鉄道車両の床構造
【課題】構造の複雑化、高コスト化、重量化を招かずに、高い制振性、遮音性を発揮するようにする。
【解決手段】アルミダブルスキン基板1の上に、弾性床材11を所定厚さに貼り合わせ、この弾性床材11の上面または厚み方向の中間に貼り合わせた金属床材12とアルミダブルスキン基板1との間で、弾性床材11の厚み方向の全体または一部を拘束したことにより、上記の目的を達成する。
【解決手段】アルミダブルスキン基板1の上に、弾性床材11を所定厚さに貼り合わせ、この弾性床材11の上面または厚み方向の中間に貼り合わせた金属床材12とアルミダブルスキン基板1との間で、弾性床材11の厚み方向の全体または一部を拘束したことにより、上記の目的を達成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の床構造に関し、特に音響特性改善構造を有した鉄道車両の床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の音響特性改善構造としては、横梁上に固定された波板の上に、詰め物層および不陸調整層を介して敷物を配置した床構造において、詰め物層を、骨材を弾性材料からなるバインダで結合一体化した構造とするか、あるいは、弾性骨材をバインダで結合一体化した構造とすることによって、波板から詰め物層を経て床上面に伝わる振動エネルギを、弾性要素によって効率的に熱エネルギに変換し、床から客室内に放射される音を有効に抑制する技術が既に知られている(特許文献1参照。)。また、中空部を有するトラス形アルミ押出形材の中空部の内面の一部又は全部、具体的にはリブと面板に制振樹脂を配置し、加熱して制振樹脂を中空部内面に接着させて制振特性を向上させる技術も知られている(特許文献2参照。)。
【0003】
特許文献2は、リブと面板を別体に形成し、面板の一方又は双方をアルミ板間に樹脂を挟んで一体化した制振板として、制振樹脂を貼ったリブと結合する音響特性改善構造も併せ開示し、制振板としたことによって剛性が低下することについては、リブとの結合点に凸条を設けて対応する例を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−127964号公報
【特許文献2】特開平9−174722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1、2に記載のものはいずれも、部品点数、組み立て工数が多く構造が複雑で高価につく。鉄道車両の床は確かに、レールから、あるいはモータ等から励振された台車部品の振動が台枠を介して固体伝達されるので、客室内の静粛性を確保するのに音響特性の改善性を高めるのは重要である。しかし、そのために構造が複雑化して重量化することは鉄道車両、特に新幹線(登録商標)のような高速車両にとって不利になる。また、コスト上昇は車両の種類にかかわらず不利である。
【0006】
特許文献2に開示の図1〜図7に開示の技術は、中空押出形材を利用したもので、それ自体は新幹線(登録商標)車両などに実用されるものであるが、各中空部の内面に制振樹脂やフィルムを貼り付ける作業は多数並ぶ中空部単位の個別作業となるし、その作業域も長尺になるので作業に手間が掛かりコスト上昇の原因になる上、床面に求められるクッション性や外観が得られないのでそのための床面積層構造が別途必要になるので、さらに構造が複雑化、高コスト化し、また重量も増大する問題がある。
【0007】
本発明の目的は、構造の複雑化、高コスト化、重量化を招かずに、従来に比しさらに高い制振性、遮音性を発揮する鉄道車両の床構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような目的を達成するために、アルミダブルスキン基板の上に、弾性床材を所定厚さに貼り合わせ、この弾性床材の上面または厚み方向の中間に貼り合わせた金属床材とアルミダブルスキン基板との間で、弾性床材の厚み方向の全体または一部を拘束したことを特徴としている。
【0009】
このような構成では、アルミダブルスキン基板上の開放面に、1層または2層の弾性床材と1層の金属床材を貼り合わせるだけで作業しやすく、部品点数、組み立て工数が少ない、簡単な構造で、床に求められるクッション性を満足して、上面層が床に求められる外観が得られない場合に限って床敷物を必要とする程度で、構造や作業が特に複雑化してコスト上昇を招くことはないし、重量も徒に増大しない。にもかかわらず、クッション性を与える弾性床材は、透過しようとする音を吸収して振動エネルギを熱エネルギに変換するし、アルミダブルスキン基板と金属床材との間に挟まれた部分は、特に、両側から拘束された状態で、構造物経由で固体伝播したレールから、あるいはモータ等から励振された台車部品の振動が台枠・床構造に固体伝播して振動を受けることにより、アルミダブルスキン基板自体や金属床材自体が振動して発音する原因となる振動エネルギ、および透過音の振動エネルギ、を吸収して効率よく熱エネルギに変換して消費することができる。
【0010】
上記において、さらに、金属床材は、アルミであり、厚みが4mm以上であることを特徴とすることができる。
【0011】
このような構成では、上記に加え、さらに、金属床材がアルミであることにより、4mm以上の厚みとして十分な制振性、遮音性が得られる拘束力を発揮できる。
【0012】
上記において、さらに、弾性床材は、ゴムであり、所定の厚みが23mm以上であることを特徴とすることができる。
【0013】
このような構成では、上記に加え、さらに、弾性材料がゴムであることにより、金属床材が上面または途中にあっても、総厚が23mm以上で床に求められるクッション性を満足する。
【0014】
上記において、さらに、ゴムは、ゴムチップとゴムチップを繋ぐバインダとからなることを特徴とすることができる。
【0015】
このような構成では、上記に加え、さらに、吸音、遮音、防振、空孔構造による断熱の作用に優れたものとなる。
【0016】
上記において、さらに、最表面に、塩ビまたはゴム系の床敷物を備えていることを特徴とすることができる。
【0017】
このような構成では、上記に加え、さらに、弾性床材としての塩ビまたはゴム系の床敷物が最表面にて、床に求められるクッション性および外観を満足することができる。
【0018】
