説明

鉄鋼製造工程における循環冷却水系用スケール防止剤、及び前記スケール防止方法

【課題】鉄鋼製造工程における循環冷却水系で発生するマンガンと亜鉛を含むスケールの発生を防止し、かつ、析出したスケール成分中のマンガンを溶解して、前記循環冷却水系におけるスケール問題を解決することができる、鉄鋼製造工程における循環冷却水系用スケール防止剤、及び前記循環冷却水系のスケール防止方法を提供すること。
【解決手段】鉄鋼製造工程における循環冷却水系のマンガンと亜鉛のスケール析出防止用薬剤であって、1−ヒドロキシエチリデンー1,1−ジホスホン酸や2−ホスホノブタンー1,2,4−トリカルボン酸等のホスホン酸又はその塩を含んでなる鉄鋼製造工程における循環冷却水系用スケール防止剤。及び、前記スケール防止剤を前記循環冷却水系に添加するスケール防止方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼製造工程における循環冷却水系用スケール防止剤、及び前記スケール防止方法に関する。さらに詳しくは、本発明は前記工程において発生するマンガンと亜鉛のスケールを防止するための、鉄鋼製造工程における循環冷却水系用スケール防止剤、及び前記スケール防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼を製造するために、循環冷却水として大量の水が使用されている。このような循環冷却水系としては、例えば、高炉・転炉から発生する排ガス集塵循環冷却水や、製鋼工程で、鉄鋼に含まれる成分を調整するための脱ガス装置に使用される循環冷却水等が挙げられる。
前者の高炉・転炉、特に高炉からは、塵芥を含む排ガスが大量に発生し、それらは集塵冷却水と接触させることで、排ガスの浄化と冷却を行い、浄化ガスは大気中へ放出される。一方、集塵冷却水は、濾過や沈殿処理等の固液分離処理を受け、処理水は冷却塔に移送されて冷却され、再度、前記集塵冷却水として循環使用されるように、循環冷却水系が形成されている。
一方、後者の脱ガス装置は、鉄鋼製造中に溶鋼に取り込まれた水素や酸素、窒素、及びその他の有害元素等の除去や、炭素の除去による極低炭素鋼の製造等に、多目的に使用されている。
このような脱ガス装置を使用する脱ガス法としては、真空脱ガス法と取鍋脱ガス精錬法とが適用される。真空脱ガス法としては、流滴脱ガス法(取鍋流滴脱ガス法、真空造塊法、出鋼脱ガス法等)や真空容器内脱ガス法(DH(真空吸い上げ脱ガス)法、RH(還流式脱ガス)法等)があり、一方、取鍋脱ガス精錬法としては、アーク加熱取鍋脱ガス法(ASEA−SKF法、VAD法等)や真空脱炭法(VOD法、RH−OB法等)がある。
このような脱ガス法では、高性能大容量の真空ポンプが使用されるが、近年、維持管理が比較的容易なスチームエジェクターが使用されて、真空ポンプに代替するか、又は真空ポンプの負荷を低減する方法が採用されている。
前記スチームエジェクターは、溶鋼から不必要成分を真空状態で抽気されたガスと高圧水蒸気とを接触させた後、コンデンサーで、冷却水と直接接触させて前記水蒸気を冷却、凝縮することにより、除塵と真空維持を行う装置である。前記凝縮水はその後、濾過や沈殿処理等の固液分離処理を受け、処理水は冷却塔に移送されて冷却され、再度、前記冷却水として循環使用されるように、循環冷却水系が形成されている。
濾過や沈殿処理等の固液分離処理を受け、処理水は冷却塔に移送されて冷却され、再度、前記冷却水として循環使用されるように、循環冷却水系が形成されている。
【0003】
近年、鉄鋼用原材料の原産地の多様化と共に、原材料中の成分が変化し、不純物としてマンガンや亜鉛等を含むようになってきた。
これらのマンガンや亜鉛等は、上記脱ガス装置により溶鋼から除去され、水蒸気側に移行してコンデンサーで凝縮される結果、一定以上の濃度になると、マンガンと亜鉛を含むスケールとして前記の脱ガス循環水系中の配管壁や濾材、冷却塔の充填材等に析出する。
同じことが高炉・転炉排ガス集塵循環冷却水系についても言え、高炉・転炉排ガスが集塵冷却水と接触することにより、排ガスの冷却と集塵とが行われた後、前記集塵冷却水は濾過や沈殿処理により、それらの装置や循環水系の配管壁等に、マンガンと亜鉛を含むスケールが析出する。
【0004】
このようなスケールが、濾過装置や沈殿池を含む循環水系で発生すると、循環水系の運転を頻繁に停め、機械や人力で清掃しなければならず、多大の時間と費用を要していた。例えば、濾過装置の場合には、濾材表面にこのスケールが析出、付着すると、濾材がマッドボール化して、濾過効率が下がる。これを防止するために濾過装置の逆洗回数が増え、その分運転時間が短縮されると共に、逆洗水として使用される工業用水の使用量が増えるという問題が発生する。同様に、冷却塔の充填材にも、このスケールが付着すると、冷却水の温度が下がらなくなり、その結果、ガスが冷却されず、又脱ガス装置の真空度も上らなくなる。その結果、脱ガス装置の場合には、脱ガス装置の脱ガス効率も悪化し、吸錬時間が長くなったり、エジェクタに吹き込む水蒸気量が増えたりして、生産性が落ちる。このため、冷却塔の充填材を機械や人力で清掃する必要があった。
