説明

鉄鋼ダストの還元焙焼方法

【課題】 鉄鋼ダストをロータリーキルンで還元焙焼する際に、鉄鋼ダストが難処理原料であっても、焙焼温度を通常の温度以上に高くすることなく、鉄鋼ダスト中の鉛の揮発率を向上させることが可能な方法を提供する。
【解決手段】 亜鉛及び鉛を含有する難処理原料の鉄鋼ダストに炭素質還元剤を添加して還元焙焼することにより、亜鉛及び鉛を揮発させて回収し且つ鉄を残渣として回収する方法において、鉄鋼ダストに塩素を含む鉄酸化物を添加して混合造粒し、塩素品位が3.5〜4.5重量%及び鉄品位が20〜30重量%のペレットとした後、得られたペレットに炭素質還元剤を添加して還元焙焼する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄スクラップなどを電気炉などの製鋼炉で処理する際に発生する鉄鋼ダストを、炭素質還元剤によって還元焙焼することにより、亜鉛及び鉛を揮発回収し、鉄を還元焙焼残渣として回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気炉などの製鋼炉から発生する鉄鋼ダストは、鉄分以外に多量の亜鉛及びその他少量の有価金属を含有している。そのため、資源リサイクルの対象として、鉄鋼ダストから主に亜鉛を回収すると共に、鉄を還元焙焼残渣として回収することが行われている。
【0003】
この鉄鋼ダストの還元焙焼方法としては、ロータリーキルンによる還元焙焼法を採用するのが一般的である。この還元焙焼法においては、鉄鋼ダストは必要に応じて予め大きさ5〜10mm程度のペレットに成形され、石炭またはコークス等の炭素質還元剤とともにロータリーキルンに連続的に装入される。
【0004】
キルン内は重油の燃焼と装入した炭素質還元剤の燃焼により、最高温度が1100〜1200℃程度にコントロールされている。このキルン内で鉄鋼ダストは還元焙焼され、揮発した金属亜鉛はキルン内で再酸化されて粉状の酸化亜鉛となる。鉄鋼ダスト中に少量含まれる鉛についても、同様に還元焙焼され、揮発した金属鉛はキルン内で再酸化されて粉状の酸化鉛となる。
【0005】
粉状の酸化亜鉛及び酸化鉛は、ロータリーキルンからの排出ガスとともに集塵機に導入され、捕捉されて粗酸化亜鉛と称する製品として回収される。回収された粗酸化亜鉛は、鉛・亜鉛製錬所に送られて亜鉛地金と鉛地金となる。一方、揮発せずにキルン中に残った還元焙焼残渣は、還元された鉄分が多く含有されるため、還元鉄ペレットと称する製品としてキルン排出端より回収され、鉄鋼メーカーに鉄原料として払いだされる。
【0006】
このような還元焙焼法における亜鉛及び鉛の揮発率は、通常の実操業では90%以上、ラボテストにおいても80%以上である。しかし、難処理原料と称する亜鉛及び鉛の揮発率が低い鉄鋼ダストの場合は、実操業において亜鉛揮発率が50%程度、鉛揮発率が40%程度のものがあり、亜鉛及び鉛の回収率が悪いため操業効率が低下するうえ、還元鉄ペレット中には不純物としての亜鉛及び鉛が残留するため製品品質が悪化し、鉄鋼ダストを資源リサイクルするうえで好ましくない。
【0007】
このような難処理原料の鉄鋼ダストについて、還元焙焼法による亜鉛の揮発率を向上させる方法として、還元焙焼温度を高くして還元度を上げる方法がある。しかし、還元焙焼温度を例えば1300℃程度まで高くすると、還元焙焼による反応生成物が軟化・溶融してロータリーキルン内壁に付着し、付着物が操業時間の経過に伴って成長増大し、鉄鋼ダストなどの原料がキルン内を移動する際の障害物となり、遂には操業の停止を招くという欠点がある。
【0008】
また、還元焙焼法による亜鉛の揮発率を向上させる方法として、鉄鋼ダストに還元剤であるコークスを混合造粒してペレット化することにより、操業中の還元度を上げることも行われている。しかしながら、この還元剤であるコークスを内装させてペレット化する方法は、亜鉛の揮発率向上には効果があるものの、金属亜鉛より蒸気圧が低い金属鉛には効果が少ないという問題があった。
【0009】
また、鉛の揮発率を向上させる一般的な方法として、鉛を塩化物にすることにより、蒸気圧を大きくして揮発させる方法、即ち塩化精錬方法が知られている。しかし、この塩化精錬方法における焙焼雰囲気は、鉛の塩化物の反応が進む雰囲気、即ち酸化雰囲気とする必要がある。
【0010】
従って、還元焙焼法の操業における還元雰囲気では、酸化鉛が還元されて金属鉛となるため、塩化物との反応が進み難い。また、金属鉛よりも金属亜鉛が優先的に塩化物と反応するため、鉛を塩化物にするには大量の塩素を添加する必要が生じる。更に、塩素を大量に添加すると、塩素による排ガス設備の腐食が進行する問題や、塩素を除去するために新たに塩素除去の設備が必要となるなどの問題がある。
【0011】
また、特開2003−342648号公報には、鉄鋼ダスト中の亜鉛に対して鉄酸化物を0.5以上の質量比となるように添加することにより、亜鉛の揮発率を向上させる方法が記載されているが、鉛の揮発率を向上させることについては言及されていない。
【特許文献1】特開2003−342648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記した従来の事情に鑑みて、鉄鋼ダストをロータリーキルンで還元焙焼する際に、焙焼温度を通常の温度以上に高くすることなく、鉄鋼ダスト中の亜鉛や鉛の揮発率、特に鉛の揮発率を向上させることが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明が提供する鉄鋼ダストの還元焙焼方法は、亜鉛及び鉛を含有する鉄鋼ダストに炭素質還元剤を添加して還元焙焼することにより、亜鉛及び鉛を揮発させて回収し且つ鉄を残渣として回収する方法において、鉄鋼ダストに塩素を含む鉄酸化物を添加して混合造粒し、塩素品位が3.5〜4.5重量%及び鉄品位が20〜30重量%のペレットとした後、得られたペレットに炭素質還元剤を添加して還元焙焼することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鉄鋼ダストの還元焙焼において、難処理原料であっても亜鉛及び鉛の揮発率、特に鉛の揮発率を向上させることができる。従って、亜鉛及び鉛の回収効率を高めると共に、還元焙焼残渣中に残る亜鉛及び鉛が低減され、回収される還元鉄ペレットの品質向上を図ることができる。