本発明のそれ以上の目的および特徴は、以下の詳細な説明および図面の記載によって明らかになる。また、本発明の各特徴は、それ単独で、あるいは可能な限り種々な組み合わせで複合して採用することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、重量化せず高い剛性を確保できるアルミダブルスキン基板の開放面上に1層または2層の弾性床材、1層の金属床材を貼り合わせる作業がしやすく、部品点数、組み立て工数が少ない簡単な構造で、弾性床材にて床に求められるクッション性と外観を満足することができるし、金属床材が表面に露出する場合でも床敷物を敷く程度で外観を満足するので、構造や作業が特に複雑化してコスト上昇を招くことはないし、重量も徒に増大しないにもかかわらず、弾性床材は透過しようとする音を吸収して振動エネルギを熱エネルギに変換して消費するのに併せ、アルミダブルスキン基板と金属床材との間で拘束された部分は特に、構造物経由で固体伝播したレールから、あるいはモータ等から励振された台車部品の振動が台枠・床構造に固体伝播して振動を受けることにより、アルミダブルスキン基板自体や金属床材自体が振動して発音する原因となる振動エネルギを吸収して効率よく熱エネルギに変換して消費するので、高い制振性、遮音性を発揮し、静粛な車内環境を保証することができる。
【0020】
上記に加え、さらに、比重の違う金属板の複合によって、制振性と重量増との関係を調整することができる。
【0021】
上記に加え、さらに、金属床材がアルミであることにより、4mm以上の厚みとして十分な制振性、遮音性が得られる拘束力を発揮し、4mm程度に抑えることで特に重量化することはない。
【0022】
上記に加え、さらに、弾性材料がゴムであることにより、金属床材が上面または途中にあっても、総厚が23mm以上で床に求められるクッション性を満足することができ、特に重量化するのを防止できる。
【0023】
上記において、さらに、ゴムは、ゴムチップとゴムチップを繋ぐバインダとからなることを特徴とすることができる。
【0024】
このような構成では、上記に加え、さらに、吸音、遮音、防振、空孔構造による断熱の作用に優れたものとなり、組成によっては極難燃性作用も得られる。
【0025】
上記に加え、さらに、弾性床材としての塩ビまたはゴム系の床敷物が最表面にて床に求められる表面でのクッション性および外観を満足することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第1、第2の実施例に対する比較例1を示す模式断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第1、第2の実施例に対する比較例2を示す模式断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第1、第2の実施例に対する比較例3を示す模式断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第1、第2の実施例に対する比較例4を示す模式断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第1、第2の実施例に対する比較例5を示す模式断面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第1、第2の実施例に対する比較例6を示す模式断面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第1、第2の実施例に対する比較例7を示す模式断面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第1の実施例を示す模式断面図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第2の実施例を示す模式断面図である。
【図10】比較例1〜7と第1、第2の実施例とにつき、振動放射音オーバーオール値を比較したグラフである。
【図11】比較例1、2、5と第1、第2の実施例とにつき、振動放射音周波数応答特性を比較したグラフである。
【図12】比較例1、2、5と第1、第2の実施例とにつき、騒音レベル差を比較評価したグラフである。
【図13】比較例1、2、5と第1、第2の実施例とにつき、騒音レベル差周波数応答特性を比較評価したグラフである。
【図14】比較例1、2、5と第1、第2の実施例とにつき、質量比較したグラフである。
【図15】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第3の実施例に対する比較例15を示す模式断面図である。
【図16】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第3の実施例に対する比較例16を示す模式断面図である。
【図17】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第3の実施例を示す模式断面図である。
【図18】比較例15、16と第3の実施例とにつき、振動放射音オーバーオール値を比較したグラフである。
【図19】比較例15、16と第3の実施例とにつき、振動放射音周波数応答特性を比較評価したグラフである。
【図20】振動特性計測装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造について、図を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。なお、以下の説明および図示は、本発明の具体例であって、特許請求の範囲の記載内容を限定するものではない。
【0028】
鉄道車両において車外から車内へ透過する騒音の周波数帯域は一般に500Hz〜5000Hz程度である。また固体振動伝達音は50Hz〜500Hz程度が多いことが経験上判っている。これらの透過騒音や固体振動伝達の周波数帯域を上手く遮音および制振することにより、静粛な車内環境を維持することができ、快適な旅客サービスを提供することができる。
【0029】
本実施の形態の鉄道車両の床構造は、図8、図9、図17に代表的な例を単位パネルにて模式的に示しているが、アルミ合金を含むアルミ系材料で形成した押出形材であるアルミダブルスキン基板1を用いる。図に見られるように、アルミダブルスキン基板1は鉄道車両に通常採用されているような中空部2を持ったもので、中空部2はトラス形態のリブ3や平行なリブ、あるいはそれらが複合したリブなど種々なリブの配置によって形成される。押出形材の幅は近時増大してはいるが製造上限界があるので、図示するような単位幅のものを溶接して接合することにより所定幅の床が形成される。本実施の形態では中空部2の形状やリブの形態を特に問うものではない。
【0030】
基本的に、アルミダブルスキン基板1の上に、弾性床材11を所定厚さに貼り合わせ、この弾性床材11の上面または厚み方向の中間に貼り合わせた金属床材12とアルミダブルスキン基板1との間で、弾性床材11の厚み方向の全体または一部を拘束したものとしている。これにより、アルミダブルスキン基板1上の開放面1aに、1層または2層の弾性床材11または11a、11bと1層の金属床材12を一液または二液の樹脂バインダなどにて貼り合わせるだけで作業しやすく、部品点数、組み立て工数が少ない、簡単な構造で、床に求められるクッション性を満足して、上面層が床に求められる外観が得られない場合に限って図17に示すように床敷物13を必要とする程度で、構造や作業が特に複雑化してコスト上昇を招くことはないし、重量も徒に増大しない。にもかかわらず、クッション性を与える弾性床材11または11a、11bは、透過しようとする音を吸収して振動エネルギを熱エネルギに変換するし、アルミダブルスキン基板1と金属床材12との間に挟まれた部分11または11aは、特に、両側から拘束された状態で、構造物経由で固体伝播したレールから、あるいはモータ等から励振された台車部品の振動を受けることにより、アルミダブルスキン基板1自体や金属床材12自体が振動して発音する原因となる振動エネルギ、および透過音の振動エネルギ、を吸収して効率よく熱エネルギに変換して消費することができる。
