説明

鉄骨梁の耐火被覆構造

【課題】鉄骨梁に対する耐火性能を確保しつつ、鉄骨梁周りの断熱性能と気密性能を向上させることができる鉄骨梁の耐火被覆構造を提供する。
【解決手段】不燃性の外壁3と不燃性の床のいずれか一方又は両方を支持する鉄骨梁4の耐火被覆構造であって、鉄骨梁4の外周のうち前記外壁3や床に対向又は当接しない剥出部4C,4Dを覆う熱膨張性の耐火被覆シート層11aと、耐火被覆シート層11aの表面を覆う金属膜の気密層11bと、前記鉄骨梁4の剥出部4C,4Dと耐火被覆シート層11aの間に設けられるフェノール樹脂発泡体を主材とする断熱層12とを備えている鉄骨梁4の耐火被覆構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨梁の耐火被覆構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨造の躯体からなる建物を法令により防火地域と指定されている地域で建設する場合には、当該建物を耐火建築として建築する必要があり、この種の耐火建築においては躯体を構成する鉄骨に耐火被覆を施工するのが一般的である。鉄骨に耐火被覆を施工する方法として、鉄骨にロックウール等の繊維系の耐火材を添わせ、該耐火材の周辺を鉄骨の周囲に存在する耐火性を有する床材や壁の下地材等に於ける最適な部位に固定する方法がある。
また、省エネルギー化を実現する建物では、建物の外壁に沿って配置された鉄骨に気密性と断熱性を付与することで、建物全体の断熱気密性を確保することが必要になる場合が多い。
【0003】
かかる要請に対応すべく、例えば特許文献1には、可撓性を有し且つ所定の厚さを持った耐火被覆材の少なくとも一方の面に気密性を有するシート状の部材を添わせて一体化した耐火気密シートを鉄骨梁に沿って配置すると共に、該気密耐火シートの端部が建物の壁と床に鋲着され、さらに、該鉄骨梁と外壁との間に断熱材を設けた気密耐火被覆構造が開示されている。
しかしながら、特許文献1の気密耐火被覆構造においては、外壁と鉄骨の間にのみ断熱材が設けられている。かかる断熱材は、鉄骨梁の下方に設けられている断熱材により形成される建物の断熱ラインを鉄骨梁の側方にまで延設することとなるものの、室内側では耐火材と鉄骨とが直接接することとなるため、当該断熱材を鉄骨梁周りの耐火性能向上に関与させることができないという問題があった。
【特許文献1】特開2007−9607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、鉄骨梁に対する耐火性能を確保しつつ、該鉄骨梁周りの断熱性能と気密性能を向上させることができる鉄骨梁の耐火被覆構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題解決のための具体的手段として、本願発明は、
(1)不燃性の外壁と不燃性の床のいずれか一方又は両方を支持する鉄骨梁の耐火被覆構造であって、
前記該鉄骨梁の外周のうち前記外壁や床に対向又は当接しない剥出部を覆う熱膨張性の耐火被覆シート層と、該耐火被覆シート層の表面を覆う金属膜の気密層と、前記鉄骨梁の剥出部と耐火被覆シート層の間に設けられるフェノール樹脂発泡体を主材とする断熱層とを備えていることを特徴としている。
【0006】
上記構成においては、当該鉄骨梁の下方にて火災等が発生する場合であっても、鉄骨梁と炎との間には、耐火被覆シート層のみならず、気密層と、フェノール樹脂発泡体からなる断熱層とが介在することとなる。
当該気密層により、鉄骨梁に向けての熱気の流入が防止される。また、該気密層は金属膜により形成されているために輻射熱の通過も抑制される。また、所定の温度以上となると耐火被覆シート層が膨張して不燃性の断熱層を形成することとなるので、これらによって当該火災による熱気の鉄骨梁に向けての流入は一次的に抑制される。
また、火災のない通常時においては、当該気密層により気密層を介しての空気の流通が著しく制限されるため、これによって、当該耐火被覆構造を介しての建物内外の気密性を確保することができるのである。
【0007】
