説明

鉄道車両用ストッパーの製造方法

【課題】塊状ゴムで成る鉄道車両用ストッパーを、適度な加硫時間で生産性よく、良好にエアー抜きされて高品質に作ることが可能となる製造方法を提供する。
【解決手段】空気ばねと、その下方に配置される台車との上下間に介装される弾性体5を有する鉄道車両用ストッパーの製造方法において、ゴム塊状の弾性体5を型成形するための成形型Kを用意し、成形型Kの加熱によって成形型Kに注入されている未加硫ゴムを加硫させる加硫工程においては、成形型Kにおける弾性体5の空気ばね側端部及び台車側端部の成形を担う軸端型部分Tの温度を加硫温度範囲内における比較的高温となる第1温度域t1に設定するとともに、成形型Kにおける弾性体5の空気ばね側端部及び台車側端部を除く外壁部分hの成形を担う側周型部分Rの温度を加硫温度範囲内における比較的低温で、かつ、前記第1温度域t1より低温となる第2温度域t2に設定して加硫する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気ばねと、その下方に配置される台車との上下間に介装される弾性体を有する鉄道車両用ストッパーの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の鉄道車両用ストッパーとしては、特許文献1に示されるように、ゴム輪と金属輪とが交互に径内外に配備して成る円錐状の弾性体(コニカルストッパー)や、特許文献2に示されるように、空気ばねの下側に配備される饅頭形状のゴム塊のものが開示されている。鉄道車両用ストッパーは、ある程度空気ばねが撓むと接触するように設定されており、大き過ぎる揺れの抑制や空気ばねがエアレス状態になった場合の代替クッション材として機能可能となるものとして設けられる。
【0003】
特許文献2に示される塊状ゴムによる弾性体を設ける構造のものは、欧州の鉄道で多く採用される鉄道車両用ストッパーであり、今後も多用が見込まれる。この塊状ゴムの場合、大きさや必要なゴム量によっては、混入エアが十分抜けず、また金型から取り外す際に外側のエアー入りが多くなる傾向があって不良率が高くなる問題がある。また、エア抜きが良好なものとすると生産性が明確に悪くなる問題もある。つまり、ゴムの塊といった具合のゴム量の多い製品(弾性体)を加硫する際には、ゴム物性を安定化させるために、
【0004】
問題を詳述すると、例えば加硫温度をその適合温度域における比較的高温(例:155℃)に設定して加硫を行う手段では、加硫時間は短くて済み生産性に優れる利点はあるが、型成形において未加硫ゴム塊はその周囲から加硫されて固まるので、内部エアが抜け難くなるとともに、内外で明確な硬度差ができて品質的に芳しくない〔図4(b)を参照〕。また、加硫温度をその適合温度域における比較的低温(例:135℃)に設定して加硫を行う手段では、適度なゴムの流動挙動、即ち型割り面から余剰ゴムやエアが抜け出易く品質良好となるが、加硫時間が掛かり過ぎて生産性が悪い〔図4(b)を参照〕。
【0005】
このように、ゴム塊を有する鉄道車両用ストッパーを型成形する場合には、単に加硫温度域内に設定して加硫すれば良いというわけにはいかず、その製造方法には改善の余地が残されているものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−329280号公報
【特許文献2】US−690388
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、塊状のゴムによる弾性体から成る鉄道車両用ストッパーを、エアー抜きがしっかり行えて高品質でありながら加硫時間も掛かり過ぎず生産性にも優れるものとして作ることが可能となる製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、空気ばねと、その下方に配置される台車との上下間に介装される弾性体5を有する鉄道車両用ストッパーの製造方法において、