【0005】
ボイラの復水回収系では、亜鉛引き鋼管が使用され、その結果、該水系に亜鉛系スケールが発生する。そこで、この亜鉛系スケールの析出を防止するために、ホスホン酸を含むスケール防止剤を添加することが提案されている(特許文献1参照)。
しかしながら、本発明の対象となるスケールは、マンガンと亜鉛とを含むスケールであり、スケール組成が異なるうえ、対象水系も異なるところから、従来、このようなスケール防止剤を当該鉄鋼製造工程における循環冷却水系用スケール防止剤として適用されることはなかった。
【0006】
【特許文献1】特公昭62−48560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、鉄鋼製造工程における循環冷却水系で発生するマンガンと亜鉛を含むスケールの発生を防止し、かつ、一旦析出したスケール成分中のマンガンを効率的に溶解して、前記循環冷却水系におけるスケール問題を解決することができる、鉄鋼製造工程における循環冷却水系用スケール防止剤、及び前記循環冷却水系のスケール防止方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、以下の発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下を要旨とするものである。
1.鉄鋼製造工程における循環冷却水系のマンガンと亜鉛のスケール析出防止剤であって、ホスホン酸又はその塩を含んでなる鉄鋼製造工程における循環冷却水系用スケール防止剤。
2.前記ホスホン酸又はその塩が、1−ヒドロキシエチリデンー1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタンー1,2,4−トリカルボン酸、及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種である上記1に記載の鉄鋼製造工程における循環冷却水系用スケール防止剤。
3.鉄鋼製造工程における循環冷却水系が、脱ガス装置を含む循環冷却水系である上記1又は2に記載の鉄鋼製造工程における循環冷却水系用スケール防止剤。
4.鉄鋼製造工程における循環冷却水系のマンガンと亜鉛のスケール防止方法であって、該循環水系にホスホン酸又はその塩を含む鉄鋼製造工程の循環水系用スケール防止剤を添加することを特徴とする鉄鋼製造工程における循環水系用スケール防止方法。
5.前記ホスホン酸又はその塩が、1−ヒドロキシエチリデンー1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタンー1,2,4−トリカルボン酸、及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種である上記4に記載の鉄鋼製造工程における循環冷却水系用スケール防止方法。
6.鉄鋼製造工程における循環冷却水系が、脱ガス装置を含む循環冷却水系である上記4又は5に記載の鉄鋼製造工程における循環冷却水系用スケール防止方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鉄鋼製造工程における循環冷却水系で発生するマンガンと亜鉛を含むスケールの発生を防止し、かつ、一旦析出したスケール成分中のマンガンを溶解して、前記循環冷却水系におけるスケール問題を解決することができる、鉄鋼製造工程における循環冷却水系用スケール防止剤、及び前記循環冷却水系のスケール防止方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、高炉・転炉から発生する排ガス集塵循環冷却水や、鉄鋼に含まれる成分を調整するための前記各種の脱ガス装置に使用される循環冷却水等を対象にするが、循環水系の一例として、図1を用いて鉄鋼製造工程における脱ガス循環冷却水系を説明する。
図1は、真空脱ガス装置1として、RH型脱ガス装置を用いた図であり、溶鋼2を含む取鍋3の上部に、上昇管4と下降管5を有する真空容器6を設け、上昇管4から溶鋼2を真空容器6に吸い上げ、溶鋼中の不純物を抽気後、下降管5から再度取鍋3に溶鋼を戻すようにされている。なお、通常、溶鋼2の攪拌のためにアルゴンガス等の不活性ガスが溶鋼2に吹き込まれるが、図1では図示されていない。
真空容器6はスチームエジェクター10と連結され、前記抽気ガスがスチームエジェクター10に送られると、エジェクタ―内で高圧水蒸気11と混合された後、コンデンサー12、例えばバロメトリックコンデンサー等で冷却水13と直接接触し、排ガスは冷却・凝縮する。その結果、真空容器内の真空度が維持される。
なお、図1では、1段のスチームエジェクター10が図示されているが、必要により復数段設けることができる。