【0031】
この結果、重量化せず高い剛性を確保できるアルミダブルスキン基板1の開放面1a上に1層または2層の弾性床材11または11a、11b、1層の金属床材12を貼り合わせる作業がしやすく、部品点数、組み立て工数が少ない簡単な構造で、弾性床材11または11a、11bにて床に求められるクッション性、つまり歩行時の快適性、足への負担の軽減性を高め、コツコツといった歩行異音の発生を防止し、外観を満足することができるし、金属床材が表面に露出する場合でも床敷物を敷く程度で外観を満足するので、構造や作業が特に複雑化してコスト上昇を招くことはないし、重量も徒に増大しないにもかかわらず、弾性床材11または11a、11bは透過しようとする音を吸収して振動エネルギを熱エネルギに変換して消費するのに併せ、アルミダブルスキン基板1と金属床材12との間で拘束された部分11または11aは特に、構造物経由で固体伝播したレールから、あるいはモータ等から励振された台車部品の振動を受けることにより、アルミダブルスキン基板1自体や金属床材12自体が振動して発音する原因となる振動エネルギを吸収して効率よく熱エネルギに変換して消費するので、高い制振性、遮音性を発揮し、静粛な車内環境を保証することができる。
【0032】
金属床材12は異種金属板の複合として、それが弾性床材をアルミダブルスキン基板との間に挟むどのような層として設けられるかにかかわらず、比重の違う金属板の複合によって、制振性と重量増との関係を調整することができる。
【0033】
後に詳述するが、金属床材12は、アルミであり、厚みが4mm以上であることで、
十分な制振性、遮音性が得られる拘束力を発揮できる。つまり、4mm以上の厚みとして十分な制振性、遮音性が得られる拘束力を発揮し、4mm程度に抑えることで特に重量化することはない。
【0034】
また、弾性床材11は、ゴムであり、所定の厚みが23mm以上であることで、金属床材12が上面または途中にあっても、総厚が23mm以上で床に求められるクッション性を満足し、特に重量化するのを防止できる。
【0035】
また、ゴムは、ゴムチップとゴムチップを繋ぐバインダとからなるものであることにより、吸音、遮音、防振、空孔構造による断熱の作用に優れたものとなる。これを満足するものとして商品名「KSノンブレン」がある。組成によっては極難燃性作用も得られる。これをも満足するものは本出願人が先に提案している(特開2001−81226号公報)。
【0036】
具体例としては、ゴムなどの弾性床材、例えば古タイヤ等を細断したもの、が用いられているとともに、そのバインダとしては従来と同等のエポキシ系樹脂が用いられている。そして、空孔を有し、難燃性物質を含む。
【0037】
以下に、本実施の形態につき、本発明に至るまでの各段階の比較例を伴い音響特性試験のデータを示しながら詳述する。音響特製試験は図20に示すような試験装置によった。
【0038】
この試験装置は、加振台21上に載せた供試体22にピンクノイズを加振源とする加振器23から加振し、供試体22上の暗箱24内で振動ピックアップセンサ25により振動をピックアップし、騒音計マイク26によって騒音を拾った。加振器23はノイズジェネレータ27での発振をグラフィックイコライザ28、アンプ29を経て駆動し、振動ピックアップセンサ25からの出力はチャージアンプ30を介しFFT測定器31に入力し、騒音計26の出力は騒音計本体32を経てFFT測定器31に入力し、供試体22の振動および供試体22からの騒音をそれぞれ計測した。
【0039】
図1〜図7に比較例1〜7を示している。図1に示す比較例1は、アルミダブルスキン基板の上に厚みtが27mmの弾性床材(ゴムチップ+バインダ)を接着した供試体。
【0040】
図2に示す比較例2は、アルミダブルスキン基板の上に厚みtが3.2mmの鋼板を接着し、さらにその上に厚みtが23.8mmの弾性床材を接着した供試体。図3に示す比較例3は、アルミダブルスキン基板の上に厚みtが2mmのブチレンゴム製の制振材を接着し、その上に厚みtが3.21mmの鋼板を接着し、さらにその上に厚みtが21.8mmの弾性床材を接着した供試体。図4に示す比較例4は、アルミダブルスキン基板の上に厚みtが2mmのブチレン製制振材を接着し、その上に厚みtが2mmの鋼板を接着し、またその上に厚みtが20mmの骨材を介して厚みtが4mm、のアルミ板を接着し、鋼板とアルミ板との間に吸音材を充填した供試体。図5に示す比較例5は、アルミダブルスキン基板の上に厚みtが4.5mmの鋼板を接着し、その上に厚みtが5mmの吸音材を接着し、さらにその上に厚みtが3.6mmのアルミハニカムを接着した供試体。
【0041】
図6に示す比較例6は、図1の比較例の弾性床材の上に厚みtが4mmのアルミ板を載置しただけの供試体。図7に示す比較例7は、図1の比較例の弾性床材の上に厚みtが3.2mmの鋼板を載置しただけの供試体である。
【0042】
図8に示す第1の実施例は、アルミダブルスキン基板1の上に厚みtが23mmの弾性床材11(既述弾性床材)を接着し、その上に厚みtが4mmのアルミ製金属床材12を接着して供試体とした。また、図9に示す第2の実施例は、アルミダブルスキン基材1の上に厚みtが11.5mmの弾性床材11a(既述弾性床材)を接着し、その上に厚みtが4mmのアルミ製金属床材12を接着し、さらにその上に厚みtが11.5mmの弾性床材11b(既述弾性床材)を接着し、弾性床材の層厚さが23mmとなる供試体とした。
【0043】
