説明

鉄道車両構体の製造方法

【課題】部材の無駄を抑えつつ溶接部の仕上がりの均一性を維持できる鉄道車両構体の製造方法を提供する。
【解決手段】この鉄道車両構体の製造方法では、接合工程において、突き合わせ部分Pの端部を延長させる突出片21,22,23を外板に設けている。この方法によれば、溶接完了後に突出片21,22,23を外板から除去することにより、外板の突き合わせ部分Pが一定の出力でレーザの走査がなされる連続溶接部Wの中間部Wbのみで溶接された状態となるので、仕上がりの均一性を維持できる。また、突出片21,22,23上において、始端部Wa及び終端部Wcが中間部Wbの延長線L上から反れた状態となるように形成するので、溶接部を直線状に延長させる場合と比べて突出片21,22,23の長さを短くできる。したがって、部材の無駄を抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接を用いた鉄道車両構体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の側構体や妻構体といった各構体の製造工程には、ステンレス鋼などからなる外板同士を突き合わせ溶接によって接合する工程が含まれている。近年では、スポット溶接などに代わって、入熱量の少ないレーザ溶接が外板同士の接合方法として着目されており、外板の変形を抑えつつ強固な接合が実現されている。
【0003】
レーザ溶接を用いて外板同士の突き合わせ溶接を行う場合、溶接線の始端部及び終端部ではレーザ発振の開始や停止を伴うため、一定の出力でレーザの走査がなされる中間部と比較して溶接部の仕上がりの均一性を維持しにくいという問題がある。また、レーザ照射時間のばらつきにより、照射時間が長すぎると溶接部の仕上がりの悪化のほか、部材の下に配置された定盤を傷めてしまうおそれがあり、照射時間が短すぎると接合強度が不十分となるおそれがある。
【0004】
従来の溶接端の処理方法としては、例えば特許文献1に記載の接合継手のように、溶接線の終端部にスポット溶接などを施すことによって応力の緩和を図り、溶接部の疲労強度の向上を図ったものがある。また、例えば特許文献2に記載の構造体の製作方法のように、外板の縁から溶接線に沿って突出する突出片を設け、この突出片上に溶接線の端部を位置させたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−207190号公報
【特許文献2】特開2000−343249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1の方法では、溶接線の終端部に改めてスポット溶接を施しているので、結局のところ溶接部の端部と中間部との仕上がりの均一性を保つのは困難と考えられる。また、上述した特許文献2の方法では、突出片上において溶接線を直線状に延長しているので、突出片の長さを十分に確保する必要が生じる。突出片は溶接完了後に切断等によって除去されるため、突出片の長さが長くなるほど部材の無駄が増加するという問題がある。
【0007】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、部材の無駄を抑えつつ溶接部の仕上がりの均一性を維持できる鉄道車両構体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決のため、本発明に係る鉄道車両構体の製造方法は、外板同士の突き合わせ部分にレーザ溶接による連続溶接部を形成する接合工程を含む鉄道車両構体の製造方法であって、接合工程において、外板の少なくとも一方に突き合わせ部分の端部を延長させる突出片を設け、連続溶接部の始端部及び終端部の少なくとも一方が突出片上において連続溶接部の中間部の延長線上から反れた状態となるように連続溶接部を形成した後、突出片を除去することを特徴としている。
【0009】
この鉄道車両構体の製造方法では、突き合わせ部分の端部を延長させる突出片を外板に設け、レーザ発振の開始や停止を伴う溶接の始端部及び終端部の少なくとも一方を突出片上に形成する。この方法によれば、溶接完了後に突出片を除去することにより、外板同士の突き合わせ部分が一定の出力でレーザの走査がなされる溶接部の中間部のみで溶接された状態となるので、仕上がりの均一性を維持できる。また、突出片上において、始端部及び終端部が中間部の延長線上から反れた状態となるように形成するので、溶接部を直線状に延長させる場合と比べて突出片の長さを短くできる。したがって、部材の無駄を抑えられる。
【0010】
また、突き合わせ部分は、車両の窓部の両側及び上側を囲む吹寄せ板と、窓部の下側に配置される腰板との突き合わせ部分であることが好ましい。この場合、外板同士の突き合わせ部分の長さが短くなり、連続溶接部の長さが短くて済む。また、連続溶接部も上記方法によって仕上がりの均一性が維持されている。したがって、側構体の見栄えを向上できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、部材の無駄を抑えつつ溶接部の仕上がりの均一性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る鉄道車両構体の製造方法を適用して形成される鉄道車両構体の一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示した鉄道車両構体の側構体の構成を示す図である。