また、本願発明者らは、当該耐火被覆シート層と鉄骨梁との間にフェノール樹脂発泡体からなる断熱層を介在させることにより、耐火性能が著しく向上することを知見した。すなわち、本願発明者らは、実験等を通じて、火災時において、当該フェノール樹脂発泡体からなる断熱層は、過熱により炭化してしまうまでは熱気による300℃以上の高温の温度域においても熱伝達を阻害する効果を発揮し、これによって鉄骨梁表面の温度上昇が鈍化(遅延化)することとなり、これによって耐火時間を確保することができることを確認している。また、当該断熱層は可燃性であるが非発火性、非発炎性であり、燃焼する場合にも、単に炭化するのみであって炎上や溶解等することはなく、さらには、発火や温度上昇の原因となりかねないガスの発生もないことを確認している。
したがって、当該断熱層は、火災時においても温度上昇の鈍化にのみ貢献し、温度上昇の原因となる諸要因を発現することはないので、上記気密層と耐火被覆シート層により形成される一次的な断熱を補助する二次的な断熱として有効に機能させることができると考え、上述の如き構成を採用することとした。
また、火災のない通常時においては、当該断熱層は所定の断熱性能を発揮することができ、これによって、当該耐火被覆構造を介しての建物内外間での断熱性能を確保することができるのである。
【0008】
(2)また、前記鉄骨梁は、上下一対の板状のフランジを板状のウェブにより連結して形成されると共に前記床を支持しており、
前記耐火被覆シート及び気密層は、前記鉄骨梁の剥出部となる上フランジの一方の側端部から下フランジ下方を周り込んで上フランジの他方の側端部までを覆っており、
前記断熱層は、前記剥出部となる上フランジの上端部から下フランジの下端部に亘って設けられると共にこれら上下一対のフランジ間に充填されていることが好ましい。
これによれば、上下一対のフランジ間の空間を有効に利用して断熱層を設けることができ、当該耐火被覆構造の小型化を図ることができる。
【0009】
(3)また、前記断熱層は、前記剥出部となる下フランジの下面部と耐火被覆シート層との間に充填されていることが好ましい。
これによれば、当該鉄骨梁の耐火性能をさらに向上させることができる。
【0010】
(4)また、前記鉄骨梁は、上下一対の板状のフランジを板状のウェブにより連結して形成され、該上フランジにより前記床を支持すると共に前記外壁をウェブに対向させた状態で支持しており、
前記耐火被覆シート層及び気密層は、前記鉄骨梁の剥出部となる上フランジの一方の側端部から下フランジの下面までを覆った状態で前記床と外壁との間に設けられており、
前記断熱層は、前記剥出部となる上フランジの上端部から下フランジの下端部に亘って設けられると共にこれら上下一対のフランジ間に充填されていることが好ましい。
これによれば、外壁に沿って設けられる鉄骨梁に対し、火災のない通常時において当該鉄骨梁周りの気密性能及び断熱性能を有効に発揮させることができると共に、火災時においても当該鉄骨梁周りの耐火性能を有効に発揮させることができる。
【0011】
(5)また、前記外壁に沿って板状の沿外壁断熱材が設けられており、前記気密層の端部は、該沿外壁断熱材と前記外壁とに挟持されていることが好ましい。
上記構成によれば、これによれば、外壁と気密層との継目が沿外壁断熱材に覆われることとなり、気密層の表裏間での気密性能をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の鉄骨梁の耐火被覆構造によれば、鉄骨梁に対する耐火性能を確保しつつ、該鉄骨梁周りの断熱性能と気密性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図1及び図2に基づき、本発明を実施した形態につき、詳細に説明する。
図1に示す如く、本発明に係る鉄骨梁の耐火被覆構造が利用される典型的な建物は、基礎1と、該基礎1上に組み上げられる構造躯体2と、該構造躯体2に支持される外壁3とを備えて形成される地上2階の組立住宅である。
基礎1は、外壁3や間仕切り壁の長さ方向に連続する同一断面の鉄筋コンクリート製の布基礎として形成されている。
構造躯体2は、基礎1上に立設される鉄骨柱(図示省略)と、該鉄骨柱間に架け渡される鉄骨梁4と、基礎1や鉄骨梁4に支持される床スラブ5とを備えて形成される鉄骨の軸組構造として構成されている。
【0014】
鉄骨柱は、鋼製の角パイプにより形成され、端部や中途部に鉄骨梁4を連結するための取付部が設けられている。
