の一端側には、接続端子22二個分を一つで賄う接続端子26(コネクタ,接栓)を採用したものである。かかる接続端子26にはBNCプラグが多用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−247234号公報
【特許文献2】特開2007−261551号公報
【特許文献3】特開2010−228576号公報
【特許文献4】特開2011−020462号公報
【特許文献5】特開2011−060778号公報
【特許文献6】特開2003−264013号公報
【特許文献7】特開2007−141742号公報
【特許文献8】特開2008−098024号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】黄程陽・長島高洋著「定常状態監視システム開発の変遷」DAIDO101、p.2−9、大同信号株式会社発行2002年1月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような測定器20で鉄道信号機器の信号線11,12の電圧を測定する場合(図5(f)参照)、電圧を測定する測定器20の入力端子21,21の間には、測定器20の内部に明示的に設けられた又は保護回路等に付随して設けられた入力抵抗R20が存在し、この入力抵抗R20が大抵1MΩ以上の大きな抵抗値を示すのに対し鉄道信号機器の測定対象信号の伝送箇所のインピーダンスが1kΩより小さな抵抗値になっているので、電圧測定用端子25が接触式であっても、信号測定用導線が総て適切に接続された状態で電圧測定が行われる限り、信号線11,12の測定対象信号に異変はなく、鉄道信号機器は正常動作する。
【0013】
しかしながら、例えば入力端子21に接続された接続端子22の所で測定用電線23の一端側の解れ線23aが本来の接続先の接続端子22でない他の接続端子22に触れたりすると(図5(g)参照)、二本の測定用電線23を介して信号線11,12が不所望に短絡されてしまうので、かかる事態の発生を未然に防止するために、信号測定用導線の製造時や受入検査時はもちろん、配線時や調整時、さらには保守点検時などにも、解れ線23aを注意深く探すのであるが、撚電線の解れ線23aは細いので、作業者にとって労力ばかりか精神的な負担も重い。
【0014】
鉄道用の監視装置の現場装置にはネジ止め式や嵌合式・差込式の接続端子22が多く使われているのに対し、接続端子22,26にバナナプラグやBNCプラグが多く使われている携帯式のマルチメータやオシロスコープ等では、上述したような短絡異常が発生しなさそうにも見えるが、携帯式の測定器を用いて鉄道信号機器の電圧測定を行うのは、急な事が多いうえ列車運行の無い夜間が多いことから、暗闇で見づらいうえ作業者は気が急くので、短絡異常の原因になりかねない解れ線23aはもちろんそれより太い導線でも見つけにくいし、接続端子22,26同士の接触や地絡などにも気をつかうため、作業負担が軽いとは言えない。特に悪天候下では作業者の負担が過重になりがちである。携帯した測定器20の入力回路等の短絡故障にも気を配らないといけないし、素早く電圧測定を済ませたい緊急時でも測定実行前の安全チェック等に長い時間が掛かってしまう。
【0015】
そこで、撚電線に絶縁被覆を施した絶縁被覆電線を測定用電線として鉄道信号機器に係る信号の電圧を測定する作業やその関連作業を気軽かつ迅速に行えるようにすべく、鉄道信号機器の信号に係る電圧測定に際し、測定器や測定用電線で短絡異常が発生したとしても、その短絡異常が測定対象信号に異変を来すことが無いよう、測定手段等を改良することが基本的な技術課題となる。
また、そのような改良を簡便かつ安価に具体化することが更なる技術課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具は、このような課題を解決するために創案されたものであり、鉄道信号機器の電圧測定箇所に接触させる電圧測定用端子を着脱しうる測定用端子側コネクタと、 測定器の入力端子に接続される接続端子が一端側に装着されている測定用電線の他端側に装着されている他端接続端子を着脱しうる測定用電線側コネクタと、 一端が前記測定用端子側コネクタに接続され他端が前記測定用電線側コネクタに接続された介挿抵抗と、 