以上の比較例1〜7、第1、第2の実施例につき、振動放射音(オーバーオール値)特性につき試験を実施した結果、図10に符号1〜9で示す通りとなった。これによると、弾性床材を設けるだけの比較例1の騒音レベルが87.0dBと最も高く、これに、厚みtが2mmの制振材上に骨材表裏のアルミ板、鋼板間に吸音材を充填したパネルを配置した比較例4の83.2dB、鋼板の上に弾性床材を設けた比較例2の81.9dB、厚みtが2mmの制振材、厚みtが3.2mmの鋼板、厚みtが21.8mmの弾性床材を積層した比較例3の81.2dB、厚みtが4.5mmの鋼板、厚みtが5mmの吸音材、厚みtが3.6mmのアルミハニカム材を積層した比較例5の78.8dBが続き、体感できる3dB以上の騒音低減の目標からは十分なものとはいえない。これらに対し、厚みtが11.5mmの弾性床材、厚みtが4mmのアルミ、厚みtが11.5mmの弾性床材を積層した第2の実施例が77.3dB、厚みtが23mmの弾性床材、厚みtが4mmのアルミを積層した第1の実施例が75.8dB、厚みtが27mmの弾性床材の上に厚みtが4mmのアルミを載せただけの比較例6が72.5dB、厚みtが27mmの弾性床材の上に厚みtが3.2mmの鋼板を載せただけの比較例7が71.6dBと騒音が十分に低減している。しかし、比較例6、7は厚みの大きな弾性床材の採用による重量化の問題があり、比較例6の軽量なアルミ板との複合によっても重量問題が解消しないし、比較例7は重い鋼板との複合上騒音の低減度は高いが、比較例6以上に重量化する問題がある。第1、第2の実施例は騒音の低減が十分で、かつ重量化の問題もない。第2の実施例では弾性床材11bが床表面に位置して弾性床面を形成しているので、従来からのリノニュウムなどの床敷物を省略することができる。しかし、金属材間に挟まれない弾性床材11bは制振性に寄与しない不利はある。
【0044】
代表的な比較例1、2、5と第1、第2実施例とにつき、振動放射音周波数応答特性につき比較すると、図11に示す通りである。図から40〜1600Hzのほぼ全域において第1、第2実施例共に比較例1、2、5に対して優れ、特に、40〜150Hz付近、250〜500Hz付近、100Hz付近、1600Hz付近において優れ、第1実施例はさらに50〜125Hz付近において第2の実施例よりもさらに優れている。
【0045】
また、比較例1、2、5と第1、第2の実施例とにつき騒音レベル差で評価すると、図12に示す通りである。図から第1、第2の実施例が共に優れ、比較例5は重いが騒音低減効果は低いものとなっている。
【0046】
これを騒音レベル差周波数応答特性で比較すると、図13に示す通りである。図から第1、第2の実施例共に優れ、特に、63Hz付近〜315Hz付近、500Hz付近、1000Hz〜1600Hz付近において優れ、第1の実施例は特に160Hz付近〜315Hz付近、500Hz付近、1250Hz付近において第2の実施例よりも優れている。
【0047】
さらに、比較例1、2、5と第1、第2の実施例とにつき質量比較すると、第1、第2の実施例共に、重い比較例2、5に対し充分に軽量であり、極軽量な比較例1に近い質量に納まって高い騒音低減効果を発揮するものであることが分かる。
【0048】
最後に、鉄道車両の床構造に求められる特殊性から、その適正につき、本発明者等はさらに検証した。具体的には、アルミダブルスキン基板1の内側に弾性床材11、11aを挟んで軽量かつ制振性が得られるアルミ板を採用するが、従来から知られるような鉄道アルミ板は天井の化粧板として厚みtが1.2mmのアルミ板にメラミン樹脂を貼り合わせたもの、あるいは厚みtが1.6mmのアルミ板にシート貼りしたものが知られている。
【0049】
そこで、図15に示す厚みtが27mmの弾性床材(目止め層+修正層を含む)、厚みtが3mmの塩ビ系敷物を積層した比較例15、図16に示す厚みtが23.4mmの弾性床材(目止め層+修正層を含む)、厚みtが1.6mmのアルミ板、厚みtが3mmのゴム系床敷物+厚みtが2mmの修正層を積層した比較例16を設定し、既述の図17に示す第3の実施例とにつき、まず、振動放射音オーバーオール値を計測したところ、図18に示す通りである。図から、弾性床材の上に塩ビ系敷物を積層した比較例15は78.4dBと最も高く、弾性床材の上に厚みt1.6mmのアルミ板、ゴム系床敷物+修正層を積層した比較例16で76.7dBとまだ大きく、騒音の低減は1.7dBの騒音低減に止まった。これに対しアルミ板を厚みtが4mmとし、床敷物を設けた第3の実施例では74.8dBとなり騒音の低減は3.6dBとt1.6mmの比較例16に対し倍以上の充分に体感される騒音低減となった。ここに、アルミ板は4mm以上として制振性、騒音低減に効果があることが検証されたし、鉄道車両に許容される重量条件内でアルミ板の厚みtを増大すれば騒音の低減効果はさらに高められる。このことは、鉄道車両の他の部分での軽量化によってアルミ板の許容厚みを増大させられることを意味している。
【0050】
この検証結果を、振動放射音周波数応答特性の比較評価をすると、図19の通りである。図から800Hz付近〜2500Hz付近において、比較例15、16に対し特段の騒音低減効果を示している。
【0051】
以上をまとめると、40Hz〜2500Hzのオーバーオール値をみると、従来タイプの比較例15に対して、アルミ板にて制振性を高めた比較例16は大きな騒音低減効果は見られない一方、第3の実施例は大きな騒音改善効果を示している。このことから、弾性床材の上面に付帯させた拘束板によって、床の振動が抑制されることがわかるが、拘束板の厚みtが1.6mmでは不十分でt=4mm以上が必要であることがわかる。
【0052】
また、1/3オクターブバンド毎の周波数分析結果から、制振効果は630Hzより高い周波数帯域で顕著に現れることが分かる。拘束板の厚みtによる特徴として、1250Hzにおいて比較例16では比較例15の場合と同様に振動放射音が上昇、つまり悪化するが、第3の実施例では上昇しない。つまり悪化しない。ここに、第3の実施例は振動放射音を十分に低減しているのに対し、比較例16は従来タイプの比較例15の騒音低減効果はうすく、第1〜第3の実施例を含む本実施の形態は、比較例15に対してはもとより比較例16に対しても明らかに違った高い制振遮音効果を期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は鉄道車両の床構造に実用して、構造の複雑化、高コスト化、重量化を招かずに、高い制振性、遮音性を発揮する。
【符号の説明】
【0054】
1 アルミダブルスキン基板
1a 表面
2 中空部
3 リブ
11、11a、11b 弾性床材
12 金属床材
13(11c) 床敷物
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の床構造に関し、特に音響特性改善構造を有した鉄道車両の床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の音響特性改善構造としては、横梁上に固定された波板の上に、詰め物層および不陸調整層を介して敷物を配置した床構造において、詰め物層を、骨材を弾性材料からなるバインダで結合一体化した構造とするか、あるいは、弾性骨材をバインダで結合一体化した構造とすることによって、波板から詰め物層を経て床上面に伝わる振動エネルギを、弾性要素によって効率的に熱エネルギに変換し、床から客室内に放射される音を有効に抑制する技術が既に知られている(特許文献1参照。)。また、中空部を有するトラス形アルミ押出形材の中空部の内面の一部又は全部、具体的にはリブと面板に制振樹脂を配置し、加熱して制振樹脂を中空部内面に接着させて制振特性を向上させる技術も知られている(特許文献2参照。)。