鉄骨梁4は、上下一対のフランジ6、7と、該上下一対のフランジ6、7の中央部間を連結するウェブ8とを備えて形成される所謂H型鋼により形成されており、端部に設けられたジョイント部材を介して鉄骨柱に高力ボルト接合されている。これによって、これら部材間での溶接接合を排することとして作業者の熟練によらず接合部位の品質を一定のものとしている。
床スラブ5は、複数枚の平板状の軽量気泡コンクリート(ALC(Autoclaved Lightweight aerated Concreteの略))製の床パネルを敷設することにより形成されている。1階床スラブ5を形成する床パネルは、端部を基礎の上面に載置した状態で設置されている。また、2階の床スラブ5及び屋根スラブ5を形成する床パネルは、端部を鉄骨梁4の上フランジ6上面に載置した状態で、該梁4に取り付けられた剛床金物(図示省略)を介して当該鉄骨梁4に支持されている。
【0015】
外壁3は、複数枚の平板状の軽量気泡コンクリート(ALC)製の外壁パネルを並べて配備することにより形成されている。
また、各外壁パネルは、当該階の床スラブ5の下面から鉄骨梁4の上フランジ6の上面に至る少なくとも各階の高さに相当する高さを有している。また、各階の外壁パネルは、鉄骨梁4から外壁パネルに向けて突出した状態に取り付けられる自重受け金具やイナズマプレート等の各種支持金物を適宜介して鉄骨梁4や基礎1に上下端部が支持されている。
上述の如く軽量気泡コンクリートにより形成される床スラブ5や外壁3は、軽量で且つ高い耐火性能を有するものとなる。
【0016】
また、鉄骨梁4の上方には、該鉄骨梁4に支持される床スラブ5と該床スラブ5に対向する2階の外壁下端部との間となる位置に間隙が形成されており、該間隙は、上記剛床金物、自重受け金物やイナズマプレート等の各種金物を梁に取り付けるためのスペースであって、これら各種金物、床スラブ5及び外壁3の設置後にモルタルが充填される。
【0017】
また、これら構造躯体2及び外壁3に沿って、居室の壁面9a及び天井面9bを形成する内装構造9が設けられ、これら構造躯体2及び外壁3と内装構造の間に沿外壁断熱材10が設けられている。ここで、内装構造9の壁面9aは、外壁に所定の間隔を空けて対向する位置で格子状に組み立てられて下地部材に、壁面9aを構成する壁板敷設して形成されている。また、天井面9bは、床スラブ5に所定の間隔を空けて対向する位置で格子状に組み立てられた野縁部材に、天井面9bを構成する天井板が敷設されて形成されている。
【0018】
また、本実施形態の建物は、躯体を耐火構造とすべきと法令に定められている地域に建設されるものであって、構造躯体2のうち、床スラブ5を支持する鉄骨梁4と外壁3及び床スラブ5を支持する鉄骨梁4には本発明に係る耐火被覆構造がそれぞれ設けられている。
【0019】
以下では、当該耐火構被覆構造のうち、まず、床スラブ5のみを支持する中通りの鉄骨梁4(以下、鉄骨中梁4Aという)の耐火被覆構造を第1実施形態として説明し、床スラブ5及び外壁3を支持する外通りの鉄骨梁4(以下、鉄骨外梁4Bという)の耐火被覆構造を第2実施形態として説明する。もちろん、鉄骨柱にもそれぞれ所定の耐火被覆がなされているが、以下では説明を省略する。
【0020】
<第1実施形態>
図2に示す如く、本実施形態において、耐火被覆構造は、不燃性の床スラブ5を支持する鉄骨中梁4A周りに設けられており、該鉄骨中梁4Aの外周のうち床スラブ5に当接しない剥出部4Cを覆う熱膨張性の耐火被覆シート層11aと、前記耐火被覆シート層11aの表面を覆う金属膜の気密層11bと、鉄骨梁4の剥出部4Cと耐火被覆シート層11aの間に設けられるフェノール樹脂発泡体を主材とする可燃性の断熱層12とを備えている。
なお、鉄骨梁4の剥出部4Cは、上フランジ6の上面を除く全ての面であって、上フランジ6の両側面及び下面、ウェブ8の両側面、下フランジ7の両側面及び上下面のことをいう。
【0021】
耐火被覆シート層11aは、グラファイト粉末等の発泡顔料をエポキシ樹脂やブチル等の樹脂バインダーで固めたシート状に形成され、加熱により所定温度に達すると発泡・膨張し、膨張後に燃焼せずに断熱性を発揮する有機系の耐火材により形成されている。該膨張断熱シートは、通常の温度環境下では膨張することなく、200℃程度以上に加熱されると厚さ方向に5〜40倍程度に発泡して膨張し、当該膨張による発泡残渣が断熱層として機能するものであって、通常の温度環境下で厚さを1.0mm〜2.5mm程度とすると共に比重1.0〜2.0程度とし、火災時の高温雰囲気により上述の如く発泡膨張しつつも1時間耐火の性能が得られるものが好ましい。本実施形態においては、この種の耐火被覆シート層11aとして、フィブロック(登録商標フィブロック/Fiblock。商標権者:積水化学工業株式会社)を用いている。
