説明

鉛蓄電池

【課題】アイドリングストップ用途の自動車用鉛蓄電池にみられる、負極耳部或いは負極格子板上部が活物質化してやせ細り寿命となるのを防止した長寿命の鉛蓄電池の提供を目的とする。
【解決手段】負極格子板にSnを0.6〜2.0質量%含有するPb−Ca系合金格子板を用い、電解液にAlを硫酸塩換算で2〜50g/l含有する希硫酸を用いた鉛蓄電池。
本発明の鉛蓄電池は、電解液にAlを適量含有させたのでサルフェーションなどによる負極劣化が抑制され長寿命である。またPb−Ca系合金からなる負極格子板にSnを適量含有させたので負極格子板の電位が高まり、サルフェーションが進行した状態でも、負極格子板の耳部などが活物質化してやせ細り破断するようなことがなく突然寿命に至ることが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドリングストップ用途の自動車用鉛蓄電池にみられる、負極耳部或いは負極格子板上部が活物質化してやせ細り寿命となるのを防止した長寿命の鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用鉛蓄電池は、SLIバッテリーと呼ばれるように、主に、スターター(起動)、照明、イグニッションに使用され、その他、高級車では100個以上搭載されているモーターの電源にも使用されているが、前記スターター以外はエンジンが発電機を駆動して電力を供給するため、鉛蓄電池はさほど深くは放電されず、むしろ、走行中は、発電機により充電されるため満充電状態に置かれることが多かった。
【0003】
しかし、近年、自動車の燃費改善や排出ガスの削減を目的に、信号待ちなどで停車中はエンジンを停止するアイドリングストップが求められるようになり、エンジン停止中は、電力は、発電機からではなく、鉛蓄電池から供給されるため、鉛蓄電池は従来よりも深く放電されるようになった(特許文献1)。
また、過充電の手前で充電を終了して発電機の負荷を軽減する過充電防止システムが導入されたため充電効率が低い場合は充電不足状態で使用されることが多くなった。
【0004】
このように鉛蓄電池は、深い放電と慢性的な充電不足状態で使用されるようになり、特に充電不足状態で長期使用したとき濃厚な硫酸が沈降して電解液の比重が電極板の下部ほど高くなる成層化現象が発生し、その結果、負極に電池反応に寄与しない硫酸鉛の粗大結晶粒が生成(サルフェーション)して充電効率が低下した。この充電効率の低下とサルフェーションの生成という悪循環が繰り返されることで電池寿命は急速に低下した。
【0005】
この改善策として負極にカーボンを多量に添加して硫酸鉛の間隙に導電パスを形成する方法が提案された(非特許文献1)が、本発明者がこの方法をトレース実験した結果では十分な寿命延長は認められなかった。
【0006】
前記アイドリングストップに対して、自動車側からは、より小電力でエンジンを再始動できる改造がなされた。しかし、この改造でサルフェーションが進行した状態でもエンジンが始動するようになったため、サルフェーションで劣化した負極部分よりも分極の小さい負極耳部や負極格子板の上部が活物質化してやせ細り破断して鉛蓄電池が突然寿命に至るという最悪の寿命モードを招いた。
なお、前記耳部などのやせ細りは電解液が少量の制御弁式鉛蓄電池(特許文献1)でも、電解液を多量に含む液式鉛蓄電池でも発生する。
【0007】
これまでに、充電時に正極側から発生する酸素により耳部が腐食するのを、耳部にマット体などを配し、そこに電解液を保持させて防止する方法が提案されている(特許文献2、3)が、この方法によっても前記耳部のやせ細りは防止できなかった。
【0008】
【特許文献1】特開2003−338312号公報
【特許文献2】特開平4−249064号公報
【特許文献3】特開平8−162149号公報
【非特許文献1】K.Nakamura,他「Failure modes of valve‐regulated lead/acid batteries」,Journal of Power Sources,(米国),1996年,Vol.59,p.153-157
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このようなことから、本発明者等は前記負極耳部のやせ細りの状況を調査した。
その結果、次のことを知見した。
即ち、電池の寿命が残り20%程度になると、負極活物質中の硫酸鉛量が50%前後に増加し、負極耳部が細り始める。その後、硫酸鉛が急速に増加し、硫酸鉛量が80〜90%に達すると耳部の厚みは元の10%程度になって破断し易い状態になる。また、その頃になると負極劣化も寿命寸前にまで進行する。
【0010】
ところで、電池の寿命モードは、負極が徐々に劣化して寿命に至るのが望ましく、前記耳部破断による突然寿命に至ることは自動車用鉛蓄電池としては回避すべきであり、そのためには、耳部破断を、負極劣化による寿命より遅らせる必要がある。
【0011】
本発明は、負極劣化を遅延させるとともに、耳部破断をそれよりさらに遅延させた、突然寿命にならない長寿命の鉛蓄電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載発明は、負極格子板にSnを0.6〜2.0質量%含有するPb−Ca系合金格子板を用い、電解液にAlを硫酸塩換算で2〜50g/l含有する硫酸水溶液を用いたことを特徴とする鉛蓄電池である。