ゴム塊状の前記弾性体5を型成形するための成形型Kを用意し、前記成形型Kの加熱によって前記成形型Kに注入されている未加硫ゴムを加硫させる加硫工程krにおいては、前記成形型Kにおける前記弾性体5の空気ばね側端部及び台車側端部の成形を担う軸端型部分Tの温度を加硫温度範囲内における比較的高温となる第1温度域t1に設定するとともに、前記成形型Kにおける前記弾性体5の空気ばね側端部及び台車側端部を除く外壁部分hの成形を担う側周型部分Rの温度を加硫温度範囲内における比較的低温で、かつ、前記第1温度域t1より低温となる第2温度域t2に設定して加硫することを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鉄道車両用ストッパーの製造方法において、側面視で略樽形の外郭形状を呈する前記弾性体5を型成形するための前記成形型Kとして、前記弾性体5の空気ばね側部を型成形する第1金型13と、前記弾性体5の台車側部を型成形する第2金型12とが含まれるものを用意し、前記加硫工程krを、前記第1金型13と前記第2金型12とをこれら両者13,12が互いに遠ざかる方向に相対移動させる脱型工程kdの前に行うことを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の鉄道車両用ストッパーの製造方法において、前記弾性体5として、その空気ばね側端に配備される第1支持板2B及び台車側端に配備される第2支持板4Aが一体的に設けられているものを用いることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の鉄道車両用ストッパーの製造方法において、前記成形型Kとして、前記第1支持板2Bの空気ばね側に配される前記第1金型13と、前記第2支持板4Aの台車側に配される前記第2金型12と、前記外壁部分hの成形を担うべく前記第1金型13と前記第2金型12との間に配される第3金型14とが含まれるものを用意することを特徴とするものである。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の鉄道車両用ストッパーの製造方法において、前記第3金型14として、前記弾性体5の最大径を為す部位を境にして空気ばね側となる第4型14Bと台車側となる第5型14Aとで成るものを用意することを特徴とするものである。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5の何れか一項に記載の鉄道車両用ストッパーの製造方法において、前記第1温度域t1を150〜160℃に、かつ、前記第2温度域t2を130〜140℃にそれぞれ設定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、詳しくは実施形態の項にて述べるが、成形型における軸端型部分は比較的高温で、かつ、側周型部分は比較的低温でという具合に加硫温度を異ならせて型成形する製造方法である。これにより、弾性体は空気ばね側端部及び台車側端部から加硫(硬化)されて行き、それらの中間部位におけるゴム流動が良いという改善された状態になり、また、熱膨張による余剰ゴムやエアが前記中間部位から抜け出し易くなって品質が安定する。そして、加硫時間については、高温加硫される場合よりは長いが低温加硫される場合よりは短くなり、生産性も改善させることが可能になる。その結果、エアー抜きがしっかり行えて高品質でありながら加硫時間も掛かり過ぎず生産性にも優れる鉄道車両用ストッパーの製造方法を提供することができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、成形型に注入されて流動する未加硫ゴムは、第1金型と第2金型との境界部から遠い箇所から加硫されて行き、境界部へのゴム流動が理想的なものに近づけることが可能になる。従って、前記効果に加えて、余剰ゴムやエアを境界部から容易に抜け出すことができて、より品質の安定化を図ることが可能となる利点がある。
【0016】