なお、耐火被覆シート層11としては、上記フィブロックに限定されず、無機系又は有機系の他の熱膨張性の断熱シートも採用可能である。
【0022】
また、気密層11bは、アルミニウム薄膜(アルミニウム箔)を用いており、これによって、当該気密層11bは、耐火被覆シート層11a側となる裏面側から表面側に向けて又は該表面側から裏面側に向けての通気を略完全に遮断するばかりでなく、きわめて薄く且つ軽量に形成されるものとなる。
また、アルミニウムは、きわめて高い熱反射率(一般には97%程度)を有しているので、輻射熱がアルミニウム薄膜に到達する場合であっても、殆どの輻射熱はアルミニウム薄膜表面で反射され、きわめて僅かな輻射熱がアルミニウム薄膜を貫通するのみとなり、これによって、火災時においても気密層11bを通じての鉄骨中梁4に向けての熱の移動が著しく抑制され、ひいては鉄骨中梁4A表面の温度上昇の鈍化が図られている。
なお、本実施形態において耐火被覆シート層11a及び気密層11bは、上記耐火被覆シート層11aの表面に気密層11bを被覆した一体のものを用いているが、気密層11bとしては、アルミニウム箔をガラス繊維により補強してなるアルミガラスクロスやアルミニウムシート等を用い、耐火被覆シート層11aと別体として用いることも好ましい。
【0023】
本実施形態においては、耐火被覆シート層11aと気密層11bとは一体に形成されており、一方の端部が床スラブ5に釘や鋲等の固定具13を介して止め付けられており、鉄骨中梁4Aの剥出部4Cを周り込んで他方の端部も床スラブ5に固定具13を介して止めつけられている。これによって、鉄骨中梁4Aの剥出部4Cは耐火被覆シート層11a及び気密層11bに覆われることとなる。
【0024】
断熱層12は、フェノール樹脂発泡体等の成形体や発泡体を板状に形成して構成されている。具体的には、本件出願人が開発して既に国際出願(特願2000−558158)した技術(ネオマフォーム(登録商標))に係るものを用いている。当該技術に係るフェノール樹脂発泡体は、断熱材として好ましく使用することが可能で、且つ気密材としても使用することが可能である。
【0025】
上記技術に係るフェノール樹脂発泡体は、フェノール樹脂基体部と、多数の微細気泡から形成される気泡部とを有し、密度を10kg/m〜100kg/mとするフェノールフォームである。また、該フェノール樹脂発泡体は、微細気泡が炭化水素を含有し且つ平均気泡径が5μm〜200μmの範囲にあり、大部分の微細気泡の気泡壁が滑らかなフェノール樹脂基体面によって構成されている。そして、発泡剤が炭化水素であるにも関わらず、従来のフロン系発泡剤と遜色のない熱伝導率を持ち、且つ熱伝導率の経時的な変化もなく、圧縮強度等の機械的強度に優れ、脆性が改善される。
上記フェノール樹脂発泡体では、高い断熱性と気密性を有し、且つこれらの性能を長期間維持し得る性質を有している。フェノール樹脂発泡体に於ける断熱性は、気泡径が5μm〜200μmの範囲、好ましくは10μm〜150μmと小さく、且つ独立気泡率を80%以上と高く保持することによって確保することが可能である。
例えば、フェノール樹脂発泡体の密度を27kg/mに設定した場合、20℃に於ける熱伝導率は0.02W/m・Kである。また、当該フェノール樹脂発泡体の耐熱温度(熱変形温度)は160℃〜200℃程度であり、当該温度までは形状を保持して断熱性能を発揮し続けるため、これによって、当該フェノール樹脂発泡体からなる断熱層は、自らが高温となっても高い断熱性能を維持する。
また、フェノール樹脂発泡体は、上述の如く熱変形温度が160℃〜200℃であって高い耐燃焼性を有しており、火炎が作用したとき、単に炭化するのみであって、着火することのない非発火性であり、さらには、爆発・燃焼や温度上昇に起因するガスの発生もない。
【0026】