【0003】
特許文献2は、リブと面板を別体に形成し、面板の一方又は双方をアルミ板間に樹脂を挟んで一体化した制振板として、制振樹脂を貼ったリブと結合する音響特性改善構造も併せ開示し、制振板としたことによって剛性が低下することについては、リブとの結合点に凸条を設けて対応する例を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−127964号公報
【特許文献2】特開平9−174722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1、2に記載のものはいずれも、部品点数、組み立て工数が多く構造が複雑で高価につく。鉄道車両の床は確かに、レールから、あるいはモータ等から励振された台車部品の振動が台枠を介して固体伝達されるので、客室内の静粛性を確保するのに音響特性の改善性を高めるのは重要である。しかし、そのために構造が複雑化して重量化することは鉄道車両、特に新幹線(登録商標)のような高速車両にとって不利になる。また、コスト上昇は車両の種類にかかわらず不利である。
【0006】
特許文献2に開示の図1〜図7に開示の技術は、中空押出形材を利用したもので、それ自体は新幹線(登録商標)車両などに実用されるものであるが、各中空部の内面に制振樹脂やフィルムを貼り付ける作業は多数並ぶ中空部単位の個別作業となるし、その作業域も長尺になるので作業に手間が掛かりコスト上昇の原因になる上、床面に求められるクッション性や外観が得られないのでそのための床面積層構造が別途必要になるので、さらに構造が複雑化、高コスト化し、また重量も増大する問題がある。
【0007】
本発明の目的は、構造の複雑化、高コスト化、重量化を招かずに、従来に比しさらに高い制振性、遮音性を発揮する鉄道車両の床構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような目的を達成するために、アルミダブルスキン基板の上に、弾性床材を所定厚さに貼り合わせ、この弾性床材の上面または厚み方向の中間に貼り合わせた金属床材とアルミダブルスキン基板との間で、弾性床材の厚み方向の全体または一部を拘束したことを特徴としている。
【0009】
このような構成では、アルミダブルスキン基板上の開放面に、1層または2層の弾性床材と1層の金属床材を貼り合わせるだけで作業しやすく、部品点数、組み立て工数が少ない、簡単な構造で、床に求められるクッション性を満足して、上面層が床に求められる外観が得られない場合に限って床敷物を必要とする程度で、構造や作業が特に複雑化してコスト上昇を招くことはないし、重量も徒に増大しない。にもかかわらず、クッション性を与える弾性床材は、透過しようとする音を吸収して振動エネルギを熱エネルギに変換するし、アルミダブルスキン基板と金属床材との間に挟まれた部分は、特に、両側から拘束された状態で、構造物経由で固体伝播したレールから、あるいはモータ等から励振された台車部品の振動が台枠・床構造に固体伝播して振動を受けることにより、アルミダブルスキン基板自体や金属床材自体が振動して発音する原因となる振動エネルギ、および透過音の振動エネルギ、を吸収して効率よく熱エネルギに変換して消費することができる。
【0010】
上記において、さらに、金属床材は、アルミであり、厚みが4mm以上であることを特徴とすることができる。
【0011】
このような構成では、上記に加え、さらに、金属床材がアルミであることにより、4mm以上の厚みとして十分な制振性、遮音性が得られる拘束力を発揮できる。
【0012】
上記において、さらに、弾性床材は、ゴムであり、所定の厚みが23mm以上であることを特徴とすることができる。
【0013】
このような構成では、上記に加え、さらに、弾性材料がゴムであることにより、金属床材が上面または途中にあっても、総厚が23mm以上で床に求められるクッション性を満足する。
【0014】
上記において、さらに、ゴムは、ゴムチップとゴムチップを繋ぐバインダとからなることを特徴とすることができる。
【0015】
このような構成では、上記に加え、さらに、吸音、遮音、防振、空孔構造による断熱の作用に優れたものとなる。
【0016】
上記において、さらに、最表面に、塩ビまたはゴム系の床敷物を備えていることを特徴とすることができる。
【0017】
このような構成では、上記に加え、さらに、弾性床材としての塩ビまたはゴム系の床敷物が最表面にて、床に求められるクッション性および外観を満足することができる。
【0018】
本発明のそれ以上の目的および特徴は、以下の詳細な説明および図面の記載によって明らかになる。また、本発明の各特徴は、それ単独で、あるいは可能な限り種々な組み合わせで複合して採用することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、重量化せず高い剛性を確保できるアルミダブルスキン基板の開放面上に1層または2層の弾性床材、1層の金属床材を貼り合わせる作業がしやすく、部品点数、組み立て工数が少ない簡単な構造で、弾性床材にて床に求められるクッション性と外観を満足することができるし、金属床材が表面に露出する場合でも床敷物を敷く程度で外観を満足するので、構造や作業が特に複雑化してコスト上昇を招くことはないし、重量も徒に増大しないにもかかわらず、弾性床材は透過しようとする音を吸収して振動エネルギを熱エネルギに変換して消費するのに併せ、アルミダブルスキン基板と金属床材との間で拘束された部分は特に、構造物経由で固体伝播したレールから、あるいはモータ等から励振された台車部品の振動が台枠・床構造に固体伝播して振動を受けることにより、アルミダブルスキン基板自体や金属床材自体が振動して発音する原因となる振動エネルギを吸収して効率よく熱エネルギに変換して消費するので、高い制振性、遮音性を発揮し、静粛な車内環境を保証することができる。
【0020】
上記に加え、さらに、比重の違う金属板の複合によって、制振性と重量増との関係を調整することができる。
【0021】
上記に加え、さらに、金属床材がアルミであることにより、4mm以上の厚みとして十分な制振性、遮音性が得られる拘束力を発揮し、4mm程度に抑えることで特に重量化することはない。
【0022】
上記に加え、さらに、弾性材料がゴムであることにより、金属床材が上面または途中にあっても、総厚が23mm以上で床に求められるクッション性を満足することができ、特に重量化するのを防止できる。
【0023】
上記において、さらに、ゴムは、ゴムチップとゴムチップを繋ぐバインダとからなることを特徴とすることができる。
【0024】
このような構成では、上記に加え、さらに、吸音、遮音、防振、空孔構造による断熱の作用に優れたものとなり、組成によっては極難燃性作用も得られる。
【0025】