請求項3の発明のように、空気ばね側端の第1支持板及び台車側端の第2支持板を一体的に備える弾性体を用いる場合には、請求項4のように、それら両支持板の間である外壁部分の成形を担う第3金型を持つ成形型とすることが好ましく、それによって第1支持板及び/又は第2支持板がゴム塊部分の径より大きな径を有する場合であっても、無理抜きを行うことなく簡単で円滑操作で脱型工程が行える製造方法を提供することができる。この場合、請求項5の発明のように、第3金型として、弾性体の最大径を為す部位を境にして空気ばね側となる第4型と台車側となる第5型とで成る分割構造のものとすれば、脱型工程をより円滑に行うことができる利点がある。
【0017】
請求項6の発明によれば、第1温度域t1を150〜160℃に、かつ、第2温度域t2を130〜140℃にそれぞれ設定するものであり、請求項1〜5の発明による前記効果を確実に得られる鉄道車両用ストッパーの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】鉄道車両用懸架装置を示す断面図
【図2】鉄道車両用ストッパーを示し、(a)は断面図、(b)は平面図
【図3】鉄道車両用ストッパーの成形型構造を示す断面図
【図4】(a)はストッパーゴムの材料配合及び加硫特性を示す図表、(b)は実施例及び比較例の加硫特性を示す図表
【図5】ストッパー製造方法(要部)を示すフロー図
【図6】ディスク加硫試験機による加硫時間とトルクとの関係グラフを示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明による鉄道車両用ストッパー及びその製造方法の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。鉄道車両用ストッパー(以下、単にストッパーと略称すること基本とする)は、空気ばねを用いた鉄道車両用懸架装置の一構成要素である。
【0020】
鉄道車両用懸架装置Aは、図1に示すように、車体側の上支持部1と、その下方に配置される中間支持部2とに亘ってゴム(弾性材の一例)製のダイヤフラム3を設けて成る空気ばねaと、中間支持部2とこれの下方に配置される台車側の下支持部4との上下間に弾性体5を介装して成るストッパーbとを備えて構成されている。上支持部1は、その中心であって縦向きの軸心Pを有する筒ボス部1eを介して鉄道車体(図示省略)に支持され、下支持部4は、その中心であって軸心Pを有する筒軸4Cを介して台車(図示省略)に支持される。
【0021】
上支持部1は、上円板1a、下円板1b、有底筒部1c、上受座1d、筒ボス部1e等を有して成る円盤状のものに構成されている。上円板1a及び下円板1bは、共に上下方向視で円形を呈する鋼板であって、上下に重ねられてその中心部に筒ボス部1eが通されている。有底筒部1cは、下円板1bの下面に固着される深皿状の鋼板であり、上受座1dは、有底筒部1bの径外側において下円板1bの下面側に一体化されるリング状でゴム製のものである。軸心Pを有する筒ボス部1eは、上下円板1a,1b及び有底筒部1cを貫通する状態で固着されている。上受座1dは、有底筒部1cの外周面には薄膜状で、かつ、下円板1bの下面内側には厚肉状に形成されるとともに径外側ほど下方に厚くなる形状(略鉢伏形状)に形成されている。有底筒部1cの下面には、ステンレス材製で円環状を呈する被滑り板6が接着等によって一体化されている。
【0022】
ダイヤフラム3は、下円板1bと有底筒部1cと上受座1dとで形成される上隅角部(軸心Pに関してリング状を呈する)に圧入的に嵌合される上ビード部3a、広い面積でもって上受座1dで受け止められる円板上部3b、最も横方向に張り出す本体部3c、及び、中間支持部2に嵌合される下ビード部3dを有して形成されている。下ビード部3dは、本体円板2Aの外周面2aと、フランジ部2Fの外周部に嵌合装着されるアタッチメントリング7とによって形成される下隅角部(軸心Pに関してリング状を呈する)に圧入的に嵌合される。つまり、自動車のタイヤとホイールとの関係のように、上支持部1と中間支持部2との双方にダイヤフラム3がボルト等の締結構造無しに嵌合装着される構造、いわゆる「セルフシール型ダイヤフラム」を持つ構造に構成されている。