ところで、押出法発泡ポリスチレン3種は、熱伝導率;0.028W/m・K、圧縮強さ;20N/cm、熱変形温度;80℃であり、硬質ウレタンフォーム2種は熱伝導率;0.024W/m・K、圧縮強さ;8N/cm、熱変形温度;100℃である。そうすると、前記フェノール樹脂発泡体は、これら押出法発泡ポリスチレン3種や硬質ウレタンフォーム2種よりも充分に高い性能を有する。
このため、フェノール樹脂発泡体からなる断熱材では、従来の押出発泡ポリスチレンや硬質ウレタンフォームの約2/3程度の厚さで略同等の断熱性能を発揮することが可能である。
また、フェノール樹脂発泡体は、比較的脆い材料であるため、少なくとも片面にクラフト紙や不織布からなる保護層を設けるのが一般的である。特に、本件出願人が開発して特許出願している特開平11−198332号公報に開示されたフェノール樹脂発泡体積層板は、保護層を形成する不織布を改良することによって接着性能を向上させたものであり、この不織布によってフェノール樹脂発泡体の強度を改善して、強度、断熱性共に優れた建築用断熱材料として提供されるものである。
【0027】
本実施形態は、上記フェノール樹脂発泡体により断熱層12を形成しているが、該断熱層12は、鉄骨中梁4Aの上フランジ6の一方の側面と同側の下フランジ7の側面の間に架設される薄板状の第1断熱部12aと、該第1断熱部12aに密着すると共に上下フランジ6、7間に充填される幅厚の第2断熱部12bとを備え、これらが鉄骨中梁4Aのいずれの側部にも設けられて構成されている。
なお、第1断熱部12aは、厚さを7mm〜45mmの範囲で設定されたものを用いることが好ましく、本実施形態においては厚さを7mmとしたものを採用している。同様に、第2断熱部12bは、厚さを7mm〜45mmの範囲で設定されたものを用いることが好ましく、本実施形態においては厚さを45mmとしたものを採用している。
この様に断熱層12は、鉄骨中梁4Aの側部を覆うものの、その殆どは上下フランジ6、7の間の空間に充填されることとなるため、該断熱層12を設ける場合であっても、断熱層12を含む当該鉄骨中梁4Aの幅が過大に増大されるものとはならず、これによって、鉄骨中梁4Aを覆う耐火被覆構造の小型化が図られている。
【0028】
本実施形態によれば、鉄骨中梁4Aの下方にて火災等が発生する場合であっても、鉄骨中梁4Aと炎との間には、耐火被覆シート層11aのみならず、気密層11bと、フェノール樹脂発泡体からなる非発火性の断熱層12とが介在し、気密層11bにより、鉄骨中梁4Aに向けての熱気の流入が防止される。また、気密層11bは金属膜により形成されているために輻射熱の通過も抑制される。さらに、所定の温度以上となると耐火被覆シート層11aが膨張して(不燃性の)断熱層を形成することとなるので、これらによって火災による熱気の鉄骨中梁4Aに向けての流入は一次的に抑制される。
また、火災のない通常時においては、気密層11bにより空気の流通が著しく制限されるため、これによって、当該耐火被覆構造を介しての建物内外の気密性を確保することができる。
【0029】
また、本願発明者らは、耐火被覆シート層11aと鉄骨中梁4Aとの間にフェノール樹脂発泡体からなる断熱層12を介在させることにより、耐火性能が著しく向上することを知見した。すなわち、本願発明者らは、実験等を通じて、火災時において、当該フェノール樹脂発泡体からなる断熱層12は、過熱により炭化してしまうまでは熱気による300℃以上の高温の温度域においても熱伝達を阻害する効果を発揮し、これによって鉄骨梁4A表面の温度上昇が鈍化(遅延化)することとなり、これによって耐火時間を確保することができることを確認している。また、断熱層12が炭化する場合にも、単に炭化するのみであって炎上や溶解等することはなく、さらには、発火や温度上昇の原因となりかねないガスの発生もない。
したがって、断熱層12は、火災時においても温度上昇の鈍化にのみ貢献し、温度上昇の原因となる諸要因を発現することはないので、気密層11bと耐火被覆シート層11aにより形成される一次的な断熱を補助する二次的な断熱として有効に機能させることができる。
また、火災のない通常時においては、断熱層12が所定の断熱性能を発揮することができ、これによって、当該耐火被覆構造を介しての断熱性能を確保することができる。特に、鉄骨中梁4Aは床スラブ5に比して著しく熱伝達性が良いため、鉄骨中梁4Aの位置によっては断熱気密を怠ると結露が生じる虞があるが、本実施形態においては、かかる結露を未然に防止することができる。