不純物を含むスチームドレン14(凝縮水)はガスセパレーター(図示せず)に送られて集塵水とガスとに分離され、ガスは大気に放出される。一方、集塵水は、ピット15、及び調整水槽16に送られた後、固液分離のために、濾過装置17及び/又は沈殿池18に送られ、そこで懸濁物質が分離される。なお、調整水槽16は省略することができる。
本発明において使用することができる濾過装置17としては、特に制限はなく、従来公知の様々な濾過装置の中から適宜選ぶことができる。この濾過装置としては、例えば、アンスラサイト、砂、けい砂、砂利、活性炭、プラスチックなどの濾材を用いる濾過器の他に、必要に応じて精密ろ過膜、限外ろ過膜、逆浸透膜などの濾過膜を用いる膜濾過装置等も用いることができる。
なお、懸濁物質が大きな粒子で沈降しやすい場合や、懸濁物質の濃度が高い場合には、沈殿装置を設けてろ過装置と組み合わせて用いることが好ましい。
一方、本発明において使用することができる沈殿池18としても、公知の任意のものが採用できるが、好ましくは凝集沈殿槽や加圧浮上槽に凝集剤を添加することにより行う方式のものが採用できる。この凝集剤に特に制限はなく、例えば、従来公知のアニオン性高分子凝集剤、ノニオン性高分子凝集剤、カチオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤、さらには無機凝集剤などを挙げることができる。無機凝集剤としては、例えばポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド、塩化第二鉄、ポリ硫酸鉄などがある
このような固液分離手段により、懸濁物質の分離が促進され、濾過装置17及び/又は沈殿池18の出口では、通常、処理水中の懸濁物質濃度は循環する上に問題にならない程度、例えば50mg/l以下に処理されている。このように懸濁物質成分が分離された水は、次いで冷却塔19に送られ、そこで、大気と強制接触することで冷却されて、再度、前記のスチームエジェクター10のコンデンサー12に送られる。
なお、図1では、冷却水は沈殿池18のみで処理されているが、前述の通り、必要に応じて濾過装置17及び沈殿池18で、又は濾過装置17のみで処理することができる。又、水中のマンガンと亜鉛濃度が低い場合には、一部の水を直接冷却塔に戻しても良い。
【0011】
上記において、懸濁物質やガスと接触後の冷却水には、マンガンと亜鉛等が含まれており、冷却水を循環使用すると、これらの濃度が高まり、前述の通り、水槽壁や配管、濾材、及び冷却塔等にマンガンと亜鉛を含むスケールが析出、堆積するようになる。
本発明においては、この鉄鋼製造工程における循環冷却水系におけるマンガンと亜鉛を含むスケールの発生を防止するために、ホスホン酸又はその塩を、例えば薬剤供給手段20により、該水系に添加することにより、前記スケールの発生を防止し、又、析出したマンガンと亜鉛のスケールに作用して、マンガンを溶解してスケールトラブルを解決したものである。
【0012】
本発明に係る循環冷却水系用スケール防止剤としては、ホスホン酸又はその塩を含むものであれば、任意のものが採用可能であり、そのようなホスホン酸としては、例えば、ニトリロトリメチレンホスホン酸(NTMP)、1−ヒドロキシエチリデンー1,1−ジホスホン酸(HEDP)、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTP)、2−ホスホノブタンー1,2,4−トリカルボン酸(PBTC)、アミノメチレンホスホネート(AMP)、ポリアミノポリエーテルメチレンホスホネート(PAPEMP)、ホスホノポリカルボン酸(POCA)、1,2−ジヒドロキシ−1,2−ビス(ジヒドロキシホスホニル)エタン(DDPE)、2−ジヒドロキシジヒドロキシホスホニル−2−ヒドロキシプロピオン酸(DHHPA)、1,3−ビス[(1−フェニル−1−ジヒドロキシホスホニル)メチル]−2−イミダゾリジノン(BPDMI)、2,3−ビス(ジヒドロキシホスホニル)−1,4−ブタン二酸(BDBA)、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸(DTPMP)、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(HDTMP)、ビス(ポリ−2−カルボキシエチル)ホスホン酸、及びこれらの水溶性塩等を挙げることができる。
とりわけ、性能の面から、1−ヒドロキシエチリデンー1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタンー1,2,4−トリカルボン酸、及びそれらの塩から選ばれるホスホン酸又はその塩が好ましい。
これらのホスホン酸又はその塩は、1種を単独で用いることもできるし、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0013】