【0015】
しかも、本発明による鉄鋼ダストの還元焙焼方法は、大量の塩化物を添加する必要がないため、排ガス設備が腐食する危険がない。また、通常のロータリーキルンでの鉄鋼ダストの還元焙焼操業における焙焼温度で実施できるため、反応生成物が軟化・溶融してキルン内壁に付着することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明による鉄鋼ダストの還元焙焼方法では、まず、鉄鋼ダストに塩素を含む鉄酸化物を添加したものを混合造粒して、大きさ5〜10mm程度のペレットにする。次に、このペレットを、通常操業時に使用する一般的な鉄鋼ダストと同様に使用して、コークスなどの炭素質還元剤と共にロータリーキルンに連続的に装入し、最高温度1100〜1200℃の通常の焙焼温度で還元焙焼する。
【0017】
その際、上記ペレットの組成は、塩素品位が3.5〜4.5重量%及び鉄品位が20〜30重量%の範囲とする。この範囲のペレット組成とすることによって、鉄鋼ダストが難処理原料であっても、実操業における鉛の揮発率を、従来の30〜40%から80〜90%程度にまで向上させることができる。難処理原料中の鉛の揮発率が向上するのは、鉄酸化物中の塩素が鉛の塩化揮発を促進させるためであると考えられる。尚、塩素品位を30重量%より増加させても、難処理原料の処理量は増加せず、原料の処理コストが増加するだけであり好ましくない。
【0018】
原料となる鉄鋼ダストは、特に制限はなく、難処理原料と称する亜鉛及び鉛の揮発率が低い鉄鋼ダストであってもよい。難処理原料の一般的な組成は、亜鉛品位が25〜45重量%、鉛品位が1〜3重量%、鉄品位が5〜15重量%程度である。このような難処理原料であっても、一般的な鉄鋼ダストの場合と同様に還元焙焼して、亜鉛及び鉛を高い揮発率で揮発させて回収することができる。
【0019】
また、塩素を含む鉄酸化物としては、難処理原料など原料とする鉄鋼ダストの組成に応じて、上記したペレットの組成に調製し得るものであれば特に制限はない。一般的に上記ペレット組成を調製するうえで、塩素を含む鉄酸化物は、塩素5〜10重量%及び鉄45〜50重量%を含むものが好ましい。このような塩素を含む鉄酸化物は、鉄鋼ダストの品位に合わせて酸化鉄や塩化物などの試薬から調製しても良いが、塩素品位6%程度、鉄品位45%程度を含有するニッケル精製工程で発生する鉄澱物などを用いることも可能である。
【0020】
上記混合造粒の作業には、一般的に用いられるペレタイジング装置を使用することができる。例えば、回転式のパン型ペレタイザーを用いて、難処理原料などの鉄鋼ダストと塩素を含む鉄酸化物とを所定のペレット組成となるように連続的に供給し、ミスト状の水分を添加しながらペレタイジングする。ペレットのサイズとしては5〜10mm程度が好ましく、含水率としては10〜20重量%程度となることが好ましい。
【0021】
このようにして調整したペレットを、炭素質還元剤と共にロータリーキルン内に装入して、通常の鉄鋼ダストの還元焙焼操業条件に従って、ロータリーキルンでの操業を実施する。炭素質還元剤としては、石炭やコークスを用いることができる。また、焙焼温度は、従来と同様であってよく、具体的には最高温度が1100〜1200℃となるようにコントロールする。
【0022】
上記本発明の方法によれば、鉄鋼ダストが難処理原料であっても、亜鉛の揮発率を従来と同程度に維持しながら、鉛の揮発率を80%以上に向上させることができる。また、これに伴って、還元焙焼残渣中に残る鉛量が従来の1/3〜1/10程度にまで低減されるので、鉄原料として回収する還元鉄ペレットの品質向上を図ることが可能となる。
【実施例】
【0023】
難処理原料について、以下の条件でラボレベルの還元焙焼試験を実施した。ロータリーキルンでの焙焼を再現可能な装置として、図1に示す水平式回転焙焼炉を使用した。この水平式回転焙焼炉は、発熱体2を備えた炉体1内に、SUS310S製の炉心管3(長さ200mm×直径125mm)が回転軸4により回転可能に設置されている。尚、炉心管3の温度は、熱電対5により制御するようになっている。
【0024】
試験に供した難処理原料の組成は、Zn:42.18重量%、Pb:2.60重量%、Fe:7.26重量%、Cd:0.14重量%、Cr:1.27重量%である。また、塩素を含む鉄酸化物(添加物1)を、組成がZn:0.51重量%、Pb:0.05重量%、Fe:46.2重量%、C:0.13重量%、Cl:6.9重量%となるように、試薬のZnO、PbO、Fe、CaCl及び粒度1.0〜2.0mmのコークス塊を用いて調製した。また、比較のために、添加物2としてCaClを用いた。
【0025】
上記難処理原料に、上記添加物1又は添加物2を添加して混合造粒し、粒径が5.4〜9.6mmのペレットをそれぞれ作製した。作製した試料1〜6の各ペレットについて、難処理原料100重量部に対して添加した添加物1(塩素を含む鉄酸化物)又は添加物2(CaCl)の重量部を、試料ごとに下記表1に示す。尚、比較例の試料1は、添加物なしの上記難処理原料のみからなるペレットである。
【0026】
【表1】