上記に加え、さらに、弾性床材としての塩ビまたはゴム系の床敷物が最表面にて床に求められる表面でのクッション性および外観を満足することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第1、第2の実施例に対する比較例1を示す模式断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第1、第2の実施例に対する比較例2を示す模式断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第1、第2の実施例に対する比較例3を示す模式断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第1、第2の実施例に対する比較例4を示す模式断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第1、第2の実施例に対する比較例5を示す模式断面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第1、第2の実施例に対する比較例6を示す模式断面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第1、第2の実施例に対する比較例7を示す模式断面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第1の実施例を示す模式断面図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第2の実施例を示す模式断面図である。
【図10】比較例1〜7と第1、第2の実施例とにつき、振動放射音オーバーオール値を比較したグラフである。
【図11】比較例1、2、5と第1、第2の実施例とにつき、振動放射音周波数応答特性を比較したグラフである。
【図12】比較例1、2、5と第1、第2の実施例とにつき、騒音レベル差を比較評価したグラフである。
【図13】比較例1、2、5と第1、第2の実施例とにつき、騒音レベル差周波数応答特性を比較評価したグラフである。
【図14】比較例1、2、5と第1、第2の実施例とにつき、質量比較したグラフである。
【図15】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第3の実施例に対する比較例15を示す模式断面図である。
【図16】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第3の実施例に対する比較例16を示す模式断面図である。
【図17】本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造の第3の実施例を示す模式断面図である。
【図18】比較例15、16と第3の実施例とにつき、振動放射音オーバーオール値を比較したグラフである。
【図19】比較例15、16と第3の実施例とにつき、振動放射音周波数応答特性を比較評価したグラフである。
【図20】振動特性計測装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態に係る鉄道車両の床構造について、図を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。なお、以下の説明および図示は、本発明の具体例であって、特許請求の範囲の記載内容を限定するものではない。
【0028】
鉄道車両において車外から車内へ透過する騒音の周波数帯域は一般に500Hz〜5000Hz程度である。また固体振動伝達音は50Hz〜500Hz程度が多いことが経験上判っている。これらの透過騒音や固体振動伝達の周波数帯域を上手く遮音および制振することにより、静粛な車内環境を維持することができ、快適な旅客サービスを提供することができる。
【0029】
本実施の形態の鉄道車両の床構造は、図8、図9、図17に代表的な例を単位パネルにて模式的に示しているが、アルミ合金を含むアルミ系材料で形成した押出形材であるアルミダブルスキン基板1を用いる。図に見られるように、アルミダブルスキン基板1は鉄道車両に通常採用されているような中空部2を持ったもので、中空部2はトラス形態のリブ3や平行なリブ、あるいはそれらが複合したリブなど種々なリブの配置によって形成される。押出形材の幅は近時増大してはいるが製造上限界があるので、図示するような単位幅のものを溶接して接合することにより所定幅の床が形成される。本実施の形態では中空部2の形状やリブの形態を特に問うものではない。
【0030】
基本的に、アルミダブルスキン基板1の上に、弾性床材11を所定厚さに貼り合わせ、この弾性床材11の上面または厚み方向の中間に貼り合わせた金属床材12とアルミダブルスキン基板1との間で、弾性床材11の厚み方向の全体または一部を拘束したものとしている。これにより、アルミダブルスキン基板1上の開放面1aに、1層または2層の弾性床材11または11a、11bと1層の金属床材12を一液または二液の樹脂バインダなどにて貼り合わせるだけで作業しやすく、部品点数、組み立て工数が少ない、簡単な構造で、床に求められるクッション性を満足して、上面層が床に求められる外観が得られない場合に限って図17に示すように床敷物13を必要とする程度で、構造や作業が特に複雑化してコスト上昇を招くことはないし、重量も徒に増大しない。にもかかわらず、クッション性を与える弾性床材11または11a、11bは、透過しようとする音を吸収して振動エネルギを熱エネルギに変換するし、アルミダブルスキン基板1と金属床材12との間に挟まれた部分11または11aは、特に、両側から拘束された状態で、構造物経由で固体伝播したレールから、あるいはモータ等から励振された台車部品の振動を受けることにより、アルミダブルスキン基板1自体や金属床材12自体が振動して発音する原因となる振動エネルギ、および透過音の振動エネルギ、を吸収して効率よく熱エネルギに変換して消費することができる。
【0031】
この結果、重量化せず高い剛性を確保できるアルミダブルスキン基板1の開放面1a上に1層または2層の弾性床材11または11a、11b、1層の金属床材12を貼り合わせる作業がしやすく、部品点数、組み立て工数が少ない簡単な構造で、弾性床材11または11a、11bにて床に求められるクッション性、つまり歩行時の快適性、足への負担の軽減性を高め、コツコツといった歩行異音の発生を防止し、外観を満足することができるし、金属床材が表面に露出する場合でも床敷物を敷く程度で外観を満足するので、構造や作業が特に複雑化してコスト上昇を招くことはないし、重量も徒に増大しないにもかかわらず、弾性床材11または11a、11bは透過しようとする音を吸収して振動エネルギを熱エネルギに変換して消費するのに併せ、アルミダブルスキン基板1と金属床材12との間で拘束された部分11または11aは特に、構造物経由で固体伝播したレールから、あるいはモータ等から励振された台車部品の振動を受けることにより、アルミダブルスキン基板1自体や金属床材12自体が振動して発音する原因となる振動エネルギを吸収して効率よく熱エネルギに変換して消費するので、高い制振性、遮音性を発揮し、静粛な車内環境を保証することができる。