【0030】
また、図3は、本実施形態の他の構成を示しており、本実施形態においては、鉄骨中梁4Aの下フランジ7と耐火被覆シート層11aとの間にも第3断熱部12cが設けられている。該第3断熱部12cは、鉄骨中梁4Aの下フランジ7の幅と略同一幅に形成されており、各側端部に第1断熱部12cの下端部が当接している。これにより、鉄骨中梁4Aの剥出部4Cは断熱層12に完全に覆われることとなり、当該鉄骨中梁4Aの耐火性能がさらに向上するものとなるのである。
なお、第3断熱部12cは、厚さを7mm〜45mmの範囲で設定されたものを用いることが好ましく、本実施形態においては厚さを25mmとしたものを採用している。
【0031】
<第2実施形態>
図4は第2実施形態に係る鉄骨外梁4Bの耐火被覆構造を示すもので、本実施形態においては、鉄骨外梁4Bは、上フランジ6により床スラブ5を支持すると共に、金物14を介して外壁3を支持しており、これによって鉄骨外梁4Bの一方の側部は僅かな隙間を介して外壁3に対向している。
このため、該鉄骨外梁4Bの剥出部4Dは、鉄骨外梁4Bの他方の側部となる上フランジ6の他方の側部の側面及び下面と、ウェブ8の他方の側面と、下フランジ7の他方の側部の上面及び側面と、下フランジ7の全下面となる。
【0032】
耐火被覆構造は、これら鉄骨外梁4Bの剥出部4Dを覆うものであって、剥出部4Dを覆う熱膨張性の耐火被覆シート層11aと、耐火被覆シート層11aの表面に設けられる金属膜の気密層11bと、前記鉄骨外梁4Bの剥出部4Dと耐火被覆シート層11aの間に設けられるフェノール樹脂発泡体を主材とする可燃性の断熱層12とを備えている。
耐火被覆シート層11aと気密層11bとは上記第1実施形態と同様に一体に形成されており、一方の端部が床スラブ5に釘や鋲、アングル等の固定具13を介して止め付けられており、他方の端部も同様に外壁3に上述の固定具13を介して止め付けられている。これによって、鉄骨外梁4Bの剥出部4Dは耐火被覆シート層11a及び気密層11bに覆われることとなる。
【0033】
また、断熱層12は、上記第1実施例と同様にフェノール樹脂発泡体により形成されており、鉄骨外梁4Bの他方の側部の上フランジ6と下フランジ7に架設される第1断熱部12aと、該第1断熱部12aに密着した状態でこれら上下一対のフランジ6、7間に充填される第2断熱部12bとを備えている。第1断熱部12aは、下フランジ7よりも下方に突出している。
また、下フランジ7の下方には、該下フランジ7の全下面を覆う板状の第3断熱部12cが設けられており、該第3断熱部12cの一方の小口面は外壁3に突き合わされると共に他方の側面が第1断熱部12aに突き合わされている。
【0034】
また、壁内空間Sには、前述のように、外壁3に沿って沿外壁断熱材10が設けられているが、該沿外壁断熱材10は、上記第1実施形態と同様にフェノール樹脂発泡体を板状に形成したものが用いられており、上端部の小口面は、気密層11b及び耐火被覆シート層11aを介して断熱層12の第3断熱部12cに突き付けられている。これによって、該気密層11b及び耐火被覆シート層11aはこれら第3断熱部12cと沿外壁断熱材10に挟持されると共に、気密層11b及び耐火被覆シート層11aの端部と外壁3との継目は沿外壁断熱材10によって覆われることとなる。また、沿外壁断熱材10の上端部の小口面が気密層11b及び耐火被覆シート層11aを介して断熱層12の第3断熱部12cに突き付けられていることで、当該沿外壁断熱材10と気密層11bとは密着することとなり、これらの間に形成される継目に気密テープなどで気密処理を施すことにより、当該継目からの漏気は著しく低減され、これによって気密層内外の気密性能がさらに向上することとなる。
なお、図4中、15は前述の下地部材、16は野縁部材、Sは天井裏空間を示す。
【0035】
また、上記構成により、沿外壁断熱材10→下フランジ7に沿う第3断熱部12c→ウェブ8に沿う第1、第2断熱部12a、12bとして連続する断熱ラインが形成されることとなる。また、これら断熱材は、上記実施例と同様、フェノール樹脂発泡体により形成されているため断熱性のみならず気密性も有しており、かつ継目を気密テープなどで気密処理されているので、上述の如き構成により、断熱材→気密層11bとして連続する気密ラインが形成されることとなる。
【0036】