前記測定用端子側コネクタ及び前記測定用電線側コネクタを両端に分けて保持するとともに前記介挿抵抗を内蔵した電気絶縁性の筒状保持体とを備えている鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具であって、 前記介挿抵抗の抵抗値が前記測定器の電圧測定時の入力端子間抵抗より小さく且つ前記電圧測定箇所の二箇所間抵抗の何れよりも大きいことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の鉄道信号機器電圧測定方法は、上記の鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具を信号測定用導線の測定端寄り部位に介挿してから鉄道信号機器の信号電圧を測定するというものであり、具体的には、鉄道信号機器の電圧測定箇所と測定器の複数の入力端子とを信号測定用導線にて一対一接続してから前記測定器にて電圧測定を行う鉄道信号機器電圧測定方法において、前記介挿抵抗の抵抗値が前記測定器の電圧測定時の入力端子間抵抗より小さく且つ前記電圧測定箇所の二箇所間抵抗の何れよりも大きい介挿抵抗が筒状保持体に内蔵されているとともに測定用端子側コネクタ及び測定用電線側コネクタが前記筒状保持体の両端に分かれて保持され且つ前記介挿抵抗の両端に個別接続されている補助具と、前記測定用端子側コネクタに着脱しうる電圧測定用端子と、前記入力端子に接続される接続端子が一端側に装着されており且つ前記測定用電線側コネクタに着脱しうる他端接続端子が他端側に装着されている測定用電線とを揃え、前記電圧測定用端子と前記測定用端子側コネクタとを係着させるとともに前記他端接続端子と前記測定用電線側コネクタとを係着させることにより前記電圧測定用端子と前記補助具と前記測定用電線とを連結させて前記信号測定用導線とし、前記接続端子を前記入力端子に接続するとともに前記電圧測定用端子を前記電圧測定箇所に接触させて電圧測定を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
このような本発明の鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具および鉄道信号機器電圧測定方法にあっては、鉄道信号機器の電圧測定箇所から測定器の入力端子へ測定信号を伝達する信号測定用導線に対して、電圧測定用端子と測定用電線との間へ、補助具を挿入することができる。そして、その挿入により、補助具に内蔵されている介挿抵抗が、補助具を挿入した信号測定用導線の抵抗となるが、その抵抗値が測定器の電圧測定時の入力端子間抵抗より小さいため、鉄道信号機器の動作状態の良否判定に悪影響が及ぶ心配はない。なお、正確な測定値が必要なときには、入力端子間抵抗と介挿抵抗の抵抗値で換算すれば良い。
【0019】
また、介挿抵抗が信号測定用導線のうち測定端寄り部位に介挿されているので、電圧測定用端子同士が短絡した場合は別として、現在のところ発生防止に心を砕いている短絡異常の原因となっている測定用電線から測定器までの所で発生する短絡については、短絡箇所と電圧測定箇所との間に介挿抵抗が介在することとなる。そして、その介挿抵抗の抵抗値が電圧測定箇所の二箇所間抵抗の何れよりも大きいため、短絡異常が測定対象信号に及ぼす影響が緩和抑制されることから、短絡異常が発生したときでも測定対象信号に異変が生ずる心配がないので、鉄道信号機器に係る信号の電圧を測定する作業やその関連作業を気軽に行って素早く済ませることができる。
【0020】
さらに、鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具が絶縁性の筒状保持体にて一体物に纏められているうえ、両端のコネクタを利用することで容易に着脱できるようになっているため、後付や取り外しなどが簡単にできて便利である。しかも、介挿抵抗やコネクタに汎用品を採用することにより、補助具ばかりか信号測定用導線までも安価に作ることができる。
したがって、この発明によれば、上述した基本的な技術課題に加えて更なる技術課題まで解決することができる。
【0021】