【0013】
請求項2記載発明は、電解液の20℃における比重が1.270〜1.320であることを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鉛蓄電池は、電解液にAlを適量含有させたのでサルフェーションなどによる負極劣化が抑制され長寿命である。またPb−Ca系合金からなる負極格子板にSnを適量含有させたので負極格子板の電位が高まり、サルフェーションが進行した状態でも、負極格子板の耳部などが活物質化してやせ細り破断するようなことがなく突然寿命に至ることが防止される。本発明の鉛蓄電池は、電解液の20℃における比重(以下、“20℃における”の記載を省略する。)を1.270〜1.320に規定することにより、放電容量が向上し、またガス発生による電解液の減少が抑制され、電池特性がより一層向上する。
【0015】
本発明は、21世紀において益々重要になる地球環境問題から、不可避的に要求される省エネルギー、自然エネルギーなどの新エネルギー利用、特に化石燃料消費の多くを占める自動車などの輸送機器の燃費改善に応え得る、経済的で長期間安定的して作動する鉛蓄電池を提供するものであり、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において、負極格子板に含有されるSnは、負極格子板の電位を高めて、負極にサルフェーションが進行した状態でエンジンが始動しても、負極耳部や負極格子板上部が活物質化してやせ細り破断したりするのが防止される。因みに、Snの酸化電位はPbより約300mV貴である。前記Snの含有量を0.6〜2.0質量%に規定する理由は、0.6質量%未満ではその効果が十分に得られず、負極劣化による寿命以前に耳部が破断することがあるためである。また2.0質量%を超えて含有させても、その効果が飽和してコスト的に不利なためである。
【0017】
本発明において、電解液に含有させるAlは、放電生成物である硫酸鉛の結晶成長を抑え或いは不安定化させてサルフェーションを抑制する。前記Alの含有量を硫酸塩換算で2〜50g/lに規定する理由は、2g/l未満ではその効果が十分に得られず、50g/lを超えるとその効果が飽和してコスト的に不利なうえ、電解液の導電性が低下し、それにより内部抵抗が増加して電池特性が悪化するためである。
【0018】
本発明において、負極にカーボン、リグニン、硫酸バリウムなどを添加して充放電特性を改善することが望ましい。前記カーボン、リグニン、硫酸バリウムの添加量は、負極活物質100重量部に対し、それぞれ0.05〜3重量部、0.1〜1重量部、0.5〜5重量部が適量であり、前記下限値未満ではいずれもその効果が十分に得られず、上限値を超えて添加してもいずれもその効果が飽和する。
【0019】
本発明において、電解液の比重が1.270未満では充電不足により早期に硫酸イオンが不足して十分な放電容量が得られない場合があり、1.320を超えると充電効率が低下して十分な放電容量が得られない場合があるうえ、ガス発生による電解液の減少を招くことがある。従って、前記電解液の比重は1.270〜1.320が望ましい。
【0020】
本発明において、前記のやせ細り防止効果は、鋳造格子板より機械加工格子板の方が顕著に発現される。その原因は、機械加工格子板は、結晶粒が機械加工で微細化しているため、酸化により生成した硫酸鉛の結晶が鋳造格子板より緻密で、還元時のガス発生などで脱落し難いためと考えられる。ここで、前記機械加工格子板とは、圧延材や押出材などにエキスパンド加工や打抜加工などを施した格子板のことである。
【0021】
なお、硫酸水溶液中における鉛への還元ピークは−1100mV(vs.Hg/HgSO)付近、硫酸鉛への酸化ピークは−900mV(vs.Hg/HgSO)付近であり、これらは機械加工格子板と鋳造格子板とで大差がないことから、前記やせ細り防止効果が機械加工格子板で大きく鋳造格子板で小さい原因は、酸化還元電位の違いによるものではないと考えられる。
【実施例1】
【0022】
(1)負極未化成板の作製
ボールミル法で製造した鉛粉に、カーボン粉末として比表面積70m/gのアセチレンブラック粉末と硫酸ブラック粉末を適量添加して乾式混合した。これにリグニンを水溶液として適量加え、続いてイオン交換水を鉛粉100重量部に対しておよそ10重量部加えて混練して水ペーストを調製し、さらに比重1.36の希硫酸を10重量部加えて混練して、カップ密度140g/2inの負極活物質ペーストを調製した。次に前記負極活物質ペーストを、Snを本発明規定値内で種々の量含有させたPb−Ca系合金の鋳造格子板に充填し、次いで40℃、湿度95%の雰囲気で24時間熟成し、その後乾燥して負極未化成板を作製した。
【0023】
(2)正極未化成板の作製
酸化鉛100重量部に対してイオン交換水をおよそ10重量部加えて混練し、続いて比重1.27の希硫酸を10重量部加えて混練してカップ密度130g/2inの正極活物質ペーストを調製した。次に前記ペーストをPb−Ca系合金の鋳造格子板に充填し、次いで40℃、湿度95%の雰囲気で24時間熟成し、その後乾燥して正極未化成板を作製した。
【0024】
(3)電池組み立て、電解液の調整および電槽化成
