説明

鉄道用防音壁

【課題】簡易な構造でもって高所での遮音性能を確保しながら風荷重の影響の緩和を図ることが可能な鉄道用防音壁を提供する。
【解決手段】軌道1を走行する車両から発生する騒音の軌道1外部への放射を防止する鉄道用防音壁10を、軌道1の側方に設置される壁本体20と、該壁本体20の上方において互いに上下方向に間隔をあけて重なるように複数が配列され、上方に向かうに従って軌道1の内側に向かって張り出すように傾斜する遮音板40とから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道上を走行する鉄道車両から発生する騒音の軌道外へ伝搬を防止する鉄道用防音壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が軌道を走行することにより発生する騒音としては、車輪やレールの振動から発生する転動音、パンタグラフから発生する集電騒音、車体と空気流との作用から発生する車体空力音、高架橋等の構造物の振動から発生する構造物音等が挙げられる。
このような騒音が軌道外部へ伝搬することを抑制すべく、鉄道の軌道の側方には防音壁が設けられている。
【0003】
上記騒音の中でも特に転動音を主とした車両下部から発生する騒音は顕著であり、この車両下部騒音に対して種々の対策が施されている。例えば特許文献1には、軌道の側方に設けられた防音壁の上端に音波干渉機構を設けるとともに該防音壁から軌道側に張り出す音吸収構造を設けたものが開示されている。
【0004】
ところで、沿線の住宅の高層化が進む近年、住宅の高層階に対する騒音対策が課題となっている。高層階に対する騒音対策として防音壁で対応する場合、音源となる車両下部と受音点となる高層階とを遮蔽する高さまで防音壁を延長する必要があり、高大な防音壁を設けなければならない。
【0005】
しかしながら、防音壁の高さを大きくすると、防音壁自体が風荷重の影響を強く受けることになるため、防音壁のみならず当該防音壁が設置された構造物への負荷が増大してしまう。したがって、強風時の負荷にも耐え得る強度を確保すべく、防音壁や構造物の補強が必要となり、大規模な工事に伴って莫大なコストや時間を要することとなる。
【0006】
これに対して、通常時には一定の遮音性能を有しつつ、強風時には風荷重を緩和することが可能な防音壁が提案されている。例えば特許文献2には、上下に間隔をあけて配置された防音部材間に遮音部材が開閉可能に配置され、所定の風圧以上になれば遮音部材が倒れ、防音部材間が開放されるとともに所定の風圧以下になれば遮音部材が復元し、防音部材間が閉塞されるようになされた防音壁が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−282276号公報
【特許文献2】特開平09−209316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献2に示される防音壁は、多数の異なる部材からなるとともに風荷重によって開閉する可動部も存在するため、その構造は複雑なものとなっている。したがって、製作コストやメンテナンスコストが増大してしまうという問題があった。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、簡易な構造でもって高所での遮音性能を確保しながら風荷重の影響の緩和を図ることが可能な鉄道用防音壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明に係る防音壁は、車両が軌道を走行する際にこれら車両や軌道から発生する騒音の前記軌道外部への伝搬を防止する鉄道用防音壁であって、前記軌道の側方に設置される壁本体と、該壁本体の上方において互いに上下方向に間隔をあけて重なるように複数が配列され、それぞれ上方に向かうに従って前記軌道の内側に向かって張り出すように傾斜する遮音板とを備えることを特徴とする。
【0011】
このような特徴の防音壁によれば、車両や軌道から発生して軌道の側方かつ上方に向かう騒音エネルギーは、壁本体の上方に配置された軌道の内側に向かって張り出すように傾斜する遮音板によって軌道側へと戻される。このように軌道に戻された騒音エネルギーは、軌道自体の吸音効果によって減衰させることができる。
さらに、遮音板に吸音材を敷設した場合は、上下に重なる遮音板同士の間で騒音エネルギーの反射が繰り返される多重反射が生じることで該騒音エネルギーを減衰させることができる。
また、遮音板は上下に間隔をあけて配置されているため、線路直角方向、即ち、軌道幅方向に吹く風はこれら遮音板の間の間隙を通過する。したがって、強風が発生した際であっても大きな風荷重が遮音板に作用してしまうことを防止できる。