なお、本発明の鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具および鉄道信号機器電圧測定方法が適用される鉄道信号の分野では、鉄道信号機器側の抵抗が1kΩ以下なのに対し、測定器側の抵抗が1MΩ以上であって、両者の抵抗値に桁違いの相違があること、それも何桁も異なること、がほとんどである。そのため、何れの抵抗とも桁の違う抵抗値であって中間値の抵抗が存在するので、そのような抵抗を介在させることにより、短絡異常の影響伝搬を的確に断つことができる。すなわち、補助具に内蔵されている介挿抵抗の抵抗値が測定器の電圧測定時の入力端子間抵抗より桁違いに小さいため、正常時には、抵抗の介在による測定値の変動はほんの僅かにすぎないので、換算の必要性が小さい。また、異常時には、短絡異常が測定対象信号に及ぼす影響が十分に緩和抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例1について、鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具の構造を示し、(a)が補助具の四面図、(b)が補助具の要部の断面図、(c)が補助具の記号図、(d)が補助具を介挿した信号測定用導線の外観図である。
【図2】鉄道信号機器電圧測定方法を示し、(a)が軌道回路の列車検知信号を鉄道用監視装置にて監視している状況を示す模式図、(b)が正常な測定回路の等価回路図、(c)が短絡異常発生時の測定回路の等価回路図である。
【図3】本発明の実施例2について、鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具の構造等を示し、(a)が補助具を介挿した信号測定用導線の外観図、(b)が短絡異常発生時の測定回路の等価回路図である。
【図4】本発明の実施例3について、鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具を介挿した信号測定用導線の外観図である。
【図5】従来の鉄道信号機器の信号測定方法を示し、(a)が軌道回路の列車検知信号を鉄道用監視装置にて監視している状況を示す模式図、(b)が電流測定用非接触式の測定用端子の模式図、(c)が軌道回路の列車検知信号をマルチメータで測定している状況を示す模式図、(d)がマルチメータ用テストリードの外観図、(e)がオシロスコープ用テストリードの外観図、(f)が正常な測定回路の等価回路図、(g)が短絡異常発生時の測定回路の等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
このような本発明の鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具および鉄道信号機器電圧測定方法について、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1〜3により説明する。図1〜2に示した実施例1は、鉄道の現場に固定設置された監視装置が測定器になっている場合について、上述した解決手段1〜2(出願当初の請求項1〜2)を具現化したものであり、図3に示した実施例2は、マルチメータが測定器として使用される場合について、上述した解決手段1〜2(出願当初の請求項1〜2)を具現化したものであり、図4に示した実施例3は、オシロスコープ用テストリードが信号測定用導線として使用される場合について、上述した解決手段1〜2(出願当初の請求項1〜2)を具現化したものである。なお、それらの図示に際し従来と同様の構成要素には同一の符号を付して示したので、また、それらについて背景技術の欄で述べたことは以下の各実施例についても共通するので、重複する再度の説明は割愛し、以下、従来との相違点を中心に説明する。
【実施例1】
【0024】
本発明の鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具の実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。
図1は、(a)が鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具30の四面図、(b)が補助具30の要部の断面図、(c)が補助具30の記号図、(d)が補助具30を介挿した信号測定用導線の外観図であって連結状態のものと展開状態のものとを示している。