【0032】
金属床材12は異種金属板の複合として、それが弾性床材をアルミダブルスキン基板との間に挟むどのような層として設けられるかにかかわらず、比重の違う金属板の複合によって、制振性と重量増との関係を調整することができる。
【0033】
後に詳述するが、金属床材12は、アルミであり、厚みが4mm以上であることで、
十分な制振性、遮音性が得られる拘束力を発揮できる。つまり、4mm以上の厚みとして十分な制振性、遮音性が得られる拘束力を発揮し、4mm程度に抑えることで特に重量化することはない。
【0034】
また、弾性床材11は、ゴムであり、所定の厚みが23mm以上であることで、金属床材12が上面または途中にあっても、総厚が23mm以上で床に求められるクッション性を満足し、特に重量化するのを防止できる。
【0035】
また、ゴムは、ゴムチップとゴムチップを繋ぐバインダとからなるものであることにより、吸音、遮音、防振、空孔構造による断熱の作用に優れたものとなる。これを満足するものとして商品名「KSノンブレン」がある。組成によっては極難燃性作用も得られる。これをも満足するものは本出願人が先に提案している(特開2001−81226号公報)。
【0036】
具体例としては、ゴムなどの弾性床材、例えば古タイヤ等を細断したもの、が用いられているとともに、そのバインダとしては従来と同等のエポキシ系樹脂が用いられている。そして、空孔を有し、難燃性物質を含む。
【0037】
以下に、本実施の形態につき、本発明に至るまでの各段階の比較例を伴い音響特性試験のデータを示しながら詳述する。音響特製試験は図20に示すような試験装置によった。
【0038】
この試験装置は、加振台21上に載せた供試体22にピンクノイズを加振源とする加振器23から加振し、供試体22上の暗箱24内で振動ピックアップセンサ25により振動をピックアップし、騒音計マイク26によって騒音を拾った。加振器23はノイズジェネレータ27での発振をグラフィックイコライザ28、アンプ29を経て駆動し、振動ピックアップセンサ25からの出力はチャージアンプ30を介しFFT測定器31に入力し、騒音計26の出力は騒音計本体32を経てFFT測定器31に入力し、供試体22の振動および供試体22からの騒音をそれぞれ計測した。
【0039】
図1〜図7に比較例1〜7を示している。図1に示す比較例1は、アルミダブルスキン基板の上に厚みtが27mmの弾性床材(ゴムチップ+バインダ)を接着した供試体。
【0040】
図2に示す比較例2は、アルミダブルスキン基板の上に厚みtが3.2mmの鋼板を接着し、さらにその上に厚みtが23.8mmの弾性床材を接着した供試体。図3に示す比較例3は、アルミダブルスキン基板の上に厚みtが2mmのブチレンゴム製の制振材を接着し、その上に厚みtが3.21mmの鋼板を接着し、さらにその上に厚みtが21.8mmの弾性床材を接着した供試体。図4に示す比較例4は、アルミダブルスキン基板の上に厚みtが2mmのブチレン製制振材を接着し、その上に厚みtが2mmの鋼板を接着し、またその上に厚みtが20mmの骨材を介して厚みtが4mm、のアルミ板を接着し、鋼板とアルミ板との間に吸音材を充填した供試体。図5に示す比較例5は、アルミダブルスキン基板の上に厚みtが4.5mmの鋼板を接着し、その上に厚みtが5mmの吸音材を接着し、さらにその上に厚みtが3.6mmのアルミハニカムを接着した供試体。
【0041】
図6に示す比較例6は、図1の比較例の弾性床材の上に厚みtが4mmのアルミ板を載置しただけの供試体。図7に示す比較例7は、図1の比較例の弾性床材の上に厚みtが3.2mmの鋼板を載置しただけの供試体である。
【0042】
図8に示す第1の実施例は、アルミダブルスキン基板1の上に厚みtが23mmの弾性床材11(既述弾性床材)を接着し、その上に厚みtが4mmのアルミ製金属床材12を接着して供試体とした。また、図9に示す第2の実施例は、アルミダブルスキン基材1の上に厚みtが11.5mmの弾性床材11a(既述弾性床材)を接着し、その上に厚みtが4mmのアルミ製金属床材12を接着し、さらにその上に厚みtが11.5mmの弾性床材11b(既述弾性床材)を接着し、弾性床材の層厚さが23mmとなる供試体とした。
【0043】
以上の比較例1〜7、第1、第2の実施例につき、振動放射音(オーバーオール値)特性につき試験を実施した結果、図10に符号1〜9で示す通りとなった。これによると、弾性床材を設けるだけの比較例1の騒音レベルが87.0dBと最も高く、これに、厚みtが2mmの制振材上に骨材表裏のアルミ板、鋼板間に吸音材を充填したパネルを配置した比較例4の83.2dB、鋼板の上に弾性床材を設けた比較例2の81.9dB、厚みtが2mmの制振材、厚みtが3.2mmの鋼板、厚みtが21.8mmの弾性床材を積層した比較例3の81.2dB、厚みtが4.5mmの鋼板、厚みtが5mmの吸音材、厚みtが3.6mmのアルミハニカム材を積層した比較例5の78.8dBが続き、体感できる3dB以上の騒音低減の目標からは十分なものとはいえない。これらに対し、厚みtが11.5mmの弾性床材、厚みtが4mmのアルミ、厚みtが11.5mmの弾性床材を積層した第2の実施例が77.3dB、厚みtが23mmの弾性床材、厚みtが4mmのアルミを積層した第1の実施例が75.8dB、厚みtが27mmの弾性床材の上に厚みtが4mmのアルミを載せただけの比較例6が72.5dB、厚みtが27mmの弾性床材の上に厚みtが3.2mmの鋼板を載せただけの比較例7が71.6dBと騒音が十分に低減している。しかし、比較例6、7は厚みの大きな弾性床材の採用による重量化の問題があり、比較例6の軽量なアルミ板との複合によっても重量問題が解消しないし、比較例7は重い鋼板との複合上騒音の低減度は高いが、比較例6以上に重量化する問題がある。第1、第2の実施例は騒音の低減が十分で、かつ重量化の問題もない。第2の実施例では弾性床材11bが床表面に位置して弾性床面を形成しているので、従来からのリノニュウムなどの床敷物を省略することができる。しかし、金属材間に挟まれない弾性床材11bは制振性に寄与しない不利はある。
【0044】
代表的な比較例1、2、5と第1、第2実施例とにつき、振動放射音周波数応答特性につき比較すると、図11に示す通りである。図から40〜1600Hzのほぼ全域において第1、第2実施例共に比較例1、2、5に対して優れ、特に、40〜150Hz付近、250〜500Hz付近、100Hz付近、1600Hz付近において優れ、第1実施例はさらに50〜125Hz付近において第2の実施例よりもさらに優れている。
【0045】
また、比較例1、2、5と第1、第2の実施例とにつき騒音レベル差で評価すると、図12に示す通りである。図から第1、第2の実施例が共に優れ、比較例5は重いが騒音低減効果は低いものとなっている。