【0023】
中間支持部2は、外周面2a及びフランジ部2Fを有する金属製の本体円板2Aと、本体円板2Aの下面にボルト止めされる金属製の内周板2Bとを有して構成されている。フランジ部2Fの外周部に一体的に装備されるアタッチメントリング7は、内部に補強リング8を備えたゴム製のリング状部材である。本体円板2Aの上面には、フッ素樹脂等の低摩擦材で成り円環状を呈する滑り板11が一体装備されている。
【0024】
下支持板4は、弾性体5が一体的に載置される載せ円板4Aと、この載せ円板4Aを内嵌状態で受止める略浅底皿状の支持円板4Bと、支持円板4Bに固着される前述の筒軸4Cとから成り、載せ円板4Aはビス9とピン10とを用いて支持円板4Bに固定されている。この下支持板4は軸心Pに関して円形を呈する部材である。
【0025】
弾性体5は、載せ円板4A及び支持円板4Bと内周板2Bとのそれぞれに加硫接着される状態で上下間に介装されてるゴム塊で構成されている。このゴム塊5は、下に行くに従って凸レンズ状に径が大きくなるが、下端近傍からほぼ下端に掛けては径が小さくなり、下端は再び拡がる下拡がり状を呈するとともに、上端も上拡がり状に形成されている。筒軸4Cには上下に貫通する挿通孔4cが形成されており、ゴム塊5における筒軸4C及び支持円板4Bの中心部分の上方には、挿通孔4cに連通する空間部5kが形成されている。
【0026】
ゴム塊5が、その高さ方向で中間部分の径が最大となる略樽型の外郭形状を呈する状態で中間支持部2と下支持部4との間に介装されるとともに、ゴム塊5における下支持部4と接する端部(下端部)が、上下方向で下支持部4に近付く程径が大となる下拡がり状端部(先拡がり状端部)5Aに形成されている。また、ゴム塊5における中間支持部2と接する端部(上端部)が、上下方向で中間支持部2に近付く程径が大となる上拡がり状端部(先拡がり状端部)5Bに形成されている。
【0027】
次に、ストッパーbの製造方法について説明する。図1,図2に示すように、ストッパーbは、軸心Pを有する回転体であるゴム塊5に、空気ばね側端に配備される第1支持板である内周板2Bと、台車側端に配備される第2支持板ある載せ円板4Aとが一体的に設けられて構成されている。このストッパーbの成形型は、図3に示すように、製品として使用するときの状態とは上下反転させた姿勢で型成形される。その成形型Kは、基本的には上型(第2金型の一例)12、下型(第1金型の一例)13、中型(第3金型の一例)14から成り、上型12は入子型15を含み、そして中型14は中上型(第5金型の一例)14Aと中下型(第4金型の一例)14Bとで成る上下割構造のものである。
【0028】
内周板2Bには、本体円板2Aとの螺着を行うための複数の軸ボルト16が溶着又は植込装着されており、円板状の下型13には内周板2Bを収容する浅広凹み13a、及び複数の軸ボルト16を収容する穴凹み13bが形成されている。浅広凹み13aの深さは、内周板2Bの厚みと同じとされており、成形時には中下型14Bとで内周板2Bを挟み込み保持可能とされている。下型13と中下型14Bとは、テーパ内周面13cとテーパ外周面14dとの嵌合により、軸心Pの芯出し状態で重ね合わせ配置される。
【0029】
中上型14Aと中下型14Bとはノックピン17を用いて芯合せ状態で上下に重ね配置されて中型14となるものであり、ゴム塊5の形状として最も径の大きくなる箇所にパーティングラインが位置するように両者14A,14Bの幅(上下厚み)寸法が決められている。中上型14Aと中下型14Bとの内部には、それらの内周面14a,14bに近い箇所に温度制御用としての流体用ジャケット18,19が周設されており、それら流体用ジャケット18,19に制御用流体を給排するためのデリバリ路18a,18b,19a,19bが形成されている。流体用ジャケット18,19は、軸心Pに関する環状とか円弧状等種々のものが可能である。制御用流体としては蒸気(加熱蒸気)が好ましいが熱水、油等種々のものが可能である。