【0025】
鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具30は(図1(a)〜(d)参照)、測定用端子側コネクタ31と筒状保持体32と測定用電線側コネクタ33と介挿抵抗R30とを具えたものであり、筒状保持体32に他の部材を格納状態で取り付けることで一体物に組み立てられている。この筒状保持体32は、電気絶縁性部材から作られた複数部材からなり、それらのフックを係合させると一体化するようになっており、内腔部に介挿抵抗R30を差し込んでからフック係合にて一体化させることで介挿抵抗R30を内蔵した絶縁性ボディとなる。
【0026】
測定用端子側コネクタ31は、後述する電圧測定用端子35に対応した嵌合式・差込式のコネクタ(接栓)であり、例えば汎用品のバナナプラグが採用されて、電圧測定用端子35に着脱しうるものとなっている。測定用端子側コネクタ31は、電圧測定用端子35への着脱部を突き出した状態で筒状保持体32の内腔に嵌挿固定されている。
測定用電線側コネクタ33は、後述する他端接続端子34に対応した嵌合式・差込式のコネクタ(接栓)であり、例えば汎用品のバナナジャックが採用されて、他端接続端子34に着脱しうるものとなっている。測定用電線側コネクタ33は、ほぼ全体が隠れた状態で筒状保持体32の内腔に嵌挿されているが、筒状保持体32の内腔端面からは覗き見でき、そこから内腔に差し込まれた他端接続端子34の着脱部が届く所に固定されている。
【0027】
これらの測定用端子側コネクタ31と測定用電線側コネクタ33は、何れも筒状保持体32に保持されているが、保持位置が筒状保持体32の両端に分かれている。
介挿抵抗R30は、上述したように筒状保持体32の内腔に収まった状態で筒状保持体32に内蔵されているが、筒状保持体32の内腔の中で介挿抵抗R30の一端が測定用端子側コネクタ31に接続され介挿抵抗R30の他端が測定用電線側コネクタ33に接続されている。そのため、補助具30は、両端の測定用端子側コネクタ31と測定用電線側コネクタ33とが介挿抵抗R30を介して接続され電気を導通させるものとなっている。
【0028】
この介挿抵抗R30には市販の金属皮膜抵抗や炭素皮膜抵抗などが採用されるが、その際、介挿抵抗R30の抵抗値が測定器20の電圧測定時の入力端子21,21間の抵抗より桁違いに小さくなるとともに、介挿抵抗R30の抵抗値が鉄道信号機器に係る電圧測定箇所の二箇所間抵抗の何れよりも桁違いに大きくなるような抵抗が選択される。既述したように入力端子間の抵抗が1MΩ以上であり電圧測定箇所の抵抗が1kΩ以下なので、介挿抵抗R30に10kΩ程度の抵抗を採用しておけば、大抵の場合に間に合う。
【0029】
電圧測定用端子35は(図1(d)参照)、既述した電圧測定用端子25と同じく鉄道信号機器に係る複数の電圧測定箇所の何れかに接触させるものであり、ここでも電圧測定用端子25とそっくりなクリップ様のものを図示したが、電圧測定用端子25と異なり、両端のうち接触側・クリップ側の端部とは逆向きの端部のところが、上述したバナナプラグの測定用端子側コネクタ31に対応したバナナジャックのコネクタになっている。
測定用電線23は、既述したものと同じく、撚電線に絶縁被覆を施したものであり、測定器20の入力端子21に接続される既述のロック機能付き嵌合式・差込式の接続端子22が一端側に装着されているが、既述したものと異なり、他端側には電圧測定用端子25でなく他端接続端子34が装着されている。
【0030】
他端接続端子34は、上述した測定用電線側コネクタ33に対応したコネクタ(接栓)であり、例えば汎用品のバナナプラグが採用されて、測定用電線側コネクタ33に着脱しうるものとなっている。
信号測定用導線は(図1(d)参照)、電圧測定用端子35と測定用端子側コネクタ31を係着させるとともに測定用電線側コネクタ33と他端接続端子34とを係着させて電圧測定用端子35と補助具30と他端接続端子34とを連結させることにより出来上がり、電圧測定用端子35を鉄道信号機器の電圧測定箇所に接触させて留めるとともに、測定用電線23の一端側の接続端子22を測定器20の入力端子21に接続させると、鉄道信号機器から測定対象信号を拾い上げてそれを測定器20に伝送するものとなる。
【0031】