さらに、本発明の防音壁は、遮音板を傾斜して配置させるのみの構成のため、部品点数が少なく可動部分もない。
【0012】
また、本発明に係る防音壁においては、互いに上下に隣り合う一対の前記遮音板のうちの上方に設けられた一方の前記遮音板の下端が、下方に設けられた他方の前記遮音板の上端よりも上方に位置していることが好ましい。
【0013】
この場合、遮音板同士の間に軌道内外を水平方向に沿って連通させる空間が形成されるため、遮音板に与えられる風荷重の影響をより低減させることができる。
【0014】
さらに、本発明に係る防音壁においては、互いに上下に隣り合う一対の前記遮音板のうちの上方に設けられた一方の前記遮音板の下端が、下方に設けられた他方の前記遮音板の上端よりも下方に位置していてもよい。
【0015】
この場合、騒音エネルギーが遮音板に到達することなく軌道外部に直接的に伝搬してしまうことを回避できる。また、遮音板間での騒音エネルギーの多重反射の発生頻度を増加させることができる。
【0016】
さらに、本発明に係る防音壁においては、複数の前記遮音板のうちの少なくとも一つの遮音板の表面に吸音材が設けられていることが好ましい。
これによって遮音板に到達した騒音エネルギーを吸音材によって減衰させることができるため、軌道外部に伝搬される騒音エネルギーをより低減させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の防音壁によれば、複数の遮音板を上下に間隔をあけながら傾斜して配置したことにより、風の通過路を確保しながら車両下部から発生する騒音エネルギーが軌道外部へ伝搬してしまうことを防止できる。これによって、簡易な構造でもって高所での遮音性能を確保しながら風荷重の影響の緩和を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第一実施形態に係る防音壁における軌道の線路方向に直交する断面図である。
【図2】第一実施形態の防音壁における上下に隣り合う一対の遮音板の拡大図である。
【図3】第二実施形態の防音壁における上下に隣り合う一対の遮音板の拡大図である。
【図4】遮音板に吸音材を形成した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の防音壁の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、実施形態の防音壁10は鉄道車両2が走行する軌道1の側方に設けられており、壁本体20、支持部30及び遮音板40から構成されている。なお、防音壁10は軌道1の両側に設けられていてもよいし、片側のみに設けられていてもよい。
【0020】
なお、軌道1としては、路盤上に多数のバラストからなる道床が設けられたバラスト軌道1や、コンクリート路盤上に軌道スラブを設置したスラブ軌道のいずれであってもよい。鉄道車両2がこの軌道1上のレールを走行することにより、該車両2下部から転動音を主とした騒音が発生する。
【0021】
壁本体20は軌道1の側方において該軌道1の線路方向(軌道1の延在方向)に延びるように立設されている。この壁本体20は例えばコンクリート等の構造体から構成されている。なお、壁本体20の下端は路盤に固定されていることが好ましく、他の構造物に固定されていてもよい。なお、この壁本体20の高さは適宜設定することができ、本実施形態では例えば鉄道車両2の台車の高さ程度とされている。
【0022】
支持部30は壁本体20の上端から上方に向かって延びるように該壁本体20に対して一体に固定されており、例えば軌道1の線路方向、即ち、壁本体20の線路方向に間隔をあけて複数配置された柱状をなしている。なお、この支持部30の構成としては当該形態に限られず、壁本体20に一体に固定されて該壁本体20の上方に存在していればいずれの形態であってもよい。
【0023】
遮音板40は、例えば鋼材やアルミニウム等の金属や木材等から構成された所定の厚みを有する矩形板状をなす部材である。この遮音板40は、壁本体20の上方において複数が上下に間隔をあけて重なるようにして支持部30に固定支持されている。各遮音板40は、その長手方向を軌道1の線路方向に沿わせた状態で、軌道1の内側に向かうに従って漸次上方に向かって傾斜するように設けられている。これによって、遮音板40は壁本体20よりも軌道1内側に向かって張り出した状態とされている。
【0024】
なお、この遮音板40の軌道1の線路方向に直行する水平方向、即ち、線路直角方向(軌道幅方向)に対する傾斜角度は、例えば30°〜60°の範囲に設定されていることが好ましく、例えば約40°に設定されていることがより好ましい。