【0030】
上型12は、中上型14Aとで載せ円板4Aを挟み込み保持する成形面12a、中上型14Aのテーパー外周面14cに嵌合(外嵌)するテーパ内周面12b、入子型15を装填するための中心孔20を持つ厚板円板状の金型である。中心孔20は、下窄まり状のテーパ内周面20aと、その上側の大径内周面20b、及びテーパ内周面20aの上端と大径内周面20bの下端とを結ぶ平面状の段差周面20cとから成る。
【0031】
入子型15は、テーパ内周面20aに内嵌するテーパ外周面15a、大径内周面20bに内嵌する大径外周面15b、段差周面20cに載る環状周面15cを有するベース型15Aと、金型空間Sに大きく張り出る突出型15Bとから成る。ベース型15Aと突出型15Bとは、ボルト止等によって取り外し可能に一体化されている。突出型15Bは、ゴム塊5としての空間部5kを形成するための外郭形状を有し低ている。
【0032】
下型13と上型12とは、これらを所定の加硫温度に保持するための恒温手段(図示省略)によって一定温度に保持されるように構成されている。恒温手段としては、下型13の下側や上型12の上側にそれぞれ隣接されるプレス熱盤を設けることや、電熱ヒータを内蔵するとか、中型14のように温度制御用流体を通すジャケットを設ける等、種々のものが可能である。
【0033】
さて、ストッパーbを作成するには、図5のフロー図に示されるような製造方法が採られる。即ち、下型13に内周板2Bを載置する第1支持板セット工程k1を行い、内周板2Bが載置されている下型13に中型14を重ねて載置する中型セット工程knを行い、中型14の上に載せ円板4Aを載置する第2支持板セット工程k2、載せ円板4Aが載置されている中型14に上型12を重ねて載置する上型セット工程kuを行う。
【0034】
中型セット工程knでは、中上型14Aと中下型14Bとを重ねる重ね工程後の中型14を下型13に載せる予備組付方法yか、又は下型13に中下型14Bを載せ、それから中下型14Bに中上型14Aを載せる順次重ね方法jが行われる。上型セット工程kuでは、上型12に入子型15が装填セットされた入子型15付の上型12を中型14に載せる予備装填方法sか、又は中型14に上型12を載せ、それから上型12に入子型15を装填セットする順番セット方法iかが行われる。
【0035】
そして、図3に示すように、成形型Kが組まれたら、金型空間Sに未加硫ゴムを満杯になるまで注入する注入工程ktを行い、この注入工程ktの次に注入された未加硫ゴムを昇温させて加硫処理する加硫工程krを行う。金型空間Sへの未加硫ゴムの注入に伴い、既に所定の温度に設定されている成形型Kから未加硫ゴムに順次与熱されて行くので、未加硫ゴムの注入とほぼ同時に加硫工程krも開始されることとなる。従って、加硫工程krは、注入工程ktの開始時から事実上開始され、所定時間(例:4時間)に亘って継続される。
【0036】
加硫工程krにおける加硫処理を行うための成形型Kの各部の温度設定は次のようである。即ち、上型12(軸端型部分Tの一例)及び下型13(軸端型部分Tの一例)を150〜160℃(第1温度域t1の一例)に設定し、かつ、中型14における金型空間Sに臨む部分(弾性体5の外壁部分hに臨む部分)である側周型部分(図3にクロスハッチングで示す部分)Rを130〜140℃(第2温度域t2の一例)に設定する。より好ましくは、第1温度域t1として155℃に、かつ、第2温度域t2として135℃にそれぞれ設定する。
【0037】
加硫工程krが終わったら、上型12を上方移動して中型14から取り外し、かつ、下型13を下方移動させてら中型14から取り外し、それから中上型14Aと中下型14Bとを互いに遠ざけ移動させる脱型工程kdを行い、ストッパー5を得る。この加硫後の製品としてのストッパーbは、弾性体5に内周板2B及び支持円板4Bが加硫接着によって一体化された状態になっている。尚、内周板2B及び支持円板4Bを一体的に備えるゴム塊を便宜上で弾性体5(=ストッパーb)と定義しても良い。