【0027】
得られた試料1〜6の各ペレットを、炭素質還元剤と共に、図1に示す水平式回転焙焼炉の炉心管1内に装入し、回転軸4から雰囲気ガスを流しながら還元焙焼した。炭素質還元剤としては、粒度1.0〜2.0mmのコークス塊を使用し、その装入量は各試料のペレット300gに対して60gとした。還元焙焼の条件は、実機の操業温度分布と滞留時間から、通常の操業条件と同様となるように推定して、室温から1050℃まで1時間掛けて昇温し、1050℃で1時間保持するという温度条件を選定した。また、雰囲気ガスは、実機の重油燃焼雰囲気を想定してCO:N=1:5とし、その気流速度を2リットル/分とした。
【0028】
上記還元焙焼試験の終了後、炉心管1内に残った残渣を取り出して分析し、還元焙焼試験前の試料と比較して、亜鉛及び鉛の揮発率を求めると共に、還元焙焼残渣中の鉛品位を求めた。これらの結果を、還元焙焼試験前の塩素品位及び鉄品位と共に、下記表2に示した。尚、鉄、亜鉛、鉛量、塩素の分析は、ICP法(メーカー名:セイコーインスツルメンツ、装置名:SPS3000)によって実施した。また、ペレットの塩素品位及び鉄品位は、混合造粒後のペレットについて組成分析をすることによって求めた。
【0029】
【表2】

【0030】
上記の結果から判るとおり、比較例である難処理原料のみからなる試料1の還元焙焼試験では、鉛揮発率は33%に過ぎない。また、難処理原料に塩化物(CaCl)を混合造粒した比較例の試料2〜3においても、鉛揮発率は36〜38%と上記試料1とほぼ同程度の揮発率しか得られなかった。
【0031】
一方、本発明の試料5〜6、即ち、難処理原料に対して塩素を含む鉄酸化物を混合造粒して、塩素品位を3.5〜4.5重量%に調製した場合、通常の鉄鋼ダストと同様の80%以上の鉛揮発率が得られた。しかし、試料4では、難処理原料に塩素を含む鉄酸化物を混合造粒したが塩素品位が2.4重量%と低すぎるため、十分な鉛揮発率が得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ラボレベルの焙焼試験で用いた水平式回転焙焼炉を示す概略の断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 炉体
2 発熱体
3 炉心管
4 回転軸
5 熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛及び鉛を含有する鉄鋼ダストに炭素質還元剤を添加して還元焙焼することにより、亜鉛及び鉛を揮発させて回収し且つ鉄を残渣として回収する方法において、鉄鋼ダストに塩素を含む鉄酸化物を添加して混合造粒し、塩素品位が3.5〜4.5重量%及び鉄品位が20〜30重量%のペレットとした後、得られたペレットに炭素質還元剤を添加して還元焙焼することを特徴とする鉄鋼ダストの還元焙焼方法。
【請求項2】
前記塩素を含む鉄酸化物は、塩素を5〜10重量%及び鉄を45〜50重量%含むことを特徴とする、請求項1に記載の鉄鋼ダストの還元焙焼方法。
【請求項3】
前記鉄鋼ダストは、鉄品位が5〜15重量%、亜鉛品位が25〜45重量%、及び鉛品位が1〜3重量%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の鉄鋼ダストの還元焙焼方法。

【図1】
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