【図3】側構体の形成に用いる外板の一例を示す図である。
【図4】吹寄せ板及び腰板を突き合わせた状態を示す図である。
【図5】連続溶接部の始端部の形成の様子を示す図である。
【図6】連続溶接部の終端部の形成の様子を示す図である。
【図7】突出片を除去した後の吹寄せ板及び腰板の接合体を示す図である。
【図8】突出片の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る鉄道車両構体の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る鉄道車両構体の製造方法を適用して形成される鉄道車両構体の一例を示す斜視図である。同図に示すように、鉄道車両構体1は、床構体2と、側構体3と、屋根構体4と、妻構体5とを備え、これらの各構体が相互に接合されることにより、乗客を収容する空間を内部に有する箱型形状をなしている。
【0015】
床構体2は、車両の床部を構成する構体として鉄道車両構体1の底部に配置されている。側構体3及び妻構体5は、車両の側部を構成する構体として、床構体2の左右の縁部及び前後の縁部に立設されている。側構体3には、乗客・乗員が乗り降りするためのドア部6が等間隔に複数(例えば3箇所)設けられている。
【0016】
また、ドア部6,6間と側構体3の両端部とには、窓部7が設けられている。妻構体5には、乗員・乗客が車両間を行き来するための出入口部8が設けられている。屋根構体4は、車両の屋根部を構成する構体として配置されている。屋根構体4の上部には、車内の温度を調整するためのエアコンディショナーやパンタグラフなどが設置される。
【0017】
図2は、側構体3の形成に用いる外板の一例を示す図である。同図に示すように、側構体3は、吹寄せ板11と、腰板12と、ドア上板13とによって構成されている。吹寄せ板11は、ドア部6,6間の長さを有し、幕板を兼ねて窓部7の両側及び上側を囲うように配置されている。また、腰板12は、吹寄せ板11と同様にドア部6,6間の長さを有し、窓部7の下側に配置されている。腰板12の上辺端部12aは、レーザ溶接によって形成された連続溶接部Wによって吹寄せ板11の下辺端部11aに接合され、これにより、窓部7が設置される窓開口部14が形成されている。
【0018】
一方、ドア上板13は、ドア部6の幅と同等の長さを有し、ドア部6の上側に配置されている。ドア上板13の外側辺端部13aは、レーザ溶接によって形成された連続溶接部Vによって吹寄せ板11の外側辺端部11bに接合され、これにより、ドア部6が設置されるドア開口部15が形成されている。
【0019】
続いて、上述した鉄道車両構体1の製造方法について説明する。この製造方法は、外板同士の突き合わせ部分にレーザ溶接による連続溶接部を形成する接合工程に関するものであり、側構体3における外板同士の接合に限られず、例えば妻構体5における外板同士の接合などにも適用が可能であるが、ここでは、吹寄せ板11と腰板12との接合を例示する。
【0020】
まず、図3(a)及び図3(b)に示すように、吹寄せ板11と、腰板12とを用意する。接合前の吹寄せ板11には、第1の突出片21及び第2の突出片22が設けられている。また、接合前の腰板12には、第3の突出片23が設けられている。第1の突出片21は、吹寄せ板11の外側辺端部11bと下辺端部11aとが交わる角部から下辺端部11aに沿って吹寄せ板11の側方に突出している。
【0021】
一方、第2の突出片22は、例えば斜辺が緩やかに湾曲した略直角三角形状をなしている。第2の突出片22は、斜辺が吹寄せ板11の内側辺端部11c側を向き、かつ底辺が下辺端部11aに沿った状態で、内側辺端部11cと下辺端部11aとが交わる角部から吹寄せ板11の内方に突出している。また、第3の突出片23は、腰板12の外側辺端部12bと上辺端部12aとが交わる角部から上辺端部12aに沿って腰板12の側方に突出している。
【0022】
次に、図4に示すように、吹寄せ板11の下辺端部11aと、腰板12の上辺端部12aとを所定の定盤(不図示)上で突き合わせる。このとき、吹寄せ板11の第1の突出片21が腰板12の第3の突出片23に当接し、さらに、吹寄せ板11の第2の突出片22が腰板12の上辺端部12aに当接する。したがって、吹寄せ板11と腰板12との突き合わせ部分Pの一端には、第1の突出片21及び第3の突出片23の長さの分だけ延長部分Paが形成され、突き合わせ部分Pの他端には、第2の突出片22の長さの分だけ延長部分Pbが形成される。
【0023】
吹寄せ板11と腰板12とを突き合わせた後、図5に示すように、第1の突出片21の上方にレーザ溶接ヘッド31を配置する。このとき、レーザ溶接ヘッド31の初期位置は、吹寄せ板11と腰板12との突き合わせ部分Pから第1の突出片21側に外れた位置に設定する。次に、レーザ照射及びレーザ溶接ヘッド31の走査を開始し、レーザの照射位置を突き合わせ部分Pの一方の延長部分Paに向けて走査する。
【0024】
そして、レーザの照射位置が延長部分Paに到達した後、レーザ溶接ヘッド31の走査方向を変え、レーザの照射位置を突き合わせ部分Pに沿って走査する。これにより、レーザ照射によって形成される連続溶接部Wの始端部Waは、第1の突出片21上において、連続溶接部Wの中間部Wb(突き合わせ部分Pに沿って形成される溶接部分)の延長線L上から反れた状態となる。なお、始端部Waは、直線状に形成してもよく、湾曲状に形成してもよい。