【0038】
つまり、鉄道車両用ストッパーの製造方法は次のように行う。まず、側面視で略樽形の外郭形状を呈するゴム塊状の弾性体5を型成形するための成形型Kとして、空気ばね側端に配備される第1支持板2B及び台車側端に配備される第2支持板4Aが一体的に設けられて成る弾性体5(ストッパーb)の空気ばね側部を型成形するものであって第1支持板2Bの空気ばね側に配される第1金型13と、弾性体5の台車側部を型成形するものであって第2支持板4Aの台車側に配される第2金型12と、弾性体5の外壁部分hの成形を担うべく第1金型13と第2金型12との間に配される第3金型14とが含まれるものを用意する。中型14としては、弾性体5の最大径を為す部位(中央型割り面c)を境にして空気ばね側となる中上型(第5型)14Aと台車側となる中下型(第4型)14Bとで成るものを用意する。
【0039】
そして、成形型Kの加熱によって成形型Kに注入されている未加硫ゴムを加硫させる加硫工程krにおいては、成形型Kにおける弾性体5の空気ばね側端部及び台車側端部の成形を担う軸端型部分Tの温度を加硫温度範囲内における比較的高温となる第1温度域t1に設定するとともに、成形型Kにおける弾性体5の空気ばね側端部及び台車側端部を除く外壁部分hの成形を担う側周型部分Rの温度を加硫温度範囲内における比較的低温で、かつ、第1温度域t1より低温となる第2温度域t2に設定して加硫する。第1金型13と第2金型12とをこれら両者13,12が互いに遠ざかる方向に相対移動させる工程を含む脱型工程kdの前に行う加硫工程krにおいては、第1温度域t1を150〜160℃に設定し、かつ、第2温度域t2を130〜140℃に設定する、というものである。
【0040】
このように、成形型Kにおいては、弾性体5の上下に相当する部分は比較的高温で、かつ、横側面(外壁部分h)に相当する部分は比較的低温でという具合に加硫温度を異ならせて型成形する製造方法を採るものである。これにより、金型空間Sに注入されて流動する未加硫ゴムにおける中央型割り面(中上型14Aと中下型14Bとの境:パーティングライン)cから遠い箇所から加硫(硬化)されて行き、中央型割り面cへのゴム流動が理想的となる。
【0041】
よって、熱膨張による余剰ゴムやエアが中央型割り面c、上型割り面(上型12と中上型14Aとで為される割り面)d、下型割り面(下型13と中下型14Bとで為される割り面)eから抜け出して品質が安定する。そして、加硫時間についても、150〜160℃の比較的高温で加硫させる従来方法〔図4(b)の比較例1〕よりは長いが、130〜140℃の比較的低温で加硫させる従来方法〔図4(b)の比較例2〕よりは短くなり、生産性も改善することができる。
【0042】
〔実施例1〕
弾性体5のゴムの材料配合は、図4(a)に示すように、NR:100に対して亜鉛華:5、ステアリン酸:1、C.B:50、オイル:5、硫黄:2、促進剤:1の割合である。弾性体5の加硫条件は、「JIS K 6300−2」(未加硫ゴム−物理特性−第2部:振動式加硫試験機による加硫特性の求め方)に準じたものであり、その条件(加硫条件)を図4(a)に、そして測定結果を図6に示す。
【0043】
具体的には、ディスク加硫試験機(レオメーター)を用いて、一定時間における加硫時間(横軸)とトルク値(縦軸)との関係を示す加硫曲線を求め、この加硫曲線におけるトルク値の最小値をS’Min、最大値をS’Maxとした。これらS’MinとS’Maxとを通り、時間軸に平行な2直線を引き、それら2直線間の距離をSとすると、S=S’Max−S’Minとなる。t10,t50,t90は、それぞれS’Min+0.1S、S’Min+0.5S、S’Min+0.9Sを通り、時間軸に平行な3直線を引き、加硫曲線との交点を求め、試験開始からそれぞれの交点までに要した時間である。ゴムの加硫では、それぞれの温度におけるt90の時間まで加硫するのが一般的であるので、実施例1における加硫温度135℃では18.6分、155℃では5.7分加硫した。t50値の場合は、加硫が進行していく過程で塑性変形から弾性変形に徐々に進行する。