本実施形態によれば、鉄骨外梁4Bの近傍にて火災等が発生する場合であっても、鉄骨外梁4Bと炎との間には、耐火被覆シート層11a、気密層11b、非発火性の断熱層12が介在し、気密層11bにより鉄骨外梁4Bに向けての熱気の流入が防止され、また輻射熱の通過も抑制される。さらに、所定の温度以上となると耐火被覆シート層11aが膨張して非発火性の断熱層を形成し、火災による熱気の鉄骨外梁4Bに向けての流入が一次的に抑制される。
特に、耐火被覆シート層11aと鉄骨外梁4Bとの間に介在させたフェノール樹脂発泡体からなる断熱層12が耐火性能を向上させる。すなわち、該断熱層12は、過熱により炭化してしまうまでは熱気による300℃以上の高温の温度域においても熱伝達を阻害し、鉄骨外梁4B表面の温度上昇を遅延させ、耐火時間を確保することができ、また非発火性であるので、燃焼しても単に炭化するのみで、炎上や溶解等することがなく、ガスを発生させることもない。したがって、断熱層12は、火災時においても温度上昇の鈍化にのみ貢献し、温度上昇の原因となる諸要因を発現することはなく、気密層11bと耐火被覆シート層11aにより形成される一次的な断熱を補助する二次的な断熱として有効に機能させることができる。
【0037】
一方、火災のない通常時においては、断熱層12、気密層11bが所定の断熱性・気密性を発揮することができる。特に、鉄骨外梁4Bは、断熱気密を適正に行わなければ結露が生じるが、本実施形態においては、気密層11bと外壁3、床スラブ5によって気密ラインが確保され、沿外壁断熱材10と断熱層12によって断熱ラインが確保され、結露が回避できる。すなわち、耐火被覆構造として用いた気密層11b及び断熱層12が建物の断熱・気密ラインの一部を兼ねることとなり、夫々を別々に設ける必要はなく、これによって鉄骨外梁4B周りの納まりが簡素化され、施工性も向上する。
【0038】
以上、本発明の耐火被覆構造の実施形態について詳述したが、本発明は上記実施形態にのみ限定されるものではない。
例えば、上記耐火被覆構造は、角パイプ等によって鉄骨梁4を形成する場合であっても同様の作用効果を奏する。また、中間階の鉄骨梁4のみでなく、最上階の鉄骨梁4に対しても採用することができる。
【実施例】
【0039】
本願発明の構成は以上であって、本願発明の有効性を確認するために行った比較実験を以下に示す。
なお、いずれの試験体においても、図5(a)(b)に示す如く、鉄骨梁としてH−250×100×4.5×9のものを長さ1520mmとして用いると共に、当該鉄骨梁の上フランジ6上に厚さ50mm、幅250mm、長さを1200mmとしたけい酸カルシウム板を載置する。
【0040】
<実施例1>
図6(a)に示す如く、鉄骨梁4Aの両側部に第1断熱部及び第2断熱部を設けて断熱層12とし、当該断熱層12と鉄骨梁4Aの剥出部4Cを覆って耐火被覆シート層11a及び気密層11bを設ける。
なお、断熱層12としては、ネオマフォームを用いている。第1断熱部の厚さは7mm、第2断熱層の厚さは40mmである。耐火被覆シート層11aとしては、気密層11bとしてのアルミニウム表面を有するフィブロックを用いており、その厚さは2.5mmである。
<実施例2>
図6(b)に示す如く、上記実施例1の構成に加えて、鉄骨梁の下フランジと耐火被覆シート層11a、11bとの間に第3断熱部12cを設ける。該第3断熱部12cもネオマフォームにより形成されており、その厚さは25mmである。
<比較例1>
図6(c)に示す如く、上記実施例1の構成のうち、断熱層12a、12bを取り除いたものである。
【0041】
<試験方法>
各実施例及び比較例(以下、試験体という)を耐火試験炉内に設置し、その後、鉄骨梁の剥出部に向けて火炎を放射して火災時を再現し、当該火炎放射による鉄骨梁の温度変化を記録する
なお、各試験体には、図5(a)(b)及び図6(a)〜(c)中に丸囲みの数字により示す(1)〜(7)に対応する位置にそれぞれ熱電対を仕込んでおき、これら(1)〜(7)の平均値を測定温度として、当該測定温度の経時変化を記録してグラフに示すこととする。
【0042】
<試験結果>
図7は、上記実施例1、実施例2、比較例1の試験結果を示すグラフであって、当該グラフは、横軸を経過時間とすると共に縦軸を温度として設定し、グラフ(イ)は炉内温度、グラフ(ロ)は比較例1の温度曲線、グラフ(ハ)は実施例1についての温度曲線、グラフ(ニ)は実施例2についての温度曲線を示している。