本発明の鉄鋼製造工程の循環冷却水系に、これらのホスホン酸又はその塩を添加するに際しては、適当な濃度となるように、適量を水に溶かして水溶液とする。
その水系への添加量は、通常、0.1mg/l以上、好ましくは0.1〜10mg/l程度とする。添加場所は図1では、冷却塔出口としたが、それに限定されずに冷却塔のピット、濾過装置、又は沈殿装置の入口、又は出口の配管に、循環冷却水中のホスホン酸が上記の濃度となるように、定量ポンプ等で添加してやれば良い。
本発明のスケール防止剤は、マンガンイオンと亜鉛イオンがそれぞれ100mg/l以下の水質を示す水系で、該水系のpHが6〜10において、上記添加量にて効果的にマンガンと亜鉛を含むスケールの析出を防止し、かつ、析出したマンガンの再溶解を行うことができる。
【0014】
本発明に係る循環冷却水系用スケール防止剤には、必要に応じて一般に添加される防食剤や殺菌剤、ホスホン酸以外のスケール防止剤、消泡剤等を併用することができる。
前記防食剤としては、リン酸塩、重合リン酸塩、リン酸エステル等のリン系化合物、亜鉛、アルミニウム及びニッケルなどの多価金属の塩類等が挙げられる。
前記殺菌剤としては、例えば、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等の四級アンモニウム塩、クロルメチルトリチアゾリン、クロルメチルイソチアゾリン、メチルイソチアゾリン、次亜塩素酸塩、及びブロム化ヒダントイン等の等の塩素系、臭素系、及び有機窒素硫黄系薬剤等が挙げられる。なお、殺菌剤としては、機器により殺菌成分を発生させる方法でも良く、たとえば、被処理液に食塩を加え、又は加えずにそのまま被処理液を電気分解する方法等も適用することができる。
前記ホスホン酸以外のスケール防止剤としては、分子量が500〜100,000程度のポリカルボン酸類が挙げられ、具体的には、ポリマレイン酸、ポリアクリル酸などが例示される。又、カルボン酸系不飽和単量体単位と、非イオン性不飽和単量体単位及び/又はスルホン酸基含有不飽和単量体単位とを有する共重合体も使用でき、例えば、マレイン酸とイソブチレンの共重合体、マレイン酸とアミレンの共重合体、(メタ)アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の共重合体、(メタ)アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とt−ブチルアクリルアミドの共重合体、(メタ)アクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸の共重合体、(メタ)アクリル酸とイソプレンスルホン酸の共重合体、(メタ)アクリル酸とイソプレンスルホン酸と2−ヒドロキシメチルメタクリレートとの共重合体、(メタ)アクリル酸とスチレンスルホン酸の共重合体などが例示される。
水系内に銅材質を含む場合には、例えば、ベンゾトリアゾールやトリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾールなどのアゾール類を併用すれば、銅材質に対する防食性能を向上させることができて好ましい。
前記消泡剤としては、シリコーン系消泡剤、プルロニック系又はポリオキシアルキレン系消泡剤、及び鉱物油系消泡剤等が挙げられる。
【0015】
以上のように、本発明はマンガンと亜鉛を含むスケールを防止することにより、系内の配管のスケールによる閉塞の防止、濾過装置では、濾材のマッドボール化の防止、濾材の流出の防止、又、冷却塔では、充填材のスケール付着の防止、或いはスケール付着速度の低下、冷却塔から送水ラインのスケール付着防止等が可能となり、その結果、鉄鋼製造工程における集塵装置や、脱ガス装置の高効率化による生産性向上が図られると共に、冷却塔の充填材、濾過装置の濾材の清掃、交換頻度を低減することができる。
【実施例】
【0016】
次に、本発明を実施例、比較例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1〜5、比較例1〜8
マンガンイオンと亜鉛イオンの析出試験を机上試験にて行った。
初期濃度として、MnCl2をマンガンイオンとして18mg/l、ZnCl2を亜鉛イオンとして5mg/l、及びFeCl2を鉄イオンとして3mg/lとなるようにビーカーに入れた水に加えてpHを8に調整し、そこに、表1に示すスケール防止剤を所定量添加し、24時間静置した。水温は20℃に維持した。なお、実施例1は薬剤を添加しないブランク試験である。
24時間後、水を、孔径が0.1μmの濾紙を用いて濾過を行い、濾過後の濾液を、原子吸光光度計を用いて水中のマンガンイオンと亜鉛イオンの濃度を測定し、下式を用いて、マンガンと亜鉛の析出抑制率を求めた。
Mn析出抑制率(%)=[(薬剤を添加した時のMnイオン濃度―薬剤を添加しない時の