【0025】
また、本実施形態では、各遮音板40の上端41、即ち、各遮音板40における軌道1の内側の端部の線路直角方向の位置は互いに同一とされている。また、同様にして、各遮音壁の下端42、即ち、各遮音板40における軌道1の外側の端部の線路直角方向の位置は互いに同一とされている。これによって、各遮音板40を上方から見た際には、これら遮音板40は互いに重なっているように配置されている。
【0026】
ここで、本実施形態では、詳しくは図2に示すように、互いに上下に隣り合う一対の遮音板40において、上方に設けられた一方の遮音板40の下端42が下方に設けられた他方の遮音板40の上端41よりも上方に位置している。即ち、これら一対の遮音板40は、軌道1幅方向に重なる部分がないように上下に離間して配置されておりこれによって、一対の遮音板40の間には、軌道1幅方向に該軌道1内外を互いに臨ませる空間50が形成されている。
【0027】
次に、上記構成の防音壁10の作用について説明する。
図1に示すように、軌道1上を鉄道車両2が走行すると該鉄道車両2の下部から軌道1の側方に向かって放射状に騒音エネルギーが伝搬していく。この騒音エネルギーのうち、軌道1の線路方向に直交する水平方向に向かう騒音エネルギーは、壁本体20に到達することにより該壁本体20に吸収され、また、壁本体20によって軌道1内側に向かって反射される。このようにして軌道1内側に向かう騒音エネルギーは軌道1のバラスト等によって吸収される。
【0028】
また、上記騒音エネルギーのうち軌道1の側方かつ上方に傾斜して進行する騒音エネルギー、即ち、高所に向かう騒音エネルギーは、詳しくは図2に示すように、壁本体20の上方に設けられた遮音板40に到達する。このように遮音板40に到達した騒音エネルギー、より詳細には、遮音板40の一対の傾斜面43のうち斜め下方をむく傾斜面43に到達した騒音エネルギーは、当該傾斜面43によって反射される。即ち、遮音板40が軌道1内側に向かうに従って上方に傾斜しているため、このような遮音板40に到達した斜め上方に向かっての騒音エネルギーが軌道1内側かつ下方に向かって反射される。そして、反射された騒音エネルギーは軌道1のバラスト等によって吸収される。
【0029】
また、遮音板40によって反射された騒音エネルギーの一部は、反射した遮音板40の下方にある遮音板40に到達し、即ち、当該遮音板40の上方かつ軌道1外側を向く傾斜面43に到達し、この傾斜面43によって再び反射される。これによって、上下に隣り合う遮音板40によって騒音エネルギーの多重反射が発生することで、該騒音エネルギーは遮音板40によって吸収されていく。
【0030】
一方、例えば軌道1の内側から外側に向かっての風が発生した場合には、当該風は上下に隣り合う遮音板40の間の空間50を通過して軌道1外側へと進行していく。また、遮音板40に到達した風は、該遮音板40における下方かつ軌道1内側を向く傾斜面43によって案内されることにより、やはり遮音板40の間の空間50を通過して軌道1外側へと進行していく。
【0031】
以上のように、本実施形態の防音壁10によれば、車両2下部から発生して軌道1の側方かつ上方に向かう騒音エネルギーは、壁本体20の上方に配置された遮音板40によって軌道1側へと戻され、軌道1の吸音効果によって低減される。さらに、上下に重なる遮音板40同士の間で騒音エネルギーの反射が繰り返される多重反射が生じることで該騒音エネルギーを減衰させることができる。これによって、車両2下部から発生する騒音エネルギーの軌道1外部へ伝搬を防止することができる。
【0032】
また、遮音板40は上下に間隔をあけて配置されているため、これら遮音板40の間の空間50を介して空気が軌道1の内外に流れることができる。したがって、風が発生した場合であっても大きな風荷重が遮音板40に作用してしまうことを防止できる。
さらに、遮音板40を傾斜して配置させるのみの構成のため、部品点数が少なく可動部分もないことから簡易な構成でもって防音壁10を実現することができる。
したがって本実施形態の防音壁10によれば、簡易な構造でもって高所での遮音性能を確保しながら風荷重の影響の緩和を図ることが可能となる。
【0033】
また、特に本実施形態においては、上下に隣り合う一対の遮音板40は、軌道1幅方向に重なる部分がないように上下に離間して配置されているため、強風が発生した場合であってもこの強風が遮音板40の間の空間50を容易に通過することで、過剰な風荷重が遮音板40に作用してしまうことをより確実に防止することができる。
【0034】