この実施例1の鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具30を使用して行う鉄道信号機器電圧測定方法を、図面を引用して説明する。この場合、鉄道の現場に固定設置された監視装置が測定器20になっており、鉄道信号機器および電圧測定箇所が軌道回路10〜14及びその信号線11,12,13,14になっている。図2は、(a)が軌道回路10〜14の列車検知信号を測定器20にて測定している状況を示す模式図、(b)が正常な測定回路の等価回路図、(c)が短絡異常発生時の測定回路の等価回路図である。
【0032】
ここでの測定が既述したもの(図5(a)参照)と相違するのは(図2(a)参照)、測定器20が電流でなく電圧を測定するようになっている点と、それに伴って非接触式の電流測定用端子24に代えて接触式の電圧測定用端子35が導入され信号線11,12,13,14それぞれの電圧測定箇所に接続されている点と、測定用電線23の他端に電流測定用端子24でなく他端接続端子34が装着されている点と、電圧測定用端子35と他端接続端子34との間に補助具30が介挿されて信号測定用導線が電圧測定用端子35と補助具30と測定用電線23との直列接続連結体になっている点である。
【0033】
この場合、例えば信号線11,12間の電圧が測定器20で測定されているとすると(図2(b)参照)、電圧を測定する測定器20の入力端子21,21の間に1MΩ以上の入力抵抗R20が存在するとともに、送信線11側の信号測定用導線にも送信線12側の信号測定用導線にも10kΩ程度の介挿抵抗R30が存在するので、測定器20で得られる測定電圧値は、信号線11,12間の真の電圧から、入力抵抗R20の抵抗値とそれに二個の介挿抵抗R30を加えた総抵抗値との比に応じて、減少するが、各抵抗値が上記の値であれば電圧測定値の誤差は2%程度にとどまる。そして、この程度の測定誤差であれば、鉄道信号機器の動作状態の良否判定に悪影響が及ぶ心配はない。また、真の電圧値が必要なときには、測定電圧値を上記比で除算することにより正確な測定結果を得ることができる。その換算は手計算でも簡便に行えるが、測定器20で自動化しても良い。
【0034】
これに対し、例えば入力端子21,21に接続された接続端子22,22の所で一方の信号測定用導線の測定用電線23の一端側の解れ線23aが他方の信号測定用導線の測定用電線23の一端側の接続端子22に触れたりすると(図2(c)参照)、二本の測定用電線23同士が短絡されてしまう。そうすると、それらの測定用電線23の属する二本の信号測定用導線が短絡され、さらにはそれらを介して信号線11,12までも導通することになるが、それぞれの信号測定用導線には電圧測定用端子35寄りの所で介挿抵抗R30が介挿接続されていることから、信号線11,12は、導通すると言っても、両者間に二個の介挿抵抗R30が存在しているので、短絡という異常には至らない。
【0035】
詳述すると、介挿抵抗R30の抵抗値が上述したような10kΩ程度であれば、接続端子22や測定用電線23に短絡異常が発生しても、信号線11,12には介挿抵抗R30二個分で抵抗値20kΩ程度の抵抗が介在し続ける。
また、測定用電線23や接続端子22が地絡した場合でも、信号線11,12と大地との間には抵抗値10kΩ程度の介挿抵抗R30が少なくとも一個は介在し続ける。
このような10kΩや20kΩといった抵抗値は、電圧測定箇所の二箇所間抵抗の1kΩ以下と比べれば、それより桁違いに大きい。
【0036】
そのため、信号線11,12の列車検知信号の電圧の変動は、せいぜい10%程度にすぎず、この程度は、列車検知信号など、過酷な環境下で使用される鉄道信号機器に係る信号については、予め想定され設定された余裕度の範囲内であり、誤作動を引き起こすものではないので、信号線11,12の測定対象信号に異変はなく、軌道回路10〜14は正常動作する。
【0037】
このように信号測定用導線の大部分を占める測定用電線23や接続端子22の側で短絡異常が発生したときでも、測定対象の列車検知信号には異変が生ずる心配がないので、軌道回路10〜14に係る列車検知信号の電圧を測定するために信号測定用導線を引き回して信号線11,12,13,14と測定器20に接続する配線作業も、電圧測定開始後の配線接続状態確認作業等も、気軽に行って素早く済ませることができる。