【0044】
図4(a)に示すように、t50値が早い場合、加硫が進行しゴム流動の抑制が推進される。従って、155℃の場合、約4分で弾性変形となり、外壁部分のt50の値から上下部分のゴムを遮断する効果が生じる。また、図4(b)には、本発明の製造方法による評価(実施例)と、前述した高温加硫による比較例1の評価と、低温加硫による比較例2の評価とを記す。
【0045】
〔別実施例〕
中型14は、軸心P方向で分離される縦分割構造(図3)ではなく、周方向で複数に分割(例:3分割)される周分割構造のもの(図示省略)でも良い。また、両支持板2B,4Aを持たないゴム塊5のみによるストッパーbである場合の成形型Kは、パーティングラインを境に軸心P方向に相対移動(互いに遠ざかる方向に相対移動)される第1金型と第2金型との二つの型で成る構造を採ることも可能である。
【符号の説明】
【0046】
2B 第1支持板
4A 第2支持板
5 弾性体
12 第2金型
13 第1金型
14 第3金型
14A 第5型
14B 第4型
K 成形型
R 側周型部分
T 軸端型部分
h 外壁部分
kd 脱型工程
kr 加硫工程
t1 第1温度域
t2 第2温度域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気ばねと、その下方に配置される台車との上下間に介装される弾性体を有する鉄道車両用ストッパーの製造方法であって、
ゴム塊状の前記弾性体を型成形するための成形型を用意し、前記成形型の加熱によって前記成形型に注入されている未加硫ゴムを加硫させる加硫工程においては、前記成形型における前記弾性体の空気ばね側端部及び台車側端部の成形を担う軸端型部分の温度を加硫温度範囲内における比較的高温となる第1温度域に設定するとともに、前記成形型における前記弾性体の空気ばね側端部及び台車側端部を除く外壁部分の成形を担う側周型部分の温度を加硫温度範囲内における比較的低温で、かつ、前記第1温度域より低温となる第2温度域に設定して加硫する鉄道車両用ストッパーの製造方法。
【請求項2】
側面視で略樽形の外郭形状を呈する前記弾性体を型成形するための前記成形型として、前記弾性体の空気ばね側部を型成形する第1金型と、前記弾性体の台車側部を型成形する第2金型とが含まれるものを用意し、前記加硫工程を、前記第1金型と前記第2金型とをこれら両者が互いに遠ざかる方向に相対移動させる脱型工程の前に行う請求項1に記載の鉄道車両用ストッパーの製造方法。
【請求項3】
前記弾性体として、その空気ばね側端に配備される第1支持板及び台車側端に配備される第2支持板が一体的に設けられているものを用いる請求項2に記載の鉄道車両用ストッパーの製造方法。
【請求項4】
前記成形型として、前記第1支持板の空気ばね側に配される前記第1金型と、前記第2支持板の台車側に配される前記第2金型と、前記外壁部分の成形を担うべく前記第1金型と前記第2金型との間に配される第3金型とが含まれるものを用意する請求項3に記載の鉄道車両用ストッパーの製造方法。
【請求項5】
前記第3金型として、前記弾性体の最大径を為す部位を境にして空気ばね側となる第4型と台車側となる第5型とで成るものを用意する請求項4に記載の鉄道車両用ストッパーの製造方法。
【請求項6】
前記第1温度域を150〜160℃に、かつ、前記第2温度域を130〜140℃にそれぞれ設定する請求項1〜5の何れか一項に記載の鉄道車両用ストッパーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−86762(P2012−86762A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236805(P2010−236805)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】