【0046】
これを騒音レベル差周波数応答特性で比較すると、図13に示す通りである。図から第1、第2の実施例共に優れ、特に、63Hz付近〜315Hz付近、500Hz付近、1000Hz〜1600Hz付近において優れ、第1の実施例は特に160Hz付近〜315Hz付近、500Hz付近、1250Hz付近において第2の実施例よりも優れている。
【0047】
さらに、比較例1、2、5と第1、第2の実施例とにつき質量比較すると、第1、第2の実施例共に、重い比較例2、5に対し充分に軽量であり、極軽量な比較例1に近い質量に納まって高い騒音低減効果を発揮するものであることが分かる。
【0048】
最後に、鉄道車両の床構造に求められる特殊性から、その適正につき、本発明者等はさらに検証した。具体的には、アルミダブルスキン基板1の内側に弾性床材11、11aを挟んで軽量かつ制振性が得られるアルミ板を採用するが、従来から知られるような鉄道アルミ板は天井の化粧板として厚みtが1.2mmのアルミ板にメラミン樹脂を貼り合わせたもの、あるいは厚みtが1.6mmのアルミ板にシート貼りしたものが知られている。
【0049】
そこで、図15に示す厚みtが27mmの弾性床材(目止め層+修正層を含む)、厚みtが3mmの塩ビ系敷物を積層した比較例15、図16に示す厚みtが23.4mmの弾性床材(目止め層+修正層を含む)、厚みtが1.6mmのアルミ板、厚みtが3mmのゴム系床敷物+厚みtが2mmの修正層を積層した比較例16を設定し、既述の図17に示す第3の実施例とにつき、まず、振動放射音オーバーオール値を計測したところ、図18に示す通りである。図から、弾性床材の上に塩ビ系敷物を積層した比較例15は78.4dBと最も高く、弾性床材の上に厚みt1.6mmのアルミ板、ゴム系床敷物+修正層を積層した比較例16で76.7dBとまだ大きく、騒音の低減は1.7dBの騒音低減に止まった。これに対しアルミ板を厚みtが4mmとし、床敷物を設けた第3の実施例では74.8dBとなり騒音の低減は3.6dBとt1.6mmの比較例16に対し倍以上の充分に体感される騒音低減となった。ここに、アルミ板は4mm以上として制振性、騒音低減に効果があることが検証されたし、鉄道車両に許容される重量条件内でアルミ板の厚みtを増大すれば騒音の低減効果はさらに高められる。このことは、鉄道車両の他の部分での軽量化によってアルミ板の許容厚みを増大させられることを意味している。
【0050】
この検証結果を、振動放射音周波数応答特性の比較評価をすると、図19の通りである。図から800Hz付近〜2500Hz付近において、比較例15、16に対し特段の騒音低減効果を示している。
【0051】
以上をまとめると、40Hz〜2500Hzのオーバーオール値をみると、従来タイプの比較例15に対して、アルミ板にて制振性を高めた比較例16は大きな騒音低減効果は見られない一方、第3の実施例は大きな騒音改善効果を示している。このことから、弾性床材の上面に付帯させた拘束板によって、床の振動が抑制されることがわかるが、拘束板の厚みtが1.6mmでは不十分でt=4mm以上が必要であることがわかる。
【0052】
また、1/3オクターブバンド毎の周波数分析結果から、制振効果は630Hzより高い周波数帯域で顕著に現れることが分かる。拘束板の厚みtによる特徴として、1250Hzにおいて比較例16では比較例15の場合と同様に振動放射音が上昇、つまり悪化するが、第3の実施例では上昇しない。つまり悪化しない。ここに、第3の実施例は振動放射音を十分に低減しているのに対し、比較例16は従来タイプの比較例15の騒音低減効果はうすく、第1〜第3の実施例を含む本実施の形態は、比較例15に対してはもとより比較例16に対しても明らかに違った高い制振遮音効果を期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は鉄道車両の床構造に実用して、構造の複雑化、高コスト化、重量化を招かずに、高い制振性、遮音性を発揮する。
【符号の説明】
【0054】
1 アルミダブルスキン基板
1a 表面
2 中空部
3 リブ
11、11a、11b 弾性床材
12 金属床材
13(11c) 床敷物
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミダブルスキン基板の上に、
弾性床材を所定厚さに貼り合わせ、
この弾性床材の上面または厚み方向の中間に貼り合わせた厚みが4mm以上あるアルミとアルミダブルスキン基板との間で、
弾性床材の厚み方向の全体または一部を拘束したことを特徴とする鉄道車両の床構造。
【請求項2】
前記弾性床材は、ゴムであり、所定の厚みが23mm以上である請求項1に記載の鉄道車両の床構造。
【請求項3】
前記ゴムは、ゴムチップとゴムチップを繋ぐバインダとからなる請求項2に記載の鉄道車両の床構造。
【請求項4】
最表面に、塩ビまたはゴム系の床敷物を備えている請求項1〜3のいずれか1項に記載の鉄道車両の床構造。
【請求項1】
アルミダブルスキン基板の上に、
弾性床材を所定厚さに貼り合わせ、
この弾性床材の上面または厚み方向の中間に貼り合わせた厚みが4mm以上あるアルミとアルミダブルスキン基板との間で、
弾性床材の厚み方向の全体または一部を拘束したことを特徴とする鉄道車両の床構造。
【請求項2】
前記弾性床材は、ゴムであり、所定の厚みが23mm以上である請求項1に記載の鉄道車両の床構造。
【請求項3】
前記ゴムは、ゴムチップとゴムチップを繋ぐバインダとからなる請求項2に記載の鉄道車両の床構造。
【請求項4】
最表面に、塩ビまたはゴム系の床敷物を備えている請求項1〜3のいずれか1項に記載の鉄道車両の床構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−62052(P2012−62052A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237773(P2011−237773)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【分割の表示】特願2008−106845(P2008−106845)の分割
【原出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000163372)近畿車輌株式会社 (108)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【分割の表示】特願2008−106845(P2008−106845)の分割
【原出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000163372)近畿車輌株式会社 (108)
【Fターム(参考)】
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