【実施例2】
【0038】
本発明の鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具の実施例2について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図3(a)は、鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具30を介挿した信号測定用導線の外観図である。
【0039】
この信号測定用導線が上述した実施例1の信号測定用導線と相違するのは、測定用電線23の一端側の接続端子22がバナナプラグになっている点である。
測定用電線23とその他端側の他端接続端子34と補助具30と電圧測定用端子35は上述した実施例1のものと同じである。
【0040】
この実施例2の補助具30を用いた鉄道信号機器電圧測定方法を、図面を引用して説明する。図3(b)は、短絡異常発生時の測定回路の等価回路図である。
この場合、信号測定用導線の接続端子22がバナナプラグになっており、それに対応したバナナジャックを入力端子21として装備している既述のマルチメータが測定器20として電圧測定に用いられる。
【0041】
そして、例えば送信線11,12間の電圧を測定する場合、二本の信号測定用導線のうち一方の信号測定用導線の電圧測定用端子35が送信線11に接続されるとともに、他方の信号測定用導線の電圧測定用端子35が送信線12に接続される。
また、二本の信号測定用導線の接続端子22が測定器20の二個の入力端子21に一つずつ接続されるが、その接続に際し、誤って接続端子22同士を接触させてしまったり(図3(b)参照)、接続は正しくなされても測定器20の測定切り替えを誤って測定器20を電流測定状態にしてしまったときには、二本の信号測定用導線の測定用電線23,23同士が短絡異常状態に置かれることとなる。
【0042】
そうすると、それらの測定用電線23の属する二本の信号測定用導線が短絡され、さらにはそれらを介して送信線11,12までも導通することになるが、上記の実施例1で詳述したように、それぞれの信号測定用導線には電圧測定用端子35寄りの所に介挿抵抗R30が介挿接続されていることから、信号線11,12は、導通すると言っても、両者間に二個の介挿抵抗R30が存在しているので、短絡という異常には至らない。
このように、この場合も、測定用電線23や接続端子22の側で短絡異常が発生したときでも、測定対象の列車検知信号には異変が生ずる心配がないので、マルチメータで送信線11,12間の電圧を測定する作業も、気軽に行って素早く済ませることができる。
【実施例3】
【0043】
図4に外観図を示した信号測定用導線が上述した実施例1,2の信号測定用導線と相違するのは、二本の信号測定用導線の測定用電線23の一端側が一本のケーブルに纏められてから既述の接続端子26(コネクタ,接栓)に接続されている点である。
なお、測定用電線23の他端寄り部分とその他端側の他端接続端子34と補助具30と電圧測定用端子35は二組とも上述した実施例1,2のものと同じである。
【0044】
この場合、信号測定用導線の一端側の接続端子26がBNCプラグになっていて、信号測定用導線が既述したオシロスコープのテストリード(図5(e)参照)と同様に使用できるものとなっており、既述したオシロスコープが測定器20として電圧測定に用いられる。この信号測定用導線が既述のオシロスコープ用テストリードと明確に相違するのは(図4参照)、電圧測定用端子25に代わる電圧測定用端子35と測定用電線23の他端側の他端接続端子34との間に補助具30が介挿されている点である。
そのため、繰り返しとなる詳細な説明は割愛するが、この場合も、測定用電線23や接続端子26の側で短絡異常が発生しても、測定対象の列車検知信号には異変が生ずる心配がないので、オシロスコープでの電圧測定作業も気軽に素早く行うことができる。
【0045】
[その他]
上記実施例では電圧測定用端子35の具体例として接触部がクリップになっているものを図示したが、電圧測定用端子35の接触部は、クリップに限られる訳でなく、電圧測定に適えば、ピンや他の形状になっていても良い。