図から明らかなとおり、実施例1及び実施例2の耐火時間は比較例1の耐火時間よりも長く、これによって実施例1及び実施例2の構成は耐火性能の向上に効果的であることが確認される。
さらには、実施例2の温度上昇は実施例1の温度上昇よりも小さく、これによって、第3断熱部が耐火性能の向上に効果的であることが確認される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る鉄骨梁の耐火被覆構造を用いた建物の断面図である。
【図2】鉄骨梁が中梁である第1実施形態に係る耐火被覆構造を示す断面図である。
【図3】図2の実施形態の変形例を示す断面図である。
【図4】鉄骨梁が外梁である第2実施形態に係る耐火被覆構造を示す側断面図である。
【図5】比較実験に使用した鉄骨梁及び比較実験において温度測定をした位置を示すもので、(a)は側断面図、(b)は縦断面図である。
【図6】比較実験に使用した耐火被覆構造を示す概略図で、(a)は実施例1、(b)は実施例2、(c)は比較例1をそれぞれ示す。
【図7】比較実験の結果を示すグラフで、(イ)は炉内温度、(ロ)は比較例1、(ハ)は実施例1、(ニ)は実施例2の温度曲線を示している。
【符号の説明】
【0044】
1 基礎
2 構造躯体
3 外壁
4 鉄骨梁
4A 鉄骨中梁
4B 鉄骨外梁
4C、4D 剥出部
5 床スラブ
6 上フランジ
7 下フランジ
8 ウエブ
9 内装構造
9a 壁面
9b 天井面
10 沿外壁断熱材
11a 耐火被覆シート層
11b 気密層
12 断熱層
12a 第1断熱部
12b 第2断熱部
12c 第3断熱部
14 金物
15 下地部材
16 野縁部材
壁内空間
天井裏空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不燃性の外壁と不燃性の床のいずれか一方又は両方を支持する鉄骨梁の耐火被覆構造であって、
前記鉄骨梁の外周のうち前記外壁や床に対向又は当接しない剥出部を覆う熱膨張性の耐火被覆シート層と、該耐火被覆シート層の表面を覆う金属膜の気密層と、前記鉄骨梁の剥出部と耐火被覆シート層の間に設けられるフェノール樹脂発泡体を主材とする断熱層とを備えていることを特徴とする鉄骨梁の耐火被覆構造。
【請求項2】
前記鉄骨梁は、上下一対の板状のフランジを板状のウェブにより連結して形成されると共に前記床を支持しており、
前記耐火被覆シート層及び気密層は、前記鉄骨梁の剥出部となる上フランジの一方の側端部から下フランジ下方を周り込んで上フランジの他方の側端部までを覆っており、
前記断熱層は、前記剥出部となる上フランジの上端部から下フランジの下端部に亘って設けられると共に、これら上下一対のフランジ間に充填されていることを特徴とする請求項1に記載の鉄骨梁の耐火被覆構造。
【請求項3】
前記断熱層は、前記剥出部となる下フランジの下面部と耐火被覆シート層との間に充填されていることを特徴とする請求項2に記載の鉄骨梁の耐火被覆構造。
【請求項4】
前記鉄骨梁は、上下一対の板状のフランジを板状のウェブにより連結して形成され、該上フランジにより前記床を支持すると共に前記外壁をウェブに対向させた状態で支持しており、
前記耐火被覆シート層及び気密層は、前記鉄骨梁の剥出部となる上フランジの一方の側端部から下フランジの下面までを覆った状態で前記床と外壁との間に設けられており、
前記断熱層は、前記剥出部となる上フランジの上端部から下フランジの下端部に亘って設けられると共にこれら上下一対のフランジ間に充填されていることを特徴とする請求項1に記載の鉄骨梁の耐火被覆構造。
【請求項5】
前記外壁に沿って板状の沿外壁断熱材が設けられており、前記気密層の端部は、該沿外壁断熱材と前記外壁とに挟持されていることを特徴とする請求項4に記載の鉄骨梁の耐火被覆構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−43444(P2010−43444A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207482(P2008−207482)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】