次に本発明の第二実施形態について図3を参照して説明する。この第二実施形態については第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。第二実施形態の防音壁10は、遮音板40の配置について第一実施形態とは相違する。
【0035】
即ち、第二実施形態の防音壁10は、互いに上下に隣り合う一対の遮音板40において、上方に設けられた一方の遮音板40の下端42が、下方に設けられた他方の遮音板40の上端41よりも下方に位置している。即ち、これら一対の遮音板40は、軌道1幅方向に重なる部分が存在するように上下に近接して配置されている。
【0036】
このような第二実施形態の防音壁10では、風の通過路となるのは上下に隣り合う遮音板40の傾斜面43間の間隙となるため、第一実施形態に比べて風の通過路は狭小なものとなる。したがって、強風に対する風荷重は第一実施形態よりは大きいものとなる。
【0037】
その一方で、第一実施形態のように遮音板40の間に軌道1内外を互いに臨ませる空間50が存在しないために、騒音エネルギーが遮音板40に到達することなく軌道1外部に直接的に伝搬することを回避できる。さらに、遮音板40が互いに近接して配置されているため、図3に示すように、当該遮音板40間での遮音板40間での騒音エネルギーの多重反射の発生頻度を増加させることができる。これによって、遮音板40間で騒音エネルギーをより確実に減衰させることができ、防音効果の向上を図ることが可能となる。
【0038】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、これらに限定されることはなく、多少の設計変更等も可能である。
例えば図4に示すように、遮音板40における一対の傾斜面43の表面にスポンジやグラスウール等の吸音材44を形成してもよい。この場合、遮音板40の傾斜面43における騒音エネルギーの吸収効果を向上させることができ、騒音エネルギーの軌道1外部への伝搬をより確実に回避することができる。
【0039】
また、例えば遮音板40自体をプラスチックや強化ガラス等の透明材料から構成してもよい。これによって、軌道1沿線の家屋に対して日照を妨げてしまうことを回避することができる。
【0040】
さらに、例えば上下に隣り合う一対の遮音板40において、上方に配置された一方の遮音板40の下端42と下方に配置された他方の遮音板40の上端41との上下方向位置を互いに同一としてもよい。これによっても、第一、第二実施形態同様、高所での遮音性能を確保しながら風荷重の影響の緩和を図ることができる。
【0041】
また、実施形態においては壁本体20の上方のみに遮音板40を配置したが、例えば軌道1の上方において軌道1の線路方向に直交する水平方向に延びる水平支持部を形成し、当該水平支持部に遮音板40を複数固定支持させてもよい。これによっても、遮音板40間の間隙によって風を逃がしながら、上方に向かって進行する騒音エネルギーが軌道1外部に伝搬してしまうことをより確実に防止できる。
【符号の説明】
【0042】
1 軌道
2 車両
10 防音壁
20 壁本体
30 支持部
40 遮音板
41 上端
42 下端
43 傾斜面
44 吸音材
50 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が軌道を走行する際にこれら車両や軌道から発生する騒音の前記軌道外部への伝搬を防止する鉄道用防音壁であって、
前記軌道の側方に設置される壁本体と、
該壁本体の上方において互いに上下方向に間隔をあけて重なるように複数が配列され、それぞれ上方に向かうに従って前記軌道の内側に向かって張り出すように傾斜する遮音板とを備えることを特徴とする鉄道用防音壁。
【請求項2】
互いに上下に隣り合う一対の前記遮音板のうちの上方に設けられた一方の遮音板の下端が、下方に設けられた他方の遮音板の上端よりも上方に位置していることを特徴とする請求項1に記載の鉄道用防音壁。
【請求項3】
互いに上下に隣り合う一対の前記遮音板のうちの上方に設けられた一方の遮音板の下端が、下方に設けられた他方の遮音板の上端よりも下方に位置していることを特徴とする請求項1に記載の鉄道用防音壁。
【請求項4】
複数の前記遮音板のうちの少なくとも一つの遮音板の表面に吸音材が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の鉄道用防音壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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