前記正負両未化成板にポリエチレンセパレータを組み合わせ、COS方式で極板同士を溶接して極板群とした。これをポリプロピレン製の電槽に入れ、ヒートシールにより蓋をしたのち、電槽蓋の液口から電解液を注入し、次いで電槽化成を行いD23サイズ、50Ah、12Vの鉛蓄電池を製造した。前記電解液には、比重1.200の希硫酸に、硫酸Alの水和物を(Al(SO)換算で20g/l添加した、比重1.280の電解液を用いた。
【0025】
(4)アイドリングストップ寿命試験
得られた各々の鉛蓄電池を25℃、5時間率電流で完全充電し、次いで40℃で、50A−59秒間および300A−1秒間の定電流放電と、100A−60秒間、上限電圧14.2Vの定電流・定電圧充電を1サイクルとするアイドリングストップ寿命試験を行った。定電流放電時の電圧が7.2Vを下回った時点のサイクル回を電池の寿命とした。
寿命サイクルが3万回以上を良好、3万回未満を不良と判定した。
また、試験後の鉛蓄電池を解体して負極耳部および負極格子板上部のやせ細り状態を観察した。やせ細りが認められないものは良好(○)、やせ細りが認められるもの或いは耳部が破断したものは不良(×)と判定した。
【実施例2】
【0026】
負極未化成板の作製において、負極格子板に、圧延材をエキスパンド加工した格子板を用いた他は、実施例1と同じ方法により鉛蓄電池を製造し、実施例1と同じ方法によりサイクル寿命試験および試験後の状態観察を行った。
【0027】
[比較例1]実施例1において、負極格子板のSnの含有量を本発明規定値外とした他は、実施例1と同じ方法により鉛蓄電池を製造し、実施例1と同じ方法によりサイクル寿命試験および試験後の状態観察を行った。
【0028】
[比較例2]実施例1において、電解液に硫酸Alの水和物を添加しなかった他は、実施例1と同じ方法により鉛蓄電池を製造し、実施例1と同じ方法によりサイクル寿命試験および試験後の状態観察を行った。
【0029】
実施例1、2および比較例1、2の結果を表1に示す。
なお、サイクル寿命回は1000回未満の端数を切り捨てて表示した。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から明らかなように、本発明例の鉛蓄電池(実施例1、2)は、いずれもサイクル寿命が優れていた。また負極耳部や負極格子板上部にやせ細りは殆ど認められなかった。中でも負極格子板に圧延材をエキスパンド加工した格子板を用いた実施例2は、硫酸鉛が脱落し難く、サイクル寿命が特に優れた。
これに対し、比較例1は突然寿命になった。解体したところ、負極耳部が破断していた。また負極格子板上部がかなりやせ細っていた。これは負極格子板のSnの含有量が少なく負極格子板の電位が十分高くなかったためである。比較例2は電解液に硫酸Al水和物が添加されていないため負極劣化が進行して短寿命であった。
【実施例3】
【0032】
実施例1、2で作製した負極格子板から耳部を切取り酸化腐食試験を、下記ステップ法により行った。
即ち、電解液に比重1.24の希硫酸水溶液を用い、対極に純鉛板、参照電極にHg/HgSO電極を用いて試験セルを組み立て、これを40℃の恒温槽に入れ、耳部の電位を−1100mV(vs.Hg/HgSO)と、−600mV(vs.Hg/HgSO)でそれぞれ20秒間保持するステップ状の酸化還元操作を7日間繰り返したのち、切取った耳部(サンプル)を水洗・乾燥して質量Bを測定し、下式により腐食減量率(R)を求めた。
R=[(A−B)/A]×100(%)(但しAは試験前の乾燥状態のサンプル質量)
結果を表2に示した。
【0033】
【表2】

【0034】
表2から明らかなように、実施例2(機械加工格子板)の耳部の方が、実施例1(鋳造格子板)の耳部より腐食減量率が小さい。これは、機械加工格子板の方が鋳造格子板より結晶粒が微細で生成した酸化物(硫酸鉛)が還元時のガス発生などで脱落し難かったためである。
【0035】
前記実施例2では、機械加工格子板に、圧延材をエキスパンド加工した格子板を用いた場合について説明したが、本発明は、圧延材を打抜加工したものでも、押出加工材をエキスパンド加工または打抜加工したものでも同様の効果が得られる。また、前記実施例1、2では、液式鉛蓄電池の場合について説明したが、本発明は制御弁式鉛蓄電池に適用しても同様の効果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極格子板にSnを0.6〜2.0質量%含有するPb−Ca系合金格子板を用い、電解液にAlを硫酸塩換算で2〜50g/l含有する希硫酸を用いたことを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
電解液の20℃における比重が1.270〜1.320であることを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
鉛蓄電池がアイドリングストップ用であることを特徴とする請求項1または2記載の鉛蓄電池。

【公開番号】特開2006−185678(P2006−185678A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−376371(P2004−376371)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】