上記実施例では、軌道回路の信号線の電圧測定を具体例として説明したが、軌道回路の他、信号機や,転てつ機,踏切,電源ケーブル,ATS(自動列車停止装置),閉そく装置,警報スピーカ,警報灯といった各種の鉄道信号機器に係る信号の電圧測定が本発明の適用対象となる。そして、例えば、軌道回路ではリレーのコイルの両端の印加電圧も測定対象とされ、信号機では信号電球の両端の印加電圧などが測定される。
【符号の説明】
【0046】
10…軌道(レール対)、11,12…送信線、13,14…受信線、
20…測定器(鉄道用の監視装置,マルチメータ,オシロスコープ)、
21…入力端子(測定器側コネクタ,レセプタクル,接栓座)、
22…接続端子(測定用電線の一端側のコネクタ,バナナプラグ,接栓)、
23…測定用電線(撚電線・絶縁被覆電線、信号測定用導線の要部)、
23a…解れ線(短絡原因)、24…電流測定用端子(非接触式,CT)、
25…電圧測定用端子(信号拾い上げ部材,接触式,ピン,クリップ)、
26…接続端子(測定用電線の一端側のコネクタ,BNCプラグ,接栓)、
30…補助具(鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具)、
31…測定用端子側コネクタ(バナナプラグ,接栓)、
32…筒状保持体(絶縁性ボディ,抵抗格納部材)、
33…測定用電線側コネクタ(バナナジャック,接栓)、
34…他端接続端子(測定用電線の他端側のコネクタ,バナナプラグ,接栓)、
35…電圧測定用端子(接触式,ピン,クリップ)、
R20…入力抵抗、R30…介挿抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道信号機器の電圧測定箇所に接触させる電圧測定用端子を着脱しうる測定用端子側コネクタと、
測定器の入力端子に接続される接続端子が一端側に装着されている測定用電線の他端側に装着されている他端接続端子を着脱しうる測定用電線側コネクタと、
一端が前記測定用端子側コネクタに接続され他端が前記測定用電線側コネクタに接続された介挿抵抗と、
前記測定用端子側コネクタ及び前記測定用電線側コネクタを両端に分けて保持するとともに前記介挿抵抗を内蔵した電気絶縁性の筒状保持体とを備えている鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具であって、
前記介挿抵抗の抵抗値が前記測定器の電圧測定時の入力端子間抵抗より小さく且つ前記電圧測定箇所の二箇所間抵抗の何れよりも大きい
ことを特徴とする鉄道信号機器電圧測定用電線用補助具。
【請求項2】
鉄道信号機器の電圧測定箇所と
測定器の複数の入力端子と
を信号測定用導線にて一対一接続してから前記測定器にて電圧測定を行う鉄道信号機器電圧測定方法において、
前記介挿抵抗の抵抗値が前記測定器の電圧測定時の入力端子間抵抗より小さく且つ前記電圧測定箇所の二箇所間抵抗の何れよりも大きい介挿抵抗が筒状保持体に内蔵されているとともに
測定用端子側コネクタ及び測定用電線側コネクタが
前記筒状保持体の両端に分かれて保持され且つ前記介挿抵抗の両端に個別接続されている補助具と、
前記測定用端子側コネクタに着脱しうる電圧測定用端子と、
前記入力端子に接続される接続端子が一端側に装着されており且つ前記測定用電線側コネクタに着脱しうる他端接続端子が他端側に装着されている測定用電線と
を揃え、
前記電圧測定用端子と前記測定用端子側コネクタとを係着させるとともに
前記他端接続端子と前記測定用電線側コネクタとを係着させることにより
前記電圧測定用端子と前記補助具と前記測定用電線とを連結させて前記信号測定用導線とし、
前記接続端子を前記入力端子に接続するとともに前記電圧測定用端子を前記電圧測定箇所に接触させて電圧測定を行う
ことを特徴とする鉄道信号機器電圧測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−88197(P2013−88197A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227250(P2011−227250)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000207470)大同信号株式会社 (83)
【Fターム(参考)】