【0025】
この後、突き合わせ部分Pに沿ってレーザ溶接ヘッド31の走査を継続し、レーザの照射位置が突き合わせ部分Pの他方の延長部分Pbに到達した後、レーザ溶接ヘッド31の走査方向を変える。そして、図6に示すように、第2の突出片22の斜辺方向に沿って走査した後、レーザ照射及びレーザ溶接ヘッド31の走査を停止する。これにより、連続溶接部Wの終端部Wcは、第2の突出片22上において、連続溶接部Wの中間部Wbの延長線L上から反れた状態となる。
【0026】
レーザ溶接の完了後、第1の突出片21、第2の突出片22、及び第3の突出片23を切断等によって除去すると、吹寄せ板11と腰板12との接合工程が完了し、図7に示すように、窓開口部14が形成された接合体16が得られる。この接合体16にドア上板13を接合し、ドア部6及び窓部7を取り付けることで、図2に示した側構体3が完成する。
【0027】
以上説明したように、この鉄道車両構体の製造方法では、例えば吹寄せ板11と腰板12との接合工程において、突き合わせ部分Pの端部を延長させる突出片21,22,23を吹寄せ板11及び腰板12に設けることにより、レーザ発振の開始や停止を伴う連続溶接部Wの始端部Wa及び終端部Wcを突出片21,22,23上に形成する。
【0028】
この方法によれば、溶接完了後に突出片21,22,23を吹寄せ板11及び腰板12から除去することにより、吹寄せ板11及び腰板12の突き合わせ部分Pは、一定の出力でレーザの走査がなされる連続溶接部Wの中間部Wbのみで溶接された状態となるので、仕上がりの均一性を維持できる。また、突出片21,22,23上において、始端部Wa及び終端部Wcが中間部Wbの延長線L上から反れた状態となるように形成するので、溶接部を直線状に延長させる場合と比べて突出片21,22,23の長さを短くできる。したがって、部材の無駄を抑えられる。
【0029】
上述した方法を、車両の窓部7の両側及び上側を囲む吹寄せ板11と、窓部7の下側に配置される腰板12との突き合わせ部分Pの接合に適用すると、外板同士の突き合わせ部分Pの長さが短くなり、吹寄せ板11と腰板12との接合体16において連続溶接部Wの長さが短くて済む。また、連続溶接部Wも上記方法によって仕上がりの均一性が維持されている。したがって、側構体3の見栄えを向上できる。
【0030】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上述した実施形態では、吹寄せ板11に第2の突出片22を設けているが、図8に示すように、吹寄せ板11の内側辺端部11cと下辺端部11aとが交わる角部から吹寄せ板11の内方に突出する略台形状の突出片41と、腰板12の上辺端部12aから吹寄せ板11側に突出する略直角三角形状の突出片42とを、吹寄せ板11と腰板12との突き合わせによって当接させ、これにより、略長方形状の第2の突出片43を形成するようにしてもよい。
【0031】
この場合であっても、レーザの照射位置が突き合わせ部分Pの他方の延長部分Pbに到達した後、レーザ溶接ヘッド31の走査方向を突出片41,42の当接部分に沿って変えることで、第2の突出片43上において、連続溶接部Wの終端部Wcを中間部Wbの延長線L上から反れた状態とすることができる。
【0032】
なお、連続溶接部の始端部Wa及び終端部Wcの中間部Wbに対する角度、レーザ出力、レーザ溶接ヘッド31の走査速度などは、接合対象である外板の寸法や突出片の寸法等に応じて適宜変更可能である。また、連続溶接部Wの始端部Wa及び終端部Wcのいずれか一方にのみ突出片を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1…鉄道車両構体、7…窓部、11…吹寄せ板(外板)、12…腰板(外板)、21…第1の突出片、22,43…第2の突出片、23…第3の突出片、L…延長線、W…連続溶接部、Wa…始端部、Wb…中間部、Wc…終端部、P…突き合わせ部分、Pa,Pb…延長部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外板同士の突き合わせ部分にレーザ溶接による連続溶接部を形成する接合工程を含む鉄道車両構体の製造方法であって、
前記接合工程において、前記外板の少なくとも一方に前記突き合わせ部分の端部を延長させる突出片を設け、前記連続溶接部の始端部及び終端部の少なくとも一方が前記突出片上において前記連続溶接部の中間部の延長線上から反れた状態となるように前記連続溶接部を形成した後、前記突出片を除去することを特徴とする鉄道車両構体の製造方法。
【請求項2】
前記突き合わせ部分は、車両の窓部の両側及び上側を囲む吹寄せ板と、前記窓部の下側に配置される腰板との突き合わせ部分であることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両構体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−37306(P2011−37306A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183674(P2009−183674)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)
【Fターム(参考)】