Mnイオン濃度)/(初期のMnイオン濃度―ブランクテストのMnイオン濃度)]
×100
Zn析出抑制率(%)=[(薬剤を添加した時のZnイオン濃度―薬剤を添加しない時の
Znイオン濃度)/(初期のZnイオン濃度―ブランクテストのZnイオン濃度)]
×100
結果を表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
実施例6〜14、比較例9〜24
マンガン析出物の溶解試験を机上試験にて行った。
水を入れたビーカーに、初期濃度として、1000mg/lのMn析出物を加え、表2に示す各種スケール溶解剤を添加後、pH9に調整し、24時間静置した。水温は20℃一定とした。なお、実施例6は薬剤を添加しないブランク試験である。
24時間後、水を、孔径が0.1μmの濾紙を用いて濾過を行い、濾過後の濾液を、原子吸光光度計を用いて、水中のマンガンイオンを測定し、下式に従って、マンガンと亜鉛の析出抑制率を求めた。
Mn析出抑制率(%)=(薬剤を添加した時のMnイオン濃度/Mn析出物の初期濃度
)×100
結果を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
表1より、本発明のスケール防止剤は、比較例に示した各種のスケール防止剤よりもマンガンと亜鉛の析出抑制率において優れていることが分かる。
又、表2より、本発明のスケール防止剤は、析出したマンガンの溶解作用が、比較例に示したスケール防止剤よりも優れていることが分かる。
これらの結果により、実際の鉄鋼製造工程における循環冷却水系において、マンガンと亜鉛を含むスケールの析出を効果的に防止し、かつ、一旦析出したこれらのスケールから、マンガンを効果的に溶解することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明はマンガンと亜鉛を含むスケールを防止することにより、鉄鋼製造工程における排ガス集塵冷却水系や、脱ガス装置を含む循環冷却水系に適用することにより、それらの集塵装置や脱ガス装置の高効率化による生産性向上が図られると共に、冷却塔の充填材の及び濾過装置の濾材の清掃、交換頻度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】鉄鋼製造工程におけるRH型脱ガス装置を含む循環冷却水系の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1 RH型脱ガス装置
2 溶鋼
10 スチ−ムエジェクター
11 高圧水蒸気
12 コンデンサー
15 ピット
17 濾過装置
18 沈殿池
19 冷却塔
20 薬剤供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼製造工程における循環冷却水系のマンガンと亜鉛のスケール析出防止剤であって、ホスホン酸又はその塩を含んでなる鉄鋼製造工程における循環冷却水系用スケール防止剤。
【請求項2】
前記ホスホン酸又はその塩が、1−ヒドロキシエチリデンー1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタンー1,2,4−トリカルボン酸、及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の鉄鋼製造工程における循環冷却水系用スケール防止剤。
【請求項3】
鉄鋼製造工程における循環冷却水系が、脱ガス装置を含む循環冷却水系である請求項1又は2に記載の鉄鋼製造工程における循環冷却水系用スケール防止剤。
【請求項4】
鉄鋼製造工程における循環冷却水系のマンガンと亜鉛のスケール防止方法であって、該循環水系にホスホン酸又はその塩を含む鉄鋼製造工程の循環水系用スケール防止剤を添加することを特徴とする鉄鋼製造工程における循環水系用スケール防止方法。
【請求項5】
前記ホスホン酸又はその塩が、1−ヒドロキシエチリデンー1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタンー1,2,4−トリカルボン酸、及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載の鉄鋼製造工程における循環冷却水系用スケール防止方法。
【請求項6】
鉄鋼製造工程における循環冷却水系が、脱ガス装置を含む循環冷却水系である請求項4又は5に記載の鉄鋼製造工程における循環冷却水系用スケール防止方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−240904(P2009−240904A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89960(P2008−89960)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】